説明

矯味、矯臭物質の付着した粒状物の製造方法

【課題】 不快な風味を呈する粒状の医薬品や食品の風味を改善するために、矯味物質及や矯臭物質を該医薬品や食品類の粒子表面に付着させるための方法を提供する。
【解決手段】 低融点の矯味・矯臭物質粒子と、不快風味を呈する粒状物との混合物を流動状態に維持しつつ、該矯味・矯臭物質の融点以上に流動層の温度を上昇させ、該矯味・矯臭物質粒子の少なくとも一部を融解させて前記粒状物表面に付着させ、しかる後、該粒状物の温度を該矯味・矯臭物質の融点未満の温度に冷却することを特徴とする、矯味、矯臭物質の付着した粒状物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、不快な風味を呈する粒状の医薬品や食品の風味を改善するために、矯味物質及や矯臭物質を該医薬品や食品類の粒子表面に付着させるための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】医薬品や食品としての錠剤、顆粒、散剤、丸剤、トローチ剤等(以下、これらを総称して、「粒状物」とも称する。)の味、臭いなどの風味の改善には、従来から種々の矯味物質、矯臭物質が用いられている。代表的な矯味、矯臭物質としてはl−メントールが挙げられる。これらの矯味、矯臭物質は、不快な臭い、味、風味を呈する粒状の医薬品や栄養食品の臭い、味、風味等をマスキングして経口摂取し易くするために種々の状態で粒状物に添加されているが、最も効果的なマスキング方法は、該粒状物の表面を矯味物質、矯臭物質で被覆する方法である。
【0003】このように、粒状物の表面を矯味物質、矯臭物質で被覆する方法としては、通常、矯味物質、矯臭物質を有機溶媒、例えばエタノールに溶解した後、その溶解液を粒状物表面に噴霧して表面被覆するのが一般的であった。溶媒として有機溶媒を用いるのは、これらの矯味剤が水に難溶なためである。しかし、有機溶媒を使用する被覆方法の場合、残留溶媒の問題といった製品の安全性の問題や、その被覆工程において作業者が有機溶媒を吸引することによる健康面への悪影響の問題、有機溶媒の価格や環境対策のための使用溶媒の回収費用などのコスト面の問題等があった。
【0004】特許第3166202号公報には、粉体に低融点物質を混合分散し、その混合物を加熱雰囲気中に噴射した後に冷却させ、コーティング物を製造する方法が開示されている。この方法では、粉体そのものを噴射する装置が必要となり、通常の製剤製造工程に導入することは容易ではない。特開平10−203965号公報には、親水性の芯物質を被覆物質の固化温度以下の温度で混合しながら、加熱溶融した被覆物質を添加しつつ固化させて被覆物質層を形成させる被覆製剤の製造方法が開示されている。この方法によれば、被覆前に被覆物質のみを別装置中で溶融する必要があり、溶融装置、溶融物の噴射ノズル等に特別な機器を必要とし、噴射装置の管理、洗浄に多大の労力、費用を要するなどの問題を有している。
【0005】以上のように、低融点物質を無溶媒でコーティングする従来の方法には、特別な機器、装置を必要とするなどの問題があり、未だ安価で、かつ効果的な被覆方法は確立されていないのが現状である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、有機溶媒を用いず、特別な機器、装置を必要とすることなく、一般的な加熱機能を備えた流動化装置を使用することによって、不快な風味を呈する医薬用又は食品用の粒状物の表面に矯味、矯臭剤を付着させることにより、該粒状物の不快な味、臭い、風味等をマスキングする方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、不快な味、臭いなどの風味を呈する医薬用、食品用の粒状物の表面に、有機溶媒を用いない方法によって矯味物質、矯臭物質を融解付着させて、粒状物の不快な味、臭い、風味をマスキングする方法に関するものであり、以下の各発明を包含する。
【0008】(1)低融点の矯味・矯臭物質粒子と、不快風味を呈する粒状物との混合物を流動状態に維持しつつ、該矯味・矯臭物質の融点以上に流動層の温度を上昇させ、該矯味・矯臭物質粒子の少なくとも一部を融解させて前記粒状物表面に付着させ、しかる後、該粒状物の温度を該矯味・矯臭物質の融点未満の温度に冷却することを特徴とする、矯味、矯臭物質の付着した粒状物の製造方法。
