説明

研磨材料、研磨用組成物及び研磨方法

【課題】良好なCMP特性を発揮できる新たな複合形態の研磨材料を提供する。
【解決手段】 以下の組成式(1)で表される第1の相とZrO2で表される第2の相とを有する粒子を含むように研磨材料を構成する。第1の相と第2の相とを有する粒子を含むことで、CMPにおける化学的作用と機械的作用との両立を図ることに成功した。
A(Zr)O3 (1)
(ただし、Aは、Ca、Sr及びBaから選択される1種又は2種以上を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨材料、研磨用組成物及び研磨方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、電子デバイスや半導体デバイスにおけるガラス、セラミックス、金属など各種材料の研磨、特に精密研磨に用いる砥粒(研磨材料)としては、シリカや酸化セリウムが一般的に用いられている。なかでも酸化セリウムは、化学機械研磨(CMP)特性を有しており、ガラスとの化学反応性が高いことと適度な硬さを両立していることにより高い研磨速度を有している。優れ、研磨速度に優れており、最も使用されている研磨材料である。
【0003】
一方、研磨材料の原料をセリウム(Ce)のみに依存していると、研磨材料の安定供給、ひいては研磨加工の安定的実施が困難になるおそれもある。そこで、酸化セリウムを代替できる新たな研磨材料が求められている。また、酸化セリウムは機械的強度に低い傾向があるため、これを補うことのできる研磨材料も検討されている。
【0004】
例えば、BaTiO3やMgSiO3など組成式ABO3(ただし、Aは、Li、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Al、Feから選択され、BはTi、Zr、Hf、Sn、Si、Cr、Mn、Coから選択される)で表されるペロブスカイト型酸化物が代替研磨材料として開示されている(特許文献1)。
【0005】
また、酸化セリウムの例えば、酸化セリウムと機械的強度の高い酸化ジルコニウムとの複合酸化物粒子を含む研磨材が知られている(特許文献2)。さらに、酸化セリウム、酸化ジルコニウム及び酸化ケイ素の複合酸化物粒子を用いることも提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−107028号公報
【特許文献2】特開平10−237425号公報
【特許文献3】特開2007−61989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1ではペロブスカイト型酸化物がガラス研磨材として好適であることが報告されている。しかしながら、本発明者らによれば、ジルコニウム系ペロブスカイト酸化物だけでは平坦な研磨表面が得られるものの、研磨速度は低かった。これはCMPにおける機械的作用が不足しているからであると予想された。
【0008】
また、特許文献2、3に記載されるように、酸化セリウムを酸化ジルコニウム等の複合酸化物とする手法では、酸化セリウム本来のCMP特性が大きく低下する傾向があることがわかった。
【0009】
したがって、酸化セリウムを代替できるペロブスカイト型酸化物や酸化セリウムにおいてその機械的強度や機械的研磨作用を補強できる補強材料との新たな複合化形態が求められていることがわかった。
【0010】
そこで、本発明では、良好なCMP特性を発揮できる新たな複合形態の研磨材料を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、CMPにおける化学的作用と機械的作用とを両立できる複合形態について種々検討した。
【0012】
本発明者らは、セリウムを用いない単純金属酸化物では研磨速度と表面平滑性がトレードオフの関係にあるという知見を得、さらに、これらの酸化物におけるガラスとの化学反応性の不足に着目して、ジルコニウム系ペロブスカイト酸化物でガラスとの化学反応性が優れるという知見を得た。
【0013】
また、機械的作用を発揮する材料としては、酸化ジルコニウム等の酸化物を用いることとしたが、化学的研磨材料と機械的研磨材料との単なる混合粒子では、これらの研磨材料の比重の違いから二種の研磨材料粒子の良好な分散状態を得ることは困難であることがわかった。粒子間の距離が遠くなれば、CMPの化学的作用点と機械的作用点との距離も離れてしまうため、相乗効果が小さいことが懸念される。
