説明

研磨パッド

【課題】長期間安定した研磨加工を行うことができる研磨パッドを提供する。
【解決手段】研磨パッド10では、湿式成膜法により複数の発泡3と多数の微細孔6とが連続状に形成された発泡構造を有するポリウレタン樹脂製の発泡シート2を備えている。多数の微細孔6の大きさは、発泡3の大きさより小さく形成されている。発泡シート2に形成された発泡構造において、多数の微細孔6内に耐性樹脂5が、微細孔6の容積に対する耐性樹脂5の体積の割合が30%以上となるように存在している。耐性樹脂5は、樹脂エマルションを発泡シート2に含浸させることで形成されたものである。耐性樹脂5により発泡シート2の発泡構造が補強され、微細孔6の表面が保護される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨加工に用いられ、湿式成膜法により複数の発泡と、複数の発泡間に該複数の発泡の平均径より小さい平均径の多数の微細孔とが連続状に形成された発泡構造を有する発泡シートを備えた研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズ、平行平面板、反射ミラー等の光学材料、ハードディスク用アルミニウム基板、半導体デバイス用シリコンウエハ、液晶ディスプレイ用マザーガラス等、高精度に平坦性が要求される材料(被研磨物)では、研磨パッドを使用した研磨加工が行われている。例えば、被研磨物の両面を同時に研磨加工するときは、両面研磨機の対向する定盤にそれぞれ研磨パッドが装着される。また、被研磨物の片面を研磨加工するときは、片面研磨機の対向する定盤の一方に研磨パッドが装着され、他方に被研磨物が保持される。このような被研磨物の精密研磨加工では、平坦性の向上を図るために一度研磨加工(一次研磨)した後に仕上げ加工(二次研磨)が広く行われている。研磨加工時には、被研磨物および研磨パッド間に研磨砥粒を含む研磨液(スラリ)が供給される。スラリは酸性やアルカリ性の性質を有しているものが多く存在し、研磨砥粒による機械的な作用に加え、スラリの液性による化学的な作用を利用して研磨加工が行われている。
【0003】
一般に、研磨パッドは、湿式成膜法で形成されたポリウレタン樹脂製の発泡シートが使用されている。湿式成膜法では、ポリウレタン樹脂を水混和性の有機溶媒に溶解させた樹脂溶液をシート状の成膜基材に塗布後、水系凝固液中に浸漬することで樹脂がシート状に凝固再生される。得られた発泡シートでは、被研磨物と接触する面側に緻密なスキン層を有し、スキン層より内側に厚さ方向に縦長の複数の発泡と、発泡より大きさの小さい多数の微細孔とが連続状に形成された発泡構造を有している。このような発泡構造を有する発泡シートを備えた研磨パッドは、スキン層を有しており、仕上げ研磨に適している。
【0004】
一方、発泡シートのスキン層側にバフ処理等の研削処理を施し、表面(研磨面)に開口を形成させることがある。研磨面に開口が形成された発泡シートを研磨パッドに使用した場合、開口した発泡の近傍が可撓性を有しており、研磨加工中に被研磨物に対して柔軟に接触することができる。このため、この研磨パッドは、主に一次研磨に広く用いられている。また、研磨面に開口が形成された研磨パッドでは、研磨加工時にかかる押圧力により発泡が伸縮するため、スラリが発泡内に保持されつつ、流出入することで安定した研磨レートで被研磨物が研磨加工される。研磨中に生じたスラッジ(研磨屑)等の異物は発泡内に貯留されるため、被研磨物の加工面におけるスクラッチ等の発生が抑制される。
【0005】
ところが、研磨面に開口が形成された研磨パッドでは、研磨加工中に酸性やアルカリ性の性質を有するスラリが発泡や微細孔内に入り込むことから、スラリの化学的な作用により発泡シートの樹脂部分が、発泡や微細孔内から浸食されてしまい、発泡シートの劣化が急速に進行してしまう。発泡シートの劣化が進行すると、研磨加工で発泡シートと被研磨物とが摺動することで、発泡シートに繰り返しかかる剪断応力により、発泡シートの微細孔が形成されている樹脂部分がちぎれやすく、発泡構造が破壊され元に戻らなくなる、いわゆる「凝集破壊」が発生しやすくなる。凝集破壊が発生すると、研磨性能が損なわれ、安定した研磨加工を行うことができなくなる。スラリの液性による発泡シートの劣化を抑制するために、耐アルカリ性を備えた研磨材用ポリウレタン樹脂が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−220151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、耐アルカリ性を備えているものの、ポリウレタン樹脂の基本的な分子構造は、従来のものとほぼ変わりがないため、ポリウレタン樹脂の耐アルカリ性の大幅な改善を期待することができない。スラリの液性による発泡シートの劣化抑制、すなわち、酸性やアルカリ性のスラリに対しても発泡構造を維持することができれば、安定した研磨加工の継続が期待できる。
