説明

石炭焚きボイラのNOx濃度評価方法

【課題】 多種の銘柄の石炭を使用する石炭焚きボイラであっても、ボイラ出口のNOx濃度を容易かつ正確に予測することができる石炭焚きボイラのNOx濃度評価方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、各種銘柄の原料炭の含有窒素量に基づく燃焼性指数,発熱量に基づく発熱量指数および灰分に基づく灰付着指数とから算出されるNOx指数が、石炭焚きボイラにおける各種銘柄の原料炭の実績NOx濃度とほぼ同じ傾向を示すようにNOx濃度評価式を組み、さらに各プラントにおけるボイラ特性を示すプラント指数により補正してボイラ出口のNOx濃度を予測するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ボイラ出口のNOx濃度を事前に推定する石炭焚きボイラのNOx濃度評価方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図3は、竪型ミルを用いた石炭焚きボイラの全体構成図である。この図において、10は竪型ミル、20は石炭焚きボイラ、25は蒸気タービンである。竪型ミル10は、給炭機11,粉砕機12,粗粒分離器13などからなり、粉砕機12は、回転テーブル14,圧下ローラ15などから構成され、給炭機11により原料炭1を回転テーブル14に供給し、回転テーブル14の回転により原料炭1を圧下ローラ15で粉砕し、下方から供給される一次空気2により粉砕され細粒化した石炭を粗粉分離器13に空気輸送し、粗粉分離器13により粗粒をミル内に戻し、微細化した微粉炭3を石炭焚きボイラ20に供給するようになっている。給炭機11による原料炭1の供給量は、搬送モータ11aの回転速度により調節される。また、一次空気2の供給量は、一次空気ラインに設けられた流量制御ダンパ16で調節され、空気流量検出器17により流量が検出される。なお、18は、空気ブロアである。
【0003】石炭焚きボイラ20は、複数の微粉炭バーナ21を有し、各微粉炭バーナ21にそれぞれ竪型ミル10がダクト22を介して連結されている。また、各石炭焚きボイラ20は蒸発ドラム23を有し、この蒸発ドラム23で分離された水蒸気を蒸気ライン24を介して蒸気タービン25に供給し、発電機26を駆動して発電するようになっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述したように、石炭焚きボイラでは、原料として供給される粒の荒い石炭を粉砕機によりミクロン単位の粒径の微粉として燃焼している。このボイラの原料炭には概ね1〜2%の窒素が含まれており、ボイラ内の空気にも窒素が含まれている。したがって、石炭焚きボイラの燃焼排ガスにはNOxが含有されることになる。このNOxは大気汚染物質であり、光化学スモッグを引き起こす要因の一つであるため、ばい煙発生設備の種類ごとに排出基準(環境規制値)が全国一律に定められて規制されている。
【0005】ところが、石炭の性状は、産地,炭層,出荷時期などにより異なっており、含有窒素量も異なっている。したがって、種々の銘柄の石炭を使用するボイラでは、ボイラ出口のNOx濃度を環境規制値以下にするために事前評価する必要がある。そこで、従来は、■石炭の含有窒素量、■石炭性状(発熱量)による燃焼速度、■石炭銘柄の実績NOx濃度、などにより、主に経験や実績を頼りに事前評価をしていた。しかし、この評価方法では、評価NOx濃度が実際のNOx濃度と一致しないことが多く、石炭の燃焼開始後にボイラ出口のNOx濃度が環境規制値を越えてしまい、しかもNOx低減設備の性能以上のNOx濃度に達してしまうこともあった。このように、ボイラ出口のNOx濃度は、石炭性状に起因する要素とボイラ内部での燃焼に支配される要素とが複雑に関与し、石炭性状のみによる事前評価では不十分であり、また困難でもあった。
【0006】本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、多種の銘柄の石炭を使用する石炭焚きボイラであっても、ボイラ出口のNOx濃度を容易かつ正確に予測することができる石炭焚きボイラのNOx濃度評価方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】従来の多くの石炭焚きボイラにおける運用実績から、ボイラ出口のNOx濃度は、原料炭の含有窒素量や発熱量だけでなく、その灰分に基づく灰付着指数によっても影響を受けていることがわかった。本発明はこの新規の知見に基づくものである。