【0014】
検討を重ねた結果、本発明者らは、CMPにおける化学的作用と機械的作用とを、ジルコニウム系ペロブスカイト酸化物と酸化ジルコニウムとにそれぞれ担わせ、これらの酸化物相を良好に分散させることによりCMP特性の高い研磨材料を提供できるという知見を得た。本明細書の開示によれば、こうした知見により以下の手段が提供される。
【0015】
(1)以下の組成式(1)で表される酸化物を主体とする第1の相とZrO2又は当該酸化物を含む複合酸化物を主体とする第2の相とを有する粒子を含む、研磨材料。
A(Zr)O3 (1)
(ただし、Aは、Ca、Sr及びBaから選択される1種又は2種以上を表す。)
(2)前記第1の相と前記第2の相とは、相互に分散している、(1)に記載の研磨材料。
(3)前記第1の相及び前記第2の相とは、実質的にそれぞれ独立した粒子である、(1)又は(2)に記載の研磨材料。
(4)前記第1の相の粒子及び前記第2の相の粒子は、互いに少なくとも部分的に焼結して一体化されている、(3)に記載の研磨材料。
(5)前記第1の相及び/又は前記第2の相は、300nm以下の平均一次粒子径を有する、(3)又は(4)に記載の研磨材料。
(6)A(Zr)O3とZrO2との全体に対して、A(Zr)O3のモル%が40%以上95%以下である、(1)〜(5)のいずれかに記載の研磨材料。
(7)A(Zr)O3とZrO2との全体に対して、A(Zr)O3のモル%が50%以上90%以下である、(1)〜(6)のいずれかに記載の研磨材料。
(8)研磨用組成物であって、
(1)〜(7)のいずれかに記載の研磨材料を含有する、組成物。
(9)(1)〜(7)のいずれかに記載の研磨材料の製造方法であって、
前記第1の相の原料と前記第2の相の原料とを含有する原料液を噴霧熱分解して、前記第1の相と前記第2の相とを少なくとも部分的に接した状態で有する合成する工程、を備える製造方法。
(10)A(Zr)O3とZrO2との全体に対して、A(Zr)O3のモル%が40%以上95%以下である前記原料液を用いる、(9)に記載の製造方法。
(11)研磨方法であって、
(8)に記載の研磨用組成物を用いてワークを研磨する工程、を備える、方法。
(12)研磨製品の製造方法であって、
(8)に記載の研磨用組成物を用いてワークを研磨して前記研磨製品を製造する工程、を備える、方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の研磨材料の構成の一例を示す図である。
【図2】噴霧熱分解法により合成した研磨材料のSEM像を示す図である。
【図3】固相法により合成した研磨材料のSTEM像と同画像におけるEDSマッピング画像とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書の開示は、研磨材料、研磨用組成物、研磨方法及び研磨製品の生産方法等に関する。本明細書に開示される研磨材料は、セリウムの使用を抑制できる、あるいはセリウムの使用を回避できる、研磨材料である。
【0018】
図1には、本明細書に開示される研磨材料の一例を示す。図1においては、第1の相と第2の相とはそれぞれ別個に粒子形態を有しており、焼結により一体化されている。
【0019】
例えば、図1に示すように、本明細書に開示される研磨材料は、第1の相と第2の相とを有する粒子を含むことで、CMPにおける化学的作用と機械的作用との両立を図ることに成功した。すなわち、従来の複合酸化物ではCMPの化学的作用を担う一方、機械的作用が十分に発揮されなかったところ、本明細書に開示される複合形態によれば、両者を独立した相とし、しかも接触状態にあることでそれぞれ作用点を近接させて、ワーク表面において二つの作用の発現及び両立を可能とした。この結果、酸化セリウムを代替可能な研磨材料を提供することができる。
【0020】
以下、本明細書の開示の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
(研磨材料)
本明細書に開示される研磨材料(以下、単に本研磨材料という。)は、以下の組成式で表される酸化物を主体とする第1の相と、ZrO2及び/又は該酸化物を含む複合酸化物を主体とする第2の相と、を有する粒子を含むことができる。
