説明

研磨装置用ワークピース保持リング

【課題】耐磨耗性及び耐久性に優れるとともに、研磨中にウエハを傷つけることがなく、かつ、環境負荷が小さい研磨装置用ワークピース保持リングを提供すること。
【解決手段】ポリグリコール酸樹脂から形成された研磨装置用ワークピース保持リングRであって、ロックウェル硬度が100以上であることを特徴とする研磨装置用ワークピース保持リング。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウエハなどのワークピースを研磨するための研磨装置において、ワークピースを保持するために用いられるワークピース保持リングに関し、さらに詳しくは、ポリグリコール酸樹脂から形成され、耐摩耗性と耐久性に優れ、ワークピースを傷つけることがない研磨装置用ワークピース保持リング(以下、単に「ワークピース保持リング」ということがある。)に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウエハ製造工程の最終段階において、シリコンウエハ(以下、単に「ウエハ」と呼ぶことがある)は、要求仕様に応じて、表面のみを鏡面研磨する片面研磨、あるいは表裏両面を研磨する両面研磨により、平坦化・平滑化される。ウエハの表面を研磨することにより、平坦・平滑にするだけではなく、研磨加工に伴い加工歪が生じないように加工する必要がある。研磨と同時に加工歪を除去するために、物理的な研磨と同時に化学的なエッチングを進行させる化学的機械研磨方式が一般に採用されている。具体的には、シリカ系微粉末をアルカリ溶液に懸濁した研磨スラリーを用い、研磨布を貼った定盤とウエハとを擦り合わせて研磨する。
【0003】
研磨方式としては、両面研磨装置を用いてシリコンウエハの両面を同時に研磨する方式と、ウエハを1回の加工で1枚ずつ加工する枚葉研磨装置や複数のウエハを1度に加工するバッチ式研磨装置などの片面研磨装置を用いて、表面及び裏面をそれぞれ研磨する方式がある。両面研磨装置は、ウエハの大口径化に伴って巨大なものとなり、ウエハを高精度に加工することや、温度変化による変形の制御などが困難になるなどの問題がある。片面研磨装置は、一般に、研磨布を貼った定盤に対し、ウエハを直接または間接的に固定した研磨ヘッドを押しつけ、相互に運動させることによりウエハの研磨布に接触している側の面を研磨する。化学的機械研磨方式では、ウエハと研磨布との接触面に研磨スラリーを供給しながら研磨する。
【0004】
従来、シリコンウエハなどのワークピースを研磨するための研磨装置としては、例えば、以下に述べるようなものがある。図1は、従来のウエハ研磨装置の一例を示す断面図である。研磨ヘッド1の中央の試料載置部4には、同心円状または放射状に溝3が形成されており、該溝3中に形成された排気用貫通孔2は、真空経路を介して真空ポンプ(図示せず)に通じている。ワークピース(ウエハ)Wを試料載置部4上に載置し、排気用貫通孔2を介して溝3を真空に引くことによって、ワークピースWを研磨ヘッド1の試料載置部4上に固定する。
【0005】
ワークピースWの周囲には、ワークピース保持リングR(「リテーナ」または「リテーナリング」ともいわれる。)が配置されている。ワークピース保持リングRは、研磨の際にワークピースW周縁部の面ダレ(周縁部分が薄くなること)を防止する役割を果すものであり、ワークピースW面とほぼ同じ高さになる程度の厚さに調整されている。研磨材を含有するスラリーをワークピースW上面に注ぎながら、研磨パッド5を回転させることにより、ワークピースWの研磨を行う。ワークピース保持リングRがあることにより、研磨パッド5は、安定した面で回転し、それによって、ワークピースWの研磨精度が向上する。図2は、研磨パッド5が除かれた状態の平面図である。
【0006】
図3は、研磨ヘッドとして空気加圧式キャリアを用いたウエハ研磨装置の一例を示す断面図である。キャリア30の下面に凹部31が形成されており、この凹部31が可撓性シート32で覆われて、圧力室34が形成されている。圧力室34と連通する空気供給路33がキャリア30の中央部に設けられている。ワークピース(ウエハ)Wを保持するためのワークピース保持リングRがキャリア30の外周部に接着剤で取り付けられている。ウエハWをワークピース保持リングRの内側に収納し、このウエハWを定盤36の研磨パッド35上に接触させた状態で、定盤36、キャリア30、またはこれら両者を回転させてウエハWを研磨する。このとき、空気供給路33から圧力室34に空気を供給して、ウエハWの裏面を加圧し、ウエハWの表面を研磨パッド35に押しつける。研磨中、ウエハWと研磨パッド35との接触面にはスラリーを供給することができる。図4に、ワークピース保持リングRの斜視図を示す。
【0007】
図5は、研磨ヘッドとして他の型式のキャリアを用いた研磨装置の一例を示す断面図である。キャリア50は、ハウジング51の下面にプレッシャプレート52が取り付けられ、ウエハWを保持するためのワークピース保持リングRが、ハウジング51の周辺部に固定された構造を有している。ウエハWをワークピース保持リングRで保持した状態で、ウエハWを押圧しながらキャリア50を回転させ、定盤54の研磨パッド53で研磨する。研磨中、ウエハWと研磨パッド53との接触面にスラリーを供給することができる。
【0008】
このように、シリコンウエハなどのワークピース(通常、平板状である)を研磨するための研磨装置において、ワークピースを保持するためのワークピース保持リングが用いられている。従来、ワークピース保持リングは、エポキシガラス等の軟質材料により形成されていたが、短時間の研磨作業で磨耗してしまい、耐久性に劣るものであった。
