説明

石膏ボードおよびその製造方法

【課題】 石膏ボードの性能を損なうことなく調湿性を向上させる。
【解決手段】 調湿材24が配合された原紙20と、原紙20に一体接合された石膏層30とを備える石膏ボード10であり、原紙20に配合された調湿材24が優れた調湿機能を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、建築物の壁材などとして利用される石膏ボードと、このような石膏ボードの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】石膏ボードは、石膏のスラリーをボード状に成形し硬化および乾燥させて製造される。防火性や遮音性に優れた建築材料として、建築物の壁面材などに広く利用されている。住宅等の壁面に湿気が溜まったり結露が生じたりするのを防止するために、石膏ボードに吸放湿性あるいは調湿性を付与することが提案されている。
【0003】実開昭63−125527号公報、特開平1−230456号公報には、石膏ボードの原料に調湿性に優れた木炭や活性炭、セピオライトなどの粉粒体を配合しておく技術が示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところが、石膏ボードの原料である石膏スラリーに調湿性を向上させるための粉粒体を配合しておくと、石膏ボードの製造が難しくなるという問題がある。調湿性の粉粒体が石膏スラリーの配合成分と反応を起こして石膏スラリーを変質させたり、石膏スラリーの配合成分の分散性を低下させたり、石膏スラリーの流動性を低下させたりすることがある。また、調湿性の粉粒体を含有していることで、石膏ボードの機械的強度や耐久性が低下したり、石膏ボードの優れた防火性が損なわれることがある。石膏スラリーに調湿材を均質に混合するのに手間がかかり作業性が悪くなる。
【0005】特に、調湿性を高めるために前記粉粒体の配合量を増加させると、上記問題が顕著に表れてくる。本発明の課題は、石膏ボードの性能を損なうことなく調湿性を向上させることである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明に係る石膏ボードは、調湿材が配合された原紙と、原紙に一体接合された石膏層とを備える。以下に各構成について具体的に説明する。
〔調湿材〕調湿材は、周囲の環境との湿度の違いによって、内部に水分を取り込む吸湿性と内部の水分を外部に放出する放湿性とが可逆的に発揮される材料である。通常の建築材料などに利用されている調湿材が用いられる。
【0007】調湿材は、石膏ボード用の原紙を抄造などで製造する際に含有させておくことのできる材料が好ましい。微細な粉粒体であれば、原紙に含有させ易い。粉粒体として、粒度2mm以下のものが好ましい。粉粒体として、微細な孔を有する多孔質材料が好ましい。調湿材として、以下の物質が使用できる。ゼオライト、セピオライトを包含する多孔質鉱物。木炭、活性炭、パルプスラッジ炭、フェライト入り炭を包含する炭。塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、ケイ酸ソーダを包含する潮解性化合物。イソブチレン無水マレイン酸系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、グラフト化デンプンを包含する不溶性高吸水性樹脂。グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルアルコール、ポバール、CMC、ポリエチレンオキサイド、澱粉を包含する水溶性高分子。アタバルジャイト、モンモリロナイト、ゾノトライト、活性白土を包含する粘土鉱物。珪藻土。シリカゲル。これらの物質群の中から、少なくとも1種、必要に応じて複数種を組み合わせて使用することができる。
【0008】調湿材は、原紙に対して50重量%以下の割合で配合されているのが好ましい。調湿材の配合量が少なすぎると調湿効果が十分に発揮できず、調湿材の配合量が多すぎると、原紙の製造が行い難くなる。調湿材として、調湿機能の他に脱臭機能や防カビ機能などを有する材料を用いることもできる。
