説明

石灰化組織における可溶化Klotho、FGF23およびFGFR複合体形成機構を利用した用途

【課題】硬組織および/または血管の石灰化に共通するシグナル伝達が関連する、石灰化調節剤のスクリーニング方法、石灰化調節剤、ならびに骨の石灰化、血管石灰化およびそれに伴う疾患の病態進展を検査する方法およびその検査キットを提供する。
【解決手段】本発明の第1の態様に係る硬組織および/または血管の石灰化調節剤のスクリーニング方法は、被験化合物の非存在下および存在下での検体において、可溶化KlothoとFGFRとFGF23とを接触させる工程と、特異的シグナル伝達が変化する化合物を選択する工程を含む。第2の態様に係る石灰化調節剤は可溶化Klothoを含む複合体形成を抑制または促進する化合物を含有する。第3の態様に係る石灰化検査方法は、可溶化Klothoの濃度等を測定する工程を含む。第4の態様に係る石灰化検査キットは、可溶化Klotho等に結合親和性を有するリガンドを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬組織および/または血管の石灰化に共通するシグナル伝達が関連する、石灰化調節剤のスクリーニング方法、石灰化調節剤、ならびに骨の石灰化、血管石灰化およびそれらに伴う病態進展を検査する方法およびその検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、骨疾患、例えば骨粗鬆症は、血管石灰化等の循環系疾患と相関(骨血管相関)することが明らかとなり、骨質量減少によって高い死亡リスクを伴うことも報告されている。このような骨または血管の石灰化が係わる疾患の予防・治療薬としては、カルシウム剤、ビタミンD製剤、エストロジェン、イプリフラボン、カルシトニン、ビスフォスフォネート、ビタミンK2製剤、リン酸吸着剤またはスタチン等を含むものが挙げられる。しかし、より好ましくは、骨または血管の石灰化に直接的に効果を奏する、メカニズムオリエンテッドな新規治療法、治療剤および予防法の確立が望まれる。
【0003】
線維芽細胞増殖因子23(FGF23)は、遺伝性、腫瘍性くる病/骨軟化症の原因因子として同定されたタンパク質であり(非特許文献1ないし非特許文献3参照)、近年ではリンおよびビタミンD代謝を調節する生理的ホルモンとして認識されている。FGF23を含むFGFファミリーに対する生物学的応答は、特異的な細胞表面受容体のチロシンキナーゼ型受容体(FGFR、特にFGFR1)への結合を介して行われるが、FGF23のFGFRに対する親和性は低い。
【0004】
正常時、FGF23は主として骨芽細胞・骨細胞により分泌され、腎尿細管上皮を標的としてII型ナトリウム―リン共輸送体(NaPiII)の発現、および25ヒドロキシビタミンD−1α水酸化酵素の発現を抑制する。従って、過剰なFGF23の産生により、リンの再吸収が抑制され、血中1α,25ジヒドロキシビタミンD(1,25D)濃度の低下に伴う腸管からのリン酸の吸収抑制と相まって、血中リン濃度が低下する。さらに、Fgf23欠損マウスが高リン酸、高ビタミンD血症を呈することから、FGF23はリン恒常性の中心的役割を果たすことが明らかとなっている。
【0005】
また、FGF23と骨、歯または血管の石灰化との関係について、FGF23は骨を含む硬組織の生理的石灰化、および血管等の病態と関連した石灰化を調節することもin vitroで確認されている。具体的には、FGF23は骨および血管の生理的石灰化を抑制することが明らかとなっている(特許文献1、非特許文献1および2参照)。
【0006】
一方、分子量約13万のI型膜タンパクをコードするKlothoは、単一の遺伝子の変異によりヒトの多様な老化現象を引き起こすマウスの責任遺伝子として同定された。Klothoは、主として腎尿細管、脳の脈絡膜および副甲状腺の主細胞に発現する。
【0007】
Klothoは腎臓でのリンの再吸収およびビタミンD代謝、副甲状腺での副甲状腺ホルモン産生に関与する。また、細胞内でNa/K−ATPaseと結合し、細胞外のカルシウム濃度の低下に応答してNa/K−ATPaseを細胞膜へリクルートする。一方、膜型Klothoの細胞外ドメインが切断されて、この細胞外ドメインが血液中に遊離した可溶化Klotho(以下、KLeと略す場合がある)は、血液中を循環し、発生に関与する分泌タンパクWntと結合し、Wntシグナルを阻害すること、あるいはTRPV5の糖鎖修飾を調節し、カルシウムチャンネルとしての機能を調節することが報告されている。
【0008】
FGF23および膜型Klothoの関係について、特許文献2および非特許文献3に代表されるように、両者が協調して働くことが報告されている。すなわち、両者を強制発現させたCHO細胞等において、FGF23、膜型KlothoおよびFGFRは複合体を形成し、FGF23の特異的シグナルであるERKのリン酸化亢進またはEgr−1の発現上昇が確認されている。この細胞において、膜型Klothoの代わりにKLeを強制発現させても同様の結果が得られること、さらに、KLeを強制発現させたCHO細胞をヌードマウスに移植した場合、FGF23を過剰発現させたと同様に血清中の1,25Dおよびリン酸濃度が低下することも記載されている。
【0009】
また、特許文献3には、このようなKLeとFGF(具体的にはFGF23)とを含むポリペプチド(polypeptide)からなる、融合タンパク質(a fusion polypeptide)に係る発明について記載されている(活性断片からなるポリペプチドも含む)。詳細には、当該融合タンパク質を用いることによる、加齢現象に伴う種々の病状やメタボリック病状を処置または予防する方法の発明について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−17790号公報
【特許文献2】特開2006−240990号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/0192087号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Yoshiko Y., et al., Bone 40, 1565−1573, 2007
【非特許文献2】Wang H., et al., J Bone Miner Res 23, 939−948, 2008
【非特許文献3】Urakawa I., et al., Nature 444, 770−774, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述のように、特許文献2および非特許文献3において、膜型KlothoあるいはKLeは、FGFRをFGF23特異的受容体に転換させると記載されている。FGF23が骨芽細胞・骨細胞により分泌され、血流を介して腎、副甲状腺で作用するのは、これらの組織に膜型Klothoが局在するためと説明されている。しかし、少なくとも、腎では、膜型Klothoは遠位尿細管上皮に局在しているため、FGF23の作用部位である近位尿細管において膜型Klotho、FGFRおよびFGF23と複合体を形成しているとは考え難く、この問題は現在も解決していない。一方、ごく最近、膜型Klothoは近位尿細管にわずかに発現し、FGF23とは無関係に自身が保有するβ−グルクロニダーゼ活性によりNaPiIIaの細胞内輸送と分解に関与し、リンの再吸収を抑制することが報告された(Klotho: a novel phosphaturic substance acting as an autocrine enzyme in the renal proximal tubule. Hu MC, Shi M, Zhang J, Pastor J, Nakatani T, Lanske B, Shawkat Razzaque M, Rosenblatt KP, Baum MG, Kuro-O M, Moe OW. FASEB J. 2010 May 21. http://www.fasebj.org/cgi/rapidpdf/fj.10-154765v2.pdf [Epub ahead of print])。
【0013】
このように、腎臓でのKlothoの作用には、必ずしもFGF23が関与するとは言い難い。また、特許文献2および特許文献3では、FGF23とKLeの二者が複合体を形成するとの記載があるが、生体で、かつ筋細胞以外においてこの二者が複合体を形成している証拠はない。また、例えばこのような複合体を生体に用いた場合を考慮すると、生体に広く分布するFGFRと非特異的に結合し、前述のFGF23の特性を説明できない。実際に、両者は複合体を形成しないとする最近の論文も見られる(Goetz R, Nakada Y, Hu MC, Kurosu H, Wang L, Nakatani T, Shi M, Eliseenkova AV, Razzaque MS, Moe OW, Kuro-o M, Mohammadi M. Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Jan 5;107(1):407−412)。
