説明

研磨布用布帛

【課題】本発明の目的は、被研磨物表面の欠点(スクラッチ)発生率を低減させることが可能であり、かつ研磨能率に優れた極細ポリトリメチレンテレフタレートからなる研磨布用布帛を提供することにある。
【解決手段】下記要件を満足する極細繊維を含むことを特徴とする研磨用布帛。
a)主たる繰り返し単位がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステル極細繊維であって、平均単糸繊維径が50〜2000nm、平均単糸繊維径のCV%が0〜25%、強度が1.5〜6.0cN/dtexであること。
b)ポリトリメチレンテレフタレートを島成分とし、熱水可溶性ポリエステルを海成分とする海島型複合繊維の海成分を溶出処理することによって得られる極細繊維であること。
c)熱水可溶性ポリエステルが、5−ナトリウムスルホイソフタル酸をポリエステル全酸成分に対して5〜8モル%、ポリエチレングリコール化合物をポリエステル全重量に対して5〜12%共重合されたポリエステルであること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被研磨物表面の欠点(スクラッチ)発生率を低減させることが可能であり、かつ研磨能率に優れた研磨布用布帛およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種情報機器の進展に伴い、磁気ディスク等の磁気記録媒体やシリコンウエハーは、さらなる記録容量の増大が望まれており、記録容量の増大につながる記録の高密度化を実現するべく、基板表面加工の一層の高精度仕上げが要求されている。例えば、ハードディスク装置に用いられる磁気記録媒体の基板としては、従来の長手磁気記録方式に代えて、現在磁気記録方式は、垂直磁気記録方式に移行しつつあり、基板となるアルミニウム、ガラスなどの表面をより高度に平滑化することが要求されており、そこで用いられる研磨布に対する要求もますます高くなってきている。用いる研磨布の特性に起因し、研磨した際に基板表面に欠点(うねりやスクラッチ傷など)を生じると、情報のリード/ライト時にエラーが発生してしまうおそれがある。
【0003】
このため、被研磨物表面の欠点(スクラッチ)発生率を低減させるため、極細繊維を用いた研磨布用織物が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
しかしながら、かかる研磨布用織物では、被研磨物表面の欠点(スクラッチ)発生率を低減させることが可能ではあるが、研磨能率の点で十分とはいえなかった。
【0004】
一方、極細繊維の素材としては、汎用的にはナイロン6やナイロン66などのポリアミドや、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルが用いられている。しかし、ポリアミドからなる極細繊維は、この素材固有の特性から耐候性が悪く、黄変などの欠点がある他耐酸性が低い欠点があり、他方ポリエチレンテレフタレートからなる極細繊維は、優れた耐候性を有するものの、ナイロン6の様な柔軟性はなく、研磨布用布帛としたとき研磨効率はよいもののスクラッチが発生しやすいという問題があった。
【0005】
かかる問題を解決する為に、ポリトリメチレンテレフタレートからなる極細マルチフィラメント(特許文献3(特許第3199669号公報))を用いることができるが、この方法は、直接製糸による方法であり、得られる繊度に限界があり、生産性や工程性にも問題がある。
【0006】
他方、ポリトリメチレンテレフタレート極細繊維の製造方法として、例えば、特許文献4(特開2006−265786号公報)には海島型繊維から海成分を溶出してなるポリトリメチレンテレフタレート極細糸が開示されている。しかし、この場合も繊度が0.01〜0.5dtexと太く、研磨用布帛として用いるには柔軟性や緻密性の点でスクラッチが発生し不十分であった。
【0007】
また、特許文献5(WO2005/095686号公報)には、ポリエステル極細繊維を得る方法として海島繊維1フィラメント当たり100島以上の島数を有する海島複合繊維とすることが提案されている。確かに本方法によりポリトリメチレンテレフタレート極細を得ることができるが、研磨布用としては不十分で、島成分の形成が不良で研磨したときスクラッチが発生しやすく、又ポリトリメチレンテレフタレートはポリエチレンテレフタレートに対して配向結晶化し難く強度を確保することは難しいという問題があった。
【0008】
そのため、研磨布用としてポリトリメチレンテレフタレートを島成分とする海島繊維の場合、海成分は溶解性除去性と、得られた極細繊維の強度、および製糸性を全て両立させることが必要でかなり制限されたものを選択する必要があった。
このように、従来の方法ではポリトリメチレンテレフタレートの極細化をさらに進めた場合の工程性や繊維強度の確保についての問題が依然残されており、この点の解決が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−000751号公報
【特許文献2】特開2008−173759号公報
【特許文献3】特許第3199669号公報
