説明

石英ガラス製の被覆された構成部品を製造する方法

公知の方法では、石英ガラス製の基体上に、SiOスラリーを噴霧することによりSiO含有スラリー層を塗布し、このスラリー層を乾燥させて、焼結させてSiO含有機能層にする。ドーム状の表面又は垂直方向に傾斜している表面の場合でも、層の均一性に関して高い要件を満足する厚い層厚さを有する石英ガラス製の機能層を再現可能に製造するために、本発明の提案によれば、スラリーは、分散液中に、以下の成分を含有する、すなわち、粒度分布のD50値範囲が、3μm〜30μmであり、全固体含量に対する重量割合が少なくとも10重量%である破砕状非晶質SiO粒と、粒径分布のD50値範囲が、1μm〜50μmであり、全固体含量に対する重量割合が少なくとも30重量%である球状非晶質SiO粒子と、粒径100nm未満で、全固体含量に対する重量割合の範囲が0.2重量%〜10重量%であるSiOナノ粒子と、分散液の体積に対する割合の範囲が0.005%〜0.5%の非イオン性で無アルカリの界面活性剤とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラス製の被覆された構成部品を製造する方法であって、被覆面を有する石英ガラス製の基体を設け、この被覆面上にSiOスラリーを噴霧する工程と、スラリー層を乾燥させて素地層にする工程と、この素地層を焼結させてSiO含有機能層にする工程とにより、SiOスラリー層を塗布する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石英ガラス製の構成部品は、多くの用途に使用されている。この用途は、例えば、ランプ制作(ランプ用の被覆管、電球、保護プレート又は反射体担体、並びに、紫外、赤外及び可視スペクトル範囲の照射装置として)、化学装置製造、又は、半導体製造(半導体部品を処理するための石英ガラス製の反応器及び装置、トレー、ベルジャー、るつぼ、保護シールドの形態で、又は、管、棒、板、フランジ、リング若しくはブロック等の単純な石英ガラス製の構成部品)である。
【0003】
特殊な機械的、光学的又は化学的表面特性を設定するために、又は、所定の機械的、光学的又は化学的表面特性を改良するために、構成部品の表面はしばしば改質されるが、この改質は、予め作られた石英ガラス製の構成部品に、全体的に又は部分的に、特殊な用途に合わせた機能層を設けることにより行われる。この例としては、より高い軟化温度又はより良い化学耐性を備えた材料で被覆することにより耐用年数を改善することや、高純度材料で被覆することにより構成部品に由来する汚染の危険性を低減させることや、透明又は不透明な表面層により断熱性や反射性を変えることなどが挙げられる。
【0004】
冒頭で挙げた種類の方法は、独国特許出願公開第2004 051 846 A1号明細書で公知である。この文献中では、反射体層を設けた石英ガラス製の構成部品の製造に関して記述がなされている。反射体層は、スラリー方法により製造されるが、これは、高充填の、鋳込み可能な水性のスラリーを作ることにより製造される。このスラリーは非晶質SiO粒子を含有する。このスラリーは、スラリー層として、石英ガラス製の基体の被覆されるべき表面上に塗布される。
【0005】
スラリー層を基体上に塗布するためには、噴霧、静電スプレー、フローコーティング、スピンコーティング、浸漬及び刷毛塗りが挙げられる。スラリー層は、乾燥させられて素地層になり、続いて、不透明の石英ガラス製の反射体層に焼結される。
【0006】
スラリーの非晶質SiO粒子は、SiO粒を湿式粉砕することにより製造され、その平均粒径の範囲は、1μm〜50μmである。スラリーのSiO粒子の固体含量、粒径及び粒径分布は、スラリー層の乾燥収縮に影響を与える。粗いSiO粒子を採用することにより、乾燥収縮、したがって乾燥時の亀裂形成の危険性を低減させることができる。同時に固体含量を高くすることにより、サイズ範囲が1μm〜50μmのSiO粒子では、良好な焼結挙動が得られ、乾燥収縮を比較的小さくすることができ、その結果、スラリー層を亀裂形成なしに乾燥させ、焼結させることができる。
【0007】
