説明

石灰を含有する水配合コーティング組成物

【課題】 石灰および結合材を含む水配合コーティング組成物であって、耐ひび割れ性に加えて、流動性および分散性に優れた組成物、特にフローコーターなどを用いた工業ラインでの塗装に好適に用いることができるコーティング組成物を提供する。かかるコーティング組成物を被覆層として有するボートまたはシート、並びに当該ボートまたはシートの製造方法を提供する。
【解決手段】 石灰および結合材を被膜成分として含む非水硬化性の水配合コーティング組成物に、非極性アミノ酸、非極性アミノ酸重合物およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石灰、特に消石灰を皮膜成分として含む非水硬化性の水配合コーティング組成物、及び当該コーティング組成物から形成される被覆層を基材表面に有するボードまたはシートに関する。
【0002】
また本発明は、石灰を皮膜成分として含む非水硬化性の水配合コーティング組成物の改良に関する。より詳細には、石灰を皮膜成分として含む非水硬化性の水配合コーティング組成物について、流動性を向上させる方法、基材に対する付着力向上方法および付着力の均一安定化方法、ならびに耐ひび割れ性の向上方法に関する。
【背景技術】
【0003】
石灰を主成分とする気硬性(非水硬化性)の被覆材料として、古くから漆喰およびドロマイトプラスターが知られている。これらの被覆材料は、落ち着きのある重厚な仕上がり感に加えて、調湿性(吸湿性及び放湿性)、防カビ性、抗菌性、消臭性、および防火性といった機能に優れているため、シックハウス症候群が問題となっている今、再び環境改善用塗材として見直されている。
【0004】
しかしながら、漆喰やドロマイトプラスターは、乾燥硬化時の収縮が大きく、ひび割れを発生しやすく脆いという欠点がある。特に厚塗り時には乾燥収縮率が大きくなるため、ひび割れが発生しやすい。このため、従来の漆喰やドロマイトプラスターは、割れ防止のためにすさ(麻、藁、紙などを短く裁断したもの)等の繊維材料を配合した材料を用いて、1〜2mm以下の厚さに薄塗りし、一旦乾燥硬化させた後に、上から上塗りすることを繰り返して所望の厚さに仕上げる施工方法が採用されている。さらに、割れを防止するためには、重ね塗り時にコテの押さえ具合を調整しながら皮膜の乾燥収縮を平均にならすという高度な職人技が要求される。このため、漆喰やドロマイトプラスターの施工には、熟練した技術と長い工期が必要とされ、その結果、費用が多大になるという問題があった。また石灰は高いチクソトロピックな流動特性を備えているため、流動性が悪く、またその水分散物を一定期間静置しておくと凝集してしまうという問題がある。
【0005】
こうした理由から、漆喰やドロマイトプラスターなどの石灰、特に消石灰を主成分とする塗材は主として人の手による湿式施工(現場施工)に委ねられているのが現状である。
【0006】
ところで、漆喰やドロマイトプラスターのひび割れを防止する方法として従来から提案されているものとして、例えば、被覆組成物として、消石灰及び/又はドロマイトプラスター、スチレンブタジエンゴムラテックス、ウェランガム及び界面活性剤を含む石灰系プラスター組成物を使用する方法(特許文献1)、消石灰に特定の割合で珪砂、合成樹脂、すさ、クレイ成分、分散剤、セルロース系増粘剤及び消泡剤を含む組成物を使用する方法(特許文献2)、消石灰に特定の割合で骨材、合成樹脂バインダー、及び小麦ファイバーを含む組成物を使用する方法(特許文献3)、石灰系プラスターに、エチレン性不飽和ジカルボン酸単量体とビニル単量体を乳化重合して得られるラテックスを含む石灰系プラスター改質剤を配合した石灰系プラスター組成物を使用する方法(特許文献4)、ならびに石灰を皮膜成分とするコーティング組成物に、カルシウムイオンに対してキレート作用を有する化合物(キレート化合物)を配合する方法(特許文献5)を挙げることができる。
なかでも、特許文献5に記載された方法は、漆喰やドロマイトプラスターを始め、石灰系仕上げ塗材や石灰系塗料などの、石灰を含むコーティング組成物から形成される皮膜のひび割れを防止する効果に優れているとともに、石灰のチクソトロピックな流動特性を低減する方法として有用である。
【0007】
しかしながら、かかる石灰を皮膜成分とするコーティング組成物を工業ラインでの塗装に用いるためには、フローコーター等の工業的塗装機に適した流動性を備えていなければならない。また、工業ラインでの強制乾燥にも耐えうるひび割れ抵抗性(耐ひび割れ性)を備える必要もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−171167号公報
【特許文献2】特開2001−192255号公報
【特許文献3】特開2003−306614号公報
【特許文献4】特開2002−12460号公報
【特許文献5】特開2006−240981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、石灰、好ましくは消石灰と水と結合材を含むコーティング組成物であって、皮膜の耐ひび割れ性に加えて、流動性および分散性に優れた組成物、特にフローコーターなどを用いた工業ラインでの塗装に好適に用いることができるように改良されたコーティング組成物を提供することを目的とする。また本発明は、かかるコーティング組成物を被覆層として有するボートまたはシート、並びに当該ボートまたはシートの製造方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、石灰を皮膜成分として含む非水硬化性の水配合コーティング組成物を対象として、流動性を向上させる方法、基材に対する付着力を向上させ、また付着力の均一安定化を図る方法、ならびに耐ひび割れ性を向上させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成すべく日夜鋭意研究を重ねていたところ、石灰、特に消石灰を皮膜成分として含む水配合コーティング組成物に、非極性のアミノ酸、アミノ酸重合物またはこれらの塩を配合することによって、当該水配合コーティング組成物の流動性および分散性が改善され、しかもかかる流動性とは一見逆の特性である粘性が生じて、形成された皮膜にひび割れが生じにくくなることを見出した。また、本発明者は、粘性の発生により被塗物(基材)への付着力が向上し、上記分散性向上と相俟って、被塗物面に対して均一かつ安定した付着力を有する塗膜が形成できること、さらに流動性と適度な粘性の発現により、工業用塗装機であるフローコーターなどにかけた場合にカーテン切れを起こしにくいことを見出した。こうしたことから、本発明者は、上記技術によれば、石灰を皮膜成分として含む水配合コーティング組成物をフローコーター等に適用して工業ラインでの大量塗装が可能であること、すなわち、石灰を被覆層とするボートやシートが工業的に製造できることを確認した。本発明はかかる知見に基づいて開発されたものである。
【0011】
本発明は下記I〜VIIIに掲げる態様を含む:
I.非水硬化性の水配合コーティング組成物
(I-1)(a)石灰、(b)水、(c)結合材、並びに(d)非極性アミノ酸、非極性アミノ酸重合物およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種、を含むことを特徴とするコーティング組成物。
(I-2)非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物が、1以上の疎水性インデックスを有するものである、(I-1)に記載するコーティング組成物。
(I-3)非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物が、3以上の疎水性インデックスを有するものである、(I-1)に記載するコーティング組成物。
(I-4)非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物を構成する非極性アミノ酸が、アラニン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、およびイソロイシンからなる群から選択されるいずれか少なくとも1つである、(I-1)または(I-2)に記載するコーティング組成物。
(I-5)さらに(e)キレート化合物を含むことを特徴とする、(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載するコーティング組成物。
(I-6)キレート化合物が、分子量1000以下の有機系キレート化合物または無機系キレート化合物である、(I-5)に記載するコーティング組成物。
(I-7)有機系キレート化合物が、カルボン酸系キレート化合物、ホスホン酸系キレート化合物、燐酸系キレート化合物、スルホン酸系キレート化合物および還元性有機酸系キレート化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、(I-6)に記載するコーティング組成物。(I-8)キレート化合物が、分子量600以下のキレート化合物である(I-5)乃至(I-7)のいずれかに記載するコーティング組成物。
(I-9)さらに(f)ケイ素化合物を含むことを特徴とする(I-5)乃至(I-8)のいずれかに記載するコーティング組成物。
(I-10)ケイ素化合物が、ゼオライト、シリカ、珪藻土、フライアッシュ、セピオライト、ケイ酸ナトリウム、およびメタケイ酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である(I-9)に記載するコーティング組成物。
(I-11)さらに(g)白色顔料を含むことを特徴とする(I-1)乃至(I-10)のいずれかに記載するコーティング組成物。
(I-12)さらに(h)骨材を含むことを特徴とする(I-1)乃至(I-11)のいずれかに記載するコーティング組成物。
(I-13)コーティング組成物が塗料、塗材、シーラー、プライマー、または接着材である(I-1)乃至(I-12)のいずれかに記載するコーティング組成物。
(I-14)工業用塗装機による塗装に用いられるコーティング組成物である、(I-1)乃至(I-13)のいずれかに記載するコーティング組成物。
(I-15)工業用塗装機がスプレー、フローコーター、ロールコーター、ナイフコーター、またはバキュームコーター、好ましくはフローコーターである、(I-14)に記載するコーティング組成物。
【0012】
II.コーティング組成物包装体
(II-1)上記(I-1)乃至(I-15)のいずれかに記載するコーティング組成物を容器内に収納してなるコーティング組成物包装体。
(II-2)容器が可撓性容器である(II-1)に記載するコーティング組成物包装体。
【0013】
III.工業用塗装機専用コーティング組成物の製造方法
(III-1)(a)石灰を含む皮膜成分と、(d)非極性アミノ酸、非極性アミノ酸重合物およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種とを、(b)水および(c)結合材とともに混合して液状またはペースト状に調製する工程を有する、コーティング組成物、好ましくは工業用塗装機専用コーティング組成物の製造方法。
(III-2)非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物が、1以上の疎水性インデックスを有するものである、(II-1)に記載する製造方法。
(III-3)非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物が、3以上の疎水性インデックスを有するものである、(II-1)に記載する製造方法。
(III-4)非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物を構成する非極性アミノ酸が、アラニン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、およびイソロイシンからなる群から選択されるいずれか少なくとも1つである、(III-1)または(III-2)に記載する製造方法。
(III-5)さらに(e)キレート化合物を配合することを特徴とする、(III-1)乃至(III-4)のいずれかに記載する製造方法。
(III-6)キレート化合物が、分子量1000以下の有機系キレート化合物または無機系キレート化合物である、(III-5)に記載する製造方法。
(III-7)有機系キレート化合物が、カルボン酸系キレート化合物、ホスホン酸系キレート化合物、燐酸系キレート化合物、スルホン酸系キレート化合物および還元性有機酸系キレート化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、(III-6)に記載する製造方法。(III-8)キレート化合物が、分子量600以下のキレート化合物である(III-5)乃至(III-7)のいずれかに記載する製造方法。
(III-9)さらに(f)ケイ素化合物を配合することを特徴とする(III-5)乃至(III-8)のいずれかに記載する製造方法。
(III-10)ケイ素化合物が、ゼオライト、シリカ、珪藻土、フライアッシュ、セピオライト、ケイ酸ナトリウム、およびメタケイ酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種である(III-9)に記載する製造方法。
(III-11)さらに(g)白色顔料を配合することを特徴とする(III-1)乃至(III-10)のいずれかに記載する製造方法。
(III-12)さらに(h)骨材を配合することを特徴とする(III-1)乃至(III-11)のいずれかに記載する製造方法。
(III-13)コーティング組成物が、塗料、塗材、シーラー、プライマー、または接着材である(III-1)乃至(III-12)のいずれかに記載する製造方法。
(III-14)工業用塗装機がスプレー、フローコーター、ロールコーター、ナイフコーターまたはバキュームコーター、好ましくはフローコーターである、(III-1)乃至(III-13)のいずれかに記載する製造方法。
【0014】
IV.ボードまたはシート、およびこれらの製造方法
(IV-1)基材表面に、(I-1)乃至(I-15)のいずれかに記載するコーティング組成物から形成される被覆層を有するボードまたはシート。
(IV-2)基材表面に、(I-1)乃至(I-15)のいずれかに記載するコーティング組成物から形成される被覆層を有し、当該被覆層の表面に保護シートが積層されてなるか、または当該被覆層の表面が防汚処理されてなることを特徴とする、(IV-1)記載のボードまたはシート。
