説明

石綿含有吹き付け材の処理方法

【課題】不燃性に優れた塗膜を形成して石綿を効果的に封じ込めることができる石綿含有吹き付け材の処理方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る石綿含有吹き付け材の処理方法は、石綿含有吹き付け材の内部に第一の処理液を浸透させて固化する第一の工程(S1)と、次いで前記石綿含有吹き付け材に第二の処理液を塗布して固化することにより前記石綿含有吹き付け材の表面を覆う塗膜を形成する第二の工程(S2)と、を含み、前記第二の処理液は、塩素系合成樹脂と非塩素系合成樹脂との共重合樹脂を主成分として含有し、前記共重合樹脂は、塩素を20〜50重量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石綿含有吹き付け材の処理方法に関し、特に、封じ込め処理により形成する塗膜の不燃性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
建築用耐火材として施工された吹き付け石綿や石綿含有吹き付けロックウール等の石綿含有吹き付け材に対しては、石綿の飛散を防止する処理を施す必要がある。特に、例えば、石綿含有吹き付け材が高層ビル等の建築物に施工されており、解体除去が困難な場合には、当該吹き付け材に所定の処理液を浸透させて固化することにより石綿を封じ込める処理を行う。
【0003】
従来、この封じ込め処理としては、例えば、特許文献1において、石綿含有物にアクリル系材料又はポリビニルアルコールを含有する処理液を浸透させ、さらに当該石綿含有物の表面にアクリル系材料及び無機材料を含有する処理液を固化させた塗膜を形成する方法が記載されている。
【特許文献1】特開2006−063299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば、上述のように石綿含有吹き付け材が高層ビル等の建築物に施工されている場合には、当該吹き付け材を被覆する塗膜は、建築物に関する法律で規定される高度の不燃性を備えることが要求される。これに対し、上記従来のアクリル系材料は耐候性に優れる等の有利な特性を有するものの、当該アクリル系材料を主成分とする塗膜は、上述のような高度の不燃性を備えるものではなかった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであって、不燃性に優れた塗膜を形成して石綿を効果的に封じ込めることができる石綿含有吹き付け材の処理方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る石綿含有吹き付け材の処理方法は、石綿含有吹き付け材の内部に第一の処理液を浸透させて固化する第一の工程と、次いで前記石綿含有吹き付け材に第二の処理液を塗布して固化することにより前記石綿含有吹き付け材の表面を覆う塗膜を形成する第二の工程と、を含み、前記第二の処理液は、塩素系合成樹脂と非塩素系合成樹脂との共重合樹脂を主成分として含有し、前記共重合樹脂は、塩素を20〜50重量%含有することを特徴とする。本発明によれば、不燃性に優れた塗膜を形成して石綿を効果的に封じ込めることができる石綿含有吹き付け材の処理方法を提供することができる。
【0007】
また、前記共重合樹脂は、前記塩素系合成樹脂を50〜80重量%含有することとしてもよい。また、前記塗膜は、塩素を10〜25重量%含有することとしてもよい。こうすれば、石綿含有吹き付け材に形成される塗膜の不燃性を特に優れたものとすることができる。
【0008】
また、前記非塩素系合成樹脂は、前記塩素系合成樹脂より柔軟な合成樹脂を含有することとしてもよい。こうすれば、優れた不燃性に加えて、優れた柔軟性をも兼ね備える塗膜を形成することができる。また、この場合、前記柔軟な合成樹脂は、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂及びこれらのうち2種又は3種以上の共重合樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上であることとしてもよい。また、前記共重合樹脂は、前記柔軟性樹脂を15〜30重量%含有することとしてもよい。こうすれば、塗膜の柔軟性を特に優れたものとすることができる。
