説明

石膏ボード及びその製造方法

【課題】 茶成分を配合した抗菌性、消臭性の石膏ボードの製造において硬化阻害を抑制し、耐燃性を保持した石膏ボードを提供する。
【解決手段】 含水茶葉の圧搾液を配合した石膏スラリーを調製し、ボード状に成形して硬化及び乾燥して石膏ボードを得る。又は、吸水性を有する鉱物に茶由来のポリフェノールを含有する水性液を含浸し、この鉱物を配合した石膏スラリーを調製し、ボード状に成形して硬化及び乾燥する。圧搾液中の茶成分は粒径が7〜360μmの粒子中に存在し分散する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消臭性、抗菌性を有する石膏ボード及びその製造方法に関する。より詳しくは、茶成分の配合によって硬化阻害を起こすことなく消臭性、抗菌性が付与され、加熱乾燥による消臭性、抗菌性の損失が抑制された石膏ボード及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の健康飲料指向の高まりによって茶系飲料の需要が伸び、その有効成分について研究が進んでいる。中でも、緑茶から抽出される緑茶ポリフェノールの一種であるカテキンは、抗菌性その他の優れた性質を有し、様々な分野での利用が試みられている。その一つに、石膏ボードがあり、下記特許文献1には、緑茶抽出カテキンを石膏ボード用原紙及び石膏の何れか一方又は双方に含有した抗菌消臭石膏ボードが記載されている。又、下記特許文献2には、緑茶葉や茶の成分を配合した石膏ボード等の内装建材が記載されている。
【特許文献1】特開平11−303303号公報
【特許文献2】特開2001−348968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記特許文献1のように緑茶から抽出・調製されるカテキンを石膏に配合した場合、スラリー状の石膏を板材等に成形する際に硬化阻害を起こし易い。この理由として、カテキンが石膏の硬化遅延剤のひとつとして挙げられているタンニンの一種であるために、同様に硬化阻害が起こり易くなることが考えられる(参考文献:関谷道雄著「石膏」、218頁、株式会社技報堂)。これを防止するには、硬化阻害が起こらない程度に緑茶抽出カテキンの配合量を少なくする必要があり、満足な抗菌、消臭機能を石膏ボードに付与できない。従って、この方法では、市場ニーズに応えられる製品は得られず、石膏ボード製造の実生産ラインには適さない。
【0004】
他方、上記特許文献2の緑茶葉を用いる場合、茶葉の有機繊維質がそのまま配合されるため、石膏ボードの特徴である耐燃性に悪影響を及ぼす。又、固体粒子である茶葉を用いると、分散性が悪く、成分が偏在するので、抗菌、消臭機能がボード表面で効率よく発揮されない。更に、石膏ボード原紙に茶葉由来のシミが現れ、製品価値も低下する。これらを改善するには、乾燥緑茶葉の分散性を高めるために微粉砕した後に石膏中に配合することが考えられるが、粉砕工程のコスト及び手間が問題となる。また、緑茶乾燥粉砕物は水分を吸収して膨張するため、石膏ボード中で所望の粒径の茶葉になるように緑茶乾燥物の粉砕を制御して耐燃性への影響を無くすのは困難である。
【0005】
上記のように、緑茶抽出カテキンや茶葉を石膏に配合する方法では、緑茶の有効成分の機能を十分に活用できず、石膏の硬化阻害や耐燃性の低下を招くため、硬化時間が安定し、耐燃性を有する抗菌・消臭石膏ボードが得られる石膏ボードの製造方法は知られていなかった。
【0006】
本発明は、茶の有効成分を石膏ボードに配合し、安定した硬化時間で、好適な抗菌性、消臭性を発揮し耐燃性を保持した石膏ボードを提供することを課題とする。
【0007】
又、本発明は、茶の有効成分が配合されて好適な抗菌性、消臭性を発揮し耐燃性を保持した石膏ボードを、低コスト且つ安定した硬化時間で提供可能な石膏ボードの製造方法を提供することを課題とする。
【0008】
又、本発明は、抗菌性、消臭性を有し、耐燃性を保持した石膏ボードを提供するに当たり、茶系飲料の製造残渣の有効利用に貢献し、地球環境に与える負荷を低減可能な石膏ボードの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、石膏の耐燃性に影響を与えることなく石膏中の茶の有効成分を保護する手法を開発し、石膏の硬化阻害を起こすことなく茶の有効成分による抗菌性、消臭機能を十分に活用できる石膏ボードの提供を実現した。
