説明

石の投入方法および石投入による海底マウンドの形成方法

【課題】所定形状の海底マウンドを効率的に形成できるようにした石の投入方法および石投入による海底マウンドの形成方法を提供する。
【解決手段】作業船1に積載した石Rを目標海域で投入する1サイクルを繰り返して所定形状の海底マウンドMを形成する際に、1度目から所定回数目までの各1サイクルでは、船倉2の底部3、3の開口を全開状態で石Rを投入して、所定範囲に石Rを拡散させて基礎部分M1を迅速に形成し、それ以降の各1サイクルでは、一度設定した底部3、3の開口幅Wを所定時間維持して石Rを投入する投入工程を、一度の投入工程ごとに順に開口幅Wを大きくして繰り返し行ない、既に形成した基礎部分M1の上に石Rを迅速に堆積させて山状部分M2を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石の投入方法および石投入による海底マウンドの形成方法に関し、さらに詳しくは、所定形状の海底マウンドを効率的に形成できるようにした石の投入方法および石投入による海底マウンドの形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、海底に人工的なマウンドを設置して栄養に富んだ深層水を涌昇させて、その海域にプランクトン等を繁殖させることにより、様々な魚介類が集まる良質な漁場を形成する計画がある。このような人工的な海底マウンドを形成するには、船倉の底部が開閉式の作業船(例えば、特許文献1参照)にブロックを積載して目標海域まで運搬し、その目標海域で船倉の底部を開口してブロックを海底に投入するようにしていた。
【0003】
ここで、ブロックに替えて石を用いるようにすれば、入手が容易になるとともにコストダウンを図ることができるが、船倉の底部を全開にして石を投入すると、積載した石の投入は短時間で完了するものの、投入された石は広範囲に拡散するため、山状に盛り上がるように堆積させることが困難であった。そのため、所定形状の海底マウンドを形成するには、石を投入する回数を多くしなければならないなど、むしろ長い時間が必要となり効率的に海底マウンドを形成することができないという問題があった。
【特許文献1】特開2006−131175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、所定形状の海底マウンドを効率的に形成できるようにした石の投入方法および石投入による海底マウンドの形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本発明の石の投入方法は、船倉の底部が開閉する作業船に石を積載して目標海域まで運搬し、該目標海域で船倉の底部を開口することにより、積載した石を海底に投入して所定形状の海底マウンドを形成する際の石の投入方法であって、前記目標海域で一度設定した船倉の底部の開口幅を所定時間維持して石を投入する投入工程を、一度の投入工程ごとに順に開口幅を大きくして繰り返し行なうことを特徴とするものである。
【0006】
ここで、前記それぞれの投入工程において、一度設定した船倉の底部の開口幅を維持する所定時間を、船倉に残っている石の上面の沈下速度に基づいて決定することもできる。また、前記船倉の底部の開口幅を大きくする操作を、該底部を開閉する際の回転中心となる支持軸まわりの底部の回転角度に基づいて行なうこともできる。
【0007】
本発明の石投入による海底マウンドの形成方法は、船倉の底部が開閉する作業船に石を積載して目標海域まで運搬し、該目標海域で船倉の底部を開口することにより、積載した石を海底に投入して所定形状の海底マウンドを形成する際の石の投入方法であって、前記目標海域で一度設定した船倉の底部の開口幅を所定時間維持して石を投入する投入工程を、一度の投入工程を行なうごとに順に開口幅を大きくして繰り返し行なうことを特徴とするものである。
【0008】
ここで、前記所定回数目以降の各1サイクルで行なうそれぞれの投入工程において、一度設定した船倉の底部の開口幅を維持する所定時間を、船倉に残っている石の上面の沈下速度に基づいて決定することもできる。また、前記所定回数目以降の各1サイクルで行なうそれぞれの投入工程において、前記船倉の底部の開口幅を大きくする操作を、該底部を開閉する際の回転中心となる支持軸まわりの底部の回転角度に基づいて行なうこともできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の石の投入方法によれば、船倉の底部が開閉する作業船に積載した石を海底に投入して所定形状の海底マウンドを形成する際に、目標海域で一度設定した船倉の底部の開口幅を所定時間維持して石を投入する投入工程を、一度の投入工程ごとに順に開口幅を大きくして繰り返し行なうので、海底に投入した石を広範囲に拡散させず迅速に山状に堆積させることができる。また、底部の開口幅が段階的に大きくなるので開口部に石が詰まることを防止することができる。これにより効率的に所定形状の海底マウンドを形成することが可能になる。
【0010】
本発明の石投入による海底マウンドの形成方法によれば、船倉の底部が開閉する作業船に積載した石を目標海域で投入する1サイクルを繰り返し行なって海底に所定形状のマウンドを形成する際に、1度目から所定回数目までの各1サイクルにおいては、船倉の底部の開口を全開状態にして石を海底に投入することにより、所定範囲に石を拡散させて海底マウンドの基礎部分を迅速に形成することができる。