【0008】
本発明は上記事案に鑑み、長期間安定した研磨加工を行うことができる研磨パッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、研磨加工に用いられ、湿式成膜法により複数の発泡と、前記複数の発泡間に該複数の発泡の平均径より小さい平均径の多数の微細孔とが連続状に形成された発泡構造を有する発泡シートを備えた研磨パッドにおいて、前記発泡シートは、ポリウレタン系の第1の樹脂で形成されており、前記多数の微細孔内に、前記第1の樹脂より耐酸性ないし耐アルカリ性の高い第2の樹脂が前記微細孔の容積に対する前記第2の樹脂の存在する体積の割合が30%以上となるように含有されたことを特徴とする。
【0010】
本発明では、発泡シートの微細孔内にポリウレタン系の第1の樹脂より耐酸性ないし耐アルカリ性の高い第2の樹脂が、微細孔の容積に対する第2の樹脂の存在する体積の割合が30%以上となるように含有されたことで、微細孔の表面が第2の樹脂で保護されるため、研磨加工時に供給され酸性またはアルカリ性を有するスラリの化学的作用による発泡シートの劣化が抑制されると共に、発泡構造が第2の樹脂により補強されるため、研磨加工時に発泡シートに剪断応力がかかっても、長期間安定した研磨加工を行うことができる。
【0011】
この場合において、第2の樹脂は、多数の微細孔の表面に被膜を形成すると共に、微細孔内に存在する体積の割合が微細孔の体積に対して70%以上となるように含有されることが好ましい。第2の樹脂を発泡構造を有する発泡シートに樹脂エマルションを含浸させることで形成することができる。樹脂エマルションの分散相の径を1μm以下とすることが好ましい。樹脂エマルションをシリコーンゴム、フッ素ゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、から選択される少なくとも1種で形成することができる。発泡シートでは液温が40℃でpH14の水酸化ナトリウム水溶液に8時間浸漬した前後における引張強度保持率が80%以上であることが好ましい。発泡シートでは液温が40℃でpH1の塩酸水溶液に24時間浸漬した前後における引張強度保持率が80%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発泡シートの微細孔内にポリウレタン系の第1の樹脂より耐酸性ないし耐アルカリ性の高い第2の樹脂が、微細孔の容積に対する第2の樹脂の存在する体積の割合が30%以上となるように含有されたことで、微細孔の表面が第2の樹脂で保護されるため、研磨加工時に供給され酸性またはアルカリ性を有するスラリの化学的作用による発泡シートの劣化が抑制されると共に、発泡構造が第2の樹脂により補強されるため、研磨加工時に発泡シートに剪断応力がかかっても、長期間安定した研磨加工を行うことができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用した実施形態の研磨パッドを模式的に示す断面図である。
【図2】実施形態の研磨パッドの製造工程の概略を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を適用した研磨パッドの実施の形態について説明する。
【0015】
(構成)
図1に示すように、本実施形態の研磨パッド10は、湿式成膜法によりポリウレタン系の第1の樹脂で形成された発泡シート2を備えている。ポリウレタン系の第1の樹脂は、主鎖中にウレタン結合をもつ樹脂であり、本例では、ポリウレタン樹脂が用いられている。発泡シート2は、研磨面Pを有している。
【0016】
