説明

研磨パッド用表面処理剤及び研磨パッド製造装置

【課題】 研磨パッドの貼り換え作業を行うことなく、研磨パッドの表面に紫外線硬化樹脂からなる膜を薄く均一に形成することができる研磨パッド用表面処理剤及び研磨パッド製造装置を提供する。
【解決手段】 紫外線硬化樹脂を溶剤に分散させた分散液からなる研磨パッド用表面処理剤3を回転自在な定盤12に取り付けられた基材4上に均一に塗布するための表面処理剤塗布部13と、塗布された前記基材4上の研磨パッド用表面処理剤3に対して紫外線を均一に照射する紫外線照射部14と、を備える研磨パッド製造装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ、半導体デバイス用シリコンウエハ、液晶ディスプレイ用ガラス基板等の被研磨物を研磨加工する際に用いられる研磨パッドの表面にエポキシ樹脂等の紫外線硬化樹脂を塗布するための研磨パッド用表面処理剤及び研磨パッド製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズ、半導体デバイス用シリコンウエハ、液晶ディスプレイ用ガラス基板、ハードディスク用ガラス基板、アルミ基板等の高精度な平坦性が要求される被研磨物では、研磨パッドを用いた研磨加工が行われている。このような高度な平坦性が要求される被研磨物の研磨加工では、一般的に平坦度の調整を主目的とする粗研磨を行った後に、表面粗さを改善することを主目的とする仕上げ研磨が行われる。
【0003】
これらの研磨加工を行うために用いる研磨パッドとしては、例えば、繊維を絡合して構成した不織布の繊維基材にポリウレタン樹脂を含浸して硬化させたウレタン含浸不織布タイプの研磨パッド(例えば、特許文献1参照)や繊維により構成される不織布や樹脂フィルムからなる基材上にウレタン樹脂溶液を塗布し、これを凝固処理して多数の気泡を有する多孔質の銀面層を形成し、該銀面層の表面を研削して多孔質の研磨層であるナップ層を形成したスエードタイプの研磨パッド(例えば、特許文献2参照)等がこれまで用いられている。被研磨物の表面の研磨を行う際には、例えば、これらの研磨パッドを回転可能な定盤の上に貼り付け、該研磨パッドに研磨ヘッドに保持された被研磨物を押し当てた状態で、研磨パッド上に研磨材である砥粒が分散された研磨スラリーを供給しながら、定盤及び研磨ヘッドを相対的に回転させることにより研磨が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−249737号公報
【特許文献2】特開2010−149259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の研磨加工においては、研磨パッド表面の磨耗等に伴って、研磨パッドを定盤上に貼り換える作業が必要であった。特に大口径の研磨パッドにおいては、この貼り換え作業に多大な時間を要するため、生産効率が低下するという問題があった。また、このような貼り換え作業に伴って、研磨パッドの廃棄処理を行う必要があった。
【0006】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、研磨パッドの貼り換え作業を行うことなく、研磨パッドの表面に紫外線硬化樹脂からなる膜を薄く均一に形成することができる研磨パッド用表面処理剤及び研磨パッド製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の研磨パッド用表面処理剤は、紫外線硬化樹脂を溶剤に分散させた分散液からなることを特徴としている。
【0008】
請求項2に記載の研磨パッド用表面処理剤では、前記紫外線硬化樹脂は、A硬度が70〜100の範囲内であることを特徴としている。
【0009】
請求項3に記載の研磨パッド用表面処理剤では、前記分散液は、20℃における粘度が1000cP以下であることを特徴としている。
【0010】
請求項4に記載の研磨パッド用表面処理剤では、前記紫外線硬化樹脂は、紫外線硬化型エポキシ樹脂を含むものであることを特徴としている。
【0011】
請求項5に記載の研磨パッド用表面処理剤は、前記分散液に固体粒子を混合したことを特徴としている。また、この固体粒子としては、被研磨物の表面への傷を防止するために、研磨加工の際に使用される研磨スラリーに含まれる砥粒よりも硬度が柔らかいものを用いるのが好適であり、例えば、この条件に合う無機物粒子、金属粒子、有機物粒子等を用途に応じて用いる。