しかし、より厚い層、及び、ドーム状の構成部品表面又は垂直方向に傾斜している構成部品表面上に層を作るための公知の高充填のスラリーの流動挙動は、スラリー層の全ての塗布方法に適しているとは言えないことが明らかになっている。SiOスラリーの塗りやすさを改善するために、独国特許出願公開第10 2006 046 619 A1号明細書では、SiOナノ粒子の添加が提案されていて、それも全固体含量に対する重量割合の範囲が、0.2重量%〜15重量%であるSiOナノ粒子の添加が提案されている。SiOナノ粒子の添加により、SiOスラリーの流動挙動は、構造粘性−チキソトロピー挙動の方へと変化し、これにより、スラリーをよりうまく塗ることができるようになり、かつドーム状の表面からの流れ出しに対抗することができる。
【0008】
独国特許出願公開第10 2005 058 819 A1号明細書に記述された方法に基づけば、スラリー層がさらに別のように固定されるが、これは、スラリーを、石英ガラスフリース又はセルロースストリップの形態での繊維製の補助手段と共に、被覆されるべき表面上に塗布することにより行われる。このようにすることにより、例えば、SiOスラリーを含浸させた石英ガラスフリースを、被覆されるべき表面上におき、続いて乾燥させ、及び焼結させる。
【0009】
この方法によれば、比較的厚い層を、ドーム状の表面又は垂直方向に傾斜している表面上に製造することが可能になるが、しかし、欠点もある。すなわち、繊維製の補助手段が被覆層中に残るか、又は、費用をかけて焼いて取り除かねばならないかのいずれかとなり、双方とも欠点と結びつき、層の均一性への要求が高い用途には適していない。
【0010】
[技術的な課題の設定]
本発明の目的は、ドーム状又は垂直方向に傾斜している表面であったとしても、基体上に、層厚さを大きくして、石英ガラス製の表面層を、単にスラリー層を噴霧することのみで再現性をもって製造することができ、層の均一性への高い要求を満足させる方法を提供することである。
【0011】
この目的は、冒頭で述べた方法から出発して、本発明により、以下の様に達成される。すなわち、スラリーは、分散液中に、以下の成分を含有する、すなわち、
(a)粒度分布のD50値範囲が、3μm〜30μmであり、全固体含量に対する重量割合が少なくとも10重量%である破砕状非晶質SiO粒と、
(b)粒径分布のD50値範囲が、1μm〜50μmであり、全固体含量に対する重量割合が少なくとも30重量%である球状非晶質SiO粒子と、
(c)粒径100nm未満で、全固体含量に対する重量割合の範囲が0.2重量%〜10重量%であるSiOナノ粒子と、
(d)分散液の体積に対する割合の範囲が0.005%〜0.5%の非イオン性の界面活性剤
を含有する。
【0012】
噴霧スラリーは、対立する排他的な要件を満たさねばならない。一方では、噴霧時の粘性は、噴霧過程自体を可能にするために、かつスラリー層の均一な分布を可能にするために低くあるべきである。これは、固体含量を低くすることによって促進される。他方では、スラリー層が表面から流れ出ないよう、かつスラリー層の乾燥時に亀裂形成を回避すべきである。これは、固体含量を高くすることによって促進されるが、これは通常、高い粘性を伴う。上述の4つの成分のSiOスラリーの噴霧性及び接着性に関して互いに補い合い、その結果補助手段なしに、SiOスラリーをドーム状の、湾曲した又は垂直方向に傾斜している基体表面に噴霧することにより、厚く、均一なスラリー層をも製造することができることが明らかになっている。
・破砕状SiO粒は、噴霧されたスラリー層の完全性、及び、表面との噛み合いに寄与し、それにより、比較的厚い層を製造することが容易になり、ドーム状の表面への接着も改善される。さらに、破砕状粒を添加することにより、スラリーのレオロジーを、むしろダイラタンシー性の流動挙動の方に変える。ダイラタンシーは、時間にかかわらずせん断力を高くした場合に粘性が向上することにより現れる。噛み合い及び接着性改善に所望の効果を及ぼすのは、特異的な粒度分布のD50値範囲が、3μm〜30μmで、含量が少なくとも10重量%であることを前提とすることが明らかになっている。破砕状粒の重量割合は、少なくとも10重量%であることを前提とする。破砕状粒のD50値が5μm未満の場合には、スラリー層の乾燥収縮が大きくなり、このD50値が30μmを上回る場合には、スラリー中の固体分密度が高くなることを妨げ、この場合も、乾燥収縮が大きくなる。重量割合が10重量%未満の場合には、スラリー層の噛み合い及び固着の改善への寄与が小さくなる。破砕状粒は、最も容易な方法では、粉砕により製造されるが、好ましくは湿式粉砕により製造される。
