説明

砒素の処理方法

【課題】非鉄製錬中間産物として、脱銅電解スライムの発生量が、硫化砒素澱物の発生量より多い製錬所において、これら両原料の配合割合を一定の割合に保つことを要件とせず、処理を可能にする方法、および、本方法における浸出工程において、砒素を5価砒素として浸出する割合を高める方法を提供する。
【解決手段】非鉄製錬中間産物の混合スラリーを、酸化浸出工程と、当該浸出液に酸化剤を添加し、砒素を5価砒素へ酸化する液調整工程と、当該調整後液中の砒素をスコロダイト結晶へ転換する結晶化工程とを有する。前記浸出工程は、混合スラリーへ反応始期に単体硫黄を添加し酸化剤を添加しながら、温度50℃以上、pH1.0以上2.0以下とし浸出を行う浸出第1工程と、アルカリ添加により、pH2.0以上とした後、混合スラリーへ、酸化剤を添加しながら浸出を行う浸出第2工程と、次いで、前記酸化剤の添加を停止し、攪拌する浸出第3工程とを、有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砒素を含有する製錬中間産物中の砒素を、安定な形で系外へ抜き出す砒素の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
砒素を含有する化合物の安定化について、以下の文献が存在する。
特許文献1には、製錬煙灰に含まれる砒素を対象としたスコロダイトの生成方法が記載されている。
【0003】
特許文献2には、硫化砒素澱物の浸出法に関し、硫化砒素澱物を含むスラリーに空気を吹き込みながらアルカリを添加し、pHを5〜8に保持しながら砒素の浸出を行うことが記載されている。
【0004】
非特許文献1は、砒酸鉄、砒酸カルシウム、砒酸マグネシウムの溶解度積について報告している。当該文献によれば、砒酸カルシウムと砒酸マグネシウムとは、アルカリ領域でのみ安定であり、一方、砒酸鉄は中性から酸性領域で安定であり、極少の溶解度がpH3.2で20mg/Lと報告されている。
【0005】
非特許文献2には、砒酸鉄とスコロダイトとの溶解度が開示されている。当該文献によれば、弱酸性領域においてスコロダイトからの砒素の溶解度は、非結質の砒酸鉄のそれより2桁低いことが示され、スコロダイトが安定な砒素化合物であることを開示している。
【0006】
非特許文献3では、硫酸工場排水や製錬排水に含まれる砒素を対象としたスコロダイトの生成方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−161123号公報
【特許文献2】特公昭61−24329号公報
【非特許文献1】西村忠久・戸沢一光:東北大学選鉱製錬研究所報告第764号第34巻第1号別刷 1978.June
【非特許文献2】E.Krause and V.A.Ettel,“Solubilities and Stabilities of Ferric Arsenate Compounds”Hydrometallurgy,22,311−337,(1989)
【非特許文献3】Dimitrios Filippou and George P.Demopoulos,“Arsenic Immobilization by Cotrolled Scorodite Precipitation”JOM Dec.,52−55,(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、世界的に非鉄製錬を取り巻く鉱石原料確保の環境は、非常に厳しいものがある。特に、銅製錬の分野においては、非鉄メジャーによる寡占化が進み、さらに新興国が新たな消費大国として出現したことにより、需給が逼迫した状況にある。
当該状況下、各国においては公害に対する環境分野への規制が強化され、義務化されつつある。本発明者らは、今後は環境と共存できる鉱山・製錬所が当業界を主導していくも
のと考えた。
【0009】
ここで、非鉄製錬において懸念される公害には、SOガスによる大気汚染や、砒素による土壌汚染や排水汚染が挙げられる。特に砒素に関しては、将来的に銅鉱石中の砒素含有量が増えることになることから、今までにも増して万全の対策が必要となる。
従来、国内の臨海非鉄製錬所では、クリーン精鉱を処理原料とすることで問題なく操業を行ってきた。しかし、今後、銅鉱石中の砒素含有量の増加が予想されることから、砒素を製錬中間産物として系外へ抜き出し、何らかの形で安定化し管理保管することが必要となると考えた。
【0010】
海外では、砒素を、砒酸カルシウムや三酸化二砒素、又は硫化砒素化合物として管理保管している製錬所が数多くある。しかし、本発明者らの考察に拠れば、これらの砒素化合物は自然環境下において完全に安定ではない。
【0011】
ここで、本発明者らは、上述した文献を検討した。しかし、いずれの方法も、生産性の観点、生成するスコロダイトの安定性の観点、等に課題を残すものであった。
【0012】
一方、銅鉱石中の砒素品位は将来的に上昇し、銅製錬においては、排水処理系統で発生する硫化砒素澱物の量が増えるとともに、さらに、銅電解工場への砒素の負荷量も増大していくと考えられる。この結果、銅電解液の浄液工程で発生する、砒素が濃縮した製錬中間産物である脱銅電解スライムの量も増えと考えられる。従って、製錬所内における、これら硫化砒素澱物や脱銅電解スライムという砒素を含む中間産物の繰り返し処理は、困難となっていくと考えられる。
【0013】
ここで、砒素を含有する中間産物である硫化砒素澱物と、脱銅電解スライムとについて説明する。
まず、硫化砒素澱物とは、硫化物形態の砒素を含む非鉄製錬中間産物である。当該硫化砒素澱物は、例えば、砒素を含む製錬工程水や排水に硫化剤を反応させることで発生する殿物である。ここで、硫化剤としては、硫化水素、水硫化ソーダ、硫化ソーダ等がある。
次に、脱銅電解スライムとは、銅電解精製工場において実施される浄液工程(銅電解液に蓄積する砒素等の不純物を、電解採取により回収除去する工程)で、銅、砒素等が泥状の金属として電解析出することで発生する殿物である。当該浄液工程は、銅電解精製工場において、一般的に採用されている方法である。従って、当該脱銅電解スライムは、電気銅の品質を確保するために必然的に発生する殿物である。
【0014】
以上のことから、砒素が硫化物形態である硫化砒素澱物と、砒素や銅が金属形態である脱銅電解スライムとを同時に混合処理し、含有する砒素をスコロダイト結晶として転換・安定化する方法は、将来的に非常に重要となる。
しかしながら、硫化砒素澱物と脱銅電解スライムとを同時に処理可能とするためには、両原料をある一定の割合をもって配合することが必要である。例えば、脱銅電解スライムの配合割合が、硫化砒素澱物に比して多い場合は、浸出液中に相当量の銅イオンが残存し、結晶化工程でスコロダイトの結晶成長に悪影響を及ぼすことが懸念される。従って、脱銅電解スライムの発生量が、硫化砒素澱物の発生量より多い製錬所においては、これら両原料の配合割合を一定の割合に保つことを要件とせず、処理を可能にする方法の提供が急務とされている。
さらに、液調整工程での酸化薬剤の使用量を削減し、本方法における処理コストを低減する観点から、浸出工程において、砒素を5価砒素として浸出する割合を高める方法の提供が望まれている。
【0015】

本発明は、このような状況の下でなされたものであり、その解決しようとする課題は、上記2つの方法の提供であり、且つ、溶出基準(環境庁告示13号準拠)を満足し、且つ、濾過性に優れ且つ安定なスコロダイトの結晶を、再現性良く煩雑な操作なしに簡便に生成する方法の提供である。
【0016】
ここで、本発明者等は、脱銅電解スライムのX線回折結果から、脱銅電解スライムは金属形態の銅、砒素、及び、金属間化合物形態の砒化銅から構成されるものであることに想到した。そして、当該知見から、本発明においては、脱銅電解スライムに代えて、金属銅は勿論、亜鉛製錬所で発生する砒化銅殿物に適用することが当然可能であることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、まず、当該砒素を含有する非鉄製錬中間産物から浸出により砒素を抽出する工程(浸出工程)、次に、当該砒素を抽出した浸出液中の砒素を、酸化剤を用いて5価に酸化し、さらに残留する酸化剤を除去する工程(液調整工程)、当該液調整後液に第一鉄イオン(Fe2+)を共存せしめ、酸性下で酸化処理してスコロダイトの結晶を生成させる工程(結晶化工程)の3つの工程を行うことに想到した。
