説明

石膏被覆セメントクリンカ及びその製造方法

【課題】安定した品質の石膏を入手することができない国や地域であっても、安定した品質のセメントを製造することができるセメントクリンカ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】セメントクリンカ2の表面の全部又は一部が石膏粉末3で被覆されてなる石膏被覆セメントクリンカ1。石膏粉末の量は、セメントクリンカ100質量部に対して、好ましくは、SO換算で1.0〜4.0質量部である。石膏被覆セメントクリンカ1は、200℃以下の温度を有するセメントクリンカと、10〜60質量%の濃度で石膏を含む石膏スラリーを接触させることによって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石膏被覆セメントクリンカ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、クリンカ用原料と共に副原料を用いたり、あるいは、クリンカ本体である造粒物の表面に特定の原料からなる被覆層を形成させるなどして、優れた物性を有するクリンカを製造する技術が知られている。
一例として、低熱白色セメントクリンカー用原料、及び、石膏等の硫黄含有物質を共に焼成して、水和発熱量が小さくかつ白色性に優れた低熱白色セメントクリンカーを製造する技術が提案されている(特許文献1)。
他の例として、CaO源原料を用いて得られた球状の造粒物の表面に、ZrO源原料等のうちの少なくとも何れか一種を含む被覆層が形成された被覆造粒物を用いて、該被覆造粒物を焼成して、CaOと大気中の水分との接触が回避されて耐消化性(水酸化カルシウムへと変化する化学反応に対する抵抗性)に優れた球状カルシア系クリンカーを製造する技術が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−207980号公報
【特許文献2】特開2007−55847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セメントは、セメントクリンカの粉砕物と石膏の混合物であり、石膏の種類や品質により、流動性や硬化性状が変動することが知られている。
我が国で製造されたセメントクリンカは、海外にも輸出されている。輸出先の国において、セメントクリンカと石膏を用いて、セメントが製造されている。しかし、輸出先の国または地域によっては、安定した品質の石膏を入手することができないことがある。この場合、セメントの品質(例えば、流動性や硬化性状等)が変動する可能性がある。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、安定した品質の石膏を入手することができない国や地域であっても、安定した品質のセメントを製造することができるセメントクリンカ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、セメントクリンカの表面の全部又は一部が石膏粉末で被覆されてなる石膏被覆セメントクリンカによれば、前記の目的を達成しうることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[3]を提供するものである。
[1] セメントクリンカの表面の全部又は一部が石膏粉末で被覆されてなることを特徴とする石膏被覆セメントクリンカ。
[2] 上記石膏粉末の量が、上記セメントクリンカ100質量部に対して、SO換算で1.0〜4.0質量部である前記[1]に記載の石膏被覆セメントクリンカ。
[3] 200℃以下の温度を有するセメントクリンカと、10〜60質量%の濃度で石膏を含む石膏スラリーを接触させることによって、セメントクリンカの表面の全部又は一部に石膏粉末を被覆させることを特徴とする石膏被覆セメントクリンカの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の石膏被覆セメントクリンカを用いれば、例えば、セメント製造時に追加の石膏を用いなくても、石膏被覆セメントクリンカを粉砕するだけでセメントを製造することができるので、安定した品質の石膏を入手することができない国や地域においても、常に、安定した品質のセメントを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の石膏被覆セメントクリンカを概念的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1に概念的に示すように、本発明の石膏被覆セメントクリンカ1は、セメントクリンカ2の表面の全部又は一部が石膏粉末3で被覆されてなるものである。
