破断予測方法、破断予測システム、プログラム及び記録媒体

【課題】比較的簡素な構成により、金属材料からなる薄板の破断限界線を用いた正確な破断予測を可能とする。
【解決手段】試料の板厚中心における第1の破断限界線を取得し、試料に曲げ変形を与え、破断が発生した際の表面歪量を算出し、破断が発生した際の表面歪量と、第1の破断限界線における平面歪量との差分値を算出して当該差分値を第1の破断限界線に加算して第2の破断限界線を取得し、薄板の表面歪量を算出し、算出された薄板の表面歪量に基づき、第2の破断限界線を基準として薄板の破断の有無を予測する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料からなる薄板の破断を予測する破断予測方法、破断予測システム、プログラム及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料からなる薄板の破断に対する余裕度は、一般に、板厚減少率や成形限界線図(FLD)を用いて判断される。FLDは破断限界を与える最大主歪みを最小主歪み毎に示した図であり、衝突解析で用いることもできる。
【0003】
実験によるFLDを測定する手法としては、一般に、予め金属板の表面にエッチング等によりサークル状或いは格子状の模様を描いておき、液圧成形や剛体工具での張出し成形で破断させた後に、当該模様の変形量から破断限界歪みを測定する。破断限界線(FLC)は、様々な面内歪み比について金属板を比例負荷し、それぞれの歪み比における破断限界歪みを主歪み軸上にプロットして結線することで得られる。
理論的にFLDを予測する手法としては、Hillの局部くびれモデルとSwiftの拡散くびれモデルの併用、Marciniak-Kuczynski法、シュテーレン−ライスモデル等があり、Keelerの経験則で板厚の影響を補正することで得られる。
【0004】
従来の破断評価方法では、上記のように実験的又は理論的に得られた破断限界線と、塑性変形過程の有限要素法によるシミュレーションの結果から得られる各部位の歪み状態との位置関係を比較することで評価する。この場合、変形過程の歪みがこの限界歪みに達したときに破断すると判断するか、若しくはその危険性が高いと判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−285832号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】1993、 Hosford、 Metal Forming、 319
【非特許文献2】2004、 塑性と加工 45、 123
【非特許文献3】2004、 CAMP-ISIJ 17、 1063
【非特許文献4】1988、 機論A、57、 1617
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のFLDを用いた破断予測方法に対して、特許文献1では、変形経路が変化しても割れ予測が可能となるような工夫をしているが、大きな曲げ変形に起因する割れの場合には予測が困難である。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、比較的簡素な構成により、金属材料からなる薄板の破断限界線を用いた正確な破断予測を可能とする破断予測方法、破断予測システム、プログラム及び記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の破断予測方法は、金属材料からなる薄板の破断を予測する方法であって、試料の板厚中心における第1の破断限界線を取得する工程と、試料に曲げ変形を与え、破断が発生した際の表面歪量を算出する工程と、前記破断が発生した際の表面歪量と、前記第1の破断限界線における平面歪量との差分値を算出し、前記差分値を前記第1の破断限界線に加算して第2の破断限界線を取得する工程と、前記薄板の表面歪量を算出する工程と、
算出された前記薄板の表面歪量に基づき、前記第2の破断限界線を基準として前記薄板の破断の有無を予測する工程とを含む。
【0010】
本発明の破断予測方法の一態様において、前記第1の破断限界線を取得する工程では、単軸引張試験から得られる応力-歪み曲線の近似式である式(1)と、
σeq=Cεeqn ・・・(1)
局所くびれモデルである式(2)と、
【0011】
【数1】
【0012】
拡散くびれモデルである式(3)或いはシュテーレン−ライスモデルである式(3)'とを併用して前記第1の破断限界線を求める。
【0013】
【数2】
【0014】
本発明の破断予測方法の一態様において、前記薄板の表面歪量を算出する工程では、有限要素法を用い、前記試料の曲面部分を5要素以上に分割する。
【0015】
本発明の破断予測システムは、金属材料からなる薄板の破断を予測するシステムであって、試料の板厚中心における第1の破断限界線を取得する第1の破断限界線取得部と、