・噴霧スラリーは、複合スラリーであり、破砕状SiO粒以外にも、ある割合の非晶質球状SiO粒子を含有する。球状粒子の割合が大きくなればなるにしたがって、噴霧後のスラリー層中の固体密度が高くなるように設定されうる。これにより、乾燥時及び焼結時に生じる応力に対抗する。球状SiO粒子は、粒径分布のD50値範囲が、1μm〜50μmである。球状SiO粒子の粒径分布のD50値範囲が、1μm未満である場合には、スラリー層の乾燥収縮が上昇し、D50値範囲が、50μmを上回る場合には、むしろ、スラリー中の固体密度が高くなることに対抗する。重量割合が30重量%未満で小さい場合には、噴霧されたスラリー層中で固体密度を所望のように高くすることにほんのわずかに寄与する。球状SiO粒子は、最も容易な方法では、CVD法によって合成することにより製造されるが、市場で入手可能である。
・界面活性剤は、SiOスラリーの界面の応力を小さくし、それにより、せん断応力が小さい場合には、その粘性を高める。したがって、界面活性剤の添加によりスラリーのレオロジーも変わる。SiOスラリーは、静止状態では及びせん断力がわずかに働いている場合には、比較的固体状であり、これにより、スラリー層がドーム状の表面上で滑り落ちることに対抗する、かつ比較的厚い層を製造するのが容易になる。しかし、界面活性剤は、しばしば不純物を含有し、とりわけアルカリ含有化合物を含有する。石英ガラスを加熱すると、この種のアルカリ化合物がわずかな濃度の場合でも、クリストバライトを形成しつつ結晶化する。しかし、スラリー層の焼結時にクリストバライトが形成されると、この層の亀裂及び剥げ落ちを引き起こしうるが、これは、クリストバライトと石英ガラスとの熱膨張係数が異なるからである。したがって、本発明によれば、非イオン性で無アルカリの界面活性剤が用いられ、スラリー中の界面活性剤の割合は、可能な限り小さく保たれ、すなわち、(分散液の体積に対して)0.005体積%〜0.5体積%の範囲に保たれている。適切な非イオン性の界面活性剤は、例えば、脂肪アルコールエトキシレート、脂肪アルコールプロポキシレート、アルキルグルコシド、アルキルポリグルコシド、オクチルフェノールエトキシレート又はノニルフェノールエトキシレートである。
・界面活性剤の添加を可能な限りわずかにすることは、本発明によれば、追加的にSiOナノ粒子を添加することにより可能になる。SiOナノ粒子の添加により、スラリー中に含有している固体の表面が比較的激しく増え、これにより界面活性剤の効果が改善される。SiOナノ粒子は、この点で界面活性剤にとって「活性剤」として作用し、その結果、必要とされる界面活性剤の量が比較的わずかになる。ナノ粒子は、通常、数千個のSiO分子が結合したものであり、通常、BET比表面積の範囲は、50m/g〜400m/gである。スラリー中のこの粒子の含量が0.2重量%未満の場合には、ナノ粒子は、スラリー中の固体表面の拡大に、特筆すべき効果を及ぼさない。逆に、この含量が10重量%を上回る場合には、乾燥時にスラリー層が激しく収縮し、欠陥のない乾燥及び焼結が困難になりうる。ナノ粒子は、素地の外側表面に封をし、これを緻密化し、乾燥したスラリーの素地の硬度を高め、焼結活性を高める。
【0013】
破砕状SiO粒、球状SiO粒子及びSiOナノ粒子は、(場合によって存在するドーパント及び不純物は別として)補い合い、このSiO固体含量が100重量%になる。
【0014】
基体は、合成により製造された石英ガラス、又は、天然由来の原料から作られた石英ガラスからなる。石英ガラスは、透明又は不透明(半透明)でありうる。
【0015】
スラリー層を乾燥させた後、道具を使うことなく、素地層を焼結(溶融)させることにより、ガラス状のSiO機能層が得られる。この焼結ないし乾燥させた素地層の焼結は、炉中で加熱することにより、又は、燃焼炎を用いて(プラズマ若しくはアークを用いて、又は、所定の作動波長を有するレーザーを用いて)行われる。この際、素地層は、レーザー又はプラズマ放射線の作動波長を吸収する成分を含有することができ、その結果、緻密化における熱の作用は、時間的には短く、かつ局所的に限定され、可塑変形又は熱歪みの発生は、大幅に回避することができる。好ましくはプラズマ又はレーザー放射線を吸収する構成要素は、粒子の形態を有するSiO以外の化学組成物の添加物、若しくは、非晶質のSiO粒子のドーピング、又は、プラズマ又はレーザー放射線が拡散反射し、それにより吸収される界面のことである。
