説明

破損障子紙補修用糊およびその補修方法

【課題】破れ障子紙を、美観を損なうことなく復元する。
【解決手段】破れ障子の補修において、補修用糊として主材および水分拡散抑制材、色調調整材を混合してなる破れ障子補修用混成糊を用いる。また破れた障子紙の破れ部分2の端面にのみ糊を塗布して接着し、破れ障子部2表面に押え紙6を当てて乾燥させてから、最終的に押え紙6を剥離する破れ障子紙の補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、破損した障子紙や書類の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
破損した障子紙や書類などの従来の補修方法は、補修用の紙を破損部に貼るなどの方法で行われている。この従来方法では、補修部が目立つことや、貼り付けた紙の厚さの分、厚くなるなどの問題がある。特に紙を貼り付けた補修部は、外観が悪くなり障子の美観を損ねる。また紙を貼り付ける方法は、補修用の紙を星型や丸型、矩形などに裁断する手間を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−224384、繊維混合のり
本特許は、障子の破れを補修するための繊維混合のりに関するものである。でんぷんのりなどに、紙パルプの微細繊維を混合し、これを障子の破れた部分に塗り、乾燥させ微細繊維をつなぎとして障子を補修する。
【特許文献2】特開2001−115119 やぶれ障子即補修のり
本特許は、紙の繊維を溶かし込んだのりに関するものである。特開平11−224384、繊維混合のり同様、この糊を障子の破れた部分の上に塗り、ヘラなどを用いてなでつけ、塗り広げて補修する。のりはビニル容器に入っており、この容器にはヘラが取り付けられている。塗る場合は、障子の後ろ側を平らな板などで支える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、破れ障子の補修部を可能な限り目立たなくすることにある。背景技術は先に述べたように、従来方法では、和障子の美観を大きく損ねるほか、補修用紙の裁断など手間がかかる問題もある。また先行技術においてはふたつの大きな問題がある。まず補修部の全面にのりを塗り乾燥すると、その部分は和障子紙が持つ独特の可視光に対する不透明性と色調が失われる。具体的には糊を塗った部分は、糊をぬらない部分と比較し、可視光の透過性が増すために、透かし模様ができて補修した部分が目立つようになる。このために障子紙の色調が変わり、補修用の紙を貼った場合と同様に和障子の美観が損なわれる。微細繊維を混合した場合も同様である。また微細繊維を糊に混合する場合、微細繊維が糊の中で凝集し、実際は微細繊維の糊への均一分散は非常に難しい。微細繊維の割合が少ない場合は、この凝集は起りにくいが、少なくすると微細繊維による繋ぎの役目が失われる。また微細繊維混合糊の破れ障子への塗布は実際には非常に難しい。混合した微細繊維が一箇所に集まりむらとなって、均一な厚さの塗布ができなくなるからである。またへらなどでなでつけた場合、一層このむらが出やすくなる。
本発明は、これらの課題を解決するために、糊の改良と補修方法の改良を行ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
課題を解決するための手段は、前述の先行技術文献とは異なり、補修用糊を塗布する場所を破れ障子紙の端面(破断面)のみとし、さらに破れ障子紙の色調に合わせた混成糊を用いることにある。また補修部の平坦性を上げるために、押え紙を用いる。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、破れ障子の上に補修用紙を貼り付けることが不要で、補修部分を限りなく障子紙の破損前の状態に復元することができる効果がある。和障子の美観を損ねることなく補修できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施方法を説明する図
【図2】本発明の破れ障子部の糊付け部を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明を実施するための形態を図により説明する。
図1は、破れ障子紙の補修の手順を示す。(a)は、障子枠1、および破れ障子部分2を示す。(b)は破れ障子の裏面に透明な押え板4を接着テープ3で貼り付けた平面図および側面図を示す。(c)は破れ障子の破れ目の紙の端面のみに糊を塗布した、糊付け補修部5を示す。(d)は糊を塗布した上に押え紙6を貼り付けた面を示す。(e)は裏面の透明な押え板および表面の押え紙を剥がしたときの補修完了部7の状態を示す。