試料に曲げ変形を与え、破断が発生した際の表面歪量を算出する第1の表面歪量算出部と、前記破断が発生した際の表面歪量と、前記第1の破断限界線における平面歪量との差分値を算出し、前記差分値を前記第1の破断限界線に加算して第2の破断限界線を取得する第2の破断限界線取得部と、前記薄板の表面歪量を算出する第2の表面歪量算出部と、
前記第2の表面歪量算出部で算出された前記薄板の表面歪量に基づき、前記第2の破断限界線を基準として前記薄板の破断の有無を予測する破断予測部とを含む。
【0016】
本発明の破断予測システムの一態様では、前記第1の破断限界線取得部は、前記第1の破断限界線を取得する際に単軸引張試験から得られる応力-歪み曲線の上記の式(1)と、局所くびれモデルである上記の式(2)と、拡散くびれモデルである上記の式(3)或いはシュテーレン−ライスモデルである上記の式(3)'とを併用して前記第1の破断限界線を求める。
【0017】
本発明の破断予測システムの一態様では、前記第2の表面歪量算出部は、前記薄板の表面歪量を算出する際に、有限要素法を用い、前記試料の曲面部分を5要素以上に分割する。
【0018】
本発明のプログラムは、金属材料からなる薄板の破断を予測するためのプログラムであって、試料の板厚中心における第1の破断限界線を取得する工程と、試料に曲げ変形を与え、破断が発生した際の表面歪量を算出する工程と、前記破断が発生した際の表面歪量と、前記第1の破断限界線における平面歪量との差分値を算出し、前記差分値を前記第1の破断限界線に加算して第2の破断限界線を取得する工程と、前記薄板の表面歪量を算出する工程と、算出された前記薄板の表面歪量に基づき、前記第2の破断限界線を基準として前記薄板の破断の有無を予測する工程とをコンピュータに実行させるためのものである。
【0019】
本発明のプログラムの一態様において、前記第1の破断限界線を取得する工程では、前記第1の破断限界線を取得する際に単軸引張試験から得られる応力-歪み曲線の上記の式(1)と、局所くびれモデルである上記の式(2)と、拡散くびれモデルである上記の式(3)或いはシュテーレン−ライスモデルである上記の式(3)'とを併用して前記第1の破断限界線を求める。
【0020】
本発明のプログラムの一態様において、前記薄板の表面歪量を算出する工程では、有限要素法を用い、前記試料の曲面部分を5要素以上に分割する。
【0021】
本発明の記録媒体は、上記のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能なものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、比較的簡素な構成により、金属材料からなる薄板の破断限界線を用いた正確な破断予測が実現する。本発明により、プレス成形や衝突時の破断の危険性を正確に評価することができ、材料、工法及び構造を同時に考慮した自動車車体の効率的で高精度な開発が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態による破断予測システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態による破断予測方法を工程順に示すフロー図である。
【図3】本実施形態の基本骨子を説明するための、最小主歪(ε2)と最大主歪(ε1)との関係を示す特性図である。
【図4】曲げ半径を3mmとした試料について、FEMを用いて解析する様子を例示する図である。
【図5】実施例1において取得した第2の破断限界線及び毛割れ限界線を示す特性図である。
【図6】実施例1において、FEM解析による判定対象である薄板を示す模式図である。
【図7】実施例1において、曲げスパンを200mとした場合について、FEM解析された薄板の様子を示す模式図である。
【図8】実施例1において、曲げスパンを200mとした場合について、R部6分割でFEM解析された薄板外面された最大主歪分布を示す模式図である。
【図9】実施例1において、曲げスパンを200mとした場合について、R部4分割でFEM解析された薄板外面された最大主歪分布を示す模式図である。
【図10】実施例1において、曲げスパンを600mとした場合について、FEM解析された薄板の様子を示す模式図である。
【図11】実施例1において、曲げスパンを600mとした場合について、FEM解析された薄板の様子を示す模式図である。
【図12】実施例1において、曲げスパンを600mとした場合について、R部6分割及び4分割でFEM解析された薄板外面の最大主歪分布を示す模式図である。
【図13】曲げスパンを200mとしたNo.5〜No.7について、従来の破断予測方法による判定結果を示す特性図である。
【図14】曲げスパンを200mとしたNo.5〜No.7について、本実施例の破断予測方法による判定結果を示す特性図である。