発泡シート2は、湿式成膜時に形成されたスキン層側に、厚みが一様となるようにバフ処理が施されている。発泡シート2には、厚み方向(図1の縦方向)に沿って丸みを帯びた断面縦長三角状の複数の発泡3が略均等に分散した状態で形成されている。発泡3は、研磨面P側の孔径が研磨面Pと反対の面側より小さく形成されている。すなわち、発泡3は研磨面P側で縮径されている。複数の発泡3には、発泡シート2の厚さ全体に亘り縦長の発泡3や、発泡シート2の厚さに満たない長さの発泡3がある。発泡シート2では、バフ処理によりスキン層が除去されたことで、発泡3が開口し、研磨面Pに開口4が形成されている。発泡3の間のポリウレタン樹脂中には、平均孔径が発泡3より小さい多数の微細孔6が形成されている。電子顕微鏡写真で観察した発泡シート2の断面画像を二値化処理することで計測した微細孔6の円相当径は、15μm以下に設定されている。発泡3および微細孔6は、連通孔で網目状に連通されている。すなわち、発泡シート2は連続状の発泡構造を有している。発泡シート2の連続状の発泡構造において、多数の微細孔6のうち少なくとも一部の微細孔6の表面に、第2の樹脂としての耐性樹脂5が連続状の被膜を形成するように存在している。すなわち、耐性樹脂5の相が形成されている。
【0017】
ここで、耐性樹脂5について説明する。耐性樹脂5の相は、連通孔を通して微細孔6の表面がほぼコーティングされた状態(被膜の状態)で連続状に形成されている。微細孔6では、1つの微細孔6内の大部分に耐性樹脂5の相が形成されている微細孔6と、耐性樹脂5の相が殆ど形成されていない微細孔6と形成されている。すなわち、個々の微細孔6に存在する耐性樹脂5の量は、耐性樹脂5の被膜の厚さによって異なる。耐性樹脂5の相の形成前の多数の微細孔6に対する耐性樹脂5の充填率は、30%以上に設定されている。耐性樹脂5の充填率は、耐性樹脂5の相の形成前の多数の微細孔6の空隙部分の体積に対する、耐性樹脂5の体積が占める割合を百分率で表したものである。
【0018】
耐性樹脂5の充填率の算出方法について説明する。まず、耐性樹脂5の相の形成前に、発泡シートの断面写真を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影し、二値化処理した画像から、微細孔6の孔径を円相当径として、発泡シート1mのうち5点を測定し、この平均の値をAとすると、補強樹脂5の形成前の微細孔6の空隙部分の体積(微細孔6の容積)はπA/6で表される。同様にして耐性樹脂5の相を形成後に、多数の微細孔6の空隙部分(耐性樹脂5の相が形成されていない部分)の孔径を円相当径として測定し、この平均の値をBとすると、補強樹脂5の形成後の微細孔6の空隙部分の容積はπB/6で表される。耐性樹脂5の存在する体積を、耐性樹脂5の相の形成前と形成後との微細孔6の空隙部分の容積の差、すなわち、π(A−B)/6とすると、耐性樹脂5の充填率は(A−B)/A×100の式で算出される。
【0019】
耐性樹脂5は、発泡シート2を形成するポリウレタン樹脂と比べて耐酸性ないし耐アルカリ性の高い樹脂で形成される。耐酸性としては、耐性樹脂5の相が形成された発泡シート2を液温が40℃でpH1の塩酸水溶液に24時間浸漬した後の引張強度をA1とし、当該塩酸水溶液に浸漬する前の引張強度をB1としたときに、A1/B1×100で表される引張強度保持率が80%以上を示す。一方、耐アルカリ性としては、液温が40℃でpH14の水酸化ナトリウム水溶液に8時間浸漬した後の引張強度をA2とし、当該水酸化ナトリウム水溶液に浸漬する前の引張強度をB2としたときに、A2/B2×100で表される引張強度保持率が80%以上を示す。このような樹脂としては、ゴム材を挙げることができ、具体的には、シリコーンゴム、フッ素ゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、から選択される少なくとも1種が使用されている。本例では、耐性樹脂5として、耐酸性および耐アルカリ性の両性質共にポリウレタン樹脂より高いクロロプレンゴムが用いられている。耐酸性ないし耐アルカリ性に優れた耐性樹脂5が微細孔6内に存在することで、耐性樹脂5が発泡シート2を保護する機能を果たすこととなる。
【0020】
耐性樹脂5は、クロロプレンゴムのエマルション(樹脂エマルション)を発泡シート2に含浸させることで形成される。樹脂エマルションの分散相の径は、1μm以下に設定されている。発泡シート2において、研磨面P側に発泡3が開口した開口4が形成され、発泡3および微細孔6が連通孔で連通されて形成された発泡構造を有しているため、発泡シート2に樹脂エマルションを含浸させることで、樹脂エマルションを発泡3や連通孔を通して微細孔6内に浸透させることができる。
【0021】