【特許文献4】特開2006−265786号公報
【特許文献5】WO2005/095686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、被研磨物表面の欠点(スクラッチ)発生率を低減させることが可能であり、かつ研磨能率に優れた極細ポリトリメチレンテレフタレートからなる研磨布用布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、このような問題を解決するため検討した結果、特定のポリエステルポリマーからなる極細繊維の物性を規定し、それを含む布帛を用いることで達成することを見出した。
【0012】
すなわち、本発明によれば、
主たる繰り返し単位がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステル極細繊維を含む研磨布帛であって、極細繊維の平均単糸繊維径が50〜2000nm、平均単糸繊維径のCV%が0〜25%、強度が1.5〜6.0cN/dtexであることを特徴とする研磨用布帛、により達成される。
【0013】
好ましくは極細繊維がポリトリメチレンテレフタレートを島成分とし、アルカリ可溶性ポリエステルを海成分とする海島型複合繊維の海成分を溶出処理することによって得られる極細繊維である研磨布帛であり、海成分がポリエチレングリコール系化合物と5-ナトリウムスルホイソフタル酸との共重合ポリエステルで、ポリエチレングリコール系化合物がポリエステル全重量に対して6〜10重量%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸がポリエステル全酸成分に対して6〜8モル%共重合されている研磨用布帛、
が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の研磨布用布帛を用いた研磨布は、研磨能率が高く、かつ被研磨物表面の欠点(スクラッチ)発生率を低減させることが可能となる。よって磁気ディスクや光ディスクなど記録媒体のテキスチャリング用研磨布、記録媒体のポリッシング用研磨布、電子部品の仕上げ用研磨布、および電子部品のバフ研磨用研磨布などの微細研磨を必要とする各種研磨布に好適に使用できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の研磨布用布帛について詳述する。
本発明の研磨布用布帛はポリエステル極細繊維を含むことを特徴とする。該極細繊維は主たる繰り返し単位がポリトリメチレンテレフタレートからなる。ポリトリメチレンテレフタレートはポリエチレンテレフタレートに比べて弾性率が低く、被研磨物に対しより均一に力を掛けることが可能であり、研磨能率を向上させることができる。ポリトリメチレンテレフタレートとはテレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3−プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ここでいう、主たる、とは80モル%以上含有していることを指し、本発明の効果を損なわない範囲で、20モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物は、酸成分として、例えばイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマー酸、セバシン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸類、グリコール成分としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。
【0016】
本発明に用いるポリトリメチレンテレフタレートは、公知の方法により重合することができる。極限粘度が0.8〜2.0であることが好ましい。極限粘度が0.8未満の場合、強度など機械的物性が低下するとともに、耐磨耗性が劣るものとなり、2.0を超えると、極細繊維を安定して製造することができない。より好ましい極限粘度は0.9〜1.5である。
【0017】
また、必要に応じて各種の添加剤、例えば、艶消し剤、熱安定剤、難燃剤、帯電防止剤、滑剤、着色顔料、消泡剤などを共重合または混合しても良い。但し、添加剤として使用する無機微粒子の含有率はポリエステル重量対比1.0重量%以下(より好ましくは0.5重量%以下)であることが好ましい。無機微粒子がポリエステル重量対比1.0重量%より多くポリエステル中に含まれていると、研磨布を用いて被研磨物を研磨した際に、被研磨物表面に欠点(スクラッチ)が発生しやすくなるおそれがある。
【0018】
また、本発明の研磨布で用いる極細繊維の平均単糸直径は50〜2000nmであることが必要である。50nm未満では繊維トータルでの強力が低下し、産業資材用ととして使用困難であり、2000nmを超えると十分な柔軟性や極細糸としての性能発現が低下する。好ましい範囲は300〜1500nmである。
【0019】
