説明

研磨用シート

【課題】本発明の目的は、半導体ウエハおよびアルミ、ガラスなどの磁気記録ディスクなどの精密研磨に好適に用いられ得る研磨用シートに関し、研磨速度、研磨精度、研磨性能の安定性に優れた研磨用シートを提供することにある。
【解決手段】本発明の研磨用シートは、少なくとも不織布と高分子弾性体からなる研磨用シートであって、該不織布を構成する繊維は、ポリアミドが海、ポリエステルが島の海島構造を形成し、繊維横断面における島成分の直径が平均で1.0nm〜0.30μmの範囲であるポリマーアロイ繊維であることを特徴とする研磨用シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハおよびアルミ、ガラスなどの磁気記録ディスクなどの精密研磨に好適に用いられ得る研磨用シートに関し、研磨速度、研磨精度、研磨性能の安定性に優れた研磨用シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理技術の発展にともない、半導体ウエハ、磁気記録ディスクなどの精密研磨において、高精度の表面加工、すなわち基板表面に対し極めて精度の高い平滑化が必須となっている。かかる精密研磨に用いられる研磨用シートへの要求特性としては、研磨速度の向上、研磨精度の向上、研磨性能の安定性などが挙げられ、これらの要求特性を高いレベルで達成可能な研磨用シートが切望されている。
【0003】
このような要求に対し、研磨用シートとしてはいくつかの提案がなされている。例えば、特許文献1ではポリアミドとポリスチレンからなる海島型繊維不織布と高分子弾性体からなる研磨用シートが、アルミ基板研磨において研磨速度が速く、高精度の研磨を達成している。しかしながら、この研磨用シートを構成するポリアミド中のポリスチレンは主としてチップブレンドにより得られた海島型複合繊維のものであるため、島成分の分散が不均一であり、結果として繊維の剛性がまばらとなり、研磨性能の安定性、研磨精度において満足のいくものではなかった。
【0004】
また、特許文献2では、ポリアミドやポリエステル中空繊維からなるシリコーンウエハー研磨用シートが提案されている。中空繊維を適用することにより、目詰まりや砥粒押付圧の分散化による研磨精度の向上が得られているものの、この研磨用シートの繊維断面における中空部の孔のサイズは小さくとも1.5〜3μm程度のものであり、孔サイズが大きいことに伴う繊維剛性の低下が大きく、結果として研磨速度の低下を招き、近年要求される研磨速度に対して不充分なものであった。
【0005】
このように、特許文献1、2の従来技術にて提案されているような研磨用シートは、近年求められる研磨精度、研磨性能の安定性に対しては、いまだ満足のいくレベルに到達していなかった。
【特許文献1】特許第3816817号公報
【特許文献2】特開2003−168662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、かかる課題を解決し、研磨速度が速く、生産性に優れた高性能研磨用シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
(1)少なくとも不織布と高分子弾性体からなる研磨用シートであって、該不織布を構成する繊維は、ポリアミドが海、ポリエステルが島の海島構造を形成し、繊維横断面における島成分の直径が平均で1.0nm〜0.30μmの範囲であるポリマーアロイ繊維であることを特徴とする研磨用シート。
(2)前記繊維横断面における島成分の直径が平均で1.0nm〜0.20μmの範囲であることを特徴とする前記(1)に記載の研磨用シート。
(3)前記ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の研磨用シート。
(4)前記高分子弾性体がポリウレタンであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の研磨用シート。
(5)請求項1〜4のいずれかに記載の研磨用シートにおいて、ポリマーアロイ繊維の島成分を除去して中空繊維としたものであることを特徴とする研磨用シート。
【発明の効果】
【0008】
本発明の研磨用シートは、繊維の剛性および繊維の吸水特性に優れているため、半導体ウエハなどの基板表面への研磨加工において、研磨速度が速く、生産性に優れた高性能研磨用シートを提供できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
【0010】