【0012】
請求項6に記載の研磨パッド用表面処理剤は、前記分散液に気孔材を混合したことを特徴としている。
【0013】
請求項7に記載の研磨パッド製造装置は、回転自在な定盤に取り付けられた基材上に請求項1乃至6のいずれかに記載の研磨パッド用表面処理剤を均一に塗布するための表面処理剤塗布部と、塗布された前記基材上の研磨パッド用表面処理剤に対して紫外線を均一に照射する紫外線照射部と、を備えることを特徴としている。
【0014】
請求項8に記載の研磨パッド製造装置は、前記表面処理剤塗布部が、前記定盤の回転中心と該定盤の周縁部の一点を結ぶ直線上を移動するものであって、前記周縁部から前記回転中心に向かう際に加速的に移動又は/及び前記回転中心から前記周縁部に向かう際に減速的に移動することによって、研磨パッド用表面処理剤を前記基材上に均一に塗布することを特徴としている。
【0015】
請求項9に記載の研磨パッド製造装置は、前記紫外線照射部は、前記表面処理剤塗布部の移動と共に前記直線上を移動することによって、前記基材上の研磨パッド用表面処理剤に対して紫外線を均一に照射することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の研磨パッド用表面処理剤によれば、従来、研磨加工に用いられている研磨パッドの表面に紫外線硬化樹脂を溶剤に分散させた分散液を容易に塗布することできる。従って、この分散液が塗布された状態で紫外線を照射すれば容易に研磨パッドの表面に樹脂膜を形成することができるので、一度研磨パッドを定盤上に貼り付けておけば、その後は研磨パッドの表面が磨耗したとしても、研磨パッドを貼り換える必要がないため、作業が簡易化される。また、この研磨パッド用表面処理剤が紫外線照射によって硬化する時間は、従来の研磨パッドの貼り換え作業に要する時間よりも短く、特に大口径の研磨パッドの場合にはその作業時間を大幅に短縮することができるので、生産効率を向上させることができる。また、紫外線硬化樹脂を溶剤に分散させた分散液を用いることにより、熱硬化型樹脂を用いた場合と比較してもより早く硬化させ樹脂膜を形成することができるとともに、硬化を早めるために加熱を行う必要もない。
【0017】
また、本発明によれば、A硬度が70〜100の範囲内にある紫外線硬化樹脂を用いている。これにより、研磨パッドの表面に分散液が塗布されることにより、硬度が柔らかい紫外線硬化樹脂の膜が形成されるので、研磨加工の際に研磨材が研磨パッドと被研磨物の間を滑ってしまうことを防止することができる。また、このような硬度が柔らかい紫外線硬化樹脂を用いることにより、研磨加工を行うことによる磨耗を軽減することができる。
【0018】
また、本発明によれば、分散液は、粘度が1000cP(センチポイズ)以下の低粘度であるので、研磨パッドの表面に容易に当該分散液を薄く均一に塗布することができる。これにより、研磨パッド表面の紫外線硬化樹脂からなる膜は薄く均一に形成されるので、レンズ等のように研磨加工において形状精度が大事な要素となる被研磨物に対しても有効に用いることができる。
【0019】
また、本発明によれば、紫外線硬化樹脂には、紫外線硬化型エポキシ樹脂が含まれている。これにより、研磨パッドの表面にはエポキシ樹脂を含んだ膜を形成することができる。従って、この研磨パッドを用いて、研磨加工を行う場合には、研磨パッド上に供給される研磨スラリーに含まれる研磨材(砥粒)がエポキシの官能基による化学的親和力によって一時的に研磨パッドの表面にしっかりと保持されるので、研磨能率及び仕上げ面粗さを向上させることができる。
【0020】
また、本発明によれば、分散液に固体粒子が混合されている。これにより、研磨パッドの表面に固体粒子が含まれる紫外線硬化樹脂からなる膜が形成されるので、研磨加工を行う際に、被研磨物と研磨パッドの表面に隙間が設けられ、研磨スラリーが流入しやすくなり、研磨特性を向上させることができる。また、固体粒子によって研磨パッドの表面に凹凸を形成することができるので、砥粒の滞留性の向上、切りくず等の排出の促進、及び被研磨物との摩擦の低減等を図ることができる。
【0021】