【0016】
焼結された機能層は、その用途に応じて、透明、又は、完全に若しくは部分的に不透明であり、いずれの場合でも、亀裂がないこと、及び、基体の石英ガラスへの高い接着性があることを特徴とする。この機能層の特性は、容易にその方法(例えば、焼結温度又はドーパントの添加)を変えることにより、多数の具体的な用途(例えば、半導体製造、又は、ランプ製造及び反応器製造での採用)に対して、変更することができる。
【0017】
SiO機能層は、通常、平坦な層として実施されるが、構成部品の機能的な部分を形成するために幾何学的形状(例えば、膨張又はビーズなど)を有してもよい。
【0018】
破砕状非晶質SiO粒に関して、全固体含量に対する重量割合の範囲が、20重量%〜60重量%である場合、及び、破砕状非晶質SiO粒の粒度分布のD50値範囲が、5μm〜20μmの場合、有利であると判明している。
【0019】
破砕状粒をこの割合とこの粒度分布にすることにより、一方ではスラリー層の接着強度及び完全性を改善することと、他方ではスラリー層ないし基体層の固体密度を可能なかぎり高くし、かつ亀裂しやすさを可能な限り小さくすることとの、適切な釣り合いが生じる。
【0020】
これに関して、球状非晶質SiO粒の全固体含量に対する重量割合の範囲が40重量%〜80重量%であり、球状非晶質SiO粒の粒度分布のD50値範囲が、5μm〜40μmである場合の方法が有利であるということも判明している。
【0021】
可能な限り乾燥収縮を小さくし、可能な限り界面活性剤の「活性化」に寄与するために、SiOナノ粒子の全固体含量に対する重量割合が3重量%〜8重量%である場合に好都合であると判明している。
【0022】
界面活性剤の、分散液の体積に対する割合の範囲が、0.005%〜0.05%である場合の方法が好適である。
【0023】
分散液中の界面活性剤の割合を比較的小さくすることにより、SiOスラリー層が不純物で汚染されるのが予防される。SiOナノ粒子を追加的に添加することに関連して、比較的界面活性剤の濃度を小さくすることによって、わずかな粘性を有する噴霧性のスラリーでも、噴霧塗布後に急速に硬化させることができ、これにより、均一で、強く接着し、かつ亀裂なく乾燥するスラリー層を、基体表面上に塗布することが可能になる。
【0024】
分散液としては、好ましくは、水と低沸点の有機溶媒との混合物、好ましくはアルコールが用いられる。
【0025】
この場合、分散剤−水の一部分が、水よりも低沸点の有機溶媒で置き換えられる。低沸点であることにより、同じ液体割合を有するスラリーの乾燥が、純粋に水溶性の分散剤の場合よりも迅速に乾燥する。とりわけ、スラリー層を噴霧する際にすでに乾燥する。これにより、スラリー層が迅速に表面に固定され、スラリー層の流れ出しに対抗することができる。したがって、液体割合を十分に大きくすることによって、スラリーの噴霧性が確保され、他方では、スラリー層中での固体割合を比較的大きくすることができる。水を完全に有機溶媒に置き換えることにより、スラリー層があまりにも迅速に乾燥する可能性が生じ、亀裂につながりうる。水よりも低い沸点の有機溶媒とは、好ましくは、低い温度で沸騰するアルコール、例えば、エタノール又はプロパノールである。適切な混合比率は経験的に導出される。エタノールの場合には、適切な割合の範囲は、分散液の全体積に対する割合の範囲が10体積%〜75体積%であり、特に好ましくは、20体積%〜40体積%である。
【0026】
SiOスラリーの固体含量の範囲が、70重量%〜80重量%、好ましくは74重量%〜78重量%である場合に有利であるとも判明している。
【0027】
固体含量を可能な限り高くすることにより、スラリー層の収縮を均一かつわずかにすることに役立ち、その結果、乾燥亀裂や焼結亀裂が回避される。固体含量が約10重量%未満の場合には、容易に乾燥亀裂が生じうる。他方、スラリーの噴霧性には、粘性を低くし、したがって固体含量を低くすることが要求される。78重量%を上回る固体含量では、スラリーの噴霧性が限定される。固体含量が上述の範囲である場合に、噴霧されたスラリー層が、亀裂を形成することなく乾燥可能であることが明らかになっている。
【0028】