本発明の研磨用シートは、少なくとも不織布と高分子弾性体とからなる。不織布を構成する繊維はポリマーアロイ繊維(本発明の第1の態様)でも、中空繊維(本発明の第2の態様)でもよい。
【0011】
まず、本発明の第1の態様において不織布を構成する繊維について説明する。
【0012】
本発明の第1の態様において不織布を構成する繊維は、ポリアミドが海、ポリエステルが島の海島構造を形成しているポリマーアロイ繊維である。ポリアミド中にポリエステルが島成分として存在することで、ポリアミドの特性である吸湿特性を有しながら、ポリエステルのもつ繊維の剛性と強度を付与することが可能となるのである。さらに、繊維縦断面において、島成分が筋状構造を形成していることが好ましい。
【0013】
また、ポリマーアロイ繊維は、繊維横断面における直径が平均で1.0nm〜0.30μmの範囲であるポリマーアロイ繊維からなることが重要である。従来の海島型繊維技術を用いた場合では、島成分の直径は0.50〜5.0μm程度の範囲であり、さらに0.50μm程度の直径の島を得ようとした場合、従来の単純なチップブレンドでは島成分の均一な微分散が困難であり、直径のバラツキが大きい。そのため、各繊維間において剛性、強度の差が生じ、研磨性能の不均一化が生じやすいものであった。
【0014】
本発明においては、島成分の直径を1.0nm〜0.30μmの範囲に制御することで、島成分が繊維中に超微分散化し、結果として各繊維の剛性が均一となるため研磨性能のムラが解消され、平滑な研磨表面を得やすくなる。なお、島成分の直径として、より好ましくは平均で1.0nm〜0.20μm、さらに好ましくは平均で1.0nm〜0.15μmの範囲である。必要に応じて相溶化剤を併用することも可能である。
【0015】
また、前述のとおり、繊維縦断面で観察した場合に、島成分は筋状構造を形成していることが好ましい。これによって、紡糸細化挙動を安定化させることが可能となる。筋の長さは10μm以上が好ましく、より好ましくは50μm以上である。なお、上限については特に制限はなく、途切れなく連続していることがより好ましい。さらに、ポリエステルを溶剤で除去することによって、多孔性繊維を得ることも可能である。
ポリマーアロイ繊維の海成分として用いられるポリアミドとしては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイロン6(N6)、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン96、ナイロン910、ナイロン912、ナイロン6/12などが用いられる。
【0016】
また、島成分のポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどの芳香族系ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートなどの脂肪族系ポリエステルが用いられるが、繊維剛性が高いこと、アルカリ易溶性であること、非石油系原料であること、生分解性が高いことなどから脂肪族ポリエステルであるPLAが好ましく用いられる。PLAであれば、島成分の除去による多孔化(中空繊維化)を行う場合、有機溶媒を必要とせず、通常のアルカリ処理工程を利用可能であるため好ましい。また同様の理由により、熱水可溶性ポリマーを用いてもよい。
【0017】
また、上記海成分及び島成分においては、ポリマーの性質を損なわない範囲で他の成分が共重合されても良く、また、ポリマーには粒子、難燃剤、帯電防止剤などの添加物を含有させてもよい。ポリマーの分子量としては、いずれの成分においても、繊維形成能および力学特性などの観点から、数平均分子量で1万〜40万であることが好ましい。
【0018】
島成分と海成分のブレンド比率は特に制限されるものではないが、本発明の研磨用シートの特性を得るためには、海成分であるポリアミドの比を30〜95重量%とすることが好ましく、より好ましくは60〜90重量%である。
【0019】
次に、本発明の第2の態様において不織布を構成する繊維について説明する。
【0020】
