破骨細胞関連タンパク質を標的とした抗体
【課題】破骨細胞で強く発現する遺伝子を用いた骨代謝異常の検出方法、骨代謝異常治療及び/または予防効果を有する化合物のスクリーニング法、及び骨代謝異常治療及び/または予防用医薬組成物を提供すること。
【解決手段】ヒトDC-STAMP遺伝子の発現を指標とした骨代謝異常の検出方法、及びヒトDC-STAMP蛋白質を特異的に認識し、破骨細胞の形成を抑制する活性を有する抗体を含む医薬組成物の提供等。
【解決手段】ヒトDC-STAMP遺伝子の発現を指標とした骨代謝異常の検出方法、及びヒトDC-STAMP蛋白質を特異的に認識し、破骨細胞の形成を抑制する活性を有する抗体を含む医薬組成物の提供等。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨代謝異常症の治療及び/又は予防剤として有用な物質、骨代謝異常症の治療及び/又は予防剤として有用な物質のスクリーニング方法、骨代謝異常症の検査方法並びに骨代謝異常症の治療又は予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨は、自らの形態変化や血中カルシウム濃度の維持のため、常に形成と吸収を繰り返し再構築を行う動的な器官として知られている。正常な骨では骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収とは平衡関係にあり、骨量は一定に保たれている。一方、骨形成と骨吸収との平衡関係が崩れると、骨粗鬆症などの骨代謝異常になる(例えば、非特許文献1または非特許文献2参照)。
【0003】
骨代謝を調節する因子としては、全身性のホルモンや局所性のサイトカインが数多く報告されており、それら因子の共同作用により骨の形成と維持が営まれている(例えば、非特許文献1または非特許文献3参照)。加齢による骨組織の変化としては、骨粗鬆症の発症が広く知られているが、その発症機構は性ホルモンの分泌低下やそのレセプター異常、老化遺伝子の発現、破骨細胞や骨芽細胞の分化あるいは機能不全など多岐にわたっており、加齢による生理現象として理解するのは困難である。骨粗鬆症はエストロゲンの分泌低下による閉経後骨粗鬆症と加齢による老人性骨粗鬆症に大別されているが、その発症機構の解明と治療薬開発の為には、骨吸収と骨形成の調節機構についての基礎的研究の進展が必須である。
【0004】
破骨細胞は、造血幹細胞に由来する多核の細胞であり、骨との接着面に塩素イオンと水素イオンを放出することによって、細胞と骨接着面の間隙を酸性化する(例えば、非特許文献4参照)。この結果、リン酸カルシウムの分解と酸性プロテアーゼの活性化が引き起こされ、骨吸収が進行する。
【0005】
破骨細胞の前駆細胞は骨表面の骨芽細胞/ストローマ細胞の細胞膜上に発現するRANKL(Receptor activator of NF-κB ligand)の刺激を受けて、破骨細胞へ分化することが明らかとなってきた(例えば、非特許文献5または非特許文献6参照)。RANKLは骨芽細胞/ストローマ細胞が産生する膜結合因子であり、その発現は骨吸収因子により調節されること、および、RANKLは破骨細胞前駆細胞から多核破骨細胞への分化を誘導することなどが明らかにされた(例えば、非特許文献5または非特許文献7参照)。さらに、RANKLをノックアウトしたマウスが、典型的な大理石病を発症することが見出され、RANKLが生理的な破骨細胞分化誘導因子であることが証明された(例えば、非特許文献8参照)。
【0006】
骨に関わる疾患の治療や治療期間の短縮を図る医薬品として、ビスホスホネート、活性型ビタミンD3、カルシトニンおよびその誘導体、エストラジオール等のホルモン製剤、SERMs(Selective estrogen receptor modulators)、イプリフラボン、ビタミンK2(メナテトレノン)及びカルシウム製剤等が使用されている。しかし、これらの薬剤は、治療結果において必ずしも満足できるものではなく、より治療効果の高い薬剤の開発が望まれていた。
【0007】
樹状細胞(dendritic cell、以下、「DC」という。)は、免疫系の専門的な抗原提示細胞で、身体全体に散在している。樹状細胞特異的細胞膜貫通タンパク質(dendritic cell-specific transmembrane protein、以下、「DC-STAMP」という。)は、樹状細胞の細胞膜を貫通するタンパク質として単球由来DCのcDNAライブラリーよりクローニングされたタンパク質である(例えば、非特許文献9参照)。DC-STAMPのcDNAについてはこれまでにヒトで1種類報告されており(例えば、非特許文献10参照)、マウスでは、第3エクソンを含む長い配列(例えば、非特許文献11参照)と、第3エクソンが短いスプライスバリアント(例えば、非特許文献12参照)の2種類が報告されている。ヒト由来のDC-STAMPとマウス由来のDC-STAMPとの間でのアミノ酸配列の相同性は、約74%である。アミノ酸配列の疎水性解析の結果からDC-STAMPは7つの膜貫通ドメインを持つと推定されている。なお、マウスにおける第3エクソンが短いスプライスバリアントは、第7番目の膜貫通ドメインを欠失していると考えられ、以下DC-STAMPΔT7と表記する。
【0008】
DC-STAMPについては、単核貪食細胞をIL-4により不活化するとその発現が上昇し、デキサメタゾンで不活化すると逆に発現が減少するとの報告があるが(例えば、非特許文献13参照)、DC-STAMPと破骨細胞の分化との関連は明らかになっていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「エンドクリノロジカル レビュー(Endocrinological Review)」 1992 13:p66-80
【非特許文献2】「プリンシプルズ オブ ボーン バイオロジー(Principles of Bone Biology)」 (Academic Press, New York) 1996 p87-102
【非特許文献3】「エンドクリノロジカル レビュー(Endocrinological Review)」1996 17:308-332
【非特許文献4】「アメリカン ジャーナル オブ フィジオロジー(American Journal of Physiology)」 1991 260:C1315-C1324
【非特許文献5】「プロシーディング オブ ナショナル アカデミー オブ サイエンス オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Procedings of the National Academy of Science of the Uited States of America)」 1998 95:3597-3602
【非特許文献6】「セル(Cell)」 1998 93:165-176
【非特許文献7】「ジャーナル オブ ボーン アンド ミネラル リサーチ(Journal of Bone and Mineral Research)」 1998 23:S222
【非特許文献8】「ネイチャー(Nature)」 1999 397:315-323
【非特許文献9】「ヨーロピアン ジャーナル オブ イムノロジー(European Journal of Immunology)」 2000 30:3585-3590
【非特許文献10】「ジェンバンク(GenBank)」 アクセション番号:NM_030788
【非特許文献11】「ジェンバンク(GenBank)」 アクセション番号:AB109560
【非特許文献12】「ジェンバンク(GenBank)」 アクセション番号:AB109561
【非特許文献13】「イムノジェネティックス(Immunogenetics)」 2001 53:105-113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、骨粗鬆症、関節リウマチ、癌細胞の骨転移等に見られる、骨破壊等の種々の骨代謝異常の際に特異的に発現する遺伝子、破骨細胞の活動を阻害する物質、骨代謝異常の予防または治療剤を試験するための新規な方法、および破骨細胞の活動を阻害する物質、骨代謝異常の予防剤および/または治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、骨代謝異常症の治療及び/又は予防効果を有する物質を探索する目的で、破骨細胞の分化、成熟及び活性化の機能の解明を目指したところ、DC-STAMPが破骨細胞の分化、成熟及び活性化に関与していることを見出し、DC-STAMPの発現を抑制すると、破骨細胞の分化が抑制されることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1) DC-STAMPと特異的に結合し、破骨細胞の形成を抑制する抗体、
(2) 配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質及び配列表の配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質からなる群から選択される少なくとも一つの蛋白質と特異的に結合し、破骨細胞の形成を抑制する抗体、
(3) モノクローナル抗体であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の抗体、
(4) ヒト化されていることを特徴とする、(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の抗体、
(5) 完全ヒト抗体であることを特徴とする、(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の抗体、
(6) IgG抗体であることを特徴とする、(1)乃至(5)のいずれか一つに記載の抗体、
(7)下記の工程1)乃至4)を含む、骨代謝異常の検出方法:
1)被験者より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
2)正常人より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
3)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分における、下記のa)またはb)のいずれか一つに記載のポリヌクレオチドの発現量を測定する工程;
a)配列表の配列番号1、3及び5の少なくともいずれか一つに示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
b)上記a)に記載のポリヌクレオチドと相補的なヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド;
4)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分との間における上記工程3)によって測定されたポリヌクレオチドの発現量の差を解析し、上記工程1)に記載の被験者の骨代謝異常を検出する工程、
(8) 下記の工程1)乃至3)を含む、骨代謝異常の検出方法:
1)被験者より採取した検体における、配列表の配列番号2、4及び6の少なくともいずれか一つに示されるアミノ酸配列からなる蛋白質の発現量を測定する工程;
2)正常人から採取した検体における、上記工程1)に記載の少なくともいずれか一つの蛋白質の発現量を測定する工程;
3)上記工程1)で検出された蛋白質の発現量と上記工程2)で測定された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験者の骨代謝異常を検出する工程、
(9) 骨代謝異常が骨粗鬆症、関節リウマチ及び/又は癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、(7)又は(8)に記載の方法、
(10) 骨代謝異常が骨粗鬆症であることを特徴とする、(7)又は(8)に記載の方法、
【0013】
(11) 骨代謝異常が関節リウマチであることを特徴とする、(7)又は(8)に記載の方法、
(12) 骨代謝異常が癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、(7)又は(8)に記載の方法、
(13) ポリヌクレオチドの発現量を測定する方法が、ノーザンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、RT−PCR、リボヌクレアーゼ保護アッセイまたはランオン・アッセイであることを特徴とする、(7)、(9)乃至(12)のいずれか一つに記載の方法、
(14) ポリヌクレオチドの発現量を測定する方法が検体由来の相補的DNA群または該DNA群の各DNAの部分配列からなるDNAで作製された遺伝子チップまたはアレイを用いることを特徴とする、(7)、(9)乃至(12)のいずれか一つに記載の方法、
(15) 蛋白質の発現量の測定方法が、該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いることを特徴とする、(8)乃至(12)のいずれか一つに記載の方法、
(16) 蛋白質の発現量の測定方法が、ウエスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法または固相酵素免疫定量法(ELISA法)であることを特徴とする、(8)乃至(12)のいずれか一つに記載の方法、
(17) 下記の1)乃至3)からなる群から選択される少なくとも一つ以上を含む骨代謝異常の検出用キット:
1)配列表の配列番号1、3及び5の少なくともいずれか一つに示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15乃至30塩基長の連続したオリゴヌクレオチドプライマー;
2)配列表の配列番号1、3及び5の少なくともいずれか一つに示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、該ポリヌクレオチドを検出するための15ヌクレオチド以上の連続したポリヌクレオチドプローブ;
3)配列表の配列番号1、3及び5の少なくともいずれか一つに示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドが固定された固相化試料、
(18) 下記の1)及び2)を含む骨代謝異常の検出用キット:
1)配列表の配列番号2、4及び6の少なくともいずれか一つに示されるアミノ酸配列からなる蛋白質に特異的に結合し、該蛋白質を検出するための抗体;
2)上記1)に記載の抗体に結合し得る二次抗体、
(19) 骨代謝異常が骨粗鬆症、関節リウマチ又は癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、(17)又は(18)に記載のキット、
(20) 骨代謝異常が骨粗鬆症であることを特徴とする、(17)又は(18)に記載のキット、
【0014】
(21) 骨代謝異常が関節リウマチであることを特徴とする、(17)又は(18)に記載のキット、
(22) 骨代謝異常が癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、(17)又は(18)に記載のキット、
(23) (1)乃至(6)に記載の抗体の少なくともいずれか一つを含有することを特徴とする、骨代謝異常の治療用医薬組成物、
(24) (1)乃至(6)に記載の抗体の少なくともいずれか一つ、並びに、ビスホスホネート、活性型ビタミンD3、カルシトニンおよびその誘導体、エストラジオール等のホルモン製剤、SERMs(selective estrogen receptor modulators)、イプリフラボン、ビタミンK2(メナテトレノン)、カルシウム製剤、PTH(parathyroid hormone)製剤、非ステロイド性抗炎症剤、抗TNFα抗体、抗PTHrP(parathyroid hormone-related protein)抗体、IL-1レセプターアンタゴニスト、抗RANKL抗体及びOCIF(osteoclastogenesis inhibitory factor)からなる群から選択される少なくともいずれか一つを含有することを特徴とする、骨代謝異常の治療用医薬組成物、
(25) 配列表の配列番号1、3及び5に示されるヌクレオチド配列のいずれか一つまたは該配列の部分配列に相補的なヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドを含む骨代謝異常の治療用医薬組成物、
(26) 骨代謝異常が骨粗鬆症、関節リウマチ又は癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、(23)乃至(25)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(27) 骨代謝異常が骨粗鬆症であることを特徴とする、(23)乃至(25)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(28) 骨代謝異常が関節リウマチであることを特徴とする、(23)乃至(25)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(29) 骨代謝異常が癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、(23)乃至(25)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
【0015】
(30) 下記の工程1)乃至4)を含むことからなる、骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を有する物質のスクリーニング方法:
1)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞より、全RNA画分を抽出する工程;
2)被験物質を添加しないで培養した哺乳動物由来培養細胞より、全RNA画分を抽出する工程:
3)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分における、下記いずれか一つに記載のポリヌクレオチドまたはその部分ポリヌクレオチドの発現量を測定する工程;
配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド及び配列番号5に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドからなる群から選択される少なくともいずれか一つのポリヌクレオチド、
4)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分との間における上記工程3)によって測定されたポリヌクレオチドの発現量の差を解析し、被験物質の、骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程、
(31) 下記の工程1)乃至4)を含むことからなる、骨代謝異常の治療効果及び/または予防効果を有する物質のスクリーニング方法:
1)被験物質を投与した哺乳動物個体より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
2)被験物質を投与しなかった哺乳動物個体より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
3)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分における、下記のいずれか一つに記載のポリヌクレオチドまたはその部分ポリヌクレオチドの発現量を測定する工程;
配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド及び配列番号5に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドからなる群から選択される少なくともいずれか一つのポリヌクレオチド、
4)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分との間における上記工程3)よって測定されたポリヌクレオチドの発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程、
(32) 下記の工程1)乃至3)を含むことからなる、骨代謝異常の治療効果及び/または予防効果を有する物質のスクリーニング方法:
1)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞における、下記のいずれか一つに記載の蛋白質またはその部分ポリペプチドの発現量を測定する工程;
配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質からなる群から選択される少なくともいずれか一つの蛋白質、
2)被験物質を添加しない培地で培養した哺乳動物由来培養細胞における、上記工程1)のいずれか一つに記載の蛋白質の発現量を該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いて検出する工程;
3)上記工程1)で検出された蛋白質の発現量と、上記工程2)で検出された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程、
(33) 下記の工程1)乃至3)を含むことからなる、骨代謝異常の治療効果及び/または予防効果を有する物質のスクリーニング方法:
1)被験物質を投与された哺乳動物個体より採取した検体における、下記のいずれか一つに記載の蛋白質またはその部分ポリペプチドの発現量を測定する工程;
配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質からなる群から選択される少なくともいずれか一つの蛋白質、
2)被験物質を投与されなかった哺乳動物個体より採取した検体における、上記工程1)のいずれか一つに記載の蛋白質またはその部分ポリペプチドの発現量を測定する工程;
3)上記工程1)で検出された蛋白質の発現量と、上記工程2)で検出された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程、
(34) ポリヌクレオチドの発現量を測定する方法が、ノーザンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、RT−PCR、リボヌクレアーゼ保護アッセイまたはランオン・アッセイであることを特徴とする、(30)又は(31)に記載の方法、
(35) ポリヌクレオチドの発現量を測定する方法が動物組織または動物細胞由来の相補的DNA群または該DNA群の各DNAの部分配列からなるDNAで作製された遺伝子チップまたはアレイを用いることを特徴とする(30)又は(31)に記載の方法、
(36) 蛋白質の発現量の測定方法が、該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いることを特徴とする、(32)又は(33)に記載の方法、
からなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、破骨細胞の活動の阻害を作用機序とする、骨代謝異常の予防剤および/または治療剤を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】RANKL刺激による各RAW264サブクローン細胞の破骨細胞への分化を示したグラフである。
【図2】RAW-D細胞の破骨細胞への分化に伴うDC-STAMPのm-RNAの発現を示した図である。
【図3】RANKL、TNFαおよびMIP-1αで刺激したRAW-D細胞におけるDC-STAMPのm-RNAの発現を示した図である。
【図4】活性型ビタミンD3で刺激した初代骨髄細胞におけるDC-STAMPのm-RNAの発現を示した図である。
【図5】DC-STAMPのsiRNAによる、RAW-D細胞から破骨細胞への分化の抑制を示したグラフである。
【図6】DC-STAMP蛋白質の強制発現による、RAW-D細胞からの破骨細胞形成促進を示したグラフである。
【図7】抗DC-STAMP抗体による、RAW-D細胞からの破骨細胞形成阻害を示したグラフである。
【図8】抗DC-STAMP抗体による、マウス骨髄細胞からの破骨細胞形成阻害を示したグラフである。
【図9】抗DC-STAMP抗体による、吸収窩形成の抑制を示したグラフである。
【図10】巨細胞腫におけるヒトRANK、RANKL、カテプシンKおよびTRAP遺伝子の発現プロファイルを示したグラフである。
【図11】巨細胞腫におけるヒトDC-STAMP遺伝子の発現プロファイルを示したグラフである。
【図12】抗DC-STAMP抗体による、ヒト末梢血単核球からの破骨細胞形成阻害を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、市販のハイブリダイゼーション溶液ExpressHyb Hybridization Solution(クロンテック社製)中、68℃でハイブリダイズすること、または、DNAを固定したフィルターを用いて0.7−1.0MのNaCl存在下68℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1−2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度SSCとは150mM NaCl、15mM クエン酸ナトリウムからなる)を用い、68℃で洗浄することにより同定することができる条件またはそれと同等の条件でハイブリダイズすることをいう。
【0019】
1.DC-STAMP
本発明者らによって、DC-STAMPは巨細胞腫において特異的に発現していることが見出された。また、本発明者らによってDC-STAMPは単球由来細胞株が破骨細胞に分化する際に発現量が増加することも見出された。
【0020】
本発明で用いるDC-STAMPは、ヒト、あるいは非ヒト哺乳動物(例えば、モルモット、ラット、マウス、ニワトリ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルなど)の単球細胞、樹上細胞あるいは骨髄細胞から直接精製して使用するか、あるいは上記の細胞の細胞膜画分を調製して使用することができ、また、DC-STAMPをin vitroにて合成する、あるいは遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。遺伝子操作では、具体的には、DC-STAMPを発現可能なベクターに組み込んだ後、転写と翻訳に必要な酵素、基質及びエネルギー物質を含む溶液中で合成する、あるいは他の原核生物、または真核生物の宿主細胞を形質転換させることによってDC-STAMPを発現させることにより、該蛋白質を得ることが出来る。
【0021】
ヒトDC-STAMPのcDNAのヌクレオチド配列は、GenBank にアクセッション番号:NM_030788で登録されており、配列表の配列番号1にも示されており、そのアミノ酸配列は配列表の配列番号2に示されている。マウスDC-STAMPのcDNAのヌクレオチド配列は、第3エクソンを含む長い配列がGenBankにアクセッション番号:AB109560で登録されており、配列表の配列番号3にも示されており、そのアミノ酸配列は配列表の配列番号4に示されている。マウスDC-STAMPの第3エクソンが短いスプライスバリアントのcDNAのヌクレオチド配列はGenBankにアクセッション番号:AB109561で登録されており、配列表の配列番号5にも示されており、そのアミノ酸配列は配列表の配列番号6に示されている。DC-STAMPのcDNAは例えば、DC-STAMPを発現しているcDNAライブラリーを鋳型として、DC-STAMPのcDNAを特異的に増幅するプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR」という)(Saiki, R. K., et al., Science, (1988)239, 487-49)を行なう、いわゆるPCR法により取得することができる。
【0022】
なお、配列表の配列番号1、3及び5から選択される少なくともいずれか一つに示されるヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、DC-STAMPと同等の生物活性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドもDC-STAMPのcDNAに含まれる。さらに、ヒト若しくはマウスDC-STAM遺伝子座から転写されるスプライシングバリアント又はこれにストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、かつ、DC-STAMPと同等の生物活性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドもDC-STAMPのcDNAに含まれる。
【0023】
また、配列表の配列番号2、4及び6から選択される少なくともいずれか一つに示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加されたアミノ酸配列からなり、DC-STAMPと同等の生物活性を有する蛋白質もDC-STAMPに含まれる。さらに、ヒト若しくはDC-STAMP遺伝子座から転写されるスプライシングバリアントにコードされるアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、DC-STAMPと同等の生物活性を有する蛋白質もDC-STAMPに含まれる。
【0024】
2.骨代謝異常の検出
DC-STAMP遺伝子は、ヒト各種骨組織検体群における遺伝子の発現量の解析をすると、破骨型の多核巨細胞が多数出現する骨腫瘍であり、臨床的所見として骨溶解性の骨破壊を特徴とする(Bullough et al., Atlas of Orthopedic Pathology 2nd edition, pp17.6-17.8, Lippincott Williams & Wilkins Publishers (1992))巨細胞腫(Giant cell tumor; GCT)において有意に発現量が増加していることが見出される。
【0025】
また、DC-STAMPは単球由来細胞株が破骨細胞に分化する際に発現量が増加することも見出された。
【0026】
したがって、DC-STAMPはGCTのような骨吸収が亢進するヒトの病態において関与していると考えられる。すなわち、DC-STAMPの各細胞、及び/又は各組織における発現量を測定することでDC-STAMPの過剰発現に起因して発生すると考えられる骨代謝異常疾患の状態を判定することができる。なお、本明細書における骨代謝異常疾患とは、骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症、老人性骨粗鬆症、ステロイドや免疫抑制剤使用による続発性骨粗鬆症、関節リウマチに伴う骨粗鬆症)、関節リウマチの骨破壊、癌性高カルシウム血症、多発性骨髄腫や癌の骨転移に伴う骨破壊、歯根膜炎による歯の喪失、人工関節周囲の骨融解、慢性骨髄炎における骨破壊、骨ページェット病、腎性骨異栄養症、骨形成不全症などを含むがこれらに限定されない。
【0027】
なお、本発明にDC-STAMPの発現量を調べる対象となる「検体」とは、被験者や臨床検体等から得られた、血液、骨髄、骨、体液、前立腺、精巣、陰茎、膀胱、腎臓、口腔、咽頭、口唇、舌、歯肉、鼻咽頭、食道、胃、小腸、大腸、結腸、肝臓、胆嚢、膵臓、鼻、肺、軟部組織、皮膚、乳房、子宮、卵巣、脳、甲状腺、リンパ節、筋肉、脂肪組織等の組織または排泄物等の試料を意味するが、本発明においては血液又は骨髄がより好ましい。
【0028】
(1)DC-STAMP遺伝子の発現量を利用した骨代謝異常の検出方法
DC-STAMP遺伝子の発現量を利用した骨代謝異常の検出方法は、具体的には、以下の工程1)乃至4)を含む方法である。
1)被験者より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
2)正常人より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
3)上記工程1)に記載の全RNA画分と上記工程2)に記載の全RNA画分におけるDC-STAMP遺伝子の発現量を測定する工程;
4)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分との間における上記工程3)によって測定された遺伝子の発現量の差を解析し、上記工程1)に記載の被験者の骨代謝異常を検出する工程。
【0029】
以下、各工程を具体的に説明する。
a) 工程1)被験者より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
検体から全RNA画分を抽出するに際しては、適切な実験の倫理基準に適した方法で入手したヒト由来組織をRNA抽出用の溶媒(例えばフェノール等、リボヌクレアーゼを不活性化する作用を有する成分を含むもの)で直接溶解するか又は、該組織の細胞を破壊しないように、スクレーパーで慎重に掻きとるか、もしくはトリプシン等の蛋白質分解酵素を用いて穏やかに組織から細胞を抽出するなどの方法により、細胞を回収した後、速やかにRNA抽出工程に移行する。
【0030】
RNAの抽出方法としては、チオシアン酸グアニジン・塩化セシウム超遠心法、チオシアン酸グアニジン・ホットフェノール法、グアニジン塩酸法、酸性チオシアン酸グアニジン・フェノール・クロロホルム法(Chomczynski,P. and Sacchi,N., Anal.Biochem. (1987),162,156-159)などを採用しうるが、酸性チオシアン酸グアニジン・フェノール・クロロホルム法が好適である。また、市販のRNA抽出用試薬(例えば、ISOGEN(ニッポンジーン(株)製)、TRIZOL試薬(ギブコ・ビーアールエル社製))等を試薬に添付のプロトコールに従って用いることもできる。
【0031】
得られた全RNA画分は、必要に応じてさらにmRNAのみに精製して用いるのが好ましい。精製方法は特に限定されないが、例えばビオチン化したオリゴ(dT)プローブにmRNAを吸着させ、さらにストレプトアビジンを固定化した常磁性粒子に、ビオチン/ストレプトアビジン間の結合を利用してmRNAを捕捉し洗浄操作の後、mRNAを溶出することにより、mRNAを精製することができる。また、オリゴ(dT)セルロースカラムにmRNAを吸着させて、次にこれを溶出して精製する方法も採用し得る。ただし、本発明の方法のためには、これらmRNAの精製工程は必須ではなく、検出対象のポリヌクレオチドの発現の検出が可能である限りにおいて、全RNA画分をその後の工程に用いることもできる。
【0032】
b) 工程2)正常人より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程:
本発明において、正常人とは、骨代謝異常を有さない人を意味する。正常人であるか否かは、DC-STAMPの濃度を測定し、あらかじめ正常人の値として決められている数値範囲に入るか否かで判定することもできるし、DC-STAMPの発現量と、正常人の骨代謝異常の形成度の相関をあらかじめ調べておくことによって、被験者から採取した検体におけるDC-STAMPの発現量を測定することによって被験者が、正常人であるか否かを判定することもできる。正常人よりの全RNA画分の調製は、上記工程1)と同様に行うことができる。
【0033】
c) 工程3)上記工程1)に記載の全RNA画分と上記工程2)に記載の全RNA画分におけるDC-STAMP遺伝子の発現量を測定する工程:
ここで、DC-STAMP遺伝子の発現量は配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列を含むことからなるポリヌクレオチドまたは、配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドの発現量で示される。
【0034】
DC-STAMP遺伝子の発現量の測定方法として、固相化試料を用いた測定方法と、その他のいくつかの測定方法について説明する。
【0035】
(a) 固相化試料を用いた測定方法
(i) 固相化試料
固相化試料としては、例えば以下のものが挙げられる。
(イ)遺伝子チップ:
データベース上のEST(expressed sequence tag)配列又はmRNA配列をもとに合成したアンチセンスオリゴヌクレオチドが固相化された遺伝子チップを用いることができる。このような遺伝子チップとしてはアフィメトリックス(Affymetrix)社製の遺伝子チップ(Lipshutz,R.J. et al., Nature Genet. (1999)21,suppliment,20-24)を用いることができるが、これに限定されず、公知の方法に基づき作製してもよい。ヒト細胞由来のmRNAを解析する場合には、ヒト由来のものが好ましく、例えば、アフィメトリックス社製ヒトU95セット又はU133セットを用いることができる。しかしながら、それらに限定されず、例えば近縁種の動物由来のものも使用可能である。
【0036】
(ロ)ヒト、全RNAあるいは特定の組織から得た全RNAより作製されたcDNA又はRT−PCR産物が固相化された、アレイ又はメンブレンフィルター:
上記cDNA又はRT−PCR産物は、ヒトのESTデータベース等の配列情報を基に作製されたプライマーで逆転写酵素反応やPCRを実施することによりクローン化されたものである。このcDNAやRT−PCR産物は、あらかじめ骨代謝異常を有するヒトと骨代謝異常を有さないヒトの間で発現量の異なる全RNAを、サブトラクション法(Diatchenki,L,et al, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, (1996)93,6025-6030)、ディファレンシャルディスプレイ法(Liang,P.,et alNucleic Acids Res. ,(1992) 23,3685-3690)などを利用して選択されたものであってもよい。また、アレイやフィルターは市販のもの(例えば、インテリジーン:タカラバイオ社製等)を使用してもよいし、上記cDNAやRT−PCR産物を市販のスポッターで(例えば、GMS417アレイヤー:タカラバイオ社製等)を用いて固相化することにより作製してもよい。
【0037】
(ii) プローブの作製と解析
標識プローブは、特定のmRNAクローンではなく、発現している全てのmRNAを標識したものを用いる。プローブ作製のための出発材料としては精製していないmRNAを用いてもよいが、前述の方法で精製したポリ(A)+RNAを用いることが望ましい。以下に、各種固相化試料を用いた場合の、標識プローブの調製方法と検出、解析方法について説明する。
【0038】
(イ)アフィメトリックス社製遺伝子チップ:
アフィメトリクス社製遺伝子チップに添付されたプロトコール(アフィメトリックス社発現解析技術マニュアル)に従ってビオチン標識したcRNAプローブを作製する。次いでアフィメトリックス社製遺伝子チップに添付のプロトコール(発現解析技術マニュアル)に従って、アフィメトリックス社製の解析装置(GeneChip Fluidics Station 400)を用いてハイブリダイゼーション及び解析を行い、アビジンによる発光を検出、解析を行う。
【0039】
(ロ)アレイ:
逆転写酵素反応でポリ(A)+RNAからcDNAを作製する際に、cDNAの検出ができるようにcDNAを標識しておくことが必要であり、蛍光色素で標識する場合には、蛍光色素(例えばCy3、Cy5など)で標識されたd−UTPなどを加えておくことによりcDNAを蛍光標識する。このとき、被験者より採取した検体由来のポリ(A)+RNAと正常人より採取した検体由来のポリ(A)+RNAをそれぞれ異なる色素で標識しておけば、後のハイブリダイゼーション時には両者を混合して用いることができる。アレイとして例えば、タカラバイオ(株)社の市販アレイを用いる場合、同社のプロトコールに従いハイブリダイゼーション及び洗浄を行って、蛍光シグナル検出機(例えばGMS418アレイスキャナー(タカラバイオ(株)社製)等)で蛍光シグナルを検出後、解析を行う。ただし、使用するアレイとしては市販のものに限定されず、自家製のもの、特別に作製したものでもよい。
【0040】
(ハ)メンブレンフィルター:
逆転写酵素でポリ(A)+RNAからcDNAを作製する際に、放射性同位元素(例えば、d−CTP等を加えることにより標識プローブを調製し、常法によりハイブリダイゼーションを行い、例えば、市販のフィルター製マイクロアレーである、アトラスシステム(クロンテック社製)を用いてハイブリダイゼーション及び洗浄を行った後、解析装置(例えば、アトラスイメージ:クロンテック社製等)を用いて検出、解析を行う。
【0041】
前記(イ)乃至(ハ)のいずれに記載の方法も、同一ロットの固相化試料にヒト各組織由来のプローブをハイブリダイズさせる。このとき、使用するプローブ以外のハイブリダイゼーションの条件は同じとする。蛍光標識プローブを用いる場合には、それぞれのプローブを異なる蛍光色素で標識しておけば一つの固相化試料に両プローブの混合物を一度にハイブリダイズさせて蛍光強度を読み取ることができる(Brown、P.O. et al. Nature Genet., (1999)21, supplement, 33−37)。
【0042】
(b) その他の測定方法
上記以外の測定方法としてサブトラクションクローニング法(実験医学別冊 新 遺伝子工学ハンドブック、羊土社刊(1996) p.32-35参照)、ディファレンシャルディスプレイ法(基礎生化学実験法4 核酸・遺伝子実験 II.応用編、東京化学同人(2001), p125-128)、レポーター遺伝子を用いた方法(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(例えば、pCAT3−Basicベクター:プロメガ社製を使用。)やβ−ガラクトシダーゼ(例えば、pβgal−Basic:プロメガ社製を使用。)、分泌型アルカリホスファターゼ(例えば、pSEAP2−Basic:クロンテック社製を使用。)、緑色蛍光蛋白質(green−fluorescent protein)(例えば、pEGFP−1:クロンテック社製を使用。))があるがこれらに限定されない。
【0043】
d) 工程4)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分との間における上記工程3)によって測定された遺伝子の発現量の差を解析し、上記工程1)に記載の被験者の骨代謝異常を検出する工程。 正常人由来の検体と被験者由来の検体との間でDC-STAMPの発現量の差を解析し、DC-STAMPの発現量が有意に増加している検体では骨代謝異常が存在する可能性が高いと判定することができ、骨代謝異常を検出することができる。発現量が有意に増加しているとは、例えば、アフィメトリックス社の遺伝子チップを用いて、アフィメトリックス社のmicroarray Suite Ver.3.0を用いて解析した場合、DC-STAMP遺伝子のAverage difference値が正常人由来の検体に比べて有意に増加している場合をいう。
【0044】
また、DC-STAMP遺伝子の濃度を測定し、あらかじめ正常人の値として決められている数値範囲に入るか否かを解析し正常人の値として決められている範囲を超えている場合には骨代謝異常を有すると判定することで骨代謝異常を検出することもできるし、DC-STAMP遺伝子の発現量と、正常人の骨代謝異常の形成度の相関をあらかじめ調べておくことによって、被験者から採取した検体におけるDC-STAMP遺伝子の発現量を測定することによって被験者が、正常人であるか否かを判定することもできる。
【0045】
(2) DC-STAMPの発現量(蛋白質の発現量)を利用した骨代謝異常の検出方法
DC-STAMPの発現量を利用した骨代謝異常の検出方法は、具体的には、以下の工程1)乃至3)を含む方法である。
1)被験者より採取した検体における、DC-STAMPの発現量を測定する工程:
2)正常人より採取した検体における、上記1)に記載の蛋白質の発現量を測定する工程:
3)上記工程1)で測定された蛋白質の発現量と上記工程2)で測定された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験者の骨代謝異常を検出する工程。
【0046】
以下、各工程を具体的に説明する。
1) 工程1)被験者より採取した検体における、DC-STAMPの発現量を測定する工程:
(a) 検体より蛋白質測定用試料の調製
検体は、必要に応じて高速遠心を行うことにより、不溶性の物質を除去した後、以下のようにELISA/RIA用試料やウエスタンブロット用試料として調製する。
ELISA/RIA用試料としては、例えば回収した、血液または骨髄組織の抽出液をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈したものを用いる。ウエスタンブロット用(電気泳動用)試料は、例えば、血液または骨髄組織の抽出液をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈して、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動用の2−メルカトルエタノールを含むサンプル緩衝液(シグマ(Sigma)社製等)と混合する。ドット/スロットブロットの場合は、例えば回収した血液または骨髄組織の抽出液そのもの、または緩衝液で適宜希釈したものを、ブロッティング装置を使用するなどして、直接メンブレンへ吸着させる。
【0047】
(b) 試料の固相化
上記のようにして得られた試料中の蛋白質を特異的に検出するためには、試料を免疫沈降法、リガンドの結合を利用した方法等によって、沈殿させ、固相化せずに検出することもできるし、そのまま検出する該試料を固相化することもできる。蛋白質を固相化する場合において、ウエスタンブロット法、ドットブロット法またはスロットブロット法に用いられるメンブレンとしては、ニトロセルロースメンブレン(例えば、バイオラッド社製等)、ナイロンメンブレン(例えば、ハイボンド−ECL(アマシャム・ファルマシア社製)等)、コットンメンブレン(例えば、ブロットアブソーベントフィルター(バイオラッド社製)等)またはポリビニリデン・ジフルオリド(PVDF)メンブレン(例えば、バイオラッド社製等)等が挙げられる。
【0048】
ELISA法/RIA法で蛋白質の検出・定量を行うためには、専用の96穴プレート(例えば、イムノプレート・マキシソープ(ヌンク社製)等)に試料またはその希釈液(例えば0.05% アジ化ナトリウムを含むリン酸緩衝生理食塩水(以下「PBS」という)で希釈したもの)を入れて4℃乃至室温で一晩、または37℃で1乃至3時間静置することにより、ウェル内底面に蛋白質を吸着させて固相化する。
【0049】
DC-STAMPに対する抗体は、常法を用いて(例えば、新生化学実験講座1、蛋白質1、p.389-397、1992参照。)、DC-STAMPまたはDC-STAMPのアミノ酸配列から選択される任意のポリペプチドを動物に免疫し、生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein, Nature, (1975)256, 495-497、Kennet, R. ed., Monoclonal Antibody, (1980) 365-367, Prenum Press, N.Y.)に従って、DC-STAMPに対する抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、モノクローナル抗体を得ることもできる。
【0050】
なお、抗原となるDC-STAMPはDC-STAMP遺伝子を遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。具体的には、DC-STAMP遺伝子を発現可能なベクターを作製し、これを宿主細胞に導入して該遺伝子を発現させ、発現したDC-STAMPを精製すればよい。あるいは、DC-STAMPを発現させた宿主細胞そのもの若しくは膜断片を抗原として用いてもよい。
【0051】
(c) DC-STAMPの発現量の測定
DC-STAMPの発現量は、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質の発現量で示される。
【0052】
発現量の測定は、上記抗DC-STAMP抗体を用いてウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法等公知の方法を用いて測定することができる。
2) 工程2)正常人より採取した検体における、上記1)に記載の蛋白質の発現量を測定する工程:
正常人より採取した検体におけるDC-STAMPの発現量の測定は上記工程1)と同様の方法で行うことができる。
【0053】
3) 工程3)上記工程1)で測定された蛋白質の発現量と上記工程2)で測定された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験者の骨代謝異常を検出する工程。
正常人由来の検体と被験者由来の検体との間でDC-STAMPの発現量の差を解析し、DC-STAMPの発現量が有意に増加している検体では骨代謝異常が存在する可能性が高いと判定することができ、骨代謝異常を検出することができる。
また、DC-STAMPの濃度を測定し、あらかじめ正常人の値として決められている数値範囲に入るか否かを解析し正常人の値として決められている範囲を超えている場合には骨代謝異常を有すると判定することで骨代謝異常を検出することもできるし、DC-STAMPの発現量と、正常人の骨代謝の相関をあらかじめ調べておくことによって、被験者から採取した検体におけるDC-STAMPの発現量を測定することによって被験者が、正常人であるか否かを判定することもできる。
【0054】
3.DC-STAMP遺伝子及びDC-STAMPの検定
DC-STAMP遺伝子及びDC-STAMPは巨細胞腫において特異的に発現し、また単球由来細胞株が破骨細胞に分化する際に発現量が増加する。
【0055】
(1)DC-STAMPの過剰発現を利用したDC-STAMP遺伝子及びDC-STAMPの機能解析
DC-STAMPの機能を調べる方法としては、まず、DC-STAMPを発現している細胞由来のcDNAライブラリーから、コロニーハイブリダイゼーション法等、公知の方法に従い、完全長cDNAを取得する。この完全長cDNAをヒト由来細胞又は非ヒト哺乳動物由来細胞(例えば、モルモット、ラット、マウス、ニワトリ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サル由来細胞など)に導入して高発現させ、細胞に影響が生じるか否かを検討する。
【0056】
cDNAを動物個体内で発現させるためには、得られた完全長cDNAをウイルスベクターに組み込み、動物に投与する方法が挙げられる。ウイルスベクターによる遺伝子導入方法としては例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス等のDNAウイルス、又はRNAウイルスにcDNAを組み込んで導入する方法が挙げられる。なかでも、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ワクシニアウイルスを用いた方法が好ましい。
【0057】
非ウイルス性の遺伝子導入方法としては、発現プラスミドを直接筋肉内に投与する方法(DNAワクチン法)、リポソーム法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等が挙げられ、なかでも、DNAワクチン法、リポソーム法が好ましい。
【0058】
また、培養細胞に対して、完全長cDNAをヒト由来細胞、非ヒト哺乳動物由来細胞(例えば、モルモット、ラット、マウス、ニワトリ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サル由来細胞など)の単球由来細胞、リンパ節由来細胞、筋肉細胞、肝細胞、脂肪細胞、あるいは皮膚細胞等へ導入し、高発現させ、各標的細胞の有する機能、具体的には、破骨細胞の分化や成熟等の骨代謝に関係する機能、あるいは細胞の形態にどの様な影響が現れるかを検討することができる。
【0059】
