説明

石膏ボードの製造方法及び調湿石膏ボード

【課題】石膏ボードの原紙として、板紙の表面に印刷絵柄を施し、その上から、耐磨耗性及び耐テープ剥離性などの表面物性を有する程度の厚みのクリヤー層を形成してなる石膏ボード用原紙を使用した場合であっても、石膏ボードの製造時における乾燥時間を短くすることができる生産効率が良い石膏ボードの製造方法を提供すること。
【解決手段】2枚の石膏ボード用原紙の間に焼石膏スラリーを挟み込み、所定形状に成形し、硬化した後、乾燥させる石膏ボードの製造方法において、上記石膏ボード用原紙の少なくとも1枚が、板紙の表面に印刷絵柄層とクリヤー層とがこの記載の順序により積層されてなり、且つ、上記クリヤー層が、特定の多孔質皮膜形成水分散型組成物から形成されていることを特徴とする石膏ボードの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧仕上げしてなる石膏ボードの製造方法及び調湿石膏ボードに関する。
【背景技術】
【0002】
石膏ボードは、一般に、2枚の石膏ボード用原紙の間に石膏芯材となる石膏スラリーを挟み込み板状に成形、硬化した後、乾燥工程を通し、所定の寸法にカットして製造される。石膏ボードは、防火性、断熱性、施工性及び経済性などが優れることから、建築物の構成材料として広く使用されている。又、近年、住宅などの高気密化を原因とする結露などに対処するため、調湿性を有する調湿石膏ボードも使用され始めている。
【0003】
これらの石膏ボードを壁、天井又は収納などの内装仕上げ材として使用する場合、石膏ボードの製造時において、表面に印刷絵柄を施した石膏ボード用原紙を使用し、石膏ボードに意匠性を付与する。更に、この化粧を施した石膏ボードに使用される上記の原紙には、内装仕上げ材として必要な表面物性を付与するために、印刷絵柄層の面上に樹脂組成物により形成されるクリヤー層が設けられている。
【0004】
しかしながら、従来のクリヤー層は、透湿性及び透気性が低い樹脂皮膜で構成されていたため、石膏ボードの製造時の乾燥工程において、石膏スラリー中の余剰水分が、乾燥して大気中に放出するのを阻害する要因となって、乾燥に長時間を要し、上記クリヤー層を設けた石膏ボードの生産効率は良いとは言い難かった。
【0005】
特に、調湿石膏ボードに印刷絵柄層とクリヤー層を設けた場合においては、下記に述べる理由から、乾燥に長時間を要する傾向が強い。調湿石膏ボードの多くは、例えば、特許文献1に記載された石膏ボードのように、石膏芯材中に吸放湿性材料を含有させることで、調湿性、更にはガス吸着性を石膏芯材に付与させている。そして、この吸放湿性材料が製造時の乾燥工程前に多量に水分を吸収してしまうため、一般の石膏ボードに比べて、更に長時間の乾燥が必要となり、調湿石膏ボードの生産効率を著しく悪くし、このことがコスト上昇の要因となっていた。
【0006】
更に、この化粧を施した調湿石膏ボードのクリヤー層の形成に従来の樹脂組成物を用いた場合には、石膏芯材に付与された調湿性、更にはガス吸着性を上記クリヤー層が阻害してしまうため、付与した性能が十分に発揮されないという問題があった。
【0007】
上記したこれらの課題に対して、石膏ボード用原紙の表面に形成するクリヤー層の膜厚を、大幅に薄くし、該クリヤー層の透湿性及び透気性を向上させる方法が考えられる。しかしながら、この場合には、得られる石膏ボードの表面物性、例えば、耐磨耗性及び耐テープ剥離性などが不十分となり、内装仕上げ材としての基本的な機能が損なわれるという問題が生じる。
【0008】
【特許文献1】特開2005−247635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、石膏ボードの原紙として、板紙の表面に印刷絵柄を施し、その上から、耐磨耗性及び耐テープ剥離性などの表面物性を有する程度の厚みのクリヤー層を形成してなる石膏ボード用原紙を使用した場合であっても、石膏ボードの製造時における乾燥時間を短くすることができる生産効率が良い石膏ボードの製造方法を提供することにある。又、本発明の目的は、意匠性、耐磨耗性及び耐テープ剥離性などの表面物性、調湿性、更にはガス吸着性に優れた調湿石膏ボードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の本発明により解決される。即ち、本発明は、2枚の石膏ボード用原紙の間に石膏芯材となる焼石膏と水とを主成分とする石膏スラリーを挟み込み、所定形状に成形し、硬化した後、乾燥させる石膏ボードの製造方法において、上記石膏ボード用原紙の少なくとも1枚が、板紙の表面に印刷絵柄層とクリヤー層とがこの記載の順序により積層されてなり、且つ、上記クリヤー層が多孔質皮膜形成水分散型組成物により形成されており、該多孔質皮膜形成水分散型組成物が、粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子及び水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとを主成分とし、上記皮膜形成水性エマルジョンが、α,β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、上記コロイダルシリカが、上記合成樹脂粒子の1/3以下の粒径を有し、更に、該コロイダルシリカの配合量が、上記合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である構成を有することを特徴とする石膏ボードの製造方法である。
【0011】