また、本発明によれば、分散液に気孔材が混合されている。そのため、研磨パッドの表面には気孔材が含まれる熱硬化性樹脂からなる膜が形成されるので、水等の気孔材のみを溶出する物質を用いて、この研磨パッドの表面を洗い流すことにより、研磨パッドの表面に複数の気孔を形成することができる。これにより、研磨加工を行う際に用いられる研磨スラリーに含まれる砥粒に対する構造的なグリップ力を得ることができるので、研磨能率を向上させることができる。
【0022】
本発明の研磨パッド製造装置によれば、表面処理剤塗布部から基材上に均一に塗布される研磨パッド用表面処理剤に対して、紫外線照射部から紫外線を均一に照射するので、表面に樹脂膜が形成された研磨パッドを高効率且つ高精度に製造することができる。また、研磨パッドの表面が磨耗した場合でも、再度研磨パッド用表面処理剤を塗布し、紫外線を照射することにより、研磨パッドを再生することができるため、研磨パッドを貼り換える必要がないので、作業を簡易化することができるとともに作業時間も短縮することができる。
【0023】
また、本発明の研磨パッド製造装置によれば、表面処理剤塗布部は、回転する定盤の周縁部から回転中心に向かう際に加速的に移動又は/及び前記回転中心から前記周縁部に向かう際に減速的に移動するので、基材の中心付近の樹脂膜が厚くなったり、逆に基材の周縁部付近の樹脂膜が薄くなったりすることなく、樹脂膜が表面に均一に形成された研磨パッドを簡易な構成で製造することができる。
【0024】
また、本発明の研磨パッド製造装置によれば、紫外線照射部が、前記表面処理剤塗布部の移動と共に前記直線上を移動することにより、基材上に研磨パッド用表面処理剤が塗布された直後に紫外線を均一に照射することができるので、効率良く研磨パッドを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る研磨パッド用表面処理剤が充填された研磨パッド用スプレーを用いて、研磨パッドの表面に紫外線硬化樹脂からなる膜を形成する際の様子を示す概略説明図。
【図2】本発明に係る研磨パッド製造装置の一例を示す概略平面図。
【図3】本発明に係る研磨パッド製造装置の一例を示す概略正面図。
【図4】本発明に係る研磨パッド製造装置の他の一例を示す概略平面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る研磨パッド用表面処理剤の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本発明に係る研磨パッド用表面処理剤は、例えば、研磨パッド用スプレー等として用いるためのものであり、主に従来の研磨パッドや繊維を絡合して構成した不織布の繊維基材、ポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルムやベークライト等からなる基材等の表面に紫外線硬化樹脂(UV樹脂)を溶剤に分散させた分散液を噴霧して塗布することにより、紫外線硬化樹脂からなる膜を形成するためのものである。
【0027】
図1に示すように、研磨パッド用スプレー1は、内容物を噴霧可能な容器2に紫外線硬化樹脂を溶剤に分散させた分散液からなる研磨パッド用表面処理剤3と共に高圧ガスを充填してなるものである。このような研磨パッド用スプレー1を用いて、研磨パッド用表面処理剤3を基材4上に噴霧して塗布し、紫外線照射装置5を用いて、紫外線UVを基材4上に塗布された研磨パッド用表面処理剤3に対して照射することによって、図1に示すように紫外線硬化樹脂からなる樹脂膜6が表面に形成された研磨パッド7を容易に製造することができる。
【0028】
研磨パッド用表面処理剤3が内部に充填される容器2は、例えば、スチールやアルミニウム等の金属製の缶からなるものであり、高圧ガスにより圧力が加わった内部の分散液3を外部へと噴霧するためのノズル8が設けられたキャップ9が先端に備えられている。ノズル8には、内部から外部に通じる細い穴(不図示)が複数形成されており、研磨パッド用表面処理剤3がその穴を通って外部へと勢い良く押し出されることにより、研磨パッド用表面処理剤3が噴霧される。
【0029】