【0009】(2)低融点の矯味・矯臭物質の融点が60℃以下である(1)項記載の矯味、矯臭物質の付着した粒状物の製造方法。
【0010】(3)低融点の矯味、矯臭物質がl−メントール又はdl−メントールである(1)項又は(2)項に記載の矯味、矯臭物質の付着した粒状物の製造方法。
【0011】(4)前記不快風味を呈する粒状物が顆粒剤、錠剤、散剤、丸剤及びトローチ剤から選ばれる1種である(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載の矯味、矯臭物質の付着した粒状物の製造方法。
【0012】(5)不快風味を呈する粒状物が、イソロイシン、ロイシン及びバリンの3種のアミノ酸のみを有効成分として含有する医薬用顆粒剤であり、低融点の矯味・矯臭物質粒子がl−メントール粒子である(1)項〜(4)項のいずれか1項に記載の矯味、矯臭物質の付着した粒状物の製造方法。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明の矯味、矯臭物質を不快風味を呈する医薬品用又は食品用の粒状物へ付着させてマスキングする方法において、マスキング対象とされる粒状物の形状に特に制限はなく、通常の流動化装置において流動状態を維持できる粒状物であれば、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、トローチ剤などの形状のものであることができる。
【0014】また、本発明がマスキング対象とする粒状物に含まれる不快な味、臭い、風味を呈する成分の種類にも特に制限はなく、例えばアミノ酸を有効成分として含有する顆粒剤を示すことができる。アミノ酸の中でも、分岐鎖アミノ酸であるイソロイシン、ロイシン及びバリンを有効成分とする医薬用顆粒剤は、特にイソロイシンとロイシンに由来する苦味、特有の臭いのためにその服用性に問題があることから、本発明の方法の対象粒状物としては、該3種の分岐鎖アミノ酸を含有する医薬用顆粒剤などが特に適している。
【0015】本発明の方法の対象粒状物の粒度は、通常の流動化層値において容易に流動状態を維持できる限り、特に制限はなく、一般的には100〜2000μmであり、特に200〜1700μm程度の粒度が好ましい。
【0016】本発明の方法において使用することができる矯味物質、矯臭物質は、低融点であることが必要であり、特に60℃を越えない融点を有する矯味物質、矯臭物質を使用することが有利である。矯味物質、矯臭物質の融点が高くなると、流動層全体にわたって均一な高温状態を維持しつつ、矯味物質、矯臭物質粒子の少なくとも一部分を融解させた状態で芯物質表面に均一に速やかに付着させることが困難となるし、粘性の強い矯味物質、矯臭物質の融解物を介して粒状物同士が付着して大粒子化するという弊害もでてくる。
【0017】粒状物表面に付着させて粒状物の不快な風味をマスキングするための矯味・矯臭物質としては、粒状物が前記のイソロイシン、ロイシン及びバリンからなる3種の分岐鎖アミノ酸を含有する顆粒剤である場合を例にとると、l−メントールやdl−メントールが使用できる。l‐メントール(融点:42.5℃)やdl−メントール(融点:27〜32℃)は常温固体で、通常の流動化装置において、流動化層全体を均一な温度に容易にコントロールできる温度で融解し、個々の粒子の一部又は全部が融解した低粘性の融解物として徐々に粒状物の表面に付着することから、特に好適な矯味物質、矯臭物質である。
【0018】矯味物質、矯臭物質粒子の粒度についても、通常の流動化装置において容易に流動状態を維持できる限り、特に制限はないが、一般的には100〜2000μmであり、200〜1700μm程度の粒度がより好ましく、さらには、マスキング対象である粒状物と同程度の粒度であることが特に好ましい。
【0019】本発明の矯味物質、矯臭物質による粒状物の不快風味のマスキングに使用される流動化装置は、本発明の目的が達成できるものである限り特に制限はない。通常の乾燥、造粒、コーティングなどの目的に使用される流動装置の中から加熱能力のある流動装置が適宜採用される。例えば、フロイント産業(株)製の流動乾燥装置「フロードライヤー」、フロイント産業(株)製の流動層造粒コーティング装置「フローコーター」、(株)パウレック製の「グラッドGPCG」、(株)ダルトン製「マルメライザー」、(株)菊水製作所製「マルチプロセッサー」などが使用できる流動化装置として挙げられる。