完全長cDNAを動物又は細胞に導入するにあたっては、適当なプロモーター及び形質発現に関わる配列を含むベクターに該cDNAを組み込み、該ベクターで宿主細胞を形質転換させる。脊椎動物細胞の発現プロモーターとしては、通常発現しようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位、及び転写終結配列等を有するものを使用でき、さらにこれは必要により複製起点を有してもよい。該発現ベクターの例としては、SV40の初期プロモーターを有するpSV2dhfr(Subramani,S. et al., Mol.Cell.Biol.,(1981)1, 854-864)、CMVの初期プロモーターを有する、pCI−neo(プロメガ(Promega)社製)、レトロウイルスベクターpLNCX、pLNSX、pLXIN、pSIR(クロンテック(Clontech)社製)、コスミドベクターpAxCw(タカラバイオ社製)等が挙げられるが、これに限定されない。該発現ベクターは、ジエチルアミノエチル(DEAE)−デキストラン法(Luthman,H.and Magnusson,G., Nucleic Acids Res., (1983)11, 1295-1308)、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法(Graham,F.L.and van der Eb,A.J., Virology, (1973) 52, 456-457)、及び電気パルス穿孔法(Neumann, E.et al., EMBO J.,(1982) 1, 841-845)などによりマウス単球由来細胞RAW264.7(ATCC Cat. No. TIB-71)、RAW264細胞(ECACC Cat. No. 85062803)、RAW-D細胞(Watanabe et al., J. Endocrinol., (2004)180, 193-201)、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman,Y., Cell, (1981) 23, 175-182, ATCC:CRL−1650)やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC:CCL−61)のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(Urlaub,G. and Chasin, L.A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1980) 77, 4126−4220)、ヒト胎児腎臓由来293細胞(ATCC:CRL−1573)等に取り込ませることができるが、これらに限定されない。かくして所望の形質転換体を得ることができる。
【0060】
また、遺伝子操作により、正常動物において、目的とする遺伝子が高発現するようにトランスジェニック動物を作製し、細胞の形態にどの様な影響が現れるかを検討することも可能である。
【0061】
(2)DC-STAMPの発現量を抑制することによるDC-STAMPの機能解析
DC-STAMPの発現量を抑制することによって破骨細胞の分化や破骨細胞の成熟、細胞の形態にどの様な影響が現れるかを調べることによってもDC-STAMPの機能を解析することができる。
【0062】
DC-STAMPの発現を抑制する物質としてはDC-STAMP遺伝子に対するアンチセンス核酸、siRNA等を挙げることができる。DC-STAMPの機能を阻害する物質としてはDC-STAMPに特異的に結合する抗体を挙げることができる。
【0063】
DC-STAMPの発現を抑制するか、あるいはDC-STAMPの機能を阻害したときに各標的細胞の有する機能、具体的には、破骨細胞の分化や成熟等の骨代謝に関係する機能、あるいは細胞の形態にどの様な影響が現れるかを検討することができる。また、骨代謝異常を有する動物又は骨代謝異常を有さない動物において、DC-STAMP遺伝子を破壊したノックアウト動物を作製し細胞や組織の状態を判定することができる。
【0064】
4.DC-STAMP遺伝子及び/又はDC-STAMP検出用キット
DC-STAMP遺伝子及び/又はDC-STAMPは、以下の1)乃至5)からなる群から選択される少なくとも一つ以上を含むキットを用いて検出することができる。
1)配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド及び配列番号5に示されるヌクレオチド配列からからなるポリヌクレオチドから選択される少なくともいずれか一つのポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15乃至30塩基長の連続したオリゴヌクレオチドプライマー;
2)配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド及び配列番号5に示されるヌクレオチド配列からからなるポリヌクレオチドから選択される少なくともいずれか一つのポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、該ポリヌクレオチドを検出するための15ヌクレオチド以上の連続したポリヌクレオチドプローブ;
3)配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド及び配列番号5に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドから選択される少なくともいずれか一つのポリヌクレオチドが固定された固相化試料;
4)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質から選択される少なくともいずれか一つの蛋白質に特異的に結合し、該蛋白質を検出するための抗体;
5)上記4)に記載の抗体に結合し得る二次抗体。
【0065】
前記1)記載のプライマーは、DC-STAMP遺伝子のヌクレオチド配列(配列表の配列番号1、3及び/又は5に示されるヌクレオチド配列)に基づき市販のプライマー設計ソフト(たとえば、Wisconsin GCG package Version 10.2)を用いる等、常法により容易に設計し、増幅することができる。また、前記2)に記載のプローブは、DC-STAMPに特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、100乃至1500塩基長、好ましくは300乃至600塩基長である。これらのプライマーやプローブは、適当な標識によりラベル(例えば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよく、また、リンカーを付加していてもよい。
【0066】
上記3)に記載の固相化試料は、上記2)に記載のプローブをガラス板、ナイロンメンブレン等の固相に固定することにより作製される。このような固相化試料の作成方法については、既に「2.骨代謝異常の検出」の項の「(1)DC-STAMP遺伝子の発現量を利用した骨代謝異常の検出方法」の項で説明した通りであり、例えば、遺伝子チップ、cDNAアレイ、オリゴアレイ、メンブレンフィルター等を挙げることができる。
【0067】
本発明のキットには、更に耐熱性DNAポリメラーゼ、dNTP(dATP、dCTP、dGTP、dTTPの混合物)及び緩衝液を含めることもできる。耐熱性DNAポリメラーゼとしてはTaq DNAポリメラーゼ、LA Taq DNA polymerase(宝酒造社製)、Tth DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼなどが例示できる。緩衝液は使用するDNAポリメラーゼに応じて選ばれ、必要に応じてMg2+などが添加されている。
【0068】
前記、4)及び5)に記載の抗体は上記「2.骨代謝異常の検出」の項の「(2) DC-STAMPの発現量(蛋白質の発現量)を利用した骨代謝異常の検出方法」の項や「6.抗DC-STAMP抗体の製造」の項に記載した方法により作製することができる。該抗体は、適当な標識によりラベル(例えば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよい。
【0069】
本発明のキットはDC-STAMP遺伝子及び/又はDC-STAMPの検出に用いることができ、骨代謝異常の有無の判定や、骨代謝異常の病態の進行を抑制する物質のスクリーニングにも用いることができる。
【0070】
5.破骨細胞への分化抑制物質のスクリーニング方法
本発明の一つの態様として、DC-STAMP遺伝子及び/または、DC-STAMPの発現量を測定することによる、破骨細胞への分化抑制物質のスクリーニング方法を挙げることができる。
【0071】
本発明の一つの態様として、DC-STAMPの破骨細胞分化促進活性を阻害する物質を同定することによって、骨代謝異常症の治療効果及び/または予防効果を有する物質をスクリーニングする方法を挙げることができる。
【0072】
なお、「被験物質」とは、本発明のスクリーニング方法で破骨細胞への分化抑制活性を調べる対象となる物質をいう。被験物質としては、化合物、微生物の代謝産物、植物や動物組織の抽出物、それらの誘導体またはそれらの混合物等が挙げられる。また、DC-STAMPの発現量を低下するように設計された核酸またはその誘導体(アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、dsRNA、siRNA等を含む)を、被験物質として使用することも可能である。被験物質の投与量や濃度は適宜設定するか、または例えば希釈系列を作成するなどして複数種の投与量を設定してもよく、固体、液体等適当な状態で投与することができ、適当なバッファーに溶解するか、あるいは安定化剤等を加えてもよい。培養細胞を用いるスクリーニング方法の場合には、培地に添加して培養することができる。培地に添加する場合には培養開始時から添加してもよいし、培養途中で添加しても良く、また、添加の回数も1回に限らない。被験物質存在下で培養する期間も適宜設定してよいが、好ましくは30分乃至2週間であり、より好ましくは、30分乃至48時間である。哺乳動物個体に被験物質を投与する場合は、被験物質の物性等により経口投与、静脈注射、腹腔内注射、経皮投与、皮下注射等の投与形態を使い分ける。なお被験物質の投与から、検体を得るまでの時間は適当に選択することができる。
【0073】
本発明のスクリーニング方法において用いられる培養細胞は、DC-STAMPを発現する哺乳動物細胞である限りにおいて、正常な細胞でも、癌細胞等の異常な増殖を示す細胞でもよく、例えば、マウス単球由来細胞RAW264.7(ATCC Cat. No TIB-71)、RAW264細胞(ECACC Cat. No. 85062803)、RAW-D細胞(Watanabe et al., J. Endocrinol., (2004)180, 193-201)、マウス骨髄由来初代培養細胞等を挙げることができるがこれらに限定されない。培養細胞の哺乳動物種としては、ヒト、マウスまたはその他の哺乳動物(モルモット、ラット、ニワトリ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルなど)が好ましいが、これらに限定されない。なお、培養細胞としてはDC-STAMPを過剰発現している哺乳動物細胞を用いるのがより好ましく、例えばDC-STAMP遺伝子をそのプロモーター領域とともに導入し、DC-STAMPを過剰発現するRAW264.7細胞、RAW264細胞、RAW-D細胞などを挙げることができる。
【0074】
本発明のスクリーニング方法には、培養細胞を用いず、哺乳動物個体に被験物質を投与して、その後該動物個体から摘出されたその臓器または組織細胞におけるDC-STAMP遺伝子の発現を検出する方法も含まれる。遺伝子発現の検出対象となる臓器または組織は、DC-STAMPを発現するものであればよいが、好ましくは骨代謝異常が発生している組織であり、より好ましくは骨髄である。哺乳動物種としては非ヒト哺乳動物を用いることができ、マウス、ラットまたはハムスターが好ましく、マウスまたはラットがより好ましい。なお、骨代謝異常を呈する動物モデルとして、卵巣摘除動物、精巣摘除動物、腫瘍細胞を皮下、皮内、左心室、骨髄、静脈あるいは腹腔等に移植した担癌動物、坐骨神経切除動物、アジュバント関節炎モデル動物、コラーゲン誘発性関節炎モデル動物、グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症モデル動物、老化促進マウス(SAMP6マウス、Matsushita et al., Am. J. Pathol. 125, 276-283 (1986))、甲状腺・副甲状腺摘除動物、副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)持続注入動物、破骨細胞形成抑制因子(OCIF)ノックアウトマウス(Mizuno et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., (1998)247, 610-615)などを用いることができる。更に、歯周病による歯の喪失モデル動物や、DC-STAMPを過剰発現させた動物を用いることもできる。さらにスクリーニングで選択された被検物質を上記の動物モデルに投与し、骨組織における破骨細胞の数、骨密度、骨強度あるいは血中Ca濃度等、骨代謝異常により変動するパラメーターを測定することによって、該被検物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を評価することができる。
【0075】
本発明の方法において用いられる培養細胞は、被験物質を添加しない場合にRANKL及びTNF-αを添加するとDC-STAMPを発現可能な条件であれば、いかなる条件で培養してもよい。例えば、該培養細胞について公知の培養条件が知られており、該条件下において該細胞がDC-STAMPを発現する場合は、該条件で培養してもよい。また、哺乳動物個体から摘出した臓器または組織におけるDC-STAMPの発現を検出する場合における、該動物の飼育条件も、被験物質を添加しない場合にDC-STAMPを発現可能な条件であればよい。
【0076】
なお、被験物質の、DC-STAMPの発現に対する影響を調べるためには、DC-STAMP遺伝子の発現量を測定する方法と、DC-STAMP遺伝子の翻訳産物である、DC-STAMPの発現量を測定する方法がある。DC-STAMP遺伝子、及び/または、DC-STAMPの発現を抑える被験物質は骨代謝異常、好適には骨粗鬆症、関節リウマチ及び/又は癌性高カルシウム血症に対する治療効果及び/または予防効果を有する物質であると考えられる。
【0077】
培養細胞からの、全RNAの抽出、DC-STAMP遺伝子の発現量の測定、DC-STAMPの発現量の測定については、上記「2.骨代謝異常の検出」の項に記載した方法に従って行うことができる。なお、哺乳動物由来培養細胞を用いる場合には、必要に応じて培地には被験物質と共にRANKL及びTNF-αを適当量添加し、被験物質を添加しないコントロールにおいてもRANKL及びTNF-αを適当量添加する。
【0078】
(1) DC-STAMP遺伝子を用いる方法
本発明のスクリーニング方法としては例えば、哺乳動物由来培養細胞を用いる方法、及び哺乳動物個体を用いる方法についてそれぞれ以下のようになる。
【0079】
(a) 哺乳動物由来培養細胞を用いる方法
(i) 以下の工程イ)乃至ハ)を含む:
イ)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞より、全RNAを抽出する工程;
ロ)イ)由来の全RNAと被験物質を添加しないで培養した哺乳動物培養細胞由来全RNAの間における、DC-STAMP遺伝子の発現量の差を検出する工程;
ハ)ロ)に記載の遺伝子の発現量の差を解析し、被験物質の、骨代謝異常に対する治療、及び/または予防効果を判定する工程。
【0080】
(ii)以下の工程イ)乃至ニ)を含む。
イ)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞より、全RNAを抽出する工程;
ロ)被験物質を添加しない培地で培養した哺乳動物由来培養細胞より、全RNAを抽出する工程;
ハ)上記イ)由来の全RNAとロ)由来の全RNAにおける、DC-STAMP遺伝子の発現量を測定する工程;
ニ)上記イ)由来の全RNAとロ)由来の全RNAとの間における上記ハ)によって測定された遺伝子の発現量の差を解析し、被験物質の、骨代謝異常に対する治療、及び/または予防効果を判定する工程。
【0081】
(b)哺乳動物個体を用いる方法
(i)以下の工程イ)乃至ハ)を含む。
イ)被験物質を投与した哺乳動物個体より採取した検体より、全RNAを抽出する工程;
ロ)イ)由来の全RNAと被験物質を投与しなかった動物個体より採取した検体より得た全RNAの間における、DC-STAMP遺伝子の発現量の差を検出する工程;
ハ)上記ロ)に記載の遺伝子の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療、及び/または予防効果を判定する工程。
【0082】
(ii)以下の工程イ)乃至ニ)を含む。
イ)被験物質を投与した哺乳動物個体より採取した検体より、全RNAを抽出する工程;
ロ)被験物質を投与しなかった哺乳動物個体より採取した検体より、全RNAを抽出する工程;
ハ)上記工程イ)由来の全RNAと上記工程ロ)由来の全RNAにおける、DC-STAMP遺伝子の発現量を測定する工程;
ニ)ハ)に記載の遺伝子の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療及び/または予防効果を判定する工程。
【0083】
(2) DC-STAMPを用いる方法
DC-STAMPの発現量を測定することを利用したスクリーニング方法については哺乳動物培養細胞を用いた方法と動物個体を用いた方法についてそれぞれ以下の工程を含む。
【0084】
(a) 哺乳動物由来培養細胞を用いる方法
(i)以下の工程イ)及びロ)を含む:
イ)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞における、DC-STAMPの発現量を測定する工程;
ロ)イ)で測定された蛋白質の発現量と、被験物質を添加しない培地で培養した哺乳動物由来培養細胞における該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【0085】
(ii)以下の工程イ)乃至ハ)を含む:
イ)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞における、DC-STAMPの蛋白質の発現量を測定する工程;
ロ)被験物質を添加しない培地で培養した哺乳動物由来培養細胞における、上記イ)に記載の蛋白質の発現量を測定する工程;
ハ)上記イ)で測定された蛋白質の発現量と、上記ロ)で測定された該蛋白質の発現量の差を検出し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【0086】
(iii) 以下の工程イ)乃至ハ)を含む:
イ)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞から得た全蛋白質を固相化する工程;
ロ)上記固相化蛋白質における、DC-STAMPの蛋白質の発現量を測定する工程;
ハ)上記ロ)で検出されたDC-STAMPの発現量と、被験物質を添加しない培地で培養した哺乳動物由来培養細胞から得た全蛋白質における該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【0087】
(iv)以下の工程イ)乃至ホ)を含む:
イ)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞から得た全蛋白質を固相化する工程;
ロ)被験物質を添加しない培地で培養した哺乳動物由来培養細胞から得た全蛋白質を固相化する工程;
ハ)上記工程イ)に記載の固相化蛋白質におけるDC-STAMPの蛋白質の発現量を該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いて測定する工程;
ニ)上記工程ロ)に記載の固相化蛋白質におけるDC-STAMPの発現量を該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いて測定する工程;
ホ)上記工程ハ)で測定された蛋白質の発現量と、上記工程ニ)で測定された蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の、骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【0088】
(b) 哺乳動物個体を用いる方法
(i) 以下の工程イ)及びロ)を含む:
イ)被験物質を投与された哺乳動物個体より採取した検体における、DC-STAMPの蛋白質の発現量を測定する工程;
ロ)上記工程イ)で測定されたDC-STAMPの発現量と、被験物質を投与されなかった哺乳動物個体から採取した検体における該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【0089】
(ii) 以下の工程イ)乃至ハ)を含む:
イ)被験物質を投与された哺乳動物個体より採取した検体における、DC-STAMPの蛋白質の発現量を該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いて測定する工程;
ロ)被験物質を投与されなかった哺乳動物個体より採取した検体における、該蛋白質の発現量を測定する工程;
ハ)イ)で測定されたDC-STAMPの蛋白質の発現量と、ロ)で測定された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【0090】
(iii)以下の工程イ)乃至ハ)を含む:
イ)被験物質を投与された哺乳動物個体より採取した検体中の全蛋白質を固相化する工程;
ロ)上記固相化蛋白質における、DC-STAMPの蛋白質の発現量を測定する工程;
ハ)上記ロ)で検出されたDC-STAMPの蛋白質の発現量と、被験物質を投与されなかった哺乳動物個体より採取した検体中における該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療及び/または予防効果を判定する工程。
【0091】
(iv)以下の工程イ)乃至ホ)を含む:
イ)被験物質を投与された哺乳動物個体より採取した検体中の全蛋白質を固相化する工程;
ロ)被験物質を投与されなかった哺乳動物個体より採取した検体中の全蛋白質を固相化する工程;
ハ)上記工程イ)に記載の固相化蛋白質における、DC-STAMPの蛋白質の発現量を該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いて検出する工程;
ニ)上記ロ)に記載の固相化蛋白質における、DC-STAMPの蛋白質の発現量を該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いて検出する工程;
ホ)上記ハ)で検出された蛋白質の発現量と、上記ニ)で検出された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【0092】
(3) その他の方法
DC-STAMPを過剰発現させた哺乳動物個体に被験物質を投与した場合と投与しなかった場合について、経時的に骨代謝異常の発生率、骨代謝異常の程度、及び/または生存率等を測定する。被験物質を投与した哺乳動物で骨代謝異常の発生率が有意に低下している、骨代謝異常の程度が有意に小さい、及び/または、生存率が約10%以上、好ましくは約30%以上、より好ましくは、約50%以上上昇した場合に、被験物質は骨代謝異常に対する治療及び/または予防効果を有する化合物として選択することができる。
【0093】
6.抗DC-STAMP抗体の製造
(1) 抗原の調製
抗DC-STAMP抗体を作製するための抗原としては、DC-STAMPまたはその少なくとも6個の連続した部分アミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいはこれらに任意のアミノ酸配列や担体が付加された誘導体を挙げることができる。
【0094】
DC-STAMPは、血球細胞又は骨髄細胞から直接精製して使用するか、あるいはこれらの細胞の細胞膜画分を調製して使用することができ、また、DC-STAMPをin vitroにて合成する、あるいは遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。
【0095】
原核細胞の宿主としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)や枯草菌(Bacillus subtilis)などが挙げられる。目的の遺伝子をこれらの宿主細胞内で形質転換させるには、宿主と適合し得る種由来のレプリコンすなわち複製起点と、調節配列を含んでいるプラスミドベクターで宿主細胞を形質転換させる。また、ベクターとしては、形質転換細胞に表現形質(表現型)の選択性を付与することができる配列を有するものが好ましい。
【0096】
例えば、大腸菌としてはK12株などがよく用いられ、ベクターとしては、一般にpBR322やpUC系のプラスミドが用いられるが、これらに限定されず、公知の各種菌株、及びベクターがいずれも使用できる。
【0097】
プロモーターとしては、大腸菌においては、トリプトファン(trp)プロモーター、ラクトース(lac)プロモーター、トリプトファン・ラクトース(tac)プロモーター、リポプロテイン(lpp)プロモーター、ポリペプチド鎖伸張因子Tu(tufB)プロモーター等が挙げられ、どのプロモーターも目的のポリペプチドの産生に使用することができる。
【0098】
枯草菌としては、例えば207−25株が好ましく、ベクターとしてはpTUB228(Ohmura, K. et al. (1984) J. Biochem. 95, 87-93)などが用いられるが、これに限定されるものではない。枯草菌のα−アミラーゼのシグナルペプチド配列をコードするDNA配列を連結することにより、菌体外での分泌発現も可能となる。
【0099】
真核細胞の宿主細胞には、脊椎動物、昆虫、酵母などの細胞が含まれ、脊椎動物細胞としては、例えば、マウス単球由来細胞RAW264.7(ATCC Cat. No TIB-71)、RAW264細胞(ECACC Cat. No. 85062803)、RAW-D細胞(Watanabe et al., J. Endocrinol., (2004)180, 193-201 )、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman, Y., Cell, (1981)23, 175-182、ATCC CRL−1650)、マウス繊維芽細胞NIH3T3(ATCC No.CRL−1658)やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC CCL−61)のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(Urlaub, G. and Chasin, L. A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (1980)77, 4126-4220)等がよく用いられているが、これらに限定されない。
【0100】
脊椎動物細胞の発現プロモーターとしては、通常発現しようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位、及び転写終結配列等を有するものを使用でき、さらにこれは必要により複製起点を有してもよい。該発現ベクターの例としては、サイトメガロウイルス初期プロモーターを有するpCDNA3.1(インビトロジェン社製)、SV40の初期プロモーターを有するpSV2dhfr(Subramani, S. et al., Mol. Cell. Biol., (1981)1, 854-864)等が挙げられるが、これに限定されない。
【0101】
宿主細胞として、COS細胞あるいはNIH3T3細胞を用いる場合を例に挙げると、発現ベクターとしては、SV40複製起点を有し、COS細胞あるいはNIH3T3細胞において自立増殖が可能であり、さらに、転写プロモーター、転写終結シグナル、及びRNAスプライス部位を備えたものを用いることができる。該発現ベクターは、DEAE−デキストラン法(Luthman, H. and Magnusson, G., Nucleic Acids Res., (1983)11, 1295-1308)、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法(Graham, F. L. and van der Eb, A. J., Virology, (1973)52, 456-457)、及び電気パルス穿孔法(Neumann, E. et al., EMBO J., (1982)1, 841-845)などによりCOS細胞、あるいはNIH3T3細胞に取り込ませることができ、かくして所望の形質転換細胞を得ることができる。また、宿主細胞としてCHO細胞を用いる場合には、発現ベクターと共に、抗生物質G418耐性マーカーとして機能するneo遺伝子を発現し得るベクター、例えばpRSVneo(Sambrook, J. et al. (1989) : “Molecular Cloning A Laboratory Manual“ Cold Spring HarborLaboratory, NY)やpSV2neo(Southern, P. J. and Berg, P., J. Mol. Appl. Genet., (1982)1, 327-341)などをコ・トランスフェクトし、G418耐性のコロニーを選択することにより、目的のポリペプチドを安定に産生する形質転換細胞を得ることができる。
【0102】
上記のようにして得られる形質転換体は、常法に従い培養することができ、該培養により細胞内、細胞膜上または細胞外に目的のポリペプチドが産生される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択でき、例えば、上記COS細胞であれば、RPMI1640培地やダルベッコ変法イーグル培地(以下「DMEM」という)などの培地に、必要に応じウシ胎児血清などの血清成分を添加したものを使用できる。
【0103】
上記培養により、形質転換体の細胞内、細胞膜上または細胞外に産生される組換え蛋白質は、該蛋白質の物理的性質や化学的性質などを利用した各種の公知の分離操作法により分離・精製することができる。該方法としては、具体的には例えば、通常の蛋白質沈殿剤による処理、限外濾過、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの各種液体クロマトグラフィー、透析法、これらの組み合わせなどを例示できる。また、発現させる組換え蛋白質に6残基からなるヒスチジンを繋げることにより、ニッケルアフィニティーカラムで効率的に精製することができる。上記方法を組み合わせることにより容易に高収率、高純度で目的とするポリペプチドを大量に製造できる。また、上記の蛋白質が細胞膜上に産生される場合は、細胞膜画分を調製することによって、分離、粗精製することができる。
【0104】
(2) 抗DC-STAMPモノクローナル抗体の製造
DC-STAMPと特異的に結合する抗体の例として、DC-STAMPと特異的に結合するモノクローナル抗体を挙げることができるが、その取得方法は、以下に記載する通りである。
【0105】
モノクローナル抗体の製造にあたっては、一般に下記のような作業工程が必要である。すなわち、
(a)抗原として使用する生体高分子の精製、
(b)抗原を動物に注射することにより免疫した後、血液を採取しその抗体価を検定して脾臓摘出の時期を決定してから、抗体産生細胞を調製する工程、
(c)骨髄腫細胞(以下「ミエローマ」という)の調製、
(d)抗体産生細胞とミエローマとの細胞融合、
(e)目的とする抗体を産生するハイブリドーマ群の選別、
(f)単一細胞クローンへの分割(クローニング)、
(g)場合によっては、モノクローナル抗体を大量に製造するためのハイブリドーマの培養、またはハイブリドーマを移植した動物の飼育、
(h)このようにして製造されたモノクローナル抗体の生理活性、及びその結合特異性の検討、あるいは標識試薬としての特性の検定、等である。
【0106】
以下、モノクローナル抗体の作製法を上記工程に沿って詳述するが、該抗体の作製法はこれに制限されず、例えば脾細胞以外の抗体産生細胞及びミエローマを使用することもできる。
【0107】
(a)抗原の精製
抗原としては、前記したような方法で調製したDC-STAMPまたはその一部を使用することができる。また、DC-STAMP発現組換え体細胞より調製した膜画分、またはDC-STAMP発現組換え体細胞自身、さらに、当業者に周知の方法を用いて、化学合成した本発明の蛋白質の部分ペプチドを抗原として使用することもできる。
【0108】
(b)抗体産生細胞の調製 工程(a)で得られた抗原と、フロインドの完全または不完全アジュバント、またはカリミョウバンのような助剤とを混合し、免疫原として実験動物に免疫する。実験動物は公知のハイブリドーマ作製法に用いられる動物を支障なく使用することができる。具体的には、たとえばマウス、ラット、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ等を使用することができる。ただし、摘出した抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞の入手容易性等の観点から、マウスまたはラットを被免疫動物とするのが好ましい。また、実際に使用するマウスおよびラットの系統は特に制限はなく、マウスの場合には、たとえば各系統 A、AKR 、BALB/c、BDP 、BA、CE、C3H 、57BL、C57BR 、C57L、DBA 、FL、HTH 、HT1 、LP、NZB 、NZW 、RF、R III、SJL 、SWR 、WB、129 等が、またラットの場合には、たとえば、Low 、Lewis 、Spraque 、Daweley 、ACI 、BN、Fischer等を用いることができる。これらのマウス及びラットは例えば日本クレア、日本チャ−ルスリバー、日本SLC、The Jackson Laboratories等実験動物飼育販売業者より入手することができる。このうち、後述のミエローマ細胞との融合適合性を勘案すれば、マウスでは BALB/c 系統が、ラットではlow 系統が被免疫動物として特に好ましい。また、抗原のヒトとマウスでの相同性を考慮し、自己抗体を除去する生体機構を低下させたマウス、すなわち自己免疫疾患マウスを用いることも好ましい。なお、これらマウスまたはラットの免疫時の週齢は、好ましくは5〜12週齢、さらに好ましくは6〜8週齢である。
【0109】
DC-STAMPまたはこの組換え体によって動物を免疫するには、例えば、Weir,D.M.,Handbook of Experimental Immunology Vol.I. II. III.,Blackwell Scientific Publications, Oxford (1987)、Kabat,E.A. and Mayer,M.M., Experimental Immunochemistry, Charles C Thomas Publisher Spigfield,Illinois (1964) 等に詳しく記載されている公知の方法を用いることができる。これらの免疫法のうち、この発明において好適な方法を具体的に示せば、たとえば以下のとおりである。すなわち、まず、抗原である膜蛋白画分、もしくは抗原を発現させた細胞を動物の皮内または腹腔内に投与する。ただし、免疫効率を高めるためには両者の併用が好ましく、前半は皮内投与を行い、後半または最終回のみ腹腔内投与を行うと、特に免疫効率を高めることができる。抗原の投与スケジュールは、被免疫動物の種類、個体差等により異なるが、一般には、抗原投与回数3〜6回、投与間隔2〜6週間が好ましく、投与回数3〜4回、投与間隔2〜4週間がさらに好ましい。投与回数を過度に増やすと抗原を浪費し、また投与間隔を広げすぎると動物の老化による細胞の低活性化を招くために好ましくない。また、抗原の投与量は、動物の種類、個体差等により異なるが、一般には、0.05〜5 ml、好ましくは 0.1〜0.5ml 程度とする。追加免疫は、以上の通りの抗原投与の1〜6週間後、好ましくは2〜4週間後、さらに好ましくは2〜3週間後に行う。この追加免疫の時期が6週間目より遅いか、あるいは1週間目より早すぎると追加免疫の効果が少ない。なお、追加免疫を行う際の抗原投与量は、動物の種類、大きさ等により異なるが、一般に、例えばマウスの場合には、0.05〜5 ml、好ましくは 0.1〜0.5 ml、さらに好ましくは 0.1〜0.2 ml程度とする。不必要の大量投与は免疫効果を低下させるだけでなく、被免疫動物にとっても好ましいものではない。
【0110】
上記追加免疫から1〜10日後、好ましくは2〜5日後、さらに好ましくは2〜3日後に被免疫動物から抗体産生細胞を含む脾臓細胞またはリンパ球を無菌的に取り出す。なお、その際に抗体価を測定し、抗体価が十分高くなった動物を抗体産生細胞の供給源として用いれば、以後の操作の効率を高めることができる。
【0111】
ここで用いられる抗体価の測定法としては、RIA法、ELISA法、蛍光抗体法、受身血球凝集反応法など種々の公知技術があげられるが、検出感度、迅速性、正確性、及び操作の自動化の可能性などの観点から、RIA法またはELISA法がより好適である。
本発明における抗体価の測定は、例えばELISA法によれば、以下に記載するような手順により行うことができる。まず、精製または部分精製した抗原をELISA用96穴プレート等の固相表面に吸着させ、さらに抗原が吸着していない固相表面を抗原と無関係な蛋白質、例えばウシ血清アルブミン(以下「BSA」という)により覆い、該表面を洗浄後、第一抗体として段階希釈した試料(例えばマウス血清)に接触させ、上記抗原に試料中のモノクローナル抗体を結合させる。さらに第二抗体として酵素標識されたマウス抗体に対する抗体を加えてマウス抗体に結合させ、洗浄後該酵素の基質を加え、基質分解に基づく発色による吸光度の変化等を測定することにより、抗体価を算出する。
【0112】
これらの脾臓細胞またはリンパ球からの抗体産生細胞の分離は、公知の方法(例えば、Kohler et al., Nature, (1975)256, 495; Kohler et al., Eur.J.Immnol., (1977)6,511, ; Milstein et al., Nature, (1977)266, 550; Walsh, Nature, (1977)266, 495)に従って行うことができる。例えば、脾臓細胞の場合には、細胞を細切してステンレスメッシュで濾過した後、イーグル最小必須培地(MEM)に浮遊させて抗体産生細胞を分離する一般的方法を採用することができる。
【0113】
(c) 骨髄腫細胞(以下、「ミエローマ」という)の調製
細胞融合に用いるミエローマ細胞には特段の制限はなく、公知の細胞株から適宜に選択して用いることができる。ただし、融合細胞からハイブリドーマを選択する際の利便性を考慮して、その選択手続が確立しているHGPRT(Hypoxanthine-guanine phosphoribosyl transferase)欠損株を用いるのが好ましい。すなわち、マウス由来のX63-Ag8(X63)、NS1-Ag4/1(NS1)、P3X63-Ag8.Ul(P3Ul)、X63-Ag8.653(X63.653)、SP2/0-Ag14(SP2/0)、MPC11-45.6TG1.7(45.6TG)、FO、S149/5XXO、BU.1等、ラット由来の210.RSY3.Ag.1.2.3(Y3)等、ヒト由来のU266AR(SKO-007)、GM1500・GTG-A12(GM1500)、UC729-6、LICR-LOW-HMy2(HMy2)、8226AR/NIP4-1(NP41)等である。これらのHGPRT欠損株は例えば、American Type Culture Collection (ATCC)等から入手することができる。
【0114】
これらの細胞株は、適当な培地、例えば8−アザグアニン培地[RPMI−1640培地にグルタミン、2−メルカプトエタノール、ゲンタマイシン、及びウシ胎児血清(以下「FCS」という)を加えた培地に8−アザグアニンを加えた培地] 、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium ;以下「IMDM」という)、またはダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium;以下「DMEM」という)で継代培養するが、細胞融合の3乃至4日前に正常培地[例えば、10% FCSを含むASF104培地(味の素(株)社製)]で継代培養し、融合当日に2×107以上の細胞数を確保しておく。
【0115】
(d)細胞融合 抗体産生細胞とミエローマ細胞との融合は、公知の方法(Weir,D.M.,Handbookof Experimental Immunology Vol.I. II. III.,Blackwell Scientific Publications, Oxford (1987)、Kabat,E.A. and Mayer,M.M., Experimental Immunochemistry, Charles C Thomas Publisher Spigfield,Illinois (1964) 等)に従い、細胞の生存率を極度に低下させない程度の条件下で適宜実施することができる。そのような方法は、例えば、ポリエチレン・グリコール等の高濃度ポリマー溶液中で抗体産生細胞とミエローマ細胞とを混合する化学的方法、電気的刺激を利用する物理的方法等を用いることができる。このうち、上記化学的方法の具体例を示せば以下のとおりである。すなわち、高濃度ポリマー溶液としてポリエチレン・グリコールを用いる場合には、分子量1500〜6000、好ましくは2000〜4000のポリエチレン・グリコール溶液中で、30〜40℃、好ましくは35〜38℃の温度で抗体産生細胞とミエローマ細胞とを1〜10分間、好ましくは5〜8分間混合する。
【0116】
(e)ハイブリドーマ群の選択
上記細胞融合により得られるハイブリドーマの選択方法は特に制限はないが、通常HAT(ヒポキサンチン・アミノブテリン・チミジン)選択法〔Kohler et al., Nature, 256, 495 (1975); Milstein at al., Nature 266, 550 (1977)〕が用いられる。この方法は、アミノブテリンで生存し得ないHGPRT欠損株のミエローマ細胞を用いてハイブリドーマを得る場合に有効である。すなわち、未融合細胞およびハイブリドーマをHAT培地で培養することにより、アミノブテリンに対する耐性を持ち合わせたハイブリドーマのみを選択的に残存させ、かつ増殖させることができる。
【0117】
(f)単一細胞クローンへの分割(クローニング)
ハイブリドーマのクローニング法としては、例えばメチルセルロース法、軟アガロース法、限界希釈法等の公知の方法を用いることができる〔例えばBarbara, B.M. and Stanley, M.S. :Selected Methods in Cellular Immunology, W.H. Freeman and Company, San Francisco(1980)参照〕。このクローニング法としては、プレートの1ウェルに1個のハイブリドーマが含まれるように希釈して培養する限界希釈法、軟寒天培地中で培養しコロニーを回収する軟寒天法、マイクロマニュピレーターによって1個づつの細胞を取り出し培養する方法、セルソーターによって1個の細胞を分離する「ソータクローン」などが挙げられる。これらの方法のうち、特に限界希釈法が好適である。この方法では、マイクロプレートにラット胎児由来繊維芽細胞株、あるいは正常マウス脾臓細胞、胸腺細胞、腹水細胞などのフィーダー(feeder)を接種しておく。一方、あらかじめハイブリドーマを0.2〜0.5個/0.2mlになるように培地中で希釈し、この希釈したハイブリドーマの浮遊液を各ウェルに0.1mlずつ入れ、一定期間毎(例えば3日毎)に約1/3の培地を新しいものに交換しながら2週間程度培養を続けることによってハイブリドーマのクローンを増殖させることができる。
【0118】
抗体価の認められたウェルについて、例えば限界希釈法によるクローニングを2〜4回繰返し、安定して抗体価の認められたものを抗DC-STAMPモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株として選択する。
【0119】
(g)ハイブリドーマ培養によるモノクローナル抗体の調製
このようにして選択されたハイブリドーマは、これを培養することにより、モノクローナル抗体を効率よく得ることができるが、培養に先立ち、目的とするモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングすることが望ましい。このスクリーニングにはそれ自体既知の方法が採用できる。
【0120】
本発明における抗体価の測定は、例えばELISA法によれば、以下に記載するような手順により行うことができる。まず、精製または部分精製したDC-STAMP、もしくはDC-STAMPを発現させた細胞をELISA用96穴プレート等の固相表面に吸着させ、さらに抗原が吸着していない固相表面を抗原と無関係な蛋白質、例えばウシ血清アルブミン(以下「BSA」という)により覆い、該表面を洗浄後、第一抗体として段階希釈した試料(例えばハイブリドーマの培養上清)に接触させ、上記抗原に試料中の抗DC-STAMP抗体を結合させる。さらに第二抗体として酵素標識されたマウス抗体に対する抗体を加えてマウス抗体に結合させ、洗浄後該酵素の基質を加え、基質分解に基づく発色による吸光度の変化等を測定することにより、抗体価を算出する。なお、このようなスクリーニングは、上記のようにハイブリドーマをクローニングした後で行ってもよいし、その前に行ってもよい。
【0121】
以上の通りの方法によって得たハイブリドーマは、液体窒素中または−80℃以下の冷凍庫中に凍結状態で保存することができる。
【0122】
クローニングを完了したハイブリドーマは、培地をHT培地から正常培地に換えて培養される。大量培養は、大型培養瓶を用いた回転培養、あるいはスピナー培養で行われる。この大量培養における上清を、ゲル濾過等、当業者に周知の方法を用いて精製することにより、本発明の蛋白質に特異的に結合するモノクローナル抗体を得ることができる。また、同系統のマウス(例えば、上記のBALB/c)、あるいはNu/Nuマウスの腹腔内にハイブリドーマを注射し、該ハイブリド−マを増殖させることにより、本発明のモノクローナル抗体を大量に含む腹水を得ることができる。腹腔内に投与する場合には、事前(3〜7日前)に2,6,10,14−テトラメチルペンタデカン(2,6,10,14-tetramethyl pentadecane)(プリスタン)等の鉱物油を投与すると、より多量の腹水が得られる。たとえば,ハイブリドーマと同系統のマウスの腹腔内に予め免疫抑制剤を注射し、T細胞を不活性化した後、20日後に106 〜107 個のハイブリドーマ・クローン細胞を血清を含まない培地中に浮遊(0.5ml)させて腹腔内に投与し、通常腹部が膨満し、腹水にたまったところでマウスより腹水を採取する。この方法により、培養液中に比べて約100倍以上の濃度のモノクローナル抗体が得られる。
【0123】
上記方法により得たモノクローナル抗体は、例えばWeir, D.M.:Handbook of Experimental Immunology Vol. I,II,III, Blackwell Scientific Publications, Oxford (1978) に記載されている方法で精製することができる。すなわち、硫安塩析法、ゲル濾過法、イオン交換クロマトグラフィー法、アフィニティークロマトグラフィー法等である。これらの方法のうち、硫安塩析法を3〜4回、好ましくは3〜6回繰り返すことによって、モノクローナル抗体を精製することが可能である。しかしこの方法では精製モノクローナル抗体の収率が極めて低くなる。そのため、硫安分画法を1〜2回行った粗精製モノクローナル抗体について、ゲル濾過法、イオン交換クロマトグラフィー法、アフィニティークロマトグラフィー法等から選ばれた少なくとも1種類、好ましくは2種類の方法を行うことによって、高純度に精製されたモノクローナル抗体を高収率で得ることができる。硫安塩析法と他法との組み合わせおよび順序としては、(i)硫安塩析法−イオン交換クロマトグラフィー法−ゲル濾過法、(ii)硫安塩析法−イオン交換クロマトグラフィー法−アフィニティークロマトグラフィー法、(iii)硫安塩析法−ゲル濾過法−アフィニティークロマトグラフィー法等を例示することができるが、高純度でかつ高収率にモノクローナル抗体を得るためには、上記(iii)の組み合わせが特に好ましい。
【0124】
精製の簡便な方法としては、市販のモノクローナル抗体精製キット(例えば、MAbTrap GIIキット;ファルマシア社製)等を利用することもできる。
【0125】
かくして得られるモノクローナル抗体は、DC-STAMPに対して高い抗原特異性を有する。
【0126】
(h)モノクローナル抗体の検定
かくして得られたモノクローナル抗体のアイソタイプ及びサブクラスの決定は以下のように行うことができる。まず、同定法としてはオクテルロニー(Ouchterlony)法、ELISA法、またはRIA法が挙げられる。オクテルロニー法は簡便ではあるが、モノクローナル抗体の濃度が低い場合には濃縮操作が必要である。一方、ELISA法またはRIA法を用いた場合は、培養上清をそのまま抗原吸着固相と反応させ、さらに第二次抗体として各種イムノグロブリンアイソタイプ、サブクラスに対応する抗体を用いることにより、モノクローナル抗体のアイソタイプ、サブクラスを同定することが可能である。また、さらに簡便な方法として、市販の同定用のキット(例えば、マウスタイパーキット;バイオラッド社製)等を利用することもできる。
【0127】
さらに、蛋白質の定量は、フォーリンロウリー法、及び280nmにおける吸光度[1.4(OD280)=イムノグロブリン1mg/ml]より算出する方法により行うことができる。
【0128】
(3)ヒト化抗DC-STAMP抗体の作製
免疫グロブリンG(以下、単に「IgG」という。)は、分子量約23000の軽ポリペプチド鎖(以下「軽鎖」という。)、分子量約50000の重ポリペプチド鎖(以下「重鎖」という。)各2本ずつから構成される。重鎖、軽鎖とも約110残基からなる、アミノ酸配列が保存されている領域の繰り返し構造を持ち、これらはIgGの3次元構造の基本単位(以下、「ドメイン」という。)を構成する。重鎖および軽鎖は、それぞれ連続した4個、および2個のドメインから構成されている。重鎖、軽鎖いずれにおいても、アミノ末端のドメインは他のドメインに比べ各抗体分子間でのアミノ酸配列の変異が大きく、このドメインは可変ドメイン(variable domain : 以下、「Vドメイン」という。)と呼ばれる。IgGのアミノ末端においては、重鎖、軽鎖のVドメインが相補的に会合し可変領域を形成している。これに対し、残余のドメインは、全体として定常領域を形成する。定常領域は、各動物種に特徴的な配列を有し、例えば、マウスIgGの定常領域はヒトIgGの定常領域とは異なっているので、マウスIgGはヒトの免疫系によって異物として認識され、その結果、ヒト抗マウス抗体(Human Anti Mouse Antibody :以下「HAMA」という。)応答が起こる(シュロッフら、Cancer Res., (1985)45, 879-85)。従って、マウス抗体はヒトに繰返し投与することはできない。このような抗体をヒトに投与するためには、抗体の特異性を保持したままHAMA応答を起こさないように抗体分子を修飾する必要がある。
【0129】
