石膏製造物
本発明は石膏が繊維の表面に結晶として現れている石膏−繊維複合製造物に係り、硫酸カルシウム半水和物及び/または硫酸カルシウム無水物と前記繊維の水性懸濁液とを接触させることによって前記石膏の結晶が得られる。本発明は前記石膏−繊維複合製造物の製造方法にも係る。製紙において、この複合製造物を填料又は塗工顔料として使用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石膏−繊維複合製造物に関する。石膏−繊維複合製造物は製紙における塗工顔料又は填料として使用することができる。本発明は、石膏−繊維複合製造物の製造方法にも関する。製紙において、填料の歩留まりを向上させ、填料を均一に分散させることができる。
【背景技術】
【0002】
製紙工程は、セルロース系繊維を水及び無機填料(通常は、粘土又は炭酸カルシウム或いは石膏)と混合して供給原料を製造することから始まる。得られたスラリーをヘッドボックスによって抄紙用ワイヤ又はプレス用布又はワイヤ上に搬送し、製紙機械の形成セクションでセルロース系繊維の繊維ウェブを形成する。次に、排水セクションで排水を行い、形成されたウェブは一連の圧搾ロールを有する圧搾セクションに送られて、そこでさらに水が除去される。そして、ウェブは製紙機械の乾燥セクションに送られ、そこで、典型的には蒸気乾燥ドラムによって残っている水分を蒸発させる。乾燥後の操作としては、加圧下でロールの間を乾燥紙製品が通過するカレンダーがけがあり、それによって表面の平滑性と光沢とを向上させ、紙の厚みをより均一にする。カレンダーとしては、複数のロールが通常鋼鉄製のロールであって加熱されたロール(熱ロール)を含む機械式カレンダー装置などの様々なものがある。
【0003】
石膏、即ち硫酸カルシウム二水和物CaSO4・2H2Oは、特に製紙における塗工顔料及び填料の材料として適している。この石膏が高い白色度、光沢及び不透明度を有していると、特に優れた塗工顔料と填料とを得ることができる。粒子が十分に小さく、平たくて幅広(板状)であると、高い光沢が得られる。粒子が屈折性で、小さくて大きさが等しい(粒子径分散が小さい)と、不透明度が高くなる。
【0004】
石膏製品の粒子の形態は、走査型電子顕微鏡写真を調べることによって知ることができる。有用な顕微鏡写真は、例えば、フィリップスのFEI XL 30 FEG型の走査型電子顕微鏡で得られる。
【0005】
石膏製品の粒子の大きさは、そこに閉じ込められている粒子の重量平均粒子径D50として示される。より正確には、D50は球形であると推定される粒子の直径であって、全粒子重量の50%を成す粒子の直径よりも小さい。D50は、セディグラフ(Sedigraph)5100等の適切な粒子サイズ分析機で測定することができる。
【0006】
ある結晶が平たいということは、当該結晶が薄いということである。平たい結晶の形態は、形状比SRによって適切に表現される。SRは、結晶の厚さ(最短の横断長さ)に対する結晶の長さ(最長の長さ)の比である。請求項に記載されている石膏製品のSRは、個々の結晶の平均SRを意味している。
【0007】
結晶が板状であるということはそれが幅広であることを意味する。板状度はアスペクト比ARで表現されるのが適している。ARは、結晶長(最長の長さ)と結晶の幅(最も長い横断方向の長さ)との比である。請求項に記載の石膏製品のARは、個々の結晶の平均ARを意味している。
【0008】
石膏製品のSRとARとの両方を、走査型電子顕微鏡写真を調べることによって評価することができる。好適な走査型電子顕微鏡は、先に記載したフィリップスのFEI XL 30 FEGである。
【0009】
結晶粒子径が等しいということは、結晶粒子径の分散幅が狭いということを意味する。分散幅は重量分散WPSDで示され、また、(D75−D25)/D50(但し、D75、D25及びD50は、粒子の全重量のそれぞれ75%、25%、50%を成す粒子よりも小さい、球形であると推定される粒子の直径である。分子分散の幅については、先に記載したセディグラフ5100のタイプの適切な粒子サイズ分析器を用いて得ることができる。
【0010】
石膏は天然鉱物として生じ、また、化学反応の副産物として、例えばリン酸石膏又は排ガス石膏として形成される。さらに石膏を結晶化することによって塗工顔料や填料へと石膏を精製するためには、最初に石膏を焼成して硫酸カルシウム半水和物(CaSO4・1/2H2O)にしなければならない。その後該半水和物を水に溶かして純粋な石膏を析出させることによって水和状態に戻すことができる。硫酸カルシウムは結晶水のない無水物の形態(CaSO4)で生成することもある。
【0011】
石膏原料の焼成条件によって、硫酸カルシウム半水和物はα−半水和物とβ−半水和物との2つの形態で生成する。β形態のものは石膏原料を大気圧下で加熱処理することによって得られ、α形態のものは石膏原料を、大気圧より高い蒸気圧下で処理することによって、又は塩若しくは酸溶液から例えば約45℃で化学的湿式焼成を行うことによって得ることができる。
【0012】
WO 88/05423は、硫酸カルシウム半水和物を当該半水和物と水とのスラリー中で水和させることによって石膏を製造する方法を開示している。スラリー中の乾物の量は20〜25重量%である。このようにして石膏が得られ、その最大長さは100〜450μmであり、二番目に長い径の長さは10〜40μmである。
【0013】
AU 620857(EP 0334282 A1)は、粉砕した硫酸カルシウム半水和物を33.33重量%以下の割合で含有するスラリーから石膏を製造し、平均粒子径が2〜200μm、アスペクト比が5〜50である針状の結晶を生産した。この文献の第15頁第5行〜第11行及び例を参照されたい。
【0014】
US 2004/0241082は、乾物含有量が5〜25重量%である硫酸カルシウム半水和物の水性スラリーから小さな針状の石膏の結晶(長さ5〜35μm、幅1〜5μm)を製造する方法を記載している。この米国文献における思想は、製紙工程中に結晶が溶解するのを防ぐために添加剤を加えることによって石膏の水への溶解度を低下させることである。
【0015】
DE 32 23 178 C1は一種又はそれ以上の鉱物物質で被覆された有機繊維を製造する方法を開示している。その方法の一態様は、セルロース繊維と石膏と水とを混合することを含む。得られた混合物は圧縮されて塑性塊状体となり、続いて、この塑性塊状体を乾燥して機械的に粉砕して細かな粒子にする。得られた製品は、例えばビチューメンの塊状体やパテに添加される添加剤又は充填材として使用される。
【0016】
WO 2008/092990は、0.1〜2.0μmの大きさの無傷の結晶からなる石膏製品を開示している。結晶は、形状比SRが少なくとも2.0、好ましくは2.0〜50、そしてアスペクト比が1.0〜10、好ましくは1.0以上5.0未満である。
【0017】
WO 2008/092991は、硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物と水とを接触させて、硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物と水とが相互に反応して結晶性石膏製品を形成する、石膏製品の製造方法を開示している。形成された反応混合物の乾物含有量は34〜84重量%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】WO 88/05423
【特許文献2】AU 620857(EP 0334282 A1)
【特許文献3】US 2004/0241082
【特許文献4】DE 32 23 178 C1
【特許文献5】WO 2008/092990
【特許文献6】WO 2008/092991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、石膏が繊維の表面で結晶化して繊維にかなり強固に付着している、石膏−繊維複合製造物を提供することである。この複合製造物は、製紙において填料又は塗工顔料として使用することができる。製紙において、填料の歩留まりが向上し、填料を均一に分散させることができる。また、充填材の充填量を多くすることができる。本発明の石膏−繊維複合製造物は、特に肌理の細かな紙の製造に適している。
【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、本発明の第一の面によると、繊維の表面に石膏が結晶として現れている石膏−繊維複合製造物が与えられ、該石膏の結晶は硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物と前記繊維の水性懸濁液とを接触させることによって得られる。
【0021】
石膏は繊維に付着し、結果として、石膏−繊維複合体は大多数の測定方法では単一のものとして示される。石膏の形状と大きさとは、顕微鏡画像によって大まかに評価することができる。繊維に付着した石膏の結晶は、WO 2008/092990及びWO 2008/092991に記載されている形状と大きさとを有していることもある。しかしながら、本発明によると、結晶化した石膏は針状であることもあり得る。
【0022】
石膏の結晶の大きさは、好ましくは、0.1〜5.0μmであり、より好ましくは0.1〜4.0μmであり、最も好ましくは0.2〜4.0μmである。石膏の結晶の大きさは、また、0.1〜2.0μm又は0.2〜2.0μmであってもよい。
【0023】
好ましくは、石膏−繊維複合製造物は、化学パルプ繊維、機械パルプ繊維、化学機械パルプ繊維若しくは脱インキパルプ繊維等のセルロース系繊維、又はポリオレフィン、例えばポリプロペン等の合成繊維を含有している。化学パルプとしては、クラフトパルプ及び亜硫酸パルプを挙げることができる。機械パルプとしては、砕木パルプ(SGW)、リファイナ砕木パルプ(RMP)、圧力砕木パルプ(PGW)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、そしてケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の化学的に処理された高収率パルプを挙げることができる。脱インキパルプは、オフィス古紙(MOW)、新聞印刷用紙(ONP)、雑誌(OMG)等を用いて作ることができる。また、異なるパルプの混合物も使用することができる。
【0024】
好ましくは、繊維に対する石膏の重量比は乾燥量基準で95:5〜50:50であり、より好ましくは75:25〜50:50である。
【0025】
本発明によると、石膏−繊維複合体製造物は、天然若しくは合成のポリマーバインダ及び/又は蛍光発光剤及び/又はレオロジー調整剤及び/又はサイズ剤などの追加的な物質をさらに含むこともできる。サイズ剤は、ロジンサイズであってもよいし、アルキルケテンダイマー(AKD)又はアルケニル無水コハク酸(ASA)等の反応性サイズ剤であってもよい。
【0026】
先に記載したように、本発明の石膏製造物の典型的な用途は、塗工顔料又は填料である。製紙用添加剤としての用途に加えて、プラスチック用充填材、並びにガラス工業、化粧品、印刷インキ、建設材料及び塗料における原料としても使用することができる。
【0027】
本発明の一態様によると、複合製造物は塗工顔料であり、好ましくは0.1〜1.0μm、より好ましくは0.5〜1.0μmの大きさを有する石膏の結晶を含有する。他の態様によると、当該製造物は充填材であり、好ましくは1.0〜5.0μm、より好ましくは1.0〜4.0μmの大きさの石膏の結晶を含有する。充填材複合体における石膏の結晶は、1.0以上2.0未満の大きさであってもよい。
【0028】
本発明の第二の面によると、硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物と繊維の水懸濁液とを接触させて、該繊維の表面に石膏の結晶を形成することを含む、石膏−繊維複合製造物の製造方法が提供される。
【0029】
結晶形成に際して、水に対する硫酸カルシウム半水和物及び/又硫酸カルシウム無水物の比は好ましくは0.03〜0.6:1、より好ましくは0.05〜0.5:1である。
【0030】
結晶形成段階における乾燥繊維量は、好ましくは3〜30重量%である。
【0031】