【0009】調湿材となる粉粒体として、粉粒炭、各種木材あるいは木質材の炭化物、食品,パルプ,紙などの廃棄物を炭化処理したものなど、各種の炭化物を用いることができ、調湿性および脱臭性に優れたものとなる。食品廃棄物は、人体に対する安全性に優れている。食品廃棄物として、コーヒー、茶、おから、食物等を用いることができる。
【0010】粉粒体として、天然鉱物や人工的に合成された無機物を用いることができ、防火性に優れたものとなる。無機物からなる多孔質の粉粒体として、原紙にバランスの採れた調湿性能と脱臭性能を付与するには、例えば平均細孔半径が20〜100Åで比表面積が20〜200m2/gのもの、好ましくは20〜60Åで比表面積が20〜200m2/gのものが使用される。
【0011】粉粒体の形状は、粉末状および/または粒状であれば、不定形、球状、棒状、楕円球状などいずれでも良い。粉粒炭としては、原紙にバランスの採れた調湿性能と脱臭性能を付与するという点を考慮すると、たとえばその平均細孔半径が1.5〜100Åで比表面積が50〜600m2/gのもの、好ましくはその平均細孔半径が10〜50Åで比表面積が100〜300m2/gのものが使用される。
【0012】粉粒炭と前記無機物からなる多孔質の粉粒体とを組み合わせることで、バランスのとれた調湿性能および脱臭性能が発揮できる。無機多孔質粉粒体と粉粒炭との合計量に対する粉粒炭の割合は、20〜80重量%であることが好ましい。粉粒炭の割合が80重量%を越えるときには、吸湿した水分をなかなか放出せず、調湿性能の欠如をきたし、結露発生などの問題が生じる。粉粒炭の割合が20重量%未満では、粉粒炭に顕著な効果である、脱臭効果や地球に対するマイナスイオン効果、人間に対する健康的な環境の維持効果などの改善が行い難い。
【0013】粉粒炭および無機多孔質粉粒体のいずれか一方または両方に、日本工業規格Z8801で規定する5mmの篩を通過するものを用いることができる。
〔原紙〕通常の石膏ボード用の原紙が使用できる。原紙を抄造する際に、原紙材料のスラリー中に調湿材を配合しておくことで、抄造後に乾燥した原紙中に調湿材が分散して配置された状態になる。
【0014】原紙に配合する調湿材の量は、原紙および調湿材の材質、要求性能等によって異なるが、通常は、原紙に対して調湿材を50重量%以下の割合で配合しておくのが好ましい。調湿材が多くなり過ぎると、原紙の製造が困難になり、原紙の機械的強度などの特性が低下する。
〔石膏層〕通常の石膏ボードを構成する材料が用いられる。具体的には、焼き石膏を主原料とし、必要に応じて各種の混和材を加え、さらに水を加えて攪拌混合して石膏スラリーを調製し、この石膏スラリーを板状その他の所定の形状に成形し、硬化および乾燥させることで石膏層が形成される。石膏スラリーを成形する際に、前記した原紙が用いられる。
【0015】混和材としては、通常の石膏ボードと同様に、おが屑やパルプ、パーライトなどが用いられる。混和材として、前記した原紙に配合したのと同様の調湿材を用いることができる。但し、調湿材を配合する場合、石膏スラリーの調製および石膏ボードの製造に支障を来さず、石膏ボードの性能を損なわない材料および配合量を採用する必要がある。石膏層の全体に占める調湿材の割合は、5〜60%の範囲が好ましい。
【0016】〔石膏ボード〕前記した石膏層と原紙とからなる石膏ボードの形状や構造は、通常の石膏ボードと同様にすることができる。板状をなす石膏層の片面もしくは両面に原紙を配置することができる。石膏層の外周に筒状の原紙を配置することもできる。石膏層の外面に加えて、石膏層の内部にも原紙を介在させることができる。
【0017】石膏ボードを製造するには、予め準備された原紙の上に、石膏スラリーを層状に供給することで、原紙上に石膏スラリーの成形体を形成し、原紙に石膏スラリー成形体を支持したままの状態で、石膏スラリーからの水分の除去や硬化および乾燥を行う。その結果、石膏スラリー成形体からなる石膏層に原紙が一体接合された石膏ボードが得られる。
