石炭燃焼方法及び石炭燃焼システム
【課題】石炭粉末を燃料として用いて燃焼を行う燃焼装置での燃焼性を向上させることを可能とする。
【解決手段】石炭を粉砕して石炭粉末を得る石炭粉砕装置2と、石炭粉末を用いて燃焼を行う燃焼装置としての微粉炭バーナ3と、石炭粉砕装置2で得られた石炭粉末を微粉炭バーナ3に供給する石炭粉末供給手段4と、石炭粉砕装置2に酢液を供給する酢液供給手段8とを有するようにした。
【解決手段】石炭を粉砕して石炭粉末を得る石炭粉砕装置2と、石炭粉末を用いて燃焼を行う燃焼装置としての微粉炭バーナ3と、石炭粉砕装置2で得られた石炭粉末を微粉炭バーナ3に供給する石炭粉末供給手段4と、石炭粉砕装置2に酢液を供給する酢液供給手段8とを有するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭燃焼方法及び石炭燃焼システムに関する。さらに詳述すると、本発明は、例えば微粉炭ボイラに設けられた微粉炭バーナでの燃焼に適用して好適な石炭燃焼方法及び石炭燃焼システムに関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素排出量の削減と循環型社会の構築とに向けてバイオマス有効利用の促進が重要になっている。現在、電気事業では商用運転している発電用石炭ボイラでの木質バイオマス混焼が始まっており、これは効率面でのメリットが高い利活用法の一つである。しかし、木質バイオマスの調達や微細粉砕の可能性・容易性の理由から混焼率は重量ベースで3%程度に留まり、混焼率の拡大が課題である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−180476号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の混焼技術では、石炭とバイオマスとを単純に混合したものを炉内へ投入したり、或いは、個別のバーナでそれぞれを炉内へ供給したりしているに過ぎず、混焼により石炭とバイオマスの良好な相互作用を発揮しているとは言い難い。
【0005】
そこで、本発明は、石炭粉末を燃料として用いて燃焼を行う燃焼装置、具体的には例えば微粉炭ボイラに設けられた微粉炭バーナでの燃焼性を向上させることができる石炭燃焼方法及び石炭燃焼システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため、本願発明者らは鋭意検討を行い、石炭を粉砕した石炭粉末と酢液とを混合して燃焼させることによって、石炭粉末単独で燃焼させた場合と比較して石炭粉末の燃焼性を向上させることができることを知見した。
【0007】
請求項1記載の石炭燃焼方法は、前記の発明者独自の新たな知見に基づくものであり、石炭粉末と酢液とを混合して燃焼装置に供給するようにしている。
【0008】
また、請求項7記載の石炭燃焼システムは、石炭を粉砕して石炭粉末を得る石炭粉砕装置と、石炭粉末を用いて燃焼を行う燃焼装置と、石炭粉砕装置で得られた石炭粉末を燃焼装置に供給する石炭粉末供給手段と、石炭粉砕装置に、又は、石炭粉砕装置に供給される前の石炭に、酢液を供給する酢液供給手段とを有するようにしている。
【0009】
したがって、これらの石炭燃焼方法及び石炭燃焼システムによると、石炭粉末と酢液とを混合するようにしているので、石炭粉末のみ(即ち、酢液を混合していない石炭粉末)を燃焼装置に供給して燃焼させた場合よりも石炭粉末の燃焼性が向上する。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の石炭燃焼方法において、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末を更に混合するようにしている。
【0011】
また、請求項8記載の発明は、請求項7記載の石炭燃焼システムにおいて、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を石炭粉砕装置に供給するバイオマス炭化物供給手段、若しくは、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末を燃焼装置に供給するバイオマス炭化物粉末供給手段を更に有するようにしている。
【0012】
これらの場合には、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を利用するようにしているので、植物由来のバイオマスを有効利用して二酸化炭素排出量の削減が図られる。なお、植物由来のバイオマス原料は繊維質であることからそのまま粉砕しても十分に粉砕することができない虞があるところ、バイオマス原料を炭化処理してバイオマス炭化物とすることによってその繊維質を破壊して粉砕性が向上する。
【0013】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の石炭燃焼方法において、酢液が植物由来のバイオマス原料を炭化処理した際に得られたものであるようにしている。
【0014】
また、請求項9記載の発明は、請求項8記載の石炭燃焼システムにおいて、酢液が植物由来のバイオマス原料を炭化処理した際に得られたものであるようにしている。
【0015】
これらの場合には、バイオマス炭化物粉末として燃焼装置に供給するための植物由来のバイオマス原料を炭化処理した際に得られた酢液を利用するようにしているので、燃焼装置に供給するためのバイオマス炭化物を生成するバイオマス原料と酢液を得るためのバイオマス原料とを同一のものにすることができ、石炭の燃焼性向上においてバイオマス原料を無駄なく有効利用して二酸化炭素排出量の削減が図られると共に、石炭燃焼の系として自立性及び効率性の向上が図られる。
【0016】
また、請求項4記載の発明は、請求項1記載の石炭燃焼方法において、燃焼触媒を含有する添加物を更に混合するようにしている。そして、請求項5記載の発明は、請求項4記載の石炭燃焼方法において、燃焼触媒を含有する添加物が炭酸カルシウムであるようにしている。また、請求項6記載の発明は、請求項4記載の石炭燃焼方法において、燃焼触媒を含有する添加物がフライアッシュであるようにしている。
【0017】
また、請求項10記載の発明は、請求項7記載の石炭燃焼システムにおいて、石炭粉砕装置に、又は、石炭粉砕装置に供給される前の石炭に、燃焼触媒を含有する添加物を供給する燃焼触媒供給手段を更に有するようにしている。そして、請求項11記載の発明は、請求項10記載の石炭燃焼システムにおいて、燃焼触媒を含有する添加物が炭酸カルシウムであるようにしている。また、請求項12記載の発明は、請求項10記載の石炭燃焼システムにおいて、燃焼触媒を含有する添加物がフライアッシュであるようにしている。
【0018】
これらの場合には、燃焼触媒、例えばカルシウム成分が石炭粉末やバイオマス炭化物粉末の表面に均一に分散担持されて燃焼触媒として働くので、石炭粉末の燃焼性が更に向上する。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の石炭燃焼方法及び請求項7記載の石炭燃焼システムによれば、石炭粉末のみを燃焼装置に供給して燃焼させた場合よりも石炭粉末の燃焼性を向上させることができるので、燃焼装置・燃焼システムの性能及び効率性の向上を図ることが可能になる。しかも、石炭粉末の燃焼性が向上することにより、石炭の燃焼灰の灰中未燃分を減少させることができるので、フライアッシュの品質の向上が可能になる。さらに、燃焼におけるNOxの生成を抑えるためには燃焼場に投入する空気量を減らすことが効果的である一方で空気量を減らすと石炭の燃焼灰の灰中未燃分が増加してしまうところ、石炭粉末の燃焼性が向上すればその分空気量を減らすことができるので、NOxの生成を抑えることが可能になる。
【0020】
請求項2記載の石炭燃焼方法及び請求項8記載の石炭燃焼システムによれば、植物由来のバイオマスを有効利用して二酸化炭素排出量の削減を図ることが可能になる。
【0021】
請求項3記載の石炭燃焼方法及び請求項9記載の石炭燃焼システムによれば、燃焼装置に供給するためのバイオマス炭化物を生成するバイオマス原料と酢液を得るためのバイオマス原料とを同一のものにすることができ、石炭の燃焼性向上においてバイオマス原料を無駄なく有効利用して二酸化炭素排出量の削減が図ることが可能になると共に、石炭燃焼の系として自立性及び効率性の向上が図ることが可能になる。
【0022】
請求項4,請求項5,請求項6記載の石炭燃焼方法及び請求項10,請求項11,請求項12記載の石炭燃焼システムによれば、石炭粉末の燃焼性を更に向上させることができるので、燃焼装置・燃焼システムの性能及び効率性の更なる向上を図ることが可能になる。しかも、フライアッシュの品質の更なる向上が可能になる。さらに、NOxの生成を更に抑えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の石炭燃焼方法を実現する石炭燃焼システムの実施形態の一例を示す構成図である。
【図2】本発明の石炭燃焼方法を実現する石炭燃焼システムの実施形態の他の一例(本発明に必須の構成)を示す構成図である。
【図3】本発明の石炭燃焼方法を実現する石炭燃焼システムの実施形態の更に他の一例を示す構成図である。
【図4】本発明の石炭燃焼方法を実現する石炭燃焼システムの実施形態の更に他の一例を示す構成図である。
【図5】実施例における空気比と燃焼率との間の関係を表す図である(酢液の混合量別,他の添加物なし)。
【図6】実施例における空気比と燃焼灰の灰中未燃分との間の関係を表す図である(酢液の混合量別,他の添加物なし)。
【図7】実施例における空気比と燃焼率との間の関係を表す図である(酢液の混合有無別,炭酸カルシウムの添加有無別)。
【図8】実施例における空気比と燃焼灰の灰中未燃分との間の関係を表す図である(酢液の混合有無別,炭酸カルシウムの添加有無別)。
【図9】実施例における空気比と燃焼率との間の関係を表す図である(酢液の混合有無別,専焼灰・混焼灰の添加有無別)。
【図10】実施例における空気比と燃焼灰の灰中未燃分との間の関係を表す図である(酢液の混合有無別,専焼灰・混焼灰の添加有無別)。
【図11】実施例の各試料の燃焼率(空気比約1.1)に関する結果の整理を表す図である。