また、研磨パッド10は、研磨面Pと反対の面側に、研磨機に研磨パッド10を装着するための両面テープ7の一面側が貼り合わされている。両面テープ7は、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)等の基材を有しており、その両表面に粘着剤が塗布されている。両面テープ7の他面側(最下面側)に剥離紙8を有している。
【0022】
(製造)
図2に示すように、研磨パッド10は、ポリウレタン樹脂を溶解させた樹脂溶液を準備する準備工程、樹脂溶液を成膜基材に連続的に塗布する塗布工程、水系凝固液中でポリウレタン樹脂をシート状に凝固再生させる凝固再生工程、凝固再生したポリウレタン樹脂を洗浄し乾燥させる洗浄・乾燥工程、厚みを均一化させるように研削処理を施す研削工程、発泡シート2に樹脂エマルションを含浸させ、乾燥させる含浸・乾燥工程、発泡シート2と両面テープ7とを貼り合わせるラミネート加工工程を経て製造される。以下、工程順に説明する。
【0023】
準備工程では、ポリウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂を溶解可能な水混和性の有機溶媒のN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する。)および添加剤を混合してポリウレタン樹脂を溶解させる。ポリウレタン樹脂には、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系等の樹脂から選択して用い、例えば、ポリウレタン樹脂が30質量%となるようにDMFに溶解させる。添加剤としては、発泡3の大きさや数量(個数)を制御するため、カーボンブラック等の顔料、発泡形成を促進させる親水性活性剤およびポリウレタン樹脂の凝固再生を安定化させる疎水性活性剤等を用いることができる。得られた溶液を減圧下で脱泡してポリウレタン樹脂溶液を得る。
【0024】
塗布工程では、準備工程で調製されたポリウレタン樹脂溶液を常温下でナイフコータ等の塗布装置により帯状の成膜基材に略均一に塗布する。このとき、ナイフコータと成膜基材との間隙を調整することで、ポリウレタン樹脂溶液の塗布厚み(塗布量)を調整する。成膜基材には、可撓性フィルム、不織布、織布等を用いることができる。不織布、織布を用いる場合は、ポリウレタン樹脂溶液の塗布時に成膜基材内部へのポリウレタン樹脂溶液の浸透を抑制するため、予め水またはDMF水溶液(DMFと水との混合液)等に浸漬する前処理(目止め)が行われる。成膜基材としてPET製等の可撓性フィルムを用いる場合は、液体の浸透性を有していないため、前処理が不要となる。以下、本例では、成膜基材をPET製フィルムとして説明する。
【0025】
凝固再生工程では、塗布工程で成膜基材に塗布されたポリウレタン樹脂溶液を、ポリウレタン樹脂に対して貧溶媒である水を主成分とする凝固液(水系凝固液)に案内する。凝固液中では、まず、塗布されたポリウレタン樹脂溶液の表面側に厚さ数μm程度のスキン層が形成される。その後、ポリウレタン樹脂溶液中のDMFと凝固液との置換の進行によりポリウレタン樹脂が成膜基材の片面にシート状に凝固再生する。DMFがポリウレタン樹脂溶液から脱溶媒し、DMFと凝固液とが置換することにより、スキン層の内側(ポリウレタン樹脂中)に発泡3および多数の微細孔6が形成され、発泡3および多数の微細孔6を網目状に連通する連通孔が形成される。このとき、成膜基材のPET製フィルムが水を浸透させないため、ポリウレタン樹脂溶液の表面側(スキン層側)で脱溶媒が生じて成膜基材側が表面側より大きな発泡3が形成される。
【0026】
洗浄・乾燥工程では、凝固再生工程で凝固再生したシート状のポリウレタン樹脂(以下、成膜樹脂という。)を成膜基材から剥離し、水等の洗浄液中で洗浄して成膜樹脂中に残留するDMFを除去する。洗浄後、成膜樹脂をシリンダ乾燥機で乾燥させる。シリンダ乾燥機は内部に熱源を有するシリンダを備えている。成膜樹脂がシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。乾燥後の成膜樹脂は、ロール状に巻き取られる。
【0027】
研削処理工程では、成膜樹脂の表面に形成されたスキン層側にバフ処理等の研削処理を施す。すなわち、圧接治具の略平坦な表面を成膜樹脂のスキン層と反対側の面に圧接し、スキン層側にバフ処理を施す。これにより、一部の発泡3が研磨面Pで開口して開口4が形成され、成膜樹脂の厚みが均一化される。
【0028】