X線結晶構造解析の結果によれば、一般に、このようなドメインは3本から5本のβ鎖からなる逆平行βシートが二層重なり合った長円筒状の構造をとる。可変領域では、重鎖、軽鎖のVドメインそれぞれにつき各3個のループが集合し、抗原結合部位を形成する。この各ループは相補性決定領域(complementarity determining region:以下、「CDR」という。)と呼ばれ、アミノ酸配列の変異が最も著しい。可変領域のCDR以外の部分は、一般に、CDRの構造を保持する役割を有し、「フレームワーク」と呼ばれる。カバトらは、重鎖、軽鎖の可変領域の一次配列を多数収集し、配列の保存性に基づき、それぞれの一次配列をCDRおよびフレームワークに分類した表を作成した(カバトら、SEQUENCES OF IMMUNOLOGICAL INTEREST, 5th edition, NIH publication, No.91-3242, E.A. Kabatt et al. )。また、各フレームワークは、アミノ酸配列が共通の特徴を有する複数のサブグループに分類された。さらに、ヒトとマウスの間で対応するフレームワークが存在することも見いだされた。
【0130】
このようなIgGの構造的特徴に関する研究から以下のヒト化抗体の作製法が考案された。
【0131】
研究初期の段階では、マウス由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に接合したキメラ抗体が提案された(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 6851-6855, (1984) 参照)。しかし、そのようなキメラ抗体は、依然として、多くの非ヒトアミノ酸残基を含むので、特に長期間投与した場合にはHAMA応答を誘導しうる(Begent et al., Br. J. Cancer, (1990)62, 487)。
【0132】
ヒトに対しHAMA応答を発現する可能性のある、非ヒトほ乳動物由来のアミノ酸残基を更に少なくする方法として、CDR部分のみをヒト由来の抗体に組み込む方法が提案された(Nature, 321, 522-525, (1986)参照)が、一般に、抗原に対する免疫グロブリン活性を保持するにはCDRのみの移植では不十分であった。
【0133】
一方、チョッチアらは、1987年、X線結晶構造解析データを用い、
(a) CDRのアミノ酸配列中には、抗原に直接結合する部位とCDR自体の構造を維持する部位とが存在し、CDRの取り得る三次元構造は、複数の典型的なパターン(カノニカル構造)に分類されること、
(b)カノニカル構造のクラスは、CDRのみならずフレームワーク部分の特定の位置のアミノ酸の種類によって決定されること、を見いだした( J. Mol. Biol., (1987)196, 901-917)。
【0134】
この知見に基づき、CDR移植法を用いる場合、CDRの配列に加え一部のフレームワークのアミノ酸残基もヒト抗体に移植する必要性が示唆された(特表平4-502408号参照)。
【0135】
一般に、移植すべきCDRを有する非ヒト哺乳動物由来の抗体は「ドナー」、CDRが移植される側のヒト抗体は「アクセプター」と定義されるが、本発明もこの定義に従うことにする。
【0136】
CDR移植法を実施する際に考慮すべき点は、可能な限りCDRの構造を保存し、免疫グロブリン分子の活性を保持することにある。この目的を達成するため:
(a) アクセプターは、いずれのサブグループに属するものを選択すべきか;
(b)ドナーのフレームワークからいずれのアミノ酸残基を選択すべきか
の2点に留意する必要がある。
【0137】
クィーンらは、ドナーのフレームワークのアミノ酸残基が、以下の基準の少なくともひとつに該当する場合、CDR配列とともにアクセプターに移植するデザインの方法を提唱した(特表平4-502408号参照):
(a) アクセプターのフレームワーク領域中のアミノ酸がその位置において稀であり、ドナーの対応するアミノ酸がアクセプターの前記位置において普通である。
(b) 該アミノ酸がCDRのひとつのすぐ近くである。
(c) 該アミノ酸が三次元免疫グロブリンモデルにおいてCDRの約3Å以内に側鎖原子を有し、そして抗原とまたはヒト化抗体のCDRと相互作用することができると予想される。
【0138】
本発明の抗DC-STAMPモノクローナル抗体の重鎖または軽鎖をコードするDNAは、上記抗DC-STAMPモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞よりmRNAを調製し、該mRNAを逆転写酵素でcDNAに変換してから、該抗体の重鎖または軽鎖をコードするDNAをそれぞれ単離することにより得られる。
【0139】
mRNAの抽出にあたっては、グアニジン・チオシアネート・ホット・フェノール法、グアニジン・チオシアネート−グアニジン・塩酸法なども採用しうるが、グアニジン・チオシアネート・塩化セシウム法が好適である。細胞からのmRNAの調製は、まず全RNAを調製し、該全RNAからオリゴ(dT)セルロースやオリゴ(dT)ラテックスビーズ等のポリ(A)+RNA精製用担体を用いて精製する方法、または細胞ライセートから該担体を用いて直接精製する方法により実施できる。全RNAの調製方法としては、アルカリショ糖密度勾配遠心分離法(Dougherty, W. G. and Hiebert, E., Viology, (1980)101, 466-474)、グアニジンチオシアネート・フェノール法、グアニジンチオシアネート・トリフルオロセシウム法、フェノール・SDS法等も採用し得るが、グアニジンチオシアネートおよび塩化セシウムを用いる方法(Chirgwin, J. M., et al., (1979) Biochemistry, (1979)18, 5294- 5299)が好適である。
【0140】
上記のごとくして得られたポリ(A)+RNAを鋳型として、逆転写酵素反応により一本鎖cDNAを合成した後、この一本鎖cDNAから二本鎖cDNAを合成することができる。この方法としてはS1ヌクレアーゼ法(Efstratiadis, A., et al., Cel1, (1976)7, 279-288)、グブラー−ホフマン法(Gubler, U. and Hoffman, B. J., Gene, (1983)25, 263-269)、オカヤマ−バーグ法(Okayama, H. and Berg, P., Mol. Cell. Biol., (1982)2, 161-170)等を採用し得るが、本発明においては、一本鎖cDNAを鋳型としてポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR」という)(Saiki, R. K., et al., Science, (1988)239, 487-49)を行なう、いわゆるRT−PCR法が好適である。
【0141】
このようにして得られた二本鎖cDNAをクローニングベクターに組み込み、得られた組換えベクターを大腸菌等の微生物に導入して形質転換させ、テトラサイクリン耐性あるいはアンピシリン耐性等を指標として形質転換体を選択することができる。大腸菌の形質転換は、ハナハン法(Hanahan, D., J. Mol. Biol., (1983)166, 557-580)、すなわち塩化カルシウムや塩化マグネシウムまたは塩化ルビジウムを共存させて調製したコンピテント細胞に、該組換えDNAベクターを加える方法により実施することができる。なお、ベクターとしてブラスミドを用いる場合は、上記の薬剤耐性遺伝子を有することが必要である。また、プラスミド以外のクローニングベクター、例えばラムダ系のファージ等を用いることも可能である。
【0142】
上記により得られた形質転換株から、目的の抗DC-STAMPモノクローナル抗体の各サブユニットをコードするcDNAを有する株を選択する方法としては、例えば以下に示す各種方法を採用できる。なお、上記RT−PCR法により目的のcDNAを特異的に増幅した場合は、これらの操作を省略することが可能である。
【0143】
(3−1)ポリメラーゼ連鎖反応を用いる方法
目的蛋白質のアミノ酸配列の全部または一部が解明されている場合、該アミノ酸配列の一部に対応するセンスストランドとアンチセンスストランドのオリゴヌクレオチドプライマーを合成し、これらを組み合わせてポリメラーゼ連鎖反応(Saiki, R. K., et al., Science, (1988)239, 487-49)を行ない、目的の抗DC-STAMP抗体重鎖あるいは軽鎖サブユニットをコードするDNA断片を増幅する。ここで用いる鋳型DNAとしては、例えば抗DC-STAMPモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのmRNAより逆転写酵素反応にて合成したcDNAを用いることができる。
【0144】
このようにして調製したDNA断片は、市販のキット等を利用して直接プラスミドベクターに組み込むこともできるし、該断片を32P、35Sあるいはビオチン等で標識し、これをプローブとして用いてコロニーハイブリダイゼーションまたはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより目的のクローンを選択することもできる。
【0145】
例えば、本発明の抗DC-STAMPモノクローナル抗体の各サブユニットの部分アミノ酸配列を調べる方法としては、電気泳動やカラムクロマトグラフィーなどの周知の方法を用いて各サブユニットを単離してから、自動プロテインシークエンサー(例えば、島津製作所(株)製 PPSQ-10)等を利用してそれぞれのサブユニットのN末端アミノ酸配列を解析する方法が好適である。
【0146】
上記のごとくして得られた目的の形質転換株より、抗DC-STAMPモノクローナル抗体蛋白質の各サブユニットをコードするcDNAを採取する方法は、公知の方法(Maniatis, T., et al. (1982) in "Molecular Cloning A Laboratory Manual" Cold Spring Harbor Laboratory, NY.)に従い実施できる。例えば細胞よりベクターDNAに相当する画分を分離し、該プラスミドDNAより目的とするサブユニットをコードするDNA領域を切り出すことにより行うことが可能である。
【0147】
(3−2)合成オリゴヌクレオチドプローブを用いるスクリーニング法
目的蛋白質のアミノ酸配列の全部または一部が解明されている場合(該配列は、複数個連続した特異的配列であれば、目的蛋白質のどの領域のものでもよい)、該アミノ酸配列に対応するオリゴヌクレオチドを合成し(この場合、コドン使用頻度を参考に推測されるヌクレオチド配列、または考えられるヌクレオチド配列を組み合わせた複数個のヌクレオチド配列のいずれも採用でき、また後者の場合イノシンを含ませてその種類を減らすこともできる)、これをプローブ(32P、35Sあるいはビオチン等で標識する)として、形質転換株のDNAを変性固定したニトロセルロースフィルターとハイブリダイズさせ、得られたポジティブ株を選別する。
【0148】
このようにして得られるDNAの配列の決定は、例えばマキサム−ギルバートの化学修飾法(Maxam, A. M. and Gilbert, W., Methods in Enzymology, (1980)65, 499-576)やジデオキシヌクレオチド鎖終結法(Messing, J. and Vieira, J., Gene (1982)19, 269-276)等により実施することができる。
【0149】
また近年、蛍光色素を用いた自動塩基配列決定システムが普及している(例えばパーキンエルマージャパン社製シークエンスロボット"CATALYST 800"およびモデル373ADNAシークエンサ一等)。
【0150】
こうしたシステムを利用することで、DNAヌクレオチド配列決定操作を能率よく、かつ安全に行うことも可能である。このようにして決定された本発明のDNAの各ヌクレオチド配列、および重鎖および軽鎖の各N末端アミノ酸配列データから、本発明のモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖の全アミノ酸配列を決定することができる。
【0151】
イムノグロブリンの重鎖および軽鎖は、いずれも可変領域および定常領域からなり、可変領域はさらに相補性決定領域(以下「CDR」と記す;重鎖・軽鎖ともに各3か所)およびそれらに隣接するフレームワーク領域(重鎖・軽鎖ともに各4か所)からなる。
【0152】
このうち、定常領域のアミノ酸配列は、抗原の種類に関係なく、イムノグロブリンサブクラスが同一である抗体間では共通である。一方、可変領域、特にCDRのアミノ酸配列は各抗体に固有のものであるが、数多くの抗体のアミノ酸配列データを比較した研究によれば、CDRの位置やフレームワーク配列の長さは、同じサブグループに属する抗体サブユニットの間ではほぼ類似していることが知られている(Kabat, E. A., et al., in "Sequence of Proteins of Immunological Interest Vol.II": U.S. Department of Health and Human Services, (1991))。従って、例えば抗DC-STAMPモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖の各アミノ酸配列とそれら公知のアミノ酸配列データとを比較することにより、各アミノ酸配列におけるCDRやフレームワーク領域および定常領域の位置を決定することができる。なお、FRH1、すなわち重鎖の最もN末端側のフレームワーク領域の鎖長については、通常(30アミノ酸)より短いことがあり、例えば、該フレームワーク領域が最小18アミノ酸である例などが知られている(前出 Kabat et al.)。このことから本発明の抗体においては、抗DC-STAMP抗体としての機能を損なわない限りにおいて、重鎖のN末端のフレームワーク領域の鎖長を18アミノ酸以上30アミノ酸以下とするが、好適には30アミノ酸である。
【0153】
なお、上記のようにして決定された軽鎖または重鎖のそれぞれのCDRと同じアミノ酸配列、もしくはその中の連続した部分アミノ酸配列を有するペプチドを、人為的な修飾操作を施して該CDRが抗DC-STAMP抗体分子中で形成する立体構造に近付けることにより、単独でDC-STAMPに対する結合活性を付与せしめることが可能である[例えば、米国特許第5331573号公報参照]。したがって、そのように修飾された、CDRと同じアミノ酸配列、もしくはその中の連続した部分アミノ酸配列を有するペプチドも、本発明の分子に包含される。
【0154】
アミノ酸配列中の任意の一つもしくは二つ以上のアミノ酸を欠失させた改変体を作製するにあたっては、カセット変異法(岸本利光、“新生化学実験講座2・核酸III 組換えDNA技術” 242-251参照)などに従うことができる。
【0155】
この様な各種のDNAは、例えばフォスファイト・トリエステル法(Hunkapiller, M., et al., Nature (1984)310, 105-111)等の常法に従い、核酸の化学合成により製造することもできる。なお、所望アミノ酸に対するコドンは、それ自体が公知であり、その選択も任意でよく、例えば使用する宿主のコドン使用頻度を考慮して常法に従い決定することも可能である。これらヌクレオチド配列コドンの一部改変は、常法に従い、所望の改変をコードする合成オリゴヌクレオチドからなるプライマーを利用した部位特異的変異導入法(サイトスペシフィック・ミュータジェネシス)(Mark, D.F., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984)81, 5662-5666)等に従うことができる。
【0156】
また、あるDNAが本発明の抗DC-STAMPモノクローナル抗体の重鎖または軽鎖をコードするDNAとハイブリダイズするか否かは、例えば、該DNAを、ランダムプライマー法(Feinberg, A.P. and Vogelstein, B., Anal. biochem., (1983)132, 6-13)やニックトランスレーション法(Maniatis, T., et al., in "Molecular Cloning A laboratory Manual" Cold Spring Harbor Laboratory, NY., (1982))等に従い[α−32P]dCTP等で標識したプローブDNAを用いて、以下に記載するような実験を行うことにより調べることができる。
【0157】
まず調べようとするDNAを、例えばニトロセルロース膜やナイロン膜等に吸着させ、必要に応じてアルカリ変性等の処理を行ってから、加熱あるいは紫外線等により固相化させる。この膜を、6×SSC(1×SSCは0.15M 塩化ナトリウム、0.015M クエン酸三ナトリウム溶液)と5% デンハート溶液、0.1% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含むプレハイブリダイゼーション溶液に浸し、55℃で4時間以上保温してから、先に調製したプローブを同様のプレハイブリダイゼーション溶液に最終比活性1×106cpm/mlとなるように加え、60℃で一晩保温する。その後、膜を室温下で6×SSCで5分間洗浄する操作を数回繰り返し、さらに2×SSCで20分間洗浄してから、オートラジオグラフィーを行う。
【0158】
上記のような方法を利用して、任意のcDNAライブラリーまたはゲノムライブラリーから、本発明のヒト化抗DC-STAMP抗体の重鎖または軽鎖をコードするDNAとハイブリダイズするDNAを単離することができる(Maniatis, T., et al., in "Molecular Cloning A laboratory Manual" Cold Spring Harbor Laboratory, NY., (1982))。
【0159】
上記のごとくして得られる各DNAを、それぞれ発現ベクターに組み込むことにより、原核生物または真核生物の宿主細胞に導入し、それらの宿主細胞で各遺伝子を発現させることが可能である。発現方法は上記「6.抗DC-STAMP抗体の製造」の項の「(1)抗原の調製」の項に記載した方法と同一の方法によって行うことができる。
【0160】
形質転換体の細胞内または細胞外に生産される、抗DC-STAMP抗体蛋白質を含む画分は、該蛋白質の物理的性質や化学的性質等を利用した各種公知の蛋白質分離操作法により、分離・精製することができる。かかる方法としては、具体的には例えば通常の蛋白質沈澱剤による処理、限外濾過、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種クロマトグラフィー、透析法、およびこれらの組み合わせ等を採用できる。
【0161】
抗DC-STAMPマウスモノクローナル抗体をヒト化するためには、決定されたCDR配列全体およびFR配列の一部のアミノ酸残基をヒト抗体へ移植するように、可変領域のアミノ酸配列を設計する必要がある。この設計は、以下の方法に従う。
【0162】
従来、ヒト化のデザインを行う場合、アクセプターのサブグループの選択指針としては、(a)天然のアミノ酸配列を有する公知のヒト抗体の重鎖、軽鎖の天然の組み合わせをそっくりそのまま用いる、
(b)重鎖、軽鎖が属するサブグループとしての組み合わせは保存するが、重鎖、軽鎖としては、それぞれ異なるヒト抗体に由来し、ドナーの重鎖、軽鎖のアミノ酸配列と同一性が高いアミノ酸配列、または、コンセンサス配列を用いる、
のいずれかが選択されている。本発明においても、上記の指針に従うことができるが、これらと異なる方法として、
(c)サブグループの組み合わせを考慮することなく、ドナーのFRと最も同一性の高い重鎖、軽鎖のFRをヒト抗体の一次配列のライブラリーの中から選択する、
という方法を採用することも可能である。これらの選択法により、ドナーおよびアクセプター間での、FR部分のアミノ酸の同一性を少なくとも70%以上とすることが可能となる。この方法を採用することにより、ドナーより移植するアミノ酸残基の数をより少なくすることが可能となり、HAMA応答誘導を減少させることができる。
【0163】
また、抗体分子の一次配列より三次構造を予測する操作(以下、この操作を「分子モデリング」という)はその予測精度に限界があり、そのドナーが属するサブグループにおいて稀にしか出現しないアミノ酸残基の役割を十分に特定することができない。クィーンらの方法に従い、かかる位置においてドナー、アクセプターのいずれのアミノ酸残基を選択すべきかを判断することは一般に困難である。(c)の選択法によれば、このような判断をする機会を著しく減少することができる。
【0164】
本発明者らは、ドナーのCDRの構造および機能を維持するために重要なドナーのFR由来のアミノ酸を同定するための新規な方法を提供することによって、このヒト化の方法をさらに改良している。
【0165】
軽鎖、重鎖それぞれのヒトアクセプター分子が選択された後、ドナーのFRより移植するアミノ酸残基を選択する方法は、以下に記載する通りである。
【0166】
ドナーとアクセプターのアミノ酸配列を並べ、両者のFRの対応する位置でアミノ酸残基が異なっていた場合、どちらの残基を選択するべきかを決定する必要があるが、この選択においては、ドナー由来のCDRの三次元構造を損なわないよう選択を行う必要がある。
【0167】
クィーンらは前述の特表平4−502408号において、FR上のアミノ酸残基が、以下の要件の少なくともひとつに該当する場合、CDR配列とともにアクセプターに移植する方法を提唱した:
1)アクセプターのヒトFR領域中のアミノ酸がその位置において稀であり、ドナーの対応するアミノ酸がアクセプターの前記位置において普通である;
2)該アミノ酸がCDRのひとつのすぐ近くである;
3)該アミノ酸が三次元免疫グロブリンモデルにおいてCDRの約3Å以内に側鎖原子を有し、そして抗原とまたはヒト化抗体のCDRと相互作用することができると予想される。
【0168】
ここで2)で示された残基はしばしば3)の性質を示すことより、本発明ではこの2)の要件を削除し、別に新たに2種の要件を設ける。すなわち、本発明では、CDRと共に移植すべきドナーのFR上のアミノ酸残基については:
a)アクセプターのFR中のアミノ酸がその位置において稀でありドナーの対応するアミノ酸が当該位置において普通であるか;
b)該アミノ酸が三次元構造モデルにおいて、CDRの構成アミノ酸原子と抗原または移植すべきCDRループとの相互作用が予想されるか;
c)当該位置がカノニカルクラス決定残基であるか;
d)当該位置が重鎖と軽鎖の接触面を構成するか、
である場合に、ドナーのFRから当該アミノ酸残基を移植することにする。
【0169】
a)の要件では、前述したカバトの表に従い、同一サブクラスの抗体について当該位置で90%以上の頻度で見いだされるアミノ酸を「普通」、10%未満の頻度で見いだされるアミノ酸を「稀」と定義する。
【0170】
c)の要件では、「当該位置がカノニカルクラス決定残基であるか」否かについては、前述したチョッチアの表に従い、一義的に決定することができる。
【0171】
b)、d)の要件については、予め抗体可変領域の分子モデリングが必要となる。分子モデリング用ソフトウェアとしては、市販のものならいずれのものも採用し得るが、好適には、AbM(オックスフォード・モレキュラー・リミティッド社製)を使用することができる。
【0172】
分子モデリングの予測精度には一定の限界があるので、本発明においては、種々の抗体の可変領域のX線結晶解析の実験結果を参照することにより、分子モデリングから得られる構造予測の確からしさを2段階に区別する。
【0173】
本発明においては、AbM等の分子モデリング用ソフトウェアによって構築されたところの可変領域の3次元構造において、2原子間の距離が、各々のファンデルワールス半径の和に0.5Åを加えた値より短いとき、当該2原子間はファンデルワールス接触していると推定した。主鎖および側鎖のアミド窒素、カルボニル酸素など極性の原子間距離が平均の水素結合距離である2.9Åに0.5Å加えた距離より短い場合は、その間に水素結合が存在すると推定した。さらに、相反する電価を持つ原子間が、2.85Åに0.5Å加えた距離より短い場合は、その間にイオン対が形成されているものと推定した。
【0174】
一方、種々の抗体の可変領域のX線結晶構造解析の実験結果から、サブグループと無関係に、高頻度にCDRとの接触が見いだされるFR上の位置として、軽鎖では、1、2、3、4、5、23、35、36、46、48、49、58、69、71、88番の位置、重鎖では、2、4、27、28、29、30、36、38、46、47、48、49、66、67、69、71、73、78、92、93、94、103番の位置が特定される(数字はいずれも前出カバトらの文献において定義されるアミノ酸番号を表わす。以下において同じ)。分子モデリングと同じ基準を適用した場合、これらの位置のアミノ酸残基は、公知の抗体可変領域の3分の2においてCDRのアミノ酸残基との接触が認められる。これらの知見に基づき、b)の「該アミノ酸が三次元構造モデルにおいて、CDRの構成アミノ酸原子が抗原または移植すべきCDRループとの相互作用が予想される」とは、以下の要件を意味する。
【0175】
分子モデリングにおいて、FRとCDRとの接触の可能性が予見されたFRの位置が、X線結晶解析により実験的にFRとCDRとの接触が高頻度に検出される位置のいずれかに一致する場合は、ドナーのアミノ酸残基の移植を優先する。
それ以外の場合は、この要件b)は考慮しない。
【0176】
d)の「当該位置が重鎖と軽鎖の接触面を構成する」とは、以下の要件を意味する。種々の抗体の可変領域のX線結晶解析の実験結果から、軽鎖においては、36、38、43、44、46、49、87、98番目のアミノ酸残基、重鎖においては、37、39、45、47、91、103、104番目のアミノ酸残基が、高頻度に重鎖−軽鎖間接触をすることが認められている。分子モデリングにおいて、重鎖−軽鎖間接触の可能性が予見され、その位置が上述の位置のいずれかに一致する場合は、ドナーのアミノ酸残基の移植を優先する。それ以外の場合は、この要件d)は考慮しない。
【0177】
本発明のヒト化抗DC-STAMP抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAは、以下に記載する方法で製造することができる。
【0178】
例えば、60乃至70ヌクレオチドの、該DNAの部分ヌクレオチド配列からなる複数のポリヌクレオチド断片を、センス側およびアンチセンス側において互い違いになるように化学合成し、その後各ポリヌクレオチド断片をアニーリングし、DNAリガーゼにより結合し、所望のヒト化抗DC-STAMP抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを有するDNAを得ることができる。
【0179】
別の方法として、アクセプターの可変領域の全アミノ酸配列をコードするDNAをヒトリンパ球より分離し、CDRをコードする領域に当業者に周知の方法でヌクレオチド置換を行うことにより、制限酵素切断配列を導入する。対応する制限酵素で該領域を切断した後、ドナーのCDRをコードするヌクレオチド配列を合成し、DNAリガーゼにより結合して、所望のヒト化抗DC-STAMP抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを得ることができる。
【0180】
さらに、本発明では、好適には以下に述べるオーバーラップ・エクステンション・PCR法(ホルトンら、Gene, 77, 61-68, (1989) 参照)に従い、所望のヒト化抗DC-STAMP抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを得ることができる。
【0181】
すなわち、接続を所望する2種のアミノ酸配列をそれぞれコードする2種のDNAを、便宜的に(A)および(B)とする。(A)の5’側にアニールする20乃至40ヌクレオチドのセンスプライマ−(以下、このプライマーを(C)とする。)および(B)の3’側にアニールする20乃至40ヌクレオチドのアンチセンスプライマー(以下、このプライマーを(D)とする)を化学合成する。さらに、(A)の3’側の20乃至30ヌクレオチドと(B)の5’側20乃至30ヌクレオチドを連結した、キメラ型のセンスプライマー(以下、このプライマーを(E)とする)およびこれに相補的なアンチセンスプライマー(以下、このプライマーを(F)とする)を合成する。(A)を含む適当なベクターDNA
を基質にして、センスプライマ−(C)およびキメラ型アンチセンスプライマー(F)を用いたPCRを行うことにより、(A)の3’末端に(B)の5’末端側20乃至30ヌクレオチドが付加したDNAを得ることができる(この新たに得られたDNAを(G)とする)。同様に、(B)を含む適当なベクターDNAを基質にして、アンチセンスプライマー(D)およびキメラ型センスプライマー(E)を用いたPCRを行うことにより、(B)の5’末端に(A)の3’末端側20乃至30ヌクレオチドが付加したDNAを得ることができる(この新たに得られたDNAを(H)とする。)。このようにして得られた(G)と(H)は、(G)の3’側40乃至60ヌクレオチドと(H)の5’側40乃至60ヌクレオチドにおいて相補的なヌクレオチド配列を保持している。増幅された(G)および(H)を混合してPCRを行った場合、1回目の変性反応で(G)と(H)は1本鎖になり、その後のアニーリング反応で殆どのDNAは元に戻るが、一部のDNAについては相補的ヌクレオチド配列領域でアニーリングするヘテロDNA2本鎖を形成する。その後の伸長反応で、突出した1本鎖部分が修復され、(A)と(B)が連結したキメラ型のDNA(以下、このDNAを(I)とする。)を得ることができる。さらにこの(I)を基質として、センスプライマー(C)とアンチセンスプライマー(D)を用いPCRを行うことにより、(I)を増幅することができる。本発明では、抗ヒトDC-STAMPマウスモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖のCDR領域をコードするDNAおよびヒト免疫グロブリンIgGのFR領域をコードするDNA、さらには、ヒト免疫グロブリンIgGの分泌シグナルをコードするDNAを、それぞれケース・バイ・ケースにより(A)および(B)として上記の連結反応を行うことができる。
【0182】
なお、所望アミノ酸に対するコドンは、それ自体公知であり、その選択も任意でよく、例えば使用する宿主のコドン使用頻度を考慮して常法に従い決定できる。これらヌクレオチド配列コドンの一部改変は、常法に従い、所望の改変をコードする合成オリゴヌクレオチドからなるプライマーを利用したサイトスペシフィック・ミュータジェネシス(site specific mutagenesis )(Mark, D. F., et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (1984)81, 5662-5666)等に従うことができる。したがって、各プライマーを化学合成する際に、予め点突然変異を導入するように各プライマーを設計することにより、所望の抗DC-STAMP抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを得ることができる。
【0183】
このようにして得られた本発明の各DNAをそれぞれ発現ベクターに組み込むことにより、原核生物または真核生物の宿主細胞を形質転換させることができる。さらに、これらベクターに適当なプロモーターおよび形質発現に関わる配列を導入することにより、各々の宿主細胞において各遺伝子を発現させることが可能である。
【0184】
上記方法により、容易に高収率、高純度で組換え抗DC-STAMP抗体を製造できる。
【0185】
(4)抗DC-STAMP完全ヒト抗体の作製
完全ヒト抗体とは、ヒト染色体由来の抗体の遺伝子配列のみを有するヒト抗体を意味する。抗DC-STAMP完全ヒト抗体は、ヒト抗体のH鎖とL鎖の遺伝子を含むヒト染色体断片を有するヒト抗体産生マウスを用いた方法(Tomizuka, K.et al., Nature Genetics, (1977)16, 133-143; Kuroiwa, Y.et.al., Nuc. Acids Res., (1998)26, 3447-3448; Yoshida, H.et.al., Animal Cell Technology: Basic and Applied Aspects,(1999)10, 69-73 (Kitagawa, Y.,Matuda, T. and Iijima, S. eds.), Kluwer Academic Publishers; Tomizuka, K.et.al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (2000)97, 722-727)や、ヒト抗体ライブラリーより選別したファージディスプレイ由来のヒト抗体を取得する方法(Wormstone, I. M.et.al, Investigative Ophthalmology & Visual Science., (2002)43 (7), 2301-8; Carmen, S. et.al., Briefings in Functional Genomics and Proteomics,(2002)1 (2), 189-203; Siriwardena, D. et.al., Opthalmology, (2002)109 (3), 427-431等)によって取得することができる。
【0186】
このようにして作製されるヒト抗DC-STAMP抗体がDC-STAMPと特異的に結合することを確認する方法としては、例えば、マウス免疫時に抗体価の評価を行う場合と同様のELISA法が好適である。
【0187】
7.抗DC-STAMP抗体を含有する医薬
上述の「6.抗DC-STAMP抗体の製造」の項に記載された方法で得られる抗DC-STAMP抗体の中から、DC-STAMPの生物活性を中和する抗体を得ることができる。これらDC-STAMPの生物活性を中和する抗体は、生体内でのDC-STAMPの生物活性、即ち、破骨細胞の分化及び/又は成熟化を阻害することから、医薬として、破骨細胞の分化異常に起因する骨代謝異常症に対する治療剤として用いることができる。
【0188】
in vitroでの抗DC-STAMP抗体によるDC-STAMPの生物活性の中和活性は例えば、DC-STAMPを過剰発現している細胞における細胞の破骨細胞への分化の抑制活性で測定することができる。例えば、DC-STAMPを過剰発現しているマウス単球由来細胞株RAW264.7細胞、RAW264細胞又はRAW-D細胞を培養し、培養系に種々の濃度で抗DC-STAMP抗体を添加し、RANKLおよびTNF-α刺激による、破骨細胞への分化の抑制活性を測定することができる。また、骨髄由来の初代培養細胞に種々の濃度で抗DC-STAMP抗体を添加し、RANKLおよびTNF-α刺激による、破骨細胞への分化の抑制活性を測定することができる。さらに、大腿骨および/又は脛骨由来の細胞を用いたピットアッセイ(Takada et al., Bone and Mineral, (1992)17, 347-359)実験において、大腿骨および/又は脛骨由来の細胞に種々の濃度で抗DC-STAMP抗体を添加して象牙切片上のピットの形成を観察することによって破骨細胞の骨吸収活性の抑制活性を測定することができる。in vivoでの実験動物を利用した抗DC-STAMP抗体の骨代謝異常に対する治療効果は、例えば、DC-STAMPを過剰に発現しているトランスジェニック動物に抗DC-STAMP抗体を投与し、破骨細胞の変化を測定することで確認することができる。
【0189】
このようにして得られたDC-STAMPの生物活性を中和する抗体は、医薬として、特に骨粗鬆症、関節リウマチ、癌性高カルシウム血症等の骨代謝異常に起因して起こる疾患の治療を目的とした医薬組成物として、あるいはこのような疾患の免疫学的診断のための抗体として有用である。
【0190】
抗DC-STAMP抗体は、一つの例としては、骨代謝異常症の治療に対しては該抗体単独で、あるいは少なくとも一つの骨に関する疾患の治療剤と一緒に投与することができる。また一つの例として、抗DC-STAMP抗体は治療上有効な量の抗骨代謝異常治療薬剤と一緒に投与することができる。抗DC-STAMP抗体と一緒に投与できる治療剤としては、ビスホスホネート、活性型ビタミンD3、カルシトニンおよびその誘導体、エストラジオール等のホルモン製剤、SERMs(Selective estrogen receptor modulators)、イプリフラボン、ビタミンK2(メナテトレノン)及びカルシウム製剤等を挙げることができるがこれらに限定されない。骨代謝異常の状態やどの程度の治療を目指すかによって、2、3あるいはそれ以上の種類の薬剤を投与することもできるし、それらの薬剤は同じ製剤の中に封入することによって一緒に供給することができる。それらの薬剤と抗DC-STAMP抗体は同じ製剤の中に封入することによって一緒に供給することもできる。また、それらの薬剤は治療用キットとして封入することによって一緒に供給することもできる。また、それらの薬剤と抗DC-STAMP抗体は別々に供給することもできる。遺伝子治療によって投与する場合には、蛋白質性の骨疾患治療剤の遺伝子と抗DC-STAMP抗体の遺伝子は、同時にあるいは別々に同じプロモーター領域の下流に挿入することができ、別々のあるいは、同じベクターに導入することができる。
【0191】
抗DC-STAMP抗体、あるいはそのフラグメントに対し骨疾患治療剤を結合させることにより、M.C.Garnet「Targeted drug conjugates: principles and progress」, Advanced Drug Delivery Reviews, (2001)53, 171-216記載の標的型薬物複合体を製造することができる。この目的には、抗体分子のほか、破骨細胞の認識性を完全消失していない限り、いずれの抗体フラグメントも適用可能であるが、例えば、Fab、F(ab’)2、Fv等のフラグメントを例として挙げることができ、本発明においても同様に、抗体および該フラグメントを使用することができる。抗DC-STAMP抗体または該抗体のフラグメントと骨疾患治療剤との結合様式は、M.C.Garnet「Targeted drug conjugates: principles and progress」, Advanced Drug Delivery Reviews, (2001)53, 171-216、G.T.Hermanson「Bioconjugate Techniques」Academic Press, California (1996)、Putnam and J. Kopecek「Polymer Conjugates with Anticancer Activity」Advances in Polymer Science (1995)122, 55-123 等に記載される種々の形態があり得る。すなわち、抗DC-STAMP抗体と骨疾患治療剤が化学的に直接あるいはオリゴペプチド等のスペーサーが介在して結合される様式や、適当な薬物担体を介在して結合される様式を挙げることができる。薬物担体の例としては、リポソームや水溶性高分子を挙げることができる。これら薬物担体が介在される様式としては、より具体的には、抗体と骨疾患治療剤とがリポソームに包含され、該リポソームと抗体とが結合した様式、および、骨疾患治療剤が水溶性高分子(分子量1000乃至10万程度の化合物)に化学的に直接あるいはオリゴペプチド等のスペーサーを介在させて結合され、該水溶性高分子に抗体が結合した様式、を例として挙げることができる。抗体(または該フラグメント)と骨疾患治療剤、リポソームおよび水溶性高分子等の薬物担体との結合は、G.T.Hermanson「Bioconjugate Techniques」Academic Press, California (1996)、Putnam and J. Kopecek「Polymer Conjugates with Anticancer Activity」Advances in Polymer Science (1995)122, 55-123に記載の方法等の当業者周知の方法により実施することができる。骨疾患治療剤のリポソームへの包含は、D.D.Lasic「Liposomes: From Physics to Applications」, Elsevier Science Publishers B.V., Amsterdam (1993)等に記載の方法等の当業者周知の方法により実施することができる。骨疾患治療剤の水溶性高分子への結合は、D. Putnam and J. Kopecek「Polymer Conjugates with Anticancer Activity」Advances in Polymer Science (1995)122, 55-123記載の方法等の当業者周知の方法により、実施することができる。抗体(または該フラグメント)と蛋白質性の骨疾患治療剤(または該フラグメント)との複合体は、上記の方法のほか、遺伝子工学的に、当業者周知の方法により実施することができる。
【0192】
本発明は、治療に有効な量の抗DC-STAMP抗体と薬学上許容される希釈剤、担体、可溶化剤、乳化剤、保存剤及び/又は補助剤を含む医薬組成物も提供する。
【0193】
本発明は、治療に有効な量の抗DC-STAMP抗体と治療に有効な量の少なくとも一つの骨疾患治療剤と薬学上許容される希釈剤、担体、可溶化剤、乳化剤、保存剤及び/又は補助剤を含む医薬組成物も提供する。骨疾患治療剤としては、ビスホスホネート、活性型ビタミンD3、カルシトニンおよびその誘導体、エストラジオール等のホルモン製剤、SERMs(selective estrogen receptor modulators)、イプリフラボン、ビタミンK2(メナテトレノン)、カルシウム製剤、PTH(parathyroid hormone)製剤、非ステロイド性抗炎症剤、抗TNFα抗体、抗PTHrP(parathyroid hormine-related protein)抗体、IL-1レセプターアンタゴニスト、抗RANKL抗体及びOCIF(osteoclastogenesis inhibitory factor)等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0194】
本発明の医薬組成物において許容される製剤に用いる物質としては好ましくは投与量や投与濃度において、医薬組成物を投与される者に対して非毒性のものが好ましい。
【0195】
本発明の医薬組成物は、pH、浸透圧、粘度、透明度、色、等張性、色、無菌性、安定性、溶解率、徐放率、吸収率、浸透率を変えたり、維持したり、保持したりするための製剤用の物質を含むことができる。製剤用の物質として以下のものを挙げることができるが、これらに制限されない:グリシン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン等のアミノ酸類、抗菌剤、アスコルビン酸、硫酸ナトリウムまたは亜硫酸水素ナトリウム等の抗酸化剤、リン酸、、クエン酸、ホウ酸バッファー、炭酸水素、トリス−塩酸(Tris-Hcl)溶液等の緩衝剤、マンニトールやグリシン等の充填剤、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤、カフェイン、ポリビニルピロリジン、β−シクロデキストリンやヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン等の錯化剤、グルコース、マンノースまたはデキストリン等の増量剤、単糖類、二糖類等の他の炭水化物、着色剤、香味剤、希釈剤、乳化剤やポリビニルピロリジン等の親水ポリマー、低分子量ポリペプチド、塩形成対イオン、塩化ベンズアルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロレキシジン、ソルビン酸または過酸化水素等の防腐剤、グリセリン、プロピレン・グリコールまたはポリエチレン・グリコール等の溶媒、マンニトールまたはソルビトール等の当アルコール、懸濁剤、ソルビタンエステル、ポリソルビテート20やポリソルビテート80等ポリソルビテート、トリトン(triton)、トロメタミン(tromethamine)、レシチンまたはコレステロール等の界面活性剤、スクロースやソルビトール等の安定化増強剤、塩化ナトリウム、塩化カリウムやマンニトール・ソルビトール等の弾性増強剤、輸送剤、希釈剤、賦形剤、及び/又は薬学上の補助剤。これらの製剤用の物質の添加量は、抗DC-STAMP抗体の重量にたいして0.01〜100倍、特に0.1〜10倍添加するのが好ましい。製剤中の好適な医薬組成物の組成は当業者によって、適用疾患、適用投与経路などに応じて適宜決定することができる。
【0196】
医薬組成物中の賦形剤や担体は液体でも固体でもよい。適当な賦形剤や担体は注射用の水や生理食塩水、人工脳脊髄液や非経口投与に通常用いられている他の物質でもよい。中性の生理食塩水や血清アルブミンを含む生理食塩水を担体に用いることもできる。医薬組成物にはpH7.0−8.5のTrisバッファーやpH4.0-5.5の酢酸バッファーやそれらにソルビトールや他の化合物を含むこともできる。本発明の医薬組成物には抗DC-STAMP抗体を含む医薬組成物並びに、抗DC-STAMP抗体及び少なくとも一つの骨疾患治療剤を含む医薬組成物を挙げることができ、本発明の医薬組成物は選択された組成で必要な純度で適当な薬剤として、凍結乾燥品あるいは液体として準備される。抗DC-STAMP抗体を含む医薬組成物並びに、抗DC-STAMP抗体及び少なくとも一つの抗骨代謝異常治療薬剤を含む医薬組成物はスクロースのような適当な賦形剤を用いた凍結乾燥品として成型されることもできる。
【0197】
本発明の医薬組成物は非経口投与用に調製することもできるし、経口による消化管吸収用に調製することもできる。製剤の組成及び濃度は投与方法によって決定することができるし、本発明の医薬組成物に含まれる、抗DC-STAMP抗体のDC-STAMPに対する親和性、即ち、DC-STAMPに対する解離定数(Kd値)に対し、親和性が高い(Kd値が低い)ほど、ヒトへの投与量を少なく薬効を発揮することができるので、この結果に基づいて本発明の医薬組成物の人に対する投与量を決定することもできる。投与量は、ヒト型抗DC-STAMP抗体をヒトに対して投与する際には、約0.1〜100mg/kgを1〜30日間に1回投与すればよい。
【0198】
本発明の医薬組成物の形態としては、点滴を含む注射剤、坐剤、経鼻剤、舌下剤、経皮吸収剤などが挙げられる。
【0199】
8.直接相互作用する物質の探索
本発明の他の一つの態様としては、DC-STAMPの活動を抑制するような物質を得ることを目的とした、該蛋白質の立体構造をベースとしたドラッグデザインの手法を含む。このような手法は、ラショナルドラッグデザイン法として知られており、酵素活性などの機能や、リガンド、コファクター、またはDNAへの結合などを効率よく阻害もしくは活性化させるような化合物の探索に利用されている。この例として、すでに上市されている抗HIV剤であるプロテアーゼの阻害剤がよく知られている。本発明のDC-STAMPの三次元構造解析においても、X線結晶解析や核磁気共鳴法といった一般的によく知られている手法が利用できると考えられる。さらに、DC-STAMPの機能を抑制する物質の探索には、コンピュータードラッグデザイン(CADD)を活用した設計も可能である。この例としては、関節リウマチ治療の新たなゲノム新薬として期待されているAP−1の働きを阻害する低分子化合物(国際特許出願公開WO99/58515号)などが知られている。このような方法により、DC-STAMPに直接結合するか、あるいはDC-STAMPと他の因子との相互作用を阻害することにより、DC-STAMPの機能を抑制するような物質を得ることができる。
【0200】
さらに、他の一つの態様は、本発明のDC-STAMPが会合するポリペプチド、すなわちDC-STAMPのパートナー蛋白質に関する。すなわち、本発明は、DC-STAMPの活性を調節するパートナー蛋白質のスクリーニング方法に関する。
【0201】
このスクリーニング方法の一つの態様は、DC-STAMPに被験蛋白質試料を接触させ、DC-STAMPに結合する蛋白質を選択する工程を含む。このような方法としては、例えば、精製したDC-STAMPを用いて、これに結合する蛋白質のアフィニティー精製を行う方法が挙げられる。具体的な方法の一例を示せば、DC-STAMPにヒスチジン6個よりなる配列をアフィニティータグとして融合したものを作製して、これを細胞の抽出液(予めニッケル−アガロースカラムにチャージして、このカラムを素通りした画分)と4℃で12時間インキュベートし、次いで、この混合物に別途ニッケル−アガロース担体を加えて4℃で1時間インキュベートする。ニッケル−アガロース担体を洗浄バッファーで十分洗浄した後、100mMイミダゾールを加えることにより、DC-STAMPと特異的に結合する細胞抽出液中の蛋白質を溶出させて精製し、この構造を決定する。このようにして、DC-STAMPと直接結合する蛋白質、及びDC-STAMPとの結合活性は持たないが、サブユニットとしてDC-STAMPに直接結合する蛋白質と複合体を形成することにより間接的にDC-STAMPに結合する蛋白質が精製できる(実験医学別冊、バイオマニュアルシリーズ5「転写因子研究法」215−219(羊土社刊))。
【0202】
別の方法としては、ファーウエスタンブロット法(実験医学別冊、「新遺伝子工学ハンドブック」76−81(羊土社刊))や、酵母や哺乳類動物細胞を用いたツーハイブリッドシステム法(実験医学別冊、「新遺伝子工学ハンドブック」66−75(羊土社刊)、「チェックメイト・マンマリアン・ツーハイブリッドシステム」(プロメガ社製))によるクローニングも可能であるが、これらの方法に限定されない。
【0203】
このようにして、DC-STAMPと直接もしくは間接的に相互作用するパートナー蛋白質のcDNAが得られれば、DC-STAMPと該パートナー蛋白質との相互作用を阻害する物質の機能的スクリーニングに利用することができる。具体的には、例えば、DC-STAMPとグルタチオンS−トランスフェラーゼとの融合蛋白質を調製して、抗グルタチオンS−トランスフェラーゼ抗体で覆ったマイクロプレートに結合させた後、ビオチン化した該パートナー蛋白質をこの融合蛋白質と接触させ、該融合蛋白質との結合をストレプトアビジン化アルカリホスファターゼで検出する。ビオチン化した該パートナー蛋白質添加の際、被験物質も添加し、融合蛋白質と該パートナー蛋白質との結合を促進あるいは阻害する物質を選択する。この方法では、融合蛋白質に直接作用する物質または該パートナー蛋白質に直接作用する物質が得られる。
【0204】
融合蛋白質と該パートナー蛋白質との結合が間接的であり、何らかの別の因子を介しているような場合には、例えば該因子を含むような細胞抽出液存在下で、同様に上記アッセイを行う。この場合には、該因子に対して作用するような物質も選択される可能性がある。
【0205】
また、得られたパートナー蛋白質が、DC-STAMPの機能を促進する活性を有している場合には、既に記載したDC-STAMP遺伝子の発現ベクターを応用した試験方法に従って、骨代謝異常治療剤、例えば、骨粗鬆症の治療剤として有用な候補物質のスクリーニングを行うことができる。また、得られたパートナー蛋白質が、DC-STAMPの機能を抑制する活性を有している場合には、このような抑制因子をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドは、骨代謝異常の遺伝子治療に用いることができる。
【0206】
そのようなポリヌクレオチドは、例えば同定された阻害因子のアミノ酸配列を解析し、該アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドプローブを合成してcDNAライブラリーやゲノムライブラリーのスクリーニングを行うことにより取得できる。また、DC-STAMPの機能の阻害活性を有するぺプチドが、ランダムに合成された人工ペプチドライブラリー由来である場合は、該ペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるDNAを化学合成する。
【0207】
遺伝子治療においては、そのようにして得られた阻害因子をコードする遺伝子を、例えばウイルスベクターに組み込んで、該組換えウイルスベクターを有するウイルス(無毒化されたもの)を患者に感染させる。患者体内では抗骨破壊因子が産生され、破骨細胞の分化抑制機能を有するので、骨代謝異常の治療が可能となる。