【0009】
そこで、特開平8−187657号公報(特許文献1)には、図1に示す構造の研磨装置において、セラミックス製のリテーナ(保持リング)を使用することが提案されている。セラミックス製リテーナは、耐磨耗性に優れているので、保持リングの耐久性が向上する。しかし、セラミックス製リテーナは、硬度が高いため、研磨中にウエハと衝突して、ウエハを傷つけるという欠点がある。
【0010】
特開2000−084836号公報(特許文献2)には、図3に示す構造の研磨装置において、可撓性シートの下面に可撓性のマージンブロックを等厚に突設すると共に、リテーナリング(保持リング)をエポキシガラス、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリレート、または高密度ポリエチレンで形成することが提案されている。
【0011】
特開平2000−052241号公報(特許文献3)には、図5で示される構造の研磨装置において、ワークピース保持リングとして、その内周部分が軟質性素材で形成され、定盤の研磨パッドとの接触部分がセラミックス等の耐摩耗性素材で形成された複合型リングを使用することが提案されている。該公報には、ウエハなどのワークピースと接触する保持リングの内周部分を形成する軟質性素材として、ガラス繊維強化エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン、ポリイミド、メラミン樹脂、またはフェノール樹脂を用いることが記載されている。
【0012】
このような軟質性素材を用いて形成した保持リングを使用すると、衝突によるシリコンウエハなどのワークピースの損傷が抑制される。しかし、これらの軟質性素材のなかで、エポキシガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ナイロンなどを用いて形成した保持リングは、耐磨耗性が不充分であるため、短時間の研磨作業で磨耗してしまい、耐久性に問題がある。ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミドなどを用いて形成した保持リングは、耐磨耗性が良好であるものの、材料が高価であり、経済性に問題がある。また、ポリフェニレンサルファイドは、分子量、溶融粘度、結晶化度などの物性の違いによっては、耐磨耗性が良好であるものの耐久性が十分でなく、またワークピース保持リングを製作する際、あるいは研磨中におけるウエハとの接触により、割れが発生しやすいという問題が生じる場合があった。一方、軟質性素材からなるリングとセラミックスリングなどとを組み合わせた複合型リングは、構造や製造工程が複雑で、しかも高価である。
【0013】
加えて、ワークピース保持リングは、所定枚葉毎または所定期間に定期的に交換されたり、場合によっては破損により交換が必要となったりするものであるので、廃棄処分の簡便さも求められていた。土壌または海中などの自然界に存在する微生物または酵素により分解される生分解性材料としては、ポリ乳酸樹脂やポリグリコール酸樹脂等の脂肪族ポリエステル樹脂が知られているが、これらの材料は、ワークピース保持リングに求められる機械的特性、特に、耐摩耗性や耐久性が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平8−187657号公報
【特許文献2】特開2000−084836号公報
【特許文献3】特開平2000−052241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、耐磨耗性及び耐久性に優れるとともに、研磨中にウエハを傷つけることがなく、かつ、環境負荷が小さい研磨装置用ワークピース保持リングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、ポリグリコール酸樹脂を用いて、特定のロックウエル硬度を有するリングを作製したところ、研磨装置用ワークピース保持リングとして優れた性能を発揮することを見いだした。すなわち、本発明のワークピース保持リングは、耐磨耗性や耐久性などの性能に優れ、衝突によるウエハの損傷を防ぐことができるとともに、易分解性であるので使用後の廃棄が容易である。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0017】
かくして、本発明によれば、ポリグリコール酸樹脂(以下、「PGA」ということがある。)から形成された研磨装置用ワークピース保持リングであって、ロックウェル硬度が100以上であることを特徴とする該研磨装置用ワークピース保持リングが提供される。
【0018】
また、本発明によれば、実施の態様として、以下(1)〜(4)の研磨装置用ワークピース保持リングが提供される。
(1)温度270℃及び剪断速度122sec−1で測定した溶融粘度が100〜10,000Pa・sであるPGAから形成された前記の研磨装置用ワークピース保持リング。
(2)結晶化温度が、120〜190℃であるPGAから形成された前記の研磨装置用ワークピース保持リング。
(3)PGAを押出成形することにより形成されたものである前記の研磨装置用ワークピース保持リング。
