説明

石炭中硫黄の形態別定量方法

【課題】石炭中の硫黄成分を、簡便に、その形態別に定量する方法を提供する。
【解決手段】石炭を、不活性ガス中で、室温から1000℃まで昇温加熱し、硫黄化合物が熱分解して発生する硫黄含有ガスを、連続モニタリング測定して、石炭中の硫黄を存在形態別に定量することを特徴とする石炭中硫黄の形態別定量方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭中に存在する硫黄化合物を形態別に定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭は、火力発電等の燃料として、また、製鉄プロセスにおいて鉄鉱石を溶製するときの燃料や還元材として、汎用的に用いられている。しかし、近年、確保できる石炭の品質が劣化してきており、他の不純物と共に、石炭中に存在する硫黄成分の量は増加してきている。
【0003】
このような背景から、石炭の有効な利用方法、例えば、石炭の液化・ガス化、又は、コークス用原料炭の範囲の拡大等のために、原料炭の性状をより精密に求めること、又は、石炭の液化において触媒として機能する黄鉄鉱(FeS2)の含量を求めること等、全硫黄分の含量だけでなく、硫黄分を、存在形態別に求めることが要求されるようになってきている。
【0004】
石炭中の硫黄が原因で発生する問題について、製鉄プロセスの例を挙げて説明する。石炭が製鉄プロセスで使用されると、石炭の硫黄成分の殆どは、最終的には、ガス成分又はタールやミスト等の油状成分となる。石炭の使用形態として、最も割合が高いのは、乾留してコークスにし、高炉で使用する場合であるが、このコークス化工程において、タールやガスを産出する。
【0005】
タールは、化学製品の原料に、ガスは、エネルギー源として主に製鉄所で使用される。このガスは、COG(Coke Oven Gas)と呼ばれ、熱源の燃料として使用されるが、硫黄分が含まれていると、硫黄分が、燃焼の際に、SOxとなる問題があり、また、バーナーの腐食の原因にもなる場合がある。
【0006】
そこで、一般には、精製をして、硫黄分を除いて使用するが、石炭中の硫黄分が増大すれば、この精製能力やコストを圧迫する問題が起きる。コークスに残った硫黄は、高炉内での反応において、殆どが、スラグ中に回収されるが、銑鉄にも溶解量として約1%程度あるとされ、後工程である製鋼での脱硫を考えれば、なるべく低硫黄の石炭を用いることが望ましい。
【0007】
この点でも、乾留による、硫黄のコークス、ガス、タール等への分配を把握することは、後工程での脱硫を考慮するうえで重要なことである。この硫黄の分配を把握することを可能にするのは、石炭中の硫黄を、存在形態別に定量することである。
【0008】
石炭中の硫黄は、無機物又は有機物として存在する。無機物は、金属の硫化物(特に、硫化鉄)や硫酸塩として存在し、有機物は、石炭の化学構造骨格内に存在する。
【0009】
石炭中の硫黄を分析する方法は、その全量分析法として、エシュカ法や、燃焼法(例えば、非特許文献1、参照)がある。エシュカ法は、石炭試料を、エシュカ合剤と呼ばれる薬剤と共に、空気中で加熱し、石炭試料中の硫黄を、硫酸塩(硫酸バリウム)として回収し、これを測定する。
【0010】
また、試料を、酸素気流中で高温(1350℃)に加熱して、燃焼させ、石炭試料中の硫黄を、酸化して、硫黄酸化物としてガス化し、これを、過酸化水素水で回収して、回収液中の硫黄を滴定法で求める方法もある。
【0011】
これらの方法は、石炭中の全硫黄分を、精度良く定量する方法であるが、石炭中に存在する全ての硫黄を、形態に係わらず、完全に、抽出、分離して分析する方法であり、硫黄を、存在形態別に定量することはできない。
【0012】
石炭中の硫黄の形態別の分析方法としては、硫酸塩硫黄や黄鉄鉱を測定する方法がある(例えば、非特許文献2、参照)。この方法は、石炭中の硫酸塩硫黄を塩酸で抽出し、これを、塩化バリウムにより、硫酸バリウムとして沈殿させて、重量法により、硫黄を測定する方法である。また、黄鉄鉱中の硫黄と結合している鉄を、塩化第一すずで還元し、鉄の量を、重クロム酸カリウム滴定法で求める方法がある。