【0008】すなわち、本発明によれば、各種銘柄の原料炭の含有窒素量に基づく燃焼性指数,発熱量に基づく発熱量指数および灰分に基づく灰付着指数とから算出されるNOx指数が、石炭焚きボイラにおける各種銘柄の原料炭の実績NOx濃度とほぼ同じ傾向を示すようにNOx濃度評価式を組み、さらに各プラントにおけるボイラ特性を示すプラント指数により補正してボイラ出口のNOx濃度を予測する、ことを特徴とする石炭焚きボイラのNOx濃度評価方法が提供される。
【0009】上述したように、ボイラ出口のNOx濃度が灰分に基づく灰付着指数によっても影響を受けているとの知見を得たことにより、従来のNOx濃度評価方法の要素である原料炭の含有窒素量に基づく燃焼性指数および発熱量に基づく発熱量指数に、灰分に基づく灰付着指数を加えてNOx濃度評価式を組むことが可能である。そこで、本発明は、■実績NOx濃度と石炭性状(燃焼性指数および発熱量指数)を把握記録し、■実績NOx濃度と灰付着指数を把握記録し、■これらの記録からNOx発生要因ごとの影響度を調査し、■これらの結果からNOx指数をNOx濃度評価式として数式化し、■この関係を実際のボイラでの数値により修正している。したがって、石炭やNOxに対する知識がなくてもボイラ出口のNOx濃度を予測することができ、石炭購入部署での購入石炭性状の範囲が明確となり、発電所運用部署で石炭性状からボイラ燃焼手法の検討が事前に可能となる。すなわち、本発明によれば、多種の銘柄の石炭を使用する石炭焚きボイラであっても、ボイラ出口のNOx濃度を容易かつ正確に把握することができる。
【0010】また、本発明の実施の形態によれば、上記NOx濃度評価式は、NOx指数=600×燃焼性指数+30/発熱量指数+20×灰付着指数/1.21で表されることが好ましく、さらに、上記燃焼性指数は含有窒素量×燃料比/揮発量で表され、上記発熱量指数は(発熱量+6870)2 +1で表され、上記灰付着指数は0.1×灰分×シリカ分/(アルミ分×2.29)で表されることが好ましい。
【0011】上述したNOx濃度評価式,燃焼性指数,発熱量指数および灰付着指数を使用すれば、これらから算出されるNOx指数が、現実に、石炭焚きボイラにおける各種銘柄の原料炭の実績NOx濃度と同じ傾向を示す。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好ましい実施の形態について図1および図2を参照して説明する。本発明の石炭焚きボイラのNOx濃度評価方法は、図3に示すような竪型ミルを用いた石炭焚きボイラにおいて、とくに多種の銘柄の石炭を使用する場合に、各銘柄に対応してボイラ出口のNOx濃度を予測し、環境規制値を満足するようにボイラの燃焼手法を事前に検討することができるようにしようとするものである。
【0013】上述したように、従来の多くの石炭焚きボイラにおける運用実績から、ボイラ出口のNOx濃度は、原料炭の含有窒素量や発熱量だけでなく、その灰分に基づく灰付着指数によっても影響を受けていることがわかった。そこで、発明者らは、実績NOx濃度と石炭性状である含有窒素量,発熱量および灰分を把握記録し、これらの記録からNOx発生要因ごとの影響度を調査し、これらを数式化することに成功した。すなわち、本発明は、各種銘柄の原料炭の含有窒素量に基づく燃焼性指数,発熱量に基づく発熱量指数および灰分に基づく灰付着指数とから算出されるNOx指数が、石炭焚きボイラにおける各種銘柄の原料炭の実績NOx濃度とほぼ同じ傾向を示すようにNOx濃度評価式を組み、さらに各プラントにおけるボイラ特性を示すプラント指数により補正してボイラ出口のNOx濃度を予測するようにしたものである。
【0014】ここで、燃焼性指数は含有窒素量×燃料比/揮発量で表され、発熱量指数は(発熱量+6870)2 +1で表され、灰付着指数は0.1×灰分×シリカ分/(アルミ分×2.29)で表される指数であり、NOx指数の算出だけでなく、火炉収熱指数や燃焼性指数の算出などにも使用されているものである。なお、シリカ分とは石炭中に含まれる酸化けい素(SiO2 )の含有量(%)であり、アルミ分とは石炭中に含まれる酸化アルミニウム(Al2 3 )の含有量(%)である。
【0015】そして、NOx濃度評価式は、NOx指数=600×燃焼性指数+30/発熱量指数+20×灰付着指数/1.21で表される。実際のプラントにおいてこの評価式を使用する場合には、各プラントにおけるボイラ特性を示すプラント指数により補正する。すなわち、NOx指数=600×燃焼性指数+30/発熱量指数+20×灰付着指数/1.21+プラント指数で表される。このプラント指数は各プラントに設けられたボイラの特性により定まる各プラントに特有の定数であり、どの銘柄の石炭を使用しても同じ値である。