研磨パッド用表面処理剤3は、紫外線硬化樹脂を溶剤に分散させた分散液からなるものであり、この分散液に用いられる紫外線硬化樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、及びエポキシ系樹脂、又はこれらを所定の割合で組み合わせたもの等を用いることができる。また、この紫外線硬化樹脂の硬度としては、A硬度が70〜100の範囲内であるものを使用するのが好適である。このように硬度が柔らかい紫外線硬化樹脂を研磨パッド用スプレー1に用いることにより、図1に示すように、研磨パッド7の表面に形成された樹脂膜6は、研磨加工による磨耗を軽減することができるとともに、研磨加工の際に研磨材が研磨パッド7の表面の樹脂膜6と被研磨物の間を滑ってしまうことを防止することができる。また、研磨材に対する一時的な保持力をより高めるためには、フリーの官能基が多くあるタイプのエポキシ系樹脂を含んだ紫外線硬化樹脂を用いることが好適である。
【0030】
紫外線硬化樹脂を分散させる溶剤としては、例えば、MEK(メチルエチルケトン)やIPA(イソプロピルアルコール)等の溶剤を用いることができるが、特にこれらに限定されるものではなく、従来公知の溶剤を適宜用いても良い。
【0031】
また、紫外線硬化樹脂は低粘度のものを使用し、分散液の20℃における粘度が1000cP(センチポイズ)以下となるように調製する。このように低粘度の分散液を使用すれば、基材4の表面に当該分散液からなる研磨パッド用表面処理剤3を噴霧することにより紫外線硬化樹脂を薄く均一に塗布することが容易になる。従って、研磨パッド7には、表面が薄く均一に形成された樹脂膜6を形成することができるので、レンズ等の研磨加工において形状精度が大事な要素となる被研磨物に対しても有効な研磨パッド7を製造することができる。
【0032】
次に、この研磨パッド用スプレー1を用いて、研磨パッド7の表面に紫外線硬化樹脂からなる樹脂膜6を形成する方法の一例について説明する。
【0033】
図1に示すように、まずユーザは、研磨パッドスプレー1を用いて、研磨パッド用表面処理剤3を基材4の表面上に噴霧して略均一に塗布する。この際の塗布厚は、被研磨物の種類に対応する所望の厚さになるようにすれば良いが、研磨加工を行う際の研磨パッド7の寿命を考慮して、少なくとも10μm以上の厚みを有するように塗布することが好ましい。
【0034】
そして、この基材4上に均一に塗布された研磨パッド用表面処理剤3を硬化させるために、紫外線照射装置5を用いて紫外線UVを照射することにより、基材4上に表面が均一な薄膜状の紫外線硬化樹脂からなる樹脂膜6が形成された研磨パッド7を生成することができる。
【0035】
また、紫外線硬化樹脂としてエポキシ系樹脂を用いた場合には、研磨パッド7の表面にエポキシ樹脂膜6が形成される。これにより、この研磨パッド7を用いて、研磨加工を行う場合には、研磨パッド7上に供給される研磨スラリーに含まれる酸化セリウム、酸化ジルコニウム、コロイダルシリカ等の研磨材(砥粒)がエポキシの官能基による化学的親和力によって一時的に研磨パッド7の表面にしっかりと保持される。従って、研磨材が研磨パッド7と被研磨物との相対的な回転に伴って被研磨物に引きずられて動いてしまうことを抑制することができるので、様々な被研磨物に対して研磨能率を向上させることができる。
【0036】
尚、本実施形態では、紫外線硬化樹脂を溶剤に分散させた分散液からなる研磨パッド用表面処理剤3を用いた例について説明しているが、このような分散液に予め固体粒子を混合させたものを研磨パッド用表面処理剤3として用いることもできる。尚、研磨加工の際に固体粒子によって被研磨物の表面に傷がつくことを防止するために、この固体粒子には、研磨加工の際に使用される研磨スラリーに含まれる砥粒よりも硬度が柔らかいものを用いるのが好適である。固体粒子としては、例えば、砥粒のような無機物粒子、ポリマー微粒子等の有機物粒子、又は金属粒子等を用途に応じて用いることができる。
【0037】
このような固体粒子を分散液に混合させた研磨パッド用表面処理剤3を用いることにより、研磨パッドの表面に固体粒子が含まれる紫外線硬化性樹脂からなる樹脂膜が形成されるので、研磨加工を行う際に、被研磨物と研磨パッドの表面に隙間が設けられ、研磨スラリーが流入しやすくなり、研磨特性を向上させることができる。また、固体粒子によって研磨パッドの表面に凹凸を形成することができるので、砥粒の滞留性の向上、切りくず等の排出の促進、及び被研磨物との摩擦の低減等を図ることができる。また、固体粒子として金属酸化物粒子のような無機物粒子を用いた場合には、更に酸化作用や切りくずの吸着等の効果を図ることができる。また、固体粒子としてポリマー微粒子を用いた場合には、潤滑性を向上させることができる。また、固体粒子として金属粒子を用いた場合には、触媒作用及び還元作用を図ることができる。以上のように、分散液に混合させる固体粒子の種類によって、砥粒の滞留性の向上、切りくず等の排出の促進、及び被研磨物との摩擦の低減等以外に、固体粒子の材質に基づく効果も付加させることができるので、研磨加工時の要求に応じて、これらの固体粒子を選択することが好ましい。