【0010】
本発明の一態様によれば、石膏ボードの製造方法は、含水茶葉の圧搾液を配合した石膏スラリーを調製し、該石膏スラリーをボード状に成形して硬化及び乾燥することを要旨とする。
【0011】
又、本発明の他の態様によれば、石膏ボードの製造方法は、茶由来のポリフェノールを含有し粒径が7〜360μmである粒子を含む水性液を調製し、前記水性液を配合した石膏スラリーを調製し、該石膏スラリーをボード状に成形して硬化及び乾燥することを要旨とする。
【0012】
更に、本発明の他の態様によれば、石膏ボードの製造方法は、吸水性を有する鉱物に茶由来のポリフェノールを含有する水性液を含浸し、前記鉱物を配合した石膏スラリーを調製し、該石膏スラリーをボード状に成形して硬化及び乾燥することを要旨とする。
【0013】
本発明の石膏ボードは、上記の製造方法に従って製造される。
【0014】
又、本発明の一態様によれば、石膏ボードは、石膏と、ポリフェノールが含浸された粒状の吸水性を有する鉱物とを含有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
硬化阻害を起こすことなく茶の有効成分を配合して、抗菌性、消臭性を有する石膏ボードの製造方法が確立され、耐燃性を保持し好適な抗菌・消臭性を発揮する石膏ボードが提供される。石膏ボードの提供に際し、茶系飲料の製造残渣の有効利用、地球環境に与える負荷の低減に貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
緑茶に含まれるカテキンは、抗菌性及び消臭性を有し、カテキンを配合して製品を製造することによって製品に抗菌性及び消臭性を付与することができる。消臭性成分については、カテキンだけでなく、それ以外の緑茶成分にも存在する。又、ウーロン茶やコーヒー等にも消臭性成分は含まれる。
【0017】
抗菌性及び消臭性を石膏ボードに付与するために上述のような緑茶の有効成分を石膏スラリーに配合すると、石膏の硬化阻害が起こる。これは、タンニン(硬化阻害物質)の一種であるカテキンが石膏と作用することによる。又、石膏ボードの加熱乾燥によって有効成分の抗菌、消臭機能が低下するが、これは、有効成分が受ける熱による影響によるものと考えられる。ウーロン茶等の他種の茶の成分を配合して消臭性を付与する場合も、茶に含まれるタンニンによって同様に硬化阻害が起こり、加熱乾燥時の機能低下が起こる。従って、これらを防止するには、石膏中で有効成分を保護する手段が必要となる。茶葉そのものを石膏に配合した場合、有効成分を包含する茶葉が保護手段の役割をするが、茶葉はサイズの大きい有機繊維質であるため、石膏の耐燃性を損なうことになる。
【0018】
そこで、石膏の耐燃性を損なわない保護手法について模索した結果、第1の手法として、吸水性を有する鉱物で有効成分を物理的に保護することが有効であることが見出された。つまり、有効成分を吸水性鉱物に導入して石膏に配合することにより、有効成分は吸水性鉱物に保護され、石膏との作用及び乾燥時の流出が抑制される。保護手段が鉱物であることにより、石膏の耐燃性が損なわれることもない。
【0019】
また、緑茶の有効成分を石膏に配合する形態について検討した結果、有効成分を保護する第2の手法として、カテキン製剤のような抽出精製により総ポリフェノールの濃度を高めたものではなく、ポリフェノール以外の成分も多く共存するものを用いることが有効であることが判明した。具体的には、含水茶葉を圧搾して茶葉中の成分を押し出した圧搾液を用いた時に、石膏の硬化阻害が好適に防止され、緑茶の有効成分が極めて効率よく機能する。特に、茶飲料を抽出した後の抽出残である含水茶葉残渣を圧搾した圧搾液が有効である。
【0020】
圧搾液を用いた第2の手法において緑茶の有効成分が保護されるメカニズムとして、第1に、液に含まれる有効成分がカテキン製剤より比較的大きい粒子の形態で分散しており、石膏とタンニンとの接触面積が減少するため、石膏との作用や、外部からの影響により機能が損なわれる割合が減少することがある。緑茶抽出液から精製されたカテキン製剤は、水に溶解すると水中に分散するが、圧搾液にはカテキンを含むポリフェノール類に加えて他の様々な抽出成分が共存し、しかも、圧搾によって極めて微細な茶葉粒子が茶葉残渣から放出される。これらは粒径が7〜360μm程度の粒子を構成している(45μm前後が多い)。