又、本発明の石膏ボードの製造方法は、前記印刷絵柄層が、多孔質皮膜形成水分散型組成物をバインダーとする印刷インキにより形成されており、該多孔質皮膜形成水分散型組成物が、粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子及び水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとを主成分とし、上記皮膜形成水性エマルジョンが、α,β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、上記コロイダルシリカが、上記合成樹脂粒子の1/3以下の粒径を有し、更に、該コロイダルシリカの配合量が、上記合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である構成を有することが好ましい。
【0012】
又、本発明は、2枚の石膏ボード用原紙の間に石膏芯材となる焼石膏と水とを主成分とする石膏スラリーを挟み込み、所定形状に成形し、硬化した後、乾燥させる石膏ボードの製造方法において、上記石膏ボード用原紙の少なくとも1枚が、板紙の表面に印刷絵柄層とクリヤー層とがこの記載の順序により積層されてなり、且つ、上記クリヤー層が多孔質皮膜形成水分散型組成物により形成されており、該多孔質皮膜形成水分散型組成物が、固形分量が60〜95質量%の樹脂エマルジョンと、固形分量が5〜40質量%の透湿性付与剤とを含有する構成を有することを特徴とする石膏ボードの製造方法である。
【0013】
本発明の石膏ボードの製造方法は、前記印刷絵柄層が、多孔質皮膜形成水分散型組成物をバインダーとする印刷インキにより形成されており、該多孔質皮膜形成水分散型組成物が、固形分量が60〜95質量%の樹脂エマルジョンと、固形分量が5〜40質量%の透湿性付与剤とを含有する構成を有することが好ましい。
【0014】
本発明の石膏ボードの製造方法は、前記クリヤー層の平均膜厚が、2〜50μmであることが好ましい。
【0015】
又、本発明は、2枚の石膏ボード用原紙間に、吸放湿性材料を含有する石膏芯材を狭持してなる調湿石膏ボードにおいて、上記石膏ボード用原紙の少なくとも1枚が、板紙の表面に印刷絵柄層とクリヤー層とがこの記載の順序により積層されてなり、且つ、上記クリヤー層が多孔質皮膜形成水分散型組成物により形成されており、該多孔質皮膜形成水分散型組成物が、粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子及び水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとを主成分とし、上記皮膜形成水性エマルジョンが、α,β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、上記コロイダルシリカが、上記合成樹脂粒子の1/3以下の粒径を有し、更に、該コロイダルシリカの配合量が、上記合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である構成を有することを特徴とする調湿石膏ボードである。
【0016】
本発明の調湿石膏ボードは、前記印刷絵柄層が、多孔質皮膜形成水分散型組成物をバインダーとする印刷インキにより形成されており、該多孔質皮膜形成水分散型組成物が、粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子及び水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとを主成分とし、上記皮膜形成水性エマルジョンが、α,β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、上記コロイダルシリカが、上記合成樹脂粒子の1/3以下の粒径を有し、更に、該コロイダルシリカの配合量が、上記合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である構成を有することが好ましい。
【0017】
又、本発明は、2枚の石膏ボード用原紙間に、吸放湿性材料を含有する石膏芯材を狭持してなる調湿石膏ボードにおいて、上記石膏ボード用原紙の少なくとも1枚が、板紙の表面に印刷絵柄層とクリヤー層とがこの記載の順序により積層されてなり、且つ、上記クリヤー層が多孔質皮膜形成水分散型組成物により形成されており、該多孔質皮膜形成水分散型組成物が、固形分量が60〜95質量%の樹脂エマルジョンと、固形分量が5〜40質量%の透湿性付与剤とを含有する構成を有することを特徴とする調湿石膏ボードである。
【0018】
本発明の調湿石膏ボードは、前記印刷絵柄層が、多孔質皮膜形成水分散型組成物をバインダーとする印刷インキにより形成されており、該多孔質皮膜形成水分散型組成物が、固形分量が60〜95質量%の樹脂エマルジョンと、固形分量が5〜40質量%の透湿性付与剤とを含有する構成を有することが好ましい。
【0019】
本発明の調湿石膏ボードは、前記クリヤー層の平均膜厚が、2〜50μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、石膏ボードの製造に用いる石膏ボードの原紙として、板紙の表面に印刷絵柄を施し、その上から耐磨耗性及び耐テープ剥離性などの表面物性を有する程度のクリヤー層を形成してなる石膏ボード用原紙を使用した場合に、従来と比べて乾燥時間を短くすることができる生産効率の改善された石膏ボードの製造方法が提供される。又、本発明によれば、意匠性、耐磨耗性及び耐テープ剥離性などの十分な表面物性、調湿性、更にはガス吸着性に優れた調湿石膏ボードを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、発明の好ましい形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