図1の手順をさらに詳細に説明する。(a)の破れ障子の部分は、ペンなどで突き破った場合の破損状態を示している。この裏面に貼り付ける押え板4は例えば、塩化ビニルなどの板を用いる。これを貼り付ける接着テープ3は、後で剥離するため接着力の弱いものを用いる。破れ障子の障子紙の端面のみに糊を塗布する場合は、破れ障子の部分を少し持ち上げて塗布すると塗布しやすくなる。塗布した後で破れ障子紙を平らに伸しながら障子紙端面のみを(c)のように接着する。(d)の接着した破れ障子紙上に貼り付ける押え紙6は、薄い和紙や、通常の事務用加工紙でも良いが、普通の障子紙でも構わない。糊中の水分を吸収しやすい材質の薄い紙を用いる。破れ目に沿って、手で軽く抑えるなどして貼付ける。通常糊の乾燥には4時間程度かかるので、略4時間後に貼り付けた押え紙6を手で剥がす。押え紙は混成糊と接着するが、接着面積が僅かであるために簡単に手で剥がすことができる。その後裏面の透明な押え板4を剥がして補修が完了する。最終的に補修完了部7は、ほとんど補修の痕が残らないまでに復元できる。
【0009】
使用する糊は、通常の市販の障子紙貼り用糊ではなく、可視光に対して不透明な糊(混成糊)を用いる。具体的には、例えば市販でんぷん糊100、市販の木工用などの酢酸ビニル系接着剤10、白い水彩絵の具1の容量割合で混合した糊が好ましい。この混成糊は、この容量割合で混合することによって、補修部分が障子紙と変わらない可視光に対する不透明性と色調が得られる特徴がある。このために、補修部分を補修前に限りなく近い状態に戻すことができる。でんぷん糊と混ぜ合わせた酢酸ビニルは、輪シミを無くす効果がある。でんぷん糊単独で用いた場合には、障子紙の破れた部分に塗布した時に、輪ジミができやすい。破れ障子紙は、通常年数が経っており、紙表面、および内部に塵埃(ごみ)の付着浸透がある。この塵埃は、水溶性の糊の中の水分の作用で、障子紙から抽出されて障子紙の表面を水と一緒に拡散する問題がある。表面拡散した塵埃は乾燥とも拡散し、末端に集まって、シミとなって残る、いわゆる輪ジミの現象となる。この輪ジミは、和障子の美観を大きく損ねる。実験結果、でんぷん糊と酢酸ビニル樹脂接着剤との混合によって、この輪ジミを防ぐことができることが判明した。この理由は混合した、酢酸ビニル樹脂接着剤が水分の拡散を防止する役目を持つことによると考えられる。水分と酢酸ビニルの親和性が非常に高いため、水分は塗布した糊の範囲のみに止まる。またでんぷん糊なしの酢酸ビニル接着剤のみの場合は、乾燥した後の酢酸ビニル樹脂の強度、硬さが高く障子紙と特性が異なるために、接着面に歪が残って裂けやすくなる問題がある。
白色水彩絵の具は、糊の透明性を無くすために微量入れる。また古い障子では白色水彩絵の具に、微量の褐色水彩絵の具を混ぜ合わせることによって、より障子紙の現色に合わせた色調にすることができる。このことによって、糊は可視光に対して障子紙と同程度の不透明さおよび色調になる。したがって、補修部分は補修前と同じ美観が保たれる。
以上のように、混成糊の成分は、主材、水分拡散抑制材、色調調整材の3種類の混合物からなっている。主材は例えばでんぷん糊、水分拡散抑制材はたとえば酢酸ビニル系の接着剤、色調調整材は例えば白色水彩絵の具である。混成糊は有機溶剤系ではなく、水溶性である方が好ましい。これは有機溶剤系を溶媒とする接着剤などの場合、有機溶媒が障子紙表面を拡散する現象が水系より起こりやすくなるためである。このために、輪ジミは有機溶剤系の場合水系より生じやすい。
【実施例】
【0010】
(実施例1)
実施例1を図1および図2を用いて説明する。実施例1では、混成糊には主材として(株)アサヒペン製の障子紙貼用のりを用いた。また水分拡散抑制材としては、発売元(株)大創産業の、乾燥すると透明になる木工用ボンド(酢酸ビニル樹脂40%、水60%)を用いた。色調調整材には、発売元(株)大創産業の白色水彩絵の具を用いた。これら3種類の材料を主材100、水分拡散抑制材10、色調調整材1の割合で混合した。混合にはプラスチック製容器および混合用のガラス製攪拌棒を用いた。攪拌混合は1分以内で終了する。この混成糊を用いて図1の手順で補修を行った。混成糊の塗布は破れ障子紙の端面、より詳細には、図2(a)に示す破断面端面9のみに行った。図では破断部端面9を説明上実際より厚く表示している。塗布には、発売元(株)大創産業の丸型細筆0・0号を用いた。この筆の先端に微量の混成糊を塗布して、障子紙の破断部端面9のみに混成糊を塗布する。障子紙の表面、および反対側の破断部対端面10には塗布しない方が好ましい。塗布しても良いが、糊量が多くなった場合には仕上がり外観が劣る。図2(b)は破れ障子の端面同士を貼り合わせた状態の、糊補修部5を示している。この状態ではまだ混成糊は乾燥していないが、水分拡散抑制材が混合されているために、糊中の水分の拡散が抑制されている。