【0013】
これらの方法は、石炭に存在する硫黄化合物の特性を利用して、化学的に分解し、硫黄又はそれと化合する成分を定量することによって、本来、石炭に含まれる硫黄化合物を形態別に定量するものである。しかしながら、これらの方法は、煩雑で、分析技術の熟練を必要とし、また、専用の器具を利用しなければならず、日常的に、簡便に分析操作することが難かしいという問題がある。
【0014】
【非特許文献1】JIS M 8813「石炭およびコークス中の元素分析方法」
【非特許文献2】JIS M 8817「石炭類の形態別硫黄の定量方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑みて、石炭中の硫黄成分を、簡便に、その存在状態に従って定量する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その要旨とするところは、以下の通りである。
【0017】
(1) 石炭を、不活性ガス中で、室温から1000℃まで昇温加熱し、硫黄化合物が熱分解して発生する硫黄含有ガスを、連続モニタリング測定して、石炭中の硫黄を存在形態別に定量することを特徴とする石炭中硫黄の形態別定量方法。
【0018】
(2) 前記硫黄含有ガスが、二酸化硫黄、及び/又は、硫化水素であることを特徴とする前記(1)に記載の石炭中硫黄の形態別定量方法。
【0019】
(3) 前記不活性ガス中に、酸素が1体積%以下存在することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の石炭中硫黄の形態別定量方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、石炭中に存在する硫黄化合物を、簡便に、形態別に分析することが可能になる。本発明を、製鉄又は火力発電等で使用する石炭の評価法に適用することにより、使用できる石炭品種の拡大を図ることができ、硫黄濃度の高い劣質な石炭を有効に利用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の詳細を説明する。
【0022】
一般に、石炭を、不活性ガス中で乾留すると、石炭の様々な化学構造、又は、含まれる不純物の形態に起因するガス種が発生する。
【0023】
例えば、製鉄で使用する瀝青炭を中心とするコークス原料炭の場合、コークス炉にて乾留すると、CH4、C24、C26等の炭化水素、及び、H2やCO、CO2等が主たるガス成分として生成するが、これらの発生挙動は、石炭種によって大きく異なる。また、硫黄を含むガスも発生するが、この場合、H2Sが殆どであり、一部、硫黄を含む有機化合物が発生する。
【0024】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、石炭中の硫黄を形態別に、簡便に定量するための方法を鋭意検討した。即ち、石炭試料を昇温加熱した際に発生するガスを、連続的に測定し、その発生挙動を、詳細に観察した。
【0025】
その結果、不活性ガス中、又は、1体積%以下の酸素が混入する不活性ガス雰囲気において、石炭を昇温加熱すると、石炭中に含まれる硫黄化合物のガス分解が起こり、特定の温度域において、硫黄化合物に応じた硫黄含有ガスが生成することを見出した。即ち、次の(I)及び(II)のことを見出した。
【0026】
(I) 石炭中の硫酸鉄(FeSO4)は、300〜400℃に、SO2発生のピークを持ち、硫化第二鉄(FeS2)は、500〜600℃に、SO2発生のピークを持つ。
【0027】
(II) H2Sの発生は、400℃以上で見られ、これは、石炭の化学構造の緩和、分解の温度に一致する。400℃程度では、主に、チオール類の分解が起きている。また、石炭の中には、600℃近傍において、急峻なピークを持つものがある。この温度において発生する硫化水素は、比較的安定なチオフェン類の分解により発生したものである。したがって、同じ温度域で発生する硫黄化合物ガスであっても、(I)の硫化鉄由来の硫黄と明確に区別することができる。