(4)PGAを射出成形することにより形成されたものである前記の研磨装置用ワークピース保持リング。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、PGAから形成された研磨装置用ワークピース保持リングであって、ロックウェル硬度が100以上であることを特徴とする該研磨装置用ワークピース保持リングであることによって、耐磨耗性及び耐久性に優れるとともに、研磨中にウエハを傷つけることがなく、かつ、環境負荷が小さい研磨装置用ワークピース保持リングを提供することができるという効果を奏する。本発明のワークピース用保持リングは、シリコンウエハの研磨工程等で好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、ウエハ研磨装置の一例を示す断面図である。
【図2】図2は、図1における保持リングとウエハの平面図である。
【図3】図3は、ウエハ研磨装置の他の一例を示す断面図である。
【図4】図4は、図3のウエハ研磨装置における保持リングの斜視図である。
【図5】図5は、ウエハ研磨装置の他の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.ポリグリコール酸樹脂
本発明におけるPGAは、式:−(O−CH−CO)−で表されるグリコール酸繰り返し単位を有する単独重合体又は共重合体であり、土壌または海中などの自然界に存在する微生物または酵素により分解される生分解性材料である。また、本発明におけるPGAは、グリコール酸繰り返し単位が、好ましくは70質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であり、最も好ましくは99質量%以上である実質的にPGAホモポリマーである。グリコール酸繰り返し単位の割合が小さすぎると、PGAに期待される分解性、耐熱性、強度等が乏しくなり、また、PGAが本来有している結晶性が損われ、得られるワークピース保持リングの耐摩耗性や耐久性が低下するおそれがある。PGAにおける、該グリコール酸繰り返し単位以外の繰り返し単位は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下であり、最も好ましくは1質量%以下の割合で用いられ、グリコール酸繰り返し単位以外の繰り返し単位を含まないホモポリマーであることが好ましい。
【0022】
〔重量平均分子量(Mw)〕
本発明のワークピース保持リングを形成するPGAは、重量平均分子量(Mw)が、通常5〜150万、好ましくは7〜120万、より好ましくは10〜100万、特に好ましくは12〜80万の範囲のものである。PGAの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置によって求めたものである。
【0023】
〔溶融粘度〕
本発明のワークピース保持リングを形成するPGAは、温度270℃、剪断速度122sec−1の条件下において測定した溶融粘度が、好ましくは100〜10,000Pa・s、より好ましくは200〜5,000Pa・s、更に好ましくは300〜2,000Pa・s、特に好ましくは400〜1,500Pa・sの範囲である。PGAの溶融粘度は、JIS K7199に準拠し、キャピログラフを用いて測定したものである。溶融粘度が小さすぎると、ワークピース保持リングの機械物性が著しく低下し、耐摩耗性や耐久性が十分でないおそれがある。溶融粘度が大きすぎると、成形性が損なわれるおそれがある。
【0024】
〔結晶化温度(Tc2)〕
また、本発明のワークピース保持リングを形成するPGAは、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した結晶化温度(Tc2)が、好ましくは120〜195℃、より好ましくは122〜185℃、更に好ましくは125〜175℃、特に好ましくは127〜165℃、最も好ましくは130〜150℃の範囲である。結晶化温度(Tc2)は、JIS K7121に準拠し、DSCを用いて、窒素雰囲気中で求めたものである。具体的には、PGA試料5mgを、窒素雰囲気下、30℃から、結晶の融解ピークが消失する結晶融点(Tm)より高い270℃まで、20℃/分の昇温速度で加熱し、270℃で2分間保持した後、溶融状態にある試料を、20℃/分の降温速度で冷却する際に、熱量曲線に現れる結晶化による発熱ピークの極大点を示す温度を、結晶化温度Tc2の測定値とする。結晶化温度(Tc2)が低すぎると、研磨装置用ワークピース保持リングの機械物性が著しく低下し、耐摩耗性や耐久性が十分でないおそれがある。結晶化温度(Tc2)が高すぎると、成形性が損なわれるおそれがある。PGAの結晶化温度(Tc2)は、PGAの分子量や、用いたコモノマーの種類等によって変動させることができる。
【0025】
〔結晶融点(Tm)及びガラス転移温度(Tg)〕
さらに、本発明のワークピース保持リングを形成するPGAは、結晶融点(Tm)が、200℃以上であることがより好ましく、210℃以上であることが特に好ましい。また、ガラス転移温度(Tg)が、25〜50℃の範囲であることが好ましい。結晶融点(Tm)またはガラス転移温度(Tg)が低すぎると、研磨装置用ワークピース保持リングの機械物性が低下し、耐摩耗性や耐久性が不足するおそれがある。結晶融点(Tm)またはガラス転移温度(Tg)が高すぎると、成形性が損なわれるおそれがある。結晶融点(Tm)の上限は、通常245℃である。最も好ましく使用されるPGAは、結晶融点(Tm)が約220℃、及びガラス転移温度(Tg)が約38℃のものである。結晶融点(Tm)及びガラス転移温度(Tg)は、DSCを用いて、窒素雰囲気中で求めたものである。
【0026】
2.ポリグリコール酸樹脂の製造方法