【0208】
遺伝子治療剤を細胞内に導入する方法としては、ウイルスベクターを利用した遺伝子導入方法、あるいは非ウイルス性の遺伝子導入方法(日経サイエンス,1994年4月号,20-45頁、実験医学増刊,12(15)(1994)、実験医学別冊「遺伝子治療の基礎技術」,羊土社(1996))のいずれの方法も適用することができる。
【0209】
ウイルスベクターによる遺伝子導入方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス等のDNAウイルスまたはRNAウイルスに、DC-STAMPの阻害因子あるいはその変異体をコードするDNAを組み込んで導入する方法が挙げられる。このうち、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ワクシニアウイルスを用いた方法が、特に好ましい。非ウイルス性の遺伝子導入方法としては、発現プラスミドを直接筋肉内に投与する方法(DNAワクチン法)、リポソーム法、リポフェクチン法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等が挙げられ、特にDNAワクチン法、リポソーム法が好ましい。
【0210】
また遺伝子治療剤を実際に医薬として作用させるには、DNAを直接体内に導入するインビボ(in vivo)法及びヒトからある種の細胞を取り出し体外でDNAを該細胞に導入し、その細胞を体内に戻すエクスビボ(ex vivo)法がある(日経サイエンス,1994年4月号,20-45頁、月刊薬事,36(1),23-48(1994)、実験医学増刊, 12 (15)(1994))。
【0211】
例えば、該遺伝子治療剤がインビボ法により投与される場合は、疾患、症状等に応じ、静脈、動脈、皮下、皮内、筋肉内等、適当な投与経路により投与される。またインビボ法により投与する場合は、該遺伝子治療剤は一般的には注射剤等とされるが、必要に応じて慣用の担体を加えてもよい。また、リポソームまたは膜融合リポソーム(センダイウイルス−リポソーム等)の形態にした場合は、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤等のリポソーム製剤とすることができる。
【0212】
配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列または該配列の部分配列に相補的なヌクレオチド配列は、いわゆるアンチセンス治療に用いることができる。アンチセンス分子は、配列表の配列番号1、3及び5に示されるヌクレオチド配列から選択されるヌクレオチド配列の一部に相補的な、通常15乃至30merからなるDNA、もしくはそのホスホロチオエート、メチルホスホネートまたはモルフォリノ誘導体などの安定なDNA誘導体、2’−O−アルキルRNAなどの安定なRNA誘導体として用いられ得る。そのようなアンチセンス分子を、微量注入、リポソームカプセル化により、あるいはアンチセンス配列を有するベクターを利用して発現させるなど、本発明の技術分野において周知の方法で、細胞に導入することができる。このようなアンチセンス療法は、配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列がコードする蛋白質の活性が増加しすぎることによって引き起こされる病気の治療に有用である。
【0213】
また、二本鎖の短鎖RNA(siRNA)を用いる方法を挙げることもできる(「ジーンズ・アンド・デヴェロップメンツ(Genes and Developments)」)、2001年1月15日、第15巻、第2号、p.188−200)。例えば、DC-STAMP遺伝子に対するsiRNAを作製し、文献記載の方法に従って導入することによって、DC-STAMPの過剰発現によって引き起こされる骨代謝異常に起因する疾患の治療剤とすることができる。
【0214】
上記アンチセンスオリゴヌクレオチド及び/又はsiRNAを含む医薬として有用な組成物は、医薬として許容できる担体の混合などの公知の方法によって製造され得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドを含む医薬の担体と製造方法の例は、Applied Antisense Oligonucleotide Technology(1998 Wiley−Liss、Inc.)に記載されている。アンチセンスオリゴヌクレオチド及び/又はsiRNAを含む製剤は、それ自体あるいは適宜の薬理学的に許容される、賦形剤、希釈剤等と混合し、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤若しくはシロップ剤等により経口的に、または、注射剤、坐剤、貼付剤、若しくは、外用剤等により非経口的に投与することができる。これらの製剤は、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、葡萄糖、マンニトール、ソルビトールのような糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α澱粉、デキストリンのような澱粉誘導体;結晶セルロースのようなセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルランのような有機系賦形剤;及び、軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムのような珪酸塩誘導体;燐酸水素カルシウムのような燐酸塩;炭酸カルシウムのような炭酸塩;硫酸カルシウムのような硫酸塩等の無機系賦形剤を挙げることができる。)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;タルク;コロイドシリカ;ビーズワックス、ゲイ蝋のようなワックス類;硼酸;アジピン酸;硫酸ナトリウムのような硫酸塩;グリコール;フマル酸;安息香酸ナトリウム;DLロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物のような珪酸類;及び、上記澱粉誘導体を挙げることができる。)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、及び、前記賦形剤と同様の化合物を挙げることができる。)、崩壊剤(例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンのような化学修飾されたデンプン・セルロース類を挙げることができる。)、乳化剤(例えば、ベントナイト、ビーガムのようなコロイド性粘土;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムのような金属水酸化物;ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウムのような陰イオン界面活性剤;塩化ベンザルコニウムのような陽イオン界面活性剤;及び、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルのような非イオン界面活性剤を挙げることができる。)、安定剤(メチルパラベン、プロピルパラベンのようなパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾールのようなフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;及び、ソルビン酸を挙げることができる。)、矯味矯臭剤(例えば、通常使用される、甘味料、酸味料、香料等を挙げることができる。)、希釈剤等の添加剤を用いて周知の方法で製造される。
【0215】
これらの医薬を患者へ導入する方法については、上記に加えてコロイド分散系を用いることができる。コロイド分散系は化合物の生体内の安定性を高める効果や、特定の臓器、組織または細胞へ化合物を効率的に輸送する効果が期待される。コロイド分散系は、通常用いられるものであれば限定しないが、高分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、及び水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル及びリポソームを包含する脂質をベースとする分散系を挙げる事ができ、好ましくは、特定の臓器、組織または細胞へ化合物を効率的に輸送する効果のある、複数のリポソーム、人工膜の小胞である(Mannino et al.,Biotechniques, (1988)6,682;Blume and Cevc, Biochem.et Biophys.Acta, (1990)1029, 91;Lappalainen et al., Antiviral Res., (1994)23, 119;Chonn and Cullis,Current Op.Biotech., (1995)6, 698)。
【0216】
0.2−0.4 μmのサイズ範囲をとる単膜リポソームは、巨大分子を含有する水性緩衝液のかなりの割合を被包化し得、化合物はこの水性内膜に被胞化され、生物学的に活性な形態で脳細胞へ輸送される(Fraley et al., Trends Biochem.Sci., (1981)6, 77 )。リポソームの組成は、通常、脂質、特にリン脂質、とりわけ相転移温度の高いリン脂質を1種またはそれ以上のステロイド、特にコレステロールと通常複合したものである。リポソーム生産に有用な脂質の例は、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、スフィンゴ脂質、ホスファチジルエタノールアミン、セレブロシド及びガングリオシドのようなホスファチジル化合物を包含する。特に有用なのはジアシルホスファチジルグリセロールであり、ここでは脂質部分が14−18の炭素原子、特に16−18の炭素原子を含有し、飽和している(14−18の炭素原子鎖の内部に二重結合を欠いている)。代表的なリン脂質は、ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン及びジステアロイルホスファチジルコリンを包含する。
【0217】
リポソームを包含するコロイド分散系の標的化は、受動的または能動的のいずれかであってもよい。受動的な標的化は、洞様毛細血管を含有する臓器の網内系細胞へ分布しようとするリポソーム本来の傾向を利用することによって達成される。一方、能動的な標的化は、例えば、ウイルスの蛋白質コート(Morishita et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA, (1993)90, 8474)、モノクローナル抗体(またはその適切な結合部分)、糖、糖脂質または蛋白質(またはその適切なオリゴペプチドフラグメント)のような特定のリガンドをリポソームへ結合させること、または天然に存在する局在部位以外の臓器及び細胞型への分布を達成するためにリポソームの組成を変えることによってリポソームを修飾する手法等を挙げる事ができる。標的化されたコロイド分散系の表面は様々なやり方で修飾され得る。リポソームで標的したデリバリーシステムでは、脂質二重層との緊密な会合において標的リガンドを維持するために、リポソームの脂質二重層へ脂質基が取込まれ得る。脂質鎖を標的リガンドと結びつけるために様々な連結基が使用され得る。本発明のオリゴヌクレオチドのデリバリーが所望される細胞の上に支配的に見出される特定の細胞表面分子に結合する標的リガンドは、例えば、(1)デリバリーが所望される細胞によって支配的に発現される特定の細胞受容体と結合している、ホルモン、成長因子またはその適切なオリゴペプチドフラグメント、または(2)標的細胞上で支配的に見出される抗原性エピトープと特異的に結合する、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体、またはその適切なフラグメント(例えば、Fab ;F (ab')2 )、であり得る。2 種またはそれ以上の生物活性剤は、単一のリポソーム内部で複合し、投与することもできる。内容物の細胞内安定性及び/又は標的化を高める薬剤をコロイド分散系へ追加することも可能である。
【0218】
その使用量は症状、年齢等により異なるが、経口投与の場合には、1回当り下限1mg(好適には、30mg)、上限2000mg(好適には、1500mg)を、注射の場合には、1回当り下限0.1mg(好適には、5mg)、上限1000mg(好適には、500mg)を皮下注射、筋肉注射または静脈注射によって投与することができる。
【実施例】
【0219】
以下、本発明を参考例及び実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0220】
参考例1. RAW-D細胞およびRAW-N細胞の樹立
a)限界希釈培養法によるRAW-D細胞およびRAW-N細胞の取得
マウス単球由来細胞株RAW264.7を可溶性RANKLで刺激すると、酒石酸耐性酸ホスファターゼ(以下「TRAP」という)やカテプシンKなどの破骨細胞分化マーカーの遺伝子発現が強く誘導されることが知られている(Hsu et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (1999)96, 3540-3545)。従って、RAW264.7細胞はRANKLで刺激することにより、破骨細胞へと分化誘導され得ると考えられている。そこで、RAW264.7細胞の親株であるRAW264細胞から、RANKLおよびTNF-αに対する感受性がより強い、すなわちこれらの刺激により破骨細胞に分化しやすいサブクローン細胞の取得を試みた(Watanabe et al., J. Endocrinol., (2004)180, 193-201)。なお、RAW264細胞はEuropean Collection of Cell Cultureから購入することができる(Catalog No. 85062803)。RAW264細胞を10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地を用いて、常法に従い限界希釈して96穴プレートに100μl播種した。10〜14日間培養し、形成されたコロニーを採取した。各コロニーについて10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で4.5×104細胞/mlに調製したものを96穴プレートに150μl/穴まき、ヒトRANKL(ぺプロテック社製)を終濃度20 ng/mlおよびヒトTNF-α(ぺプロテック社製)を終濃度1 ng/mlとなるように添加した。3日間培養した後、Leukocyte Acid Phosphatase kit(シグマ社製)を用いて、添付のプロトコールに従いTRAP染色を行い、TRAP陽性多核破骨細胞形成の有無を確認した。この一連の限界希釈培養法によるクローニング操作は、それぞれのコロニーにつき2回繰り返した。
その結果、RANKLおよびTNF-α刺激により効率よく破骨細胞に分化するRAW-D細胞、並びに、RANKLおよびTNF-α刺激により全く破骨細胞に分化しないRAW-N細胞を取得した。
【0221】
b)TRAP染色によるRAW-D細胞及びRAW-N細胞の破骨細胞分化指向性の検討
RAW-D細胞およびRAW-N細胞が、RANKLおよびTNF-αといった破骨細胞誘導作用を持つ物質で刺激した時にどのように反応するかを調べた。RAW-D、RAW-NおよびRAW264を、10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で4.5×104細胞/mlに調製した後96穴プレートに150μl/穴まき、ヒトTNF-α(ぺプロテック社製)を終濃度1 ng/ml、ヒトRANKL(ぺプロテック社製)を終濃度10、20、40、80 ng/mlとなるようにそれぞれ添加した。3日間培養した後、Leukocyte Acid Phosphatase kit(シグマ社製)を用いて、添付のプロトコールに従いTRAP染色を行い、形成されたTRAP陽性多核破骨細胞数を計測した。その結果、RAW-Dでは添加したRANKLの濃度依存的にTRAP陽性多核破骨細胞が形成された(図1)。一方、RAW-Nおよび親株細胞であるRAW264においては、RANKL添加によるTRAP陽性破骨細胞形成は認められなかった。
【0222】
実施例1. RAW-DおよびRAW-NにおけるマウスDC-STAMPのmRNA発現(ノーザンブロット解析)
a)全RNAの抽出
RAW-DあるいはRAW-Nを10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で7×104細胞/mlに調製したものを24穴プレートに500μl/穴まき、ヒトRANKL(ぺプロテック社製)を終濃度20 ng/ml、ヒトTNF-α(ぺプロテック社製)を終濃度2 ng/mlおよびマウスMIP-1α(ぺプロテック社製)を終濃度1 ng/mlとなるように加え、3日間培養した。またヒトRANKL(ぺプロテック社製)、ヒトTNF-αおよびマウスMIP-1α未添加の培養も同様に行った。
培養終了後、全RNA抽出用試薬(TRIZol試薬:インビトロジェン社製)を添付のプロトコールに従って用いることにより、それぞれの条件で培養したRAW-DおよびRAW-N より全RNAを抽出した。回収した全RNAは-80℃に保存した。
【0223】
b)全RNAの電気泳動およびブロッティング
回収した全RNAをRNA試料緩衝液(1×MOPS緩衝液(1×MOPS緩衝液は20 mM MOPS、8 mM 酢酸ナトリウム、1 mM EDTAを含む)、50% ホルムアミド、18μg/ml ブロモフェノールブルー、5.8% ホルムアルデヒド、5% グリセロール)で0.5μg/μlに調製し、65℃、15分間保温した後、氷上で5分間急冷した。この試料液20μlを、ホルムアルデヒドを含む電気泳動用1%アガロースゲル(1×MOPS緩衝液、1.2% アガロース(シグマ社製)、6% ホルムアルデヒド)のひとつのウェルへ注入し、電気泳動した。電気泳動は、1×MOPS緩衝液の入ったサブマリン電気泳動層中、100Vで約3時間通電することにより行った。
電気泳動終了後、アガロースゲル中のRNAをキャピラリートランスファー法(Maniatis, T. et al., in "Molecular Cloning A Laboratory Manual" Cold Spring Harbor Laboratory, NY, (1982))に従ってナイロンメンブレン(ハイボンドN+、アマシャム・ファルマシア社製)に一晩かけて転写した(転写用溶液は20×SSCを用いた)。このメンブレンを2×SSCで5分間洗浄し、風乾させ、クロスリンク用紫外線照射装置(Stratalinker 2400、ストラタジーン社製)で紫外線を照射(300 mJ/cm2)してRNAを固定した。
【0224】
c)プローブの調製
マウスDC-STAMPΔT7 cDNA(配列表の配列番号:5、GenBankアクセッション番号:AB109561)のヌクレオチド番号457乃至1208に示されるヌクレオチド配列が、pGEM-T Easyベクター(プロメガ社製)のTAクローニング部位に挿入されているプラスミドDNAを、TAクローニング部位近傍に存在するNcoI部位を利用してNcoI(宝酒造)消化により直鎖状DNAにした。DIG RNA labeling mix(ロッシュ・ダイアグノスティクス社製)およびSP6 RNA polymerase(ロッシュ・ダイアグノスティクス社製)を添付のプロトコールに従って用いることにより、DIG(ジゴキシゲニン)で標識されたアンチセンスRNAプローブを調製した。このプローブ調製液に20ユニット RNase-free DNase I(ロッシュ・ダイアグノスティクス社製)を添加し、鋳型DNAを分解した。なお調製したRNAプローブは、配列表の配列番号3(マウスDC-STAMP cDNA)のヌクレオチド番号457乃至1078および1247乃至1376の配列に相当するため、DC-STAMPおよびDC-STAMPΔT7の両方のmRNAを検出可能である。
【0225】
d)ハイブリダイゼーション
b)で作成したメンブレンを6 mlのハイブリダイゼーション溶液(DIG Easy Hyb Granulesを添付プロトコールに従って再蒸留水に溶解したもの:ロッシュ・ダイアグノスティクス社製)中に入れて65℃で15分インキュベーション(プレハイブリダイゼーション)した後、DIG標識RNAプローブを含む6 mlのハイブリダイゼーション溶液中で65℃、16時間インキュベートした。その後、メンブレンを2×SSC、0.1% SDSを含む溶液中、室温で5分間、2回洗浄し、さらに0.5×SSC,0.1% SDSを含む溶液中、65℃で30分間、2回洗浄した。次にメンブレンをBlocking溶液(Blocking reagentを添付プロトコールに従ってマレイン酸バッファーに溶解したもの:ロッシュ・ダイアグノスティクス社製)で30分処理した後、アルカリホスファターゼ標識抗ジゴキシゲニンFab断片(0.075 units/ml)(ロシュ・ダイアグノスティクス社製)を含むBlocking溶液で30分処理した。その後、洗浄バッファー(5 mMマレイン酸バッファーpH7.5、150 mM NaCl、0.3% Tween 20)で15分間、3回洗浄し、発光基質であるCDP-Star(ロシュ・ダイアグノスティクス社製)を添加し、ルミノ・イメージアナライザー(富士写真フィルム社製、LAS-1000 plus)による解析を行った。
【0226】
その結果、RAW-Dでは、RANKLおよびTNF-αを添加しない場合にはマウスDC-STAMPはほとんど発現しないが、RANKLおよびTNF-αを添加すると、マウスDC-STAMPの発現量が著明に上昇することが明らかとなった(図2)。マウスDC-STAMPの発現量は、さらにMIP-1αを添加しても増加しなかった。
【0227】
一方、RAW-Nでは、RANKLおよびTNF-αの添加の有無に関わらず、DC-STAMPの発現はほとんど認められなかった。なお、コントロールとしてマウスGlyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)の発現量を同様に求めた。
【0228】
実施例2. RAW-DにおけるマウスDC-STAMPのmRNA発現(RT-PCR解析)
RAW-Dを10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で7×104細胞/mlに調製したものを24穴プレートに500μl/穴まき、ヒトRANKL(ぺプロテック社製)を終濃度20 ng/ml、ヒトTNF-α(ぺプロテック社製)を終濃度2 ng/mlおよびマウスMIP-1α(ぺプロテック社製)を終濃度1 ng/mlとなるように加え、0、4、8、16、32、48、72時間培養した。
【0229】
次いで、全RNA抽出用試薬(TRIZol試薬:インビトロジェン社製)を添付のプロトコールに従って用いることにより、それぞれの培養時点におけるRAW-Dより全RNAを抽出した。回収した全RNAは使用時まで-80℃に保存した。1μg全RNAおよび1μl oligo(dT)18プライマー(0.5μg/μl)をH2Oで11μlにし、70℃で10分間加熱した後、4℃で保温した。この溶液に4μl 5×1st Strand Buffer(インビトロジェン社製)、1μl 10mM dNTPs、2μl 0.1M dithiothreitol、1μl Superscript II逆転写酵素(200U/μl、インビトロジェン社製)、1μl H2Oを加えて全量を20μlとし、42℃で1時間反応させた後、70℃で10分間加熱し、4℃で保温した。
【0230】
このようにして作製した一本鎖cDNAを以下のプライマーの組み合わせで増幅した。
PCR条件:
マウスDC-STAMPおよびマウスDC-STAMPΔT7増幅用プライマー:
5’-aaaacccttg ggctgttctt-3’(mDC-STAMP-F:配列表の配列番号7)
および
5’-cttcgcatgc aggtattcaa-3’(mDC-STAMP-R:配列表の配列番号8)、
マウスカテプシンK増幅用プライマー:
5’-gagggccaac tcaagaagaa-3’(mcatK-F:配列表の配列番号9)
および
5’-gccgtggcgt tatacataca-3’(mcatK-R:配列表の配列番号10)、
マウスTRAP増幅用プライマー:
5’-cagctgtcct ggctcaaaa-3’(mTRAP-F:配列表の配列番号11)
および
5’-acatagccca caccgttctc-3’(mTRAP-R:配列表の配列番号12)、
マウスGAPDH増幅用プライマー:
5’-aaacccatca ccatcttcca-3’(mGAPDH-F:配列表の配列番号13)
および
5’-gtggttcaca cccatcacaa-3’(mGAPDH-R:配列表の配列番号14)。
【0231】
サーマルサイクラー(ジーンアンプPCRシステム9700、(株)パーキンエルマージャパン・アプライドバイオシステムズ事業部製)を使用して以下の条件でPCRを行った。なお反応にあたっては、Platinum Taq DNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)を使用した。まず各8 pmolのプライマー、20 ng 一本鎖cDNA、0.5μlの 10×Reactionバッファー、0.2μlの50 mM MgCl2、0.4μlの各2.5 mM dNTP、0.05μlの5 units/μl Taq DNAポリメラーゼを加え、蒸留水で5μlとして反応液を調製した。この反応液を、94℃2分加熱し、94℃で0.5分、65℃で1分、72℃で1分の温度サイクルを30回繰り返した後72℃10分加熱し、4℃で保温した。なお、このときの反応液全量を2.0%アガロースゲルで電気泳動した。
【0232】
DC-STAMP遺伝子の発現はRANKL、TNF-αおよびMIP-1αの添加から、8時間後より上昇し始め、発現量の上昇は72時間後まで持続した(図3)。第3エクソンが短いスプライシングバリアントであるDC-STAMPΔT7も、RANKL、TNF-αおよびMIP-1α添加から16時間後より発現亢進が認められた。また、破骨細胞のマーカー分子として知られているカテプシンKおよびTRAP遺伝子も、16時間後より発現亢進が確認された。図3において、上側の数値は、RANKL、TNF-αおよびMIP-1α添加後の経過時間数を、また、右側にはそれぞれの遺伝子についてPCR反応により増幅された産物のサイズを塩基対で示している。
【0233】
実施例3. マウス骨髄由来初代培養細胞におけるマウスDC-STAMPのmRNA発現(RT-PCR解析)
マウス骨髄由来初代培養細胞を、活性型ビタミンD3存在下で培養すると、TRAP陽性多核破骨細胞が多数出現する(Takahashi et al., Endocrinology, (1988)122, 1373-1382)。
【0234】
6週齢雄性DDYマウスをエーテル麻酔下頚椎脱臼にて安楽死させ、大腿骨および脛骨を摘出した。軟組織を除去した後、大腿骨あるいは脛骨の両端を切り落とし、25ゲージの注射針のついた注射筒を用いて血清を含まないα-MEM培地を骨髄中に注入し、骨髄細胞を採取した。細胞数を計測後、15%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で2 ×106細胞/mlに調製したものを24穴プレートに500μl/穴まき、活性型ビタミンD3(バイオモル社製)を終濃度1×10-8 Mとなるように加え、1、3、5、6日間培養した。
【0235】
次いで、全RNA抽出用試薬(TRIZol試薬:インビトロジェン社製)を添付のプロトコールに従って用いることにより、それぞれの培養時点における細胞より全RNAを抽出した。回収した全RNAは使用時まで-80℃に保存した。
【0236】
RT-PCR反応は、RNA LA PCR kit(AMV)Ver1.1(タカラバイオケミカルズ社製)を使用して行った。まず、2μl 25mM MgCl2、1μl 10×RNA PCR Buffer、1μl dNTP Mix(各10mM)、0.25μl RNase Inhibitor(40 U/μl)、0.5μl 逆転写酵素(5 U/μl)、0.5μl Oligo dT-Adaptor primer(2.5 pmol/μl)、1μg全RNAを加え、RNase Free dH2Oで10μlとして反応液を調製した。この反応液を、50℃で25分間加熱した後、99℃で5分間加熱し、4℃にて保温した。この一本鎖cDNAを実施例2に記載のプライマーの組み合わせで増幅した。
【0237】
サーマルサイクラー(ジーンアンプPCRシステム9700)を使用して以下の条件でRT-PCRを行った。cDNAを含む反応液5μlに、1.5μl 25mM MgCl2、2μl 10×LA PCR Buffer II (Mg2+ free)、0.125μl Takara LA Taq (5 U/μl)、プライマーセット(終濃度各 1μM)を加え、再蒸留水で25μlとして、反応液を調製した。この反応液を94℃で2分間加熱した後、94℃で30秒、60℃で30秒、72℃で30秒の温度サイクルを25回繰り返し、4℃で保温した。その後、反応液9μl分を2.0 %アガロースゲルに電気泳動した。
【0238】
その結果、DC-STAMP遺伝子は、活性型ビタミンD3添加後1日目ではわずかに発現しているだけだったが、単核の破骨細胞前駆細胞が形成される3日目では顕著に発現し、多核化が盛んに起こる5、6日目でも顕著な発現が維持された(図4)。
【0239】
また、DC-STAMPΔT7はDC-STAMPよりも発現量は低いものの、発現量の変化はDC-STAMPと同様の時間経過を示した。図4において、上側の数値は、活性型ビタミンD3添加後の経過日数を示している。
【0240】
実施例4. ウサギ抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体の作製
マウスDC-STAMPアミノ酸配列(配列表の配列番号:4、GenBankアクセッション番号:AB109560)において、第6番目から第7番目の膜貫通ドメインの間に位置する、アミノ酸番号330乃至343に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを元に、マウスDC-STAMPタンパク質の部分ペプチドの作製を試みた。前述配列のN末端にシステイン残基を1つ付加した部分ペプチド:
Cys Ser Leu Pro Gly Leu Glu Val His Leu Lys Leu Arg Gly Glu(配列表の配列番号:15)
を合成した。このペプチドを抗原刺激性キャリアータンパク質であるKLH(Keyhole limpet hemocyanin)に、MBS(マレイミドベンゾイルオキシコハク酸イミド)法によりコンジュゲートした後ウサギに免疫し、常法に従いウサギ抗血清を得た。この抗血清を、免疫に使用した部分ペプチドを練り込んだペプチドアフィニティーカラムを用いて精製することにより、ウサギ抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体を得た。なお、DC-STAMPΔT7(GenBankアクセッション番号AB109561)もこのペプチド配列を持つため、本抗体はDC-STAMPおよびDC-STAMPΔT7の両方に結合すると考えられた。さらに、このペプチド配列を、ヒトDC-STAMPアミノ酸配列(配列表の配列番号:2、GenBank アクセッション番号:NM_030788)におけるアミノ酸番号330乃至343に示される配列と比較したところ、334番目のLeu(マウス)がPhe(ヒト)に、341番目のArg(マウス)がHis(ヒト)に変化しているのみであったため、本抗体がヒトDC-STAMPにも結合する可能性が高いと考えられた。
【0241】
実施例5. 新生仔マウス脛骨由来破骨細胞における免疫染色
a) 新生仔マウス脛骨由来破骨細胞の採取
1日齢DDYマウスより脛骨を摘出し、軟組織を除去した後、15%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地中にて解剖用ハサミを用いてミンチ状にした。その後やや激しくピペッティングすることにより細胞をほぐして懸濁させ、チェンバースライド(ナルジェ・ヌンクインターナショナル社製)に播種した。一時間培養後、スライドに接着した多核細胞を破骨細胞として使用した。
【0242】
b) 免疫染色によるDC-STAMPタンパク質の発現
a)により得られた破骨細胞を、4%パラホルムアルデヒド溶液を用いて、室温にて20分間固定反応を行い、リン酸緩衝液(pH7.4)により4回洗浄後、3%ヤギ血清を含むリン酸緩衝液(pH7.4)により室温で30分間ブロッキング反応を行った。ブロッキング液を除いた後、実施例4において作製したウサギ抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体 10μg/mlを含むリン酸緩衝液(1%ウマ血清を含む)を添加し、室温で30分間反応させた。また、免疫されていないウサギIgG抗体(ダコ・ジャパン社製)を陰性対照として用意し、同様の操作を行った。1%ウマ血清を含むリン酸緩衝液で4回洗浄し、ビオチン化ヤギ抗ウサギIgG抗体(ベクター・ラボラトリーズ社製)を二次抗体として用い、室温で30分間細胞と反応させた。リン酸緩衝液で4回洗浄後、ABC-APキット(ベクター・ラボラトリーズ社製)を添付のプロトコールに従って用いることにより、発色反応を行った。この結果、抗DC-STAMP抗体で反応させた破骨細胞において強い染色が認められたことから、新生仔マウス脛骨由来破骨細胞においてDC-STAMPが発現していることが明らかとなった。なお、陰性対照のコントロール抗体を用いた場合では、破骨細胞は全く染色されなかった。
【0243】
実施例6. 新生仔マウス下顎骨組織における免疫染色
a) 新生仔マウス下顎骨組織標本の作製
1日齢DDYマウスをエーテル麻酔し、4%パラホルムアルデヒドを含むリン酸緩衝液(pH 7.4)を左心室より注入し灌流固定した。下顎骨を摘出し、前述の4%パラホルムアルデヒドを含むリン酸緩衝液(pH 7.4)に漬け、4℃にてさらに12時間固定反応を行い、リン酸緩衝液にて3回洗浄後、更にリン酸緩衝液にて4℃で一晩洗浄を行った。その後10%EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を用いて4℃、1週間脱灰反応を行った。30%スクロースを含むリン酸緩衝液中4℃で一晩洗浄後、OCTコンパウンド(サクラ・ファインテック社製)を用いて包埋し、ドライアイス含有イソペンタンに漬け凍結させた。こうして作製された包埋ブロックを、クリオミクロトーム(ライカ社製)を用いて10μmに薄切し、下顎骨組織切片を作製した。
【0244】
b) 免疫染色によるDC-STAMPタンパク質の発現
a)により作製された下顎骨組織切片から、風乾により水分を除去した後、0.3%過酸化水素を含むメタノールと室温で30分間反応させ内因性ペルオキシダーゼ活性を消失させた。リン酸緩衝液で3回洗浄後(室温・各5分)、10%ロバ血清を含むリン酸緩衝液を用いて室温で30分間反応させブロッキングを行った。ブロッキング液を除去し、実施例4において作製したウサギ抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体 10μg/mlを含むリン酸緩衝液(2%ロバ血清を含む)を添加し、湿潤箱に入れ4℃で一晩反応させた。また、免疫されていないウサギIgG抗体(ダコ・ジャパン社製)を陰性対照として用意し、同様の操作を行った。リン酸緩衝液で3回洗浄後(室温・各5分)、ビオチン化ロバ抗ウサギIgG抗体(ジャクソン・イムノリサーチ・ラボラトリーズ社製)をリン酸緩衝液で200倍希釈したものを二次抗体として用い、室温で1時間反応させ、リン酸緩衝液で3回洗浄後(室温・各5分)、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン複合体(ダコ・ジャパン社製)を蒸留水で300倍に希釈したものと室温で30分間反応させた。リン酸緩衝液で3回洗浄後(室温・各5分)、DAB substrateキット(ベクター・ラボラトリーズ社製)を添付のプロトコールに従って用いることにより、発色反応を行った。その結果、抗DC-STAMP抗体で反応させた下顎骨組織切片では、破骨細胞においてのみ強い染色が認められ、新生仔マウス下顎骨由来破骨細胞でDC-STAMPが発現していることが明らかとなった。なお、陰性対照のコントロール抗体を用いた場合では、いずれの細胞も染色されなかった。
【0245】
実施例7. RAW-D細胞のsiRNAによる破骨細胞分化抑制
a)マウスDC-STAMP遺伝子に対するsiRNAの作製
センス鎖、アンチセンス鎖それぞれの3’端に、ウリジンが2塩基(UU)付加された各マウスDC-STAMP siRNAは、Silencer siRNA constructionキット(アンビオン社製)を用い、添付のプロトコールに従って転写により調製した。siRNA調製に必要なテンプレートオリゴDNAセットは次の通りである。
【0246】
まず、第3エクソンの5’側(ヒトDC-STAMP cDNA配列より推定されたアミノ酸配列において、第7膜貫通領域に相当)に対するsiRNA及び変異を入れたsiRNAの作製には、次のテンプレートオリゴDNAの組み合わせを用いた。
siRNA #135テンプレート:
5’-aatactagga ttgttgtctt ccctgtctc-3’(mDC-STAMP-#135-AS:配列表の配列番号16)
および
5’-aagaagacaa caatcctagt acctgtctc-3’(mDC-STAMP-#135-S:配列表の配列番号17)、
変異siRNA #135テンプレート:
5’-aatactagga gcgttgtctt ccctgtctc-3’(mDC-STAMP-#135-Mut-AS:配列表の配列番号18、ヌクレオチド番号11はtをgに、12はtをcに変異させている。)
および
5’-aagaagacaa cgctcctagt acctgtctc-3’(mDC-STAMP-#135-Mut-S:配列表の配列番号19、ヌクレオチド番号12に示されるヌクレオチドはaをgに、13に示されるヌクレオチドはaをcに変異させている。)。
【0247】
また、第3エクソンにおいて上記siRNA(#135)の部分より3’側に位置するマウスDC-STAMPに特有のcDNA配列部分に対するsiRNA及び変異siRNAの作製には、次のテンプレートオリゴDNAの組み合わせを用いた。
siRNA *6テンプレート:
5’-aattctcgtg tcagtctcct tcctgtctc-3’(mDC-STAMP-*6-AS:配列表の配列番号20)
および
5’-aaaaggagac tgacacgaga acctgtctc-3’(mDC-STAMP-*6-S:配列表の配列番号21)、
変異siRNA *6テンプレート:
5’-aattctcgta ccagtctcct tcctgtctc-3’(mDC-STAMP-*6-Mut-AS:配列表の配列番号22、ヌクレオチド番号9に示されるヌクレオチドはgをaに、10に示されるヌクレオチドはtをcに変異させている。)
および
5’-aaaaggagac tggtacgaga acctgtctc-3’(mDC-STAMP-*6-Mut-S:配列表の配列番号23、ヌクレオチド番号13に示されるヌクレオチドはaをgに、ヌクレオチド番号14に示されるヌクレオチドはcをtに変異させている。)
【0248】
b)RAW-D細胞のsiRNAによる破骨細胞分化抑制
RAW-Dを10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で4.5×104細胞/mlに調製したものを96穴プレートに80μl/穴播種した。翌日、OPTI-MEM I培地(インビトロジェン社製)80μlに培地交換し、a)において作製したDC-STAMP siRNAおよび変異siRNAを終濃度0.1、1、5nMとなるように調製し、トランスフェクション試薬であるsiPORT Lipid(アンビオン社製)を用い、添付のプロトコールに従い細胞にトランスフェクションした(20μl添加)。また、siRNAを含まない、トランスフェクション試薬のみのコントロール(モック)も用意した。CO2インキュベーター中で4時間トランスフェクションした後、ヒトRANKL(ぺプロテック社製)40 ng/ml、ヒトTNF-α(ぺプロテック社製)2 ng/mlおよび20%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地を100μl添加した。3日間培養後、Leukocyte Acid Phosphatase kit(シグマ社製)を用いて、添付のプロトコールに従いTRAP染色を行い、形成されたTRAP陽性多核破骨細胞数を計測した。DC-STAMP siRNA#135の添加濃度が、0.1、1、5nMのいずれの濃度でも、変異siRNA #135を添加した場合と異なり有意に破骨細胞形成を抑制した。変異 siRNAの添加濃度が5nMの場合には若干の破骨細胞形成抑制効果が認められたが、変異 siRNAの添加濃度が0.1、1nMでは破骨細胞形成抑制効果は認められなかった。その結果、モックコントロール(siRNA濃度=0nM)およびネガティブコントロールである変異siRNAに比べ、いずれのDC-STAMP siRNAも、RANKLおよびTNF-αにより誘導されるRAW-DのTRAP陽性多核破骨細胞形成を濃度依存的に抑制した(図5A、図5B)。このように、siRNAによりDC-STAMP遺伝子の発現を抑制すると、RAW-Dの破骨細胞への分化が抑制されたことから、DC-STAMPが破骨細胞分化に必須な因子であることが示唆された。
【0249】
実施例8. マウスDC-STAMPオープンリーディングフレーム(ORF)cDNAクローンの取得
a)RAW-Dからの全RNAの抽出
RAW-Dを10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で7×104細胞/mlに調製したものを24穴プレートに500μl/穴まき、ヒトRANKL(ぺプロテック社製)を終濃度20 ng/ml、ヒトTNF-α(ぺプロテック社製)を終濃度2 ng/mlおよびマウスMIP-1α(ぺプロテック社製)を終濃度1 ng/mlとなるように加え、3日間培養した。
次いで、全RNA抽出用試薬(TRIZol試薬:インビトロジェン社製)を添付のプロトコールに従って用いることにより、RAW-Dより全RNAを抽出した。なお、回収した全RNAは-80℃に保存した。
【0250】
b)ファーストストランドcDNA合成
1μg全RNAおよび1μl oligo(dT)18プライマー(0.5μg/μl)をH2Oで11μlにし、70℃で10分間加熱した後、4℃で保温した。この溶液に4μl 5×1st Strand Buffer(インビトロジェン社製)、1μl 10mM dNTPs、2μl 0.1M dithiothreitol、1μl Superscript II逆転写酵素(200U/μl、インビトロジェン社製)、1μl H2Oを加えて全量を20μlとし、42℃で1時間反応させた後、70℃で10分間加熱し、4℃で保温した。
【0251】
c)PCR反応
マウスDC-STAMPおよびDC-STAMPΔT7のORF cDNAをPCRで増幅するためのプライマーとして
5’-tttgtcgaca tgaggctctg gaccttgggc accagtattt t-3’(mDC-STAMP-cDNA-F:配列表の配列番号24)
および
5’-tttgcggccg ctcatagatc atcttcattt gcagggattg t-3’(mDC-STAMP-cDNA-R:配列表の配列番号25)、
の配列を有するオリゴヌクレオチドを常法に従って合成した。このプライマーの組み合わせを用い、サーマルサイクラー(ジーンアンプPCRシステム9700)を使用して以下の条件でPCRを行った。プライマー(終濃度各1.0μM)、5μl 10× Pyrobest PCRバッファー(宝酒造社製)、4μl 2.5mM dNTPs、1μl cDNA(b)にて作製)、再蒸留水で50μlとした。さらに0.5μlの5U/μl Pyrobest DNAポリメラーゼ(宝酒造社製)を添加し、反応液を調製した。この反応液を、まず94℃で2分間加熱した後、94℃で0.5分、60℃で0.5分、72℃で5分の温度サイクルを30回繰り返してから、72℃10分加熱し、4℃で保温した。
【0252】
d)pCI-neoベクターへのクローニング
c)で得られたPCR反応液の全量をQIAquick PCR Purification Kit(キアゲン社製)を添付のプロトコールに従って用いることにより精製した。得られたフラグメントは、制限酵素SalIおよびNotIで消化した後、同様にSalIおよびNotI消化したpCI-neo(プロメガ社製)とDNA Ligation Kit Ver.1(宝酒造社製)を用いてライゲーションし、大腸菌XL1-Blue MRF’(ストラタジーン社製)へトランスフォーメーションした。このようにして得られた大腸菌コロニーから、プラスミドpCI-neo-マウスDC-STAMPを保持する形質転換大腸菌を単離した。
【0253】
得られたプラスミドに挿入されているORF cDNAの全ヌクレオチド配列をDNAシークエンサー((株)パーキンエルマージャパン・アプライドバイオシステムズ事業部製ABIプリズム310 DNAシークエンサー)を用いて解析した結果、配列表の配列番号26に示される配列であることが判明した。このヌクレオチド配列は、NCBI GeneBankデータベースに「マウスDC-STAMP」(登録番号:AB109560)として登録されている配列のORFコード領域と同一であり、また、該ヌクレオチド配列にコードされるアミノ酸配列(配列表の配列番号27)は、マウスDC-STAMPのアミノ酸配列と100%一致していた。
【0254】
実施例9. マウスDC-STAMP蛋白強制発現による、RAW-D細胞の破骨細胞分化への影響
実施例8で得たpCI-neo-マウスDC-STAMPのプラスミドは、pCI-neo由来のCMVプロモーター支配下に、マウスDC-STAMPのオープンリーディングフレーム配列が連結されているので、このプラスミドを宿主に導入することによりマウスDC-STAMPタンパク質の発現が可能である。
【0255】
上記発現プラスミドのRAW-Dへの遺伝子導入(トランジェント・トランスフェクション)は、DEAE-デキストラン法により行った。
【0256】
pCI-neo-マウスDC-STAMPあるいは何も組み込んでいない空のpCI-neoベクターそれぞれ3μgに、10mg/ml DEAE-デキストラン溶液(プロメガ社製)50μlとOPTI-MEMI(インビトロゲン)950μlを混合したものを添加し、トランスフェクション溶液を調製した。
【0257】
血清を含まないα-MEM(10ml)で2回洗浄(200×g、5分間遠心)したRAW-D(3.0×106個)を上記トランスフェクション溶液(1ml)に懸濁した。CO2インキュベーター中(37℃)で30分間保温した後、血清を含まないα-MEM(10ml)で1回洗浄(200×g、5分間遠心)後、更に5%ウシ胎児血清を含むα-MEM(10ml)で1回洗浄を行った。200×g、10分間遠心して細胞を沈降させ、10%ウシ胎児血清を含むα-MEM(2ml)に再懸濁させた。細胞濃度を血球計算板にて測定し、4.5×104個/mlの細胞濃度に調製し、96ウェルプレートに0.15ml/穴播種し、ヒトRANKL(ぺプロテック社製)を終濃度20 ng/ml、ヒトTNF-α(ぺプロテック社製)を終濃度1 ng/mlとなるように添加し、あるいは添加せず3日間培養した後、Leukocyte Acid Phosphatase kit(シグマ社製)を用いて、添付のプロトコールに従いTRAP染色を行い、形成されたTRAP陽性多核破骨細胞数を計測した。その結果、RANKL、TNF-α非存在下ではマウスDC-STAMPタンパク質を強制発現させてもTRAP陽性多核破骨細胞が全く誘導されなかったが、RANKL、TNF-α存在下では、コントロールである空のpCI-neoベクターをRAW-Dに遺伝子導入した時に比べ、マウスDC-STAMPタンパク質を強制発現させることによりTRAP陽性多核破骨細胞の形成が有意に促進された(図6)。このことから、DC-STAMPが、破骨細胞分化を促進する因子であることが示唆された。
【0258】
実施例10. 抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体添加によるRAW-D細胞の破骨細胞分化への影響
実施例4において作製したウサギ抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体を用い、RAW-Dの破骨細胞分化への影響を検討した。
【0259】
RAW-Dを10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で4.5×104細胞/mlに調製したものを96穴プレートに150μl/穴まき、ヒトRANKL(ぺプロテック社製)を終濃度20 ng/ml、ヒトTNF-α(ぺプロテック社製)を終濃度1 ng/mlとなるように添加した。この細胞培養上清に、実施例4において作製したウサギ抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体を終濃度0、5、10、20μg/mlとなるよう添加し3日間培養した後、Leukocyte Acid Phosphatase kit(シグマ社製)を用いて、添付のプロトコールに従いTRAP染色を行い、形成されたTRAP陽性多核破骨細胞数を計測した。その結果、添加した抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体の用量依存的にTRAP陽性多核破骨細胞の形成が抑制された(図7)。なお、抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体を添加しなかった場合に比べて抗体を10μg/ml以上添加すると破骨細胞の形成の有意な抑制が認められた。
【0260】
このように、DC-STAMPおよびDC-STAMPΔT7と特異的に結合すると考えられる抗体によりRAW-DのTRAP陽性多核破骨細胞形成が抑制されたことから、DC-STAMPおよびDC-STAMPΔT7が、破骨細胞分化に深く関与していることが示唆された。
【0261】
実施例11. 抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体添加によるマウス骨髄由来初代培養細胞の破骨細胞分化への影響
6週齢雄性DDYマウスをエーテル麻酔下頚椎脱臼にて安楽死させ、大腿骨および脛骨を摘出した。軟組織を除去した後、大腿骨あるいは脛骨の両端を切り落とし、25ゲージの注射針のついた注射筒を用いて血清を含まないα-MEM培地を骨髄中に注入し、骨髄細胞を採取した。細胞数を計測後、15%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で2×106細胞/mlに調製したものを24穴プレートに500μl/穴まき、活性型ビタミンD3(バイオモル社製)を終濃度1×10-8 Mとなるように添加した。この細胞培養上清に、実施例4において作製したウサギ抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体を終濃度0、5、10、20μg/mlとなるよう添加し6日間培養した後、Leukocyte Acid Phosphatase kit(シグマ社製)を用いて、添付のプロトコールに従いTRAP染色を行い、形成されたTRAP陽性多核破骨細胞数を計測した。その結果、添加した抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体の用量依存的にTRAP陽性多核破骨細胞の形成が抑制された(図8)。なお、抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体を添加しなかった場合に比べて抗体を5μg/mlおよび20μg/mlの濃度で添加した場合において有意な抑制が認められた。このように、DC-STAMPおよびDC-STAMPΔT7と特異的に結合する抗体により、マウス骨髄細胞からのTRAP陽性多核破骨細胞形成が抑制されたことから、DC-STAMPおよびDC-STAMPΔT7は、RAW-Dのような細胞株のみならず、より生体に近い初代培養細胞の破骨細胞分化にも関与していることが明らかとなった。
