説明

石炭及び/又は鉄鉱石スラリーの改質方法

【課題】 より簡便に堆積物の流動性を低下させるための石炭及び/又は鉄鉱石スラリーの改質方法及びこれにより改質された原料の製造方法を提供すること。
【解決手段】 石炭及び/又は鉄鉱石スラリーに、水溶性高分子化合物を添加し、混合することを特徴とする、石炭及び/又は鉄鉱石スラリーの改質方法;石炭及び/又は鉄鉱石スラリーに、水溶性高分子化合物を添加し、混合することを特徴とする改質された原料の製造方法;前記水溶性高分子化合物は、アニオン性W/O型エマルジョンポリマーであるのが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、石炭及び/又は鉄鉱石スラリーの改質方法、並びにこれにより改質された原料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭及び/又は鉄鉱石(以下、「鉄鉱石等」ともいう)は、鉱山にて採掘され、ベルトコンベアや貨車、貨物船、トラック等の搬送手段で、採掘現場内外の保管貯蔵場や処理施設等に搬送され、保管・貯蔵や処理されている。その後、鉄鉱石等は、ベルトコンベア等の運搬手段にて、鉄鉱石等を使用する施設(例えば、製鉄所、発電・工業用熱源発生施設、工場等)に搬送され、利用されている。
このような採掘現場、搬送手段、処理施設、使用施設等では、鉄鉱石等に雨が降ること;保管や清掃等のときに、鉄鉱石等に散水や放水すること;石炭及び/又は鉄鉱石を水浸させること等がある。よって、採掘現場、処理施設、使用施設(特に製鉄所等)等で、鉄鉱石等は水と接触することが多い。
【0003】
このように石炭及び/又は鉄鉱石に、水が接触し、水を含むことで、石炭及び/又は鉄鉱石のスラリーが発生することになる。このようなスラリーを、原料として再利用するか、又は廃棄物として処分する必要がある。
ところが、これらスラリーは、流動性が高く様々な作業や処理が行いにくい。例えば、これを屋外に貯留・保管するにしても、流動性が高いので、高く山積みすることが難しく、また、搬送するのも容易ではない。
このため、石炭や鉄鉱石のスラリーの再利用や処分を行うための改質方法が提案されている。例えば、コンクリートや土砂等でピットを設けてこの中で石炭や鉄鉱石のスラリーを天日乾燥させて脱水する方法;フィルタープレスの脱水装置を利用して脱水する方法;ピットを特定の多孔質体で形成し、その中に石炭や鉄鉱石のスラリーを入れてこのスラリー中の微粉原料等を多孔質体に吸着させる固液分離にて微粉原料等をする方法(特許文献1)が知られている。
【0004】
しかしながら、ピットを設けるには予めそれを形成するための広い場所やピット施工の作業が必要であり、しかもピット内での固化乾燥には長時間を要する。また、脱水処理装置を使用するには、その装置を設置するための設備投資と設置場所が事前に必要であり、しかもその特定の設置場所に搬送しなければならない。
【0005】
従って、より簡便に、石炭や鉄鉱石、及びそのスラリーを改質できる方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−196820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本技術は、斯かる問題と実状に鑑み、より簡便な石炭及び/又は鉄鉱石、及びそのスラリーの改質方法及びこれにより改質された原料の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、スラリー状のため取り扱いが難しく、簡便に改質することが困難である石炭及び/又は鉄鉱石スラリーに、水溶性高分子化合物を添加し、混合すると、簡便に、このスラリーの流動性を低下させることができ、得られた改質物は安定的に取り扱いが容易であった。
【0009】
従って、本技術は、以下の〔1〕〜〔7〕に係るものである。
〔1〕 石炭及び/又は鉄鉱石スラリーに、水溶性高分子化合物を添加し、混合することを特徴とする石炭及び/又は鉄鉱石スラリーの改質方法。
〔2〕前記水溶性高分子化合物が、アニオン性W/O型エマルジョンポリマーであることを特徴とする前記〔1〕項記載の改質方法。
〔3〕 前記水溶性高分子化合物の添加し、混合した後に、更に無機金属塩を添加することを特徴とする前記〔1〕又は〔2〕記載の改質方法。
〔4〕 前記無機金属塩が、アルミニウム塩である前記〔3〕記載の改質方法。
【0010】
