説明

石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造

【課題】新築時はもちろんのこと、既存の貯蔵施設にも対応することのできる石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造を提供する。
【解決手段】石油貯蔵タンク1等の貯蔵施設の上面を強度のある紐体5で放射状又は網状により全体又は一部を覆い、その上面縁側の紐体を側壁上端縁部から側壁部の下方側へ向けて垂下させ、各々の該紐体の先端部は重量物9,10との連結及び/又は地盤や地盤に設けられた構築物11又は杭7やアンカー8等の固定手段との連結により該紐体を牽引し、貯蔵施設の浮き上がりを防止した石油貯蔵タンク1等の貯蔵施設の浮力抑止構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油コンビナートや石油備蓄タンク施設等に設けられている石油貯蔵タンク或いは石油関係に限らず他の様々な物質を貯蔵することのできる機能と構造を有する貯蔵施設(以下、石油貯蔵タンク等の貯蔵施設という)が津波や浸水等により浮力を受けた場合、それら貯蔵施設に生じる浮力を抑止し、損壊を防止するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、石油貯蔵タンク等の貯蔵施設において、地震力や風力或いは津波の押し寄せる力により水平方向に移動させようとする力等の外力に対して、当該貯蔵施設が傾いたり破損したり横方向へ移動したりすることのないように、基礎の強化及び当該基礎と上層構築物となる貯蔵施設との強固な一体化或いは貯蔵施設の材料自身の強化等を目的とした技術は見受けられる。しかし、当該貯蔵施設自身に津波や浸水等により浮力が生じた場合、該貯蔵施設には下方部より上方部に向けて大きな力が作用し、上記した従来の地震力や風力等が該貯蔵施設に作用する力の方向とは異なることになり、それに対応することを主目的とする技術はなかった。作用する浮力の方向が上記した力の作用する方向とは異なっても、基礎構造や基礎構造と貯蔵施設との接合構造等に安全性を考慮して施工が行われており、ある程度の浮力には耐えることが可能で、従来の貯蔵施設においても比較的小さな浮力に対する抑止機能は有していた。
【0003】
しかし、今回発生した東日本大震災の津波や浸水等のように貯蔵施設に対して極めて大きな浮力が作用した場合、該貯蔵施設に対して下部から上部方向に向けて大きな引き抜き力が作用することになり、従来の地震力や風力又は横移動等に対抗するための構造で得られている抑止手段では対応できず限界を超え、他の強度増加手段を講じる必要が生じることになった。
【0004】
従来より施工されている基礎構造は、貯蔵施設となる上部構築物が地震力や風力等の力を受けた場合に対応する手段として、該基礎とそれを支える地盤とが一体となるように多くの杭を何本も打ち込んだり、基礎を大きくして強度や重量を得たり、基礎から地盤にかけてアンカーを多数本打ち込んだり或いは地盤そのものを強化してその地盤と基礎とを一体化したりする技術等を採用している。それらは、上部構造に作用する横方向や上方向からの力を該基礎や該貯蔵施設で受け止めることを主目的としているものであり、それらの構造はある程度の浮力に対しては有効に作用するものであっても、下部方向から上部方向に向けて大きな浮力が作用した場合には、それらの構造だけでは対抗することは困難であった。
【0005】
また、横方向の力が作用することを考慮し、貯蔵施設となる上部構造と基礎との一体化を強化し、両者の接合部をより強固な剛構造とすることで一体化された重量のある構築物とし、結果として、ある程度の浮力には耐える構築物とすることは可能であるが、そのことは必要以上に費用がかかり、且つ上記同様、大きな浮力に対抗することはできなかった。
【0006】
また、下記の特許文献1のように、地下水による浮力で貯蔵施設が浮き上がることを防止する技術として、地下にコンクリート製のタンクを構築し、その上部にパネル製の地上タンクを装備することで、タンク本体の重量を増加し、地下水の浮力による浮き上がりを防止する技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献2のように、内槽の側板と外槽の底板下面側に埋設したPCアンカー間とをPC鋼線により連結し、地震時における上下動で該内槽が浮き上がることを防止する技術が開示されている。
【0008】
特許文献1の浮力に対抗する構造にあっては、貯蔵施設の構築時に重量のあるコンクリート基礎を該貯蔵施設の下部に設ける必要があり、施工費用がかかり、且つ既存の貯蔵施設には対応することのできない技術であった。
【0009】
また、特許文献2の浮力に対抗する技術にあっては、内槽のタンクの浮き上がりを防止するもので、外槽自体に浮力が生じた場合に対応できる技術ではなく、また、その技術内容も貯蔵施設全体に生じる浮力について対抗することについては記載も示唆もないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−59994号公報