【0014】
一方、前述したように、FGF23が硬組織および/または血管の石灰化の調節に関与していることは確認されているが(特許文献1)、詳細な作用機構に関しては、未だ不明な点が多い。Klotho変異マウス(kl/klマウス)においては、骨、歯に異常が見られるが、これらの組織にはKlothoが発現しないことが確認されている。そこで、硬組織および/または血管の石灰化に直接的に効果を奏する新規治療法、治療剤および予防法の確立の為には、硬組織および/または血管におけるFGF23の作用機構をより具体的に解明し、FGF23による石灰化抑制に関与し、調節することができる化合物の発見が望まれる。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、硬組織および/または血管の石灰化に共通したシグナルが関連する、石灰化調節剤のスクリーニング方法、石灰化調節剤、ならびに、骨の石灰化度、血管石灰化およびそれらに伴う病態進展を検査する方法およびその検査キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成する為、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、以下の発見を見出すに到った。
(1)KLeは、Obc細胞(実施例参照)においてFGF23およびFGFRと機能的な複合体を形成し、Obc細胞における特異的シグナル伝達(シグナル伝達に伴うFGF23による骨の石灰化抑制を含む)に不可欠である。
(2)(1)の作用は骨に特異的であり、腎臓においては見られない。
(3)(1)の作用は血管平滑筋の石灰化にも見られる。
【0017】
すなわち、本発明の第1の態様に係る硬組織および/または血管の石灰化調節剤のスクリーニング方法は、被験化合物の非存在下および存在下での検体において、少なくとも、可溶化KlothoとFGFRとFGF23とを接触させる工程と、
前記被験化合物の非存在下での前記検体におけるFGF23特異的シグナル伝達と比較して、前記被験化合物の存在下での前記検体におけるFGF23特異的シグナル伝達が変化する化合物を選択する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0018】
好ましくは、前記特異的シグナル伝達の変化は、FGFRのリン酸化、ERKのリン酸化またはEgr−1の発現量を指標とすることを特徴とする。
【0019】
または、被験化合物の非存在下および存在下での、検体における、可溶化Klothoの濃度を測定する工程と、
前記被験化合物の非存在下での前記検体における前記可溶化Klothoの濃度と比較して、前記被験化合物の存在下での前記検体における前記可溶化Klothoの濃度が増減する化合物を選択する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0020】
または、被験化合物の非存在下および存在下での検体における可溶化KlothoとFGFRとFGF23との複合体形成を測定する工程と、
前記被験化合物の非存在下での前記検体における前記複合体形成と比較して、前記被験化合物の存在下での前記検体における前記複合体形成が増減する化合物を選択する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0021】
さらに好ましくは、前記石灰化調節剤のスクリーニングは、in vivoで実施することを特徴とする。
【0022】
本発明の第2の態様に係る硬組織および/または血管の石灰化調節剤は、可溶化KlothoとFGFRとFGF23との複合体形成を抑制または促進する化合物を含有することを特徴とする。
【0023】
好ましくは、前記化合物は、可溶化Klothoであることを特徴とする。
【0024】
または、好ましくは、前記化合物は、可溶化Klotho、FGFR、または、前記可溶化KlothoとFGFRとFGF23との複合体に結合親和性を有するリガンドであることを特徴とする。
【0025】
さらに好ましくは、前記リガンドは抗体であることを特徴とする。
【0026】
本発明の第3の態様に係る硬組織および/または血管の石灰化検査方法は、検体における、可溶化Klothoの濃度、可溶化KlothoとFGFRとFGF23との複合体形成、または、前記複合体形成に伴うFGF特異的シグナル伝達を測定する工程を含むことを特徴とする。
【0027】
好ましくは、前記検体は、動物の血液、血漿、血清、骨髄、骨の組織もしくは細胞、または、血管の組織もしくは細胞であることを特徴とする。
【0028】
さらに好ましくは、前記動物は、ヒトであることを特徴とする。
【0029】
本発明の第4の態様に係る硬組織および/または血管の石灰化検査キットは、可溶化Klotho、または、可溶化KlothoとFGFRとFGF23との複合体に結合親和性を有するリガンドを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明の第1の態様に係る石灰化調節剤のスクリーニング方法によれば、硬組織および/または血管での石灰化を促進または抑制する、新たな石灰化調節剤をスクリーニングすることができる。本発明の第2の態様に係る石灰化調節剤によれば、硬組織および/または血管での石灰化を抑制または促進することができる。本発明の第3および第4の態様に係る、石灰化検査方法および石灰化検査キットによれば、硬組織および/または血管での石灰化を検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1に係る免疫沈降およびイムノブロッティングの結果の様子を示す図である。
【図2】実施例2に係るEgr−1のmRNAレベルにおけるリアルタイムRT−PCRの結果のデータを示す図である。
【図3】実施例2に係るERK1/2およびリン酸化ERK1/2のウェスタンブロッティングの結果の様子を示す図である。
【図4】実施例3に係るALP/von Kossa染色でのrKLe添加による石灰化指標の結果のデータを示す図である。
【図5】実施例3に係るrKLeのウェスタンブロッティングの結果の様子を示す図である。
【図6】実施例3に係るALP/von Kossa染色でのrKLeおよびrFGF23添加による石灰化指標の結果のデータを示す図である。
【図7】実施例4に係るEgr−1のmRNAレベルにおけるリアルタイムRT−PCRの結果のデータを示す図である。
【図8】実施例4に係るERK1/2およびリン酸化ERK1/2のウェスタンブロッティングの結果の様子を示す図である。
【図9】実施例5に係るカルセインで二重ラベルした頭蓋骨のプラスチック切片の蛍光顕微鏡での様子を示す図である。
【図10】図9の蛍光顕微鏡での様子におけるラベル間隔の結果のデータを示す図である。
【図11】実施例5に係るH&E染色をした頭蓋骨のパラフィン切片の顕微鏡での様子を示す図である。
【図12】図11の顕微鏡での様子における骨芽細胞の数のデータを示す図である。
【図13】図11の顕微鏡での様子における骨小腔の数のデータを示す図である。
【図14】図11の顕微鏡での様子における骨の厚さのデータを示す図である。
【図15】実施例5に係るトルイジンブルー/von Kossa染色した頭蓋骨のプラスチック切片の顕微鏡での様子を示す図である。
【図16】図15の顕微鏡での様子における類骨の厚みのデータを示す図である。
【図17】実施例5に係る電子プローブマイクロアナライザーの結果を示す図である。
【図18】実施例6に係るカルシウム量測定の結果のデータを示す図である。
【図19】実施例7に係るkl/klマウスの大動脈の実体顕微鏡での様子を示す図である。
【図20】実施例8に係るERK1/2およびリン酸化ERK1/2のウェスタンブロッティングの結果の様子を示す図である。
【図21】実施例9に係るkl/klマウス胸部大動脈のパラフィン切片のアリザリンレッド/トルイジンブルー染色の様子を示す図である。
【図22】実施例9に係るkl/klマウスおよび野生型マウスのアリザリンレッド染色範囲結果のデータを示す図である。
【図23】実施例10に係るkl/klマウス胸部大動脈のパラフィン切片の免疫染色の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、ヒト(Homo sapiens)の「FGF23」、「FGFR1」および「Klotho」は、それぞれGenBankにおいて、アクセッション番号AAG09917、AAH15035およびBAA23382に登録されている。
【0033】
(硬組織および/または血管の石灰化調節剤のスクリーニング方法)