〔5〕 石炭及び/又は鉄鉱石スラリーに、水溶性高分子化合物を添加し、混合することを特徴とする改質された原料の製造方法。
〔6〕 前記水溶性高分子化合物の添加し、混合した後に、更に無機金属塩を添加することを特徴とする前記〔5〕項記載の製造方法。
〔7〕 水溶性高分子化合物を含有する石炭及び/又は鉄鉱石スラリー改質剤。
【発明の効果】
【0011】
本技術によれば、より簡便に、石炭及び/又は鉄鉱石や製鉄所等で発生する石炭及び/又は鉄鉱石スラリーを、取り扱いが容易な堆積物に改質することができる。これにより、取り扱いが容易な石炭及び/又は鉄鉱石を含む原料を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】鉄鉱石系スラリーの流動性改善試験:水溶性高分子化合物(A剤)及び無機金属塩(B剤)を添加して攪拌した場合(それぞれ1:1、2:1、3:2、3:3、5:5kg/m)又は無添加で攪拌した場合(0:0kg/m)の結果を示す。
【図2】石炭系スラリーの流動性改善試験:水溶性高分子化合物(A剤)を添加して攪拌した場合(1、2、3kg/m)又は無添加で攪拌した場合(0kg/m)の結果を示す。
【図3】石炭系スラリーの乾燥促進試験:水溶性高分子化合物(A剤)及び無機金属塩(B剤)を添加して攪拌した場合(5:5kg/m)又は無添加で攪拌した場合(0:0kg/m)の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本技術は、石炭及び/又は鉄鉱石、及びそのスラリーに、水溶性高分子化合物を添加し、混合するものである。このとき、前記水溶性高分子化合物の添加し、混合した後に、更に無機金属塩を添加し、混合するのが、好ましい。
【0014】
処理対象である石炭及び/又は鉄鉱石スラリーとは、少なくとも石炭及び/又は鉄鉱石を含むスラリーである。そして、これには、更にコークスやスラグ等の製鉄原料として使用されるものが含まれていてもよい。
【0015】
前記石炭及び/又は鉄鉱石スラリーとして、上述のとおり、鉱山の現場ヤード;破粉砕等の処理施設;野積み等の貯蔵保管場;ベルトコンベア、船、貨車等の搬送手段;製鉄所等の使用施設等において、鉄鉱石等が水を含むことにより発生するもの等が挙げられる。
例えば、屋外ヤードに野積みされた原料への降雨や粉塵目的の散水等にて、石炭や鉄鉱石、コークス、スラグ等の原料が流出し、排水溝に堆積したもの;原料を搬送するベルトコンベアを洗浄する水を貯留するピットや生産ラインから流出した原料を雨水等によって流れ込ませる沈殿池(ポンド)に堆積したもの;湿式集塵プラントからの回収した堆積物やヤードでの堆積物;屋外ヤードに野積みされた原料をベルトコンベアで搬送する際に粉塵防止目的で散水されて水を含んだもの;乾式集塵プラントからの回収物に水が流されてスラリー化したもの;運搬手段、処理施設、貯蔵管理場所等で管理保管の目的で散水されて水を含んだもの;船内で貯蔵保管目的で水浸させたウェット状態なもの;搬送手段等を水で洗浄し、回収したもの等が挙げられる。
微細な石炭や鉄鉱石等の原料がスラリーとなり易いが、この原料の大きさとして、例えば粒径(最大長径)5mm以下のものが挙げられる。
【0016】
本技術の処理対象である石炭及び/又は鉄鉱石スラリーは、成分に炭成分と鉄成分が含まれることから、保水性がほとんど無いため、一般的な建設工事現場から出る掘削土や泥状土砂とは性状が異なっており、取り扱いが困難であると考えられていたが、本技術にて改質することで取り扱いを容易にすることが可能となった。
【0017】
前記石炭及び/又は鉄鉱石スラリーの含水率は、特に限定されないが、10質量%以上のものが好ましく、15〜80質量%とするのがより好ましく、更に20〜70質量%とするのが好ましい。この含水率は、JIS A1125にて測定することが可能である。
【0018】
本技術に用いる水溶性高分子化合物は、例えば、合成水溶性高分子化合物、半合成水溶性高分子化合物及び天然水溶性高分子化合物等が挙げられる。なお、以下のこれらのものを1種で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0019】