セメントクリンカの例としては、ポルトランドセメントクリンカ、エコセメントクリンカ、水硬率が1.8〜2.3、ケイ酸率が1.3〜2.3、鉄率が1.3〜2.8であるセメントクリンカ等が挙げられる。
石膏としては、二水石膏、α型又はβ型半水石膏、無水石膏等が挙げられる。中でも、二水石膏は、汎用性が高い点で好ましく用いられる。
本発明において、セメントクリンカの表面の全面積中の石膏粉末で被覆された部分の割合は、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは90%以上である。該割合が50%未満では、石膏粉末の量が少ないために、セメント製造時に追加の石膏が必要になったり、あるいは、十分な量の石膏粉末で被覆したとしても、被覆層の厚みが大きくなり、石膏被覆セメントクリンカの輸送中に石膏の剥がれ落ちが生じ易くなるなどの問題が生じうる。
【0009】
本発明において、セメントクリンカの表面を被覆する石膏粉末の量は、セメントクリンカ100質量部に対して、SO換算で、好ましくは1.0〜4.0質量部、より好ましくは1.0〜3.0質量部、特に好ましくは1.5〜2.5質量部である。該量が前記好ましい範囲内であれば、追加の石膏を用いることなく、本発明の石膏被覆セメントクリンカを粉砕するだけで、セメントを製造することができる。該量が4.0質量部を超えると、石膏被覆セメントクリンカの輸送中に石膏の剥がれ落ち等が生じ易くなる。また、該量が4.0質量部を超えることは、本発明の石膏被覆セメントクリンカの製造時に石膏スラリーの被覆量が多いことを意味し、この場合、石膏スラリー中の水分によってセメントクリンカの一部が風化(水和)して、強度発現性が低下するおそれがある。
【0010】
セメントクリンカの表面を被覆する石膏粉末のブレーン比表面積は、好ましくは2,000cm/g以上、より好ましくは2,500〜10,000cm/gである。ブレーン比表面積が2,000cm/g未満では、セメントクリンカの表面を被覆することが困難となるうえ、石膏被覆セメントクリンカの輸送中に石膏の剥がれ落ち等が生じ易くなる。ブレーン比表面積が10,000cm/g以下であると、石膏粉末の粉砕の効率が良い。
【0011】
次に、本発明の石膏被覆セメントクリンカの製造方法を説明する。
本発明の石膏被覆セメントクリンカは、200℃以下の温度を有するセメントクリンカと、10〜60質量%の濃度で石膏を含む石膏スラリーを接触させて、セメントクリンカの表面の全部又は一部に石膏粉末を被覆させることによって製造することができる。
セメントクリンカと石膏スラリーを接触させる際のセメントクリンカの温度は、200℃以下、好ましくは40〜170℃、より好ましくは50〜150℃である。該温度が200℃を超えると、セメントクリンカの表面に石膏を被覆させることが困難であるうえ、セメントクリンカと石膏スラリーの接触時に石膏スラリーの一部が飛散して、石膏スラリーが無駄になる。該温度が40℃以上であれば、石膏スラリーの乾燥が促進されて、セメントクリンカの水和による風化が生じ難くなる。
なお、セメントクリンカの温度を前記の範囲内(例えば、50〜150℃)に調整する方法としては、(1)前記の温度(例えば、50〜150℃)に保たれた雰囲気中(例えば、クリンカサイロ)にセメントクリンカを置く方法、(2)製造直後の高温のセメントクリンカを自然にもしくは強制的に前記の温度(例えば、50〜150℃)になるまで冷却させる方法等が挙げられる。
【0012】
石膏スラリーは、通常、石膏と水とからなる。石膏スラリーには、任意成分として、粉砕助剤やセメント減水剤等を含ませることができる。
石膏スラリーの濃度は、好ましくは10〜60質量%、より好ましくは15〜55質量%である。該濃度が10質量%未満では、セメントクリンカに被覆される石膏粉末の量を、セメントクリンカ100質量部に対してSO換算で1.0〜4.0質量部とすることが困難になる。また、セメントクリンカの一部が風化(水和)して、強度発現性が低下するおそれがある。該濃度が60質量%を超えると、スラリーの流動性等が低下して、スラリーを噴霧する作業等が困難となるうえ、セメントクリンカの表面に石膏を被覆させることも困難となる。
【0013】
