説明

石炭ガス化装置における石炭ガス化方法

【課題】灰分が不足する低灰分炭をガス化する場合にも、簡易な方式により、炉内において最適なスラグコーティングを行うことができる石炭ガス化装置における石炭ガス化方法を提供する。
【解決手段】石炭の灰分量が2〜19wt%、好ましくは6〜10wt%となるように、石炭の原材料となる原炭に調製剤を添加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭を部分酸化してガス化するガス化炉を有する石炭ガス化装置に係り、ガス化炉内のスラグコーティングを運転効率が最大となる適正量に維持することができる石炭ガス化方法に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の石炭ガス化装置として、例えば、特許文献1〜3に示される技術が知られている。
特許公報1及び2に示される石炭ガス化装置では、下段のガス化炉において、酸素、又は、酸素及び水蒸気と、石炭を投入して部分酸化によりガス化ガスを生成し、上段の改質炉において、前記生成したガス化ガス中に石炭及び水素を投入して水素化熱分解によりガス、オイル、及びチャーを生成する、上下二室二段の反応器を用いた方式が示されている。そして、このように反応器を二室二段とすることで、石炭のガス化を行う部分と水素化熱分解を行う部分を分離し、各部分の操作条件を自由に設定することが可能となる。
【0003】
特許公報3に示される石炭ガス化装置では、微粉炭及びガス化剤(酸素含有ガス等)を、高温加圧されたガス化炉内に噴入して内部のガス化部で部分酸化させる構成であり、これにより生成ガスを得るものである。
また、特許公報4に示される石油コークス供給原料のガス化方法では、X(CaO、CaCO、MgO、MgCO、酸化鉄、酸化ホウ素、酸化ナトリウム、酸化カリウム及びその混合物から構成される群から選択される塩基性灰成分)、Al及びSiOから構成される三成分系状態から、最適な組成を判定することにより、スラグ粘度の適正化を図る技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008‐174583号公報
【特許文献2】特開2005‐162896号公報
【特許文献3】特開平11‐140464号公報
【特許文献4】特表平9‐505092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許公報1〜4に示される石炭ガス化装置のガス化炉では、副産物として石炭中の灰分はスラグとなって炉内の壁面がスラグコーティングされ、かつそのスラグコーティングの一部が溶融スラグとなって、該ガス化炉下部のスラグタップ排出孔を経由して下方に位置する水槽(水砕部)に案内される。
このガス化炉のスラグコーティングはその量が不十分であると、水壁炉からの抜熱が大きくなり、適正なガス化温度を維持するための酸素ガスの供給量が増加する。また、スラグコーティングが過剰になると、炉内のスラグコーティングは維持されるものの、炉外に排出される溶融スラグ量も多くなり、その結果、炉内から流出する熱量が増加し、適正なガス化温度を維持するための酸素ガスの供給量が増加する。
すなわち、上記特許公報1〜4に示される石炭ガス化炉では、適正なスラグコーティングが最適量に維持されないと、ガス化温度を維持するための酸素ガス供給量が増加し、ガス化炉を運転するためのコストが増大するという問題があった。
【0006】
また、特許文献4では、スラグ粘度の適正化を図るために三成分系状態から最適な石炭組成を検討する技術が示されているが、最適な石炭組成を得るために試行錯誤しなければならない。特に、灰分が不足する低灰分炭(例えば、灰分量が2wt%より小さい)をガス化する場合には、組成のみで原料成分を決定することは困難であるという問題があった。近年この種の低灰分炭は、石炭ガス化装置に好適に用いられている。
【0007】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、簡易な方式により、灰分が不足する低灰分炭をガス化する場合にも、炉内において最適なスラグコーティングを行うことで、ガス化炉内の温度を好適に維持することができる石炭ガス化装置における石炭ガス化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本願の請求項1は、石炭を部分酸化してガス化するガス化炉を有する石炭ガス化装置における石炭ガス化方法であって、前記石炭の灰分量が2〜19wt%となるように、前記石炭の原材料となる原炭に調製剤を添加することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、石炭の灰分量が2〜19wt%となるように原炭に調製剤を添加したので、灰分が不足する低灰分炭を原炭として使用してガス化した場合であっても、ガス化炉内のスラグコーティングが適正量に維持され、該スラグコーティングの不足又は過剰から生じる炉内の温度低下を防止することができる。