【特許文献2】特開2009−250291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記地盤や基礎を強化したり、該基礎と上部構造となる貯蔵施設との一体化を強化することが浮力に対して有効であることを考慮し、それらの技術に加え、貯蔵施設等の上方部から該貯蔵施設を押さえ込むことにより浮力を防止する技術で、この技術を採用することにより、新築時はもちろんのこと、既存の貯蔵施設にもすばやく対応することのできる石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の上面を強度のある紐体で放射状又は網状により全体又は一部を覆い、その上面縁側の紐体を側壁上端縁部から側壁部の下方側へ向けて垂下させ、各々の該紐体の先端部は重量物との連結及び/又は地盤や地盤に設けられた構築物又は杭やアンカー等の固定手段との連結により該紐体を牽引し、貯蔵施設の浮き上がりを防止した石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造を特徴とする。
【0013】
また、上記石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の上面の紐体は、該上面に適数個の円形体又は多角形体の輪を形成し、該輪と側壁上端縁部側へ延出する放射状体とを連結し、略クモの巣状に形成した石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造を特徴とする。
【0014】
更に、上記石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の上面の紐体は、該上面の中心部又は上面に設けた円形・多角形・長尺等の板体、棒状体、円柱体・多面体・円錐体・多角錐体等の立体等の上面支持体より側壁上端縁部側へ延出する放射状体とした石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造を特徴とする。
【0015】
また、上記石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の上面の紐体は、上面の周辺部側に大きな円形体又は多角形体の輪又は上面支持体を形成し、該輪又は上面支持体と側壁上端縁部側へ延出する紐体とを連結し、ドーナツ状に形成した石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造を特徴とする。
【0016】
更に、上記石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の上面の紐体は、適数本の縦・横部材により格子状又は適宜様々な複数の方向に組んだ網状体に形成した石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造を特徴とする。
【0017】
また、上記石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の上面の紐体は、三角形状、菱型形状又は様々な多角形状とした石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造を特徴とする。
【0018】
更に、石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の上面に強度のある棒状体をその両端部が側壁上端縁部から外方へ突出するように載置し、該突出部に強度のある紐体を固定し、その各々の該紐体を側壁上端縁部から側壁部の下方側へ向けて垂下させ、各々の該紐体の先端部は重量物との連結及び/又は地盤や地盤に設けられた構築物又は杭やアンカー等の固定手段との連結により該紐体を牽引し、貯蔵施設の浮き上がりを防止した石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造を特徴とする。
【0019】
また、上記紐体は、鋼線、鋼棒、合成繊維・細鋼線等を束ねたロープ、チェーン等又はそれらと同等の機能を持つ荷重伝達手段のいずれか又はそれらのいくつかの線状又は棒状のものを組み合わせたものよりなる石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造を特徴とする。
【0020】
更に、上記紐体は、側壁上端縁部又は側壁部側の途中より垂直方向或いは斜め方向に折り曲げ又は分岐させて延出した石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造を特徴とする。
【0021】
また、上記重量物及び/又は構築物、杭、アンカー等の固定手段は、コンクリートブック、コンクリート塊、現場打ちコンクリート塊、水・土砂・瓦礫等の流状体や固形物を入れた容器、摩擦杭、場所打ち杭、PC杭、アンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段とした石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造を特徴とする。
