説明

石灰粒状体の製造方法

【課題】 有効利用されていない石灰石洗浄脱水ケーキの造粒において、高い硬度と崩壊性に優れた、肥料として好適に使用することができる石灰粒状体の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 石灰石洗浄脱水ケーキと膨潤性粘土とを、石灰石洗浄脱水ケーキ100質量部(固形分)に対し、膨潤性粘土を1〜5質量部の割合で混合した後、真空造粒機で造粒し、乾燥することを特徴とする石灰粒状体の製造方法である。前記製造方法で得られた石灰粒状体はさらに破砕してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石灰石成品製造工程で発生する石灰石粉末を含む高含水物(以下、「石灰石洗浄脱水ケーキ」と云う)に、膨潤性粘土を添加したものを真空造粒機により粒状化する石灰粒状体の製造方法に関する。
より詳しくは、本発明は、高い硬度と崩壊性に優れた、肥料として好適に使用することができる石灰粒状体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石灰石はセメント原料、製鉄副原料、砕石をはじめ、製紙、樹脂、ゴム、塗料、肥料、飼料、食品等の様々な用途で使用されている。これらの用途で使用される石灰石の成品製造工程では、通常破砕した石灰石の表面を水洗して付着した微粉を除去し、除去後水洗排水を遠心分離機、真空ドラム脱水機、シックナ―、フィルタープレス、あるいはシックナ―とフィルタープレスの組み合わせ等により脱水している。この工程によって、石灰石の微粉を含む高含水のケーキである石灰石洗浄脱水ケーキが大量に発生している。
【0003】
この石灰石洗浄脱水ケーキは、その固形分の大部分が石灰石粉末であるにもかかわらず、水分を10〜30質量%含んでいるため、用途に大きな制約があり、一部は廃棄されこれまで十分に活用されていなかった。
この石灰石洗浄脱水ケーキを有効利用するために、いくつかの方法が開示されている。例えば、特許文献1と2には、石灰石洗浄脱水ケーキに生石灰を主成分とする石灰焼成炉の副生物を混合し、造粒する方法が開示されている。また、特許文献3には、石灰石洗浄脱水ケーキに含まれる粘土鉱物を活用して、石灰石洗浄脱水ケーキを単独あるいは少量の粘土鉱物を添加して造粒する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭53−137897号公報
【特許文献2】特開2009−114029号公報
【特許文献3】特開2001−122683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、石灰石洗浄脱水ケーキと生石灰とを混合して得られる粒は非常に硬度が高いため、水と接触しても容易に崩壊せず、従って、土壌の酸度矯正、肥料用途、融雪剤用途等には適さない。
一方、石灰石洗浄脱水ケーキに粘土鉱物を添加して押出成形や転動造粒等によって造粒する特許文献3記載の方法では、造粒後の経時変化によって造粒物の硬度が低下する現象が見られた。そして、硬度が安定状態に達した後では、1.0kgf以上の高い硬度が得られ難かった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは石灰石洗浄脱水ケーキを粒状肥料として利用するために鋭意検討した結果、石灰石洗浄脱水ケーキの造粒機として真空造粒機を用いると、造粒時における圧密化の阻害要因となっている石灰石洗浄脱水ケーキ中の空気が除去され緻密な粒状物が得られることを見出した。しかし、この方法ではダイラタンシー、即ち、力を加えて粒子が密集すると粒子間の隙間が小さくなり強度が増し固体になるが、力を加えるのを止めると再び粒子間の隙間が広がり元の液状に戻る現象が起きた。そこで更に検討を進めた結果、石灰石洗浄脱水ケーキと膨潤性粘土とを所定の配合量で混合した後、真空造粒機で造粒するとダイラタンシー現象が起こり難くなることを見出した。本発明は、これら知見に基づいて高い硬度を有する石灰粒状体に関する発明を完成させたものである。
【0007】
即ち、本発明は、石灰石洗浄脱水ケーキと膨潤性粘土とを、石灰石洗浄脱水ケーキ100質量部(固形分)に対し、膨潤性粘土を1〜5質量部の割合で混合した後、真空造粒機で造粒し、乾燥することを特徴とする石灰粒状体の製造方法に関するものである。
また、本発明は、前記製造方法によって得られた石灰粒状体を、さらに破砕する石灰粒状体の製造方法に関するものである。
さらに、本発明は、前記膨潤性粘土が、ベンナイト、天然スメクタイト、合成スメクタイト、及び膨潤性マイカからなる群から選ばれる1種以上である石灰粒状体の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の石灰粒状体は、高い硬度を有するので機械散布に適し、特に、これを土壌の酸度矯正或いは肥料等として使用するときは、膨潤性粘土が崩壊剤としても作用するために
散布後に水との接触によって崩壊し易い、即ち、早期にその効果を発現するという利点を有する。
【0009】
そして、本発明に利用する原料は、ほとんど廃棄状態にあるものであるから、極めて安価に本発明石灰粒状体を製造することができる等数々の利点を有するものである。本発明石灰粒状体は、特に肥料として有効活用できることは勿論、融雪剤等としても有効に利用することができる。
上記のように本発明の石灰粒状体は、肥料としての実質的価値は勿論、環境保全の観点からもその産業的意義は多大である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明の石灰粒状体の製造方法について更に詳細に説明する。
本発明で云うところの石灰石洗浄脱水ケーキとは、前記の通り石灰石成品製造工程において石灰石の表面に付着した微粉を除去・分離する水洗工程で発生する水洗排水をフィルタープレス等で固液分離して得られる脱水ケーキのことである。本発明に利用する石灰石洗浄脱水ケーキの含水率は、10〜30質量%であることが好ましい。本発明では前記範囲内の含水率であれば問題なく使用できるが、15〜25質量%が特に好ましい。
