説明

砒素汚染土の処理材

【課題】砒素の不溶化、土壌強度の改良、土壌のpHの中性化、および低コスト化をすべて満足することが可能な砒素汚染土の処理材を提供する。
【解決手段】この砒素汚染土の処理材は、鉄塩と、珪酸アルカリ金属塩と、石膏と、を含有するものであり、あるいは、鉄塩と、珪酸アルカリ金属塩と、高分子固化剤と、を含有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砒素汚染土の処理材に関する。
【背景技術】
【0002】
砒素は、環境汚染の原因物質であることから、砒素汚染土については、不溶化処理を行って、砒素の溶出量を所定の基準値以下、具体的には、「土壌の汚染に係る環境基準について」(環境庁告示第46号:平成3年8月23日)による検液が0.010mg/l以下となるようにしておく必要がある。そのため、近年、各種の砒素汚染土の不溶化処理材が開発されており(下記特許文献1参照)、その代表的なものとして、鉄系不溶化材、石灰系固化材、セメント系固化材、石膏系固化材などがある。
【0003】
鉄系不溶化材は、硫酸第二鉄や塩化第二鉄などの鉄塩を主剤とするものであり、その鉄塩と砒素とが反応して難溶解性の砒酸鉄を生成することによって、砒素汚染土の不溶化処理が達成されるものである。一方、石灰系固化材あるいはセメント系固化材は、砒素と反応して難溶解性の砒酸カルシウムを生成する効果を有するとともに、石灰(具体的には生石灰)あるいはセメントの固化体に砒素を封じ込める効果を有しており、これらのハイブリッド効果によって、砒素汚染土の不溶化処理が達成されるものである。また、石膏系固化材は、土壌を固める効果を有しており、石膏の固化体に砒素を封じ込めること、および石膏中の一部のカルシウムと砒素とが結合して難溶性の砒酸カルシウムを生成することによって、砒素汚染土の不溶化処理が達成されるものである。
【0004】
ところが、これらの砒素汚染土の不溶化処理材には、それぞれ次のような欠点があった。
【0005】
まず、鉄系不溶化材は、土壌のpHを酸性化してしまうため、砒素以外の他の重金属の溶出を招いてしまうおそれや、地下水の汚染を招いてしまうおそれがある。また、鉄系不溶化材には、土壌を固める効果がないため、土壌が軟弱になり、地盤としての利用が制約されてしまうという欠点もある。一方、石灰系固化材あるいはセメント系固化材は、土壌を固めるという点では優れた効果を有するものの、土壌のpHを高アルカリ化してしまうため、砒素以外の他の重金属(例えば、鉛など)の溶出を招いてしまうおそれや、地下水のアルカリ汚染を招いてしまうおそれがある。また、石膏系固化材は、土壌を固める効果に優れ、しかも、土壌のpHが中性になるという点では優れた効果を有するものの、砒素の不溶化力が弱いため、砒素汚染土に大量に添加する必要があり、コストの増大を招いてしまうという欠点があった。
【0006】
これらの欠点を矯正するために、本出願人は、鉄塩(例えば、硫酸第二鉄、塩化第二鉄など)と、珪酸アルカリ金属塩(例えば、水ガラスなど)と、を併用した砒素汚染土の不溶化技術を開発し、出願するに至っている(特願2008―009526号)。
【特許文献1】特開2006−167524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、砒素汚染土を処理する場合には、4つの目標(すなわち、砒素の不溶化、土壌強度の改良、土壌のpHの中性化、低コスト化)を満足することが理想である。
【0008】
しかしながら、前記出願に係る技術にあっては、これら4つの目標のうち、砒素の不溶化、土壌のpHの中性化、低コスト化の3つを満足することが可能であるものの、土壌強度の改良という目標を満足することができず、土壌強度の改良の点に弱点があった。
【0009】
この点について具体的に説明すると、以下の通りである。まず、処理前の元の土壌の含水比が低く、その物理状態が比較的良好である場合には、鉄塩と、珪酸アルカリ金属塩と、を併用することによって、土壌は4種改良土(コーン指数200kN/m以上)を確保することができ、初期条件がよければ3種改良土(コーン指数400kN/m以上)を確保することもできる。しかし、処理前の元の土壌の含水比が高く、軟弱な場合(例えば、含水比が液性限界付近の場合)には、砒素汚染土に、鉄塩と、珪酸アルカリ金属塩と、を併用した材料をかなり多量に添加したとしても、4種改良土にすることが困難であり、たとえ、砒素汚染土1mあたりに対する同材料の添加量を100kg/m以上に増加したとしても、4種改良土にすることは困難である(例えば、下記表1の「鉄系+水ガラス」参照)。これは、珪酸アルカリ金属塩(具体的には、水ガラス)の有する固結効果がさほど大きくないためである。