【0011】
混成糊を図2(a)の破れ障子紙の破断部端面9に塗布する前に、障子の裏面に押え板4をセロテープで貼りつけた。押え板には厚さ0.5mmの透明な塩化ビニル板を用いた。押え板は透明でかつ糊に対して離型性を有する材質が適している。混成のりは水溶性であるために、ほとんどの樹脂材料には接着性を有しない。また樹脂材料を侵すことがない。押え板に透明な材料を用いるのには、他の理由がある。破れ障子が通常はそのまま端面を接着すれば復元できるが、一部が損失して穴があいた破損の場合は、その破損部に障子紙を当てて型取りして、その型取りした障子紙を本発明の方法で修復する。この押え板を障子の裏に貼りつける場合は、微粘着接着剤を塗布した紙などでも良いが、市販の通常のセロテープが適している。図1(b)に示すように、押え板の4点ほどをセロテープで止める程度で構わない。セロテープは、1日程度の時間経過では接着力が変化せず、剥離時容易に剥離することができる。一方微粘着剤を塗布した紙などは、時間の経過とともに障子紙と接着して、剥離時に障子紙を損傷する場合がある。
【0012】
図1(d)の押え紙6には、通常の和紙製障子紙を切断して用いた。押え紙は糊中の水分を吸収する役目とともに、表面に浮き出した微量の糊を平坦にする役目がある。この押え紙は、接着後すぐに糊付け補修部全面に貼った。貼った後、手で破れ目に沿って手で軽く押えた。こうすることで、接着面が平坦になった。4時間経過後、混成糊の完全乾燥を触感で確認してから、押え紙6および押え板4の順で剥がして補修を完了した。補修後は図1の(f)に示すように、補修箇所が目立たない状態に復元できた。遠目からはもちろん近くからも、補修部分を目で確認することが難しい仕上がりとなった。
【0013】
(実施例2)
実施例1においては、障子紙の破れた箇所の一部がちぎれて無くなり、穴の開いた場合について補修を行った。この場合、穴の空いていない破れた箇所を実施例1と同様の方法で補修した後、穴が開いた部分の型取りを行って、その穴の形状の障子紙からなる型紙を作ってから、この型紙を穴の部分に位置を合わせして貼り付けた。糊の塗布は実施例1同様に、型紙の端面のみに行った。用いた混成糊、押え板、押え紙、接着テープなどは実施例1と同じである。型紙は抑え板4の透明性を利用して、破れ障子の損傷穴を自然光で透かして型取りし、挟みで裁断して作った。透かし模様型取りには、消しゴムで消すことのできるHBの鉛筆を用いた。実施例2においても補修は実施例1と同様に行うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は、和障子戸の補修に関するものであり、全面張替えなどの手間が省け、またその分環境に優しい技術である。本発明の方法は、障子紙の修復のほかに、一般事務書類の補修などにも応用することができる。
【符号の説明】
【0015】
1.障子枠
2.破れ障子部
3.接着テープ
4.押え板
5.糊付け補修部
6.押え紙
7.補修完了部
8.障子紙
9.破断部端面
10.破断部対端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
破れ障子の補修において、補修用糊として主材および水分拡散抑制材、色調調整材を混合してなる破れ障子補修用混成糊。
【請求項2】
破れ障子の補修において、破れた障子紙の破れ部分の端面にのみ糊を塗布して接着し、さらにその表面に押え紙を当て、乾燥してから、押え紙を剥離する破れ障子紙の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−42772(P2011−42772A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207497(P2009−207497)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セロテープ
【出願人】(504191486)
【Fターム(参考)】