【0011】
膨潤性粘土とは、水との接触により水を吸収し膨潤する粘土のことであり、このような性質を有するものであれば制限なく使用できる。本発明者らが推奨する膨潤性粘土として、特にベンナイト、天然スメクタイト、合成スメクタイト、及び膨潤性マイカからなる群から選ばれる1種以上を好例として挙げることができる。
【0012】
石灰石洗浄脱水ケーキと膨潤性粘土の混合割合は、石灰石洗浄脱水ケーキ100質量部(固形分)に対し、膨潤性粘土が1〜5質量部の割合である。膨潤性粘土の混合割合が1質量部未満であると、ダイラタンシー現象を防止するのに充分ではない。一方、前記混合割合が5質量部を超えても添加量に見合う効果が得られないため経済的でない。
【0013】
石灰石洗浄脱水ケーキと膨潤性粘土の混合は両者が充分に混合されればどのような方法でもよいが、真空造粒機が混練機能を有するものであっても、真空造粒機に導入する前に混合しておくことが望ましい。
真空造粒機は、減圧下で造粒を行うことができる装置のことであり、このような原料の脱気に寄与する装置であれば特に制限はない。真空造粒機として、真空加圧機、真空土練機、真空押出機等が例示でき、これらはいずれでも本発明に適用できるが、製造効率の点から真空土練機または真空押出機が特に好ましい。真空土練機、真空押出機は、混練機能あるいは押出機能を有するスクリュー部、その一部に設けた真空室(減圧室)、及び任意の孔径の孔を有する押出口によって一般的に構成されている。押出口の孔径は、造粒性と必要とされる粒径から適宜設定すればよいが、肥料等に利用する場合においては概ね0.5〜8mmが好ましい。押出口から排出される柱状物は、粒状化のために切断あるいは粉砕すればよく、切断する方法としては押出口の出口に設けたカッターなどで切断する方法が簡便である。
尚、石灰石洗浄脱水ケーキと膨潤性粘土の混合物の含水率が造粒に適さないときは、水の添加、あるいは、乾燥粉などを必要に応じて適宜添加して含水率を調整してもよい。乾燥粉は、肥料原料として一般的に用いているもののうち前記混合物の含有成分と反応してガスを発生しないものが好ましく、例えば、石灰、消石灰、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、塩化カリウム、リン酸カリウム等を挙げることができる。尚、前記混合物の好適含水率は造粒機により異なるが、概ね10〜30質量%程度が好ましく、さらに好ましくは10〜20質量%である。
【0014】
次いで、得られた粒状物の乾燥に関しては、特に装置を選ばないが、粒状物同士の付着防止や乾燥効率の点から、転動熱風乾燥機を用いることが好ましい。乾燥温度に関しては、80〜150℃が好ましい。
【0015】
上記製造方法で得られた石灰粒状体は、その粒度を下げるためにさらに破砕してもよい。破砕には破砕機を好適に用いることができ、例えば、ジョークラッシャー、ロールクラッシャーを挙げることができる。尚、破砕は粉の発生量ができるだけ少ない方法で行うことが望ましい。
【0016】
本発明の製造方法で得られる粒の形状については特に制限されることなく、用途により各種形状、粒度を採用できる。用途により球状が望ましい場合は、造粒後の柱状物を整粒機で整粒してもよい。本発明の石灰粒状体を肥料等に利用する場合において粒度による選別を必要とするときは、篩等を用いた分級によって適度な粒度のものを得ることができる。篩による分級で得られる粒度の目安として、篩目開きで0.5〜8mmの粒度のものが好ましく、このうち1〜4mmのものが特に好ましく、さらに好ましくは1.5〜3mmのものである。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の詳細を実施例を挙げて説明するが、本発明はそれらの実施例によって限定されるものではない。尚、特に断らない限り%は全て質量%を示す。
[石灰石洗浄脱水ケーキ]
石灰石採掘場で発生した水分17.5%、固形分中のCaOが54%の石灰石洗浄脱水ケーキを用いた。尚、以下では石灰石洗浄脱水ケーキの質量は固形分換算で表すものとする。
[真空造粒機]
高浜工業(株)製の真空土練機(型式MPM120N-FS)を用いた。真空室の圧力は、大気圧(約100kPa)を基準(ゼロ)として-100kPa〜-90kPaの範囲とした。押出口は、孔径5mmの孔を90個配した構成とした。押出口から排出された柱状物はカッターで概ね5〜10mmの長さに切断して粒状物を得た。
[破砕機と破砕品]
高浜工業(株)製のロールクラッシャー(型式SH-10)を用いた。篩別した粒径1.5〜3.0mmの粒度のものを破砕品とした。
【0018】
[実施例1]
石灰石洗浄脱水ケーキ2kgにベントナイト0.03kgを添加した後、ミキサーで混合し(新東工業(株)製、ミックスマラーMSG−05)、これを真空造粒機で造粒した。次に、得られた粒状物を転動熱風乾燥機にて85℃で30分間乾燥した(以下、これを造粒品と云う)。
得られた造粒品をさらにロールクラッシャーで破砕した後、篩別した1.5〜3.0mmのものを破砕品とした。
[実施例2〜4]
表1の原料組成で実施例1と同様に製造した。
【0019】
[比較例1]
膨潤性粘土を無添加とした以外は実施例1と同様にして製造した。しかし、真空造粒機の押出口を出た後に起きたダイラタンシー現象によって、評価に値する粒状物が得られなかった。
[比較例2]
造粒機をペレット成型機(不二パウダル(株)製、ファインディスクペレッターPV−5型。孔径3mm、厚さ10mmのスクリーンを使用、ローラー回転数は37rpm)とした以外は、実施例1と同様に製造して造粒品を得た。尚、破砕は行わなかった。
【0020】
[平均粒硬度の測定方法]
木屋式硬度計を用いた。真空造粒機による造粒品及びペレット成型機による造粒品は、円柱の横方向の硬度を測定した。また、破砕品は、断面積が最大と判断した面を底部に設置して測定した。尚、測定は各20粒を対象に行い、その平均値を平均粒硬度とした。