【0262】
実施例12. 抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体添加による骨吸収窩形成への影響
マウス大腿骨および脛骨由来の細胞を、活性型ビタミンD3存在下象牙切片上で培養すると、破骨細胞により象牙表面が侵食され、虫食い状の骨吸収窩(ピット)が観察される(Takada et al., Bone and Mineral 17, 347-359 (1992))。
【0263】
14日齢ICRマウス(雌雄不問)をエーテル麻酔下頚椎脱臼にて安楽死させ、大腿骨および脛骨を摘出した。軟組織を除去した後、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地1mlの入った直径60mmのデッシュの中で、骨を粥状になるまでハサミで刻んだ。15ml遠心チューブに移し、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地10mlを加え、ボルテックスミキサー(エムエス機器)で30秒間攪拌後、2分間静置した。上清を回収し、細胞数を計測後、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地で1×107細胞/mlに調製したものを、厚さ150〜200μm、直径6mmの象牙切片(呉羽化学工業にて作製)を敷いた96穴プレートに100μl/穴まき、CO2インキュベーター中で4時間培養した。その後10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地200μlに交換し、活性型ビタミンD3(シグマ社製)を終濃度1×10-8 Mとなるように添加した(非添加群も用意した)。この細胞培養上清に、実施例4において作製したウサギ抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体を終濃度0、2、6、20μg/mlとなるよう添加し4日間培養した。培養終了後、象牙の入ったプレートから培養上清を除去し蒸留水を加えて1回洗浄し、新たに蒸留水を加えた。ハンドモーター(東京中井(株)製)に接続させたポリッシングブラシ(多賀谷製作所製)を用いて象牙切片上に付着した細胞を剥離した。蒸留水にて2回洗浄した後、象牙表面上に形成されたピットを酸ヘマトキシリン液(シグマ社製)で13分間染色し、蒸留水にて2回洗浄した。象牙切片を裏返し、顕微鏡下でピット面積を計測した。ピットの総面積を測定する方法として、顕微鏡の接眼レンズに装着したマイクロメーター(10×10マス)を用い、ピットが存在する全てのマスメ(メッシュ)の数を数え、ピット面積とした。その結果、活性型ビタミンD3の添加により象牙切片上に多数のピットが形成されたが、同時に添加した抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体の用量依存的に、ピット形成が抑制された(図9)。このように、DC-STAMPおよびDC-STAMPΔT7と特異的に結合すると考えられる抗体により、マウス大腿骨・脛骨由来破骨細胞によるピット形成が抑制されたことから、DC-STAMPおよびDC-STAMPΔT7が、破骨細胞の骨吸収活性の調節にも関与していることが示唆された。
【0264】
実施例13. 巨細胞腫組織におけるヒトDC-STAMP遺伝子の発現
巨細胞腫(Giant cell tumor; GCT)は、組織学的に破骨型の多核巨細胞が多数出現する骨腫瘍であり、臨床的所見として骨溶解性の骨破壊を特徴とする(Bullough et al., Atlas of Orthopedic Pathology 2nd edition, 17.6-17.8, Lippincott Williams & Wilkins Publishers (1992))。ヒトDC-STAMP遺伝子と部分的に重複するヌクレオチド配列を有するESTプローブ(Affymetrix Genechip HG-U133 probe 221266_s_at:アフィメトリクス社製)について、GeneLogic社製のデータベース(Genesis 2003 Release 2.0)を用いてGCT組織における発現プロファイル解析を行った。また、破骨細胞分化に重要な役割を果たしているRANK(Affymetrix Genechip HG-U133 probe 207037_at:アフィメトリクス社製)およびRANKL(Affymetrix Genechip HG-U133 probe 210643_at:アフィメトリクス社製)、さらに破骨細胞分化マーカーであるカテプシンK(Affymetrix Genechip HG-U133 probe 202450_s_at:アフィメトリクス社製)およびTRAP(Affymetrix Genechip HG-U133 probe 204638_at:アフィメトリクス社製)のESTプローブについても、同様にGCT組織における発現プロファイル解析を行った。
【0265】
正常骨組織9例、GCT組織14例、GCT以外の骨腫瘍組織10例において発現量を比較したところ、正常組織に比べGCT組織においてRANKおよびRANKLの転写が特異的に亢進していることが明らかとなった(図10A)。一方、骨吸収の亢進が必ずしも起こらないと考えられるGCT以外の骨腫瘍組織では、GCTに比べRANKおよびRANKLの転写が有意に低く、正常組織と同等の発現量であったことから、GCTでは破骨細胞の形成及び活性化が促進される環境であることが示唆された。また、カテプシンKおよびTRAPの発現量を比較したところ、GCTにおいて有意に高く転写されており(図10B)、骨吸収活性を持つ破骨細胞が多数出現していることが示唆された。同様にDC-STAMPについて転写量を比較したところ、RANK、RANKL、カテプシンKおよびTRAPと同じようにGCTで特異的に高く転写されていることが明らかとなった(図11)。このことから、GCTのような骨吸収が亢進するヒトの病態においても、DC-STAMPが関与していることが示唆された。
【0266】
実施例14. 抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体添加によるヒト破骨細胞形成への影響
ヒト末梢血単核球(Human Peripheral Blood Mononuclear Cell; HPBMC)をM-CSFおよびデキサメタゾン存在下RANKLで刺激すると、TRAP陽性多核破骨細胞が形成される(Matsuzaki et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., (1998)246, 199-204)。タカラバイオ社より購入したHPBMCを、10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で5×106細胞/mlに調製した後96穴プレートに100μl/穴まき、ヒトM-CSF(アール・アンド・ディーシステムズ社製)が終濃度200ng/ml、デキサメタゾン(和光純薬工業社製)が終濃度1×10-7 MおよびヒトRANKL(ぺプロテック社製)が終濃度100 ng/mlとなるように調製した培地を添加し、200μl/穴とした(RANKL非添加群も用意した)。この細胞培養上清に、実施例4において作製したウサギ抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体を終濃度0、2、6μg/mlとなるよう添加した。培養4、7、11日後に培地交換および検体の添加を行い、培養13日後、Leukocyte Acid Phosphatase kit(シグマ社製)を用いて、添付のプロトコールに従いTRAP染色を行い、形成されたTRAP陽性多核破骨細胞数を計測した。その結果、RANKL刺激により多数の破骨細胞が形成されたが、抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体の用量依存的にTRAP陽性多核破骨細胞の形成が抑制された(図12)。このように、抗マウスDC-STAMP抗体により、HPBMCからのTRAP陽性多核破骨細胞形成が抑制されたことから、DC-STAMPは、マウスのみならず、ヒトの破骨細胞分化にも関与していることが強く示唆された。
【配列表フリーテキスト】
【0267】
配列番号15−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの合成部分ペプチド
配列番号16−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの鋳型DNA1
配列番号17−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの鋳型DNA2
配列番号18−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの鋳型DNA3
配列番号19−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの鋳型DNA4
配列番号20−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの鋳型DNA5
配列番号21−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの鋳型DNA6
配列番号22−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの鋳型DNA7
配列番号23−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの鋳型DNA8
配列番号24−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの順方向PCRプライマー
配列番号25−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの逆方向PCRプライマー
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨代謝異常症の治療及び/又は予防剤として有用な物質、骨代謝異常症の治療及び/又は予防剤として有用な物質のスクリーニング方法、骨代謝異常症の検査方法並びに骨代謝異常症の治療又は予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨は、自らの形態変化や血中カルシウム濃度の維持のため、常に形成と吸収を繰り返し再構築を行う動的な器官として知られている。正常な骨では骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収とは平衡関係にあり、骨量は一定に保たれている。一方、骨形成と骨吸収との平衡関係が崩れると、骨粗鬆症などの骨代謝異常になる(例えば、非特許文献1または非特許文献2参照)。
【0003】
骨代謝を調節する因子としては、全身性のホルモンや局所性のサイトカインが数多く報告されており、それら因子の共同作用により骨の形成と維持が営まれている(例えば、非特許文献1または非特許文献3参照)。加齢による骨組織の変化としては、骨粗鬆症の発症が広く知られているが、その発症機構は性ホルモンの分泌低下やそのレセプター異常、老化遺伝子の発現、破骨細胞や骨芽細胞の分化あるいは機能不全など多岐にわたっており、加齢による生理現象として理解するのは困難である。骨粗鬆症はエストロゲンの分泌低下による閉経後骨粗鬆症と加齢による老人性骨粗鬆症に大別されているが、その発症機構の解明と治療薬開発の為には、骨吸収と骨形成の調節機構についての基礎的研究の進展が必須である。
【0004】
破骨細胞は、造血幹細胞に由来する多核の細胞であり、骨との接着面に塩素イオンと水素イオンを放出することによって、細胞と骨接着面の間隙を酸性化する(例えば、非特許文献4参照)。この結果、リン酸カルシウムの分解と酸性プロテアーゼの活性化が引き起こされ、骨吸収が進行する。
【0005】
破骨細胞の前駆細胞は骨表面の骨芽細胞/ストローマ細胞の細胞膜上に発現するRANKL(Receptor activator of NF-κB ligand)の刺激を受けて、破骨細胞へ分化することが明らかとなってきた(例えば、非特許文献5または非特許文献6参照)。RANKLは骨芽細胞/ストローマ細胞が産生する膜結合因子であり、その発現は骨吸収因子により調節されること、および、RANKLは破骨細胞前駆細胞から多核破骨細胞への分化を誘導することなどが明らかにされた(例えば、非特許文献5または非特許文献7参照)。さらに、RANKLをノックアウトしたマウスが、典型的な大理石病を発症することが見出され、RANKLが生理的な破骨細胞分化誘導因子であることが証明された(例えば、非特許文献8参照)。
【0006】
骨に関わる疾患の治療や治療期間の短縮を図る医薬品として、ビスホスホネート、活性型ビタミンD3、カルシトニンおよびその誘導体、エストラジオール等のホルモン製剤、SERMs(Selective estrogen receptor modulators)、イプリフラボン、ビタミンK2(メナテトレノン)及びカルシウム製剤等が使用されている。しかし、これらの薬剤は、治療結果において必ずしも満足できるものではなく、より治療効果の高い薬剤の開発が望まれていた。
【0007】
樹状細胞(dendritic cell、以下、「DC」という。)は、免疫系の専門的な抗原提示細胞で、身体全体に散在している。樹状細胞特異的細胞膜貫通タンパク質(dendritic cell-specific transmembrane protein、以下、「DC-STAMP」という。)は、樹状細胞の細胞膜を貫通するタンパク質として単球由来DCのcDNAライブラリーよりクローニングされたタンパク質である(例えば、非特許文献9参照)。DC-STAMPのcDNAについてはこれまでにヒトで1種類報告されており(例えば、非特許文献10参照)、マウスでは、第3エクソンを含む長い配列(例えば、非特許文献11参照)と、第3エクソンが短いスプライスバリアント(例えば、非特許文献12参照)の2種類が報告されている。ヒト由来のDC-STAMPとマウス由来のDC-STAMPとの間でのアミノ酸配列の相同性は、約74%である。アミノ酸配列の疎水性解析の結果からDC-STAMPは7つの膜貫通ドメインを持つと推定されている。なお、マウスにおける第3エクソンが短いスプライスバリアントは、第7番目の膜貫通ドメインを欠失していると考えられ、以下DC-STAMPΔT7と表記する。
【0008】
DC-STAMPについては、単核貪食細胞をIL-4により不活化するとその発現が上昇し、デキサメタゾンで不活化すると逆に発現が減少するとの報告があるが(例えば、非特許文献13参照)、DC-STAMPと破骨細胞の分化との関連は明らかになっていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「エンドクリノロジカル レビュー(Endocrinological Review)」 1992 13:p66-80
【非特許文献2】「プリンシプルズ オブ ボーン バイオロジー(Principles of Bone Biology)」 (Academic Press, New York) 1996 p87-102
【非特許文献3】「エンドクリノロジカル レビュー(Endocrinological Review)」1996 17:308-332
【非特許文献4】「アメリカン ジャーナル オブ フィジオロジー(American Journal of Physiology)」 1991 260:C1315-C1324
【非特許文献5】「プロシーディング オブ ナショナル アカデミー オブ サイエンス オブ ザ ユナイテッド ステーツ オブ アメリカ(Procedings of the National Academy of Science of the Uited States of America)」 1998 95:3597-3602
【非特許文献6】「セル(Cell)」 1998 93:165-176
【非特許文献7】「ジャーナル オブ ボーン アンド ミネラル リサーチ(Journal of Bone and Mineral Research)」 1998 23:S222
【非特許文献8】「ネイチャー(Nature)」 1999 397:315-323
【非特許文献9】「ヨーロピアン ジャーナル オブ イムノロジー(European Journal of Immunology)」 2000 30:3585-3590
【非特許文献10】「ジェンバンク(GenBank)」 アクセション番号:NM_030788
【非特許文献11】「ジェンバンク(GenBank)」 アクセション番号:AB109560
【非特許文献12】「ジェンバンク(GenBank)」 アクセション番号:AB109561
【非特許文献13】「イムノジェネティックス(Immunogenetics)」 2001 53:105-113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、骨粗鬆症、関節リウマチ、癌細胞の骨転移等に見られる、骨破壊等の種々の骨代謝異常の際に特異的に発現する遺伝子、破骨細胞の活動を阻害する物質、骨代謝異常の予防または治療剤を試験するための新規な方法、および破骨細胞の活動を阻害する物質、骨代謝異常の予防剤および/または治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、骨代謝異常症の治療及び/又は予防効果を有する物質を探索する目的で、破骨細胞の分化、成熟及び活性化の機能の解明を目指したところ、DC-STAMPが破骨細胞の分化、成熟及び活性化に関与していることを見出し、DC-STAMPの発現を抑制すると、破骨細胞の分化が抑制されることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1) DC-STAMPと特異的に結合し、破骨細胞の形成を抑制する抗体、
(2) 配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質及び配列表の配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質からなる群から選択される少なくとも一つの蛋白質と特異的に結合し、破骨細胞の形成を抑制する抗体、
(3) モノクローナル抗体であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の抗体、
(4) ヒト化されていることを特徴とする、(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の抗体、
(5) 完全ヒト抗体であることを特徴とする、(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の抗体、
(6) IgG抗体であることを特徴とする、(1)乃至(5)のいずれか一つに記載の抗体、
(7)下記の工程1)乃至4)を含む、骨代謝異常の検出方法:
1)被験者より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
2)正常人より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
3)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分における、下記のa)またはb)のいずれか一つに記載のポリヌクレオチドの発現量を測定する工程;
a)配列表の配列番号1、3及び5の少なくともいずれか一つに示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、
b)上記a)に記載のポリヌクレオチドと相補的なヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド;
4)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分との間における上記工程3)によって測定されたポリヌクレオチドの発現量の差を解析し、上記工程1)に記載の被験者の骨代謝異常を検出する工程、
(8) 下記の工程1)乃至3)を含む、骨代謝異常の検出方法:
1)被験者より採取した検体における、配列表の配列番号2、4及び6の少なくともいずれか一つに示されるアミノ酸配列からなる蛋白質の発現量を測定する工程;
2)正常人から採取した検体における、上記工程1)に記載の少なくともいずれか一つの蛋白質の発現量を測定する工程;
3)上記工程1)で検出された蛋白質の発現量と上記工程2)で測定された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験者の骨代謝異常を検出する工程、
(9) 骨代謝異常が骨粗鬆症、関節リウマチ及び/又は癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、(7)又は(8)に記載の方法、
(10) 骨代謝異常が骨粗鬆症であることを特徴とする、(7)又は(8)に記載の方法、
【0013】
(11) 骨代謝異常が関節リウマチであることを特徴とする、(7)又は(8)に記載の方法、
(12) 骨代謝異常が癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、(7)又は(8)に記載の方法、
(13) ポリヌクレオチドの発現量を測定する方法が、ノーザンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、RT−PCR、リボヌクレアーゼ保護アッセイまたはランオン・アッセイであることを特徴とする、(7)、(9)乃至(12)のいずれか一つに記載の方法、
(14) ポリヌクレオチドの発現量を測定する方法が検体由来の相補的DNA群または該DNA群の各DNAの部分配列からなるDNAで作製された遺伝子チップまたはアレイを用いることを特徴とする、(7)、(9)乃至(12)のいずれか一つに記載の方法、
(15) 蛋白質の発現量の測定方法が、該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いることを特徴とする、(8)乃至(12)のいずれか一つに記載の方法、
(16) 蛋白質の発現量の測定方法が、ウエスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法または固相酵素免疫定量法(ELISA法)であることを特徴とする、(8)乃至(12)のいずれか一つに記載の方法、
(17) 下記の1)乃至3)からなる群から選択される少なくとも一つ以上を含む骨代謝異常の検出用キット:
1)配列表の配列番号1、3及び5の少なくともいずれか一つに示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15乃至30塩基長の連続したオリゴヌクレオチドプライマー;
2)配列表の配列番号1、3及び5の少なくともいずれか一つに示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、該ポリヌクレオチドを検出するための15ヌクレオチド以上の連続したポリヌクレオチドプローブ;
3)配列表の配列番号1、3及び5の少なくともいずれか一つに示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドが固定された固相化試料、
(18) 下記の1)及び2)を含む骨代謝異常の検出用キット:
1)配列表の配列番号2、4及び6の少なくともいずれか一つに示されるアミノ酸配列からなる蛋白質に特異的に結合し、該蛋白質を検出するための抗体;
2)上記1)に記載の抗体に結合し得る二次抗体、
(19) 骨代謝異常が骨粗鬆症、関節リウマチ又は癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、(17)又は(18)に記載のキット、
(20) 骨代謝異常が骨粗鬆症であることを特徴とする、(17)又は(18)に記載のキット、
【0014】
(21) 骨代謝異常が関節リウマチであることを特徴とする、(17)又は(18)に記載のキット、
(22) 骨代謝異常が癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、(17)又は(18)に記載のキット、
(23) (1)乃至(6)に記載の抗体の少なくともいずれか一つを含有することを特徴とする、骨代謝異常の治療用医薬組成物、
(24) (1)乃至(6)に記載の抗体の少なくともいずれか一つ、並びに、ビスホスホネート、活性型ビタミンD3、カルシトニンおよびその誘導体、エストラジオール等のホルモン製剤、SERMs(selective estrogen receptor modulators)、イプリフラボン、ビタミンK2(メナテトレノン)、カルシウム製剤、PTH(parathyroid hormone)製剤、非ステロイド性抗炎症剤、抗TNFα抗体、抗PTHrP(parathyroid hormone-related protein)抗体、IL-1レセプターアンタゴニスト、抗RANKL抗体及びOCIF(osteoclastogenesis inhibitory factor)からなる群から選択される少なくともいずれか一つを含有することを特徴とする、骨代謝異常の治療用医薬組成物、
(25) 配列表の配列番号1、3及び5に示されるヌクレオチド配列のいずれか一つまたは該配列の部分配列に相補的なヌクレオチド配列を有するオリゴヌクレオチドを含む骨代謝異常の治療用医薬組成物、
(26) 骨代謝異常が骨粗鬆症、関節リウマチ又は癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、(23)乃至(25)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(27) 骨代謝異常が骨粗鬆症であることを特徴とする、(23)乃至(25)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(28) 骨代謝異常が関節リウマチであることを特徴とする、(23)乃至(25)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
(29) 骨代謝異常が癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、(23)乃至(25)のいずれか一つに記載の医薬組成物、
【0015】
(30) 下記の工程1)乃至4)を含むことからなる、骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を有する物質のスクリーニング方法:
1)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞より、全RNA画分を抽出する工程;
2)被験物質を添加しないで培養した哺乳動物由来培養細胞より、全RNA画分を抽出する工程:
3)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分における、下記いずれか一つに記載のポリヌクレオチドまたはその部分ポリヌクレオチドの発現量を測定する工程;
配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド及び配列番号5に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドからなる群から選択される少なくともいずれか一つのポリヌクレオチド、
4)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分との間における上記工程3)によって測定されたポリヌクレオチドの発現量の差を解析し、被験物質の、骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程、
(31) 下記の工程1)乃至4)を含むことからなる、骨代謝異常の治療効果及び/または予防効果を有する物質のスクリーニング方法:
1)被験物質を投与した哺乳動物個体より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
2)被験物質を投与しなかった哺乳動物個体より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
3)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分における、下記のいずれか一つに記載のポリヌクレオチドまたはその部分ポリヌクレオチドの発現量を測定する工程;
配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド及び配列番号5に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドからなる群から選択される少なくともいずれか一つのポリヌクレオチド、
4)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分との間における上記工程3)よって測定されたポリヌクレオチドの発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程、
(32) 下記の工程1)乃至3)を含むことからなる、骨代謝異常の治療効果及び/または予防効果を有する物質のスクリーニング方法:
1)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞における、下記のいずれか一つに記載の蛋白質またはその部分ポリペプチドの発現量を測定する工程;
配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質からなる群から選択される少なくともいずれか一つの蛋白質、
2)被験物質を添加しない培地で培養した哺乳動物由来培養細胞における、上記工程1)のいずれか一つに記載の蛋白質の発現量を該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いて検出する工程;
3)上記工程1)で検出された蛋白質の発現量と、上記工程2)で検出された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程、
(33) 下記の工程1)乃至3)を含むことからなる、骨代謝異常の治療効果及び/または予防効果を有する物質のスクリーニング方法:
1)被験物質を投与された哺乳動物個体より採取した検体における、下記のいずれか一つに記載の蛋白質またはその部分ポリペプチドの発現量を測定する工程;
配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質からなる群から選択される少なくともいずれか一つの蛋白質、
2)被験物質を投与されなかった哺乳動物個体より採取した検体における、上記工程1)のいずれか一つに記載の蛋白質またはその部分ポリペプチドの発現量を測定する工程;
3)上記工程1)で検出された蛋白質の発現量と、上記工程2)で検出された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程、
(34) ポリヌクレオチドの発現量を測定する方法が、ノーザンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、RT−PCR、リボヌクレアーゼ保護アッセイまたはランオン・アッセイであることを特徴とする、(30)又は(31)に記載の方法、
(35) ポリヌクレオチドの発現量を測定する方法が動物組織または動物細胞由来の相補的DNA群または該DNA群の各DNAの部分配列からなるDNAで作製された遺伝子チップまたはアレイを用いることを特徴とする(30)又は(31)に記載の方法、
(36) 蛋白質の発現量の測定方法が、該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いることを特徴とする、(32)又は(33)に記載の方法、
からなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、破骨細胞の活動の阻害を作用機序とする、骨代謝異常の予防剤および/または治療剤を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】RANKL刺激による各RAW264サブクローン細胞の破骨細胞への分化を示したグラフである。
【図2】RAW-D細胞の破骨細胞への分化に伴うDC-STAMPのm-RNAの発現を示した図である。
【図3】RANKL、TNFαおよびMIP-1αで刺激したRAW-D細胞におけるDC-STAMPのm-RNAの発現を示した図である。
【図4】活性型ビタミンD3で刺激した初代骨髄細胞におけるDC-STAMPのm-RNAの発現を示した図である。
【図5】DC-STAMPのsiRNAによる、RAW-D細胞から破骨細胞への分化の抑制を示したグラフである。
【図6】DC-STAMP蛋白質の強制発現による、RAW-D細胞からの破骨細胞形成促進を示したグラフである。
【図7】抗DC-STAMP抗体による、RAW-D細胞からの破骨細胞形成阻害を示したグラフである。
【図8】抗DC-STAMP抗体による、マウス骨髄細胞からの破骨細胞形成阻害を示したグラフである。
【図9】抗DC-STAMP抗体による、吸収窩形成の抑制を示したグラフである。
【図10】巨細胞腫におけるヒトRANK、RANKL、カテプシンKおよびTRAP遺伝子の発現プロファイルを示したグラフである。
【図11】巨細胞腫におけるヒトDC-STAMP遺伝子の発現プロファイルを示したグラフである。
【図12】抗DC-STAMP抗体による、ヒト末梢血単核球からの破骨細胞形成阻害を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、市販のハイブリダイゼーション溶液ExpressHyb Hybridization Solution(クロンテック社製)中、68℃でハイブリダイズすること、または、DNAを固定したフィルターを用いて0.7−1.0MのNaCl存在下68℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1−2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度SSCとは150mM NaCl、15mM クエン酸ナトリウムからなる)を用い、68℃で洗浄することにより同定することができる条件またはそれと同等の条件でハイブリダイズすることをいう。
【0019】
1.DC-STAMP
本発明者らによって、DC-STAMPは巨細胞腫において特異的に発現していることが見出された。また、本発明者らによってDC-STAMPは単球由来細胞株が破骨細胞に分化する際に発現量が増加することも見出された。
【0020】
本発明で用いるDC-STAMPは、ヒト、あるいは非ヒト哺乳動物(例えば、モルモット、ラット、マウス、ニワトリ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルなど)の単球細胞、樹上細胞あるいは骨髄細胞から直接精製して使用するか、あるいは上記の細胞の細胞膜画分を調製して使用することができ、また、DC-STAMPをin vitroにて合成する、あるいは遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。遺伝子操作では、具体的には、DC-STAMPを発現可能なベクターに組み込んだ後、転写と翻訳に必要な酵素、基質及びエネルギー物質を含む溶液中で合成する、あるいは他の原核生物、または真核生物の宿主細胞を形質転換させることによってDC-STAMPを発現させることにより、該蛋白質を得ることが出来る。
【0021】
ヒトDC-STAMPのcDNAのヌクレオチド配列は、GenBank にアクセッション番号:NM_030788で登録されており、配列表の配列番号1にも示されており、そのアミノ酸配列は配列表の配列番号2に示されている。マウスDC-STAMPのcDNAのヌクレオチド配列は、第3エクソンを含む長い配列がGenBankにアクセッション番号:AB109560で登録されており、配列表の配列番号3にも示されており、そのアミノ酸配列は配列表の配列番号4に示されている。マウスDC-STAMPの第3エクソンが短いスプライスバリアントのcDNAのヌクレオチド配列はGenBankにアクセッション番号:AB109561で登録されており、配列表の配列番号5にも示されており、そのアミノ酸配列は配列表の配列番号6に示されている。DC-STAMPのcDNAは例えば、DC-STAMPを発現しているcDNAライブラリーを鋳型として、DC-STAMPのcDNAを特異的に増幅するプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR」という)(Saiki, R. K., et al., Science, (1988)239, 487-49)を行なう、いわゆるPCR法により取得することができる。
【0022】
なお、配列表の配列番号1、3及び5から選択される少なくともいずれか一つに示されるヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、DC-STAMPと同等の生物活性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドもDC-STAMPのcDNAに含まれる。さらに、ヒト若しくはマウスDC-STAM遺伝子座から転写されるスプライシングバリアント又はこれにストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、かつ、DC-STAMPと同等の生物活性を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチドもDC-STAMPのcDNAに含まれる。
【0023】
また、配列表の配列番号2、4及び6から選択される少なくともいずれか一つに示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加されたアミノ酸配列からなり、DC-STAMPと同等の生物活性を有する蛋白質もDC-STAMPに含まれる。さらに、ヒト若しくはDC-STAMP遺伝子座から転写されるスプライシングバリアントにコードされるアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、DC-STAMPと同等の生物活性を有する蛋白質もDC-STAMPに含まれる。
【0024】
2.骨代謝異常の検出
DC-STAMP遺伝子は、ヒト各種骨組織検体群における遺伝子の発現量の解析をすると、破骨型の多核巨細胞が多数出現する骨腫瘍であり、臨床的所見として骨溶解性の骨破壊を特徴とする(Bullough et al., Atlas of Orthopedic Pathology 2nd edition, pp17.6-17.8, Lippincott Williams & Wilkins Publishers (1992))巨細胞腫(Giant cell tumor; GCT)において有意に発現量が増加していることが見出される。
【0025】
また、DC-STAMPは単球由来細胞株が破骨細胞に分化する際に発現量が増加することも見出された。
【0026】
したがって、DC-STAMPはGCTのような骨吸収が亢進するヒトの病態において関与していると考えられる。すなわち、DC-STAMPの各細胞、及び/又は各組織における発現量を測定することでDC-STAMPの過剰発現に起因して発生すると考えられる骨代謝異常疾患の状態を判定することができる。なお、本明細書における骨代謝異常疾患とは、骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症、老人性骨粗鬆症、ステロイドや免疫抑制剤使用による続発性骨粗鬆症、関節リウマチに伴う骨粗鬆症)、関節リウマチの骨破壊、癌性高カルシウム血症、多発性骨髄腫や癌の骨転移に伴う骨破壊、歯根膜炎による歯の喪失、人工関節周囲の骨融解、慢性骨髄炎における骨破壊、骨ページェット病、腎性骨異栄養症、骨形成不全症などを含むがこれらに限定されない。
【0027】
なお、本発明にDC-STAMPの発現量を調べる対象となる「検体」とは、被験者や臨床検体等から得られた、血液、骨髄、骨、体液、前立腺、精巣、陰茎、膀胱、腎臓、口腔、咽頭、口唇、舌、歯肉、鼻咽頭、食道、胃、小腸、大腸、結腸、肝臓、胆嚢、膵臓、鼻、肺、軟部組織、皮膚、乳房、子宮、卵巣、脳、甲状腺、リンパ節、筋肉、脂肪組織等の組織または排泄物等の試料を意味するが、本発明においては血液又は骨髄がより好ましい。
【0028】
(1)DC-STAMP遺伝子の発現量を利用した骨代謝異常の検出方法
DC-STAMP遺伝子の発現量を利用した骨代謝異常の検出方法は、具体的には、以下の工程1)乃至4)を含む方法である。
1)被験者より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
2)正常人より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
3)上記工程1)に記載の全RNA画分と上記工程2)に記載の全RNA画分におけるDC-STAMP遺伝子の発現量を測定する工程;
4)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分との間における上記工程3)によって測定された遺伝子の発現量の差を解析し、上記工程1)に記載の被験者の骨代謝異常を検出する工程。
【0029】
以下、各工程を具体的に説明する。
a) 工程1)被験者より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
検体から全RNA画分を抽出するに際しては、適切な実験の倫理基準に適した方法で入手したヒト由来組織をRNA抽出用の溶媒(例えばフェノール等、リボヌクレアーゼを不活性化する作用を有する成分を含むもの)で直接溶解するか又は、該組織の細胞を破壊しないように、スクレーパーで慎重に掻きとるか、もしくはトリプシン等の蛋白質分解酵素を用いて穏やかに組織から細胞を抽出するなどの方法により、細胞を回収した後、速やかにRNA抽出工程に移行する。
【0030】
RNAの抽出方法としては、チオシアン酸グアニジン・塩化セシウム超遠心法、チオシアン酸グアニジン・ホットフェノール法、グアニジン塩酸法、酸性チオシアン酸グアニジン・フェノール・クロロホルム法(Chomczynski,P. and Sacchi,N., Anal.Biochem. (1987),162,156-159)などを採用しうるが、酸性チオシアン酸グアニジン・フェノール・クロロホルム法が好適である。また、市販のRNA抽出用試薬(例えば、ISOGEN(ニッポンジーン(株)製)、TRIZOL試薬(ギブコ・ビーアールエル社製))等を試薬に添付のプロトコールに従って用いることもできる。
【0031】
得られた全RNA画分は、必要に応じてさらにmRNAのみに精製して用いるのが好ましい。精製方法は特に限定されないが、例えばビオチン化したオリゴ(dT)プローブにmRNAを吸着させ、さらにストレプトアビジンを固定化した常磁性粒子に、ビオチン/ストレプトアビジン間の結合を利用してmRNAを捕捉し洗浄操作の後、mRNAを溶出することにより、mRNAを精製することができる。また、オリゴ(dT)セルロースカラムにmRNAを吸着させて、次にこれを溶出して精製する方法も採用し得る。ただし、本発明の方法のためには、これらmRNAの精製工程は必須ではなく、検出対象のポリヌクレオチドの発現の検出が可能である限りにおいて、全RNA画分をその後の工程に用いることもできる。
【0032】
b) 工程2)正常人より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程:
本発明において、正常人とは、骨代謝異常を有さない人を意味する。正常人であるか否かは、DC-STAMPの濃度を測定し、あらかじめ正常人の値として決められている数値範囲に入るか否かで判定することもできるし、DC-STAMPの発現量と、正常人の骨代謝異常の形成度の相関をあらかじめ調べておくことによって、被験者から採取した検体におけるDC-STAMPの発現量を測定することによって被験者が、正常人であるか否かを判定することもできる。正常人よりの全RNA画分の調製は、上記工程1)と同様に行うことができる。
【0033】
c) 工程3)上記工程1)に記載の全RNA画分と上記工程2)に記載の全RNA画分におけるDC-STAMP遺伝子の発現量を測定する工程:
ここで、DC-STAMP遺伝子の発現量は配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列を含むことからなるポリヌクレオチドまたは、配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドの発現量で示される。
【0034】
DC-STAMP遺伝子の発現量の測定方法として、固相化試料を用いた測定方法と、その他のいくつかの測定方法について説明する。
【0035】
(a) 固相化試料を用いた測定方法
(i) 固相化試料
固相化試料としては、例えば以下のものが挙げられる。
(イ)遺伝子チップ:
データベース上のEST(expressed sequence tag)配列又はmRNA配列をもとに合成したアンチセンスオリゴヌクレオチドが固相化された遺伝子チップを用いることができる。このような遺伝子チップとしてはアフィメトリックス(Affymetrix)社製の遺伝子チップ(Lipshutz,R.J. et al., Nature Genet. (1999)21,suppliment,20-24)を用いることができるが、これに限定されず、公知の方法に基づき作製してもよい。ヒト細胞由来のmRNAを解析する場合には、ヒト由来のものが好ましく、例えば、アフィメトリックス社製ヒトU95セット又はU133セットを用いることができる。しかしながら、それらに限定されず、例えば近縁種の動物由来のものも使用可能である。
【0036】
(ロ)ヒト、全RNAあるいは特定の組織から得た全RNAより作製されたcDNA又はRT−PCR産物が固相化された、アレイ又はメンブレンフィルター:
上記cDNA又はRT−PCR産物は、ヒトのESTデータベース等の配列情報を基に作製されたプライマーで逆転写酵素反応やPCRを実施することによりクローン化されたものである。このcDNAやRT−PCR産物は、あらかじめ骨代謝異常を有するヒトと骨代謝異常を有さないヒトの間で発現量の異なる全RNAを、サブトラクション法(Diatchenki,L,et al, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, (1996)93,6025-6030)、ディファレンシャルディスプレイ法(Liang,P.,et alNucleic Acids Res. ,(1992) 23,3685-3690)などを利用して選択されたものであってもよい。また、アレイやフィルターは市販のもの(例えば、インテリジーン:タカラバイオ社製等)を使用してもよいし、上記cDNAやRT−PCR産物を市販のスポッターで(例えば、GMS417アレイヤー:タカラバイオ社製等)を用いて固相化することにより作製してもよい。
【0037】
(ii) プローブの作製と解析
標識プローブは、特定のmRNAクローンではなく、発現している全てのmRNAを標識したものを用いる。プローブ作製のための出発材料としては精製していないmRNAを用いてもよいが、前述の方法で精製したポリ(A)+RNAを用いることが望ましい。以下に、各種固相化試料を用いた場合の、標識プローブの調製方法と検出、解析方法について説明する。
【0038】
(イ)アフィメトリックス社製遺伝子チップ:
アフィメトリクス社製遺伝子チップに添付されたプロトコール(アフィメトリックス社発現解析技術マニュアル)に従ってビオチン標識したcRNAプローブを作製する。次いでアフィメトリックス社製遺伝子チップに添付のプロトコール(発現解析技術マニュアル)に従って、アフィメトリックス社製の解析装置(GeneChip Fluidics Station 400)を用いてハイブリダイゼーション及び解析を行い、アビジンによる発光を検出、解析を行う。
【0039】
(ロ)アレイ:
逆転写酵素反応でポリ(A)+RNAからcDNAを作製する際に、cDNAの検出ができるようにcDNAを標識しておくことが必要であり、蛍光色素で標識する場合には、蛍光色素(例えばCy3、Cy5など)で標識されたd−UTPなどを加えておくことによりcDNAを蛍光標識する。このとき、被験者より採取した検体由来のポリ(A)+RNAと正常人より採取した検体由来のポリ(A)+RNAをそれぞれ異なる色素で標識しておけば、後のハイブリダイゼーション時には両者を混合して用いることができる。アレイとして例えば、タカラバイオ(株)社の市販アレイを用いる場合、同社のプロトコールに従いハイブリダイゼーション及び洗浄を行って、蛍光シグナル検出機(例えばGMS418アレイスキャナー(タカラバイオ(株)社製)等)で蛍光シグナルを検出後、解析を行う。ただし、使用するアレイとしては市販のものに限定されず、自家製のもの、特別に作製したものでもよい。
【0040】
(ハ)メンブレンフィルター:
逆転写酵素でポリ(A)+RNAからcDNAを作製する際に、放射性同位元素(例えば、d−CTP等を加えることにより標識プローブを調製し、常法によりハイブリダイゼーションを行い、例えば、市販のフィルター製マイクロアレーである、アトラスシステム(クロンテック社製)を用いてハイブリダイゼーション及び洗浄を行った後、解析装置(例えば、アトラスイメージ:クロンテック社製等)を用いて検出、解析を行う。
【0041】
前記(イ)乃至(ハ)のいずれに記載の方法も、同一ロットの固相化試料にヒト各組織由来のプローブをハイブリダイズさせる。このとき、使用するプローブ以外のハイブリダイゼーションの条件は同じとする。蛍光標識プローブを用いる場合には、それぞれのプローブを異なる蛍光色素で標識しておけば一つの固相化試料に両プローブの混合物を一度にハイブリダイズさせて蛍光強度を読み取ることができる(Brown、P.O. et al. Nature Genet., (1999)21, supplement, 33−37)。
【0042】
(b) その他の測定方法
上記以外の測定方法としてサブトラクションクローニング法(実験医学別冊 新 遺伝子工学ハンドブック、羊土社刊(1996) p.32-35参照)、ディファレンシャルディスプレイ法(基礎生化学実験法4 核酸・遺伝子実験 II.応用編、東京化学同人(2001), p125-128)、レポーター遺伝子を用いた方法(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(例えば、pCAT3−Basicベクター:プロメガ社製を使用。)やβ−ガラクトシダーゼ(例えば、pβgal−Basic:プロメガ社製を使用。)、分泌型アルカリホスファターゼ(例えば、pSEAP2−Basic:クロンテック社製を使用。)、緑色蛍光蛋白質(green−fluorescent protein)(例えば、pEGFP−1:クロンテック社製を使用。))があるがこれらに限定されない。
【0043】
d) 工程4)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分との間における上記工程3)によって測定された遺伝子の発現量の差を解析し、上記工程1)に記載の被験者の骨代謝異常を検出する工程。 正常人由来の検体と被験者由来の検体との間でDC-STAMPの発現量の差を解析し、DC-STAMPの発現量が有意に増加している検体では骨代謝異常が存在する可能性が高いと判定することができ、骨代謝異常を検出することができる。発現量が有意に増加しているとは、例えば、アフィメトリックス社の遺伝子チップを用いて、アフィメトリックス社のmicroarray Suite Ver.3.0を用いて解析した場合、DC-STAMP遺伝子のAverage difference値が正常人由来の検体に比べて有意に増加している場合をいう。