【0011】
一方、所定回数目以降の各1サイクルにおいては、一度設定した船倉の底部の開口幅を所定時間維持して石を投入する投入工程を、一度の投入工程ごとに順に開口幅を大きくして繰り返し行なうことにより、既に形成した海底マウンドの基礎部分の上に海底に投入した石を広範囲に拡散させず迅速に山状に堆積させることができる。また、底部の開口幅が段階的に大きくなるので開口部に石が詰まることを防止することができる。これにより効率的に所定形状の海底マウンドを形成することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の石の投入方法および石投入による海底マウンドの形成方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1に例示するように、作業船1の船倉2の左右の底部3、3は支持軸4により軸支され、支持軸4を回転中心として左右に開閉するように構成されている。左右の底部3、3の開閉機構としては、例えば左右の底部3、3を横断するように油圧シリンダを設置し、油圧シリンダのシリンダロッドの伸縮動作により左右の底部3、3を開閉する。左右の底部3、3は所定長さの開口端部どうしで当接し、開口部は矩形となる。
【0014】
この作業船1の船倉2に石Rを積載し、海底マウンドMを形成する目標海域まで運搬して、目標海域において石Rの投入を行なう。所定形状の海底マウンドMを形成するには、海底マウンドMの規模によって異なるが作業船1による石Rの投入作業を多数回繰り返して行なう必要がある。
【0015】
底部3、3の開口を全開状態(開口幅Wが最大の状態)にして石Rを投入すると、積載した石Rの投入を短時間で完了することができるが、石Rの投入流量Qが大きくなり、投入した石Rが広範囲に拡散しやすくなるため、海底での堆積厚さが大きくなりにくい。図1で言えば、海底に拡散した石Rの最大拡がり幅Sが大きくなり、底部3、3の開口部の直下位置となる直下堆積厚さHが確保しにくくなる。
【0016】
一方で、底部3、3の開口幅Wが小さい場合には、石Rの投入流量Qが小さくなり、拡散する範囲が狭くなって海底での堆積厚さが大きくなり易くが、積載した石Rの投入完了までの時間が長くなる。また、底部3、3の開口部に石Rが詰まる、いわゆるブリッジが形成されて石Rの円滑な投入が妨げられることもある。
【0017】
そこで、本発明では作業船1により積載した石Rを目標海域で海底に投入する1サイクルを繰り返し行なうに際し、1度目から所定回数目までの各1サイクルにおいては、左右の底部3、3の開口を全開状態にして石Rの投入を行ない、石Rの投入時間を最小限にする。ここで、底部3、3の開口幅Wを当初から小さくして投入した石Rの海底での堆積厚さを大きくすると、順次投入する石Rによって堆積した石Rが不測の方向に崩れるなどの不具合が生じる。そのため、所定形状の海底マウンドMを形成するにはむしろ非効率となるが、上記のように海底マウンドMの基礎部分M1が形成されるまでは、なるべく所定の範囲内で投入した石Rを拡散させるとともに投入時間が短時間になるように作業を行なう。このように底部3、3の開口を全開状態にして石Rを投入する1サイクルの回数は、形成する海底マウンドMの規模や形状等に応じて決定する。
【0018】
次いで、所定回数目以降の各1サイクルにおいては、最初に左右の底部3、3の開口幅Wを小さく設定し、この設定した底部3、3の開口幅Wを所定時間維持して石Rを投入する投入工程を、一度の投入工程ごとに順に開口幅Wを大きくして繰り返し行なうようにする。この各1サイクルでの投入工程における左右の底部3、3の開口幅Wの経時変化を例示すると図2のようになる。最初に開口幅をW1に設定し、この開口幅W1の状態を所定時間(t1)維持し、順に開口幅Wを大きくして開口幅W2の状態を所定時間(t2)維持し、開口幅W3の状態を所定時間(t3)維持し、開口幅W4の状態を所定時間(t4)維持するように繰り返す底部3、3の開口操作を行なう。
【0019】
このように段階的に開口幅Wを大きくする操作を行なうことにより、既に形成した海底マウンドMの基礎部分M1の上に、海底に新たに投入した石Rを広範囲に拡散させることなく迅速に堆積させて山状部分M2を形成することができる。また、底部3、3の開口幅Wが段階的に大きくなるので、開口部に石Rが詰まることを防止することできる。
【0020】
以上のように、基礎部分M1と山状部分M2とを形成する際に、それぞれ異なる石Rの投入操作を行なうとともに、山状部分M2を形成する際には、投入した石Rが堆積し易く、かつ石Rが詰まらないように円滑に投入するので、効率的に所定形状の海底マウンドMを形成することが可能になる。
【0021】
この実施形態では、山状部分M2を形成する際に、開口幅Wを4段階で大きくしているが、形成する海底マウンドMの規模や形状等に応じて、開口幅Wを適度な段階数で大きくすることができる。
【0022】
一度設定した開口幅Wを維持する所定時間(t)、即ち、開口幅Wを広げるタイミングは、例えば、船倉2に残っている石Rの上面の沈下速度に基づいて決定する。石Rが開口部から円滑に投入されている状態であれば、船倉2の石Rの上面も円滑に沈下するが、開口部にブリッジが発生していれば、この沈下速度が遅くなる。そこで、この沈下速度がゼロあるいはゼロになる直前に開口幅Wを大きくするように開口操作を行なうことで、石Rを広範囲に拡散させることなく、かつ滞りなく石Rを投入することができる。