本発明の実施の形態1は、硬組織および/または血管の石灰化調節剤のスクリーニング方法に関する。まず、被験化合物の非存在下および存在下での検体において、可溶化Klotho(KLe)とFGF23とFGFRとを接触させる工程と、被験化合物の非存在下での検体における特異的シグナル伝達と比較して、被験化合物の存在下での検体における特異的シグナル伝達が変化する化合物を選択する工程を含む方法が挙げられる。好ましくは、特異的シグナル伝達の変化は、FGFRのリン酸化、ERKのリン酸化またはEgr−1の発現量を指標とすることができる(実施例参照)。
【0034】
また、被験化合物の非存在下および存在下での検体におけるKLeの濃度を測定する工程と、被験化合物の非存在下での検体におけるKLeの濃度と比較して、被験化合物の存在下での検体におけるKLeの濃度が増減する化合物を選択する工程とを含む方法でもよい。その他、検体において、KLeとFGF23とFGFRとの複合体(以下、「KLeを含む複合体」または「複合体」)の形成を測定および比較しても構わない。この場合、直接KLeを含む複合体形成の程度、有無または濃度等を比較することが可能である。なお、これらのスクリーニングはin vivoにおいて実施する方がより好ましい。
【0035】
本発明において「可溶化Klotho(KLe)」は、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、サル、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコまたはイヌ等の哺乳動物における、Klothoの血液中に循環する細胞外ドメインの部分を指す。このうち好ましくは、ヒトおよびヒトのKLeのアミノ酸配列と相同性が高い非ヒト哺乳動物(例えば、ラット、マウス、サルまたはウサギ等)のKLeを指す。「相同性が高い」とは、60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の相同性を有することを示す。最も好ましくは、ヒトのKLeを指す。例えば、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、配列番号1に記載のアミノ酸配列中の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、付加、挿入もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、かつFGF23およびFGFRと複合体を形成して石灰化を抑制させる機能を有するタンパク質、または、当該機能を有するペプチド断片が挙げられる。このように、本発明において「可溶化Klotho(KLe)」とは、これら全てを含有した意味として使用される。
【0036】
本発明において「調節」とは、石灰化を正に制御する「促進」または「活性化」等の他、負に制御する「抑制」または「阻害」等も含めることができる。「正」に制御する例として、KLeまたはKLeを含む複合体形成ならびにそれに伴う特異的シグナル伝達の活性化による石灰化の抑制を示す事ができる。また、「負」に制御する例として、KLeまたはKLeを含む複合体形成ならびにそれに伴う特異的シグナル伝達の抑制による石灰化の促進を示す事ができる。なお、KLeを含む複合体形成の増大または低下は、例えば、硬組織および/または血管におけるKLeのFGFRへの結合促進または阻害を挙げることができる。
【0037】
本発明において「検体」とは、KLeまたはKLeを含む複合体形成ならびにそれに伴うFGF特異的シグナル伝達を測定することができ、当業者が利用しうる対象試料全てを意味する。例えば、in vivoまたはin vitroでの生体試料が挙げられる。特に、本実施の形態1に係るスクリーニング方法において最も好ましく適している検体は、in vivoでの対象となる非ヒト動物を指す。例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、サル、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコまたはイヌ等を挙げることができる。
【0038】
本発明において「硬組織」とは、生体硬組織を意味し、例えば、頭蓋および体幹の骨格を形成する骨組織、歯周組織を構成する歯槽骨およびセメント質、あるいは象牙質(これらを構成する細胞等も含む)を示す。最も好ましくは、哺乳動物の骨組織である。さらに好ましくは、ヒトと遺伝子の相同性が高い非ヒト哺乳動物(例えばラット、マウス、サルまたはウサギ等)の骨組織である。
【0039】
また、本発明において「被験化合物」(「化合物」)とは、KLeまたはKLeを含む複合体形成ならびにそれに伴う特異的シグナル伝達の増減を評価することのできるあらゆる物質を利用することができる。例えば、低分子化合物、核酸またはポリペプチド等が挙げられる。低分子化合物、核酸またはポリペプチド等は、天然物から抽出および精製されたものであってもよく、人工的に合成されたものであってもよい。また、精製されたものに限らず、例えば、未精製の細胞抽出液等であっても被験化合物として使用することができる。また、新規な物質に限らず、公知の物質またはその改良物であってもよい。例えば、既存の治療薬もしくは予防薬またはその誘導体において、本実施の形態1のスクリーニング方法により評価をすることも可能である。
【0040】
本発明において、「FGF23」(線維芽細胞増殖因子23)とは、ヒトFGF23タンパク質だけでなく、ラット、マウス、サルまたはウサギ等のヒトFGF23のアミノ酸配列と相同性が高い非ヒト哺乳動物のFGF23タンパク質、あるいはこれらの活性領域を含むペプチド断片も含有する。「相同性が高い」の意味は、前述と同様である。
【0041】
本発明において、「FGFR」についても同様に、ヒトFGFRのアミノ酸配列と相同性が高い非ヒト哺乳動物のFGFRも含有する。なお、FGF23への結合が確認されているFGFR1、3および4を指すが(Kurosu H, Ogawa Y, Miyoshi M, Yamamoto M, Nandi A, Rosenblatt KP, Baum MG, Schiavi S, Hu MC, Moe OW, Kuro-o M. J Biol Chem. 2006 Mar 10;281(10):6120−6123.参照)、最も好ましくはFGFR1である(非特許文献3(Urakawa I., et al., Nature 444, 770−774, 2006)参照)。
【0042】
検体におけるKLeまたはKLeを含む複合体形成ならびにそれに伴うFGF23特異的シグナル伝達を測定および比較する具体的な方法については、当該技術分野の当業者に公知であるこれらを測定および比較するあらゆる方法を利用することができる。
【0043】
詳細には、例えば、まず、前述したような非ヒト哺乳動物に被験化合物を投与または注射等を行い、当該哺乳動物の血液等におけるKLeまたはKLeを含む複合体形成を測定することができる。また、FGFRを発現している硬組織または硬組織の一部に、直接FGF23およびKLeを接触させ、当該硬組織における複合体形成およびそれに伴うFGFRのリン酸化、ERKのリン酸化あるいはEgr−1の発現レベルを測定することもできる。その他、より容易に測定およびスクリーニングできるよう、検体として、骨芽細胞・骨細胞または血管平滑筋細胞に、KLe、FGF23あるいはFGFRを強制発現させた実験系を構築してもよい。このような細胞の構成・DNAの導入は、当該技術分野の当業者にとっては容易であり、例えば、DNA導入用プラスミドもしくはウイルスベクターを用いた方法、エレクトロポーレーション、リポフェクションまたはマイクロインジェクション等が挙げられる。このように、本実施の形態1に係るスクリーニング方法は、in vivoで行うことも、in vitroで行うことも可能である。
【0044】
これらの血液、硬組織または細胞等におけるKLe、KLeを含む複合体形成ならびにそれに伴うFGF23特異的シグナル伝達の測定については、例えば、分子間相互分析、ウェスタンブロッティング、免疫沈降、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫組織化学染色、免疫蛍光またはフローサイトメトリー等の公知のタンパク質検出、定量方法を利用することで、当業者であれば容易に測定可能である。
【0045】
測定された被験化合物存在下のKLeまたはKLeを含む複合体の形成あるいはそれに伴うFGFRのリン酸化、ERKのリン酸化またはEgr−1の発現が、被験化合物の非存在下と比較して増加または減少している場合、当該被験化合物は、硬組織および/または血管の石灰化をそれぞれ抑制または促進する石灰化調節剤となる可能性が高い。
【0046】
