睡眠状態判定装置
【課題】人の睡眠状態を無拘束ながらも高精度で判定することができる睡眠状態判定装置を提供する。
【解決手段】ビデオカメラ2により、被験者5の睡眠時の体動を検出して得られるデータに基づき、体動量の時系列波形データを算出する体動量算出手段と、算出した前記体動量の時系列波形データから、継続して所定時間以上行われる大きな体動を抽出するとともに、この大きな体動が抑制されている体動抑制区間の体動を除去する体動抽出手段と、前記体動抑制区間ごとに前記大きな体動の静止持続時間tを算出して前記大きな体動の時間間隔を抽出し、前記大きな体動の時間間隔および前記大きな体動の体動量に基づいて、被験者の睡眠状態が複数段階の睡眠深度のいずれかに分類されるのかを判定する判定手段とを備える。
【解決手段】ビデオカメラ2により、被験者5の睡眠時の体動を検出して得られるデータに基づき、体動量の時系列波形データを算出する体動量算出手段と、算出した前記体動量の時系列波形データから、継続して所定時間以上行われる大きな体動を抽出するとともに、この大きな体動が抑制されている体動抑制区間の体動を除去する体動抽出手段と、前記体動抑制区間ごとに前記大きな体動の静止持続時間tを算出して前記大きな体動の時間間隔を抽出し、前記大きな体動の時間間隔および前記大きな体動の体動量に基づいて、被験者の睡眠状態が複数段階の睡眠深度のいずれかに分類されるのかを判定する判定手段とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人の睡眠時の体動に基づいてその睡眠状態が複数段階の睡眠深度のいずれかに分類されるのかを判定する睡眠状態判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠は人間にとって必要不可欠なものであり、脳と身体機能を維持するために重要である。しかし、近年、高ストレス化社会の進行に伴って睡眠に悩む人が急増している。貧弱な睡眠や睡眠障害は、起床時の気分や機嫌の悪さの原因ともなり、高齢者では意欲の低下や抑うつ状態を引き起こし、社会的な活動を低下させる原因となることが知られており、社会問題の1つとなっている。また、発達期の小児においては、睡眠の質や量の低下に伴い、記憶や集中力の障害による学習機能の低下、感情コントロール機能の低下、運動能力の低下、不規則な生活習慣の定着などを引き起こすため、慢性的な不眠に陥る前に、睡眠障害を発見して治療を行う必要がある。そのためには、自己の日常的な睡眠状態をよく把握し、日々の睡眠を管理することにより、長期的に睡眠を改善していく必要がある。
【0003】
睡眠は、一般的に、眠りの浅いレム睡眠と、眠りの深いノンレム睡眠とに大別されるが、さらに詳しくは複数の睡眠深度によって定義されており、国際基準(レヒトシャッフェン(A.Rechtschaffen)&カレス(A.Kales)の基準)では、睡眠深度を、入床してから入眠するまでの覚醒、レム睡眠、深度1〜4の6つの状態で定義している。ここで、深度1〜4とは、ノンレム睡眠がさらに4つの段階に分けられたものであり、ノンレム睡眠のなかでは、深度1が最も眠りが浅く、深度4が最も深い。
【0004】
人は、入床すると、その睡眠状態は、覚醒の状態から浅い眠りの状態へ移行し、その後、浅い眠りの状態から深い眠りの状態へ移行する。そして、再び浅い眠りの状態へと移行するのが一般的である。この睡眠時の睡眠深度の遷移を調べることにより、人の睡眠状態を把握することが可能である。
【0005】
そこで、従来から、人の睡眠状態を検出することが種々試みられており、例えば脳波、眼球運動、顎筋電、心電などを同時に測定し、これらの測定データを分析して睡眠深度を判定することで、睡眠状態を評価する睡眠ポリグラフ(PSG)法が知られている(例えば特許文献1,2参照)。この睡眠ポリグラフ法は、測定データの種類が多く、測定精度も高いので、評価の信頼性が高いものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2950038号公報
【特許文献2】特開2004−305258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した睡眠ポリグラフ法による測定は、複数のセンサを測定対象者に装着して睡眠の状態を把握するものであるから、装置が大がかりとなるうえ、測定するにあたっては、病院や研究室など、専門設備を備えた場所でしか利用できないために、健康機器のように家庭で手軽に日常的に使用するには不向きである。また、複数の電極を被験者に装着しなければならないため、被験者にとっての負担が大きく、その拘束感から被験者の睡眠を妨げることも多いうえ、新規体験に対する抵抗感の大きい小児にとっては大きなストレスとなるので、正確な睡眠状態を測定することは難しいという問題もある。
【0008】
さらに、睡眠ポリグラフ法は、医師などの専門家によらなければ、被験者の睡眠状態を正確に評価することができないため、装置さえあればよいと言う訳にもいかない。
【0009】
本発明は、上記した問題に着目してなされたもので、人の睡眠状態を無拘束ながらも高精度で判定することができる睡眠状態判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の前記目的は、被験者の睡眠時の体動に基づいてその睡眠状態を判定する睡眠状態判定装置であって、被験者の睡眠時の体動を検出して得られるデータに基づき、体動の大きさに関する情報である体動量の時系列波形データを算出する体動量算出手段と、算出した前記体動量の時系列波形データから、継続して所定時間以上行われる大きな体動を抽出するとともに、この大きな体動が抑制されている体動抑制区間の体動を除去する体動抽出手段と、前記体動抑制区間ごとに前記大きな体動の静止持続時間tを算出して前記大きな体動の時間間隔を抽出し、前記大きな体動の時間間隔および前記大きな体動の体動量に基づいて、被験者の睡眠状態が複数段階の睡眠深度のいずれかに分類されるのかを判定する判定手段とを備える睡眠状態判定装置により達成される。
【0011】
本発明の好ましい実施態様においては、前記判定手段は、睡眠時間の任意の単位時刻ごとに、体動静止持続時間として、前記体動抑制区間外にあるときには0を、前記体動抑制区間内にあるときにはその静止持続時間tを、それぞれ設定し、前記単位時刻ごとの前記体動静止持続時間および体動量に基づいて、睡眠状態が複数段階の睡眠深度のいずれかに分類されるのかを判定することを特徴としている。
【0012】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記判定手段は、前記単位時刻ごとの体動量として、前記単位時刻の所定時間前の時刻までの各時刻の体動量の平均を求め、この平均体動量および前記体動静止持続時間に基づいて、睡眠状態が複数段階の睡眠深度のいずれかに分類されるのかを判定することを特徴としている。
【0013】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記判定手段は、前記単位時刻ごとの睡眠状態がいずれの睡眠深度に分類されるのかを判定する手法として判別分析を用いることを特徴としている。
【0014】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記体動量算出手段は、睡眠時の人の体動の撮像を行うための撮像手段によって得られる動画像を所定数の静止画像に変換する変換手段と、前記動画像を構成する各静止画像を差分処理することにより、被験者の体動に伴う画像内の濃度値の変化を検出する検出手段と、前記濃度値の変化により被験者の体動の中心位置座標を算出する中心位置算出手段と、前記被験者の体動の中心位置座標の位置変化により前記体動量を算出する体動量算出手段とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、人の睡眠状態を無拘束ながらも高精度で判定することが可能な睡眠状態判定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る睡眠状態判定装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】情報処理部の概略構成を示すブロック図である。
【図3】睡眠状態判定部の概略構成を示すブロック図である。