【0018】
ここで、本発明者等は、硫化砒素澱物と脱銅電解スライムとの両原料の配合割合を、一定の割合に保つことを要件とせずに処理を可能にする為、浸出反応始期から単体硫黄(元素状硫黄:S)を添加し、溶存する銅イオンを硫化銅(CuS)として固定する構成に想到した。
次に本発明者等は、液調整工程での酸化薬剤の使用量を削減し、本方法における処理コストを低減する為に、浸出中に過量の銅イオンを存在せしめ砒素の5価砒素への酸化を促進し、反応終期に単体硫黄(S)を添加し、適正なpH領域で溶存する銅イオンを硫化銅(CuS)として固定する構成にも想到した。
【0019】
そして本発明者等は、上述した浸出反応始期から単体硫黄(S)を添加し、溶存する銅イオンを硫化銅(CuS)として固定する構成や、浸出中に過量の銅イオンを存在させて砒素の5価砒素への酸化を促進し、反応終期に単体硫黄(S)を添加し、適正なpH領域で溶存する銅イオンを硫化銅(CuS)として固定する構成、を採用することにより、浸出液中の銅イオンを、結晶化工程で支障が出ない濃度以下まで除去することが可能であることに想到した。そして、浸出液中の銅イオンを結晶化工程で支障が出ない濃度以下まで除去することで、溶出基準を満足し、且つ、濾過性に優れ且つ安定なスコロダイトの結晶を、再現性良く煩雑な操作なしに簡便に生成することが出来ることに想到した。その結果、当初の非鉄製錬中間産物に含有されていた砒素を、濾過性に優れ且つ安定なスコロダイトとして回収することが可能になるとの全く新規な知見を得て本発明を完成した。
【0020】
即ち、上述の課題を解決するための第1の発明は、
硫化物形態の砒素を含む非鉄製錬中間産物と、砒素と金属形態の銅とを含む非鉄製錬中間産物との、混合スラリーを、酸性領域で酸化浸出し浸出液を得る浸出工程と、
当該浸出液に酸化剤を添加して、砒素を5価砒素へ酸化して調整後液を得る液調整工程と、
当該調整後液中の砒素をスコロダイト結晶へ転換する結晶化工程と、を有し、
前記浸出工程が、前記硫化物形態の砒素を含む非鉄製錬中間産物と、前記砒素と金属形態の銅とを含む非鉄製錬中間産物との、混合スラリーへ、反応始期に単体硫黄(S)を添加し、酸化剤を添加しながら、温度を50℃以上とし、pHを1.0以上2.0以下として浸出を行う浸出第1工程と、次いで、pHを2.0以上とした後、混合スラリーへ酸化剤を添加しながら浸出を行う浸出第2工程と、次いで、酸化剤の添加を停止し、さらに
混合スラリーを攪拌する浸出第3工程とを、有することを特徴とする砒素の処理方法である。
【0021】
第2の発明は、
前記単体硫黄(S)の添加量は、該単体硫黄(S)を添加せずに浸出した際に浸出液中にイオンとして残留する銅の総モル数の1倍モル以上であることを特徴とする第1の発明に記載の砒素の処理方法である。
【0022】
第3の発明は、
硫化物形態の砒素を含む非鉄製錬中間産物と、砒素と金属形態の銅とを含む非鉄製錬中間産物との、混合スラリーを、酸性領域で酸化浸出し浸出液を得る浸出工程と、
当該浸出液に酸化剤を添加して、砒素を5価砒素へ酸化して調整後液を得る液調整工程と、
当該調整後液中の砒素をスコロダイト結晶へ転換する結晶化工程と、を有し、
前記浸出工程が、前記硫化物形態の砒素を含む非鉄製錬中間産物と、前記砒素と金属形態の銅とを含む非鉄製錬中間産物との、混合スラリーへ酸化剤を添加しながら温度を50℃以上とし、pHを1.0以上2.0以下として浸出を行う浸出第1工程と、次いで、pHを2.0以上とした後、混合スラリーへ酸化剤を添加しながら浸出を行う浸出第2工程と、次いで、酸化剤の添加を停止して単体硫黄(S)を添加し、pHを2以下とした後、さらに攪拌する浸出第3工程とを、有することを特徴とする砒素の処理方法である。
【0023】
第4の発明は、
前記単体硫黄(S)の添加量は、該単体硫黄(S)を添加せずに浸出した際に浸出液中にイオンとして残留する銅の総モル数の2倍モル以上であることを特徴とする第3の発明に記載の砒素の処理方法である。
【0024】
第5の発明は、
硫化物形態の砒素を含む非鉄製錬中間産物と、砒素と金属形態の銅とを含む非鉄製錬中間産物との、混合スラリーを、酸性領域で酸化浸出し浸出液を得る浸出工程と、
当該浸出液に酸化剤を添加して、砒素を5価砒素へ酸化して調整後液を得る液調整工程と、
当該調整後液中の砒素をスコロダイト結晶へ転換する結晶化工程と、を有し、
前記浸出工程が、前記硫化物形態の砒素を含む非鉄製錬中間産物と、前記砒素と金属形態の銅とを含む非鉄製錬中間産物との、混合スラリーへ、反応始期に単体硫黄(S)を添加し、酸化剤を添加しながら温度を50℃以上とし、pHを1.0以上2.0以下として浸出を行う浸出第1工程と、次いで、pHを2.0以上とした後、混合スラリーへ酸化剤を添加しながら、浸出を行う浸出第2工程と、次いで、前記酸化剤の添加を停止して単体硫黄(S)を添加し、pHを2以下とした後、さらに攪拌する浸出第3工程とを、有することを特徴とする砒素の処理方法である。
【0025】
第6の発明は、
前記砒素と金属形態の銅とを含む非鉄製錬中間産物が、脱銅電解スライム、および/または、砒化銅殿物であることを特徴とする第1から第5の発明のいずれかに記載の砒素の処理方法である。
【0026】
第7の発明は、
前記浸出工程において、浸出第1工程に次いで、pHを2.0以上とした後、pHを非保持のまま、混合スラリーへ酸化剤を添加しながら、浸出第2工程を行うことを特徴とする第1、第3、第5の発明のいずれかに記載の砒素の処理方法である。
【0027】
第8の発明は、
前記混合スラリーへ添加する酸化剤として、空気および/または酸素ガスの吹き込みを用いることを特徴とする第1、第3、第5、第7の発明のいずれかに記載の砒素の処理方法である。
【0028】
第9の発明は、
前記液調整工程において、酸化剤として過酸化水素を40℃以上で添加し、砒素を5価砒素に酸化して調整後液を得た後、当該反応後液と金属銅とを接触させ、残留する過酸化水素を除去するか、または、当該反応後液をさらに攪拌維持して、当該調整後液に残留する過酸化水素を除去することを特徴とする第1から第8の発明のいずれかに記載の砒素の処理方法である。
【0029】
第10の発明は、
前記結晶化工程が、前記調整後液に第一鉄イオンを共存せしめ、当該第一鉄イオンが、5価砒素と酸化反応する結晶化工程であることを特徴とする第1から第9の発明のいずれかに記載の砒素の処理方法である。
【0030】
第11の発明は、
前記酸化反応を、pH1以下で行うことを特徴とする第10の発明に記載の砒素の処理方法である。
【0031】
第12の発明は、
前記酸化反応を、温度50℃以上で行うことを特徴とする第10の発明に記載の砒素の処理方法である。
【発明の効果】
【0032】
第1から第12の発明のいずれかに記載の発明によれば、濾過性に優れ、且つ、安定なスコロダイトの結晶を、再現性良く、煩雑な操作なしに簡便に生成することが出来た。さらに生成したスコロダイトの結晶は、溶出基準値(環境庁告示13号準拠)を大幅に満足することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る砒素の処理方法を示す工程フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
上述したように本発明に係る砒素の処理方法の実施形態は、図1に示す工程フローに記載する様に、砒素を含む非鉄製錬中間産物(1)から、弱酸性領域で砒素を浸出する浸出第1〜第3工程(2)〜(4)と、当該浸出液(5)に酸化剤を添加して砒素を5価砒素へ酸化する液調整工程(6)と、調整後液中の砒素をスコロダイト(8)へ転換する結晶化工程(7)とを有するものである。尚、浸出第1〜第3工程(2)〜(4)で生成する浸出残渣(9)は銅製錬(10)へ戻し、結晶化工程(7)で生成するろ液(11)は、排水処理工程(12)にて処理するものである。
【0035】
以下、本発明に係る実施形態について、1.砒素を含む非鉄製錬中間産物(1)、2.浸出第1〜第3工程(2)〜(4)、3.液調整工程(6)、4.結晶化工程(7)、の順で説明する。
【0036】
1.砒素を含む非鉄製錬中間産物(1)
原料である砒素を含む非鉄製錬中間産物(1)の浸出パルプの配合には、脱銅電解スライムが多量に発生する製錬所が該当する脱銅電解スライムが硫化砒素澱物に比し多い場合