【0022】
更に、上記重量物及び/又は構築物、杭、アンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段と紐体との連結は、紐体毎に各々個別に連結するか、適数本の紐体により一つの重量物・固定手段と連結するか又は全ての紐体と一つの重量物・固定手段と連結するかのいずれかとした石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造を特徴とする。
【0023】
また、上記重量物及び/又は構築物、杭、アンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段は、複数本の紐体を一つの重量物・固定手段の1箇所又は複数箇所に集中させて連結する石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造を特徴とする。
【0024】
更に、上記重量物及び/又は構築物、杭、アンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段は、該貯蔵施設等を取り囲む全体を連続状態とした高さのある多角形体又は曲面を有するコンクリート部材とし、防潮堤を兼ねた石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造を特徴とする。
【0025】
また、上記貯蔵施設の側壁部に、該側壁部に沿って該タンク等を取り囲むように補強部材を設け、該補強部材と紐体及び/又は該紐体から分岐した紐体とを連結することにより貯蔵施設の浮力防止手段とした石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造を特徴とする。
【0026】
更に、上記補強部材は、連続状や断続状の垂直方向、水平方向及び斜め方向のいずれか又はそれらの組み合わせとした石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造を特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造は、該貯蔵施設の上面を紐体又は網体によりその全体或いは一部を覆い、その紐体又は網体の先端の紐体を側壁部の下方側へ向けて垂下させ、その最先端側を重量物との連結及び/又は地盤や地盤に設けられた構築物又は杭やアンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段との連結により牽引し、津波や浸水等により生じた貯蔵施設に対する浮力に抵抗することが可能となった。
【0028】
また、本発明の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造は、既存の貯蔵施設にも採用することができ、施工も比較的容易であり、沿岸部に多数設置されている石油貯蔵タンク等の貯蔵施設にすばやく対応することが可能となった。
【0029】
更に、貯蔵施設に生じる浮力に抵抗するための重量物として安価なコンクリートや流体物、固形物等の様々な手段を採用でき、また、構築物の固定手段として従来より採用されている摩擦杭、現場打ち杭、PC杭、アンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段並びに防潮堤のような該貯蔵施設の損壊防止手段等を併用採用することにより、一層強固な固定手段が得られ、津波や浸水等により該貯蔵施設生じる浮力に抵抗することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造の一実施例の概略斜視図。
【図2】(a)同他の実施例の概略斜視図、(b)乃至(f)同他の実施例の上面支持体の概略斜視図。
【図3】同他の実施例の概略斜視図。
【図4】(a)同他の実施例の概略斜視図、(b)同他の実施例の概略側断面図。
【図5】(a)同他の実施例の概略斜視図、(b)同他の実施例の概略側断面図、(c)同他の実施例の防潮堤の斜視図。
【図6】同他の実施例の概略斜視図
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に示す各実施例は、本発明の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造の一実施例を示すもので、産油地帯からタンカー等により運ばれた石油等を貯蔵するために、海岸に近接した沿岸部に、タンク、貯蔵容器、備蓄容器等として構築される構築物或いは他の様々な物質を貯蔵することのできる機能と構造を有する構築物で、形状としては筒状の構築物が一般的なものであるが、上面側が曲面状やその他の形状又は全体の形状が下記する実施例のような円筒形の筒状体に限定されるものではなく四角形や多角形を含むあらゆる形状(以下、それらを含め筒状体という)のものでも対応することが可能である。