本発明者らは、従来の樹脂組成物によりクリヤー層を形成した石膏ボード用原紙を用いた石膏ボードの製造方法における課題を解決すべく鋭意検討した結果、後述する多孔質皮膜形成水分散型組成物によって形成されたクリヤー層を有する石膏ボード用原紙を使用することにより、十分な表面物性を有する化粧仕上げがされた石膏ボードの製造効率を向上させることができることを見出した。即ち、後述する多孔質皮膜形成水分散型組成物によって形成された皮膜は、孔径が0.01〜0.5μm程度の微細な孔が均一に形成された多孔質の連続皮膜となる。このため、該皮膜で構成されたクリヤー層を有する石膏ボード用原紙は、透湿性及び透気性に優れたものとなるので、該石膏ボード用原紙を用いて石膏ボードを製造した場合には、製造時における乾燥時間が従来と比べて短くできる。又、上記皮膜は、ある程度厚膜に形成した場合にも、厚さ方向に連続した微細な孔が形成されるので、上記原紙を用いて形成された石膏ボードは、透湿性及び透気性を維持しながら、石膏ボードに耐磨耗性及び耐テープ剥離性などの十分な表面物性が付与されたものとなる。
【0022】
以下、本発明の石膏ボードの製造方法について説明する。
本発明の石膏ボードの製造方法は、2枚の石膏ボード用原紙の間に石膏芯材となる焼石膏と水とを主成分とする石膏スラリーを挟み込み、所定形状に成形し、硬化した後、乾燥させる石膏ボードの製造方法において、後述の多孔質皮膜形成水分散型組成物によりクリヤー層を形成した石膏ボード用原紙を用いることを特徴とする。従って、本発明の石膏ボードの製造方法は、特定の石膏ボード用原紙を用いること以外は従来公知の石膏ボードの製造方法と基本的に変わりはなく、上記の製造方法において、使用する2枚の石膏ボード用原紙のうちの少なくとも1枚に、後述の多孔質皮膜形成水分散型組成物によりクリヤー層を形成した石膏ボード用原紙を使用し、石膏ボードを製造すればよい。
【0023】
更に、本発明の石膏ボードの製造方法は、石膏芯材中に吸放湿性材料を含有してなる調湿石膏ボードの製造において特に有効である。つまり、上記吸放湿性材料は、多量に水分を吸収することから、石膏ボードの製造時における乾燥工程前の段階において、調湿石膏ボードは、通常の石膏ボードより含有水分が多いため、調湿石膏ボードの製造工程における乾燥時間の短縮により得られる効果が大きい。
【0024】
本発明を特徴づける石膏ボード用原紙は、板紙上に印刷絵柄層とクリヤー層とがこの記載の順序により積層されてなり、上記クリヤー層が、後述の多孔質皮膜形成水分散型組成物により形成されている。後述の多孔質皮膜形成水分散型組成物により形成された皮膜は、先に述べたように、一様な微細な孔が多数形成されてなる多孔質の連続皮膜であり、該皮膜により構成されたクリヤー層は、適宜な透湿性及び透気性を有するものとなる。又、板紙は元来透湿性及び透気性を有するため、このクリヤー層が設けられた石膏ボード用原紙自体が透湿性及び透気性を有するものとなる。このため、上記石膏ボード用原紙を使用して石膏ボードを製造すれば、製造時における乾燥時間の短縮を図ることができる。又、上記原紙の印刷絵柄層の形成に使用するインキのバインダーに、クリヤー層の形成に用いるのと同様の多孔質皮膜形成水分散型組成物を使用することにより、更に、原紙の透湿性及び透気性を高めることができ、前記課題を解決することができる。
【0025】
上記板紙は、特にその構造について、特に制限はなく、例えば、表層及び裏層のみからなる2層構造、表層、中層及び裏層からなる3層構造などの板紙を使用することができる。又、上記各層は、2層以上からなる積層構造とすることもできる。該板紙の裏層は、石膏芯材に接着され、表層には、印刷絵柄層とクリヤー層とが積層されている。
【0026】
上記板紙の原料としては、特に制限はなく、従来公知である何れのものも用いることができる。例えば、クラフトパルプ、クラフトパルプ古紙、新聞古紙、雑誌古紙、段ボール古紙又は脱墨古紙などを用いることができ、これらは単独でも組み合わせても使用できる。又、上記板紙は、例えば、上記原料を使用し、多層抄き抄紙機を用いて常法により抄造することなどにより製造される。
【0027】
上記板紙の坪量は、特に限定はないが、100g/m2〜350g/m2であることが好ましい。100g/m2未満では、石膏ボード用原紙としての強度が弱いものとなり、又、350g/m2を超えるものでは、コストパフォーマンスが悪くなる。更に、板紙の坪量は、原紙の透湿性及び透気性の点も考慮に入れると、100g/m2〜250g/m2であることが、特に好ましい。
【0028】
上記印刷絵柄層は、板紙の表面に設けられ、印刷絵柄層は、石膏ボードに意匠性を付与する。印刷絵柄層は、バインダーに顔料などを添加してなるインキを用いて、公知の印刷方式、例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷などにより形成される。又、印刷絵柄層を形成する印刷インキのバインダーは、印刷絵柄層が、原紙の透湿性及び透気性に影響が少ない程度の小面積で形成される場合は、特に制限はなく、従来公知のインキ用バインダーを用いることができる。原紙の透湿性及び透気性を、更に向上させる点から、後述する多孔質皮膜形成水分散型組成物をインキのバインダーとして用いることがより好ましい。特に、例えば、全面ベタ印刷などにより、印刷絵柄層が大面積に形成される場合は、通常のバインダーを用いたインキでは原紙の透湿性及び透気性が著しく阻害されるため、後述する多孔質皮膜形成水分散型組成物をインキのバインダーとして使用することが好ましい。又、インキ中の顔料は、特に限定されず、公知の顔料を用いることができ、更に、インキは、必要とされる特性に応じて、粘度調整剤、充填剤などの添加剤を含むことができる。
【0029】