このようにスクリーニングされた石灰化を抑制する硬組織および/または血管の石灰化調節剤は、石灰化が促進されている疾患・状態として変形性関節症、異所性石灰化、動脈硬化症または腎不全における血管石灰化の予防・治療の手段に利用できる。石灰化を促進する石灰化調節剤の場合、石灰化が阻害または抑制されている疾患・状態として、骨粗鬆症、くる病または骨軟化症の予防・治療剤として利用できる。さらに、その他の硬組織疾患または再生医療等の分野での利用も考えられる。
【0047】
(硬組織および/または血管の石灰化調節剤)
KLeまたはKLeを含む複合体ならびにその下流のFGF23特異的シグナル伝達を利用した石灰化調節剤のスクリーニング方法について詳細に述べたが、KLeそれ自体またはKLeを含む複合体形成に関連する化合物等を有効成分として、石灰化の調節に利用できる可能性もある。そこで、実施の形態2は、硬組織および/または血管の石灰化調節剤について述べる。
【0048】
具体的には、硬組織および/または血管の石灰化を抑制する調節剤は、KLe等、KLeを含む複合体形成を促進させる化合物を有効成分として含有する。また、硬組織の石灰化を促進する調節剤は、KLe、KLeを含む複合体またはFGFRに結合親和性を有するリガンドを含有する。好ましくは、当該リガンドは、抗体である。さらに、KLeを含む複合体形成に伴う特異的シグナル伝達の、他の阻害・促進剤等も同時に有効成分として含有することによって、より有効な石灰化調節剤となることも考えられる。例えば、U0126などのERKシグナルの阻害剤は容易に入手可能であり、このようなKLeを含む複合体形成に伴う特異的シグナル伝達の他の調節剤を含有しても構わない。
【0049】
KLeは容易に入手、製造または精製することができる。KLeは実施例にて示す通り、例えばR&D Systemsにおいて容易に購入、入手することができる。また、例えば配列番号1に示すアミノ酸配列を有するタンパク質・ペプチドを公知のタンパク質・ペプチド合成法などを用いて製造することができる(例えば、固相合成法、液相合成法等を含む)。また、反応後は通常の精製法、例えば、溶媒抽出・蒸留・カラムクロマトグラフィー・液体クロマトグラフィー・再結晶等を組み合わせてタンパク質・ペプチドを精製単離することができる。
【0050】
本発明において、「抗体」とはモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でも構わず、KLe、FGFRまたはKLeを含む複合体に特異的に結合するものであれば特に制限されない。KLeの複合体形成を促進する抗体、あるいはKLeを含む複合体形成を促進する抗体もこれに含まれる。すなわち、アゴニスト抗体でもアンタゴニスト抗体でも、いずれの抗体でも構わない。また、「抗体」のうち、KLeの「中和抗体」とは、KLeによる特異的シグナル伝達の機能を阻害する抗体、例えばFGFRおよびFGF23との複合体形成を阻害する抗体等のことを意味する。なお、実施例において示すが、例えば具体的には、抗Klothoモノクローナル抗体が挙げられる。FGFRの「中和抗体」についても同様に、FGFRによる特異的シグナル伝達の機能を阻害する抗体のことを意味する。KLeを含む複合体の「中和抗体」についても同様に、KLeを含む複合体によって起こされる特異的シグナル伝達の機能を阻害する抗体等のことを意味する。
【0051】
抗体の製造方法は、すでに当業者にとっては周知であり、本抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1983) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.12〜11.13、Antibodies; A Laboratory Manual, Lane, H, D.ら編, Cold Spring Harber Laboratory Press 出版 New York 1989)。
【0052】
実施の形態2に係る硬組織および/または血管の石灰化を抑制する調節剤によると、石灰化が促進されている疾患・状態である変形性関節症、異所性石灰化または動脈硬化症における血管石灰化の病態進展阻止の手段として利用できる。当該調節剤は、直接患者に投与したり、これらのその他の成分も含有する化合物を構成し、これを患者に投与することもできる。投与方法としては、経口、静脈内、動脈内または皮下注射等の公知の方法を用いることができる。
【0053】
また、硬組織の石灰化を促進する調節剤によると、骨粗鬆症、くる病または骨軟化症の予防・治療の手段として利用できる。投与方法等は前述した石灰化を抑制する調節剤と同様であるが、さらに、注射等により特定の部位(例えば、骨が減少または過剰形成している部位)に直接投与することも考えられる。
【0054】
(硬組織および/または血管の石灰化検査方法)
前述した通り、KLeはFGF23特異的シグナル伝達による石灰化抑制に必須の因子である為、硬組織の石灰化抑制は、硬組織、血管あるいは血中KLe(およびFGF23(特許文献1、非特許文献1および2参照))濃度に強く影響されると考えられる。
【0055】
そこで、実施の形態3として、検体におけるKLeの濃度を測定する工程を含むことを特徴とする硬組織および/または血管の石灰化検査方法を挙げることができる。なお、KLeの濃度だけでなく、KLeを含む複合体形成あるいはそれに伴うFGF23特異的シグナル伝達を測定することによっても石灰化の程度を推定することができる。
【0056】
なお、前述のとおりKLeは血液中を循環する為、測定工程は、血液、血漿、血清、骨髄、骨の組織もしくは細胞、または、血管の組織もしくは細胞におけるKLeの濃度、KLeを含む複合体形成あるいはそれに伴うFGF23特異的シグナル伝達を測定することがより簡便で好ましい。測定方法は、当該分野において当業者に公知の方法である、あらゆる方法を利用することができる。例えば、KLeの濃度またはKLeを含む複合体形成を測定すればよい。例えば、血液中のKLeの濃度を測定する場合は、免疫沈降、ウェスタンブロッティング、ELISA、RIA、免疫組織化学染色、免疫蛍光またはフローサイトメトリー等の方法が挙げられる。複合体形成に伴うFGF23特異的シグナル伝達の測定は、前述と同様に、FGFRのリン酸化、ERKのリン酸化またはEgr−1の発現量の測定によって可能である。
【0057】
測定した血液中などのKLeの濃度は、例えば予め測定・平均を算出しておいた正常値と比較することによって、石灰化の程度およびそれに伴う病態の進展、有効物質のスクリーニングを評価することが可能であると考えられる。また、本実施の形態4に係る石灰化検査方法においてヒトの血液、血漿、血清または骨髄等を検体とすることで、変形性関節症、異所性石灰化もしくは動脈硬化症における血管石灰化の病態把握、モニタリング、または、骨粗鬆症、くる病もしくは骨軟化症における骨の石灰化不全の病態把握、モニタリングとなる可能性が高い。
【0058】
(硬組織および/または血管の石灰化検査キット)
実施の形態3において述べた通り、血液中のKLeの濃度およびKLeを含む複合体形成の測定によって、硬組織および/または血管の石灰化度の程度の目安となると考えられる。そこで、実施の形態4として、実施の形態3で述べた石灰化検査方法に使用する為の、KLeまたはKLeを含む複合体に結合親和性を有するリガンドを含有する、硬組織および/または血管の石灰化検査キットを挙げることができる。
【0059】
リガンドとは、測定対象物(KLeまたはKLeを含む複合体)に特異的に結合する物質を意味し、例えば前述したようなKLeまたは複合体の抗体(Klothoの抗体でも一部可能)および該抗体に対する二次抗体を指す。その他、例えば、各種試薬、酵素、緩衝液、反応器材および/または石灰化不全の程度を比較、評価する説明書等が含まれても構わない。これらの使用方法については実施の形態3において述べた方法と同様である。
【0060】
他に定義しない限り、本明細書中で用いるすべての技術用語等は、本発明が属する分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるものと同様のまたは等しい方法および材料を本発明の実施または試験に用いることができる。本明細書中に言及するすべての公開物、特許出願、特許および他の参考文献は、参照として全体が組み入れられる。相反の場合、定義を含む本明細書が優先する。さらに、材料、方法および具体例は単に例示的なものであり、限定することを意図していない。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。なお、実施例において使用している試薬について、特に記載のない限り、Sigma-Aldrichのものを使用した。Klotho変異マウス(以下、kl/klマウス)は日本クレアより入手し、C57BL/6JマウスおよびWistarラットは日本チャールズリバーより入手した。
【0062】
(実施例1)