前記合成水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸又はその塩、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルメチルエーテル;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸アミド、マレイン酸イミド、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸等の共重合物又はその塩等が挙げられる。この塩としては、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0020】
前記半合成水溶性高分子化合物としては、ビスコース、メチルセルロース、カチオン化セルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体;アルファ化デンプン、カルボキシルデンプン、ジアルデヒドロデンプン、カチオン化デンプン、デキストリン、ブリティッシュゴム等のデンプン誘導体;カチオン化グアーガム、アニオン化グアーガム、メチルグリコールキトサン等が挙げられる。
【0021】
前記天然水溶性高分子化合物としては、デンプン、マンナン、グアーガム、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、ローカストビーンガム、ペクチン、デキストラン、ゼラチン、ラムザンガム、ジェランガム等が挙げられる。
【0022】
また、前記水溶性高分子化合物は、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、両性の何れでもよい。このうち、魚類への毒性が少ないアニオン性及びノニオン性が好ましく、更にアニオン性が好ましい。
【0023】
前記水溶性高分子化合物のうち、合成水溶性高分子化合物が好ましい。
前記合成水溶性高分子化合物は、アニオン性モノマーとノニオン性モノマーの1種又は2種以上を構成成分とする単独重合体又は共重合体が好適である。
前記アニオン性基(アニオン性モノマー)としては、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のカルボン酸(モノマー);スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸等のスルホン酸(モノマー)等が例示される。
また、前記ノニオン性基(ノニオン性モノマー)としては、例えば、アクリルアミド(モノマー)やメタクリルアミド(モノマー)等が例示される。
【0024】
更に、前記合成水溶性高分子化合物のうち、アクリル酸系及び/又はアクリルアミド系ポリマーが好ましい。
前記アクリル酸系及び/又はアクリルアミド系ポリマーとしては、例えば、アクリル酸単重合物、アクリルアミド単独重合物、アクリル酸/アクリルアミド共重合物、ポリアクリルアミドの部分加水分解物、アクリル酸/アクリルアミド/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アクリル酸/マレイン酸共重合物等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。このうち、アクリル酸/アクリルアミド共重合物、アクリルアミド単独重合物、ポリアクリルアミドの部分加水分解物が、高分子量であるので、好ましい。
前記アクリルアミド系又はアクリル酸系ポリマーの平均分子量は、好ましくは1,000,000〜10,000,000、より好ましくは5,000,000〜9,000,000(固有粘度法)とするのが好適である。
また、アニオン性高分子の場合、前記アクリル酸系及び/又はアクリルアミド系ポリマーを生成する際のアクリル酸単位の含有量は、使用する単量体の全合計量(100モル%)に対して、好ましくは5モル%以上、より好ましくは20〜100モル%とするのが好適である。
【0025】
前記水溶性高分子化合物を使用するときの状態としては、特に限定されず、粉末状、液体状又はエマルジョン状で使用するのが好適である。特に処理対象の水分を増加させずに使用できる粉末状とエマルジョン状で使用するのが好適である。更に、スラリーの改質効果と流動性増大のマッチポンプの発生を少なくすることができるエマルジョン状(好ましくは、W/O型エマルジョン状)で使用するのが好適である。W/O型エマルジョン状の水溶性高分子化合物は、公知の手法(例えば、特公昭52−039417号公報、特開昭51−41090号公報)にて製造することができる。
【0026】