上記クリヤー層は、後述する多孔質皮膜形成水分散型組成物を用いて、板紙の印刷絵柄層上に形成される。先に述べたように該組成物で形成されたクリヤー層は多孔質であることから、石膏ボード用原紙の透湿性及び透気性を確保することができる。又、該組成物の塗布量を多くし、クリヤー層を適宜な厚さに形成することにより、該原紙に優良な表面物性、例えば、高い耐磨耗性、耐テープ剥離性などを透湿性及び透気性と併せて付与することができる。又、上記組成物の塗工方法は、特に制限はなく、従来公知の方法を使用でき、例えば、グラビアコート、ロールコート、スプレーコートなどを用いることができる。上記組成物を塗布した後の乾燥は、自然乾燥でも、人工的に加熱乾燥してもよいが、上記組成物中の共重合体(樹脂)の最低造膜温度以上であることが好ましい。又、上記組成物により形成されたクリヤー層の平均膜厚は、2μm以上50μm以下であることが好ましい。上記平均膜厚が2μm未満の場合は、上記範囲内と比べて耐磨耗性及び耐テープ剥離性が劣ったものとなる。一方、クリヤー層の膜厚が厚く形成された場合であっても、透湿性及び透気性を確保することができるが、上記平均膜厚が50μmを超える場合は、石膏ボードのコストパフォーマンスが悪いものとなる。更には、上記クリヤー層の平均膜厚が4μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0030】
本発明において、クリヤー層の形成、或いは必要に応じて印刷絵柄層形成用インキのバインダーとして用いる多孔質皮膜形成水分散型組成物について詳細に説明する。該組成物の実施形態の1つは、粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子と水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとを主成分とし、上記皮膜形成水性エマルジョンが、α,β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、上記コロイダルシリカが、合成樹脂粒子の1/3以下の粒径を有し、該コロイダルシリカの配合量が、合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である構成を有する。上記構成を有する多孔質皮膜形成水分散型組成物は、例えば、特公平7−110906号公報に開示されており、自ら合成することもできるし、市販のもの(例えば、商品名:モビニール8020、ニチゴー・モビニール社製)を使用することができる。
【0031】
上記構成の多孔質皮膜形成水分散型組成物は、該組成物中の合成樹脂粒子がシラン基を有し、コロイダルシリカと結合している。そして、該組成物が乾燥して皮膜を形成する際、コロイダルシリカによって合成樹脂粒子が部分的に融着を阻害され、コロイダルシリカで包囲された空孔が生じ、多孔質皮膜が形成される。上記多孔質皮膜の空孔は、合成樹脂粒子の粒径によってコントロールされ、粒径は、0.03μm〜10μmの範囲内で、大きければ大きな空孔が得られ、小さければ小さな空孔が得られる。又、均一な空孔を得るためには合成樹脂粒子は、ほぼ均一な粒径であることが好ましい。
【0032】
又、コロイダルシリカの粒径は、合成樹脂粒子の1/3以下の粒径である必要があり、1/3を超える粒径のコロイダルシリカを用いても多孔質皮膜を得ることができない。特に好ましくは、コロイダルシリカの粒径は、0.01μm以下である。又、コロイダルシリカの配合量は、合成樹脂粒子を被覆する質量の0.5〜30倍であることを要し、該配合量が、0.5倍未満の場合や30倍を超える場合においては、空孔が得られないか、均一に空孔を得ることができない。
【0033】
上記皮膜形成水性エマルジョンは、α,β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化剤の存在下で、重合触媒を用いて乳化重合することによって得られる。又、上記エマルジョンは、アクリルシラン又はビニルシランの代わりに官能基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体を用いて乳化重合して得たエマルジョンに該官能基と反応性を有するシラン化合物を反応させる方法によっても得ることができる。合成樹脂中にシラン基が均一に存在するよりも、共重合体粒子の表面近く(外部)により多く存在する方が、コロイダルシリカに対する反応性がより大きくなるため、この点を考慮すると、後者の方法で得たエマルジョンが好ましい。
【0034】
上記α,β−エチレン性不飽和単量体としては、特に制限はなく、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルへキシルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどのメタクリル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン、メチルスチレン、クロルスチレンなどの1種又は2種以上を用いることができる。特に、ガラス転移温度の高い単量体と低い単量体を組み合わせた単量体が好適である。
【0035】
前記単量体は、他の単量体と共重合させることができ、例えば、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジエチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル以外の不飽和カルボン酸エステル或いは不飽和多価カルボン酸エステル、酢酸ビニル、2−プロピオン酸ビニルなどのα−位で分岐した飽和カルボン酸のビニルエステルなどのビニルエステル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレンなどの1種又は2種以上を用いることができる。
【0036】