【図15】曲げスパンを600mとしたNo.1〜No.4について、従来の破断予測方法による判定結果を示す特性図である。
【図16】曲げスパンを600mとしたNo.1〜No.4について、本実施例の破断予測方法による判定結果を示す特性図である。
【図17】パーソナルユーザ端末装置の内部構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者は、金属材料からなる薄板の曲げ変形による影響を考慮し、簡易な構成で正確な破断予測を実現する手法に想到した。
図1は、本実施形態による破断予測システムの概略構成を示すブロック図である。
図2は、本実施形態による破断予測方法を工程順に示すフロー図である。
図3は、本実施形態の基本骨子を説明するための、最小主歪(ε2)と最大主歪(ε1)との関係を示す特性図である。
【0025】
本実施形態による破断予測システムは、図1に示すように、第1の破断限界線取得部1、第1の表面歪量算出部2、第2の破断限界線取得部3、第2の表面歪量算出部4、破断予測部5、及び記録部6を備えて構成されている。記録部6は、例えば、CD−ROM、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、光磁気ディスク、不揮発性メモリカード等の記憶媒体を有している。
以下、この破断予測システムについて、図2に示す破断予測方法と共に説明する。
【0026】
先ず、所期の金属材料からなる薄板の試料について、第1の破断限界線取得部1は、当該試料の板厚中心における歪みによる破断限界を表す第1の破断限界線を取得する(ステップS1)。ここで、板厚中心における歪みとは、試料である薄板の厚み方向の中央部分に生じる歪みである。得られた第1の破断限界線のデータは、記録部6に格納される。
本実施形態では、第1の破断限界線は、第1の破断限界線取得部1により、金属材料の機械的特性値からの理論的推定に基づいて求められる。
【0027】
金属材料の機械的特性値に基づいて理論的に歪み空間のFLCを第1の破断限界線として取得する手法について説明する。
第1の破断限界線取得部1は、例えば、単軸引張試験から得られる応力-歪み曲線の近似式と、Hillの局所くびれモデルと、Swiftの拡散くびれモデル或いはシュテーレン−ライスモデルとを併用して第1の破断限界線を求める。
【0028】
FLCの理論的推定方法としては、Hillの局部くびれモデルとSwiftの拡散くびれモデルの併用、シュテーレン−ライスモデル(1975、J.Mech.Phys.Solids、23、421)などがあり、Keelerの経験則で板厚の影響を補正することで得られる。以下に、具体的な計算方法を説明する。先ず、以下の式(4)を求めるためのデータを採取するが、試験方法としては単軸引張試験が簡便であり好ましい。
σeq=f(εeq) ・・・(4)
【0029】
単軸引張試験から得られる応力―歪み曲線から、式(4)として適当な材料パラメータを含む関数式にフィッティングして材料パラメータを決定すれば良い。
近似の精度が高く、薄鋼板の数値シミュレーションでよく用いられるn乗硬化則を用いれば、上記の式(1)で応力-歪み曲線を近似的に表現できる。
【0030】
破断限界歪みは、n乗硬化則と降伏曲面に以下の式(5)に示すMisesの降伏関数を用いると、Hillの局部くびれモデルは上記の式(2)で与えられ、Swiftの拡散くびれモデルは上記の式(3)で与えられる。
【0031】
【数3】
【0032】
但し、Hillの理論は2軸引張では局部くびれが得られないため、以下の式(6)の範囲で用い、ρ>0の範囲ではSwiftの拡散くびれモデルを適用する。得られたFLCを、図3に第1の破断限界線L1として示す。
【0033】
【数4】
【0034】
【数5】
【0035】
Swiftの拡散くびれモデルは、等2軸引張近傍で破断限界を小さく見積もる傾向があり改善が必要である。従って、分岐理論をベースにHillの局部くびれモデルを拡張したシュテーレン−ライスモデルを用いる方が好ましい。シュテーレン−ライスモデルは、n乗硬化則と降伏曲面にMisesの降伏曲面に対する全歪み理論の増分表示を用いる場合に、ρ≧0の範囲で破断限界歪みは、以下の式(8)で与えられる。
【0036】
【数6】
【0037】
続いて、第1の表面歪量算出部2は、所期の金属材料からなる薄板の試料に曲げ変形が与えられ、破断が発生した際の表面歪εB(ε2=0のときのε1の値)を算出する(ステップS2)。ここで、表面歪は試料である薄板の表面に生じる歪みであり、曲げ変形による歪みが忠実に反映される値となるものと考えられる。
【0038】
先ず、試料に曲げ変形を与える曲げ試験を行う。試験方法としては、例えばVブロック法(試料をVブロック上に載置し、その中央部に押金具を当て、徐々に加重を加えて規定の形状に曲げる試験方法)を用いる。例えば、試料の板厚は1.88mmであり、試料の曲げ角度を90°とし、試料の曲げ半径を3mm,4mm,5mmに設定する。