さらに、本発明の研磨布で用いる極細繊維の平均単糸繊維径のCV%は、0〜25%であることが好ましい。CV%が25%を超えると、直径ばらつきが大きく研磨布としての研磨性能の低下が著しくなり、より好ましくは0〜20%、さらに好ましくは0〜15%である。本発明の極細繊維はCV%が小さく直径のばらつきが少ないことから、ナノレベルで微細単繊維の繊維径のコントロールが可能となり、被研磨物に対して均一に力がかかり、スクラッチの発生を抑制し、研磨能率を向上させることが可能となる。
【0020】
本発明の研磨布で用いる極細繊維の強度は、極細繊維を繊維束として測定した際の引張強度として、1.5〜6.0cN/dtexであることが必要である。引張り強度が1.5cN/dtex未満となると研磨時に繊維が切れて、スクラッチの原因となる。また、6.0cN/dtexを超える繊維は、生産工程上伸度とのバランスを考慮すると好ましくない。より好ましい範囲は1.8〜5.5cN/dtexである。また、その破断時の伸び率は10〜80%、沸水中における収縮率は5〜20%であることが好ましい。
【0021】
該極細繊維の製造方法としては従来公知の方法を挙げることができるが、多島構造の海島複合繊維から海成分を除去して製造する方法が最も好ましい。その際の海成分ポリマーとしては島成分ポリマー(ポリトリメチレンテレフタレート)よりも溶解性が高い組合せである限り、適宜選定できるが、特に溶解速度比(海/島)が200以上であることが好ましい。この溶解速度比が200未満の場合には、繊維断面中央部の海成分を溶解させている間に繊維断面表層部の島成分の一部も溶解されるため、海成分を完全に溶解除去するためには、島成分の何割かも減量されてしまうことになり、島成分の太さ斑や溶剤浸食による強度劣化が発生して、毛羽及びピリングなどを生じ、製品の品位を低下させることがある。
【0022】
海成分ポリマーとしては、例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとして、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングリコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。なかでも、アルカリ易溶解性と海島断面形成性とを両立させるため、ポリエステル系のポリマーとしては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸をポリエステル全酸成分に対し5〜10モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングリコールを5〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。ここで、5−ナトリウムイソフタル酸は、得られる共重合体の親水性と溶融粘度の向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は得られる共重合体の親水性を向上させる。
【0023】
これらの共重合量の規定は本発明の研磨布用ポリトリメチレンテレフタレート極細繊維を得る為には重要であり、5−ナトリウムイソフタル酸は5〜8モル%未満、好ましくは6〜8モル%であることが必要である。8モル%を超える場合は著しく製糸性が低下し、海島繊維の安定生産が困難となり、所定のポリトリメチレンテレフタレート極細繊維の強度を得ることはできず、また、5モル%未満であるとポリトリメチレンテレフタレートとの溶解速度差が十分ではなくなり、海成分のみの溶出が不可能となる。
【0024】
一方、ポリエチレングリコールは海成分全重量に対し5〜12重量%、好ましくは6〜10重量%であることが必要である。ポリエチレングリコールの共重合量が12重量%を超えると、ポリエチレングリコールには本来溶融粘度低下作用、可塑化作用があるので、繊維断面形成性が困難となり、5重量%未満となると製糸工程の安定性、特に延伸性が低下し、強度確保が困難となる他、海成分のみの溶出が困難となる。したがって、上記の範囲で、両成分を共重合することが好ましい。
【0025】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる該海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも高いことが好ましい。このような関係がある場合には、海成分の複合質量比率が40%未満のように低くなっても、島同士が互いに接合したり、或は島成分の大部分が互いに接合した海島型とは異なる断面形状のものを形成することがない。好ましい溶融粘度比(海/島)は、1.1〜2.0であり1.3〜1.5の範囲内にあることがより好ましい。この比が1.1倍未満の場合には、工程の安定性溶融紡糸時に島成分が互いに接合しやすくなり、一方それが2.0倍を越える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸工程の安定性が低下しやすい。
【0026】