含浸・乾燥工程では、耐酸性および耐アルカリ性を有するクロロプレンゴムを水等の分散媒に分散させた樹脂エマルションをバフ処理後の成膜樹脂に含浸もしくはコーティングする。樹脂エマルションが含浸された成膜樹脂では、発泡3や連通孔を通して樹脂エマルションが微細孔6内に入り込む。すなわち、成膜樹脂は樹脂エマルションで濡れることとなる。含浸後、成膜樹脂は低荷重下でマングルローラにより余分な樹脂エマルションが絞り落とされる。微細孔6内に残る樹脂エマルションの量は、微細孔6の大きさや、微細孔6の発泡3からの距離によっても左右されるが、マングルローラの荷重を調整することで、調整することができる。このとき、微細孔6の大きさは発泡3の大きさより小さいため、成膜樹脂に樹脂エマルションを含浸させると、樹脂エマルションの表面張力が働き、発泡3と比べて、樹脂エマルションが殆どの微細孔6内に多く入り込むこととなる。その後、成膜樹脂をシリンダ乾燥機で乾燥させる。このとき、樹脂エマルションのうち、分散媒の水等が先に蒸発し、分散相のポリウレタン樹脂が後で固化する。同様の操作を2〜5回繰り返し行うことで充填率を調整し、耐性樹脂5で微細孔6の表面がほぼコートされた状態で発泡シート2が形成される。
【0029】
ラミネート加工工程では、得られた発泡シート2の研磨面Pと反対側の面に両面テープ7の一面側を貼り合わせる。両面テープ7の他面側は剥離紙8で覆われている。汚れや異物等の付着がないことを確認する等の検査を行い、研磨パッド10を完成させる。
【0030】
(作用)
次に、本実施形態の研磨パッド10の作用等について説明する。
【0031】
本実施形態では、多くの微細孔6内に耐性樹脂5の相が形成されている。耐性樹脂5では、ポリウレタン樹脂より耐酸性および耐アルカリ性の高いクロロプレンゴムが用いられている。耐性樹脂5を形成するクロロプレンゴムが発泡シート2を形成するポリウレタン樹脂より耐酸性および耐アルカリ性に優れるため、微細孔6の表面が耐性樹脂5で保護され、研磨加工時に供給されるスラリが微細孔6内に入り込んでも、耐性樹脂5によりスラリの化学的な作用による発泡シート2の劣化が抑制される。また、耐性樹脂5は、微細孔6内に存在することで発泡シート2を補強する機能も有している。このため、研磨加工時に剪断応力がかかっても、発泡構造が保たれるので、長期間安定した研磨加工を行うことができる。更に、発泡シート2は、微細孔6の表面が耐性樹脂5で保護されることで、スラリの化学的作用による劣化が抑制されるため、スラリの液性が発泡構造に与える影響を低減することができる。この結果、被研磨物に合わせて、適したpHの液性を有するスラリを使用することができ、研磨効率を向上させることができる。例えば、スラリには、水酸化ナトリウム水溶液や塩酸水溶液以外にもアンモニア水溶液や有機酸水溶液等も使用することが可能である。
【0032】
また、本実施形態では、発泡シート2に形成された多くの微細孔6内に耐性樹脂5の相が形成されている。このため、微細孔6が耐性樹脂5で閉塞されると、研磨加工中にスラリ中に含まれる研磨粒子やスラッジ等が微細孔6内に蓄積されにくくなる。この結果、研磨面Pの部分的な硬度の上昇が抑制されるので、被研磨物へのスクラッチが低減すると共に、研磨面Pの硬度のムラが低減するので、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0033】
更に、本実施形態では、耐性樹脂5の形成前の多数の微細孔6に対する耐性樹脂5の充填率が30%以上に設定されている。耐性樹脂5の充填率が30%を下回る場合、スラリが微細孔6の表面に接触する割合が多くなり、耐性樹脂5の保護機能が不十分となるため、スラリによる発泡シート2の劣化を抑制する効果が得られなくなる。また、耐性樹脂5の量が不十分となるため、微細孔6へのスラッジ等の蓄積を抑制できるほど微細孔6が十分に耐性樹脂5で閉塞されない上に、耐性樹脂5で微細孔6の空隙が小さくなることで却って、スラッジ等の除去性が悪化し、スクラッチが発生しやすくなる。
【0034】
また更に、本実施形態では、耐性樹脂5が樹脂エマルションの含浸により形成されている。また、樹脂エマルションの分散相の径が1μm以下に設定されている。このため、樹脂エマルションが発泡3や連通孔を通して微細孔6まで浸透することで、耐性樹脂5を微細孔6内に連続状に形成することができる。また、本実施形態では、研削処理により複数の発泡3が開口している。このため、含浸・乾燥工程において、発泡3や連通孔を通して微細孔6内に樹脂エマルションを容易に浸透させることができる。
【0035】