【図12】実施例の各試料の未燃分(空気比約1.1)に関する結果の整理を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0025】
図1に、本発明の石炭燃焼方法及び石炭燃焼システムの実施形態の一例を示す。この石炭燃焼方法は、石炭粉末と酢液とを混合して燃焼装置3に供給するようにしている。
【0026】
また、本実施形態では、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末を更に混合するようにしていると共に、前記酢液が前記植物由来のバイオマス原料を炭化処理した際に得られたものであるようにしている。
【0027】
本発明において使用する石炭としては、石炭粉末を燃料とする燃焼装置、具体的には例えば微粉炭ボイラに設けられた微粉炭バーナでの燃焼に供される一般的な石炭、例えば瀝青炭や亜瀝青炭等を用いることができる。
【0028】
石炭粉末の粒径・粒度は、微粉炭バーナ等の燃焼装置の仕様などに応じて適宜調整され、粗粉炭や微粉炭と呼ばれる規格の程度に調整される。既存の微粉炭バーナの燃料として用いる微粉炭であれば、具体的には例えば75〔μm〕通過割合が90%程度の粒度に調整される。
【0029】
本発明において使用するバイオマス炭化物としては、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したものが用いられる。植物由来のバイオマス原料を炭化処理することによってバイオマスの繊維質が破壊される。その結果、バイオマス炭化物は植物由来のバイオマス原料と比較して粉砕性が極めて良好なものになる。
【0030】
なお、本発明において使用するバイオマス炭化物の原料としての植物由来のバイオマス原料としては、灰成分として燃焼触媒元素であるカルシウムを含むもの、例えば木質系(具体的には例えばチップ、ペレット等)、草本系(具体的には例えば竹、籾殻、サトウキビ、稲わら等)などが挙げられる。
【0031】
バイオマス炭化物粉末の粒径・粒度は、微粉炭バーナ等の燃焼装置で燃焼させた際に燃焼灰の灰中未燃分が生じ難い程度、即ち、石炭粉末と同程度の粒径・粒度とすることが好適である。なお、このような粒径・粒度のバイオマス炭化物粉末は、植物由来のバイオマス原料を炭化処理していることもあり、微粉炭バーナでの燃焼の分野において一般的に用いられているミルなどの石炭粉砕装置を用いて粉砕を行うことで得られる。ただし、微粉炭バーナでの燃焼の分野において一般的に用いられているミルなどの石炭粉砕装置以外を用いて粉砕を行うようにしても良い。
【0032】
本発明における石炭粉末とバイオマス炭化物粉末との混合割合は、特定の割合に限定されるものではない。本発明では、植物由来のバイオマス原料を炭化処理して炭化物とすることによってその粉砕性を高めていることから微粉砕が容易であり、このため、石炭に対するバイオマス原料の混合割合を高めても燃焼灰の灰中未燃分が発生し難く、バイオマス原料の混合割合を高め易い点にも特徴がある。つまり、バイオマス原料を炭化物の形態で用いることによって石炭に対するバイオマスの混合割合を増加させ易くすることができ、バイオマスの利用拡大を図ることができる。したがって、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末との混合割合については、植物由来のバイオマス原料と石炭との供給バランスに応じて適宜変更・調整することができる。
【0033】
本発明において使用する酢液は、粗酢液でも良いし、粗酢液を一定期間静置した後の上層の軽質油及び下層の沈降タールを除いた中層の酢液(静置による精製酢液)でも良いし、粗酢液を蒸留して得られる酢液(蒸留による精製酢液)でも良いし、粗酢液をろ過して得られる酢液(ろ過による精製酢液)でも良い。これらのうち精製酢液は、タールよりも軽質な有機酸の水溶液であり、主成分である酢酸(具体的には、数%)と数多くの有機物とを含む酸性水溶液(具体的には、pH3程度)である。
【0034】
粗酢液は、植物性のバイオマス原料を炭化処理する際にも発生し、具体的には植物性のバイオマス原料を炭化処理する際に発生する揮発分を冷却することによって回収される。植物性のバイオマス原料を炭化処理する際の粗酢液の生成方法自体は周知の技術であるので(例えば、特開2008−179802号公報に「酸性のバイオマス水溶性液」としてその回収方法が記載されている)ここでは詳細については省略するが、要は、木質系バイオマス原料、草本系バイオマス原料及び植物由来の食品残渣のうちの少なくともいずれかを炭化処理する際に発生する揮発分を冷却して回収することができるものである。なお、木炭やバイオオイルの製造プロセスにおいて回収される酢液類の水溶性副生成物も本発明における酢液として用いることができる。
【0035】
そして、石炭を粉砕した石炭粉末(本実施形態では更にバイオマス炭化物粉末)に酢液を混合することによって、石炭の灰成分であるカルシウム、更にはバイオマス炭化物の灰成分であるカルシウムが酢液に溶け込み、これらが石炭粉末及びバイオマス炭化物粉末の表面に均一に分散担持されて燃焼触媒活性を呈するようになる。その結果、石炭粉末単独で燃焼(即ち専焼)させた場合よりも燃焼性を向上させることが可能になり、また、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末とを混合して燃焼(即ち混焼)させた場合よりも燃焼性を向上させることが可能になる。しかも、植物由来のバイオマス原料を炭化処理して得られるバイオマス炭化物に加えて植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液を用いるようにすることによってバイオマス原料の更なる利用拡大を図ることができ、燃焼性の向上と二酸化炭素排出量の削減とを図ることを容易に両立させることができる。
【0036】
なお、植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に回収される粗酢液は通常はpH2〜3程度の水溶性液体であるところ、同程度の酸性を呈しさえすれば石炭の灰成分やバイオマス炭化物の灰成分を溶け込ませる効果は発揮される。このため、数倍から十倍の範囲で粗酢液を水で適宜薄めて使用するようにしても良い。
【0037】
なお、酢液の混合量は、特定の量(例えば石炭粉末に対する比率)に限定されるものではなく、石炭粉末の燃焼性の向上(燃焼率の向上,燃焼灰の灰中未燃分の低減)の程度も考慮しながら適宜調整し得る。具体的には、石炭1に対して酢液0.1程度(重量比)或いはそれ以上の量を混合することが考えられる。
【0038】
また、本発明においては、燃焼触媒としての添加物を更に混合するようにしても良い。この燃焼触媒としての添加物としては、例えばカルシウムを含有する物が好適であり、具体的には例えば炭酸カルシウムやフライアッシュなどが挙げられる。ただし、本発明における燃焼触媒はカルシウム(若しくはカルシウムを含有する物)に限られるものではなく、本発明における燃焼装置での燃焼における燃焼触媒として機能するもの(燃焼触媒として機能するものを含有する物)であれば何れでも良い(具体的には例えば、ナトリウムやカリウムなど)。なお、フライアッシュは、燃焼装置から排出・回収されたフライアッシュをリサイクルするようにしても良いし、外部調達したフライアッシュを用いるようにしても良い。
【0039】
なお、カルシウムやその他の燃焼触媒の添加量の上限は各燃焼装置の仕様や運用基準に従って決定される。言い換えると、カルシウムやその他の燃焼触媒の添加量は、特定の量(例えば石炭粉末に対する比率)に限定されるものではなく、各燃焼装置の仕様や運用基準に従って決定される上限の範囲内で適宜調整し得る。
【0040】
また、本発明においては、石炭粉末と酢液、更にバイオマス炭化物粉末や燃焼触媒の粉砕や投入・混合は同時に行うようにしても良いし、タイミングをずらして順に行うようにしても良い。
【0041】
上述の本発明の石炭燃焼方法は本発明の石炭燃焼システムによって実現される。本発明の石炭燃焼方法を実現するための本発明の石炭燃焼システムの実施形態の一例を図1に示す。なお、本実施形態では、石炭粉末を用いて燃焼を行う燃焼装置として微粉炭ボイラ10に設けられた微粉炭バーナ3を例として挙げて説明する。
【0042】
この石炭燃焼システムは、石炭を粉砕して石炭粉末を得る石炭粉砕装置2と、石炭粉末を用いて燃焼を行う燃焼装置としての微粉炭バーナ3と、石炭粉砕装置2で得られた石炭粉末を微粉炭バーナ3に供給する石炭粉末供給手段4と、石炭粉砕装置2に酢液を供給する酢液供給手段8とを備える。
【0043】
また、本実施形態の石炭燃焼システムは、植物由来のバイオマス原料を炭化処理する炭化処理装置5と、炭化処理装置5で生成されたバイオマス炭化物を石炭粉砕装置2に供給するバイオマス炭化物供給手段7と、炭化処理装置5で発生する揮発分を冷却してバイオマス原料由来の粗酢液を回収する粗酢液回収手段6とを更に備えるようにしている。そして、本実施形態の石炭燃焼システムでは、粗酢液回収手段6によって回収された粗酢液を酢液供給手段8が石炭粉砕装置2に供給するようにしている。
【0044】
なお、本実施形態では、炭化処理装置5で発生する揮発分から粗酢液と他の成分(例えばバイオオイルや軽質ガス)とを分離する手段として気液分離装置20を設けるようにしている。気液分離装置20には、粗酢液回収手段6と他の成分を回収する手段11とが備えられている。なお、バイオオイルや軽質ガスも燃焼装置3における燃料として使うことができる。
【0045】
微細に粉砕されて微粉炭バーナ3に燃料として供給される石炭は石炭バンカ1に貯蔵され、石炭供給手段9によって石炭粉砕装置2に供給される。石炭供給手段9は例えばベルトコンベアである。
【0046】
石炭粉砕装置2としては、微粉炭バーナに供される一般的な石炭(例えば瀝青炭や亜瀝青炭等)を粉砕して微粉炭バーナの方式に応じた石炭粉末を得ることができる、既存の微粉炭バーナと共に設けられて通常用いられている石炭粉砕装置、例えばミルなどを用いることができる。
【0047】