(IV-3)基材表面に、(1)(I-1)乃至(I-15)のいずれかに記載するコーティング組成物を塗布する工程を有する、(IV-1)に記載するボードまたはシートの製造方法。
(IV-4)基材表面に、(1)(I-1)乃至(I-15)のいずれかに記載するコーティング組成物を塗布する工程、および(2)当該組成物から形成された被覆層の表面に保護シートを積層するか、または防汚処理を施す工程を有する、(IV-2)に記載するボードまたはシートの製造方法。
【0015】
V.石灰を皮膜成分として含む水配合コーティング組成物の流動性向上方法
(V-1)(d)非極性アミノ酸、非極性アミノ酸重合物およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、(a)石灰、(b)水および(c)結合材を含有するコーティング組成物の流動性向上方法。
(V-2)非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物が、1以上の疎水性インデックスを有するものである、(V-1)に記載する流動性向上方法。
(V-3)非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物が、3以上の疎水性インデックスを有するものである、(V-1)に記載する流動性向上方法。
(V-4)非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物を構成する非極性アミノ酸が、アラニン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、およびイソロイシンからなる群から選択されるいずれか少なくとも1つである、(V-1)または(V-2)に記載する流動性向上方法。
(V-5)さらに(e)キレート化合物を配合することを特徴とする、(V-1)乃至(V-4)のいずれかに記載する流動性向上方法。
(V-6)キレート化合物が、分子量1000以下の有機系キレート化合物または無機系キレート化合物である、(V-5)に記載する流動性向上方法。
(V-7)有機系キレート化合物が、カルボン酸系キレート化合物、ホスホン酸系キレート化合物、燐酸系キレート化合物、スルホン酸系キレート化合物および還元性有機酸系キレート化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、(V-6)に記載する流動性向上方法。(V-8)キレート化合物が、分子量600以下のキレート化合物である(V-5)乃至(V-7)のいずれかに記載する流動性向上方法。
(V-9)さらに(g)白色顔料を配合することを特徴とする(V-1)乃至(V-8)のいずれかに記載する流動性向上方法。
(V-10)コーティング組成物が、さらに (h)骨材および(f)ケイ素化合物からなる群から選択される少なくとも一種を含むものである、(V-1)乃至(V-9)のいずれかに記載する流動性向上方法。
【0016】
VI.石灰を皮膜成分として含む水配合コーティング組成物の付着力向上または付着力の均一安定化方法
(VI-1)(d)非極性アミノ酸、非極性アミノ酸重合物およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、(a)石灰、 (b)水、および(c)結合材を含有するコーティング組成物の基材に対する付着力向上または付着力の均一安定化方法。
(VI-2)非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物が、1以上の疎水性インデックスを有するものである、(VI-1)に記載する付着力向上または付着力の均一安定化方法。
(VI-3)非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物が、3以上の疎水性インデックスを有するものである、(VI-1)に記載する付着力向上または付着力の均一安定化方法。
(VI-4)非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物を構成する非極性アミノ酸が、アラニン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、およびイソロイシンからなる群から選択されるいずれか少なくとも1つである、(VI-1)または(VI-2)に記載する付着力向上または付着力の均一安定化方法。
(VI-5)さらに(e)キレート化合物を配合することを特徴とする、(VI-1)乃至(VI-4)のいずれかに記載する付着力向上または付着力の均一安定化方法。
(VI-6)キレート化合物が、分子量1000以下の有機系キレート化合物または無機系キレート化合物である、(VI-5)に記載する付着力向上または付着力の均一安定化方法。
(VI-7)有機系キレート化合物が、カルボン酸系キレート化合物、ホスホン酸系キレート化合物、燐酸系キレート化合物、スルホン酸系キレート化合物および還元性有機酸系キレート化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、(VI-6)に記載する付着力向上または付着力の均一安定化方法。(VI-8)キレート化合物が、分子量600以下のキレート化合物である(VI-5)乃至(VI-7)のいずれかに記載する付着力向上または付着力の均一安定化方法。
(VI-9)コーティング組成物が、さらに(f)ケイ素化合物を含むものである、(VI-1)乃至(VI-8)のいずれかに記載する付着力向上または付着力の均一安定化方法。
(VI-10)コーティング組成物が、さらに(g)白色顔料および(h)骨材からなる群から選択される少なくとも一種を含むものである、(VI-1)乃至(VI-9)のいずれかに記載する付着力向上または付着力の均一安定化方法。
(VI-11)上記(VI-1)乃至(VI-10)のいずれかに記載する方法によって基材に対する付着力が向上され、または付着力が均一安定化されたコーティング組成物から形成された皮膜を有する被覆物。
(VI-12)上記皮膜を有する被覆物がボードまたはシートである、(VI-11)に記載する被覆物。
【0017】
VII.石灰を皮膜成分として含むコーティング組成物の耐ひび割れ性の向上方法
(VII-1)(d)非極性アミノ酸、非極性アミノ酸重合物およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、(a)石灰、(b)水および(c)結合材を含有するコーティング組成物の耐ひび割れ性向上方法。
(VII-2)非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物が、1以上の疎水性インデックスを有するものである、(VII-1)に記載する耐ひび割れ性向上方法。
(VII-3)非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物が、3以上の疎水性インデックスを有するものである、(VII-1)に記載する耐ひび割れ性向上方法。
(VII-4)非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物を構成する非極性アミノ酸が、アラニン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、およびイソロイシンからなる群から選択されるいずれか少なくとも1つである、(VII-1)または(VII-2)に記載する耐ひび割れ性向上方法。
(VII-5)さらに(e)キレート化合物を配合することを特徴とする、(VII-1)乃至(VII-4)のいずれかに記載する耐ひび割れ性向上方法。
(VII-6)キレート化合物が、分子量1000以下の有機系キレート化合物または無機系キレート化合物である、(VII-5)に記載する耐ひび割れ性向上方法。
(VII-7)有機系キレート化合物が、カルボン酸系キレート化合物、ホスホン酸系キレート化合物、燐酸系キレート化合物、スルホン酸系キレート化合物および還元性有機酸系キレート化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、(VII-6)に記載する耐ひび割れ性向上方法。(VII-8)キレート化合物が、分子量600以下のキレート化合物である(VII-5)乃至(VII-7)のいずれかに記載する耐ひび割れ性向上方法。
(VII-9)コーティング組成物が、さらに(f)ケイ素化合物を含むものである、(VII-1)乃至(VII-8)のいずれかに記載する耐ひび割れ性向上方法。
(VII-10)上記(VII-1)乃至(VII-9)のいずれかに記載する方法によって耐ひび割れ性が向上されたコーティング組成物から形成される、耐ひび割れ性の皮膜を有する被覆物。
(VII-11)上記皮膜を有する被覆物がボードまたはシートである、(VII-10)に記載する被覆物。
【0018】
VIII.極性アミノ酸の使用
(VIII-1)(a)石灰、(b)水および(c)結合材を含有するコーティング組成物の流動性を向上するための、(d)非極性アミノ酸、非極性アミノ酸重合物およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の使用。
(VIII-2)(a)石灰、(b)水および(c)結合材を含有するコーティング組成物の付着力を向上し、また付着力を均一安定化するための、(d)非極性アミノ酸、非極性アミノ酸重合物およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の使用。
(VIII-3)(a)石灰、(b)水および(c)結合材を含有するコーティング組成物の耐ひび割れ性を向上するための、(d)非極性アミノ酸、非極性アミノ酸重合物およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の使用。
(VIII-4)(a)石灰、(b)水および(c)結合材を含有する工業用塗装機専用コーティング組成物の製造のための、(d)非極性アミノ酸、非極性アミノ酸重合物およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の使用。
(VIII-5)(a)石灰、(b)水および(c)結合材を含有する工業用塗装機専用コーティング組成物の製造のための、(d)非極性アミノ酸、非極性アミノ酸重合物およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種と(d)キレート化合物との使用。
(VIII-6)工業用塗装機が、スプレー、フローコーター、ロールコーター、ナイフコーターまたはバキュームコーター、好ましくはフローコーターである、(VIII-4)または(VIII-5)に記載する使用。
(VIII-7)非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物を構成する非極性アミノ酸が、1以上の疎水性インデックスを有するものである、(VIII-1)乃至(VIII-6)のいずれかに記載する使用。
(VIII-8)非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物を構成する非極性アミノ酸が、アラニン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、およびイソロイシンからなる群から選択されるいずれか少なくとも1つである、(VIII-1)乃至(VIII-7)のいずれかに記載する使用。
【発明の効果】
【0019】
(1)石灰を皮膜成分として含む水配合コーティング組成物に、非極性を有するアミノ酸、アミノ酸重合物またはそれらの塩(以下、これらを総称して「非極性アミノ酸類」ともいう)を配合することによって、当該コーティング組成物に粘性が生じ、被塗物である基材に対する付着力が向上するとともに、形成された皮膜にひび割れに対する抵抗性(耐ひび割れ性)を与えることができる。また、石灰を皮膜成分として含む水配合コーティング組成物に非極性アミノ酸類を配合することによって、上記粘性とは一見逆の特性である流動性が向上し、さらに石灰などの固形分の水への分散性が向上する。これらのことから、本発明の効果として具体的には下記のことを挙げることができる。
【0020】
(1-1)基材に対する付着力(基材に対する皮膜の引張り強度)が向上することによって、耐久性に優れた皮膜を形成することができる。上記水配合コーティング組成物が結合材を含有する組成物である場合、コーティング組成物、特に塗料、塗材、シーラー、プライマー、または接着材として、基材に対してより望ましい付着力を発揮することができる。
【0021】
(1-2)上記特性に加えて、水分散性が向上することによって、被塗物(基材)に対する付着力が均一で安定した皮膜を形成することができる。
【0022】
(1-3)粘性のある水配合コーティング組成物が得られるため、従来石灰を皮膜成分として含む非水硬化性のコーティング組成物(漆喰、ドロマイトプラスター、石灰系仕上げ塗材、石灰系塗料など)について問題となっていた乾燥時の皮膜のひび割れを有意に抑制することができる。また、強制乾燥が可能であるため、本発明のコーティング組成物を被覆層とするボードやシートを工業的な塗装ラインで製造することができる。
【0023】
(1-4)流動性に優れ、かつ適度な粘性を有する水配合コーティング組成物が得られるため、塗料等を狭いスリットからカーテン状に流して被塗物を塗装するフローコーターに好適に適用することができる。すなわち、本発明の水配合コーティング組成物によれば、これを被覆層とするボードやシートをフローコーターなどの工業用塗装機を用いて工業的に大量に製造することができる。
【0024】
(2)非極性アミノ酸に加えて、さらにキレート化合物を配合することによる効果として下記のことを挙げることができる。
【0025】
(2-1)石灰を皮膜成分として含む水配合コーティング組成物に、上記非極性アミノ酸類に加えて、キレート化合物を配合することによって、付着力、耐ひび割れ性および流動性が更に向上するとともに、消石灰のチクソトロピー性が緩和され、コーティング組成物を保存した場合の再凝集が抑制され、流動性や粘度を安定して維持することができる。
【0026】