【0010】
要するに、従来の技術では、未だ、前述した4つの目標(すなわち、砒素の不溶化、土壌強度の改良、土壌のpHの中性化、低コスト化)をすべて満足することができないのが実情であり、これらの4つの目標をすべて満足することが可能な砒素汚染土の処理材の開発が望まれていたのである。
【0011】
そこで、本発明は、前述した4つの目標をすべて満足すること、すなわち、砒素の不溶化、土壌強度の改良、土壌のpHの中性化、および低コスト化をすべて満足することが可能な砒素汚染土の処理材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の砒素汚染土の処理材は、鉄塩と、珪酸アルカリ金属塩と、石膏と、を含有することを特徴とする。
また、本発明の砒素汚染土の処理材は、鉄塩と、珪酸アルカリ金属塩と、高分子固化剤と、を含有することを特徴とする。
【0013】
以上の本発明において、珪酸アルカリ金属塩は、アルカリ性を示すので、処理後の掘削土のpHをより中性付近にするためには、鉄塩として、酸性の鉄塩を用いることが好ましく、具体的には、鉄塩として、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、シリカ鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄などを用いることとする。また、本発明に用いる珪酸アルカリ金属塩としては、例えば、珪酸ソーダ、カリウム水ガラス、シリカゾル、リチウム水ガラス、粉末珪酸ソーダ、粉末珪酸カリウムなどが挙げられる。
【0014】
さらに、本発明において、石膏は、半水石膏、二水石膏、無水石膏、いずれをも使用することが可能であるが、このうち半水石膏、二水石膏が好ましい。
また、本発明において、高分子固化剤は、吸水作用および土粒子を凝集させる作用のうち少なくとも一方を有するものであり、具体的には、「天然高分子」のものと、「合成高分子」のものとがある。
【0015】
「天然高分子」とは、グアガム、デンプン(トウモロコシ、芋、米、麦、豆類など)、植物繊維(セルロース)、腐植物質(リグニン、フミン酸)、海藻、あるいは微生物や生物(ミミズなど)、分泌物などを原料にして粉末にしたもの(液状にしたもの)、およびそれらを発酵させたもの、防腐処理、化学変化などの処理を施したものであり、これらの2種類以上をブレンドしたものも含めて、吸水効果または凝集効果を発揮するものである。
【0016】
一方、「合成高分子」とは、ポリアクリルアマイド系、アクリル酸共重合体系(ポリアクリル酸ナトリウムなど)、アクリロニトリル、変性ポリオキシエチレン系、ポリエーテルウレタン系など、従来の公知になっている吸水剤、凝集剤がすべて含まれる。粉体のものが多いが、液体のものであっても目的にあったものは含まれる。
【0017】
さらに、本発明の高分子固化剤には、天然高分子と合成高分子とを組み合わせたものも含まれる。例えば、天然高分子の表面に合成高分子を付着させたものなども含まれる。また、天然高分子あるいは合成高分子に無機塩類(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩など)を加えて吸水、凝集の効果を改善したものも含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の砒素汚染土の処理材によれば、砒素の不溶化、土壌強度の改良、土壌のpHの中性化、および低コスト化をすべて満足することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
===本発明の概要===
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、前述した4つの目標をすべて満足させるためには、3つの目標を満足することが可能な前記出願に係る技術(すなわち、鉄塩と珪酸アルカリ金属塩とを併用する技術)を基礎として、残りの目標である「土壌強度の改良」機能を有する薬剤を併用することを考えた。
【0020】