【0044】
また、DC-STAMP遺伝子の濃度を測定し、あらかじめ正常人の値として決められている数値範囲に入るか否かを解析し正常人の値として決められている範囲を超えている場合には骨代謝異常を有すると判定することで骨代謝異常を検出することもできるし、DC-STAMP遺伝子の発現量と、正常人の骨代謝異常の形成度の相関をあらかじめ調べておくことによって、被験者から採取した検体におけるDC-STAMP遺伝子の発現量を測定することによって被験者が、正常人であるか否かを判定することもできる。
【0045】
(2) DC-STAMPの発現量(蛋白質の発現量)を利用した骨代謝異常の検出方法
DC-STAMPの発現量を利用した骨代謝異常の検出方法は、具体的には、以下の工程1)乃至3)を含む方法である。
1)被験者より採取した検体における、DC-STAMPの発現量を測定する工程:
2)正常人より採取した検体における、上記1)に記載の蛋白質の発現量を測定する工程:
3)上記工程1)で測定された蛋白質の発現量と上記工程2)で測定された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験者の骨代謝異常を検出する工程。
【0046】
以下、各工程を具体的に説明する。
1) 工程1)被験者より採取した検体における、DC-STAMPの発現量を測定する工程:
(a) 検体より蛋白質測定用試料の調製
検体は、必要に応じて高速遠心を行うことにより、不溶性の物質を除去した後、以下のようにELISA/RIA用試料やウエスタンブロット用試料として調製する。
ELISA/RIA用試料としては、例えば回収した、血液または骨髄組織の抽出液をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈したものを用いる。ウエスタンブロット用(電気泳動用)試料は、例えば、血液または骨髄組織の抽出液をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈して、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動用の2−メルカトルエタノールを含むサンプル緩衝液(シグマ(Sigma)社製等)と混合する。ドット/スロットブロットの場合は、例えば回収した血液または骨髄組織の抽出液そのもの、または緩衝液で適宜希釈したものを、ブロッティング装置を使用するなどして、直接メンブレンへ吸着させる。
【0047】
(b) 試料の固相化
上記のようにして得られた試料中の蛋白質を特異的に検出するためには、試料を免疫沈降法、リガンドの結合を利用した方法等によって、沈殿させ、固相化せずに検出することもできるし、そのまま検出する該試料を固相化することもできる。蛋白質を固相化する場合において、ウエスタンブロット法、ドットブロット法またはスロットブロット法に用いられるメンブレンとしては、ニトロセルロースメンブレン(例えば、バイオラッド社製等)、ナイロンメンブレン(例えば、ハイボンド−ECL(アマシャム・ファルマシア社製)等)、コットンメンブレン(例えば、ブロットアブソーベントフィルター(バイオラッド社製)等)またはポリビニリデン・ジフルオリド(PVDF)メンブレン(例えば、バイオラッド社製等)等が挙げられる。
【0048】
ELISA法/RIA法で蛋白質の検出・定量を行うためには、専用の96穴プレート(例えば、イムノプレート・マキシソープ(ヌンク社製)等)に試料またはその希釈液(例えば0.05% アジ化ナトリウムを含むリン酸緩衝生理食塩水(以下「PBS」という)で希釈したもの)を入れて4℃乃至室温で一晩、または37℃で1乃至3時間静置することにより、ウェル内底面に蛋白質を吸着させて固相化する。
【0049】
DC-STAMPに対する抗体は、常法を用いて(例えば、新生化学実験講座1、蛋白質1、p.389-397、1992参照。)、DC-STAMPまたはDC-STAMPのアミノ酸配列から選択される任意のポリペプチドを動物に免疫し、生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein, Nature, (1975)256, 495-497、Kennet, R. ed., Monoclonal Antibody, (1980) 365-367, Prenum Press, N.Y.)に従って、DC-STAMPに対する抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、モノクローナル抗体を得ることもできる。
【0050】
なお、抗原となるDC-STAMPはDC-STAMP遺伝子を遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。具体的には、DC-STAMP遺伝子を発現可能なベクターを作製し、これを宿主細胞に導入して該遺伝子を発現させ、発現したDC-STAMPを精製すればよい。あるいは、DC-STAMPを発現させた宿主細胞そのもの若しくは膜断片を抗原として用いてもよい。
【0051】
(c) DC-STAMPの発現量の測定
DC-STAMPの発現量は、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質の発現量で示される。
【0052】
発現量の測定は、上記抗DC-STAMP抗体を用いてウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法等公知の方法を用いて測定することができる。
2) 工程2)正常人より採取した検体における、上記1)に記載の蛋白質の発現量を測定する工程:
正常人より採取した検体におけるDC-STAMPの発現量の測定は上記工程1)と同様の方法で行うことができる。
【0053】
3) 工程3)上記工程1)で測定された蛋白質の発現量と上記工程2)で測定された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験者の骨代謝異常を検出する工程。
正常人由来の検体と被験者由来の検体との間でDC-STAMPの発現量の差を解析し、DC-STAMPの発現量が有意に増加している検体では骨代謝異常が存在する可能性が高いと判定することができ、骨代謝異常を検出することができる。
また、DC-STAMPの濃度を測定し、あらかじめ正常人の値として決められている数値範囲に入るか否かを解析し正常人の値として決められている範囲を超えている場合には骨代謝異常を有すると判定することで骨代謝異常を検出することもできるし、DC-STAMPの発現量と、正常人の骨代謝の相関をあらかじめ調べておくことによって、被験者から採取した検体におけるDC-STAMPの発現量を測定することによって被験者が、正常人であるか否かを判定することもできる。
【0054】
3.DC-STAMP遺伝子及びDC-STAMPの検定
DC-STAMP遺伝子及びDC-STAMPは巨細胞腫において特異的に発現し、また単球由来細胞株が破骨細胞に分化する際に発現量が増加する。
【0055】
(1)DC-STAMPの過剰発現を利用したDC-STAMP遺伝子及びDC-STAMPの機能解析
DC-STAMPの機能を調べる方法としては、まず、DC-STAMPを発現している細胞由来のcDNAライブラリーから、コロニーハイブリダイゼーション法等、公知の方法に従い、完全長cDNAを取得する。この完全長cDNAをヒト由来細胞又は非ヒト哺乳動物由来細胞(例えば、モルモット、ラット、マウス、ニワトリ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サル由来細胞など)に導入して高発現させ、細胞に影響が生じるか否かを検討する。
【0056】
cDNAを動物個体内で発現させるためには、得られた完全長cDNAをウイルスベクターに組み込み、動物に投与する方法が挙げられる。ウイルスベクターによる遺伝子導入方法としては例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス等のDNAウイルス、又はRNAウイルスにcDNAを組み込んで導入する方法が挙げられる。なかでも、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ワクシニアウイルスを用いた方法が好ましい。
【0057】
非ウイルス性の遺伝子導入方法としては、発現プラスミドを直接筋肉内に投与する方法(DNAワクチン法)、リポソーム法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等が挙げられ、なかでも、DNAワクチン法、リポソーム法が好ましい。
【0058】
また、培養細胞に対して、完全長cDNAをヒト由来細胞、非ヒト哺乳動物由来細胞(例えば、モルモット、ラット、マウス、ニワトリ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サル由来細胞など)の単球由来細胞、リンパ節由来細胞、筋肉細胞、肝細胞、脂肪細胞、あるいは皮膚細胞等へ導入し、高発現させ、各標的細胞の有する機能、具体的には、破骨細胞の分化や成熟等の骨代謝に関係する機能、あるいは細胞の形態にどの様な影響が現れるかを検討することができる。
【0059】
完全長cDNAを動物又は細胞に導入するにあたっては、適当なプロモーター及び形質発現に関わる配列を含むベクターに該cDNAを組み込み、該ベクターで宿主細胞を形質転換させる。脊椎動物細胞の発現プロモーターとしては、通常発現しようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位、及び転写終結配列等を有するものを使用でき、さらにこれは必要により複製起点を有してもよい。該発現ベクターの例としては、SV40の初期プロモーターを有するpSV2dhfr(Subramani,S. et al., Mol.Cell.Biol.,(1981)1, 854-864)、CMVの初期プロモーターを有する、pCI−neo(プロメガ(Promega)社製)、レトロウイルスベクターpLNCX、pLNSX、pLXIN、pSIR(クロンテック(Clontech)社製)、コスミドベクターpAxCw(タカラバイオ社製)等が挙げられるが、これに限定されない。該発現ベクターは、ジエチルアミノエチル(DEAE)−デキストラン法(Luthman,H.and Magnusson,G., Nucleic Acids Res., (1983)11, 1295-1308)、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法(Graham,F.L.and van der Eb,A.J., Virology, (1973) 52, 456-457)、及び電気パルス穿孔法(Neumann, E.et al., EMBO J.,(1982) 1, 841-845)などによりマウス単球由来細胞RAW264.7(ATCC Cat. No. TIB-71)、RAW264細胞(ECACC Cat. No. 85062803)、RAW-D細胞(Watanabe et al., J. Endocrinol., (2004)180, 193-201)、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman,Y., Cell, (1981) 23, 175-182, ATCC:CRL−1650)やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC:CCL−61)のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(Urlaub,G. and Chasin, L.A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1980) 77, 4126−4220)、ヒト胎児腎臓由来293細胞(ATCC:CRL−1573)等に取り込ませることができるが、これらに限定されない。かくして所望の形質転換体を得ることができる。
【0060】
また、遺伝子操作により、正常動物において、目的とする遺伝子が高発現するようにトランスジェニック動物を作製し、細胞の形態にどの様な影響が現れるかを検討することも可能である。
【0061】
(2)DC-STAMPの発現量を抑制することによるDC-STAMPの機能解析
DC-STAMPの発現量を抑制することによって破骨細胞の分化や破骨細胞の成熟、細胞の形態にどの様な影響が現れるかを調べることによってもDC-STAMPの機能を解析することができる。
【0062】
DC-STAMPの発現を抑制する物質としてはDC-STAMP遺伝子に対するアンチセンス核酸、siRNA等を挙げることができる。DC-STAMPの機能を阻害する物質としてはDC-STAMPに特異的に結合する抗体を挙げることができる。
【0063】
DC-STAMPの発現を抑制するか、あるいはDC-STAMPの機能を阻害したときに各標的細胞の有する機能、具体的には、破骨細胞の分化や成熟等の骨代謝に関係する機能、あるいは細胞の形態にどの様な影響が現れるかを検討することができる。また、骨代謝異常を有する動物又は骨代謝異常を有さない動物において、DC-STAMP遺伝子を破壊したノックアウト動物を作製し細胞や組織の状態を判定することができる。
【0064】
4.DC-STAMP遺伝子及び/又はDC-STAMP検出用キット
DC-STAMP遺伝子及び/又はDC-STAMPは、以下の1)乃至5)からなる群から選択される少なくとも一つ以上を含むキットを用いて検出することができる。
1)配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド及び配列番号5に示されるヌクレオチド配列からからなるポリヌクレオチドから選択される少なくともいずれか一つのポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15乃至30塩基長の連続したオリゴヌクレオチドプライマー;
2)配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド及び配列番号5に示されるヌクレオチド配列からからなるポリヌクレオチドから選択される少なくともいずれか一つのポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、該ポリヌクレオチドを検出するための15ヌクレオチド以上の連続したポリヌクレオチドプローブ;
3)配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド及び配列番号5に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドから選択される少なくともいずれか一つのポリヌクレオチドが固定された固相化試料;
4)配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質から選択される少なくともいずれか一つの蛋白質に特異的に結合し、該蛋白質を検出するための抗体;
5)上記4)に記載の抗体に結合し得る二次抗体。
【0065】
前記1)記載のプライマーは、DC-STAMP遺伝子のヌクレオチド配列(配列表の配列番号1、3及び/又は5に示されるヌクレオチド配列)に基づき市販のプライマー設計ソフト(たとえば、Wisconsin GCG package Version 10.2)を用いる等、常法により容易に設計し、増幅することができる。また、前記2)に記載のプローブは、DC-STAMPに特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、100乃至1500塩基長、好ましくは300乃至600塩基長である。これらのプライマーやプローブは、適当な標識によりラベル(例えば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよく、また、リンカーを付加していてもよい。
【0066】
上記3)に記載の固相化試料は、上記2)に記載のプローブをガラス板、ナイロンメンブレン等の固相に固定することにより作製される。このような固相化試料の作成方法については、既に「2.骨代謝異常の検出」の項の「(1)DC-STAMP遺伝子の発現量を利用した骨代謝異常の検出方法」の項で説明した通りであり、例えば、遺伝子チップ、cDNAアレイ、オリゴアレイ、メンブレンフィルター等を挙げることができる。
【0067】
本発明のキットには、更に耐熱性DNAポリメラーゼ、dNTP(dATP、dCTP、dGTP、dTTPの混合物)及び緩衝液を含めることもできる。耐熱性DNAポリメラーゼとしてはTaq DNAポリメラーゼ、LA Taq DNA polymerase(宝酒造社製)、Tth DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼなどが例示できる。緩衝液は使用するDNAポリメラーゼに応じて選ばれ、必要に応じてMg2+などが添加されている。
【0068】
前記、4)及び5)に記載の抗体は上記「2.骨代謝異常の検出」の項の「(2) DC-STAMPの発現量(蛋白質の発現量)を利用した骨代謝異常の検出方法」の項や「6.抗DC-STAMP抗体の製造」の項に記載した方法により作製することができる。該抗体は、適当な標識によりラベル(例えば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよい。
【0069】
本発明のキットはDC-STAMP遺伝子及び/又はDC-STAMPの検出に用いることができ、骨代謝異常の有無の判定や、骨代謝異常の病態の進行を抑制する物質のスクリーニングにも用いることができる。
【0070】
5.破骨細胞への分化抑制物質のスクリーニング方法
本発明の一つの態様として、DC-STAMP遺伝子及び/または、DC-STAMPの発現量を測定することによる、破骨細胞への分化抑制物質のスクリーニング方法を挙げることができる。
【0071】
本発明の一つの態様として、DC-STAMPの破骨細胞分化促進活性を阻害する物質を同定することによって、骨代謝異常症の治療効果及び/または予防効果を有する物質をスクリーニングする方法を挙げることができる。
【0072】
なお、「被験物質」とは、本発明のスクリーニング方法で破骨細胞への分化抑制活性を調べる対象となる物質をいう。被験物質としては、化合物、微生物の代謝産物、植物や動物組織の抽出物、それらの誘導体またはそれらの混合物等が挙げられる。また、DC-STAMPの発現量を低下するように設計された核酸またはその誘導体(アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、dsRNA、siRNA等を含む)を、被験物質として使用することも可能である。被験物質の投与量や濃度は適宜設定するか、または例えば希釈系列を作成するなどして複数種の投与量を設定してもよく、固体、液体等適当な状態で投与することができ、適当なバッファーに溶解するか、あるいは安定化剤等を加えてもよい。培養細胞を用いるスクリーニング方法の場合には、培地に添加して培養することができる。培地に添加する場合には培養開始時から添加してもよいし、培養途中で添加しても良く、また、添加の回数も1回に限らない。被験物質存在下で培養する期間も適宜設定してよいが、好ましくは30分乃至2週間であり、より好ましくは、30分乃至48時間である。哺乳動物個体に被験物質を投与する場合は、被験物質の物性等により経口投与、静脈注射、腹腔内注射、経皮投与、皮下注射等の投与形態を使い分ける。なお被験物質の投与から、検体を得るまでの時間は適当に選択することができる。
【0073】
本発明のスクリーニング方法において用いられる培養細胞は、DC-STAMPを発現する哺乳動物細胞である限りにおいて、正常な細胞でも、癌細胞等の異常な増殖を示す細胞でもよく、例えば、マウス単球由来細胞RAW264.7(ATCC Cat. No TIB-71)、RAW264細胞(ECACC Cat. No. 85062803)、RAW-D細胞(Watanabe et al., J. Endocrinol., (2004)180, 193-201)、マウス骨髄由来初代培養細胞等を挙げることができるがこれらに限定されない。培養細胞の哺乳動物種としては、ヒト、マウスまたはその他の哺乳動物(モルモット、ラット、ニワトリ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルなど)が好ましいが、これらに限定されない。なお、培養細胞としてはDC-STAMPを過剰発現している哺乳動物細胞を用いるのがより好ましく、例えばDC-STAMP遺伝子をそのプロモーター領域とともに導入し、DC-STAMPを過剰発現するRAW264.7細胞、RAW264細胞、RAW-D細胞などを挙げることができる。
【0074】
本発明のスクリーニング方法には、培養細胞を用いず、哺乳動物個体に被験物質を投与して、その後該動物個体から摘出されたその臓器または組織細胞におけるDC-STAMP遺伝子の発現を検出する方法も含まれる。遺伝子発現の検出対象となる臓器または組織は、DC-STAMPを発現するものであればよいが、好ましくは骨代謝異常が発生している組織であり、より好ましくは骨髄である。哺乳動物種としては非ヒト哺乳動物を用いることができ、マウス、ラットまたはハムスターが好ましく、マウスまたはラットがより好ましい。なお、骨代謝異常を呈する動物モデルとして、卵巣摘除動物、精巣摘除動物、腫瘍細胞を皮下、皮内、左心室、骨髄、静脈あるいは腹腔等に移植した担癌動物、坐骨神経切除動物、アジュバント関節炎モデル動物、コラーゲン誘発性関節炎モデル動物、グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症モデル動物、老化促進マウス(SAMP6マウス、Matsushita et al., Am. J. Pathol. 125, 276-283 (1986))、甲状腺・副甲状腺摘除動物、副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)持続注入動物、破骨細胞形成抑制因子(OCIF)ノックアウトマウス(Mizuno et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., (1998)247, 610-615)などを用いることができる。更に、歯周病による歯の喪失モデル動物や、DC-STAMPを過剰発現させた動物を用いることもできる。さらにスクリーニングで選択された被検物質を上記の動物モデルに投与し、骨組織における破骨細胞の数、骨密度、骨強度あるいは血中Ca濃度等、骨代謝異常により変動するパラメーターを測定することによって、該被検物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を評価することができる。
【0075】
本発明の方法において用いられる培養細胞は、被験物質を添加しない場合にRANKL及びTNF-αを添加するとDC-STAMPを発現可能な条件であれば、いかなる条件で培養してもよい。例えば、該培養細胞について公知の培養条件が知られており、該条件下において該細胞がDC-STAMPを発現する場合は、該条件で培養してもよい。また、哺乳動物個体から摘出した臓器または組織におけるDC-STAMPの発現を検出する場合における、該動物の飼育条件も、被験物質を添加しない場合にDC-STAMPを発現可能な条件であればよい。
【0076】
なお、被験物質の、DC-STAMPの発現に対する影響を調べるためには、DC-STAMP遺伝子の発現量を測定する方法と、DC-STAMP遺伝子の翻訳産物である、DC-STAMPの発現量を測定する方法がある。DC-STAMP遺伝子、及び/または、DC-STAMPの発現を抑える被験物質は骨代謝異常、好適には骨粗鬆症、関節リウマチ及び/又は癌性高カルシウム血症に対する治療効果及び/または予防効果を有する物質であると考えられる。
【0077】
培養細胞からの、全RNAの抽出、DC-STAMP遺伝子の発現量の測定、DC-STAMPの発現量の測定については、上記「2.骨代謝異常の検出」の項に記載した方法に従って行うことができる。なお、哺乳動物由来培養細胞を用いる場合には、必要に応じて培地には被験物質と共にRANKL及びTNF-αを適当量添加し、被験物質を添加しないコントロールにおいてもRANKL及びTNF-αを適当量添加する。
【0078】
(1) DC-STAMP遺伝子を用いる方法
本発明のスクリーニング方法としては例えば、哺乳動物由来培養細胞を用いる方法、及び哺乳動物個体を用いる方法についてそれぞれ以下のようになる。
【0079】
(a) 哺乳動物由来培養細胞を用いる方法
(i) 以下の工程イ)乃至ハ)を含む:
イ)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞より、全RNAを抽出する工程;
ロ)イ)由来の全RNAと被験物質を添加しないで培養した哺乳動物培養細胞由来全RNAの間における、DC-STAMP遺伝子の発現量の差を検出する工程;
ハ)ロ)に記載の遺伝子の発現量の差を解析し、被験物質の、骨代謝異常に対する治療、及び/または予防効果を判定する工程。
【0080】
(ii)以下の工程イ)乃至ニ)を含む。
イ)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞より、全RNAを抽出する工程;
ロ)被験物質を添加しない培地で培養した哺乳動物由来培養細胞より、全RNAを抽出する工程;
ハ)上記イ)由来の全RNAとロ)由来の全RNAにおける、DC-STAMP遺伝子の発現量を測定する工程;
ニ)上記イ)由来の全RNAとロ)由来の全RNAとの間における上記ハ)によって測定された遺伝子の発現量の差を解析し、被験物質の、骨代謝異常に対する治療、及び/または予防効果を判定する工程。
【0081】
(b)哺乳動物個体を用いる方法
(i)以下の工程イ)乃至ハ)を含む。
イ)被験物質を投与した哺乳動物個体より採取した検体より、全RNAを抽出する工程;
ロ)イ)由来の全RNAと被験物質を投与しなかった動物個体より採取した検体より得た全RNAの間における、DC-STAMP遺伝子の発現量の差を検出する工程;
ハ)上記ロ)に記載の遺伝子の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療、及び/または予防効果を判定する工程。
【0082】
(ii)以下の工程イ)乃至ニ)を含む。
イ)被験物質を投与した哺乳動物個体より採取した検体より、全RNAを抽出する工程;
ロ)被験物質を投与しなかった哺乳動物個体より採取した検体より、全RNAを抽出する工程;
ハ)上記工程イ)由来の全RNAと上記工程ロ)由来の全RNAにおける、DC-STAMP遺伝子の発現量を測定する工程;
ニ)ハ)に記載の遺伝子の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療及び/または予防効果を判定する工程。
【0083】
(2) DC-STAMPを用いる方法
DC-STAMPの発現量を測定することを利用したスクリーニング方法については哺乳動物培養細胞を用いた方法と動物個体を用いた方法についてそれぞれ以下の工程を含む。
【0084】
(a) 哺乳動物由来培養細胞を用いる方法
(i)以下の工程イ)及びロ)を含む:
イ)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞における、DC-STAMPの発現量を測定する工程;
ロ)イ)で測定された蛋白質の発現量と、被験物質を添加しない培地で培養した哺乳動物由来培養細胞における該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【0085】
(ii)以下の工程イ)乃至ハ)を含む:
イ)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞における、DC-STAMPの蛋白質の発現量を測定する工程;
ロ)被験物質を添加しない培地で培養した哺乳動物由来培養細胞における、上記イ)に記載の蛋白質の発現量を測定する工程;
ハ)上記イ)で測定された蛋白質の発現量と、上記ロ)で測定された該蛋白質の発現量の差を検出し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【0086】
(iii) 以下の工程イ)乃至ハ)を含む:
イ)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞から得た全蛋白質を固相化する工程;
ロ)上記固相化蛋白質における、DC-STAMPの蛋白質の発現量を測定する工程;
ハ)上記ロ)で検出されたDC-STAMPの発現量と、被験物質を添加しない培地で培養した哺乳動物由来培養細胞から得た全蛋白質における該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【0087】
(iv)以下の工程イ)乃至ホ)を含む:
イ)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞から得た全蛋白質を固相化する工程;
ロ)被験物質を添加しない培地で培養した哺乳動物由来培養細胞から得た全蛋白質を固相化する工程;
ハ)上記工程イ)に記載の固相化蛋白質におけるDC-STAMPの蛋白質の発現量を該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いて測定する工程;
ニ)上記工程ロ)に記載の固相化蛋白質におけるDC-STAMPの発現量を該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いて測定する工程;
ホ)上記工程ハ)で測定された蛋白質の発現量と、上記工程ニ)で測定された蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の、骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【0088】
(b) 哺乳動物個体を用いる方法
(i) 以下の工程イ)及びロ)を含む:
イ)被験物質を投与された哺乳動物個体より採取した検体における、DC-STAMPの蛋白質の発現量を測定する工程;
ロ)上記工程イ)で測定されたDC-STAMPの発現量と、被験物質を投与されなかった哺乳動物個体から採取した検体における該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【0089】
(ii) 以下の工程イ)乃至ハ)を含む:
イ)被験物質を投与された哺乳動物個体より採取した検体における、DC-STAMPの蛋白質の発現量を該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いて測定する工程;
ロ)被験物質を投与されなかった哺乳動物個体より採取した検体における、該蛋白質の発現量を測定する工程;
ハ)イ)で測定されたDC-STAMPの蛋白質の発現量と、ロ)で測定された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【0090】
(iii)以下の工程イ)乃至ハ)を含む:
イ)被験物質を投与された哺乳動物個体より採取した検体中の全蛋白質を固相化する工程;
ロ)上記固相化蛋白質における、DC-STAMPの蛋白質の発現量を測定する工程;
ハ)上記ロ)で検出されたDC-STAMPの蛋白質の発現量と、被験物質を投与されなかった哺乳動物個体より採取した検体中における該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療及び/または予防効果を判定する工程。
【0091】
(iv)以下の工程イ)乃至ホ)を含む:
イ)被験物質を投与された哺乳動物個体より採取した検体中の全蛋白質を固相化する工程;
ロ)被験物質を投与されなかった哺乳動物個体より採取した検体中の全蛋白質を固相化する工程;
ハ)上記工程イ)に記載の固相化蛋白質における、DC-STAMPの蛋白質の発現量を該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いて検出する工程;
ニ)上記ロ)に記載の固相化蛋白質における、DC-STAMPの蛋白質の発現量を該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いて検出する工程;
ホ)上記ハ)で検出された蛋白質の発現量と、上記ニ)で検出された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【0092】
(3) その他の方法
DC-STAMPを過剰発現させた哺乳動物個体に被験物質を投与した場合と投与しなかった場合について、経時的に骨代謝異常の発生率、骨代謝異常の程度、及び/または生存率等を測定する。被験物質を投与した哺乳動物で骨代謝異常の発生率が有意に低下している、骨代謝異常の程度が有意に小さい、及び/または、生存率が約10%以上、好ましくは約30%以上、より好ましくは、約50%以上上昇した場合に、被験物質は骨代謝異常に対する治療及び/または予防効果を有する化合物として選択することができる。
【0093】
6.抗DC-STAMP抗体の製造
(1) 抗原の調製
抗DC-STAMP抗体を作製するための抗原としては、DC-STAMPまたはその少なくとも6個の連続した部分アミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいはこれらに任意のアミノ酸配列や担体が付加された誘導体を挙げることができる。
【0094】
DC-STAMPは、血球細胞又は骨髄細胞から直接精製して使用するか、あるいはこれらの細胞の細胞膜画分を調製して使用することができ、また、DC-STAMPをin vitroにて合成する、あるいは遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。
【0095】
原核細胞の宿主としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)や枯草菌(Bacillus subtilis)などが挙げられる。目的の遺伝子をこれらの宿主細胞内で形質転換させるには、宿主と適合し得る種由来のレプリコンすなわち複製起点と、調節配列を含んでいるプラスミドベクターで宿主細胞を形質転換させる。また、ベクターとしては、形質転換細胞に表現形質(表現型)の選択性を付与することができる配列を有するものが好ましい。
【0096】
例えば、大腸菌としてはK12株などがよく用いられ、ベクターとしては、一般にpBR322やpUC系のプラスミドが用いられるが、これらに限定されず、公知の各種菌株、及びベクターがいずれも使用できる。
【0097】
プロモーターとしては、大腸菌においては、トリプトファン(trp)プロモーター、ラクトース(lac)プロモーター、トリプトファン・ラクトース(tac)プロモーター、リポプロテイン(lpp)プロモーター、ポリペプチド鎖伸張因子Tu(tufB)プロモーター等が挙げられ、どのプロモーターも目的のポリペプチドの産生に使用することができる。
【0098】
枯草菌としては、例えば207−25株が好ましく、ベクターとしてはpTUB228(Ohmura, K. et al. (1984) J. Biochem. 95, 87-93)などが用いられるが、これに限定されるものではない。枯草菌のα−アミラーゼのシグナルペプチド配列をコードするDNA配列を連結することにより、菌体外での分泌発現も可能となる。
【0099】
真核細胞の宿主細胞には、脊椎動物、昆虫、酵母などの細胞が含まれ、脊椎動物細胞としては、例えば、マウス単球由来細胞RAW264.7(ATCC Cat. No TIB-71)、RAW264細胞(ECACC Cat. No. 85062803)、RAW-D細胞(Watanabe et al., J. Endocrinol., (2004)180, 193-201 )、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman, Y., Cell, (1981)23, 175-182、ATCC CRL−1650)、マウス繊維芽細胞NIH3T3(ATCC No.CRL−1658)やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC CCL−61)のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(Urlaub, G. and Chasin, L. A., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (1980)77, 4126-4220)等がよく用いられているが、これらに限定されない。
【0100】
脊椎動物細胞の発現プロモーターとしては、通常発現しようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位、及び転写終結配列等を有するものを使用でき、さらにこれは必要により複製起点を有してもよい。該発現ベクターの例としては、サイトメガロウイルス初期プロモーターを有するpCDNA3.1(インビトロジェン社製)、SV40の初期プロモーターを有するpSV2dhfr(Subramani, S. et al., Mol. Cell. Biol., (1981)1, 854-864)等が挙げられるが、これに限定されない。
【0101】
宿主細胞として、COS細胞あるいはNIH3T3細胞を用いる場合を例に挙げると、発現ベクターとしては、SV40複製起点を有し、COS細胞あるいはNIH3T3細胞において自立増殖が可能であり、さらに、転写プロモーター、転写終結シグナル、及びRNAスプライス部位を備えたものを用いることができる。該発現ベクターは、DEAE−デキストラン法(Luthman, H. and Magnusson, G., Nucleic Acids Res., (1983)11, 1295-1308)、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法(Graham, F. L. and van der Eb, A. J., Virology, (1973)52, 456-457)、及び電気パルス穿孔法(Neumann, E. et al., EMBO J., (1982)1, 841-845)などによりCOS細胞、あるいはNIH3T3細胞に取り込ませることができ、かくして所望の形質転換細胞を得ることができる。また、宿主細胞としてCHO細胞を用いる場合には、発現ベクターと共に、抗生物質G418耐性マーカーとして機能するneo遺伝子を発現し得るベクター、例えばpRSVneo(Sambrook, J. et al. (1989) : “Molecular Cloning A Laboratory Manual“ Cold Spring HarborLaboratory, NY)やpSV2neo(Southern, P. J. and Berg, P., J. Mol. Appl. Genet., (1982)1, 327-341)などをコ・トランスフェクトし、G418耐性のコロニーを選択することにより、目的のポリペプチドを安定に産生する形質転換細胞を得ることができる。
【0102】
上記のようにして得られる形質転換体は、常法に従い培養することができ、該培養により細胞内、細胞膜上または細胞外に目的のポリペプチドが産生される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択でき、例えば、上記COS細胞であれば、RPMI1640培地やダルベッコ変法イーグル培地(以下「DMEM」という)などの培地に、必要に応じウシ胎児血清などの血清成分を添加したものを使用できる。
【0103】
上記培養により、形質転換体の細胞内、細胞膜上または細胞外に産生される組換え蛋白質は、該蛋白質の物理的性質や化学的性質などを利用した各種の公知の分離操作法により分離・精製することができる。該方法としては、具体的には例えば、通常の蛋白質沈殿剤による処理、限外濾過、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの各種液体クロマトグラフィー、透析法、これらの組み合わせなどを例示できる。また、発現させる組換え蛋白質に6残基からなるヒスチジンを繋げることにより、ニッケルアフィニティーカラムで効率的に精製することができる。上記方法を組み合わせることにより容易に高収率、高純度で目的とするポリペプチドを大量に製造できる。また、上記の蛋白質が細胞膜上に産生される場合は、細胞膜画分を調製することによって、分離、粗精製することができる。
【0104】
(2) 抗DC-STAMPモノクローナル抗体の製造
DC-STAMPと特異的に結合する抗体の例として、DC-STAMPと特異的に結合するモノクローナル抗体を挙げることができるが、その取得方法は、以下に記載する通りである。
【0105】
モノクローナル抗体の製造にあたっては、一般に下記のような作業工程が必要である。すなわち、
(a)抗原として使用する生体高分子の精製、
(b)抗原を動物に注射することにより免疫した後、血液を採取しその抗体価を検定して脾臓摘出の時期を決定してから、抗体産生細胞を調製する工程、
(c)骨髄腫細胞(以下「ミエローマ」という)の調製、
(d)抗体産生細胞とミエローマとの細胞融合、
(e)目的とする抗体を産生するハイブリドーマ群の選別、
(f)単一細胞クローンへの分割(クローニング)、
(g)場合によっては、モノクローナル抗体を大量に製造するためのハイブリドーマの培養、またはハイブリドーマを移植した動物の飼育、
(h)このようにして製造されたモノクローナル抗体の生理活性、及びその結合特異性の検討、あるいは標識試薬としての特性の検定、等である。
【0106】
以下、モノクローナル抗体の作製法を上記工程に沿って詳述するが、該抗体の作製法はこれに制限されず、例えば脾細胞以外の抗体産生細胞及びミエローマを使用することもできる。
【0107】
(a)抗原の精製
抗原としては、前記したような方法で調製したDC-STAMPまたはその一部を使用することができる。また、DC-STAMP発現組換え体細胞より調製した膜画分、またはDC-STAMP発現組換え体細胞自身、さらに、当業者に周知の方法を用いて、化学合成した本発明の蛋白質の部分ペプチドを抗原として使用することもできる。
【0108】
(b)抗体産生細胞の調製 工程(a)で得られた抗原と、フロインドの完全または不完全アジュバント、またはカリミョウバンのような助剤とを混合し、免疫原として実験動物に免疫する。実験動物は公知のハイブリドーマ作製法に用いられる動物を支障なく使用することができる。具体的には、たとえばマウス、ラット、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ等を使用することができる。ただし、摘出した抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞の入手容易性等の観点から、マウスまたはラットを被免疫動物とするのが好ましい。また、実際に使用するマウスおよびラットの系統は特に制限はなく、マウスの場合には、たとえば各系統 A、AKR 、BALB/c、BDP 、BA、CE、C3H 、57BL、C57BR 、C57L、DBA 、FL、HTH 、HT1 、LP、NZB 、NZW 、RF、R III、SJL 、SWR 、WB、129 等が、またラットの場合には、たとえば、Low 、Lewis 、Spraque 、Daweley 、ACI 、BN、Fischer等を用いることができる。これらのマウス及びラットは例えば日本クレア、日本チャ−ルスリバー、日本SLC、The Jackson Laboratories等実験動物飼育販売業者より入手することができる。このうち、後述のミエローマ細胞との融合適合性を勘案すれば、マウスでは BALB/c 系統が、ラットではlow 系統が被免疫動物として特に好ましい。また、抗原のヒトとマウスでの相同性を考慮し、自己抗体を除去する生体機構を低下させたマウス、すなわち自己免疫疾患マウスを用いることも好ましい。なお、これらマウスまたはラットの免疫時の週齢は、好ましくは5〜12週齢、さらに好ましくは6〜8週齢である。
【0109】
DC-STAMPまたはこの組換え体によって動物を免疫するには、例えば、Weir,D.M.,Handbook of Experimental Immunology Vol.I. II. III.,Blackwell Scientific Publications, Oxford (1987)、Kabat,E.A. and Mayer,M.M., Experimental Immunochemistry, Charles C Thomas Publisher Spigfield,Illinois (1964) 等に詳しく記載されている公知の方法を用いることができる。これらの免疫法のうち、この発明において好適な方法を具体的に示せば、たとえば以下のとおりである。すなわち、まず、抗原である膜蛋白画分、もしくは抗原を発現させた細胞を動物の皮内または腹腔内に投与する。ただし、免疫効率を高めるためには両者の併用が好ましく、前半は皮内投与を行い、後半または最終回のみ腹腔内投与を行うと、特に免疫効率を高めることができる。抗原の投与スケジュールは、被免疫動物の種類、個体差等により異なるが、一般には、抗原投与回数3〜6回、投与間隔2〜6週間が好ましく、投与回数3〜4回、投与間隔2〜4週間がさらに好ましい。投与回数を過度に増やすと抗原を浪費し、また投与間隔を広げすぎると動物の老化による細胞の低活性化を招くために好ましくない。また、抗原の投与量は、動物の種類、個体差等により異なるが、一般には、0.05〜5 ml、好ましくは 0.1〜0.5ml 程度とする。追加免疫は、以上の通りの抗原投与の1〜6週間後、好ましくは2〜4週間後、さらに好ましくは2〜3週間後に行う。この追加免疫の時期が6週間目より遅いか、あるいは1週間目より早すぎると追加免疫の効果が少ない。なお、追加免疫を行う際の抗原投与量は、動物の種類、大きさ等により異なるが、一般に、例えばマウスの場合には、0.05〜5 ml、好ましくは 0.1〜0.5 ml、さらに好ましくは 0.1〜0.2 ml程度とする。不必要の大量投与は免疫効果を低下させるだけでなく、被免疫動物にとっても好ましいものではない。
【0110】
上記追加免疫から1〜10日後、好ましくは2〜5日後、さらに好ましくは2〜3日後に被免疫動物から抗体産生細胞を含む脾臓細胞またはリンパ球を無菌的に取り出す。なお、その際に抗体価を測定し、抗体価が十分高くなった動物を抗体産生細胞の供給源として用いれば、以後の操作の効率を高めることができる。
【0111】
ここで用いられる抗体価の測定法としては、RIA法、ELISA法、蛍光抗体法、受身血球凝集反応法など種々の公知技術があげられるが、検出感度、迅速性、正確性、及び操作の自動化の可能性などの観点から、RIA法またはELISA法がより好適である。
本発明における抗体価の測定は、例えばELISA法によれば、以下に記載するような手順により行うことができる。まず、精製または部分精製した抗原をELISA用96穴プレート等の固相表面に吸着させ、さらに抗原が吸着していない固相表面を抗原と無関係な蛋白質、例えばウシ血清アルブミン(以下「BSA」という)により覆い、該表面を洗浄後、第一抗体として段階希釈した試料(例えばマウス血清)に接触させ、上記抗原に試料中のモノクローナル抗体を結合させる。さらに第二抗体として酵素標識されたマウス抗体に対する抗体を加えてマウス抗体に結合させ、洗浄後該酵素の基質を加え、基質分解に基づく発色による吸光度の変化等を測定することにより、抗体価を算出する。
【0112】
これらの脾臓細胞またはリンパ球からの抗体産生細胞の分離は、公知の方法(例えば、Kohler et al., Nature, (1975)256, 495; Kohler et al., Eur.J.Immnol., (1977)6,511, ; Milstein et al., Nature, (1977)266, 550; Walsh, Nature, (1977)266, 495)に従って行うことができる。例えば、脾臓細胞の場合には、細胞を細切してステンレスメッシュで濾過した後、イーグル最小必須培地(MEM)に浮遊させて抗体産生細胞を分離する一般的方法を採用することができる。
【0113】
(c) 骨髄腫細胞(以下、「ミエローマ」という)の調製
細胞融合に用いるミエローマ細胞には特段の制限はなく、公知の細胞株から適宜に選択して用いることができる。ただし、融合細胞からハイブリドーマを選択する際の利便性を考慮して、その選択手続が確立しているHGPRT(Hypoxanthine-guanine phosphoribosyl transferase)欠損株を用いるのが好ましい。すなわち、マウス由来のX63-Ag8(X63)、NS1-Ag4/1(NS1)、P3X63-Ag8.Ul(P3Ul)、X63-Ag8.653(X63.653)、SP2/0-Ag14(SP2/0)、MPC11-45.6TG1.7(45.6TG)、FO、S149/5XXO、BU.1等、ラット由来の210.RSY3.Ag.1.2.3(Y3)等、ヒト由来のU266AR(SKO-007)、GM1500・GTG-A12(GM1500)、UC729-6、LICR-LOW-HMy2(HMy2)、8226AR/NIP4-1(NP41)等である。これらのHGPRT欠損株は例えば、American Type Culture Collection (ATCC)等から入手することができる。
【0114】
これらの細胞株は、適当な培地、例えば8−アザグアニン培地[RPMI−1640培地にグルタミン、2−メルカプトエタノール、ゲンタマイシン、及びウシ胎児血清(以下「FCS」という)を加えた培地に8−アザグアニンを加えた培地] 、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium ;以下「IMDM」という)、またはダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium;以下「DMEM」という)で継代培養するが、細胞融合の3乃至4日前に正常培地[例えば、10% FCSを含むASF104培地(味の素(株)社製)]で継代培養し、融合当日に2×107以上の細胞数を確保しておく。
【0115】
(d)細胞融合 抗体産生細胞とミエローマ細胞との融合は、公知の方法(Weir,D.M.,Handbookof Experimental Immunology Vol.I. II. III.,Blackwell Scientific Publications, Oxford (1987)、Kabat,E.A. and Mayer,M.M., Experimental Immunochemistry, Charles C Thomas Publisher Spigfield,Illinois (1964) 等)に従い、細胞の生存率を極度に低下させない程度の条件下で適宜実施することができる。そのような方法は、例えば、ポリエチレン・グリコール等の高濃度ポリマー溶液中で抗体産生細胞とミエローマ細胞とを混合する化学的方法、電気的刺激を利用する物理的方法等を用いることができる。このうち、上記化学的方法の具体例を示せば以下のとおりである。すなわち、高濃度ポリマー溶液としてポリエチレン・グリコールを用いる場合には、分子量1500〜6000、好ましくは2000〜4000のポリエチレン・グリコール溶液中で、30〜40℃、好ましくは35〜38℃の温度で抗体産生細胞とミエローマ細胞とを1〜10分間、好ましくは5〜8分間混合する。
【0116】
(e)ハイブリドーマ群の選択
上記細胞融合により得られるハイブリドーマの選択方法は特に制限はないが、通常HAT(ヒポキサンチン・アミノブテリン・チミジン)選択法〔Kohler et al., Nature, 256, 495 (1975); Milstein at al., Nature 266, 550 (1977)〕が用いられる。この方法は、アミノブテリンで生存し得ないHGPRT欠損株のミエローマ細胞を用いてハイブリドーマを得る場合に有効である。すなわち、未融合細胞およびハイブリドーマをHAT培地で培養することにより、アミノブテリンに対する耐性を持ち合わせたハイブリドーマのみを選択的に残存させ、かつ増殖させることができる。