微粉炭バーナ3としては、例えば、石炭を粉砕した石炭粉末(微粉炭)と一次空気との予混合流体をノズルによって炉内に噴出すると共に当該噴出部の周囲から二次空気を吹き込んで燃焼を行う既存の微粉炭ボイラにおいて通常用いられる微粉炭バーナが用いられる。ただし、本発明における燃焼装置としての微粉炭バーナの燃焼方式は上述のものには限られないし、そもそも、本発明における燃焼装置は石炭粉末を用いて燃焼を行うものであれば微粉炭ボイラの微粉炭バーナに限られるものではない。
【0048】
石炭粉末供給手段4としては、石炭粉砕装置2で得られた石炭粉末を微粉炭バーナ3に供給する、既存の微粉炭バーナと共に設けられて通常用いられている石炭粉末供給手段、例えば気流搬送装置を用いることができる。
【0049】
炭化処理装置5は、植物由来のバイオマス原料からバイオマス炭化物を生成できる装置であれば特定の装置に限定されるものではない。例えば、バイオマス原料を実質的に酸素を含まない条件下、好適には無酸素条件下で、300℃以上、好適には300℃〜500℃、より好適には400℃程度で熱処理することができる一般的な乾燥装置やカーボナイザーなどを使用することができる。ここで、炭化処理の熱源として石炭燃焼システム内の排熱、例えば微粉炭バーナ3や微粉炭ボイラ10において発生する排熱などを利用するようにしても良い。システム排熱を利用することにより、燃焼効率を更に向上させることができる。
【0050】
炭化処理装置5で生成されたバイオマス炭化物は、バイオマス炭化物供給手段7によって石炭粉砕装置2に供給される。バイオマス炭化物供給手段7は具体的には例えばベルトコンベアである。
【0051】
粗酢液回収手段6では、炭化処理装置5から発生する揮発分を冷却して粗酢液を回収する。ここで、炭化処理装置5から発生する揮発分には、冷却しても凝縮しない軽質ガスが含まれている。また、軽質ガスと共にバイオオイルが排出される。本実施形態では、気液分離装置20は、粗酢液回収手段6に加えて軽質ガスやバイオオイルを回収する手段11を備えるようにしている。なお、炭化処理装置5から発生する揮発分から粗酢液と軽質ガスとバイオオイルとを分離して回収する気液分離装置20の構成自体は周知の技術であるのでここでは詳細については省略する(例えば、特開2010−222517号公報参照)。
【0052】
粗酢液回収手段6で回収された粗酢液は、酢液供給手段8によって石炭粉砕装置2に供給される。酢液供給手段8は具体的には例えば送液ポンプである。
【0053】
以上の構成により、石炭粉砕装置2では、石炭と、バイオマス炭化物供給手段7によって供給されるバイオマス炭化物とが粉砕されながら混合されると共に、酢液供給手段8によって供給される粗酢液とがこれらに混合される。この混合の過程で、石炭の灰成分であるカルシウムと、バイオマス炭化物の灰成分であるカルシウムとが、粗酢液に溶け込む。
【0054】
また、本実施形態では、燃焼触媒としての添加物を収容・貯蔵する燃焼触媒ストッカ13と、前記添加物を燃焼触媒ストッカ13から石炭粉砕装置2に供給する燃焼触媒供給手段14とを更に備えるようにしている。このため、本実施形態では、石炭粉砕装置2に燃焼触媒としての添加物が更に供給され、燃焼触媒成分が粗酢液に溶け込むと共に石炭粉末及びバイオマス炭化物粉末の表面に分散担持され、燃焼性が更に向上する。本発明における燃焼触媒としての添加物としては、カルシウムを含有する物が好適であり、具体的には例えば炭酸カルシウムやフライアッシュが用いられる。
【0055】
なお、粗酢液回収手段6で回収された粗酢液を水で希釈するために、水供給手段(図示していない)を更に備えるようにしても良い。回収された粗酢液の量が少なく、石炭粉末及びバイオマス炭化物粉末の濡れ性が十分に確保できない場合には、粗酢液を回収した容器(例えば粗酢液回収手段6)、酢液供給手段8、或いは石炭粉砕装置2に水供給手段によって水を適宜供給することにより、濡れ性を確保し、石炭粉末及びバイオマス炭化物粉末の表面への燃焼触媒成分の分散担持状態を良好なものとするようにしても良い。
【0056】
以上のように構成された本発明の石炭燃焼方法及び石炭燃焼システムによれば、石炭粉末と酢液とを混合するようにしているので、石炭粉末のみ(即ち、酢液を混合していない石炭粉末)を燃焼装置に供給して燃焼させた場合よりも石炭粉末の燃焼性を向上させることができる。
【0057】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態ではバイオマス炭化物粉末を石炭粉末(微粉炭)と混合燃焼させるために炭化処理装置5及びバイオマス炭化物供給手段7を有するようにしているが、本発明において、バイオマス炭化物粉末を石炭粉末に混合させることは必須ではなく、したがって、炭化処理装置5及びバイオマス炭化物供給手段7を備えることは必須ではない。また、上述の実施形態では燃焼触媒としての添加物(即ち、炭酸カルシウムやフライアッシュなど)を石炭粉末と混合させるために燃焼触媒ストッカ13及び燃焼触媒供給手段14を有するようにしているが、本発明において、燃焼触媒としての添加物を石炭粉末に混合させることは必須ではなく、したがって、燃焼触媒ストッカ13及び燃焼触媒供給手段14を備えることは必須ではない。すなわち、本発明においては石炭粉末に酢液を混合させることが必須であり(図2(A))、上述の実施形態における石炭への酢液の混合以外の構成は本発明にとって必須ではない。なお、炭化処理装置5を備えない場合には、上述の実施形態のように粗酢液回収手段6によって粗酢液を回収することがないので、石炭燃焼システムの系外から調達した酢液を供給するようにする。なお、フライアッシュは石炭燃焼システムの系外から調達しても良いし、系内の微粉炭ボイラ10から排出されるものをリサイクルしても良い。
【0058】
また、バイオマス炭化物粉末を石炭粉末(微粉炭)と混合燃焼させる場合でも、石炭燃焼システム系内に炭化処理装置5を備えることなく、石炭燃焼システムの系外から調達したバイオマス炭化物を供給するようにしても良い。なお、この場合には、上述の実施形態のように粗酢液回収手段6によって粗酢液を回収することがないので、石炭燃焼システムの系外から調達した酢液を供給するようにする。
【0059】
また、上述の実施形態では粗酢液とバイオマス炭化物と燃焼触媒(即ち、炭酸カルシウムやフライアッシュなど)とを石炭粉砕装置2に供給してこれらと石炭とを混合すると共に微粉砕するようにしているが、石炭粉末が燃焼装置3に供給される前に混合されるのであれば、本発明における石炭と酢液等との混合の仕方は上述の実施形態の方式に限られるものではない。具体的には例えば、図2(B)及び図3に示すように、石炭供給手段9に対して、酢液供給手段8によって酢液を、バイオマス炭化物供給手段7によってバイオマス炭化物粉末を、燃焼触媒供給手段14によって燃焼触媒を供給してこれらと石炭とを混合するようにしても良い。また、図4に示すように、石炭供給手段9に対して、酢液供給手段8によって酢液を、燃焼触媒供給手段14によって燃焼触媒を供給すると共に、バイオマス炭化物については、石炭の粉砕とは独立してバイオマス粉砕装置2'によって微粉砕して燃焼装置3に供給するようにしても良い。この場合、バイオマス粉砕装置2'としては石炭粉砕装置2と同様のものを用いることができ、具体的には例えばミルなどが用いられる。この場合には、また、炭化処理装置5とバイオマス粉砕装置2'との間にはバイオマス炭化物供給手段7Aが設けられ、バイオマス粉砕装置2'と燃焼装置3との間にはバイオマス炭化物粉末供給手段7Bが設けられる。なお、バイオマス炭化物供給手段7Aとしてはバイオマス炭化物供給手段7と同様に具体的には例えばベルトコンベアが用いられ、バイオマス炭化物粉末供給手段7Bとしては石炭粉末供給手段4と同様に具体的には例えば気流搬送装置などが用いられる。
【実施例1】
【0060】
本発明の石炭燃焼方法による燃焼性の向上を検証するための実施例を図5から図12を用いて説明する。
【0061】
(1)燃焼材,酢液
石炭としては、国内の微粉炭火力(具体的には微粉炭ボイラ)でよく用いられている豪州産瀝青炭を用いた。この豪州産瀝青炭は、燃料比が高く、灰融点が高い(具体的には1500〔℃〕以上)という特徴がある。なお、以下においては、酢液や添加物を混合しない豪州産瀝青炭のことを未処理炭と表記する。
【0062】
バイオマスとしては、国内産の赤松ペレットを用いた。
【0063】
酢液としては、市販の精製酢液、および、スクリュー式連続炭化機を用いて赤松ペレットの炭化処理を行って回収した粗酢液を用いた。粗酢液の製造において、具体的には、400〔℃〕で炭化処理を行い、生成ガスのうち常温で凝縮した成分を気液分離器で回収し、数日間静置した後の上澄み液を粗酢液として用いた。なお、粗酢液は、常温で不揮発の成分が32〔%〕となっており、タール成分(バイオオイル)が混入していた。
【0064】
上記炭化処理によって得られた粗酢液は、更に詳細には、pHが1.9の強酸性水溶液で、GC−MSとGC−FIDによる定量・定性分析結果から酢酸3.4〔wt%〕,アセトール3.2〔wt%〕,グリコールアルデヒド2.4〔wt%〕,メタノール1.1〔wt%〕のほか多数の有機成分を含むことが分かった。また、カールフィッシャー法で測定した水分は51〔%〕であった。
【0065】
(2)酢液の混合処理
石炭は微粉砕し、107〔℃〕で乾燥してから酢液の混合処理を行った。微粉炭の平均粒径は26〔μm〕であった。炭化処理で得られた粗酢液を用いた酢液の混合処理として、微粉炭と粗酢液とを混合した。具体的には、乾燥処理をした微粉炭に粗酢液を所定の比率で添加しよく混ぜ合わせて数時間から一晩静置した後に、107〔℃〕で熱風乾燥して酢液添加炭を調製した。なお、実験上、安定した結果を得るために混合後に静置したが、静置しなくても同様の効果が得られることを確認しているので、実プロセスでは静置は必ずしも必要ではない。
【0066】
(3)酢液及び添加物の混合処理
燃焼性向上のための燃焼触媒としての添加物の検証のため、酢液に加えてのカルシウムを含有する添加物の混合処理を行った。本実施例では、具体的には、粉炭の燃焼においてフラックスとして用いられる石灰石の主成分である炭酸カルシウムを添加物として用いた。さらに、実際の場合の容易且つ安価に入手可能なカルシウム供給源としてフライアッシュを想定し、フライアッシュを添加して酢液の混合処理を行った。具体的には、乾燥微粉炭に所定の割合で添加物(炭酸カルシウム又はフライアッシュ)と酢液とを添加しよく混ぜ合わせて数時間から一晩静置した後に、107〔℃〕で熱風乾燥して酢液・添加物処理炭を調製した。