(2-2)石灰を皮膜成分として含む水配合コーティング組成物に、上記非極性アミノ酸類に加えて、キレート化合物を配合することによって、ケイ素化合物を併用した場合のポゾラン反応が抑制される。このため、キレート化合物を含有する本発明の水配合コーティング組成物には、その流動性や保存安定性を損なうことなく、珪藻土、シリカ、ゼオライト、フライアッシュ、セピオライト、水ガラスなどのケイ素化合物を含む物質を自由に配合することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
I.非水硬化性の水配合コーティング組成物
本発明の非水硬化性の水配合コーティング組成物は、石灰を皮膜成分として含む水配合コーティング組成物であって、成分として、上記(a)石灰と(b)水と(c)結合材に加えて、(d)非極性アミノ酸、非極性アミノ酸重合物およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種、を含有することを特徴とするものである。
【0028】
ここで「非水硬化性」とは、コーティング組成物が水存在下で凝結・固化しないこと、言い換えれば、水を含んだまま、コーティング(塗装・塗工)に使用可能な状態で保存可能であることを意味する。より詳細には、水を含む状態で保存した後もそのまま、又は必要であれば多少攪拌・混練したり、若しくは少量の水を添加して混合するだけで、コーティング材(塗料、塗材、シーラー(下地処理材)、プライマー、接着材などを含む)として使用できる性質を備えることを意味する。この意味において、本発明の水配合コーティング組成物は、セメントや石こうなどの水硬性物質を含み、水存在下で凝結・固化する性質を有する組成物とは区別される。
【0029】
また「水配合コーティング組成物」とは、対象物に塗布・塗工または吹き付け塗装されることによって皮膜を形成することができる組成物であり、具体的には塗料、塗材、シーラー、プライマー、接着材などを制限なく挙げることができる。好ましくは仕上げ材または化粧材として使用される塗料や塗材である。なかでも好適には、建築物の天井や内外壁面;クロスやボードやパネルなどの建築部材;カーテン、カーペット、椅子張地、カーシートカバー、靴内貼り地、インソールなどの繊維製品;建具、洋服入れ、タンス、机、書棚および下駄箱などの家具、流し台や洗面台などの水周り家具、パーティション、書棚および机などのオフィス用具、またはこれらの部材;トンネル壁面、ガードレール材、遮音壁材、防護壁材、橋梁構造物などの土木用部材;などの下地や仕上げまたはコーティングに使用される塗料、塗材、シーラー、プライマー、または接着材を挙げることができる。なお、制限されないが、石灰を皮膜成分として含むコーティング組成物には、漆喰、ドロマイトプラスター、石灰系仕上げ塗材、石灰系塗料、消石灰・ドロマイトプラスター系薄付け仕上げ塗材、消石灰・ドロマイトプラスター系厚付け仕上げ塗材などが含まれる。
【0030】
(a)石灰
(a)石灰としては、具体的には酸化カルシウムを主成分とする生石灰、及び水酸化カルシウムを主成分とする消石灰を挙げることができる。なお、これらの石灰としては、工業用石灰、塩焼き石灰、貝灰(貝焼灰)、建築・土木部材などの廃材から再生された再生石灰を使用することもできる。これらの石灰は1種単独で使用してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。好ましくは、気硬性材料で漆喰やドロマイトプラスターの主原料となる消石灰である。なお、ここで生石灰とは主成分として酸化カルシウムを含有する石灰を、また消石灰とは水酸化カルシウムを含有する石灰をそれぞれ意味し、その限りにおいて他成分として、炭酸カルシウム(カルサイト,アラゴナイト,バテライト,塩基性炭酸カルシウム及び非晶質炭酸カルシウムなどの沈降炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム)及びドロマイト(CaMg(CO3)2)などを含有していることを特に妨げるものではない。また、消石灰は他成分として生石灰(酸化カルシウム)を、生石灰は他成分として消石灰(水酸化カルシウム)を含んでいても良い。従って、本発明の水配合コーティング組成物には、消石灰を主成分として水で練り上げた漆喰、白雲石を焼成し水を作用して生成する水酸化マグネシウムと水酸化カルシウム(消石灰)を主成分として水で練り上げたドロマイトプラスターを含むものが含まれる。
【0031】
なお、水配合コーティング組成物に配合する上記石灰の割合は、特に制限されないが、水配合コーティング組成物の固形分100重量%あたりの石灰の配合割合として通常3〜95重量%の範囲から適宜選択することができる。石灰の配合割合の下限値として3重量%、5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、または40重量%を挙げることができる。石灰の優れた機能(防かび性、抗菌性、消臭性、調湿性)を活かしたコーティング組成物を調製するためには、ある程度の石灰量が必要であり、この場合の好適な下限値としては5重量%、好ましくは10重量%、より好ましくは15重量%を挙げることができる。また上限値としては80重量%、75重量%、70重量%、65重量%、または60重量%を挙げることができる。より具体的な配合割合として、制限されないが、15〜75重量%、好ましくは20〜70重量%、より好ましくは25〜70重量%、さらに好ましくは30〜65重量%、さらにまた好ましくは30〜60重量%を例示することができる。
【0032】
(b)水
本発明のコーティング組成物に配合される(b)水の割合は特に制限されない。好ましくは水配合コーティング組成物100重量%あたり水が10〜90重量%、好ましくは10〜70重量%の割合で含まれるような範囲から適宜選択することができる。この場合、水配合コーティング組成物は固形分が10〜90重量%、好ましくは30〜90重量%の割合になるように調製される。より具体的には、例えば水配合コーティング組成物をスプレー、ローラー若しくは刷毛塗り、または工業用塗装機(スプレー、フローコーター、ロールコーター、バキュームコーターなど)に適した液状またはスラリー形態(所謂、塗料形態)に調製する場合には、制限されないが、水が30〜60重量%、好ましくは35〜50重量%の割合で含まれるように調製することができる。また水配合コーティング組成物を鏝塗りに適したペースト状形態(所謂、塗材形態)に調製する場合には、制限されないが、水が10〜40重量%、好ましくは20〜35重量%の割合で含まれるように調製することができる。
【0033】
(c)結合材
本発明で使用する(c)結合材としては、石灰同士の初期接着を高めたり、またコーティング組成物の施工面に対する付着力を高める性質を有するものであればよく、天然糊料(つのまた、フノリ、うるち米、海藻糊、銀杏糊、膠、カゼイン、デキストリン、増粘多糖類など)、合成糊料(メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメトルセルロースなどのセルロース類、ポリビニルアルコールなどの化学糊)、合成樹脂、または無機接着剤(ケイ酸ソーダ、メタケイ酸ソーダ、セラミックス等)をそれぞれ任意に使用することができる。
【0034】
ここで合成樹脂としては水溶性又は水分散性樹脂が好ましく、具体的にはスチレン−アクリルエステル,スチレン−アクリロニトリル及びスチレン−アクリルアミド−アクリル酸エチルなどのスチレン/アクリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステルや酢酸ビニル−メタクリル酸エステル等の酢酸ビニル/アクリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル等のブタジエン/アクリル共重合体、塩化ビニル/アクリル共重合体、塩化ビニリデン/アクリル共重合体、ベオバ/アクリル共重合体、アクリル共重合体、塩化ビニル/エチレン共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル/ベオバ共重合体、酢酸ビニル/エチレン共重合体、酢酸ビニル/ベオバ共重合体、酢酸ビニル/フマール酸エステル(例えば酢酸ビニル/フマール酸ジブチル等)、酢酸ビニル/マレイン酸エステル(例えば酢酸ビニル/マレイン酸ジブチル等);ベオバ/エチレン、アクリル変性・アルキド樹脂、アクリル変性・酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体樹脂、フッ素変性アクリル樹脂、シリコン変性アクリル樹脂等のビニル系合成樹脂またはポリウレタン樹脂を例示することができる。耐候性の観点から、好ましくはアクリル系の樹脂である。アクリル系の樹脂としてより好適には、特許第3094227号公報に記載される(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、または(メタ)アクリロニトリルの少なくとも1つをモノマー成分として構成される重合体(ホモポリマー、コポリマー)を例示することができる(特許第3094227号公報、段落[0015]〜[0017]参照。当該特許公報の記載は本発明の明細書の記載として援用される)。
【0035】
また増粘多糖類としては、ウェランガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、およびタマリンドシードガムなどの天然植物または微生物に由来するガム質を挙げることができる。
【0036】
本発明の水配合コーティング組成物に配合する上記結合材の割合は、特に制限されないが、例えば、水配合コーティング組成物の固形分100重量%あたりの結合材の配合割合として、固形換算で通常0.1〜50重量%の範囲を挙げることができる。好ましくは0.2〜40重量%、より好ましくは0.5〜30重量%、さらに好ましくは1〜20重量%である。
【0037】
(d)非極性アミノ酸類
本発明で使用する(d)非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物は、非極性を有するアミノ酸またはアミノ酸重合物であれば特に制限されない。アミノ酸の非極性の有無およびその程度は、一般に、疎水性インデックス(Kyte and Doolittle, J. Mol. Biol., 157, 105-132 (1982))を用いて評価することができる。具体的には、疎水性インデックスが0より大(即ち、正の値)であれば、非極性を有するアミノ酸と規定することができ、疎水性インデックスの値が大きくなるほど、非極性の程度も大きくなる。本発明で使用する非極性アミノ酸または非極性アミノ酸重合物は、通常疎水性インデックスが1以上であり、これらの中には2〜3、3〜4または4〜5の範囲で疎水性インデックスを有するものが含まれる。 疎水性インデックス(HI)が1〜2の範囲にあるタンパク質構成アミノ酸としては、アラニン(HI:1.8)、メチオニン(HI:1.9)を挙げることができる。また疎水性インデックス(HI)が2〜3の範囲にあるタンパク質構成アミノ酸としては、システイン(HI:2.5)、フェニルアラニン(HI:2.8)を挙げることができる。また、疎水性インデックス(HI)が3〜4の範囲にあるタンパク質構成アミノ酸としては、ロイシン(HI:3.8)を、また4〜5の範囲にあるタンパク質構成アミノ酸としては、バリン(HI:4.28)およびイソロイシン(HI:4.5)を挙げることができる。但し、本発明が対象とするアミノ酸はこれらのタンパク質構成アミノ酸に限らず、それ以外のアミノ酸も含まれる(例えば、「生化学データブックI」、表2・4(第33〜59頁)参照、1982年10月1日発行、社団法人日本生化学会)。
【0038】
これらのアミノ酸はフリーの状態でも塩の形態でも使用することができる。塩としては、カリウムやナトリウム等のアルカリ金属との塩、マグネシウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属との塩を挙げることができる。また塩酸、硝酸、硫酸およびリン酸などの無機酸との塩;酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸などの有機酸との塩を挙げることもできる。
【0039】
本発明が対象とする非極性アミノ酸重合物は、全体として非極性を有するアミノ酸重合物であり、この限りにおいて同一のアミノ酸からなる重合物(ホモポリアミノ酸)であっても、2以上の異なるアミノ酸からなる重合物(ヘテロポリアミノ酸)のいずれであってもよい。好ましくは上記非極性アミノ酸からなる重合物であり、一例を挙げればポリアラニン、ポリメチオニン、ポリシステイン、ポリフェニルアラニン、ポリロイシン、ポリバリン、ポリイソロイシンなどの同一非極性アミノ酸からなる重合物を挙げることができる。これらの重合物は、制限されないが、分子量が5万以下、好ましくは2万以下、より好ましくは1万以下、特に好ましくは5000以下、さらに好ましくは2000以下であるものが好ましい。
【0040】
これらの非極性アミノ酸、非極性アミノ酸重合物またはそれらの塩(非極性アミノ酸類)は1種単独で使用することもできるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。さらに、これらの非極性アミノ酸類は、極性アミノ酸、その重合物またはそれらの塩(極性アミノ酸類)と組み合わせて使用することもできる。ここで極性アミノ酸としては、疎水性インデックスが0未満のものを意味し、例えばスレオニン(HI:-0.7)、セリン(HI:-0.8)、トリプトファン(HI:-0.9)、チロシン(HI:-1.3)、プロリン(HI:-1.6)、グルタミン酸(HI:-3.5)、アスパラギン酸(HI:-3.5)、グルタミン(HI:-3.5)、アスパラギン(HI:-3.5)、ヒスチジン(HI:-3.2)、リジン(HI:-3.9)、およびアルギニン(HI:-4.5)などのタンパク質構成アミノ酸のほか、それ以外のアミノ酸(例えば、前述する「生化学データブックI」の表2・4(第33〜59頁)参照)を挙げることができる。
【0041】
本発明の水配合コーティング組成物に配合される非極性アミノ酸類の割合は、本発明の効果を奏する限りにおいて特に制限されず、水配合コーティング組成物中に含まれる石灰の種類やコーティング組成物の用法(例えば、薄塗りや厚塗りの別など)や塗装方法、ならびに使用する塗装機または塗装具の種類の別などに応じて、水配合コーティング組成物100重量%あたり通常0.001〜10重量%の範囲から適宜選択することができる。好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上である。これらの非極性アミノ酸類は配合量の増加に応じてその効果を増すため、上限は特に制限されないが、経済的観点などから10重量%を限度として、好ましくは8重量%、より好ましくは5重量%の割合を例示することができる。