(後述する(式4)において、硫化砒素(As)が脱銅電解スライム(Cu)に比し、量的に反応当量に満たない場合であり、以下「Cuが豊富な場合」と記載する。)と、硫化砒素澱物が多量に発生する製錬所が該当する脱銅電解スライムが硫化砒素澱物に比し少ない場合(後述する(式4)において、硫化砒素量(As)が脱銅電解スライム量(Cu)に比して反応当量以上ある場合であり、以下「Asが豊富な場合」と記載する。)との2通りの場合がある。
【0037】
2.浸出第1〜第3工程(2)〜(4)
本発明の実施形態に係る浸出第1〜第3工程(2)〜(4)には、浸出第1工程(2)の始期(当該始期には、当該浸出第1工程実施の為の原料混合段階も含まれる。)に単体硫黄(S)を添加する第1の実施形態と、浸出第3工程(4)の終期に単体硫黄(S)を添加する第2の実施形態、および、浸出第1工程(2)の始期(当該始期には、当該浸出第1工程実施の為の原料混合段階も含まれる。)に単体硫黄(S)の一部を添加し、浸出第3工程(4)の終期に残部を添加する第3の実施形態とがある。
他方、上述したように、原料である砒素を含む非鉄製錬中間産物(1)の浸出パルプの配合には、「Cuが豊富な場合」と、「Asが豊富な場合」との2通りの場合がある。
【0038】
そこで、初めに、[第1〜第3の実施形態に係る浸出第1〜第3工程(2)〜(4)において共通する反応の基本構成]について説明し、次に、[「Cuが豊富な場合」における第1〜第3の実施形態に係る浸出第1〜第3工程(2)〜(4)]について説明し、さらに、[「Asが豊富な場合」における第1〜第3の実施形態に係る浸出第1〜第3工程(2)〜(4)]について説明する。
【0039】
[第1〜第3の実施形態に係る浸出第1〜第3工程(2)〜(4)において共通する反応の基本構成]
砒素を含む非鉄製錬中間産物(硫化砒素澱物および脱銅電解スライム)(1)の混合パルプへ、まずは、酸化剤の添加(例えば、空気および/または酸素ガスの吹き込みが好ましい。)を行い、加温下、pHを1〜2間とし、特に、金属形態である脱銅電解スライムの浸出を進める浸出第1工程(2)を行う。次いで、アルカリ(例えば水酸化ナトリウム)を添加しpHを2以上とした後、浸出液のpH制御を非保持とし、当該pHの変化を成り行きとしながら主に未反応の硫化砒素澱物を浸出する浸出第2工程(3)を行う。さらに浸出終期に酸化剤の添加を停止し、浸出液中に溶存する銅イオンを浸出残渣中に含有する単体硫黄(S)にて硫化し、硫化銅(CuS)として除去する浸出第3工程(4)を行う。
【0040】
以下、浸出第1〜3工程を、化学反応式を基に具体的に説明する。尚、脱銅電解スライム中の銅および砒素は金属形態であるので、便宜上、各々Cu、Asと表現する。
【0041】
浸出第1工程(2)は、下記(式1)(式2)(式3)の素反応から成ると考えられる。
Cu+2H+1/2O=Cu2++HO・・・(式1)
As+3/4O+1/2HO=HAsO・・・(式2)
Cu2++1/3As+4/3HO=CuS+2/3HAsO+2H・・・(式3)
つまり、脱銅電解スライム中の銅(Cu)と硫化砒素(As)との反応は(式1)+(式3)より下記(式4)にて示される。
Cu+1/3As+1/2O+1/3HO=2/3HAsO+CuS・・・(式4)
【0042】
当該浸出第1工程(2)においては、金属形態にある脱銅電解スライムの浸出を主に進めるため、原料混合パルプのpHを酸性側に調整する。pH調整用の酸には汎用的な硫酸が好適である。
ここで、一般的には、金属形態の脱銅電解スライムを酸化浸出する為、pHは低い程好ましいと考えられている。しかし、本発明者等の検討によれば、当該pH値は1〜2が良いと知見された。これは、脱銅電解スライムの1次粒子が10〜30μmと非常に細かく、元来、反応性に富んでいるからではないかと推定している。また、後工程である結晶化工程の反応開始のpHを1としており、浸出第2工程でのアルカリの使用量を抑える観点からも、当該浸出第1工程(2)におけるpH1〜2の設定は好都合である。
【0043】
また、当該浸出第1工程(2)での浸出時間は30分間以上行えば良い。上述したように反応性が良いからである。
浸出時の温度を50℃以上とすることで、浸出は進む。しかし、浸出時の温度は、脱銅電解スライム量と硫化砒素澱物量とのバランスに応じて定めることが好ましい。
【0044】
浸出第2工程(3)は、浸出第1工程(2)終了時に、アルカリ(例えば水酸化ナトリウム)を添加してpH2以上とした後、浸出液のpH制御を非保持とし、当該pHの変化を成り行きとしながら浸出を進める工程である。
本工程は、下記(式5)(式6)(式7)および上述した(式3)の素反応から成ると考えられる。
As+3/2O+HO=2HAsO+3S・・・・・(式5)
HAsO+1/2O+HO=HAsO+H・・・・・・(式6)
Cu2++S→ CuS・・・・・・(式7)
硫化砒素澱物は酸性側より中性側で溶解が進み易く、浸出第1工程(2)において未浸出の硫化砒素が(式5)により溶解するものと考えられる。同時に(式6)(式7)および(式3)にて水素イオン(H)の放出が起き、pHは自然に低下する挙動をとる。これは、結晶化開始のpHが1であることから、酸を添加せずとも酸性側に移行するので好都合と考えられる。
尚、添加する水酸化ナトリウムの量は、浸出液中のNa濃度が20g/l以下、好ましくは10g/l以下となる範囲で使用する。なぜなら、Na濃度が20g/l以下であれば、結晶化工程での反応パルプの粘性が低く保たれ、好ましいからである。
【0045】
浸出第2工程(3)における混合スラリーの温度は、浸出第1工程(2)と同様に、50℃以上とすることで浸出は進む。しかし、浸出時の温度は、脱銅電解スライム量と硫化砒素澱物量とのバランスに応じて定めることが好ましい。ただし、未反応の硫化砒素澱物を積極的に浸出する目的から、浸出第1工程(2)より高目に設定することが好ましい。
また、浸出第2工程(3)の反応時間は、反応の進行を十分に担保する観点から30分間以上、好ましくは45分間以上行うことが好ましい。
【0046】
浸出第3工程(4)は、酸化剤の添加(例えば、空気および/または酸素ガスの吹き込みが好ましい。)を停止し、浸出液中に溶存した銅イオンを、浸出残渣中に含有する単体硫黄(S)によって、硫化銅(CuS)として除去する工程である。
本工程の反応は、上述した(式7)が主となる。従って、浸出温度は反応上高ければ高い程好ましいが、実際的には設備材質によって決定すれば良い。
尚(式7)は、厳密には水素イオン(H)の放出を伴う反応であるため、pH値は、酸性側へ若干移行する。
尚、本工程の目的は主に銅の除去であるが、本発明者等の検討によると、銅以外であっても硫化物を形成し易い元素(例えば、Pb、Hg、Bi、Sb、等)であれば、その溶存濃度により、同様の効果が期待出来るものであることを知見した。
【0047】
[「Cuが豊富な場合」における第1〜第3の実施形態に係る浸出第1〜第3工程(2)〜(4)]
ここで「Cuが豊富な場合」とは、上述した(式4)において、硫化砒素澱物が脱銅電解スライム(Cu)に比し、量的に反応当量に満たない場合である。
この場合には、配合されたCuを硫化するに足りるAsが不足する為、浸出第1〜第3工程(2)〜(4)終了時には、浸出液(5)中に過剰のCuが銅イオン(Cu2+)として残留し、結晶化工程(7)まで持ち込まれることになる。
結晶化工程(7)で結晶化元液中に溶存する銅イオンは、スコロダイト(8)結晶化において酸化触媒として作用するため、結晶化工程(7)の酸化条件を一定にするためには、銅濃度を抑制し標準化する必要がある。この観点から、浸出液(5)中の銅濃度は1g/l以下、好ましくは500mg/l以下であると、結晶化条件の酸化条件のバラツキを抑えることが出来、結晶化工程(7)の安定化につながり、好ましい。また、浸出液(5)へ銅イオンを残留させないことは、銅のロス回避につながり、資源の積極回収の観点からも好ましい。
【0048】
以下、第1〜第3の実施形態に係る具体的な操作方法について説明する。
《「Cuが豊富な場合」における第1の実施形態に係る浸出第1〜第3工程(2)〜(4)》
第1の実施形態においては、浸出第1工程(2)にて単体硫黄(S)を添加し、浸出液(5)中の過剰なCuを最終的に硫化銅(CuS)とし、浸出残渣(9)とするものである。