【0009】
また、前記共重合樹脂は、塩化ビニルを50〜80重量%含有し、且つエチレンを15〜30重量%含有することとしてもよい。こうすれば、不燃性と柔軟性とを優れたバランスで備えた塗膜を形成することができる。また、前記共重合樹脂は、ポリ塩化ビニルとエチレン−酢酸ビニル共重合体とのコポリマーであることとしてもよい。こうすれば、塗膜に不燃性と柔軟性とを優れたバランスで付与することができる。
【0010】
また、前記第一の処理液は、ポリビニルアルコールを主成分として含有することとしてもよい。こうすれば、緻密な石綿含有吹き付け材に対しても、その内部にまで第一の処理液を十分に浸透させることができる。また、前記石綿含有吹き付け材は、石綿含有湿式吹き付けロックウールであることとしてもよい。こうすれば、石綿の含有量が小さく緻密な石綿含有湿式吹き付けロックウールに対しても、不燃性に優れ、さらには柔軟性をも兼ね備えた塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施形態に係る石綿含有吹き付け材の処理方法(以下、「本方法」という。)について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。
【0012】
本方法による封じ込め処理の対象となる既設の石綿含有吹き付け材は、例えば、耐火材、断熱材、吸音材といった被覆材として、建築物等の構造物に施工された吹き付け石綿や石綿含有吹き付けロックウールである。
【0013】
吹き付け石綿は、石綿含有吹き付けロックウールに比べて石綿の含有量が大きく、密度の小さい綿状の構造を有する。吹き付け石綿の石綿含有量は、例えば、40〜60重量%である。
【0014】
石綿含有吹き付けロックウールは、その吹き付け工法の違いによって、乾式、半乾式又は湿式に分類される。これらの石綿含有吹き付けロックウールは、吹き付け石綿に比べて石綿の含有量が小さく、密度の大きい緻密な構造を有する。
【0015】
特に、湿式の石綿含有吹き付けロックウール(以下、「湿式吹き付けロックウール」という。)は、例えば、石綿の含有量が5重量%以下と非常に小さく、緻密で硬い構造を有する。
【0016】
すなわち、湿式吹き付けロックウールには、石綿を1〜5重量%含有するものが多い。また、湿式吹き付けロックウールは、石綿以外に、ロックウール及びセメントを含有する。すなわち、湿式吹き付けロックウールとしては、例えば、石綿を1〜5重量%含有し、ロックウールを55〜75重量%含有し、セメントを25〜40重量%含有するものが多い。
【0017】
また、湿式吹き付けロックウールのかさ比重は、例えば、0.3g/cm以上である。すなわち、湿式吹き付けロックウールとしては、例えば、かさ比重が0.45〜0.7g/cmのものがある。なお、乾式又は半乾式の石綿含有吹き付けロックウールは、例えば、石綿を10〜30重量%含有し、そのかさ比重は0.3g/cm程度であり、湿式吹き付けロックウールに比べると密度が低い粗な構造を有する。
【0018】
このように湿式吹き付けロックウールは、石綿含有吹き付け材の中でも特に石綿の含有率が小さく構造が緻密であることから、封じ込め処理に際しては、例えば、他の石綿含有吹き付け材には内部まで速やかに浸透するような処理液であっても、当該湿式吹き付けロックウールには十分に浸透しないといった不都合が生じる。すなわち、例えば、アクリル系樹脂のエマルジョンを主成分として含有する水溶液を処理液として用いた場合には、当該エマルジョン粒子が湿式吹き付けロックウールによりろ過されてしまい、水しか内部に浸透しないといったことが起こる。
【0019】
また、湿式吹き付けロックウールに封じ込め処理を施す場合には、当該処理によって当該湿式吹き付けロックウールの表面に形成される塗膜に高い不燃性が要求される。
【0020】