【0067】
本実施例では、フラックスに対応する炭酸カルシウムとして、市販の粉状の炭酸カルシウム試薬(特級,純度95%)を用いた。
【0068】
また、添加物のフライアッシュとして、石炭燃焼試験炉によって、豪州産瀝青炭に杉ペレットをカロリーベースで10〔%〕混合して燃焼を行って回収されたバイオマス混焼灰と、杉ペレットのみによって燃焼を行って回収されたバイオマス専焼灰とを用いた。なお、上記石炭燃焼試験炉は100〔kg/h〕の単一バーナを備えた円筒型試験炉で、実機ボイラよりも滞留時間が短いために燃焼灰中の未燃分が多い傾向があり、フライアッシュ試料の燃焼灰の灰中未燃分は18〔%〕であった。
【0069】
(4)燃焼実験の装置と方法
高温のボイラ実機の反応場に近い電気加熱式落下型管状反応炉である常圧DTF(Drop Tube Furnace の略)設備を用いて高温での石炭の燃焼実験を行った。本実施例で用いた常圧DTF設備は、縦型管状電気炉を備えた外部加熱型反応装置であり、炉頂のスクリューフィーダーから気流搬送で粉体燃料を炉内へ投入するために燃料は急速加熱され、気流ボイラに近い反応場を作り出すことができるものである。そして、常圧DTF設備による燃焼実験では、所定の温度(=1400℃)に昇温した炉内へ乾燥空気を供給し、所定の空気比(即ち、理論燃焼空気量に対する投入空気の割合)となる流量の石炭を投入した。
【0070】
(5)実験結果
上述の条件のもと、例えば微粉炭ボイラの微粉炭バーナでの燃焼を想定し、常圧DTFを用いて空気による燃焼実験を実施した。
【0071】
なお、微粉炭ボイラ全体の空気比は通常1.2程度であるが、NOx低減のために二段燃焼技術が採用されている場合が多い。二段燃焼の場合には、バーナ近傍の還元燃焼領域では空気比は0.8程度であり、バーナから離れた位置で二段燃焼空気を追加するようにしている。このことから、バーナでの燃焼に用いる燃料としては、空気比0.8程度の還元雰囲気における燃焼性と、空気比1以上の酸化雰囲気における燃焼性とが性能評価として重要であると言える。
【0072】
温度1400〔℃〕で静定させた常圧DTF炉内へ、空塔線速度200〔mm/s〕で空気を供給し、未処理炭及び各種酢液処理炭などを投入した。各試料の投入量は、所定の空気比となる量とした。空気比は、理論燃焼空気量(例えば、未処理炭は8.97kg-air/kg-coal)に対する投入空気量の比であり、微粉炭バーナでの二段燃焼技術の場合のバーナ近傍の還元雰囲気に対応する0.8程度及び酸化雰囲気に対応する1.2程度を目標に条件設定した(例えば、未処理炭の投入量は順に28,42,83〔g/h〕)。サンプリング位置は滞留時間4秒に相当する位置で固定条件とし、燃焼条件におけるサンプリング灰の燃焼率及び灰中未燃分を整理した。
【0073】
(5−1)酢液の混合の影響
下記の各試料を用い、酢液の混合の有無及び混合量(割合)の影響を把握するための実験を行い、図5及び図6に示す結果が得られた。
試料a:石炭1に対して精製酢液0.25(重量比)を混合(図中の記号▲)
試料b:石炭1に対して精製酢液0.10(重量比)を混合(図中の記号◆)
試料o:酢液の混合なし(図中の記号●)
【0074】
図5及び図6に示す結果から、酢液を混合することによって特に空気比1以上の酸化雰囲気において燃焼率が大きく向上して燃焼灰の灰中未燃分が大幅に低減することが確認された。また、酢液の混合量は石炭1に対して酢液0.1程度でも燃焼性向上の効果(燃焼率の向上,燃焼灰の灰中未燃分の低減)が発揮されることが確認された。
【0075】
(5−2)酢液の混合及び炭酸カルシウムの添加の影響
下記の各試料を用い、酢液の混合に加えての炭酸カルシウムの添加の影響を把握するための実験を行い、図7及び図8に示す結果が得られた(なお、図7,図8では、炭酸カルシウムのことを「炭カル」と表記している)。
試料c:石炭1に対して粗酢液0.5及び炭酸カルシウム0.056(重量比)を混合
(図中の記号▲)
試料d:石炭1に対して炭酸カルシウム0.056(重量比)を混合、酢液なし
(図中の記号○)
試料o:酢液及び炭酸カルシウムの混合なし(図中の記号●)
【0076】
図7及び図8に示す結果から、炭酸カルシウムの添加のみでは燃焼率の向上,燃焼灰の灰中未燃分の低減の程度は小さい一方で、酢液の混合に加えて炭酸カルシウムを添加することによって燃焼率が大きく向上して燃焼灰の灰中未燃分が大幅に低減することが確認された。なお、図5及び図6に示す結果と比較すると、空気比1以上の酸化雰囲気に限らず、空気比0.8程度の還元雰囲気においても燃焼率が大きく向上して燃焼灰の灰中未燃分が大幅に低減することが確認された。この結果から、酢液を混合すると共にカルシウム成分を添加することによってカルシウムの燃焼触媒作用を発現させて燃焼性を大きく向上させることが可能であることが確認された。
【0077】
(5−3)酢液の混合及びフライアッシュの添加の影響
下記の各試料を用い、酢液の混合に加えてのフライアッシュの添加の影響を把握するための実験を行い、図9及び図10に示す結果が得られた。なお、専焼灰はバイオマス粉末のみの燃焼によって生成された灰で、混焼灰は石炭とバイオマスとの混合微粉炭の燃焼によって生成された灰である。
試料e:石炭1に対して粗酢液0.5及びフライアッシュ(専焼灰)0.05(重量比)を混合
(図中の記号▲)
試料f:石炭1に対して粗酢液0.5及びフライアッシュ(混焼灰)0.05(重量比)を混合
(図中の記号◆)
試料o:酢液及びフライアッシュの混合なし(図中の記号●)
【0078】
図9及び図10に示す結果から、酢液の混合に加えてフライアッシュを添加することによって燃焼率が向上して燃焼灰の灰中未燃分が大幅に低減することが確認された。この結果から、酢液を混合すると共にフライアッシュを添加することによってカルシウム成分の燃焼触媒作用を発現させて燃焼性を大きく向上させることが可能であることが確認された。また、専焼灰を用いた場合と混焼灰を用いた場合とでは大きな差がないことが確認された。
【0079】
さらに、酢液の混合に加えてフライアッシュを添加することによって燃焼性が向上することが確認されたこれらの結果を踏まえると、カルシウムを含む添加剤を加えることによって石炭粉末の燃焼性の向上が可能であることが確認された。
【0080】
上述の試料o及び試料aから試料fまでの各試料について、酸化雰囲気に対応する空気比約1.1における、燃焼率をまとめて整理して図11に示す結果が得られ、燃焼灰の灰中未燃分をまとめて整理して図12に示す結果が得られた(なお、図11,図12では、炭酸カルシウムのことを「炭カル」と表記している)。
【0081】
図11及び図12に示す結果から、酢液を混合するだけでも、そして混合量が石炭1に対して0.1程度(重量比)であっても、酢液を混合しない場合と比べて燃焼率が大きく向上して燃焼灰の灰中未燃分が大幅に低減し燃焼性が大きく向上することが確認された。また、酢液の混合に加えてカルシウム成分を有するフライアッシュや炭酸カルシウムを添加することによって燃焼性が更に大きく向上することが確認された。特に、酢液の混合に加えて炭酸カルシウムを添加することによって燃焼性が非常に大きく向上することが確認された。
【0082】
以上の実施例の結果から、酢液を混合することによって石炭に含まれるミネラルや添加物に含まれる燃焼触媒物質が石炭に分散されて石炭粉末の燃焼性が大きく向上することが確認された。そして、燃焼性が向上することによって例えば微粉炭ボイラにおける燃焼灰の灰中未燃分が低減するので、フライアッシュのセメント原料としての品質の向上が可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0083】
1 石炭バンカ
2 石炭粉砕装置
3 微粉炭バーナ(燃焼装置)
4 石炭粉末供給手段
5 炭化処理装置
6 粗酢液回収手段
7 バイオマス炭化物供給手段
8 酢液供給手段
9 石炭供給手段
10 微粉炭ボイラ
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭燃焼方法及び石炭燃焼システムに関する。さらに詳述すると、本発明は、例えば微粉炭ボイラに設けられた微粉炭バーナでの燃焼に適用して好適な石炭燃焼方法及び石炭燃焼システムに関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素排出量の削減と循環型社会の構築とに向けてバイオマス有効利用の促進が重要になっている。現在、電気事業では商用運転している発電用石炭ボイラでの木質バイオマス混焼が始まっており、これは効率面でのメリットが高い利活用法の一つである。しかし、木質バイオマスの調達や微細粉砕の可能性・容易性の理由から混焼率は重量ベースで3%程度に留まり、混焼率の拡大が課題である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−180476号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の混焼技術では、石炭とバイオマスとを単純に混合したものを炉内へ投入したり、或いは、個別のバーナでそれぞれを炉内へ供給したりしているに過ぎず、混焼により石炭とバイオマスの良好な相互作用を発揮しているとは言い難い。
【0005】
そこで、本発明は、石炭粉末を燃料として用いて燃焼を行う燃焼装置、具体的には例えば微粉炭ボイラに設けられた微粉炭バーナでの燃焼性を向上させることができる石炭燃焼方法及び石炭燃焼システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため、本願発明者らは鋭意検討を行い、石炭を粉砕した石炭粉末と酢液とを混合して燃焼させることによって、石炭粉末単独で燃焼させた場合と比較して石炭粉末の燃焼性を向上させることができることを知見した。
【0007】
請求項1記載の石炭燃焼方法は、前記の発明者独自の新たな知見に基づくものであり、石炭粉末と酢液とを混合して燃焼装置に供給するようにしている。
【0008】
また、請求項7記載の石炭燃焼システムは、石炭を粉砕して石炭粉末を得る石炭粉砕装置と、石炭粉末を用いて燃焼を行う燃焼装置と、石炭粉砕装置で得られた石炭粉末を燃焼装置に供給する石炭粉末供給手段と、石炭粉砕装置に、又は、石炭粉砕装置に供給される前の石炭に、酢液を供給する酢液供給手段とを有するようにしている。