【図4】被験者Aの情報処理部による体動量測定データと睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図5】被験者Bの情報処理部による体動量測定データと睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図6】被験者Cの情報処理部による体動量測定データと睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図7】被験者Dの情報処理部による体動量測定データと睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図8】被験者Eの情報処理部による体動量測定データと睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図9】被験者Fの情報処理部による体動量測定データと睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図10】被験者Gの情報処理部による体動量測定データと睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図11】被験者Hの情報処理部による体動量測定データと睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図12】体動静止持続時間を説明するための説明図である。
【図13】本実施形態に係る睡眠状態判定装置による睡眠深度の判定結果と睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図14】本実施形態に係る睡眠状態判定装置による睡眠深度の判定結果と睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図15】体動回数を説明するための説明図である。
【図16】他の実施形態に係る睡眠状態判定装置による睡眠深度の判定結果と睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る睡眠状態判定装置1の概略構成を示す。図1に示すように、睡眠状態判定装置1は、ビデオカメラ2に接続されている。ビデオカメラ2は三脚で固定され、例えばベッド10上に横たわっている被験者5の全身がフレーム内に入るように設置されている。このビデオカメラ2は、睡眠時の被験者5の動画像を撮影し、撮影した動画像を睡眠状態判定装置1に出力する。出力された動画像は睡眠状態判定装置1に格納される。なお、ビデオカメラ2は、夜間や暗闇においてもビデオ撮影することが可能な赤外線撮影機能を備えていることが好ましい。
【0018】
睡眠状態判定装置1は、ビデオカメラ2からの動画像に基づき、被験者5の睡眠時の体の動き(体動)の大きさに関する情報である体動量の時系列波形データを算出する体動量算出手段35を含む情報処理部3(図2に示す)と、前記体動量の時系列波形データ(体動量データ)に基づいて、被験者5の睡眠時の睡眠状態を判定する睡眠状態判定部4(図3に示す)とを備えており、例えば、携帯型のコンピュータにより構成することができる。
【0019】
情報処理部3は、ビデオカメラ2から入力される動画像の差分処理を行うことにより、被験者が体動に伴い、睡眠時にどれくらいの大きさで動作をしたかを検出する。差分処理とは、連続する画像の差分を計算することにより、対象物の動きを検出する処理である。本実施形態では、動画像の差分処理により、被験者の睡眠時の体動量データを検出することで、被験者からセンサ類を切り離した完全な無拘束状態で睡眠の状態を判定することが可能となっている。以下、時系列ごとの体動量を算出する方法を具体的に説明する。
【0020】
この情報処理部3は、図2に示すように、静止画変換手段30と、ROI設定手段31と、グレースケール変換手段32と、濃度値変化検出手段33と、中心位置座標算出手段34と、体動量算出手段35とを備えている。
【0021】
静止画変換手段30は、ビデオカメラ2から入力される動画像を、動画像を構成する所定数のフレーム毎の静止画像(例えば、BMP形式の静止画像)に変換する。なお、本実施形態では、ビデオカメラ2から入力された動画像のフレームレート(例えば30[fps])を、1[fps]にリサンプリングしている。これは、睡眠時においては、被験者の体動による動きは少なく、被験者の動きを捕らえるためには、1[fps]は十分なサンプリングレートであると考えられるからである。これにより、睡眠状態判定装置1に記憶される情報量を減らすことが可能となっている。
【0022】
ROI設定手段31は、静止画変換手段30から出力されるBMP形式の静止画像を連続的に読み込み、処理の高速化のためにROI(Region of Interest)を設定する。ROIとは、関心領域のことを指し、各静止画像の全体から関心のある、つまり、処理に必要な領域を設定して切り出す。ROI処理を行うことにより、余分なノイズの除去や、静止画像の画像サイズを小さくすることによる処理の高速化が可能となる。
【0023】
グレースケール変換手段32は、ROI処理がなされた各静止画像に対して、画像のグレースケール化を行い、差分処理によりフレーム間の画像の濃淡の変化を検出できるようにする。
【0024】
ビデオカメラ2から入力される動画像は、被験者の体動による動きに伴い、画像内の各ピクセルの濃度値が変化する。濃度値変化検出手段33は、この画像内の各ピクセルの濃度値の変化を、隣り合う2枚のフレームの差分を取ることによって検出する。具体的には、グレースケール化された各フレームの静止画像のそれぞれに対して、全ピクセルの濃度値の時間微分を計算し、各ピクセルの濃度値の変化を検出する。静止画像の画像サイズは、x方向へn個(1,2,…,n)、y方向へm個(1,2,…,m)の合計n×m個(例えば、340(幅)×240(高さ))のピクセルで構成されるため、時刻tにおける各フレームの濃度行列式をD(t)とすると、濃度行列式D(t)、および、濃度行列式D(t)の時間微分行列D´(t)は、以下の数式(1),(2)によってそれぞれ算出される。ある座標位置(x,y)にあるピクセルの濃度変化は、d´xy(t)で表現される。
【0025】
【数1】
【0026】
こうして得られた各ピクセルの濃度値の変化は、中心位置座標算出手段34に入力される。中心位置座標算出手段34は、この濃度値の変化から被験者の睡眠時の体動の動きの中心位置座標を推定する。具体的には、差分画像において被験者が体動により動けば、動く前の座標では濃度値が減少し、動いた後の座標では濃度値が増加することから、まず、各ピクセルにおける濃度値の変化d´xy(t)を定数εを用いて、下記の3つの状態に分類する。なお、下記条件式における定数εは許容誤差である。
【0027】
(1)濃度値が増加
|d´xy(t)|>ε かつ d´xy(t)<0
(2)濃度値が減少
|d´xy(t)|>ε かつ d´xy(t)>0
(3)濃度値に変化なし
|d´xy(t)|≦ε
【0028】
次に、(1)濃度値が増加した全てのピクセルの座標位置の平均値(px,py)と、(2)濃度値が減少した全てのピクセルの座標位置の平均値(qx,qy)とを算出する。そして、座標(px,py)を濃度値が増加したピクセルの集合体の中心座標、座標(qx,qy)を濃度値が減少したピクセルの集合体の中心座標とし、座標(px,py)および座標(qx,qy)の中心座標を算出することで、被験者の睡眠時の体動の中心位置座標を算出する。x方向およびy方向それぞれの被験者の体動の中心位置座標(x,y)は、以下の数式(3),(4)によってそれぞれ算出される。
【0029】
【数2】
【0030】
こうして得られた体動の中心位置座標(x,y)は、体動量算出手段35に入力される。体動量算出手段35は、被験者の体動の中心位置座標(x,y)の位置の時系列変化から、時刻tにおいて、画像内で被験者が睡眠時に体動により動いた距離に相当する値L(t)を下記式(5)より算出する。
【0031】
【数3】
【0032】
次に、移動距離の時間微分は速度を表すので、被験者が睡眠時に体動により動いた速度に相当する値v(t)を、以下の数式(6)により算出する。
【0033】
【数4】
【0034】
こうして得られた速度v(t)を用いて、体動量算出手段35は、睡眠時の時刻tにおける体動量p(t)を算出する。時刻tにおける体動量p(t)は、速度v(t)と被験者の重さmの積、つまり、p(t)=m×v(t)で算出され、これにより、被験者の睡眠時の体動量の時系列波形データが測定される。
【0035】
図4〜図11に、被験者として健常未就学児8名(男女含む)A〜Hの、前記情報処理部3により測定された睡眠時の体動量の時系列波形データ(下段)を示す。図4〜図11において、横軸が測定時間[sec]、縦軸が体動量[pic]である。なお、図4〜図11には、睡眠深度の比較のために、これら被験者A〜Hに対して、睡眠ポリグラフ法により測定した睡眠深度の実測データ(上段)も示している。
【0036】
次に、睡眠状態判定部4は、情報処理部3により測定された前記体動量の時系列波形データに基づいて被験者の睡眠時の睡眠状態が、複数段階の睡眠深度のいずれかに分類されるのかを判定するものであり、図3に示すように、GMs抽出手段40と、体動静止持続時間抽出手段41と、平均体動量抽出手段42と、睡眠深度判別手段43と、睡眠深度遷移軌跡生成手段44とを備えている。
【0037】
人の睡眠時の体動には、寝返りなどの大きな体動(粗体動)と、細かい体動(細体動)とがある。ここで、持続が2秒以上の体動を、Gross Movements(GMs)と分類すると、このようなGMsは、覚醒状態(Wake)に最も多い頻度で起こる一方、眠りが深くなるにつれて、すなわち、レム睡眠、ノンレム睡眠(深度1〜深度4)と続くにつれて出現頻度が低下する。本発明者らは、このGMsに着目することにより、睡眠時の睡眠状態を複数の段階(睡眠深度)に判別することが可能であることを見出した。