すなわち、湿式吹き付けロックウールは、最も新しいタイプの石綿含有吹き付け材であり、高層ビル等の建築物の屋内に施工されていることが多い。そして、その施工場所が、例えば、高層ビルの上層階や、エレベータシャフト等の閉鎖的な空間である場合には、湿式吹き付けロックウールを解体して除去することが実質的に困難となる。
【0021】
このため、湿式吹き付けロックウールに対しては、解体除去することなく、その場で封じ込め処理を施すことが多くなり、しかも屋内であるために比較的高いレベルの不燃性が要求される。しかしながら、従来のアクリル系材料を主成分とする塗膜は、この要求される不燃性を必ずしも十分に満たすことができなかった。
【0022】
さらに、湿式吹き付けロックウールは、封じ込め処理後も継続して高層ビル等の建築物で使用されるため、封じ込め処理によって当該湿式吹き付けロックウールの表面に形成された塗膜は、物が衝突したり、振動するといった負荷を長期間にわたって受け続けることとなる。したがって、この塗膜は、衝突や振動を受けた場合であっても容易には破損しない柔軟性を備える必要がある。
【0023】
本方法は、特に、このような湿式吹き付けロックウールに対して封じ込め処理を行うにあたって生じる特有の問題に鑑みて開発されたものである。
【0024】
図1は、本方法に含まれる主な工程を示す説明図である。図1に示すように、本方法は、石綿含有吹き付け材(以下、単に「吹き付け材」という。)の内部に第一の処理液を浸透させて固化する第一の工程S1と、次いで当該吹き付け材の表面に第二の処理液を塗布して固化することにより当該吹き付け材の表面を覆う塗膜を形成する第二の工程S2と、を含む。
【0025】
第一の工程S1においては、まず吹き付け材の表面から内部までの比較的広い範囲に第一の処理液を浸透させる。すなわち、吹き付け材の表面及び内部に含有される石綿繊維に第一の処理液をなじませる。なお、吹き付け材に第一の処理液を浸透させる方法は特に限られず、例えば、エアレススプレーやローラー刷毛による方法を用いることができる。
【0026】
次に、吹き付け材に含浸された第一の処理液を乾燥させることにより、当該吹き付け材の表面及び内部に含有される石綿繊維の表面及び石綿繊維間で当該第一の処理液を固化させる。すなわち、第一の処理液に含有されていた固形成分によって、石綿繊維の表面を被覆し、また、当該石綿繊維同士を結合させる。
【0027】
この結果、吹き付け材に含有される石綿繊維は当該吹き付け材の表面及び内部に拘束され、その飛散を効果的に防止することができる。
【0028】
第一の処理液は、所定の合成樹脂(以下、「第一ベース樹脂」という。)を主成分として含有する。この第一ベース樹脂は、本方法の対象となる吹き付け材の内部にまで浸透することができ、且つ当該吹き付け材に含有される石綿繊維を効果的に被覆し拘束できるものであれば特に限られず、任意の1種又は2種以上の合成樹脂を適宜選択して用いることができる。
【0029】
すなわち、例えば、石綿繊維との親和性が高い親水性の合成樹脂を好ましく用いることができる。具体的に、第一ベース樹脂としては、例えば、ビニル系合成樹脂やアクリル系合成樹脂を好ましく用いることができる。中でもビニル系合成樹脂を好ましく用いることができ、特にポリビニルアルコールを好ましく用いることができる。
【0030】
また、第一ベース樹脂としては、比較的分子量の小さいものを用いることが好ましい。すなわち、ポリビニルアルコールを用いる場合には、その分子量は、例えば、40000以下とすることが好ましく、20000〜30000とすることが特に好ましい。また、ポリビニルアルコールのけん化度は99%以下であることが好ましい。また、けん化度は、例えば、80%より大きいことが好ましい。したがって、けん化度は、例えば、80%より大きく99%以下であることが好ましく、80%より大きく90%以下であることが特に好ましい。
【0031】
ポリビニルアルコールの分子量又はけん化度の一方又は両方を上述の範囲とすることにより、当該ポリビニルアルコールは湿式吹き付けロックウールのような緻密な構造の内部にまで速やかに浸透することができる。
【0032】