結晶形成段階における硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物の量は、好ましくは10〜57重量%である。
【0032】
本発明の方法は、得られた製造物を乾燥して細かく粉砕し、粒子状の石膏−繊維複合体を形成する段階をさらに有していてもよい。
【0033】
本発明によると、結晶を形成する段階で固定剤を導入することができる。
【0034】
固定剤は、ポリ塩化アルミニウム、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(ポリDADMAC)、アニオン性及びカチオン性ポリアクリレートよりなる群から選択することができる。
【0035】
本発明によると、媒晶剤を使用することなく晶析を行うことができる。
【0036】
本発明によると、媒晶剤を使用しても晶析を行うことができる。
【0037】
硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物を添加する前に、水又は繊維の水性懸濁液に媒晶剤を添加することができる。
【0038】
反応混合物における水の温度は0〜100 ℃の間であれば何度でもよい。水の温度は好ましくは0〜80℃であり、より好ましくは0〜50℃であり、さらに好ましくは0〜40℃であり、最も好ましくは0〜25℃である。
【0039】
本発明の態様によると、媒晶剤は無機酸、無機酸化物、無機塩基又は無機塩である。使用することのできる無機酸化物、無機塩基及び無機塩の例としては、AlF3、Al2(SO4)3、CaCl2、Ca(OH)2、H3BO4、NaCl、Na2SO4、NaOH、NH4OH、(NH4)2SO4、MgCl2、MgSO4及びMgOを挙げることができる。
【0040】
他の態様によると、媒晶剤は、アルコール、酸又は塩などの有機化合物である。好適なアルコールとしては、メタノール、エタノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ヘキサノール、2-オクタノール、グリセロール、イソプロパノール及びアルキルポリグルコシドを基材としたC8〜C10脂肪アルコールを挙げることができる。
【0041】
媒晶剤は、好ましくは、その分子中に1又は複数のカルボキシル基若しくはスルホン酸基を有する化合物、又はそのような化合物の塩である。有機酸の例として、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、クエン酸、ジオキシコハク酸、エチレンジアミンコハク酸(EDDS)、イミノジコハク酸(ISA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、N-ビス-(2-(1,2-ジカルボキシエトキシ)エチルアスパラギン酸(AES)、並びにアミノ-1-ナフトール-3,6-ジスルホン酸、8-アミノ-1-ナフトール-3,6-ジスルホン酸、2-アミノフェノール-4-スルホン酸、アントラキノン-2,6-ジスルホン酸、2-メルカプトエタンスルホン酸、ポリ(スチレン−スルホン酸)、ポリ(ビニルスルホン酸)及びジ−、テトラ−、ヘキサ−アミノスチルベンスルホン酸等のカルボン酸を挙げることができる。
【0042】
有機塩の例として、Mg蟻酸塩、Na-及びNH4-酢酸塩、Na2−マレイン酸塩、NH4−クエン酸塩、Na2-コハク酸塩、K-オレイン酸塩、K-ステアリン酸塩、Ma2−エチレンジアミンテトラ酢酸(Na2-EDTA)、Na6-アスパルタミック酸エトキシコハク酸塩(Na6-AES)及びNa6-アミノトリエトキシコハク酸塩(Na6-TCA)等のカルボン酸の塩を挙げることができる。
【0043】
また、Na-n-(C10〜C13)-アルキルベンゼンスルホン酸塩、C10〜C16-アルキルベンゼンスルホン酸塩、Na-1-オクチルスルホン酸塩、Na-1-ドデカンスルホン酸塩、K-脂肪酸スルホン酸塩、Na-C14〜C16-オレフィンスルホン酸塩、アニオン性又は非イオン性界面活性剤と共に使用されるNa-アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジK-オレイン酸スルホン酸塩、並びにジ−、テトラ−及びヘキサ−アミノスチルベンスルホン酸の塩等のスルホン酸の塩も用いることができる。イオウを含む有機塩の例として、C12〜C14脂肪アルコールエーテル硫酸塩、Na-2-エチルヘキシル硫酸塩、Na-n-ドデシル硫酸塩及びNa-ラウリル硫酸塩等の硫酸塩、並びにNa-スルホコハク酸、Na-ジオクチルスルホコハク酸、及びNa-ジアルキルスルホコハク酸のモノアルキルポリグリコールエーテル等のスルホコハク酸を挙げることができる。
【0044】
Na-ノニルフェニル−及びNa-ジノニルフェニルエトキシル化リン酸エステル、K-アリールエーテルリン酸塩、並びにポリアリールポリエーテルリン酸塩のトリエタノールアミン塩等のリン酸塩も使用することができる。
【0045】
媒晶剤として、オクチルアミン、トリエタノールアミン、ジ(水素化獣脂アルキル)ジメチルアンモニウムクロリド等のカチオン性界面活性剤、及び様々な変性脂肪アルコールエトキシ化物等の非イオン性界面活性剤も使用することができる。使用することのできる重合性酸、塩基、アミド及びアルコールの例として、ポリアクリル酸及びポリアクリレート、アクリレート−マレエート共重合体、ポリアクリアミド、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリビニルリン酸、アクリル酸とアリルヒドロキシプロピルスルホン酸塩との共重合体(AA−AHPS)、ポリ-α-ヒドロキシアクリル酸(PHAS)、ポリビニルアルコール、及びポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)を挙げることができる。
【0046】
特に好ましい媒晶剤としては、エチレンジアミンコハク酸(EDDS)、イミノジコハク酸(ISA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、N-ビス-(2-(1,2-ジカルボキシエトキシ)エチルアスパラギン酸(AES)、ジ−、テトラ−及びヘキサ−アミノスチルベンスルホン酸、並びにNa-アミノトリエトキシコハク酸塩(Na6-TCA)等のこれらの化合物の塩、さらにアルキルベンゼンスルホン酸塩を挙げることができる。
【0047】
本発明の方法においては、媒晶剤は、硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物の重量に基づいて、0.01〜5.0%、最も好ましくは0.02〜1.78%の量で用いることができる。
【0048】
本発明の方法においては、通常、β−硫酸カルシウム半水和物が使用される。これは、石膏原料を140〜300℃、好ましくは150〜200℃の温度に加熱することによって製造することができる。これよりも低い温度では石膏原料が十分に脱水されず、一方、これよりも高い温度では過剰に脱水されて無水物になってしまう。焼成した硫酸カルシウム半水和物は、通常、少量の硫酸カルシウム二水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物の形態の不純物を含んでいる。流動床フラッシュ焼成等のフラッシュ焼成によって得られたβ−硫酸カルシウム半水和物を使用するのが好ましく、それによって石膏原料は必要な温度まで可能な限り早く加熱される。しかしながら、結晶形成においてα−硫酸カルシウム半水和物を使用することも可能である。
【0049】
本発明の方法の反応開始材料として硫酸カルシウム無水物を使用することも可能である。硫酸カルシウム無水物は、石膏原料を焼成することによって得られる。無水物には3つの形態がある。第1の形態は所謂無水物Iであり、不溶性の無水物II-uやII-Eのように、水との反応によって石膏を形成することができない。所謂無水物IIIであり、可溶性無水物としても知られている他の態様のものは、3つの形態を有している。それらは、β−無水物III、β−無水物III'、及びα−無水物IIIである。これらと無水物II-sとは、水と接触すると純粋な石膏を形成する。
【0050】
硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物に関しては、繊維の水性懸濁液と任意成分である媒晶剤とを接触させた後に、これらを反応させて硫酸カルシウム二水和物、即ち石膏にする。この反応は、前記物質を一緒に十分な時間、例えば、混合することによって、好ましくは強く混合することによって起こすことができる。混合の時間は実験によって容易に定めることができる。乾物の含有量が多いときは、スラリーが濃くて薬品が容易には相互に接触しないので、強い混合が必要になる。硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物、繊維の水性懸濁液、並びに任意に使用される媒晶剤は水に対して示された前記温度で混合されるのが好ましい。初期のpHは、通常、3.5〜9.0であり、最も好ましくは4.0〜7.5である。初期のpHが酸性であるのが望ましく、好ましくは3〜7であり、より好ましくは3〜6である。必要であれば、NaOH及び/又はH2SO4の水溶液、典型的にはNaOH及び/又はH2SO4の10%水溶液によってpHを調整する。
【0051】
石膏は、前記半水和物や可溶性の前記無水物よりも水に対する溶解度が低いので、前記半水和物及び/又は無水物と水との反応によって形成される石膏は水媒体から直ちに結晶化する傾向がある。本発明による結晶化は、本発明による有用な製造物が得られるように前記媒晶剤によって調整することができる。
【0052】
本発明の石膏−繊維複合製造物は他の添加剤によって処理することもできる。典型的な添加剤としては、製造物を貯蔵して使用するに際して微生物が活性化するのを防止する殺生物剤を挙げることができる。
【0053】
本発明の第三の面によると、本発明の石膏−繊維複合製造物を填料又は塗工顔料として含有する紙製品が提供される。
【0054】
特に好ましい紙製品は、典型的にはコートされておらず、好ましくは機械パルプから作られたのではない(化学パルプから作られた)上質紙である。上質紙の例としては、オフセット用紙、ボンド紙、感圧紙及びコピー用紙を含む筆記印刷グレードの紙を挙げることができる。
【0055】
紙製品中の石膏−繊維複合製造物の量は乾燥量基準で20〜100重量%であるのが好ましい。他の好ましい範囲としては、乾燥量基準で20〜90重量%、20〜80重量%、20〜70重量%、20〜60重量%及び20〜50重量%である。好ましい範囲としては、乾燥量基準で30〜100重量%、40〜100重量%、50〜100重量%及び60〜100重量%をさらに挙げることができる。
【0056】
本発明の紙製品は前記石膏−繊維複合製造物に加えてセルロース系繊維を含んでいるのが好ましい。
【0057】
セルロース系繊維としては、化学パルプ繊維、機械パルプ繊維、化学機械パルプ繊維又は脱インキパルプ繊維等の、従来から使用されている製紙用パルプ繊維であるのが好ましい。化学パルプとしては、クラフトパルプ及び亜硫酸パルプを挙げることができる。機械パルプとしては、砕木パルプ(SGW)、リファイナ砕木パルプ(RMP)、圧力砕木パルプ(PGW)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、そしてケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の化学的に処理された高収率パルプを挙げることができる。脱インキパルプは、オフィス古紙(MOW)、新聞印刷用紙(ONP)、雑誌(OMG)等を用いて作ることができる。また、異なるパルプの混合物も使用することができる。
【0058】
前記セルロース系繊維は、石膏−繊維複合製造物に含まれている繊維と類似していても相違していてもよいが、類似している方が好ましい。
【0059】
上質紙用には、セルロース系繊維はクラフトパルプ繊維であるのが好ましい。
【0060】
紙製品における石膏−繊維複合製造物の量は、乾燥量基準で、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは20〜50重量%である。これに対応して、紙製品における前記セルロース系繊維の量は、乾燥量基準で、好ましくは40〜90重量%、より好ましくは50〜80重量%である。