前記水溶性高分子化合物の使用量は、前記石炭及び/又は鉄鉱石スラリー1mに対し、乾燥物換算で、通常0.1〜15kg、好ましくは1〜10kgの範囲で添加するのが好適である。この範囲内の使用量であれば、過不足なく前記石炭及び/又は鉄鉱石スラリーを造粒物化することが可能であり、経済的にも有利である。
【0027】
前記水溶性高分子化合物は、水溶液(25℃:前記水溶性高分子化合物の濃度0.1〜0.3質量%)としたとき、好ましくはpH6〜8となるものが好適である。
【0028】
前記水溶性高分子化合物の添加・混合は、適宜行えばよいが、一例として、前記スラリーに、前記水溶性高分子化合物を添加後、通常スラリー1mあたり0.5〜60分間程度混合を行えばよい。更に、石炭及び/又は鉄鉱石スラリーが油分を含む場合には、前記水溶性高分子化合物を添加後、5〜60分放置した後に混合するのが、作業効率向上の点で、好適である。
前記混合(攪拌)を行うことにより、このスラリー中の水分を前記水溶性高分子化合物に含ませつつ、このスラリー中に前記水溶性高分子化合物を分散させる。よって、前記水溶性高分子化合物が、石炭や鉄鉱石の各粒子と架橋し、また水分を拘束する。これにより、流動性が低下した処理物(改質された原料)、すなわち改質物を得ることが可能となる。
前記混合に使用する攪拌機又は混練機については、特に限定されないが、例えば、バックホウ、ユンボー、スタビライザー、二軸ミキサー等の従来の公知のものを使用すればよい。
また、このとき、処理温度は特に限定されないが、常温(5〜35℃)程度で行うのが、反応性の点から好適である。
【0029】
更に、前記水溶性高分子化合物を添加し、混合した後に、前記無機金属塩を、添加・混合するのが、より粘りのない団粒状の改質された堆積物、すなわち、優れて流動性が低下し、改質された物(原料)を得ることができるので、好適である。
【0030】
前記無機金属塩としては、特に限定されず、例えば、例えば、一価金属塩、二価金属塩
及び三価金属塩等が挙げられる。また、例えば、金属塩化物、金属硫酸塩等に分類できる。
前記一価金属としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属類等が挙げられる。また、前記二価金属としては、カルシウム、バリウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属類及び二価鉄等が挙げられる。また、前記三価金属としては、アルミニウム、三価鉄等の三価金属等が挙げられる。
このうち、二価金属塩及び三価金属塩(塩基性酸化物を除く)から選ばれる1種以上のものが好ましい。
【0031】
前記二価金属塩としては、例えば、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化第一鉄等の二価金属塩化物や二価金属硫酸塩等が挙げられる。
また、前記三価金属塩としては、例えば、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、塩化第二鉄、硫酸第二鉄等の酸化金属塩化物や三価金属硫酸塩等が挙げられる。このうち、アルミニウム塩が好ましく、特にPACや硫酸バンドが好ましい。これにより、処理物の流動性が更に低減され、また屋外にて降雨に曝されても周辺に影響の少ない改質物を得ることが可能となる。
これらは1種又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0032】
前記無機金属塩を使用するときの状態としては、特に限定されず、粉末状又は液体状の状態で使用するのが好適である。
【0033】
前記無機金属塩の使用量は、前記石炭及び/又は鉄鉱石スラリー1mに対し、乾燥物換算で、通常0.1〜15kg、好ましくは1〜10kgの範囲で添加するのが好適である。
【0034】
前記無機金属塩の添加後の混合は、前記水溶性高分子化合物を含むスラリーに、前記無機金属塩を添加後、通常1〜60分間、好ましくは1〜30分間程度行う。この混合(攪拌)により、造粒物の自立性を促進するので、より安定的に流動性が低下した堆積物、すなわちより良好に改質された堆積物を得ることが可能となる。
【0035】
この際、使用する攪拌機及び混練機については、上述と同じく、従来の公知のものを使用すればよい。
また、このとき、処理温度は特に限定されないが、常温(5〜35℃)程度で行うのが、反応性の点から好適である。
【0036】