浸出第1工程(2)における単体硫黄(S)の添加のタイミングについては、酸化剤の添加(例えば、空気および/または酸素ガスの吹き込みが好ましい。)開始前が良い。尤も、ハンドリング性を考慮すれば、原料調合時に、単体硫黄(S)と、硫化砒素澱物と、脱銅電解スライムとを同時に調合リパルプするのが良い。
【0049】
ここで、単体硫黄(S)の添加量は、後述する実施例1に記載する様に、単体硫黄(S)を添加せずに浸出した際に浸出液中にイオンとして残留する銅の総モル数の1.0倍モル以上であれば、浸出液(5)中の銅を1g/l以下にまで除去が可能である。同様に、浸出液(5)中にイオンとして残留する銅の総モル数の1.3倍モル以上であれば、浸出液(5)中の銅を、500mg/l以下にまで除去が可能である。
【0050】
ここで単体硫黄(S)の、具体的な添加量は、以下の計算にて求めることが出来る。・ 硫化砒素澱物中の砒素が、全てAs形態であると仮定し、その量を求める。
・ (式4)にて、上記1)で算出したAs量と反応するCu量を求める。
・ 脱銅電解スライム中の銅を全て金属形態と仮定し、当該銅量を求める。
・ 浸出液(5)中に銅イオンとして溶存する銅量を、上記3)の銅量と、2)のCu量との差から求める。
・ 単体硫黄(S)の添加量は、上記4)から求めた浸出液(5)中に溶存する銅量の総モル量の1.0倍モル以上の量とする。
【0051】
尚、浸出第1工程(2)においては、砒素の酸化触媒としての銅イオン(Cu2+)を溶存させることが望ましく、(式3)及び(式7)を抑えつつ(式1)を優先する観点からは、浸出温度は低い方が有効である。この銅イオンの存在は、特に、浸出第2工程(3)でその効果を発揮するものである。浸出自体は、浸出温度50℃以上で進むものの、浸出時間の短縮をも考慮し浸出温度60〜80℃が好ましい。浸出時間は、上述したように30分間以上であれば十分である。
【0052】
続く、浸出第2工程(3)では、当該混合スラリーのpHを2.0以上とし、pHを上昇させることにより、3価砒素の5価砒素への酸化を促進しつつ、未反応の硫化砒素澱物
を積極的に浸出することが出来る。これら二つの目的を確保する意味から、浸出温度は浸出第1工程(2)より若干高目の70〜80℃か好ましく、浸出時間も30分間以上、好ましくは45分間以上、実施することが好ましい。
【0053】
さらに最終の当該浸出第3工程(4)では、浸出終期に酸化剤を添加停止(例えば、空気および/または酸素ガスを吹き込み停止)する。当該浸出第3工程(4)は、浸出終期まで残留した銅イオンと浸出始期に添加した単体硫黄(S)との反応を完了させる工程であるので、浸出温度は高い程良好であり、80℃以上が好ましい。ただし、実操業では実際の設備上の材質等を考慮すれば80℃前後でも十分可能である。浸出時間も、30分間以上実施することが好ましい。
【0054】
《「Cuが豊富な場合」における第2の実施形態に係る浸出第1〜第3工程(2)〜(4)》
Cuが豊富な場合における第2の実施形態は、浸出終期に酸化剤を添加停止(例えば、空気および/または酸素ガスを吹き込み停止)し、単体硫黄(S)を添加し、過剰のCuを最終的に硫化銅(CuS)として変換し浸出残渣(9)とするものである。第2の実施形態における浸出第1工程(2)と浸出第2工程(3)とは、基本的には上述した第1の実施形態に準ずるものである。しかし、単体硫黄(S)を添加する浸出終期まで銅イオンが潤沢に溶存しており、基本的には3価砒素が5価砒素へ酸化されやすい条件が整っている。従って、浸出温度に関しては、第1の実施形態の場合程、厳密でなくても良い。すなわち、砒素の酸化を積極的に進める観点から、浸出温度は浸出第1工程(2)および浸出第2工程(3)とも高温で行うことが出来る。尤も、実操業での実際の設備上の材質等を考慮すれば80℃前後が好ましい。
【0055】
最終の浸出第3工程(4)では、酸化剤を添加停止(例えば、空気および/または酸素ガスを吹き込み停止)し、次いで単体硫黄(S)の添加を行い、浸出パルプへ混合後、上述した(式7)に基づく脱銅反応を行う。
単体硫黄(S)の添加量は、単体硫黄(S)を添加せずに浸出した際、浸出液(5)中にイオンとして残留する銅の総モル数の2.0倍モル以上であれば、浸出液(5)中の銅を1g/l以下にまで除去可能である。同様に、浸出液(5)中にイオンとして残留する銅の総モル数の2.5倍モル以上であれば、浸出液(5)中の銅を、500mg/l以下にまで除去可能である。
【0056】
さらに、浸出反応のpHに関し、本発明者等が鋭意研究した結果、単体硫黄(S)と銅イオンとの反応性が著しくpHに依存することを知見した。具体的には、実施例2および比較例2にて記載するが、単体硫黄(S)の反応pHが2以上であれば、(式7)に示す反応が非常に遅くなり、且つ、脱銅能力が不完全となる。一方pHが2以下であれば、(式7)に示す反応が急速に進むものである。
当該現象の明確な理由は不明であるが、本発明者等は、浸出液中の砒素の相当量が5価砒素まで酸化されており、これら5価砒素がpHが2以上で砒酸銅を形成し(式7)の進行に支障をきたすものと推定している。従って、浸出パルプのpHが2以下まで低下していなければ、単体硫黄(S)添加後に硫酸等の添加によりpHを2以下に調整する。
浸出時間に関しては、上述した「Cuが豊富な場合」における第1の実施形態の場合と同様で良い。
【0057】
《「Cuが豊富な場合」における第3の実施形態に係る浸出第1〜第3工程(2)〜(4)》
浸出始期に、単体硫黄(S)の一部を添加し、浸出第1工程(2)、および、浸出第2工程(3)を行った後、浸出終期の浸出第3工程(4)にて酸化剤を添加停止(例えば、空気および/または酸素ガスを吹き込み停止)し、浸出混合スラリーへ単体硫黄(S
)の残部を添加し、過剰のCuを最終的に硫化銅(CuS)として浸出残渣(9)とするものである。当該第3の実施形態は、上述した第1および第2の実施形態のそれぞれの利点を利用した浸出方法である。
【0058】
すなわち、第1の実施形態は、少ない単体硫黄(S)添加量で、銅を低濃度まで除去することが可能であるとの利点を有し、第2の実施形態は、砒素の酸化率が極めて高いという利点を有するものである。
【0059】
ここで、第1および第2の実施形態の利点を活かすことの出来る単体硫黄(S)の添加方法について説明する。
当該添加方法とは、浸出第1〜第3工程(2)〜(4)の始期と後期とに単体硫黄(S)の添加する方法である。
先ず、浸出始期の添加量は、単体硫黄(S)を添加せずに浸出した際に浸出液中にイオンとして残留する銅の総モル数の1.0倍モルとする。当該残留する銅の総モル数の1.0倍モルの添加により、浸出中の浸出パルプ中の銅イオン濃度を、最低でも1g/l以上を担保することが出来る。そして、浸出第1工程(2)および浸出第2工程(3)を行い、浸出終期である浸出第3工程(4)での単体硫黄(S)の添加量は、残留する銅濃度を1g/lと仮定し、この銅の総モル数の20倍モル以上を添加する。この結果、残留する銅を500mg/l以下にすることが出来る。
浸出時間、浸出温度に関しては、浸出中に出来るだけ銅イオンを溶存させ砒素の酸化を促進させる意味から、上述した「Cuが豊富な場合」における第1の実施形態と同様で良い。
尚、浸出始期と浸出終期とに、分割して添加する単体硫黄(S)の添加量は、種々変更が可能であり、従って必ずしも上述の条件に限定されるものではない。
【0060】
《「Asが豊富な場合」における第1の実施形態に係る浸出第1〜第3工程(2)〜(4)》
上記(式4)にて、脱銅電解スライムの銅(Cu)に対し硫化砒素澱物中の硫化砒素(As)の配合量が反応の1.0〜1.1倍当量の範囲では、実際的には最終浸出液中に銅イオンが数100mg/lから1g/l程度残留する場合がある。この原因として、硫化砒素(As)の配合量が、例えば2倍当量あれば反応が容易に完結するところ、1.0〜1.1倍当量では反応の完結が困難な場合が考えられ、また、原料毎の活性度の違いが考えられる。
両原料の発生割合から、このような原料配合処理を強いられる製錬所での処理においては、「Asが豊富な場合」における第1の実施形態を適用することが出来る。
【0061】
本実施例において、浸出始期に添加する単体硫黄(S)の量は、残留する銅濃度を1g/lと仮定し、この銅の総モル数の8倍モル以上であれば残留する銅を常に100mg/l以下にすることが出来る。
浸出時間、浸出温度に関しては、浸出中に出来るだけ銅イオンを溶存させ砒素の酸化を促進させる観点から、上述した「Cuが豊富な場合」における第1の実施形態と同様で良い。