本実施例1では、骨芽細胞/骨細胞における、KLeとFGF23およびFGFR1との複合体形成に係る実施例について詳細に説明する。
【0063】
まず、実施例1ないし実施例3において使用した、成熟骨芽細胞/骨細胞(Obc細胞)、および、該Obc細胞の育成、培養方法について説明する。胎生21日齢胎仔ラット由来の頭蓋冠から細胞を分離し(Yoshiko Y, et al., Endocrinology 144, 4134−4143, 2003参照)、当該頭蓋冠細胞を10%FBS(ウシ胎仔血清、Fetal Bovine Serum)(HyClone)および50μg/mlアスコルビン酸を含むα−MEM(Modified Essential Medium)培地によって培養した。培養期間は10日、常法どおり、37℃、湿式5%CO気相下で培養した。当該頭蓋冠細胞が類骨様のノジュール(結節)を形成した後に、コラゲナーゼ(タイプI)処理により、ノジュールから細胞を選択的に取り出した。その後、取り出した細胞を前述の条件で培養し、Obc細胞として用いた。なお、成熟した骨芽細胞・骨細胞としての特徴を確認するため、Ocn(osteocalcin)、Dmp−1(dentin matrix protein-1)およびSostの発現量をリアルタイムRT−PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)法によって測定した(図示せず)。
【0064】
本実施例1においては、Obc細胞培養を、0.1%FBSの血清欠乏性の条件において培養したものを使用した。さらに、当該細胞を、遺伝子組み換えKLe(rKLe)(≦500ng/ml(R&D Systems))(配列番号2に記載)および遺伝子組み換えFGF23(rFGF23)(≦500ng/ml(R&D Systems))のいずれも含む条件、rKLeのみ含む条件、rFGF23のみ含む条件、または、いずれも含まない条件のいずれかにおいて、15分間培養した。
【0065】
このように培養したそれぞれの細胞を、1%Igepal CA630および50mM Tris-HCl(pH8.0)によって可溶化した。抗Klothoモノクローナル抗体(αKlotho Mab)(Calbiochem)または抗FGFR1モノクローナル抗体(αFGFR1 Mab)(Abcam)による免疫沈降(IP)、および、αFGFR1 Mabまたは抗FGF23ポリクローナル抗体(αFGF23)(R&D Systems)によるイムノブロッティング(IB)を行った。免疫沈降では、可溶化した細胞抽出液を磁気マイクロビーズと結合したプロテインG(μMACSプロテインGマイクロビーズ、Miltenyi Biotec)と一緒にインキュベートした。その際、αKlotho MabまたはαFGFR1 Mabのいずれかを添加し、免疫複合体を得た(MACS(登録商標)Separators User Manual、Miltenyi Biotec)。その後、このサンプルをSDS−PAGE(Poly-Acrylamide Gel Electrophoresis)に供し、αFGFR1 MabまたはαFGF23(Santa Cruz)でのイムノブロッティング(IB)を行い、化学発光によりシグナルを検出した。
【0066】
図1は、実施例1に係る免疫沈降およびイムノブロッティングの結果の様子を示す図である。図1に示すように、FGFR1およびFGF23は、rKLeおよびrFGF23の両方の存在下においてのみ、それぞれKlothoおよびFGFR1と複合体を形成した。これらの結果から、KLeとFGF23およびFGFR1とが、骨芽細胞/骨細胞において複合体を形成することが明らかとなった。
【0067】
(実施例2)
本実施例2では、Obc細胞でのFGF23特異的シグナル伝達とKLeとの相関に係る実施例について詳細に説明する。
【0068】
Egr−1は、FGF23特異的シグナル伝達により発現が促進される遺伝子である(非特許文献3参照)。そこで、本発明者らは、Obc細胞におけるEgr−1のmRNAレベルをリアルタイムRT−PCRによって計測した。
【0069】
細胞は、実施例1において述べた培養条件と同様の条件において、30分間培養したものを使用した。まず、TRIzol試薬(Invitrogen)を使用して、細胞の全RNAを調製した。調整したRNAを用い、リアルタイムRT−PCRを行った(Y.Yoshiko, G.A.Candeliere, N.Maeda, J.E. Aubin, Mol Cell Biol 274, 465−4474, 2007、および、H.Wang, Y.Yoshiko, R.Yamamoto, T.Minamizaki, K.Kozai, K.Tanne, J.E. Aubin, N.Maeda, J Bone Miner Res 23, 939−948, 2008参照)。内部標準としてはリボソームタンパクL32を使用した。なお、Egr−1のフォワードプライマーは配列番号3に記載のものを、リバースプライマーは配列番号4に記載のものを使用し、L32のフォワードプライマーは配列番号5に記載のものを、リバースプライマーは配列番号6に記載のものを使用した。
【0070】
図2は、実施例2に係るEgr−1のmRNAレベルにおけるリアルタイムRT−PCRの結果のデータを示す図である。なお、溶媒のみ(−)と比較して有意差がある。図2では、**(有意水準):p<0.01であり、n=4である。
【0071】
一方、ERK1/2のリン酸化についても、FGF23特異的シグナル伝達の指標となっている(非特許文献3参照)。そこで、本発明者らはERK1/2活性を調べる為、ウェスタンブロッティングを行った。
【0072】
細胞は、実施例1において述べた培養と同条件で5〜30分間処理した後、リン酸化阻害剤(Phosphatase Inhibitor Cocktail(ナカライテスク))を添加した細胞抽出液(100 mM KCl、1mM EDTA、0.5% Nonidet P−40、1mM phenylmethylsulfonylfluoride、Complete Protease Inhibitor Cocktail(Roche Diagnostics)を含む50mM Tris-HCl(pH7.5))で細胞を可溶化し、SDS−PAGE、イムノブロッティングおよび化学発光検出を行った。一次抗体には、ERK1/2およびリン酸化ERK1/2(p−ERK1/2)を使用した。
【0073】
図3は、実施例2に係るERK1/2およびリン酸化ERK1/2のウェスタンブロッティングの結果の様子を示す図である。図3に示すように、rFGF23およびrKLeのいずれも含む条件において、かつ10分間処理したものについてERK1/2のリン酸化が検出された。このように、図2および図3のいずれの結果でも、rFGF23およびrKLeが存在する場合のみ、Egr−1のmRNAレベルの増加、ERK1/2の活性化が確認された。
【0074】
これらの結果から、Obc細胞において、KLeとFGF23とFGFRとが結合した複合体がFGF23特異的シグナル伝達を促進すると考えられた。
【0075】
(実施例3)
本実施例3では、Obc細胞でのFGF23特異的シグナル伝達による石灰化不全と、KLeとの相関に係る実施例について詳細に説明する。
【0076】
本発明者らは、KLeとObc細胞でのFGF23特異的シグナル伝達による石灰化抑制との相関を確認するため、骨芽細胞のマーカー酵素であるアルカリホスファターゼ(ALP)活性と石灰化を検出するvon Kossa染色を行った。なお、本発明者らにより、1α,25ジヒドロキシビタミンD(1,25D)はFGF23の発現を強力に促進することが確認されている為、rFGF23だけでなく10nMの1,25Dを添加して培養したものについても調べた。FBSにはKLeが含まれていることが確認された為(図示せず、ウェスタンブロッティングにおいて確認)、前述のμMACSプロテインGマイクロビーズおよびαKlotho MabによってFBSからKLeを取り除いたものを5%となるように培養液に添加した。rKLeは回復実験に使用した。培養は試薬添加後36時間後に終了し、PBSで洗浄、10%中性緩衝ホルマリンで固定した後染色を施した。rFGF23を添加した群は、培養上清(conditioned media)を回収し、添加したrKLeのレベルをウェスタンブロッティングにより確認した。なお、石灰化を誘導するため3mM β−グリセロリン酸を添加した。その後、実体顕微鏡下でALP陽性の石灰化ノジュールの数を計測した。数値は陰性対照(溶媒のみ)を100として表した。
【0077】
