説明

石油精製用汚れ防止剤及び石油精製プラントの汚れ防止方法

【課題】石油精製プロセス中で熱交換処理を行うことでプロセス油由来の汚れが生じる箇所、特に原油の油水分離を行うためのデソルターを通った後の加熱炉に入る前の予熱熱交換器や加熱炉において、優れた汚れ付着防止能を有する石油精製用汚れ付着防止剤及び石油精製プラントの汚れ防止方法を提供する。
【解決手段】アルケニルコハク酸ポリアルキレンポリイミドを汚れ防止成分として含有する石油精製用汚れ付着防止剤。また、この石油精製プラントの汚れ防止方法は、石油精製用汚れ付着防止剤をプロセス油中に添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油精製プラントの熱交換器や加熱炉に汚れが付着することを防止するための、石油精製用汚れ防止剤及び石油精製プラントの汚れ防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製プラントでは、蒸留工程、脱硫工程、接触分解工程、異性化工程等の種々の工程が行われており、それぞれの工程において加熱処理、冷却処理、分離処理が行われている。例えば、原油の蒸留工程では、予熱熱交換器や加熱炉で加熱された原油が蒸留塔に送られ、蒸留操作が行われる。この際、予熱熱交換器内や加熱炉内には汚れが付着する。汚れの成分のうち、無機成分は多くの場合シリカであり、この他各種金属塩等も含まれている。こうした無機成分の他、さらにアスファルテンと呼ばれる有機系高分子成分とが混合した形態で汚れとして付着する。これらの汚れ付着は、熱交換器や加熱炉の熱交換率の低下を引き起こし、さらには加熱炉での燃料使用量を増大させる結果となる。
【0003】
このような付着物質を除去するために、軽油等を装置や配管の内部に注入してプロセス油を系外に押し出して置換した後、高圧水洗浄等の物理的な洗浄により汚染物を除去している。しかし、このような方法では、多くの労力を要するとともに、熱交換器の運転を停止しなければならず、生産性を著しく低下させる。
【0004】
このため、従来より供給原料に汚れ防止剤を添加し、汚れの付着を防止することが提案されている。こうした石油精製用の汚れ防止剤としては、例えば、分子量の大きなモノカルボン酸(分子量600〜3000)とアルキレンポリアミンとのアミド縮合生成物(特許文献1)、アンモニア(特許文献2)、ポリアルキレンアミン(特許文献3)、ポリオキシアルキレンカルバメート(特許文献4)、2−メルカプトベンズイミダゾール等のベンズイミダゾール誘導体(特許文献5)、1価の高級脂肪酸とアルキルアルキレンジアミンとの反応物生成物(特許文献6)等が挙げられる。
【特許文献1】特公昭46−23504号公報
【特許文献2】特開昭54−691064号公報
【特許文献3】特開昭55−129490号公報
【特許文献4】特公昭46−23504号公報
【特許文献5】特開平3−115589号公報
【特許文献6】特開平6−33077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の汚れ防止剤では、原油などの供給原料に添加することにより、ある程度汚れの付着を防止することができるものの、その汚れ付着の防止効果は充分ではなかった。特に、原油の油水分離を行うためのデソルターを通った後、加熱炉に入る前の熱交換が行われる箇所や加熱炉においては、無機成分やアスファルテンの含有量が多いため汚れが付着しやすかった。このため、高圧水洗浄等の物理的な汚れ除去を行わなければならず、実用的な汚れ洗浄方法がなかった。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、石油精製プロセス中で熱交換処理を行うことでプロセス油由来の汚れが生じる箇所、特に原油の油水分離を行うためのデソルターを通った後の加熱炉に入る前の予熱熱交換器や加熱炉において、優れた汚れ付着防止能を有する石油精製用汚れ付着防止剤及び石油精製プラントの汚れ防止方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記従来の問題点を解決するため鋭意研究を行った結果、汚れ防止剤としてアルキル置換基やアルケニル置換基を有するコハク酸ポリアルキレンポリイミド化合物をプロセス油中に添加すれば、石油精製プロセス中で熱交換処理を行うことによってプロセス油に由来する汚れが生じる箇所(例えば、原油の油水分離を行うためのデソルターを通った後の加熱炉に入る前の予熱熱交換器や加熱炉内等)において、優れた汚れ付着防止能を有する優れた汚れ付着防止効果を奏することを発見し、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、第1発明の石油精製用汚れ防止剤は、下記一般式(1)の化合物及び/又は一般式(2)の化合物(式中のR1、R2及びR3は分子量300〜5000の分枝を有してもよいアルキル基又はアルケニル基を示し、式中のn及びmは0〜8の整数を示す)を汚れ防止成分として含有することを特徴とする。
【化1】