【0038】
つまり、上述したとおり、睡眠状態が深度3および深度4の深い眠りの状態にあるSWS(Slow Wave Sleep)時には、GMsは抑制状態にあり、GMsが発生する時間間隔は大きい値をとると考えられる。従って、GMsが抑制されている区間を抽出して、その体動が静止している持続時間(体動静止持続時間)を検出することで、睡眠中のSWSの抽出が可能であることを本発明者らは見出した。さらに、睡眠状態が覚醒状態(Wake)にある時には、GMsは非抑制状態にあり、体動により大きく動くことから、体動量が大きい値をとると考えられる。従って、GMs時の体動の大きさ(体動量)を考慮することで、睡眠中のWakeの抽出が可能であることを本発明者らは見出した。
【0039】
このように、本実施形態では、GMsの時間間隔およびGMs時の体動の大きさ(体動量)が睡眠状態に大きく関係があることに鑑みて、被験者の睡眠時の体動量の時系列波形データから、各時刻データtそれぞれについて、睡眠深度と関係性の強い体動に関する2つの変数である「体動静止持続時間」および「体動量」を抽出することで、睡眠中の睡眠状態について、覚醒状態(Wake)、Light&REM(レム睡眠、深度1,2)、およびSWS(深度3,4)の少なくとも3段階の睡眠深度による判別が可能となっている。以下、睡眠状態を判定する方法について具体的に説明する。
【0040】
まず、GMs抽出手段40は、情報処理部3により測定された各被験者の睡眠時の体動量の時系列波形データについて、体動が継続して2秒以上行われるGMsのみを抽出するために、持続時間が2秒以下の体動を除去して、補正した体動量の時系列波形データ(補正体動量データ)を作成する。こうして得られた補正体動量データは、体動静止持続時間算出手段41および平均体動量算出手段42に、それぞれ入力される。
【0041】
体動静止持続時間抽出手段41は、入力された上記補正体動量データから、各時刻データtにおける「体動静止持続時間」を抽出する。まず、この補正体動量データに対して、「体動のセクション」を定義する。体動のセクションとは、図12に示すように、体動が抑制されている状態から体動が起こり始め、再び体動が抑制されるまでの区間を指す。各セクション内において、体動が抑制された時刻をt0、体動が抑制された状態から体動が起こり始める時刻をtMTin、体動が再び抑制された時刻をtMTout、とそれぞれ設定すると、各セクション内の時刻tにおける体動静止持続時間MTrestは、以下の数式(7)で表される。
【0042】
【数5】
【0043】
次に、平均体動量算出手段42は、入力された上記補正体動量データから、各時刻データtにおける「体動量」を抽出する。ここで、本実施形態では、平均体動量算出手段41は、各時刻データtにおける体動量として「平均体動量」を抽出する。「平均体動量」とは、対象となる時刻から所定時間(本実施形態では60[sec])前の時刻までの各時刻の体動量の単純平均値を求めたものである。このように、各時刻データtの直前の60秒間の体動量の単純平均値を各時刻データtにおける体動量として抽出したのは、各時刻データtにおける睡眠深度は、それより直前に行われている体動に依存するという知見に基づくものである。また、単純平均値の参照範囲を60[sec] としたのは、比較対象として、被験者の睡眠深度を判定した睡眠ポリグラフ法における睡眠深度の計測エポックが30[sec]であり、少なくとも1つのエポックをまるごと含むように参照範囲を設定したためである。
【0044】
こうして得られた各時刻データtについての「体動静止持続時間」および「平均体動量」は、睡眠深度判別手段43に入力される。睡眠深度判別手段43は、入力された各時刻データtにおける「体動静止持続時間」および「平均体動量」に基づいて、被験者の睡眠状態について、時系列ごとの睡眠深度を判別する。本実施形態では、睡眠深度を判別するアルゴリズムとして線形判別分析を用いている。
【0045】
線形判別分析とは、データ群を判別対象となる2つ以上のグループ(判別群)に判別するためのアルゴリズムであり、本実施形態では、独立変数として、上記した「体動静止持続時間」および「平均体動量」を用い、この「体動静止持続時間」と「平均体動量」とにより各時刻データtの散布図を描いたときに、各時刻データtを、覚醒状態(Wake)、浅い眠りの状態(Light&REM)、および、深い眠りの状態(SWS)の3つの判別群に分割するのに最適な関数(線形判別関数)をそれぞれ求める。そして、未知データが入力された際に、その未知データがどのグループ群に属するかを線形判別関数を基準にして決定することで、睡眠中の時系列ごとの睡眠深度を判別している。以下、この判別分析関数を求める方法について説明する。
【0046】
睡眠深度判別手段43は、まず、測定した被験者A〜Hの体動量データ(図4〜図11)のうち、判別分析関数を決定するための教師データとして、例えば、被験者B,C,D,E,G,Hの体動量データを選択する。これら教師データとして選択された体動量データについて、前記体動静止持続時間抽出手段41および平均体動量算出手段42により抽出された各時刻データtについての「体動静止持続時間」および「平均体動量」を独立変数とし、また、睡眠深度の比較のために、これら被験者B,C,D,E,G,Hに対して睡眠ポリグラフ法により測定した時系列ごとの睡眠深度の実測データに基づいて抽出された各時刻データtについての「睡眠深度(覚醒状態(Wake)、Light&REM、SWS)」を目的変数として、下記式(8),(9)で表される線形判別式を算出する。この線形判別式の演算値Z1,Z2はそれぞれ判別得点を示し、Z1,Z2の正負によってグループ分けが行われる。
【0047】
Z1=a1x1+a2x2+C1・・・(8)
Z2=a3x1+a4x2+C2・・・(9)
【0048】
まず、式(8)が判別群Wake(覚醒状態)とそれ以外の判別群(Light&REMおよびSWS)とを判別する線形判別関数であるとすると、この線形判別関数は、2群から最も遠い位置に引かれる必要があり、2群から最も遠い位置に引かれることにより、この線形判別関数は、2群を区分けする最も良い基準線となる。2群を最もよく分けるには、判別群全ての判別得点Z1iとその平均Z1allとの差の2乗和ST(「全変動」という。)と、判別群Wakeの判別得点Z1jとその平均Z1wakeとの差の2乗和Swake(「グループ間変動」という。)との相関比F1(=Swake÷ST)を最大にするようにする。
【0049】
そこで、まず、全変動STおよびグループ間変動Swakeを、下記式(10),(11)をそれぞれ用いて算出する。なお、下記式(10),(11)において、nallは判別群全ての判別得点の個数を示し,nwakeは判別群Wakeの判別得点の個数を示している。
【0050】
【数6】
【0051】
次に、相関比F1(a1,a2)を算出した後、判別群Wakeとそれ以外の判別群とを最適に分けるために、相関比F1(a1,a2)が最大になるようなa1,a2を求める、すなわち、下記式(12),(13)に示すように、F1(a1,a2)をそれぞれa1,a2で偏微分した値が0になるようなa1,a2を求める。
【0052】
∂F1(a1,a2)/∂a1=0・・・(12)
∂F1(a1,a2)/∂a2=0・・・(13)
【0053】
次に、定数項C1を算出するために、判別群全てについての体動静止持続時間と平均体動量のそれぞれの平均値X1およびX2を算出する。線形判別関数は、判別群Wakeの中心と、それ以外の判別群の中心とを2つに分ける位置に引く必要があるため、この判別群Wakeの中心およびそれ以外の判別群の中心を2つに分ける判別群全体の中心(X1,X2)を通る必要がある。線形判別関数Z1=a1x1+a2x2+C1)が判別群全体の中心(X1,X2)を通過するときは、0=a1X1+a2X2+C1が成立するので、これより、C1が算出される結果、覚醒状態(Wake)とそれ以外の判別群(Light&REMおよびSWS)とを判別する線形判別関数Z1が得られる。
【0054】
次に、上記式(9)が判別群SWSとそれ以外の判別群(Light&REMおよびWake)とを判別する線形判別関数であるとすると、同様に、この線形判別関数Z2は、この2群から最も遠い位置に引かれる必要があり、2群から最も遠い位置に引かれることにより、この線形判別関数Z2は、2群を区分けする最も良い基準線となる。よって、2群を最もよく分ける線形判別関数Z2を算出するために、全変動STと、判別群SWSの判別得点Z2kとその平均Z2SWSとの差の2乗和SSWS(「グループ間変動」という。)との相関比F2(=SSWS÷ST)が最大となるような、a3,a4を算出する。
【0055】
また、同様にして、線形判別関数Z2の定数項C2を算出することで、判別群SWSとそれ以外の判別群(Light&REMおよびWake)とを判別する線形判別関数Z2が得られる。
【0056】
