説明

短繊維強化C/Cコンポジットの製造方法

【目的】 本発明の目的は、従来のセラミックを添加した短繊維強化C/Cコンポジットの製造法よりも、セラミック粒子の分散性に優れ、且つ短期間にセラミック添加C/Cコンポジットを容易に得ることができる製造方法を提供することにある。
【構成】 本発明は、原料ピッチをその軟化点温度以上でセラミック粉と混合し、前記混合物を冷却した後に粉砕したマトリックス原料と、水等の溶媒中で短繊維状炭素繊維とを均一混合させて短繊維強化C/Cコンポジット前駆体を用意し、該前駆体を不活性雰囲気中で400〜1200℃に拘束加熱して焼成し賦形をした後、更に真空中または不活性雰囲気中セラミック粉の分解温度以下で、50kg/cm2以上の条件下に加熱・加圧処理を施すことを特徴とする短繊維強化C/Cコンポジットの製造法である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、セラミックスを添加した短繊維強化C/Cコンポジットの製造方法に関する。本材料は、自動車等の高速車両の摩擦式ブレーキ等へ適用することができる。
【0002】
【従来の技術】一般に炭素繊維強化複合材料(C/Cコンポジット)は、PAN系、ピッチ系等の炭素繊維の長・短繊維にフェノール樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂、あるいはピッチなどの熱可塑性成分を含浸、または混合して加熱成形したものを、非酸化性雰囲気中において600―1000℃に焼成することにより得られる。
【0003】実用のために強度が不足する場合は、更に緻密化のため熱硬化樹脂またはピッチ等を含浸した後焼成する。
【0004】高強度化のためにはこの含浸及び焼成を数回繰り返す。このようにC/Cコンポジットは前述のように加熱、冷却をなんども繰り返して製造されているため製造期間が著しく長くなることが欠点であった。
【0005】また、C/Cコンポジットの硬さは比較的低く、硬い相手材との摺動では、優先的にC/Cコンポジットが摩耗され、その寿命が短いのが欠点でもあった。
【0006】C/Cコンポジットの硬さを増すためには、マトリックスである炭素にセラミック粉を添加することはよく知られている。
【0007】例えば、複合材料へのセラミックの添加の手法としては、例えば、特開平1―183577号公報に見られるように炭素繊維の表面に負に帯電したセラミック微粒子を付着させる方法が知られている。
【0008】しかしながら、この手法を適用したセラミック添加C/Cコンポジットは炭素繊維へのセラミックの付着が均一でなく、そのため空隙が発生し易く強度のばらつきが大きいことに加え、摺動部材として用いた場合に欠けが生ずる等の問題があった。
【0009】また、セラミック粉体をそのままマトリックス中に添加した場合には、マトリックスの樹脂またはピッチと比重が異なるため均一に添加することは困難であった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、従来のセラミックを添加した短繊維強化C/Cコンポジットの製造法よりも、セラミック粒子の分散性に優れ、且つ短期間にセラミック添加C/Cコンポジットを容易に得ることができる製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は、原料ピッチをその軟化点温度以上でセラミック粉と混合し、前記混合物を冷却した後に粉砕したマトリックス原料と、水等の液媒中で短繊維状炭素繊維とを均一混合させて短繊維強化C/Cコンポジット前駆体を用意し、該前駆体を不活性雰囲気中で400〜1200℃に拘束加熱して焼成し賦形をした後、さらに真空中または不活性雰囲気中、セラミック粉の分解温度以下で、50kg/cm2以上の条件下に加熱・加圧処理を施すことを特徴とする短繊維強化C/Cコンポジットの製造方法である。
【0012】以下に本発明の内容を製造工程に沿ってさらに詳細に説明する。
【0013】(1)本発明ではまず原料となるピッチをその軟化点温度以上でセラミック粉と混合してセラミックス添加ピッチを得る。該ピッチを冷却した後、約20μm程度の平均粒径に粉砕する。
【0014】原料ピッチに添加するセラミック粉としては、例えばSiC、BN等の炭化物及び窒化物を用いることができる。また、ZrB2のようなほう化物も用いることができる。
【0015】また、用いるセラミック粉体の粒径は、粉砕後の粒径(約20μm程度)よりも小さければいずれも適用可能であるが、セラミック粉を均一分散するためには0.5〜7μm程度の平均粒径が好ましい。
【0016】これらセラミック粉はC/Cコンポジット中では樹脂等から生成されるマトリックス炭素よりも硬い粉として存在する。また、セラミック粉体は、その分解温度以下では、熱的に安定である。
【0017】そのため、製造されるC/Cコンポジット素材内の気孔が著しく低下できると共に、セラミック粉の硬さが高いため、セラミック添加C/Cコンポジットの硬さはセラミックスを添加しないC/Cコンポジットと較べ著しく高いという特徴を有する。