次に島成分数は、多いほど海成分を溶解除去して極細繊維を製造する場合の生産性が高くなり、研磨能率も向上する為、500以上であることが好ましい。極細繊維の総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、5〜150dtexの範囲内であることが好ましい。なお、島成分数があまりに多くなりすぎると、紡糸口金の製造コストが高くなるだけでなく、紡糸口金の加工精度自体も低下しやすくなるので、島成分数を1000以下とすることが好ましい。
【0027】
さらに、本発明の海島型複合繊維は、その海島複合質量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲内にあることが好ましく、特に30:70〜10:90の範囲内にあることが好ましい。上記範囲内にあれば、島成分間の海成分の厚さを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の極細繊維への転換が容易になる。ここで海成分の割合が40%を越える場合には、海成分の厚さが厚くなりすぎ、一方5%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて、島間に相互接合が発生しやすくなる。
【0028】
海成分、島成分は別々に溶融し、口金内で海島型に複合し、吐出される。その後、冷却風などによって固化させた後、好ましくは400〜6000m/分の速度、より好ましくは1000〜3000m/分で未延伸繊維として引き取る。紡糸速度は低い方が得られる繊維強度が高くなり好ましいが、400m/分以下では生産性が不十分であり、また、6000m/分以上では紡糸安定性が不良になる。
【0029】
得られた未延伸繊維は、一旦巻き取った後、あるいは、巻き取ることなく引き続いて延伸工程を通した後に巻き取る方法のいずれかの方法で延伸される。延伸温度は60〜90℃、好ましくは70℃〜80℃の予熱ローラー上で予熱し、延伸倍率1.1〜6.0倍、好ましくは1.2〜5.0倍で延伸し、糸温度として120〜180℃、好ましくは130〜160℃で熱セットを実施することが好ましい。スリット型ヒーターであれば180〜220℃が好ましく用いられる。予熱温度不足の場合には、目的とする高倍率延伸を達成することができなくなり、セット温度が低すぎると、得られる延伸繊維の収縮率が高すぎるため好ましくない。また、セット温度が高すぎると、得られる延伸繊維の物性が著しく低下するため好ましくない。
【0030】
なお、本発明において、特に微細な島成分径を有する海島型複合繊維を高効率で製造するために、通常のいわゆる配向結晶化を伴うネック延伸(配向結晶化延伸)に先立って、繊維構造は変化させないで繊維径のみを微細化する流動延伸工程を採用することも可能である。具体的には、引き取られた複合繊維を60〜100℃、好ましくは60〜80℃の範囲の温水バスに浸漬して均一加熱を施しながら延伸倍率は10〜30倍、供給速度は1〜10m/分、巻取り速度は300m/分以下、特に10〜300m/分の範囲で予備流動延伸を実施することが好ましい。
【0031】
該極細繊維の繊維形態は特に限定されず、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。また、空気混繊または合撚糸または複合仮撚により他のポリエステルマルチフィラメント糸との複合糸として本発明の研磨布用布帛に含まれていても良い。
該ポリエステルマルチフィラメント糸において、フィラメント数は特に限定されないが、10〜300本(好ましくは30〜150本)の範囲内であることが好ましい。また、かかるポリエステルマルチフィラメント糸の繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0032】
前記ポリエステルマルチフィラメント糸を形成するポリマーは、艶消し剤の含有率がポリエステル重量対比1.0重量%以下(より好ましくは0.5重量%以下、特に好ましくは0重量%)のポリエステルであることが好ましい。艶消し剤がポリエステル重量対比1.0重量%より多くポリエステル中に含まれていると、研磨布を用いて被研磨物を研磨した際に、被研磨物表面に欠点(スクラッチ)が発生しやすくなるおそれがある。また、ポリエステルの種類としては、ポリエステル系ポリマーであれば特に限定されず、極細繊維と同等の種類であっても良い。その他のポリマーとしてはポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、ステレオコンプレックスポリ乳酸、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤が1種または2種以上含まれていてもよいが、無機微粒子の含有率がポリエステル重量対比1.0重量%以下であることが好ましい。
【0033】
本発明の研磨布用布帛は織物、編物いずれの形態でも良いが、織物においては、厚みが0.15〜0.40mm(より好ましくは0.18〜0.30mm)の範囲内であることが肝要である。該厚みが0.40mmよりも大きいと、剛性が高くなりすぎるため好ましくない。逆に、該厚みが0.15mmよりも小さいと、織物引き裂き強力が低くなるため好ましくない。
【0034】