前記石炭及び/又は鉄鉱石スラリーを、前記水溶性高分子化合物又は、前記水溶性高分子化合物及び無機金属化合物を添加・混合した後に、一定期間養生することが、乾燥が促進し、軽量化が図れるので、好適である。当該養生期間としては、好ましくは10〜150時間、より好ましくは48〜120時間とするのが、作業効率の点から、好適である。
【0037】
そして、この状態で安定的な造粒にすることが可能であり、これにより、スラリーが改質され、前記石炭及び/又は鉄鉱石スラリーの流動性を低下させることも可能となる。そして得られた改質物の乾燥、養生後の含水率は、流動性を低下させ、また軽量化を図るため、好ましくは、10〜40質量%、より好ましくは15〜30質量%とするのが好適である。
【0038】
本技術の改質の機構について述べる。
前記石炭及び/又は鉄鉱石、並びにそのスラリーに、本技術の水溶性高分子(好適にはエマルジョン状態)を添加した後に(油分を含むスラリーの場合、好適には添加後放置した後に)、混合・攪拌すると、調湿石炭及び/又は鉄鉱石並びにこのスラリーに含まれる水分を含みながら水溶性高分子物質が、水分の存在下で石炭及び/又は鉄鉱石並びにこのスラリー中に分散する。
この前記石炭及び/又は鉄鉱石スラリー等の前記対象物には、石炭や鉄鉱石を高濃度に含有しているものの、その後、水の存在下で、水溶性高分子化合物と石炭及び/又は鉄鉱石と架橋し、造粒化が可能である。造粒することで、この粒子中に水分を拘束し、スラリーの流動性が抑制されるようになる。しかも、改質された物はスラリーの塑性流動性の改善によって症状の改質がみられるようになる。スラリーになる前の石炭及び/又は鉄鉱石でも、本技術の水溶性高分子(好適にはエマルジョン状態)を水の存在下で使用することにより、これらの改質ができる。よって、改質された鉄鉱石等は、その後水と接触してもスラリー化が抑制されるので、取り扱いが容易である。
更に、本技術の水溶性高分子化合物の他、無機金属塩を添加攪拌することで、造粒物の自立性を促進させることができる。これにより、より安定的な造粒物となる。
【0039】
このように、流動性が高い石炭や鉄鉱石のスラリーを、速やかに改質し、山積みが可能な状態の物とすることができる。また、改質物は、降雨等に暴露されても再びスラリー化することなく、積み上げた山の崩壊も防止することができる。また、改質物は、ダンプ等で運搬し易い自立性を持つとともに、ベルトコンベア等で搬出し易い大きさ(例えば、直径10mm程度)にもできる。
【0040】
ここで、石炭及び/又は鉄鉱石スラリーは、流動性が高く、また重く、水抜けも悪いことから、搬出にも時間を要しており、しかも屋外では高く積むことができず、乾燥にも長時間要していた。
【0041】
例えば、従来は、石炭や鉄鉱石等の製鉄原料を含むスラリーを、天日にて乾燥させ、流動性を低下させた後に、積み上げ等を行っているが、屋外で行うため、天候に左右されやすく、乾燥には長期間を要する。また、降雨により積み上げた山の表面の粒子が降雨等より流出したり、前記製鉄原料を含む積み上げた山が崩れる可能性もある。
【0042】
また、山積みした製鉄原料を含む堆積物の上(表面)に、W/W型エチレン−酢酸ビニル乳酸−ビニル樹脂エマルジョンを散布し、山の表面を固化する方法も採用されている。しかしながら、石炭や鉄鉱石を山積みする前に、ある程度乾燥させていないと、高く積み上げることができず、乾燥に時間を要する。また、この樹脂エマルジョンの散布は、硬化までに数日を要するため、その間に降雨があると薬剤が雨水と共に流出してしまい効果を発揮し得ない。
【0043】
また、生石灰を添加する方法も採用されている。酸化カルシウム(生石灰)を前記スラリーに添加し、石炭や鉄鉱石中の水分と酸化カルシウムとの水和反応で発生する反応熱で水分を蒸発させると共に、水和反応によって該スラリーを硬化させる。このことで、含水率の低下と、積み上げや運搬に適した状態の改質された物を得ることが可能である。しかし、生石灰を大量に添加するため処理物の量が増大してしまい、処理場所、保管場所が広く必要であると共に運搬量が増えてしまう。また、高アルカリ性の粉末を大量に使用するため、これを取り扱うとき、作業者のアルカリ暴露の可能性があり、また高アルカリ性の堆積物の粉塵飛散の可能性もある。
【0044】
これに対し、本技術の方法によれば、前記石炭や鉄鋼石、そのスラリーに、セメントや石灰を添加せずとも、製鉄等再利用の際に影響がないかほとんどないような素材(前記水溶性高分子化合物や前記無機金属化合物)を添加し、混合することで流動性の低下し、再利用可能な改質された原料(再利用原料)を得ることが可能となる。すなわち、前記高分子化合物を用いて、石炭及び/又は鉄鉱石、そのスラリーを原料(再利用原料)に製造することも可能である。しかもこの素材は人体に影響の少ないものであることから、攪拌混合中や搬送にアルカリ暴露等の問題もなく、作業効率や安全性も向上する。