【0016】次に、上述したNOx濃度評価式の妥当性について、図1および図2を参照して説明する。図1は、5種類の銘柄の石炭について、予測したNOx指数と実際のボイラ出口NOx濃度とを比較したものであり、図2はそのNOx指数とボイラ出口NOx濃度の関係をグラフ化したものである。このボイラ出口NOx濃度は、各銘柄ごとにユニット出力700MW(ミル運転台数5台)で運転したときのものである。この図において、NOx濃度評価式の元となる石炭性状(含有窒素量,発熱量および灰分)については、上述した式を用いて、それぞれ燃焼性指数,発熱量指数および灰付着指数として表している。なお、石炭銘柄のドレイトンおよびリスゴーはオーストラリア産,南屯は中国産,アーサーテーラおよびコールフォンテンは南アフリカ産である。
【0017】図1におけるNOx指数とボイラ出口NOx濃度とを比較すると、図2からよく分かるように、NOx指数の石炭銘柄に対する傾向は、ボイラ出口NOx濃度の傾向とほぼ同じ傾向を示している。なお、図2において、本発明のNOx濃度評価式により算出したNOx指数を破線で示し、実際のボイラ出口NOx濃度を実線で示している。さらに、ここではプラント指数を70としてNOx指数を補正した結果、ボイラ出口NOx濃度がNOx指数のほぼ±10ppm以内に納まるようにすることができた。すなわち、どの銘柄の原料炭を使用しても、ボイラ出口NOx濃度を±10〜20ppm以内の精度でNOx指数を算出することができ、事前評価の信頼度が格段に向上している。したがって、このNOx指数に基づいて事前評価を行えば、ボイラ出口NOx濃度がNOx低減設備の性能以上になることがなく、ボイラの円滑な運転を実現することができる。さらに、NOx指数の信頼度が高くなると、石炭やNOxに対する知識がなくてもボイラ出口のNOx濃度を予測することができ、石炭購入部署での購入石炭性状の範囲が明確となり、発電所運用部署で石炭性状からボイラ燃焼手法の検討が事前に可能となる。
【0018】なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【0019】
【発明の効果】上述した本発明の石炭焚きボイラのNOx濃度評価方法によれば、多種の銘柄の石炭を使用する石炭焚きボイラであっても、ボイラ出口のNOx濃度を容易かつ正確に把握することができる。また、NOx指数の信頼度が向上したことにより、ボイラ出口NOx濃度がNOx低減設備の性能以上になることがなく、経験の浅いオペレータなどでもボイラの安定した運転をすることができる、などの優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】5種類の銘柄の石炭について、予測したNOx指数と実際のボイラ出口NOx濃度とを比較したものである。
【図2】NOx指数とボイラ出口NOx濃度の関係をグラフ化したものである。
【図3】竪型ミルを用いた石炭焚きボイラの全体構成図である。
【符号の説明】
1 原料炭
2 一次空気
3 微粉炭
10 竪型ミル
11 給炭機
12 粉砕機
13 粗粒分離器
14 回転テーブル
15 圧下ローラ
16 流量制御ダンパ
17 空気流量検出器
18 空気ブロア
20 石炭焚きボイラ
21 微粉炭バーナ
22 ダクト
23 蒸気ドラム
24 蒸気ライン
25 蒸気タービン
26 発電機

【特許請求の範囲】
【請求項1】 各種銘柄の原料炭の含有窒素量に基づく燃焼性指数,発熱量に基づく発熱量指数および灰分に基づく灰付着指数とから算出されるNOx指数が、石炭焚きボイラにおける各種銘柄の原料炭の実績NOx濃度とほぼ同じ傾向を示すようにNOx濃度評価式を組み、さらに各プラントにおけるボイラ特性を示すプラント指数により補正してボイラ出口のNOx濃度を予測する、ことを特徴とする石炭焚きボイラのNOx濃度評価方法。
【請求項2】 上記NOx濃度評価式は、NOx指数=600×燃焼性指数+30/発熱量指数+20×灰付着指数/1.21で表される、請求項1に記載の石炭焚きボイラのNOx濃度評価方法。
【請求項3】 上記燃焼性指数は含有窒素量×燃料比/揮発量で表され、上記発熱量指数は(発熱量+6870)2 +1で表され、上記灰付着指数は0.1×灰分×シリカ分/(アルミ分×2.29)で表される、請求項1または請求項2に記載の石炭焚きボイラのNOx濃度評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平10−54547
【公開日】平成10年(1998)2月24日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−210695
【出願日】平成8年(1996)8月9日
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)