【0028】
有機物由来のSがSO2とならないのは、雰囲気の酸素ポテンシャルが、有機硫黄化合物を酸化するには低い上、熱分解だけで、ガス体のH2Sに変換される(外から供給される酸素との反応とは異なる)ためである。
【0029】
このことにより、300〜400℃の温度域で発生するSO2量から、石炭中のFeSO4量を、また、500〜600℃の急峻なピークから、FeS2量を求めることができる。また、発生するH2Sは、石炭中の有機硫黄分を発生の由来とするものであり、無機硫黄分と明確に分別することができる。
【0030】
従来の石炭中の全硫黄分を測定する場合に用いる燃焼ガス化(酸素の強制的な供給)とは異なり、石炭中の硫黄を熱分解させ、生成するガスを測定することにより、初めて、石炭中の硫黄を形態別に測定することが可能となる。
【0031】
なお、不活性ガス中、又は、1体積%以下の酸素が混入する不活性ガス雰囲気において、石炭を昇温加熱することにより発生する硫黄含有ガス種としては、他に、硫化カルボニル(COS)があるが、発生量は、発生ガスの1体積%未満で、極めて少ないので、硫化カルボニル(COS)は、測定するガス種から除いても問題ない。
【0032】
本発明は、これらの知見を基になされたものである。以下に、本発明の実施形態の一例を説明する。
【0033】
石炭試料を粉砕して粉状にし(100〜250μmが好ましい)、これを、炉心管内に、適切な量、充填し、管状の電気炉で、6℃/minで加熱する。発生するガスを、赤外線吸収法(SO2)、定電位電解法(H2S)、質量分析法(SO2、H2Sの双方)等を用いて、ガスの発生が連続する間、モニタリングする。
【0034】
このとき、試料量や昇温速度は、各検出器でのSO2又はH2Sの定量可能の範囲を超えないように、含まれる酸化物の量により調整することが必要である。通常は、0.5〜1gの試料を、昇温速度1〜10℃/minで加熱することが望ましい。
【0035】
以下に、石炭を加熱したときに発生するSO2を、質量分析計を用いてモニタリングした結果の一例を挙げて、本発明の詳細を説明する。
【0036】
図1に、試料を加熱し、発生するSO2とH2Sを測定するシステムの例を示す。
【0037】
bは、試料を加熱する加熱炉であり、炉中には、搬送及び雰囲気形成用不活性ガスが導入される。この不活性ガスで、加熱炉b内で発生するSO2とH2Sを、結露防止配管温度保持用ヒータcを経て、H2S及びSO2モニタリング用検出器dへ搬送する。
【0038】
このシステムを用い、原料炭Aを、6℃/minの昇温速度で加熱したときの、SO2とH2Sの発生挙動を、図2に示す。
【0039】
SO2は、300〜400℃、及び、400〜600℃にピークを持つ挙動を示した。これは、式(1)又は式(2)に示すように、石炭中の無機硫黄分が分解して、SO2が発生したことによる。
FeSO4 → 1/2Fe23 + SO2 ・・・(1)
FeS2 (+2O) → FeS + SO2 ・・・(2)
【0040】
即ち、このピークを測定してSO2を定量することにより、FeSO4及びFeS2の量を求めることができる。例として、図5に、FeS2試薬を加熱したときのSO2の発生パターンを示すが、石炭から発生したSO2のパターンと比較すると、ほぼ同様の発生挙動を示している。
【0041】
なお、このとき、石炭中の酸素量が硫黄量に比べて十分に多い場合は、式(2)における酸素分を分解時に供給することができるが、酸素濃度が低い場合は、雰囲気ガスに酸素を混入するとよい。
【0042】
このとき、本発明者らの検討によれば、1体積%超の酸素を混入した場合は、酸素ポテンシャルが高くなり、試料自体も燃焼し、温度の制御が難しくなるとともに、不活性な雰囲気ならばH2Sとして発生するSも酸化されるため、酸素濃度を制御する必要がある。通常の石炭で、試料量が1g以下の場合は、特に、酸素の供給をしなくても、雰囲気中の酸素量で十分である。
【実施例】
【0043】
A、B、及び、Cの3種類の石炭試料を用いて、図1に示す発生ガスモニタリングのシステムにより、乾留操作により発生する硫黄化合物ガスのモニタリングを行った。石炭試料を反応炉心管内(不活性ガス;He気流中)で、電気炉(管状炉)により6℃/minで昇温し、1000℃まで加熱した。