【0018】石膏スラリー成形体の両面に原紙を配置すれば、石膏層の両面に原紙が配置された石膏ボードが得られる。筒状に配置された原紙の中央に石膏スラリーを押出成形すれば、筒状の原紙で囲まれた石膏層を有する石膏ボードが能率的に得られる。石膏ボードには、石膏層および原紙のほかに別の材料からなる層を積層しておくことができる。
【0019】〔透湿仕上げ材〕原紙の外面側に、透湿性を有する仕上げ材を積層しておくことができる。透湿仕上げ材は、石膏ボードの外観性を高め、石膏ボードを室内壁面の内装仕上げ材として利用可能にする。透湿仕上げ材として、紙や布などのシート材を用いることができる。これらのシート材は、通気性を有する接着剤を用いて原紙の表面に接着しておくことができる。
【0020】透湿仕上げ材として、通気性塗料による塗膜が採用できる。透湿仕上げ材として、原紙に配合された調湿材の機能を十分に生かすために、1000g/m2 ・24hr以上の透湿性を有する材料が好ましい。透湿仕上げ材の具体例として、ナイロンやポリエステル等の合成樹脂繊維からなる通気性織布、多数のピンホールを貫通形成した塩ビクロス、素材自体が吸放湿性を有する羊毛や絹、綿などを用いた織布から作製された壁紙が挙げられる。
【0021】〔防湿層〕石膏ボードの外面のうち1部の面に、湿気の通過を遮断する防湿層を配置しておくことができる。防湿層として、防湿性を有する合成樹脂フィルム、防湿性塗膜などが用いられる。
【0022】石膏ボードの外面のうち、少なくとも一部の面には原紙が露出して配置されていなければ、原紙が有する調湿機能が発揮できない。原紙の表面に配置された透湿仕上げ材が外面に露出していてもよい。防湿層は、石膏ボードの外面のうち、原紙を露出させて調湿機能を発揮させる面以外の面であって、その面を湿気の通過を遮断する必要がある面に配置しておく。例えば、住宅の壁面に石膏ボードを施工する場合、室内側に調湿機能を発揮させる原紙を配置し、その反対面側に防湿層を配置する。これにより、壁の内部空間に湿気が浸入したり、壁の内部空間から室内側へと湿気が通過することを阻止できる。
【0023】
【発明の実施の形態】本発明について具体的に説明する。図1に示す石膏ボード10は、中央に厚い板状をなす石膏層30が配置され、その外周に筒状の原紙20が一体接合されている。原紙20は、パルプなどの紙繊維22と、紙繊維22の三次元網目構造の内部に取り込まれた調湿材の粉粒体24とで構成されている。
【0024】図2に示す石膏ボード10は、板状の石膏層30の片面のみに原紙20が配置されている。原紙20の反対面には防湿層40が配置されている。原紙20の外面には透湿仕上げ材50が配置されている。このような構造の石膏ボード10は、住宅の壁面材として使用できる。室内側に原紙20および透湿仕上げ材50を配置し、壁内部側に防湿層40を配置する。室内の湿気が高くなると、湿気が透湿仕上げ材50を通過して原紙20に吸湿されて、室内に湿気が溜まるのを防ぐ。室内の湿気が低くなると、原紙20に保持されていた湿気が透湿仕上げ材50を通過して室内に供給され、室内の湿度を上げる。その結果、室内の湿気が一定に保たれる。石膏ボード10の壁内部側には防湿層40が配置されているので、原紙20に吸湿された湿気が壁内部側に浸入することが阻止される。また、壁内部側で発生したり室外から壁内部側に浸入した湿気が、室内側に通過することも、防湿層40によって良好に阻止されることになる。
【0025】図3は、石膏ボード10の製造方法を示し、予め準備された原紙20をコンベアなどに載せて一定方向に走行させながら、原紙20の上方に、予め調製された石膏スラリー32を供給していく。石膏スラリー32は一定の厚みで堆積して板状になる。石膏スラリー32の上に別の原紙20を供給すれば、石膏スラリー32の両面に原紙20を配置することもできる。石膏スラリー32は経時とともに自ら硬化する。石膏スラリー32の成形体がある程度まで硬化すれば、石膏スラリー32を原紙20とともに適当な寸法に裁断したり加工したりすることが可能になる。
【0026】石膏スラリー32を原紙20とともに乾燥機などに送り込んで乾燥させれば、石膏層30と原紙20とが一体接合された石膏ボード10が得られる。前記した防湿層40や透湿仕上げ材50は、石膏スラリー32の成形時に原紙20とともに配置しておき、石膏スラリー32の硬化乾燥とともに一体接合されるようにしてもよいし、硬化あるいは乾燥した石膏ボード10に接着などの手段で接合することもできる。