図4は、実施例3に係るALP/von Kossa染色でのrKLe添加による石灰化指標の結果のデータを示す図である。なお、溶媒のみ(−)と比較して有意差がある。図4では、*(有意水準):p<0.05であり、**(有意水準):p<0.01であり、n=4である。図4の石灰化指標(Mineralized foci)に示す通り、1,25DおよびrFGF23のいずれも、rKLeを添加していないものはコントロールと比較して石灰化が抑制されず、むしろ促進している。しかし、rKLeを添加することによって再び石灰化抑制の状態に戻っている。図5は、実施例3に係るrKLeのウェスタンブロッティングの結果の様子を示す図である。図5に示すように、培養上清のrKLe濃度は、図4に示した石灰化抑制作用の濃度依存性と一致していた。これら図4および図5の結果から、rKLe濃度に石灰化の程度が依存していることが示唆される。
【0078】
さらに、rKLeおよびrFGF23による石灰化抑制とFGF23特異的シグナルの相関を確認した。実施例1で述べた方法と同様の方法で、0.1%FBSの血清欠乏性の条件において培養して得たObc細胞を、MEK1/2阻害剤であるU0126を10μMまたは溶媒のみで2時間前処理を行った。洗浄後、rKLeおよびrFGF23または溶媒のみを添加し、36時間後に前述同様ALP/von Kossa染色を施した。FGFR中和抗体(αFGFR)2μg/ml(CHEMICON)あるいはその溶媒のみ(陰性対照)については、rKLeおよびrFGF23を添加する際に加えた。さらに、前述同様、βグリセロリン酸もrKLeおよびrFGF23と同時に添加した。
【0079】
図6は、実施例3に係るALP/von Kossa染色でのrKLeおよびrFGF23添加による石灰化指標の結果のデータを示す図である。なお、溶媒のみ(−)と比較して有意差がある。図6では、**(有意水準):p<0.01であり、n=4である。図6に示すとおり、rKLeおよびrFGF23による石灰化抑制は、FGFR中和抗体あるいはU0126によって大部分が回復していることにより、KLeを含む複合体形成に基づくシグナル伝達が、石灰化抑制に強く関与することが明らかとなった。従って、これら自身はKLeを含む複合体形成に基づく石灰化抑制の治療剤として有効である。また、KLeは石灰化を抑制する調節剤として、KLeおよびKLeを含む複合体の中和抗体となるものは石灰化を促進する調節剤として有効であることが示唆される。
【0080】
本実施例3、および実施例1ならびに実施例2の結果から、KLeは、Obc細胞において、FGF23およびFGFRと機能的な複合体を形成し、Obc細胞におけるFGF23特異的シグナル伝達(FGF23による骨の石灰化不全を含む)に不可欠であるということが確認された。なお、当該実施例においてKLeと反応するWntおよびTRPV5が影響している可能性があるが、Wntについては同様にALP/von Kossa染色を行い影響していないことを確認し(図示せず)、TRPV5は骨に存在しないため、影響することはない。
【0081】
(実施例4)
本実施例4では、骨および腎臓での、FGF23特異的シグナル伝達ならびに石灰化不全とKLeとの相関に係る実施例について詳細に説明する。
【0082】
前述した実施例で示したKLeの作用が、生体でも見られるか否かを確かめる為、rKLeをKlothoを欠如したKlotho変異マウス(kl/klマウス)に投与した。なお、本発明者らにより、WTマウス血清と比較すると、kl/klマウス血清は、リン酸、カルシウム、1,25DおよびFGF23の濃度がいずれも著しく高い値となっていることが確認されている(図示せず、1,25DはRIAキット(TFB)、FGF23の濃度の測定はFGF23 ELISAキット(カイノス)により行った。リン酸およびカルシウムはそれぞれホスファC−テストワコー、カルシウムC−テストワコー(いずれも和光純薬工業)により測定した。このように、kl/klマウス血中FGF23濃度が極めて高値であるが(その原因は不明)、Klothoが欠損している為、FGF23は作用しないと推定される。
【0083】
投与は生後10日目の雄kl/klマウス頭蓋冠皮下に10μgを0.3%アテロコラーゲン(高研)と混合して3日間隔で注射し、生後22日にサンプルを回収した。サンプル回収2日前とその6日前の2回に分けてカルセイン10mg/kg/1回を腹腔注射した。まず、頭頂骨および腎臓から全RNAを抽出し、リアルタイムRT−PCRによってEgr−1のmRNAレベルを計測した。RT−PCRのサンプルにおいて、リアルタイムRT−PCRのプライマー、その他詳細な方法については前述した実施例2と同様である。
【0084】
図7は、実施例4に係るEgr−1のmRNAレベルにおけるリアルタイムRT−PCRの結果のデータを示す図である。頭頂骨(Bone)については、野生型マウス(WT)のrKLeを投与しないものについても調べた。なお、rKLeを投与していないkl/klマウスの骨のデータと比較して有意差がある。図7では、*(有意水準):p<0.05であり、n=9である。図7に示すように、kl/klマウスでの骨においては、rKLeを投与するとEgr−1のmRNAレベルが上昇する。しかし、同マウスの腎臓(Kidney)においては、rKLeの投与によってEgr−1のmRNAレベルは、ほとんど変化していない。
【0085】
さらに実施例2と同様にERK1/2活性を調べる為、ウェスタンブロッティングも行った。サンプルに用いるマウスは前述したものと同様の投与を行ったkl/klマウスを使用し、当該マウスの頭頂骨および腎臓の細胞のサンプルを使用した。ウェスタンブロッティングの方法、その他条件については前述した実施例2と同様である。
【0086】
図8は、実施例4に係るERK1/2およびリン酸化ERK1/2のウェスタンブロッティングの結果の様子を示す図である。なお、図は実施した各群9例の個体のうちの代表例を示す。図8に示すように、rKLeを投与したマウスの骨には、ERK1/2のリン酸化の促進が検出された。しかし、腎臓においてはrKLeを投与したグループにERK1/2の活性化は検出されなかった。すなわち、図7および図8に示す結果から、kl/klマウスへのrKLeの投与によるFGF特異的シグナル伝達は骨に特異的であり腎臓には見られないということが示唆される。すなわち、KLeは腎臓においてはFGF23と協調作用を示していないと言える。
【0087】
(実施例5)
本実施例5では、Obc細胞でのFGF23特異的シグナル伝達による石灰化抑制とKLeとの相関に係る、in vivoにおける具体的な実施例について詳細に説明する。
【0088】
本発明者らは、実施例1ないし実施例4において述べた、骨でのKLeのFGF23特異的シグナル伝達における石灰化抑制機能についてより具体的に確認する為、当該機能の組織形態計測学的な分析を行った。すなわち、rKLeを投与したkl/klマウス等の頭頂骨を4%パラフォルムアルデヒドで固定し、常法に従ってプラスチック切片またはパラフィン切片を作製し、組織学的に評価した。マウスの種類およびrKLeの投与方法等は、実施例4において述べた方法と同様である。
【0089】
まず、カルセインの二重ラベルでの蛍光検出について説明する。図9は、実施例5に係るカルセインで二重ラベルした頭頂骨のプラスチック切片の蛍光顕微鏡での様子を示す図である。図は実施した各群9例の個体のうちの代表例を示す。図10は、図9の蛍光顕微鏡での様子におけるラベル間隔の結果のデータを示す図である。なお、本実施例5におけるデータを示す図10、図12、図13、図14および図16は、溶媒を投与したWTマウスおよびkl/klマウスと比較して有意差がある。これらの図において、WTマウスと比較して*(有意水準):p<0.05であり、kl/klマウスと比較して♯(有意水準):p<0.05である。図9および図10に示すように、rKLeを投与されたkl/klマウスの頭頂骨では、rKLeを投与されていないkl/klマウスの場合と比較して、ラベル間隔が著しく小さい。すなわち、rKLeを投与されたkl/klマウスの頭頂骨は、石灰化が抑制された。
【0090】
次に、H&E(Hematoxilin-Eosin)染色について説明する。図11は、実施例5に係るH&E染色をした頭蓋骨のパラフィン切片の顕微鏡での様子を示す図である。なお、図は実施した各群9例の個体のうちの代表例を示す。図中、「]」の部分は類骨を示す。図12は、図11の顕微鏡での様子における骨芽細胞の数のデータを示す図である。図13は、図11の顕微鏡での様子における骨小腔の数のデータを示す図である。図14は、図11の顕微鏡での様子における骨の厚みのデータを示す図である。図12、図13および図14に示すように、前述したカルセインにおけるラベリングとは異なり、kl/klマウスにおいてrKLeの投与の有無に拘わらず、結果に著しい変化は見られなかった。
【0091】
さらに、プラスチック切片のvon Kossa染色および電子プローブマイクロアナライザーによる結果について説明する。von Kossa染色では、トルイジンブルーで対比染色した。
【0092】