本発明におけるPGAは、従来より知られているPGAの製造方法によって得ることができ、例えば、以下の(1)または(2)の方法によって製造することができる。
【0027】
(1)グリコール酸の二量体エステルであるグリコリドを、必要に応じてグリコール酸繰り返し単位以外の繰り返し単位を形成するコモノマーとともに、少量の触媒(例えば、有機カルボン酸錫、ハロゲン化錫、ハロゲン化アンチモン等のカチオン触媒)の存在下に、約120〜270℃、好ましくは130〜260℃、より好ましくは140〜250℃の温度に加熱して、3分間〜50時間、好ましくは5分間〜30時間、より好ましくは10分間〜20時間開環重合する方法によってPGAを得る。開環重合は、塊状重合法または溶液重合法によることが好ましく、塊状重合がより好ましい。
【0028】
(2)グリコール酸またはグリコール酸アルキルエステルを、必要に応じてグリコール酸繰り返し単位以外の繰り返し単位を形成するコモノマーとともに、触媒の存在下または不存在下に、(1)に記載した温度及び時間の条件で加熱して、脱水または脱アルコールする重縮合法によってPGAを得る。
【0029】
分子量調節のために、ラウリルアルコールなどの高級アルコールや水などを分子量調節剤として使用することができる。また、物性改良のために、グリセリンなどの多価アルコールを添加してもよい。塊状重合の重合装置としては、押出機型、パドル翼を持った縦型、ヘリカルリボン翼を持った縦型、押出機型やニーダー型の横型、アンプル型、板状型、管状型など様々な装置の中から、適宜選択することができる。また、溶液重合には、各種反応槽を用いることができる。
【0030】
生成したPGAを固体状態とした後、所望により、更に固相重合を行ってもよい。固相重合とは、PGAのガラス転移温度(Tg)以上結晶融点(Tm)未満の温度で加熱することにより、固体状態を維持したままで熱処理する操作を意味する。この固相重合により、未反応モノマー、オリゴマーなどの低分子量成分が揮発・除去される。固相重合は、好ましくは1〜100時間、より好ましくは2〜50時間、特に好ましくは3〜30時間で行われる。
【0031】
また、固体状態のPGAを、その結晶融点(Tm)+38℃以上、好ましくは結晶融点(Tm)+38℃から結晶融点(Tm)+100℃までの温度範囲内で溶融混練する工程により熱履歴を与えることによって、結晶性を制御してもよい。
【0032】
上記(1)または(2)の方法において使用することができるコモノマーとして、例えば、シュウ酸エチレン、すなわち1,4−ジオキサン−2,3−ジオン、ラクチド、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等)、トリメチレンカーボネート、及び1,3−ジオキサンなどの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族ジオールと、琥珀酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸またはそのアルキルエステルとの実質的に等モルの混合物;などを挙げることができる。これらのコノマーの1種類または2種類以上を、グリコリド、グリコール酸またはグリコール酸アルキルエステルと適宜組み合わせて重合することにより、ポリグリコール酸共重合体を得ることができる。
【0033】
また、ポリグリコール酸共重合体は、PGAと、先にコノマーとして挙げた化合物等から形成された繰り返し単位を有する重合体とを、加熱下にエステル交換反応させることによって得られたものであってもよい。
【0034】
PGAの製造方法としては、(1)のグリコリドを開環重合する方法が、高分子量のPGAを得やすいので、好ましい。
【0035】
グリコリドとしては、その製造方法は特に限定されないが、本発明者らが開発した溶液相解重合法(特開平9−328481号公報参照)によると高純度のグリコリドを高収率で大量に得ることができるので好ましい。高純度のグリコリドを用いることにより、分子量が大きいPGAを容易に得ることができる。
【0036】
溶液相解重合法によるグリコリドの製造方法は、グリコール酸オリゴマーと230〜450℃の範囲内の沸点を有する少なくとも一種の高沸点極性有機溶媒とを含む混合物を、常圧下または減圧下に、該オリゴマーの解重合が起こる温度に加熱して該オリゴマーを該溶媒に溶解させ、次いで、該オリゴマーの融液相の残存率(容積比)が0.5以下になるまで同温度での加熱を更に継続して該オリゴマーを解重合させ、生成した2量体環状エステル、すなわちグリコリドを高沸点極性有機溶媒とともに留出させて、該留出物からグリコリドを回収する製造方法である。グリコール酸オリゴマーの解重合温度は、通常、230℃以上であり、好ましくは230〜320℃、より好ましくは235〜300℃である。解重合は、常圧または減圧下に行うが、0.1〜90.0kPa(1〜900mbar)の圧力下で行うことが好ましい。
【0037】
前記高沸点極性有機溶媒としては、例えば、ジ(2−メトキシエチル)フタレート等のフタル酸ビス(アルコキシアルキルエステル);ジエチレングリコールジベンゾエート等のアルキレングリコールジベンゾエート;ベンジルブチルフタレートやジブチルフタレート等の芳香族カルボン酸エステル;トリクレジルホスフェート等の芳香族リン酸エステル;などを挙げることができ、グリコール酸オリゴマーに対して、通常0.3〜50倍量(質量比)、好ましくは0.5〜20倍量の割合で使用する。高沸点極性有機溶媒とともに、必要に応じて、該オリゴマーの可溶化剤として、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどを併用することができる。