【0042】
(e)キレート化合物
本発明のコーティング組成物には、上記(a)石灰、(b)水、(c)結合材および(d)非極性アミノ酸類に加えて、(e)キレート化合物を配合することができる。
【0043】
ここで使用するキレート化合物は、キレート作用に基づいてカルシウムイオンなどの金属イオンを捕捉ないしは封鎖するイオン封鎖能を有する化合物(イオン封鎖剤)であり、かかる作用を有するものであれば、特にその種類を制限するものではない。通常分子量が2000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは700以下、さらに好ましくは600以下、さらにまた好ましくは500以下、特に好ましくは50〜450程度の分子量を有する低分子量のキレート化合物である。
【0044】
かかるキレート化合物として、カルボン酸系キレート化合物、ホスホン酸系キレート化合物、燐酸系キレート化合物、スルホン酸系キレート化合物、および還元性有機酸系キレート化合物などの有機系キレート化合物;ケイ酸塩、リン酸塩及び硫酸塩といった無機系キレート化合物を挙げることができる。これらのキレート化合物は、いずれも当業者で周知である。
【0045】
制限はされないが、カルボン酸系キレート化合物としては、シュウ酸、プロピオン酸、スピクルスポール酸(spiculisporic acid)、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、マロン酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、アミノ酢酸およびこれらの異性体等のカルボン酸またはその塩;クエン酸、イソクエン酸、酒石酸、グルコン酸、ヘプトグルコン酸、ヒドロキシマロン酸、乳酸、リンゴ酸、グリコール酸、グルクロン酸、β-D-グルコピラヌロン酸、サリチル酸、マンデル酸、グルコヘプタン酸、アラボン酸、およびこれらの異性体等のヒドロキシカルボン酸またはその塩;グリシン、ニトリル三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミンコハク酸、ジエチレントリアミノ五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、L-グルタミン酸二酢酸(GLDA)、L-アスパラギン酸二酢酸(ASDA)、1,3-プロパンジアミン四酢酸(PDTA)、ジメルカプトールコハク酸(DMSA)、及びメチルグリシン二酢酸(MGDA)などのアミノカルボン酸またはその塩;ジヒドロキシエチルグリシン(DEG)、トリエタノールアミン(TEA)、N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸(HEIDA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸(DHEDDA)、及び1,3-ジアミノ-2-ヒドロキシプロパン四酢酸(DPTA-OH)等のヒドロキシアミノカルボン酸またはその塩;カルボキシメチルタルトロン酸(CMT)、及びカルボキシメチルオキシ琥珀酸(CMOS)等のエーテルカルボン酸またはその塩;などを挙げることができる。なお、水中で遊離して上記のカルボン酸となる化合物、例えば水中で遊離してグルコン酸となるグルコノデルタラクトンまたはその塩も本発明でいうカルボン酸系キレート化合物に含まれる。
【0046】
ホスホン酸系キレート化合物としては、フィチン酸、アミノメチレンホスホン酸(NMP)、アミノトリメチルホスホン酸(NTMP)、メチレンホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸等のヒドロキシエタンジホスホン酸(HEDP)、ホスホノブタントリカルボン酸(PBTC)等のホスホノカルボン酸誘導体、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(EDTMP)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(NTMP)、並びにこれらの塩を挙げることができる。
【0047】
スルホン酸系キレート化合物としては、ジメルカプトプロパノールスルホン酸(DMPS)またはこの塩を挙げることができる。
【0048】
還元性有機酸系キレート化合物としては、クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸などの還元性(抗酸化作用)を有する有機酸ならびにこれらの塩を挙げることができる。
【0049】
無機系キレート化合物としては、メタケイ酸ナトリウム、セスキケイ酸ナトリウムおよびオルソケイ酸ナトリウム等のケイ酸塩;オルソ燐酸ナトリウム、リンピロ燐酸ナトリウム、トリポリ燐酸ナトリウム、テトラ燐酸ナトリウム、ヘキサメタ燐酸ナトリウム等の燐酸塩;硫酸ナトリウムおよびスルファミン酸等の硫酸塩を挙げることができる。好ましくは燐酸塩である。ケイ酸塩は、他の無機系キレート化合物または有機系キレート化合物と組み合わせて使用することが好ましい。
【0050】
上記に掲げる各種化合物の塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、またはストロンチウム塩などのアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;プロトン化されたアミンまたはプロトン化されたアルカノールアミンの塩;亜鉛や鉄などの金属塩を例示することができる。好ましくはナトリウム塩である。なお、これらの各種キレート化合物は水和物であってもよい。
【0051】
これらのキレート化合物は1種単独で使用することもできるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0052】
本発明の水配合コーティング組成物に配合されるキレート化合物の割合は、本発明の効果を奏する限りにおいて特に制限されず、そのカルシウムイオン封鎖力(捕捉力)に応じて、またコーティング組成物中に含まれる石灰の種類やコーティング組成物の用法(例えば、薄塗りや厚塗りの別など)や塗装方法、ならびに使用する塗装機または塗装具の種類の別などに応じて、水配合コーティング組成物100重量%あたり通常0.01〜5重量%の範囲から適宜選択することができる。制限はされないが、好ましくは0.02〜3重量%、より好ましくは0.05〜2重量%、さらに好ましくは0.05〜1重量%、特に好ましくは0.05〜0.5重量%の割合を例示することができる。
【0053】
前述するように本発明のコーティング組成物は、(a)石灰、(b)水、(c)結合材および(d)非極性アミノ酸類を基本成分とし、さらに必要に応じて(e)キレート化合物を含有するものであるが、本発明の効果を奏することを限度として、他の成分を含有することができる。かかる成分としては好適には、(g)顔料、特に白色顔料、および(h)骨材を挙げることができる。
【0054】
(g)顔料
本発明に用いられる白色顔料としては、有機顔料及び無機顔料の別を問わないが、好ましくは無機の白色顔料である。具体的には、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、リトポン、鉛白、アンチモン白及びジルコニアよりなる群から選択される少なくとも1種の無機白色顔料を例示することができる。これらは1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて用いることもできる。好ましくは酸化チタン、または酸化チタンと他の白色顔料との組み合わせである。酸化チタンは、白色顔料としての使用態様を備えるものであれば、光触媒機能を備えるものであってもよく、ルチル形、アナタース形及びブルッカイト形のいずれも使用することができる。好ましくはルチル形である。なお、酸化チタンは分散性や耐久性などの性能の向上を目的としてAl23・nH2OやSiO2・nH2O等の含水金属酸化物などで表面処理されていてもよい。
【0055】
白色顔料の配合割合は、本発明の効果を妨げるものでなければよく、特に制限されない。例えば、水配合コーティング組成物の固形分100重量%あたりの配合割合として、固形換算で例えば0.05〜40重量%、好ましくは0.25〜30重量%、より好ましくは0.5〜25重量%を例示することができる。なお、白色顔料の配合割合を多くするほど、塗り継ぎむらが抑制でき、また水配合コーティング組成物を着色した場合の発色や着色安定性がよく、さらに皮膜の色むら、色褪せ(色飛び)および色差が抑制できるという効果が高まる傾向にあるが、コーティング組成物の分散性および保存安定性を考慮して、通常は上記範囲から適宜調整することができる。
【0056】
また顔料として着色顔料(有色顔料)を配合することができる。なお、着色顔料(有色顔料)は上記白色顔料と組み合わせて配合することにより、良好かつ均一に発色し、色むら(塗り継ぎむらを含む)、色飛びおよび色差が有意に抑制された皮膜を形成することができる。
【0057】
着色顔料としては、白以外の有色顔料であれば、特に制限されない。また、有機顔料及び無機顔料の別を問わない。具体的にはカーボンブラックや酸化鉄(鉄黒)等の黒色顔料:カドミウムレッド,べんがら(赤色酸化鉄),モリブデンレッド、鉛丹等の赤色顔料:黄鉛(クロムイエロー),チタンイエロー,カドミウムイエロー,黄色酸化鉄(黄鉄),タン,アンチモンイエロー,バナジウムスズイエロー,バナジウムジルコニウムイエローの黄色顔料:酸化クロム,ビリジアン,チタンコバルトグリーン,コバルトグリーン,コバルトクロムグリーン,ビクトリアグリーン、フタロシアニングリーン等の緑色顔料:または群青,紺青,コバルトブルー,セルリアンブルー,コバルトシリカブルー,コバルト亜鉛シリカブルー等の青色顔料などを例示することができる。好ましくは、耐アルカリ性の着色顔料であり、より好ましくは、黒色酸化鉄(鉄黒)、べんがら(赤色酸化鉄)、または黄色酸化鉄(黄鉄)などの酸化鉄や群青等の酸化金属、またはカーボンブラックを主成分とする着色顔料である。なお、これらは1種単独で使用されても、また2種以上を任意に組み合わせてもよく、所望の色になるように組み合わせや配合割合を適宜調整することができる。また色土を使用することもできる。 着色顔料の配合割合は、使用する着色顔料の種類や希望する着色の色によって適宜調整することができ、特に制限はされない。
【0058】
(h)骨材
また本発明の水配合コーティング組成物には、皮膜に意匠性を与える目的で(h)骨材を配合することができる。骨材を配合したコーティング組成物で吹き付けして形成する仕上げ方法は、一般にじゅらく仕上げまたは吹き付けリシン仕上げなどと称されるが、この場合に皮膜の一体性や付着性が悪いと、骨材が剥落するという問題が生じる。本発明の水配合コーティング組成物によれば、非極性アミノ酸類の配合によって粘性が生じ、皮膜の一体性および皮膜の付着力が向上する結果、じゅらく仕上げまたは吹き付けリシン仕上げをした場合に問題となる骨材の剥落を有意に防止することができる。
【0059】
本発明で使用する(h)骨材としては、制限されないが、例えば珪砂、寒水砂、パーライト,バーミキュライト,シラス球及び汚泥焼成骨材などの再生骨材等の無機質骨材(細骨材)の他、カオリン、ハロイサイト、モンモリロナイト、ベントナイト、ギブサイト、マイカ、セラミックサンド、ガラスビーズ、パーライト、酸性白土、陶石、ロウ石、長石、石灰石、石膏、ドロマイト、マグネサイト、滑石、トルマリン、珪藻土、ゼオライト、鉄粉、フライアッシュなどの天然無機質材料;水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、天然カルシウム等の水不溶性金属水酸化物;トベルモナイトやゾノトライト等のケイ酸カルシウム系水和物;カルシウムアルミネート水和物、カルシウムスルホアルミネート水和物等の各種酸化物の水和物;アルミナ、シリカ、含水ケイ酸、マグネシア、酸化亜鉛、スピネル、合成炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、チタン酸カリウムなどの合成無機質などの粉末状、繊維状もしくは粒状の無機材料を挙げることができる。
【0060】
またかかる骨材とともに、または骨材に代えて、繊維や繊維粉を配合することもできる。かかる繊維としては、従来漆喰材料に使用されている天然繊維やポリエチレンやテトロンなどの化学繊維や小麦ファイバーなどを挙げることができる。天然繊維としては、はますさ、白毛すさ、南京すさ、さらしすさ、油すさ、および紙すさなどを挙げることができる。
【0061】
本発明の水配合コーティング組成物の粘度は、慣用の塗料または塗材として使用できる粘度であれば特に制限されない。拘束はされないが、コーティング組成物をスプレー、ローラー若しくは刷毛塗りまたは工業用塗装機による塗装に適するように調製する場合は、25℃で300cps以上、好ましくは300〜10,000cps、より好ましくは700〜10,000cpsの範囲を、また鏝塗りに適するように調製する場合は25℃で2,000〜30,000cps、好ましくは5,000〜20,000cpsの範囲となるように調製することができる。コーティング組成物の粘度調整は、固形分含量(水分含量)を調節したり、結合剤の種類やその配合割合を調節したり、また必要に応じてさらに増粘剤を配合して調節してもよい。
【0062】
ここで増粘剤は、水との相溶性がよく水溶性または水分散性を有し、さらに水配合コーティング組成物の主成分である消石灰と相溶性のあるものが好適に使用される。具体的には親水性高分子化合物を例示することができる。
【0063】
親水性高分子化合物としては、第4級アンモニウム塩基やアミノ基等のカチオン性の親水性基を有するカチオン性の親水性高分子化合物を例示することができる。かかる親水性高分子化合物として、具体的にはアミノアルキル(メタ)アクリレート4級塩(共)重合体、ポリアミノメチルアクリルアミドの塩若しくは第4級アンモニウム塩、アクリルアミド/アミノメチルアクリルアミド共重合体の塩もしくは第4級アンモニウム塩、ポリアミノメチルアクリルアミドの塩若しくは4級塩、キトサンの塩酸塩,硫酸塩若しくは酢酸塩、カチオン化デンプン、ポリエチレンイミン、ビニルピロリドン/ジメチルアミノエチルメタクリレート4級化物の共重合物、ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド化グアガム、ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド化デンプンなどが例示される。