曲げ試験の結果の一例を以下の表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
曲げ半径が3mmの試料では、曲げ変形により破断が認められた。曲げ半径が4mmの試料では、破断が認められないものの、いわゆる毛割れ(表面のみの割れ)が認められた。曲げ半径が5mmの試料では、曲げ変形を受けても破断及び毛割れは生じなかった。
以上の結果から、曲げ変形により破断する際の表面歪εBを算出する対象を、ここでは曲げ半径が3mmの試料とする。なお、上記の表面歪εBに加え、曲げ変形により毛割れが生じる際の表面歪を算出しても良い。この場合、算出対象を曲げ半径が4mmの試料とする。
【0041】
次に、第1の表面歪量算出部2は、上記の曲げ試験の結果に基づき、曲げ変形による破断が発生した際、ここでは曲げ半径が3mmの試料の表面歪εBを、例えば有限要素法(FEM)を用いて算出する。算出結果を以下の表2に示す。表2には、表面歪εBと共に、試料に毛割れが生じた曲げ半径を4mmとした試料の表面歪も示す。本実施形態では、FEMにより、有限の境界で閉じられた試料の表面を有限の部分領域にメッシュ分割し、メッシュ分割によって生成された有限個の点(節点)における値に関する連立一次方程式を誘導し、この連立一次方程式を解くことにより、曲げ半径を3mm及び4mmとした試料の表面歪を算出する。曲げ半径を3mmとした試料について、FEMを用いて解析する様子を図4に例示する。
【0042】
【表2】
【0043】
続いて、第2の破断限界線取得部3は、記録部6から第1の破断限界線のデータを読み出し、試料に破断が発生した際の表面歪量εBと、第1の破断限界線における平面歪εb(第1の破断限界線でε2=0のときのε1の値)との差分値を算出し、この差分値を第1の破断限界線に加算して第2の破断限界線を取得する(ステップS3)。即ち、図3において、第1の破断限界線L1を上記の差分値だけ上方にオフセットする。第2の破断限界線は、試料の曲げ変形によって生じる表面歪に対応して、第1の破断限界線が曲げ補正されたFLCであり、図3に第2の破断限界線L2として示す。得られた第2の破断限界線のデータは記録部6に格納される。
【0044】
ここで、第2の破断限界線と共に、試料に毛割れが発生した際の表面歪量と、第1の破断限界線における平面歪εb(第1の破断限界線でε2=0のときのε1の値)との差分値を算出し、この差分値を第1の破断限界線に加算して毛割れに対応したFLC(以下、「毛割れ限界線」と言う。)を取得するようにしても良い。
【0045】
続いて、第2の表面歪量算出部4は、破断予測の対象である薄板の表面歪量を、例えばFEMを用いて算出する(ステップS4)。本実施形態では、例えば後述するように、Cowper-Symondsのパラメータを用い、メッシュ分割を所定サイズに設定してFEM解析を行う。
【0046】
続いて、破断予測部5は、第2の表面歪量算出部4で算出した薄板の表面歪量に基づき、第2の破断限界線を基準として薄板の破断の有無を予測する(ステップS5)。
具体的に、破断予測部5は、記録部6から第2の破断限界線のデータを読み出し、第2の表面歪量算出部4でFEM解析により得られた表面歪量(最小主歪ε2,最大主歪ε1)の、第2の破断限界線との大小を判定する。即ち、FEM解析により得られた表面歪量が、第2の破断限界線以上(図3において、得られた表面歪量が第2の破断限界線L2上を含む上方に位置するとき)であれば、当該薄板には破断が生じると判定する。一方、FEM解析により得られた表面歪量が第2の破断限界線よりも小さい(図3において、得られた表面歪量が第2の破断限界線L2の下方に位置するとき)場合には、当該薄板には破断は生じないと判定する。前者の一例を表面歪A、後者の一例を表面歪Bとして、図3に示す。
【0047】
なお、ステップS3において第2の破断限界線と共に毛割れ限界線を取得した場合には、ステップS5において薄板の毛割れ発生も予測するようにしても良い。この場合、ステップS4においてFEM解析により得られた表面歪量(最小主歪ε2,最大主歪ε1)が、毛割れ限界線以上であれば、当該薄板には毛割れが生じると判定する。一方、FEM解析により得られた表面歪量が毛割れ限界線よりも小さい場合には、当該薄板には毛割れは生じないと判定する。
【0048】
以上のように、本実施形態では、試料の板厚中心における歪みによる破断限界を表す第1の破断限界線を、曲げ変形を反映した表面歪に対応した第2の破断限界線に変換する。そして、第2の破断限界線を基準として、判断対象である薄板について算出された表面歪量を第2の破断限界線と比較し、破断、或いは破断の虞の有無を判定する。このように本実施形態では、曲げ変形との対応が不十分な板厚中心による歪みではなく、曲げ変形と対応してこれを十分に反映する表面歪で破断判定をするため、曲げ変形に対応して、実際の破断に即した正確な破断判定が可能となる。