睡眠深度判別手段43は、こうして得られた線形判別関数Z1およびZ2に基づき、睡眠深度を判別しようとする被験者の睡眠時の体動量データについて、各時刻データtの「体動静止持続時間」および「平均体動量」を上記式(8),(9)式のx1,x2にそれぞれ入力して判別得点Z1,Z2を算出し、まず、判別得点Z1を判別しきい値「0」と比較して、各時刻データtが判別群Wakeに属するのか、それ以外の判別群(Light&REMおよびSWS)に属するのかを判別する。そして、Light&REMおよびSWSの判別群に判別された各時刻データtについて、判別得点Z2を判別しきい値「0」と比較して、各時刻データtが判別群SWSに属するのか、それ以外の判別群Light&REMに属するのかを判別する。これにより、被験者の睡眠中の睡眠状態が、「覚醒状態(Wake)」、「浅い眠りの状態(Light&REM)」、および、「深い眠りの状態(SWS)のいずれであるかを判定することが可能である。
【0057】
こうして得られた睡眠深度の判別データは、睡眠深度遷移軌跡生成手段44に入力される。睡眠深度遷移軌跡生成手段44により、睡眠深度の時間遷移の軌跡が生成されて、モニタなどに出力される。
【0058】
図13および図14は、被験者Aおよび被験者Fについて、本実施形態に係る睡眠状態判定装置1によって判定した睡眠状態の判定結果(下段)と、睡眠ポリグラフ法により測定した睡眠深度の実測データ(上段)との比較を表している。図13および図14を参照すると、図13の26000[sec] 付近と図14の12000[sec] 付近、および、各部で短い区間でWakeに誤判別が見られることを除けば、睡眠深度の判定値と実測値とは、極めて近似した変動を示しており、これによって、本発明の睡眠深度判定装置1が、おおよその睡眠深度の推移を判定できているといえ、睡眠深度が精度よく再現されていることが確認される。
【0059】
このように、本発明に係る睡眠深度判定装置1によれば、ビデオカメラ2により検出した被験者の睡眠時の体動データから、その睡眠状態を判定しているので、装置が大がかりとなることがないので、一般の家庭における睡眠深度判定装置として好適である。また、被験者をセンサ類で拘束することのない完全な無拘束状態で、睡眠状態の判定ができるので、被験者にとって何ら負担がなく、正確な睡眠状態を測定することができる。
【0060】
なお、本実施形態では、被験者の睡眠状態について、睡眠深度判別手段43による時系列ごとの睡眠深度を判別するアルゴリズムとして線形判別分析を用いているが、必ずしもこれに限られるものではなく、その他の手法(マハラノビス汎距離のような非線形の判別分析、重判別分析、正準判別分析など)による判別分析を用いてもよい。また、本実施形態では、ビデオカメラ2により睡眠時の被験者を撮影した動画像から被験者の睡眠時の体動データを検出することで、被験者にとって無拘束な状態で体動データを計測するようにしているが、被験者の体動データを無拘束で計測する方法としては必ずしもこれに限られるものではない。例えば、ベッドの敷布団の下に圧力振動センサを敷き、この圧力振動センサの出力値から、被験者の体動データを無拘束で計測するように構成することも可能であり、その他、被験者の体動データを無拘束で計測可能なものであれば、種々の方法を採用することもできる。
【0061】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の具体的な態様は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態では、被験者の睡眠時の睡眠状態を、覚醒状態(Wake)、眠りに浅い状態(Light&REM)、および、眠りの深い状態(SWS)の3つの段階(睡眠深度)で判別しているが、これに加えて、眠りに浅い状態(Light&REM)を、レム睡眠の状態(REM)と軽睡眠の状態(Light、深度1および深度2のノンレム睡眠)にさらに判別するように構成することもできる。
【0062】
人の睡眠において、レム睡眠の状態(REM)では、骨格筋の筋緊張が抑制されるため、大きな体動は少なくなる。ここで、この大きな体動というのは、持続時間が0.5秒を超えるLocalized Movements(LMs)やGMsのことを指す。逆に、持続時間が0.5秒以下のTwitch Movements(TMs)は、特に、レム睡眠の状態(REM)において群発出現することが知られている。また、レム睡眠の状態(REM)のGMsの特徴としては、軽睡眠の状態(Light)と比べると、体動静止持続時間が長く、寝がえりを伴うような大きな動作の体動がよくみられる。
【0063】
このように、睡眠状態がレム睡眠の状態(REM)にあるときには、GMsは軽睡眠の状態(Light)と比べると抑制状態にあり、GMsが発生する時間間隔は大きい値をとる。また、TMsが非抑制状態にあるので、体動回数は大きい値をとる。このような知見の下、本発明者らは、Light&REMと判別された各時刻データtに対し、体動データからLightとREMとを判別するのに関係性の強い「体動静止持続時間」および「体動回数」を独立変数として抽出し、睡眠ポリグラフ法で得た睡眠深度を目的変数とした判別分析を行うことによって、Light&REMと判別された各時刻データtを、LightとREMとに判別できるのではないかと考えた。なお、「体動回数」としては、本実施形態では、図15に示すように、ある時刻tから、直前の60秒間の体動データを抽出し、体動のピーク数をカウントすることで、この総和を時刻tにおける体動回数としている(図示例では、3回)。
【0064】
そこで、Light&REMと判別された各時刻データtに対し、体動データから「体動静止持続時間」および「体動回数」を抽出し、この2つのパラメータを用いて、マハラノビスの距離による判別分析により、各時刻データtを、軽睡眠の状態(Light)およびレム睡眠の状態(REM)の2つの判別群(睡眠深度)に分割するのに最適な判別分析関数を構築した。
【0065】
図16のグラフは、ある被験者について、本発明の睡眠状態判定装置1により、睡眠状態を3つの睡眠深度に判別した後、上記したマハラノビスの距離による判別分析によって判別した睡眠深度の判定値(下段)と、睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測値(上段)との比較を表わしている。図示の如く、体動から判別した本実施形態の睡眠深度の判定値は、睡眠ポリグラフ法による実測値と、極めて近似した変動を示していることが確認された。
【符号の説明】
【0066】
1 睡眠状態判定装置
2 ビデオカメラ
3 情報処理部
4 睡眠状態判定部
30 静止画変換手段
31 ROI設定手段
32 グレースケール変換手段
33 濃度値変化検出手段
34 中心位置座標算出手段
35 体動量算出手段
40 GMs抽出手段
41 体動静止持続時間抽出手段
42 平均体動量抽出手段
43 睡眠深度判別手段
44 睡眠深度遷移軌跡生成手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、人の睡眠時の体動に基づいてその睡眠状態が複数段階の睡眠深度のいずれかに分類されるのかを判定する睡眠状態判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠は人間にとって必要不可欠なものであり、脳と身体機能を維持するために重要である。しかし、近年、高ストレス化社会の進行に伴って睡眠に悩む人が急増している。貧弱な睡眠や睡眠障害は、起床時の気分や機嫌の悪さの原因ともなり、高齢者では意欲の低下や抑うつ状態を引き起こし、社会的な活動を低下させる原因となることが知られており、社会問題の1つとなっている。また、発達期の小児においては、睡眠の質や量の低下に伴い、記憶や集中力の障害による学習機能の低下、感情コントロール機能の低下、運動能力の低下、不規則な生活習慣の定着などを引き起こすため、慢性的な不眠に陥る前に、睡眠障害を発見して治療を行う必要がある。そのためには、自己の日常的な睡眠状態をよく把握し、日々の睡眠を管理することにより、長期的に睡眠を改善していく必要がある。
【0003】
睡眠は、一般的に、眠りの浅いレム睡眠と、眠りの深いノンレム睡眠とに大別されるが、さらに詳しくは複数の睡眠深度によって定義されており、国際基準(レヒトシャッフェン(A.Rechtschaffen)&カレス(A.Kales)の基準)では、睡眠深度を、入床してから入眠するまでの覚醒、レム睡眠、深度1〜4の6つの状態で定義している。ここで、深度1〜4とは、ノンレム睡眠がさらに4つの段階に分けられたものであり、ノンレム睡眠のなかでは、深度1が最も眠りが浅く、深度4が最も深い。
【0004】
人は、入床すると、その睡眠状態は、覚醒の状態から浅い眠りの状態へ移行し、その後、浅い眠りの状態から深い眠りの状態へ移行する。そして、再び浅い眠りの状態へと移行するのが一般的である。この睡眠時の睡眠深度の遷移を調べることにより、人の睡眠状態を把握することが可能である。
【0005】
