説明

短金属繊維を含む層状フィルター構造

本発明は、層状フィルター構造に関する。前記フィルター要素は、多孔性金属層を含む第1層と、焼結された短金属繊維の自立層を含む第2層とを備える。第1層と第2層は一緒に焼結される。この層状フィルター構造は、特に、例えば、液体又は気体の濾過用の表面濾過媒体として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状フィルター構造及びそのような層状フィルター構造を製造する方法に関する。本発明は、さらに、層状フィルター構造の表面フィルターとしての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
表面濾過において、粒子は、フィルター薄膜の表面に捕獲される。捕獲された粒子の寸法は、フィルター薄膜の表面又はその近傍における微細孔によって、決定される。フィルター媒体の素地内へのダストの移行は殆ど又は全くない。
【0003】
金属粉末粒子のような粉末粒子の上層を備える表面フィルターが、当技術分野において知られている。金属粒子を含む上層は、低開口面積によって特徴付けられ、その結果として、このような上層は、容易に粒子を捕獲し得る。しかし、粉末粒子の上層を有する表面フィルターは、多孔率が制限され、従って、高い圧力降下が生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、先行技術の欠点を回避する層状フィルター要素を提供することにある。 他の目的は、第1層の多孔率と第2層の多孔率が、互いに独立して、広い範囲内において選択され得る層状フィルター要素を提供することにある。さらに他の目的は、例えば、逆流置換又は逆流洗浄によって、容易に、かつ繰り返して清浄化することができ、従って、高い耐久性と長い寿命を有する化学的に不活性なフィルター要素を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1態様により、層状フィルター要素が提供される。この層状フィルター要素は、
−多孔性金属層を含む第1層と、
−焼結された短金属繊維の自立層を含む第2層と
を備える。第1層と第2層は、一緒に焼結される。
【0006】
第1層は、第2層を支持し、第2層は、分離層又は濾過層として機能する。
【0007】
この発明の目的において、「自立層」は、それ自体を支持している層として定義される。これは、第2層がこのような自立層として取り扱われ、例えば、このような自立層として運ばれ得ることを意味している。
【0008】
好ましくは、第1層は焼結される。
【0009】
第1層は、金属粉末粒子、短金属繊維、長金属繊維、又はその組合せを含むとよい。この発明目的において、短繊維は、30から100の範囲内にある直径に対する長さの比率(L/d)を有する繊維として定義される。短繊維の等価直径は、好ましくは、1μmから20μmの間である。等価直径という用語は、金属繊維の断面の表面と同じ表面を有する仮想円の直径を意味する。長繊維は、100よりも大きい直径に対する長さの比率(L/d)を有する繊維として定義される。
【0010】
好ましい実施形態において、第1層は、長金属繊維を含む少なくとも1つの不織金属繊維フリースを含む。長金属繊維は、好ましくは、0.5μmから100μmまでの範囲の等価直径を有する。さらに好ましくは、繊維の等価直径は、0.5μmから50μmの間、例えば、1μmから25μmの間にあり、例えば、2μm、4μm、8μm、又は12μmである。金属繊維は、当技術分野において知られているどのような技術によっても得ることができ、例えば、束引抜(bundled drawing)技術又は箔切削技術によって得ることができる。
【0011】
好ましくは、不織金属繊維フリースが焼結される。可能であれば、不織金属繊維フリースは、例えば、冷間静水圧プレス加工によって成形される。
【0012】
第1層の多孔率は、好ましくは、50%よりも大きく、さらに好ましくは、第1層の多孔率は、60%よりも大きく、例えば、70%から85%の間である。
【0013】
第1層は、1つの金属繊維フリースのみを含むか、又は異なる金属繊維フリースの積層体を構成してもよく、各フリースは特定の等価直径を有する繊維、繊維密度、及び層の重量を含む。層の重量は、g/m2の単位で表され、以後、「比層重量」と呼ぶ。第1層が種々の金属繊維フリースを含む場合、この第1層は、好ましくは、焼結される。あるいは、第1層の部分をなす各金属繊維フリースは、予め、個別に焼結される。
【0014】
他の実施形態において、第1層は、焼結された粉末粒子の多孔性金属層を含む。金属粉末粒子として、粉砕された粉末粒子又は噴霧された粉末粒子のような、どのような公知の金属粉末粒子も用いることができる。規則的な球形状を有する金属粉末粒子、又は不規則な形状を有する金属粉末粒子のいずれも、好適である。
【0015】
さらに他の実施形態において、多孔性層は、短金属繊維を含む。第1層は、金網のような補強構造によって、支持されるとよい。
【0016】
第2層は、一緒に焼結される短金属繊維の自立層を含む。好ましくは、第2層は、実質的に平坦な層を含む。
【0017】
「実質的に平坦」という用語は、第2層の厚みと等しい長さにわたって測定されるRt値が、第2層の短金属繊維の等価直径の3倍よりも小さいことを意味している。さらに好ましくは、Rt値は、第2層の短金属繊維の等価直径よりも小さく、例えば、第2層の短金属繊維の等価直径の50%よりも小さい。
【0018】