【0021】
第2のメカニズムとして、茶葉粒子中に存在するポリフェノールが、微細な茶葉粒子によって外部との作用が遮断され、物理化学的に保護される。
【0022】
従って、第2の手法に従って石膏に配合すれば、抗菌性や消臭性が残存する割合が高まる。又、飲料製造用の抽出液(第1煎)は、抽出液中のタンニン含有割合が高いため、石膏と作用する割合も高くなり、硬化阻害を起こし易い。従って、有効成分と脂溶性成分その他との割合、及び、分散粒子の大きさのいずれにおいても、茶葉抽出液よりも、抽出後の茶残渣を圧搾した圧搾液の方が格段に有効であり、経済的、環境的にも有利である。第2の手法において石膏ボードに配合された有効成分が機能を良好に発揮し、硬化阻害が好適に抑制されるためには、液中の有効成分を含む粒子において、粒径が7〜360μmである必要がある。
【0023】
このように、飲料抽出残渣である茶殻の圧搾液を利用して安価に抗菌・消臭性石膏ボードを製造でき、しかも、飲料工場等から多量に排出され年々増加する含水茶葉残渣の有効利用の促進に貢献できる。含水茶葉残渣は、放置しておくと腐敗や成分の劣化等が起こるので適切な処理を必要とし、水分率が非常に高い残渣を処理する処理装置の負担を軽減するためにも、通常、茶葉残渣の圧搾脱水が行われる。この脱水廃液は、廃液処理に大型処理プラントを必要とし、多額の経費がかかるため、有機性廃棄物の処理・有効利用の負担となるが、脱水廃液を石膏ボードの製造原料として利用することによって、このような廃液処理をする必要がなくなり、茶葉残渣に残存する有効成分を活用して機能を付加した石膏ボードが提供できる。
【0024】
廃液処理を必要とする飲料製造廃液には、紅茶、ウーロン茶等の狭義の茶(茶樹を原料とする茶)やコーヒー、穀物茶等の製造における脱水廃液(つまり残渣圧搾液)もある。これらの脱水廃液は、ポリフェノール類や消臭機能成分を含んでいるので、消臭性石膏ボードの製造原料として同様に利用できる。又、それら以外の飲料製造廃液は、消臭や抗菌等の機能成分を含まなくても、脂溶性成分の微細粒子を含むので、緑茶の脱水廃液に他の飲料の脱水廃液を混合して用いてもよい。あるいは、脱水廃液にカテキンを添加して抗菌・消臭性石膏ボードの製造に用いてもよい。又、荒茶製造工程で生じるライン洗浄水等のポリフェノールを含む廃液を添加してもよい。
【0025】
以下に、上記第1及び第2の手法に基づく抗菌・消臭性石膏ボードの製造方法について各々説明する。
【0026】
基本的な石膏ボードは、焼石膏及び水に必要に応じて接着補強剤、硬化調整剤、比重調整剤等の添加剤を加えて混合し、得られた石膏スラリーを2枚のボード原紙間に流し込んで所望の厚さの板状に成形し、石膏の水和による硬化が終了した後、熱風により乾燥して残留水分を除去することによって製造される。添加剤の例として、接着補強剤はデンプン系接着補強剤等、比重調整剤は界面活性剤(高級アルコールのエチレンオキシド付加物、高級アルコールの酸化エチレン付加体のアルカリ金属塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸塩等)、硬化調整剤は硬化促進剤(硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウム等の無機酸塩、微粉二水石膏)及び硬化遅延剤(ゼラチン、ニカワ、アラビアゴム、分解ケラチン等のコロイド及び高分子量の物質、カルボン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、エチレンジアミンテトラ酢酸塩、ホウ酸塩、アルカリ性炭酸塩、硫酸塩、ショ糖等の低分子量の物質)が挙げられる。抗菌・消臭性石膏ボードを製造するには、緑茶の有効成分を含有する石膏スラリーを調製し、これを用いて基本的な石膏ボードと同様に成形、乾燥すればよい。上記第1又は第2の手法に基づいて有効成分を含有する石膏スラリーを調製する方法を以下に説明する。尚、用語「茶葉」は、上記有効成分を含む茶樹組織を意味し、「葉」以外の部分でもよく、茎茶、棒茶等を排除するものではない。