【0032】
当該構築物は、基礎上に上部構造としての貯蔵施設(以下、基礎との区別及び半地下状の貯蔵施設等も含め、便宜上、貯蔵施設という)の筒状体を該基礎と一体となるように構築するが、当該構築物は、通常の構築物同様、積雪荷重や地震力、風力等を考慮して構築され、今回の東日本大震災のような津波によって生じる浮力について抵抗する手段は、十分に考慮されていなかった。
【0033】
この大震災では石油貯蔵タンク等の貯蔵施設が津波により損傷或いは倒壊し、甚大な被害を発生させ、また、そのことにより流出した石油類で大規模火災という二次災害も発生した。そこで、本発明は、津波や浸水により貯蔵施設に生じる浮力を抑止し、当該構築物が損傷或いは倒壊されることを防止する技術で、その実施例のいくつかを以下に示す。
【実施例1】
【0034】
図1は、本発明の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造の一実施例を示すもので、筒状体1は、上部の外周面となる天井面を形成する上面2と下方構築物の基礎3、該基礎3から立ち上がった湾曲状の側壁部4とから構成され、鋼板等の強度のある適宜材料によって構築されている。その内側を石油等を貯蔵する施設としている。
【0035】
上記上面2には、鋼線、鋼棒、合成繊維・細鋼線等を束ねたロープ、チェーン等の線状又は棒状の大きな引張力に対抗することのできる強度のある紐体5等を、その中央部や外方部に形成した円形体又は多角形体となるリング状となる輪5aを形成し、該輪5aと側壁上端縁部6側へ延出してクモの巣状となるように放射状に外方へ延出した紐体5bとを連結し、上面2全体或いはほぼ全体に紐体5を張りめぐらせている。
【0036】
該紐体5は、該側壁部4の上端部の位置まで延出し、その側壁上端縁部6から該側壁部4側へ垂下させ、該側壁部4の下方側へ延出した紐体5c、その先端は、地盤に打ち込んだPC杭や場所打ち杭7、アンカー8等と連結され、該紐体5(5a、5b、5c)を引張牽引させている。
【0037】
また、牽引手段として適数個のコンクリートブロックを積層した積層体9や、コンクリート塊10等の重量物と該紐体5とを連結することにより牽引手段とすることができる。
【0038】
また、地盤に打設したコンクリート11の上面部と該紐体5とを連結することにより引張牽引手段とすることができる。それらとの連結は、図示するリング状体の係止手段やフック状のもの等他の様々な係止手段を上にして埋設した金具等の該係止手段に該紐体5を結び付ける等により行うことができる。更に、垂下した紐体5は、そのまま垂直状に垂下させてもよいし、コンクリート塊10との連結に示したように、該紐体5を分岐部12において二股或いは適宜本数に分岐した分岐紐体13、…とし、バランスよくコンクリート塊10を支持できるようにすることができる。
【0039】
紐体5の引張牽引手段としての重量物は、上記で示した以外に、水・土砂・瓦礫等の流状体や固形物を容器等に収納したもの等の適宜手段が採用され、重量物として該紐体5を引張牽引できる重さが得られるものであれば特に限定されるものではない。
【0040】
また、垂下させた紐体5は、その下方部側を該側壁部4の側壁面より離すことにより、該重量物、地盤、地盤に設けられた構築物、杭やアンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段との連結が容易となるし、該側壁部4との接触により紐体5が磨耗や切断されることがなく、且つ構造的に安定した引張牽引手段とすることができる。
【実施例2】
【0041】
図2(a)乃至(d)は、本発明の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造の他の実施例を示すもので、貯蔵施設となる筒状体14の上面15の上面中心部となる交点位置より紐体16を放射状に広げ、該上面15にバランスよく外方の側壁部17側へ該紐体16を延出させ、該側壁部17の上端部となる側壁上端縁部18から該側壁部17側へ垂下させ、該側壁部17の下方側へ延出し、その先端は、実施例1と同様、各種杭やアンカー、コンクリートブロック等の積層体、コンクリート塊、打設コンクリートや各種流状体や固形物を収納した容器等の重量物又は地盤や地盤に設けられた構築物、杭やアンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段により該紐体16を引張牽引している。
【0042】
紐体16を引張牽引する手段としては、該紐体16を筒状体14の中心位置又はそれに近接した位置を通過するようにして該筒状体14の対向位置間に延設し、その各々の先端側に重量物や固定手段等を設けることにより、両者で引張牽引することも可能である。
【0043】