【0061】
本発明は、さらに、本発明の石膏−繊維複合製造物を製紙において填料又は塗工顔料として使用すること係る。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1a】例1で製造された、半水和物固形分量が18%(半水和物/(半水和物+水))である硫酸カルシウム二水和物/TMP複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図1b】図1aに示されている複合体を飽和硫酸カルシウム溶液で洗浄した後の当該複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図2a】例2で製造された、半水和物固形分量が42%(半水和物/(半水和物+水))である硫酸カルシウム二水和物/TMP複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図2b】図2aに示されている複合体を飽和硫酸カルシウム溶液で洗浄した後の当該複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図3】例3で製造された、半水和物固形分量が6.25%(半水和物/(半水和物+水))である硫酸カルシウム二水和物/ユーカリクラフトパルプ複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図4】例4で製造された、半水和物固形分量が7.5%(半水和物/(半水和物+水))である硫酸カルシウム二水和物/ユーカリクラフトパルプ複合体の繊維のSEM顕微鏡写真である。
【図5a】例5で製造された、ポリ塩化アルミニウムを固定剤として用いた硫酸カルシウム二水和物/マツクラフトパルプ複合体を飽和硫酸カルシウム溶液で洗浄した後の当該複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図5b】図5aに示される複合体をハイドルフ(Heidolph)試験用ミキサを用いて350 rpmで数分撹拌した後の複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図6a】例6で製造された、ポリDACMACを固定剤として用いた硫酸カルシウム二水和物/マツクラフトパルプ複合体を飽和硫酸カルシウム溶液で洗浄した後の当該複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図6b】図6aに示される複合体をハイドルフ(Heidolph)試験用ミキサを用いて350 rpmで数分撹拌した後の複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図7】例7で製造された、硫酸カルシウム二水和物/カバ材クラフトパルプ複合体を飽和硫酸カルシウム溶液で洗浄した後の当該複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図8】例8で製造された、硫酸カルシウム二水和物/プラスチックファイバ複合体を飽和硫酸カルシウム溶液で洗浄した後の当該複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図9a】カレンダー加工を行っていない紙試料の断面のSEM画像である。
【図9b】カレンダー加工を行っていない紙試料の断面のSEM画像である。
【図9c】カレンダー加工を行っていない紙試料の断面のSEM画像である。
【図10】紙試料の黄色度を示している。
【図11】紙試料の光分散と不透明度とを示している。
【図12】紙試料のISO輝度、CIE白色度及びCIE L*を示している。
【図13】カレンダー加工を行っていない紙試料の両面のPPS粗度を示している。
【図14】カレンダー加工を行っていない紙試料とカレンダー加工を行った紙試料とのPPS粗度を示している。
【図15】紙試料の透気度(ベントセン(Bendtsen)空隙率)を示している。
【図16】紙試料の比引張強さに対する光分散を示している。
【0063】
[例]
以下において、例によって本発明をより詳細に説明する。例の目的は請求項の範囲を制限することではない。この明細書においては、パーセント表示は、そうでない旨の記載がない限り、重量%を意味する。
【0064】
第一に、合成と製造物の分析についての一般的な情報を記載する。次に、各例についてのデータを示す。
【0065】
<合成>
一般的な情報を最初に示す。紙用顔料を最適化する方法を行った。パラメータは次の通りであった。
HH(初期の半水和物、重量%) 5〜57
繊維濃度(重量%) 3〜30
添加剤濃度(DH(二水和物)の重量%) 0.100〜1
【0066】
溶液自体のpHで反応が行われた。媒晶薬剤は、析出した硫酸カルシウム二水和物のパーセント(DHの重量%)として計算するものとする。
【0067】
次の機器を用いて実験を行った。
【0068】
ホバート(Hobart)N50CE型反応器。繊維の水性懸濁液相に半水和物と薬剤とを回分式で加え、初期の固形分が5〜57重量%である半水和物スラリーを得た。混合速度は250〜250 rpmである。反応は混合物自体のpHで行われた。
【0069】
<分析>
硫酸カルシウム二水和物の形態を、FEI XL 30 FEG走査型電子顕微鏡を用いて調べた。半水和物から二水和物への転換は、メトラー・トレド製のTGA/SDTA85 1/1100型熱重量分析機(TG)を用いて分析した。結晶構造は、フィリップスのエキスパートX線粉末ディフラクトメータ(XRD)によって測定した。
【0070】
(例1)
1.800 gの水をホバートN50 CE型試験用ミキサーに投入した。数滴の殺生物剤(Fennosan IT21)を添加した。
2.固形分含有量が36%であるTMP(サーモメカニカルパルプ)を200 g、前記反応容器に入れた。
3.流動層焼成されたβ−硫酸カルシウム半水和物を、動作速度を「1」にセットした攪拌機で撹拌しながら、前記反応器に均等に投入した。投入した半水和物の合計量は200 g(これより、半水和物/(半水和物+水)が18重量%であることが算出される。)であった。この投入の後、攪拌機の動作速度を「2」に上げた。複合体を5分間撹拌した。
4.硫酸カルシウム二水和物が形成されるのを一時間待った。
【0071】
得られた顔料−繊維複合体を図1aに示す。また、硫酸カルシウムを飽和させた水で洗浄した後の複合体を図1bに示す。
【0072】
(例2)
1.430 gの水をホバートN50 CE型試験用ミキサーに投入した。数滴の殺生物剤(Fennosan IT21)を添加した。
2.固形分含有量が36%であるTMP(サーモメカニカルパルプ)を570 g、前記反応容器に入れた。
3.流動層焼成されたβ−硫酸カルシウム半水和物を、動作速度を「1」にセットした攪拌機で撹拌しながら、前記反応器に均等に投入した。投入した半水和物の合計量は570 g(これより、半水和物/(半水和物+水)が42重量%であることが算出される。)であった。この投入の後、攪拌機の動作速度を「2」に上げた。複合体を5分間撹拌した。
4.硫酸カルシウム二水和物が形成されるのを一時間待った。
【0073】
得られた顔料−繊維複合体を図2aに示す。また、硫酸カルシウムを飽和させた水で洗浄した後の複合体を図2bに示す。
【0074】
(例3)
1.固形分含有量が17.7%であるユーカリクラフトパルプ456.5 gをホバートN50 CE型試験用ミキサーに入れた。
2.流動層焼成されたβ−硫酸カルシウム半水和物を、動作速度を「1」にセットした攪拌機で撹拌しながら、前記反応器に均等に投入した。投入した半水和物の合計量は25 g(これより、半水和物/(半水和物+水)が16.5重量%であることが算出される。)であった。この投入の後、攪拌機の動作速度を「2」に上げた。複合体を5分間撹拌した。
3.硫酸カルシウム二水和物が形成されるのを一時間待った。
【0075】
得られた顔料−繊維複合体を、硫酸カルシウムを飽和させた水で洗浄した後の複合体を図3に示す。
【0076】
(例4)
1.47 gの水をホバートN50 CE型試験用ミキサーに投入した。数滴の殺生物剤(Fennosan IT21)を添加した。
2.固形分含有量が17.7%であるユーカリクラフトパルプの295.5 gを前記反応容器に入れた。
3.流動層焼成されたβ−硫酸カルシウム半水和物を、動作速度を「1」にセットした攪拌機で撹拌しながら、前記反応器に均等に投入した。投入した半水和物の合計量は25 g(これより、半水和物/(半水和物+水)が7.5重量%であることが算出される。)であった。この投入の後、攪拌機の動作速度を「2」に上げた。複合体を5分間撹拌した。
4.硫酸カルシウム二水和物が形成されるのを一時間待った。
【0077】
得られた繊維製造物を図4に示す。
【0078】
(例5)
1.44.8 gの水をホバートN50 CE型試験用ミキサーに投入した。1.6 gのポリ塩化アルミニウムと数滴の殺生物剤(Fennosan IT21)を添加した。
2.固形分含有量が7%であるマツクラフトパルプの640 gを前記反応容器に入れた。
3.流動層焼成されたβ−硫酸カルシウム半水和物を、動作速度を「1」にセットした攪拌機で撹拌しながら、前記反応器に均等に投入した。投入した半水和物の合計量は160 g(これより、半水和物/(半水和物+水)が20重量%であることが算出される。)であった。この投入の後、攪拌機の動作速度を「2」に上げた。複合体を5分間撹拌した。
4.硫酸カルシウム二水和物が形成されるのを一時間待った。
【0079】
得られた顔料−繊維複合体を、硫酸カルシウムを飽和させた水で洗浄した後の複合体を図5に示す。
【0080】
(例6)
1.15.8 gの水をホバートN50 CE型試験用ミキサーに投入した。0.6 gのポリDACMACと数滴の殺生物剤(Fennosan IT21)を添加した。
2.固形分含有量が7%であるマツクラフトパルプの226 gを前記反応容器に入れた。
3.流動層焼成されたβ−硫酸カルシウム半水和物を、動作速度を「1」にセットした攪拌機で撹拌しながら、前記反応器に均等に投入した。投入した半水和物の合計量は300 g(これより、半水和物/(半水和物+水)が57重量%であることが算出される。)であった。この投入の後、攪拌機の動作速度を「2」に上げた。複合体を5分間撹拌した。
4.硫酸カルシウム二水和物が形成されるのを一時間待った。
【0081】
得られた顔料−繊維複合体を、硫酸カルシウムを飽和させた水で洗浄した後の複合体を図6に示す。
【0082】
(例7)
1.116 gの水をホバートN50 CE型試験用ミキサーに投入した。数滴の殺生物剤(Fennosan IT21)を添加した。
2.800 gのカバ材クラフトパルプ(固形分含有量が14.5%)を前記反応容器に入れた。
3.流動層焼成されたβ−硫酸カルシウム半水和物を、動作速度を「1」にセットした攪拌機で撹拌しながら、前記反応器に均等に投入した。投入した半水和物の合計量は200 g(これより、半水和物/(半水和物+水)が20重量%であることが算出される。)であった。この投入の後、攪拌機の動作速度を「2」に上げた。複合体を5分間撹拌した。
4.硫酸カルシウム二水和物が形成されるのを一時間待った。
【0083】
得られた顔料−繊維複合体を、硫酸カルシウムを飽和させた水で洗浄した後の複合体を図7に示す。
【0084】
(例8)
1.600 gの水をホバートN50 CE型試験用ミキサーに投入した。数滴の殺生物剤(Fennosan IT21)を添加した。
2.10 gの合成ポリプロペン繊維を前記反応容器に入れた。
3.流動層焼成されたβ−硫酸カルシウム半水和物を、動作速度を「1」にセットした攪拌機で撹拌しながら、前記反応器に均等に投入した。投入した半水和物の合計量は300 g(これより、半水和物/(半水和物+水)が34重量%であることが算出される。)であった。この投入の後、攪拌機の動作速度を「2」に上げた。複合体を5分間撹拌した。
4.硫酸カルシウム二水和物が形成されるのを一時間待った。
【0085】
得られた顔料−繊維複合体を、硫酸カルシウムを飽和させた水で洗浄した後の複合体を図8に示す。
【0086】
(例9)
顔料−繊維複合体を用いて次のようにして適用試験を行った。
【0087】