【0045】
また、前記石炭や鉄鋼石、そのスラリー(堆積物)は造粒化され、水抜けを促進するので、より乾燥しやすい状態となっている。そして、乾燥に際して改質物の含水率は低くなって軽くなり、この改質物は安定的な造粒状を維持できるため、容易に運搬することでき、また高く山積みできる。
【0046】
以上のとおり、本技術の水溶性高分子化合物は、対象物に水の存在下で添加し、混合することで、石炭及び/又は鉄鉱石の原料を改質すること;石炭及び/又は鉄鉱石スラリーを改質することが可能である。また、本技術の水溶性高分子化合物を使用することで改質された石炭及び/又は鉄鉱石の原料を製造することも可能である。
そして、本技術の水溶性高分子化合物は、石炭及び/又は鉄鉱石原料の改質剤;このスラリーの改質剤等の改質剤(以下、「改質剤」ともいう)を製造するために使用することが可能である。該改質剤には、必要に応じて、無機金属塩、乳化剤、界面活性剤等の任意成分を配合してもよい。この任意成分は、該改質剤の補助剤として使用することが可能であり、該改質剤と同時に又は別々に使用してもよい。なお、これら各剤は、液体、固体、粉末等の何れの状態でもよい。
ここで、本技術の対象物として、例えば、石炭及び/又は鉄鉱石(以下、「鉄鉱石等」ともいう)、含水の鉄鉱石等、及び鉄鉱石等のスラリー等が挙げられ、スラリーになる前のものでもよい。
そして、本技術の石炭及び/又は鉄鉱石の原料の改質方法、該スラリーの改質方法において、上述の水溶性高分子化合物(更に、無機金属塩)を、そのまま又は水溶液にして前記対象物に使用することが可能である。また、上述の水溶性高分子化合物(更に、無機金属塩)を、改質剤として、対象物に使用することも可能である。例えば、本技術の改質剤は、石炭及び/又は鉄鉱石、またそのスラリーに添加・混合することで、より良好な性状(水抜け、軽さ、造粒形状等)の改質物を得ることが可能である。また、処理方法の一例として、鉄鉱石等を、水溶液状態の本技術の改質剤等で処理してもよいし、含水の鉄鉱石等を、粉体状の本技術の改質剤等で処理してもよい。
なお、「本技術の水溶性高分子化合物及びその水溶液、並びに本技術の水溶性高分子化合物を含有する改質剤」を、「本技術の改質剤等」ともいう。
【0047】
よって、本技術は、石炭及び/又は鉄鉱石に、水の存在下で本技術の改質剤等を添加し、混合する、石炭及び/又は鉄鉱石の改質方法;改質された原料の製造方法を提供することも可能である。
この改質方法;改質された原料の製造方法の各条件は、上述した石炭及び/又は鉄鉱石スラリー改質方法;改質された原料の製造方法の各条件と同様であればよい。
なお、前記「水の存在下で」とは、上記「石炭及び/又は鉄鉱石スラリーの含水率」と同様の含水率になるように、石炭及び/又は鉄鉱石中に水が存在していればよい。また、上記「石炭及び/又は鉄鉱石スラリー1m」を、「水の存在下の石炭及び/又は鉄鉱石1m」に読み替えて行えば良い。
【0048】
本技術の改質剤等の使用場所は、石炭及び/又は鉄鉱石を、水の存在下で本技術の改質剤等を添加し、混合することが可能な場所であれば、特に限定されない。例えば、上述のとおり、鉱山の現場ヤード;破粉砕等の処理施設;野積み等の貯蔵保管場;ベルトコンベア、船、貨車等の搬送手段;製鉄所等の使用施設等が挙げられる。
本技術の改質剤等の使用手段として、例えば、前記対象物に本技術の改質剤等を添加(散布等)、攪拌することが可能な装置;混練機を備えた搬送手段において、搬送されている前記対象物に本技術の改質剤等を添加(散布等)し、混練することが可能な装置等が挙げられる。
【0049】
より具体的には、搬送・山積み等のための連続改質処理システム等として、前記対象物を、ヤードへ山積みする際又は船、トラック等へ移送する際の、搬送手段(例えば、ベルトコンベア等)に混練機を備え、該混練機にて、搬送されている前記対象物に本技術の改質剤等を添加・混練すること;前記対象物(例えば、調湿鉄鉱石等)を船内に又は船内から搬送する手段に混練機を備え、搬出搬入の際に前記対象物に本技術の改質剤等を添加・混練して、搬送手段に積載すること等が挙げられる。
また、船、貨車、トラック等の搬送手段に混合装置を設け、搬送中に本技術の改質剤等を前記対象物に添加・混合すること等も挙げられる。
