説明

研磨用組成物

【課題】III−V族化合物材料を含有する部分を有する研磨対象物を研磨したときに、エッチングを原因とした段差が研磨対象物の表面に生じるのを抑えることができる研磨用組成物を提供する。
【解決手段】本発明の研磨用組成物は、砥粒、酸化剤、及び水溶性重合体を含有する。水溶性重合体は、研磨用組成物を25℃の温度の環境下で一日間静置したときに、砥粒の表面積1μmあたりに5000個以上の分子が吸着するものであってもよい。あるいは、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨した後の研磨対象物のIII−V族化合物材料を含有する部分の水接触角を小さくするような化合物であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III−V族化合物材料を含有する部分を有する研磨対象物を研磨する用途で使用される研磨用組成物に関する。本発明はまた、その研磨用組成物を用いた研磨方法及び基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンよりもキャリアの輸送特性に優れるヒ化ガリウム(GaAs)などのIII−V族化合物材料は、次世代の半導体チャネル材料として期待をされている。III−V族化合物チャネルは、III−V族化合物材料を含有する部分(以下、III−V族化合物材料部分ともいう)とケイ素材料を含有する部分(以下、ケイ素材料部分ともいう)とを有する研磨対象物を研磨して形成することができる。このとき、III−V族化合物材料部分を高い研磨速度で研磨することに加えて、研磨対象物の研磨後の表面にエッチングを原因とした段差を生じないことが求められる。しかしながら、III−V族化合物半導体基板を研磨する用途で従来使用されている例えば特許文献1又は特許文献2に記載のような研磨用組成物は、III−V族化合物半導体基板向けに開発されているために、III−V族化合物材料部分とIII−V族化合物以外の材料を含有する部分とを有する研磨対象物を研磨する用途で使用した場合、III−V族化合物材料部分を過剰に研磨及びエッチングしてしまい、研磨後の表面にエッチングを原因とした段差が生じるのを防ぐことが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−150155号公報
【特許文献2】特開2004−327614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明の目的は、III−V族化合物材料部分を有する研磨対象物を研磨したときに、エッチングを原因とした段差が研磨対象物の表面に生じるのを抑えることができる研磨用組成物を提供すること、またその研磨用組成物を用いた研磨方法及び基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の態様では、III−V族化合物材料部分を有する研磨対象物を研磨する用途で使用される研磨用組成物であって、砥粒、酸化剤、及び水溶性重合体を含有する研磨用組成物を提供する。
【0006】
水溶性重合体は、研磨用組成物を25℃の温度の環境下で一日間静置したときに、砥粒の表面積1μmあたりに5000個以上の分子が吸着するものであってもよい。
あるいは、水溶性重合体は、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨した後のIII−V族化合物材料部分の水接触角が、その研磨用組成物から水溶性重合体を除いた組成を有する別の組成物を用いて前記研磨対象物を研磨した後のIII−V族化合物材料部分の水接触角と比較して小さくなるような化合物であってもよい。
【0007】
あるいは、水溶性重合体は、化学式:R1−X1−Y1で表されるアニオン界面活性剤であってもよい。ただし、R1はアルキル基、アルキルフェニル基又はアルケニル基を表し、X1はポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基又はポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)基を表し、Y1はSOM1基、SOM1基、COM1基又はPOM1基を表し、M1はカウンターイオンを表す。
【0008】
本発明の第2の態様では、上記第1の態様の研磨用組成物を用いて、III−V族化合物材料部分を有する研磨対象物を研磨する方法を提供する。
本発明の第3の態様では、上記第1の態様の研磨用組成物を用いて、III−V族化合物材料部分を有する研磨対象物を研磨することにより、基板を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、III−V族化合物材料部分を有する研磨対象物を研磨したときに、エッチングを原因とした段差が研磨対象物の表面に生じるのを抑えることができる研磨用組成物と、その研磨用組成物を用いた研磨方法及び基板の製造方法とが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の研磨用組成物は、砥粒と酸化剤と水溶性重合体を水に混合して調製される。従って、研磨用組成物は、砥粒、酸化剤及び水溶性重合体を含有する。
【0011】
この研磨用組成物は、III−V族化合物材料部分を有する研磨対象物を研磨する用途、さらに言えばその研磨対象物を研磨して基板を製造する用途で使用される。研磨対象物は、ケイ素材料部分をさらに有していてもよい。III−V族化合物材料の例としては、リン化ガリウム(GaP)、リン化インジウム(InP)、ヒ化ガリウム(GaAs)、ヒ化インジウム(InAs)、アンチモン化インジウム(InSb)等が挙げられる。また、ケイ素材料の例としては、ポリシリコン、酸化シリコン、窒化シリコン等が挙げられる。
【0012】
(砥粒)
研磨用組成物中に含まれる砥粒は、無機粒子及び有機粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、シリカ、アルミナ、セリア、チタニアなどの金属酸化物からなる粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。その中でもシリカ粒子が好ましく、特に好ましいのはコロイダルシリカである。
【0013】