【0009】
上記両化合物において、置換基R1、R2及びR3として具体的にはポリエチレン基、ポリイソプロピル基、ポリイソプレン基、ポリブテン基、ポリイソブテン基、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基等が挙げられる。この中でも好ましいのはポリブテニル基及びポリイソブテニル基である。また、両化合物において、左右の端にある窒素原子間に挟まれた部分の構造として、具体的にはエチレンアミノ基、アミノエチルアミノ基、ジエチレンポリアルキレンポリイミド基等が挙げられる。
【0010】
発明者らの試験結果によれば、上記両化合物の置換基R1、R2及びR3の分子量が300〜5000であり、n及びmが0〜8の整数である場合において、優れた汚れ防止機能を発揮することができる。また、無機成分の汚れの付着防止に対しては、置換基R1、R2及びR3は比較的分子量の大きい(分子量1700〜3000程度)ことが好ましく、アスファルテンの付着防止に対しては、置換基R1、R2及びR3の分子量は比較的小さい(分子量500〜1500程度)ことが好ましい。このため、アスファルテンの付着と無機成分の付着とを両方とも防止するためには、分子量1700〜3000の置換基R1、R2及びR3を有する上記化合物と、分子量500〜1500の置換基R1、R2及びR3を有する上記化合物とをとを双方含有することが好ましい。また、それらの好ましい割合は、25:75〜75:25の範囲である。
【0011】
第2発明の石油精製用汚れ防止剤は、下記一般式(1)の化合物及び/又は一般式(2)の化合物(式中のR1、R2及びR3は分子量500〜3000の分枝を有してもよいアルキル基又はアルケニル基を示し、式中のn及びmは0〜3の整数を示す)を汚れ防止成分として含有することを特徴とする。
【化2】

【0012】
発明者らの試験結果によれば、R1、R2及びR3並びにn及びmが上記範囲内である場合において、特に優れた汚れ防止効果を奏する。
【0013】
第1発明又は第2発明の石油精製用汚れ防止剤を用いて石油精製プラントの汚れを防止することができる。すなわち、本発明の石油精製プラントの汚れ防止方法は、プロセス油中に請求項1又は請求項2に記載の石油精製用汚れ防止剤を添加することを特徴とする。
【0014】
本発明の石油精製プラントの汚れ防止方法では、循環するプロセス油中に石油精製用汚れ防止剤を添加することにより、汚れの付着を防止することができるが、添加箇所はプロセス油に由来する汚れが生じやすい箇所の上流側で行うのが効果的である。このような場所として、特に、原油の油水分離を行うためのデソルターを通った後であって、加熱炉に入る前に添加すれば、デソルターを通った後に通る熱交換器や加熱炉の汚れを効果的に防止することができる。この場合において、デソルターと加熱炉の途中に熱交換器が設置されていた場合には、それらの熱交換器に入る前や後ろで添加される。複数の熱交換器が存在する場合には、並んだ複数の熱交換器の途中で添加しても良い。石油精製用汚れ防止剤は蒸留によって留去しないため、循環して添加個所の蒸留側でも効果が発揮される。また、プロセス油に対する汚れ防止剤の添加量は0.5〜1000ppmであることが好ましい。0.5ppm以下では汚れ防止効果が小さく、1000ppmを超えるような多量の添加は、汚れ防止のコスト高を招来する。また、石油精製用汚れ防止剤の添加方法は、連続的に添加してもよく、間歇的に添加してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した実施例を比較例と比較しつつ説明する。
<汚れ防止剤>
下記表1に示す実施例1〜6及び比較例1〜8の汚れ防止剤を準備し、ファウリング試験を行った。
【表1】