このように、本発明では、石炭の灰分量が2〜19wt%となるように原炭に調製剤を添加するという簡易な方式により、灰分が不足する低灰分炭を原炭としてガス化する場合にも、炉内において最適なスラグコーティングを行うことができ、ガス化炉内の温度を好適に維持して効率良い石炭ガス化装置の運転を行うことができる。
すなわち、石炭の灰分量が2wt%よりも小さいと、ガス化炉のスラグコーティングの量が不十分となって水壁炉(炉壁)からの抜熱が大きくなり、適正なガス化温度を維持するための酸素ガスの供給量が増加し、また、灰分量が19wt%よりも大きいと、スラグコーティングが過剰になって炉外に排出される溶融スラグ量も多くなり、その結果、炉内から流出する熱量が増加し、適正なガス化温度を維持するための酸素ガスの供給量が増加するという問題が発生する。しかし、本発明では、石炭の灰分量が適正となる2〜19wt%となるように原炭に調製剤を添加したので、灰分が不足する低灰分炭を原炭として使用してガス化した場合であっても、ガス化炉内のスラグコーティングが適正量に維持され、該スラグコーティングの不足又は過剰から生じる炉内の温度低下を防止することができるものである。
なお石炭の灰分とは、石炭が含有する石英、粘土鉱物、硫化鉄、有機物中の微量の金属類などの無機物を意味する。
【0010】
また、本願の請求項2に係る石炭ガス化方法によれば、前記石炭の灰分量が、好ましくは6〜10wt%となるように調製剤を添加することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、石炭の灰分量が2〜19wt%となるように好ましくは6〜10wt%となるように調製剤を添加することで、ガス化炉内のスラグコーティングが最適量に維持され、該スラグコーティングの不足又は過剰から生じる炉内の温度低下を確実に防止することができる。
【0012】
また、本願の請求項3に係る石炭ガス化方法によれば、前記調製剤としては、石灰石・硅砂等の鉱物、高炉スラグ粉末・耐火材粉末・各種セメント粉末等の酸化物粉末が利用されることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、調製剤として、石灰石・硅等の鉱物、高炉スラグ粉末・耐火材粉末・各種セメント粉末等の酸化物粉末を利用することで、石炭の灰分量の調整を好適に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本願の請求項1に係る石炭ガス化方法によれば、石炭の灰分量が2〜19wt%となるように原炭に調製剤を添加したので、灰分が不足する低灰分炭を原炭として使用してガス化した場合であっても、ガス化炉内のスラグコーティングが適正量に維持され、該スラグコーティングの不足又は過剰から生じる炉内の温度低下を防止することができる。すなわち、本発明では、石炭の灰分量が2〜19wt%となるように原炭に調製剤を添加するという簡易な方式により、灰分が不足する低灰分炭を原炭としてガス化する場合にも、炉内において最適なスラグコーティングを行うことができ、ガス化炉内の温度を好適に維持して効率良い石炭ガス化装置の運転を行うことができる。
【0015】
本願の請求項2に係る石炭ガス化方法によれば、石炭の灰分量が2〜19wt%となるように好ましくは6〜10wt%となるように原炭に調製剤を添加することで、ガス化炉内のスラグコーティングが最適量に維持され、該スラグコーティングの不足又は過剰から生じる炉内の温度低下を確実に防止することができる。
【0016】
本願の請求項3に係る石炭ガス化方法によれば、調製剤として、石灰石・硅等の鉱物、高炉スラグ粉末・耐火材粉末・各種セメント粉末等の酸化物粉末を利用することで、石炭の灰分量の調整を好適に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明が適用される石炭ガス化装置の概略構成図である。
【図2】石炭ガス化装置の石炭ガス化炉における石炭の灰分量(横軸)と、全体の熱損失量(縦軸)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態について図1及び図2を参照して説明する。
