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睡眠改善剤
説明

睡眠改善剤

【課題】睡眠障害を改善し、又は睡眠を促進し得る物質の提供。
【解決手段】短鎖脂肪酸、その塩若しくはそのエステル、及びニコチンアミドからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする睡眠改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な睡眠をもたらすことができる睡眠改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠は、ヒトにとって重要な行為である。しかし、最近の生活リズムの乱れ、ストレス、運動不足等により睡眠不足、不眠等の症状を訴えるヒトが増加している。このような睡眠障害は、昼間の集中力の低下や自律神経失調症を引き起こし、生活の質(QOL)の低下の原因ともなる。
【0003】
睡眠障害を改善するための各種組成物が開発されている。例えば、ビタミンB12(特許文献1)、各種プレバイオティクス又はプロバイオティクス(特許文献2)、食物繊維(特許文献3〜4)、テアニン(特許文献5〜7)、γ−アミノ酪酸(特許文献6〜7)を含む、睡眠障害改善用の組成物が知られている。また特許文献8には、ベンゾオキサゾール誘導体によりヒスタミン−3受容体を調節することによって睡眠障害を改善し得ることが記載されている。しかしながら、より優れた睡眠改善効果を有する素材の開発がさらに求められている。
【0004】
酪酸等の短鎖脂肪酸は、消化管上皮細胞の主要なエネルギー源として知られている(非特許文献1)。ニコチンアミドはビタミンB群(VB3、ナイアシン)の1つである。
【0005】
しかし、これらの物質が実際に個体の睡眠障害を改善し、又は睡眠を促進し得ることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−321742号公報
【特許文献2】特開2006−160697号公報
【特許文献3】特開2006−96715号公報
【特許文献4】特開2008−285441号公報
【特許文献5】特開2005−289948号公報
【特許文献6】国際公開公報第2005/097101号パンフレット
【特許文献7】国際公開公報第2007/125883号パンフレット
【特許文献8】特表2011−507884号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】健康の科学シリーズ8 糖と健康、学会センター関西、学会出版センター、1998年:pp85−110
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、睡眠障害を改善、又は睡眠を促進し得る物質の提供に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、睡眠を促進することができる素材について検討したところ、短鎖脂肪酸、それらの塩若しくはそのエステル、又はニコチンアミドに睡眠を促進し、睡眠障害を改善する作用があることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、短鎖脂肪酸、その塩若しくはそのエステル、及びニコチンアミドからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする睡眠改善剤を提供する。
また本発明は、短鎖脂肪酸、その塩若しくはそのエステル、及びニコチンアミドからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする睡眠促進剤を提供する。
また本発明は、短鎖脂肪酸、その塩若しくはそのエステル、及びニコチンアミドからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする睡眠障害改善剤を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の睡眠改善剤は、睡眠を促進することで良好な睡眠をもたらすことができるので、不眠症等の睡眠障害の改善に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の睡眠改善剤は、短鎖脂肪酸、その塩若しくはそのエステル、及びニコチンアミドからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする。本明細書において以下、当該短鎖脂肪酸、その塩若しくはそのエステル及びニコチンアミドをまとめて、本発明の成分と称することがある。本発明において、上記本発明の成分は、各々単独で用いられてもよく、又は任意の組み合わせで用いられてもよい。