また、第一の処理液は、粘性の比較的低いものが好ましい。このため、第一の処理液における第一ベース樹脂の含有量は、石綿繊維を拘束できる範囲において低減することが好ましい。すなわち、ポリビニルアルコールを用いる場合には、その第一の処理液における濃度は、例えば、5重量%以下とすることが好ましく、1〜4重量%とすることが特に好ましい。
【0033】
また、第一の処理液における固形成分(乾燥後に吹き付け材に固体として残存する成分)の含有量は、例えば、5重量%以下とすることが好ましく、1〜4重量%とすることが好ましい。
【0034】
第一の処理液における分散媒は、第一ベース樹脂を十分に分散できるものであれば特に限られず、例えば、水を好ましく用いることができる。すなわち、第一の処理液は、例えば、上述したようなポリビニルアルコールの水溶液とすることができる。
【0035】
第二の工程S2においては、まず、第一の工程S1における上述の処理が施された吹き付け材の表面に第二の処理液を塗布する。すなわち、吹き付け材の表面及び当該表面近傍の部分(表層部分)に第二の処理液を含浸させる。なお、吹き付け材に第二の処理液を塗布する方法は特に限られず、例えば、エアレススプレーやローラー刷毛による方法を用いることができる。この塗布によって、吹き付け材の表面を覆う第二の処理液の被膜が形成される。
【0036】
次に、吹き付け材に塗布された第二の処理液を乾燥させることにより、当該吹き付け材の表層部分で当該第二の処理液を固化させる。すなわち、第二の処理液に含有されていた固形成分から構成された塗膜を吹き付け材の表層部分に形成する。
【0037】
この塗膜は、吹き付け材の表層部分における繊維間の空隙や孔構造を塞ぐように形成されるため、当該塗膜によって当該吹き付け材に含有される石綿繊維を確実に封じ込めることができる。
【0038】
第二の処理液は、塩素系合成樹脂と非塩素系合成樹脂との共重合樹脂(以下、「第二ベース樹脂」という。)を主成分として含有する。すなわち、第二ベース樹脂は、1種又は2種以上の塩素系合成樹脂のポリマー鎖と、1種又は2種以上の非塩素系合成樹脂のポリマー鎖と、を含む共重合樹脂である。第二ベース樹脂は、例えば、ブロック共重合体、ランダム共重合体又はグラフト共重合体とすることができ、好ましくはブロック共重合体とすることができる。
【0039】
塩素系合成樹脂は、その分子中に塩素原子を1又は2以上含む合成樹脂であれば特に限られない。すなわち、塩素系合成樹脂としては、例えば、塩化ビニル系樹脂や塩化ビニリデン系樹脂等の塩素系ビニル系合成樹脂や、塩化ゴムやクロロプレンゴム等の塩素系ゴムを用いることができる。
【0040】
中でも、塩素系合成樹脂としては、塩化ビニル系樹脂や塩化ビニリデン系樹脂を好ましく用いることができる。すなわち、例えば、塩化ビニル樹脂(ポリ塩化ビニル)や、塩化ビニルを主体とした共重合体を好ましく用いることができ、特にポリ塩化ビニルを好ましく用いることができる。
【0041】
そして、第二ベース樹脂は、塩素を20〜50重量%含有する。この第二ベース樹脂の塩素含有量は、さらに30〜50重量%とすることが好ましく、40〜50重量%とすることがより好ましい。
【0042】
この第二ベース樹脂に含有される塩素は、当該第二ベース樹脂の一部を構成する塩素系合成樹脂に含まれる塩素である。換言すれば、第二ベース樹脂は、その塩素含有量が上述の範囲となるように塩素系合成樹脂を含む。
【0043】
すなわち、第二ベース樹脂の塩素含有量は、例えば、塩素系合成樹脂と非塩素系合成樹脂との配合比や重合度により調整することができる。第二ベース樹脂の塩素含有量を上述の範囲とすることにより、第二の処理液から形成される塗膜に優れた不燃性を付与することができる。
【0044】
また、第二ベース樹脂は、塩素系合成樹脂を50〜80重量%含有することもできる。この第二ベース樹脂における塩素系合成樹脂の含有量は、さらに60〜80重量%とすることが好ましく、70〜80重量%とすることが特に好ましい。塩素系合成樹脂の含有量を上述の範囲とすることにより、第二の処理液から形成される塗膜に優れた不燃性を付与することができる。
【0045】