【0009】
したがって、これらの石炭燃焼方法及び石炭燃焼システムによると、石炭粉末と酢液とを混合するようにしているので、石炭粉末のみ(即ち、酢液を混合していない石炭粉末)を燃焼装置に供給して燃焼させた場合よりも石炭粉末の燃焼性が向上する。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の石炭燃焼方法において、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末を更に混合するようにしている。
【0011】
また、請求項8記載の発明は、請求項7記載の石炭燃焼システムにおいて、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を石炭粉砕装置に供給するバイオマス炭化物供給手段、若しくは、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末を燃焼装置に供給するバイオマス炭化物粉末供給手段を更に有するようにしている。
【0012】
これらの場合には、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を利用するようにしているので、植物由来のバイオマスを有効利用して二酸化炭素排出量の削減が図られる。なお、植物由来のバイオマス原料は繊維質であることからそのまま粉砕しても十分に粉砕することができない虞があるところ、バイオマス原料を炭化処理してバイオマス炭化物とすることによってその繊維質を破壊して粉砕性が向上する。
【0013】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の石炭燃焼方法において、酢液が植物由来のバイオマス原料を炭化処理した際に得られたものであるようにしている。
【0014】
また、請求項9記載の発明は、請求項8記載の石炭燃焼システムにおいて、酢液が植物由来のバイオマス原料を炭化処理した際に得られたものであるようにしている。
【0015】
これらの場合には、バイオマス炭化物粉末として燃焼装置に供給するための植物由来のバイオマス原料を炭化処理した際に得られた酢液を利用するようにしているので、燃焼装置に供給するためのバイオマス炭化物を生成するバイオマス原料と酢液を得るためのバイオマス原料とを同一のものにすることができ、石炭の燃焼性向上においてバイオマス原料を無駄なく有効利用して二酸化炭素排出量の削減が図られると共に、石炭燃焼の系として自立性及び効率性の向上が図られる。
【0016】
また、請求項4記載の発明は、請求項1記載の石炭燃焼方法において、燃焼触媒を含有する添加物を更に混合するようにしている。そして、請求項5記載の発明は、請求項4記載の石炭燃焼方法において、燃焼触媒を含有する添加物が炭酸カルシウムであるようにしている。また、請求項6記載の発明は、請求項4記載の石炭燃焼方法において、燃焼触媒を含有する添加物がフライアッシュであるようにしている。
【0017】
また、請求項10記載の発明は、請求項7記載の石炭燃焼システムにおいて、石炭粉砕装置に、又は、石炭粉砕装置に供給される前の石炭に、燃焼触媒を含有する添加物を供給する燃焼触媒供給手段を更に有するようにしている。そして、請求項11記載の発明は、請求項10記載の石炭燃焼システムにおいて、燃焼触媒を含有する添加物が炭酸カルシウムであるようにしている。また、請求項12記載の発明は、請求項10記載の石炭燃焼システムにおいて、燃焼触媒を含有する添加物がフライアッシュであるようにしている。
【0018】
これらの場合には、燃焼触媒、例えばカルシウム成分が石炭粉末やバイオマス炭化物粉末の表面に均一に分散担持されて燃焼触媒として働くので、石炭粉末の燃焼性が更に向上する。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の石炭燃焼方法及び請求項7記載の石炭燃焼システムによれば、石炭粉末のみを燃焼装置に供給して燃焼させた場合よりも石炭粉末の燃焼性を向上させることができるので、燃焼装置・燃焼システムの性能及び効率性の向上を図ることが可能になる。しかも、石炭粉末の燃焼性が向上することにより、石炭の燃焼灰の灰中未燃分を減少させることができるので、フライアッシュの品質の向上が可能になる。さらに、燃焼におけるNOxの生成を抑えるためには燃焼場に投入する空気量を減らすことが効果的である一方で空気量を減らすと石炭の燃焼灰の灰中未燃分が増加してしまうところ、石炭粉末の燃焼性が向上すればその分空気量を減らすことができるので、NOxの生成を抑えることが可能になる。
【0020】
請求項2記載の石炭燃焼方法及び請求項8記載の石炭燃焼システムによれば、植物由来のバイオマスを有効利用して二酸化炭素排出量の削減を図ることが可能になる。
【0021】
請求項3記載の石炭燃焼方法及び請求項9記載の石炭燃焼システムによれば、燃焼装置に供給するためのバイオマス炭化物を生成するバイオマス原料と酢液を得るためのバイオマス原料とを同一のものにすることができ、石炭の燃焼性向上においてバイオマス原料を無駄なく有効利用して二酸化炭素排出量の削減が図ることが可能になると共に、石炭燃焼の系として自立性及び効率性の向上が図ることが可能になる。
【0022】
請求項4,請求項5,請求項6記載の石炭燃焼方法及び請求項10,請求項11,請求項12記載の石炭燃焼システムによれば、石炭粉末の燃焼性を更に向上させることができるので、燃焼装置・燃焼システムの性能及び効率性の更なる向上を図ることが可能になる。しかも、フライアッシュの品質の更なる向上が可能になる。さらに、NOxの生成を更に抑えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の石炭燃焼方法を実現する石炭燃焼システムの実施形態の一例を示す構成図である。
【図2】本発明の石炭燃焼方法を実現する石炭燃焼システムの実施形態の他の一例(本発明に必須の構成)を示す構成図である。
【図3】本発明の石炭燃焼方法を実現する石炭燃焼システムの実施形態の更に他の一例を示す構成図である。
【図4】本発明の石炭燃焼方法を実現する石炭燃焼システムの実施形態の更に他の一例を示す構成図である。
【図5】実施例における空気比と燃焼率との間の関係を表す図である(酢液の混合量別,他の添加物なし)。
【図6】実施例における空気比と燃焼灰の灰中未燃分との間の関係を表す図である(酢液の混合量別,他の添加物なし)。
【図7】実施例における空気比と燃焼率との間の関係を表す図である(酢液の混合有無別,炭酸カルシウムの添加有無別)。
【図8】実施例における空気比と燃焼灰の灰中未燃分との間の関係を表す図である(酢液の混合有無別,炭酸カルシウムの添加有無別)。
【図9】実施例における空気比と燃焼率との間の関係を表す図である(酢液の混合有無別,専焼灰・混焼灰の添加有無別)。
【図10】実施例における空気比と燃焼灰の灰中未燃分との間の関係を表す図である(酢液の混合有無別,専焼灰・混焼灰の添加有無別)。
【図11】実施例の各試料の燃焼率(空気比約1.1)に関する結果の整理を表す図である。
【図12】実施例の各試料の未燃分(空気比約1.1)に関する結果の整理を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0025】
図1に、本発明の石炭燃焼方法及び石炭燃焼システムの実施形態の一例を示す。この石炭燃焼方法は、石炭粉末と酢液とを混合して燃焼装置3に供給するようにしている。
【0026】
また、本実施形態では、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末を更に混合するようにしていると共に、前記酢液が前記植物由来のバイオマス原料を炭化処理した際に得られたものであるようにしている。
【0027】
本発明において使用する石炭としては、石炭粉末を燃料とする燃焼装置、具体的には例えば微粉炭ボイラに設けられた微粉炭バーナでの燃焼に供される一般的な石炭、例えば瀝青炭や亜瀝青炭等を用いることができる。
【0028】
石炭粉末の粒径・粒度は、微粉炭バーナ等の燃焼装置の仕様などに応じて適宜調整され、粗粉炭や微粉炭と呼ばれる規格の程度に調整される。既存の微粉炭バーナの燃料として用いる微粉炭であれば、具体的には例えば75〔μm〕通過割合が90%程度の粒度に調整される。
【0029】
本発明において使用するバイオマス炭化物としては、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したものが用いられる。植物由来のバイオマス原料を炭化処理することによってバイオマスの繊維質が破壊される。その結果、バイオマス炭化物は植物由来のバイオマス原料と比較して粉砕性が極めて良好なものになる。
【0030】
なお、本発明において使用するバイオマス炭化物の原料としての植物由来のバイオマス原料としては、灰成分として燃焼触媒元素であるカルシウムを含むもの、例えば木質系(具体的には例えばチップ、ペレット等)、草本系(具体的には例えば竹、籾殻、サトウキビ、稲わら等)などが挙げられる。
【0031】
バイオマス炭化物粉末の粒径・粒度は、微粉炭バーナ等の燃焼装置で燃焼させた際に燃焼灰の灰中未燃分が生じ難い程度、即ち、石炭粉末と同程度の粒径・粒度とすることが好適である。なお、このような粒径・粒度のバイオマス炭化物粉末は、植物由来のバイオマス原料を炭化処理していることもあり、微粉炭バーナでの燃焼の分野において一般的に用いられているミルなどの石炭粉砕装置を用いて粉砕を行うことで得られる。ただし、微粉炭バーナでの燃焼の分野において一般的に用いられているミルなどの石炭粉砕装置以外を用いて粉砕を行うようにしても良い。
【0032】
本発明における石炭粉末とバイオマス炭化物粉末との混合割合は、特定の割合に限定されるものではない。本発明では、植物由来のバイオマス原料を炭化処理して炭化物とすることによってその粉砕性を高めていることから微粉砕が容易であり、このため、石炭に対するバイオマス原料の混合割合を高めても燃焼灰の灰中未燃分が発生し難く、バイオマス原料の混合割合を高め易い点にも特徴がある。つまり、バイオマス原料を炭化物の形態で用いることによって石炭に対するバイオマスの混合割合を増加させ易くすることができ、バイオマスの利用拡大を図ることができる。したがって、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末との混合割合については、植物由来のバイオマス原料と石炭との供給バランスに応じて適宜変更・調整することができる。