本発明の第2の態様においては不織布を構成する繊維を中空繊維とするものである。中空繊維とすることで、研磨時の研磨クズや砥粒などによる目詰まりを抑える効果が得られ研磨効率が向上するばかりか、砥粒への突発的な押付圧の向上を防止することができ、平坦度を向上させることができる。中空繊維である場合には、中空繊維の孔のサイズは平均で1.0nm〜0.30μmが好ましく、より好ましくは平均で1.0nm〜0.20μm、さらに好ましくは平均で1.0nm〜0.15μmの範囲である。孔のサイズを上記範囲とすることにより、粗大な孔を有する中空繊維にて課題となっていた繊維剛性の低下を防ぐことができ、結果として、研磨速度の向上を充分に達成できるのである。さらに、ナノレベルの孔を有することから、ナノポーラスファイバーとしての特徴を発揮することができる。ナノポーラスファイバーとなることで、繊維表面積が非常に大きくなり、従来の多孔繊維では得られなかった、卓越した吸湿性、吸着性が得られ研磨砥粒とのなじみが良好となり、研磨性能が向上するものである。
【0021】
この中空繊維は、前述のポリマーアロイ繊維の島成分のポリエステルを溶剤で除去することによって得られるものである。
【0022】
なお、以下の構成要素については、本発明の第1の態様においても第2の態様においても共通である。
【0023】
本発明において不織布を構成するポリマーアロイ繊維又は中空繊維の直径は0.50〜50μmの範囲が好ましく、より好ましくは1.0〜30μm、さらに好ましくは2.0〜20μmの範囲である。繊維の直径を0.50μm以上とすることで充分な繊維剛性が得られ、研磨に必要とされる砥粒把持性が得られるため好ましい。一方、繊維径が大きくなると、研磨砥粒の把持性が低下し、さらに溝部分などに砥粒が凝集することによって被研磨表面に傷状の欠点が発生しやすくなるため、繊維径は50μm以下が好ましい。
【0024】
本発明の研磨用シートを構成する不織布の繊維長は特に限定されるものではなく、従来公知の短繊維不織布や長繊維不織布などが好適に用いられる。
【0025】
本発明の研磨用シートは、主にクッション性を向上させる目的で高分子弾性体を含んでいるものである。用いる高分子弾性体としては特に限定されないが、例えば、ポリウレア、ポリウレタン・ポリウレアエラストマー、ポリアクリル酸樹脂、アクリロニトリル・ブタジエンエラストマー、スチレン・ブタジエンエラストマーなどを用いることができるが、中でもポリウレタン、ポリウレタン・ポリウレアエラストマーなどのポリウレタン系エラストマーが好ましい。
【0026】
ポリウレタンは、ポリオール成分にポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系のジオール、もしくはこれらの共重合物を用いることができる。また、ジイソシアネート成分としては、芳香族ジイソシアネート、脂環式イソシアネート、脂肪族系イソシアネートなどを使用することができる。
【0027】
ポリウレタンを用いる場合、ポリウレタンの重量平均分子量は50,000〜300,000が好ましく、より好ましくは100,000〜250,000である。重量平均分子量を50,000以上とすることにより、得られるシート状物の強度を保持し、また極細繊維の脱落を防ぐことができる。また、300,000以下とすることで、ポリウレタン溶液の粘度の増大を抑えて不織布への含浸を行いやすくすることができる。
【0028】
また、高分子弾性体は、主成分としてポリウレタンを用いることが好ましいが、バインダーとして性能や立毛繊維の均一分散状態を損なわない範囲で、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系などのエラストマー樹脂、アクリル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂などが含まれていても良く、必要に応じて着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、分散剤、柔軟剤、凝固調整剤、難燃剤、抗菌剤、防臭剤などの添加剤が配合されていてもよい。また、研磨用シートの硬度を上げ、耐摩耗性を向上させるために架橋型ポリウレタンを用いてもよい。
【0029】
本発明において、高分子弾性体の付与量は、研磨用シート表面繊維の緻密性、クッション性などを考慮し、固形分として対ポリマーアロイ繊維重量比で5〜200重量%の範囲が好ましい。好ましくは10〜100重量%の範囲であり、より好ましくは20〜80重量%の範囲である。
また、シート状に加工された高分子弾性体上にポリマーアロイ繊維構造体層が積層されていても良い。該高分子弾性体シートはクッション層として用いられる。
【0030】