SRが32になるように精製されたユーカリクラフトパルプに硫酸カルシウムが析出された。析出物における繊維の固形分含有量は8%、半水和物は20%であった。複合体/未処理パルプ比を変更することによって、手漉き紙の充填材の量を20%、30%、40%に調節した。バレー・ホランダーのリファイナを錘なしで用いて、複合体を30分間砕解した。ハーゲ(Haage)のラピッドケーテン(Rapid Koethen)枚葉紙形成機を用いて手漉き紙を製造した。坪量は60 g/m2であった。
【0088】
図9aは、本発明の石膏−繊維複合体を含む、カレンダー加工されていない枚葉紙の断面SEM画像を示しており、図9bは、従来技術であるPCS(沈降硫酸カルシウム)を含有するカレンダー加工されていない枚葉紙の断面SEM画像を示しており、図9cは、従来技術であるPCC(沈降炭酸カルシウム)を含有するカレンダー加工されていない枚葉紙の断面SEM画像を示している。図9a〜9cにおいて見られるように、本発明による硫酸カルシウム充填材−繊維複合体を用いて得られた紙(図9a)は、平滑かつ稠密であり、均一な充填材分布を有している。それに対して、PCS及びPCC充填材を用いて得られた紙(図9b及び9c)は平滑度と稠密度とが低く、充填材分布が不均一である。
【0089】
以下において、”Kompo”と”Composite”とは、本発明の石膏−繊維複合体を意味し、PCCは沈降炭酸カルシウムを、PCSは沈降硫酸カルシウムを意味する。例えば「Kompo30」における数字の「30」は充填材の量が30%であることを意味する。
【0090】
坪量はISO 536規格によって、
厚さ、稠密度及び嵩はISO 534によって、
PPS粗度はISO 8791-4によって、
TAPPIグロス75°はISO 8254-1によって、
透気度はISO 5636-3によって、
灰分は、ISO 1762規格を用いて、850℃で試料を3時間加熱することによって、
比引張強さはL&W引張強度試験器とISO 1924-3規格とを用いて、
比引裂強さはISO 1974を用いて、
スコット・ボンド(Scott Bond)はT 569を用いて
測定した。
【0091】
以下に示す結果が得られた。
【0092】
図10の結果は、Kompoについては黄色度(CIE黄色座標b*(C/2°))がPCC及びPCSについてよりはるかに低かったことを示している。
【0093】
図11の結果は、Kompoが光散乱をPCSに比べて約15ユニット、PCCに比べて約3ユニット向上させたことを示している。この図の結果は、Kompoが不透明度をPCS及びPCCに比べて約2ユニット向上させたことを示している。
【0094】
図12の結果は、KompoのISO輝度(R457で測定したC/2°輝度)がPCSに比べて増加してPCCと同じレベルにまで上がったことを示している。また、KompoのCIE白色度がPCC及びPCSの両方に比べて向上した。CIE L*(C/2°)は3つの充填剤について同じであった。CIE L*は明度の基準であって完全な白を意味する100から完全な黒を意味する0まで変化する。
【0095】
図13のPPS粗度の評価結果は、PCCやPCSを用いた場合に比べて、様々な充填材量のCompositeを用いると、上方面(TS)及びワイヤ側面(WS)の両方においてカレンダー加工されていない紙の表面がより平滑であったことを示している。また、Compositeにあっては、上方面(TS)とワイヤ側面(WS)との粗度の差が非常に小さかった。
【0096】
図14のPPS粗度の評価結果は、試験で用いられた全荷重(10 kN、30 kN及び50 kN)において、カレンダー加工された試料についてもされなかった試料についても、Kompoの粗度が最も小さかったことを示している。
【0097】
図15の結果は、試験で用いられたカレンダー加工の全荷重(10 kN、30 kN及び50 kN)において、カレンダー加工された試料についてもされなかった試料についても、PCCやPCSよりもKompoの方が、透気度、即ちブレントセン空隙率が小さかったことを意味している。このように、Kompoを用いると、嵩が小さくて稠密な枚葉紙を得ることができた。この図に示されている結果は、充填材の量を増加させることによって透気度が低下することも示している。
【0098】
図16には、比引張強さに対する光分散が示されている。この図の結果は、本発明の複合体については、光分散と比引張強さとの関係が良好であることを示している。
【0099】
本発明による複合体を用いた試料は他の試料よりも平滑であるので、同じ粗度値を与える紙を作るのに、異なるカレンダー加工条件を使用することができる。充填材量が30%である試料について、同じ粗度での比較が表1に、同じ嵩での比較が表2に示されている。
【0100】
次の表1では様々な紙の性質が比較されている。
【0101】
【表1】
【0102】
表にまとめられた結果は、粗度が同じであれば、本発明の複合体を含む試料が最も高い嵩、光分散及び不透明度を有していたことを示している。
【0103】
続く表2には様々な紙の性質がまとめられている。
【0104】
【表2】
【0105】
表にまとめられた結果は、嵩が同じであれば、本発明の複合体を含む試料が最も高い平滑性と不透明度とを有していたことを示している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、石膏−繊維複合製造物に関する。石膏−繊維複合製造物は製紙における塗工顔料又は填料として使用することができる。本発明は、石膏−繊維複合製造物の製造方法にも関する。製紙において、填料の歩留まりを向上させ、填料を均一に分散させることができる。
【背景技術】
【0002】
製紙工程は、セルロース系繊維を水及び無機填料(通常は、粘土又は炭酸カルシウム或いは石膏)と混合して供給原料を製造することから始まる。得られたスラリーをヘッドボックスによって抄紙用ワイヤ又はプレス用布又はワイヤ上に搬送し、製紙機械の形成セクションでセルロース系繊維の繊維ウェブを形成する。次に、排水セクションで排水を行い、形成されたウェブは一連の圧搾ロールを有する圧搾セクションに送られて、そこでさらに水が除去される。そして、ウェブは製紙機械の乾燥セクションに送られ、そこで、典型的には蒸気乾燥ドラムによって残っている水分を蒸発させる。乾燥後の操作としては、加圧下でロールの間を乾燥紙製品が通過するカレンダーがけがあり、それによって表面の平滑性と光沢とを向上させ、紙の厚みをより均一にする。カレンダーとしては、複数のロールが通常鋼鉄製のロールであって加熱されたロール(熱ロール)を含む機械式カレンダー装置などの様々なものがある。
【0003】
石膏、即ち硫酸カルシウム二水和物CaSO4・2H2Oは、特に製紙における塗工顔料及び填料の材料として適している。この石膏が高い白色度、光沢及び不透明度を有していると、特に優れた塗工顔料と填料とを得ることができる。粒子が十分に小さく、平たくて幅広(板状)であると、高い光沢が得られる。粒子が屈折性で、小さくて大きさが等しい(粒子径分散が小さい)と、不透明度が高くなる。
【0004】
石膏製品の粒子の形態は、走査型電子顕微鏡写真を調べることによって知ることができる。有用な顕微鏡写真は、例えば、フィリップスのFEI XL 30 FEG型の走査型電子顕微鏡で得られる。
【0005】
石膏製品の粒子の大きさは、そこに閉じ込められている粒子の重量平均粒子径D50として示される。より正確には、D50は球形であると推定される粒子の直径であって、全粒子重量の50%を成す粒子の直径よりも小さい。D50は、セディグラフ(Sedigraph)5100等の適切な粒子サイズ分析機で測定することができる。
【0006】
ある結晶が平たいということは、当該結晶が薄いということである。平たい結晶の形態は、形状比SRによって適切に表現される。SRは、結晶の厚さ(最短の横断長さ)に対する結晶の長さ(最長の長さ)の比である。請求項に記載されている石膏製品のSRは、個々の結晶の平均SRを意味している。
【0007】
結晶が板状であるということはそれが幅広であることを意味する。板状度はアスペクト比ARで表現されるのが適している。ARは、結晶長(最長の長さ)と結晶の幅(最も長い横断方向の長さ)との比である。請求項に記載の石膏製品のARは、個々の結晶の平均ARを意味している。
【0008】
石膏製品のSRとARとの両方を、走査型電子顕微鏡写真を調べることによって評価することができる。好適な走査型電子顕微鏡は、先に記載したフィリップスのFEI XL 30 FEGである。
【0009】
結晶粒子径が等しいということは、結晶粒子径の分散幅が狭いということを意味する。分散幅は重量分散WPSDで示され、また、(D75−D25)/D50(但し、D75、D25及びD50は、粒子の全重量のそれぞれ75%、25%、50%を成す粒子よりも小さい、球形であると推定される粒子の直径である。分子分散の幅については、先に記載したセディグラフ5100のタイプの適切な粒子サイズ分析器を用いて得ることができる。
【0010】
石膏は天然鉱物として生じ、また、化学反応の副産物として、例えばリン酸石膏又は排ガス石膏として形成される。さらに石膏を結晶化することによって塗工顔料や填料へと石膏を精製するためには、最初に石膏を焼成して硫酸カルシウム半水和物(CaSO4・1/2H2O)にしなければならない。その後該半水和物を水に溶かして純粋な石膏を析出させることによって水和状態に戻すことができる。硫酸カルシウムは結晶水のない無水物の形態(CaSO4)で生成することもある。
【0011】
石膏原料の焼成条件によって、硫酸カルシウム半水和物はα−半水和物とβ−半水和物との2つの形態で生成する。β形態のものは石膏原料を大気圧下で加熱処理することによって得られ、α形態のものは石膏原料を、大気圧より高い蒸気圧下で処理することによって、又は塩若しくは酸溶液から例えば約45℃で化学的湿式焼成を行うことによって得ることができる。
【0012】
WO 88/05423は、硫酸カルシウム半水和物を当該半水和物と水とのスラリー中で水和させることによって石膏を製造する方法を開示している。スラリー中の乾物の量は20〜25重量%である。このようにして石膏が得られ、その最大長さは100〜450μmであり、二番目に長い径の長さは10〜40μmである。
【0013】
AU 620857(EP 0334282 A1)は、粉砕した硫酸カルシウム半水和物を33.33重量%以下の割合で含有するスラリーから石膏を製造し、平均粒子径が2〜200μm、アスペクト比が5〜50である針状の結晶を生産した。この文献の第15頁第5行〜第11行及び例を参照されたい。
【0014】
US 2004/0241082は、乾物含有量が5〜25重量%である硫酸カルシウム半水和物の水性スラリーから小さな針状の石膏の結晶(長さ5〜35μm、幅1〜5μm)を製造する方法を記載している。この米国文献における思想は、製紙工程中に結晶が溶解するのを防ぐために添加剤を加えることによって石膏の水への溶解度を低下させることである。
【0015】
DE 32 23 178 C1は一種又はそれ以上の鉱物物質で被覆された有機繊維を製造する方法を開示している。その方法の一態様は、セルロース繊維と石膏と水とを混合することを含む。得られた混合物は圧縮されて塑性塊状体となり、続いて、この塑性塊状体を乾燥して機械的に粉砕して細かな粒子にする。得られた製品は、例えばビチューメンの塊状体やパテに添加される添加剤又は充填材として使用される。
【0016】
WO 2008/092990は、0.1〜2.0μmの大きさの無傷の結晶からなる石膏製品を開示している。結晶は、形状比SRが少なくとも2.0、好ましくは2.0〜50、そしてアスペクト比が1.0〜10、好ましくは1.0以上5.0未満である。
【0017】
WO 2008/092991は、硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物と水とを接触させて、硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物と水とが相互に反応して結晶性石膏製品を形成する、石膏製品の製造方法を開示している。形成された反応混合物の乾物含有量は34〜84重量%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】WO 88/05423