このような薬剤を選別する上で、まず、前述した石灰系固化材あるいはセメント系固化材を併用することが考えられる。しかし、石灰系固化材あるいはセメント系固化材を併用した場合には、土壌強度を改良することは可能であるものの、土壌のpHの高アルカリ化を招き、「土壌のpHの中性化」という目標を満足することができなくなってしまう。そのため、石灰系固化材あるいはセメント系固化材は、いずれも前記薬剤には適していない。
【0021】
また、これらとは逆に、土壌のpHの酸性化を招いてしまうような材料についても、「土壌のpHの中性化」という目標を満足することができなくなってしまうため、前記薬剤には適していない。さらに、鉄塩と珪酸アルカリ金属塩との併用による砒素の不溶化反応に対して悪影響を及ぼすような材料についても、前記薬剤には適していない。
【0022】
このような薬剤の選別を行うために、本発明者らは、各種の材料を試したところ、「石膏系固化材」あるいは「高分子固化剤」が、前記薬剤に適していることを見出し、本発明を完成させるに至った(表1参照)。これらの材料は、いずれも、土壌のpHを変化させないため(表1の「pH」参照)、「土壌のpHの中性化」という目標を満足することが可能である。また、これらの材料は、いずれも、土壌強度の改良の点で優れた効果を奏する(表1の「処理材混合後のフルコーン貫入量」および「コーン指数」参照)とともに、前述した砒素の不溶化反応にも悪影響を及ぼさない。さらに、「石膏系固化材」は、安価であるため、「低コスト化」という目標を満足させることも可能である。また、「高分子固化剤」は、単価は高いものの、使用量が少なくてすむため(表1の「配合比」参照)、コストパフォーマンスが良く、より低コスト化に資することとなる。
【0023】
===確認試験===
さらに、本発明者らは、このような本発明の効果を確認するために、次のような確認試験を実施した。すなわち、本発明者らは、砒素に汚染された「模擬汚染土壌」を作製し、この模擬汚染土壌に対して、各種の砒素汚染土の処理材(以下、単に「処理材」という。)を適用し、pH、砒素溶出量(mg/l)、フォールコーン貫入量(mm)を測定するとともに、図1のグラフに基づいて、フォールコーン貫入量からコーン指数(kN/m)を換算した。これらの結果を表1に示す。なお、図1は、フォールコーン貫入量からコーン指数を換算する際に用いた、「フォールコーン貫入量とコーン指数の関係」を示すグラフである。図1に示すように、処理材の有無にかかわらず、両者の間には相関関係が認められ、具体的には、フォールコーン貫入量の値が小さいほど、コーン指数の値が大きくなるという関係が認められた。
【表1】

【0024】
<確認試験の条件・方法について>
この確認試験では、まず、試料土に砒素化合物試薬を混合して、前述した「模擬汚染土壌」を作製した。なお、試料土の土質は、シルト混り砂で、含水比24.2%(かなり軟弱な状態を示す値)、湿潤密度1.6g/cmであった。また、この「模擬汚染土壌」について、環境省告示46号法による砒素溶出量を測定したところ、その砒素溶出量は0.146mg/l(環境基準値の約15倍)であった。
【0025】
次に、この「模擬汚染土壌」に対して、各種の処理材を順次添加するとともに、よく攪拌混合してから、一晩養生した。続いて、その混合物について、環境省告示46号法による溶出試験を行って、pHと砒素溶出量を測定するとともに、フォールコーン貫入試験(地盤工学会基準(JIS 1431−1995)の「ポータブルコーン貫入試験方法」参照)を行って、フォールコーン貫入量を測定した。さらに、別途、フォールコーン貫入量とコーン指数の関係式を求めておき(図1参照)、この関係式に基づいて、フォールコーン貫入量からからコーン指数を換算した。
【0026】
<確認試験で使用した処理材について>
この確認試験では、本発明の砒素汚染土の処理材(「鉄系+水ガラス+石膏系」および「鉄系+水ガラス+高分子系」)を使用するとともに、比較対照として、3種の処理材(「鉄系」、「石膏系」、「鉄系+水ガラス」)を使用した。
表1において、「鉄系」とは、鉄塩を含有する薬剤を意味し、具体的には、硫酸第二鉄を主体とする溶液(商品名「ポリ鉄」;日鉄鉱業株式会社製)を意味する。また、「石膏系」とは、石膏を含有する薬剤を意味し、具体的には、半水石膏と二水石膏を主成分とした材料(商品名「エコハード」;チヨダウーテ株式会社製)を意味する。一方、「水ガラス」とは、珪酸アルカリ金属塩を含有する薬剤を意味し、具体的には、珪酸ソーダ3号(JIS製品)を意味する。また、「高分子系」とは、高分子固化剤(商品名「クリサット」;栗田工業株式会社製)を意味する。表1に示す通り、いずれも添加量は、50kg/mおよび100kg/mとした。