また、該織物において、カバーファクターCFは2500〜4000(より好ましくは2800〜3800)の範囲であることが被研磨物に微細な溝を形成する上で特に好ましい。カバーファクターが2500未満であると、研磨布用織物に研磨剤を付与した際、分散性が不十分となり被研磨物に微細な溝を形成するのが困難となる。逆に、カバーファクターが4000よりも大きいと、剛性が高くなりすぎ被研磨物に微細な溝を形成するのが困難となる。なお、本発明でいうカバーファクターCFは下記の式により表されるものである。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
【0035】
該織物において極細繊維あるいは混繊糸は経糸および緯糸に配されていることが好ましい。混繊糸の場合、前記ポリエステルマルチフィラメント糸の単糸繊度が1.0〜8.0dtexの範囲内であると、織物の引き裂き強力および剛性が向上し好ましい。また、前記の混繊糸において、該極細繊維の糸長Dfと、ポリエステルマルチフィラメント糸の糸長DAとの比Df/DAが1.02以上(好ましくは1.03〜1.1)であると、ポリエステルマルチフィラメント糸が織物外層に位置し、被研磨物に微細な溝を形成する上で好ましい。
【0036】
該織物の組織は特に限定されず、通常の方法で製織されたものでよい。例えば、織組織としては、平織、斜文織、サテン織物等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。なかでも、サテン織物組織を有していると、ポリエステルマルチフィラメント糸が同方向に並びやすくなり、被研磨物に微細な溝を形成する上で効果的であり好ましい。
【0037】
該織物の引き裂き強力が5.0N以上であることが好ましい。また、織物表面にバフ加工が施されていると、織物表面の凹凸が少なくなり、被研磨物に微細な溝を形成する上で効果的であり好ましい。
【0038】
一方、編物とする場合、伸度がタテ方向およびヨコ方向ともに200%以下(好ましくはともに100%以下)である編物であることが好ましい。このように、編物の伸度を低くすることにより、被研磨物表面の欠点(スクラッチ)発生率を低減させることができる。編物の伸度が該範囲よりも大きいと、研磨布を使用する際に布にたわみシワが発生し、被研磨物表面にうねりや研磨不足の箇所が発生し、好ましくない。また、布帛が織物の場合は布帛表面の摩擦係数が小さくなるため、研磨能率が低下し好ましくない。
【0039】
編物の編組織は特に限定されず、例えば、よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、ハーフベース編、サテン編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等などが例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。なかでも、前記のような伸度を得る上で、たて編組織が好ましい。また、層数を2層以上の多層構造とし、多層のうち1層または2層を前記ポリエステルマルチフィラメント糸Aで構成し、他の層を前記ポリエステルマルチフィラメント糸Bを構成することは好ましいことである。
【0040】
また、前記編物において、編密度は特に限定されないが、前記の伸度を得る上で、編物の密度が、30コース/2.54cm以上(より好ましくは30〜140コース/2.54cm)かつ20ウエール/2.54cm以上(より好ましくは20〜110ウエール/2.54cm)であることが好ましい。
【0041】
また、前記編物において、厚みが0.15〜1.0mm(より好ましくは0.17〜0.90mm)の範囲内であることが好ましい。該厚みが0.15mmよりも小さいと、クッション性が低くなり被研磨物表面に欠点(スクラッチ)を発生させやすくなるおそれがある。逆に厚みが1.0mmよりも大きいと作業性が低下するおそれがある。
【0042】
本発明の研磨布用布帛は織物であることが好ましく、以下の製造方法により製造することができる。すなわち、島成分がポリトリメチレンテレフタレートからなり、かつ島成分の径が50〜2000nmである海島型複合繊維を用いて所定のカバーファクターおよび厚みを有する織物を織成した後、アルカリ水溶液処理を施し、前記海島型複合繊維の海成分を公知のアルカリ減量装置を用いてアルカリ水溶液で溶解除去することにより、海島型複合繊維フィラメント糸を単繊維径が50〜2000nmの極細繊維束とする事により得られる。
【0043】
海成分を除去するには、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのようなアルカリ金属化合物水溶液で処理することが好ましく、なかでも水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが特に好ましく用いられる。アルカリ水溶液の濃度、処理温度、処理時間は、使用するアルカリ化合物の種類により異なるが、濃度は10〜300g/L、温度は40℃〜180℃、処理時間は2分〜20時間の範囲で行うが好ましい。
前記アルカリ水溶液による溶解除去の前および/または後に、あるいは、前記熱セットの前および/または後に該布帛に染色加工を施してもよい。また、カレンダー加工(加熱加圧加工)やエンボス加工を施してもよい。さらに、常法の起毛加工、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