Rtは、最大粗度深さ、すなわち、評価長さ、ここでは、第2層の厚みに等しい長さ内における表面形状の最も高い点と最も低い点との間の距離として定義される。
【0019】
好ましくは、第2層は、三次元的に配向された短金属繊維を含む。
【0020】
短金属繊維は、好ましくは、1μmから20μmの範囲内にある等価直径を有する。さらに好ましくは、その等価繊維直径は、1μmから10μmの間、例えば、2μmである。
【0021】
短金属繊維は、柱形状を有する繊維を含んでもよく、又はWO02/057035に記載されている繊維のような湾曲及び/又は絡んだ繊維を含んでもよい。
【0022】
第2層の短金属繊維は、多数の接触点を有し、その結果、大きい力を必要とせずに、容易に焼結され得る。
【0023】
短金属繊維間の微細孔は極めて小さいが、微細孔の数は多いので、第2層は高多孔率によって特徴付けられる。第2層の多孔率は、好ましくは、50%よりも大きく、さらに好ましくは、第2層の多孔率は、60%よりも大きく、例えば、80%から85%の間である。
【0024】
第2層は、短金属繊維に加えて、他の金属粒子を含んでもよく、例えば、短金属繊維又は金属粉末粒子又は短金属繊維と金属粉末粒子との組合せを含んでよい。第2層は、例えば、20%から80%までの短金属繊維と、20%から80%までの長金属繊維を含む。別の実施形態において、第2層は、20%から80%までの短金属繊維と、20%から80%までの金属粉末粒子を含む。x%の短金属繊維/長金属繊維は、第2層の全重量のx重量%が、短金属繊維/長金属繊維からなることを意味している。第2層の多孔率は、50%から85%までの範囲にあるとよい。
【0025】
短金属繊維は、当技術分野において知られているどのような技術によって、得られてもよい。金属繊維は、例えば、機械的に長金属繊維を短金属繊維に切断するか、又は長金属繊維を化学的な方法によって短く切断することによって、得ることができる。
【0026】
どのような種類の金属又は金属合金も、長金属繊維、短金属繊維又は金属粉末粒子のような金属粒子を得るのに用いられてもよい。金属粒子は、例えば、ステンレス鋼のような鋼から作製される。好ましいステンレス鋼合金は、AISI316L又はAISI347のようなAISI300又はAISI400系列合金、あるいは鉄、アルミニウム及びクロムを含む合金である。フェクラロイ(Fecralloy:登録商標名)として知られている、クロム、アルミニウム、及び/又はニッケル、及び0.05重量%から0.3重量%までのイットリウム、セリウム、ランタン、ハフニウム、又はチタンを含むステンレス鋼が用いられる。金属粒子は、ニッケル又はニッケル合金からも作製することができる。
【0027】
第1層と第2層は、異なる材料から作製されてもよい。しかし、第1層と第2層が同一の材料から作製されるのが好ましい。
【0028】
本発明によるフィルター要素は、どのような形状を有していてもよい。この要素は、平面フィルター要素であってもよいし、キャンドルフィルター又は管状フィルターのような円筒フィルター要素であってもよい。キャンドルフィルターは、一端が閉鎖された円筒チューブである。管状フィルターは、両端が開いた円筒チューブである。円筒フィルター要素は、長手方向の溶接継手を有していてもよいし、継目なしであってもよい。
【0029】
本発明による層状フィルター要素の大きな利点は、第1層の多孔率と第2層の多孔率が広い範囲で選択できる点にある。さらに、第1層の多孔率と第2層の多孔率は、互いに独立して、選択することができる。
【0030】
本発明による層状フィルター要素は、逆流置換又は逆流パルシング(back pulsing)によって、容易に清浄化することができる。
【0031】
本発明の第2態様により、層状フィルター要素を製造する方法が提供される。この方法は、
−多孔性金属層を含む第1層を設けるステップと、
−焼結された短金属繊維の自立層を含む第2層を設けるステップと、
−前記第1層と前記第2層を互いに接触させて、層状構造を形成するステップと、
−この層状構造を焼結するステップと
を備えている。
【0032】
本発明の第3態様により、層状フィルター要素の表面フィルターとしての使用が提供される。本発明による層状フィルター要素は、気体又は液体の濾過に好適である。
【0033】
層状フィルター要素は、例えば、電子部品用の製造ルームのようなクリーンルームにおける空気の濾過に極めて好適である。
【0034】
以下、添付の図面を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
図1を参照するに、本発明による層状フィルター要素10は、第1層12と第2層14とを備えている。第1層12は、長金属繊維の焼結された不織金属繊維フリースを含んでいる。第1層の金属繊維は、22μmの直径を有している。第1層の重量は、225g/m2である。第1層は、以下のようにして、製造される。鋼繊維が、束引抜技術によって、作製される。次いで、不織金属繊維フリースが、例えば、英国特許第1 190 844号に開示されているランダムフィーダ(random feeder)装置によって、生成される。次のステップにおいて、この不織金属繊維フリースは焼結される。
【0036】
第2層14は、一緒に焼結された三次元に配向された短金属繊維の自立層を含んでいる。第2層の短金属繊維は、2μmの直径を有している。第2層の重量は、60g/m2である。第2層は、0.03mmの厚みまで、緻密化される。第2層は、75%の多孔率を有している。
【0037】
第2層は、例えば、短金属繊維を三次元の型又は平面に注ぎ、次いで、短金属繊維を焼結することによって、形成される。