【0027】
<確認試験の評価について>
この確認試験の結果(表1参照)について、次のように評価した。すなわち、pHは、中性領域(pH5.8〜8.6)を合格とした。また、砒素溶出量は、環境基準値(0.01mg/l)以下を合格とした。土壌強度は、コーン指数で400kN/m以上(3種改良土)を合格とし、200kN/m以上(4種改良土)を準合格とした。
【0028】
ところで、この確認試験では、あえて厳しい条件下にある砒素汚染土を試験土にしている。すなわち、この試験土は、前述した通り、砒素溶出量が環境基準値の15倍もあり、また、液性限界(地盤工学会基準(JIS0142−2000)の「フォールコーンを用いた土の液性限界試験方法」参照)よりも軟弱な状態にある。より具体的には、一般にフォールコーン貫入量が10mmのときに液性限界の状態を示すところ、表1の通り、この試験土は、フォールコーン貫入量が14.5mmであったことから、掘削土としてもかなり軟弱な状態にあった。このように、厳しい条件下にある試験土について合格すれば、大抵の現場の土壌に対して本発明を適用することができることになる。
【0029】
そして、表1に示すように、この試験土に対し、処理材として、「鉄系」、「石膏系」、および「鉄系+水ガラス」を添加した場合には、いずれも不合格となったが、本発明の砒素汚染土の処理材(「鉄系+水ガラス+石膏系」および「鉄系+水ガラス+高分子系」)を添加した場合には、いずれも合格となった。
【0030】
すなわち、この試験土に対し、「鉄系」を添加した場合には、砒素の不溶化を達成することができたものの、土壌強度の改良を全く達成することができず、土壌のpHも酸性側の値を示した。
【0031】
また、この試験土に対し、「石膏系」を添加した場合には、土壌のpHの中性化を達成することができたものの、砒素の不溶化を達成することができず、土壌強度の改良を達成することもできなかった。
【0032】
さらに、この試験土に対し、「鉄系+水ガラス」を添加した場合には、土壌のpHの中性化および砒素の不溶化をいずれも達成することができたものの、土壌強度の改良が不十分であった。
【0033】
一方、この試験土に対し、本発明の砒素汚染土の処理材(「鉄系+水ガラス+石膏系」)を添加した場合には、土壌のpHの中性化、砒素の不溶化、および土壌強度の改良ともに合格し、その添加量が50kg/mのときでも、前述した3種改良土のレベルに達しており、この処理材が非常に有効であることがわかる。
【0034】
また、この試験土に対し、本発明の砒素汚染土の処理材(「鉄系+水ガラス+高分子系」)を添加した場合にも、同様に、土壌のpHの中性化、砒素の不溶化、および土壌強度の改良ともに合格し、優れた効果を示した。この処理材に使用される「高分子系」は、前述した「石膏系」と比べて単価は高いものの、その使用量(表1の「配合比」参照)が少なくてすむため、低コスト化という目標を満足させる点において、より効果的である。また、石膏を含有する処理材を使用する場合には、石膏が埋立処分場などにおいて、硫化水素ガスを発生させる原因となることがある。しかし、この処理材には石膏が含まれていないため、硫化水素ガスの発生を防止したいときには、当該処理材が特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】フォールコーン貫入量とコーン指数の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄塩と、珪酸アルカリ金属塩と、石膏と、を含有することを特徴とする砒素汚染土の処理材。
【請求項2】
鉄塩と、珪酸アルカリ金属塩と、高分子固化剤と、を含有することを特徴とする砒素汚染土の処理材。

【図1】
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【公開番号】特開2010−24325(P2010−24325A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186343(P2008−186343)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(504162800)京浜ソイル株式会社 (7)
【Fターム(参考)】