【0038】
また、その他に、プラスティック等の繊維を分散液に混合させたものを研磨パッド用表面処理剤3として用いることもできる。このような繊維を分散液に混合させた研磨パッド用表面処理剤3を用いることにより、研磨パッドの表面に繊維が含まれる紫外線硬化性樹脂からなる樹脂膜が形成され、この繊維によって研磨パッドの表面に凹凸が形成されるので、上記の固体粒子を混合させた場合と同様に砥粒の滞留性の向上、切りくず等の排出の促進、及び被研磨物との摩擦の低減等の効果を図ることができる。
【0039】
また、デンプン、食塩、砂糖等の所謂気孔材を分散液に混合させたものを研磨パッド用表面処理剤3として用いても良い。このような気孔材を混合させた研磨パッド用表面処理剤3を用いた場合には、研磨パッドの表面には気孔材が含まれる紫外線硬化性樹脂からなる樹脂膜が形成されることになる。従って、水等の気孔材のみを溶出する物質を用いて、この研磨パッドの表面を洗い流すことにより、研磨パッドの表面には複数の気孔が形成されるので、研磨加工を行う際に用いられる研磨スラリーに含まれる砥粒に対する構造的なグリップ力を得ることができる。
【0040】
また、本実施形態に係る研磨パッド用スプレー1では、研磨パッド用表面処理剤3と共に高圧ガスを噴霧可能な容器2に充填したものを用いて説明しているが、本発明に係る研磨パッド用スプレー1は、このような形態に限定されるものではなく、例えば、高圧ガスによる圧力を利用する代わりに、電動ポンプによる電動スプレータイプのものや、外部の空気圧を利用したエアスプレータイプのもの等、容器2内に充填された研磨パッド用表面処理剤3を外部へと噴霧可能なものであれば良い。また、容器2も金属製の缶等に限定されるものではなく、プラスティック容器やその他の容器を利用しても良い。
【0041】
次に、このような研磨パッド用表面処理剤3を基材4上に塗布して、研磨パッド7の表面に樹脂膜6を形成するための研磨パッド製造装置10の一例について図2及び図3を参照しつつ説明する。
【0042】
研磨パッド製造装置10は、図2及び図3に示すように、モータ等の駆動手段(不図示)を用いて回転軸11に駆動力を与えることによって回転中心O周りに水平回転する定盤12の表面に取り付けた基材4上に研磨パッド用表面処理剤3を塗布するための表面処理剤塗布部13と、基材4上に塗布された研磨パッド用表面処理剤3に対して紫外線UVを照射する紫外線照射部14とを備えるものである。
【0043】
表面処理材塗布部13は、研磨パッド用表面処理剤3が格納されたタンク等の表面処理剤供給源(不図示)から供給される研磨パッド用表面処理剤3を噴霧して基材4上に塗布するものであり、その先端はノズル状に形成されている。表面処理剤供給源は、例えば、高圧ガス等により圧力を調節することで所定量の研磨パッド用表面処理剤3が供給できるようになっている。また、表面処理剤塗布部13は、図2及び3に示すように、定盤12の回転中心Oと定盤12の周縁部の一点であるPを通る直線L上を移動するように、この直線Lと平行に設けられたレール15上を摺動可能な保持部材16によって保持されている。
【0044】
レール15は、図3に示すように、定盤12に取り付けられた基材4の上方に所定間隔あけた状態で平行になるよう設けられており、その両端は、テーブル17に支持されている。また、保持部材16は、コンピュータ等の制御手段(不図示)によって、レール15上を移動する速度が制御されるようになっており、保持部材16の移動速度を調節することにより、保持部材16に保持されている表面処理剤塗布部13の直線L上の移動速度を調節することができる。
【0045】
紫外線照射部14は、所定強度の紫外線UVを基材4上に塗布された研磨パッド用表面処理剤3に対して照射するためのものであり、ここでは、スポットタイプの紫外線ランプを用いている。この紫外線照射部14も図2及び3に示すように、表面処理剤塗布部13と同様に保持部材16によって保持されている。そのため、保持部材16がレール15上を移動することによって、紫外線照射部14も表面処理剤塗布部13と共に直線L上を移動する。
【0046】