【特許文献2】AU 620857(EP 0334282 A1)
【特許文献3】US 2004/0241082
【特許文献4】DE 32 23 178 C1
【特許文献5】WO 2008/092990
【特許文献6】WO 2008/092991
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、石膏が繊維の表面で結晶化して繊維にかなり強固に付着している、石膏−繊維複合製造物を提供することである。この複合製造物は、製紙において填料又は塗工顔料として使用することができる。製紙において、填料の歩留まりが向上し、填料を均一に分散させることができる。また、充填材の充填量を多くすることができる。本発明の石膏−繊維複合製造物は、特に肌理の細かな紙の製造に適している。
【課題を解決するための手段】
【0020】
したがって、本発明の第一の面によると、繊維の表面に石膏が結晶として現れている石膏−繊維複合製造物が与えられ、該石膏の結晶は硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物と前記繊維の水性懸濁液とを接触させることによって得られる。
【0021】
石膏は繊維に付着し、結果として、石膏−繊維複合体は大多数の測定方法では単一のものとして示される。石膏の形状と大きさとは、顕微鏡画像によって大まかに評価することができる。繊維に付着した石膏の結晶は、WO 2008/092990及びWO 2008/092991に記載されている形状と大きさとを有していることもある。しかしながら、本発明によると、結晶化した石膏は針状であることもあり得る。
【0022】
石膏の結晶の大きさは、好ましくは、0.1〜5.0μmであり、より好ましくは0.1〜4.0μmであり、最も好ましくは0.2〜4.0μmである。石膏の結晶の大きさは、また、0.1〜2.0μm又は0.2〜2.0μmであってもよい。
【0023】
好ましくは、石膏−繊維複合製造物は、化学パルプ繊維、機械パルプ繊維、化学機械パルプ繊維若しくは脱インキパルプ繊維等のセルロース系繊維、又はポリオレフィン、例えばポリプロペン等の合成繊維を含有している。化学パルプとしては、クラフトパルプ及び亜硫酸パルプを挙げることができる。機械パルプとしては、砕木パルプ(SGW)、リファイナ砕木パルプ(RMP)、圧力砕木パルプ(PGW)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、そしてケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の化学的に処理された高収率パルプを挙げることができる。脱インキパルプは、オフィス古紙(MOW)、新聞印刷用紙(ONP)、雑誌(OMG)等を用いて作ることができる。また、異なるパルプの混合物も使用することができる。
【0024】
好ましくは、繊維に対する石膏の重量比は乾燥量基準で95:5〜50:50であり、より好ましくは75:25〜50:50である。
【0025】
本発明によると、石膏−繊維複合体製造物は、天然若しくは合成のポリマーバインダ及び/又は蛍光発光剤及び/又はレオロジー調整剤及び/又はサイズ剤などの追加的な物質をさらに含むこともできる。サイズ剤は、ロジンサイズであってもよいし、アルキルケテンダイマー(AKD)又はアルケニル無水コハク酸(ASA)等の反応性サイズ剤であってもよい。
【0026】
先に記載したように、本発明の石膏製造物の典型的な用途は、塗工顔料又は填料である。製紙用添加剤としての用途に加えて、プラスチック用充填材、並びにガラス工業、化粧品、印刷インキ、建設材料及び塗料における原料としても使用することができる。
【0027】
本発明の一態様によると、複合製造物は塗工顔料であり、好ましくは0.1〜1.0μm、より好ましくは0.5〜1.0μmの大きさを有する石膏の結晶を含有する。他の態様によると、当該製造物は充填材であり、好ましくは1.0〜5.0μm、より好ましくは1.0〜4.0μmの大きさの石膏の結晶を含有する。充填材複合体における石膏の結晶は、1.0以上2.0未満の大きさであってもよい。
【0028】
本発明の第二の面によると、硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物と繊維の水懸濁液とを接触させて、該繊維の表面に石膏の結晶を形成することを含む、石膏−繊維複合製造物の製造方法が提供される。
【0029】
結晶形成に際して、水に対する硫酸カルシウム半水和物及び/又硫酸カルシウム無水物の比は好ましくは0.03〜0.6:1、より好ましくは0.05〜0.5:1である。
【0030】
結晶形成段階における乾燥繊維量は、好ましくは3〜30重量%である。
【0031】
結晶形成段階における硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物の量は、好ましくは10〜57重量%である。
【0032】
本発明の方法は、得られた製造物を乾燥して細かく粉砕し、粒子状の石膏−繊維複合体を形成する段階をさらに有していてもよい。
【0033】
本発明によると、結晶を形成する段階で固定剤を導入することができる。
【0034】
固定剤は、ポリ塩化アルミニウム、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(ポリDADMAC)、アニオン性及びカチオン性ポリアクリレートよりなる群から選択することができる。
【0035】
本発明によると、媒晶剤を使用することなく晶析を行うことができる。
【0036】
本発明によると、媒晶剤を使用しても晶析を行うことができる。
【0037】
硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物を添加する前に、水又は繊維の水性懸濁液に媒晶剤を添加することができる。
【0038】
反応混合物における水の温度は0〜100 ℃の間であれば何度でもよい。水の温度は好ましくは0〜80℃であり、より好ましくは0〜50℃であり、さらに好ましくは0〜40℃であり、最も好ましくは0〜25℃である。
【0039】
本発明の態様によると、媒晶剤は無機酸、無機酸化物、無機塩基又は無機塩である。使用することのできる無機酸化物、無機塩基及び無機塩の例としては、AlF3、Al2(SO4)3、CaCl2、Ca(OH)2、H3BO4、NaCl、Na2SO4、NaOH、NH4OH、(NH4)2SO4、MgCl2、MgSO4及びMgOを挙げることができる。
【0040】
他の態様によると、媒晶剤は、アルコール、酸又は塩などの有機化合物である。好適なアルコールとしては、メタノール、エタノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ヘキサノール、2-オクタノール、グリセロール、イソプロパノール及びアルキルポリグルコシドを基材としたC8〜C10脂肪アルコールを挙げることができる。
【0041】
媒晶剤は、好ましくは、その分子中に1又は複数のカルボキシル基若しくはスルホン酸基を有する化合物、又はそのような化合物の塩である。有機酸の例として、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、クエン酸、ジオキシコハク酸、エチレンジアミンコハク酸(EDDS)、イミノジコハク酸(ISA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、N-ビス-(2-(1,2-ジカルボキシエトキシ)エチルアスパラギン酸(AES)、並びにアミノ-1-ナフトール-3,6-ジスルホン酸、8-アミノ-1-ナフトール-3,6-ジスルホン酸、2-アミノフェノール-4-スルホン酸、アントラキノン-2,6-ジスルホン酸、2-メルカプトエタンスルホン酸、ポリ(スチレン−スルホン酸)、ポリ(ビニルスルホン酸)及びジ−、テトラ−、ヘキサ−アミノスチルベンスルホン酸等のカルボン酸を挙げることができる。
【0042】
有機塩の例として、Mg蟻酸塩、Na-及びNH4-酢酸塩、Na2−マレイン酸塩、NH4−クエン酸塩、Na2-コハク酸塩、K-オレイン酸塩、K-ステアリン酸塩、Ma2−エチレンジアミンテトラ酢酸(Na2-EDTA)、Na6-アスパルタミック酸エトキシコハク酸塩(Na6-AES)及びNa6-アミノトリエトキシコハク酸塩(Na6-TCA)等のカルボン酸の塩を挙げることができる。
【0043】
また、Na-n-(C10〜C13)-アルキルベンゼンスルホン酸塩、C10〜C16-アルキルベンゼンスルホン酸塩、Na-1-オクチルスルホン酸塩、Na-1-ドデカンスルホン酸塩、K-脂肪酸スルホン酸塩、Na-C14〜C16-オレフィンスルホン酸塩、アニオン性又は非イオン性界面活性剤と共に使用されるNa-アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジK-オレイン酸スルホン酸塩、並びにジ−、テトラ−及びヘキサ−アミノスチルベンスルホン酸の塩等のスルホン酸の塩も用いることができる。イオウを含む有機塩の例として、C12〜C14脂肪アルコールエーテル硫酸塩、Na-2-エチルヘキシル硫酸塩、Na-n-ドデシル硫酸塩及びNa-ラウリル硫酸塩等の硫酸塩、並びにNa-スルホコハク酸、Na-ジオクチルスルホコハク酸、及びNa-ジアルキルスルホコハク酸のモノアルキルポリグリコールエーテル等のスルホコハク酸を挙げることができる。
【0044】
Na-ノニルフェニル−及びNa-ジノニルフェニルエトキシル化リン酸エステル、K-アリールエーテルリン酸塩、並びにポリアリールポリエーテルリン酸塩のトリエタノールアミン塩等のリン酸塩も使用することができる。
【0045】
媒晶剤として、オクチルアミン、トリエタノールアミン、ジ(水素化獣脂アルキル)ジメチルアンモニウムクロリド等のカチオン性界面活性剤、及び様々な変性脂肪アルコールエトキシ化物等の非イオン性界面活性剤も使用することができる。使用することのできる重合性酸、塩基、アミド及びアルコールの例として、ポリアクリル酸及びポリアクリレート、アクリレート−マレエート共重合体、ポリアクリアミド、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリビニルリン酸、アクリル酸とアリルヒドロキシプロピルスルホン酸塩との共重合体(AA−AHPS)、ポリ-α-ヒドロキシアクリル酸(PHAS)、ポリビニルアルコール、及びポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸)を挙げることができる。
【0046】
特に好ましい媒晶剤としては、エチレンジアミンコハク酸(EDDS)、イミノジコハク酸(ISA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、N-ビス-(2-(1,2-ジカルボキシエトキシ)エチルアスパラギン酸(AES)、ジ−、テトラ−及びヘキサ−アミノスチルベンスルホン酸、並びにNa-アミノトリエトキシコハク酸塩(Na6-TCA)等のこれらの化合物の塩、さらにアルキルベンゼンスルホン酸塩を挙げることができる。
【0047】
本発明の方法においては、媒晶剤は、硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物の重量に基づいて、0.01〜5.0%、最も好ましくは0.02〜1.78%の量で用いることができる。
【0048】
本発明の方法においては、通常、β−硫酸カルシウム半水和物が使用される。これは、石膏原料を140〜300℃、好ましくは150〜200℃の温度に加熱することによって製造することができる。これよりも低い温度では石膏原料が十分に脱水されず、一方、これよりも高い温度では過剰に脱水されて無水物になってしまう。焼成した硫酸カルシウム半水和物は、通常、少量の硫酸カルシウム二水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物の形態の不純物を含んでいる。流動床フラッシュ焼成等のフラッシュ焼成によって得られたβ−硫酸カルシウム半水和物を使用するのが好ましく、それによって石膏原料は必要な温度まで可能な限り早く加熱される。しかしながら、結晶形成においてα−硫酸カルシウム半水和物を使用することも可能である。
【0049】