【0023】
この石Rの上面の沈下速度を把握し易くするために、船倉2の側壁面に高さ水準を示す高さ表示目盛りを設けておくとよい。
【0024】
また、各開口幅Wを維持する所定時間(t)は、すべて同じ所定時間(t)に設定することもでき、順次長くなるように設定することもでき、順次短くなるように設定することもできる。
【0025】
底部3、3の開口幅Wを大きくする操作は、支持軸4まわりの底部3、3の回転角度Aに基づいて行なうことができる。支持軸4から底部3、3の開口端部までの直線距離(回転半径)は既知であるので、支持軸4の周囲に回転角度Aを示す回転角度盤5等の回転角度表示手段を設けておけば、この回転角度表示手段の表示に基づいて底部3、3の開口幅Wを所定幅に広げることができる。
【0026】
また、山状部分M2を形成する際に、図2に例示したような段階的な開口操作を実施するために、予備実験等により適切な開口幅W、各開口幅Wを維持する所定時間(t)、開口幅Wを変化させる段階数を予め設定しておき、この予め設定した操作手順に従って開口操作を実施するようにしてもよい。
【0027】
石Rは、例えば重さが300kg〜2000kg程度であり、投入深さが深い程、重さの大きい石Rを用いることが好ましい。これにより、投入深さが深い場合でも投入した石Rの海底での拡散を小さくすることができる。
【実施例】
【0028】
図1に例示した作業船1の縮小モデル(船倉の長さ50cm、底部の全開開口幅49cm)を用いて長さ5m、幅0.6m、高さ1.2mの水槽において石Rを投入するモデル実験を行った。モデル実験は、投入高さを85cmとし、石の外径が約8.4mm、一度に投入する石Rの量を3000cmにすることを共通条件として、底部を閉口状態から全開状態にして投入に要した時間と、それぞれの投入の際に水底に堆積した石Rの最大拡がり幅Sを測定し、その結果を図3に示す。図3の横軸となる平均流量Qとは、それぞれの投入の際に、石の投入量(3000cm)を投入完了に要した時間で除した値である。図3の結果から、平均流量Qが大きくなるほど最大拡がり幅Sが大きくなり、平均流量Qを小さくすると、即ち、底部の開口幅が小さいと最大拡がり幅Sが小さくなって堆積厚さが確保し易くなることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明により石の投入を行なっている作業船を例示する断面図である。
【図2】本発明における船倉の底部の開口幅の経時変化を例示するグラフである。
【図3】モデル実験における投入した石の平均流量と堆積した石の最大拡がり幅との関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0030】
1 作業船
2 船倉
3 底部
4 支持軸
5 回転角度盤
R 石
M 海底マウンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船倉の底部が開閉する作業船に石を積載して目標海域まで運搬し、該目標海域で船倉の底部を開口することにより、積載した石を海底に投入して所定形状の海底マウンドを形成する際の石の投入方法であって、前記目標海域で一度設定した船倉の底部の開口幅を所定時間維持して石を投入する投入工程を、一度の投入工程ごとに順に開口幅を大きくして繰り返し行なう石の投入方法。
【請求項2】
前記それぞれの投入工程において、一度設定した船倉の底部の開口幅を維持する所定時間を、船倉に残っている石の上面の沈下速度に基づいて決定する請求項1に記載の石の投入方法。
【請求項3】
前記船倉の底部の開口幅を大きくする操作を、該底部を開閉する際の回転中心となる支持軸まわりの底部の回転角度に基づいて行なう請求項1または2に記載の石の投入方法。
【請求項4】
船倉の底部が開閉する作業船に石を積載して目標海域まで運搬し、該目標海域で船倉の底部を開口することにより、積載した石を海底に投入する1サイクルを繰り返し行なって海底に所定形状のマウンドを形成する石投入による海底マウンドの形成方法であって、前記1サイクルを繰り返し行なうに際し、1度目から所定回数目までの各1サイクルにおいては、船倉の底部の開口を全開状態にして石を海底に投入し、該所定回数目以降の各1サイクルにおいては、一度設定した船倉の底部の開口幅を所定時間維持して石を投入する投入工程を、一度の投入工程ごとに順に開口幅を大きくして繰り返し行なうようにした石投入による海底マウンドの形成方法。
【請求項5】
前記所定回数目以降の各1サイクルで行なうそれぞれの投入工程において、一度設定した船倉の底部の開口幅を維持する所定時間を、船倉に残っている石の上面の沈下速度に基づいて決定する請求項4に記載の石投入による海底マウンドの形成方法。
【請求項6】
前記所定回数目以降の各1サイクルで行なうそれぞれの投入工程において、前記船倉の底部の開口幅を大きくする操作を、該底部を開閉する際の回転中心となる支持軸まわりの底部の回転角度に基づいて行なう請求項4または5に記載の石投入による海底マウンドの形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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