以下、この研磨パッド製造装置10を用いて、表面に樹脂膜6が形成された研磨パッド7を製造する場合の動作の一例について図2及び図3を参照しつつ説明する。まず、研磨パッド製造装置10では、予め表面処理剤塗布部13を初期位置として、例えば、定盤12の周縁部Pに位置するように保持部材16を配置しておく。
【0047】
そして、基材4が定盤12に取り付けられた状態で、定盤12を回転中心O周りに一定の回転速度で水平回転させる。これにより定盤12に取り付けられている基材4も定盤12と共に水平回転する。
【0048】
この状態で、表面処理剤塗布部13及び紫外線照射部14が直線L上を移動するように、保持部材16をレール15に沿って移動させる。この際、制御手段によって、保持部材16が周縁部Pから回転中心Oに近付くにつれて加速的に移動し、回転中心Oを越えて直線L上の他方の周縁部Qに近付くにつれて減速的に移動するよう制御する。また、基材4上に塗布する研磨パッド用表面処理剤3の量に応じて、これらの動作を繰り返し行うようにしても良い。これにより、表面処理剤塗布部13は、円運動の速度が速い周縁部P,Q付近では遅く、円運動の速度が遅い回転中心O付近では速く移動するので、研磨パッド用表面処理剤3を、基材4上に渦巻状に均一に塗布することができる。
【0049】
また、この際、紫外線照射部14も研磨パッド用表面処理剤3と共に直線L上を移動するので、表面処理剤塗布部13によって塗布された基材4上の研磨パッド用表面処理剤3に対して均一の強度で紫外線UVを適切に照射することができる。これにより、基材4上に表面が均一な薄膜状の紫外線硬化樹脂からなる樹脂膜6が形成された研磨パッド7を生成することができる。
【0050】
尚、図2及び図3では、保持部材16が、定盤12の一方の周縁部Pから他方の周縁部Qまで、つまり定盤12のほぼ直径に相当する距離を移動する場合を例に説明したが、回転中心Oで折り返すように構成しても良い。この場合も、定盤12は水平回転しているので、保持部材16の移動速度を調節することにより、基材4上に研磨パッド用表面処理剤3を均一に塗布することができる。また、この場合には、レール15は、必ずしも図2及び図3に示すように、定盤12の直径よりも長く構成しておく必要はなく、少なくとも定盤12の回転中心Oから定盤12の周縁Pまでの距離分の長さを有していれば良く、レール15の両端については、天井部(不図示)等に固定するように構成しても良い。また、上記のように表面処理剤塗布部13及び紫外線照射部14の移動速度をその位置に応じて調節する代わりに、表面処理剤塗布部13の塗布量及び紫外線照射部14の照射強度を調節するようにしても良い。また、表面処理剤塗布部13及び紫外線照射部14の移動速度の制御と合わせて、定盤12の回転速度を制御するようにしても良い。具体的には、表面処理剤塗布部13及び紫外線照射部14が定盤12の回転中心Oに近付くにつれて回転速度を加速するように制御する。これにより、回転中心O付近で研磨パッド用表面処理剤3が基材4上の所定箇所に過剰に塗布されるのを防止することができるのでより精度良く均一に塗布することができる。
【0051】
また、図2及び図3では、1つの保持部材16によって表面処理剤塗布部13と紫外線照射部14がそれぞれ同方向に移動するように構成されているが、表面処理剤塗布部13と紫外線照射部14を別々にレール15上を移動させるように設けても良い。具体的には、例えば、表面処理剤塗布部13を周縁部Pから回転中心Oまで直線移動するように構成し、紫外線照射部14を他方の周縁部Qから回転中心Oまで直線移動するように構成しても良い。この場合も表面処理剤塗布部13と紫外線照射部14の移動速度が、ほぼ同期するように、表面処理剤塗布部13を周縁部Pから回転中心O付近まで加速的に移動させ、紫外線照射部14を周縁部Qから回転中心O付近まで加速的に移動させることにより、表面処理剤塗布部13によって研磨パッド用表面処理剤3が基材4上に渦巻状に均一に塗布されると共に、この基材4上に塗布された研磨パッド用表面処理剤3に対して紫外線UVを適切に照射することができるので、基材4上に表面が均一な薄膜状の紫外線硬化樹脂からなる樹脂膜6が形成された研磨パッド7を生成することができる。尚、この際、定盤12の回転速度を考慮して、紫外線照射部14を表面処理剤塗布部13よりも若干遅らせて移動させるようにしても良い。
【0052】