かくして得られた研磨布用布帛は研磨布として用いた際に、研磨能率が高いだけでなく、欠点(スクラッチ)の発生を低減することができる。
【実施例】
【0044】
本発明を下記実施例によりさらに説明する。
下記実施例及び比較例において、下記の測定及び評価を行った。
(1)単糸平均繊維径
海成分溶解除去後の微細繊維の30000倍のTEM観察により、繊維径を求めた。ここで繊維径は膠着していない単糸の繊維径を測定した。ランダムに選択した100本の微細繊維の繊維繊維径データにおいて、単糸平均繊維径を算出した。
(2)単糸平均繊維径のばらつきCV%
(1)の単糸平均繊維径を求めるに際し、その標準偏差σを算出し、以下で定義する繊維径変動係数CV%を算出した。
CV%=標準偏差σ/平均繊維径r×100 (%)
(3)強伸度
海島複合繊維から筒編みを作成し、アルカリ溶液にて海成分を溶出して極細繊維束を作成した。この極僕繊維束を20℃、65%RHの雰囲気下で、引張試験機により、試料長20cm、速度20cm/分の条件で破断時の強力、および伸度を測定した。測定数は10とし、強力の平均値を平均繊維径から求めた繊度を用いて算出し、強度(cN/dtex)とした。
(4)研磨効果
テクスチャー加工後のディスク表面の欠点数により研磨効果を判定した。テクスチャー加工試験においてデイスク基板10枚を対象とし、Candela OSA6100光学表面分析計を用いて、スクラッチなどの欠点数を測定し、10枚の測定値の平均値で、300点以下であれば「○」、300点以上であれば「×」とした。
(5)研磨能率
研磨前後の重量減により測定した。0.05μm/min以上であれば合格とする。
【0045】
[実施例1]
島成分として固有粘度0.96(35℃、オルソクロロフェノール中)のポリトリメチレンテレフタレート、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸6モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール8重量%を共重合した固有粘度0.53のポリエチレンテレフタレートを用い、別々に溶融後、複合口金内で合流させ、海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度270℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸し、巻き取った。紡糸は48時間行なったが全く断糸はみられなかった。得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率3.5倍でローラー延伸し、次いで220℃の非接触型ヒーターで熱セットして巻き取り、海島型複合延伸糸を得た。延伸工程においても毛羽や断糸の発生はなく、全ての未延伸糸は問題なく延伸可能であった。得られた海島型複合延伸糸は56dtex/10filであり、筒編みを作成し、90℃、3.5g/lの水酸化ナトリウム溶液中で減量処理したところ、海成分のみが溶出されており、島成分の平均繊維径は710nm、CV%は10%、強度は2.4cN/dtex、伸度は55%であった。
【0046】
次いで、該海島型複合延伸糸と通常のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント(33dtex/12fil、単糸繊度2.8dtex、沸水収縮率35.0%、帝人ファイバー(株)製)とインターレース加工にて混繊糸を得た。該混繊糸を300回/m(S方向)にて撚糸し、経糸および緯糸に全量配し、経密度215本/2.54cm、緯密度105本/2.54cmの織密度にて、通常の製織方法により5枚サテン組織の織物生機を得た。
そして、該織物を60℃にて湿熱処理した後、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、3.5%NaOH水溶液で、60℃にて28%減量(アルカリ減量)した。その後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行った。
得られた織物において、カバーファクターCFは3、厚みは0.210mmであり、Df/DBは1.036、引き裂き強力は経糸方向14.7N、緯糸方向5.9Nであった。
【0047】
得られた織物を用いて磁気デイスク研磨布を得て、テクスチャー加工試験を実施した。ディスク表面の欠点数は260個であり、研磨効果は「○」であった。また、得られた織物を直径300mmの円形に裁断し、アルミハードディスク基板のポリッシュ加工に適した研磨パッドとした。該研磨パッドを用い、研磨剤として0.035μmのコロイダルシリカ砥粒を含んでいるスラリーを2.4ml/minで滴下しながら、定盤回転数30rpm、加圧4.5kPaで6分間ポリッシュ加工を実施した。ポリッシュ加工後の基板の表面平均粗さRa=1.2オングストローム(AFMで測定)、研磨能率は0.08μm/minと良好であり、磁気特性においても問題なかった。
【0048】
[実施例2]