本発明の研磨用シートを研磨加工を施す際に、大きな寸法変化が生じると基板表面を均一に研磨することができないため、形態安定性の点から、本発明に用いられる研磨用シートの目付は50〜2000g/mであることが好ましく、100〜1000g/mであることがより好ましく、さらに好ましくは150〜800g/mの範囲である。また、同様の観点から本発明の研磨用シートは厚みが0.1〜5mmの範囲が好ましく、0.2〜3mmの範囲がより好ましい。均一な加工性を得るために見掛け密度としては、0.2〜0.9g/cmの範囲が好適であり、より好ましくは0.3〜0.8g/cmの範囲である。
本発明の研磨用シートの目付はJIS L 1096 8.4.2(1999)に準拠して測定した。
また、見掛け密度については、各集合体層の厚みを厚みゲージ(例えば、(株)尾崎製作所製ダイヤルシックネスゲージ、商品名”ピーコックH”等)にて任意の10点を測定し、平均値を有効数字2桁で算出し、目付を該厚みで除することにより有効数字2桁で算出したものをいう。
本発明の研磨用シートの表面硬度は、JIS K6253で規定されているA硬度において、30°〜95°であることが好ましく、50°〜90°であることがより好ましく、55〜85°の範囲がさらに好ましい。硬度を30°以上とすることで、研磨速度、生産性を向上させることができるため好ましい。また、95°以下とすることで研磨用シートが柔軟性を持つことにより研磨性能の不均一化が解消できるため好ましい。なお、ここでいう硬度を測定する表面は、研磨用シートの研磨面である。
【0031】
本発明では、スクラッチ欠点抑制の点から、研磨用シート中に含まれる金属あるいは金属化合物の含有量は、研磨用シートの総重量に対する金属元素の重量として100ppm以下であることが好ましく、30ppm以下であることがより好ましく、全く含有していないことが更に好ましい。100ppm以下であれば、金属あるいは金属化合物が基板表面に接触することによる、スクラッチ欠点及の発生を抑制できるため、好ましい。
【0032】
研磨用シート中に含まれる金属あるいは金属化合物の例としては、鉄、酸化鉄、繊維ポリマーの添加剤として用いられる二酸化チタンなどが挙げられる。
【0033】
次に、本発明の研磨用シートの製造方法について詳細に記述する。まず、本発明の第1の態様の製造方法について説明する。
【0034】
本発明の研磨用シートは例えば、以下の工程を組み合わせることにより得られる。すなわち、ポリエステルとポリアミドを溶融混練し、ナイロンおよび/またはポリエステルが微分散化したポリエステル/ポリアミドからなるポリマーアロイ溶融体を得る。これを溶融紡糸して複合繊維ウェブを作製、複合繊維ウェブに絡合処理を施して不織布を作製する工程、高分子弾性体を該不織布に付与し、該高分子弾性体を実質的に凝固し固化させる工程、起毛処理を施し表面に立毛を形成する工程である。
本発明で用いるポリマーアロイ繊維を得るためには溶融混練方法が重要であり、押出混練機や静止混練器により強制的に混練することにより、粗大な凝集ポリマー粒子の生成を大幅に抑制することができる。強制的に混練する観点から、押出混練機としては二軸押出混練機、静止混練器としては分割数100万分割以上のものを用いることが好ましい。また、島成分ポリマーの再凝集を抑制する観点からポリマーアロイの形成、溶融から紡糸口金より吐出するまでの滞留時間も重要であり、ポリマーアロイの溶融部先端から紡糸口金より吐出するまでの時間は30分以内とすることが好ましい。
【0035】
島の直径を上記範囲に微小化するためには、島成分ポリマーと海成分ポリマーのポリマーの組合せも重要である。島成分ポリマーと海成分ポリマーの親和性を上げることで、島成分ポリマーを超微分散化しやすくなる。そのため、組み合わせるポリマーの相溶性を最適化することが好ましく、このための指標の一つが溶解度パラメーター(SP値)である。ここで、SP値とは(蒸発エネルギー/モル容積)1/2で定義される物質の凝集力を反映するパラメータであり、SP値が近いもの同士では相溶性が良いポリマーアロイが得られる可能性がある。SP値は種々のポリマーで知られているが、例えば「プラスチック・データブック」旭化成アミダス株式会社/プラスチック編集部共編、189ページ等に記載されている。2つのポリマーのSP値の差が1〜9(MJ/m1/2であると、非相溶化による島成分の円形化と超微分散化が両立させやすく好ましい。ナイロンとポリエステルのSP値の差は非常に近く、例えば、N6とPLAはSP値の差が1(MJ/m1/2程度であり、非常に好ましい例といえる。
【0036】
さらに、溶融粘度も重要であり、島を形成するポリマーの溶融粘度を海に比べて低く設定すると剪断力による島成分ポリマーの変形が起こりやすいため、島成分ポリマーの微分散化が進みやすく超極細化の観点からは好ましい。ただし、島成分ポリマーを過度に低粘度にすると海化しやすくなり、繊維全体に対するブレンド比を高くできないため、島成分ポリマー粘度は海成分ポリマー粘度の1/10〜2程度とすることが好ましい。