【0049】
以下、上記した本実施形態による破断予測方法及び破断予測システムの具体例について、従来の破断予測方法との比較に基づいて、諸実施例として説明する。
【0050】
(実施例1)
本例では、本実施形態の破断予測方法を検証すべく、破断実験を行った。
破断実験として、3点曲げ落重試験を行った。サイズが50mm×50mmで長さ900mmの断面ハット形状の試料を用い、試料の3点曲げを評価した。材質としては、ハット側がいわゆるホットスタンピング材(ホットプレス材)、当て側がJSC590Yであり、板厚は1.4mmであった。
【0051】
破断実験は、上記の試料を用い、曲げスパン、落錘重量、初速、門型押えの有無を変えて、7種のサンプル(No.1〜No.7)について破断実験を行った。実験結果を以下の表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
このように、曲げスパンが600mmで初速が3.0m/s以上であって門型押さえの無いサンプルNo.3,No.4と、曲げスパンが200mmで初速が4.0m/s以上であるサンプルNo.6,No.7とに、破断が確認された。
【0054】
図2の破断予測方法(図1の破断予測システム)により、ステップS1〜S3を行って、図5に示すように第2の破断限界線L2を取得する。図5では、第2の破断限界線L2と共に、毛割れ限界線L3を取得した場合を示している。そして、ステップS4を行って破断予測の対象である薄板の表面歪量を算出した後、ステップS5を行って薄板の破断の有無を判定する。
【0055】
ステップS4では、例えば以下の表4に示すCowper-Symondsのパラメータを用い、メッシュ分割を所定の要素サイズに設定してFEM解析を行う。具体的に、要素サイズを以下の表5のように設定する。判定対象である薄板は、図6に示すように、天部、R部、縦壁部、フランジ部を有しており、例えば図示のように、ここでは、R部を基準とし、R部において曲面と定義される部位の一端から他端までの面を複数に分割する。本例では、この基準に従って、要素サイズを6分割(分割(1))と4分割(分割(2))に設定した。ステップS4によるFEM解析結果を表6に示す。ここでは、表3と同様の条件により、No.1〜No.7について分割(1),(2)で解析した。
【0056】
【表4】
【0057】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
曲げスパンを200mとした場合であるNo.5〜No.7について、破断実験及び本例の分割(1),(2)によるFEM解析された薄板の様子を図7に、本例の分割(1)によるFEM解析された薄板外面された最大主歪分布を図8に、本例の分割(2)によるFEM解析の薄板外面の最大主歪分布を図9に、それぞれ示す。
また、曲げスパンを600mとした場合であるNo.1〜No.4について、破断実験及び本例の分割(1),(2)によるFEM解析された薄板の様子を図10及び図11に、本例の分割(1),(2)によるFEM解析されたNo.3及びNo.4の薄板内面の最大主歪分布を図12に、それぞれ示す。
【0060】
本例の破断予測方法の比較例として、従来の破断予測方法により薄板の破断の有無を判定した。従来の破断予測方法では先ず、中島法等の実験的手法、または本例の破断予測方法のステップS1と同様の工程を行う。ここでは後者の手法により、板厚中心における歪みによる破断限界を表す破断限界線を取得する。
次に、破断予測の対象である薄板の板厚中心における歪量をFEM解析により算出する。ここでは本例の表6と同様に、No.1〜No.7について分割(1),(2)で解析した。
そして、破断限界線を基準として、FEM解析により求めた板厚中心における歪量を破断限界線と比較し、薄板の破断の有無を判定する。
【0061】
曲げスパンを200mとしたNo.5〜No.7について、薄板の破断有無の判定結果を図13及び図14に示す。図13は、従来の破断予測方法による判定結果を示す特性図であり、分割(1),(2)でFEM解析した結果を示す。図14は、本例の破断予測方法による判定結果を示す特性図であり、(a)が分割(1)でFEM解析した結果を、(b)が分割(2)でFEM解析した結果をそれぞれ示す。
【0062】
従来の破断予測方法では、図13に示すように、分割(1),(2)共に破断実験で破断が認められたNo.6及びNo.7について、破断実験で破断が認められなかったNo.5と同様に破断限界線を下回り、破断発生はないものと判定された。No.6及びNo.7の判定結果は破断実験の結果と異なるため、従来の破断予測方法では、曲げ変形による破断について正確な予測はできないことが確認された。
【0063】