研磨用組成物中の砥粒の含有量は0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。砥粒の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物によるIII−V族化合物材料部分の研磨速度が向上する。
【0014】
研磨用組成物中の砥粒の含有量はまた、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは17質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。砥粒の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、砥粒の凝集が起こりにくくなる。
【0015】
砥粒の平均一次粒子径は5nm以上であることが好ましく、より好ましくは7nm以上、さらに好ましくは10nm以上である。砥粒の平均一次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物によるIII−V族化合物材料部分の研磨速度が向上する。なお、砥粒の平均一次粒子径の値は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて計算することができる。
【0016】
砥粒の平均一次粒子径はまた、150nm以下であることが好ましく、より好ましくは110nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。砥粒の平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することによりスクラッチのより少ない研磨面を得ることが容易になる。
【0017】
砥粒の平均二次粒子径は300nm以下であることが好ましく、より好ましくは270nm以下、さらに好ましくは250nm以下である。砥粒の平均二次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することによりスクラッチのより少ない研磨面を得ることが容易になる。砥粒の平均二次粒子径の値は、例えば、レーザー光散乱法により測定することができる。
【0018】
(酸化剤)
研磨用組成物中に含まれる酸化剤の種類は特に限定されないが、0.3V以上の標準電極電位を有していることが好ましい。0.3V以上の標準電極電位を有する酸化剤を使用した場合には、0.3V未満の標準電極電位を有する酸化剤を使用した場合に比べて、研磨用組成物によるIII−V族化合物材料部分及びケイ素材料部分の研磨速度が向上するという有利がある。0.3V以上の標準電極電位を有する酸化剤の具体例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、有機酸化剤、オゾン水、銀( I I ) 塩、鉄( I I I ) 塩、並びに過マンガン酸、クロム酸、重クロム酸、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、硫酸、過硫酸、クエン酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩等が挙げられる。これらの中でも、研磨用組成物によるIII−V族化合物材料部分及びケイ素材料部分の研磨速度が大きく向上することから、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、及びジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが好ましい。
【0019】
なお、標準電極電位とは、酸化反応に関与するすべての化学種が標準状態にあるときに次式で表される。
E0=−△G0/nF=(RT/nF)lnK
ここで、E0は標準電極電位、△G0は酸化反応の標準ギブスエネルギー変化、Kはその平行定数、Fはファラデー定数、Tは絶対温度、nは酸化反応に関与する電子数である。従って、標準電極電位は温度により変動するので、本明細書中においては25℃における標準電極電位を採用している。なお、水溶液系の標準電極電位は、例えば改訂4版化学便覧(基礎編)II、pp464−468(日本化学会編)等に記載されている。
【0020】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量は0.01mol/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.1mol/L以上である。酸化剤の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物によるIII−V族化合物材料部分の研磨速度が向上する。
【0021】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量はまた、100mol/L以下であることが好ましく、より好ましくは50mol/L以下である。酸化剤の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、研磨使用後の研磨用組成物の処理、すなわち廃液処理の負荷を軽減することができる。
【0022】
(水溶性重合体)
研磨用組成物中に含まれる水溶性重合体の種類は特に限定されないが、研磨用組成物を25℃の温度の環境下で一日間静置したときに、砥粒の表面積1μmあたりに5000個以上の分子が吸着するような種類の水溶性重合体、例えばポリオキシアルキレン鎖を有するノニオン性化合物を使用することができる。ポリオキシアルキレン鎖を有するノニオン性化合物の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン(以下、POEという)アルキレンジグリセリルエーテル、POEアルキルエーテル、POEソルビタン脂肪酸エステル、POEアルキルフェニルエーテル、POEグリコール脂肪酸エステル、POEヘキシタン脂肪酸エステル、POEポリプロピレンアルキルエーテル、及びポリオキシプロピレン/ポリオキシエチレンのブロック/ランダムコポリマーが挙げられる。このような水溶性重合体を使用した場合には、所定の量以上の水溶性重合体が砥粒の表面に吸着することにより砥粒の性質に変化が生じる結果、ディッシングやエロージョンが研磨対象物の表面に発生するのを抑えることができる。