【0027】
上記第1の手法によれば、緑茶有効成分を含有する水性液を吸水性鉱物に接触させて浸透させることによって有効成分を吸水性鉱物に含浸し、これを焼石膏等の原料と混合することにより石膏スラリーを調製する。石膏スラリー中で有効成分は吸水性鉱物によって保護されるので、緑茶有効成分を含有する水性液は、どのように調製されたものでも使用可能であり、カテキン製剤の水溶液、緑茶葉の熱水抽出液及び緑茶残渣圧搾液のいずれを用いてもよい。荒茶製造工程で生じるライン洗浄水等も緑茶ポリフェノールを含み、良好に使用できる。又、緑茶抽出液や緑茶残渣圧搾液等の濃縮液又は乾燥物から再調製される水性液を吸水性鉱物に含浸してもよく、緑茶有効成分を含有する水性液である限り、他の茶飲料製造における洗浄水や脱水廃液を利用したものでもよい。
【0028】
上記第1の手法に従って使用する吸水性鉱物は、200〜1300g/100g程度の吸水能を有する鉱物が好ましく、例えば、パーライトのような鉱石発泡体や珪藻土のような微細孔を有する多孔質鉱物、ロックウールのようなスラグを綿状に加工した繊維質鉱物などが挙げられる。複数種の上記鉱物を組み合わせて用いてもよい。吸水性鉱物は、粒状もしくは粉状に調製して緑茶有効成分の含浸に用いる。鉱物の粒径が850μmを越えると、緑茶有効成分を含浸した時に固液分離を起こし易くスラリー状にならないため、石膏ボードへの配合量を正確に制御できない。従って、850μm以下となるように粒度を整えるのが好ましい。又、7μm未満の鉱物粒子の製造は鉱物粉砕時の費用が問題となるが、このような微粉砕は必要ではなく、粒径が7〜850μmの範囲の粒子が実用的に好適である。
【0029】
上記第2の手法によれば、石膏スラリーは、水性の緑茶圧搾液(a)又はこれと実質的に同等の粒子分散状態にある緑茶有効成分の水性液(b)を前述の石膏ボード原料と混合することにより調製する。具体的には、有効成分を含む粒子が水性液中に分散し、その粒度分布が7〜360μm程度、好ましくは10〜350μm程度であるものがよい。分散粒子の粒径が360μmを越えると、石膏ボードの耐燃性に影響があり、7μm未満であると、抗菌・消臭機能を満足に付加できない。石膏スラリー中に含まれるカテキンの割合は焼石膏100質量部に対して0.003〜0.1質量部、総ポリフェノールの割合が焼石膏100質量部に対して0.004〜0.15質量%であることが望ましく、カテキンの割合が0.1質量%を越えると硬化阻害を起こし易くなる。緑茶圧搾液(a)は、含水緑茶葉をスクリュープレス機、フィルタープレス機、攪拌脱水機等の圧縮脱水機で圧搾することにより得られ、飲料茶を抽出する前の茶葉を用いても、抽出残渣である茶殻等を用いてもよいが、抽出後の含水茶残渣の圧搾で生じる茶廃液を用いる方が硬化阻害の抑制及び資源の有効利用の点で好ましい。圧搾の際の加圧圧力は0.1MPa以上において有効であり、5MPaを越えると装置の負荷が問題となるので、0.1〜5MPa程度が好ましい。荒茶製造工程で排出されるライン洗浄水も緑茶ポリフェノールを上述の好ましい形態で含有するので、使用可能である。ウーロン茶、紅茶、コーヒー等の抽出残渣の圧搾液を緑茶圧搾液に加えて使用してもよい。緑茶圧搾液(a)と同等の水性液(b)は、例えば、緑茶以外の抽出残渣圧搾液又は脂溶性成分とカテキン製剤又は緑茶抽出液とを組み合わせて適宜調製可能である。
【0030】
石膏ボードに成形する石膏スラリー中の各原料の配合割合に関して、緑茶有効成分を含有する水性液の配合量は、抗菌又は消臭機能が石膏ボードに適切に付与されるように、水性液の緑茶有効成分濃度を考慮して調節する。具体的には、抗菌・消臭性石膏ボードを製造するには、焼石膏100質量部に対してカテキン(EGC, EGCg, EC, ECg)総量が0.003質量部以上、好ましくは0.005質量部以上、総ポリフェノール量としては、0.004質量部以上となるように、水性液の配合量を決定する。例えば、固形分量が約1.9質量%、固形分中のカテキン総量が約2.3質量%である緑茶残渣圧搾液を用いる場合、焼石膏100質量部に対して圧搾液を12〜48質量部程度配合することによりカテキン配合量が0.005〜0.02質量部程度となる。