そこで、従来から、人の睡眠状態を検出することが種々試みられており、例えば脳波、眼球運動、顎筋電、心電などを同時に測定し、これらの測定データを分析して睡眠深度を判定することで、睡眠状態を評価する睡眠ポリグラフ(PSG)法が知られている(例えば特許文献1,2参照)。この睡眠ポリグラフ法は、測定データの種類が多く、測定精度も高いので、評価の信頼性が高いものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2950038号公報
【特許文献2】特開2004−305258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した睡眠ポリグラフ法による測定は、複数のセンサを測定対象者に装着して睡眠の状態を把握するものであるから、装置が大がかりとなるうえ、測定するにあたっては、病院や研究室など、専門設備を備えた場所でしか利用できないために、健康機器のように家庭で手軽に日常的に使用するには不向きである。また、複数の電極を被験者に装着しなければならないため、被験者にとっての負担が大きく、その拘束感から被験者の睡眠を妨げることも多いうえ、新規体験に対する抵抗感の大きい小児にとっては大きなストレスとなるので、正確な睡眠状態を測定することは難しいという問題もある。
【0008】
さらに、睡眠ポリグラフ法は、医師などの専門家によらなければ、被験者の睡眠状態を正確に評価することができないため、装置さえあればよいと言う訳にもいかない。
【0009】
本発明は、上記した問題に着目してなされたもので、人の睡眠状態を無拘束ながらも高精度で判定することができる睡眠状態判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の前記目的は、被験者の睡眠時の体動に基づいてその睡眠状態を判定する睡眠状態判定装置であって、被験者の睡眠時の体動を検出して得られるデータに基づき、体動の大きさに関する情報である体動量の時系列波形データを算出する体動量算出手段と、算出した前記体動量の時系列波形データから、継続して所定時間以上行われる大きな体動を抽出するとともに、この大きな体動が抑制されている体動抑制区間の体動を除去する体動抽出手段と、前記体動抑制区間ごとに前記大きな体動の静止持続時間tを算出して前記大きな体動の時間間隔を抽出し、前記大きな体動の時間間隔および前記大きな体動の体動量に基づいて、被験者の睡眠状態が複数段階の睡眠深度のいずれかに分類されるのかを判定する判定手段とを備える睡眠状態判定装置により達成される。
【0011】
本発明の好ましい実施態様においては、前記判定手段は、睡眠時間の任意の単位時刻ごとに、体動静止持続時間として、前記体動抑制区間外にあるときには0を、前記体動抑制区間内にあるときにはその静止持続時間tを、それぞれ設定し、前記単位時刻ごとの前記体動静止持続時間および体動量に基づいて、睡眠状態が複数段階の睡眠深度のいずれかに分類されるのかを判定することを特徴としている。
【0012】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記判定手段は、前記単位時刻ごとの体動量として、前記単位時刻の所定時間前の時刻までの各時刻の体動量の平均を求め、この平均体動量および前記体動静止持続時間に基づいて、睡眠状態が複数段階の睡眠深度のいずれかに分類されるのかを判定することを特徴としている。
【0013】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記判定手段は、前記単位時刻ごとの睡眠状態がいずれの睡眠深度に分類されるのかを判定する手法として判別分析を用いることを特徴としている。
【0014】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記体動量算出手段は、睡眠時の人の体動の撮像を行うための撮像手段によって得られる動画像を所定数の静止画像に変換する変換手段と、前記動画像を構成する各静止画像を差分処理することにより、被験者の体動に伴う画像内の濃度値の変化を検出する検出手段と、前記濃度値の変化により被験者の体動の中心位置座標を算出する中心位置算出手段と、前記被験者の体動の中心位置座標の位置変化により前記体動量を算出する体動量算出手段とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、人の睡眠状態を無拘束ながらも高精度で判定することが可能な睡眠状態判定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る睡眠状態判定装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】情報処理部の概略構成を示すブロック図である。
【図3】睡眠状態判定部の概略構成を示すブロック図である。
【図4】被験者Aの情報処理部による体動量測定データと睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図5】被験者Bの情報処理部による体動量測定データと睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図6】被験者Cの情報処理部による体動量測定データと睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図7】被験者Dの情報処理部による体動量測定データと睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図8】被験者Eの情報処理部による体動量測定データと睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図9】被験者Fの情報処理部による体動量測定データと睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図10】被験者Gの情報処理部による体動量測定データと睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図11】被験者Hの情報処理部による体動量測定データと睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図12】体動静止持続時間を説明するための説明図である。
【図13】本実施形態に係る睡眠状態判定装置による睡眠深度の判定結果と睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図14】本実施形態に係る睡眠状態判定装置による睡眠深度の判定結果と睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【図15】体動回数を説明するための説明図である。
【図16】他の実施形態に係る睡眠状態判定装置による睡眠深度の判定結果と睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測データを比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る睡眠状態判定装置1の概略構成を示す。図1に示すように、睡眠状態判定装置1は、ビデオカメラ2に接続されている。ビデオカメラ2は三脚で固定され、例えばベッド10上に横たわっている被験者5の全身がフレーム内に入るように設置されている。このビデオカメラ2は、睡眠時の被験者5の動画像を撮影し、撮影した動画像を睡眠状態判定装置1に出力する。出力された動画像は睡眠状態判定装置1に格納される。なお、ビデオカメラ2は、夜間や暗闇においてもビデオ撮影することが可能な赤外線撮影機能を備えていることが好ましい。
【0018】
睡眠状態判定装置1は、ビデオカメラ2からの動画像に基づき、被験者5の睡眠時の体の動き(体動)の大きさに関する情報である体動量の時系列波形データを算出する体動量算出手段35を含む情報処理部3(図2に示す)と、前記体動量の時系列波形データ(体動量データ)に基づいて、被験者5の睡眠時の睡眠状態を判定する睡眠状態判定部4(図3に示す)とを備えており、例えば、携帯型のコンピュータにより構成することができる。
【0019】
情報処理部3は、ビデオカメラ2から入力される動画像の差分処理を行うことにより、被験者が体動に伴い、睡眠時にどれくらいの大きさで動作をしたかを検出する。差分処理とは、連続する画像の差分を計算することにより、対象物の動きを検出する処理である。本実施形態では、動画像の差分処理により、被験者の睡眠時の体動量データを検出することで、被験者からセンサ類を切り離した完全な無拘束状態で睡眠の状態を判定することが可能となっている。以下、時系列ごとの体動量を算出する方法を具体的に説明する。
【0020】
この情報処理部3は、図2に示すように、静止画変換手段30と、ROI設定手段31と、グレースケール変換手段32と、濃度値変化検出手段33と、中心位置座標算出手段34と、体動量算出手段35とを備えている。
【0021】