【0038】
〔その他の成分〕
本発明で使用するPGAには、本発明の目的を損わない範囲において、他の熱可塑性樹脂、フィラー、または、可塑剤や帯電防止剤等の他の添加剤を配合することができる。
【0039】
本発明で使用するPGAに配合することができる他の熱可塑性樹脂としては、高温で安定な熱可塑性樹脂が好ましい。他の熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性ポリエステル、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリアルキル(メタ)アクリレート、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、フッ素樹脂等を挙げることができる。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、プロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等を挙げることができる。これら他の熱可塑性樹脂は、それぞれ単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。他の熱可塑性樹脂の配合割合は、特に限定されないが、PGA100質量部に対して、通常100質量部以下、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。
【0040】
本発明で使用するPGAに配合することができるフィラーの具体例としては、アスベスト繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維などの無機繊維状物;ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属からなる金属繊維状物;ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂などの高融点樹脂からなる有機繊維状物;等の繊維状フィラーが挙げられる。また、フィラーとして、マイカ、シリカ、タルク、クレー、アルミナ、カオリン、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸ニッケル、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、フェライト、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、ガラスビーズ、石英粉末などの粒状または粉末状フィラーを挙げることができる。
【0041】
これらのフィラーは、それぞれ単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。フィラーの配合割合は、特に制限されないが、PGA100質量部に対して、通常100質量部以下、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。
【0042】
本発明で使用するPGAに配合することができる他の添加剤としては、結晶核剤、末端封止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、防湿剤、防水剤、揆水剤、滑剤、離型剤、カップリング剤、染料、顔料、及び可塑剤などが挙げられる。
【0043】
可塑剤としては、ジ(メトキシエチル)フタレート、ジオクチルフタレート、ジエチルフタレート、ベンジルブチルフタレート等のフタル酸エステル;ジエチレングリコールジベンゾエート、エチレングリコールジベンゾエート等の安息香酸エステル;アジピン酸オクチル、セバチン酸オクチル等の脂肪族二塩基酸エステル;アセチルクエン酸トリブチル等の脂肪族三塩基酸エステル;リン酸ジオクチル、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル;エポキシ化大豆油等のエポキシ系可塑剤;ポリエチレングリコールセバケート、ポリプロピレングリコールラウレート等のポリアルキレングリコールエステル;等が挙げられる。
【0044】
これら他の添加剤は、それぞれ単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。添加剤の配合割合は、それぞれの添加剤の種類と機能に応じて適宜選択することができるが、PGA100質量部に対して、通常30質量部以下、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0045】
フィラーや他の添加剤を使用する際には、必要に応じて、集束剤または表面処理剤を使用することができる。集束剤または表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物などの官能性化合物が挙げられる。これらの化合物は、予め表面処理若しくは収束処理を施して用いるか、または材料調製の際に添加剤等と同時に添加してもよい。
【0046】
3.研磨装置用ワークピース保持リング
本発明のワークピース保持リングは、ロックウェル硬度が100以上であることを特徴とする。
【0047】
〔ロックウェル硬度〕