[崩壊性試験]
真空造粒機による造粒品(長さ約5〜10mm)あるいはペレット成型機による造粒品(長さ約15〜20mm)(いずれも乾燥品)を網目が1.7mmの篩上に並べ、これを適当な大きさの容器の中に置き、製品が十分に水に浸かるまで静かに水を注ぐ。崩壊日は、篩を静かに取り出して、篩上に残存する未崩壊粒数から算出した崩壊粒の割合が80%以上となった日までの日数とした。
【0021】
結果を表1に示した。





【0022】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
石灰石洗浄脱水ケーキと膨潤性粘土とを、石灰石洗浄脱水ケーキ100質量部(固形分)に対し、膨潤性粘土を1〜5質量部の割合で混合した後、真空造粒機で造粒し、乾燥することを特徴とする石灰粒状体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法によって得られた石灰粒状体を、さらに破砕する石灰粒状体の製造方法。
【請求項3】
膨潤性粘土が、ベンナイト、天然スメクタイト、合成スメクタイト、及び膨潤性マイカからなる群から選ばれる1種以上である請求項1又は2記載の石灰粒状体の製造方法。

【公開番号】特開2012−121733(P2012−121733A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271108(P2010−271108)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【出願人】(000227250)日鉄鉱業株式会社 (82)
【Fターム(参考)】