説明

石炭成型体

【課題】低品位炭を使用した石炭成型体であって、成型直後の初期強度が十分高く、その後の輸送や保管中に加温、吸湿等の履歴を受けても強度低下の少ない石炭成型体を提供する。
【解決手段】本発明の石炭成型体は、脱水処理された低品位炭と、これを結合する粘度平均分子量が1万以上の非水溶性有機化合物とを含有し、前記非水溶性有機化合物の含有量が、0.1質量%〜10質量%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低品位炭を使用した石炭成型体に関するものであり、特に成型後の初期強度が高く、且つ、保管時の強度低下が抑制された石炭成型体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
低品位炭は、埋蔵量が豊富であるが、含有水分が多いために燃焼時の発熱量が小さい。このような低品位炭は、気流中加熱や油中脱水等の乾燥によって水分を除去することにより、発熱量の向上が図られている。低品位炭を乾燥させる場合、乾燥効率を上げるために、通常、乾燥前に粉砕される。そして、乾燥後の低品位炭は、粉体状のままではハンドリング性が悪く、輸送等にも不便であるので、ダブルロールプレス等の加圧成型機を用いて、ブリケット(石炭成型品)に成型される。
【0003】
このような石炭成型品が種々提案されており、例えば、特許文献1には、結合剤として糖蜜、水溶性高分子化合物等を含む石炭成型品(実施例1参照)が記載されている。しかし、結合剤として糖蜜や水溶性高分子を用いたものは、吸湿や水没による膨張で容易に脆化し、ブリケットの強度低下を起こしやすい。特許文献2には、石炭、ポリビニルアルコール及び酸化カルシウムを水存在下で混合し成型した後、反応により硬化させた石炭成型体(実施例1参照)が記載されている。この石炭成型体では、成型後の初期強度が不十分であった。
【0004】
特許文献3、4には、石炭に、廃プラスチックを混ぜた石炭成型品が記載されている。これら石炭成型体では、廃プラスチックを燃料として使用するために、その含有量が高くなっており(特許文献3の段落[0042]表2、特許文献4の段落[0009]参照)、そのため成型後の初期強度が不十分である。特許文献5には、石炭と熱可塑性プラスチックを含む混合物を、170℃〜210℃で加熱混練した後、成型した石炭成型品(段落[0020]、[0023]表3、参照)が記載されている。しかし、石炭は熱伝導が低いため、大きな塊になるほど冷えにくくなる。よって、石炭成型品を170℃以上の高温で加熱混練した場合、成型後の石炭成型品を高温のまま空気中に出すと、自然発火するおそれがある。なお、酸素のない不活性雰囲気(窒素、アルゴン等)中で混練、冷却すれば自然発火を防止できるが、製造コストが高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−271022号公報
【特許文献2】特開平4−71436号公報
【特許文献3】特開2000−319674号公報
【特許文献4】特開2001−342475号公報
【特許文献5】特開平10−306288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、加圧成型機を用いて成型したブリケットは、成型直後は非常に硬いものの、その後の輸送等のハンドリング、屋外での保管中に、ブリケットの脆化が進行し、粉の発生が起こることがあった。粉が発生した石炭成型体は、使用時に粉塵が問題となってしまうため、もはや使用できなくなるという問題があった。特に親水性が高い低品位炭を用いた石炭成型体では、吸湿や水没による膨張で容易に脆化し、ブリケットの強度低下を起こしやすい傾向がある。しかしながら、このような低品位炭を用いた石炭成型品に好適な結合剤について、十分に検討されていなかった。
【0007】
本発明は、低品位炭を使用した石炭成型体であって、成型直後の初期強度が十分高く、その後の輸送や保管中に加温、吸湿等の履歴を受けても強度低下の少ない石炭成型体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することができた本発明の石炭成型体は、脱水処理された低品位炭と、これを結合する粘度平均分子量が1万以上の非水溶性有機化合物とを含有し、前記非水溶性有機化合物の含有量が、0.1質量%〜10質量%であることを特徴とする。前記低品位炭は、油中脱水処理されたものが好ましい。前記低品位炭の粒子径は、3mm以下が好ましい。