本発明のワークピース保持リングは、ロックウェル硬度が100以上であり、好ましくは102以上、より好ましくは103以上、更に好ましくは104以上、特に好ましくは105以上である。ワークピース保持リングのロックウェル硬度が低すぎると、耐磨耗性や耐久性が低下する。ワークピース保持リングのロックウェル硬度の上限は特にないが、研磨中にウエハを傷つけることがない観点から、通常115、多くの場合112または110である。
【0048】
ワークピース保持リングのロックウェル硬度は、JIS G0202に準拠して、ロックウェル硬さ試験(Mスケール)により評価を行ったものである。
【0049】
ワークピース保持リングのロックウェル硬度を100以上とするためには、使用するPGAの溶融粘度を適切な範囲としたり、PGA組成物の組成を調整したり、成形方法や成形温度などの成形条件を適切に設定したり、成形後に熱処理を行ったりすることが挙げられ、また、これらを組み合わせて実施することで実現することができる。例えば、ワークピース保持リングの成形後に熱処理を行うと、ロックウェル硬度が更に高くなる場合がある。
【0050】
本発明によるロックウェル硬度が100以上である本発明のワークピース保持リングは、シリコンウエハなど平板状のワークピースの研磨に際して好適に使用することができる。本発明のワークピース保持リングは、通常、それ単独で研磨装置の保持リング(リテーナまたはリテーナリング)として使用することができるが、所望により、セラミックス等の耐摩耗性素材で形成されたリングなどと複合化して使用することもできる。本発明のワークピース保持リングを使用する研磨装置としては、特に限定されず、例えば、図1、図3、図5などに示されている研磨装置を挙げることができる。本発明のワークピース保持リングの厚さや外径、内径などは、装着する研磨装置の大きさ、保持するシリコンウエハなどのワークピースの厚さや大きさなどに応じて適宜定めることができる。
【0051】
4.研磨装置用ワークピース保持リングの製造方法
本発明のワークピース保持リングは、一般に用いられる熱可塑性樹脂の成形加工設備と成形加工方法により作製することができる。具体的には、PGAと必要に応じて他の成分とを混合し、1軸または2軸の押出機を使用して混練し、押し出して成形用ペレットを製造した後、押出成形または射出成形する方法や、必要な成分を混合し、直接、押出成形または射出成形する方法等が挙げられる。
【0052】
PGAと、必要に応じて、前記の他の熱可塑性樹脂、フィラー、または可塑剤等の他の添加剤の一種以上とを混練押出機に供給し、シリンダー温度をPGAの結晶融点(Tm)〜255℃(通常、200〜255℃)として溶融混練し、ストランド状に押出し、冷却、カットしてペレットを製造することが好ましい。
【0053】
PGAを押出成形することによりワークピース保持リングを形成する方法としては、(1)押出成形により平板を作製し、次いで、この平板を切削加工してワークピース保持リングを得る方法、(2)押出成形によりパイプ状成形体を作製し、次いで、このパイプ状成形体を輪切りにしてワークピース保持リングを得る方法等がある。また、PGAを、ワークピース保持リングの形状を有するキャビティを1個または2個以上備える冷却金型を用いて射出成形を行うことができ、キャビティ型を複数備えることにより、容易に多数のワークピース保持リングを同時に得ることができる。
【0054】
押出成形または射出成形などの方法によって作製したワークピース保持リングは、オーブン等の加熱装置を用いて熱処理すると、ロックウエル硬度が上がり、耐摩耗性や耐久性を更に向上させることができる場合があるので好ましい。熱処理は、先に述べたように、通常80〜200℃、好ましくは90〜150℃、より好ましくは100〜140℃の範囲の熱処理温度であり、熱処理を行う時間は、熱処理温度にもよるが、通常5分間〜24時間、好ましくは1〜10時間、より好ましくは2〜7時間の範囲である。
【実施例】
【0055】
以下に合成例、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。PGAまたはワークピース保持リングの物性または特性の測定方法は、以下に示すとおりである。
【0056】
〔重量平均分子量(Mw)〕
PGAの重量平均分子量(Mw)は、10mgの試料を、トリフルオロ酢酸ナトリウムを5mMの濃度で溶解させたヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に、溶解させて10mLとした後、メンブレンフィルターでろ過して試料溶液を得て、この試料溶液の10μlをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置に注入して、下記の測定条件で分子量を測定することによって求めた。
【0057】
<GPC測定条件>
装置:株式会社島津製作所製LC−9A
カラム:昭和電工株式会社製HFIP−806M 2本(直列接続)+プレカラム:HFIP−LG 1本
カラム温度:40℃
溶離液:トリフルオロ酢酸ナトリウムを5mMの濃度で溶解させたHFIP溶液
流速:1mL/min
検出器:示差屈折率計
分子量校正:分子量の異なる標準分子量のポリメタクリル酸メチル5種(Polymer laboratories Ltd.製)を用いて作成した分子量の検量線データを使用
【0058】
〔溶融粘度〕
PGAの溶融粘度は、キャピログラフ1D(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、温度270℃、剪断速度122sec−1の条件で測定した。
【0059】
〔結晶化温度(Tc2)〕