【化3】

【0016】
<ファウリング試験>
ファウリング試験(石油精製用汚れ防止剤の汚れ防止効果を調べるための試験)は、汚れを付着させるための試験部材として、図1に示す加熱管1を用い、加熱管を油に接触させて、その汚れの付着状況を測定することにより行った。この加熱管1は、JIS K2276に規定されたチューブデポジットレータに使用されるものであり、ステンレス製で端部1a、1bが大径とされ、中間部1cが小径とされた、くびれた管形状をなしており、下端は閉じられている。この加熱管1を図2に示す管形状の加熱管保持器2の中へ挿入する。加熱管保持器2の上部及び下部には流入管3aと流出管3bとが接続されており、加熱管1の中央部には熱電対4が挿入されており、図示しない温度調節器により、熱電対4によって感知される温度が所定の温度となるように、加熱管1の両部1a、1bから電流を流すことが可能とされている。
【0017】
以上のように構成された汚れ試験装置を用いて、ファウリング試験を行った。すなわち、温度調節機によって熱電対4によって感知される温度を所定の温度となるように制御しながら、流入管3aからプロセス油あるいはプロセス油を模した油を所定の流速となるように注入し、流出管3bから流出させた。そして、流入管3a側の温度と流出管3b側の温度の差Δtを図示しない熱電対によって測定した。
【0018】
(1)カオリン模擬汚れを添加した軽油に対するファウリング試験
市販軽油に対し、無機成分の模擬汚れとしてのカオリンを500ppm添加し、さらに上記汚れ防止剤を10ppm添加して、ファウリング試験を行った。試験条件は以下のとおりである。
加熱管温度:350°C
圧力:4.4MPa
流量:1.0ml/min
試験時間:3hrs
【0019】
測定結果
実施例1、2及び比較例1〜7の汚れ防止剤を添加した場合、及び、何も添加しないブランクについてのΔtを表2に示す。これらの結果から、アルケニルコハク酸ポリアルキレンポリイミドを添加した実施例1及び2では、その他の汚れ防止剤を添加した比較例1〜7と比較して、汚れの付着が少ないことが分かった。
【表2】

【0020】
また、実施例1の汚れ防止剤について、添加濃度とカオリン模擬汚れの付着防止効果との関係を調べた。結果を図3に示す。
【0021】
図3から、実施例1の汚れ付着防止剤(R1、R2の分子量が2250であり、nが2のアルケニルコハク酸ポリアルキレンポリイミド)の添加量が10ppmまではΔtが直線的に低下し、それ以上添加してもΔtはそれほど変化がなく、汚れ防止のための最適な添加量は10ppm程度であることが分かった。
【0022】
(2)アスファルテンを添加した軽油に対するファウリング試験
市販軽油に対し、後述するアスファルテン模擬汚れを1.5質量%となるように添加し、さらに上記汚れ防止剤を10ppm添加して、ファウリング試験を行った。試験条件は以下のとおりである。
【0023】
加熱管温度:350°C
圧力:4.4MPa
流量:1.0ml/min
試験時間:3hrs
【0024】
アスファルテンは以下に述べる方法により、石油精製プラントの原油蒸留塔のトッパーボトム油から採取した。すなわち、加温したトッパーボトム油とn−へプタンとを1:0.75の質量比で混合し、さらにスパーチュラーで5分間よく混ぜた後、遠心分離機によって上澄みと残渣とに分離する。上澄みをデカンテーションによって除き、残渣をn―ヘプタンで洗浄した後、ろ過を行い、ろ紙に残った残渣を回収し、温キシレンに溶解させ、エバポレータによってキシレンの一部を留出させる。こうしてキシレンに溶解した状態でアスファルテンを回収する。ファウリング試験を行う場合には、キシレンをエバポレータによって留出させてアスファルテンのみとし、これを軽油に混合した。
【0025】
測定結果
実施例1、2及び比較例1〜7の汚れ防止剤を添加した場合、及び、何も添加しないブランクについてのΔtを表3に示す。
【表3】