また、島成分ポリマーを微細化する観点から、紡糸ドラフトについては100以上とすることが好ましく、なお上限としては生産困難性の観点から1000以下である。さらに、繊維構造を形成するためには紡糸速度は2500m/分以上が好ましい。なお、紡糸速度の上限としては8000m/分以下である。
【0037】
以上のようにして得たポリマーアロイ繊維で不織布を製造する。不織布を得る方法としては特に限定されるものではないが、紡糸、延伸、捲縮、カットを経て得られた短繊維をカード、クロスラッパーを用いて幅方向に配列させた積層ウェブを形成させた後にニードルパンチを施して得られる短繊維不織布や、スパンボンド、メルトブローなど紡糸から直接形成する長繊維不織布、抄紙法で得られる不織布などが好適に用いられる。中でも、不織布表面の緻密性、ムラなどの観点から短繊維不織布が好適に用いられる。
短繊維不織布の繊維ウェブの絡合方法は特に限定されるものではないが、ニードルパンチやウォータジェットパンチなどの方法を適宜組み合わせることができる。
【0038】
ニードルパンチ処理のパンチング本数としては、繊維の高絡合化による緻密な表面状態の達成の観点から500〜8000本/cmであることが好ましい。500本/cm以上とすることで表面繊維の緻密性を得ることができ、8000本/cm以下とすることで、加工性の悪化、繊維の損傷による強度低下を防ぐことができるため好ましい。ニードルパンチング後の複合繊維不織布の繊維密度は、表面繊維本数の緻密化の観点から、0.20〜0.50g/cmの範囲であることが好ましい。ウォータージェットパンチング処理を行う場合には、水は柱状流の状態で行うことが好ましい。柱状流を得るには、通常、直径0.05〜1.0mmのノズルから圧力1〜60MPaで噴出させる方法が好適に用いられる。このようにして得られた複合繊維不織布は、緻密化の観点から、乾熱または湿熱、あるいはその両者によって収縮させ、さらに高密度化させる方法を採用しても良い。
次に、不織布に高分子弾性体、特にポリウレタンを主成分とする高分子弾性体を付与する。かかる高分子弾性体は、表面凹凸や振動吸収のためのクッション、繊維形態保持などの役割を有し、不織布の内部空間に高分子弾性体を充填し一体化させることにより、被研磨物へのフィット性および被研磨物表面の傷の抑制効果に優れるものである。
かかる高分子弾性体の不織布への付与方法としては、高分子弾性体を塗布、あるいは含浸後凝固させる方法などを適宜採用することができるが、中でも加工性の点から、不織布中に高分子弾性体溶液を含浸した後に、湿式凝固させる方法が好ましく使用される。
使用する高分子弾性体については前述の通りであるが、高分子弾性体を付与させる際に用いる溶媒としてはN,N’−ジメチルホルムアミド(以下DMFと表記する)、ジメチルスルホキシド等を好ましく用いることができる。また、水中にエマルジョンとして分散させた水系ポリウレタンを用いてもよい。溶媒に溶解した高分子弾性体溶液に不織布を浸漬する等して高分子弾性体を不織布に付与し、その後、乾燥することによって高分子弾性体を実質的に凝固し固化させる。乾燥にあたっては不織布及び高分子弾性体の性能が損なわない程度の温度で加熱してもよい。また、架橋型ポリウレタンを用いる場合、架橋加工については、本発明の研磨用シートの製造工程中のいずれの工程で行っても良い。
本発明の研磨用シートは、不織布に高分子弾性体を付与した後に、フラットロールなどを用いたカレンダー加工などにより、厚みを加圧圧縮することで表面平滑性を付与し、所望の特性とすることも可能である。カレンダー加工時には表面繊維の状態を損なわない範囲で加熱してもよいし、加熱しなくてもよい。該加圧圧縮加工は、乾燥、湿潤いずれの状態でも実施可能である。
【0039】
本発明の研磨用シートは、バッフィング処理などによって表面を平滑化しても良い。ここでいうバッフィング処理とは、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて表面を研削する方法などにより施すのが一般的である。特に、表面をサンドペーパーにより、起毛処理することにで均一かつ緻密な表面状態を形成することができる。さらに、研磨用シート表面の均一化のためには、研削負荷を小さくすることが好ましい。研削負荷を小さくするためには、バフ段数、サンドペーパー番手などを適宜調整することが好ましい。中でも、バフ段数は3段以上の多段バッフィングとし、各段に使用するサンドペーパーの番手をJIS規定の120番〜1000番の範囲とすることがより好ましい。バッフィング処理は乾燥、湿潤いずれの状態で行っても良い。