なお、本実施形態では、耐性樹脂5の相が微細孔6内に形成されている例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発泡3の表面の少なくとも一部にも形成されていてもよい。このことは、研磨面P側における発泡3の開口の大きさを調整すること、すなわち、研削処理工程でのバフ量の調整や、含浸・乾燥工程でのマングルローラの荷重調整により実現することができる。このようにすれば、耐性樹脂5が、発泡構造を補強する機能をより向上させることができる。また、本実施形態では、耐性樹脂5の相の形成前の多数の微細孔6に対する耐性樹脂5の充填率が30%以上に設定されている例を示したが、発泡構造をより補強させることを考慮すれば、耐性樹脂5の充填率を70%以上とすることがより好ましい。
【0036】
また、本実施形態では、耐性樹脂5、すなわち、樹脂エマルションに用いる樹脂として耐酸性および耐アルカリ性の両性質がポリウレタン樹脂より高いクロロプレンゴムを例示したが、本発明はこれに限定されるものでない。発泡シート2を形成するポリウレタン樹脂と比べて、耐酸性ないし耐アルカリ性が高い材料、換言すれば、耐酸性および耐アルカリ性のうち少なくとも一方が高い材料であれば、いかなる材料も使用することができる。このような材料としては、例えば、フッ素ゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴムから選択される少なくとも1種を挙げることができる。耐性樹脂5として、ポリウレタン樹脂と比べて耐酸性のみが高い材料を用いた場合、スラリに酸性のものを使用することができる。反対に、ポリウレタン樹脂と比べて耐アルカリ性のみが高い材料を用いた場合、スラリにアルカリ性のものを使用することができる。
【0037】
更に、本実施形態では、樹脂エマルションの分散媒として水等を用いる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発泡シート2に用いるポリウレタン系の樹脂を溶解しなければ、水以外の液体を使用してもよい。例えば、分散媒としてアルコール等を含ませた液体を使用してもよい。また、本実施形態では、耐性樹脂5の形成に樹脂エマルションを用いる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、樹脂エマルション以外に樹脂溶液を用いてもよい。この場合、樹脂溶液に使用する溶媒を、耐性樹脂5に用いる樹脂を溶解可能で、発泡シート2に用いるポリウレタン系の樹脂を溶解しないものとすることが好ましい。また、本実施形態では、樹脂エマルションの分散相の径を1μm以下とする例を示したが、本発明はこれに制限されるものではない、微細孔6内に樹脂エマルション(分散相)を十分に、かつ、偏在することなく浸透させることを考慮すれば、分散相の径を1μm以下とすることが好ましい。
【0038】
また更に、本実施形態では、発泡シート2にポリウレタン樹脂を用いる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、ポリウレタン系であれば、他の樹脂を使用してもよい。例えば、ポリウレタン系グラフト共重合体やポリウレタン系ブロック共重合体等を使用してもよい。
【0039】
また更に、本実施形態では、発泡シート2の作製時に、ポリウレタン樹脂を凝固再生させた後、成膜基材を剥離して、両面テープ7を貼り合わせる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ポリウレタン樹脂を凝固再生させた後、成膜基材を剥離せず、両面テープ7を貼り合わせてもよい。また、成膜樹脂と成膜基材とが剥離しにくいように、予め接着性のよい樹脂を塗布した成膜基材上にポリウレタン樹脂を凝固再生させて、成膜基材をそのまま残してもよい。また、成膜基材に不織布を用いた場合は、成膜樹脂から剥離することが難しいため、成膜基材を剥離せずそのまま乾燥させてもよい。更に、両面テープ7としては、基材の両面に粘着剤が塗布されていてもよく、基材を有することなく粘着剤のみで構成されてもよい。
【0040】
更にまた、本実施形態では、研削処理工程で発泡シート2の研磨面P側の面にバフ処理を施す例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、スライス機等によりスキン層を除去可能な方法を用いてもよい。また、研磨用途に応じて、発泡シート2の研磨面P側に研削処理を施さずに、研磨面Pの反対側の面に研削処理を施し、スキン層を残してもよい。この場合、研磨パッド10は、スキン層が被研磨物の微少うねりを低減させる役割を果たすため、仕上げ加工等に適している。