官能基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸又は不飽和多価カルボン酸誘導体、アクリルアミドなどの不飽和カルボン酸アミド、N−メチロールアクリルアミドなどのN−メチロール不飽和カルボン酸アミド、グリシジルアクリレートなどの不飽和グリシジル化合物、アルキロール化不飽和化合物、フタル酸ジアリル、ジビニルベンゼン又はジアリル化合物などの1種又は2種以上である。官能基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体は、α,β−エチレン性不飽和単量体の30質量%以下において併用できる。
【0037】
上記アクリルシラン、又は、ビニルシランとしては、加水分解型のものが好適であり、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどを用いることができ、特に共重合性の点からγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが好ましい。上記アクリルシラン又はビニルシランの使用割合は、α,β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとの合計質量を100質量部とした場合に、0.5〜15質量部が適当である。好ましくは、2.0〜10質量部である。
【0038】
上記乳化剤としては、例えば、アルキルアリルスルホサクシネートのアルカリ塩、アルキルフェニルエーテルスルホン酸のナトリウム塩などの重合性乳化剤又は非重合性乳化剤を用いることができるが、最終的に形成される多孔質皮膜の耐水性の点から、重合性乳化剤が好ましい。重合性乳化剤の使用量は、全単量体100質量部に対して0.5〜10質量部が適当であり、好ましくは1〜5質量部である。
【0039】
乳化重合の方法としては、特に限定はなく、単量体の仕込み方式が回分方式でも、連続送入方式でもよい。又、一部を先に重合した後、残部を連続的に送入する方式でもよい。連続的に送入する単量体は、そのままでもよいが、水と乳化剤を用いて単量体乳化液として送入する方式はきわめて好適である。又、皮膜形成水性エマルジョンの製造は、高温重合又はレドックス重合を用いることができる。
【0040】
前記反応性を有するシラン化合物としては、アミノシラン及び/又はエポキシシランが用いられる。アミノシランは、グリシジル基又はカルボキシル基を導入した共重合体の水性エマルジョンに対して特に有効であり、例えば、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシランなどを用いることができる。又、エポキシシランは、アミノ基又はカルボキシル基を導入した共重合体水性エマルジョンに対して特に有効であり、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキサン)エチルトリメトキシシランなどを用いることができる。
【0041】
前記コロイダルシリカとしては、コロイド状に水に分散させた超微粒子シリカゾル、又は超微粒子粉末シリカなどを挙げることができる。
【0042】
前記多孔質皮膜形成水分散型組成物の別の実施態様は、該組成物が、固形分量が60〜95質量%の樹脂エマルジョンと、固形分量が5〜40質量%の透湿性付与剤とを含有する構成を有するものである。
【0043】
上記構成の多孔質皮膜形成水分散型組成物における上記樹脂エマルジョンの配合量(固形分)が、60質量%未満の場合は、該組成物により形成されるクリヤー層の表面物性(耐磨耗性など)が不十分となり、95質量%を超える場合は、上記クリヤー層の透湿性及び透気性が不十分となる。又、上記透湿性付与剤の配合量(固形分)が、5質量%未満の場合は、上記クリヤー層の透湿性及び透気性が不十分となり、40質量%を超える場合は、上記クリヤー層のタックが強くなるので好ましくない。
【0044】
上記樹脂エマルジョンを構成する樹脂としては、特に制限はなく、例えば、酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂(EVA系樹脂)、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂又はアクリルシリコン系樹脂などを挙げることができ、これらの群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0045】
上記透湿性付与剤とは、該透湿性付与剤を含有する上記構成の上記組成物により形成される皮膜を多孔質の連続皮膜とし、透湿性及び透気性を付与するための材料のことである。
【0046】
上記透湿性付与剤としては、例えば、珪酸リチウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム又は珪酸セシウムなどのアルカリ金属珪酸塩を主成分とした水ガラス、シリコーン樹脂エマルジョン、ステアリン酸カルシウム又はステアリン酸アルミニウムなどを挙げることができる。好ましくは、水ガラスである。更には、形成される皮膜の耐水性が良好である珪酸リチウムを主成分とした水ガラスが特に好ましい。又、上記透湿性付与剤は、固体状、水溶液又は水分散の形態で使用できる。
【0047】
上記した多孔質皮膜形成水分散型組成物には、該組成物から形成される皮膜の透湿性及び透気性を損なわない量であれば、着色剤、増粘剤、防腐剤、防触剤、蛍光剤、芳香剤、消臭剤などの添加剤を適宜配合することができる。
【0048】
本発明の調湿石膏ボードは、2枚の石膏ボード用原紙間に、吸放湿性材料を含有する石膏芯材を狭持してなる調湿石膏ボードにおいて、上記石膏ボード用原紙の少なくとも1枚が、板紙の表面に印刷絵柄層とクリヤー層とがこの記載の順序により積層されてなり、且つ、上記クリヤー層が、上記の多孔質皮膜形成水分散型組成物から形成されていることを特徴とする。上記調湿石膏ボードは、クリヤー層が特定の多孔質皮膜で形成されているため、耐磨耗性及び耐テープ剥離性などの表面物性を付与できる膜厚でクリヤー層を形成しても、優れた調湿性やガス吸着性を示す。又、上記印刷絵柄層を形成する印刷インキのバインダーとして、上記多孔質皮膜形成水分散型組成物を用いてなる、本発明の調湿石膏ボードは、更に、調湿性やガス吸着性が向上したものとなる。又、上記調湿石膏ボードのクリヤー層の平均膜厚は、2μm以上50μm以下であることが好ましい。より好ましい上記平均膜厚は、4μm以上30μm以下である。