静止画変換手段30は、ビデオカメラ2から入力される動画像を、動画像を構成する所定数のフレーム毎の静止画像(例えば、BMP形式の静止画像)に変換する。なお、本実施形態では、ビデオカメラ2から入力された動画像のフレームレート(例えば30[fps])を、1[fps]にリサンプリングしている。これは、睡眠時においては、被験者の体動による動きは少なく、被験者の動きを捕らえるためには、1[fps]は十分なサンプリングレートであると考えられるからである。これにより、睡眠状態判定装置1に記憶される情報量を減らすことが可能となっている。
【0022】
ROI設定手段31は、静止画変換手段30から出力されるBMP形式の静止画像を連続的に読み込み、処理の高速化のためにROI(Region of Interest)を設定する。ROIとは、関心領域のことを指し、各静止画像の全体から関心のある、つまり、処理に必要な領域を設定して切り出す。ROI処理を行うことにより、余分なノイズの除去や、静止画像の画像サイズを小さくすることによる処理の高速化が可能となる。
【0023】
グレースケール変換手段32は、ROI処理がなされた各静止画像に対して、画像のグレースケール化を行い、差分処理によりフレーム間の画像の濃淡の変化を検出できるようにする。
【0024】
ビデオカメラ2から入力される動画像は、被験者の体動による動きに伴い、画像内の各ピクセルの濃度値が変化する。濃度値変化検出手段33は、この画像内の各ピクセルの濃度値の変化を、隣り合う2枚のフレームの差分を取ることによって検出する。具体的には、グレースケール化された各フレームの静止画像のそれぞれに対して、全ピクセルの濃度値の時間微分を計算し、各ピクセルの濃度値の変化を検出する。静止画像の画像サイズは、x方向へn個(1,2,…,n)、y方向へm個(1,2,…,m)の合計n×m個(例えば、340(幅)×240(高さ))のピクセルで構成されるため、時刻tにおける各フレームの濃度行列式をD(t)とすると、濃度行列式D(t)、および、濃度行列式D(t)の時間微分行列D´(t)は、以下の数式(1),(2)によってそれぞれ算出される。ある座標位置(x,y)にあるピクセルの濃度変化は、d´xy(t)で表現される。
【0025】
【数1】
【0026】
こうして得られた各ピクセルの濃度値の変化は、中心位置座標算出手段34に入力される。中心位置座標算出手段34は、この濃度値の変化から被験者の睡眠時の体動の動きの中心位置座標を推定する。具体的には、差分画像において被験者が体動により動けば、動く前の座標では濃度値が減少し、動いた後の座標では濃度値が増加することから、まず、各ピクセルにおける濃度値の変化d´xy(t)を定数εを用いて、下記の3つの状態に分類する。なお、下記条件式における定数εは許容誤差である。
【0027】
(1)濃度値が増加
|d´xy(t)|>ε かつ d´xy(t)<0
(2)濃度値が減少
|d´xy(t)|>ε かつ d´xy(t)>0
(3)濃度値に変化なし
|d´xy(t)|≦ε
【0028】
次に、(1)濃度値が増加した全てのピクセルの座標位置の平均値(px,py)と、(2)濃度値が減少した全てのピクセルの座標位置の平均値(qx,qy)とを算出する。そして、座標(px,py)を濃度値が増加したピクセルの集合体の中心座標、座標(qx,qy)を濃度値が減少したピクセルの集合体の中心座標とし、座標(px,py)および座標(qx,qy)の中心座標を算出することで、被験者の睡眠時の体動の中心位置座標を算出する。x方向およびy方向それぞれの被験者の体動の中心位置座標(x,y)は、以下の数式(3),(4)によってそれぞれ算出される。
【0029】
【数2】
【0030】
こうして得られた体動の中心位置座標(x,y)は、体動量算出手段35に入力される。体動量算出手段35は、被験者の体動の中心位置座標(x,y)の位置の時系列変化から、時刻tにおいて、画像内で被験者が睡眠時に体動により動いた距離に相当する値L(t)を下記式(5)より算出する。
【0031】
【数3】
【0032】
次に、移動距離の時間微分は速度を表すので、被験者が睡眠時に体動により動いた速度に相当する値v(t)を、以下の数式(6)により算出する。
【0033】
【数4】
【0034】
こうして得られた速度v(t)を用いて、体動量算出手段35は、睡眠時の時刻tにおける体動量p(t)を算出する。時刻tにおける体動量p(t)は、速度v(t)と被験者の重さmの積、つまり、p(t)=m×v(t)で算出され、これにより、被験者の睡眠時の体動量の時系列波形データが測定される。
【0035】
図4〜図11に、被験者として健常未就学児8名(男女含む)A〜Hの、前記情報処理部3により測定された睡眠時の体動量の時系列波形データ(下段)を示す。図4〜図11において、横軸が測定時間[sec]、縦軸が体動量[pic]である。なお、図4〜図11には、睡眠深度の比較のために、これら被験者A〜Hに対して、睡眠ポリグラフ法により測定した睡眠深度の実測データ(上段)も示している。
【0036】
次に、睡眠状態判定部4は、情報処理部3により測定された前記体動量の時系列波形データに基づいて被験者の睡眠時の睡眠状態が、複数段階の睡眠深度のいずれかに分類されるのかを判定するものであり、図3に示すように、GMs抽出手段40と、体動静止持続時間抽出手段41と、平均体動量抽出手段42と、睡眠深度判別手段43と、睡眠深度遷移軌跡生成手段44とを備えている。
【0037】
人の睡眠時の体動には、寝返りなどの大きな体動(粗体動)と、細かい体動(細体動)とがある。ここで、持続が2秒以上の体動を、Gross Movements(GMs)と分類すると、このようなGMsは、覚醒状態(Wake)に最も多い頻度で起こる一方、眠りが深くなるにつれて、すなわち、レム睡眠、ノンレム睡眠(深度1〜深度4)と続くにつれて出現頻度が低下する。本発明者らは、このGMsに着目することにより、睡眠時の睡眠状態を複数の段階(睡眠深度)に判別することが可能であることを見出した。
【0038】
つまり、上述したとおり、睡眠状態が深度3および深度4の深い眠りの状態にあるSWS(Slow Wave Sleep)時には、GMsは抑制状態にあり、GMsが発生する時間間隔は大きい値をとると考えられる。従って、GMsが抑制されている区間を抽出して、その体動が静止している持続時間(体動静止持続時間)を検出することで、睡眠中のSWSの抽出が可能であることを本発明者らは見出した。さらに、睡眠状態が覚醒状態(Wake)にある時には、GMsは非抑制状態にあり、体動により大きく動くことから、体動量が大きい値をとると考えられる。従って、GMs時の体動の大きさ(体動量)を考慮することで、睡眠中のWakeの抽出が可能であることを本発明者らは見出した。
【0039】
このように、本実施形態では、GMsの時間間隔およびGMs時の体動の大きさ(体動量)が睡眠状態に大きく関係があることに鑑みて、被験者の睡眠時の体動量の時系列波形データから、各時刻データtそれぞれについて、睡眠深度と関係性の強い体動に関する2つの変数である「体動静止持続時間」および「体動量」を抽出することで、睡眠中の睡眠状態について、覚醒状態(Wake)、Light&REM(レム睡眠、深度1,2)、およびSWS(深度3,4)の少なくとも3段階の睡眠深度による判別が可能となっている。以下、睡眠状態を判定する方法について具体的に説明する。
【0040】
まず、GMs抽出手段40は、情報処理部3により測定された各被験者の睡眠時の体動量の時系列波形データについて、体動が継続して2秒以上行われるGMsのみを抽出するために、持続時間が2秒以下の体動を除去して、補正した体動量の時系列波形データ(補正体動量データ)を作成する。こうして得られた補正体動量データは、体動静止持続時間算出手段41および平均体動量算出手段42に、それぞれ入力される。
【0041】
体動静止持続時間抽出手段41は、入力された上記補正体動量データから、各時刻データtにおける「体動静止持続時間」を抽出する。まず、この補正体動量データに対して、「体動のセクション」を定義する。体動のセクションとは、図12に示すように、体動が抑制されている状態から体動が起こり始め、再び体動が抑制されるまでの区間を指す。各セクション内において、体動が抑制された時刻をt0、体動が抑制された状態から体動が起こり始める時刻をtMTin、体動が再び抑制された時刻をtMTout、とそれぞれ設定すると、各セクション内の時刻tにおける体動静止持続時間MTrestは、以下の数式(7)で表される。
【0042】
【数5】
【0043】
次に、平均体動量算出手段42は、入力された上記補正体動量データから、各時刻データtにおける「体動量」を抽出する。ここで、本実施形態では、平均体動量算出手段41は、各時刻データtにおける体動量として「平均体動量」を抽出する。「平均体動量」とは、対象となる時刻から所定時間(本実施形態では60[sec])前の時刻までの各時刻の体動量の単純平均値を求めたものである。このように、各時刻データtの直前の60秒間の体動量の単純平均値を各時刻データtにおける体動量として抽出したのは、各時刻データtにおける睡眠深度は、それより直前に行われている体動に依存するという知見に基づくものである。また、単純平均値の参照範囲を60[sec] としたのは、比較対象として、被験者の睡眠深度を判定した睡眠ポリグラフ法における睡眠深度の計測エポックが30[sec]であり、少なくとも1つのエポックをまるごと含むように参照範囲を設定したためである。