【0064】
また親水性高分子化合物として、水酸基、エーテル基、アミド基等の非イオン性の親水性基を有するノニオン性の親水性高分子化合物を例示することができる。かかる親水性高分子化合物として、具体的にはポリビニルアルコール、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物のホルマリン縮合物、ポリエチレンポリアミンプロピレンオキサイド・エチレンオキサイド付加物、アルキルアミンのアルキレンオキサイド付加物、ポリアルキレングリコール共重合物、ポリグリコールエステル、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合物;グアガム、ローカストビーンガム、トラガカントガム、カラヤガム、クリスタルガム、プルラン、キサンタンガムの天然のガム剤;メチルセルロース,エチルセルロース,ヒドロキシメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース誘導体が例示される。
【0065】
好ましくは、水配合コーティング組成物中に存在し得る、例えば石灰などの電解性物質の挙動に影響を与えず、その存在に関わらず使用できる点から、ノニオン性の親水性高分子化合物である。中でも好ましくは天然のガム質、およびセルロース誘導体である。
【0066】
また、増粘剤として水酸基を有する親水性高分子化合物を用いることもできる。ここで水酸基を有する親水性高分子化合物として、具体的には燐酸デンプン、カチオン化デンプン、デンプン/アクリル酸/アクリル酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド化デンプンなどのデンプン類;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース誘導体;キサンタンガム、ジェランガム、アラビアガム、カラギーナン、アルギン酸またはその塩、キトサンまたはその塩、ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド化グアガム、グアガム、ローカストビーンガム、タラガム、カードラン、プルラン、キチン、タマリンドシードガム、デキストラン、デキストリンなどの多糖類;ポリビニルアルコール;グリセリンやポリエチレングリコールなどの多価アルコールなどを例示することができる。
【0067】
好ましくは、水酸基を有するノニオン性の親水性高分子化合物である。かかるものとして、好ましくは、メチルセルロース,エチルセルロース,ヒドロキシメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース誘導体を挙げることができる。
【0068】
また親水性化合物として、糖類を配合することもできる。例えば、グルコース、フラクトース、ガラクトース、マンノース、キシロース、アラビノース、リボース等の単糖類:マルトース、シュークロース、ラクトース、トレハロース等の二糖類:マルトトリオース、ラフィノース等の三糖類:オリゴ糖:及びソルビトールなどの糖アルコース等の糖類を挙げることができる。
【0069】
水配合コーティング組成物に配合する上記各種の親水性高分子化合物の割合は、特に制限されず、水配合コーティング組成物の固形分100重量%あたりに含まれる割合として固形換算(総量)で通常0.01〜5重量%の範囲から適宜選択することができる。好ましくは0.03〜3重量%、より好ましくは0.05〜2重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%である。なお制限はされないが、水配合コーティング組成物100重量%中に親水性高分子化合物が0.003〜3重量%、好ましくは0.009〜2重量%、より好ましくは0.015〜2重量%、さらに好ましくは0.03〜1重量%の割合となるように調整することが望ましい。
【0070】
(f)ケイ素化合物
なお、(e)キレート化合物を含有する本発明の水配合コーティング組成物には、(f)ケイ素化合物(一酸化ケイ素、二酸化ケイ素、ケイ酸、ケイ酸塩(ケイ酸カルシウム、ケイ酸ナトリウムなど)、窒化ケイ素、炭化ケイ素、四塩化ケイ素、シラン、シリコン、ケイ素樹脂)またはこれを成分として含む物質(例えば、珪藻土、シリカ、ゼオライト、セピオライト、フライアッシュ、水ガラスなど)を好適に配合することができる。通常、水酸化カルシウムの中に可溶性シリカを配合すると、ポゾラン反応が生じ、不溶性のシリカ質化合物が生成して硬化する。本発明のコーティング組成物はキレート化合物を配合していることにより、ケイ素化合物を配合した場合でもポゾラン反応(硬化現象)が抑制され、水含有状態で流動性が維持できるという長所を備えている。なお、これらのケイ素化合物の配合割合は特に制限されない。例えば、珪藻土、シリカ、ゼオライト、セピオライト、またはフライアッシュなどの場合、水配合コーティング組成物100重量%中、0.5〜90重量%の範囲から選択することができ、通常1〜60重量%、好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは5〜20重量%の割合を挙げることができる。また水ガラスなどのケイ酸ナトリウムの濃水溶液の場合、水配合コーティング組成物100重量%中に0.1〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%の割合で配合することができる。
【0071】
さらに本発明の水配合コーティング組成物には、その他の任意成分として、本発明の効果を妨げない範囲で、体質顔料、油、光触媒、分散剤、湿潤剤、減水剤、流動化剤、消泡剤、pH調整剤、界面活性剤、防水剤等を配合することもできる。
【0072】
ここで体質顔料としては、タルク,カオリンクレー,水酸化アルミニウム,炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム、軽質(沈降性)炭酸カルシウム),ベントナイト,硫酸バリウム(沈降性硫酸バリウム、バライト粉)、ホワイトカーボン、シリカなどを例示することができる。
【0073】
油としては、従来漆喰材料に使用されている油を広く使用することができ、例えば菜種油、亜麻仁油、サフラワー油、ヒマワリ油、アボガド油、月見草油、大豆油、トウモロコシ油、落花生油、綿実油、胡麻油、コメ油、ナタネ油、オリーブ油、ヒマシ油、エマ油、キリ油、ニガー種子油、カポック油、紅花油、むらさき種子油、サクラソウ種子油、ツバキ油等の各種の植物油を挙げることができる。
【0074】
光触媒としては光触媒活性を有する酸化物を例示することができる。かかる光触媒活性を有する酸化物としては、酸化チタン、酸化ルビジウム、酸化コバルト、酸化セシウム、酸化クロム、酸化ロジウム、酸化バナジウム、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化レニウム、酸化第二鉄、三酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化ビスマス、酸化ルテニウム、チタン酸ストロンチウム、酸化モリブデン、酸化ゲルマニウム、酸化鉛、酸化カドミウム、酸化銅、酸化ニオブ及び酸化タンタルなどの無機酸化物が例示できる。
【0075】
分散剤及び湿潤剤としては、いずれも通常塗料や塗材に配合して用いられるものの中から適宜選択することができ、例えばアルキルナフタレンスルホン酸ソーダのホルマリン縮合物、ポリアクリル酸共重合体、アクリル酸−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ポリオキシエチレンの脂肪酸エステルやアルキルフェノールエーテル、スルホコハク酸誘導体、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドとのブロックポリマーなどを例示することができる。
【0076】
減水剤または流動化剤としては、リグニンスルホン酸系、ナフタレンスルホン酸系、メラミンスルホン酸系、ポリスチレンスルホン酸系、ポリカルボン酸系などの界面活性剤を例示することができる。
【0077】
消泡剤としては、通常塗料、塗材や建築用吹き付け材に配合して用いられるものの中から適宜選択することができる。例えば、オクチルアルコール、グリコール誘導体、シクロヘキサン、シリコン、プルロニック系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の各種の抑泡剤及び破泡剤を挙げることができる。
【0078】
防水剤としては、特に制限されないが、シリコーンオイル、シリコーン樹脂、オルガノアルコキシシラン等を例示することができる。
【0079】
本発明の水配合コーティング組成物の調製は、基本的に上記の各成分を混合して塗材または塗料の常套方法、例えば調合用機器(ミキサー、シェーカー、ミル、ニーダーなど)等を用いて混合することにより実施することができる。このとき、使用用途や塗工方法に応じて適宜所望の粘度に調整することもできる。
【0080】
斯くして調製される本発明の水配合コーティング組成物は流動性に優れており、ローラー塗装や刷毛塗りはもとより、スプレー(エアースプレー、エアレススプレー、低気圧霧化スプレーなど)を用いた塗装や、フローコーター、ロールコーター、バキュームコーターなどの工業用塗装機(自動塗装機)を用いた塗装に好適に用いることができる。また本発明の水配合コーティング組成物は、粘性を有するため被塗物(基材)に対する付着力が強く、しかも分散性がよいため付着強度が均一かつ安定してなる塗膜(耐久性に優れた塗膜(皮膜))を形成することができる。さらに本発明の水配合コーティング組成物は粘性を有するため、形成した塗膜(皮膜)の、特に乾燥初期に生じるひび割れや強制乾燥によって生じるひび割れを抑制することができる。このように本発明の水配合コーティング組成物は、工業用塗装機(自動塗装機)による塗装および強制乾燥が可能であるため、工業ラインでの塗装に使用でき、化粧ボートや化粧シートなどの、被覆層を有するボートやシートを工業的に大量に製造するのに好適に用いることができる。
【0081】
しかしこれに限定されず、本発明の水配合コーティング組成物は、建築用および土木用の塗材、塗料、シーラー、プライマー、または接着材などとして、また繊維製品のコーティング材や接着材などとして、さらに家具やオフィス用具等の塗材、塗料、シーラー、プライマー、または接着材などとして広く用いることができる。具体的には例えば各種建築物の天井面や壁(内・外壁)面等の内装面及び外装面の塗装(塗工);建築物の天井や壁(内・外壁)の下地材や化粧材として用いられる各種の建築用部材(クロス、パネル、ボード)の塗装(塗工);カーテン、カーペット、椅子張地、カーシートカバー、靴内貼り地、インソールなどの繊維製品のコーティング;建具、洋服入れ、タンス、机、書棚および下駄箱などの家具、流し台や洗面台などの水周り家具、パーティション、書棚および机などのオフィス用具、またはこれらの部材の塗装(塗工);またトンネル壁面、ガードレール、遮音壁及び防護壁などの道路構造物の表面、及び橋梁構造物の表面等の塗装(塗工);並びにトンネル壁、遮音壁、防護壁などの各種壁材や橋梁構造物の各種部材等の土木用部材(パネル、ボード、柱)の塗装(塗工)に使用することができる。
【0082】
II.コーティング組成物包装体
上記本発明の水配合コーティング組成物は、調製後、耐水性容器に充填され、当該容器に収納された状態で提供される。よって、本発明は上記水配合コーティング組成物を容器内に収納してなるコーティング組成物包装体を提供する。
【0083】
ここで水配合コーティング組成物を収容するために使用される容器は、耐水性であることが必須であるが、コーティング組成物の液性から、さらに少なくとも該組成物と接触する内側面が耐アルカリ性を有するものであることが好ましい。このためには、耐アルカリ性容器を用いる方法、フィルムや缶などの容器の内側面を耐アルカリ性樹脂でコーティングする方法、容器の内側面に耐アルカリ性樹脂フィルムを採用する方法などを用いることができる。
【0084】
また容器として可撓性容器を用いることもできる。可撓性容器としては、フィルムもしくはシートからなる容器を挙げることができるが、かかる容器は水配合コーティング組成物に含まれる消石灰の二酸化炭素吸収による固化を防止するために、二酸化炭素バリア性を有していることが好ましい。かかる二酸化炭素バリア性を有する容器としては、容器内に収容された水配合コーティング組成物が悪影響(固化)を受けない程度に二酸化炭素透過抵抗性を有するものであればよい。一般に二酸化炭素バリア性素材として、ポリ塩化ビニリデン系樹脂(PVDC)、各種の(ポリ)塩化ビニリデンコートフィルム、エチレンビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物(EVOH)コートフィルム、ポリエステル(特にPVDCコートポリエステル)、ナイロン(特にPVDCコートナイロン)、ポリビニルアルコール、ビニロン、塩化ビニリデン、セロハン(ラッカーコートセロハン、ポリマーコートセロハン)、アルミ箔ラミネートフィルム、酸化ケイ素や酸化アルミニウムなどの無機物質の蒸着フィルムなどの合成樹脂が知られている。本発明においては、特に制限されることなく二酸化炭素バリア性のあるフィルムを任意に選択して使用することができる。なお、一般に、本発明が対象とする水配合コーティング組成物を耐水性容器に気密状態で収容し、常温(20±5℃)で少なくとも1ヶ月間保存した場合に、内部の水配合コーティング組成物に硬化が認められない場合は、当該容器は二酸化炭素バリア性があると判断できる。
【0085】
好適な容器としては、上記素材に限定されることなく、200g/m/24hrs/atm(20℃、dry)以下の二酸化炭素透過度を有するフィルムで構成されたものを例示することができる。好ましくは100g/m/24hrs/atm(20℃、dry)以下、より好ましくは50g/m/24hrs/atm(20℃、dry)以下、さらに好ましくは20g/m/24hrs/atm(20℃、dry)以下、さらに好ましくは10g/m/24hrs/atm(20℃、dry)以下である(ASTM D1434−58、厚さ25.4μ)。このような二酸化炭素バリア性を有する容器は、公知のガスバリア性素材、特に二酸化炭素透過バリア性素材の厚みを調整したり、フィルムを該素材からなるラミネート層を含むように2層以上の複層若しくは多層フィルムとして調製することで達成することができる。