【0038】
短金属繊維は、まず、カーディング作業によって、繊維の束の形態にある金属繊維を、ある程度まで、糸又は布地構造、又はさらに短繊維の形態に個別化することによって、得られる。これらの多かれ少なかれ個別化された繊維は、微粉砕装置に運ばれる。この装置において、各繊維は、高速回転ナイフによって、短金属繊維に切断される。ある刃厚みを有するこれらのナイフの刃先は、常に、半径方向において、繊維と接触又は「衝突」する。繊維は、機械的に塑性変形され、絡まれ、又は可能であれば、より短い長さの繊維に破断される。遠心力によって、このようにして得られた短金属繊維は、微粉砕装置の外壁に対して外方に吹き飛ばされる。この外壁は、明確に画成された開口を有する篩を備えている。これらの開口によって、ある長さを有する短金属繊維は、この篩を通過し得るが、長すぎる短金属繊維は、微粉砕装置内に滞留し、再びナイフの刃先と衝突し、もしそれらが十分に短いと、篩を通過する。
【0039】
第2層は、第1層の上に置かれる。このようにして得られた構造は、次のステップにおいて焼結され、層状フィルター構造を得る。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明による層状フィルター要素の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状フィルター構造であって、前記フィルター要素は、
−多孔性金属層を含む第1層と、
−焼結された短金属繊維の自立層を含む第2層と
を備え、
前記第1層と前記第2層は一緒に焼結される、層状フィルター構造。
【請求項2】
前記第2層は、前記第2層の短金属繊維の等価直径の3倍よりも小さいRt値によって定義される最大粗度深さを有し、前記Rt値は、前記第2層の厚みと等しい長さにわたって測定される、請求項1に記載の層状フィルター構造。
【請求項3】
前記第2層の前記短金属繊維は、三次元に配向される、請求項1又は2に記載の層状フィルター構造。
【請求項4】
前記第1層は、焼結される、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の層状フィルター構造。
【請求項5】
前記第1層は、長金属繊維を含む不織金属繊維フリースを含む、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の層状フィルター構造。
【請求項6】
前記第1層は、金属粉末粒子を含む、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の層状フィルター構造。
【請求項7】
前記第1層は、短金属繊維を含む、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の層状フィルター構造。
【請求項8】
前記第1層は、補強構造によって支持される、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の層状フィルター構造。
【請求項9】
前記第2層は、長金属繊維及び/又は金属粉末粒子をさらに含む、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の層状フィルター構造。
【請求項10】
前記第2層は、20%から80%までの短金属繊維及び/又は金属粉末粒子と、20%から80%までの長金属繊維とを含む、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の層状フィルター構造。
【請求項11】
前記第1層は、50%から85%までの範囲にある多孔率を有する、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の層状フィルター構造。
【請求項12】
前記第2層は、50%から85%までの範囲にある多孔率を有する、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の層状フィルター構造。
【請求項13】
層状フィルター構造を製造する方法であって、前記方法は、
−多孔性金属層を含む第1層を設けるステップと、
−一緒に焼結された短金属繊維の自立層を含む第2層を設けるステップと、
−前記第1層と前記第2層を互いに接触させて、層状構造を形成するステップと、
−前記層状構造を焼結するステップと
を含む、方法。
【請求項14】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の層状フィルター構造の表面濾過媒体としての使用。
【請求項15】
液体又は気体の濾過用である、請求項14に記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2006−502849(P2006−502849A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−544298(P2004−544298)
【出願日】平成15年10月6日(2003.10.6)
【国際出願番号】PCT/EP2003/050691
【国際公開番号】WO2004/035174
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(592014377)ナムローゼ・フェンノートシャップ・ベーカート・ソシエテ・アノニム (81)
【氏名又は名称原語表記】N V BEKAERT SOCIETE ANONYME
【Fターム(参考)】