【0013】
上記短鎖脂肪酸としては、炭素数2〜5の短鎖脂肪酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、及びイソ吉草酸が挙げられ、上記短鎖脂肪酸の塩としては、薬学的に許容される塩であれば特に制限はなく、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、アミン等の有機塩基との塩(例えば、メチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、カフェイン塩)、塩基性アミノ酸塩(例えば、アルギニン塩、リジン塩)等が挙げられる。上記短鎖脂肪酸又はその塩は、対応するアルコールやアルデヒドの酸化等の方法によって製造するか、又は市販品(例えば、Sodium butyrate:和光純薬工業)を購入することによって入手可能である。
【0014】
上記短鎖脂肪酸のエステルとしては、アルコール類とのエステル(例えば、octyl butyrate:和光純薬工業)、グルコースやショ糖に代表される小糖類とのエステル(例えば、sucrose octaacetate:シグマ)、デンプンや食物繊維に代表される多糖類とのエステル(例えば、Bajka BH et al. Nutr Res 30: 427-434, 2010に記載の方法で調製されるもの)等が挙げられ、消化管内及び/又は生体内で容易に短鎖脂肪酸を遊離できる構造の化合物であればよい。
【0015】
このうち、本発明において好ましい短鎖脂肪酸、又はその塩若しくはそのエステルとしては、プロピオン酸、酪酸、及びそれらの塩若しくはエステルが挙げられ、プロピオン酸ナトリウム及び酪酸ナトリウムがより好ましい。上記短鎖脂肪酸及びその塩若しくはそのエステルは、本発明において単独で使用されてもよく、又は任意の組み合わせで用いられてもよい。
【0016】
上記ニコチンアミドは、アルキルピリジンの硝酸酸化等の方法によって製造するか、又は市販品(例えば、nicotinamide:和光純薬工業)を購入することによって入手可能である。
【0017】
上記本発明の成分は、睡眠を促進することにより個体の睡眠を改善する。本明細書において、「睡眠改善」とは、寝つきが良くなる、不眠が改善される、睡眠状態が深くなる、覚醒後の気分が良くなる等の基準により評価され得る状態であり、好ましくは、「睡眠健康危険度総得点」が減少することであり得る。
「睡眠健康危険度総得点」は、第1因子:睡眠維持障害関連因子、第2因子:睡眠随伴症(パラソムニア)関連因子、第3因子:睡眠時無呼吸関連因子、第4因子:起床困難関連因子及び第5因子:入眠障害関連因子から構成される各因子について、所定の質問項目に付した評点を集計して求める[ジャーナル・オブ・サイコソマティック・リサーチ(Journal of Psychosomatic Research)、2004年,第56巻,p.465-477]。睡眠健康危険度総
得点は、得点が高い程、睡眠健康に問題がある(危険度が高い)ことを示している。
本発明の睡眠改善剤は、睡眠健康危険度総得点を低下させる効果を発揮し得る。
【0018】
あるいは、睡眠改善効果は、ショウジョウバエ(Drosophila)モデルを用いて評価することができる。ショウジョウバエは、従来、睡眠−覚醒研究のモデルとして使用されている動物である(Ho et al., Method Enzymol, 393, 772-793, 2005; Shaw et al., Science, 287, 1834-1837, 2000; Hendricks et al., Neuron, 25, 129-138, 2000; Kume et al., J Neurosci, 25, 7377-7384, 2005; Seugnet et al., J Neurosci, 29, 7148-7157, 2009; Huber et al., Sleep 27, 628-639, 2004; 実験医学 24(4), 484-490, 2006; 細胞工学 27(5), 467-471, 2008)。ショウジョウバエは、睡眠類似行動として知られる不動状態を示すことが観察されている。この行動は、概日リズムの制御を受けており、またカフェインで減少し、抗ヒスタミン薬等の薬物で増加するなど、薬物に対して睡眠と同様の応答を示すことが報告されている。さらに、睡眠と同様、加齢による減少傾向を示すことも報告されている。