本発明の方法の反応開始材料として硫酸カルシウム無水物を使用することも可能である。硫酸カルシウム無水物は、石膏原料を焼成することによって得られる。無水物には3つの形態がある。第1の形態は所謂無水物Iであり、不溶性の無水物II-uやII-Eのように、水との反応によって石膏を形成することができない。所謂無水物IIIであり、可溶性無水物としても知られている他の態様のものは、3つの形態を有している。それらは、β−無水物III、β−無水物III'、及びα−無水物IIIである。これらと無水物II-sとは、水と接触すると純粋な石膏を形成する。
【0050】
硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物に関しては、繊維の水性懸濁液と任意成分である媒晶剤とを接触させた後に、これらを反応させて硫酸カルシウム二水和物、即ち石膏にする。この反応は、前記物質を一緒に十分な時間、例えば、混合することによって、好ましくは強く混合することによって起こすことができる。混合の時間は実験によって容易に定めることができる。乾物の含有量が多いときは、スラリーが濃くて薬品が容易には相互に接触しないので、強い混合が必要になる。硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物、繊維の水性懸濁液、並びに任意に使用される媒晶剤は水に対して示された前記温度で混合されるのが好ましい。初期のpHは、通常、3.5〜9.0であり、最も好ましくは4.0〜7.5である。初期のpHが酸性であるのが望ましく、好ましくは3〜7であり、より好ましくは3〜6である。必要であれば、NaOH及び/又はH2SO4の水溶液、典型的にはNaOH及び/又はH2SO4の10%水溶液によってpHを調整する。
【0051】
石膏は、前記半水和物や可溶性の前記無水物よりも水に対する溶解度が低いので、前記半水和物及び/又は無水物と水との反応によって形成される石膏は水媒体から直ちに結晶化する傾向がある。本発明による結晶化は、本発明による有用な製造物が得られるように前記媒晶剤によって調整することができる。
【0052】
本発明の石膏−繊維複合製造物は他の添加剤によって処理することもできる。典型的な添加剤としては、製造物を貯蔵して使用するに際して微生物が活性化するのを防止する殺生物剤を挙げることができる。
【0053】
本発明の第三の面によると、本発明の石膏−繊維複合製造物を填料又は塗工顔料として含有する紙製品が提供される。
【0054】
特に好ましい紙製品は、典型的にはコートされておらず、好ましくは機械パルプから作られたのではない(化学パルプから作られた)上質紙である。上質紙の例としては、オフセット用紙、ボンド紙、感圧紙及びコピー用紙を含む筆記印刷グレードの紙を挙げることができる。
【0055】
紙製品中の石膏−繊維複合製造物の量は乾燥量基準で20〜100重量%であるのが好ましい。他の好ましい範囲としては、乾燥量基準で20〜90重量%、20〜80重量%、20〜70重量%、20〜60重量%及び20〜50重量%である。好ましい範囲としては、乾燥量基準で30〜100重量%、40〜100重量%、50〜100重量%及び60〜100重量%をさらに挙げることができる。
【0056】
本発明の紙製品は前記石膏−繊維複合製造物に加えてセルロース系繊維を含んでいるのが好ましい。
【0057】
セルロース系繊維としては、化学パルプ繊維、機械パルプ繊維、化学機械パルプ繊維又は脱インキパルプ繊維等の、従来から使用されている製紙用パルプ繊維であるのが好ましい。化学パルプとしては、クラフトパルプ及び亜硫酸パルプを挙げることができる。機械パルプとしては、砕木パルプ(SGW)、リファイナ砕木パルプ(RMP)、圧力砕木パルプ(PGW)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、そしてケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の化学的に処理された高収率パルプを挙げることができる。脱インキパルプは、オフィス古紙(MOW)、新聞印刷用紙(ONP)、雑誌(OMG)等を用いて作ることができる。また、異なるパルプの混合物も使用することができる。
【0058】
前記セルロース系繊維は、石膏−繊維複合製造物に含まれている繊維と類似していても相違していてもよいが、類似している方が好ましい。
【0059】
上質紙用には、セルロース系繊維はクラフトパルプ繊維であるのが好ましい。
【0060】
紙製品における石膏−繊維複合製造物の量は、乾燥量基準で、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは20〜50重量%である。これに対応して、紙製品における前記セルロース系繊維の量は、乾燥量基準で、好ましくは40〜90重量%、より好ましくは50〜80重量%である。
【0061】
本発明は、さらに、本発明の石膏−繊維複合製造物を製紙において填料又は塗工顔料として使用すること係る。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1a】例1で製造された、半水和物固形分量が18%(半水和物/(半水和物+水))である硫酸カルシウム二水和物/TMP複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図1b】図1aに示されている複合体を飽和硫酸カルシウム溶液で洗浄した後の当該複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図2a】例2で製造された、半水和物固形分量が42%(半水和物/(半水和物+水))である硫酸カルシウム二水和物/TMP複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図2b】図2aに示されている複合体を飽和硫酸カルシウム溶液で洗浄した後の当該複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図3】例3で製造された、半水和物固形分量が6.25%(半水和物/(半水和物+水))である硫酸カルシウム二水和物/ユーカリクラフトパルプ複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図4】例4で製造された、半水和物固形分量が7.5%(半水和物/(半水和物+水))である硫酸カルシウム二水和物/ユーカリクラフトパルプ複合体の繊維のSEM顕微鏡写真である。
【図5a】例5で製造された、ポリ塩化アルミニウムを固定剤として用いた硫酸カルシウム二水和物/マツクラフトパルプ複合体を飽和硫酸カルシウム溶液で洗浄した後の当該複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図5b】図5aに示される複合体をハイドルフ(Heidolph)試験用ミキサを用いて350 rpmで数分撹拌した後の複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図6a】例6で製造された、ポリDACMACを固定剤として用いた硫酸カルシウム二水和物/マツクラフトパルプ複合体を飽和硫酸カルシウム溶液で洗浄した後の当該複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図6b】図6aに示される複合体をハイドルフ(Heidolph)試験用ミキサを用いて350 rpmで数分撹拌した後の複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図7】例7で製造された、硫酸カルシウム二水和物/カバ材クラフトパルプ複合体を飽和硫酸カルシウム溶液で洗浄した後の当該複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図8】例8で製造された、硫酸カルシウム二水和物/プラスチックファイバ複合体を飽和硫酸カルシウム溶液で洗浄した後の当該複合体のSEM顕微鏡写真である。
【図9a】カレンダー加工を行っていない紙試料の断面のSEM画像である。
【図9b】カレンダー加工を行っていない紙試料の断面のSEM画像である。
【図9c】カレンダー加工を行っていない紙試料の断面のSEM画像である。
【図10】紙試料の黄色度を示している。
【図11】紙試料の光分散と不透明度とを示している。
【図12】紙試料のISO輝度、CIE白色度及びCIE L*を示している。
【図13】カレンダー加工を行っていない紙試料の両面のPPS粗度を示している。
【図14】カレンダー加工を行っていない紙試料とカレンダー加工を行った紙試料とのPPS粗度を示している。
【図15】紙試料の透気度(ベントセン(Bendtsen)空隙率)を示している。
【図16】紙試料の比引張強さに対する光分散を示している。
【0063】
[例]
以下において、例によって本発明をより詳細に説明する。例の目的は請求項の範囲を制限することではない。この明細書においては、パーセント表示は、そうでない旨の記載がない限り、重量%を意味する。
【0064】
第一に、合成と製造物の分析についての一般的な情報を記載する。次に、各例についてのデータを示す。
【0065】
<合成>
一般的な情報を最初に示す。紙用顔料を最適化する方法を行った。パラメータは次の通りであった。
HH(初期の半水和物、重量%) 5〜57
繊維濃度(重量%) 3〜30
添加剤濃度(DH(二水和物)の重量%) 0.100〜1
【0066】
溶液自体のpHで反応が行われた。媒晶薬剤は、析出した硫酸カルシウム二水和物のパーセント(DHの重量%)として計算するものとする。
【0067】
次の機器を用いて実験を行った。
【0068】
ホバート(Hobart)N50CE型反応器。繊維の水性懸濁液相に半水和物と薬剤とを回分式で加え、初期の固形分が5〜57重量%である半水和物スラリーを得た。混合速度は250〜250 rpmである。反応は混合物自体のpHで行われた。
【0069】
<分析>
硫酸カルシウム二水和物の形態を、FEI XL 30 FEG走査型電子顕微鏡を用いて調べた。半水和物から二水和物への転換は、メトラー・トレド製のTGA/SDTA85 1/1100型熱重量分析機(TG)を用いて分析した。結晶構造は、フィリップスのエキスパートX線粉末ディフラクトメータ(XRD)によって測定した。
【0070】
(例1)
1.800 gの水をホバートN50 CE型試験用ミキサーに投入した。数滴の殺生物剤(Fennosan IT21)を添加した。
2.固形分含有量が36%であるTMP(サーモメカニカルパルプ)を200 g、前記反応容器に入れた。
3.流動層焼成されたβ−硫酸カルシウム半水和物を、動作速度を「1」にセットした攪拌機で撹拌しながら、前記反応器に均等に投入した。投入した半水和物の合計量は200 g(これより、半水和物/(半水和物+水)が18重量%であることが算出される。)であった。この投入の後、攪拌機の動作速度を「2」に上げた。複合体を5分間撹拌した。
4.硫酸カルシウム二水和物が形成されるのを一時間待った。
【0071】
得られた顔料−繊維複合体を図1aに示す。また、硫酸カルシウムを飽和させた水で洗浄した後の複合体を図1bに示す。
【0072】
(例2)
1.430 gの水をホバートN50 CE型試験用ミキサーに投入した。数滴の殺生物剤(Fennosan IT21)を添加した。
2.固形分含有量が36%であるTMP(サーモメカニカルパルプ)を570 g、前記反応容器に入れた。
3.流動層焼成されたβ−硫酸カルシウム半水和物を、動作速度を「1」にセットした攪拌機で撹拌しながら、前記反応器に均等に投入した。投入した半水和物の合計量は570 g(これより、半水和物/(半水和物+水)が42重量%であることが算出される。)であった。この投入の後、攪拌機の動作速度を「2」に上げた。複合体を5分間撹拌した。
4.硫酸カルシウム二水和物が形成されるのを一時間待った。
【0073】
得られた顔料−繊維複合体を図2aに示す。また、硫酸カルシウムを飽和させた水で洗浄した後の複合体を図2bに示す。
【0074】
(例3)
1.固形分含有量が17.7%であるユーカリクラフトパルプ456.5 gをホバートN50 CE型試験用ミキサーに入れた。