【0049】
本発明の調湿石膏ボードに使用する吸放湿性材料は、調湿性及び/又はガス吸着性を有する材料であり、従来公知である何れのものも用いることができる。例えば、珪質頁岩、活性炭、ゼオライト又はシリカゲルなどを使用することができ、これらは単独でも組み合せても使用できる。又、上記石膏ボードは、石膏芯材中に、種々の添加剤、例えば、減水剤、石膏硬化調整剤、補強繊維、発泡剤、軽量骨材又は接着助剤などを添加してもよい。
【実施例】
【0050】
以下に実施例、比較例及び参考例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記の実施例によって限定されるものではない。
【0051】
<多孔質皮膜形成水分散型組成物の作製>
アクリル酸ブチル70質量部、メタクリル酸メチル30質量部からなる混合単量体を、アルキルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム(非重合性乳化剤)2質量部を水107質量部に溶解した水溶液中に滴下して、乳化重合し、混合単量体の残りが5分の1となった時点より、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン5質量部も滴下して乳化重合して、シラン基を含有する合成樹脂粒子と水で構成された皮膜形成水性エマルジョン(固形分濃度50質量%、樹脂粒径0.6μm)を得た。
【0052】
次に、得られた皮膜形成水性エマルジョン76質量部(固形分)に、固形分濃度40質量%、粒径0.05μmのコロイダルシリカ水性液24質量部(固形分)を加えて均一に攪拌し、コロイダルシリカを配合してなる多孔質皮膜形成水分散型組成物1(固形分47.2質量%)を得た。尚、コロイダルシリカの配合量は合成樹脂粒子を被覆する質量の1倍であった。
【0053】
次に、得られた皮膜形成水性エマルジョン70質量部(固形分)に、珪酸リチウムからなる水ガラス30質量部(固形分)を加えて均一に攪拌し、水ガラスを配合してなる多孔質皮膜形成水分散型組成物2を得た。
【0054】
次に、得られた皮膜形成水性エマルジョン80質量部(固形分)に、珪酸リチウムからなる水ガラス20質量部(固形分)を加えて均一に攪拌し、水ガラスを配合してなる多孔質皮膜形成水分散型組成物3を得た。
【0055】
<石膏ボード用原紙の製造>
坪量200g/m2の板紙に、グラビア印刷機を用いて透湿性及び透気性を有する程度の小面積の印刷絵柄層を形成した。次いで、上記印刷絵柄層の面上にロールコーターを用いて上記多孔質皮膜形成水分散型組成物1(固形分47.2質量%)を乾燥後の平均膜厚が4μmとなるように塗布し、乾燥温度50℃にて30分間乾燥して、クリヤー層を形成することにより石膏ボード用原紙1を作製した。
【0056】
次に、上記の多孔質皮膜形成水分散型組成物1の塗布量を、上記平均膜厚が4μmとなる塗布量から上記平均膜厚が10μm、20μm、30μm又は50μmとなる塗布量に、それぞれ変更して、その他は石膏ボード用原紙1と同様の条件にて、石膏ボード用原紙2〜5を作製した。
【0057】
次に、石膏ボード用原紙1における多孔質皮膜形成水分散型組成物1を、前記多孔質皮膜形成水分散型組成物2に変更し、又、該組成物2の塗布量を、該組成物2を塗布・乾燥した後の平均膜厚が4μm、10μm、20μm、30μm又は50μmとなる塗布量とし、他は石膏ボード用原紙1と同様の条件にて石膏ボード用原紙6〜10を作製した。
【0058】
次に、石膏ボード用原紙1における多孔質皮膜形成水分散型組成物1を、前記多孔質皮膜形成水分散型組成物3に変更し、又、該組成物3の塗布量を、該組成物3を塗布・乾燥した後の平均膜厚が4μm、10μm、20μm、30μm又は50μmとなる塗布量とし、他は石膏ボード用原紙1と同様の条件にて石膏ボード用原紙11〜15を作製した。
【0059】
次に、石膏ボード用原紙1における多孔質皮膜形成水分散型組成物1を、前記皮膜形成水性エマルジョン(アクリル系樹脂のエマルジョン)に変更し、又、該エマルジョンの塗布量を、該エマルジョンを塗布・乾燥した後の平均膜厚が4μm、10μm、20μm、30μm又は50μmとなる塗布量とし、他は石膏ボード用原紙1と同様の条件にて石膏ボード用原紙16〜20を作製した。尚、石膏ボード用原紙1におけるクリヤー層を形成していない原紙を作製し、石膏ボード用原紙21とした。
【0060】
得られた石膏ボード用原紙1〜21について、下記の試験を行った。得られた結果を表1〜4に示す。尚、後述の表中における「○」は優れる、「△」は良好である、「×」は不良であることを示す。
【0061】
(耐磨耗性試験)
石膏ボード用原紙の表面を、テーバー磨耗試験機(磨耗輪CS−17、荷重500g)を用いて1,000回転後の状態を目視により確認し、下記の基準にて評価した。
○:摩耗跡又は傷がない。
△:やや摩耗跡又は傷がある。
×:顕著な摩耗跡又は傷がある。
【0062】
(耐テープ剥離性試験)
セロハンテープを石膏ボード用原紙のクリヤー層に圧着した後、90度の角度で強く剥離してクリヤー層の状態を目視により確認し、下記の基準にて評価した。
○:クリヤー層がほとんど剥離していない。
△:クリヤー層が少し剥離している。
×:クリヤー層の大部分が剥離している。
【0063】
(透気度試験)
石膏ボード用原紙の透気度をJISP8117に準拠した方法により測定した。
【0064】
(透湿性試験)