従って、ショウジョウバエの睡眠類似行動(不動状態)を延長させる作用を有する物質は、睡眠を促進して睡眠健康危険度総得点を低下させる効果を有する物質、すなわち、睡眠改善効果を有する物質として評価することができる。
【0019】
またあるいは、睡眠改善効果は、マウス等の動物から脳波、筋電図、心電図、体温、血圧、行動(locomotion)などを測定し、当該動物の睡眠量を調べることによって評価することができる。睡眠の評価は、標準判定方法(Rechtschaffen A. & Kales A., A Manual of Standardized Terminology, Techniques and Scoring System for Sleep Stages of Human Subjects., Public Health Service: Washington DC, 1968)に従って行うことができる。具体的には、動物からの脳波等の測定データに基づいて睡眠ポリグラフを作成し、睡眠ポリグラフのエポック(例えば4〜60秒間)毎に、行動(locomotion)の有無、脳波(δ波)の振幅、脳波のθ波成分比(θ/(δ+θ))などに基づいて、動物の状態を覚醒、ノンレム睡眠、レム睡眠の各ステージとして判別すればよい。睡眠ポリグラフに基づく覚醒又は睡眠の判別は、睡眠解析研究用プログラム:SleepSign(登録商標)(キッセイコムテック株式会社)等により自動で行うことができる。上記判別の結果、睡眠ステージを増加させた物質は、睡眠改善効果を有する物質として評価することができる。
【0020】
上記本発明の成分は、後記実施例に示すように、ショウジョウバエの睡眠類似行動、またはマウスの睡眠を延長させる作用を有しており、従って睡眠を促進する睡眠改善剤として有用である。従って、上記本発明の成分からなる群より選択される少なくとも1種を、睡眠促進のため、又は睡眠改善のために使用することができ、さらには睡眠障害の改善に使用することができる。当該使用は、ヒト若しくは非ヒト動物における使用であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。
なお本明細書において、「非治療的」とは、医療行為、すなわち治療による人体への処置行為を含まない概念である。
【0021】
従って、本発明は、短鎖脂肪酸、その塩若しくはそのエステル、及びニコチンアミドからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする睡眠改善剤を提供する。
上記本発明の剤は、実質的に短鎖脂肪酸、その塩若しくはそのエステル、及びニコチンアミドからなる群より選択される少なくとも1種から構成されていてもよい。
【0022】
上記本発明の成分は、睡眠促進のため、睡眠改善のため、又は睡眠障害の改善のための組成物、医薬、医薬部外品、飲食品、飼料、又は飲食品若しくは飼料の原料に素材として配合することができ、あるいはそれらの製造のために使用することができる。上記組成物、医薬、医薬部外品、飲食品、飼料、又は飲食品若しくは飼料の原料は、ヒト又は非ヒト動物用として製造され、又は使用され得る。上記本発明の成分は、当該組成物、医薬、医薬部外品、飲食品、飼料、又は飲食品若しくは飼料の原料に素材として配合され、睡眠促進のため、睡眠改善のため、又は睡眠障害の改善のための有効成分であり得る。
【0023】
上記医薬又は医薬部外品は、上記本発明の成分を有効成分として含有する。当該医薬又は医薬部外品は、任意の投与形態で投与され得る。投与形態は、経口投与でも非経口投与でもよい。例えば、経口投与形態としては、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤のような固形投薬形態、ならびにエリキシル、シロップおよび懸濁液のような液体投薬形態が挙げられ、非経口投与形態としては、注射、輸液、経皮、経粘膜、経鼻、経腸、吸入、坐剤、ボーラス、貼布剤等が挙げられる。このうち、経口投与形態が好ましい。
【0024】