図1は、本実施形態として示される一般的な石炭ガス化装置100であって、ライン(図示略)より微粉炭(石炭)を搬送し、ライン1を用いてガス化剤(酸素含有ガス等)をバーナ2より高温の加圧されたガス化炉3内に噴入して部分酸化させる構成であり、このガス化炉3で生じる生成ガスGを上部開口3Aから排出する。
なお、ガス化炉3の上部開口3Aの上方には、該ガス化炉3内で生成したガス化ガス中に水素を投入して水素化熱分解によりガス、オイル、及びチャーを生成する図示しない改質炉が連設されている。
【0019】
また、ガス化炉3での部分酸化に伴い、副産物として石炭中の灰分がスラグとなってガス化炉3の内壁にスラグコーティング(符号Sで示す)されるとともに、その一部は溶融スラグS1になって排出される。
すなわち、前記ガス化炉3は、その下部に設けられたスラグタップ排出孔3Bを経由して、内部で形成される溶融スラグS1が排出かつ滴下されるものであって、スラグタップ排出孔3Bから排出された溶融スラグS1は、スラグ冷却部4を滴下する間に冷却された後、スラグ水砕部5に貯留される。
このスラグ水砕部5は内部にスラグ冷却水6が貯留されるものであって、溶融スラグS1を水砕・急冷却して水砕スラグS2とした後、下部のスラグ排出孔5Aより排出する。
【0020】
前記スラグ水砕部5の下部に位置するスラグ排出孔5Aには、弁7を有する連結管8が接続されており、該連結管8を通じて、スラグ水砕部5から排出された水砕スラグS2がスラグロックホッパ10に送られる。
このスラグロックホッパ10では、水砕スラグS2を一定時間貯留して、スラグ沈殿させるものであって、一定時間が経過後に、弁11を有する連結管12を経由して水砕スラグS2を系外に取り出すようにしている。
【0021】
次に、ガス化炉3の内壁に形成されるスラグコーティングSの最適化について説明する。
本発明に係る石炭ガス化装置100では、灰分が不足する低灰分炭を原炭としてガス化する際に、ガス化炉3の内壁に形成されるスラグコーティングSが不足しないように適正量とするために、石炭の原材料となる原炭に調製剤を添加して、石炭の灰分量を調整する。
【0022】
ここで調整される灰分量の割合について図2を参照して説明する。
図2のグラフは、2000t/dのガス化炉3に供給される石炭の灰分量(横軸)と、全体の熱損失量(縦軸)との関係を示すものであって、「□」は灰分量に応じて溶融スラグS1となって流出する灰持ち出し熱量を示すグラフ、「△」は灰分量に応じてガス化炉3から発熱される炉抜熱量を示すグラフ、「○」は前記「□」と「△」の総和を示す熱損失合計を示すグラフである。
【0023】
そして、「○」の熱損失合計を示すグラフを参照して分かるように、このガス化炉3では、熱損失合計が最小となる(最適な)灰分量は8wt%に調製した場合であり、その際の熱損失合計は6.01Gcal/hとなる。また、灰分量が6〜10wt%にある場合は、最小の熱損失合計に比べ+1%以内の抜熱量(6.09Gcal/h未満)であり、灰分量が2〜19wt%にある場合は、最小の熱損失合計に比べて+20%以内の熱損失合計(7.10Gcal/h未満)となる。
以上より、石炭の灰分量を2〜19wt%(図2に範囲aで示す)、好ましくは6〜10wt%(図2に範囲bで示す)に調製し、最も好ましくは、8wt%に調製すれば、熱損失合計を抑えることができる。
【0024】
なお、灰分が不足する低灰分炭を原炭としてガス化する際に、石炭の灰分量が2〜19wt%(好ましくは6〜10wt%)となるように原炭に調製剤を添加するときに、調製剤としては、鉱物(石灰石、硅砂、葉ろう石等)や酸化物粉末(高炉スラグ粉末、耐火材粉末、各種セメント粉末等)が利用できる。
【0025】
ここで、本実施形態に係る石炭ガス化装置における石炭ガス化方法における原材料の調整方法の一例について、以下の(1)〜(3)に示す。
【0026】
(1)SiO、CaO、Fe、Al、MnO、MgO、TiO、P、SO、KO、NaOで、残分は強熱減量(ig. Loss)を灰組成とする原炭を用意し、その灰分量を測定する。
【0027】
(2)次に、原炭の灰分量の割合が適正値でなく、ガス化炉3の内壁に形成されるスラグコーティングSが不足する恐れがある場合には、灰分量が2〜19wt%(好ましくは6〜10wt%)となるように原炭に調製剤を添加する。
【0028】
(3)最後に、原炭と調製剤を混合する。例えば、原炭をコンベアスケール等で計量しながら搬送する場合は、その時間当りの流量(kg/h)に合わせて、調製剤を一定の重量比で混入する。この後、固体混合器や気流搬送等を用いて原炭と調製剤を良く混合する。これにより、灰分量が2〜19wt%とされた石炭が生成される。
【0029】