石膏ボード用原紙の透湿性をJISA1324カップ法に準拠した方法により測定した。
【0065】

【0066】

【0067】

【0068】

※原紙17〜20の透気度試験は、石膏ボード用原紙の透気性が悪く計測できなかった。
【0069】
以上の試験により、多孔質皮膜形成水分散型組成物によりクリヤー層を形成した石膏ボード用原紙1〜15は、耐磨耗性及び耐テープ剥離性が良好であり、又透気性及び透湿性が優れていることが確認された。一方、皮膜形成水性エマルジョン(アクリル系樹脂のエマルジョン)によりクリヤー層を形成した石膏ボード用原紙16〜20は、耐磨耗性及び耐テープ剥離性が良好であるが、透気性及び透湿性が不十分であることが確認され、又、クリヤー層を形成していない石膏ボード用原紙21は、透気性及び透湿性が良好であるが、耐磨耗性及び耐テープ剥離性が不十分であることが確認された。
【0070】
<石膏ボードの製造及び評価>
(製造時の乾燥性試験)
上記で作製した石膏ボード用原紙1を、300mm×300mmのサイズにし、印刷絵柄面を下向きにして台上に敷いた。次に、この原紙1の四方端部に12mm×12mm×300mmのアクリル樹脂製押え板を配置して300mm角の箱形状を作成した。この箱形状内に焼石膏70質量部、珪質頁岩30質量部及び水150質量部を混合した石膏スラリーを流し込み、その上から、300mm×300mmの石膏ボード用原紙1を、印刷絵柄面を上向きになるようにして敷き、上記石膏スラリーを硬化(石膏と上記原紙1が接着した状態)させた。得られた厚さ12mm、幅300mm×300mmである未乾燥状態の石膏ボード1を50mm×50mmのサイズにし、この四方の側部をアルミテープでシールして側部における透湿性及び透気性を遮断し、石膏ボード1の試験体とした。得られた試験体の質量(W0)を測定後、200℃の熱風乾燥機に入れて上記試験体を乾燥させた。一定間隔で上記試験体の質量(Wn)を測定し、下記の計算式で質量減少率(%)を算出した。得られた結果を表5に示す。
質量減少率(%)=(Wn−W0)/W0×100
【0071】
又、石膏ボード用原紙2〜4、6〜9、11〜14、16〜19及び21についても、上記石膏ボード用原紙1の場合と同様にして、石膏ボード2〜4、6〜9、11〜14、16〜19及び21の試験体を作製し、質量減少率(%)を算出した。得られた結果を表5〜8に示す。
【0072】

【0073】

【0074】

【0075】

【0076】
以上の製造時の乾燥性試験により、多孔質皮膜形成水分散型組成物によりクリヤー層を形成した石膏ボード用原紙を用いて石膏ボードを製造した場合、上記原紙が耐磨耗性、耐テープ剥離性を有する程度のクリヤー層を形成しているにもかかわらず、製造時に乾燥が効率良く行うことができることが確認された。又、上記原紙を用いて作製された調湿石膏ボードは、上記原紙の透気度及び透湿性の試験結果が良好であることからして、石膏芯材中に含有された吸放湿性材料が有する調湿性及びガス吸着性を有効に発揮させることができるといえる。
【0077】
[他の実施例]
坪量200g/m2の板紙に、前記多孔質皮膜形成水分散型組成物1(固形分47.2質量%)をバインダーとするインキにより、フレキソ印刷機を用いて全面ベタ印刷の印刷絵柄層を形成した後、前記多孔質皮膜形成水分散型組成物1を用いてクリヤー層を形成して石膏ボード用原紙22を得た。その後、前記方法と同様の条件にて石膏ボード22を作成した。上記石膏ボード用原紙22又は上記石膏ボード22について、前記と同様にして、耐磨耗性、耐テープ剥離性、透気度、透湿性及び製造時の乾燥性試験を行ったところ、全ての評価項目において良好な結果が得られた。
【0078】
又、坪量200g/m2の板紙に、前記多孔質皮膜形成水分散型組成物2をバインダーとするインキにより、フレキソ印刷機を用いて全面ベタ印刷の印刷絵柄層を形成した後、前記多孔質皮膜形成水分散型組成物2を用いてクリヤー層を形成して石膏ボード用原紙23を得た。その後、前記方法と同様の条件にて石膏ボード23を作成した。上記石膏ボード用原紙23又は上記石膏ボード23について、前記と同様にして、耐磨耗性、耐テープ剥離性、透気度、透湿性及び製造時の乾燥性試験を行ったところ、全ての評価項目において良好な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、石膏ボードの原紙として、板紙の表面に印刷絵柄を施し、その上から耐磨耗性及び耐テープ剥離性などの表面物性を有する程度のクリヤー層を形成してなる石膏ボード用原紙を使用することで、石膏ボードの製造時における乾燥時間を短縮でき、生産効率が良い石膏ボードの製造方法を提供することができる。又、本発明によれば、意匠性、耐磨耗性及び耐テープ剥離性などの表面物性、調湿性、更にはガス吸着性に優れた調湿石膏ボードを提供することができる。従って、本発明により製造された石膏ボードは、壁、天井又は収納などの内装仕上げ材として好適に、しかも低コストで使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の石膏ボード用原紙の間に石膏芯材となる焼石膏と水とを主成分とする石膏スラリーを挟み込み、所定形状に成形し、硬化した後、乾燥させる石膏ボードの製造方法において、上記石膏ボード用原紙の少なくとも1枚が、板紙の表面に印刷絵柄層とクリヤー層とがこの記載の順序により積層されてなり、且つ、上記クリヤー層が多孔質皮膜形成水分散型組成物により形成されており、該多孔質皮膜形成水分散型組成物が、粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子及び水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとを主成分とし、上記皮膜形成水性エマルジョンが、α,β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、上記コロイダルシリカが、上記合成樹脂粒子の1/3以下の粒径を有し、更に、該コロイダルシリカの配合量が、上記合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である構成を有することを特徴とする石膏ボードの製造方法。