水性液の緑茶有効成分濃度が過度に低いと、多量の水性液が必要となり、茶葉の圧搾工程等から石膏ボードの製造工程への搬送に関する費用増加及び効率低下が問題となるので、焼石膏100質量部に対して加える水性液が48質量部程度以下となる程度の有効成分濃度が確保されることが好ましい。また、第1の手法の場合、焼石膏100質量部に対して吸水性鉱物が0.8〜7.0質量部となるように調節することが好ましく、0.8質量部未満であると、緑茶有効成分の保護が十分でないため抗菌・消臭機能が満足に発揮されず、7.0質量部を越えると、コスト増が問題になる。吸水性鉱物により有効成分が適切に保護されると、硬化阻害の抑制効果も高いので、焼石膏100質量部に対するカテキン配合量の上限は0.13質量部程度まで上昇する。尚、石膏スラリー中の水分量が過剰又は不足すると成形が難しくなるので、焼石膏100質量部に対して60〜90質量部となるように適宜調節することが望ましい。接着補強剤、硬化調整剤、比重調整剤などの添加剤は、添加剤の総量を焼石膏100質量部に対して1質量部以下とするのが好ましい。
【0031】
上記に従って調製される石膏スラリーをボード原紙の間に流し込んで板状に成形し、熱風を用いて加熱乾燥すれば、緑茶成分による抗菌性又は消臭性を備えた石膏ボードが得られる。熱風の温度は、80〜280℃程度が好ましく、穏やかに乾燥を続けることにより製品の安定性が高まる。成形における硬化は上記第1又は第2の手法によって好適に進行し、安定した成形時間で抗菌・消臭性石膏ボードが製造され、石膏ボードの耐燃性も保持される。
【0032】
上記製造方法は、抗菌・消臭性ボードに関するものであるが、緑茶に代えてウーロン茶や紅茶等の他種の茶を用いれば、茶由来のポリフェノールにより消臭性が付与された石膏ボードが得られる。
【0033】
以下、実施例を参照して本発明を詳述する。本発明は以下の実施例により何ら制限されるものではない。
【実施例】
【0034】
下記に示す石膏ボード原料を調製し、表2の配合割合及び下記の石膏スラリーの調製方法に従って石膏スラリーを調製して、石膏ボードを製造すると共に石膏スラリーの硬化時間を測定した。得られた石膏ボードの原紙表面の状態を観察し、耐燃性、成分分散性、抗菌性及び消臭性の評価を下記に従って行った。各石膏ボードにおける原紙表面の状態、硬化時間、耐燃性、成分分散性、抗菌性及び消臭性の評価結果を表3に示す。尚、以下において、圧搾液及びカテキン液中の分散粒子並びに鉱物粒子の平均粒径及び粒度分布はレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定した。
【0035】
[原料の調製]
(カテキン液)
緑茶葉に熱水を加えて緑茶飲料を抽出し、緑茶飲料に含まれる成分を溶媒抽出及びカラム分離により精製して、表1に示す総ポリフェノール含量及びカテキン含量のカテキン乾燥物を得た。このカテキン乾燥物を、表2に記載の配合割合に従って石膏スラリー調製用の水に溶解してカテキン液を調製した。このカテキン液を石膏ボードB1〜B5の製造に用いた。尚、カテキン液中の分散粒子の平均粒径は2.0μm、粒度分布は0.2〜6.7μmであった。
【0036】
(圧搾液)
緑茶飲料抽出後の抽出残渣である茶殻(含水率85質量%)をフィルタープレス機で圧搾して茶殻を脱水し、圧搾液を得た。この圧搾液を、石膏ボードA1〜A8の製造に用いた。尚、この圧搾液の固形分量は1.9質量%であり、固形分中の総ポリフェノール含量及びカテキン含量を調べたところ、表1のような結果であった。又、圧搾液中の分散粒子の平均粒径は44.5μm、粒度分布は10.2〜352μmであった。
【0037】
(粉砕茶葉)
緑茶飲料製造用の乾燥緑茶葉を粉砕及び篩い分けして、粒径が500μm〜の粉砕茶葉を調製した。この粉砕茶葉を、石膏ボードC1〜C4の製造に用いた。尚、乾燥緑茶葉の総ポリフェノール含量及びカテキン含量は表1の通りであった。
【0038】
(吸水性鉱物)
吸水性鉱物として、発泡鉱石であるパーライトを細かく粉砕して粉状パーライト(給水能:1300g/100g)を調製した。この平均粒径は44.5μm、粒度分布は10.2〜850μmであった。
【0039】
[石膏スラリーの調製]
(石膏ボードA1〜A3及びB1〜B2)
表2の配合割合に従って、カテキン液又は圧搾液に吸水性鉱物を加えて1時間攪拌してスラリー状に混合した後、焼石膏、添加剤及び水を加えて混練することにより、石膏ボード製造用の石膏スラリーを調製した。