【0062】
《「Asが豊富な場合」における第2の実施形態に係る浸出第1〜第3工程(2)〜(4)》
本実施形態も、上述した「Asが豊富な場合」における第1の実施形態と同様、脱銅電解スライムの銅(Cu)に対し、硫化砒素澱物中の硫化砒素(As)の配合量が反応の1.0〜1.1倍当量である場合に適用出来るものである。
【0063】
本実施例において、浸出終期に添加する単体硫黄(S)の量は、残留する銅濃度を1
g/lと仮定し、この銅の総モル数の15倍モル以上であれば残留する銅を常に100mg/l以下にすることが出来る。
浸出時間、浸出温度に関しては、浸出中に出来るだけ銅イオンを溶存させ砒素の酸化を促進させる観点から、上述した「Cuが豊富な場合」における第1の実施形態と同様で良い。
【0064】
《「Asが豊富な場合」における第3の実施形態に係る浸出第1〜第3工程(2)〜(4)》
本実施形態も、上述した「Asが豊富な場合」における第1および第2の実施形態と同様、脱銅電解スライムの銅(Cu)に対し硫化砒素澱物中の硫化砒素(As)の配合量が反応の1.0〜1.1倍当量の場合に適用出来るものである。
【0065】
本施例において、浸出始期に添加する単体硫黄(S)の量は、上述した「Asが豊富な場合」における第1の実施形態で説明した添加量と同様とし、次いで、浸出終期に添加する単体硫黄(S)の量も、上記「Asが豊富な場合」における第2の実施形態での添加量と同様とする。すると、浸出液中の銅イオンを数m/lの水準まで、ほぼ完全に除去することが出来る。
本実施形態における浸出時間、浸出温度に関しても、同様の考えから上述した「Cuが豊富な場合」における第1の実施形態と同様で良い。
【0066】
以上、本発明では、砒素を含む非鉄製錬中間産物の湿式処理における、単体硫黄(S)の添加の効用を開示したものである。そして、単体硫黄(S)の添加を用いた硫化反応時には、亜硫酸ガス(SOガス)や亜硫酸イオン(SO2−)の共存がその反応を促進する触媒として作用することが知られており、本発明においてこれらを併用することは、当然可能である。
【0067】
また、銅以外の多くの重金属類(例えばPb、Hg、Bi、Sb等他)も、硫黄と親和力が強く硫化物を形成する能力を有するものである。従って、本発明で開示した単体硫黄(S)の添加手法は、上述した(式4)における配合を1.1倍当量以上とすることで、浸出液(5)中の銅が問題なく除去される場合においても、銅以外の重金属類の存在と含有量とを考慮に入れ、上述した各実施形態に準じ、最適量の単体硫黄(S)を添加し、浸出を行うことも好ましい構成である。
【0068】
さらに、本発明の範疇は、浸出液(5)中の銅除去のみに限定されるものではなく、多くの含有重金属類の溶出の制御にも適用されるものである。
【0069】
尚、硫化砒素澱物および脱銅電解スライムの混合パルプの浸出には、他に以下の方法がある。
硫化砒素澱物および脱銅電解スライムの混合スラリーへ、酸化剤の添加(例えば、空気および/または酸素ガスの吹き込みが好ましい。)を行いながら、加温下、アルカリ(例えば水酸化ナトリウム)添加によりpHを4.0以上、6.5以下に保持しながら、特に硫化物形態である硫化砒素澱物の浸出を進める浸出第1工程と、次いで、浸出液のpH制御を非保持とし、当該pHの変化を成り行きとしながら脱銅電解スライムと未反応の硫化砒素澱物とを浸出する浸出第2工程と、さらに浸出終期に酸化剤の添加を停止し、浸出液中に溶存した銅イオンを浸出残渣中に含有する単体硫黄(S)にて硫化銅(CuS)として除去する浸出第3工程とを有する浸出方法である。
当該浸出方法も、本発明と同じ原料系に適用され、且つ、弱酸性領域での浸出であり、同様の液質を有する浸出液が得られる。従って、本発明に係る単体硫黄(S)の浸出始期での添加、または、浸出終期での添加、または、浸出始期と終期とでの2回の添加により、スコロダイトを生成する結晶化工程にとって最適な浸出液を確保すると言う構成は、
当該浸出方法においても当然に適用可能である。
【0070】
3.液調整工程(6)
液調整工程(6)は、上記「1.浸出第1〜第3工程」で得られた浸出液(5)へ、酸化剤を添加し3価として溶解している砒素を5価砒素に酸化して調整後液を得、次に、当該調整後液中に残留する酸化剤を除去する工程である。
【0071】
まず、当該液調整工程(6)で用いる酸化剤について説明する。
一般に、3価砒素を5価砒素へ酸化するのは、酸性領域より中性領域、さらに中性領域よりアルカリ性領域の方が容易である。しかし、本発明に係る浸出液は酸性である。そこで、当該酸性の浸出液にアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム)添加を行い、液性をアルカリ性とした上で、砒素の酸化を行うことが考えられる。ところが、本発明者らの検討によると、当該液性のアルカリ化には多量のアルカリ添加が必要で、コスト的に不利であることに加え、液中の塩類濃度が増加し、後工程のスコロダイト(8)生成に悪影響を及ぼすことに想到した。なお、3価砒素、5価砒素とあるのは、イオン価数が+3価砒素(プラス3価)、または+5価砒素(プラス5価)のことを称している。
【0072】
まず本発明者らは、中性領域(pH6〜7)における、酸素を用いた3価砒素の酸化を検討した。しかし、3価砒素の酸化は不十分なものに留まることが判明した。そこで、銅系触媒(本研究では、砒酸銅を検討した。)の使用も検討したが、3価砒素の5価砒素への完全酸化までには至らなかった。
【0073】
ここで本発明者らは酸化剤として、過酸化水素(H)を用いることに想到した。そこで、当該過酸化水素を用い、酸性領域下で砒素の酸化を検討したところ当該酸化が十分に進行することを確認した。
ところが、当該砒素の酸化反応後に、調整後液中に残留する過酸化水素は、後工程の結晶化工程(7)において共存せしめられる第一鉄イオンの一部を酸化する。そこで、第一鉄イオン濃度を正確に管理するためには、過酸化水素の残留量にもよるが、当該残留する過酸化水素を除去しておくことが望ましい。
【0074】
以下、具体的に説明する。
まず、用いる過酸化水素は、濃度30〜35%の汎用品で良い。
酸性領域下における3価砒素の5価砒素への酸化は、下記(式8)、(式9)により進行すると考えられる。
HAsO+H=HAsO・・・・・・・(式8)
HAsO+H=HAsO+H・・・・(式9)
【0075】
過酸化水素の添加量は、3価砒素濃度と、(式8)(式9)とに基づき、反応当量の1〜1.2倍量を添加することが好ましい。尤も、3価砒素濃度不明の場合は、当該過酸化水素添加後、液温80℃における液の酸化還元電位が500mV(Vs;Ag/AgCl)以上に達していることを目安としても良い。
【0076】
過酸化水素の添加時間は、酸化される3価砒素濃度による。例えば、濃度20g/Lの3価砒素を酸化する場合、添加時間を5分間以上とすることが好ましい。添加時間を十分にとることで、過酸化水素の一部が急速に分解し、気泡の発生が多くなり添加効率が悪化することを回避出来るからである。さらに好ましくは、添加時間を10分間〜15分間とする。
【0077】
過酸化水素添加による3価砒素の5価砒素への酸化は非常に早く、pHの低下と反応熱による液温の上昇が観察される。尤も、反応時間は、酸化を完全に行う観点から60分間
以上が好ましく、液の酸化還元電位が450mV(Vs;Ag/AgCl)以下となった時点で終了することが望ましい。
【0078】
ここで、当該調整後液中に残留する過酸化水素の処理方法について説明する。
当該残留する過酸化水素の処理方法には、以下の2通りの方法がある。
1)残留過酸化水素を、金属銅と接触させて消費による除去を行う方法
2)高温下における調整後液の攪拌維持により、残留過酸化水素の自然分解を行う方法
【0079】
1)残留過酸化水素を、金属銅と接触させて消費による除去を行う方法:
当該砒素の酸化反応後、調整後液に残留する過酸化水素は、金属銅を接触させることで除去が可能となる。
具体的には、当該調整後液へ銅粉を添加し攪拌して反応させる方法が一般的である。尤も、実際のプラント操業においては簡便化を図る目的で、銅板や銅屑を充填したカラムを通液することでも目的は達成される。
調整後液の液温度は、反応を完結させるため、40℃以上とすることが好ましい。
当該除去反応は、下記(式10)のように進むと考えられる。