【0033】
本発明において使用する酢液は、粗酢液でも良いし、粗酢液を一定期間静置した後の上層の軽質油及び下層の沈降タールを除いた中層の酢液(静置による精製酢液)でも良いし、粗酢液を蒸留して得られる酢液(蒸留による精製酢液)でも良いし、粗酢液をろ過して得られる酢液(ろ過による精製酢液)でも良い。これらのうち精製酢液は、タールよりも軽質な有機酸の水溶液であり、主成分である酢酸(具体的には、数%)と数多くの有機物とを含む酸性水溶液(具体的には、pH3程度)である。
【0034】
粗酢液は、植物性のバイオマス原料を炭化処理する際にも発生し、具体的には植物性のバイオマス原料を炭化処理する際に発生する揮発分を冷却することによって回収される。植物性のバイオマス原料を炭化処理する際の粗酢液の生成方法自体は周知の技術であるので(例えば、特開2008−179802号公報に「酸性のバイオマス水溶性液」としてその回収方法が記載されている)ここでは詳細については省略するが、要は、木質系バイオマス原料、草本系バイオマス原料及び植物由来の食品残渣のうちの少なくともいずれかを炭化処理する際に発生する揮発分を冷却して回収することができるものである。なお、木炭やバイオオイルの製造プロセスにおいて回収される酢液類の水溶性副生成物も本発明における酢液として用いることができる。
【0035】
そして、石炭を粉砕した石炭粉末(本実施形態では更にバイオマス炭化物粉末)に酢液を混合することによって、石炭の灰成分であるカルシウム、更にはバイオマス炭化物の灰成分であるカルシウムが酢液に溶け込み、これらが石炭粉末及びバイオマス炭化物粉末の表面に均一に分散担持されて燃焼触媒活性を呈するようになる。その結果、石炭粉末単独で燃焼(即ち専焼)させた場合よりも燃焼性を向上させることが可能になり、また、石炭粉末とバイオマス炭化物粉末とを混合して燃焼(即ち混焼)させた場合よりも燃焼性を向上させることが可能になる。しかも、植物由来のバイオマス原料を炭化処理して得られるバイオマス炭化物に加えて植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に得られる粗酢液を用いるようにすることによってバイオマス原料の更なる利用拡大を図ることができ、燃焼性の向上と二酸化炭素排出量の削減とを図ることを容易に両立させることができる。
【0036】
なお、植物由来のバイオマス原料を炭化処理する際に回収される粗酢液は通常はpH2〜3程度の水溶性液体であるところ、同程度の酸性を呈しさえすれば石炭の灰成分やバイオマス炭化物の灰成分を溶け込ませる効果は発揮される。このため、数倍から十倍の範囲で粗酢液を水で適宜薄めて使用するようにしても良い。
【0037】
なお、酢液の混合量は、特定の量(例えば石炭粉末に対する比率)に限定されるものではなく、石炭粉末の燃焼性の向上(燃焼率の向上,燃焼灰の灰中未燃分の低減)の程度も考慮しながら適宜調整し得る。具体的には、石炭1に対して酢液0.1程度(重量比)或いはそれ以上の量を混合することが考えられる。
【0038】
また、本発明においては、燃焼触媒としての添加物を更に混合するようにしても良い。この燃焼触媒としての添加物としては、例えばカルシウムを含有する物が好適であり、具体的には例えば炭酸カルシウムやフライアッシュなどが挙げられる。ただし、本発明における燃焼触媒はカルシウム(若しくはカルシウムを含有する物)に限られるものではなく、本発明における燃焼装置での燃焼における燃焼触媒として機能するもの(燃焼触媒として機能するものを含有する物)であれば何れでも良い(具体的には例えば、ナトリウムやカリウムなど)。なお、フライアッシュは、燃焼装置から排出・回収されたフライアッシュをリサイクルするようにしても良いし、外部調達したフライアッシュを用いるようにしても良い。
【0039】
なお、カルシウムやその他の燃焼触媒の添加量の上限は各燃焼装置の仕様や運用基準に従って決定される。言い換えると、カルシウムやその他の燃焼触媒の添加量は、特定の量(例えば石炭粉末に対する比率)に限定されるものではなく、各燃焼装置の仕様や運用基準に従って決定される上限の範囲内で適宜調整し得る。
【0040】
また、本発明においては、石炭粉末と酢液、更にバイオマス炭化物粉末や燃焼触媒の粉砕や投入・混合は同時に行うようにしても良いし、タイミングをずらして順に行うようにしても良い。
【0041】
上述の本発明の石炭燃焼方法は本発明の石炭燃焼システムによって実現される。本発明の石炭燃焼方法を実現するための本発明の石炭燃焼システムの実施形態の一例を図1に示す。なお、本実施形態では、石炭粉末を用いて燃焼を行う燃焼装置として微粉炭ボイラ10に設けられた微粉炭バーナ3を例として挙げて説明する。
【0042】
この石炭燃焼システムは、石炭を粉砕して石炭粉末を得る石炭粉砕装置2と、石炭粉末を用いて燃焼を行う燃焼装置としての微粉炭バーナ3と、石炭粉砕装置2で得られた石炭粉末を微粉炭バーナ3に供給する石炭粉末供給手段4と、石炭粉砕装置2に酢液を供給する酢液供給手段8とを備える。
【0043】
また、本実施形態の石炭燃焼システムは、植物由来のバイオマス原料を炭化処理する炭化処理装置5と、炭化処理装置5で生成されたバイオマス炭化物を石炭粉砕装置2に供給するバイオマス炭化物供給手段7と、炭化処理装置5で発生する揮発分を冷却してバイオマス原料由来の粗酢液を回収する粗酢液回収手段6とを更に備えるようにしている。そして、本実施形態の石炭燃焼システムでは、粗酢液回収手段6によって回収された粗酢液を酢液供給手段8が石炭粉砕装置2に供給するようにしている。
【0044】
なお、本実施形態では、炭化処理装置5で発生する揮発分から粗酢液と他の成分(例えばバイオオイルや軽質ガス)とを分離する手段として気液分離装置20を設けるようにしている。気液分離装置20には、粗酢液回収手段6と他の成分を回収する手段11とが備えられている。なお、バイオオイルや軽質ガスも燃焼装置3における燃料として使うことができる。
【0045】
微細に粉砕されて微粉炭バーナ3に燃料として供給される石炭は石炭バンカ1に貯蔵され、石炭供給手段9によって石炭粉砕装置2に供給される。石炭供給手段9は例えばベルトコンベアである。
【0046】
石炭粉砕装置2としては、微粉炭バーナに供される一般的な石炭(例えば瀝青炭や亜瀝青炭等)を粉砕して微粉炭バーナの方式に応じた石炭粉末を得ることができる、既存の微粉炭バーナと共に設けられて通常用いられている石炭粉砕装置、例えばミルなどを用いることができる。
【0047】
微粉炭バーナ3としては、例えば、石炭を粉砕した石炭粉末(微粉炭)と一次空気との予混合流体をノズルによって炉内に噴出すると共に当該噴出部の周囲から二次空気を吹き込んで燃焼を行う既存の微粉炭ボイラにおいて通常用いられる微粉炭バーナが用いられる。ただし、本発明における燃焼装置としての微粉炭バーナの燃焼方式は上述のものには限られないし、そもそも、本発明における燃焼装置は石炭粉末を用いて燃焼を行うものであれば微粉炭ボイラの微粉炭バーナに限られるものではない。
【0048】
石炭粉末供給手段4としては、石炭粉砕装置2で得られた石炭粉末を微粉炭バーナ3に供給する、既存の微粉炭バーナと共に設けられて通常用いられている石炭粉末供給手段、例えば気流搬送装置を用いることができる。
【0049】
炭化処理装置5は、植物由来のバイオマス原料からバイオマス炭化物を生成できる装置であれば特定の装置に限定されるものではない。例えば、バイオマス原料を実質的に酸素を含まない条件下、好適には無酸素条件下で、300℃以上、好適には300℃〜500℃、より好適には400℃程度で熱処理することができる一般的な乾燥装置やカーボナイザーなどを使用することができる。ここで、炭化処理の熱源として石炭燃焼システム内の排熱、例えば微粉炭バーナ3や微粉炭ボイラ10において発生する排熱などを利用するようにしても良い。システム排熱を利用することにより、燃焼効率を更に向上させることができる。
【0050】
炭化処理装置5で生成されたバイオマス炭化物は、バイオマス炭化物供給手段7によって石炭粉砕装置2に供給される。バイオマス炭化物供給手段7は具体的には例えばベルトコンベアである。
【0051】
粗酢液回収手段6では、炭化処理装置5から発生する揮発分を冷却して粗酢液を回収する。ここで、炭化処理装置5から発生する揮発分には、冷却しても凝縮しない軽質ガスが含まれている。また、軽質ガスと共にバイオオイルが排出される。本実施形態では、気液分離装置20は、粗酢液回収手段6に加えて軽質ガスやバイオオイルを回収する手段11を備えるようにしている。なお、炭化処理装置5から発生する揮発分から粗酢液と軽質ガスとバイオオイルとを分離して回収する気液分離装置20の構成自体は周知の技術であるのでここでは詳細については省略する(例えば、特開2010−222517号公報参照)。
【0052】
粗酢液回収手段6で回収された粗酢液は、酢液供給手段8によって石炭粉砕装置2に供給される。酢液供給手段8は具体的には例えば送液ポンプである。
【0053】
以上の構成により、石炭粉砕装置2では、石炭と、バイオマス炭化物供給手段7によって供給されるバイオマス炭化物とが粉砕されながら混合されると共に、酢液供給手段8によって供給される粗酢液とがこれらに混合される。この混合の過程で、石炭の灰成分であるカルシウムと、バイオマス炭化物の灰成分であるカルシウムとが、粗酢液に溶け込む。
【0054】
また、本実施形態では、燃焼触媒としての添加物を収容・貯蔵する燃焼触媒ストッカ13と、前記添加物を燃焼触媒ストッカ13から石炭粉砕装置2に供給する燃焼触媒供給手段14とを更に備えるようにしている。このため、本実施形態では、石炭粉砕装置2に燃焼触媒としての添加物が更に供給され、燃焼触媒成分が粗酢液に溶け込むと共に石炭粉末及びバイオマス炭化物粉末の表面に分散担持され、燃焼性が更に向上する。本発明における燃焼触媒としての添加物としては、カルシウムを含有する物が好適であり、具体的には例えば炭酸カルシウムやフライアッシュが用いられる。
【0055】