A(Zr)O3 (1)
【0022】
第1の相は、上記組成式で表される酸化物を主体とすることができる。上記組成式において、Aは、Ca、Sr及びBaから選択される1種又は2種以上とすることができる。第1の相は、CMPの化学的作用に主として寄与することができると考えられる。第1の相において、これらはいずれも同等に用いることができる。2種以上を用いる場合には、それらの複合酸化物であってもよいし、それぞれの酸化物の2種以上の第1の相を有していてもよい。こうした酸化物を主体とするとは、これらの酸化物を第1の相において最もモル比率的に多い成分であることを意味しており、好ましくは、50モル%以上であり、より好ましくは60モル%であり、さらに好ましくは70モル%以上であり、より一層好ましくは80モル%以上であり、さらに一層好ましくは90モル%以上である。最も好ましくは95モル%以上である。
【0023】
第2の相は、ZrO2及び/又はこの酸化物を含む複合酸化物を主体とすることができる。すなわち、ZrO2及びこの酸化物を含む複合酸化物のうち、ZrO2のみを含む場合、ZrO2を第2の相において主体としていてもよいし、ZrO2及びこの酸化物を含む複合酸化物のうちZrO2を含む複合酸化物のみを含む場合、ZrO2を含む複合酸化物を第2の相において主体としていてもよいし、ZrO2及びこの酸化物を含む複合酸化物のうち、ZrO2及びこの酸化物を含む場合、ZrO2及びこの酸化物を含む複合酸化物を第2の相において主体としていてもよい。
【0024】
ZrO2を含む複合酸化物としては、ZrO2に対して、第1の相に含まれるCa、Sr及びBaから選択される1種又は2種以上が固溶化された複合酸化物が挙げられる。また、こうした複合酸化物としては、ZrO2に対して、一般的に安定化剤として用いられるMg及びYから選択される1種又は2種が固溶化された複合酸化物が挙げられる。なお、第2の相において、ZrO2及び/又はこの酸化物を含む複合酸化物を主体とするにおける「主体」は、第1の相におけるのと同義である。第2の相は、CMPの機械的作用に主として寄与することができると考えられる。
【0025】
本研磨材料において、第1の相と第2の相とを有する粒子を含んでいる。こうした複合形態としては、種々の態様が挙げられる。例えば、第1の相を主体とするマトリックス中に第2の相が分散される形態であってもよいし、第2の相を主体とするマトリックスに第1の相が分散される形態であってもよい。さらに、第1の相と第2の相とが相互に分散する形態であってもよい。これらの分散形態は、第1の相と第2の相との量比や合成方法等によって適宜設計される。CMPにおける化学的作用と機械的作用とを同時発現させて協働作用を発揮させるには、相互分散の形態が好ましい。
【0026】
また、第1の相及び第2の相の各形態も特に限定しない。後述するように、第1の相及び第2の相がそれぞれ独立した粒子状であるときにおいて、両者の粒子は、独立してあるいは共通して所定の形状を採ることができる。粒子形状としては、例えば、球状、不定形状、棒状、針状、板状等が挙げられる。
【0027】
第1の相と第2の相との複合形態としては、例えば、図1に示すように、第1の相及び第2の相は、それぞれ実質的に独立した粒子を構成している状態が挙げられる。図1に示す形態では、2種の粒子が、少なくとも部分的に接触し一体化して二次粒子としての本研磨材料の粒子を構成している。なお、2種の粒子が広い表面積で接触し一体化して二次粒子としての本研磨材料の粒子を構成してもよい。こうした粒子の部分的接触ないし一体化は、各粒子の少なくとも部分的な焼結により一体化されていることが好ましい。
【0028】
例えば、図1に示すように、第1の相の粒子と第2の相の粒子とを含む二次粒子を本研磨材料の粒子とするとき、第1の相の粒子及び第2の相の粒子は、それぞれ500nm以下の平均一次粒子径であることが好ましい。一次粒子が大きすぎると、両粒子の距離が離れすぎて化学的作用と機械的作用との同時発現及び協働作用が困難になるからである。好ましくは、これらの一次粒子は、300nm以下の平均粒子径を有することが好ましい。300nmを超えると化学的作用と機械的作用との作用点が遠くなるからである。より好ましくは200nm以下である。これらの平均一次粒子径は、顕微鏡にて観察することによって測定することができ、一定の大きさの複数の視野における粒子の計測結果を平均することによって得ることができる。