また、第二の処理液から形成された乾燥状態の塗膜は、塩素を10〜25重量%含有することができる。この塗膜の塩素含有量は、さらに15〜25重量%とすることが好ましく、20〜25重量%とすることが特に好ましい。塗膜の塩素含有量は、第二の処理液の組成や、吹き付け材の表面に塗布する当該第二の処理液の量によって調整することができる。
【0046】
なお、第二の処理液は、塗膜の塩素含有量を高めるため、第二ベース樹脂に加えて、塩素化パラフィン等の他の塩素系化合物を含有することもできる。ただし、この場合であっても、塗膜における第二ベース樹脂に由来する塩素の含有量は、例えば、10〜20重量%とすることができる。
【0047】
非塩素系合成樹脂は、塩素系合成樹脂のみによっては付与できない特性を第二ベース樹脂に付与するために用いることができる。すなわち、非塩素系合成樹脂は、併用される塩素系合成樹脂より柔軟な合成樹脂(以下、「柔軟性樹脂」という。)を含有することができる。なお、ここでいう合成樹脂の柔軟性は、例えば、当該合成樹脂の主鎖を構成する結合の種類等の分子構造に由来する特性である。したがって、柔軟性樹脂は、例えば、その分子構造に基づいて、塩素系樹脂単独の場合に比べて、当該塩素系樹脂と当該柔軟性樹脂とを併用することによって、形成される塗膜の可撓性や衝撃吸収性を増すことのできる合成樹脂として選択することができる。
【0048】
すなわち、柔軟性樹脂は、例えば、第二ベース樹脂に塩素系合成樹脂に加えて当該柔軟性樹脂が含まれることによって、当該塩素系合成樹脂のみから構成される塗膜に比べて、当該第二ベース樹脂から構成される塗膜の柔軟性を向上させることのできる合成樹脂である。この塗膜の柔軟性は、例えば、所定の応力が負荷された場合における当該塗膜の変形しやすさ(例えば、弾性)により評価することができ、変形しやすいほど柔軟性に優れているといえる。この点、例えば、高層ビル等の建築物に施工された湿式吹き付けロックウールを封じ込めるために塗膜を形成した場合には、当該塗膜は、その後、物の衝突や振動といった物理的な負荷を長期間にわたって受け続けることになる。このため、例えば、塗膜が塩素系合成樹脂のみから構成されて柔軟性に乏しい場合には、衝突や振動により容易に破損してしまい、封じ込めの機能を失うこととなる。これに対し、柔軟性樹脂を含む第二ベース樹脂から形成された塗膜は、変形や伸縮により物の衝突による衝撃や振動を吸収することができるため、破損することなく封じ込めの機能を安定して確実に維持し続けることができる。
【0049】
具体的に、この柔軟性樹脂は、例えば、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂及びこれらのうち1種又は2種以上の共重合樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上とすることができる。
【0050】
オレフィン系樹脂としては、例えば、エチレンやブタジエンを用いることができる。ビニル系樹脂としては、例えば、酢酸ビニルや塩化ビニルを用いることができる。アクリル系樹脂としては、例えば、アクリル酸を用いることができる。スチレン系樹脂としては、例えば、スチレンを用いることができる。
【0051】
柔軟性樹脂が2種以上の合成樹脂の共重合樹脂である場合には、例えば、オレフィン系樹脂とビニル系樹脂との共重合樹脂を好ましく用いることができる。すなわち、この場合、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)やエチレン−スチレン−酢酸ビニル共重合体を好ましく用いることができ、中でもエチレン−酢酸ビニル共重合体を特に好ましく用いることができる。
【0052】
第二ベース樹脂がこのような柔軟性樹脂を含むことにより、第二の処理液から形成される塗膜に、不燃性のみならず、優れた柔軟性を付与することができる。
【0053】
上述したような塩素系合成樹脂と柔軟性樹脂とを適切に組み合わせて用いることにより、優れた塗膜を形成可能な第二ベース樹脂及び第二の処理液を得ることができる。すなわち、上述のとおり、吹き付け材の表面に形成される塗膜は、不燃性と柔軟性とを兼ね備えることが好ましい。
【0054】