上記医薬や医薬部外品は、上記本発明の成分を単独若しくは組み合わせて含有していてもよく、又はさらに薬学的に許容される担体と組み合わせて含有していてもよい。斯かる担体としては、例えば、賦形剤、被膜剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、希釈剤、分散剤、緩衝剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、活性増強剤、抗炎症剤、殺菌剤、矯味剤、矯臭剤等が挙げられる。また、当該医薬や医薬部外品は、上記本発明の成分の睡眠改善作用が失われない限り、他の有効成分や薬理成分を含有していてもよい。
【0025】
上記医薬又は医薬部外品は、上記本発明の成分から、あるいは必要に応じて上記担体及び/又は他の有効成分や薬理成分を組みあわせて、常法により製造することができる。当該医薬又は医薬部外品における上記本発明の成分の含有量は、合計量として、0.0001〜20質量%であればよいが、0.001〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましい。
【0026】
上記飲食品や飼料は、睡眠改善の機能を有し、当該機能を必要に応じて表示した飲食品、機能性飲食品、病者用飲食品、特定保健用飲食品、ペットフード等であり得る。
上記飲食品の種類は特に限定されない。飲料としては、例えば、果汁飲料、炭酸飲料、茶系飲料、コーヒー飲料、乳飲料、アルコール飲料、清涼飲料等、あらゆる飲料が挙げられる。食品の形態は、固形、半固形、液状等の任意の形態であってもよく、また錠剤形態、丸剤形態、タブレット、カプセル形態、液剤形態、シロップ形態、粉末形態、顆粒形態等であってもよい。例えば、食品としては、パン類、麺類、パスタ、ゼリー状食品、各種スナック類、ケーキ類、菓子類、アイスクリーム類、スープ類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、その他加工食品、調味料、サプリメント等が挙げられる。上記飼料の種類も特に限定されず、任意の動物のための飼料であってよく、その形態も上記食品の場合と同様に任意の形態であり得る。
【0027】
上記飲食品若しくは飼料、又はそれらの原料は、上記本発明の成分を単独若しくは組み合わせて含有していてもよく、又はさらに他の食材や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等の添加剤を組み合わせて含有していてもよい。当該飲食品若しくは飼料中の上記本発明の成分の含有量は、合計量として、0.0001〜20質量%であり、0.001〜10質量%とするのが好ましく、0.01〜5質量%とするのがより好ましい。
【0028】
あるいは、上記本発明の成分からなる群より選択される少なくとも1種は、睡眠促進のため、睡眠改善のため、又は睡眠障害の改善のために、それらを必要とする対象に有効量で投与される。あるいは、上記本発明の成分からなる群より選択される少なくとも1種は、睡眠促進、睡眠改善、又は睡眠障害の改善のために、それらを必要とする対象に有効量で摂取される。上記投与又は摂取は、治療的に行われても、非治療的に行われてもよい。
【0029】
投与又は摂取する対象としては、睡眠改善を必要とする動物であり得る。動物は、好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
【0030】
好ましい投与量及び摂取量は、対象の種、体重、性別、年齢、状態又はその他の要因に従って変動し得る。投与の用量、経路、間隔、及び摂取の量や間隔は、当業者によって適宜決定され得る。例えば、ヒトに経口投与又は摂取させる場合、投与又は摂取量は、上記本発明の成分の合計量として、成人1人当たり、20μg〜2000mg/日とすることが好ましく、200μg〜1000mg/日がより好ましく、2mg〜500mg/日がさらに好ましく、20mg〜200mg/日がなお好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0032】
実施例1 ショウジョウバエにおける睡眠改善作用の評価
(1)ショウジョウバエの調製
ショウジョウバエの野生種(Canton−S)を、雄10匹、雌10匹の割合でショウジョウバエの飼育用エサを入れた飼育バイアルに入れ、12時間の明暗サイクル下、25℃で繁殖させた。約7〜10日後に蛹が黒く色づき羽化直前の状態になったら、親バエを飼育バイアルから取り出した。
新しく羽化したハエは、約12時間までは交尾できないので、羽化後12時間以内に二酸化炭素麻酔下、処女メス(virgin female)を、新しいエサの入ったバイアルに集めた。処女メスの収集は羽化開始から3〜4日程度の間に行い、ショウジョウバエの行動量評価(locomotor activity)は、羽化後3〜6日の成虫(処女メス)を用いて行った。