また、保管・貯蔵の際に、前記対象物を攪拌(混合)できるような機械や装置にて本技術の改質剤等を添加・混練すること等が挙げられる。
【0050】
さらに、以下に例を挙げるが、これに限定されるものではない。ベルトコンベアで搬送している流動性が高いスラリーのコンベアからの落下時に本技術の改質剤等を散布し、パイリング等にバックホウで攪拌処理する方法。トラック、船等で搬送した流動性の高いスラリーに、本技術の改質剤等を添加し、混合処理する方法。湿潤の石炭及び/又は鉄鉱石を船内からバケットでベルトコンベアへ搬出する段階における混練機によって、本技術の改質剤等を連続的に添加し、混合処理する方法。ヤードへパイリングする際の混練機によって、鉄鉱石等に、本技術の改質剤等を連続的に添加し、混合処理する方法。
【実施例】
【0051】
以下に、具体的な実施例等を説明するが、本技術はこれに限定されるものではない。
【0052】
〔試験例1〕鉄鉱石スラリーの流動性改善確認試験
<実験条件>
JIS R 5201によるセメントの物理性状試験を参考に、改質した湿鉱スラリーの耐振動性を評価するため、テーブルフローの落下衝撃回数をJISが定める15回から、50回まで増やして評価した。また、0回のものも評価した。
1)スラリー0.5Lをモルタルミキサー(容量3L)に投入した。このとき使用したスラリーは、表1に示すものを使用した。
スラリーは、製鉄所で得たスラリー状の堆積物であり、(破砕)鉄鉱石を鉄濃度40〜80質量%含むものであり、(破砕)石炭も含まれていた。
【0053】
2)これに、アクリル酸/アクリルアミド共重合物を40質量%含有のアニオン性W/O型エマルジョンポリマーを表2に示す配合量添加し、30秒攪拌した。
ここで、表中の「kg/m」とは、スラリー1mに対するアニオン性W/O型エマルジョンポリマーのエマルジョンとしての使用量(kg)である。
また、アクリル酸/アクリルアミド共重合物の固有粘度換算による分子量は、800万であった。また、アクリル酸/アクリルアミド共重合物のアクリル酸単量体のモル%は、35モル%であった。
なお、W/O型エマルジョンポリマー(pH6〜8程度)は、公知の手法(例えば特公昭52−039417号公報、特開昭51−41090号公報参照)にて製造でき、具体的には、鉱物油に界面活性剤(転相剤も含む)及びアクリル酸/アクリルアミドの単量体水溶液を添加し、乳化重合によって得ることが可能である。
3)その後、これに、PACを10質量%含有の無機金属塩水溶液を、表2に示す配合量を添加し、30秒間攪拌した。
ここで、表中の「kg/m」とは、スラリー1mに対する無機金属塩水溶液の使用量(kg)である。
4)試料を取り出し、JIS R−5201に準拠して、テーブルフロー値(落下衝撃回数:0回)を計測した。
5)テーブルを落下衝撃後のテーブルフロー値を計測した。
【0054】
【表1】



【0055】
【表2】



【0056】
試験例1の結果を、表2及び図1に示した。
実験2−5のように、水溶性高分子化合物の添加量の増加に伴い、落下衝撃0回(n=0)のフロー値が小さくなり、スラリーの流動性が低下、すなわち改善されていくことが認められた。
また、実験2−5は、実験1(無処理:現状処理)と比較し、フロー値は著しく改善されたことが認められた。
実験6にて、落下衝撃50回(n=50)のときのテーブルフロー値が110mmを下回った。落下衝撃50回後のテーブルフロー値が110mm以下になると、スラリーだったものが、十分に改質されて、団粒状の形態となり、形態も安定的に維持できることが認められた。
【0057】
〔試験例2〕石炭スラリーの流動性改善確認試験
製鉄所で得た表3の石炭スラリーを使用し、各測定値は、上述の試験例1に準じて、表4に示す添加量(試験例1と同様のアニオン性W/O型エマルジョンポリマー及び無機金属塩水溶液を使用)にてスラリーの処理を行った。
【0058】
【表3】



【0059】
【表4】



【0060】
試験例2の結果を、表4及び図2に示した。
実験7−12のように、水溶性高分子化合物の添加量の増加に伴い、落下衝撃0回(n=0)のフロー値が小さくなり、スラリー状の流動性が低下、すなわち改善されていくことが認められた。
また、実験8−12は、実験7(無処理:現状処理)と比較し、フロー値は著しく改善されたことが認められた。