【実施例】
【0041】
以下、本実施形態に従い製造した発泡シート2の実施例について説明する。なお、比較のために製造した比較例の発泡シートについても併記する。
【0042】
(実施例1)
実施例1では、発泡シート2の作製にポリウレタン樹脂として、ポリエステルMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)ポリウレタン樹脂を用いた。このポリウレタン樹脂を溶解させた30質量%の溶液100部に対して、溶媒のDMFの45部、顔料としてカーボンブラックの30質量%を含むDMF分散液の40部を添加し混合してポリウレタン樹脂溶液を調製した。得られたポリウレタン樹脂溶液を成膜基材に塗布後、凝固液中で凝固再生させた。凝固再生後のポリウレタン樹脂から成膜基材を剥離し、洗浄・乾燥後、厚さが一様となるようにスキン層側に研削処理を施した。クロロプレンゴム(電気化学工業株式会社製、LM−50)を水等に分散させた樹脂エマルションを研削処理後のポリウレタン樹脂に含浸・乾燥させる操作を3回繰り返し行い、耐性樹脂5の相が形成された実施例1の発泡シート2を得た。このとき、耐性樹脂5の充填率が30%であった。
【0043】
(実施例2)
実施例2では、含浸・乾燥工程での繰り返し回数を増やし耐性樹脂5の充填率を70%とすること以外は実施例1と同様にして実施例2の発泡シート2を作製した。
【0044】
(比較例1)
比較例1では、研削処理後のポリウレタン樹脂に耐性樹脂5の相を形成しないこと以外は実施例1と同様にして比較例1の発泡シートを作製した。すなわち、比較例1の発泡シートは、従来の発泡シートである。
【0045】
(比較例2)
比較例2では、含浸・乾燥工程での繰り返し回数を減らし耐性樹脂5の充填率を15%とすること以外は実施例1と同様にして比較例2の発泡シートを作製した。
【0046】
(評価1)
各実施例及び比較例の発泡シートについて、それぞれ引張強度を測定した。測定では、引張万能試験機(エイ・アンド・デイ社製、RTC−1210A)を使用した。測定方法は日本工業規格(JIS K6550)に準じた方法で測定した。その後、実施例及び比較例の発泡シートを液温が40℃でpH14の水酸化ナトリウム水溶液に8時間浸漬した。浸漬後、それぞれの発泡シートについて、再度、引張強度を測定した。水酸化ナトリウム水溶液に浸漬前後における引張強度保持率を算出した。引張強度の測定結果および引張強度保持率を下表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示すように、引張強度保持率において、耐性樹脂5が形成されていない比較例1では65%、耐性樹脂5の充填率が15%の比較例2では68%を示した。これらに対して、耐性樹脂5の充填率が30%の実施例1では85%、耐性樹脂5の充填率が70%の実施例2では92%を示した。すなわち、比較例1では最も低い値を示し、比較例2では比較例1より高い値を示したものの、実施例1、2より低い値を示した。これは、比較例1では耐性樹脂5が形成されておらず、比較例2では耐性樹脂5で微細孔6表面が十分に被覆されないため、いずれも微細孔6表面の水酸化ナトリウム水溶液と接触する割合が実施例1、2より大きく、発泡シートの劣化、すなわち、加水分解の進行を抑制することができないためと考えられる。これらに対して、実施例1、2では、比較例1、2より高い値を示し、いずれも80%以上であった。これは、実施例1、2では、微細孔6の表面が耐性樹脂5で保護されたことで、発泡シート2の劣化が抑制されたためと考えられる。これにより、実施例1、2は耐アルカリ性に優れており、研磨加工時に発泡シートに剪断応力がかかっても、長期間安定した研磨加工を行うことが期待できる。
【0049】
(評価2)