Cu+H+HSO=CuSO+2HO・・・・(式10)
この結果、当該除去反応はpHの上昇を伴うので、pHが一定値を示した時点で終了と判断出来る。
【0080】
2)高温下における調整後液の攪拌維持により、残留過酸化水素の自然分解を行う方法:
ここで高温とは70〜100℃の温度のことである。
一例として、実際の設備材質等を考慮した80℃において、調整後液の液電位(80℃での電位、Ag/AgCl電極基準)が所定の値になる迄、調整後液の攪拌維持を行った場合の、残留過酸化水素について説明する。尚、調整後液中の残留過酸化水素量は、直接の定量が出来ない。そこで、調整後液と、銅粉とを反応させ溶出した銅濃度によって、残留過酸化水素量を比較した。
その結果
420mV → 溶出銅濃度=144mg/l
410mV → 溶出銅濃度=107mg/l
400mV → 溶出銅濃度= 66mg/l
390mV → 溶出銅濃度= 36mg/l、となった。
【0081】
以上の結果から、調整後液の液電位が390mV以下になる迄、80℃にて攪拌維持することで、溶出銅濃度として50mg/l以下に相当する残留過酸化水素量迄、残留過酸化水素の除去が出来る事を確認した。当該390mVの電位は、酸化終了(所定量の過酸化水素の添加60分間後)から、さらに80℃で1時間攪拌保持すれば到達できる電位である。そして、溶出銅濃度(36mg/l)から考えて、残留過酸化水素の影響は殆ど無いものと考えられた。
【0082】
以上、説明したように、調整後液の残留過酸化水素の除去方法には、2通りが考えられる。ここで、金属銅を使い残留過酸化水素を消費させる方法は、短時間で除去が可能であるが操作としては若干煩雑になる。一方、高温下における調整後液の攪拌維持による自然分解方法は、操作は簡便であるが、金属銅を使い残留過酸化水素を消費させる方法に比して反応時間が長く、その分酸化槽の稼動率を低下させることになる。従って、双方の特徴を考慮して、工程に適する方法を決定すべきである。
【0083】
本発明に係る液調整工程(6)によれば、浸出液(5)が酸性領域であっても、煩雑な操作もなく3価砒素を5価砒素に酸化出来、後工程における砒素のスコロダイト(8)へ
の高変換率を維持出来る。
【0084】
4.結晶化工程(7)
結晶化工程(7)は、上記「2.液調整工程(6)」で得られた調整後液中の5価砒素を、スコロダイト(8)へと結晶化する工程である。
前記液調整工程(6)を終えて得られる調整後液の砒素濃度は、スコロダイトの生産性を考えた場合、20g/L以上、好ましくは30g/L以上の濃厚液であることが好ましい。
まず、当該調整後液に対し第一鉄イオン(Fe2+)を共存せしめ、次いで、室温にて硫酸(HSO)を添加しpH1に調整する。
ここで、当該調整後液に第一鉄イオン(Fe2+)を共存せしめるには、当該調整後液へ、第一鉄塩や水酸化第一鉄(Fe(OH))等を添加し溶解させる方法や、第一鉄イオン(Fe2+)の濃厚液の混合による方法がある。本発明においては、いずれの方法も可能であるが、pH調整の容易性や、高砒素濃度を確保する観点からは、第一鉄塩を添加し溶解させる方法が好ましい。尚、第一鉄塩の化合物は種々あるが、設備の耐腐食性の観点および入手の容易性の観点から、硫酸第一鉄が好ましい。
第一鉄塩の添加量は、Fe純分量として被処理砒素総モル量の1倍当量以上、好ましくは1.5倍当量である。
【0085】
第一鉄塩を添加し溶解させた後、pH調整を終えたら、当該調整後液を所定の反応温度まで昇温する。
ここで反応温度は、50℃以上であればスコロダイト(8)が析出可能である。しかし、スコロダイトの粒径を大きくする観点からは、反応温度が高い程、好ましい。尤も、大気雰囲気下での反応を可能とする観点からは、反応温度を90〜100℃とすることが望ましい。
【0086】
当該調整後液が、所定の反応温度に到達したら、酸化剤の添加(例えば、空気および/または酸素ガスの吹き込みが好ましい。)を開始し、強攪拌を行って気液混合状態をつくり、所定の反応温度を保ちながら高温酸化反応を進める。
当該高温酸化反応は、下記(式11)〜(式16)の様に進行すると考えられる。
(反応の前半)
2FeSO+1/2O+HSO=Fe(SO+HO・・・(式11)
2HAsO+Fe(SO+4HO=2FeAsO・2HO+3HSO・・・・(式12)
(全反応式(式11+式12)を、下記(式13)に示す。)
2HAsO+2FeSO+1/2O+3HO=2FeAsO・2HO+2HSO・・・・(式13)
(砒素濃度が低下した反応後半)
2FeSO+1/2O+HSO=Fe(SO+HO・・・・(式14)
2/3HAsO+1/3Fe(SO+4/3HO=2/3FeAsO・2HO+HSO・・・・(式15)
(全反応式(式14+式15)を、下記(式16)に示す。)
2/3HAsO+2FeSO+1/2O+4/3HO=2/3FeAsO・2HO+2/3Fe(SO・・・・(式16)
【0087】
酸化方法にもよるが、当該高温酸化反応開始後、2時間〜3時間で、pH、砒素濃、Fe濃度が急激に低下する。当該段階において、液の酸化還元電位は95℃で400mV以上(Vs;Ag/AgCl)を示す。そして、含有されている砒素の90%以上がスコロ
ダイト(8)の結晶となる。当該高温酸化反応開始後、3時間以降は、液中に残留する砒素が少量低下するのみで、pHや液電位は殆ど変化しない。尚、当該高温酸化反応を完全に平衡状態で終えるには、好ましくは5時間〜7時間の継続を行う。
【0088】
上述した本発明に係る結晶化工程(7)によれば、反応操作が簡単であり、途中pH調整の必要もなく、含有される砒素を確実にスコロダイト(8)の結晶へ変換可能である。生成するろ液(11)は、排水処理工程(12)にて処理すればよい。得られるスコロダイト(8)の結晶は、沈降性、濾過性に優れ、濾過後の付着水分が10%前後と低く、さらに砒素品位が30%にも及ぶので減容化が達成され、かつ、耐溶出性に優れ安定である。従って、砒素を、製錬工程から安定な形として除去し保管可能となる。
【実施例】
【0089】
(実施例1)
実施例1においては、浸出第1工程の反応始期に単体硫黄(S)を添加し、その添加効果を確認した。
【0090】
実施例に用いた原料品位について説明する。
実施例に用いた硫化砒素澱物の品位を表1に、脱銅電解スライムの品位を表2に、当該硫化砒素澱物と脱銅電解スライムとの配合比を表3に示す。
【0091】
【表1】

【表2】

【表3】

【0092】
上記表3に示す配合は、(式4)で説明したように、硫化砒素澱物中の硫化砒素(As)量が、脱銅電解スライムの中の銅(Cu)を硫化するに必要な 0.5倍当量となるものである。すなわち、上述した「Cuが豊富な場合」に該当する配合である。
(Cu)+1/3As+1/2O+1/3HO=2/3HAsO+CuS・・・(式4)
【0093】
すなわち、上記配合と(式4)とから、脱銅電解スライム中に含有される銅(Cu)のうち、硫化されない銅(Cu)量は51.2gと算出される。当該硫化されない銅が
、浸出最終時に銅イオンとして残留することになる。
【0094】
単体硫黄(S)の添加量は、残留する銅イオンの総モル数の2倍モルとする。
2倍モルの単体硫黄(S)量=51.2÷MCu×M×2=52g
ここでMCuとは銅の原子量63.54であり、MとはSの原子量32.06である。
【0095】
表1〜表3に示す硫化砒素澱物と脱銅電解スライムと、試薬の単体硫黄(S)52gとを、2リットルビーカーに測り取り、所定の純水を加えてリパルプしパルプを調製した。尚、本調合においては、原料中に含まれる水分量を加味すれば、本パルプ中の水量は1,550mlである。反応は2リットルビーカー、4枚邪魔板、2段タービン羽で800rpmとした。
そして、当該パルプを弱攪拌しながら加温し、温度を80℃にした。この時点でpHは1.62を示した。
【0096】
次いで、ビーカー底部よりガラス管を用いて酸素ガスの430cc/分の吹き込みを開始し、攪拌を800rpmとし反応を開始した。
30分間経過時点(80℃、pH1.55)で、500g/l濃度の水酸化ナトリウム溶液26mlを5分間で添加し、80℃、pH4.86とした。この後、引き続き反応を進め、120分間経過時点(80℃、pH1.85)で酸素ガス吹き込みを停止し、さらに30分間攪拌維持した後、浸出終了(80℃、pH1.72)とした。
【0097】