【0029】
本研磨材料においては、A(Zr)O3と及び/又は当該酸化物を含む複合酸化物との全量に対して、A(Zr)O3のモル%が40%以上95%以下であることが好ましい。A(Zr)O3が40モル%よりも少ないと、化学的作用が低くなりすぎる傾向があり、A(Zr)O3が95モル%を超えると、機械的作用が低くなりすぎる傾向があるからである。より好ましくは、A(Zr)O3が50モル%以上であり、より好ましくは、A(Zr)O3が90モル%以下である。より一層好ましくは、A(Zr)O3が60モル%以上であり、より一層好ましくは、80モル%以下である。なお、100モル%からA(Zr)O3のモル%を差し引いた数値がZrO2のモル%である。
【0030】
本研磨材料は、第1の相と第2の相とを有していればよく、これらからのみ構成されていてもよいし、第1の相と第2の相とを有している限り、他の相を有していてもよい。他の相としては、CMPの化学的作用や機械的作用を発現する相であってもよいし、他の目的のための相であってもよい。
【0031】
本研磨材料は、通常、砥粒という形態で用いられ、粉末形態となっている。本研磨材料の粒子形状は、特に限定しないが、研磨特性や分散性を考慮すると球状であることが好ましい。なお、ここでいう砥粒は、本研磨材料の粒子(二次粒子の場合もある)を意味している。本研磨材料は、その平均粒子径が0.1μm以上3μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2μm以上2μm以下である。なお、ここでいう平均粒子径は、体積換算あるいは個数換算に基づいていてもよいが、好ましくは、個数換算である。また、平均粒子径は、例えばレーザー回折方式の粒度分布測定装置、動的光散乱方式や光子相関法等を用いた粒度分布測定装置を使用して体積換算の平均粒経を求めることができる。
【0032】
本研磨材料は、ガラスに好ましく適用でき、光学レンズ用ガラス基板、光ディスクや磁気ディスク用ガラス基板、プラズマディスプレー用ガラス基板、薄膜トランジスタ(TFT)型LCDやねじれネマチック(TN)型LCDなどの液晶用ガラス基板、液晶テレビ用カラーフィルター、LSIフォトマスク用等のガラス基板などの、各種光学、エレクトロニクス関連ガラス材料や一般のガラス製品等の仕上げ研磨に用いられる。
【0033】
本研磨材料は、各種の研磨方法及び研磨対象に適用できる。例えば、従来、酸化セリウムが研磨材料として用いられていた研磨方法及び研磨対象に適用できる。例えば、本研磨材料を適用する研磨方法としては、通常の研磨のほか、化学機械研磨が挙げられる。また、本研磨材料を適用する研磨対象(ワーク)は特に限定されないで、ガラス、金属、セラミックス等が挙げられる。
【0034】
(研磨用組成物)
本明細書に開示される研磨用組成物(以下、単に、本組成物という。)は、本研磨材料を含有することができる。本組成物の形態は特に限定されない。本組成物は、粉末等の固形であっても、スラリー形態であってもよい。また、本組成物は、そのままワークの研磨に用いられるあるいは適当な媒体に適宜分散しあるいは当該媒体で適宜希釈してワークの研磨に用いられるように構成されていてもよい。研磨材料は、通常、研磨時にスラリーとして使用される。
【0035】
本組成物は、研磨材料としては、本研磨材料のほか、本研磨材料以外の他の研磨材料を含むことができる。こうした研磨材料としては、例えば、酸化セリウム、酸化ケイ素、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マンガン、酸化クロム、炭化ケイ素、ダイヤモンドが挙げられる。なお、これらの他の研磨材料の本組成物における含有比率は特に限定されない。
【0036】
本組成物がスラリー形態を採るとき、本研磨材料を本組成物の全質量に対して1質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは3質量%以上である。また、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。
【0037】
本組成物がスラリー形態を採るとき、研磨材料を分散する媒体は、特に限定されないで、公知の研磨スラリーに用いられる媒体を用いることができる。例えば、水、水溶性有機溶媒及びこれらの混液から選択される水性媒体を用いることができる。