本例の破断予測方法では、図14に示すように、分割(1),(2)共に正確な予測結果が得られた。即ち、破断実験で破断が認められなかったNo.5については、分割(1),(2)共に第2の破断限界線L2及び毛割れ限界線L3を下回り、破断発生はないものと判定された。一方、破断実験で破断が認められたNo.6及びNo.7については、分割(1),(2)共に第2の破断限界線L2及び毛割れ限界線L3を上回り、破断が発生するものと判定された。これらの判定結果は全て破断実験の結果と一致するため、本例の破断予測方法によれば、曲げ変形による破断について正確な予測ができることが確認された。
【0064】
曲げスパンを600mとしたNo.1〜No.4について、薄板の破断有無の判定結果を図15及び図16に示す。図15は、従来の破断予測方法による判定結果を示す特性図であり、分割(1),(2)でFEM解析した結果を示す。図16は、本例の破断予測方法による判定結果を示す特性図であり、(a)が分割(1)でFEM解析した結果を、(b)が分割(2)でFEM解析した結果をそれぞれ示す。
【0065】
従来の破断予測方法では、図15に示すように、分割(1),(2)共に破断実験で破断が認められたNo.3及びNo.4について、破断実験で破断が認められなかったNo.1及びNo.2と同様に破断限界線を下回り、破断発生はないものと判定された。No.3及びNo.4の判定結果は破断実験の結果と異なるため、従来の破断予測方法では、曲げ変形による破断について正確な予測はできないことが確認された。
【0066】
本例の破断予測方法では、図16(a)に示すように、分割(1)では正確な予測結果が得られた。即ち、本例の破断予測方法の分割(1)では、破断実験で破断が認められなかったNo.1及びNo.2について、第2の破断限界線L2及び毛割れ限界線L3を下回り、破断発生はないものと判定された。一方、破断実験で破断が認められたNo.3及びNo.4については、第2の破断限界線L2及び毛割れ限界線L3を上回り、破断が発生するものと判定された。これらの判定結果は全て破断実験の結果と一致するため、本例の破断予測方法の分割(1)によれば、曲げ変形による破断について正確な予測ができることが確認された。
【0067】
ところが、図16(b)に示すように、本例の破断予測方法の分割(2)では、破断実験で破断が認められなかったNo.1及びNo.2と同様に、破断実験で破断が認められたNo.3及びNo.4についても、第2の破断限界線L2及び毛割れ限界線L3を下回り、破断発生はないものと判定された。
【0068】
以上から、本例の破断予測方法では、曲げスパンがさほど大きくなく、例えば200mm程度の条件であれば、破断予測の対象である薄板の表面歪量を算出する際のFEM解析の要素サイズが4分割(薄板のR部を基準とする)程度でも、十分に正確な曲げ変形の破断予測が可能であることが判る。
一方、大きい曲げスパン、例えば600mm程度の条件では、FEM解析の要素サイズが4分割程度では不十分である場合がある。曲げスパンが200mmよりは大きく600mmより小さい場合には、例えば5分割程度であれば正確な曲げ変形の破断予測が可能であると考えられる。600mm以上の大きな曲げスパンの場合でも、6分割程度であれば十分に正確な曲げ変形の破断予測が可能である。
以上から、本例の破断予測方法において、破断予測の対象である薄板の表面歪量を算出する際のFEM解析の適切な要素サイズは、5分割(薄板のR部を基準とする)以上であり、ある程度の大きさの要素サイズを確保することも考慮して、好ましくは6分割程度であると結論付けることができる。
【0069】
以上説明したように、本実施形態によれば、金属材料からなる薄板の破断限界線、ここでは曲げ補正されたFLCである第2の破断限界線を用いた正確な破断予測が実現する。本実施形態により、プレス成形や衝突時の破断の危険性を正確に評価することができ、材料、工法及び構造を同時に考慮した自動車車体の効率的で高精度な開発が可能となる。
【0070】
(本発明を適用した他の実施形態)
上述した実施形態による図1の破断予測システムを構成する各構成要素(記録部6を除く)の機能は、コンピュータのRAM又はROM等に記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。同様に、破断限界取得方法の各ステップ(図2のステップS1〜S5等)は、コンピュータのRAM又はROM等に記憶されたプログラムが動作することによって実現できる。このプログラム及び当該プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は本発明に含まれる。
【0071】