PGAの結晶化温度(Tc2)は、株式会社島津製作所製のDSC−60を使用して、PGA試料5mgをアルミニウムパン中で秤量し、窒素雰囲気下、30℃から270℃まで、20℃/分の昇温速度で加熱し、270℃で2分間保持した後、溶融状態にある試料を、20℃/分の降温速度で冷却した際に現れた結晶化による発熱ピークの極大点を示す温度を、結晶化温度(Tc2)の測定値とした。
【0060】
〔ロックウエル硬度〕
ワークピース保持リングのロックウェル硬度は、松沢精機株式会社製のロックウエル硬さ試験機DRM−Mを用いて、JIS G0202に準拠して、ロックウェル硬さ試験(Mスケール)を行って評価を行った
【0061】
〔耐磨耗性〕
ワークピース保持リングの耐磨耗性は、ロータリーアブレージョンテスタ (株式会社東洋精機製作所製)を用いて、JIS K7204に準拠し、テーバ摩耗試験(摩耗輪:CS−17、荷重9.8N)におけるワークピース保持リングの磨耗量(吸引された摩耗粉)で評価した。磨耗量V(mm)は、式:V=テーバ磨耗試験における磨耗量(mg)/ワークピース保持リングの密度(g/cm)から求めた。摩耗量が50mm以下であれば耐摩耗性は十分であり、摩耗量が30mm以下であれば耐摩耗性が良好であり、摩耗量が20mm以下であれば耐摩耗性が優れていると評価できる。
【0062】
〔耐久性〕
ワークピース保持リングの耐久性は、ワークピース保持リングの厚みが、摩耗により3mm減少するまでのウエハの処理枚数によって評価した。2,000枚以上であれば耐久性は十分であり、2,500枚以上であれば耐久性が良好であり、3,000枚以上であれば耐久性が優れていると評価できる。
【0063】
(実施例1)
重量平均分子量Mwが22万のPGA(株式会社クレハ製。270℃、剪断速度122sec−1で測定した溶融粘度600Pa・s、結晶化温度(Tc2)135℃)に、安定剤としてモノ及びジステアリルアシッドフォスフェートのほぼ等モル混合物(株式会社ADEKA製。商品名アデカスタブ(登録商標)AX−71)300ppm添加したPGA組成物(P−1)を、平板成形用ダイを備えた単軸押出機に供給し、シリンダー温度250℃で押し出し、厚み20mmの平板を作製した。この平板から、切削加工により、内径200mm、外径230mm、厚み20mmの研磨装置用ワークピース保持リングを切り出して作製した。このワークピース保持リングをウエハ研磨装置(図5に示すタイプの研磨装置)にセットし、ワークピース保持リングの厚みが3mm磨耗するまでウエハの研磨試験を繰り返し、ウエハの枚数を測定した。研磨処理試験の終了まで、研磨されたウエハに損傷はみられず、研磨処理試験の終了のワークピース保持リングに傷や割れ等はみられなかった。ワークピース保持リングのロックウエル硬度、及び摩耗量の値とともに、結果を表1に示す。
【0064】
また、前記の切り出した研磨装置用ワークピース保持リングを、オーブン内で120℃で4時間熱処理を行った後、ウエハ研磨装置にセットして、同様にウエハの研磨処理試験を繰り返し、ウエハの枚数を測定した。研磨処理試験の終了まで、研磨されたウエハに損傷はみられず、研磨処理試験の終了のワークピース保持リングに傷や割れ等はみられなかった。ワークピース保持リングのロックウエル硬度、及び摩耗量の値とともに、結果を表1に示す。
【0065】
(実施例2)
組成物P−1に代えて、末端封止剤としてN,N−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(CDI)(川口化学工業株式会社製。商品名DIPC)を0.3phr、及び、結晶核剤として窒化ホウ素(BN)(BSCセラミックス株式会社製。商品名SPC1)を300ppm添加したPGA組成物(P−2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、押出成形により平板を作製し、次いで、切削加工によりワークピース保持リングを切り出した。得られたワークピース保持リング(熱処理なし、及び、熱処理あり)を用いて、実施例1と同様にウエハの研磨処理試験を繰り返した。研磨処理試験の終了まで、研磨されたウエハに損傷はみられず、研磨処理試験の終了のワークピース保持リングに傷や割れ等はみられなかった。ワークピース保持リングのロックウエル硬度、及び摩耗量の値とともに、結果を表1に示す。
【0066】
(比較例1)
PGA組成物(P−1)に代えて、後述する方法により合成したポリフェニレンサルファイド(以下、「PPS」ということがある。)を使用したこと、及び、シリンダー温度を250℃から290℃に変更し、熱処理温度を120℃から150℃に変更したことを除いて、実施例1と同様にして、PPSから形成されたワークピース保持リングを得た。得られたワークピース保持リングを用いて、実施例1と同様にウエハの研磨処理試験を繰り返した。ワークピース保持リングのロックウエル硬度、及び摩耗量の値とともに、結果を表1に示す。
【0067】
[ポリフェニレンサスファイドの合成]
比較例1において使用したPPSは、それ自体公知の以下の方法によって合成した。重合缶にN−メチル−2−ピロリドン(NMP)720kgと、46.21質量%の硫化ナトリウムを含む硫化ナトリウム5水塩420kgとを仕込み、窒素ガスで置換後、攪拌しながら徐々に200℃まで昇温して、水160kgを留出させた。この時、留出水と共に62モルのHSが揮散した。脱水工程後、重合缶にp−ジクロロベンゼン364kgと、NMP250kgとを加え、攪拌しながら220℃で4.5時間反応させた。その後、攪拌を続けながら水59kgを圧入し、255℃に昇温して5時間反応させた。反応終了後、室温付近まで冷却してから、内容物を100メッシュのスクリーンに通して粒状ポリマーを篩分し、アセトン洗浄及び水洗を行い、脱水後、105℃で5時間乾燥した。このようにして得られたPPSの溶融粘度(測定条件は、温度310℃、剪断速度1,216sec−1とした。)は、210Pa・Sであった。