また、図2(b)、(c)、(d)、(e)、(f)の一例に示すように、紐体16を支持する上面に円形や多角形又は長尺の板体又は棒状体や円柱、多面体、円錐体、多角錐体等の立体等の上面支持体19を配置し、それらの上面支持体19に適数本の該紐体16を配置し、それらを分岐基点として引張牽引させることもできる。図2(b)は、円形状の1つの上面支持体19より複数本の紐体16を分岐させている図を示し、同図(c)、(d)は、2つの円形状の上面支持体19より複数本の紐体16を分岐させている図を示し、同図(e)は、長尺の上面支持体19より複数本の紐体16を分岐させている図を示し、同図(f)は、中心部を避けた位置に複数の上面支持体19より複数の紐体16を分岐させている図を示している。上記紐体16は、図においては複数本としているが、場合によっては1本の紐体16でもよい。
【0044】
上記紐体16は、実施例1と同様、重量物又は地盤や地盤に設けられた構築物、杭やアンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段に応じて分岐部を設けて適切な本数を分岐させて連結することができる。また、図2に示すように、側壁上端縁部18に位置する紐体16から隣接する垂下した紐体16の下端部とを直接連結する斜め方向の補強紐体とすることができ、また、交差配置することもでき、それらにより支持構造を強化することができる。
【実施例3】
【0045】
図3は、本発明の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造の他の実施例を示すもので、貯蔵施設となる筒状体20の上面21に縦方向の紐体22と横方向の紐体23により格子状に組んだ網状体を形成し、該上面21全体を被覆し、その側壁部24の上端部となる側壁上端縁部25から該側壁部24側へ垂下させている。上記紐体22は、縦・横方向に限らず、斜め方向或いは2方向に限定されることなく複数方向等の適宜様々な方向が考えられる。上記紐体22は、該側壁部24の下方側へ延出し、その先端は、上記実施例1、2と同様、各種杭やアンカー、コンクリートブロックの積層体、コンクリート塊、打設コンクリートや各種流状体や固形物を収納した容器等の重量物又は地盤や地盤に設けられた構築物、杭やアンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段により該紐体22、23を引張牽引している。
【0046】
上記該紐体22、23は、上記実施例1、2と同様、重量物又は地盤や地盤に設けられた構築物、杭やアンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段に応じて分岐部を設けて分岐させてそれらを連結することができるし、図2に示すように、側壁上端縁部25での紐体22、23と隣接する位置で垂下した紐体22、23の下端部とを連結する斜め方向の補強紐体とすることができるし、図3に示すように、側壁部24の上方部に該側壁部24周囲に沿ってリング状に囲んだリング状支持体26を設け、該リング状支持体26より下方側へ垂下した紐体27とを連結し、それにより引張牽引し、その下端側は、実施例1、2と同様、重量物との固定又は地盤や地盤に設けられた構築物、杭やアンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段により該紐体27を引張牽引している。図3には、コンクリート塊やコンクリートブロック積層体の各々をリング状支持体26から垂下した複数の紐体27によりバランスよく引張したものを示している。
【実施例4】
【0047】
図4(a)、(b)は、本発明の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造の他の実施例を示すもので、貯蔵施設となる筒状体28の上面29に三角形状、菱型形状又は様々な形状となる多角形状等に組んで形成した紐体30により網状体とし、該上面29全体を被覆し、側壁部31側へ延出した紐体30を該側壁部31の上端部となる側壁上端縁部32から該側壁部31側へ垂下し、該側壁部31の下方側へ延出し、その先端は、上記実施例1乃至3と同様、コンクリートブロックの積層体、コンクリート塊、打設コンクリートや各種流状体や固形物を収納した容器等の重量物又は地盤や地盤に設けられた構築物、杭やアンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段により該紐体30を引張牽引させている。
【0048】
該紐体30は、実施例1乃至3と同様、重量物又は地盤や地盤に設けられた構築物、杭やアンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段に応じて分岐部を設けて分岐させて連結することができるし、図2に示すように、側壁上端縁部25での紐体30と隣接する位置で垂下した紐体30の下端部とを連結する斜め方向の補強紐体とすることができるし、図3に示すように、側壁部24の上方部に該側壁部24に沿ってその周囲をリング状に取着したリング状支持体26を設け、該リング状支持体26より下方側へ垂下した紐体27とを連結し、それにより引張牽引し、その下端側は、実施例1乃至3と同様、重量物との固定又は地盤や地盤に設けられた構築物、杭やアンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段により該紐体27を引張牽引している。