【0044】
こうして得られた各時刻データtについての「体動静止持続時間」および「平均体動量」は、睡眠深度判別手段43に入力される。睡眠深度判別手段43は、入力された各時刻データtにおける「体動静止持続時間」および「平均体動量」に基づいて、被験者の睡眠状態について、時系列ごとの睡眠深度を判別する。本実施形態では、睡眠深度を判別するアルゴリズムとして線形判別分析を用いている。
【0045】
線形判別分析とは、データ群を判別対象となる2つ以上のグループ(判別群)に判別するためのアルゴリズムであり、本実施形態では、独立変数として、上記した「体動静止持続時間」および「平均体動量」を用い、この「体動静止持続時間」と「平均体動量」とにより各時刻データtの散布図を描いたときに、各時刻データtを、覚醒状態(Wake)、浅い眠りの状態(Light&REM)、および、深い眠りの状態(SWS)の3つの判別群に分割するのに最適な関数(線形判別関数)をそれぞれ求める。そして、未知データが入力された際に、その未知データがどのグループ群に属するかを線形判別関数を基準にして決定することで、睡眠中の時系列ごとの睡眠深度を判別している。以下、この判別分析関数を求める方法について説明する。
【0046】
睡眠深度判別手段43は、まず、測定した被験者A〜Hの体動量データ(図4〜図11)のうち、判別分析関数を決定するための教師データとして、例えば、被験者B,C,D,E,G,Hの体動量データを選択する。これら教師データとして選択された体動量データについて、前記体動静止持続時間抽出手段41および平均体動量算出手段42により抽出された各時刻データtについての「体動静止持続時間」および「平均体動量」を独立変数とし、また、睡眠深度の比較のために、これら被験者B,C,D,E,G,Hに対して睡眠ポリグラフ法により測定した時系列ごとの睡眠深度の実測データに基づいて抽出された各時刻データtについての「睡眠深度(覚醒状態(Wake)、Light&REM、SWS)」を目的変数として、下記式(8),(9)で表される線形判別式を算出する。この線形判別式の演算値Z1,Z2はそれぞれ判別得点を示し、Z1,Z2の正負によってグループ分けが行われる。
【0047】
Z1=a1x1+a2x2+C1・・・(8)
Z2=a3x1+a4x2+C2・・・(9)
【0048】
まず、式(8)が判別群Wake(覚醒状態)とそれ以外の判別群(Light&REMおよびSWS)とを判別する線形判別関数であるとすると、この線形判別関数は、2群から最も遠い位置に引かれる必要があり、2群から最も遠い位置に引かれることにより、この線形判別関数は、2群を区分けする最も良い基準線となる。2群を最もよく分けるには、判別群全ての判別得点Z1iとその平均Z1allとの差の2乗和ST(「全変動」という。)と、判別群Wakeの判別得点Z1jとその平均Z1wakeとの差の2乗和Swake(「グループ間変動」という。)との相関比F1(=Swake÷ST)を最大にするようにする。
【0049】
そこで、まず、全変動STおよびグループ間変動Swakeを、下記式(10),(11)をそれぞれ用いて算出する。なお、下記式(10),(11)において、nallは判別群全ての判別得点の個数を示し,nwakeは判別群Wakeの判別得点の個数を示している。
【0050】
【数6】
【0051】
次に、相関比F1(a1,a2)を算出した後、判別群Wakeとそれ以外の判別群とを最適に分けるために、相関比F1(a1,a2)が最大になるようなa1,a2を求める、すなわち、下記式(12),(13)に示すように、F1(a1,a2)をそれぞれa1,a2で偏微分した値が0になるようなa1,a2を求める。
【0052】
∂F1(a1,a2)/∂a1=0・・・(12)
∂F1(a1,a2)/∂a2=0・・・(13)
【0053】
次に、定数項C1を算出するために、判別群全てについての体動静止持続時間と平均体動量のそれぞれの平均値X1およびX2を算出する。線形判別関数は、判別群Wakeの中心と、それ以外の判別群の中心とを2つに分ける位置に引く必要があるため、この判別群Wakeの中心およびそれ以外の判別群の中心を2つに分ける判別群全体の中心(X1,X2)を通る必要がある。線形判別関数Z1=a1x1+a2x2+C1)が判別群全体の中心(X1,X2)を通過するときは、0=a1X1+a2X2+C1が成立するので、これより、C1が算出される結果、覚醒状態(Wake)とそれ以外の判別群(Light&REMおよびSWS)とを判別する線形判別関数Z1が得られる。
【0054】
次に、上記式(9)が判別群SWSとそれ以外の判別群(Light&REMおよびWake)とを判別する線形判別関数であるとすると、同様に、この線形判別関数Z2は、この2群から最も遠い位置に引かれる必要があり、2群から最も遠い位置に引かれることにより、この線形判別関数Z2は、2群を区分けする最も良い基準線となる。よって、2群を最もよく分ける線形判別関数Z2を算出するために、全変動STと、判別群SWSの判別得点Z2kとその平均Z2SWSとの差の2乗和SSWS(「グループ間変動」という。)との相関比F2(=SSWS÷ST)が最大となるような、a3,a4を算出する。
【0055】
また、同様にして、線形判別関数Z2の定数項C2を算出することで、判別群SWSとそれ以外の判別群(Light&REMおよびWake)とを判別する線形判別関数Z2が得られる。
【0056】
睡眠深度判別手段43は、こうして得られた線形判別関数Z1およびZ2に基づき、睡眠深度を判別しようとする被験者の睡眠時の体動量データについて、各時刻データtの「体動静止持続時間」および「平均体動量」を上記式(8),(9)式のx1,x2にそれぞれ入力して判別得点Z1,Z2を算出し、まず、判別得点Z1を判別しきい値「0」と比較して、各時刻データtが判別群Wakeに属するのか、それ以外の判別群(Light&REMおよびSWS)に属するのかを判別する。そして、Light&REMおよびSWSの判別群に判別された各時刻データtについて、判別得点Z2を判別しきい値「0」と比較して、各時刻データtが判別群SWSに属するのか、それ以外の判別群Light&REMに属するのかを判別する。これにより、被験者の睡眠中の睡眠状態が、「覚醒状態(Wake)」、「浅い眠りの状態(Light&REM)」、および、「深い眠りの状態(SWS)のいずれであるかを判定することが可能である。
【0057】
こうして得られた睡眠深度の判別データは、睡眠深度遷移軌跡生成手段44に入力される。睡眠深度遷移軌跡生成手段44により、睡眠深度の時間遷移の軌跡が生成されて、モニタなどに出力される。
【0058】
図13および図14は、被験者Aおよび被験者Fについて、本実施形態に係る睡眠状態判定装置1によって判定した睡眠状態の判定結果(下段)と、睡眠ポリグラフ法により測定した睡眠深度の実測データ(上段)との比較を表している。図13および図14を参照すると、図13の26000[sec] 付近と図14の12000[sec] 付近、および、各部で短い区間でWakeに誤判別が見られることを除けば、睡眠深度の判定値と実測値とは、極めて近似した変動を示しており、これによって、本発明の睡眠深度判定装置1が、おおよその睡眠深度の推移を判定できているといえ、睡眠深度が精度よく再現されていることが確認される。
【0059】
このように、本発明に係る睡眠深度判定装置1によれば、ビデオカメラ2により検出した被験者の睡眠時の体動データから、その睡眠状態を判定しているので、装置が大がかりとなることがないので、一般の家庭における睡眠深度判定装置として好適である。また、被験者をセンサ類で拘束することのない完全な無拘束状態で、睡眠状態の判定ができるので、被験者にとって何ら負担がなく、正確な睡眠状態を測定することができる。
【0060】
なお、本実施形態では、被験者の睡眠状態について、睡眠深度判別手段43による時系列ごとの睡眠深度を判別するアルゴリズムとして線形判別分析を用いているが、必ずしもこれに限られるものではなく、その他の手法(マハラノビス汎距離のような非線形の判別分析、重判別分析、正準判別分析など)による判別分析を用いてもよい。また、本実施形態では、ビデオカメラ2により睡眠時の被験者を撮影した動画像から被験者の睡眠時の体動データを検出することで、被験者にとって無拘束な状態で体動データを計測するようにしているが、被験者の体動データを無拘束で計測する方法としては必ずしもこれに限られるものではない。例えば、ベッドの敷布団の下に圧力振動センサを敷き、この圧力振動センサの出力値から、被験者の体動データを無拘束で計測するように構成することも可能であり、その他、被験者の体動データを無拘束で計測可能なものであれば、種々の方法を採用することもできる。