具体的に、前記プログラムは、例えばCD−ROMのような記録媒体に記録し、或いは各種伝送媒体を介し、コンピュータに提供される。上記のプログラムを記録する記録媒体としては、CD−ROM以外に、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、光磁気ディスク、不揮発性メモリカード等を用いることができる。他方、上記のプログラムの伝送媒体としては、プログラム情報を搬送波として伝搬させて供給するためのコンピュータネットワークシステムにおける通信媒体を用いることができる。ここで、コンピュータネットワークとは、LAN、インターネットの等のWAN、無線通信ネットワーク等であり、通信媒体とは、光ファイバ等の有線回線や無線回線等である。
【0072】
また、本発明に含まれるプログラムとしては、供給されたプログラムをコンピュータが実行することにより上述の実施形態の機能が実現されるようなもののみではない。例えば、そのプログラムがコンピュータにおいて稼働しているOS(オペレーティングシステム)或いは他のアプリケーションソフト等と共同して上述の実施形態の機能が実現される場合にも、かかるプログラムは本発明に含まれる。また、供給されたプログラムの処理の全て或いは一部がコンピュータの機能拡張ボードや機能拡張ユニットにより行われて上述の実施形態の機能が実現される場合にも、かかるプログラムは本発明に含まれる。
【0073】
例えば、図17は、パーソナルユーザ端末装置の内部構成を示す模式図である。この図17において、1200はCPU1201を備えたパーソナルコンピュータ(PC)である。PC1200は、ROM1202またはハードディスク(HD)1211に記憶された、又はフレキシブルディスクドライブ(FD)1212より供給されるデバイス制御ソフトウェアを実行する。このPC1200は、システムバス1204に接続される各デバイスを総括的に制御する。
【0074】
PC1200のCPU1201、ROM1202またはハードディスク(HD)1211に記憶されたプログラムにより、本実施形態におけるステップS1〜S5の手順等が実現される。
【0075】
1203はRAMであり、CPU1201の主メモリ、ワークエリア等として機能する。1205はキーボードコントローラ(KBC)であり、キーボード(KB)1209や不図示のデバイス等からの指示入力を制御する。
【0076】
1206はCRTコントローラ(CRTC)であり、CRTディスプレイ(CRT)1210の表示を制御する。1207はディスクコントローラ(DKC)である。DKC1207は、ブートプログラム、複数のアプリケーション、編集ファイル、ユーザファイルそしてネットワーク管理プログラム等を記憶するハードディスク(HD)1211、及びフレキシブルディスク(FD)1212とのアクセスを制御する。ここで、ブートプログラムとは、起動プログラム、即ちパソコンのハードやソフトの実行(動作)を開始するプログラムである。
【0077】
1208はネットワーク・インターフェースカード(NIC)で、LAN1220を介して、ネットワークプリンタ、他のネットワーク機器、或いは他のPCと双方向のデータのやり取りを行う。
【符号の説明】
【0078】
1 第1の破断限界線取得部
2 第1の表面歪量算出部
3 第2の破断限界線取得部
4 第2の表面歪量算出部
5 破断予測部
6 記録部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料からなる薄板の破断を予測する方法であって、
試料の板厚中心における第1の破断限界線を取得する工程と、
試料に曲げ変形を与え、破断が発生した際の表面歪量を算出する工程と、
前記破断が発生した際の表面歪量と、前記第1の破断限界線における平面歪量との差分値を算出し、前記差分値を前記第1の破断限界線に加算して第2の破断限界線を取得する工程と、
前記薄板の表面歪量を算出する工程と、
算出された前記薄板の表面歪量に基づき、前記第2の破断限界線を基準として前記薄板の破断の有無を予測する工程と
を含むことを特徴とする破断予測方法。
【請求項2】
前記第1の破断限界線を取得する工程では、
単軸引張試験から得られる応力-歪み曲線の近似式σeq=Cεeqnと、
局部くびれモデル
【数7】
と、
拡散くびれモデル
【数8】
或いは、
シュテーレン−ライスモデル
【数9】
と
を併用して前記第1の破断限界線を求めることを特徴とする請求項1に記載の破断予測方法。
【請求項3】
前記薄板の表面歪量を算出する工程では、有限要素法を用い、前記試料の曲面部分を5要素以上に分割することを特徴とする請求項1に記載の破断予測方法。
【請求項4】
金属材料からなる薄板の破断を予測するシステムであって、
試料の板厚中心における第1の破断限界線を取得する第1の破断限界線取得部と、
試料に曲げ変形を与え、破断が発生した際の表面歪量を算出する第1の表面歪量算出部と、
前記破断が発生した際の表面歪量と、前記第1の破断限界線における平面歪量との差分値を算出し、前記差分値を前記第1の破断限界線に加算して第2の破断限界線を取得する第2の破断限界線取得部と、
前記薄板の表面歪量を算出する第2の表面歪量算出部と、