【0049】
また、筒状体28の側壁部31の壁面に沿って、側壁上端縁部32及び側壁下端縁部33に各々上下リング状補強材34、35を形成し、該上側リング状補強材34と下側リング状補強材35間に、該側壁部31と一体化される補強縦部材36を設けることにより該筒状体28の補強手段としている。
【0050】
該補強縦部材36は、上下リング状補強材34、35がない状態で該筒状体28と接合し、アンカー等と引張牽引することができる。また、補強部材としては、図に示した1本のものから複数本のものを束ねて設けたり又は隣接して設けたり、或いは連続状のもの又は断続状のものでもよいし、図面のような垂直方向の他、水平方向や千鳥状や斜め方向又はそれらの組み合わせ等、他の様々な部材やその組み合わせ等が考えられるが、いずれにしても該筒状体28を補強するもので、それら補強部材と紐体とを連結することにより強固な浮力抑止手段とすることができる。
【0051】
筒状体28が浮力を受けた場合、その浮力を該筒状体28、該筒状体28と基礎との連結、そして牽引手段を設けた紐体30等により支えることになるが、該筒状体28の側壁部31の強度不足が生じていることが有り、それにより該筒状体28に変形や損傷が生じるおそれがある。それを防止するために、該側壁部31に鋼材等の部材よりなるリング状補強材34、35及び補強縦部材、36を該側壁部31に一体と作用するように結合し、該補強材34、35、36を紐体30の下端に連結した重量物又は地震や地盤に設けられた構築物、杭やアンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段と図4(b)に示すように別途紐体37により連結することにより、該補強材34、35、36と重量物又は地震や地盤に設けられた構築物、杭やアンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段とが一体化され、該筒状体28の浮力に対抗できるようにしている。
【0052】
上記補強材34、35、36には、該側壁部31をリング状に取り囲んだ何本かの水平方向部材や斜め方向部材或いはそれらを適宜組み合わせたもの等、様々な形態が考えられる。上記補強手段は、他の実施例にも採用できることは言うまでもない。
【実施例5】
【0053】
図5(a)、(b)は、本発明の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造の他の実施例を示す斜視図と概略断面図で、貯蔵施設となる筒状体38の上面39の周辺部に紐体40で円形体又は多角形体の輪を形成し、該円形体とした紐体40から側壁上端縁部41にかけて延出する該上面39の周辺部に帯状幅を有するリング状となるようにして紐体42を延設して周辺部を被覆し、該側壁上端縁部41から側壁部43の下方側へ紐体42を延出し、その先端は該側壁部43の外方に沿って所定間隔を有して地盤より立ち上げて連続形成した円形状の布基礎の上端部と連結している。
【0054】
この実施例5の円形状又は多角形体構造物は、防潮堤44を兼ねることができる。該防潮堤44は、貯蔵施設となる石油備蓄タンク施設等から流出した油等の液体が河川や海に拡散することを防止するための防油堤としての役割を有する他、貯蔵施設周囲の水位が上昇したときに該防潮堤44によりその内側への水の浸入を防止することができ、該貯蔵施設に浮力が生じさせない役割を備えている。しかし、水位が該防潮堤44の高さ以上に上昇した場合には、内側へ水が流入し、該貯蔵施設に浮力を生じさせることになり、この場合にあっても、紐体42が引張牽引されているのでその浮力に対抗することができ、貯蔵施設等が浮き上がるのを抑制することができる。
【0055】
しかし、上記実施例1乃至4、6とは異なり、津波や浸水等の初期の段階では浮力の抑止及び潮流による筒状体基礎の洗掘や貯蔵施設の損壊を防止するための極めて大きな役割を果たすことができる。該防潮堤44は、筒状体38の周囲を取り囲むことにより構築されるので、強度があり、大きな水圧に十分に対抗することができる。
【0056】
従って、該防潮堤44が損壊しない限り、水の筒状体38側への浸入を防止することができる。仮に、水が該防潮堤44の上方部より筒状体38側へ浸水してきたとしても、その量は少なく水圧を大きく弱めることができ、筒状体38の基礎部の洗掘や筒状体38本体の損壊を防止することができる。また、万一該防潮堤44の一部が損壊したとしても、水圧に対する抵抗をある程度保つことができ、筒状体38の損壊を防止するのに極めて有効である。
【0057】
上記防潮堤44は、筒状体38の周囲に構築することができるので、既存の貯蔵施設にも対応できるものである。紐体を使用することなく、該防潮堤44の構築のみでも該貯蔵施設に生じる浮力の抑止及びその損壊を防止できるものである。