実験12にて、落下衝撃0(n=0)及び50回(n=50)のときのテーブルフロー値が110mmを下回った。落下衝撃50回後のテーブルフロー値が110mm以下になると、スラリーだったものが、十分に改質されて、団粒状の形態となり、形態も安定的に維持できることが認められた。
【0061】
〔試験例3〕石炭スラリーの乾燥促進効果確認試験
スラリーは、試験例2(表2)の石炭スラリーを使用した。このとき、試験例1の<実験条件>に準じて、表4に示す添加量(試験例1と同様のアニオン性W/O型エマルジョンポリマー及び無機金属塩水溶液を使用)にて、実験11として、スラリーの処理を行った。
スラリーを、無処理及び改質処理した後、室温(25℃)で放置し、乾燥状態を比較した。
【0062】
【表5】



【0063】
試験例3の結果を、表5及び図3に示した。
実験13及び14のように、改質された物の含水率の低下速度が、無処理のスラリーに比較し、速いことが認められた。すなわち、スラリーを薬剤添加にて改質処理することによって、乾燥促進効果が認められた。
【0064】
〔試験例4〕油分含有鉄鉱石スラリーの改質試験
製鉄所で得た表6の鉄鉱石スラリーを使用し、上述の試験例1に準じて、表7に示す添加量及びエマルジョンポリマー添加後、混合するまでの放置時間にてスラリーの処理を行った。
試験例4の結果を表7に示す。表7に示すよう、油分(n−ヘキサン抽出物)を多量に含有するスラリーでは、エマルジョンポリマー添加後に放置した後に混合することで改質するまでの混合時間を短縮することができる。
なお、このスラリーにn−ヘキサンを添加し、混合して、n−ヘキサンにてスラリーに含まれる油分を抽出し、この抽出量をスラリー中の油分量として表6に示した。
【0065】
【表6】

【0066】
【表7】



【0067】
以上のことから、石炭・鉄鉱石スラリーに、水溶性高分子化合物を添加し、混合することによって、スラリーの流動性を低下(改善)させることが可能となることが確認できた。流動性が低下することによって、より高く山積みすることが可能となることが確認できた。
しかも、水溶性高分子化合物を混練した後、更に無機金属塩を混練することによって、より良好な造粒物とすることが可能であることが確認できた。
このように、水溶性高分子化合物を使用するか、又は水溶性高分子化合物及び無機金属塩を併用すれば、スラリー状のものから、良好な造粒物とすることができることが確認できた。そして、油分を含有するスラリーでは、水溶性高分子化合物を添加し、放置させた後に混合すると、放置させずに混合する場合と比較して、改質するまでの混合時間が短くなることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本技術にて、スラリー(スラリー状の堆積物等)の流動性を低下させると共に造粒化できる。また乾燥促進により軽量化も可能となる。このようなより優れて改質された物を得ることができるので、この改質物をより高く山積みすることも可能であり、処理場所も省スペースで行うことができる。更に、使用する水溶性高分子化合物及び無機金属塩はほとんど無害であるので作業者の安全性を確保しやすく、しかも作業性も向上する。更に、アルミニウムが再利用可能な場合には、製鉄原料として再利用することも可能であり、また廃棄物として処分する場合でも取り扱いが容易である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭及び/又は鉄鉱石スラリーに、水溶性高分子化合物を添加し、混合することを特徴とする、石炭及び/又は鉄鉱石スラリーの改質方法。
【請求項2】
前記水溶性高分子化合物が、アニオン性W/O型エマルジョンポリマーであることを特徴とする請求項1記載の改質方法。
【請求項3】
前記水溶性高分子化合物の添加し、混合した後に、更に無機金属塩を添加することを特徴とする請求項1又は2記載の改質方法。
【請求項4】
前記無機金属塩が、アルミニウム塩である請求項3項記載の改質方法。
【請求項5】
石炭及び/又は鉄鉱石スラリーに、水溶性高分子化合物を添加し、混合することを特徴とする改質された原料の製造方法。
【請求項6】
前記水溶性高分子化合物の添加し、混合した後に、更に無機金属塩を添加することを特徴とする請求項5項記載の製造方法。
【請求項7】
水溶性高分子化合物を含有する石炭及び/又は鉄鉱石スラリー改質剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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