なお、粗酢液回収手段6で回収された粗酢液を水で希釈するために、水供給手段(図示していない)を更に備えるようにしても良い。回収された粗酢液の量が少なく、石炭粉末及びバイオマス炭化物粉末の濡れ性が十分に確保できない場合には、粗酢液を回収した容器(例えば粗酢液回収手段6)、酢液供給手段8、或いは石炭粉砕装置2に水供給手段によって水を適宜供給することにより、濡れ性を確保し、石炭粉末及びバイオマス炭化物粉末の表面への燃焼触媒成分の分散担持状態を良好なものとするようにしても良い。
【0056】
以上のように構成された本発明の石炭燃焼方法及び石炭燃焼システムによれば、石炭粉末と酢液とを混合するようにしているので、石炭粉末のみ(即ち、酢液を混合していない石炭粉末)を燃焼装置に供給して燃焼させた場合よりも石炭粉末の燃焼性を向上させることができる。
【0057】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態ではバイオマス炭化物粉末を石炭粉末(微粉炭)と混合燃焼させるために炭化処理装置5及びバイオマス炭化物供給手段7を有するようにしているが、本発明において、バイオマス炭化物粉末を石炭粉末に混合させることは必須ではなく、したがって、炭化処理装置5及びバイオマス炭化物供給手段7を備えることは必須ではない。また、上述の実施形態では燃焼触媒としての添加物(即ち、炭酸カルシウムやフライアッシュなど)を石炭粉末と混合させるために燃焼触媒ストッカ13及び燃焼触媒供給手段14を有するようにしているが、本発明において、燃焼触媒としての添加物を石炭粉末に混合させることは必須ではなく、したがって、燃焼触媒ストッカ13及び燃焼触媒供給手段14を備えることは必須ではない。すなわち、本発明においては石炭粉末に酢液を混合させることが必須であり(図2(A))、上述の実施形態における石炭への酢液の混合以外の構成は本発明にとって必須ではない。なお、炭化処理装置5を備えない場合には、上述の実施形態のように粗酢液回収手段6によって粗酢液を回収することがないので、石炭燃焼システムの系外から調達した酢液を供給するようにする。なお、フライアッシュは石炭燃焼システムの系外から調達しても良いし、系内の微粉炭ボイラ10から排出されるものをリサイクルしても良い。
【0058】
また、バイオマス炭化物粉末を石炭粉末(微粉炭)と混合燃焼させる場合でも、石炭燃焼システム系内に炭化処理装置5を備えることなく、石炭燃焼システムの系外から調達したバイオマス炭化物を供給するようにしても良い。なお、この場合には、上述の実施形態のように粗酢液回収手段6によって粗酢液を回収することがないので、石炭燃焼システムの系外から調達した酢液を供給するようにする。
【0059】
また、上述の実施形態では粗酢液とバイオマス炭化物と燃焼触媒(即ち、炭酸カルシウムやフライアッシュなど)とを石炭粉砕装置2に供給してこれらと石炭とを混合すると共に微粉砕するようにしているが、石炭粉末が燃焼装置3に供給される前に混合されるのであれば、本発明における石炭と酢液等との混合の仕方は上述の実施形態の方式に限られるものではない。具体的には例えば、図2(B)及び図3に示すように、石炭供給手段9に対して、酢液供給手段8によって酢液を、バイオマス炭化物供給手段7によってバイオマス炭化物粉末を、燃焼触媒供給手段14によって燃焼触媒を供給してこれらと石炭とを混合するようにしても良い。また、図4に示すように、石炭供給手段9に対して、酢液供給手段8によって酢液を、燃焼触媒供給手段14によって燃焼触媒を供給すると共に、バイオマス炭化物については、石炭の粉砕とは独立してバイオマス粉砕装置2'によって微粉砕して燃焼装置3に供給するようにしても良い。この場合、バイオマス粉砕装置2'としては石炭粉砕装置2と同様のものを用いることができ、具体的には例えばミルなどが用いられる。この場合には、また、炭化処理装置5とバイオマス粉砕装置2'との間にはバイオマス炭化物供給手段7Aが設けられ、バイオマス粉砕装置2'と燃焼装置3との間にはバイオマス炭化物粉末供給手段7Bが設けられる。なお、バイオマス炭化物供給手段7Aとしてはバイオマス炭化物供給手段7と同様に具体的には例えばベルトコンベアが用いられ、バイオマス炭化物粉末供給手段7Bとしては石炭粉末供給手段4と同様に具体的には例えば気流搬送装置などが用いられる。
【実施例1】
【0060】
本発明の石炭燃焼方法による燃焼性の向上を検証するための実施例を図5から図12を用いて説明する。
【0061】
(1)燃焼材,酢液
石炭としては、国内の微粉炭火力(具体的には微粉炭ボイラ)でよく用いられている豪州産瀝青炭を用いた。この豪州産瀝青炭は、燃料比が高く、灰融点が高い(具体的には1500〔℃〕以上)という特徴がある。なお、以下においては、酢液や添加物を混合しない豪州産瀝青炭のことを未処理炭と表記する。
【0062】
バイオマスとしては、国内産の赤松ペレットを用いた。
【0063】
酢液としては、市販の精製酢液、および、スクリュー式連続炭化機を用いて赤松ペレットの炭化処理を行って回収した粗酢液を用いた。粗酢液の製造において、具体的には、400〔℃〕で炭化処理を行い、生成ガスのうち常温で凝縮した成分を気液分離器で回収し、数日間静置した後の上澄み液を粗酢液として用いた。なお、粗酢液は、常温で不揮発の成分が32〔%〕となっており、タール成分(バイオオイル)が混入していた。
【0064】
上記炭化処理によって得られた粗酢液は、更に詳細には、pHが1.9の強酸性水溶液で、GC−MSとGC−FIDによる定量・定性分析結果から酢酸3.4〔wt%〕,アセトール3.2〔wt%〕,グリコールアルデヒド2.4〔wt%〕,メタノール1.1〔wt%〕のほか多数の有機成分を含むことが分かった。また、カールフィッシャー法で測定した水分は51〔%〕であった。
【0065】
(2)酢液の混合処理
石炭は微粉砕し、107〔℃〕で乾燥してから酢液の混合処理を行った。微粉炭の平均粒径は26〔μm〕であった。炭化処理で得られた粗酢液を用いた酢液の混合処理として、微粉炭と粗酢液とを混合した。具体的には、乾燥処理をした微粉炭に粗酢液を所定の比率で添加しよく混ぜ合わせて数時間から一晩静置した後に、107〔℃〕で熱風乾燥して酢液添加炭を調製した。なお、実験上、安定した結果を得るために混合後に静置したが、静置しなくても同様の効果が得られることを確認しているので、実プロセスでは静置は必ずしも必要ではない。
【0066】
(3)酢液及び添加物の混合処理
燃焼性向上のための燃焼触媒としての添加物の検証のため、酢液に加えてのカルシウムを含有する添加物の混合処理を行った。本実施例では、具体的には、粉炭の燃焼においてフラックスとして用いられる石灰石の主成分である炭酸カルシウムを添加物として用いた。さらに、実際の場合の容易且つ安価に入手可能なカルシウム供給源としてフライアッシュを想定し、フライアッシュを添加して酢液の混合処理を行った。具体的には、乾燥微粉炭に所定の割合で添加物(炭酸カルシウム又はフライアッシュ)と酢液とを添加しよく混ぜ合わせて数時間から一晩静置した後に、107〔℃〕で熱風乾燥して酢液・添加物処理炭を調製した。
【0067】
本実施例では、フラックスに対応する炭酸カルシウムとして、市販の粉状の炭酸カルシウム試薬(特級,純度95%)を用いた。
【0068】
また、添加物のフライアッシュとして、石炭燃焼試験炉によって、豪州産瀝青炭に杉ペレットをカロリーベースで10〔%〕混合して燃焼を行って回収されたバイオマス混焼灰と、杉ペレットのみによって燃焼を行って回収されたバイオマス専焼灰とを用いた。なお、上記石炭燃焼試験炉は100〔kg/h〕の単一バーナを備えた円筒型試験炉で、実機ボイラよりも滞留時間が短いために燃焼灰中の未燃分が多い傾向があり、フライアッシュ試料の燃焼灰の灰中未燃分は18〔%〕であった。
【0069】
(4)燃焼実験の装置と方法
高温のボイラ実機の反応場に近い電気加熱式落下型管状反応炉である常圧DTF(Drop Tube Furnace の略)設備を用いて高温での石炭の燃焼実験を行った。本実施例で用いた常圧DTF設備は、縦型管状電気炉を備えた外部加熱型反応装置であり、炉頂のスクリューフィーダーから気流搬送で粉体燃料を炉内へ投入するために燃料は急速加熱され、気流ボイラに近い反応場を作り出すことができるものである。そして、常圧DTF設備による燃焼実験では、所定の温度(=1400℃)に昇温した炉内へ乾燥空気を供給し、所定の空気比(即ち、理論燃焼空気量に対する投入空気の割合)となる流量の石炭を投入した。
【0070】
(5)実験結果
上述の条件のもと、例えば微粉炭ボイラの微粉炭バーナでの燃焼を想定し、常圧DTFを用いて空気による燃焼実験を実施した。
【0071】
なお、微粉炭ボイラ全体の空気比は通常1.2程度であるが、NOx低減のために二段燃焼技術が採用されている場合が多い。二段燃焼の場合には、バーナ近傍の還元燃焼領域では空気比は0.8程度であり、バーナから離れた位置で二段燃焼空気を追加するようにしている。このことから、バーナでの燃焼に用いる燃料としては、空気比0.8程度の還元雰囲気における燃焼性と、空気比1以上の酸化雰囲気における燃焼性とが性能評価として重要であると言える。
【0072】
温度1400〔℃〕で静定させた常圧DTF炉内へ、空塔線速度200〔mm/s〕で空気を供給し、未処理炭及び各種酢液処理炭などを投入した。各試料の投入量は、所定の空気比となる量とした。空気比は、理論燃焼空気量(例えば、未処理炭は8.97kg-air/kg-coal)に対する投入空気量の比であり、微粉炭バーナでの二段燃焼技術の場合のバーナ近傍の還元雰囲気に対応する0.8程度及び酸化雰囲気に対応する1.2程度を目標に条件設定した(例えば、未処理炭の投入量は順に28,42,83〔g/h〕)。サンプリング位置は滞留時間4秒に相当する位置で固定条件とし、燃焼条件におけるサンプリング灰の燃焼率及び灰中未燃分を整理した。
【0073】
(5−1)酢液の混合の影響
下記の各試料を用い、酢液の混合の有無及び混合量(割合)の影響を把握するための実験を行い、図5及び図6に示す結果が得られた。
試料a:石炭1に対して精製酢液0.25(重量比)を混合(図中の記号▲)
試料b:石炭1に対して精製酢液0.10(重量比)を混合(図中の記号◆)
試料o:酢液の混合なし(図中の記号●)
【0074】