非晶質SiO粒子のSiO含量は、好ましくは、少なくとも99.99重量である。この点は、破砕状SiO粒にも球状SiO粒子にも該当する。この種のSiO粒子を用いて製造されたスラリーの固体成分割合は、少なくとも99.99重量%までSiOからなる。接着剤などの添加剤は設けられていない。金属不純物の含量は、好ましくは1重量ppm未満である。汚染又は結晶化の危険性は、この出発原料に由来するのではない。乾燥したSiOスラリー層(素地層)のクリストバライトの割合は、最大でも0.1重量%であるべきであるが、この理由は、そうでない場合、焼結時に結晶化が生じうるからであり、構成部品が欠陥商品になりうるからである。
【0029】
特に好ましい方法では、機能層を作るために、SiOスラリー層の複数の連続層を塗布する。
【0030】
このようにして、とりわけ、特に厚い機能層及び特に適合した特性を有する機能層が製造可能となる。
【0031】
これに関して、隣接する層は、互いに異なる組成を有する方法が好ましい。
【0032】
各スラリー層の組成及びその処理パラメータ(例えば、焼結時の温度など)に応じて、機能層の厚さにより異なる多孔性又は特性勾配を有する機能層の範囲を作ることができる。このようにして、例えば、内側層を高多孔性の層として、反射特性を有する層として作り、外側層を透明にして被覆表面に封することができる。隣接する層は、とりわけ、その破砕状粒、非晶質粒子及びナノ粒子に関して、及び、そのサイズ分布に関して異なる層である。
【0033】
本発明の改良したSiOスラリーは、単に噴霧することにより、とりわけ比較的厚い機能層の製造も容易になり、その結果、この方法は、好ましくは0.1mm〜4mmの範囲の層厚を有する機能層を作ることに用いられる。
【0034】
基体の被覆面は、スラリー層を噴霧する際に加熱されうる。この加熱は、例えば、100℃〜1000℃の範囲の温度、好ましくは300℃〜800℃の範囲の温度で行われる。ここで、スラリー層は、熱い被覆面上(例えば、炉中で加熱された基体上、又は、引き上げ方法で、るつぼ又はブランク型から引かれた縄状の基体上)に塗布される。基体を高い温度にすることにより、分散液が比較的迅速に蒸発し、これによりスラリーの塊が流れ出ることに対抗することができる。ここで、スラリーを塗布する工程と、乾燥させて素地層にする工程とは、ほぼ同時に進行する。スラリー層ないし基体層が、直接ある程度熱で硬化する程度まで、被覆面の温度を高くすることさえもできる。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0036】
1.破砕状SiO粒を有するSiOのベーススラリーの製造
10kgのベーススラリー(70体積%の非イオン性水及び30体積%のエタノール+SiO粒からなる分散液)のバッチに対して、石英ガラスで内張りされた体積容量が約20リットルのドラム型ミル中で、天然原料製の非晶質石英ガラス粒(粒径範囲は、250μm〜650μm)7.5kgを、2.5kgの非イオン性の水(伝導率は3μS未満)と混合した。石英ガラス粒は、予め高温塩素化法により浄化された。この際に、クリストバライト含量が、1重量%未満になるように留意する。
【0037】
この混合は、石英ガラス製の粉砕球を用いて、ローラーブロック上で、23回/分で3日間の間、固体含量75%の均一のベーススラリーが形成されるまで行われる。粉砕時に、SiOの溶解のために、pH値が約4まで下がる。
【0038】
石英ガラス粒を粉砕した後に得られるSiO粒粒子は、破砕状の性質を有し、粒径分布のD50値が約8μm及びD90値が約40μmであると特徴付けられる。このようにして作られたベーススラリーは、ダイラタンシー性の流動挙動を示す。
【0039】
2.球状SiO粒を有するSiOベーススラリーの製造
70体積%の非イオン性水及び30体積%のエタノールからなる分散液中に、径40nmのSiOナノ粒子(以下、「ヒュームドシリカ」とも称する)及び市場で入手可能な球状非晶質SiO粒子を混ぜ込み、さらなるベーススラリーになるよう均一化する。
【0040】
球状非晶質SiO粒子は、合成して製造され、規格化された粒径分布内(D50値が5μm、15μm、30μm及び40μm)にある。この粒径分布の特徴は、各D50値範囲内に比較的狭いサイズ分布の最大値があることであり、第2極大は2μmの範囲内にあることである。
【0041】
この粒子は、予め高温塩素化法で浄化される。浄化された原料成分の不純物の含量はわずかで、とりわけ1重量ppm未満である。とりわけ、LiOの含量は、10重量ppb未満である。この原料成分は、以下の配合で用いられ、ここで、各原料成分を、アルファベットのRに各D50値をつけて記している。