【0086】
さらに容器は、内部に収容した水配合コーティング組成物から水分が蒸散することによる乾燥固化をより強固に防止して安定性を高めるために、さらに水蒸気バリア性を備えていることが好ましい。かかる水蒸気バリア性は、容器内に収容された水配合コーティング組成物が悪影響(乾燥固化)を受けない程度に、水蒸気透過抵抗性を有するものであればよい。
【0087】
水蒸気バリア性素材として、ポリ塩化ビニリデン系樹脂(PVDC)、各種(ポリ)塩化ビニリデンコートフィルム、防湿セロハン(ラッカーコートセロハン、ポリマーコートセロハン)、ポリエステル、PVDCコートポリエステル、PVDCコートナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン(低密度、中密度、高密度、特に高密度ポリエチレン)、リニアローデンポリエチレン、延伸ポリエチレン、無延伸ポリプロピレン、延伸ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、アルミ箔ラミネートフィルム、酸化ケイ素や酸化アルミニウムなどの無機物質の蒸着フィルムなどの合成樹脂が知られている。なお、一般に、本発明が対象とする水配合コーティング組成物を耐水性容器に気密状態で収容し、常温(20±5℃)で少なくとも1ヶ月間保存した場合に、内部の水配合コーティング組成物に乾燥固化が認められない場合は、当該容器は水蒸気バリア性があると判断できる。
【0088】
好適な可撓性容器としては、上記素材に限定されることなく、40g/m・24hrs(37.8℃、90%RH)以下の水蒸気透過度を有するフィルムで構成されたものを例示することができる。水蒸気透過度として、好ましくは30g/m・24hrs(37.8℃、90%RH)以下、より好ましくは20g/m・24hrs(37.8℃、90%RH)以下、さらに好ましくは10g/m・24hrs(37.8℃、90%RH)以下である(ASTM E−96、厚さ25.4μ)。このような水蒸気バリア性は、公知の水蒸気バリア性素材の厚みを調整したり、フィルムを該素材からなるラミネート層を含むように2層以上の複層若しくは多層フィルムとして調製することで達成することができる。
【0089】
また可撓性容器は、一種の樹脂から構成される単層フィルムからなるものであっても、また2種以上の樹脂フィルムの積層構造(ラミネート層またはコート層)を有する複層若しくは多層フィルムからなるものであってもよい。また、なお、無延伸フィルム、延伸フィルム(一軸延伸、二軸延伸)の別を問うものではない。好ましくは少なくとも一面がポリビニルアルコール(PVA)樹脂でコーティングされたフィルム(PVAコート2軸延伸ポリプロピレンフィルムなど)、少なくとも一面がポリ塩化ビニリデン(PVDC)樹脂でコーティングされたフィルム(PVDCコート2軸延伸ポリプロピレンフィルム、PVDCコートポリエステルフィルム、PP/PVA/PVDC/PPなど)、ポリオレフィン無延伸共押出多層フィルム(PP/PE/PP、ポリオレフィン(PE、PP等)/ポリ塩化ビニリデン/ポリオレフィン)などが例示されるが、特にこれらに制限されるものではない。
【0090】
上記においてさらにより最適な容器としては強度、耐衝撃性、耐ピンホール性、ヒートシール性、または耐アルカリ性といった性質に優れた合成樹脂を素材とするフィルムから構成されることが好ましい。かかる種々異なる性質を充足させるために、複層又は多層フィルムを使用してもよい。この場合、少なくとも容器の内側層に耐アルカリ性及びヒートシール性を持たせることが好ましい。耐アルカリ性樹脂としては塩化ビニル、酢酸ビニル、ウレタン樹脂などを例示することができる。好ましくはビニルポリマーの単独重合体(例えば、重量平均分子量2万以上のものが例示される)もしくは共重合体及び/または耐アルカリ性ウレタン樹脂(例えば、重量平均分子量10万以上のものが例示される)を含むものであり、特にポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体を好適に例示することができる。なお、本発明において耐アルカリ性とは、内容物であるコーティング組成物を入れて常温で3ヶ月、好ましくは6ヶ月放置した場合でも、目視で容器フィルムの溶解や腐蝕が観察されないことをいう。より好適には下記の加速試験で耐アルカリ性が得られるものを用いることが望ましい。
【0091】
<耐アルカリ性評価の加速試験>
耐水性容器に1規定の水酸化カリウム水溶液を入れ、50℃の恒温器中に6時間放置し、次いで室温に18日間放置した後に、水酸化カリウム水溶液を取り出して、目視で容器内面の溶解や腐蝕の有無を評価する。
【0092】
フィルムの場合、採用する厚さ(容器の厚さ)は、上記二酸化炭素バリア性および水蒸気バリア性を充足することを限度として特に制限されないが、好ましくは3〜30μm、より好ましくは5〜200μmである。厚さが2μm未満であると、強度、耐衝撃性、耐ピンホール性及び二酸化炭素透過バリア性が不十分となり易く、また300μmを著しく超えると可撓性(柔軟性)や透明性が不十分になりやすい。より好ましくは10〜100μmであり、さらに好ましくは10〜80μmである。
【0093】
フィルムとしての透明性は特に要求されないが、内容物として収容するコーティング組成物が耐候性に優れているため光による影響が少ないこと、及び内容物が外から認識できるほうが商品として好ましいことから、透明性を有することが望ましい。この場合、透明性とは目視により内容物がみえることを意味する。
【0094】
さらに本発明で用いる可撓性容器は、使用時に開封しやすいように、易引裂性を備えていてもよい。易引裂性技術としては従来公知の技術を任意に使用することができ、例えばVノッチやUノッチの形成、ティアテープ使用、針状フィラーの使用、ミシン目形成、またはフィルム表面に微細な傷を付ける等の方法が例示できる。また、上記性質を充足することを限度として、フィルムの中間層に一軸延伸ポリオレフィンフィルムをラミネートした易開封性材料(例えば、二軸延伸ポリエステルフィルム/一軸延伸ポリオレフィンフィルム/無延伸ポリオレフィンフィルムの三層ラミネートフィルムなど)を使用することもできる。また本発明で用いる容器は、開口部にジッパーなどの再閉鎖手段を備えていてもよい。
【0095】
かかる可撓性容器へのコーティング組成物の充填・密封方法は特に制限されないが、好ましくは、充填時に空気ができるだけ混入しないように充填し、次いで充填口をヒートシール(バーシール、熱溶融シール、熱溶断シール)、インパルスシール、高周波シールまたは超音波シールなどの常法に従って気密封鎖(密封)する方法を挙げることができる。なお、空気ができるだけ混入しないように充填する方法としては、例えば脱気条件、真空条件またはN2ガス置換条件下で充填する方法やコーティング組成物を容器に充填した後、脱気しながら充填口を封鎖する方法を例示することができる。
【0096】
石灰は高いチクソトロピックな流動特性を備えているため、その水分散体を一定期間静置しておくと凝集して流動性が極めて悪くなる。これは攪拌など力を与えることで、もとの流動性に戻るものの、静置すると再び凝集して流動性が悪くなる。これに対して、本発明の非極性アミノ酸を配合した水配合コーティング組成物、好ましくはさらにキレート化合物を配合した水配合コーティング組成物は、これら成分の作用によって石灰が本来有する高いチクソトロピックな流動特性が緩和低減されて凝集が抑制されるという特長を備えている。このため、上記耐水性容器(通常の塗料収納容器、及び可撓性容器を含む)に充填収容された水配合コーティング組成物は、かかる包装体の形態で、調製時の均一な状態(流動性、粘度)を安定に保つことができる。このため、従来必須であった使用時の再攪拌や揉みほぐしなどの手間を簡略化することが可能である。
【0097】
III.ボードまたはシート、およびこれらの製造方法
上記本発明の水配合コーティング組成物は、ボートやシートの製造に好適に用いることができる。よって、本発明は上記水配合コーティング組成物から形成される被覆層を基材(被塗物)表面に有するボードまたはシートを提供する。
【0098】
本発明が対象とする基材としては、特に制限されないが、ボード(パネルを含む)状、フィルム状、およびシート(クロスを含む)状の基材を挙げることができる。
【0099】
ボード(パネルを含む)状の基材は、上記本発明の水配合コーティング組成物がその表面に皮膜を形成することができる板状物であればよく、この限りにおいて特に制限するものではない。本発明の水配合コーティング組成物は、ボード表面に直接皮膜形成を行ってもよいが、ボード表面を下地処理剤(シーラー)等で処理した後、その上から皮膜形成を行うこともできる。ボードとしては、制限されないが、例えば建築用の内装(室内の壁や天井等)や外装に用いられるボード材料及びパネル材料を広く挙げることができる。具体的には、木質板(無垢材を含む)、合板、中密度繊維板、プラスチック板、セメントモルタル、石綿セメント珪酸カルシウムボード、中空セメント板、木質セメント板、パネルセメント板、ロックウール板、木毛セメント板、鋼板パネル、金属板パネル、コンクリート板、PCパネル、ALCパネル、石綿スレート、石膏ボード、パーティクルボード、発泡セメントボード、木片セメント板、ケイ酸カルシウムボード、スラグセメントボード、ウッド・プラスチックコンビネーション、サイディングボード、インシュレーションボード、火山性ガラス質複層板などを例示することができる。好ましくは、石膏ボード、石膏パーティクルボード、木質板、中密度繊維板、珪酸カルシウムボード、プラスチック板、ステンレス,鉄,銅またはアルミニウムなどの金属製のパネル(金属パネル)、サイディングボード(金属系、窯業系を含む)等である。
【0100】
ボード状基材は、その表面(被膜形成面)があらかじめ塗装やコーティング処理などの下地処理、またはシートが貼付されるなど、前処理されていてもよい。またボードが木質などのように可燃性材料からなるものである場合、あらかじめ難燃処理(準不燃処理、不燃処理または耐火処理)されていてもよい。
【0101】
またシート(クロスを含む)状の基材は、上記本発明の水配合コーティング組成物をその表面に塗布できるシート状物であればよく、この限りにおいて特に制限するものではない。ボードと同様、シート表面を下地処理剤(シーラー)等で処理した後、その上から皮膜形成を行うこともできる。
【0102】
例えば、シート状基材としては紙や各種天然繊維や人工繊維からなる不織布または織布等の繊維質シートを挙げることができる。具体的には、紙としては和紙、障子紙、襖紙、洋紙(上質紙、中質紙)、クラフト紙、薄葉紙、裏打紙、樹脂含浸紙等、ボール紙、厚紙、キャストコート紙、発塵を抑えた無塵紙、無機粉体(水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、活性炭等の多孔質粉体、耐熱粉体など)を内填した機能性紙、および特殊紙(耐水紙、抗菌紙、蛍光紙、難燃性裏打紙、準不燃紙、不燃紙、耐熱紙)などの各種の紙基材のいずれであってもよい。例えば、上記難燃性裏打紙としては、金属箔(例えば、アルミ箔や銅箔など)をラミネートするなどして難燃処理を施した紙であって壁紙、およびボードやパネルの化粧仕上げに適したものが包含される。かかる難燃性裏打紙は、可燃性木質ボードの化粧仕上げに好適に使用することができる。
【0103】
繊維質シートとしては、例えば天然繊維;ガラス繊維;またはポリプロピレン、アクリル、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ビニロン等の合成繊維などを構成素材として得られる多孔性の織布や不織布、編み物等を挙げることができる。なお、上記素材は、1種単独で用いられても、また2種以上を任意で組み合わせて用いることもできる。またその他、PTセロファン、MSTセロファン、Kセロファン、LDPE、MDPE、HDPE、アイオノマー、EVA、CPP、OPP、KOP、PET、KPET、CN、ON、Kナイロン、ビニロン、エチレン酢ビコポリマーケン化物、PDVC、硬化PVC、軟化PVC、アセテート、ポリカーボネート、HIPS、OPS、ポリブタジエン、収縮PVC、収縮PP、収縮PE、発泡PE、発泡PSなどの紙以外のシート基材;ステンレス、鉄、銅またはアルミニウム等の金属製のシートを挙げることができる。なお、シートはメッシュシートであってもよい。
【0104】
本発明が対象とするシートには、上記シート状基材を用いて製造される、例えば建築用の内装(室内の壁や天井等)や内装用建材(例えば内装パネルなど)に用いられるシート(壁紙など);建具(例えば、板戸、格子戸、障子、襖、欄間、フラッシュ戸、桟戸、框戸など)、家具(例えば、洋服入れ、タンス、机、書棚および下駄箱など)、水周り家具(例えば、流し台や洗面台などの)、ならびにオフィス用具(例えば、パーティション、書棚および机など)、ならびにそれらの部材の化粧仕上げに用いられるシート;照明カバーとして使用されるシート;カーテン、カーペット、椅子張地、カーシートカバー、靴内貼り地、およびインソールなどの繊維製品が含まれる。
【0105】
本発明のボートまたはシートは、前述する本発明の水配合コーティング組成物を、上記のボードまたはシート状の基材表面に(下地処理を施していても良い)塗布・塗工し、乾燥することによって製造することができる。塗布・塗工の方法は特に制限されず、ローラー塗装、刷毛塗りおよびコテ塗りを始め、スプレーやガン(エアースプレー、エアレススプレー、低気圧霧化スプレーなど)を用いた塗装や、フローコーター、ロールコーター、ナイフコーター、バキュームコーターなどの工業用塗装機(自動塗装機)を用いた塗装のいずれであってもよい。ボートまたはシートを工業的に大量に製造する目的からは、上記工業用塗装機(自動塗装機)を用いた塗装方法を好適に用いることができる。
【0106】
斯くして基材表面に形成される被覆層の厚みは特に制限されず、希望に応じて任意に設定することができるが、通常0.05〜15mm厚の範囲から適宜選択することができる。
【0107】