図5及び図6に示す結果から、酢液を混合することによって特に空気比1以上の酸化雰囲気において燃焼率が大きく向上して燃焼灰の灰中未燃分が大幅に低減することが確認された。また、酢液の混合量は石炭1に対して酢液0.1程度でも燃焼性向上の効果(燃焼率の向上,燃焼灰の灰中未燃分の低減)が発揮されることが確認された。
【0075】
(5−2)酢液の混合及び炭酸カルシウムの添加の影響
下記の各試料を用い、酢液の混合に加えての炭酸カルシウムの添加の影響を把握するための実験を行い、図7及び図8に示す結果が得られた(なお、図7,図8では、炭酸カルシウムのことを「炭カル」と表記している)。
試料c:石炭1に対して粗酢液0.5及び炭酸カルシウム0.056(重量比)を混合
(図中の記号▲)
試料d:石炭1に対して炭酸カルシウム0.056(重量比)を混合、酢液なし
(図中の記号○)
試料o:酢液及び炭酸カルシウムの混合なし(図中の記号●)
【0076】
図7及び図8に示す結果から、炭酸カルシウムの添加のみでは燃焼率の向上,燃焼灰の灰中未燃分の低減の程度は小さい一方で、酢液の混合に加えて炭酸カルシウムを添加することによって燃焼率が大きく向上して燃焼灰の灰中未燃分が大幅に低減することが確認された。なお、図5及び図6に示す結果と比較すると、空気比1以上の酸化雰囲気に限らず、空気比0.8程度の還元雰囲気においても燃焼率が大きく向上して燃焼灰の灰中未燃分が大幅に低減することが確認された。この結果から、酢液を混合すると共にカルシウム成分を添加することによってカルシウムの燃焼触媒作用を発現させて燃焼性を大きく向上させることが可能であることが確認された。
【0077】
(5−3)酢液の混合及びフライアッシュの添加の影響
下記の各試料を用い、酢液の混合に加えてのフライアッシュの添加の影響を把握するための実験を行い、図9及び図10に示す結果が得られた。なお、専焼灰はバイオマス粉末のみの燃焼によって生成された灰で、混焼灰は石炭とバイオマスとの混合微粉炭の燃焼によって生成された灰である。
試料e:石炭1に対して粗酢液0.5及びフライアッシュ(専焼灰)0.05(重量比)を混合
(図中の記号▲)
試料f:石炭1に対して粗酢液0.5及びフライアッシュ(混焼灰)0.05(重量比)を混合
(図中の記号◆)
試料o:酢液及びフライアッシュの混合なし(図中の記号●)
【0078】
図9及び図10に示す結果から、酢液の混合に加えてフライアッシュを添加することによって燃焼率が向上して燃焼灰の灰中未燃分が大幅に低減することが確認された。この結果から、酢液を混合すると共にフライアッシュを添加することによってカルシウム成分の燃焼触媒作用を発現させて燃焼性を大きく向上させることが可能であることが確認された。また、専焼灰を用いた場合と混焼灰を用いた場合とでは大きな差がないことが確認された。
【0079】
さらに、酢液の混合に加えてフライアッシュを添加することによって燃焼性が向上することが確認されたこれらの結果を踏まえると、カルシウムを含む添加剤を加えることによって石炭粉末の燃焼性の向上が可能であることが確認された。
【0080】
上述の試料o及び試料aから試料fまでの各試料について、酸化雰囲気に対応する空気比約1.1における、燃焼率をまとめて整理して図11に示す結果が得られ、燃焼灰の灰中未燃分をまとめて整理して図12に示す結果が得られた(なお、図11,図12では、炭酸カルシウムのことを「炭カル」と表記している)。
【0081】
図11及び図12に示す結果から、酢液を混合するだけでも、そして混合量が石炭1に対して0.1程度(重量比)であっても、酢液を混合しない場合と比べて燃焼率が大きく向上して燃焼灰の灰中未燃分が大幅に低減し燃焼性が大きく向上することが確認された。また、酢液の混合に加えてカルシウム成分を有するフライアッシュや炭酸カルシウムを添加することによって燃焼性が更に大きく向上することが確認された。特に、酢液の混合に加えて炭酸カルシウムを添加することによって燃焼性が非常に大きく向上することが確認された。
【0082】
以上の実施例の結果から、酢液を混合することによって石炭に含まれるミネラルや添加物に含まれる燃焼触媒物質が石炭に分散されて石炭粉末の燃焼性が大きく向上することが確認された。そして、燃焼性が向上することによって例えば微粉炭ボイラにおける燃焼灰の灰中未燃分が低減するので、フライアッシュのセメント原料としての品質の向上が可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0083】
1 石炭バンカ
2 石炭粉砕装置
3 微粉炭バーナ(燃焼装置)
4 石炭粉末供給手段
5 炭化処理装置
6 粗酢液回収手段
7 バイオマス炭化物供給手段
8 酢液供給手段
9 石炭供給手段
10 微粉炭ボイラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭粉末と酢液とを混合して燃焼装置に供給することを特徴とする石炭燃焼方法。
【請求項2】
植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末を更に混合することを特徴とする請求項1記載の石炭燃焼方法。
【請求項3】
前記酢液が前記植物由来のバイオマス原料を炭化処理した際に得られたものであることを特徴とする請求項1または2記載の石炭燃焼方法。
【請求項4】
燃焼触媒を含有する添加物を更に混合することを特徴とする請求項1記載の石炭燃焼方法。
【請求項5】
前記燃焼触媒を含有する添加物が炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項4記載の石炭燃焼方法。
【請求項6】
前記燃焼触媒を含有する添加物がフライアッシュであることを特徴とする請求項4記載の石炭燃焼方法。
【請求項7】
石炭を粉砕して石炭粉末を得る石炭粉砕装置と、前記石炭粉末を用いて燃焼を行う燃焼装置と、前記石炭粉砕装置で得られた前記石炭粉末を前記燃焼装置に供給する石炭粉末供給手段と、前記石炭粉砕装置に、又は、前記石炭粉砕装置に供給される前の前記石炭に、酢液を供給する酢液供給手段とを有することを特徴とする石炭燃焼システム。
【請求項8】
植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を前記石炭粉砕装置に供給するバイオマス炭化物供給手段、若しくは、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末を前記燃焼装置に供給するバイオマス炭化物粉末供給手段を更に有することを特徴とする請求項7記載の石炭燃焼システム。
【請求項9】
前記酢液が前記植物由来のバイオマス原料を炭化処理した際に得られたものであることを特徴とする請求項8記載の石炭燃焼システム。
【請求項10】
前記石炭粉砕装置に、又は、前記石炭粉砕装置に供給される前の前記石炭に、燃焼触媒を含有する添加物を供給する燃焼触媒供給手段を更に有することを特徴とする請求項7記載の石炭燃焼システム。
【請求項11】
前記燃焼触媒を含有する添加物が炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項10記載の石炭燃焼システム。
【請求項12】
前記燃焼触媒を含有する添加物がフライアッシュであることを特徴とする請求項10記載の石炭燃焼システム。
【請求項1】
石炭粉末と酢液とを混合して燃焼装置に供給することを特徴とする石炭燃焼方法。
【請求項2】
植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末を更に混合することを特徴とする請求項1記載の石炭燃焼方法。
【請求項3】
前記酢液が前記植物由来のバイオマス原料を炭化処理した際に得られたものであることを特徴とする請求項1または2記載の石炭燃焼方法。
【請求項4】
燃焼触媒を含有する添加物を更に混合することを特徴とする請求項1記載の石炭燃焼方法。
【請求項5】
前記燃焼触媒を含有する添加物が炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項4記載の石炭燃焼方法。
【請求項6】
前記燃焼触媒を含有する添加物がフライアッシュであることを特徴とする請求項4記載の石炭燃焼方法。
【請求項7】
石炭を粉砕して石炭粉末を得る石炭粉砕装置と、前記石炭粉末を用いて燃焼を行う燃焼装置と、前記石炭粉砕装置で得られた前記石炭粉末を前記燃焼装置に供給する石炭粉末供給手段と、前記石炭粉砕装置に、又は、前記石炭粉砕装置に供給される前の前記石炭に、酢液を供給する酢液供給手段とを有することを特徴とする石炭燃焼システム。
【請求項8】
植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を前記石炭粉砕装置に供給するバイオマス炭化物供給手段、若しくは、植物由来のバイオマス原料を炭化処理したバイオマス炭化物を粉砕したバイオマス炭化物粉末を前記燃焼装置に供給するバイオマス炭化物粉末供給手段を更に有することを特徴とする請求項7記載の石炭燃焼システム。
【請求項9】
前記酢液が前記植物由来のバイオマス原料を炭化処理した際に得られたものであることを特徴とする請求項8記載の石炭燃焼システム。
【請求項10】
前記石炭粉砕装置に、又は、前記石炭粉砕装置に供給される前の前記石炭に、燃焼触媒を含有する添加物を供給する燃焼触媒供給手段を更に有することを特徴とする請求項7記載の石炭燃焼システム。
【請求項11】
前記燃焼触媒を含有する添加物が炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項10記載の石炭燃焼システム。
【請求項12】
前記燃焼触媒を含有する添加物がフライアッシュであることを特徴とする請求項10記載の石炭燃焼システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−11377(P2013−11377A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143386(P2011−143386)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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