回収した浸出液の品位を表4に示す。尚、表4においてtotal−Asは砒素の全量、5価−Asは5価の砒素量を示す。そして、5価−As比率は、砒素の全量中における5価の砒素量の比率を示し、Cuは回収した浸出液の銅濃度を示す。
【0098】
【表4】

【0099】
回収した浸出残渣は501wet・g(水分50.2%)であり、砒素品位は2.0%であった。これより砒素の浸出率は約93.5%と推算され、浸出率としては非常に高い結果となった。銅の除去も良好であった。
【0100】
さらに、2.5倍モルの単体硫黄(S)を反応始期に添加した以外は、同様の条件及び手順で、単体硫黄(S)の添加効果を確認した。
2.5倍モルの単体硫黄(S)量=51.2÷MCu×M×2.5=65g
表1〜表3に示す硫化砒素澱物と脱銅電解スライムと、試薬の単体硫黄(S)65gとを、2リットルビーカーに測り取り所定の純水リパルプしパルプを調整した。
【0101】
先ず、上記パルプを弱攪拌しながら加温し、温度を80℃にした。この時点でpHは1.64を示した。
次いで、ビーカー底部よりガラス管を用い酸素ガスを430cc/分で吹き込みを開始し、攪拌を800rpmとし反応を開始した。
30分間経過時点(80℃、pH1.57)で、500g/l濃度の水酸化ナトリウム溶液26mlを5分間で添加し、80℃、pH5.67とした。この後、引き続き反応を
進め、120分間経過時点(80℃、pH1.93)で酸素ガス吹き込みを停止し、さらに30分間、攪拌維持した後、浸出終了(80℃、pH1.82)とした。
【0102】
回収した浸出液(浸出終了時点)の品位を表5に示す。尚、表の表記は上述した表4と同様である。
【0103】
【表5】

【0104】
回収した浸出残渣は520wet・g(水分48.9%)であり、砒素品位は2.0%であった。これより砒素の浸出率は約93.2%と推算され、浸出率としては非常に高い結果となった。銅の除去も良好であった。
【0105】
以下、同様の操作手順にて、残留する銅(Cu)量に対して、0.4倍モル、1.0倍モル、1.3倍モルの単体硫黄(S)を反応始期に添加した以外は、同様の条件及び手順で、単体硫黄(S)の添加効果を確認した。
そして、当該条件により単体硫黄を反応始期に添加した場合の、残留銅濃度の結果を表6に示した。
【0106】
【表6】

【0107】
以上の結果より、残留銅濃度を1g/l以下にするためには、残留する銅の総モル数の1.0倍モル以上好ましくは1.3倍モル以上の量の単体硫黄(S)を、浸出第1工程の反応始期から添加すれば良いことが理解される。
【0108】
(実施例2)
実施例2においては、浸出第3工程である反応終期に単体硫黄(S)を添加し、その添加効果を確認した。
【0109】
実施例1の表1〜表3に示した原料調合表に示す硫化砒素澱物と脱銅電解スライムとを、2リットルビーカーに測り取り、所定の純水を添加してリパルプしパルプを調整した。当該パルプを弱攪拌しながら加温し、温度を80℃にした。この時点でpHは1.67を示した。
【0110】
次いで、ガラス管を用い、ビーカー底部より酸素ガスの430cc/分の吹き込みを開始し、攪拌を800rpmとし反応を開始した。
30分間経過時点(80℃、pH1.89)で、500g/l濃度の水酸化ナトリウム溶液26mlを5分間で添加し、80℃、pH3.89とした。この後、引き続き反応を進め、120分間経過時点(80℃、pH2.15)で酸素吹き込みを停止した。
【0111】
少量サンプリングの結果、残留する銅量は3,750mg/lであった。そこで、単体硫黄(S)65gを添加し、パルプと10分間攪拌混合した後(80℃、pH2.14)、95%硫酸を添加してpH1.85(80℃)へ下げ、ここからさらに30分間攪拌維持した後、浸出を終了(80℃、pH1.52)した。
回収した浸出液(浸出終了時点)の品位を表7に示す。尚、表の表記は上述した表4と同様である。
【0112】
【表7】

【0113】
回収した浸出残渣は552wet・g(水分48.6 %)であり、砒素品位は2.7%であり、これより砒素の浸出率は約90.2%と推算された。浸出率としては、浸出始期から単体硫黄(S)を添加する方法より低い結果となったが、砒素の酸化効率は格段に向上した。具体的には、実施例1は本実施例と同量の65g単体硫黄(S)を浸出第1工程の反応始期に添加した場合であるが、5価砒素の比率は41.3%であった。これに比し、本実施例では5価砒素の比率が83.3%と2倍以上の酸化効率を示した。
【0114】
銅の除去も良好であった。但し、実施例1に示した浸出始期から単体硫黄(S)を添加する方法に比べると、実施例1の方が、脱銅能力は高かった。
従って、残留銅濃度を1g/l以下にする為、好ましくは、残留する銅の総モル数の2.0倍モル以上の量の単体硫黄(S)を添加することが求められる。
しかしながら、浸出第3工程となる反応終期に単体硫黄(S)を添加することで、浸出工程進行中の浸出パルプには過量の銅イオンが共存出来るため、砒素の酸化効率が高くなるというメリットがある。
【0115】
実施例2で調製された浸出液1,000mlを1(L)ビーカーに取り、過酸化水素を添加した。当該過酸化水素の添加量は、上記3価砒素を酸化するのに必要な量の1.05倍当量である。具体的には、30%H水12.6gを、昇温中の当該溶液が70℃となった時点から添加を開始し10分間で添加終了した。この時の液電位は81℃で521mV(本実施例において、液電位はAg/AgCl電極基準電位である。)であった。
【0116】
過酸化水素の添加終了時から、酸化反応開始とした。
尚、酸化反応自体は過酸化水素添加終了時から60分間で終了とした。しかし、この時点では、温度が80℃を割らない様にして、さらに60分間攪拌維持し、合計120分間経過後に攪拌終了とした。
尚、当該攪拌は空気を巻き込まない程度の強度とした。撹拌終了時の液電位は81℃で378mVであった。
【0117】
反応終了後液は、水分が若干蒸発し液量が減少していたので、純水を添加し反応前の1000mlとし、これを終液とした。以上の操作により酸化液調整後液を調製した。
【0118】
当該酸化調整後液中に残留する過酸化水素量を調べた。具体的には、当該酸化調整後液50mlに銅粉を300mgを添加し、40℃にて、空気を巻き込まない程度の弱攪拌にて4分間攪拌反応させた後、濾過を行った。尚、攪拌にはスターラーを用いた。
得られた濾液の銅濃度は281mg/lであり、約22mg/lの濃度上昇を確認した。この結果から、当該酸化調整後液中に残留過酸化水素は、殆どが分解・除去されていることが確認された。
【0119】
当該酸化調整後液中に含まれる砒素の結晶化について説明する。
1)当該酸化調整後液を純水で希釈し、砒素濃度を45g/lに調整した。
2)砒素濃度を調整した酸化調整後液800ccを2Lビーカーに移し、95%硫酸を添加してpH1.15へ調整した。
3)当該酸化調整後液に含まれる砒素モル量の1.5倍モル量の第一鉄(Fe2+)を、酸化調整後液に加えた。具体的には、試薬1級の硫酸第一鉄(FeSO・7HO)を200g測り取り、該調整後液へ溶解し、さらに95%硫酸を添加して30℃でpH1.0へ調整した。
4)上記3)の溶液を加熱して95℃へ昇温し、次いで、ガラス管を用いビーカー底部より酸素ガスを400cc/分で吹き込みを開始し、強攪拌下、気液混合状態で7時間高温酸化反応した。当該高温酸化反応後の調整後液の分析結果を以下の表8に示す。
【0120】
【表8】

【0121】
砒素沈殿率は、97.2%であった。
尚、砒素沈殿率とは液中の砒素のスコロダイトへの転換率であり、溶出値を求める為の溶出方法は環境庁告示13号法に準拠した。溶出処理後の液の濾過は、孔径0.2μmのMCE(Mixed Cellulose Ester)製のフィルターを介して行った。
【0122】
(比較例1)
本比較例は、浸出工程にて単体硫黄(S)を添加しない場合における砒素の浸出について測定したものである。
【0123】
実施例1の表1〜表3に示した原料調合表に示す硫化砒素澱物と脱銅電解スライムとを、2リットルビーカーに測り取り、所定の純水を添加してリパルプしパルプを調整した。当該パルプを弱攪拌しながら加温し、温度を80℃にした。この時点でpHは1.71を示した。
【0124】
ガラス管を用い、ビーカー底部より酸素ガスを430cc/分で吹き込みを開始し、攪拌を800rpmとして反応を開始した。30分間経過時点(80℃、pH1.95)にて、500g/l濃度の水酸化ナトリウム溶液を26ml(液中Na濃度が4.8g/l