被塗物(基材)表面に塗装された水配合コーティング組成物の乾燥には、自然乾燥法、通風乾燥法、強制乾燥法または加熱乾燥法のいずれもが使用できる。この際、水配合コーティング組成物に含まれる石灰は自ら結合硬化し、またコーティング組成物に結合材を含む場合は結合材とともに結合硬化して、基材表面に付着して被覆層を形成する。本発明の水配合コーティング組成物は、非極性アミノ酸類の配合によって優れた分散性を有し、また粘性によって被塗物への付着力が強化されているため、被塗物(基材)表面全体に均一に強固に付着した被覆層を形成することができる。
【0108】
なお、形成された被覆層は、必要に応じて、その表面を乾燥前に凹凸模様付きローラーやコテ等で意匠を施したり、乾燥後ヤスリや各種研磨機で研磨ずりして仕上げることもできる。
【0109】
本発明のボードまたはシートは、さらに水配合コーティング組成物から形成された被覆層の表面が、さらに防汚処理されたものであってもよいし、また保護シート若しくはまたはフィルムで積層されたものであってもよい。特に化粧ボートまたはシートを工場で製造する場合は、その後の運搬や二次加工時、または施工時において生じ得る被覆層(化粧層)の汚損、傷およびクラックは、商品価値を著しく低下させてしまう。保護シートまたはフィルムは、こうした運搬時、二次加工時、または施工時における汚損、傷およびクラックから被覆層(化粧層)を保護するために、被覆層の表面に積層されるものであって、施工後には適度な力で被覆層(化粧層)面を破損させることなく容易にとり剥がすことができるものである。また防汚処理は、被覆層の表面を汚れにくくするとともに、汚れた場合でも簡単な処理で除去しやすくするためのものである。
【0110】
この目的に適うものであれば、保護シートまたはフィルムの材質は特に制限されず、通気性および非通気性の別も特に問わない。また、一般に厚さが0.25mm未満のものをフィルム、0.25mm以上のものをシートというが、上記の目的に適うものであればこの別も特に制限されない。
【0111】
保護シートまたはフィルム(以下、「保護シート等」という)として好ましくは、ラミネート技術によってコーティング組成物から形成された被覆層の表面に積層することができるものである。例えば、紙、セロハン、アルミニウム箔、または合成樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ビニロン、ポリエチレンテレフタレート等)からなるフィルム又はシート状の基材の片面に、感熱型接着剤または感圧型接着剤などの樹脂が積層されてなるものを挙げることができる。制限はされないが、かかる接着剤として使用される樹脂としては、アイオノマー樹脂、エチレン・メタクリル酸共重合体樹脂、エチレン・エチルアクリレート共重合体樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂などを例示することができる。
【0112】
また防汚処理は、水配合コーティング組成物から形成された被覆層の表面を、汚れの原因となる物質(例えば、醤油、コーヒー、ヤニ、水性ペン等)に対して汚染防止機能を有するコーティング材でコーティングすることによって行うことができる。かかるコーティング材としては、シリコン樹脂を含むシリコンコーティング材、およびフッ素樹脂を含むフッ素コーティング材を挙げることができる。かかるコーティング材には酸化チタンなどの光触媒や艶消し材が含まれていてもよい。
【0113】
IV.水配合コーティング組成物の流動性向上方法
上記で述べるように、石灰を皮膜成分として含む水配合コーティング組成物において、非極性アミノ酸類を用いることによって、水中の石灰の分散性が向上するとともに、水配合コーティング組成物そのものの流動性が向上する。このため、本発明は、石灰を皮膜成分として含む水配合コーティング組成物について、流動性を向上する方法を提供する。
【0114】
かかる方法は、皮膜形成に使用する水配合コーティング組成物として、(a)石灰、(b)水および(c)結合材に加えて、前述する(d)非極性アミノ酸類を含む組成物を用いることを特徴とする。
【0115】
ここでコーティング組成物の調製に使用される(a)石灰の種類や配合量、(d)非極性アミノ酸類の種類や配合量、(b)水の配合量、および(c)結合材の種類や配合量は、前記Iの項に記載した通りであり、これを援用することができる。
【0116】
かかる水配合コーティング組成物は、(a)石灰、(b)水、(c)結合材、および(d)非極性アミノ酸類を基本成分とするものであるが、本発明の効果(付着力向上、付着力均一安定化)を妨げないことを限度として、(e)キレート化合物を配合することもでき、さらに他の成分を配合することができる。かかる他成分としては、好適には結合材を挙げることができ、また必要に応じて増粘剤を配合することもできる。さらに必要に応じて、白色顔料、着色顔料(有色顔料)、体質顔料、油、すさなどの繊維、光触媒、分散剤、湿潤剤、消泡剤、骨材、pH調整剤、界面活性剤、減水材、流動化剤、防水剤などを配合することもできる。これらの成分の種類や配合量、及び調合方法などは、前記Iの項に記載の通りであり、ここでもこの記載を援用することができる。
【0117】
本発明の方法によれば、流動性に優れ、かつ適度な粘性を有する水配合コーティング組成物を調製することができる。このため本発明の方法を適用した水配合コーティング組成物は、流動性に優れ、かつ適度な粘性を有するため、狭いスリットからカーテン状に流して被塗物を塗装するフローコーターに好適に適用することができる。すなわち、本発明の方法によって調製される水配合コーティング組成物によれば、これを被覆層とするボードやシートをフローコーターなどの工業用塗装機を用いて工業的に大量に製造することができる。
【0118】
なお、当該方法で得られる水配合コーティング組成物を塗布・塗工する被塗物は特に制限されない。
【0119】
例えば被塗物としては、制限されることはないが、好適には建築物の天井や壁(内・外壁)の下地材や化粧材として用いられる各種の建材;建具、家具(水周り家具を含む)およびオフィス用具類などに使用される材料;カーテン、カーペット、椅子張 BR>n、カーシートカバー、靴内貼り地、インソールなどの繊維製品に使用される材料;または、トンネル壁材、ガードレール材、遮音壁材、防護壁材及び橋梁構造物として用いられる各種の土木用部材などの、ボード材料(パネル材料)またはシート材料を挙げることができる。
【0120】
これらの対象物(建築用部材、建具,家具およびオフィス用具の部材、繊維製品、土木用部材)へのコーティング組成物の塗布方法としては、前述するように、フローコーター、ロールコーター、ナイフコーター、バキュームコーターなどの工業用塗装機(自動塗装機)を好適に挙げることができるが、これに限定されず、ローラー塗装、刷毛塗りおよびコテ塗りを始め、スプレーやガン(エアースプレー、エアレススプレー、低気圧霧化スプレーなど)を用いた塗装方法を広く用いることができる。
【0121】
V.水配合コーティング組成物の付着力向上または付着力の均一安定化方法
上記で述べるように、石灰を皮膜成分として含む水配合コーティング組成物において、非極性アミノ酸類を用いることによって、分散性が向上するとともに、粘性が生じて被塗物に対する付着力が増強する。このため、本発明は、石灰を皮膜成分として含む水配合コーティング組成物について、付着力を向上する方法、ならびに被塗物に対する付着力を均一安定化する方法を提供する。
【0122】
かかる方法は、皮膜形成に使用する水配合コーティング組成物として、(a)石灰、(b)水および(c)結合材に加えて、前述する(d)非極性アミノ酸類を含む組成物を用いることを特徴とする。
【0123】
ここでコーティング組成物の調製に使用される(a)石灰の種類や配合量、(d)極性アミノ酸類の種類や配合量、(b)水の配合量、および(c)結合材の種類や配合量は、前記Iの項に記載した通りであり、これを援用することができる。
【0124】
かかる水配合コーティング組成物は、(a)石灰、(b)水、(c)結合材、および(d)非極性アミノ酸類を基本成分とするものであるが、本発明の効果(付着力向上、付着力均一安定化)を妨げないことを限度として、(e)キレート化合物を配合することもでき、さらに他の成分を配合することができる。かかる他成分としては、増粘剤、さらに必要に応じて、白色顔料、着色顔料(有色顔料)、体質顔料、油、すさなどの繊維、光触媒、分散剤、湿潤剤、消泡剤、骨材、pH調整剤、界面活性剤、減水材、流動化剤、防水剤などを配合することもできる。これらの成分の種類や配合量、及び調合方法などは、前記Iの項に記載の通りであり、ここでもこの記載を援用することができる。
【0125】
かかる水配合コーティング組成物を皮膜形成に使用することで、付着強度に優れた、言い換えれば耐久性に優れた石灰含有皮膜を形成することができる。またこの水配合コーティング組成物は分散性に優れているため、被塗物表面に対する付着強度が均一で安定した皮膜を形成することができる。
【0126】
なお、その施工方法や水配合コーティング組成物を塗布・塗工する被塗物は特に制限されない。
【0127】
例えば被塗物としては、制限されることはないが、好適には建築物の天井や壁(内・外壁)の下地材や化粧材として用いられる各種の建材;家具(水周り家具を含む)やオフィス用具類などに使用される材料;カーテン、カーペット、椅子張地、カーシートカバー、靴内貼り地、インソールなどの繊維製品に使用される材料;または、トンネル壁材、ガードレール材、遮音壁材、防護壁材及び橋梁構造物として用いられる各種の土木用部材などの、ボード材料(パネル材料)またはシート材料を挙げることができる。
【0128】
これらの対象物(建築用部材、家具やオフィス用具の部材、繊維製品、土木用部材)へのコーティング組成物の塗布方法は、前述するように、ローラー塗装、刷毛塗りおよびコテ塗りを始め、スプレーやガン(エアースプレー、エアレススプレー、低気圧霧化スプレーなど)を用いた塗装や、フローコーター、ロールコーター、ナイフコーター、バキュームコーターなどの工業用塗装機(自動塗装機)を用いた塗装等の慣用法を挙げることができる。
【0129】
VI.コーティング組成物の耐ひび割れ性の向上方法
上記で述べるように、石灰を皮膜成分として含む水配合コーティング組成物において、非極性アミノ酸類を用いることによって粘性が生じて、塗布後の皮膜にひび割れ抵抗性を付与し、乾燥時のひび割れを有意に防止することができる。このため、本発明は、耐ひび割れ性の石灰含有皮膜を形成するための方法、言い換えれば石灰を含む皮膜のひび割れ抑制方法を提供する。
【0130】
かかる方法は、皮膜形成に使用する水配合コーティング組成物として、(a)石灰、(b)水および(c)結合材に加えて、(d)非極性アミノ酸類を含む組成物を用いることを特徴とする。さらに好ましくは(e)キレート化合物を併用することが好ましい。
【0131】
ここで水配合コーティング組成物の調製に使用される(a)石灰の種類や配合量、(d)非極性アミノ酸類、(b)水の配合量、(c)結合材の種類や配合量、並びに(e)キレート化合物の種類や配合量は、前記Iの項に記載した通りであり、これを援用することができる。
【0132】
かかる水配合コーティング組成物は、上記するように、(a)石灰、(d)非極性アミノ酸類、(b)水および(c)結合材を基本成分とし、さらに必要に応じて(e)キレート化合物を含有するものであるが、被膜のひび割れ抑制を妨げないことを限度として、他の成分を含有することができる。かかる成分としては、増粘剤、さらに必要に応じて、白色顔料、着色顔料(有色顔料)、体質顔料、油、すさなどの繊維、光触媒、分散剤、湿潤剤、消泡剤、骨材、pH調整剤、界面活性剤、減水材、流動化剤、防水剤などを配合することもできる。これらの成分の種類や配合量、及び調合方法などは、前記Iの項に記載の通りであり、ここでもこの記載を援用することができる。
【0133】
かかるコーティング組成物を皮膜形成に使用することで、耐ひび割れ性、特に加熱や通風を用いた強制乾燥によってもひび割れしにくい石灰含有皮膜を形成することができる。その施工方法やコーティング組成物を塗布・塗工する対象物(被塗物)は特に制限されず、前述のものをいずれも用いることができる。
【0134】
なお、コーティング組成物は必要に応じて形成された皮膜層の表面を乾燥前に凹凸模様付きローラーやコテ等で意匠を施したり、乾燥後ヤスリや各種研磨機で研磨ずりして仕上げることもできる。また、コーティング組成物は、皮膜層の表面を凹凸模様付きローラーやコテ等で意匠を施した後に、その上から再度うす塗りを施すこともできる。上記コーティング組成物から形成される皮膜を有する被覆物(塗装物)は、皮膜が耐ひび割れ性を有しているため、高度な技術を要することなく簡単に施工して調製することができる。またコーティング組成物から形成される皮膜は、厚みの高低(凹凸)に関わらず耐ひび割れ性を有しているため、皮膜に様々なテクスチャー(意匠)を施すことができる。
【実施例】
【0135】
以下、本発明の内容を以下の実験例及び実施例を用いて具体的に説明する。ただし、これらの実施例等は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0136】
実験例1
表1に記載の成分を塗材調合用ミキサーに入れて撹拌することにより固形分を水に分散させて、水配合コーティング組成物(参考例1〜8、参考比較例1〜2)を調製した。なお、非極性アミノ酸として、アラニン(参考例1および8)、メチオニン(参考例2)、システイン塩酸塩(参考例3)、フェニルアラニン(参考例4)、ロイシンアミド塩酸塩(参考例5)、バリン(参考例6)およびイソロイシン(参考例7)を用いた。またキレート化合物としてグルコン酸ナトリウム(参考例8、参考比較例2)を用いた。
【0137】
これを80メッシュのフィルターで漉した後、自動塗装機であるフローコーターの塗料吐出口に模倣して作成したスリット(幅0.6mm、長さ60cm)を有する容器に入れ、スリット側を下にしてスリットから各水配合コーティング組成物をカーテン状に流出させて、流体のカーテン切れの有無を評価した。結果を表1に合わせて示す。なお、カーテン切れの有無は下記の基準に従って評価した。
【0138】
<評価>
○:スリットの幅全長にわたって、ほぼ最後まで流体が途切れることなく流出した。
△:最初はスリットの全長にわたって流体が流出していたが、途中でカーテン切れし、その状態で最後まで流出した。
×:流出後まもなくカーテン切れし、そのままスリットの一部に偏った状態で流体が流出した。
【0139】
【表1】