【0040】
次に、本発明の第2の態様の製造方法について説明する。
前述のとおり、本発明の第2の態様は本発明の第1の態様において、ポリマーアロイ繊維の島成分を除去して得られたものである。したがって、不織布に高分子弾性体を付与した前、または後、または起毛処理後のいずれかの工程にて島成分であるポリエステルを溶解除去するものである。ポリエステル除去の方法としては特に限定されず、公知の方法、装置を用いることができる。
本発明の研磨布用シートは、半導体ウエハおよびアルミ、ガラスなどの磁気記録ディスクなどの精密研磨に好適に用いられる。研磨用シートと遊離砥粒を含むスラリーとを用いて、シリコン基板などの研磨加工を行う場合、研磨条件として、スラリーはコロイダルシリカなどの砥粒を水系分散媒に分散したものが好ましく用いられる。なお、砥粒の保持性と分散性の観点から、本発明の研磨用シートを構成する極細繊維に適合した1次砥粒径としては1〜500nmが好ましく、より好ましくは1〜300nmである。また、1次砥粒がクラスター化した2次粒子からなる砥粒を用いても良い。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また実施例で用いた評価法とその測定条件について、以下に説明する。
【0042】
(1)ポリマーの溶融粘度
東洋精機製作所(株)製キャピラログラフ1Bにより、ポリマーの溶融粘度を測定した。なお、サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は10分とした。
【0043】
(2)融点
パーキンエルマー社(Perkin Elmer)製DSC−7を用いて2nd runでポリマーの溶融を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。このときの昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
【0044】
(3)平均繊維径
研磨用シートを厚み方向にカットした断面を観察面として下記の走査型電子顕微鏡(SEM)、または下記の透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、繊維300本の繊維径を有効数字3桁で測定し、これを母集団とした平均値を有効数字2桁で算出し、該平均値を平均繊維径とした。また、必要に応じて金属染色を実施した。なお、繊維の断面形状が非円形である場合には、断面積を算出した後、同じ面積をもつ円の直径を繊維径とみなすものとする。
SEM装置:(株)キーエンス製 VE−7800型
TEM装置:日立社製 H−7100FA型
(4)島(孔)の直径
ポリマーアロイ繊維の島の直径もしくは中空繊維の孔の直径は以下の手法を用いた。すなわち、先述のSEM、またはTEMによる繊維横断面写真を画像処理ソフト(WINROOF)を用いて島(孔)の円換算による直径を算出した。このとき、島(孔)が微細すぎたり、あるいは形状が複雑でWINROOFでの解析が困難な場合には、目視と手作業によって解析を行った。島(孔)の平均直径は同一繊維中に含まれる300個の島(孔)を無作為に抽出し、これを10本の繊維で行い、計3000個の数平均として有効数字2桁で算出した。このとき、無機粒子については明らかに判別できるので解析に含めなかった。
【0045】
(5)目付
研磨用シートに対し、JIS L 1096 8.4.2(1999)に準拠して測定した。
【0046】
(6)見掛け密度
研磨用シートの厚みをダイヤルシックネスゲージ((株)尾崎製作所製、商品名”ピーコックH”)にて任意の10点を測定し、平均値を有効数字2桁で算出した。(5)にて得られた目付を、該厚みで除することにより、見掛け密度を有効数字2桁で算出した。
【0047】
(7)研磨用シートの表面硬度
JIS K−6253Aの規定に基づき、大きさ7cm×7cmの試料片を10枚準備した。この中の一枚を高分子計器社のASKER A型硬度感知部を取付けたCL−150低圧荷重硬度計に取り付け、室温20℃、湿度60%下にて硬度を測定した。同様の方法にて計10枚の硬度を測定し、得られた試料硬度の平均値を有効数字2桁で算出し、研磨用シートの硬度として評価した。
【0048】
(8)平坦度