図15は、実施例5に係るトルイジンブルー/von Kossa染色した頭蓋骨のプラスチック切片の顕微鏡での様子を示す図である。図16は、図15の顕微鏡での様子における類骨の厚みのデータを示す図である。図15および図16に示すように、rKLeを投与されたkl/klマウスの頭頂骨では、rKLeを投与されていないkl/klマウスの場合と比較して、著しく類骨(非石灰化骨)が増加していた。なお、図はいずれも実施した各群9例の個体のうちの代表例を示す。
【0093】
電子プローブマイクロアナライザーは、JXA−8200(日本電子)を当該アナライザーの使用説明書に沿って使用した(照射電流値20nA、加速電圧15kV、計測時間0.05秒/1ピクセル)。
【0094】
図17は、実施例5に係る電子プローブマイクロアナライザーの結果を示す図である。図は実施した各群9例の個体のうちの代表例を示す。それぞれの図において、左からマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)およびリン(P)の元素マッピングを示している。図17に示すように、rKLeを投与されたkl/klマウスの頭蓋骨では、rKLeを投与されていないkl/klマウスの場合と比較して、Mg、CaおよびPが減少している。すなわち、電子プローブマイクロアナライザーの結果からも、rKLeの投与によって骨の石灰化が減少するということが示された。
【0095】
本実施例5において、Obc細胞でのFGF23はin vivoにおいてrKLeと協調的に作用することが示唆される。これは、前述した実施例の結果も含めると、循環しているKLeのレベルは、骨芽細胞・骨細胞におけるFGF23シグナリング経由での骨の石灰化に直接関連する(KLeの循環レベルが多いほど、骨の石灰化は抑制される)ということを指し示している。すなわち、体内に循環するKLeの量またはFGF23とKLeとの結合を調整することによって、骨の石灰化・形成もコントロールできることを示唆している。
【0096】
(実施例6)
本発明者らは、骨血管相関から血管の石灰化についても前述したようなKLeの機能が関与すると考察した。そこで、本実施例6では大動脈平滑筋細胞におけるカルシウム量測定に係る実施例について詳細に説明する。
【0097】
ラット大動脈平滑筋細胞を、15%のFBS DMEM(Dulbecco's Moodified Eagle's Medium)において、実施例1において述べた方法と同様にインキュベーター内で培養した。細胞がコンフルエンスになった後、0.1%FBSの血清欠乏症の条件とし、リン酸水素ナトリウム2mMを負荷して培養を継続した。血清欠乏症の条件で培養を始めた2日後、rKLeおよびrFGF23をそれぞれ単独または同時に添加し、さらに1週間培養した。培地は2ないし3日おきに新鮮培地と交換した。培養終了後、細胞はPBSで洗浄し、一晩0.6N塩酸処理した。その上澄のカルシウム量を前述のカルシウムC−テストワコーにより測定した。
【0098】
図18は、実施例6に係るカルシウム量測定の結果のデータを示す図である。なお、溶媒のみ(−)と比較して有意差がある。図18では、**(有意水準):p<0.01であり、n=4である。図18に示すように、リン酸負荷による血管平滑筋の石灰化はrKLeおよびrFGF23同時添加により抑制されており、血管石灰化の抑制にKLeを含む複合体が関与することが示唆される。
【0099】
(実施例7)
本実施例7では、前述した実施例6において示した血管石灰化抑制の複合体の関与が生体でも見られるか否かを確かめる為の、in vivoでの大動脈の石灰化に係る実施例について詳細に説明する。
【0100】
実施例4および実施例5において示したkl/klマウスの実験において、同様の方法においてrKLeを投与したkl/klマウス、および、溶媒(PBS−アテロコラーゲン)を投与したkl/klマウスから大動脈を採取した。採取した大動脈を4%パラフォルムアルデヒドによって固定し、水洗後、0.5%水酸化カリウムに浸透させた。その後、同溶液に20μg/mlアリザリンレッドを溶解した液において染色した。
【0101】
図19は、実施例7に係るkl/klマウスの大動脈の実体顕微鏡での様子を示す図である。図は実施した各群9例の個体のうちの代表例を示す。左は溶媒のみ投与したkl/klマウスの大動脈の図であり、右はrKLeを投与したkl/klマウスの大動脈の図である。いずれの図も9例のうちの代表例を示す。図19に示すように、アリザリンレッドで染色される石灰化巣が、rKLeを投与したマウスの方が、溶媒のみを投与したマウスと比較し、明らかに減少している。すなわち、in vivoにおいてもKLeを含む複合体が血管石灰化を抑制すると考えられる。
【0102】
(実施例8)
本実施例8では、前述した実施例3において簡単に示した、rKLe濃度と石灰化の程度との依存性を確認する為のさらなる実施例について詳細に説明する。
【0103】
4週齢雄C57BL/6Jマウスに、あらかじめ1,25Dを6μg/kg/1日を2回皮下に投与し、FGF23の発現を誘導した。2回目の投与の24時間後、rKLeを2または10μgを単回静注し、2時間後に頭頂骨および腎臓を回収し、細胞抽出液(実施例2において使用したものと同様のもの)で可溶化した。この抽出液を実施例1に記載の方法と同様の方法において、SDS−PAGEに供し、実施例2に記載した方法と同様の方法においてERK1/2のリン酸化をウェスタンブロッティングで確認した。
【0104】
図20は、実施例8に係るERK1/2およびリン酸化ERK1/2のウェスタンブロッティングの結果の様子を示す図である。図は実施した各群5例の個体のうちの代表例を示す。図20に示すように、rKLeの投与量に依存して頭頂骨におけるERK1/2のリン酸化促進を認めた。すなわち、実施例3において簡単に示したrKLe濃度と石灰化の程度との依存性の結果を考慮すると、マウスの血液、血漿、血清、骨髄、骨および血管の細胞または組織等におけるrKLe濃度と石灰化の程度との依存性が、さらに強く示唆されたことを意味する。この結果を利用すると、例えばヒト等の動物の血液等のKLe濃度を測定することにより、硬組織および/または血管の石灰化の程度を検査できる可能性が高い。このような検査・石灰化の程度の判断においては、例えば、当該動物における正常時の血液中のKLeの濃度と比較することが考えられる。なお、このようなリン酸化促進は腎臓では見られなかった(図示せず)。
【0105】
(実施例9)
本実施例9では、in vivoでの大動脈血管壁の石灰化のアリザリンレッド/トルイジンブルー染色に係る実施例について、詳細に説明する。
【0106】
まず、rKLeの投与は、直接、生後4週間目(28日目)の雄kl/klマウスの皮下へ、アルゼット(登録商標)の浸透圧ポンプを用いて行った(150ng/h流速)。rKLeを投与した後、生後6週間目(42日目)において、kl/klマウスの胸部大動脈のサンプリングを行った。マウスの胸部大動脈は、4%パラフォルムアルデヒド/PBSにおいて4℃で16時間置き、次いで洗浄を行った。その後、常法において、マウスの胸部大動脈の12μMのパラフィン切片を作製し、当該パラフィン切片に、アリザリンレッド/トルイジンブルー染色を行った。当該アリザリンレッド/トルイジンブルー染色の詳細な方法は、前述の実施例5および実施例7と同様である。一方、同様の方法において、溶媒を投与したkl/klマウスの胸部大動脈のパラフィン切片も作製し染色した。
【0107】
図21は、実施例9に係るkl/klマウス胸部大動脈のパラフィン切片のアリザリンレッド/トルイジンブルー染色の様子を示す図である。図は実施したkl/klマウス胸部大動脈のうちの代表例を示す。−rKLeは溶媒を投与したkl/klマウスの胸部大動脈のパラフィン切片の図であり、+rKLeはrKLeを投与したkl/klマウスの胸部大動脈のパラフィン切片の図である。図21に示すように、rKLeを投与したkl/klマウスの大動脈のパラフィン切片の方が、アリザリンレッドによって染色される石灰化巣が減少しており、対比染色に用いたトルイジンブルーのみの範囲が増加していた。
【0108】
また、図22は、実施例9に係るkl/klマウスおよび野生型マウスのアリザリンレッド染色範囲結果のデータを示す図である。すなわち、石灰化範囲(Calcification area)を示す図である。図22では、溶媒を投与したkl/klマウス(kl/kl(−))を100とした場合における、rKLeを投与したkl/klマウス(kl/kl(+))の値、および、同様の方法を用いてパラフィン切片を作製し染色した、溶媒を投与した野生型マウス(WT(−))の値を示している。kl/klマウス(+)にはkl/klマウス(−)と比較して有意差があり、図22では*(有意水準):p<0.05である。図22に示すように、やはり、kl/klマウスにrKLeを投与すると、kl/klマウスの血管石灰化範囲は抑制されていた。
【0109】
(実施例10)
本実施例10では、in vivoでの大動脈血管壁の石灰化の免疫染色に係る実施例について、詳細に説明する。