【0044】
ガスの測定は、質量分析計を用い、試料量は0.5gとした。このとき着目する質量数は、34、及び、64で、それぞれ、H2S、及び、SO2に対応する。石炭A〜Cを測定した結果を、図2〜4に示す。
【0045】
A炭は、200℃近傍からSO2が発生し、300℃、530℃付近にピークを持つ。H2Sの発生は、520℃、及び、610℃に、それぞれピークを示した。そこで、これらの発生ガス(ピーク)の根拠を調べた。
【0046】
例えば、図5に、FeS2の試薬を加熱したときの発生ガスのパターンを示す。FeS2の分解により発生するSO2も、ピークは530℃付近にあり、これから明らかなように、500℃近傍からのSO2ピークはFeS2によるものである。
【0047】
同様に、300℃付近のピークは、FeS2が酸化して生成するといわれるFe2SO4の分解による発生ピークと確認される。また、H2Sのピークは、450℃及び600℃を中心とする温度域でピークが見られ、石炭の軟化溶融時に起きる有機物の分解により発生したH2Sであると思われる。
【0048】
石炭Bは、石炭Aと、ほぼ、硫黄含有率が同じであるが、発生硫黄ガスのパターンが、大きく異なっている。即ち、発生は、H2Sが殆どであり、しかも、620℃に、特徴的なピークが見られる。化学構造解析の結果から、石炭Bは、チオフェン類の化合物が多いことが確認された。
【0049】
石炭Cは、石炭A及び石炭Bと比較すると、硫黄含有率が半分程度であるので、それぞれの発生ガス成分の量も少ない。
【0050】
このように、それぞれの発生成分とピーク位置から、発生起因を推定することができるが、その発生量は、大きく異なっている。表1に、これらのガスの組成をまとめて示す。発生ガス及びその発生温度から、各々、発生起因の化学種を求め、その量比を示す。
【0051】
それぞれの石炭について、従来のJIS法により求めた値を、比較値として示す。両者は、ほぼ一致している。このように、本発明によれば、熟練性や専用の器具等が必要な化学分析を基本としたJIS法等に比べ、簡便な方法でありながら、十分な定量精度で、石炭中の硫黄分を形態別に求めることができる。
【0052】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】試料を加熱した際に発生するH2S及びSO2をモニタリングするシステムの一例を示す図である。
【図2】石炭A試料を、6℃/minで乾留したときの、SO2及びH2Sの発生挙動を示す図である。
【図3】石炭B試料を6℃/minで乾留したときの、SO2及びH2Sの発生挙動を示す図である。
【図4】石炭C試料を6℃/minで乾留したときの、SO2及びH2Sの発生挙動を示す図である。
【図5】FeS2試薬を不活性ガス中で6℃/minで加熱したときの、SO2の発生挙動を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
a 搬送及び雰囲気形成用不活性ガス
b 加熱炉
c 結露防止配管温度保持用ヒータ
d H2S及びSO2モニタリング用検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を、不活性ガス中で、室温から1000℃まで昇温加熱し、硫黄化合物が熱分解して発生する硫黄含有ガスを、連続モニタリング測定して、石炭中の硫黄を存在形態別に定量することを特徴とする石炭中硫黄の形態別定量方法。
【請求項2】
前記硫黄含有ガスが、二酸化硫黄、及び/又は、硫化水素であることを特徴とする請求項1に記載の石炭中硫黄の形態別定量方法。
【請求項3】
前記不活性ガス中に、酸素が1体積%以下存在することを特徴とする請求項1又は2に記載の石炭中硫黄の形態別定量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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