【0033】
(2)被験試料の調製
グルコース(5重量%、アルドリッチ)、寒天(2重量%、三井製糖)を含む水溶液を先に調製し、このグルコース寒天溶液に以下の濃度で試験物質を溶解させて、被験試料とした。非水溶性の試験物質については、予めエタノールに溶解させた後、グルコース寒天溶液にエタノールの量が容量で10%の割合になるように混合した。被験試料中のグルコースおよび寒天の量は全て同量になるよう調整した。
(被験試料1)酪酸Na(和光純薬) 10mg/ml
(被験試料2)プロピオン酸Na(和光純薬) 10mg/ml
(被験試料3)ニコチンアミド(和光純薬) 3mg/ml
グルコース寒天溶液の組成:グルコース5g、寒天2g、水100ml

被験試料の溶液に、10mlあたり40μlのボーキニン(ショウジョウバエのエサに使われる防腐剤、P−ヒドロキシ安息香酸メチル10gを100%エタノール100mlに溶解させたもの)を添加した。対照としては、試験物質を含まないグルコース寒天溶液を用いた。調製した各被験試料を、200μlのPCRチューブに100μl入れ、以下の行動量測定実験に使用した。
【0034】
(3)行動量測定
装置:
DAM(Drosophila activity monitoring)2システム(TriKinetics社、USA);複数のガラス管を備え、各ガラス管の中央、長軸方向に赤外線ビームを貫通させることができる。各ガラス管にはショウジョウバエを1匹ずつ入れる。ガラス管内でショウジョウバエが赤外線ビームを横切ることでビームが遮られた回数がカウントされる。1分間あたりの回数をカウントすることでショウジョウバエの行動量を計測する。
【0035】
測定手順:
DAM2システムを用いて、以下の手順でショウジョウバエの休息(睡眠)−活動(覚醒)リズムを測定した。
DAM2用ガラス管(長さ:55mm、外径:5mm、内径:3mm)の一端に脱脂綿を詰め、穴を塞いだ(ショウジョウバエが逃げず、かつ空気が通る程度に脱脂綿を詰める)。開放されたガラス管の口から、上記(1)で調製したショウジョウバエを1匹、吸虫管を使ってガラス管の中に入れ、その後開放された口を、上記(2)で調製した被験試料の入ったPCRチューブで塞いだ。このショウジョウバエが入ったガラス管をDAM2装置にセットした。
行動量測定は、12時間の明暗サイクル(明:AM8:00〜PM7:59、暗:PM8:00〜AM7:59)、温度25℃の環境下で行った。装置をセットした日は装置に対するショウジョウバエの馴化期間とし、翌日のAM8:00から7日後のAM7:59までの7日分の行動量を測定した。
【0036】
(4)データ解析
(3)で測定された行動量から、以下の手順でショウジョウバエの休息(睡眠)−活動(覚醒)リズムを決定した。
行動カウントが連続して10分以上ゼロである期間を、ショウジョウバエの休息(睡眠)と定義した。休息(睡眠)期間(時間)を30分毎に算出し、その休息時間の割合(休息割合)を求めた。

休息割合(%) = 休息時間(分)/30分×100

個体ごとに、上記の30分毎の休息割合を7日間分算出した(48×7データ)。その後、休息割合の平均を1日毎に算出し(7データ)、さらにそれら(7データ)を平均することで各個体の「全日の休息割合」を計算した。各群の個体のデータの平均(「全日の平均休息割合」)を対照群と比較することにより、被験試料の睡眠改善効果を評価した。
【0037】
(5)結果
結果を下記表1に示す。酪酸Na、プロピオン酸Na、及びニコチンアミドは、いずれもショウジョウバエの全日の平均休息割合を有意に増加させた。これらの物質は睡眠を促進する睡眠改善剤として有効である。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例2 マウスにおける睡眠改善作用の評価
(1)試験動物
7週齢のC57BL/6Jマウス(日本クレア)を購入し、マウス用市販飼料を給餌して、施設への馴化を1週間実施した。飼育環境は、温度23±2℃、相対湿度55±10%、12hの明暗サイクル(AM7:00オン)下であった。施設への馴化期間及び実験期間を通じ、飼料及び水へのアクセスは制限しなかった。
睡眠ポリグラフ測定用の電極留置手術後より、動物は個別ケージに入れ、対照食あるいは実験食を3週間給餌した(各群:n=4)。
対照食:AIN−76飼料(ビタミン、ミネラルはAIN−93配合を使用)