また、図2及び図3では、表面処理剤塗布部13及び紫外線照射部14を1つずつ用いているが、複数使用するように構成しても良い。具体的には、表面処理剤塗布部13及び紫外線照射部14を保持する保持部材16を定盤12の周縁部Pから回転中心Oまでの直線上を移動するようにレール15上に摺動可能に設けると共に、別途、表面処理剤塗布部13及び紫外線照射部14を保持する保持部材16を定盤12の周縁部Qから回転中心Oまでの直線上を移動するようにレール15上に摺動可能に設けても良い。これにより、これにより、2つの表面処理剤塗布部13によって研磨パッド用表面処理剤3が基材4上に渦巻状に均一に塗布されると共に、この基材4上に塗布された研磨パッド用表面処理剤3に対して紫外線UVをそれぞれの紫外線照射部14から適切に照射することができるので、より効率的に基材4上に表面が均一な薄膜状の紫外線硬化樹脂からなる樹脂膜6が形成された研磨パッド7を生成することができる。また、図2及び図3に示す研磨パッド製造装置10では、1つのレール15を用いた場合を例に説明しているが、レール15と回転中心Oで交差するように別のレールを設けて、当該レールに更に表面処理剤塗布13及び紫外線照射部14を保持する保持部材16を摺動可能に設けるように構成することも可能である。また、研磨パッド製造装置10の表面処理剤塗布部13及び紫外線照射部14を直線移動させるための機構は、図2及び図3に示すような構成に限定されるものではなく、直線移動の速度を制御できるような機構であれば良い。
【0053】
次に、本発明の研磨パッド製造装置の他の一例について図4を参照しつつ説明する。この研磨パッド製造装置10aは、スイングヘッドタイプのものであって、図4に示すように、モータ等の駆動手段(不図示)によって回転軸Rを中心に回転するアーム18の先端に表面処理剤塗布部13と紫外線照射部14を保持する保持部材16を設けたものである。尚、図2及び図3に示す研磨パッド製造装置10と同様の構成等については、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0054】
この研磨パッド製造装置10aでは、図4に示すように、アーム18が回転軸Rを中心に回転することによって先端の保持部材16により保持された表面処理剤塗布部13と紫外線照射部14が、少なくとも基材4の周縁部から中心部まで移動できるようになっている。
【0055】
以下、この研磨パッド製造装置10aを用いて、表面に樹脂膜6が形成された研磨パッド7を製造する場合の動作の一例について図4を参照しつつ説明する。まず、研磨パッド製造装置10aでは、予め表面処理剤塗布部13を初期位置として、例えば、基材4の周縁部に位置するようにアーム18を調整しておく。
【0056】
そして、基材4を一定の回転速度で水平回転させる。この状態で、表面処理剤塗布部13及び紫外線照射部14を基材4の周縁部から中心部まで移動させる。この際、アーム18の回転速度を制御することにより、表面処理剤塗布部13及び紫外線照射部14が基材4の周縁部から中心部に近付くにつれて加速的に移動するようにする。また、逆に基材4中心部から周縁部に表面処理剤塗布部13及び紫外線照射部14が移動する際は、減速的に移動するよう制御する。これにより、表面処理剤塗布部13は、円運動の速度が速い基材4の周縁部付近では遅く、円運動の速度が遅い基材4の中心部付近では速く移動するので、研磨パッド用表面処理剤3を、基材4上に渦巻状に均一に塗布することができる。また、研磨パッド製造装置10aでは、少なくとも基材4の周縁部から中心部までの長さのアーム18を用いれば良いので、省スペース化を図ることができる。
【0057】
尚、図4に示す研磨パッド製造装置10aでは、アーム18の先端に設けられた表面処理剤塗布部13と紫外線照射部14が、基材4の周縁部から中心部まで移動する構成を示しているが、中心部を通過したもう一方側の周縁部まで移動するように構成しても良い。また、研磨パッド製造装置10aは、表面処理剤塗布部13と紫外線照射部14がアーム18の先端で1つの保持部材16により保持された構成であるが、アーム18を2つ設けて、それぞれのアーム18の先端に表面処理剤塗布部13と紫外線照射部14を別々に分離させて設けるようにしても良い。この場合には、例えば、表面処理剤塗布部13を基材4の一方の周縁部から中心部まで移動するように構成し、紫外線照射部14を基材4の他方の周縁部から中心部まで移動するように構成しても良い。
【0058】