【0110】
本実施例10は、溶媒を投与したkl/klマウス、および、rKLeを投与したkl/klマウスに対して行い、実験方法のパラフィン切片の作製までは、前述の実施例9と同様である。その後、室温で1時間、Protein Block(DAKO)を用いてブロッキングを行い、次いで洗浄を行った。一次抗体としては、Anti−Runx2、Anti−phosphorylated ERK、Anti−FGF23およびAnti−Klotho(いずれもSanta Cruz、希釈倍率×50)を用い、4℃で16時間置いた。次に、Cy2/3標識二次抗体(Jackson Immunoresearch Lab.、希釈倍率×400)を用い、室温で1時間置いた。その後、蛍光顕微鏡を用いてそれぞれを観察した。
【0111】
図23は、実施例10に係るkl/klマウス胸部大動脈のパラフィン切片の免疫染色の様子を示す図である。図は実施したkl/klマウス胸部大動脈のうちの代表例を示す。−rKLeは溶媒を投与したkl/klマウスの胸部大動脈のパラフィン切片の図であり、+rKLeはrKLeを投与したkl/klマウスの胸部大動脈のパラフィン切片の図である。図23のそれぞれの図において、線で区切られたLの部分は血管内腔を示し、Mの矢印は血管の中膜の部分を示し、Aの矢印は血管の外膜の部分を示す。また、それぞれの図の右上に、用いた一次抗体を示す。
【0112】
図23に示すように、まず、−rKLeのKlotho、FGF23あるいはp−ERKのいずれかの一次抗体を用いた場合、大動脈壁はいずれの抗体でも明らかな陽性反応はみられなかった。一方、Runx2の抗体によって、kl/klマウス胸部大動脈の一部石灰化領域に、Runx2陽性の骨芽細胞様細胞を確認することができた。しかし、−rKLeのRunx2と+rKLeのRunx2とを比較することによって、KLeの投与により当該石灰化の進行が抑制されることも確認することができた。また、+rKLeのKlothoおよびFGF23の図からは、kl/klマウス大動脈血管壁中膜外側に内在性のFGF23および投与したKLeの集積が見られることが確認された。さらに、p−ERKの図からは、KLeとFGF23の集積部位とERKのリン酸化部位が一致していることより、この領域でFGF23特異的シグナル伝達が活性化されていることを明確に指し示している。
【0113】
各実施例に用いたrKLeは、煮沸して失活させたものについても検証し、各実施例で溶媒のみ用いた場合と同様の結果であったことを追記する(図示せず)。
【0114】
本発明は、上記発明の実施の形態および実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0115】
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報および特許公報等の内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明によれば、FGF23による硬組織(例えば骨)および/または血管での石灰化を抑制または促進することができる石灰化調節(抑制または促進)剤およびそのスクリーニング方法、ならびに、FGF23による硬組織および/または血管での石灰化を検査することができる石灰化検査方法・石灰化検査キットが提供される。石灰化調節剤は、骨粗鬆症、くる病、骨軟化症、変形性関節症、異所性石灰化または動脈硬化症の予防・治療をする重要な手段となる。石灰化調節剤のスクリーニング方法は、これらの病状の新たな予防剤・治療剤を開発する上で重要な手段となる。石灰化検査方法・検査キットの提供は、石灰化抑制が関連するこれらの症状の予防となる可能性が高い。
【0117】
特に、前述の疾患のうち、骨疾患の治療薬は多く開発されているが、血管石灰化に係る治療剤については、シグナル伝達の作用機構(KLeとFGF23とFGFRとの複合体によるもの)が明確には解明されていなかったこともあり、あまり多く開発されていない。その為、血管石灰化に起因する動脈硬化症治療剤等の開発については、本発明を用いることにより新規で有用な医薬品の開発に繋がるものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験化合物の非存在下および存在下での検体において、少なくとも、可溶化KlothoとFGFRとFGF23とを接触させる工程と、
前記被験化合物の非存在下での前記検体におけるFGF23特異的シグナル伝達と比較して、前記被験化合物の存在下での前記検体におけるFGF23特異的シグナル伝達が変化する化合物を選択する工程と、
を含むことを特徴とする硬組織および/または血管の石灰化調節剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記特異的シグナル伝達の変化は、FGFRのリン酸化、ERKのリン酸化またはEgr−1の発現量を指標とすることを特徴とする請求項1に記載の硬組織および/または血管の石灰化調節剤のスクリーニング方法。
【請求項3】
被験化合物の非存在下および存在下での、検体における、可溶化Klothoの濃度を測定する工程と、
前記被験化合物の非存在下での前記検体における前記可溶化Klothoの濃度と比較して、前記被験化合物の存在下での前記検体における前記可溶化Klothoの濃度が増減する化合物を選択する工程と、
を含むことを特徴とする硬組織および/または血管の石灰化調節剤のスクリーニング方法。
【請求項4】
被験化合物の非存在下および存在下での検体における可溶化KlothoとFGFRとFGF23との複合体形成を測定する工程と、
前記被験化合物の非存在下での前記検体における前記複合体形成と比較して、前記被験化合物の存在下での前記検体における前記複合体形成が増減する化合物を選択する工程と、
を含むことを特徴とする硬組織および/または血管の石灰化調節剤のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記石灰化調節剤のスクリーニングは、in vivoで実施することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の硬組織および/または血管の石灰化調節剤のスクリーニング方法。
【請求項6】
可溶化KlothoとFGFRとFGF23との複合体形成を抑制または促進する化合物を含有することを特徴とする硬組織および/または血管の石灰化調節剤。
【請求項7】
前記化合物は、可溶化Klothoであることを特徴とする請求項6に記載の硬組織および/または血管の石灰化調節剤。
【請求項8】
前記化合物は、可溶化Klotho、FGFR、または、前記可溶化KlothoとFGFRとFGF23との複合体に結合親和性を有するリガンドであることを特徴とする請求項6に記載の硬組織および/または血管の石灰化調節剤。
【請求項9】
前記リガンドは抗体であることを特徴とする請求項8に記載の硬組織および/または血管の石灰化調節剤。
【請求項10】
検体における、可溶化Klothoの濃度、可溶化KlothoとFGFRとFGF23との複合体形成、または、前記複合体形成に伴うFGF特異的シグナル伝達を測定する工程を含むことを特徴とする硬組織および/または血管の石灰化検査方法。
【請求項11】
前記検体は、動物の血液、血漿、血清、骨髄、骨の組織もしくは細胞、または、血管の組織もしくは細胞であることを特徴とする請求項10に記載の硬組織および/または血管の石灰化検査方法。
【請求項12】
前記動物は、ヒトであることを特徴とする請求項11に記載の硬組織および/または血管の石灰化検査方法。
【請求項13】
可溶化Klotho、または、可溶化KlothoとFGFRとFGF23との複合体に結合親和性を有するリガンドを含有することを特徴とする硬組織および/または血管の石灰化検査キット。

【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図18】
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【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図15】
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【図17】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−21974(P2012−21974A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123853(P2011−123853)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(502310416)株式会社ラフィーネインターナショナル (8)
【Fターム(参考)】