この点、第二ベース樹脂は、塩素系ビニル系合成樹脂(例えば、塩化ビニル)と、オレフィン系樹脂(例えば、エチレン)、オレフィン系樹脂とビニル系樹脂との共重合樹脂(例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体)及びアクリル系樹脂(例えば、アクリル酸)からなる群より選択される1種又は2種以上の柔軟性樹脂と、の共重合樹脂とすることが好ましい。
【0055】
すなわち、例えば、第二ベース樹脂は、そのポリマー主鎖にポリ塩化ビニル鎖とポリエチレン鎖とを含み、塩化ビニルを50〜80重量%含有し、且つエチレンを15〜30重量%含有する共重合樹脂とすることができる。
【0056】
この場合、さらに、塩化ビニルの含有量として60〜80重量%又は70〜80重量%、エチレンの含有量として15〜30重量%又は20〜30重量%をそれぞれ任意に組み合わせることができる。
【0057】
塩化ビニルの含有量を増加させることにより、塗膜の不燃性を効果的に向上させることができ、エチレンの含有量を増加させることにより、塗膜の柔軟性を効果的に向上させることができる。したがって、第二ベース樹脂に含まれる塩化ビニルとエチレンとの配合比率を制御することによって、塗膜の不燃性と柔軟性とのバランスを調整することができる。
【0058】
また、石綿は水分を含有していることから、封じ込め処理後に吹き付け材から当該水分が蒸発することがある。こうして吹き付け材の内部で発生した水蒸気が、封じ込め処理により形成された塗膜を透過できない場合には、例えば、当該吹き付け材の表面を覆う一部の当該塗膜が膨張し、破断する可能性もある。
【0059】
したがって、この塗膜は、不燃性及び柔軟性に加えて、さらに適度な水蒸気透過性をも備えることが望ましい。この点、ポリ塩化ビニルとポリエチレンとはそれぞれ水蒸気透過性に優れているため、第二ベース樹脂がポリ塩化ビニル鎖とポリエチレン鎖とを含有する場合には、不燃性及び柔軟性に加えて、水蒸気透過性にも優れた塗膜を効果的に形成することができる。
【0060】
また、第二ベース樹脂は、ポリ塩化ビニルとエチレン−酢酸ビニル共重合体とのコポリマー(PVC/EVA)とすることもできる。すなわち、この場合、第二ベース樹脂は、ポリエチレン鎖とポリエチレン鎖とポリ酢酸ビニル鎖とを含む共重合樹脂となる。そして、この第二ベース樹脂もまた、塩化ビニルを50〜80重量%含有し、且つエチレンを15〜30重量%含有することにより、優れた不燃性、柔軟性及び水蒸気透過性を兼ね備えた塗膜を効果的に形成することができる。
【0061】
もちろん、上述のように、塩化ビニルの含有量として60〜80重量%又は70〜80重量%、エチレンの含有量として15〜30重量%又は20〜30重量%をそれぞれ任意に組み合わせることにより、塗膜の不燃性、柔軟性及び水蒸気透過性をさらに向上させることができる。
【0062】
また、長期間にわたって封じ込め処理の効果を維持するためには、塗膜自身の特性に加えて、当該塗膜と、第一の工程S1で形成された石綿繊維を拘束する被膜と、が強固に接着していることが要求される。すなわち、第一の処理液の主成分である第一ベース樹脂と、第二の処理液の主成分である第二ベース樹脂と、は互いに強固に接着できる組み合わせとする必要がある。
【0063】
この点、特に、第一ベース樹脂としてポリビニルアルコールを用い、第二ベース樹脂としてポリ塩化ビニルとエチレン−酢酸ビニル共重合体とのコポリマーを用いることにより、当該第一ベース樹脂と第二ベース樹脂との強固な接着を実現し、吹き付け材の表面に安定した塗膜を形成することができる。
【0064】
また、第二の処理液は、水酸化アルミニウムや硫酸カルシウムといった無機系の難燃剤をさらに含有することもできる。
【0065】
なお、互いに別個に製造された塩素系合成樹脂と柔軟性樹脂とを混合して用いることによって、所定の不燃性と柔軟性とを兼ね備えた塗膜を形成することも考えられる。
【0066】
しかしながら、この場合、不燃性を担保する塩素系合成樹脂の分子と、柔軟性を担保する柔軟性樹脂の分子と、は単に混合されているのみであって互いに独立に存在しているため、これらの混合物から構成される塗膜の耐久性や接着性は必ずしも優れたものとならない。