【0117】
(f)単一細胞クローンへの分割(クローニング)
ハイブリドーマのクローニング法としては、例えばメチルセルロース法、軟アガロース法、限界希釈法等の公知の方法を用いることができる〔例えばBarbara, B.M. and Stanley, M.S. :Selected Methods in Cellular Immunology, W.H. Freeman and Company, San Francisco(1980)参照〕。このクローニング法としては、プレートの1ウェルに1個のハイブリドーマが含まれるように希釈して培養する限界希釈法、軟寒天培地中で培養しコロニーを回収する軟寒天法、マイクロマニュピレーターによって1個づつの細胞を取り出し培養する方法、セルソーターによって1個の細胞を分離する「ソータクローン」などが挙げられる。これらの方法のうち、特に限界希釈法が好適である。この方法では、マイクロプレートにラット胎児由来繊維芽細胞株、あるいは正常マウス脾臓細胞、胸腺細胞、腹水細胞などのフィーダー(feeder)を接種しておく。一方、あらかじめハイブリドーマを0.2〜0.5個/0.2mlになるように培地中で希釈し、この希釈したハイブリドーマの浮遊液を各ウェルに0.1mlずつ入れ、一定期間毎(例えば3日毎)に約1/3の培地を新しいものに交換しながら2週間程度培養を続けることによってハイブリドーマのクローンを増殖させることができる。
【0118】
抗体価の認められたウェルについて、例えば限界希釈法によるクローニングを2〜4回繰返し、安定して抗体価の認められたものを抗DC-STAMPモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株として選択する。
【0119】
(g)ハイブリドーマ培養によるモノクローナル抗体の調製
このようにして選択されたハイブリドーマは、これを培養することにより、モノクローナル抗体を効率よく得ることができるが、培養に先立ち、目的とするモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングすることが望ましい。このスクリーニングにはそれ自体既知の方法が採用できる。
【0120】
本発明における抗体価の測定は、例えばELISA法によれば、以下に記載するような手順により行うことができる。まず、精製または部分精製したDC-STAMP、もしくはDC-STAMPを発現させた細胞をELISA用96穴プレート等の固相表面に吸着させ、さらに抗原が吸着していない固相表面を抗原と無関係な蛋白質、例えばウシ血清アルブミン(以下「BSA」という)により覆い、該表面を洗浄後、第一抗体として段階希釈した試料(例えばハイブリドーマの培養上清)に接触させ、上記抗原に試料中の抗DC-STAMP抗体を結合させる。さらに第二抗体として酵素標識されたマウス抗体に対する抗体を加えてマウス抗体に結合させ、洗浄後該酵素の基質を加え、基質分解に基づく発色による吸光度の変化等を測定することにより、抗体価を算出する。なお、このようなスクリーニングは、上記のようにハイブリドーマをクローニングした後で行ってもよいし、その前に行ってもよい。
【0121】
以上の通りの方法によって得たハイブリドーマは、液体窒素中または−80℃以下の冷凍庫中に凍結状態で保存することができる。
【0122】
クローニングを完了したハイブリドーマは、培地をHT培地から正常培地に換えて培養される。大量培養は、大型培養瓶を用いた回転培養、あるいはスピナー培養で行われる。この大量培養における上清を、ゲル濾過等、当業者に周知の方法を用いて精製することにより、本発明の蛋白質に特異的に結合するモノクローナル抗体を得ることができる。また、同系統のマウス(例えば、上記のBALB/c)、あるいはNu/Nuマウスの腹腔内にハイブリドーマを注射し、該ハイブリド−マを増殖させることにより、本発明のモノクローナル抗体を大量に含む腹水を得ることができる。腹腔内に投与する場合には、事前(3〜7日前)に2,6,10,14−テトラメチルペンタデカン(2,6,10,14-tetramethyl pentadecane)(プリスタン)等の鉱物油を投与すると、より多量の腹水が得られる。たとえば,ハイブリドーマと同系統のマウスの腹腔内に予め免疫抑制剤を注射し、T細胞を不活性化した後、20日後に106 〜107 個のハイブリドーマ・クローン細胞を血清を含まない培地中に浮遊(0.5ml)させて腹腔内に投与し、通常腹部が膨満し、腹水にたまったところでマウスより腹水を採取する。この方法により、培養液中に比べて約100倍以上の濃度のモノクローナル抗体が得られる。
【0123】
上記方法により得たモノクローナル抗体は、例えばWeir, D.M.:Handbook of Experimental Immunology Vol. I,II,III, Blackwell Scientific Publications, Oxford (1978) に記載されている方法で精製することができる。すなわち、硫安塩析法、ゲル濾過法、イオン交換クロマトグラフィー法、アフィニティークロマトグラフィー法等である。これらの方法のうち、硫安塩析法を3〜4回、好ましくは3〜6回繰り返すことによって、モノクローナル抗体を精製することが可能である。しかしこの方法では精製モノクローナル抗体の収率が極めて低くなる。そのため、硫安分画法を1〜2回行った粗精製モノクローナル抗体について、ゲル濾過法、イオン交換クロマトグラフィー法、アフィニティークロマトグラフィー法等から選ばれた少なくとも1種類、好ましくは2種類の方法を行うことによって、高純度に精製されたモノクローナル抗体を高収率で得ることができる。硫安塩析法と他法との組み合わせおよび順序としては、(i)硫安塩析法−イオン交換クロマトグラフィー法−ゲル濾過法、(ii)硫安塩析法−イオン交換クロマトグラフィー法−アフィニティークロマトグラフィー法、(iii)硫安塩析法−ゲル濾過法−アフィニティークロマトグラフィー法等を例示することができるが、高純度でかつ高収率にモノクローナル抗体を得るためには、上記(iii)の組み合わせが特に好ましい。
【0124】
精製の簡便な方法としては、市販のモノクローナル抗体精製キット(例えば、MAbTrap GIIキット;ファルマシア社製)等を利用することもできる。
【0125】
かくして得られるモノクローナル抗体は、DC-STAMPに対して高い抗原特異性を有する。
【0126】
(h)モノクローナル抗体の検定
かくして得られたモノクローナル抗体のアイソタイプ及びサブクラスの決定は以下のように行うことができる。まず、同定法としてはオクテルロニー(Ouchterlony)法、ELISA法、またはRIA法が挙げられる。オクテルロニー法は簡便ではあるが、モノクローナル抗体の濃度が低い場合には濃縮操作が必要である。一方、ELISA法またはRIA法を用いた場合は、培養上清をそのまま抗原吸着固相と反応させ、さらに第二次抗体として各種イムノグロブリンアイソタイプ、サブクラスに対応する抗体を用いることにより、モノクローナル抗体のアイソタイプ、サブクラスを同定することが可能である。また、さらに簡便な方法として、市販の同定用のキット(例えば、マウスタイパーキット;バイオラッド社製)等を利用することもできる。
【0127】
さらに、蛋白質の定量は、フォーリンロウリー法、及び280nmにおける吸光度[1.4(OD280)=イムノグロブリン1mg/ml]より算出する方法により行うことができる。
【0128】
(3)ヒト化抗DC-STAMP抗体の作製
免疫グロブリンG(以下、単に「IgG」という。)は、分子量約23000の軽ポリペプチド鎖(以下「軽鎖」という。)、分子量約50000の重ポリペプチド鎖(以下「重鎖」という。)各2本ずつから構成される。重鎖、軽鎖とも約110残基からなる、アミノ酸配列が保存されている領域の繰り返し構造を持ち、これらはIgGの3次元構造の基本単位(以下、「ドメイン」という。)を構成する。重鎖および軽鎖は、それぞれ連続した4個、および2個のドメインから構成されている。重鎖、軽鎖いずれにおいても、アミノ末端のドメインは他のドメインに比べ各抗体分子間でのアミノ酸配列の変異が大きく、このドメインは可変ドメイン(variable domain : 以下、「Vドメイン」という。)と呼ばれる。IgGのアミノ末端においては、重鎖、軽鎖のVドメインが相補的に会合し可変領域を形成している。これに対し、残余のドメインは、全体として定常領域を形成する。定常領域は、各動物種に特徴的な配列を有し、例えば、マウスIgGの定常領域はヒトIgGの定常領域とは異なっているので、マウスIgGはヒトの免疫系によって異物として認識され、その結果、ヒト抗マウス抗体(Human Anti Mouse Antibody :以下「HAMA」という。)応答が起こる(シュロッフら、Cancer Res., (1985)45, 879-85)。従って、マウス抗体はヒトに繰返し投与することはできない。このような抗体をヒトに投与するためには、抗体の特異性を保持したままHAMA応答を起こさないように抗体分子を修飾する必要がある。
【0129】
X線結晶構造解析の結果によれば、一般に、このようなドメインは3本から5本のβ鎖からなる逆平行βシートが二層重なり合った長円筒状の構造をとる。可変領域では、重鎖、軽鎖のVドメインそれぞれにつき各3個のループが集合し、抗原結合部位を形成する。この各ループは相補性決定領域(complementarity determining region:以下、「CDR」という。)と呼ばれ、アミノ酸配列の変異が最も著しい。可変領域のCDR以外の部分は、一般に、CDRの構造を保持する役割を有し、「フレームワーク」と呼ばれる。カバトらは、重鎖、軽鎖の可変領域の一次配列を多数収集し、配列の保存性に基づき、それぞれの一次配列をCDRおよびフレームワークに分類した表を作成した(カバトら、SEQUENCES OF IMMUNOLOGICAL INTEREST, 5th edition, NIH publication, No.91-3242, E.A. Kabatt et al. )。また、各フレームワークは、アミノ酸配列が共通の特徴を有する複数のサブグループに分類された。さらに、ヒトとマウスの間で対応するフレームワークが存在することも見いだされた。
【0130】
このようなIgGの構造的特徴に関する研究から以下のヒト化抗体の作製法が考案された。
【0131】
研究初期の段階では、マウス由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に接合したキメラ抗体が提案された(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 6851-6855, (1984) 参照)。しかし、そのようなキメラ抗体は、依然として、多くの非ヒトアミノ酸残基を含むので、特に長期間投与した場合にはHAMA応答を誘導しうる(Begent et al., Br. J. Cancer, (1990)62, 487)。
【0132】
ヒトに対しHAMA応答を発現する可能性のある、非ヒトほ乳動物由来のアミノ酸残基を更に少なくする方法として、CDR部分のみをヒト由来の抗体に組み込む方法が提案された(Nature, 321, 522-525, (1986)参照)が、一般に、抗原に対する免疫グロブリン活性を保持するにはCDRのみの移植では不十分であった。
【0133】
一方、チョッチアらは、1987年、X線結晶構造解析データを用い、
(a) CDRのアミノ酸配列中には、抗原に直接結合する部位とCDR自体の構造を維持する部位とが存在し、CDRの取り得る三次元構造は、複数の典型的なパターン(カノニカル構造)に分類されること、
(b)カノニカル構造のクラスは、CDRのみならずフレームワーク部分の特定の位置のアミノ酸の種類によって決定されること、を見いだした( J. Mol. Biol., (1987)196, 901-917)。
【0134】
この知見に基づき、CDR移植法を用いる場合、CDRの配列に加え一部のフレームワークのアミノ酸残基もヒト抗体に移植する必要性が示唆された(特表平4-502408号参照)。
【0135】
一般に、移植すべきCDRを有する非ヒト哺乳動物由来の抗体は「ドナー」、CDRが移植される側のヒト抗体は「アクセプター」と定義されるが、本発明もこの定義に従うことにする。
【0136】
CDR移植法を実施する際に考慮すべき点は、可能な限りCDRの構造を保存し、免疫グロブリン分子の活性を保持することにある。この目的を達成するため:
(a) アクセプターは、いずれのサブグループに属するものを選択すべきか;
(b)ドナーのフレームワークからいずれのアミノ酸残基を選択すべきか
の2点に留意する必要がある。
【0137】
クィーンらは、ドナーのフレームワークのアミノ酸残基が、以下の基準の少なくともひとつに該当する場合、CDR配列とともにアクセプターに移植するデザインの方法を提唱した(特表平4-502408号参照):
(a) アクセプターのフレームワーク領域中のアミノ酸がその位置において稀であり、ドナーの対応するアミノ酸がアクセプターの前記位置において普通である。
(b) 該アミノ酸がCDRのひとつのすぐ近くである。
(c) 該アミノ酸が三次元免疫グロブリンモデルにおいてCDRの約3Å以内に側鎖原子を有し、そして抗原とまたはヒト化抗体のCDRと相互作用することができると予想される。
【0138】
本発明の抗DC-STAMPモノクローナル抗体の重鎖または軽鎖をコードするDNAは、上記抗DC-STAMPモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞よりmRNAを調製し、該mRNAを逆転写酵素でcDNAに変換してから、該抗体の重鎖または軽鎖をコードするDNAをそれぞれ単離することにより得られる。
【0139】
mRNAの抽出にあたっては、グアニジン・チオシアネート・ホット・フェノール法、グアニジン・チオシアネート−グアニジン・塩酸法なども採用しうるが、グアニジン・チオシアネート・塩化セシウム法が好適である。細胞からのmRNAの調製は、まず全RNAを調製し、該全RNAからオリゴ(dT)セルロースやオリゴ(dT)ラテックスビーズ等のポリ(A)+RNA精製用担体を用いて精製する方法、または細胞ライセートから該担体を用いて直接精製する方法により実施できる。全RNAの調製方法としては、アルカリショ糖密度勾配遠心分離法(Dougherty, W. G. and Hiebert, E., Viology, (1980)101, 466-474)、グアニジンチオシアネート・フェノール法、グアニジンチオシアネート・トリフルオロセシウム法、フェノール・SDS法等も採用し得るが、グアニジンチオシアネートおよび塩化セシウムを用いる方法(Chirgwin, J. M., et al., (1979) Biochemistry, (1979)18, 5294- 5299)が好適である。
【0140】
上記のごとくして得られたポリ(A)+RNAを鋳型として、逆転写酵素反応により一本鎖cDNAを合成した後、この一本鎖cDNAから二本鎖cDNAを合成することができる。この方法としてはS1ヌクレアーゼ法(Efstratiadis, A., et al., Cel1, (1976)7, 279-288)、グブラー−ホフマン法(Gubler, U. and Hoffman, B. J., Gene, (1983)25, 263-269)、オカヤマ−バーグ法(Okayama, H. and Berg, P., Mol. Cell. Biol., (1982)2, 161-170)等を採用し得るが、本発明においては、一本鎖cDNAを鋳型としてポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR」という)(Saiki, R. K., et al., Science, (1988)239, 487-49)を行なう、いわゆるRT−PCR法が好適である。
【0141】
このようにして得られた二本鎖cDNAをクローニングベクターに組み込み、得られた組換えベクターを大腸菌等の微生物に導入して形質転換させ、テトラサイクリン耐性あるいはアンピシリン耐性等を指標として形質転換体を選択することができる。大腸菌の形質転換は、ハナハン法(Hanahan, D., J. Mol. Biol., (1983)166, 557-580)、すなわち塩化カルシウムや塩化マグネシウムまたは塩化ルビジウムを共存させて調製したコンピテント細胞に、該組換えDNAベクターを加える方法により実施することができる。なお、ベクターとしてブラスミドを用いる場合は、上記の薬剤耐性遺伝子を有することが必要である。また、プラスミド以外のクローニングベクター、例えばラムダ系のファージ等を用いることも可能である。
【0142】
上記により得られた形質転換株から、目的の抗DC-STAMPモノクローナル抗体の各サブユニットをコードするcDNAを有する株を選択する方法としては、例えば以下に示す各種方法を採用できる。なお、上記RT−PCR法により目的のcDNAを特異的に増幅した場合は、これらの操作を省略することが可能である。
【0143】
(3−1)ポリメラーゼ連鎖反応を用いる方法
目的蛋白質のアミノ酸配列の全部または一部が解明されている場合、該アミノ酸配列の一部に対応するセンスストランドとアンチセンスストランドのオリゴヌクレオチドプライマーを合成し、これらを組み合わせてポリメラーゼ連鎖反応(Saiki, R. K., et al., Science, (1988)239, 487-49)を行ない、目的の抗DC-STAMP抗体重鎖あるいは軽鎖サブユニットをコードするDNA断片を増幅する。ここで用いる鋳型DNAとしては、例えば抗DC-STAMPモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのmRNAより逆転写酵素反応にて合成したcDNAを用いることができる。
【0144】
このようにして調製したDNA断片は、市販のキット等を利用して直接プラスミドベクターに組み込むこともできるし、該断片を32P、35Sあるいはビオチン等で標識し、これをプローブとして用いてコロニーハイブリダイゼーションまたはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより目的のクローンを選択することもできる。
【0145】
例えば、本発明の抗DC-STAMPモノクローナル抗体の各サブユニットの部分アミノ酸配列を調べる方法としては、電気泳動やカラムクロマトグラフィーなどの周知の方法を用いて各サブユニットを単離してから、自動プロテインシークエンサー(例えば、島津製作所(株)製 PPSQ-10)等を利用してそれぞれのサブユニットのN末端アミノ酸配列を解析する方法が好適である。
【0146】
上記のごとくして得られた目的の形質転換株より、抗DC-STAMPモノクローナル抗体蛋白質の各サブユニットをコードするcDNAを採取する方法は、公知の方法(Maniatis, T., et al. (1982) in "Molecular Cloning A Laboratory Manual" Cold Spring Harbor Laboratory, NY.)に従い実施できる。例えば細胞よりベクターDNAに相当する画分を分離し、該プラスミドDNAより目的とするサブユニットをコードするDNA領域を切り出すことにより行うことが可能である。
【0147】
(3−2)合成オリゴヌクレオチドプローブを用いるスクリーニング法
目的蛋白質のアミノ酸配列の全部または一部が解明されている場合(該配列は、複数個連続した特異的配列であれば、目的蛋白質のどの領域のものでもよい)、該アミノ酸配列に対応するオリゴヌクレオチドを合成し(この場合、コドン使用頻度を参考に推測されるヌクレオチド配列、または考えられるヌクレオチド配列を組み合わせた複数個のヌクレオチド配列のいずれも採用でき、また後者の場合イノシンを含ませてその種類を減らすこともできる)、これをプローブ(32P、35Sあるいはビオチン等で標識する)として、形質転換株のDNAを変性固定したニトロセルロースフィルターとハイブリダイズさせ、得られたポジティブ株を選別する。
【0148】
このようにして得られるDNAの配列の決定は、例えばマキサム−ギルバートの化学修飾法(Maxam, A. M. and Gilbert, W., Methods in Enzymology, (1980)65, 499-576)やジデオキシヌクレオチド鎖終結法(Messing, J. and Vieira, J., Gene (1982)19, 269-276)等により実施することができる。
【0149】
また近年、蛍光色素を用いた自動塩基配列決定システムが普及している(例えばパーキンエルマージャパン社製シークエンスロボット"CATALYST 800"およびモデル373ADNAシークエンサ一等)。
【0150】
こうしたシステムを利用することで、DNAヌクレオチド配列決定操作を能率よく、かつ安全に行うことも可能である。このようにして決定された本発明のDNAの各ヌクレオチド配列、および重鎖および軽鎖の各N末端アミノ酸配列データから、本発明のモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖の全アミノ酸配列を決定することができる。
【0151】
イムノグロブリンの重鎖および軽鎖は、いずれも可変領域および定常領域からなり、可変領域はさらに相補性決定領域(以下「CDR」と記す;重鎖・軽鎖ともに各3か所)およびそれらに隣接するフレームワーク領域(重鎖・軽鎖ともに各4か所)からなる。
【0152】
このうち、定常領域のアミノ酸配列は、抗原の種類に関係なく、イムノグロブリンサブクラスが同一である抗体間では共通である。一方、可変領域、特にCDRのアミノ酸配列は各抗体に固有のものであるが、数多くの抗体のアミノ酸配列データを比較した研究によれば、CDRの位置やフレームワーク配列の長さは、同じサブグループに属する抗体サブユニットの間ではほぼ類似していることが知られている(Kabat, E. A., et al., in "Sequence of Proteins of Immunological Interest Vol.II": U.S. Department of Health and Human Services, (1991))。従って、例えば抗DC-STAMPモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖の各アミノ酸配列とそれら公知のアミノ酸配列データとを比較することにより、各アミノ酸配列におけるCDRやフレームワーク領域および定常領域の位置を決定することができる。なお、FRH1、すなわち重鎖の最もN末端側のフレームワーク領域の鎖長については、通常(30アミノ酸)より短いことがあり、例えば、該フレームワーク領域が最小18アミノ酸である例などが知られている(前出 Kabat et al.)。このことから本発明の抗体においては、抗DC-STAMP抗体としての機能を損なわない限りにおいて、重鎖のN末端のフレームワーク領域の鎖長を18アミノ酸以上30アミノ酸以下とするが、好適には30アミノ酸である。
【0153】
なお、上記のようにして決定された軽鎖または重鎖のそれぞれのCDRと同じアミノ酸配列、もしくはその中の連続した部分アミノ酸配列を有するペプチドを、人為的な修飾操作を施して該CDRが抗DC-STAMP抗体分子中で形成する立体構造に近付けることにより、単独でDC-STAMPに対する結合活性を付与せしめることが可能である[例えば、米国特許第5331573号公報参照]。したがって、そのように修飾された、CDRと同じアミノ酸配列、もしくはその中の連続した部分アミノ酸配列を有するペプチドも、本発明の分子に包含される。
【0154】
アミノ酸配列中の任意の一つもしくは二つ以上のアミノ酸を欠失させた改変体を作製するにあたっては、カセット変異法(岸本利光、“新生化学実験講座2・核酸III 組換えDNA技術” 242-251参照)などに従うことができる。
【0155】
この様な各種のDNAは、例えばフォスファイト・トリエステル法(Hunkapiller, M., et al., Nature (1984)310, 105-111)等の常法に従い、核酸の化学合成により製造することもできる。なお、所望アミノ酸に対するコドンは、それ自体が公知であり、その選択も任意でよく、例えば使用する宿主のコドン使用頻度を考慮して常法に従い決定することも可能である。これらヌクレオチド配列コドンの一部改変は、常法に従い、所望の改変をコードする合成オリゴヌクレオチドからなるプライマーを利用した部位特異的変異導入法(サイトスペシフィック・ミュータジェネシス)(Mark, D.F., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984)81, 5662-5666)等に従うことができる。
【0156】
また、あるDNAが本発明の抗DC-STAMPモノクローナル抗体の重鎖または軽鎖をコードするDNAとハイブリダイズするか否かは、例えば、該DNAを、ランダムプライマー法(Feinberg, A.P. and Vogelstein, B., Anal. biochem., (1983)132, 6-13)やニックトランスレーション法(Maniatis, T., et al., in "Molecular Cloning A laboratory Manual" Cold Spring Harbor Laboratory, NY., (1982))等に従い[α−32P]dCTP等で標識したプローブDNAを用いて、以下に記載するような実験を行うことにより調べることができる。
【0157】
まず調べようとするDNAを、例えばニトロセルロース膜やナイロン膜等に吸着させ、必要に応じてアルカリ変性等の処理を行ってから、加熱あるいは紫外線等により固相化させる。この膜を、6×SSC(1×SSCは0.15M 塩化ナトリウム、0.015M クエン酸三ナトリウム溶液)と5% デンハート溶液、0.1% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含むプレハイブリダイゼーション溶液に浸し、55℃で4時間以上保温してから、先に調製したプローブを同様のプレハイブリダイゼーション溶液に最終比活性1×106cpm/mlとなるように加え、60℃で一晩保温する。その後、膜を室温下で6×SSCで5分間洗浄する操作を数回繰り返し、さらに2×SSCで20分間洗浄してから、オートラジオグラフィーを行う。
【0158】
上記のような方法を利用して、任意のcDNAライブラリーまたはゲノムライブラリーから、本発明のヒト化抗DC-STAMP抗体の重鎖または軽鎖をコードするDNAとハイブリダイズするDNAを単離することができる(Maniatis, T., et al., in "Molecular Cloning A laboratory Manual" Cold Spring Harbor Laboratory, NY., (1982))。
【0159】
上記のごとくして得られる各DNAを、それぞれ発現ベクターに組み込むことにより、原核生物または真核生物の宿主細胞に導入し、それらの宿主細胞で各遺伝子を発現させることが可能である。発現方法は上記「6.抗DC-STAMP抗体の製造」の項の「(1)抗原の調製」の項に記載した方法と同一の方法によって行うことができる。
【0160】
形質転換体の細胞内または細胞外に生産される、抗DC-STAMP抗体蛋白質を含む画分は、該蛋白質の物理的性質や化学的性質等を利用した各種公知の蛋白質分離操作法により、分離・精製することができる。かかる方法としては、具体的には例えば通常の蛋白質沈澱剤による処理、限外濾過、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種クロマトグラフィー、透析法、およびこれらの組み合わせ等を採用できる。
【0161】
抗DC-STAMPマウスモノクローナル抗体をヒト化するためには、決定されたCDR配列全体およびFR配列の一部のアミノ酸残基をヒト抗体へ移植するように、可変領域のアミノ酸配列を設計する必要がある。この設計は、以下の方法に従う。
【0162】
従来、ヒト化のデザインを行う場合、アクセプターのサブグループの選択指針としては、(a)天然のアミノ酸配列を有する公知のヒト抗体の重鎖、軽鎖の天然の組み合わせをそっくりそのまま用いる、
(b)重鎖、軽鎖が属するサブグループとしての組み合わせは保存するが、重鎖、軽鎖としては、それぞれ異なるヒト抗体に由来し、ドナーの重鎖、軽鎖のアミノ酸配列と同一性が高いアミノ酸配列、または、コンセンサス配列を用いる、
のいずれかが選択されている。本発明においても、上記の指針に従うことができるが、これらと異なる方法として、
(c)サブグループの組み合わせを考慮することなく、ドナーのFRと最も同一性の高い重鎖、軽鎖のFRをヒト抗体の一次配列のライブラリーの中から選択する、
という方法を採用することも可能である。これらの選択法により、ドナーおよびアクセプター間での、FR部分のアミノ酸の同一性を少なくとも70%以上とすることが可能となる。この方法を採用することにより、ドナーより移植するアミノ酸残基の数をより少なくすることが可能となり、HAMA応答誘導を減少させることができる。
【0163】
また、抗体分子の一次配列より三次構造を予測する操作(以下、この操作を「分子モデリング」という)はその予測精度に限界があり、そのドナーが属するサブグループにおいて稀にしか出現しないアミノ酸残基の役割を十分に特定することができない。クィーンらの方法に従い、かかる位置においてドナー、アクセプターのいずれのアミノ酸残基を選択すべきかを判断することは一般に困難である。(c)の選択法によれば、このような判断をする機会を著しく減少することができる。
【0164】
本発明者らは、ドナーのCDRの構造および機能を維持するために重要なドナーのFR由来のアミノ酸を同定するための新規な方法を提供することによって、このヒト化の方法をさらに改良している。
【0165】
軽鎖、重鎖それぞれのヒトアクセプター分子が選択された後、ドナーのFRより移植するアミノ酸残基を選択する方法は、以下に記載する通りである。
【0166】
ドナーとアクセプターのアミノ酸配列を並べ、両者のFRの対応する位置でアミノ酸残基が異なっていた場合、どちらの残基を選択するべきかを決定する必要があるが、この選択においては、ドナー由来のCDRの三次元構造を損なわないよう選択を行う必要がある。
【0167】
クィーンらは前述の特表平4−502408号において、FR上のアミノ酸残基が、以下の要件の少なくともひとつに該当する場合、CDR配列とともにアクセプターに移植する方法を提唱した:
1)アクセプターのヒトFR領域中のアミノ酸がその位置において稀であり、ドナーの対応するアミノ酸がアクセプターの前記位置において普通である;
2)該アミノ酸がCDRのひとつのすぐ近くである;
3)該アミノ酸が三次元免疫グロブリンモデルにおいてCDRの約3Å以内に側鎖原子を有し、そして抗原とまたはヒト化抗体のCDRと相互作用することができると予想される。
【0168】
ここで2)で示された残基はしばしば3)の性質を示すことより、本発明ではこの2)の要件を削除し、別に新たに2種の要件を設ける。すなわち、本発明では、CDRと共に移植すべきドナーのFR上のアミノ酸残基については:
a)アクセプターのFR中のアミノ酸がその位置において稀でありドナーの対応するアミノ酸が当該位置において普通であるか;
b)該アミノ酸が三次元構造モデルにおいて、CDRの構成アミノ酸原子と抗原または移植すべきCDRループとの相互作用が予想されるか;
c)当該位置がカノニカルクラス決定残基であるか;
d)当該位置が重鎖と軽鎖の接触面を構成するか、
である場合に、ドナーのFRから当該アミノ酸残基を移植することにする。
【0169】
a)の要件では、前述したカバトの表に従い、同一サブクラスの抗体について当該位置で90%以上の頻度で見いだされるアミノ酸を「普通」、10%未満の頻度で見いだされるアミノ酸を「稀」と定義する。
【0170】
c)の要件では、「当該位置がカノニカルクラス決定残基であるか」否かについては、前述したチョッチアの表に従い、一義的に決定することができる。
【0171】
b)、d)の要件については、予め抗体可変領域の分子モデリングが必要となる。分子モデリング用ソフトウェアとしては、市販のものならいずれのものも採用し得るが、好適には、AbM(オックスフォード・モレキュラー・リミティッド社製)を使用することができる。
【0172】
分子モデリングの予測精度には一定の限界があるので、本発明においては、種々の抗体の可変領域のX線結晶解析の実験結果を参照することにより、分子モデリングから得られる構造予測の確からしさを2段階に区別する。
【0173】
本発明においては、AbM等の分子モデリング用ソフトウェアによって構築されたところの可変領域の3次元構造において、2原子間の距離が、各々のファンデルワールス半径の和に0.5Åを加えた値より短いとき、当該2原子間はファンデルワールス接触していると推定した。主鎖および側鎖のアミド窒素、カルボニル酸素など極性の原子間距離が平均の水素結合距離である2.9Åに0.5Å加えた距離より短い場合は、その間に水素結合が存在すると推定した。さらに、相反する電価を持つ原子間が、2.85Åに0.5Å加えた距離より短い場合は、その間にイオン対が形成されているものと推定した。
【0174】
一方、種々の抗体の可変領域のX線結晶構造解析の実験結果から、サブグループと無関係に、高頻度にCDRとの接触が見いだされるFR上の位置として、軽鎖では、1、2、3、4、5、23、35、36、46、48、49、58、69、71、88番の位置、重鎖では、2、4、27、28、29、30、36、38、46、47、48、49、66、67、69、71、73、78、92、93、94、103番の位置が特定される(数字はいずれも前出カバトらの文献において定義されるアミノ酸番号を表わす。以下において同じ)。分子モデリングと同じ基準を適用した場合、これらの位置のアミノ酸残基は、公知の抗体可変領域の3分の2においてCDRのアミノ酸残基との接触が認められる。これらの知見に基づき、b)の「該アミノ酸が三次元構造モデルにおいて、CDRの構成アミノ酸原子が抗原または移植すべきCDRループとの相互作用が予想される」とは、以下の要件を意味する。
【0175】
分子モデリングにおいて、FRとCDRとの接触の可能性が予見されたFRの位置が、X線結晶解析により実験的にFRとCDRとの接触が高頻度に検出される位置のいずれかに一致する場合は、ドナーのアミノ酸残基の移植を優先する。
それ以外の場合は、この要件b)は考慮しない。
【0176】
d)の「当該位置が重鎖と軽鎖の接触面を構成する」とは、以下の要件を意味する。種々の抗体の可変領域のX線結晶解析の実験結果から、軽鎖においては、36、38、43、44、46、49、87、98番目のアミノ酸残基、重鎖においては、37、39、45、47、91、103、104番目のアミノ酸残基が、高頻度に重鎖−軽鎖間接触をすることが認められている。分子モデリングにおいて、重鎖−軽鎖間接触の可能性が予見され、その位置が上述の位置のいずれかに一致する場合は、ドナーのアミノ酸残基の移植を優先する。それ以外の場合は、この要件d)は考慮しない。
【0177】
本発明のヒト化抗DC-STAMP抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAは、以下に記載する方法で製造することができる。
【0178】
例えば、60乃至70ヌクレオチドの、該DNAの部分ヌクレオチド配列からなる複数のポリヌクレオチド断片を、センス側およびアンチセンス側において互い違いになるように化学合成し、その後各ポリヌクレオチド断片をアニーリングし、DNAリガーゼにより結合し、所望のヒト化抗DC-STAMP抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを有するDNAを得ることができる。
【0179】
別の方法として、アクセプターの可変領域の全アミノ酸配列をコードするDNAをヒトリンパ球より分離し、CDRをコードする領域に当業者に周知の方法でヌクレオチド置換を行うことにより、制限酵素切断配列を導入する。対応する制限酵素で該領域を切断した後、ドナーのCDRをコードするヌクレオチド配列を合成し、DNAリガーゼにより結合して、所望のヒト化抗DC-STAMP抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを得ることができる。
【0180】
さらに、本発明では、好適には以下に述べるオーバーラップ・エクステンション・PCR法(ホルトンら、Gene, 77, 61-68, (1989) 参照)に従い、所望のヒト化抗DC-STAMP抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを得ることができる。
【0181】
すなわち、接続を所望する2種のアミノ酸配列をそれぞれコードする2種のDNAを、便宜的に(A)および(B)とする。(A)の5’側にアニールする20乃至40ヌクレオチドのセンスプライマ−(以下、このプライマーを(C)とする。)および(B)の3’側にアニールする20乃至40ヌクレオチドのアンチセンスプライマー(以下、このプライマーを(D)とする)を化学合成する。さらに、(A)の3’側の20乃至30ヌクレオチドと(B)の5’側20乃至30ヌクレオチドを連結した、キメラ型のセンスプライマー(以下、このプライマーを(E)とする)およびこれに相補的なアンチセンスプライマー(以下、このプライマーを(F)とする)を合成する。(A)を含む適当なベクターDNA
を基質にして、センスプライマ−(C)およびキメラ型アンチセンスプライマー(F)を用いたPCRを行うことにより、(A)の3’末端に(B)の5’末端側20乃至30ヌクレオチドが付加したDNAを得ることができる(この新たに得られたDNAを(G)とする)。同様に、(B)を含む適当なベクターDNAを基質にして、アンチセンスプライマー(D)およびキメラ型センスプライマー(E)を用いたPCRを行うことにより、(B)の5’末端に(A)の3’末端側20乃至30ヌクレオチドが付加したDNAを得ることができる(この新たに得られたDNAを(H)とする。)。このようにして得られた(G)と(H)は、(G)の3’側40乃至60ヌクレオチドと(H)の5’側40乃至60ヌクレオチドにおいて相補的なヌクレオチド配列を保持している。増幅された(G)および(H)を混合してPCRを行った場合、1回目の変性反応で(G)と(H)は1本鎖になり、その後のアニーリング反応で殆どのDNAは元に戻るが、一部のDNAについては相補的ヌクレオチド配列領域でアニーリングするヘテロDNA2本鎖を形成する。その後の伸長反応で、突出した1本鎖部分が修復され、(A)と(B)が連結したキメラ型のDNA(以下、このDNAを(I)とする。)を得ることができる。さらにこの(I)を基質として、センスプライマー(C)とアンチセンスプライマー(D)を用いPCRを行うことにより、(I)を増幅することができる。本発明では、抗ヒトDC-STAMPマウスモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖のCDR領域をコードするDNAおよびヒト免疫グロブリンIgGのFR領域をコードするDNA、さらには、ヒト免疫グロブリンIgGの分泌シグナルをコードするDNAを、それぞれケース・バイ・ケースにより(A)および(B)として上記の連結反応を行うことができる。
【0182】
なお、所望アミノ酸に対するコドンは、それ自体公知であり、その選択も任意でよく、例えば使用する宿主のコドン使用頻度を考慮して常法に従い決定できる。これらヌクレオチド配列コドンの一部改変は、常法に従い、所望の改変をコードする合成オリゴヌクレオチドからなるプライマーを利用したサイトスペシフィック・ミュータジェネシス(site specific mutagenesis )(Mark, D. F., et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (1984)81, 5662-5666)等に従うことができる。したがって、各プライマーを化学合成する際に、予め点突然変異を導入するように各プライマーを設計することにより、所望の抗DC-STAMP抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をコードするDNAを得ることができる。
【0183】
このようにして得られた本発明の各DNAをそれぞれ発現ベクターに組み込むことにより、原核生物または真核生物の宿主細胞を形質転換させることができる。さらに、これらベクターに適当なプロモーターおよび形質発現に関わる配列を導入することにより、各々の宿主細胞において各遺伝子を発現させることが可能である。
【0184】
上記方法により、容易に高収率、高純度で組換え抗DC-STAMP抗体を製造できる。
【0185】
(4)抗DC-STAMP完全ヒト抗体の作製
完全ヒト抗体とは、ヒト染色体由来の抗体の遺伝子配列のみを有するヒト抗体を意味する。抗DC-STAMP完全ヒト抗体は、ヒト抗体のH鎖とL鎖の遺伝子を含むヒト染色体断片を有するヒト抗体産生マウスを用いた方法(Tomizuka, K.et al., Nature Genetics, (1977)16, 133-143; Kuroiwa, Y.et.al., Nuc. Acids Res., (1998)26, 3447-3448; Yoshida, H.et.al., Animal Cell Technology: Basic and Applied Aspects,(1999)10, 69-73 (Kitagawa, Y.,Matuda, T. and Iijima, S. eds.), Kluwer Academic Publishers; Tomizuka, K.et.al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (2000)97, 722-727)や、ヒト抗体ライブラリーより選別したファージディスプレイ由来のヒト抗体を取得する方法(Wormstone, I. M.et.al, Investigative Ophthalmology & Visual Science., (2002)43 (7), 2301-8; Carmen, S. et.al., Briefings in Functional Genomics and Proteomics,(2002)1 (2), 189-203; Siriwardena, D. et.al., Opthalmology, (2002)109 (3), 427-431等)によって取得することができる。
【0186】
このようにして作製されるヒト抗DC-STAMP抗体がDC-STAMPと特異的に結合することを確認する方法としては、例えば、マウス免疫時に抗体価の評価を行う場合と同様のELISA法が好適である。
【0187】
7.抗DC-STAMP抗体を含有する医薬
上述の「6.抗DC-STAMP抗体の製造」の項に記載された方法で得られる抗DC-STAMP抗体の中から、DC-STAMPの生物活性を中和する抗体を得ることができる。これらDC-STAMPの生物活性を中和する抗体は、生体内でのDC-STAMPの生物活性、即ち、破骨細胞の分化及び/又は成熟化を阻害することから、医薬として、破骨細胞の分化異常に起因する骨代謝異常症に対する治療剤として用いることができる。
【0188】
in vitroでの抗DC-STAMP抗体によるDC-STAMPの生物活性の中和活性は例えば、DC-STAMPを過剰発現している細胞における細胞の破骨細胞への分化の抑制活性で測定することができる。例えば、DC-STAMPを過剰発現しているマウス単球由来細胞株RAW264.7細胞、RAW264細胞又はRAW-D細胞を培養し、培養系に種々の濃度で抗DC-STAMP抗体を添加し、RANKLおよびTNF-α刺激による、破骨細胞への分化の抑制活性を測定することができる。また、骨髄由来の初代培養細胞に種々の濃度で抗DC-STAMP抗体を添加し、RANKLおよびTNF-α刺激による、破骨細胞への分化の抑制活性を測定することができる。さらに、大腿骨および/又は脛骨由来の細胞を用いたピットアッセイ(Takada et al., Bone and Mineral, (1992)17, 347-359)実験において、大腿骨および/又は脛骨由来の細胞に種々の濃度で抗DC-STAMP抗体を添加して象牙切片上のピットの形成を観察することによって破骨細胞の骨吸収活性の抑制活性を測定することができる。in vivoでの実験動物を利用した抗DC-STAMP抗体の骨代謝異常に対する治療効果は、例えば、DC-STAMPを過剰に発現しているトランスジェニック動物に抗DC-STAMP抗体を投与し、破骨細胞の変化を測定することで確認することができる。
【0189】
このようにして得られたDC-STAMPの生物活性を中和する抗体は、医薬として、特に骨粗鬆症、関節リウマチ、癌性高カルシウム血症等の骨代謝異常に起因して起こる疾患の治療を目的とした医薬組成物として、あるいはこのような疾患の免疫学的診断のための抗体として有用である。
【0190】
抗DC-STAMP抗体は、一つの例としては、骨代謝異常症の治療に対しては該抗体単独で、あるいは少なくとも一つの骨に関する疾患の治療剤と一緒に投与することができる。また一つの例として、抗DC-STAMP抗体は治療上有効な量の抗骨代謝異常治療薬剤と一緒に投与することができる。抗DC-STAMP抗体と一緒に投与できる治療剤としては、ビスホスホネート、活性型ビタミンD3、カルシトニンおよびその誘導体、エストラジオール等のホルモン製剤、SERMs(Selective estrogen receptor modulators)、イプリフラボン、ビタミンK2(メナテトレノン)及びカルシウム製剤等を挙げることができるがこれらに限定されない。骨代謝異常の状態やどの程度の治療を目指すかによって、2、3あるいはそれ以上の種類の薬剤を投与することもできるし、それらの薬剤は同じ製剤の中に封入することによって一緒に供給することができる。それらの薬剤と抗DC-STAMP抗体は同じ製剤の中に封入することによって一緒に供給することもできる。また、それらの薬剤は治療用キットとして封入することによって一緒に供給することもできる。また、それらの薬剤と抗DC-STAMP抗体は別々に供給することもできる。遺伝子治療によって投与する場合には、蛋白質性の骨疾患治療剤の遺伝子と抗DC-STAMP抗体の遺伝子は、同時にあるいは別々に同じプロモーター領域の下流に挿入することができ、別々のあるいは、同じベクターに導入することができる。
【0191】
抗DC-STAMP抗体、あるいはそのフラグメントに対し骨疾患治療剤を結合させることにより、M.C.Garnet「Targeted drug conjugates: principles and progress」, Advanced Drug Delivery Reviews, (2001)53, 171-216記載の標的型薬物複合体を製造することができる。この目的には、抗体分子のほか、破骨細胞の認識性を完全消失していない限り、いずれの抗体フラグメントも適用可能であるが、例えば、Fab、F(ab’)2、Fv等のフラグメントを例として挙げることができ、本発明においても同様に、抗体および該フラグメントを使用することができる。抗DC-STAMP抗体または該抗体のフラグメントと骨疾患治療剤との結合様式は、M.C.Garnet「Targeted drug conjugates: principles and progress」, Advanced Drug Delivery Reviews, (2001)53, 171-216、G.T.Hermanson「Bioconjugate Techniques」Academic Press, California (1996)、Putnam and J. Kopecek「Polymer Conjugates with Anticancer Activity」Advances in Polymer Science (1995)122, 55-123 等に記載される種々の形態があり得る。すなわち、抗DC-STAMP抗体と骨疾患治療剤が化学的に直接あるいはオリゴペプチド等のスペーサーが介在して結合される様式や、適当な薬物担体を介在して結合される様式を挙げることができる。薬物担体の例としては、リポソームや水溶性高分子を挙げることができる。これら薬物担体が介在される様式としては、より具体的には、抗体と骨疾患治療剤とがリポソームに包含され、該リポソームと抗体とが結合した様式、および、骨疾患治療剤が水溶性高分子(分子量1000乃至10万程度の化合物)に化学的に直接あるいはオリゴペプチド等のスペーサーを介在させて結合され、該水溶性高分子に抗体が結合した様式、を例として挙げることができる。抗体(または該フラグメント)と骨疾患治療剤、リポソームおよび水溶性高分子等の薬物担体との結合は、G.T.Hermanson「Bioconjugate Techniques」Academic Press, California (1996)、Putnam and J. Kopecek「Polymer Conjugates with Anticancer Activity」Advances in Polymer Science (1995)122, 55-123に記載の方法等の当業者周知の方法により実施することができる。骨疾患治療剤のリポソームへの包含は、D.D.Lasic「Liposomes: From Physics to Applications」, Elsevier Science Publishers B.V., Amsterdam (1993)等に記載の方法等の当業者周知の方法により実施することができる。骨疾患治療剤の水溶性高分子への結合は、D. Putnam and J. Kopecek「Polymer Conjugates with Anticancer Activity」Advances in Polymer Science (1995)122, 55-123記載の方法等の当業者周知の方法により、実施することができる。抗体(または該フラグメント)と蛋白質性の骨疾患治療剤(または該フラグメント)との複合体は、上記の方法のほか、遺伝子工学的に、当業者周知の方法により実施することができる。
【0192】
本発明は、治療に有効な量の抗DC-STAMP抗体と薬学上許容される希釈剤、担体、可溶化剤、乳化剤、保存剤及び/又は補助剤を含む医薬組成物も提供する。
【0193】
本発明は、治療に有効な量の抗DC-STAMP抗体と治療に有効な量の少なくとも一つの骨疾患治療剤と薬学上許容される希釈剤、担体、可溶化剤、乳化剤、保存剤及び/又は補助剤を含む医薬組成物も提供する。骨疾患治療剤としては、ビスホスホネート、活性型ビタミンD3、カルシトニンおよびその誘導体、エストラジオール等のホルモン製剤、SERMs(selective estrogen receptor modulators)、イプリフラボン、ビタミンK2(メナテトレノン)、カルシウム製剤、PTH(parathyroid hormone)製剤、非ステロイド性抗炎症剤、抗TNFα抗体、抗PTHrP(parathyroid hormine-related protein)抗体、IL-1レセプターアンタゴニスト、抗RANKL抗体及びOCIF(osteoclastogenesis inhibitory factor)等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0194】
本発明の医薬組成物において許容される製剤に用いる物質としては好ましくは投与量や投与濃度において、医薬組成物を投与される者に対して非毒性のものが好ましい。
【0195】