【0040】
(石膏ボードA4〜A8、B3〜B5、C1〜C4)
表2の配合割合に従って、カテキン液又は圧搾液あるいは粉砕茶葉に、焼石膏、添加剤及び水を加えて混練することにより、石膏ボード製造用の石膏スラリーを調製した。
【0041】
[石膏ボードの製造]
上記で調製した石膏スラリーを2枚のボード原紙間に流し込んで、厚さ12.5mmの板状に石膏スラリーを成形し、静置して石膏の水和及び硬化を進行させた。石膏スラリーの温度変化に基づいて硬化完了時を判断し、硬化後の石膏ボードに150℃の熱風を供給して15分間乾燥した後、40℃の雰囲気中で恒量になるまで穏やかに乾燥を続けた。
【0042】
[硬化時間の測定]
成形した石膏スラリーの温度を測定し、その温度変化に基づいて温度が最高温度に達する時点を硬化終了とし、硬化終了までに要する時間を石膏スラリーの硬化時間とした。尚、緑茶成分を配合しない石膏スラリーの硬化時間は26分であり、硬化時間70分未満までの範囲は実用的に許容可能な硬化遅延である。
【0043】
[原紙表面の状態]
石膏ボードの原紙表面の状態を目視で観察してシミの有無を確認した。更に、鉄イオンを含む水溶液を原紙表面に噴霧し、ポリフェノールと鉄イオンとの反応による黒色変化を利用してシミがポリフェノールを含むか否かを確認した。観察結果から、シミのないものを良好とし、シミがあって鉄イオンにより黒色変化したものを不良とした。
【0044】
[耐燃性]
建築基準法に定められた指定評価機関における評価業務方法書に記載される発熱性試験に従って、石膏ボードの単位面積当たりの発熱速度(総発熱量)を測定した。耐燃性は、総発熱量を評価基準とし、20分間における総発熱量が8MJ/m以下のものについて耐燃性が良好と評価され、8MJ/mを超過するものは不良と評価される。
【0045】
[成分分散性]
鉄イオンを含む水溶液に石膏ボードを浸漬して石膏ボードの変色を観察し、ポリフェノールと鉄イオンとの反応による黒色変化を利用して配合成分の分散性を評価し、全体が均一に黒色変化したものを良好、黒色変化が部分的で不均一なものを不良、黒色変化が見られないものを未反応とした。尚、緑茶成分を配合しない石膏ボードでは未反応であることを確認した。
【0046】
[抗菌性]
石膏ボードから5cm×5cmのサンプルを切り出し、1/500普通ブイヨンに浸漬した後に取り出し、抗菌製品技術協議会が定めるフィルム密着法に従ってサンプル上の菌液(MRSA:メスチリン耐性黄色ブドウ球菌)の生菌数(CFU/枚)を測定し、24時間後における生菌数によって抗菌性を評価した。尚、緑茶成分を配合しない石膏ボードの場合の0時間(浸漬直後)の生菌数は1.6×10、24時間後における生菌数は8.1×10であったことに基づき、サンプルの24時間後の生菌数が1×10未満のものの抗菌性を良好、1×10以上のものを不良と評価できる。
【0047】
[消臭性]
石膏ボードから20mm×20mmのサンプルを切り出し、悪臭物質としてアンモニア(初期濃度:200ppm)及びホルムアルデヒド(初期濃度:30ppm)を含有する雰囲気ガス3Lと共にテドラーバックに詰め、37℃で2時間静置した後、ガステック社製のガス検知管を用いてバック内の雰囲気ガス中の各悪臭物質の残存濃度を測定し、下記計算式に従って、各悪臭物質における初期濃度及び残存濃度から消臭率を算出した。緑茶成分を配合しない石膏ボードにおける消臭率は、アンモニアでは46.7%、ホルムアルデヒドでは83.4%であったことから、これらを消臭性の基準として、アンモニアについては51.7%以上(基準+5%以上)を良好、51.7%未満を不良、ホルムアルデヒドについては88.4%以上(基準+5%以上)を良好、88.4%未満を不良と評価できる。
【0048】

消臭率(%)=100×(初期濃度−残存濃度)/初期濃度

尚、上記測定において、石膏ボードB5は硬化せず、石膏ボードB4は硬化時間が長時間のため、実製造には不向きであり、その他の測定を行わなかった。又、石膏ボードC3及びC4については、硬化時間及び耐燃性が実用に耐えないものであったため、それ以外の測定は行わなかった。
【0049】