【0023】
あるいは、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基及びエーテル基等の親水性基を有する水溶性重合体を使用することもできる。このような水溶性重合体を使用した場合には、疎水性を有するIII−V族化合物材料部分の表面に研磨用組成物中の水溶性重合体が吸着することにより当該表面の濡れ性が向上する結果、エッチングを原因とした段差が研磨対象物の表面に発生するのを抑えることができる。水溶性重合体が有する親水性基の数は、一分子当たり3個以上であることが好ましく、より好ましくは5個以上、さらに好ましくは10個以上である。水溶性重合体が有する親水性基の数が多いほど、III−V族化合物材料部分に対する親水効果が高まり、その結果としてエッチングを原因とした段差の発生がさらに抑えられる。
【0024】
水溶性重合体は、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨した後のIII−V族化合物材料部分の水接触角が、この研磨用組成物から水溶性重合体を除いた組成を有する別の組成物を用いて同じ研磨対象物を研磨した後のIII−V族化合物材料部分の水接触角と比較して小さくなるような種類の化合物、好ましくは57度以下、より好ましくは50度以下、さらに好ましくは45度以下となるような種類の化合物の中から選択して使用されることが好ましい。このような水溶性重合体の具体例としては、多糖類であるアルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、デンプン、寒天、カードラン及びプルラン、
アルコール化合物であるポリエチレングリコール、ポリグリセリン、ペンタノール、ポリプロピレングリコール及びポリビニルアルコール(このうちポリエチレングリコール、ポリグリセリン及びポリプロピレングリコールはアルコール化合物であってかつポリエーテルである)、
ポリオキシアルキレン鎖を有するノニオン性化合物であるPOEアルキレンジグリセリルエーテル、POEアルキルエーテル及びモノオレイン酸POE(6)ソルビタン、ポリカルボン酸又はその塩であるポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリシン、ポリリンゴ酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸アンモニウム塩、ポリメタクリル酸ナトリウム塩、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリフマル酸、ポリ(p−スチレンカルボン酸)、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、アミノポリアクリルアミド、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸アンモニウム塩、ポリアクリル酸ナトリウム塩、ポリアミド酸、ポリアミド酸アンモニウム塩、ポリアミド酸ナトリウム塩、ポリグリオキシル酸、ポリカルボン酸アミド、ポリカルボン酸エステル及びポリカルボン酸塩が挙げられる。
【0025】
研磨用組成物中の水溶性重合体の含有量は10質量ppm以上であることが好ましく、より好ましくは50質量ppm以上、さらに好ましくは100質量ppm以上である。水溶性重合体の含有量が多くなるにつれて、エッチングを原因とした段差の発生はさらに抑えられる。
【0026】
研磨用組成物中の水溶性重合体の含有量はまた、100000質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは50000質量ppm以下、さらに好ましくは10000質量ppm以下である。水溶性重合体の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物中の砥粒の凝集が起こりにくくなり、その結果として研磨用組成物の保存安定性が向上する。
【0027】
水溶性重合体の分子量は100以上であることが好ましく、より好ましくは300以上である。水溶性重合体の分子量が大きくなるにつれて、エッチングを原因とした段差の発生はさらに抑えられる。
【0028】
水溶性重合体の分子量は500000以下であることが好ましく、より好ましくは300000以下である。水溶性重合体の分子量が小さくなるにつれて、研磨用組成物中の砥粒の凝集が起こりにくくなり、その結果として研磨用組成物の保存安定性が向上する。
【0029】
あるいは、本実施形態の研磨用組成物は、化学式:R1−X1−Y1で表されるアニオン界面活性剤を水溶性重合体として含んでもよい。ただし、R1はアルキル基、アルキルフェニル基又はアルケニル基を表し、X1はポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基又はポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)基を表し、Y1はSOM1基、SOM1基、COM1基又はPOM1基を表す。SOM1基、SOM1基、COM1基及びPOM1基のM1はカウンターイオンを表す。カウンターイオンは、例えば、アンモニウムカチオン、アミン類カチオン、およびリチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオンのようなアルカリ金属カチオンなど特に限定されない。また、全てのカウンターイオンが置換されている必要はなく、一部が水素であっても構わない。このようなアニオン界面活性剤を水溶性重合体として使用した場合には、研磨対象物のIII−V族化合物材料部分にアニオン界面活性剤が電気的に吸着して保護膜を形成することにより、III−V族化合物材料部分の表面と砥粒との間の親和性が低下する結果、ディッシングが研磨対象物の表面に発生するのを抑えることができる。
【0030】
本実施形態によれば以下の作用効果が得られる。
本実施形態の研磨用組成物では、エッチングを原因とした段差が研磨対象物の表面に発生するのを抑えるために、研磨対象物のIII−V族化合物材料部分と相互作用する水溶性重合体が使用されている。そのため、この研磨用組成物は、III−V族化合物材料部分を有する研磨対象物を研磨する用途で好適に用いられる。
【0031】