【0038】
水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の炭素数が1以上10以下程度の1価アルコール類、エチレングリコール、グリセリン等の炭素数3以上10以下程度の多価アルコール、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。なかでも、水、アルコール及びグリコールが好ましく用いられる。
【0039】
本組成物は、本研磨材料及び他の研磨材料を含む場合には、これらを媒体に良好に分散させるために分散剤を含むことができる。かかる分散剤としては、トリポリリン酸塩のような高分子分散剤、ヘキサメタリン酸塩等のリン酸塩、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロースエーテル類、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子などの添加剤を添加することもできる。これらの添加剤の添加量は、研磨材に対して、0.05質量%以上20質量%以下の範囲内であることが一般的に好ましく、特に好ましくは0.1質量%以上10質量%以下の範囲である。なお、分散剤としては、このほか、アルカリ、無機塩類が挙げられる。
【0040】
また、本組成物は、界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等や両性イオン界面活性剤が挙げられ、これらは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
さらに、本組成物は、研磨対象や研磨方法に応じた各種の成分を含んでいてもよい。例えば、化学機械研磨の場合には、ワーク表面を改質するための酸やアルカリを含んでいてもよい。また、金属研磨の場合には、キレート剤を含んでいてもよい。
【0042】
本組成物は、本研磨材料ほか、上記した成分等公知の研磨用組成物に用いられる材料を用いて、公知の方法で製造することができる。たとえば、スラリー形態の本組成物は、本研磨材料等の研磨材料を水性媒体に分散させて得ることができる。必要に応じて、湿式粉砕を組み合わせてもよい。あるいは、本研磨材料を乾式粉砕後に、水性媒体に分散させてもよい。
【0043】
本組成物は、本研磨材料と同様の研磨方法及び研磨対象に適用することができる。
【0044】
(研磨材料の製造方法)
本研磨材料は、公知のセラミックス合成方法で取得することができる。各種方法で得られた合成セラミックス粉末は、必要に応じて仮焼あるいは粉砕されてもよい。粒子径分布が良好である点、及び球状粒子を得ることができる点において、噴霧熱分解法を用いることができる。噴霧熱分解法は、原料を含む溶液あるいは分散液を、焼成ガス流が流れる加熱炉に液滴状態で導入し、熱分解、焼成、さらには時に焼結を経て、合成セラミックス粒子を得ることができる。具体的には、こうした製造方法としては、第1の相の原料と第2の相の原料とを含有する原料液を噴霧熱分解して、第1の相と第2の相とを有する粒子を合成する工程、を備えることができる。噴霧熱分解による場合、第1の相の粒子と第2の相の粒子が分散した球状粒子(二次粒子)を得ることができる。第1の相の粒子と第2の相の粒子とは、少なくとも部分的に焼結しており、二次粒子には空隙を有する場合もあるが、緻密性が高いものもある。噴霧熱分解法を用いる場合、加熱条件、ガス流量等の合成条件は、当業者であれば適宜設定して意図した複合形態の粒子を得ることができる。
【0045】
また、本研磨材料は、固相合成法によっても得ることができる。第1の相の原料(粉末等の固体)及び第2の相の原料(粉末等の固体)をよく混合し、必要に応じて成形し、焼成(焼結)を行い、さらに粉砕することで、本研磨材料を得ることができる。固相合成法を用いる場合、加熱・加圧条件、混合や粉砕等の合成条件は、当業者であれば適宜設定して意図した複合形態の粒子を得ることができる。
【0046】