配合
30 250g
15 500g
200g
ヒュームドシリカ:BET表面積60m/gのものを50g
【0042】
この原料成分を、伝導率が3μS未満の非イオン性水中に分散させ、その結果、固体含量が75重量%となる。このようにして作られたベーススラリーは、チキソトロピー性の流動挙動を示す。
【0043】
3.噴霧スラリーの製造
第1のややダイラタンシー性のベーススラリー分(天然由来の原料からなる破砕状粒を有する)と、第2のややチキソトロピー性のベーススラリー(合成して作られたSiOからなる非晶質粒子を有する)分とを混合し、均一化することにより、噴霧スラリーが作られる。混合比率は、まず第1に、作られる機能層の目標膜厚に従い、かつドームの度合い又は被覆表面の傾斜に従う。目標膜厚が厚ければ厚いほど、被覆表面が傾けば傾くほど、第1のベーススラリーの割合が高くなる。
【0044】
本実施例では、目標膜厚が2mmの機能層が、丸天井形状の石英ガラスの反応器の外側に作られるが、これは、半導体製造におけるエッチング又はCVDプロセスのために採用される。石英ガラス反応器の外径は420mmで、高さは800mmで、壁膜厚は4mmである。
【0045】
この用途のために、第1ベーススラリーの割合1に対して、第2のベーススラリーの割合2で混合する。この混合物に、(水の体積に対して)0.015体積%で、非イオン性の界面活性剤が混合される。均一化の後、噴霧スラリーが得られる。その特性の特徴は以下の通りである。
・成分K1: 粒度分布のD50値が8μmである、天然石英ガラスからなる破砕状非晶質SiO粒の(全固体含量に対する)重量割合: 33%
・成分K2: 粒度分布のD50値が15μmである、合成して製造された球状非晶質SiO粒子の(全固体含量に対する)重量割合: 63.5%
・成分K3: 粒径が約40nmのSiOナノ粒子の(全固体含量に対する)重量割合: 3.5%
・成分K4: (噴霧スラリーの液体体積に対する)界面活性剤:0.015体積%
・成分K5: 分散剤: 70体積%のHO/30体積%のエタノール
・固体含量: 75重量%
【0046】
丸天井形状の石英ガラス製反応器の被覆
石英ガラスの反応器を、噴霧室中に入れる。続いて、外壁に対して、完全に(反応器の下側に設けられたフランジに至るまで)、噴霧スラリーを噴霧することにより、約4mmの厚さのSiOスラリー層を連続的に設ける。このために、継続的に噴霧スラリーを供給し続ける噴霧ピストルが用いられる。
【0047】
このようにして塗布されたスラリー層を、ゆっくりと乾燥させるが、これは、このスラリー層を、数時間空気に当てることにより行われる。完全な乾燥化は、空気中でIR照射装置を用いて行われる。乾燥した素地層は、続いて、公知の方法で、1200℃の温度で焼結炉中で焼結し、不透明の石英ガラス製の亀裂のない均一のSiO反応器層(厚さが約1.6g/cm)が得られる。
【0048】
層の均一性は、湾曲した表面からスラリーが流れ出ることにより「鼻」が形成されることなく、層厚がほぼ均一になる場合に示される。不透明度は、200nm〜2500nmの波長範囲の直接の分光透過率が5%未満であることにより示される。素地層の焼結時に、界面活性剤の構成成分がほぼ完全に消える。
【0049】
上で例示的に記述したスラリー、及び、このスラリーを用いて得られた被覆実験の結果、及び、これ以外のスラリー組成物での被覆実験の結果を、表1中に挙げる。
【表1】

【0050】
表1についての注釈
・成分K1、K2、K3: (スラリーの固体割合に対する)濃度の記載(重量%)/平均粒径(D50値)(μm)
・成分K4: (噴霧スラリーの液体体積に対する)トリトンX−100の濃度(体積%)
・成分K5: 分散液の重量割合(重量%)/(分散液の全体積に対する)水とアルコールとの割合(体積%)
・「R」は、視覚的検出による、乾燥させたスラリー層の亀裂形成に関する定性的尺度
・「H」は、視覚的検出による、乾燥させたスラリー層の均一性に関する定性的尺度
・サンプル番号3及び5〜9は比較例である。
・定性的評価の記号:++…とても良い、+…良い、0…容認可、−…悪い
【0051】