実施例1の海島型複合延伸糸を28ゲージの通常の経編機を使用して、フロント筬とミドル筬に用い、通常のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント(33dtex/12fil、帝人ファイバー(株)製)をバック筬に用い、サテン組織(バック:10/21、ミドル:10/34、フロント:10/34による編方)によりサテン組織の経編生機を得た。次いで、該編物を50℃にて湿熱処理した後、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、55℃にて28%減量(アルカリ減量)した。その後、常法の湿熱加工を行い、その後、通常のテンター((株)ヒラノテクシード製)を使用して、180℃で1分間熱セット(巾だし率1.1倍)を行った。
得られた編物において、伸度はタテ方向55%、ヨコ方向110%であった。
実施例1と同様にポリッシュ加工を実施したところ加工後の基板の表面平均粗さRa=1.8オングストローム、研磨能率は0.06μm/minと良好であり、さらに、スクラッチ傷などの欠点が非常に少ない上、磁気特性においても問題なかった。
【0049】
[比較例1]
海成分として、島数65島とする以外は実施例と同様にして海島型複合延伸糸を得た。紡糸、延伸共工程性は問題なかった。得られた延伸糸に対し、実施例1と同様にして海成分を抽出したところ、減量性も問題なく、得られた極細繊維の物性は、島成分の単糸平均繊維径は2350nm、CV%は6%、強度は2.6cN/dtex、伸度は57%であった。実施例1と同様にして織物とし、磁気ディスク研磨布を得て、テクスチャー加工試験を実施した。ディスク表面の欠点数は420個であり、研磨効果は「×」であった。また、実施例1と同様にポリッシュ加工を実施したところ加工後の基板の表面平均粗さRa=4.2オングストローム(AFMで測定)、研磨能率は0.03μm/minと低く、実用に供試えないものであった。
【0050】
[比較例2]
海成分として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸9モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール3重量%を共重合した固有粘度0.41のポリエチレンテレフタレートを用いた以外は実施例1と同様にして海島形複合延伸糸を得た。48時間の紡糸において数回の断糸がみられ、経時と共に断糸間隔が短くなり、また延伸姓においても断糸の他、毛羽やループが多数発生した。得られた延伸糸に対し、実施例1と同様にして海成分を抽出したところ減量性は問題なく、得られた極細繊維の物性は、島成分の平均繊維径は750nm、CV%は26%、強度は1.2cN/dtex、伸度は45%であった。実施例1と同様にして織物とし、磁気デイスク研磨布を得て、テクスチャー加工試験を実施した。ディスク表面の欠点数は350個であり、研磨効果は「×」であった。また、実施例1と同様にポリッシュ加工を実施したところ加工後の基板の表面平均粗さRa=2.2オングストローム(AFMで測定)、研磨能率は0.03μm/minと低く、実用に供試しえないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の研磨布用布帛は、研磨能率が高く、かつ被研磨物表面の欠点(スクラッチ)発生率を低減させることが可能となる。よって磁気ディスクや光ディスクなど記録媒体のテキスチャリング用研磨布、記録媒体のポリッシング用研磨布、電子部品の仕上げ用研磨布、および電子部品のバフ研磨用研磨布などの微細研磨を必要とする各種研磨布に好適に使用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰り返し単位がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステル極細繊維を含む研磨布帛であって、極細繊維の平均単糸繊維径が50〜2000nm、平均単糸繊維径のCV%が0〜25%、強度が1.5〜6.0cN/dtexであることを特徴とする研磨用布帛。
【請求項2】
極細繊維がポリトリメチレンテレフタレートを島成分とし、アルカリ可溶性ポリエステルを海成分とする海島型複合繊維の海成分を溶出処理することによって得られる極細繊維である請求項1記載の研磨用布帛。
【請求項3】
海成分がポリエチレングリコール系化合物と5-ナトリウムスルホイソフタル酸との共重合ポリエステルで、ポリエチレングリコール系化合物がポリエステル全重量に対して5〜12重量%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸がポリエステル全酸成分に対して5〜8モル%共重合されている請求項1〜2いずれかに記載の研磨用布帛。

【公開番号】特開2011−156609(P2011−156609A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18828(P2010−18828)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】