前記実施形態は次のように変更されてもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、二種類以上の砥粒を含有してもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、二種類以上の酸化剤を含有してもよい。
【0032】
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、二種類以上の水溶性重合体を含有してもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、防腐剤のような公知の添加剤を必要に応じてさらに含有してもよい。
【0033】
・ 前記実施形態の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水で希釈することにより調製されてもよい。
【0034】
次に、本発明の実施例及び比較例を説明する。
コロイダルシリカ、酸化剤及び水溶性重合体を水と混合することにより、実施例1〜12の研磨用組成物を調製した。また、コロイダルシリカ及び酸化剤を水と混合して比較例1の研磨用組成物を調製した。各研磨用組成物中の成分の詳細を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例1〜12の各研磨用組成物について、コロイダルシリカの単位表面積あたりに吸着する水溶性重合体の分子数を次のようにして測定した。すなわち、各研磨用組成物を25℃の温度の環境下で一日間静置した後、20000rpmの回転速度で2時間遠心分離して上澄み液を回収した。回収した上澄み液中の全有機炭素量を、燃焼触媒酸化方式の有機炭素測定装置を用いて計測した。またそれとは別に、各研磨用組成物からコロイダルシリカを除いた組成を有する組成物を用意し、25℃の温度の環境下で一日間静置した後、同じく燃焼触媒酸化方式の有機炭素測定装置を用いてこの組成物中の全有機炭素量を計測した。そして、対応する研磨用組成物の上澄み液中の全有機炭素量をこれから減ずることにより、研磨用組成物中のコロイダルシリカに対する水溶性重合体の全吸着量を算出した。コロイダルシリカの単位表面積あたりに吸着する水溶性重合体の分子数は、こうして算出した吸着量からコロイダルシリカの表面積及び水溶性重合体の分子量に基づいて算出することができた。その結果を表2の“コロイダルシリカ1μmあたりの吸着分子数”欄に示す。
【0037】
実施例1〜12及び比較例1の各研磨用組成物を用いて、ヒ化ガリウムブランケットウェーハの表面を、表3に記載の条件で研磨したときに求められる研磨速度の値を表2の“GaAsの研磨速度”欄に示す。研磨速度の値は、研磨前後のウェーハの重量の差を密度と研磨時間で除することによって求めた。
【0038】
研磨後のヒ化ガリウムブランケットウェーハを純水でリンスし、乾燥空気を吹き付けて乾燥した後、市販の接触角評価装置を用いてθ/2法で水接触角を測定した。その結果を表2の“水接触角”欄に示す。
【0039】
ヒ化ガリウムブランケットウェーハを2cm四方の大きさのウェーハ小片にカットし、実施例1〜12及び比較例1の各研磨用組成物中に25℃で5分間浸漬した。浸漬前後のウェーハ小片の重量の差とヒ化ガリウムの比重(5.3g/cm)から換算したヒ化ガリウムのエッチング速度を表2の“GaAsのエッチング速度”欄に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
表2に示すように、水溶性重合体を含有する実施例1〜11の研磨用組成物の場合、水溶性重合体を含有しない比較例1の場合と比較して、ヒ化ガリウムのエッチング速度に低下が認められた。この結果から、エッチングを原因とした段差の発生を抑えるのに水溶性重合体が有効であることが示唆される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III−V族化合物材料を含有する部分を有する研磨対象物を研磨する用途で使用される研磨用組成物であって、砥粒、酸化剤、及び水溶性重合体を含有することを特徴とする研磨用組成物。
【請求項2】
研磨用組成物を25℃の温度の環境下で一日間静置したときに、前記砥粒の表面積1μmあたりに5000個以上の前記水溶性重合体の分子が吸着する、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記水溶性重合体は親水性基を有し、
研磨用組成物を用いて前記研磨対象物を研磨した後のIII−V族化合物材料を含有する部分の水接触角が、その研磨用組成物から水溶性重合体を除いた組成を有する別の組成物を用いて前記研磨対象物を研磨した後のIII−V族化合物材料を含有する部分の水接触角と比較して小さい、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記水溶性重合体は、化学式:R1−X1−Y1(ただし、R1はアルキル基、アルキルフェニル基又はアルケニル基を表し、X1はポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基又はポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)基を表し、Y1はSOM1基、SOM1基、COM1基又はPOM1基(ただし、M1はカウンターイオンを表す)を表す。)で表されるアニオン界面活性剤である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いて、III−V族化合物材料を含有する部分を有する研磨対象物を研磨することを特徴とする研磨方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いて、III−V族化合物材料を含有する部分を有する研磨対象物を研磨することにより、基板を製造することを特徴とする基板の製造方法。

【公開番号】特開2013−115155(P2013−115155A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258346(P2011−258346)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000236702)株式会社フジミインコーポレーテッド (126)
【Fターム(参考)】