圧搾液を配合した石膏ボードA6とカテキン液を配合した石膏ボードB3は、総ポリフェノール及びカテキンの配合量が近いが、石膏ボードA6が良好な抗菌性及び消臭性を示すのに対し、石膏ボードB3の抗菌性及び消臭性は低い。これは、カテキン液中の緑茶成分が圧搾液中のものより細かい粒子であるために、石膏との作用や乾燥中の熱分解等により機能を消失する割合が高いためである。所望の抗菌性及び消臭性を得るためにカテキン液の配合量を増加すると、石膏ボードB4,B5のように硬化阻害が起こる。しかし、石膏ボードB1のように吸水性鉱物で緑茶成分を保護すると、圧搾液を用いた場合と同程度の抗菌性を示し、ホルムアルデヒドに対する消臭率も改善される。又、石膏ボードB2のように緑茶成分の配合量を増加することも可能となる。
【0050】
これに対し、粉砕茶葉を用いた石膏ボードC1〜C4の場合、硬化阻害は抑制できるが、抗菌性及び消臭性は満足に発揮されず、配合量を増加すると耐燃性が急激に悪化する。又、成分分散性も悪く、鉄イオンに対するポリフェノールの反応が茶葉部分のみに不均一に起こり、ボード原紙に茶葉からの漏出によるシミも生じる。
【0051】
圧搾液を用いた石膏ボードA4〜A8について見ると、緑茶成分の配合量が増加するに従って抗菌性及び消臭性が向上する。つまり、配合量によって石膏ボードに付与する機能を調節することができる。但し、硬化阻害は完全には抑制されず、A8より配合量を増加すると徐々に硬化時間が長くなり、圧搾液を用いた場合の総ポリフェノール及びカテキンの配合量の上限は、焼石膏100質量部に対して総ポリフェノールが0.15質量部程度、カテキンが0.1質量部程度となる。
【0052】
吸水性鉱物を用いた場合、圧搾液又はカテキン液を用いて同程度の総ポリフェノール及びカテキンを配合した石膏ボード(例えば、A2とB1)の間には、吸水性鉱物を用いない場合ほどの大きな差は生じず、共に良好な抗菌性及び消臭性を示す。但し、圧搾液を用いた方が緑茶成分の作用が全般的に若干強く発揮される傾向にある。硬化阻害の抑制については、石膏ボードB2とB4との硬化時間の差から、吸水性鉱物を用いた方が用いない場合よりも緑茶成分の配合上限が格段に高くなるが明らかであり、石膏ボードB2の結果及び石膏ボードA4〜A8の数値傾向を考え併せて、吸水性鉱物及び圧搾液を併用した場合の総ポリフェノール及びカテキンの配合量の上限を求めると、焼石膏100質量部に対して総ポリフェノールが0.2質量部程度、カテキンが0.13質量部程度まで高めることが可能であり、硬化阻害や耐燃性の劣化を抑制しつつ抗菌性及び消臭性を更に改善でき、石膏ボードA8より抗菌性及び消臭性が高いものが提供できる。
【0053】
尚、吸水性鉱物として上記パーライトの代わりに珪藻土(粒径:7.0〜75μm)を用いた場合にも、パーライトの場合と同様の結果が得られている。
【表1】

【0054】

(表2) 石膏ボードの配合
石膏 各原料の配合量[質量部]
ボード 焼石膏 圧搾液 カテキン 粉砕 吸水性鉱物
(固形分) 乾燥物 茶葉
A1 100 12(0.23) − − 1.5
A2 100 18(0.34) − − 2.3
A3 100 6.0(0.11) − − 0.75
A4 100 6.0(0.11) − − −
A5 100 12(0.23) − − −
A6 100 18(0.34) − − −
A7 100 36(0.68) − − −
A8 100 48(0.91) − − −
B1 100 − 0.035 − 2.0
B2 100 − 0.35 − 2.0
B3 100 − 0.035 − −
B4 100 − 0.35 − −
B5 100 − 3.5 − −
C1 100 − − 1.3 −
C2 100 − − 2.5 −
C3 100 − − 3.8 −
C4 100 − − 7.5 −

(表3) 測定結果
石膏 硬化時間 耐燃性 成分 原紙 抗菌性 消臭性[%]
ボード [分][MJ/m] 分散性 表面 [生菌数] NH HCHO
A1 29 4.6 良好 良好 2.4×10 53.0 89.9
A2 34 5.2 良好 良好 8.3×10 53.6 89.9
A3 30 5.2 未反応 良好 2.8×10 51.3 87.8
A4 30 4.1 未反応 良好 3.1×10 51.9 88.2
A5 31 3.5 良好 良好 6.1×10 52.6 89.3