本製造方法においては、本研磨材料において、好ましい組成(モル%)となるように、原料を配合することが好ましい。すなわち、最終酸化物換算で、A(Zr)O3とZrO2との全体に対して、A(Zr)O3のモル%が40%以上95%以下となるように原料組成を決定することが好ましい。より好ましくは、A(Zr)O3が50モル%以上であり、より好ましくは、A(Zr)O3が90モル%以下である。より一層好ましくは、A(Zr)O3が60モル%以上であり、より一層好ましくは、A(Zr)O3が80モル%以下である。
【0047】
(研磨方法)
本明細書に開示される研磨方法は、本研磨用組成物を用いてワークを研磨する工程、を備えることができる。また、本明細書に開示される研磨製品の製造方法は、本研磨用組成物を用いてワークを研磨して前記研磨製品を製造する工程、を備えることができる。
【0048】
以上、本明細書の開示の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【実施例】
【0049】
以下、本明細書の開示を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本明細書の開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1〜4)
以下の表に示すような原料組成となるように、原料溶液を調整し、噴霧熱分解法により実施例1〜4の試料を合成した。噴霧熱分解にあたり、それぞれの酸化物換算で0.4mol/Lの原料溶液を調製した。また、加熱温度は、加熱炉の入り口付近を200℃とし、さらに400℃、800℃とし、出口温度を1000℃と段階的に上げ、キャリアガスとして空気を3L/分で流して、各研磨材料を合成した。なお、Sr源、Zr源、Ca源及びBa源として、いずれも硝酸塩を用いた。その後、合成した粒子を1000℃で仮焼した。SEMにより観察した結果、得られた粒子は20〜300nmの一次粒子で構成された直径約1μm程度の球状粒子であった。SEM像を元に粒子径を測定し、それぞれ平均粒子径を算出した(表1)。また、X線回折による結晶構造解析の結果、目的通りペロブスカイト構造と正方晶ZrO2の二つの結晶相からなることを確認した。ZrO2の結晶系が正方晶であることから、ZrO2の中にSrが若干固溶しているものと考えられる。実施例1について、SEMによる観察結果を図2に示す。
【0051】
(実施例5)
原料として、酸化ジルコニウムと炭酸カルシウムを用いて固相法により、CaZrO3とZrO2のモル比を6:4となるよう混合し、砥粒を合成した。X線回折による結晶構造解析の結果、ペロブスカイト構造とZrO2および単斜晶ZrO2の三つの結晶相からなることを確認した。結晶系が立方晶のZrO2にはCaが固溶されていると考えられる。走査透過型電子顕微鏡により合成した砥粒を観察したところ、50〜200nmの一次粒子からなる1μm程度の二次粒子を形成していることを確認した。レーザー回折法により測定した結果、平均粒子径は1.0μmであった。さらに、エネルギー分散型X線分光器により、Caが多く含まれている一次粒子(CaZrO3相)と少ない一次粒子(ZrO2相)が存在し、分散していることから、複合砥粒であることがわかった。
【0052】
(比較例1、2)
以下の表に示す組成を噴霧熱分解法により合成した。
(比較例3)
噴霧熱分解法により合成したSrZrO3とZrO2をモル比で1:1となるよう単純に混合した。
(対照例1、2)
市販セリア系砥粒(Mirek E21、三井金属鉱業製)を用いた。



【0053】
【表1】

【0054】
実施例1〜4、比較例1〜3および対象例1においては、各種材料につき、スラリーを調製し、研磨試験を実施した。すなわち、各材料と蒸留水を混ぜ、濃度5質量%のスラリーとした。研磨試験には片面研磨機(テグラシステム、丸本ストルアス製)を用いた。研磨スラリーはポンプを用いて循環した。その他、研磨試験は以下の条件で行った。
研磨対象:37.5 mm×30 mm アルミノ硼珪酸ガラス
研磨パッド:発泡ポリウレタンパッド(MH-C15A、ニッタ・ハース製)
定盤径:300 mm
定盤回転数:150 rpm
スラリー供給量:100 mL / min
研磨圧力:102 g / cm2
研磨時間:30分
【0055】
実施例5および対象例2においては、上記とは異なる条件で研磨試験を実施した。すなわち、各材料と蒸留水を混ぜ、濃度10質量%のスラリーとした。研磨試験には片面研磨機(LGP-15S-I、ミクロ技研(旧Lapmaster)製)を用いた。その他、研磨試験は以下の条件で行った。