表1からわかるように、非極性アミノ酸類を配合しない石灰を含む水配合コーティング組成物(参考比較例1、2)は、スリットからの流出性が悪く、途中でカーテン切れした。これに対して、非極性アミノ酸類を配合した水配合コーティング組成物(参考例1〜8)は殆どカーテン切れせず、最後まで良好にスリットから流出した。この理由として、石灰を含む水配合コーティング組成物に非極性アミノ酸類を配合することによって石灰の流動性が向上しただけでなく、水配合コーティング組成物に適度な粘性が生じ、流体間の連結性が上がったためと考えられる。なお、表1に記載する各組成において、石灰を30重量%から40重量%に増やし、各種アミノ酸を0.1重量%から0.05重量%に減らした場合も同様の結果が得られた。
【0140】
また、上記参考例1〜8および参考比較例1〜2の各水配合コーティング組成物の成分に加えて、結合材としてポリビニルアルコールを最終濃度が20重量%となる割合で添加し、水配合コーティング組成物(実施例1〜8および比較例1〜2)を調製して、上記方法に従って流動性(カーテン切れの有無)を評価した。その結果を表2に示す。
【0141】
【表2】

表2からわかるように、水配合コーティング組成物流動性に結合材の影響はなく、上記参考例1〜8および参考比較例1〜2と同様の結果が得られた。なお、表2に記載する各組成において、石灰を30重量%から40重量%に増やし、各種アミノ酸を0.1重量%から0.05重量%に減らし、且つ結合材を5重量%に減らした場合も同様の結果が得られた。また表2に記載する各組成において、結合材としてポリビニルアルコールに代えて、アクリル系合成樹脂エマルション(固形含量40重量%)を用いた場合も同様の結果が得られた。
【0142】
これらの結果から、石灰および結合材を含む水配合コーティング組成物に非極性アミノ酸類を配合することによって、フローコーター等の自動塗装機に適した、流動性がよくカーテン切れが有意に抑制されたコーティング組成物が調製できることが明らかになった。
【0143】
実験例2
非極性アミノ酸としてアラニン、キレート化合物としてグルコン酸ナトリウムを用いて、表3に記載する各種の水配合コーティング組成物(実施例9,比較例3および4)を作成した。これを予めシーラーで下地処理しておいた基板(100cm×100cm)に塗布して10日間乾燥させ、形成した塗膜(塗膜厚:0.2mm)について、JIS A6909(建築用仕上げ塗材)に準じた下記の方法に従って、塗膜付着力試験(乾燥付着力、浸水後付着力)を行った。
【0144】
<乾燥付着力試験>
(1)各コーティング組成物を用いて基板(100cm×100cm)表面に形成された塗膜面の、任意に選択した4箇所(No.1、No.2、No.3、No.4)に、鋼製アタッチメントを速硬化型エポキシ樹脂系接着剤で貼付け、養生する。
(2)接着剤が硬化後、アタッチメント周囲をカッターナイフでカットし、周辺の塗膜と試験箇所を縁切りする。
(3)接着剤試験機をセットし、荷重を加えて破断時の最大荷重を読み、1mm2当たりの付着強さ(N/mm2)に換算する。
(4)破断面を観察して、どの部分で破断したかを評価する。
【0145】
<浸水後付着力試験>
(1)各水配合コーティング組成物で表面を塗装した基板(100cm×100cm)の塗膜面以外の部分(塗膜面の背面と側面)を防水テープで養生し、塗膜面を下にして水(常温)に10日間浸漬する。
(2)浸水後、50℃で24時間乾燥、常温(20℃)で静置した後、上記乾燥付着力試験の(1)〜(4)を同様に行った。
【0146】
結果を表3に合わせて示す。
【0147】
【表3】

表3に示すように、乾燥付着力の結果から、石灰および結合材を含む水配合コーティング組成物にキレート化合物(グルコン酸ナトリウム)を配合することによって塗膜の付着強度が増加したが(比較例3)、さらにこれに非極性アミノ酸(アラニン)を配合することによって一層塗膜の付着強度が増加した(実施例9)。なお、キレート化合物も非極性アミノ酸も配合しない比較例4の塗膜は、塗膜内部が破断したのに対して、非極性アミノ酸を配合した実施例9の塗膜は、塗膜内部の破断は認められず、基板/シーラー界面で破断していたことから、非極性アミノ酸を配合することにより、塗膜を構成する石灰同士の付着力(結合力)が増強するとともに、基板に対する塗膜の付着力も増強していることが確認された。
【0148】
また非極性アミノ酸を配合した実施例9の塗膜は、乾燥付着力の結果も、浸水後付着力の結果も、被験試料(No.1〜4)間での差異がなく同じ値が得られた。このことから、石灰および結合材を含む水配合コーティング組成物に非極性アミノ酸を配合することによって、付着強度の増強が塗膜全面に均一に得られることがわかる。この理由は定かではないが、非極性アミノ酸の配合によって水配合コーティング組成物の分散性が向上したものと考えられる。
【0149】
実験例3
実験例2で調製した実施例9について、JIS K5400-8.5 (JIS D0202)に規定の方法に従って付着性試験(碁盤目試験)を行った(検体数:5)。具体的には、まず、実施例9の水配合コーティング組成物で基板(約60mm×70mm)表面を塗布して10日間乾燥させた。次いで、形成された塗膜(塗膜厚:0.15mm、塗布面積:約30mm×30mm)に、基板素地に到達する切り込みを2mm間隔で碁盤目(11本×11本)になるように入れ、この表面に約50mm付着するようにセロハン粘着テープを貼り付け、消しゴムで擦って塗膜にテープを付着させた。テープを付着させてから1分後にテープの端を持って塗膜面に直角に保って瞬間的に引きはがし、塗膜の剥がれ度合いをJIS規定の基準に沿って評価した。その結果、5検体とも塗膜の剥がれはないか、またはあっても僅かであり(評価:8〜10点)、本発明の水配合コーティング組成物は塗膜付着性に優れていること、また付着力が均一であることが確認された。
【0150】
実験例4
表4に記載の成分を塗材調合用ミキサーに入れて撹拌することにより固形分を水に分散させて、水配合コーティング組成物(実施例10〜23、比較例5〜6)を調製した。これらの各水配合コーティング組成物について、下記の方法により、皮膜の耐ひび割れ性を評価した。
【0151】
(1)皮膜の耐ひび割れ性(強制乾燥によるひび割れの有無)
上記各水配合コーティング組成物を、1〜10mm厚で凹凸を付けながら試験板(フレキシブル板)に塗布した後、ドライヤーの熱風をかけて強制乾燥した。形成された乾燥皮膜について、ひび割れの有無を目視により観察して、下記の基準に従って評価した。
【0152】
<評価基準>
◎:ひび割れが全く認められない
○:凹凸の起伏の激しい箇所に若干ひび割れが認められるが、平坦部を含む殆どの箇所でひび割れが認められない
△:平坦部にもひび割れが認められる
×:全体にわたってひび割れが認められる。
【0153】
(2)皮膜の耐ひび割れ性(折り曲げによるひび割れの有無)
上記各水配合コーティング組成物を、ビニール製の厚手のシートの上にローラ−を用いて約0.2mm厚で塗布した後、終日かけて自然乾燥させた。斯くして得られた被覆層を有するシートについて、下記の試験を行い、折り曲げによる耐ひび割れ性を、下記の基準に従って評価した。
【0154】
<試験方法>
(2-1) シートを180度に曲げて、開いたときの折り部にひび割れが生じているかを目視で観察する。
(2-2) 割れが生じたシートについては、再度このシートの違う場所を90度曲げて、開いたときにひび割れが生じているかを目視により観察する。
(2-3) ひび割れが生じなかったシートについては、90度曲げて開く操作を繰り返し行い、何回で割れが生じるかを評価する。
【0155】
<評価基準>
○:180度曲げてもひび割れが全く認められないか、または180度曲げた場合にはひび割れが認められたが90度曲げて開く操作を3回行っても、ひび割れがほとんど認められない。
△:90度曲げて開く操作を1回行ってもひび割れが認められないが、この操作を3回行うとひび割れが認められる。
×:90度曲げて開く操作を1回行うとひび割れが発生した。
【0156】
(1)と(2)の試験結果を、表4に併せて示す。
【0157】
【表4】

表4に示すように、石灰と結合材を含む水配合コーティング組成物に非極性アミノ酸を配合することによって、強制乾燥によっても、また折れ曲げによっても、ひび割れしにくい特性、すなわち耐ひび割れ性を付与することができた(実施例10〜23)。このことから、非極性アミノ酸を用いることによって石灰および結合材を含む皮膜の基材への付着性を高めるとともに、当該皮膜に微弾性を付与することができることがわかった。また、非極性アミノ酸にキレート化合物を併用することによってこの耐ひび割れ性はより向上することがわかった(実施例17〜23)。なお、表4に記載する各組成において、石灰を30重量%から40重量%に増やした場合も同様の結果が得られた。
【0158】
実験例5
表6に記載の成分を塗材調合用ミキサーに入れて撹拌することにより固形分を水に分散させて、水配合コーティング組成物(実施例24〜32)を調製し、実験例4と同様にして耐ひび割れ性を評価した。なお、キレート化合物として表5に記載する化合物を用いた。
【0159】
【表5】

結果を表6に示す。
【0160】
【表6】

実験例4と同様に、非極性アミノ酸とキレート化合物を併用することによって、石灰と結合材を含むコーティング組成物の耐ひび割れ性をより向上させることができることが確認された。なお、表6に記載する各組成において、石灰を30重量%から35重量%に、体質顔料を8重量%から27重量%に増やした場合も同様の結果が得られた。
【0161】
実験例6
表7に記載の固形成分を水に分散させて、石灰と結合材を含む水配合コーティング組成物(実施例33〜36、比較例7)を調製した。
【0162】
具体的には表7に記載の各成分を塗材調合用ミキサーに入れて撹拌することにより固形分を水に分散させて、石灰と結合材を含む水配合コーティング組成物(実施例33〜36)を調製した。また比較として、実施例35の処方において非極性アミノ酸とキレート化合物を配合しない以外は同様にしてコーティング組成物(比較例7)を調製した。
【0163】
次いで調製した各水配合コーティング組成物をそれぞれ500gずつ耐水性のフィルムバック〔サラン−UB#158:旭化成(株):厚み15μm(ASTM D−3985)、酸素透過度10ml/(m・day・MPa)(20℃、75%RH)(ASTM D−3985)、透湿度1g/(m・day)(38℃、90%RH)(ASTM F−372)〕に充填して開口部を気密状態に脱気しながらヒートシールした。調製直後、及び常温(20±5℃)下で48時間放置した後の、外観および性状(塗材の柔らかさ・流動性を含む)をそれぞれ評価した。結果を表7に示す。
【0164】
【表7】

比較例7のコーティング組成物は、調製時にすでに内容物の凝集が認められ、48時間経過後にはその凝集物が硬化して全体として非常に硬い組成物となっていた(×:不良)。これは珪藻土の珪素化合物と消石灰のカルシウムイオンとが反応して、ポゾラン(シリカ質化合物)が生じたためと考えられた。一方、実施例33〜36のコーティング組成物はいずれも珪素化合物を含んでいるにも拘わらず凝集や硬化といった不都合な現象(ポゾラン)は認められず、調製直後も48時間経過後も柔らかで調製時の流動性を備えていた(○〜◎:良好)。このことから、消石灰を含むコーティング組成物中に非極性アミノ酸とキレート化合物を配合することで、珪素化合物と反応してポゾランを生じることをも防止できることがわかった。斯くして本発明の技術によれば、水配合コーティング組成物の皮膜成分として、消石灰に加えてゼオライトや珪藻土を使用することが可能となり、その結果、消石灰の調湿性を補強することができる。また、水配合コーティング組成物の結合材として、合成樹脂エマルションやポリビニルアルコールなどの有機化合物に代えて、無機接着剤である水ガラス(Na2O・2SiO2/45%水溶液)を使用することが可能となり、その結果、無機100%のコーティング組成物を調製することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)石灰、(b)水、(c)結合材、並びに(d)非極性アミノ酸、非極性アミノ酸重合物およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種、を含むことを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
さらに(e)キレート化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載するコーティング組成物。
【請求項3】
基材表面に、請求項1または2に記載するコーティング組成物から形成される被覆層を有するボードまたはシート。
【請求項4】
基材表面に、請求項1または2に記載するコーティング組成物を塗布する工程を有する、請求項3に記載するボードまたはシートの製造方法。
【請求項5】
(d)非極性アミノ酸、非極性アミノ酸重合物およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、(a)石灰、 (b)水および(c)結合材を含有するコーティング組成物の流動性向上方法。
【請求項6】
さらに(e)キレート化合物を配合することを特徴とする、請求項5に記載する流動性向上方法。
【請求項7】
(d)非極性アミノ酸、非極性アミノ酸重合物およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、(a)石灰、(b)水および(c)結合材を含有するコーティング組成物の耐ひび割れ性向上方法。
【請求項8】
さらに(e)キレート化合物を配合することを特徴とする、請求項7に記載する耐ひび割れ性向上方法。
【請求項9】
(d)非極性アミノ酸、非極性アミノ酸重合物およびそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を配合することを特徴とする、(a)石灰、(b)水および(c)結合材を含有するコーティング組成物の基材に対する付着力向上または付着力の均一安定化方法。
【請求項10】
さらに(e)キレート化合物を配合することを特徴とする、請求項9に記載する付着力向上または付着力の均一安定化方法。

【公開番号】特開2009−270103(P2009−270103A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94659(P2009−94659)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(599085541)ヒメノイノベック株式会社 (10)
【Fターム(参考)】