【0018】従って、C/Cコンポジット中マトリックス炭素よりも硬いセラミックスであれば、何れのセラミック粉も適用ができ、C/Cコンポジット素材の硬さを高くすることが可能である。
【0019】(2)その後、1〜25mmの短繊維状の炭素繊維と前記粉砕ピッチとを水等の液媒中で混合攪拌してスラリー状とする。
【0020】該スラリーを金網等に保持しつつ、金網背面から真空ポンプ等で吸引濾過し、ピッチ類及び炭素繊維を均一分散させたC/Cコンポジットの前駆体を製造する。
【0021】この前駆体は、短繊維状の炭素繊維が絡み合っているため嵩高く、実用のためにはプレス等を用いて拘束加熱し、形状を賦与すると共に緻密化する必要がある。
【0022】(3)該前駆体数枚を製品厚みに応じて積層した後、プレス又は金属板等で拘束保持し、不活性雰囲気中でピッチ類の溶融温度以上且つ1200℃以下で焼成し、賦形を行う。
【0023】賦形化の段階では、該前駆体は炭素繊維の絡み合いが大きいため嵩高く、しかもピッチ類の溶融温度未満では結合剤となるピッチ類が溶融しないために賦形が困難となる。
【0024】そこで、繊維の絡み合いに起因する低比重前駆体をプレス等を用いて機械的に圧縮する事により緻密化すると共に、ピッチ類の溶融温度以上に加熱する事により炭素繊維間をピッチにより接着することで賦形が可能となる。
【0025】一方、1200℃超で拘束保持しながら焼成した場合にはピッチ類中の揮発分の揮発が充分に行われ、それ以下の焼成温度での加熱・加圧と大きな差異が認められなかった。温度範囲で加熱・加圧することにより形状保持を容易に行なうことができる。
【0026】即ち、該前駆体からセラミック添加C/Cコンポジットを賦形するための温度としては、ピッチ類の結合剤としての強度が発現される400℃以上が好ましい。
【0027】また、400℃未満での焼成では、該仮焼体に含まれるピッチ類中の揮発分が多いため、後工程となる高温加熱・加圧を実施する際、該装置中に揮発分を大量に導入するため経済的な炉操作が困難になってしまうという欠点もある。
【0028】(4)その後、上記賦形体は炭素繊維含有率が低いのに加え、気孔率が高く実用上の嵩密度を得るのに充分ではないため、その後セラミック粉の分解温度以下で、50kg/cm2以上の条件下で、真空中または窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中において加熱・加圧することによって短期間に高密度の短繊維強化C/Cコンポジットが得られる。
【0029】C/Cコンポジット前駆体の酸化による劣化を防止する点から、この加熱・加圧は真空中または不活性雰囲気下で行うことが必要である。
【0030】また、必要に応じ高温での加熱・加圧後に、ピッチ類または熱硬化性樹脂等を含浸した後に1000℃程度まで焼成することによってより一層の嵩密度の向上を図ることができる。
【0031】この高温での加熱・加圧処理を添加したセラミック粉体の分解温度超で行った場合には、優先的にセラミック粉体が昇華消失し、高密度化の達成は困難である。
【0032】例えば、セラミックスがSiCの場合には、1700℃超での高温加熱・加圧でSiCの分解が促進された。また、BNでは2000℃超の温度では分解が生ずる。
【0033】このように添加したセラミックスの分解温度を越えて加熱した場合には、セラミックスを添加したC/Cコンポジットの緻密化は困難であった。
【0034】なお、50kg/cm2未満の条件では緻密化が促進されず、高密度のセラミック添加C/Cコンポジットは得られない。
【0035】好ましくは100kg/cm2の条件でより高い嵩密度のC/Cコンポジットが得られる。
【0036】
【実施例】次いで、本発明を実施例により比較例と対比しながら具体的に説明する。
【0037】
【実施例1】原料のピッチ(軟化点240℃)9部及び平均粒径5μmのSiC8部(重量比)を、該ピッチの軟化温度以上である300℃で2軸混練機を用いて1時間混練し、ピッチとSiCを十分に混合均一化した。
【0038】冷却後、この混合物を粉砕機を用いて平均粒径20μmに粉砕し、セラミック添加ピッチの微粉体を得た。
【0039】短繊維状炭素繊維(平均長さ12mm)及び前記の微粉体を、それぞれ重量比1:0.9の割合で水中で均一分散し、セラミック添加C/Cコンポジットの前駆体を得た。この前駆体をプレス用の金型に挿入した後、プレス圧力100kg/cm2を印加しながら室温から600℃まで窒素流れ中50℃/分の条件で加熱して焼成し、賦形を行った。
【0040】その後、より一層の緻密化のため、ホットプレスを用いて、窒素雰囲気中、100kg/cm2の加圧下で室温から1500℃まで10℃/分の昇温速度で加熱した。
【0041】この結果、各条件下に於ける素材の嵩比重、気孔率他は第1表のように向上した。
【0042】
【表1】