研磨対象:φ2インチ ソーダライムガラス
研磨パッド:発泡ポリウレタンパッド(MH-N15A、ニッタ・ハース製)
定盤径:380 mm
定盤回転数:100 rpm
スラリー供給量:500 mL / min
研磨圧力:100 g / cm2
研磨時間:180分
【0056】
研磨前のガラスにつき、その厚さ及び研磨前後の重量を測定し、重量減少分を厚み換算し、研磨速度を計算した。また、算術平均粗さRaを原子間力顕微鏡により測定した。結果を併せて表1に示す。
【0057】
表1に示すように、第1の相と第2の相とを複合化した研磨材料は、そうでない研磨材料と比較して、優れた研磨特性を示した。対照例である酸化セリウムを十分に代替できる研磨材料を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の組成式(1)で表される酸化物を主体とする第1の相とZrO2又は当該酸化物を含む複合酸化物を主体とする第2の相とを有する粒子を含む、研磨材料。
A(Zr)O3 (1)
(ただし、Aは、Ca、Sr及びBaから選択される1種又は2種以上を表す。)
【請求項2】
前記第1の相と前記第2の相とは、相互に分散している、請求項1に記載の研磨材料。
【請求項3】
前記第1の相及び前記第2の相とは、実質的にそれぞれ独立した粒子である、請求項1又は2に記載の研磨材料。
【請求項4】
前記第1の相の粒子及び前記第2の相の粒子は、互いに少なくとも部分的に焼結して一体化されている、請求項3に記載の研磨材料。
【請求項5】
前記第1の相及び/又は前記第2の相は、300nm以下の平均一次粒子径を有する、請求項3又は4に記載の研磨材料。
【請求項6】
A(Zr)O3とZrO2との全体に対して、A(Zr)O3のモル%が40%以上95%以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の研磨材料。
【請求項7】
A(Zr)O3とZrO2との全体に対して、A(Zr)O3のモル%が50%以上90%以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の研磨材料。
【請求項8】
研磨用組成物であって、
請求項1〜7のいずれかに記載の研磨材料を含有する、組成物。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の研磨材料の製造方法であって、
前記第1の相の原料と前記第2の相の原料とを含有する原料液を噴霧熱分解して、前記第1相と前記第2の相とを有する粒子を合成する工程、を備える製造方法。
【請求項10】
A(Zr)O3とZrO2及び/又は当該酸化合物物を含む複合酸化物全体に対して、A(Zr)O3のモル%が40%以上95%以下である前記原料液を用いる、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
研磨方法であって、
請求項8に記載の研磨用組成物を用いてワークを研磨する工程、を備える、方法。
【請求項12】
研磨製品の製造方法であって、
請求項8に記載の研磨用組成物を用いてワークを研磨して前記研磨製品を製造する工程、を備える、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−82050(P2013−82050A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225238(P2011−225238)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成23年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク・部材イノベーションプログラム/環境安心イノベーションプログラム/希少金属代替材料開発プロジェクト」における委託研究,産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)」
【出願人】(000173522)一般財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【出願人】(310004356)公益財団法人三重県産業支援センター (3)
【Fターム(参考)】