前記低品位炭は、渇炭、瀝青炭及び亜瀝青炭よりなる群から選択される1種以上が好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の石炭成型体は、親水性の高い低品位炭を使用しているにもかかわらず、成型直後の初期強度が高く、且つ、その後の保管時に、吸湿した場合でも強度低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】圧壊試験における石炭成型体の設置状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の石炭成型体は、石炭として低品位炭を使用したものであり、結合剤として粘度平均分子量1万以上の非水溶性有機化合物を所定量含有する。前記特定の非水溶性有機化合物を添加することにより、成型直後の初期強度を高めるだけでなく、その後の保管時に低品質炭が吸湿した場合でも結合力が低下せず、吸湿等の履歴を受けても強度低下が抑制される。
【0012】
前記非水溶性有機化合物は、有機化合物であって、水溶性でないものである。該非水溶性有機化合物の水(液温25℃、大気圧下)に対する溶解度は1g/100g以下であり、0.5g/100g以下が好ましく、より好ましくは0.1g/100g以下である。溶解度が低いほど、保管時の吸湿による強度低下を抑制することができる。ここで、溶解度とは、水100gに対して溶解し得る有機化合物の質量(g)である。
【0013】
前記非水溶性有機化合物としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリスチレン;熱可塑性エポキシ樹脂;熱可塑性フェノール樹脂;等が挙げられる。また、ポリビニルアルコールは水溶性であるが、完全鹸化型ポリビニルアルコールは、熱水には溶解するが、前記25℃の水に対する溶解度は1g/100g以下であるため、本発明において非水溶性有機化合物に含まれる。これらの中でも非水溶性有機化合物としては、ポリオレフィンが好ましく、より好ましくはポリエチレンである。
【0014】
前記非水溶性有機化合物の粘度平均分子量は1万以上、好ましくは2万以上、より好ましくは3万以上である。粘度平均分子量が1万以上であれば、石炭成型体が吸湿した場合でも、脆化を防止できる。なお、粘度平均分子量の上限は特に限定されないが、通常100万である。前記粘度平均分子量の測定方法は後述する。なお、非水溶性有機化合物として、市販品を用いる場合には、そのカタログ値を参照すればよい。
【0015】
本発明の石炭成型体中の前記非水溶性有機化合物の含有量は0.1質量%以上、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは0.7質量%以上であり、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、特に好ましくは0.8質量%以下である。非水溶性有機化合物の含有量を上記範囲内とすることにより、初期強度が高く、保管時の強度低下が抑制された石炭成型体が得られる。
【0016】
本発明で使用する低品位炭とは、天然に存在し20質量%以上の水分を含有するものをいう。前記低品位炭としては、例えば、ビクトリア炭、ノースダコタ炭、ベルガ炭等の褐炭;西バンコ炭、ビヌンガン炭、サラマンガウ炭等の亜瀝青炭;瀝青炭等が挙げられる。これらの中でも、褐炭は、親水性が高く、水を吸収して膨張する。そのため、褐炭の粒子を成型した成型炭では、吸湿により各粒子が膨張して粒界がはがれ易くなり、非常に脆化しやすい。このような渇炭の粒子を含有する石炭成型体に対して、非水溶性有機化合物を添加すると、粒子を結合するバインダーとしての役割だけでなく、粒子間の隙間を埋めて水分の浸入を防ぐという効果も奏する。よって、低品位炭として渇炭を用いた場合、本発明の脆化抑制効果がより顕著となる。
【0017】
前記低品位炭の粒子径は、3mm以下が好ましく、より好ましくは2mm以下、さらに好ましくは1mm以下である。特に、低品位炭は、粒子径0.5mm以下の粒子の割合が50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。低品位炭の粒子径が小さい程、得られる石炭成型体の強度が向上する。なお、低品位炭の粒子径は、粉砕、ふるいを用いた分級により調整できる。粒子径0.5mm以下の粒子の割合は、目開き0.5mmのふるいによる分級を行い、ふるいにかけた低品位炭の全質量とふるい下の質量から求めることができる。
【0018】
前記低品位炭は脱水処理してから使用する。脱水処理された低品位炭を用いることにより、得られる石炭成型体の水分含有量が小さくなり、燃焼時の発熱量がより向上する。前記脱水処理方法としては、油中で加熱処理する油中脱水法、不活性雰囲気中で加熱処理する方法等が挙げられ、水分除去率が高いという観点から油中脱水法がより好ましい。
【0019】