【0020】
【実施例】以下、実施例にしたがって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0021】実施例1流動乾燥装置〔フロードライヤーNFOD−120型 フロイント産業(株)社製〕にイソロイシン、ロイシン及びバリンに結合剤としてヒドロキシプロピルセルロースを加えて、押出し造粒法によって造粒した顆粒120kg(粒度300〜1400μm)を入れて、温度80℃の流動化用空気を吹き込みながら流動層を形成して顆粒の乾燥を行った。この乾燥顆粒を整粒して粒度500〜1000μmに調整した後、流動造粒コーティング装置〔グラッドGPCG−120型、(株)パウレック社製〕に入れ、白糖の水溶液のスプレーコーティングを実施した。コーティング終了後、加熱を止め、流動状態を維持しながら、流動層の温度をl−メントールの融点未満である40℃以下となるまで冷却した。
【0022】別に整粒機〔コーミル197S、(株)パウレック社製〕にて300〜1700μmに粗粉砕したl−メントール粒子0.3kgを、前記流動造粒コーティング装置のサンプル孔より流動層中に吸引供給し、給気温度85℃で再び流動層を加熱し、流動層からの排気温度が50℃となったところで加熱を停止した。流動停止後冷却し、顆粒を取り出し、篩分けした。12〜48メッシュ分(300〜1400μm)をコンテナ内で均一混合した。混合顆粒からサンプルを取り出し(n=7)、l−メントール濃度を定量した結果、0.05〜0.07質量%の範囲で均一にl−メントールが前記造粒顆粒表面に付着していることが確認された。
【0023】この顆粒は、口中に含んだ際にもl−メントールの清涼感が強く、主にイソロイシンとロイシンに起因する苦味や、不快臭が効果的にマスキングされているものであった。
【0024】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明の方法によれば、不快な臭い、味、風味を呈する粒状物の表面に、少なくとも一部が融解している状態の低融点矯味、矯臭剤粒子を付着させる方法を採用することにより、有機溶媒を使用する被覆方法に比べて、作業者の安全性改善、環境への負荷低減、製造コストの低減などの付加的効果を伴って、医薬用又は食品用の粒状物における不快な臭い、味、風味等を効果的にマスキングすることが可能となったものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 低融点の矯味・矯臭物質粒子と、不快風味を呈する粒状物との混合物を流動状態に維持しつつ、該矯味・矯臭物質の融点以上に流動層の温度を上昇させ、該矯味・矯臭物質粒子の少なくとも一部を融解させて前記粒状物表面に付着させ、しかる後、該粒状物の温度を該矯味・矯臭物質の融点未満の温度に冷却することを特徴とする、矯味、矯臭物質の付着した粒状物の製造方法。
【請求項2】 低融点の矯味・矯臭物質の融点が60℃以下である請求項1記載の矯味、矯臭物質の付着した粒状物の製造方法。
【請求項3】 低融点の矯味、矯臭物質がメントールである請求項1又は2に記載の矯味、矯臭物質の付着した粒状物の製造方法。
【請求項4】 前記不快風味を呈する粒状物が顆粒剤、錠剤、散剤、丸剤及びトローチ剤から選ばれる1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の矯味、矯臭物質の付着した粒状物の製造方法。
【請求項5】 不快風味を呈する粒状物が、イソロイシン、ロイシン及びバリンの3種のアミノ酸のみを有効成分として含有する医薬用顆粒剤であり、低融点の矯味・矯臭物質粒子がl−メントール粒子である請求項1〜4のいずれか1項に記載の矯味、矯臭物質の付着した粒状物の製造方法。

【公開番号】特開2003−81813(P2003−81813A)
【公開日】平成15年3月19日(2003.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−275109(P2001−275109)
【出願日】平成13年9月11日(2001.9.11)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】