各実施例及び比較例の発泡シートについて、それぞれ引張強度を測定した。測定では、引張万能試験機(エイ・アンド・デイ社製、RTC−1210A)を使用した。測定方法は日本工業規格(JIS K6550)に準じた方法で測定した。その後、実施例及び比較例の発泡シートを液温が40℃でpH1の塩酸水溶液に24時間浸漬した。浸漬後、それぞれの発泡シートについて、再度、引張強度を測定した。塩酸水溶液に浸漬前後における引張強度保持率を算出した。引張強度の測定結果および引張強度保持率を下表1に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2に示すように、引張強度保持率において、耐性樹脂5が形成されていない比較例1では70%、耐性樹脂5の充填率が15%の比較例2では73%を示した。これらに対して、耐性樹脂5の充填率が30%の実施例1では85%、耐性樹脂5の充填率が70%の実施例2では88%を示した。すなわち、比較例1では最も低い値を示し、比較例2では比較例1より高い値を示したものの、実施例1、2より低い値を示した。これは、比較例1では耐性樹脂5が形成されておらず、比較例2では耐性樹脂5で微細孔6表面が十分に被覆されないため、いずれも微細孔6表面の塩酸水溶液と接触する割合が実施例1、2より大きく、発泡シートの劣化、すなわち、加水分解の進行を抑制することができないためと考えられる。これらに対して、実施例1、2では、比較例1、2より高い値を示し、いずれも70%以上であった。これは、実施例1、2では、微細孔6の表面が耐性樹脂5で保護されたことで、発泡シート2の劣化が抑制されたためと考えられる。これにより、実施例1、2は耐酸性に優れており、研磨加工時に発泡シートに剪断応力がかかっても、長期間安定した研磨加工を行うことが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、長期間安定した研磨加工を行うことができる研磨パッドを提供するものであるため、研磨パッドの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0053】
2 発泡シート
3 発泡
5 耐性樹脂(第2の樹脂)
6 微細孔
10 研磨パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨加工に用いられ、湿式成膜法により複数の発泡と、前記複数の発泡間に該複数の発泡の平均径より小さい平均径の多数の微細孔とが連続状に形成された発泡構造を有する発泡シートを備えた研磨パッドにおいて、前記発泡シートは、ポリウレタン系の第1の樹脂で形成されており、前記多数の微細孔内に、前記第1の樹脂より耐酸性ないし耐アルカリ性の高い第2の樹脂が前記微細孔の容積に対する前記第2の樹脂の存在する体積の割合が30%以上となるように含有されたことを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記第2の樹脂は、前記多数の微細孔の表面に被膜を形成すると共に、前記微細孔内に存在する体積の割合が前記微細孔の容積に対して70%以上となるように含有されたことを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記第2の樹脂は、前記発泡シートに樹脂エマルションを含浸させることで形成されたものであることを特徴とする請求項2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記樹脂エマルションは、分散相の径が1μm以下であることを特徴とする請求項3に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記樹脂エマルションは、シリコーンゴム、フッ素ゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、から選択される少なくとも1種で形成されていることを特徴とする請求項4に記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記発泡シートは、液温が40℃でpH14の水酸化ナトリウム水溶液に8時間浸漬した前後における引張強度保持率が80%以上であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項7】
前記発泡シートは、液温が40℃でpH1の塩酸水溶液に24時間浸漬した前後における引張強度保持率が80%以上であることを特徴とする請求項1に記載の研磨パッド。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−71367(P2012−71367A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216428(P2010−216428)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【Fターム(参考)】