【請求項2】
前記印刷絵柄層が、多孔質皮膜形成水分散型組成物をバインダーとする印刷インキにより形成されており、該多孔質皮膜形成水分散型組成物が、粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子及び水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとを主成分とし、上記皮膜形成水性エマルジョンが、α,β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、上記コロイダルシリカが、上記合成樹脂粒子の1/3以下の粒径を有し、更に、該コロイダルシリカの配合量が、上記合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である構成を有する請求項1に記載の石膏ボードの製造方法。
【請求項3】
2枚の石膏ボード用原紙の間に石膏芯材となる焼石膏と水とを主成分とする石膏スラリーを挟み込み、所定形状に成形し、硬化した後、乾燥させる石膏ボードの製造方法において、上記石膏ボード用原紙の少なくとも1枚が、板紙の表面に印刷絵柄層とクリヤー層とがこの記載の順序により積層されてなり、且つ、上記クリヤー層が多孔質皮膜形成水分散型組成物により形成されており、該多孔質皮膜形成水分散型組成物が、固形分量が60〜95質量%の樹脂エマルジョンと、固形分量が5〜40質量%の透湿性付与剤とを含有する構成を有することを特徴とする石膏ボードの製造方法。
【請求項4】
前記印刷絵柄層が、多孔質皮膜形成水分散型組成物をバインダーとする印刷インキにより形成されており、該多孔質皮膜形成水分散型組成物が、固形分量が60〜95質量%の樹脂エマルジョンと、固形分量が5〜40質量%の透湿性付与剤とを含有する構成を有する請求項3に記載の石膏ボードの製造方法。
【請求項5】
前記クリヤー層の平均膜厚が、2〜50μmである請求項1〜4の何れか1項に記載の石膏ボードの製造方法。
【請求項6】
2枚の石膏ボード用原紙間に、吸放湿性材料を含有する石膏芯材を狭持してなる調湿石膏ボードにおいて、上記石膏ボード用原紙の少なくとも1枚が、板紙の表面に印刷絵柄層とクリヤー層とがこの記載の順序により積層されてなり、且つ、上記クリヤー層が多孔質皮膜形成水分散型組成物により形成されており、該多孔質皮膜形成水分散型組成物が、粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子及び水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとを主成分とし、上記皮膜形成水性エマルジョンが、α,β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、上記コロイダルシリカが、上記合成樹脂粒子の1/3以下の粒径を有し、更に、該コロイダルシリカの配合量が、上記合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である構成を有することを特徴とする調湿石膏ボード。
【請求項7】
前記印刷絵柄層が、多孔質皮膜形成水分散型組成物をバインダーとする印刷インキにより形成されており、該多孔質皮膜形成水分散型組成物が、粒径0.03〜10μmの合成樹脂粒子及び水で構成された皮膜形成水性エマルジョンとコロイダルシリカとを主成分とし、上記皮膜形成水性エマルジョンが、α,β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョンであり、上記コロイダルシリカが、上記合成樹脂粒子の1/3以下の粒径を有し、更に、該コロイダルシリカの配合量が、上記合成樹脂粒子を完全に被覆する質量の0.5〜30倍である構成を有する請求項6に記載の調湿石膏ボード。
【請求項8】
2枚の石膏ボード用原紙間に、吸放湿性材料を含有する石膏芯材を狭持してなる調湿石膏ボードにおいて、上記石膏ボード用原紙の少なくとも1枚が、板紙の表面に印刷絵柄層とクリヤー層とがこの記載の順序により積層されてなり、且つ、上記クリヤー層が多孔質皮膜形成水分散型組成物により形成されており、該多孔質皮膜形成水分散型組成物が、固形分量が60〜95質量%の樹脂エマルジョンと、固形分量が5〜40質量%の透湿性付与剤とを含有する構成を有することを特徴とする調湿石膏ボード。
【請求項9】
前記印刷絵柄層が、多孔質皮膜形成水分散型組成物をバインダーとする印刷インキにより形成されており、該多孔質皮膜形成水分散型組成物が、固形分量が60〜95質量%の樹脂エマルジョンと、固形分量が5〜40質量%の透湿性付与剤とを含有する構成を有する請求項8に記載の調湿石膏ボード。
【請求項10】
前記クリヤー層の平均膜厚が、2〜50μmである請求項6〜9の何れか1項に記載の調湿石膏ボード。

【公開番号】特開2008−132689(P2008−132689A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321238(P2006−321238)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(506106866)株式会社自然素材研究所 (21)
【出願人】(000199245)チヨダウーテ株式会社 (23)
【出願人】(000113148)ニチゴー・モビニール株式会社 (24)
【Fターム(参考)】