〔実施例〕
以下、本実施形態に係る石炭ガス化装置における石炭ガス化方法の一例について具体的に説明する。
まず、ここで使用する原炭をロイヤン炭とすると、その灰組成及びその灰分量は、例えば、SiOを16.47wt%、CaOを12.16wt%、Feを7.71wt%、Alを11.21wt%、MnOを0.09wt%、MgOを11.1wt%、TiOを0.65wt%、Pを0.044wt%、SOを18.252wt%、KOを0.53wt%、NaOを7.18wt%、ig. Lossを14.604wt%(いずれもDRY)となる。この原炭は灰分量が1.7wt%であり、そのままガス化すると熱損失合計が多くなることから、上記(2)及び(3)で示すように調製剤を添加して、灰分量を8wt%にまで増やすことで、熱損失合計の減少を図った。
【0030】
また、本例では、原炭の塩基度は0.738程度である。石炭ガス化炉を、部分酸化部石炭650kg/h、酸素300Nm/h、水蒸気65kg/h、改質部石炭量200kg/hを投入し、圧力2.5MPaG、温度1550℃で運転を行ったところ、ガス発生量は約1400Nm/h、チャー70kg/hとなった。このような原炭を使用した際のスラグの発生量は、35kg/h程度、そのほとんどが径が0.5以下の円柱状の繊維状スラグであった。
また、上述したように調製剤を添加することにより、1.7wt%であった原炭の灰分量を8wt%にまで増やすようにしたので、ガス化炉3の内壁にて十分なスラグコーティングSを得ることができ、酸素ガスの供給量を増やすことなく、ガス化炉3の温度を一定に維持することが確認できた。
【0031】
以上詳細に説明したように本発明の本実施形態に係る石炭ガス化方法によれば、原材料となる石炭の灰分量が2〜19wt%、好ましくは6〜10wt%となるように調製剤を添加したので、灰分が不足する低灰分炭を原炭として使用してガス化した場合であっても、ガス化炉3内のスラグコーティングSが適正量に維持され、該スラグコーティングSの不足又は過剰から生じる炉内の温度低下を防止することができる。すなわち、本発明の本実施形態に係る石炭ガス化方法によれば、石炭の灰分量が2〜19wt%(好ましくは6〜10wt%)となるように調製剤を添加するという簡易な方式により、灰分が不足する低灰分炭を原炭としてガス化する場合にも、炉内において最適なスラグコーティングSを行うことで、ガス化炉内の温度を好適に維持することができ、効率良い石炭ガス化装置の運転を行うことができる。
【0032】
なお、上記実施形態では、石炭の灰分量が2〜19wt%となるように調製剤を添加しているものであるが、これに加えて、繊維状スラグの発生割合を低く抑えるために、スラグの塩基度を上昇させる成分調整を行っても良い。
【0033】
また、上記実施形態では、ガス化炉3及び改質炉からなる二室二段炉を使用したが、これに限定されず、例えば1つの炉において、ガス化ガスを生成と、水素化熱分解とを共に行うガス化炉を有する石炭ガス化装置などにおいて、最適なスラグコーティングを行うために、石炭の灰分量が2〜19wt%となるように調製剤を添加するようにしても良い。
【0034】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、石炭を部分酸化してガス化するガス化炉を有する石炭ガス化装置における石炭ガス化方法に関する。
【符号の説明】
【0036】
3 ガス化炉
100 石炭ガス化装置
S スラグコーティング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を部分酸化してガス化するガス化炉を有する石炭ガス化装置における石炭ガス化方法であって、
前記石炭の灰分量が2〜19wt%となるように、前記石炭の原材料となる原炭に調製剤を添加することを特徴とする石炭ガス化方法。
【請求項2】
前記石炭の灰分量が、好ましくは6〜10wt%となるように調製剤を添加することを特徴とする請求項1に記載の石炭ガス化方法。
【請求項3】
前記調製剤としては、石灰石・硅砂等の鉱物、高炉スラグ粉末・耐火材粉末・各種セメント粉末等の酸化物粉末が利用されることを特徴とする請求項1又は2に記載の石炭ガス化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−172080(P2012−172080A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36074(P2011−36074)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)