2.流動層焼成されたβ−硫酸カルシウム半水和物を、動作速度を「1」にセットした攪拌機で撹拌しながら、前記反応器に均等に投入した。投入した半水和物の合計量は25 g(これより、半水和物/(半水和物+水)が16.5重量%であることが算出される。)であった。この投入の後、攪拌機の動作速度を「2」に上げた。複合体を5分間撹拌した。
3.硫酸カルシウム二水和物が形成されるのを一時間待った。
【0075】
得られた顔料−繊維複合体を、硫酸カルシウムを飽和させた水で洗浄した後の複合体を図3に示す。
【0076】
(例4)
1.47 gの水をホバートN50 CE型試験用ミキサーに投入した。数滴の殺生物剤(Fennosan IT21)を添加した。
2.固形分含有量が17.7%であるユーカリクラフトパルプの295.5 gを前記反応容器に入れた。
3.流動層焼成されたβ−硫酸カルシウム半水和物を、動作速度を「1」にセットした攪拌機で撹拌しながら、前記反応器に均等に投入した。投入した半水和物の合計量は25 g(これより、半水和物/(半水和物+水)が7.5重量%であることが算出される。)であった。この投入の後、攪拌機の動作速度を「2」に上げた。複合体を5分間撹拌した。
4.硫酸カルシウム二水和物が形成されるのを一時間待った。
【0077】
得られた繊維製造物を図4に示す。
【0078】
(例5)
1.44.8 gの水をホバートN50 CE型試験用ミキサーに投入した。1.6 gのポリ塩化アルミニウムと数滴の殺生物剤(Fennosan IT21)を添加した。
2.固形分含有量が7%であるマツクラフトパルプの640 gを前記反応容器に入れた。
3.流動層焼成されたβ−硫酸カルシウム半水和物を、動作速度を「1」にセットした攪拌機で撹拌しながら、前記反応器に均等に投入した。投入した半水和物の合計量は160 g(これより、半水和物/(半水和物+水)が20重量%であることが算出される。)であった。この投入の後、攪拌機の動作速度を「2」に上げた。複合体を5分間撹拌した。
4.硫酸カルシウム二水和物が形成されるのを一時間待った。
【0079】
得られた顔料−繊維複合体を、硫酸カルシウムを飽和させた水で洗浄した後の複合体を図5に示す。
【0080】
(例6)
1.15.8 gの水をホバートN50 CE型試験用ミキサーに投入した。0.6 gのポリDACMACと数滴の殺生物剤(Fennosan IT21)を添加した。
2.固形分含有量が7%であるマツクラフトパルプの226 gを前記反応容器に入れた。
3.流動層焼成されたβ−硫酸カルシウム半水和物を、動作速度を「1」にセットした攪拌機で撹拌しながら、前記反応器に均等に投入した。投入した半水和物の合計量は300 g(これより、半水和物/(半水和物+水)が57重量%であることが算出される。)であった。この投入の後、攪拌機の動作速度を「2」に上げた。複合体を5分間撹拌した。
4.硫酸カルシウム二水和物が形成されるのを一時間待った。
【0081】
得られた顔料−繊維複合体を、硫酸カルシウムを飽和させた水で洗浄した後の複合体を図6に示す。
【0082】
(例7)
1.116 gの水をホバートN50 CE型試験用ミキサーに投入した。数滴の殺生物剤(Fennosan IT21)を添加した。
2.800 gのカバ材クラフトパルプ(固形分含有量が14.5%)を前記反応容器に入れた。
3.流動層焼成されたβ−硫酸カルシウム半水和物を、動作速度を「1」にセットした攪拌機で撹拌しながら、前記反応器に均等に投入した。投入した半水和物の合計量は200 g(これより、半水和物/(半水和物+水)が20重量%であることが算出される。)であった。この投入の後、攪拌機の動作速度を「2」に上げた。複合体を5分間撹拌した。
4.硫酸カルシウム二水和物が形成されるのを一時間待った。
【0083】
得られた顔料−繊維複合体を、硫酸カルシウムを飽和させた水で洗浄した後の複合体を図7に示す。
【0084】
(例8)
1.600 gの水をホバートN50 CE型試験用ミキサーに投入した。数滴の殺生物剤(Fennosan IT21)を添加した。
2.10 gの合成ポリプロペン繊維を前記反応容器に入れた。
3.流動層焼成されたβ−硫酸カルシウム半水和物を、動作速度を「1」にセットした攪拌機で撹拌しながら、前記反応器に均等に投入した。投入した半水和物の合計量は300 g(これより、半水和物/(半水和物+水)が34重量%であることが算出される。)であった。この投入の後、攪拌機の動作速度を「2」に上げた。複合体を5分間撹拌した。
4.硫酸カルシウム二水和物が形成されるのを一時間待った。
【0085】
得られた顔料−繊維複合体を、硫酸カルシウムを飽和させた水で洗浄した後の複合体を図8に示す。
【0086】
(例9)
顔料−繊維複合体を用いて次のようにして適用試験を行った。
【0087】
SRが32になるように精製されたユーカリクラフトパルプに硫酸カルシウムが析出された。析出物における繊維の固形分含有量は8%、半水和物は20%であった。複合体/未処理パルプ比を変更することによって、手漉き紙の充填材の量を20%、30%、40%に調節した。バレー・ホランダーのリファイナを錘なしで用いて、複合体を30分間砕解した。ハーゲ(Haage)のラピッドケーテン(Rapid Koethen)枚葉紙形成機を用いて手漉き紙を製造した。坪量は60 g/m2であった。
【0088】
図9aは、本発明の石膏−繊維複合体を含む、カレンダー加工されていない枚葉紙の断面SEM画像を示しており、図9bは、従来技術であるPCS(沈降硫酸カルシウム)を含有するカレンダー加工されていない枚葉紙の断面SEM画像を示しており、図9cは、従来技術であるPCC(沈降炭酸カルシウム)を含有するカレンダー加工されていない枚葉紙の断面SEM画像を示している。図9a〜9cにおいて見られるように、本発明による硫酸カルシウム充填材−繊維複合体を用いて得られた紙(図9a)は、平滑かつ稠密であり、均一な充填材分布を有している。それに対して、PCS及びPCC充填材を用いて得られた紙(図9b及び9c)は平滑度と稠密度とが低く、充填材分布が不均一である。
【0089】
以下において、”Kompo”と”Composite”とは、本発明の石膏−繊維複合体を意味し、PCCは沈降炭酸カルシウムを、PCSは沈降硫酸カルシウムを意味する。例えば「Kompo30」における数字の「30」は充填材の量が30%であることを意味する。
【0090】
坪量はISO 536規格によって、
厚さ、稠密度及び嵩はISO 534によって、
PPS粗度はISO 8791-4によって、
TAPPIグロス75°はISO 8254-1によって、
透気度はISO 5636-3によって、
灰分は、ISO 1762規格を用いて、850℃で試料を3時間加熱することによって、
比引張強さはL&W引張強度試験器とISO 1924-3規格とを用いて、
比引裂強さはISO 1974を用いて、
スコット・ボンド(Scott Bond)はT 569を用いて
測定した。
【0091】
以下に示す結果が得られた。
【0092】
図10の結果は、Kompoについては黄色度(CIE黄色座標b*(C/2°))がPCC及びPCSについてよりはるかに低かったことを示している。
【0093】
図11の結果は、Kompoが光散乱をPCSに比べて約15ユニット、PCCに比べて約3ユニット向上させたことを示している。この図の結果は、Kompoが不透明度をPCS及びPCCに比べて約2ユニット向上させたことを示している。
【0094】
図12の結果は、KompoのISO輝度(R457で測定したC/2°輝度)がPCSに比べて増加してPCCと同じレベルにまで上がったことを示している。また、KompoのCIE白色度がPCC及びPCSの両方に比べて向上した。CIE L*(C/2°)は3つの充填剤について同じであった。CIE L*は明度の基準であって完全な白を意味する100から完全な黒を意味する0まで変化する。
【0095】
図13のPPS粗度の評価結果は、PCCやPCSを用いた場合に比べて、様々な充填材量のCompositeを用いると、上方面(TS)及びワイヤ側面(WS)の両方においてカレンダー加工されていない紙の表面がより平滑であったことを示している。また、Compositeにあっては、上方面(TS)とワイヤ側面(WS)との粗度の差が非常に小さかった。
【0096】
図14のPPS粗度の評価結果は、試験で用いられた全荷重(10 kN、30 kN及び50 kN)において、カレンダー加工された試料についてもされなかった試料についても、Kompoの粗度が最も小さかったことを示している。
【0097】
図15の結果は、試験で用いられたカレンダー加工の全荷重(10 kN、30 kN及び50 kN)において、カレンダー加工された試料についてもされなかった試料についても、PCCやPCSよりもKompoの方が、透気度、即ちブレントセン空隙率が小さかったことを意味している。このように、Kompoを用いると、嵩が小さくて稠密な枚葉紙を得ることができた。この図に示されている結果は、充填材の量を増加させることによって透気度が低下することも示している。
【0098】
図16には、比引張強さに対する光分散が示されている。この図の結果は、本発明の複合体については、光分散と比引張強さとの関係が良好であることを示している。
【0099】
本発明による複合体を用いた試料は他の試料よりも平滑であるので、同じ粗度値を与える紙を作るのに、異なるカレンダー加工条件を使用することができる。充填材量が30%である試料について、同じ粗度での比較が表1に、同じ嵩での比較が表2に示されている。
【0100】
次の表1では様々な紙の性質が比較されている。
【0101】
【表1】
【0102】
表にまとめられた結果は、粗度が同じであれば、本発明の複合体を含む試料が最も高い嵩、光分散及び不透明度を有していたことを示している。
【0103】
続く表2には様々な紙の性質がまとめられている。
【0104】
【表2】
【0105】
表にまとめられた結果は、嵩が同じであれば、本発明の複合体を含む試料が最も高い平滑性と不透明度とを有していたことを示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏が結晶として繊維の表面に現れている石膏−繊維複合製造物であって、硫酸カルシウム半水和物及び/または硫酸カルシウム無水物と前記繊維の水性懸濁液とを接触させることによって前記石膏の結晶が得られ、該石膏の結晶が0.1〜5.0μmの大きさを有することを特徴とする石膏−繊維複合製造物。
【請求項2】
前記硫酸カルシウム半水和物がα−硫酸カルシウム半水和物又はβ−硫酸カルシウム半水和物であることを特徴とする、請求項1に記載の石膏−繊維複合製造物。
【請求項3】
前記繊維がクラフトパルプ繊維、機械パルプ繊維、脱インキパルプ繊維等のセルロース系繊維又は合繊繊維を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の石膏−繊維複合製造物。
【請求項4】
乾燥量基準での前記繊維に対する前記石膏の重量比が95:5〜50:50、好ましくは72:25〜50:50であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の石膏−繊維複合製造物。
【請求項5】
前記石膏−繊維複合製造物が、天然若しくは合成のポリマーバインダ及び/又は蛍光発光剤及び/又はレオロジー調整剤及び/又はサイズ剤をさらに含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の石膏−繊維複合製造物。
【請求項6】
硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシルム無水物と繊維の水性懸濁液とを接触させて前記繊維の表面に石膏の結晶を形成し、該石膏の結晶が0.1〜5.0μmの大きさを有することを特徴とする石膏−繊維複合製造物の製造方法。
【請求項7】
前記硫酸カルシウム半水和物がα−硫酸カルシウム半水和物又はβ−硫酸カルシウム半水和物であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記繊維がクラフトパルプ繊維、機械パルプ繊維、脱インキパルプ繊維又は合繊繊維等のセルロース系繊維を含むことを特徴とする、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
