説明

石膏溶解用水溶液

【課題】
特別な室や機器類を必要とすることなく石膏を安全且つ簡便に溶解することができる石膏溶解用水溶液を提供する。
【解決手段】
キレート剤を含有するpH4.0以上の水溶液を石膏溶解用水溶液とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は石膏溶解用水溶液に関する。建築用石膏ボードの原料として広く利用されている石膏中には種々の不純物が含まれており、かかる不純物が石膏の凝結特性や得られる石膏ボードの物性に影響を与えることが知られている。石膏中に含まれている不純物を分析して把握しておくことは、建築用石膏ボードの製造における工程管理や品質管理上、極めて重要なのである。ところで、石膏中に含まれている不純物を分析するためには、先ずもって石膏を溶解することが必要である。本発明は石膏を溶解するための水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、石膏の溶解には、塩酸や更には過塩素酸を用いて加熱することが行なわれている(例えば非特許文献1及び特許文献1参照)。しかし、かかる従来手段には、加熱時に腐食性の強い有害なガスを発生するため、これに対する安全をはかる上で特別な室や機器類を必要とするという問題がある。
【非特許文献1】JIS−R9101
【特許文献1】特開2003−149222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、従来手段のように特別な室や機器類を必要とせず、石膏を安全且つ簡便に溶解することができる水溶液を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記の課題を解決する本発明は、石膏を溶解するための水溶液であって、キレート剤を含有するpH4.0以上の水溶液から成ることを特徴とする石膏溶解用水溶液に係る。
【0005】
本発明に係る石膏溶解用水溶液はキレート剤を含有する水溶液である。本発明者らの知見によれば、そこにキレート剤が存在しない場合、石膏はpH2未満の強酸性の水溶液中にて相応に溶解するが、pH2以上の水溶液中では少ししか溶解しない。しかし、そこにキレート剤が存在すると、石膏は前記のような強酸性の水溶液中でなくても充分に溶解するようになる。ここで用いるキレート剤の種類は、石膏から解離するカルシウムイオンに配位して水溶液中で安定な溶解状態を保つキレート化合物を作るものであれば、特に制限されないが、キレート剤としては、ポリアミノカルボン酸類が好ましく、なかでも分子中に四つのカルボキシル基を有するEDTA(エチレンジアミン四酢酸)やCyDTA(trans−1,2−ジアミノヘキサン−N,N,N’,N’−四酢酸)のようなEDTA型のものが好ましい。
【0006】
本発明に係る石膏溶解用水溶液は、前記のようなキレート剤を含有する水溶液であって、pH4.0以上の水溶液から成るものである。本発明者らの知見によれば、水溶液中における石膏の溶解率は、該水溶液中におけるキレート剤の濃度と、該水溶液のpHとによって大きな影響を受け、キレート剤の濃度を高くすると、これに伴って石膏の溶解率も高くなり、遂には溶解率が100%に到るが、pHが4.0未満では、キレート剤の濃度を高くしても、そのように石膏の溶解率を高くすることができない。pH4.0以上、好ましくはpH4.5〜6.5の水溶液であって、該水溶液中に溶解すべき石膏に見合う所要量のキレート剤が存在するとき、該石膏の全てを室温下に溶解することができる。かかる水溶液のpH調整手段は特に制限されないが、リン酸−リン酸ナトリウム系や酢酸−酢酸ナトリウム系等のpH緩衝剤を用いて調整するのが有利である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る石膏溶解用水溶液によると、従来手段のように特別な室や機器類を必要とせず、石膏を安全且つ簡便に溶解することができる。
【実施例】
【0008】
図1は石膏溶解用水溶液中のCyDTAの濃度(モル/dm)に対する石膏の溶解率(%)の変化を例示するグラフである。ここでは、キレート剤として同仁化学研究所社製のCyDTAを用いて石膏溶解用水溶液中のその濃度を0.01〜0.12モル/dmの範囲で12区分(ブランクを入れると13区分)とし、またpH緩衝剤として和光純薬社製の酢酸−酢酸ナトリウム系のものを用いて石膏溶解用水溶液のpHを3.0、4.0及び5.5の3区分として、合計36区分(ブランクを入れると39区分)の石膏溶解用水溶液を調整した。かかる石膏溶解用水溶液10mlと和光純薬社製の石膏(硫酸カルシウム二水和物)試薬0.1gとを混合し、室温で60分間振とうした後、メンブレンフィルターで濾過し、その濾液中のカルシウム及びイオウ濃度を誘導結合発光プラズマ分光光度計(パーキンエルマー社製のオプティマ2000DV)により測定して、その結果から石膏の溶解率を求めた。
【0009】
図1中、1はpH3.0の石膏溶解用水溶液について石膏の溶解率(%)を示す曲線、2はpH4.0の石膏溶解用水溶液について石膏の溶解率(%)を示す曲線、3はpH5.5の石膏溶解用水溶液について石膏の溶解率を示す曲線である。図1の場合、pH4.0の石膏溶解用水溶液についてはCyDTAの濃度が0.10モル/dmのときに石膏の溶解率が100%になっており、またpH5.5の石膏溶解用水溶液についてはCyDTAの濃度が0.06モル/dmのときに石膏の溶解率が100%になっていて、共に石膏の全てが溶解しているが、pH3.0の石膏溶解用水溶液についてはCyDTAの濃度がいずれの区分でも石膏の溶解率が100%になっていない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明において石膏溶解用水溶液中のCyDTAの濃度(モル/dm)に対する石膏の溶解率(%)の変化を例示するグラフ。
【符号の説明】
【0011】
1 pH3.0の石膏溶解用水溶液について石膏の溶解率(%)を示す曲線
2 pH4.0の石膏溶解用水溶液について石膏の溶解率(%)を示す曲線
3 pH5.5の石膏溶解用水溶液について石膏の溶解率(%)を示す曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏を溶解するための水溶液であって、キレート剤を含有するpH4.0以上の水溶液から成ることを特徴とする石膏溶解用水溶液。
【請求項2】
キレート剤がEDTA型のものである請求項1記載の石膏溶解用水溶液。
【請求項3】
水溶液がpH4.5〜6.5のものである請求項1又は2記載の石膏溶解用水溶液。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−292407(P2006−292407A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109599(P2005−109599)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年3月22日 社団法人日本セラミックス協会発行の「第2回 環境・エネルギー関連セラミックス研究会講演予稿集」に発表
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(000199245)チヨダウーテ株式会社 (23)
【Fターム(参考)】