【0061】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の具体的な態様は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態では、被験者の睡眠時の睡眠状態を、覚醒状態(Wake)、眠りに浅い状態(Light&REM)、および、眠りの深い状態(SWS)の3つの段階(睡眠深度)で判別しているが、これに加えて、眠りに浅い状態(Light&REM)を、レム睡眠の状態(REM)と軽睡眠の状態(Light、深度1および深度2のノンレム睡眠)にさらに判別するように構成することもできる。
【0062】
人の睡眠において、レム睡眠の状態(REM)では、骨格筋の筋緊張が抑制されるため、大きな体動は少なくなる。ここで、この大きな体動というのは、持続時間が0.5秒を超えるLocalized Movements(LMs)やGMsのことを指す。逆に、持続時間が0.5秒以下のTwitch Movements(TMs)は、特に、レム睡眠の状態(REM)において群発出現することが知られている。また、レム睡眠の状態(REM)のGMsの特徴としては、軽睡眠の状態(Light)と比べると、体動静止持続時間が長く、寝がえりを伴うような大きな動作の体動がよくみられる。
【0063】
このように、睡眠状態がレム睡眠の状態(REM)にあるときには、GMsは軽睡眠の状態(Light)と比べると抑制状態にあり、GMsが発生する時間間隔は大きい値をとる。また、TMsが非抑制状態にあるので、体動回数は大きい値をとる。このような知見の下、本発明者らは、Light&REMと判別された各時刻データtに対し、体動データからLightとREMとを判別するのに関係性の強い「体動静止持続時間」および「体動回数」を独立変数として抽出し、睡眠ポリグラフ法で得た睡眠深度を目的変数とした判別分析を行うことによって、Light&REMと判別された各時刻データtを、LightとREMとに判別できるのではないかと考えた。なお、「体動回数」としては、本実施形態では、図15に示すように、ある時刻tから、直前の60秒間の体動データを抽出し、体動のピーク数をカウントすることで、この総和を時刻tにおける体動回数としている(図示例では、3回)。
【0064】
そこで、Light&REMと判別された各時刻データtに対し、体動データから「体動静止持続時間」および「体動回数」を抽出し、この2つのパラメータを用いて、マハラノビスの距離による判別分析により、各時刻データtを、軽睡眠の状態(Light)およびレム睡眠の状態(REM)の2つの判別群(睡眠深度)に分割するのに最適な判別分析関数を構築した。
【0065】
図16のグラフは、ある被験者について、本発明の睡眠状態判定装置1により、睡眠状態を3つの睡眠深度に判別した後、上記したマハラノビスの距離による判別分析によって判別した睡眠深度の判定値(下段)と、睡眠ポリグラフ法による睡眠深度の実測値(上段)との比較を表わしている。図示の如く、体動から判別した本実施形態の睡眠深度の判定値は、睡眠ポリグラフ法による実測値と、極めて近似した変動を示していることが確認された。
【符号の説明】
【0066】
1 睡眠状態判定装置
2 ビデオカメラ
3 情報処理部
4 睡眠状態判定部
30 静止画変換手段
31 ROI設定手段
32 グレースケール変換手段
33 濃度値変化検出手段
34 中心位置座標算出手段
35 体動量算出手段
40 GMs抽出手段
41 体動静止持続時間抽出手段
42 平均体動量抽出手段
43 睡眠深度判別手段
44 睡眠深度遷移軌跡生成手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の睡眠時の体動に基づいてその睡眠状態を判定する睡眠状態判定装置であって、
被験者の睡眠時の体動を検出して得られるデータに基づき、体動の大きさに関する情報である体動量の時系列波形データを算出する体動量算出手段と、
算出した前記体動量の時系列波形データから、継続して所定時間以上行われる大きな体動を抽出するとともに、この大きな体動が抑制されている体動抑制区間の体動を除去する体動抽出手段と、
前記体動抑制区間ごとに前記大きな体動の静止持続時間tを算出して前記大きな体動の時間間隔を抽出し、前記大きな体動の時間間隔および前記大きな体動の体動量に基づいて、被験者の睡眠状態が複数段階の睡眠深度のいずれかに分類されるのかを判定する判定手段とを備える睡眠状態判定装置。
【請求項2】
前記判定手段は、睡眠時間の任意の単位時刻ごとに、体動静止持続時間として、前記体動抑制区間外にあるときには0を、前記体動抑制区間内にあるときにはその静止持続時間tを、それぞれ設定し、
前記単位時刻ごとの前記体動静止持続時間および体動量に基づいて、睡眠状態が複数段階の睡眠深度のいずれかに分類されるのかを判定する請求項1に記載の睡眠状態判定装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記単位時刻ごとの体動量として、前記単位時刻の所定時間前の時刻までの各時刻の体動量の平均を求め、この平均体動量および前記体動静止持続時間に基づいて、睡眠状態が複数段階の睡眠深度のいずれかに分類されるのかを判定することを特徴とする請求項2に記載の睡眠状態判定装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記単位時刻ごとの睡眠状態がいずれの睡眠深度に分類されるのかを判定する手法として判別分析を用いることを特徴とする請求項2または3に記載の睡眠状態判定装置。
【請求項5】
前記体動量算出手段は、睡眠時の人の体動の撮像を行うための撮像手段によって得られる動画像を所定数の静止画像に変換する変換手段と、前記動画像を構成する各静止画像を差分処理することにより、被験者の体動に伴う画像内の濃度値の変化を検出する検出手段と、前記濃度値の変化により被験者の体動の中心位置座標を算出する中心位置算出手段と、前記被験者の体動の中心位置座標の位置変化により前記体動量を算出する体動量算出手段とを備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の睡眠状態判定装置。
【請求項1】
被験者の睡眠時の体動に基づいてその睡眠状態を判定する睡眠状態判定装置であって、
被験者の睡眠時の体動を検出して得られるデータに基づき、体動の大きさに関する情報である体動量の時系列波形データを算出する体動量算出手段と、
算出した前記体動量の時系列波形データから、継続して所定時間以上行われる大きな体動を抽出するとともに、この大きな体動が抑制されている体動抑制区間の体動を除去する体動抽出手段と、
前記体動抑制区間ごとに前記大きな体動の静止持続時間tを算出して前記大きな体動の時間間隔を抽出し、前記大きな体動の時間間隔および前記大きな体動の体動量に基づいて、被験者の睡眠状態が複数段階の睡眠深度のいずれかに分類されるのかを判定する判定手段とを備える睡眠状態判定装置。
【請求項2】
前記判定手段は、睡眠時間の任意の単位時刻ごとに、体動静止持続時間として、前記体動抑制区間外にあるときには0を、前記体動抑制区間内にあるときにはその静止持続時間tを、それぞれ設定し、
前記単位時刻ごとの前記体動静止持続時間および体動量に基づいて、睡眠状態が複数段階の睡眠深度のいずれかに分類されるのかを判定する請求項1に記載の睡眠状態判定装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記単位時刻ごとの体動量として、前記単位時刻の所定時間前の時刻までの各時刻の体動量の平均を求め、この平均体動量および前記体動静止持続時間に基づいて、睡眠状態が複数段階の睡眠深度のいずれかに分類されるのかを判定することを特徴とする請求項2に記載の睡眠状態判定装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記単位時刻ごとの睡眠状態がいずれの睡眠深度に分類されるのかを判定する手法として判別分析を用いることを特徴とする請求項2または3に記載の睡眠状態判定装置。
【請求項5】
前記体動量算出手段は、睡眠時の人の体動の撮像を行うための撮像手段によって得られる動画像を所定数の静止画像に変換する変換手段と、前記動画像を構成する各静止画像を差分処理することにより、被験者の体動に伴う画像内の濃度値の変化を検出する検出手段と、前記濃度値の変化により被験者の体動の中心位置座標を算出する中心位置算出手段と、前記被験者の体動の中心位置座標の位置変化により前記体動量を算出する体動量算出手段とを備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の睡眠状態判定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−375(P2012−375A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140478(P2010−140478)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】
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