【実施例6】
【0058】
図6は、本発明の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造の他の実施例を示すもので、貯蔵施設となる筒状体45の上面46に長尺且つ強度のある棒状体47を載置し、その両端部の各々を側壁上端縁部48から外方へ突出させて突出部49とし、該突出部49に強度のある紐体50を固定し、該紐体50を該突出部49から側壁部51の下方側へ垂下させ、該紐体50の各々の先端部は重量物との連結及び/又は地盤や地盤に設けられた構築物、杭やアンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段との連結により該紐体50を引張牽引し、該貯蔵施設等が浮き上がるのを防止する構造としている。
【0059】
また、該紐体50は、側壁部51から離れた位置で垂下することができるが、垂直状に垂下させることもできるし、紐体52のように棒状体47の突出部49から隣接する紐体50の下端に向けて斜め方向となる傾斜状で垂下させ、横方向の力に対抗したり強度を増加させることができるようにしている。
【0060】
上面46に載置される該棒状体47は、横方向或いは上下方向への移動防止と所定間隔を保つために該棒状体47の直交方向に該棒状体47相互を連結するための複数本のつなぎ部材53を設けている。
【0061】
また、該棒状体47及び該つなぎ部材53が横方向或いは上下方向の力により変形しないように該棒状体47及び/又はつなぎ部材53相互間に筋交部材54を設けている。上記つなぎ部材53や筋交部材54は、強度のある棒状或いは編体を使用することができる。
【0062】
なお、上記各々の実施例では、具体的な構成に基づいて説明したが、当該実施例のいずれかの構成を他の実施例の構成に採用して他の異なる実施例とすることができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0063】
1、14、20、28、38、45 貯蔵施設となる筒状体
2、15、21、29、39、46 上面
3 基礎
4、17、24、31、43、51 側壁部
5、16、22、23、27、30、37、40、42、50、52 紐体
6、18、25、32、41、48 側壁上端縁部
7 PC杭や場所打ち杭
8 アンカー
9 コンクリートブロック積層体
10 コンクリート塊
11 打設コンクリート
12 分岐部
13 分岐紐体
19 上面支持体
26 リング状支持体
33 側壁下端縁部
34 上側リング状補強材
35 下側リング状補強材
36 補強縦部材
44 防潮堤
47 棒状体
49 突出部
53 つなぎ部材
54 筋交部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の上面を強度のある紐体で放射状又は網状により全体又は一部を覆い、その上面縁側の紐体を側壁上端縁部から側壁部の下方側へ向けて垂下させ、各々の該紐体の先端部は重量物との連結及び/又は地盤や地盤に設けられた構築物又は杭やアンカー等の固定手段との連結により該紐体を牽引し、貯蔵施設の浮き上がりを防止した石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造。
【請求項2】
石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の上面の紐体は、該上面に適数個の円形体又は多角形体の輪を形成し、該輪と側壁上端縁部側へ延出する放射状体とを連結し、略クモの巣状に形成したことを特徴とする請求項1記載の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造。
【請求項3】
石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の上面の紐体は、該上面の中心部又は上面に設けた円形・多角形・長尺等の板体、棒状体、円柱体・多面体・円錐体・多角錐体等の立体等の上面支持体より側壁上端縁部側へ延出する放射状体としたことを特徴とする請求項1記載の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造。
【請求項4】
石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の上面の紐体は、上面の周辺部側に大きな円形体又は多角形体の輪又は上面支持体を形成し、該輪又は上面支持体と側壁上端縁部側へ延出する紐体とを連結し、ドーナツ状に形成したことを特徴とする請求項1記載の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造。
【請求項5】
石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の上面の紐体は、適数本の縦・横部材により格子状又は適宜様々な複数の方向に組んだ網状体に形成したことを特徴とする請求項1記載の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造。