前記第2の表面歪量算出部で算出された前記薄板の表面歪量に基づき、前記第2の破断限界線を基準として前記薄板の破断の有無を予測する破断予測部と
を含むことを特徴とする破断予測システム。
【請求項5】
前記第1の破断限界線取得部は、前記第1の破断限界線を取得する際に
単軸引張試験から得られる応力-歪み曲線の近似式σeq=Cεeqnと、
局部くびれモデル
【数7】
と、
拡散くびれモデル
【数8】
或いは、
シュテーレン−ライスモデル
【数9】
と
を併用して前記第1の破断限界線を求めることを特徴とする請求項4に記載の破断予測システム。
【請求項6】
前記第2の表面歪量算出部は、前記薄板の表面歪量を算出する際に、有限要素法を用い、前記試料の曲面部分を5要素以上に分割することを特徴とする請求項4に記載の破断予測システム。
【請求項7】
金属材料からなる薄板の破断を予測するためのプログラムであって、
試料の板厚中心における第1の破断限界線を取得する工程と、
試料に曲げ変形を与え、破断が発生した際の表面歪量を算出する工程と、
前記破断が発生した際の表面歪量と、前記第1の破断限界線における平面歪量との差分値を算出し、前記差分値を前記第1の破断限界線に加算して第2の破断限界線を取得する工程と、
前記薄板の表面歪量を算出する工程と、
算出された前記薄板の表面歪量に基づき、前記第2の破断限界線を基準として前記薄板の破断の有無を予測する工程と
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項8】
前記第1の破断限界線を取得する工程では、
単軸引張試験から得られる応力-歪み曲線の近似式σeq=Cεeqnと、
局部くびれモデル
【数7】
と、
拡散くびれモデル
【数8】
或いは、
シュテーレン−ライスモデル
【数9】
と
を併用して前記第1の破断発生限界を求めることを特徴とする請求項7に記載のプログラム。
【請求項9】
前記薄板の表面歪量を算出する工程では、有限要素法を用い、前記試料の曲面部分を5要素以上に分割することを特徴とする請求項7に記載のプログラム。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載のプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−141237(P2011−141237A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
物理学 | 測定;試験 | 材料の化学的または物理的性質の決定による材料の調査または分析 | 機械的応力の負荷による固体材料の強さの調査 | 定曲げ力の適用によるもの
物理学 | 測定;試験 | 材料の化学的または物理的性質の決定による材料の調査または分析 | 機械的応力の負荷による固体材料の強さの調査
【出願番号】特願2010−3120(P2010−3120)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社
【Fターム(参考)】
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査方法;試験の仕方 | 曲げ試験
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査方法;試験の仕方 | 破壊じん性試験(KlC、COD等)
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 力を掛ける方法(時間的、空間的) | 動的負荷による試験
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査対象項目 | 強度 | 破壊強度
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験片、材料 | 金属材料
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験片、形状、構造及び部分、部品 | シート状
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験装置;構成、部分構成(治具を含む) | シュミレーション装置を有するもの
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 測定対象 | 応力
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 測定対象 | 歪み
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 測定された変化量の取扱い | データの電気的処理 | 演算処理
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