【0067】
これに対し、本方法で使用する第二ベース樹脂は、塩素系合成樹脂と柔軟性樹脂とを一体的に含む共重合樹脂であるため、当該第二ベース樹脂から構成される塗膜は、不燃性と柔軟性とを一体的に備え、さらに耐久性や接着性といった特性をも極めて優れたものとすることができる。
【0068】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【0069】
[実施例]
第一の処理液としては、第一ベース樹脂としてポリビニルアルコールを4重量%含有し、分散媒として水を95重量%含有する水溶液を用いた。このポリビニルアルコールは、分子量が26800、けん化度が88%であった。
【0070】
第二の処理液としては、第二ベース樹脂としてポリ塩化ビニルとエチレン−酢酸ビニル共重合体とを乳化重合させて製造したコポリマーを23重量%含有し、さらに難燃剤である水酸化アルミニウム及び硫酸カルシウムと、分散媒である水と、を合わせて30重量%含有する水溶液を用いた。
【0071】
この第二ベース樹脂は、塩化ビニルを73重量%、エチレンを24重量%、酢酸ビニルを3重量%含有していた。なお、予備的な試験において、塩化ビニルとエチレンとの配合比を変えた複数種類の第二ベース樹脂を製造し、各第二ベース樹脂を主成分とする処理液を用いて板材や塗膜を製造し、その柔軟性を検討した結果、当該第二ベース樹脂が、塩化ビニルを50〜80重量%含有し、且つエチレンを15〜30重量%含有する場合に、不燃性と柔軟性とのバランスに優れた塗膜を形成できることが確認された。すなわち、塗膜については、まず、木製の型枠(470mm×470mm×40mm)内にロックウール35重量%、ポルトランドセメント15重量%及び水50重量%を含有する組成物を吹き付けて厚さ40mmの吹き付け材を作製した。次いで、この吹き付け材の表面に上述の第二ベース樹脂を主成分とする処理液を塗布して塗膜を形成することにより試験体を作製した。そして、この試験体の塗膜の上に、530gの鋼球を1mの高さから自由落下させ、当該鋼球の衝突により形成されるくぼみの深さと、当該塗膜における破損や脱落の有無を評価した。その結果、塗膜が形成された試験体におけるくぼみの深さは、塗膜が形成されていない吹き付け材に鋼球を衝突させた場合に比べて小さかった。また、この衝撃を受けた後も、塗膜の破損や脱落は見られなかった。なお、塗膜の柔軟性が乏しく衝撃を吸収しきれない場合には、鋼球の衝突によって当該塗膜には破損や脱落が発生することとなる。
【0072】
そして、これら第一の処理液及び第二の処理液を用いて不燃性試験を行った。まず発熱性試験用標準珪酸カルシウム板に第一の処理液を下塗りし、乾燥させ固化させた。次いでこの珪酸カルシウム板に第二の処理液を上塗りし、乾燥させ固化させた。その後、20分の不燃試験を行い、コーンカロリーメータにより総発熱量及び最高発熱速度を測定した。
【0073】
この結果、総発熱量は8MJ/mを超えなかった。また、最高発熱速度は、10秒以上継続して200kW/mを超えることはなかった。すなわち、第一の処理液及び第二の処理液を用いて形成される塗膜は、優れた不燃性を備えることが確認された。具体的には、例えば、建築基準法第2条第9号(不燃材料)の規定に基づく条件を満たしていた。
【0074】
また、第一の処理液及び第二の処理液による飛散防止性を評価した。上述の不燃性試験と同様に、石綿を含有しない湿式吹き付けロックウール耐火被覆材に第一の処理液、第二の処理液を順次塗布し、塗膜を形成した。そして、この塗膜で被覆された耐火被覆材を風洞中で一定の風量に暴露し、飛散する粉塵量を測定した。
【0075】
粉塵はフィルターで捕捉し、顕微鏡下で幅3μm以下、長さ5μm以上、アスペクト比3以上の繊維を計数した。また、比較のために、塗膜を形成しない耐火被覆材についても同様にして粉塵量を測定した。
【0076】
その結果、塗膜を形成しない場合には計数不可能なほど大量の粉塵が発生したが、塗膜を形成した場合の粉塵量は顕著に低減され、定量可能な下限値以下であった。
【0077】