【0068】
【表1】

【0069】
表1の結果から、PGA組成物から形成され、ロックウエル硬度が105.2〜108.6で、また結晶化温度(Tc2)が120〜195℃の範囲内である実施例1及び2のワークピース保持リングは、摩耗量が15.6〜17.6mmと僅かであることから耐摩耗性に優れていること、及び、3,100〜3,200枚のウエハを研磨処理することができ、耐久性に優れていることが分かった。特に、成形後に熱処理を行ったワークピース保持リングは、ロックウエル硬度が増加した結果、耐摩耗性及び耐久性が一層向上したことが分かった。これに対して、前記の方法によって合成されたPPSから形成され、ロックウエル硬度が100未満である比較例1のワークピース保持リングは、耐摩耗性及び耐久性に違いがあることが分かった。
【0070】
(実施例3)
実施例1で作製したワークピース保持リングを、化学的機械研磨方式において使用される汎用のシリカ系スラリー(pH=11)に常温で1週間浸漬し、浸漬後の試験片の形状変化等を目視で観察した。評価基準は以下のとおりとした。評価結果を表2に示す。
良好: リングの形状及び大きさに変化がみられない。
不良: リングの形状または大きさの一方または両方に変化がみられる。
消失: 1週間後には、リングがみられない。
【0071】
(実施例4)
実施例2で作製したワークピース保持リングを、実施例3と同様にして、シリカ系スラリー(pH=11)に常温で1週間浸漬し、試験片の形状変化等を目視で観察した。評価結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
実施例3及び4から、本発明のワークピース保持リングは、pH=11と高アルカリ性のシリカ系スラリーに1週間浸漬しても形状変化や寸法変化がなく、本来、分解性の樹脂であるPGAから形成した本発明のワークピース保持リングのスラリー耐性が良好であることが分かった。
【0074】
(実施例5)
PGA組成物P−2を使用して、内径200mm、外径230mm、厚み20mmのキャビティを2個備える金型を用いて、ワークピース保持リングを射出成形した。このワークピース保持リングは、ロックウエル硬度107.1であって、摩耗量15.1mm、ウエハ処理枚数3,200枚であり、耐摩耗性及び耐久性が良好であった。
【0075】
これらの結果から、本発明のPGAから形成されたワークピース保持リングは、シリコンウエハ等の研磨装置用に好適な耐摩耗性と耐久性、スラリー耐性を有しながら、使用後は、自然界に存在する微生物や酵素により容易に分解生分解されるので、環境負荷が小さいものであることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、PGAから形成された研磨装置用ワークピース保持リングであって、ロックウェル硬度が100以上であることを特徴とする該研磨装置用ワークピース保持リングを提供することができ、耐摩耗性及び耐久性に優れ、かつ、環境負荷が小さい研磨装置用ワークピース保持リングを成形加工により容易に得ることができるので、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0077】
W…ワークピース(ウエハ)、 R…ワークピース保持リング、
1…研磨ヘッド、 2…排気用貫通孔、 3…溝、 4…試料載置部、
5…研磨パッド、 30…キャリア、 31…凹部、 32…可撓性シート、
33…空気供給路、 34…圧力室、 35…研磨パッド、 36…定盤、
50…キャリア、 51…ハウジング、 52…プレッシャプレート、
53…研磨パッド、 54…定盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリコール酸樹脂から形成された研磨装置用ワークピース保持リングであって、ロックウェル硬度が100以上であることを特徴とする該研磨装置用ワークピース保持リング。
【請求項2】
温度270℃及び剪断速度122sec−1で測定した溶融粘度が100〜10,000Pa・sであるポリグリコール酸樹脂から形成された請求項1に記載の研磨装置用ワークピース保持リング。
【請求項3】
結晶化温度が、120〜195℃であるポリグリコール酸樹脂から形成された請求項1に記載の研磨装置用ワークピース保持リング。
【請求項4】
ポリグリコール酸樹脂を押出成形することにより形成されたものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の研磨装置用ワークピース保持リング。
【請求項5】
ポリグリコール酸樹脂を射出成形することにより形成されたものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の研磨装置用ワークピース保持リング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−13986(P2013−13986A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149673(P2011−149673)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】