実験食:AIN−76飼料(ビタミン、ミネラルはAIN−93配合を使用)において、コーンスターチ0.5重量%を、0.5重量%の酪酸Na(和光純薬工業)で置き換えた飼料(コーンスターチのもともとの配合割合は15.0重量%であるので、最終的な実験食はコーンスターチ14.5重量%と酪酸Na0.5重量%を含む。)
【0040】
(2)動物への睡眠ポリグラフ記録用電極の留置
8週齢、体重20〜25gのオスマウスに記録用電極を留置した。マウスは、ペントバルビタール麻酔(50mg/kg、腹腔内[i.p.]投与)下、睡眠ポリグラフ記録に必要な脳波用および筋電用電極が慢性的に埋め込まれた。脳波用電極として直径1mmのステンレス製精密ネジ2本を頭蓋骨中に挿入した。ネジの挿入位置は、大脳皮質領域のブレグマ(bregma)から横に1.5mm、前方に1mmの位置、およびラムダ(lambda)から横に1.5mm、前方に1mmの位置とした。また、筋電を測定する電極としてテフロン(登録商標)皮膜により絶縁されたステンレス製ワイヤーを、2本、平行に僧帽筋に留置した。すべての電極はマイクロコネクターに接続され,デンタルセメントにより頭蓋骨上に固定された。
マウスは、十分な回復期間をとった後、手術後3週目(15日目)に個別に睡眠ポリグラフ用ケージ(透明アクリル製ケージ)に移され、記録用ケーブルを結線した。記録用ケーブルへの馴化を6日間行った後、手術後21日目のマウスから、24時間の睡眠ポリグラフを記録した。
【0041】
(3)睡眠ポリグラフの記録と解析
脳波および筋電は、動物の行動を制限しないように設計されたスリップリングを経由して記録された。脳波及び筋電のシグナルは、増幅後、フィルター(脳波:0.5〜30Hz;筋電:20〜200Hz)を通して128Hzのサンプリング速度でデジタル化されて記録された。記録データは、睡眠解析研究用プログラム「SleepSign(登録商標)」(キッセイコムテック株式会社)を用いてオフライン自動解析され、10秒エポック毎に、標準判定方法(Rechtschaffen A. & Kales A., 1968、上述)に従って覚醒、ノンレム睡眠、レム睡眠に判別された。
自動解析では、予め筋電強度の最低値を設定し、それより高い筋電強度が検出されたエポックを活動的覚醒(active wake)ステージと判別した。活動的覚醒ステージと判別されなかったエポックのうち、予め設定した脳波(δ波)の最低振幅値よりも高い振幅のδ波が検出されたエポックをノンレム睡眠ステージと判定し、一方、脳波のθ波成分比(θ/(δ+θ))が50%以上あるエポックをレム睡眠ステージと判定し、ノンレム睡眠及びレム睡眠ステージの何れにも入らないエポックを安静時覚醒(quiet wakefulness)ステージと判定した。活動的覚醒ステージと安静時覚醒ステージは、まとめて覚醒ステージとした。
その後、自動解析による各エポックの判別結果を目視的に再検討し、必要であれば、結果を修正した。個体ごとに、全日および暗期(活動期)中での覚醒、ノンレム睡眠及びレム睡眠の割合を求めた。
【0042】
(4)結果
暗期(活動期)後半(6h)のノンレム睡眠割合は、対照食群に比較して実験食群で有意に増加していた。さらに全日及び暗期(活動期)のレム睡眠割合も、対照食群に比較して実験食群で有意に増加していた(表2)。以上の結果は、酪酸Naを摂取することでマウスの睡眠が促進されることを示している。
【0043】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
短鎖脂肪酸、その塩若しくはそのエステル、及びニコチンアミドからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする睡眠改善剤。
【請求項2】
短鎖脂肪酸、その塩若しくはそのエステル、及びニコチンアミドからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とする睡眠促進剤。
【請求項3】
短鎖脂肪酸、その塩若しくはそのエステル、及びニコチンアミドからなる群より選択される少なくとも1種を有効成分とするは睡眠障害改善剤。
【請求項4】
有効成分がプロピオン酸、酪酸又はそれらの塩である、請求項1〜3のいずれか1項記載の剤。

【公開番号】特開2013−82671(P2013−82671A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−139451(P2012−139451)
【出願日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】