セメントクリンカと石膏スラリーを接触させて、セメントクリンカの表面に石膏粉末を被覆させる方法としては、例えば、(1)セメントクリンカをミキサ(例えば、パン型ミキサ、ドラムミキサ等)で攪拌しながら、該ミキサ内に石膏スラリーを投入し、セメントクリンカの表面に石膏スラリーを被覆させた後、被覆された石膏スラリーを乾燥させて、石膏粉末層を形成させる方法、(2)セメントクリンカをベルトコンベアで輸送する途中に、石膏スラリーを噴霧することにより、セメントクリンカの表面に石膏スラリーを被覆させた後、被覆された石膏スラリーを乾燥させて、石膏粉末層を形成させる方法、等が挙げられる。
【実施例】
【0014】
以下、実施例により本発明を説明する。
[実施例1]
(1)石膏被覆セメントクリンカの製造
100℃の普通ポルトランドセメントクリンカ(太平洋セメント社製、容重:1.13g/cm)をパン型ミキサで攪拌しながら、該ミキサ内に二水石膏スラリー(濃度:50質量%、二水石膏のブレーン比表面積:4,000cm/g)を投入し、セメントクリンカの表面に石膏スラリーを被覆した後、乾燥させて、石膏被覆セメントクリンカを製造した。
該石膏被覆セメントクリンカの被覆層を形成する二水石膏粉末の量は、セメントクリンカ100質量部に対して、SO換算で2.2質量部であった。
【0015】
(2)普通ポルトランドセメントAの製造(本発明品)
上記製造した石膏被覆セメントクリンカをバッチ式ボールミルで粉砕して、ブレーン比表面積3,330cm/gの普通ポルトランドセメントAを製造した。
(3)普通ポルトランドセメントBの製造(参考例)
上記(1)で用いた普通ポルトランドセメントクリンカと二水石膏(使用量:セメントクリンカ100質量部に対して、SO換算で2.2質量部)をバッチ式ボールミルで同時粉砕して、ブレーン比表面積3,300cm/gの普通ポルトランドセメントBを製造した。
(4)普通ポルトランドセメントA、Bの評価
上記製造した普通ポルトランドセメントA、Bについて、「JIS R 5201」に準じて評価した。その結果を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
表1に示すように、本発明の石膏被覆セメントクリンカを粉砕して製造した普通ポルトランドセメントAは、従来の普通ポルトランドセメントBとほぼ同等の性状を有していることが分かる。
【0018】
[実施例2]
実施例1で製造した石膏被覆セメントクリンカを、ロータップ試験機でタッピングして、3質量%の微粉(石膏被覆セメントクリンカから剥がれ落ちたもの)を発生させた。なお、このタッピングは、石膏被覆セメントクリンカの輸送等の振動による微粉の発生を想定したものである。
タッピング後の石膏被覆セメントクリンカをバッチ式ボールミルで粉砕して、ブレーン比表面積3,320cm/gの普通ポルトランドセメントCを製造し、「JIS R 5201」に準じて評価した。その結果を表2に示す。
なお、タッピングして発生した微粉(石膏被覆セメントクリンカから剥がれ落ちたもの)中の石膏の割合は、10質量%以下であった。
【0019】
【表2】

【0020】
表2に示すように、本発明の石膏被覆セメントクリンカは、輸送等の振動によって3質量%程度の微粉(石膏被覆セメントクリンカから剥がれ落ちたもの)が発生した場合であっても、該石膏被覆セメントクリンカから製造される普通ポルトランドセメントの性状が、微粉の発生前の性状(表1のセメントAの評価結果)に比べてほぼ変わらないことが分かる。
【符号の説明】
【0021】
1 石膏被覆セメントクリンカ
2 セメントクリンカ
3 石膏粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカの表面の全部又は一部が石膏粉末で被覆されてなることを特徴とする石膏被覆セメントクリンカ。
【請求項2】
上記石膏粉末の量が、上記セメントクリンカ100質量部に対して、SO換算で1.0〜4.0質量部である請求項1に記載の石膏被覆セメントクリンカ。
【請求項3】
200℃以下の温度を有するセメントクリンカと、10〜60質量%の濃度で石膏を含む石膏スラリーを接触させることによって、セメントクリンカの表面の全部又は一部に石膏粉末を被覆させることを特徴とする石膏被覆セメントクリンカの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−132062(P2011−132062A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292692(P2009−292692)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)