また、第一の処理液の浸透性を評価した。エアレススプレーを用いて所定量の第一の処理液を耐火材(耐火被覆板)に塗布し、当該第一の処理液が浸透した深さを測定した。また、比較のために、アクリル系樹脂を主成分として含有する従来の処理液についても、同様にして浸透深さを測定した。その結果、従来の処理液の浸透深さが約1mmであったのに対し、ポリビニルアルコールを主成分とする第一の処理液の浸透深さは約5mmであった。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の一実施形態に係る石綿含有吹き付け材に含まれる主な工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0079】
S1 第一の工程、S2 第二の工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石綿含有吹き付け材の内部に第一の処理液を浸透させて固化する第一の工程と、
次いで前記石綿含有吹き付け材に第二の処理液を塗布して固化することにより前記石綿含有吹き付け材の表面を覆う塗膜を形成する第二の工程と、
を含み、
前記第二の処理液は、塩素系合成樹脂と非塩素系合成樹脂との共重合樹脂を主成分として含有し、
前記共重合樹脂は、塩素を20〜50重量%含有する
ことを特徴とする石綿含有吹き付け材の処理方法。
【請求項2】
前記共重合樹脂は、前記塩素系合成樹脂を50〜80重量%含有する
ことを特徴とする請求項1に記載された石綿含有吹き付け材の処理方法。
【請求項3】
前記塗膜は、塩素を10〜25重量%含有する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載された石綿含有吹き付け材の処理方法。
【請求項4】
前記非塩素系合成樹脂は、前記塩素系合成樹脂より柔軟な合成樹脂を含有する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載された石綿含有吹き付け材の処理方法。
【請求項5】
前記柔軟な合成樹脂は、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂及びこれらのうち2種又は3種以上の共重合樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上である
ことを特徴とする請求項4に記載された石綿含有吹き付け材の処理方法。
【請求項6】
前記共重合樹脂は、前記柔軟な合成樹脂を15〜30重量%含有する
ことを特徴とする請求項4又は5に記載された石綿含有吹き付け材の処理方法。
【請求項7】
前記共重合樹脂は、塩化ビニルを50〜80重量%含有し、且つエチレンを15〜30重量%含有する
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載された石綿含有吹き付け材の処理方法。
【請求項8】
前記共重合樹脂は、ポリ塩化ビニルとエチレン−酢酸ビニル共重合体とのコポリマーである
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載された石綿含有吹き付け材の処理方法。
【請求項9】
前記第一の処理液は、ポリビニルアルコールを主成分として含有する
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載された石綿含有吹き付け材の処理方法。
【請求項10】
前記石綿含有吹き付け材は、石綿含有湿式吹き付けロックウールである
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載された石綿含有吹き付け材の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−156150(P2010−156150A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334977(P2008−334977)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】