油中脱水法は、例えば、低品位炭を沸点150℃〜300℃の石油系軽質油と混合し、該混合物を100℃以上に加熱することにより低品位炭中の水を蒸発させて除去する。油中脱水後の低品位炭は、石油系軽質油中から取り出した後、熱風乾燥にかけて、低品位炭中に残存する石油系軽質油を除去する。この時、低品位炭中の石油系軽質油の含有量は10質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。
【0020】
本発明の石炭成型体は、脱水処理された低品位炭と前記非水溶性有機化合物とを混合し、得られた混合物を成型することで作製できる。脱水処理された低品位炭と非水溶性有機化合物との混合方法としては、乾式混合、湿式混合が挙げられる。これらの中でも、得られる石炭成型体の水分含有量を低減できることから乾式混合が好ましい。
【0021】
前記乾式混合は、公知のミキサー、ボールミル、ニーダー、V型混合機等の混合機を用いればよい。乾式混合の場合には、あらかじめ前記非水溶性有機化合物を粉砕し、体積平均粒子径を500μm以下に調整することが好ましく、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。なお、体積平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定できる。
【0022】
湿式混合は、非水溶性有機化合物のエマルジョン、又は、非水溶性有機化合物の水溶液(加温して溶解させたもの)を調整し、このエマルジョンや水溶液と低品位炭とを混合する。前記エマルジョン、水溶液における非水溶性有機物の濃度は10質量%〜80質量%とすることが好ましい。湿式混合を採用した場合、後述する成型を行う前に、湿式混合に用いた溶媒を除去することが好ましい。
【0023】
低品位炭と非水溶性有機化合物との混合物を成型する方法は特に限定されず、公知のダブルロールプレス等の加圧成型装置を用いればよい。加圧圧力は、98N/mm2(1000kgf/cm2)以上が好ましく、より好ましくは147N/mm2(1500kgf/cm2)以上、さらに好ましくは196N/mm2(2000kgf/cm2)以上であり、588N/mm2(6000kgf/cm2)以下が好ましく、より好ましくは490N/mm2(5000kgf/cm2)以下、さらに好ましくは392N/mm2(4000kgf/cm2)以下である。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0025】
低品位炭の調製
油中脱水された褐炭(水含有量35質量%、油中脱水に使用した油の残存量2質量%)であり、粒子径を1mm以下、且つ、粒子径0.5mm以下の粒子の含有量を80質量%以上のものを用意した。
【0026】
製造例1〜5、9〜12
上記のように粒度を調整した低品位炭に対して、表1に示す含有量となるように、非水溶性有機化合物を添加し、ポットミルを用いて混合し、混合物を得た。
得られた混合物を6.0g計量し、窒素気流乾燥機(窒素流入量5L/min)にて150℃、60分間保持して加熱した。加熱された混合物を乾燥機から取り出し、直ちに圧縮成形を行って、石炭成型体を作製した。圧縮成形は、内径20mmのシリンダー状金型と、該シリンダー状金型と略同一径の内筒金型を使用し、加圧圧力は196N/mm2(2000kgf/cm2)とした。また、圧縮成型後の石炭成型体はすみやかに脱型した。得られた石炭成型体の直径は20mm、高さは15〜18mmであった。
【0027】
製造例6、7
上記のように粒度を調整した低品位炭に対して、溶媒除去後の非水溶性有機化合物の含有量が表1に示す値となるように、エマルジョン又は水溶液を添加し、モーターに接続した攪拌翼を用いて混合し、混合物を得た。
得られた混合物を6.0g計量し、窒素気流乾燥機(窒素流入量5L/min)にて150℃、60分間保持して、溶媒を除去するとともに加熱した。加熱後の混合物を用いて製造例1と同様に圧縮成形を行い、石炭成型体を作製した。得られた石炭成型体の直径は20mm、高さは15〜18mmであった。
【0028】
製造例8
上記のように粒度を調整した低品位炭を用いて、製造例1と同様に圧縮成形を行い、石炭成型体を作製した。得られた石炭成型体の直径は20mm、高さは15〜18mmであった。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示した非水溶性有機化合物の物性は以下のとおりである。
高密度ポリエチレン(粘度平均分子量1万以上、溶解度1g/100g以下)
カルボキシル基変性ポリオレフィン(粘度平均分子量1万以上、溶解度1g/100g以下)