以上のように、本発明の研磨パッド製造装置10、10aでは、研磨装置の定盤に研磨パッドを貼り付けたままの状態で、磨耗した研磨パッドの表面に樹脂膜6を容易に形成することができるので、従来のように研磨パッドの貼り換え作業を行う必要がない。そのため、特に大口径の研磨パッドを使用するような場合には大幅に作業時間を短縮することができるので、生産効率を向上させることができる。また、紫外線照射部14もスポットタイプの紫外線ランプに限定されるものではなく、その他、ライン型の紫外線照射装置等の従来公知の紫外線を照射するための機構を用いても良い。
【0059】
また、本発明に係る研磨パッド用スプレー1又は研磨パッド製造装置10、10aにより研磨パッド用表面処理剤3が表面に塗布される研磨パッドや基材は、特に限定されるものではなく、被研磨物の種類に応じて、従来から使用されているものを用いることができる。
【0060】
尚、本発明の実施の形態は上述の形態に限るものではなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係る研磨パッド用表面処理剤及び研磨パッド用スプレーは、研磨パッドの表面に紫外線硬化樹脂からなる樹脂膜を容易に形成するための表面処理剤及びスプレーとして有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 研磨パッド用スプレー
2 容器
3 研磨パッド用表面処理剤
4 基材
6 樹脂膜
7 研磨パッド
10、10a 研磨パッド製造装置
12 定盤
13 表面処理剤塗布部
14 紫外線照射部
UV 紫外線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線硬化樹脂を溶剤に分散させた分散液からなることを特徴とする研磨パッド用表面処理剤。
【請求項2】
前記紫外線硬化樹脂は、A硬度70〜100の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド用表面処理剤。
【請求項3】
前記分散液は、20℃における粘度が1000cP以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の研磨パッド用表面処理剤。
【請求項4】
前記紫外線硬化樹脂は、紫外線硬化型エポキシ樹脂を含むものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の研磨パッド用表面処理剤。
【請求項5】
前記分散液に固体粒子を混合したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の研磨パッド用表面処理剤。
【請求項6】
前記分散液に気孔材を混合したことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の研磨パッド用表面処理剤。
【請求項7】
回転自在な定盤に取り付けられた基材上に請求項1乃至6のいずれかに記載の研磨パッド用表面処理剤を均一に塗布するための表面処理剤塗布部と、
塗布された前記基材上の研磨パッド用表面処理剤に対して紫外線を均一に照射する紫外線照射部と、を備えることを特徴とする研磨パッド製造装置。
【請求項8】
前記表面処理剤塗布部は、前記定盤の回転中心と該定盤の周縁部の一点を結ぶ直線上を移動するものであって、前記周縁部から前記回転中心に向かう際に加速的に移動又は/及び前記回転中心から前記周縁部に向かう際に減速的に移動することによって、研磨パッド用表面処理剤を前記基材上に均一に塗布することを特徴とする請求項7に記載の研磨パッド製造装置。
【請求項9】
前記紫外線照射部は、前記表面処理剤塗布部の移動と共に前記直線上を移動することによって、前記基材上の研磨パッド用表面処理剤に対して紫外線を均一に照射することを特徴とする請求項8に記載の研磨パッド製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−18079(P2013−18079A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153016(P2011−153016)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(508364554)株式会社ツールバンク (7)
【Fターム(参考)】