【請求項6】
石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の上面の紐体は、三角形状、菱型形状又は様々な多角形状としたことを特徴とする請求項1記載の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造。
【請求項7】
石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の上面に強度のある棒状体をその両端部が側壁上端縁部から外方へ突出するように載置し、該突出部に強度のある紐体を固定し、その各々の該紐体を側壁上端縁部から側壁部の下方側へ向けて垂下させ、各々の該紐体の先端部は重量物との連結及び/又は地盤や地盤に設けられた構築物又は杭やアンカー等の固定手段との連結により該紐体を牽引し、貯蔵施設の浮き上がりを防止した石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造。
【請求項8】
紐体は、鋼線、鋼棒、合成繊維・細鋼線等を束ねたロープ、チェーン等又はそれらと同等の機能を持つ荷重伝達手段のいずれか又はそれらのいくつかの線状又は棒状のものを組み合わせたものよりなることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか記載の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造。
【請求項9】
紐体は、側壁上端縁部又は側壁部側の途中より垂直方向或いは斜め方向に折り曲げ又は分岐させて延出したことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか記載の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造。
【請求項10】
重量物及び/又は構築物、杭、アンカー等の固定手段は、コンクリートブック、コンクリート塊、現場打ちコンクリート塊、水・土砂・瓦礫等の流状体や固形物を入れた容器、摩擦杭、場所打ち杭、PC杭、アンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段としたことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか記載の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造。
【請求項11】
重量物及び/又は構築物、杭、アンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段と紐体との連結は、紐体毎に各々個別に連結するか、適数本の紐体により一つの重量物・固定手段と連結するか又は全ての紐体と一つの重量物・固定手段と連結するかのいずれかとしたことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか記載の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造。
【請求項12】
重量物及び/又は構築物、杭、アンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段は、複数本の紐体を一つの重量物・固定手段の1箇所又は複数箇所に集中させて連結することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか記載の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造。
【請求項13】
重量物及び/又は構築物、杭、アンカー等又はそれらと同等の機能を持つ固定手段は、該貯蔵施設等を取り囲む全体を連続状態とした高さのある多角形体又は曲面を有するコンクリート部材とし、防潮堤を兼ねたことを特徴とする請求項11又は12記載の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造。
【請求項14】
貯蔵施設の側壁部に、該側壁部に沿って該タンク等を取り囲むように補強部材を設け、該補強部材と紐体及び/又は該紐体から分岐した紐体とを連結することにより貯蔵施設の浮力防止手段としたことを特徴とする請求項1乃至13のいずれか記載の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造。
【請求項15】
補強部材は、連続状や断続状の垂直方向、水平方向及び斜め方向のいずれか又はそれらの組み合わせとしたことを特徴とする請求項14記載の石油貯蔵タンク等の貯蔵施設の浮力抑止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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