乾燥量基準での前記繊維に対する前記石膏の重量比が95:5〜50:50、好ましくは72:25〜50:50であることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
結晶を形成する段階における水に対する前記硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシルム無水物の重量比が0.03〜0.6:1、好ましくは0.05〜0.5:1であることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
結晶を形成する段階における乾燥繊維量が3〜30重量%であることを特徴とする、請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
結晶を形成する段階における硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物の量が10〜57重量%であることを特徴とする、請求項6〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、得られた製造物を乾燥して細かく粉砕し、粒子状の石膏−繊維複合体を形成する段階をさらに有していることを特徴とする、請求項6〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
結晶の形成が媒晶剤の不存在下で行われることを特徴とする、請求項6〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
結晶の形成が媒晶剤の存在下で行われることを特徴とする、請求項6〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物の前に、水又は繊維の水性懸濁液に前記媒晶剤が添加されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記媒晶剤が、分子中に1又は複数のカルボキシル基若しくはスルホン酸基を有する化合物、又はそれらの塩であることを特徴とする、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記媒晶剤が、エチレンジアミンコハク酸(EDDS)、イミノジコハク酸(ISA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、N-ビス-(2-(1,2-ジカルボキシエトキシ)エチルアスパラギン酸(AES)、ジ−、テトラ−、ヘキサ−アミノスチルベンスルホン酸、及びアミノトリエトキシコハク酸ナトリウム(Na6-TCA)等のこれらの塩、並びにアルキルベンゼンスルホン酸塩よりなる群から選択されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記媒晶剤は、前記硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物の重量に基づいて、0.01〜5.0%の量で用いられることを特徴とする、請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
結晶を形成する段階で固定剤が導入されることを特徴とする、請求項6〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記固定剤が、ポリ塩化アルミニウム、ポリDADMAC、アニオン性ポリアクリレート及びカチオン性ポリアクリレートよりなる群から選択されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
紙の製造、特に上質紙の製造における、請求項1〜5のいずれか一項に記載の石膏−繊維複合製造物の填料又は塗工顔料としての使用。
【請求項23】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の石膏−繊維複合製造物を填料又は塗工顔料として含有する紙製品。
【請求項24】
前記石膏−繊維複合製造物の量が乾燥量基準で10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%であることを特徴とする、請求項23に記載の紙製品。
【請求項25】
請求項24又は25に記載の紙製品が上質紙であることを特徴とする紙製品。
【請求項1】
石膏が結晶として繊維の表面に現れている石膏−繊維複合製造物であって、硫酸カルシウム半水和物及び/または硫酸カルシウム無水物と前記繊維の水性懸濁液とを接触させることによって前記石膏の結晶が得られ、該石膏の結晶が0.1〜5.0μmの大きさを有することを特徴とする石膏−繊維複合製造物。
【請求項2】
前記硫酸カルシウム半水和物がα−硫酸カルシウム半水和物又はβ−硫酸カルシウム半水和物であることを特徴とする、請求項1に記載の石膏−繊維複合製造物。
【請求項3】
前記繊維がクラフトパルプ繊維、機械パルプ繊維、脱インキパルプ繊維等のセルロース系繊維又は合繊繊維を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の石膏−繊維複合製造物。
【請求項4】
乾燥量基準での前記繊維に対する前記石膏の重量比が95:5〜50:50、好ましくは72:25〜50:50であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の石膏−繊維複合製造物。
【請求項5】
前記石膏−繊維複合製造物が、天然若しくは合成のポリマーバインダ及び/又は蛍光発光剤及び/又はレオロジー調整剤及び/又はサイズ剤をさらに含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の石膏−繊維複合製造物。
【請求項6】
硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシルム無水物と繊維の水性懸濁液とを接触させて前記繊維の表面に石膏の結晶を形成し、該石膏の結晶が0.1〜5.0μmの大きさを有することを特徴とする石膏−繊維複合製造物の製造方法。
【請求項7】
前記硫酸カルシウム半水和物がα−硫酸カルシウム半水和物又はβ−硫酸カルシウム半水和物であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記繊維がクラフトパルプ繊維、機械パルプ繊維、脱インキパルプ繊維又は合繊繊維等のセルロース系繊維を含むことを特徴とする、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
乾燥量基準での前記繊維に対する前記石膏の重量比が95:5〜50:50、好ましくは72:25〜50:50であることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
結晶を形成する段階における水に対する前記硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシルム無水物の重量比が0.03〜0.6:1、好ましくは0.05〜0.5:1であることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
結晶を形成する段階における乾燥繊維量が3〜30重量%であることを特徴とする、請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
結晶を形成する段階における硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物の量が10〜57重量%であることを特徴とする、請求項6〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、得られた製造物を乾燥して細かく粉砕し、粒子状の石膏−繊維複合体を形成する段階をさらに有していることを特徴とする、請求項6〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
結晶の形成が媒晶剤の不存在下で行われることを特徴とする、請求項6〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
結晶の形成が媒晶剤の存在下で行われることを特徴とする、請求項6〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物の前に、水又は繊維の水性懸濁液に前記媒晶剤が添加されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記媒晶剤が、分子中に1又は複数のカルボキシル基若しくはスルホン酸基を有する化合物、又はそれらの塩であることを特徴とする、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記媒晶剤が、エチレンジアミンコハク酸(EDDS)、イミノジコハク酸(ISA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、N-ビス-(2-(1,2-ジカルボキシエトキシ)エチルアスパラギン酸(AES)、ジ−、テトラ−、ヘキサ−アミノスチルベンスルホン酸、及びアミノトリエトキシコハク酸ナトリウム(Na6-TCA)等のこれらの塩、並びにアルキルベンゼンスルホン酸塩よりなる群から選択されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記媒晶剤は、前記硫酸カルシウム半水和物及び/又は硫酸カルシウム無水物の重量に基づいて、0.01〜5.0%の量で用いられることを特徴とする、請求項15〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
結晶を形成する段階で固定剤が導入されることを特徴とする、請求項6〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記固定剤が、ポリ塩化アルミニウム、ポリDADMAC、アニオン性ポリアクリレート及びカチオン性ポリアクリレートよりなる群から選択されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
紙の製造、特に上質紙の製造における、請求項1〜5のいずれか一項に記載の石膏−繊維複合製造物の填料又は塗工顔料としての使用。
【請求項23】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の石膏−繊維複合製造物を填料又は塗工顔料として含有する紙製品。
【請求項24】
前記石膏−繊維複合製造物の量が乾燥量基準で10〜60重量%、好ましくは20〜50重量%であることを特徴とする、請求項23に記載の紙製品。
【請求項25】
請求項24又は25に記載の紙製品が上質紙であることを特徴とする紙製品。
【図1a】
【図1b】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図1b】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2011−530477(P2011−530477A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522526(P2011−522526)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【国際出願番号】PCT/FI2009/050287
【国際公開番号】WO2010/018301
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(504186286)ケミラ オイ (18)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【国際出願番号】PCT/FI2009/050287
【国際公開番号】WO2010/018301
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(504186286)ケミラ オイ (18)
【Fターム(参考)】
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