相当となる量。)を5分間で添加し、80℃、pH3.70とした。ここで、少量サンプリングした後、引き続き反応を進め120分間経過時点(80℃、pH2.11)で酸素吹き込みを停止した。ここから、さらに30分間攪拌を維持した後、浸出終了(80℃、pH2.07)とした。回収した浸出液の、水酸化ナトリウム溶液の添加終了直後の品位を表9に、浸出終時点の品位を表10に示す。尚、表の表記は上述した表4と同様である。
【0125】
【表9】

【表10】

【0126】
回収した浸出残渣は529wet・g(水分51.7%)であり、砒素品位は14.9%であった。これより、砒素の浸出率は約50.7%と推算され、浸出率としては非常に低い結果となった。
【0127】
当該比較例1において、砒素の浸出率が非常に低い結果となったことに関して、本発明者等は以下の様な理由を考えている。
すなわち、比較例1に係る配合では、浸出液中に銅が過量に存在しており、且つ砒素の酸化が促進される。このため、浸出の途中で5価砒素と銅イオンとが反応して砒酸銅を形成してしまい、残渣となって残留してしまうものと考えられる。つまり、当該比較例1の様な銅が過量の配合では、高浸出率で、且つ高濃度の砒素溶液を得る浸出は不可能であると考えられる。
【0128】
(比較例2)
本比較例は、実施例2と同様であるが、単体硫黄(S)添加後の反応pHを2以上で行った場合の例である。
【0129】
原料配合・操作手順は、実施例2と同様に行った。具体的には、実施例2と同様のパルプを、同様に弱攪拌しながら加温し、温度を80℃にした。この時点でpHは1.61を示した。
次に、ガラス管を用いビーカー底部より酸素ガスの430cc/分の吹き込みを開始し、攪拌を800rpmとして反応を開始した。30分間経過時点(80℃、pH1.85)で、濃度500g/lの水酸化ナトリウム溶液26mlを5分間で添加し、80℃、pH3.80とした。引き続き、反応を進め120分間経過時点(80℃、pH2.12)で酸素吹き込みを停止した。少量サンプリング(結果:残留銅3,849mg/l)した後、単体硫黄(S)65gを添加し、当該パルプと10分間攪拌混合した後(80℃、pH2.11)、さらに30分間攪拌を維持した。ここで(80℃、pH2.09)少量サンプリング(結果:残留銅3,566mg/l)した後、さらに攪拌を維持して30分間後(80℃、pH2.08)に少量サンプリング(結果:残留銅3,429mg/l)して浸出終了とした。
【0130】
以上の結果から、実施例2に比しpHが高い(pHが2以上)、比較例2に係る領域においては、単体硫黄(S)と銅イオンとの反応性が非常に緩慢であることが判明した。従って、比較例2に係る領域においては、銅の除去が不十分であることも判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物形態の砒素を含む非鉄製錬中間産物と、砒素と金属形態の銅とを含む非鉄製錬中間産物との、混合スラリーを、酸性領域で酸化浸出し浸出液を得る浸出工程と、
当該浸出液に酸化剤を添加して、砒素を5価砒素へ酸化して調整後液を得る液調整工程と、
当該調整後液中の砒素をスコロダイト結晶へ転換する結晶化工程と、を有し、
前記浸出工程が、前記硫化物形態の砒素を含む非鉄製錬中間産物と、前記砒素と金属形態の銅とを含む非鉄製錬中間産物との、混合スラリーへ、反応始期に単体硫黄(S)を添加し、酸化剤を添加しながら、温度を50℃以上とし、pHを1.0以上2.0以下として浸出を行う浸出第1工程と、次いで、pHを2.0以上とした後、混合スラリーへ酸化剤を添加しながら浸出を行う浸出第2工程と、次いで、酸化剤の添加を停止し、さらに混合スラリーを攪拌する浸出第3工程とを、有することを特徴とする砒素の処理方法。
【請求項2】
前記単体硫黄(S)の添加量は、該単体硫黄(S)を添加せずに浸出した際に浸出液中にイオンとして残留する銅の総モル数の1倍モル以上であることを特徴とする請求項1に記載の砒素の処理方法。
【請求項3】
硫化物形態の砒素を含む非鉄製錬中間産物と、砒素と金属形態の銅とを含む非鉄製錬中間産物との、混合スラリーを、酸性領域で酸化浸出し浸出液を得る浸出工程と、
当該浸出液に酸化剤を添加して、砒素を5価砒素へ酸化して調整後液を得る液調整工程と、
当該調整後液中の砒素をスコロダイト結晶へ転換する結晶化工程と、を有し、
前記浸出工程が、前記硫化物形態の砒素を含む非鉄製錬中間産物と、前記砒素と金属形態の銅とを含む非鉄製錬中間産物との、混合スラリーへ酸化剤を添加しながら温度を50℃以上とし、pHを1.0以上2.0以下として浸出を行う浸出第1工程と、次いで、pHを2.0以上とした後、混合スラリーへ酸化剤を添加しながら浸出を行う浸出第2工程と、次いで、酸化剤の添加を停止して単体硫黄(S)を添加し、pHを2以下とした後、さらに攪拌する浸出第3工程とを、有することを特徴とする砒素の処理方法。
【請求項4】
前記単体硫黄(S)の添加量は、該単体硫黄(S)を添加せずに浸出した際に浸出液中にイオンとして残留する銅の総モル数の2倍モル以上であることを特徴とする請求項3に記載の砒素の処理方法。
【請求項5】
硫化物形態の砒素を含む非鉄製錬中間産物と、砒素と金属形態の銅とを含む非鉄製錬中間産物との、混合スラリーを、酸性領域で酸化浸出し浸出液を得る浸出工程と、
当該浸出液に酸化剤を添加して、砒素を5価砒素へ酸化して調整後液を得る液調整工程と、
当該調整後液中の砒素をスコロダイト結晶へ転換する結晶化工程と、を有し、
前記浸出工程が、前記硫化物形態の砒素を含む非鉄製錬中間産物と、前記砒素と金属形態の銅とを含む非鉄製錬中間産物との、混合スラリーへ、反応始期に単体硫黄(S)を添加し、酸化剤を添加しながら温度を50℃以上とし、pHを1.0以上2.0以下として浸出を行う浸出第1工程と、次いで、pHを2.0以上とした後、混合スラリーへ酸化剤を添加しながら、浸出を行う浸出第2工程と、次いで、前記酸化剤の添加を停止して単体硫黄(S)を添加し、pHを2以下とした後、さらに攪拌する浸出第3工程とを、有することを特徴とする砒素の処理方法。
【請求項6】
前記砒素と金属形態の銅とを含む非鉄製錬中間産物が、脱銅電解スライム、および/または、砒化銅殿物であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の砒素の処理方法。
【請求項7】
前記浸出工程において、浸出第1工程に次いで、pHを2.0以上とした後、pHを非保持のまま、混合スラリーへ酸化剤を添加しながら、浸出第2工程を行うことを特徴とする請求項1、3、5のいずれかに記載の砒素の処理方法。
【請求項8】
前記混合スラリーへ添加する酸化剤として、空気および/または酸素ガスの吹き込みを用いることを特徴とする請求項1、3、5、7のいずれかに記載の砒素の処理方法。
【請求項9】
前記液調整工程において、酸化剤として過酸化水素を40℃以上で添加し、砒素を5価砒素に酸化して調整後液を得た後、当該反応後液と金属銅とを接触させ、残留する過酸化水素を除去するか、または、当該反応後液をさらに攪拌維持して、当該調整後液に残留する過酸化水素を除去することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の砒素の処理方法。
【請求項10】
前記結晶化工程が、前記調整後液に第一鉄イオンを共存せしめ、当該第一鉄イオンが、5価砒素と酸化反応する結晶化工程であることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の砒素の処理方法。
【請求項11】
前記酸化反応を、pH1以下で行うことを特徴とする請求項10に記載の砒素の処理方法。
【請求項12】
前記酸化反応を、温度50℃以上で行うことを特徴とする請求項10に記載の砒素の処理方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−168237(P2010−168237A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11283(P2009−11283)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(306039131)DOWAメタルマイン株式会社 (92)
【Fターム(参考)】