【0043】尚、■及び■の処理は、2日で完了することができた。
【0044】この製品のSiC量を定量分析した結果、製品中には12体積%のSiCが含まれている事が判明し、添加したSiCが均一にほぼ100%の歩留で製品中に残存している事が明かとなった。
【0045】
【実施例2】実施例1の前駆体を金属板(鉄板)で拘束した後、600℃まで実施例1の昇温条件及び雰囲気で加熱炉中で加熱した。引続き、実施例1の条件で緻密化を行った。
【0046】
【表2】


【0047】この結果、各条件下に於ける素材の嵩比重は第2表のように向上した。
【0048】この製品のSiC量を定量分析した結果、製品中には12体積%のSiCが含まれている事が判明し、添加したSiCが均一にほぼ100%の歩留で製品中に残存している事が明かとなった。
【0049】
【比較例1】賦形後のセラミックスの分解温度以下でのホットプレスの効果を確認するために下記のプロセスでセラミック添加C/Cコンポジットを試作した。
【0050】実施例1の前駆体を用い、プレス用金型中で実施例1と同様に賦形を行った。その後、直ちにピッチ類を含浸し、炭化する工程を4回繰り返し、緻密化を行った。その結果、第3表の短繊維強化C/Cコンポジットが得られた。
【0051】
【表3】


【0052】この様に、セラミックスの分解温度以下でのホットプレスを省略した場合には、C/Cコンポジット中の繊維含有率が低く、曲げ強度が実施例1よりも低かった。また、試作に要する期間は実施例1に比べ著しく長くなるという欠点もあった。
【0053】
【比較例2】セラミック添加の効果を把握するため、実施例1のセラミック粉を用いない前駆体を作製し、実施例1と同様な手法で緻密化を行った。
【0054】この結果、各条件下に於ける素材の嵩比重、気孔率他は第4表のように向上した。
【0055】
【表4】


【0056】この様に、セラミックスが添加されていない場合には硬さが実施例1のセラミック添加C/Cコンポジットと較べ、著しく低いということが判明した。
【0057】実施例及び比較例を比較することによって、本法を用いて作成した短繊維強化C/Cコンポジットは嵩密度の向上が著しく大きいのに加え、所要期間も大幅に短縮できることが明らかである。
【0058】実施例1で試作した短繊維強化C/Cコンポジットのブレーキ材としての評価を行った結果、セラミック粉の添加により製品は高い硬度を有するため、比較例2よりも摩耗が著しく少なくなることが判明した。
【0059】また、実施例1で試作したセラミック添加C/Cコンポジットを、相手材として高硬度である鋳鉄、コンクリートと摩耗試験を行った結果、比較例2の素材よりも著しく摩耗が少なくなることも判明した。
【0060】これは、セラミック添加による硬さの向上の効果が現れた結果であり、従来C/Cコンポジットの硬さが低いことにより適用が困難であった高硬度材を相手材とする摺動部材にも適用可能であることを示している。
【0061】
【発明の効果】本法では通常のプレスまたは炭化炉及び高温加熱加圧装置を用い、セラミックスを添加した短繊維強化C/Cコンポジット前駆体から、短期間で嵩密度の高いC/Cコンポジットを得る事ができた。更に、セラミックスを添加することにより著しく硬さの高いC/Cコンポジットが得られた。
【0062】この製造法で得た短繊維強化C/Cコンポジットをブレーキ材料として評価した結果、著しく摩耗が少ないという利点を合わせ持つことも判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 原料ピッチをその軟化点温度以上でセラミック粉と混合し、前記混合物を冷却した後に粉砕したマトリックス原料を、液媒中で短繊維状炭素繊維と均一混合させて短繊維強化C/Cコンポジット前駆体とし、前記前駆体を不活性雰囲気中で400〜1200℃に拘束加熱して焼成し賦形した後、さらに真空中または不活性雰囲気中、セラミック粉の分解温度以下で、50kg/cm2以上の条件下に加熱・加圧処理を施すことを特徴とする短繊維強化C/Cコンポジットの製造法。