A6 34 6.4 良好 良好 1.3×10 52.2 90.4
A7 50 3.2 良好 良好 <10 57.1 92.0
A8 56 4.5 良好 良好 <10 60.1 93.2
B1 31 4.3 良好 良好 1.6×10 47.4 88.8
B2 63 2.9 良好 良好 <10 47.1 89.6
B3 30 3.7 未反応 良好 3.1×10 47.4 87.6
B4 90 − − − − − −
B5 硬化せず − − − − − −
C1 35 4.2 不良 不良 1.6×10 50.0 87.2
C2 38 5.9 不良 不良 8.3×10 51.3 87.7
C3 42 8.5 − − − − −
C4 85 11.5 − − − − −
無配合 26 3.1 未反応 良好 8.1×10 46.7 83.4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水茶葉の圧搾液を配合した石膏スラリーを調製し、該石膏スラリーをボード状に成形して硬化及び乾燥することを特徴とする石膏ボードの製造方法。
【請求項2】
前記含水茶葉は、原料茶葉から飲料茶を抽出した後の茶葉残渣であり、前記圧搾液は、茶由来のポリフェノールを含有する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
茶由来のポリフェノールを含有し粒径が7〜360μmである粒子を含む水性液を調製し、前記水性液を配合した石膏スラリーを調製し、該石膏スラリーをボード状に成形して硬化及び乾燥することを特徴とする石膏ボードの製造方法。
【請求項4】
前記水性液の固形分は、脂溶性成分及び茶由来のポリフェノールを含有する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記脂溶性成分は、カロテン又はビタミンEを含む請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記石膏スラリーは、石膏100質量部に対して、緑茶ポリフェノールを0.004〜0.15質量部の割合で含有する請求項1〜5の何れかに記載の製造方法。
【請求項7】
吸水性を有する鉱物に茶由来のポリフェノールを含有する水性液を含浸し、前記鉱物を配合した石膏スラリーを調製し、該石膏スラリーをボード状に成形して硬化及び乾燥することを特徴とする石膏ボードの製造方法。
【請求項8】
前記吸水性を有する鉱物は、鉱石発泡体、多孔質鉱物及び繊維質鉱物の何れかであって200〜1300g/100gの吸水能を有し、粒径が7〜850μmの粒状であり、前記石膏スラリーの石膏100質量部に対して0.8〜7.0質量部の割合で配合される請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
前記水性液は、原料茶葉から飲料茶を抽出した後の茶葉残渣を圧搾して得られる圧搾液である請求項3〜8の何れかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記茶は、緑茶である請求項7〜9の何れかに記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10の何れかに記載の製造方法によって製造される石膏ボード。
【請求項12】
石膏と、ポリフェノールが含浸された粒状の吸水性を有する鉱物とを含有することを特徴とする石膏ボード。
【請求項13】
前記吸水性を有する鉱物は、粒径が7〜850μmであって200〜1300g/100gの吸水能を有し、前記吸水性を有する鉱物を前記石膏100質量部に対して0.8〜7.0質量部の割合で含有する請求項11記載の石膏ボード。
【請求項14】
カテキンを含有し、抗菌性及び消臭性を有する請求項11〜13の何れかに記載の石膏ボード。

【公開番号】特開2006−27952(P2006−27952A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209459(P2004−209459)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【出願人】(000199245)チヨダウーテ株式会社 (23)
【Fターム(参考)】