【0027】
【発明の効果】本発明の石膏ボードは、原紙に配合された調湿材が周囲の環境中に含まれる湿気を吸収したり放出したりすることによって、環境の湿度を一定に維持することができる。原紙は紙繊維で構成される三次元網目構造の内部に粉粒体などからなる調湿材を十分な量で確実に保持しておけるとともに、調湿材への湿気の流通を良好に行わせることができる。建築物の壁面等に使用したときに、室内環境などに近い位置に配置される原紙に調湿材が配合されるので、環境変化に対応して迅速な調湿作用が発揮できる。原紙は、石膏ボードの製造上必要とされる部材であるから、調湿機能を持たせるための特別な構造部材を付加する必要がない。石膏層に大量の調湿材を配合しておく必要がないので、石膏ボードの基本的な特性を低下させる心配がない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態を表す石膏ボードの断面図
【図2】別の実施形態を表す石膏ボードの断面図
【図3】石膏ボードの製造工程を表す概略断面図
【符号の説明】
10 石膏ボード
20 原紙
22 紙繊維
24 調湿材粉粒体
30 石膏層
40 防湿層
50 透湿仕上げ材

【特許請求の範囲】
【請求項1】調湿材が配合された原紙と、前記原紙に一体接合された石膏層とを備える石膏ボード。
【請求項2】前記調湿材が、ゼオライト、セピオライトを包含する多孔質鉱物と、木炭、活性炭、パルプスラッジ炭、フェライト入り炭を包含する炭と、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、ケイ酸ソーダを包含する潮解性化合物と、イソブチレン無水マレイン酸系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、グラフト化デンプンを包含する不溶性高吸水性樹脂と、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルアルコール、ポバール、CMC、ポリエチレンオキサイド、澱粉を包含する水溶性高分子と、アタバルジャイト、モンモリロナイト、ゾノトライト、活性白土を包含する粘土鉱物と、珪藻土と、シリカゲルとからなる群から選択された少なくとも1種である請求項1に記載の石膏ボード。
【請求項3】前記調湿材が、前記原紙に対して50重量%以下の割合で配合されている請求項1または2に記載の石膏ボード。
【請求項4】前記調湿材が、粒度2mm以下の粉粒体である請求項1〜3の何れかに記載の石膏ボード。
【請求項5】前記調湿材が、前記石膏層にも配合されている請求項1〜4の何れかに記載の石膏ボード。
【請求項6】前記原紙の外面側に、湿気を通過させる透湿仕上げ材が配置されている請求項1〜5の何れかに記載の石膏ボード。
【請求項7】前記石膏ボードの外面のうち、一部の面には前記原紙または原紙の外面側に配置された前記透湿仕上げ材が露出して配置され、残りの面には、湿気の通過を遮断する防湿層が配置されている請求項1〜6の何れかに記載の石膏ボード。
【請求項8】請求項1〜7に記載の石膏ボードを製造する方法であって、前記調湿材が配合された原紙を準備する工程と、前記石膏層の原料となる石膏スラリーを準備する工程と、前記石膏スラリーを前記原紙に支持させ、その状態のままで石膏スラリーを硬化および乾燥させて石膏層を構成し、石膏層と原紙とが一体接合された石膏ボードを得る工程とを含む石膏ボードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2000−45450(P2000−45450A)
【公開日】平成12年2月15日(2000.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−215451
【出願日】平成10年7月30日(1998.7.30)
【出願人】(000004673)ナショナル住宅産業株式会社 (319)
【出願人】(390008431)高砂工業株式会社 (53)
【Fターム(参考)】