表1の定性的な結果により、サンプル1の組成を有する噴霧スラリーを採用した場合、特に均一で、亀裂の少ないSiO表面層を備えた石英ガラス構成部品が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆された石英ガラス製の構成部品を製造する方法であって、被覆面を有する石英ガラス製の基体を設け、前記被覆面上にSiOスラリーを噴霧する工程と、スラリー層を乾燥させて素地層にする工程と、前記素地層を焼結させてSiO含有機能層にする工程とにより、前記SiOスラリー層を塗布する方法であって、前記スラリーは、分散液中に、以下の成分を含有する、すなわち、
(a)粒度分布のD50値範囲が、3μm〜30μmであり、全固体含量に対する重量割合が少なくとも10重量%である破砕状非晶質SiO粒と、
(b)粒径分布のD50値範囲が、1μm〜50μmであり、全固体含量に対する重量割合が少なくとも30重量%である球状非晶質SiO粒子と、
(c)粒径100nm未満で、全固体含量に対する重量割合の範囲が0.2重量%〜10重量%であるSiOナノ粒子と、
(d)分散液の体積に対する割合の範囲が0.005%〜0.5%の非イオン性で無アルカリの界面活性剤と
を含有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記破砕状非晶質SiO粒の全固体含量に対する重量割合の範囲が、20重量%〜60重量%であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記破砕状非晶質SiO粒の粒度分布のD50値範囲が、5μm〜20μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記球状非晶質SiO粒子の全固体含量に対する重量割合の範囲が、40重量%〜80重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記球状非晶質SiO粒の粒度分布のD50値範囲が、5μm〜40μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記SiOナノ粒の全固体含量に対する重量割合の範囲が3重量%〜8重量%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記界面活性剤の前記分散液の体積に対する割合の範囲が0.005%〜0.05%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
分散液として、水と、低沸点の有機溶媒、好ましくはアルコールとの混合物が用いられることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記SiOスラリーの固体含量の範囲は、70重量%〜80重量%、好ましくは、74重量%〜78重量%であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記機能層を作るために、前記SiOスラリー層の複数の連続する層を塗布することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
隣接する層は、互いに異なる組成を有することを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記機能層の層厚の範囲は、0.1mm〜4mmであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2013−507309(P2013−507309A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532516(P2012−532516)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【国際出願番号】PCT/EP2010/062794
【国際公開番号】WO2011/042262
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(599089712)ヘレウス・クアルツグラース・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンディット・ゲゼルシャフト (21)
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Quarzglas GmbH & Co. KG
【出願人】(000190138)信越石英株式会社 (183)
【Fターム(参考)】