エポキシ樹脂エマルジョン(ジャパンエポキシレジン社製、「エピレッツ(登録商標) YL7162P」、高分子量フェノール変性エポキシ樹脂(粘度平均分子量1万以上、溶解度1g/100g以下)、濃度60質量%)
完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液(濃度20質量%、熱水で溶解させたもの)粘度平均分子量1万以上、溶解度1g/100g以下
ステアリン酸(和光純薬社製、分子量284)
酸化ワックス(三井ケミカル社製、「ハイワックス」、分子量2000)
ワックス(日本精蝋社製、「Luvax(登録商標)2191」、分子量700)
リグニンスルホン酸カルシウム(日本製紙ケミカル社製、「サンエキス(登録商標)P201」、水溶性)
【0031】
有機化合物の粘度平均分子量は、各材料をそれぞれが可溶な溶媒に溶解してポリマー希釈溶液を調製し、毛細管粘度計にてポリマー希釈溶液の固有粘度([η])を測定して、下記式から粘度平均分子量を求めた。式中、Mは粘度平均分子量、K、aは定数を表す。
[η]=KMa
【0032】
得られた石炭成型体について、初期強度、耐候性試験後の強度を以下の方法で測定し、結果を表2に示した。
<初期強度>
割裂引張試験により初期強度を求めた。具体的には、図1に示すように、石炭成型体1を倒して2枚の圧縮板2の間に挟み、万能材料試験機(インストロン社製、「4505型」)を用いて、1mm/minの速度で矢印の方向に圧縮していき、初期破壊の起こった荷重をもって最大荷重とした。最大荷重と石炭成型体のサイズから、式1によって引張強度(初期強度)を算出した。
【0033】
【数1】


[σ:引張強度(N/mm2)、P:最大荷重(N)、d:石炭成型体の直径(mm)、l:石炭成型体の長さ(mm)]
【0034】
<耐候性試験後の強度>
石炭成型体を、30℃100%RH環境に24hr放置し吸湿させた後、上記初期強度の測定と同様にして引張強度を測定した。
【0035】
初期強度と耐候性試験後の強度から、下記式より強度保持率を求めた。初期強度が0.78N/mm2(8kgf/cm2)以上、且つ、耐候性試験後の強度保持率が80%以上のものを「◎」、初期強度が0.78N/mm2(8kgf/cm2)以上、且つ、強度保持率が60%以上80%未満のものを「○」、初期強度が0.78N/mm2(8kgf/cm2)未満、又は、強度保持率が60%未満のものを「△」とした。
強度保持率(%)=100×耐候性試験後の強度/初期強度
【0036】
【表2】

【0037】
製造例1〜7は、結合剤として粘度平均分子量が1万以上の非水溶性有機化合物を添加した場合であるが、いずれも初期強度及び強度保持率に優れることがわかる。これらの中で製造例1〜3、或いは、製造例4、5を比較すると、添加量が多いほど初期強度に優れることがわかる。
製造例8は、結合剤を使用しない場合であるが、初期強度は優れるものの、強度保持率が非常に劣ることがわかる。製造例9〜11は、結合剤の分子量が1万未満の場合であるが、いずれも初期強度に劣る。製造例12は、結合剤が水溶性の場合であるが、初期強度は優れるものの、強度保持率が非常に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の石炭成型体は、低品位炭を使用した石炭成型体であって、成型直後の初期強度が十分高く、その後の輸送や保管中に加温、吸湿等の履歴を受けても強度低下の少ない石炭成型体を提供することを目的とする。
【符号の説明】
【0039】
1:石炭成型体、2:圧縮板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱水処理された低品位炭と、これを結合する粘度平均分子量が1万以上の非水溶性有機化合物とを含有し、
前記非水溶性有機化合物の含有量が、0.1質量%〜10質量%であることを特徴とする石炭成型体。
【請求項2】
前記低品位炭が、油中脱水処理されたものである請求項1に記載の石炭成型体。
【請求項3】
前記低品位炭の粒子径が、3mm以下である請求項1又は2に記載の石炭成型体。
【請求項4】
前記低品位炭が、渇炭、瀝青炭及び亜瀝青炭よりなる群から選択される1種以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の石炭成型体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−219139(P2012−219139A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84630(P2011−84630)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】