ZYGO社製GPIを用い、ウェハ面内の基準面からの高低差(Total Indicator Reading値)を、μm単位にて有効数字3桁で測定、5枚分の平均を有効数字2桁で算出した。平均値が2.0μm以下のものを平坦度良好とした。
【0049】
(9)研磨レート
ウェハ1枚につき5ヶ所について、1分間あたりの厚み減少(μm)を(8)に順じて測定し、5枚分の平均値として有効数字2桁で算出した。平均値が1.30以上のものを研磨レート良好とした。
【0050】
(10)表面粗さ
JIS B0601−1994に順じ、表面粗さ計(東京精密株式会社製サーファコム120A、円錐状触針:頂点90°、先端曲率半径:5μm)で5ヶ所の表面粗さを測定し、その平均値を有効数字2桁で算出した。平均値が80nm(8.0オングストローム)以下のものを表面粗さ良好とした。
【0051】
(実施例1)
島成分として、重量平均分子量15万、溶融粘度172Pa・s(温度240℃、剪断速度1216sec−1)、融点170℃のPLA(光学純度99.5%以上)(20重量%)と、海成分として、溶融粘度160Pa・s(温度240℃、剪断速度1216sec−1)、融点220℃のN6(80重量%)とを2軸押出混練機にて230℃で溶融混練してポリマーアロイチップを得た。ここでPLAの重量平均分子量は、以下の方法を用いて求めた。すなわち、試料のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とし、これをWaters社製ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)Waters2690を用いて、25℃で測定し、ポリスチレン換算で求めた。測定は各試料につき3点行い、その平均値を重量平均分子量とした。
このポリマーアロイチップを用い、単軸押出機にて溶融し、紡糸温度245℃、紡糸速度1200m/分にて溶融紡糸した後、液浴中で3.0倍に延伸、捲縮、カットを経て、繊度4.5dtexの海島型繊維原綿を得た。
【0052】
この原綿を用いて、カード、クロスラッパー工程を経て積層ウェブを形成し、ついで1バーブのニードルを植込んだニードルパンチ機にて針深度8mmにて1500本/cmのパンチ本数でニードルパンチし、目付460g/m、密度0.24g/cmの不織布を作製した。この不織布を95℃で熱水収縮させた後、ポリビニルアルコール(以下PVAと略記)を繊維重量に対し15重量%付与し乾燥させた後、ポリウレタン(ポリマージオールのポリエステル:ポリエーテル比率が75:25)を13%に調整したDMF溶液に含浸、ニップロールで窄液し、繊維重量に対して固形分で30重量%のポリウレタンを付与し、液温35℃の30%DMF水溶液でポリウレタンを凝固、約85℃の熱水でPVAおよびDMFを除去し、厚み方向に圧縮、乾燥することで、目付620g/m、厚み1.40mm、見掛け密度0.44g/cm、硬度64°の研磨用シートを得た。得られた研磨用シートを構成する海島型繊維の平均繊維径は23μm、島の直径は平均で0.12μmであり、0.30μm以上の島は存在しなかった。
【0053】
(研磨性能評価)
研磨装置としてスピードファム社製研磨装置36SPAWを用い、10.16cm(4インチ)の半導体ウェハを得られた研磨用シートにて、平均粒径0.04μmのコロイダルシリカ/スノーテックス(日産化学社製)を純水で20倍希釈した研磨剤を用い、定盤回転数100rpm、加工温度45℃、加工圧300kg/cmの条件で片面研磨した後、洗浄後のウェハ平坦度、研磨レート、表面粗さを測定、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0054】
(実施例2)
実施例1にて得られた研磨用シートを、液流染色機(ユニエースFLR型)にて90mmのノズルを用い、浴比1/27で、80℃の2%水酸化ナトリウム水溶液にて30分処理した後、水洗4回行い、乾燥させることで、島成分であるPLAを溶出させ、N6からなるナノポーラスファイバーを発生発生させ、目付524g/m、厚み1.30mm、見掛け密度0.40g/cm、硬度61°の研磨用シートを得た。この研磨用シートを用い、実施例1と同様にして研磨性能評価を実施した。孔の直径は平均で0.11μmであり、0.30μm以上の孔は存在しなかった。
【0055】
(実施例3)
島成分として、溶融粘度143Pa・s(温度280℃、剪断速度2432sec−1)、融点250℃の5−ナトリウムスルホイソフタル酸5mol%を共重合したPET(30重量%)と、海成分として、溶融粘度127Pa・s(温度280℃、剪断速度2432sec−1)、融点220℃のN6(70重量%)とを2軸押出混練機にて260℃で溶融混練してポリマーアロイチップを得た。