【0026】
表3から、アルケニルコハク酸ポリアルキレンポリイミドを添加した実施例1及び2では、アスファルテンに対しても優れた汚れ防止効果を奏することが分かった。中でもR1、R2の分子量が950であり、nが2のアルケニルコハク酸ポリアルキレンポリイミドである実施例2は、特に優れた付着防止効果を示した。
【0027】
(3)原油に対するファウリング試験
原油に対し、上記実施例1及び実施例2の汚れ防止剤を異なる混合比でトータルで10ppm添加して、ファウリング試験を行った。試験条件は以下のとおりである。
加熱管温度:350°C
圧力:4.4MPa
流量:1.0ml/min
試験時間:3hrs
【0028】
測定結果
その結果、表4に示すように、実施例1の汚れ防止剤と実施例2の汚れ防止剤とを1:1の割合で混合したものが最も汚れ防止効果に優れており、0.25:0,75〜0.75:0.25の範囲で特に優れた効果を奏することが分かった。
【表4】

【0029】
(4)クルードスプリッター(CS)に対するファウリング試験
また、上記実施例3〜6及び比較例2、4、8の汚れ防止剤について、クルードスプリッター(原油から低沸点成分を留去させた残油)に対する添加量を変化させてファウリング試験を行った。試験条件は下記のとおりである。この条件は、蒸留塔ボトムの液温を想定したものである。
加熱管温度:470°C
出口温度:350°C
圧力:5.6MPa
流量:1.0ml/min
試験時間:3hrs
【0030】
測定結果
その結果、表5に示すように、アルケニルコハク酸ポリアルキレンポリイミドを含有する実施例3〜6の汚れ防止剤のほうが比較例2、4、8の汚れ防止剤よりも優れた汚れ防止効果を奏することが分かった。このことから、実施例3〜6の汚れ防止剤は、蒸留等ボトムのような高い温度条件においても、優れた汚れ防止効果を奏することが分かった。
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、石油精製プラントの熱交換器や加熱炉の汚れ付着防止に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】加熱管の断面図である。
【図2】加熱管を加熱管保持器に挿入した状態の断面図である。
【図3】汚れ防止剤の添加量とΔtとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
1…試験部材(加熱管)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)の化合物及び/又は一般式(2)の化合物(式中のR1、R2及びR3は分子量300〜5000の分枝を有してもよいアルキル基又はアルケニル基を示し、式中のn及びmは0〜8の整数を示す)を汚れ防止成分として含有することを特徴とする石油精製用汚れ防止剤。
【化1】

【請求項2】
下記一般式(1)の化合物及び/又は一般式(2)の化合物(式中のR1、R2及びR3は分子量500〜3000の分枝を有してもよいアルキル基又はアルケニル基を示し、式中のn及びmは0〜3の整数を示す)を汚れ防止成分として含有することを特徴とする石油精製用汚れ防止剤。
【化2】

【請求項3】
プロセス油中に請求項1又は請求項2に記載の石油精製用汚れ防止剤を添加することを特徴とする石油精製プラントの汚れ防止方法。
【請求項4】
汚れ防止剤は原油の油水分離を行うためのデソルターを通った後であって、加熱炉に入る前に添加されることを特徴とする請求項3記載の石油精製プラントの汚れ防止方法。
【請求項5】
プロセス油に対する汚れ防止剤の添加量は0.5〜1000ppmであることを特徴とする請求項3又は4記載の石油精製プラントの汚れ防止方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−106926(P2007−106926A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−300104(P2005−300104)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】