【0056】
このポリマーアロイチップを用い、紡糸温度を270℃とした以外は実施例と同様の方法で、目付605g/m、厚み1.45mm、見掛け密度0.42g/cm、硬度59°の研磨用シートを得た。得られた研磨用シートを構成する海島型繊維の平均繊維径は24μm、島の直径は平均で0.16μmであり、0.30μm以上の島は存在しなかった。
実施例1〜3の研磨用シートを用いた研磨加工後のシリコンウエハは、平坦度、研磨レート、表面粗さがいずれも良好であり、寿命も充分なものであった。海島型繊維中に島成分を平均で1.0nm〜0.30μmのレベルで微分散させることで得られる繊維特性を充分に発揮していることがわかった。
【0057】
(比較例1)
実施例1で用いたN6を100重量%(すなわち、N6の単独繊維)とし、紡糸温度を270℃とした以外は、実施例1と同様にして、目付600g/m、厚み1.45mm、見掛け密度0.41g/cm、硬度55°の研磨用シートを得た。得られた研磨用シートを構成する繊維の平均繊維径は24μmであった。
【0058】
(比較例2)
実施例1で用いたPLAを100重量%(すなわち、PLAの単独繊維)とし、紡糸温度を230℃とした以外は、実施例1と同様にして、目付610g/m、厚み1.50mm、見掛け密度0.41g/cm、硬度58°の研磨用シートを得た。得られた研磨用シートを構成する繊維の平均繊維径は23μmであった。
【0059】
(比較例3)
実施例1で用いたN6(80重量%)と、PLA(20重量%)をチップブレンドにて単軸押出機にて溶融混練した後、紡糸温度245℃、紡糸速度1000m/分にて溶融紡糸した後、液浴中で3.1倍に延伸、捲縮、カットを経て、繊度4.4dtexの海島型繊維原綿を得た。
【0060】
この原綿を用い、実施例1と同様の方法にて、目付612g/m、厚み1.46mm、見掛け密度0.42g/cm、硬度59°の研磨用シートを得た。得られた研磨用シートを構成する海島型繊維の平均繊維径は24μm、島の直径は平均で0.37μmであり、0.30μm以上の島が86%であった。
【0061】
(比較例4)
比較例3で作製した研磨用シートを、実施例2と同様の手法にてPLAを溶出させ、中空繊維を発生させ、目付520g/m、厚み1.30mm、見掛け密度0.40g/cm、硬度57°の研磨用シートを得た。得られた研磨用シートを構成する海島型繊維の平均繊維径は23μmであり、孔の直径は平均で0.36μmであった。
比較例1〜4の研磨用シートを用いた研磨加工後のシリコンウエハは、平坦度、研磨レート、表面粗さがいずれも不良であり、従来技術にて得られる研磨用シートでは充分な研磨性能が得られないことがわかった。
【0062】
【表1】

【0063】
表1には、実施例1〜3及び、比較例1〜4で得られた研磨布を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも不織布と高分子弾性体からなる研磨用シートであって、該不織布を構成する繊維は、ポリアミドが海、ポリエステルが島の海島構造を形成し、繊維横断面における島成分の直径が平均で1.0nm〜0.30μmの範囲であるポリマーアロイ繊維であることを特徴とする研磨用シート。
【請求項2】
前記繊維横断面における島成分の直径が平均で1.0nm〜0.20μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の研磨用シート。
【請求項3】
前記ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする請求項1または2に記載の研磨用シート。
【請求項4】
前記高分子弾性体がポリウレタンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の研磨用シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の研磨用シートにおいて、ポリマーアロイ繊維の島成分を除去して中空繊維としたものであることを特徴とする研磨用シート。

【公開番号】特開2008−254146(P2008−254146A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101343(P2007−101343)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】