本発明の医薬組成物は、pH、浸透圧、粘度、透明度、色、等張性、色、無菌性、安定性、溶解率、徐放率、吸収率、浸透率を変えたり、維持したり、保持したりするための製剤用の物質を含むことができる。製剤用の物質として以下のものを挙げることができるが、これらに制限されない:グリシン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン等のアミノ酸類、抗菌剤、アスコルビン酸、硫酸ナトリウムまたは亜硫酸水素ナトリウム等の抗酸化剤、リン酸、、クエン酸、ホウ酸バッファー、炭酸水素、トリス−塩酸(Tris-Hcl)溶液等の緩衝剤、マンニトールやグリシン等の充填剤、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤、カフェイン、ポリビニルピロリジン、β−シクロデキストリンやヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン等の錯化剤、グルコース、マンノースまたはデキストリン等の増量剤、単糖類、二糖類等の他の炭水化物、着色剤、香味剤、希釈剤、乳化剤やポリビニルピロリジン等の親水ポリマー、低分子量ポリペプチド、塩形成対イオン、塩化ベンズアルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロレキシジン、ソルビン酸または過酸化水素等の防腐剤、グリセリン、プロピレン・グリコールまたはポリエチレン・グリコール等の溶媒、マンニトールまたはソルビトール等の当アルコール、懸濁剤、ソルビタンエステル、ポリソルビテート20やポリソルビテート80等ポリソルビテート、トリトン(triton)、トロメタミン(tromethamine)、レシチンまたはコレステロール等の界面活性剤、スクロースやソルビトール等の安定化増強剤、塩化ナトリウム、塩化カリウムやマンニトール・ソルビトール等の弾性増強剤、輸送剤、希釈剤、賦形剤、及び/又は薬学上の補助剤。これらの製剤用の物質の添加量は、抗DC-STAMP抗体の重量にたいして0.01〜100倍、特に0.1〜10倍添加するのが好ましい。製剤中の好適な医薬組成物の組成は当業者によって、適用疾患、適用投与経路などに応じて適宜決定することができる。
【0196】
医薬組成物中の賦形剤や担体は液体でも固体でもよい。適当な賦形剤や担体は注射用の水や生理食塩水、人工脳脊髄液や非経口投与に通常用いられている他の物質でもよい。中性の生理食塩水や血清アルブミンを含む生理食塩水を担体に用いることもできる。医薬組成物にはpH7.0−8.5のTrisバッファーやpH4.0-5.5の酢酸バッファーやそれらにソルビトールや他の化合物を含むこともできる。本発明の医薬組成物には抗DC-STAMP抗体を含む医薬組成物並びに、抗DC-STAMP抗体及び少なくとも一つの骨疾患治療剤を含む医薬組成物を挙げることができ、本発明の医薬組成物は選択された組成で必要な純度で適当な薬剤として、凍結乾燥品あるいは液体として準備される。抗DC-STAMP抗体を含む医薬組成物並びに、抗DC-STAMP抗体及び少なくとも一つの抗骨代謝異常治療薬剤を含む医薬組成物はスクロースのような適当な賦形剤を用いた凍結乾燥品として成型されることもできる。
【0197】
本発明の医薬組成物は非経口投与用に調製することもできるし、経口による消化管吸収用に調製することもできる。製剤の組成及び濃度は投与方法によって決定することができるし、本発明の医薬組成物に含まれる、抗DC-STAMP抗体のDC-STAMPに対する親和性、即ち、DC-STAMPに対する解離定数(Kd値)に対し、親和性が高い(Kd値が低い)ほど、ヒトへの投与量を少なく薬効を発揮することができるので、この結果に基づいて本発明の医薬組成物の人に対する投与量を決定することもできる。投与量は、ヒト型抗DC-STAMP抗体をヒトに対して投与する際には、約0.1〜100mg/kgを1〜30日間に1回投与すればよい。
【0198】
本発明の医薬組成物の形態としては、点滴を含む注射剤、坐剤、経鼻剤、舌下剤、経皮吸収剤などが挙げられる。
【0199】
8.直接相互作用する物質の探索
本発明の他の一つの態様としては、DC-STAMPの活動を抑制するような物質を得ることを目的とした、該蛋白質の立体構造をベースとしたドラッグデザインの手法を含む。このような手法は、ラショナルドラッグデザイン法として知られており、酵素活性などの機能や、リガンド、コファクター、またはDNAへの結合などを効率よく阻害もしくは活性化させるような化合物の探索に利用されている。この例として、すでに上市されている抗HIV剤であるプロテアーゼの阻害剤がよく知られている。本発明のDC-STAMPの三次元構造解析においても、X線結晶解析や核磁気共鳴法といった一般的によく知られている手法が利用できると考えられる。さらに、DC-STAMPの機能を抑制する物質の探索には、コンピュータードラッグデザイン(CADD)を活用した設計も可能である。この例としては、関節リウマチ治療の新たなゲノム新薬として期待されているAP−1の働きを阻害する低分子化合物(国際特許出願公開WO99/58515号)などが知られている。このような方法により、DC-STAMPに直接結合するか、あるいはDC-STAMPと他の因子との相互作用を阻害することにより、DC-STAMPの機能を抑制するような物質を得ることができる。
【0200】
さらに、他の一つの態様は、本発明のDC-STAMPが会合するポリペプチド、すなわちDC-STAMPのパートナー蛋白質に関する。すなわち、本発明は、DC-STAMPの活性を調節するパートナー蛋白質のスクリーニング方法に関する。
【0201】
このスクリーニング方法の一つの態様は、DC-STAMPに被験蛋白質試料を接触させ、DC-STAMPに結合する蛋白質を選択する工程を含む。このような方法としては、例えば、精製したDC-STAMPを用いて、これに結合する蛋白質のアフィニティー精製を行う方法が挙げられる。具体的な方法の一例を示せば、DC-STAMPにヒスチジン6個よりなる配列をアフィニティータグとして融合したものを作製して、これを細胞の抽出液(予めニッケル−アガロースカラムにチャージして、このカラムを素通りした画分)と4℃で12時間インキュベートし、次いで、この混合物に別途ニッケル−アガロース担体を加えて4℃で1時間インキュベートする。ニッケル−アガロース担体を洗浄バッファーで十分洗浄した後、100mMイミダゾールを加えることにより、DC-STAMPと特異的に結合する細胞抽出液中の蛋白質を溶出させて精製し、この構造を決定する。このようにして、DC-STAMPと直接結合する蛋白質、及びDC-STAMPとの結合活性は持たないが、サブユニットとしてDC-STAMPに直接結合する蛋白質と複合体を形成することにより間接的にDC-STAMPに結合する蛋白質が精製できる(実験医学別冊、バイオマニュアルシリーズ5「転写因子研究法」215−219(羊土社刊))。
【0202】
別の方法としては、ファーウエスタンブロット法(実験医学別冊、「新遺伝子工学ハンドブック」76−81(羊土社刊))や、酵母や哺乳類動物細胞を用いたツーハイブリッドシステム法(実験医学別冊、「新遺伝子工学ハンドブック」66−75(羊土社刊)、「チェックメイト・マンマリアン・ツーハイブリッドシステム」(プロメガ社製))によるクローニングも可能であるが、これらの方法に限定されない。
【0203】
このようにして、DC-STAMPと直接もしくは間接的に相互作用するパートナー蛋白質のcDNAが得られれば、DC-STAMPと該パートナー蛋白質との相互作用を阻害する物質の機能的スクリーニングに利用することができる。具体的には、例えば、DC-STAMPとグルタチオンS−トランスフェラーゼとの融合蛋白質を調製して、抗グルタチオンS−トランスフェラーゼ抗体で覆ったマイクロプレートに結合させた後、ビオチン化した該パートナー蛋白質をこの融合蛋白質と接触させ、該融合蛋白質との結合をストレプトアビジン化アルカリホスファターゼで検出する。ビオチン化した該パートナー蛋白質添加の際、被験物質も添加し、融合蛋白質と該パートナー蛋白質との結合を促進あるいは阻害する物質を選択する。この方法では、融合蛋白質に直接作用する物質または該パートナー蛋白質に直接作用する物質が得られる。
【0204】
融合蛋白質と該パートナー蛋白質との結合が間接的であり、何らかの別の因子を介しているような場合には、例えば該因子を含むような細胞抽出液存在下で、同様に上記アッセイを行う。この場合には、該因子に対して作用するような物質も選択される可能性がある。
【0205】
また、得られたパートナー蛋白質が、DC-STAMPの機能を促進する活性を有している場合には、既に記載したDC-STAMP遺伝子の発現ベクターを応用した試験方法に従って、骨代謝異常治療剤、例えば、骨粗鬆症の治療剤として有用な候補物質のスクリーニングを行うことができる。また、得られたパートナー蛋白質が、DC-STAMPの機能を抑制する活性を有している場合には、このような抑制因子をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドは、骨代謝異常の遺伝子治療に用いることができる。
【0206】
そのようなポリヌクレオチドは、例えば同定された阻害因子のアミノ酸配列を解析し、該アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドプローブを合成してcDNAライブラリーやゲノムライブラリーのスクリーニングを行うことにより取得できる。また、DC-STAMPの機能の阻害活性を有するぺプチドが、ランダムに合成された人工ペプチドライブラリー由来である場合は、該ペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるDNAを化学合成する。
【0207】
遺伝子治療においては、そのようにして得られた阻害因子をコードする遺伝子を、例えばウイルスベクターに組み込んで、該組換えウイルスベクターを有するウイルス(無毒化されたもの)を患者に感染させる。患者体内では抗骨破壊因子が産生され、破骨細胞の分化抑制機能を有するので、骨代謝異常の治療が可能となる。
【0208】
遺伝子治療剤を細胞内に導入する方法としては、ウイルスベクターを利用した遺伝子導入方法、あるいは非ウイルス性の遺伝子導入方法(日経サイエンス,1994年4月号,20-45頁、実験医学増刊,12(15)(1994)、実験医学別冊「遺伝子治療の基礎技術」,羊土社(1996))のいずれの方法も適用することができる。
【0209】
ウイルスベクターによる遺伝子導入方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス等のDNAウイルスまたはRNAウイルスに、DC-STAMPの阻害因子あるいはその変異体をコードするDNAを組み込んで導入する方法が挙げられる。このうち、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ワクシニアウイルスを用いた方法が、特に好ましい。非ウイルス性の遺伝子導入方法としては、発現プラスミドを直接筋肉内に投与する方法(DNAワクチン法)、リポソーム法、リポフェクチン法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等が挙げられ、特にDNAワクチン法、リポソーム法が好ましい。
【0210】
また遺伝子治療剤を実際に医薬として作用させるには、DNAを直接体内に導入するインビボ(in vivo)法及びヒトからある種の細胞を取り出し体外でDNAを該細胞に導入し、その細胞を体内に戻すエクスビボ(ex vivo)法がある(日経サイエンス,1994年4月号,20-45頁、月刊薬事,36(1),23-48(1994)、実験医学増刊, 12 (15)(1994))。
【0211】
例えば、該遺伝子治療剤がインビボ法により投与される場合は、疾患、症状等に応じ、静脈、動脈、皮下、皮内、筋肉内等、適当な投与経路により投与される。またインビボ法により投与する場合は、該遺伝子治療剤は一般的には注射剤等とされるが、必要に応じて慣用の担体を加えてもよい。また、リポソームまたは膜融合リポソーム(センダイウイルス−リポソーム等)の形態にした場合は、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤等のリポソーム製剤とすることができる。
【0212】
配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列または該配列の部分配列に相補的なヌクレオチド配列は、いわゆるアンチセンス治療に用いることができる。アンチセンス分子は、配列表の配列番号1、3及び5に示されるヌクレオチド配列から選択されるヌクレオチド配列の一部に相補的な、通常15乃至30merからなるDNA、もしくはそのホスホロチオエート、メチルホスホネートまたはモルフォリノ誘導体などの安定なDNA誘導体、2’−O−アルキルRNAなどの安定なRNA誘導体として用いられ得る。そのようなアンチセンス分子を、微量注入、リポソームカプセル化により、あるいはアンチセンス配列を有するベクターを利用して発現させるなど、本発明の技術分野において周知の方法で、細胞に導入することができる。このようなアンチセンス療法は、配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列がコードする蛋白質の活性が増加しすぎることによって引き起こされる病気の治療に有用である。
【0213】
また、二本鎖の短鎖RNA(siRNA)を用いる方法を挙げることもできる(「ジーンズ・アンド・デヴェロップメンツ(Genes and Developments)」)、2001年1月15日、第15巻、第2号、p.188−200)。例えば、DC-STAMP遺伝子に対するsiRNAを作製し、文献記載の方法に従って導入することによって、DC-STAMPの過剰発現によって引き起こされる骨代謝異常に起因する疾患の治療剤とすることができる。
【0214】
上記アンチセンスオリゴヌクレオチド及び/又はsiRNAを含む医薬として有用な組成物は、医薬として許容できる担体の混合などの公知の方法によって製造され得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドを含む医薬の担体と製造方法の例は、Applied Antisense Oligonucleotide Technology(1998 Wiley−Liss、Inc.)に記載されている。アンチセンスオリゴヌクレオチド及び/又はsiRNAを含む製剤は、それ自体あるいは適宜の薬理学的に許容される、賦形剤、希釈剤等と混合し、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤若しくはシロップ剤等により経口的に、または、注射剤、坐剤、貼付剤、若しくは、外用剤等により非経口的に投与することができる。これらの製剤は、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、葡萄糖、マンニトール、ソルビトールのような糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、α澱粉、デキストリンのような澱粉誘導体;結晶セルロースのようなセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルランのような有機系賦形剤;及び、軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムのような珪酸塩誘導体;燐酸水素カルシウムのような燐酸塩;炭酸カルシウムのような炭酸塩;硫酸カルシウムのような硫酸塩等の無機系賦形剤を挙げることができる。)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;タルク;コロイドシリカ;ビーズワックス、ゲイ蝋のようなワックス類;硼酸;アジピン酸;硫酸ナトリウムのような硫酸塩;グリコール;フマル酸;安息香酸ナトリウム;DLロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物のような珪酸類;及び、上記澱粉誘導体を挙げることができる。)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、及び、前記賦形剤と同様の化合物を挙げることができる。)、崩壊剤(例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンのような化学修飾されたデンプン・セルロース類を挙げることができる。)、乳化剤(例えば、ベントナイト、ビーガムのようなコロイド性粘土;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムのような金属水酸化物;ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウムのような陰イオン界面活性剤;塩化ベンザルコニウムのような陽イオン界面活性剤;及び、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルのような非イオン界面活性剤を挙げることができる。)、安定剤(メチルパラベン、プロピルパラベンのようなパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾールのようなフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;及び、ソルビン酸を挙げることができる。)、矯味矯臭剤(例えば、通常使用される、甘味料、酸味料、香料等を挙げることができる。)、希釈剤等の添加剤を用いて周知の方法で製造される。
【0215】
これらの医薬を患者へ導入する方法については、上記に加えてコロイド分散系を用いることができる。コロイド分散系は化合物の生体内の安定性を高める効果や、特定の臓器、組織または細胞へ化合物を効率的に輸送する効果が期待される。コロイド分散系は、通常用いられるものであれば限定しないが、高分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、及び水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル及びリポソームを包含する脂質をベースとする分散系を挙げる事ができ、好ましくは、特定の臓器、組織または細胞へ化合物を効率的に輸送する効果のある、複数のリポソーム、人工膜の小胞である(Mannino et al.,Biotechniques, (1988)6,682;Blume and Cevc, Biochem.et Biophys.Acta, (1990)1029, 91;Lappalainen et al., Antiviral Res., (1994)23, 119;Chonn and Cullis,Current Op.Biotech., (1995)6, 698)。
【0216】
0.2−0.4 μmのサイズ範囲をとる単膜リポソームは、巨大分子を含有する水性緩衝液のかなりの割合を被包化し得、化合物はこの水性内膜に被胞化され、生物学的に活性な形態で脳細胞へ輸送される(Fraley et al., Trends Biochem.Sci., (1981)6, 77 )。リポソームの組成は、通常、脂質、特にリン脂質、とりわけ相転移温度の高いリン脂質を1種またはそれ以上のステロイド、特にコレステロールと通常複合したものである。リポソーム生産に有用な脂質の例は、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、スフィンゴ脂質、ホスファチジルエタノールアミン、セレブロシド及びガングリオシドのようなホスファチジル化合物を包含する。特に有用なのはジアシルホスファチジルグリセロールであり、ここでは脂質部分が14−18の炭素原子、特に16−18の炭素原子を含有し、飽和している(14−18の炭素原子鎖の内部に二重結合を欠いている)。代表的なリン脂質は、ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン及びジステアロイルホスファチジルコリンを包含する。
【0217】
リポソームを包含するコロイド分散系の標的化は、受動的または能動的のいずれかであってもよい。受動的な標的化は、洞様毛細血管を含有する臓器の網内系細胞へ分布しようとするリポソーム本来の傾向を利用することによって達成される。一方、能動的な標的化は、例えば、ウイルスの蛋白質コート(Morishita et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA, (1993)90, 8474)、モノクローナル抗体(またはその適切な結合部分)、糖、糖脂質または蛋白質(またはその適切なオリゴペプチドフラグメント)のような特定のリガンドをリポソームへ結合させること、または天然に存在する局在部位以外の臓器及び細胞型への分布を達成するためにリポソームの組成を変えることによってリポソームを修飾する手法等を挙げる事ができる。標的化されたコロイド分散系の表面は様々なやり方で修飾され得る。リポソームで標的したデリバリーシステムでは、脂質二重層との緊密な会合において標的リガンドを維持するために、リポソームの脂質二重層へ脂質基が取込まれ得る。脂質鎖を標的リガンドと結びつけるために様々な連結基が使用され得る。本発明のオリゴヌクレオチドのデリバリーが所望される細胞の上に支配的に見出される特定の細胞表面分子に結合する標的リガンドは、例えば、(1)デリバリーが所望される細胞によって支配的に発現される特定の細胞受容体と結合している、ホルモン、成長因子またはその適切なオリゴペプチドフラグメント、または(2)標的細胞上で支配的に見出される抗原性エピトープと特異的に結合する、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体、またはその適切なフラグメント(例えば、Fab ;F (ab')2 )、であり得る。2 種またはそれ以上の生物活性剤は、単一のリポソーム内部で複合し、投与することもできる。内容物の細胞内安定性及び/又は標的化を高める薬剤をコロイド分散系へ追加することも可能である。
【0218】
その使用量は症状、年齢等により異なるが、経口投与の場合には、1回当り下限1mg(好適には、30mg)、上限2000mg(好適には、1500mg)を、注射の場合には、1回当り下限0.1mg(好適には、5mg)、上限1000mg(好適には、500mg)を皮下注射、筋肉注射または静脈注射によって投与することができる。
【実施例】
【0219】
以下、本発明を参考例及び実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0220】
参考例1. RAW-D細胞およびRAW-N細胞の樹立
a)限界希釈培養法によるRAW-D細胞およびRAW-N細胞の取得
マウス単球由来細胞株RAW264.7を可溶性RANKLで刺激すると、酒石酸耐性酸ホスファターゼ(以下「TRAP」という)やカテプシンKなどの破骨細胞分化マーカーの遺伝子発現が強く誘導されることが知られている(Hsu et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (1999)96, 3540-3545)。従って、RAW264.7細胞はRANKLで刺激することにより、破骨細胞へと分化誘導され得ると考えられている。そこで、RAW264.7細胞の親株であるRAW264細胞から、RANKLおよびTNF-αに対する感受性がより強い、すなわちこれらの刺激により破骨細胞に分化しやすいサブクローン細胞の取得を試みた(Watanabe et al., J. Endocrinol., (2004)180, 193-201)。なお、RAW264細胞はEuropean Collection of Cell Cultureから購入することができる(Catalog No. 85062803)。RAW264細胞を10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地を用いて、常法に従い限界希釈して96穴プレートに100μl播種した。10〜14日間培養し、形成されたコロニーを採取した。各コロニーについて10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で4.5×104細胞/mlに調製したものを96穴プレートに150μl/穴まき、ヒトRANKL(ぺプロテック社製)を終濃度20 ng/mlおよびヒトTNF-α(ぺプロテック社製)を終濃度1 ng/mlとなるように添加した。3日間培養した後、Leukocyte Acid Phosphatase kit(シグマ社製)を用いて、添付のプロトコールに従いTRAP染色を行い、TRAP陽性多核破骨細胞形成の有無を確認した。この一連の限界希釈培養法によるクローニング操作は、それぞれのコロニーにつき2回繰り返した。
その結果、RANKLおよびTNF-α刺激により効率よく破骨細胞に分化するRAW-D細胞、並びに、RANKLおよびTNF-α刺激により全く破骨細胞に分化しないRAW-N細胞を取得した。
【0221】
b)TRAP染色によるRAW-D細胞及びRAW-N細胞の破骨細胞分化指向性の検討
RAW-D細胞およびRAW-N細胞が、RANKLおよびTNF-αといった破骨細胞誘導作用を持つ物質で刺激した時にどのように反応するかを調べた。RAW-D、RAW-NおよびRAW264を、10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で4.5×104細胞/mlに調製した後96穴プレートに150μl/穴まき、ヒトTNF-α(ぺプロテック社製)を終濃度1 ng/ml、ヒトRANKL(ぺプロテック社製)を終濃度10、20、40、80 ng/mlとなるようにそれぞれ添加した。3日間培養した後、Leukocyte Acid Phosphatase kit(シグマ社製)を用いて、添付のプロトコールに従いTRAP染色を行い、形成されたTRAP陽性多核破骨細胞数を計測した。その結果、RAW-Dでは添加したRANKLの濃度依存的にTRAP陽性多核破骨細胞が形成された(図1)。一方、RAW-Nおよび親株細胞であるRAW264においては、RANKL添加によるTRAP陽性破骨細胞形成は認められなかった。
【0222】
実施例1. RAW-DおよびRAW-NにおけるマウスDC-STAMPのmRNA発現(ノーザンブロット解析)
a)全RNAの抽出
RAW-DあるいはRAW-Nを10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で7×104細胞/mlに調製したものを24穴プレートに500μl/穴まき、ヒトRANKL(ぺプロテック社製)を終濃度20 ng/ml、ヒトTNF-α(ぺプロテック社製)を終濃度2 ng/mlおよびマウスMIP-1α(ぺプロテック社製)を終濃度1 ng/mlとなるように加え、3日間培養した。またヒトRANKL(ぺプロテック社製)、ヒトTNF-αおよびマウスMIP-1α未添加の培養も同様に行った。
培養終了後、全RNA抽出用試薬(TRIZol試薬:インビトロジェン社製)を添付のプロトコールに従って用いることにより、それぞれの条件で培養したRAW-DおよびRAW-N より全RNAを抽出した。回収した全RNAは-80℃に保存した。
【0223】
b)全RNAの電気泳動およびブロッティング
回収した全RNAをRNA試料緩衝液(1×MOPS緩衝液(1×MOPS緩衝液は20 mM MOPS、8 mM 酢酸ナトリウム、1 mM EDTAを含む)、50% ホルムアミド、18μg/ml ブロモフェノールブルー、5.8% ホルムアルデヒド、5% グリセロール)で0.5μg/μlに調製し、65℃、15分間保温した後、氷上で5分間急冷した。この試料液20μlを、ホルムアルデヒドを含む電気泳動用1%アガロースゲル(1×MOPS緩衝液、1.2% アガロース(シグマ社製)、6% ホルムアルデヒド)のひとつのウェルへ注入し、電気泳動した。電気泳動は、1×MOPS緩衝液の入ったサブマリン電気泳動層中、100Vで約3時間通電することにより行った。
電気泳動終了後、アガロースゲル中のRNAをキャピラリートランスファー法(Maniatis, T. et al., in "Molecular Cloning A Laboratory Manual" Cold Spring Harbor Laboratory, NY, (1982))に従ってナイロンメンブレン(ハイボンドN+、アマシャム・ファルマシア社製)に一晩かけて転写した(転写用溶液は20×SSCを用いた)。このメンブレンを2×SSCで5分間洗浄し、風乾させ、クロスリンク用紫外線照射装置(Stratalinker 2400、ストラタジーン社製)で紫外線を照射(300 mJ/cm2)してRNAを固定した。
【0224】
c)プローブの調製
マウスDC-STAMPΔT7 cDNA(配列表の配列番号:5、GenBankアクセッション番号:AB109561)のヌクレオチド番号457乃至1208に示されるヌクレオチド配列が、pGEM-T Easyベクター(プロメガ社製)のTAクローニング部位に挿入されているプラスミドDNAを、TAクローニング部位近傍に存在するNcoI部位を利用してNcoI(宝酒造)消化により直鎖状DNAにした。DIG RNA labeling mix(ロッシュ・ダイアグノスティクス社製)およびSP6 RNA polymerase(ロッシュ・ダイアグノスティクス社製)を添付のプロトコールに従って用いることにより、DIG(ジゴキシゲニン)で標識されたアンチセンスRNAプローブを調製した。このプローブ調製液に20ユニット RNase-free DNase I(ロッシュ・ダイアグノスティクス社製)を添加し、鋳型DNAを分解した。なお調製したRNAプローブは、配列表の配列番号3(マウスDC-STAMP cDNA)のヌクレオチド番号457乃至1078および1247乃至1376の配列に相当するため、DC-STAMPおよびDC-STAMPΔT7の両方のmRNAを検出可能である。
【0225】
d)ハイブリダイゼーション
b)で作成したメンブレンを6 mlのハイブリダイゼーション溶液(DIG Easy Hyb Granulesを添付プロトコールに従って再蒸留水に溶解したもの:ロッシュ・ダイアグノスティクス社製)中に入れて65℃で15分インキュベーション(プレハイブリダイゼーション)した後、DIG標識RNAプローブを含む6 mlのハイブリダイゼーション溶液中で65℃、16時間インキュベートした。その後、メンブレンを2×SSC、0.1% SDSを含む溶液中、室温で5分間、2回洗浄し、さらに0.5×SSC,0.1% SDSを含む溶液中、65℃で30分間、2回洗浄した。次にメンブレンをBlocking溶液(Blocking reagentを添付プロトコールに従ってマレイン酸バッファーに溶解したもの:ロッシュ・ダイアグノスティクス社製)で30分処理した後、アルカリホスファターゼ標識抗ジゴキシゲニンFab断片(0.075 units/ml)(ロシュ・ダイアグノスティクス社製)を含むBlocking溶液で30分処理した。その後、洗浄バッファー(5 mMマレイン酸バッファーpH7.5、150 mM NaCl、0.3% Tween 20)で15分間、3回洗浄し、発光基質であるCDP-Star(ロシュ・ダイアグノスティクス社製)を添加し、ルミノ・イメージアナライザー(富士写真フィルム社製、LAS-1000 plus)による解析を行った。
【0226】
その結果、RAW-Dでは、RANKLおよびTNF-αを添加しない場合にはマウスDC-STAMPはほとんど発現しないが、RANKLおよびTNF-αを添加すると、マウスDC-STAMPの発現量が著明に上昇することが明らかとなった(図2)。マウスDC-STAMPの発現量は、さらにMIP-1αを添加しても増加しなかった。
【0227】
一方、RAW-Nでは、RANKLおよびTNF-αの添加の有無に関わらず、DC-STAMPの発現はほとんど認められなかった。なお、コントロールとしてマウスGlyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)の発現量を同様に求めた。
【0228】
実施例2. RAW-DにおけるマウスDC-STAMPのmRNA発現(RT-PCR解析)
RAW-Dを10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で7×104細胞/mlに調製したものを24穴プレートに500μl/穴まき、ヒトRANKL(ぺプロテック社製)を終濃度20 ng/ml、ヒトTNF-α(ぺプロテック社製)を終濃度2 ng/mlおよびマウスMIP-1α(ぺプロテック社製)を終濃度1 ng/mlとなるように加え、0、4、8、16、32、48、72時間培養した。
【0229】
次いで、全RNA抽出用試薬(TRIZol試薬:インビトロジェン社製)を添付のプロトコールに従って用いることにより、それぞれの培養時点におけるRAW-Dより全RNAを抽出した。回収した全RNAは使用時まで-80℃に保存した。1μg全RNAおよび1μl oligo(dT)18プライマー(0.5μg/μl)をH2Oで11μlにし、70℃で10分間加熱した後、4℃で保温した。この溶液に4μl 5×1st Strand Buffer(インビトロジェン社製)、1μl 10mM dNTPs、2μl 0.1M dithiothreitol、1μl Superscript II逆転写酵素(200U/μl、インビトロジェン社製)、1μl H2Oを加えて全量を20μlとし、42℃で1時間反応させた後、70℃で10分間加熱し、4℃で保温した。
【0230】
このようにして作製した一本鎖cDNAを以下のプライマーの組み合わせで増幅した。
PCR条件:
マウスDC-STAMPおよびマウスDC-STAMPΔT7増幅用プライマー:
5’-aaaacccttg ggctgttctt-3’(mDC-STAMP-F:配列表の配列番号7)
および
5’-cttcgcatgc aggtattcaa-3’(mDC-STAMP-R:配列表の配列番号8)、
マウスカテプシンK増幅用プライマー:
5’-gagggccaac tcaagaagaa-3’(mcatK-F:配列表の配列番号9)
および
5’-gccgtggcgt tatacataca-3’(mcatK-R:配列表の配列番号10)、
マウスTRAP増幅用プライマー:
5’-cagctgtcct ggctcaaaa-3’(mTRAP-F:配列表の配列番号11)
および
5’-acatagccca caccgttctc-3’(mTRAP-R:配列表の配列番号12)、
マウスGAPDH増幅用プライマー:
5’-aaacccatca ccatcttcca-3’(mGAPDH-F:配列表の配列番号13)
および
5’-gtggttcaca cccatcacaa-3’(mGAPDH-R:配列表の配列番号14)。
【0231】
サーマルサイクラー(ジーンアンプPCRシステム9700、(株)パーキンエルマージャパン・アプライドバイオシステムズ事業部製)を使用して以下の条件でPCRを行った。なお反応にあたっては、Platinum Taq DNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)を使用した。まず各8 pmolのプライマー、20 ng 一本鎖cDNA、0.5μlの 10×Reactionバッファー、0.2μlの50 mM MgCl2、0.4μlの各2.5 mM dNTP、0.05μlの5 units/μl Taq DNAポリメラーゼを加え、蒸留水で5μlとして反応液を調製した。この反応液を、94℃2分加熱し、94℃で0.5分、65℃で1分、72℃で1分の温度サイクルを30回繰り返した後72℃10分加熱し、4℃で保温した。なお、このときの反応液全量を2.0%アガロースゲルで電気泳動した。
【0232】
DC-STAMP遺伝子の発現はRANKL、TNF-αおよびMIP-1αの添加から、8時間後より上昇し始め、発現量の上昇は72時間後まで持続した(図3)。第3エクソンが短いスプライシングバリアントであるDC-STAMPΔT7も、RANKL、TNF-αおよびMIP-1α添加から16時間後より発現亢進が認められた。また、破骨細胞のマーカー分子として知られているカテプシンKおよびTRAP遺伝子も、16時間後より発現亢進が確認された。図3において、上側の数値は、RANKL、TNF-αおよびMIP-1α添加後の経過時間数を、また、右側にはそれぞれの遺伝子についてPCR反応により増幅された産物のサイズを塩基対で示している。
【0233】
実施例3. マウス骨髄由来初代培養細胞におけるマウスDC-STAMPのmRNA発現(RT-PCR解析)
マウス骨髄由来初代培養細胞を、活性型ビタミンD3存在下で培養すると、TRAP陽性多核破骨細胞が多数出現する(Takahashi et al., Endocrinology, (1988)122, 1373-1382)。
【0234】
6週齢雄性DDYマウスをエーテル麻酔下頚椎脱臼にて安楽死させ、大腿骨および脛骨を摘出した。軟組織を除去した後、大腿骨あるいは脛骨の両端を切り落とし、25ゲージの注射針のついた注射筒を用いて血清を含まないα-MEM培地を骨髄中に注入し、骨髄細胞を採取した。細胞数を計測後、15%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で2 ×106細胞/mlに調製したものを24穴プレートに500μl/穴まき、活性型ビタミンD3(バイオモル社製)を終濃度1×10-8 Mとなるように加え、1、3、5、6日間培養した。
【0235】
次いで、全RNA抽出用試薬(TRIZol試薬:インビトロジェン社製)を添付のプロトコールに従って用いることにより、それぞれの培養時点における細胞より全RNAを抽出した。回収した全RNAは使用時まで-80℃に保存した。
【0236】
RT-PCR反応は、RNA LA PCR kit(AMV)Ver1.1(タカラバイオケミカルズ社製)を使用して行った。まず、2μl 25mM MgCl2、1μl 10×RNA PCR Buffer、1μl dNTP Mix(各10mM)、0.25μl RNase Inhibitor(40 U/μl)、0.5μl 逆転写酵素(5 U/μl)、0.5μl Oligo dT-Adaptor primer(2.5 pmol/μl)、1μg全RNAを加え、RNase Free dH2Oで10μlとして反応液を調製した。この反応液を、50℃で25分間加熱した後、99℃で5分間加熱し、4℃にて保温した。この一本鎖cDNAを実施例2に記載のプライマーの組み合わせで増幅した。
【0237】
サーマルサイクラー(ジーンアンプPCRシステム9700)を使用して以下の条件でRT-PCRを行った。cDNAを含む反応液5μlに、1.5μl 25mM MgCl2、2μl 10×LA PCR Buffer II (Mg2+ free)、0.125μl Takara LA Taq (5 U/μl)、プライマーセット(終濃度各 1μM)を加え、再蒸留水で25μlとして、反応液を調製した。この反応液を94℃で2分間加熱した後、94℃で30秒、60℃で30秒、72℃で30秒の温度サイクルを25回繰り返し、4℃で保温した。その後、反応液9μl分を2.0 %アガロースゲルに電気泳動した。
【0238】
その結果、DC-STAMP遺伝子は、活性型ビタミンD3添加後1日目ではわずかに発現しているだけだったが、単核の破骨細胞前駆細胞が形成される3日目では顕著に発現し、多核化が盛んに起こる5、6日目でも顕著な発現が維持された(図4)。
【0239】
また、DC-STAMPΔT7はDC-STAMPよりも発現量は低いものの、発現量の変化はDC-STAMPと同様の時間経過を示した。図4において、上側の数値は、活性型ビタミンD3添加後の経過日数を示している。
【0240】
実施例4. ウサギ抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体の作製
マウスDC-STAMPアミノ酸配列(配列表の配列番号:4、GenBankアクセッション番号:AB109560)において、第6番目から第7番目の膜貫通ドメインの間に位置する、アミノ酸番号330乃至343に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを元に、マウスDC-STAMPタンパク質の部分ペプチドの作製を試みた。前述配列のN末端にシステイン残基を1つ付加した部分ペプチド:
Cys Ser Leu Pro Gly Leu Glu Val His Leu Lys Leu Arg Gly Glu(配列表の配列番号:15)
を合成した。このペプチドを抗原刺激性キャリアータンパク質であるKLH(Keyhole limpet hemocyanin)に、MBS(マレイミドベンゾイルオキシコハク酸イミド)法によりコンジュゲートした後ウサギに免疫し、常法に従いウサギ抗血清を得た。この抗血清を、免疫に使用した部分ペプチドを練り込んだペプチドアフィニティーカラムを用いて精製することにより、ウサギ抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体を得た。なお、DC-STAMPΔT7(GenBankアクセッション番号AB109561)もこのペプチド配列を持つため、本抗体はDC-STAMPおよびDC-STAMPΔT7の両方に結合すると考えられた。さらに、このペプチド配列を、ヒトDC-STAMPアミノ酸配列(配列表の配列番号:2、GenBank アクセッション番号:NM_030788)におけるアミノ酸番号330乃至343に示される配列と比較したところ、334番目のLeu(マウス)がPhe(ヒト)に、341番目のArg(マウス)がHis(ヒト)に変化しているのみであったため、本抗体がヒトDC-STAMPにも結合する可能性が高いと考えられた。
【0241】
実施例5. 新生仔マウス脛骨由来破骨細胞における免疫染色
a) 新生仔マウス脛骨由来破骨細胞の採取
1日齢DDYマウスより脛骨を摘出し、軟組織を除去した後、15%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地中にて解剖用ハサミを用いてミンチ状にした。その後やや激しくピペッティングすることにより細胞をほぐして懸濁させ、チェンバースライド(ナルジェ・ヌンクインターナショナル社製)に播種した。一時間培養後、スライドに接着した多核細胞を破骨細胞として使用した。
【0242】
b) 免疫染色によるDC-STAMPタンパク質の発現
a)により得られた破骨細胞を、4%パラホルムアルデヒド溶液を用いて、室温にて20分間固定反応を行い、リン酸緩衝液(pH7.4)により4回洗浄後、3%ヤギ血清を含むリン酸緩衝液(pH7.4)により室温で30分間ブロッキング反応を行った。ブロッキング液を除いた後、実施例4において作製したウサギ抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体 10μg/mlを含むリン酸緩衝液(1%ウマ血清を含む)を添加し、室温で30分間反応させた。また、免疫されていないウサギIgG抗体(ダコ・ジャパン社製)を陰性対照として用意し、同様の操作を行った。1%ウマ血清を含むリン酸緩衝液で4回洗浄し、ビオチン化ヤギ抗ウサギIgG抗体(ベクター・ラボラトリーズ社製)を二次抗体として用い、室温で30分間細胞と反応させた。リン酸緩衝液で4回洗浄後、ABC-APキット(ベクター・ラボラトリーズ社製)を添付のプロトコールに従って用いることにより、発色反応を行った。この結果、抗DC-STAMP抗体で反応させた破骨細胞において強い染色が認められたことから、新生仔マウス脛骨由来破骨細胞においてDC-STAMPが発現していることが明らかとなった。なお、陰性対照のコントロール抗体を用いた場合では、破骨細胞は全く染色されなかった。
【0243】
実施例6. 新生仔マウス下顎骨組織における免疫染色
a) 新生仔マウス下顎骨組織標本の作製
1日齢DDYマウスをエーテル麻酔し、4%パラホルムアルデヒドを含むリン酸緩衝液(pH 7.4)を左心室より注入し灌流固定した。下顎骨を摘出し、前述の4%パラホルムアルデヒドを含むリン酸緩衝液(pH 7.4)に漬け、4℃にてさらに12時間固定反応を行い、リン酸緩衝液にて3回洗浄後、更にリン酸緩衝液にて4℃で一晩洗浄を行った。その後10%EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を用いて4℃、1週間脱灰反応を行った。30%スクロースを含むリン酸緩衝液中4℃で一晩洗浄後、OCTコンパウンド(サクラ・ファインテック社製)を用いて包埋し、ドライアイス含有イソペンタンに漬け凍結させた。こうして作製された包埋ブロックを、クリオミクロトーム(ライカ社製)を用いて10μmに薄切し、下顎骨組織切片を作製した。
【0244】
b) 免疫染色によるDC-STAMPタンパク質の発現
a)により作製された下顎骨組織切片から、風乾により水分を除去した後、0.3%過酸化水素を含むメタノールと室温で30分間反応させ内因性ペルオキシダーゼ活性を消失させた。リン酸緩衝液で3回洗浄後(室温・各5分)、10%ロバ血清を含むリン酸緩衝液を用いて室温で30分間反応させブロッキングを行った。ブロッキング液を除去し、実施例4において作製したウサギ抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体 10μg/mlを含むリン酸緩衝液(2%ロバ血清を含む)を添加し、湿潤箱に入れ4℃で一晩反応させた。また、免疫されていないウサギIgG抗体(ダコ・ジャパン社製)を陰性対照として用意し、同様の操作を行った。リン酸緩衝液で3回洗浄後(室温・各5分)、ビオチン化ロバ抗ウサギIgG抗体(ジャクソン・イムノリサーチ・ラボラトリーズ社製)をリン酸緩衝液で200倍希釈したものを二次抗体として用い、室温で1時間反応させ、リン酸緩衝液で3回洗浄後(室温・各5分)、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン複合体(ダコ・ジャパン社製)を蒸留水で300倍に希釈したものと室温で30分間反応させた。リン酸緩衝液で3回洗浄後(室温・各5分)、DAB substrateキット(ベクター・ラボラトリーズ社製)を添付のプロトコールに従って用いることにより、発色反応を行った。その結果、抗DC-STAMP抗体で反応させた下顎骨組織切片では、破骨細胞においてのみ強い染色が認められ、新生仔マウス下顎骨由来破骨細胞でDC-STAMPが発現していることが明らかとなった。なお、陰性対照のコントロール抗体を用いた場合では、いずれの細胞も染色されなかった。
【0245】
実施例7. RAW-D細胞のsiRNAによる破骨細胞分化抑制
a)マウスDC-STAMP遺伝子に対するsiRNAの作製
センス鎖、アンチセンス鎖それぞれの3’端に、ウリジンが2塩基(UU)付加された各マウスDC-STAMP siRNAは、Silencer siRNA constructionキット(アンビオン社製)を用い、添付のプロトコールに従って転写により調製した。siRNA調製に必要なテンプレートオリゴDNAセットは次の通りである。
【0246】
まず、第3エクソンの5’側(ヒトDC-STAMP cDNA配列より推定されたアミノ酸配列において、第7膜貫通領域に相当)に対するsiRNA及び変異を入れたsiRNAの作製には、次のテンプレートオリゴDNAの組み合わせを用いた。
siRNA #135テンプレート:
5’-aatactagga ttgttgtctt ccctgtctc-3’(mDC-STAMP-#135-AS:配列表の配列番号16)
および
5’-aagaagacaa caatcctagt acctgtctc-3’(mDC-STAMP-#135-S:配列表の配列番号17)、
変異siRNA #135テンプレート:
5’-aatactagga gcgttgtctt ccctgtctc-3’(mDC-STAMP-#135-Mut-AS:配列表の配列番号18、ヌクレオチド番号11はtをgに、12はtをcに変異させている。)
および
5’-aagaagacaa cgctcctagt acctgtctc-3’(mDC-STAMP-#135-Mut-S:配列表の配列番号19、ヌクレオチド番号12に示されるヌクレオチドはaをgに、13に示されるヌクレオチドはaをcに変異させている。)。
【0247】
また、第3エクソンにおいて上記siRNA(#135)の部分より3’側に位置するマウスDC-STAMPに特有のcDNA配列部分に対するsiRNA及び変異siRNAの作製には、次のテンプレートオリゴDNAの組み合わせを用いた。
siRNA *6テンプレート:
5’-aattctcgtg tcagtctcct tcctgtctc-3’(mDC-STAMP-*6-AS:配列表の配列番号20)
および
5’-aaaaggagac tgacacgaga acctgtctc-3’(mDC-STAMP-*6-S:配列表の配列番号21)、
変異siRNA *6テンプレート:
5’-aattctcgta ccagtctcct tcctgtctc-3’(mDC-STAMP-*6-Mut-AS:配列表の配列番号22、ヌクレオチド番号9に示されるヌクレオチドはgをaに、10に示されるヌクレオチドはtをcに変異させている。)
および
5’-aaaaggagac tggtacgaga acctgtctc-3’(mDC-STAMP-*6-Mut-S:配列表の配列番号23、ヌクレオチド番号13に示されるヌクレオチドはaをgに、ヌクレオチド番号14に示されるヌクレオチドはcをtに変異させている。)
【0248】
b)RAW-D細胞のsiRNAによる破骨細胞分化抑制
RAW-Dを10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で4.5×104細胞/mlに調製したものを96穴プレートに80μl/穴播種した。翌日、OPTI-MEM I培地(インビトロジェン社製)80μlに培地交換し、a)において作製したDC-STAMP siRNAおよび変異siRNAを終濃度0.1、1、5nMとなるように調製し、トランスフェクション試薬であるsiPORT Lipid(アンビオン社製)を用い、添付のプロトコールに従い細胞にトランスフェクションした(20μl添加)。また、siRNAを含まない、トランスフェクション試薬のみのコントロール(モック)も用意した。CO2インキュベーター中で4時間トランスフェクションした後、ヒトRANKL(ぺプロテック社製)40 ng/ml、ヒトTNF-α(ぺプロテック社製)2 ng/mlおよび20%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地を100μl添加した。3日間培養後、Leukocyte Acid Phosphatase kit(シグマ社製)を用いて、添付のプロトコールに従いTRAP染色を行い、形成されたTRAP陽性多核破骨細胞数を計測した。DC-STAMP siRNA#135の添加濃度が、0.1、1、5nMのいずれの濃度でも、変異siRNA #135を添加した場合と異なり有意に破骨細胞形成を抑制した。変異 siRNAの添加濃度が5nMの場合には若干の破骨細胞形成抑制効果が認められたが、変異 siRNAの添加濃度が0.1、1nMでは破骨細胞形成抑制効果は認められなかった。その結果、モックコントロール(siRNA濃度=0nM)およびネガティブコントロールである変異siRNAに比べ、いずれのDC-STAMP siRNAも、RANKLおよびTNF-αにより誘導されるRAW-DのTRAP陽性多核破骨細胞形成を濃度依存的に抑制した(図5A、図5B)。このように、siRNAによりDC-STAMP遺伝子の発現を抑制すると、RAW-Dの破骨細胞への分化が抑制されたことから、DC-STAMPが破骨細胞分化に必須な因子であることが示唆された。
【0249】
実施例8. マウスDC-STAMPオープンリーディングフレーム(ORF)cDNAクローンの取得
a)RAW-Dからの全RNAの抽出
RAW-Dを10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で7×104細胞/mlに調製したものを24穴プレートに500μl/穴まき、ヒトRANKL(ぺプロテック社製)を終濃度20 ng/ml、ヒトTNF-α(ぺプロテック社製)を終濃度2 ng/mlおよびマウスMIP-1α(ぺプロテック社製)を終濃度1 ng/mlとなるように加え、3日間培養した。
次いで、全RNA抽出用試薬(TRIZol試薬:インビトロジェン社製)を添付のプロトコールに従って用いることにより、RAW-Dより全RNAを抽出した。なお、回収した全RNAは-80℃に保存した。
【0250】
b)ファーストストランドcDNA合成
1μg全RNAおよび1μl oligo(dT)18プライマー(0.5μg/μl)をH2Oで11μlにし、70℃で10分間加熱した後、4℃で保温した。この溶液に4μl 5×1st Strand Buffer(インビトロジェン社製)、1μl 10mM dNTPs、2μl 0.1M dithiothreitol、1μl Superscript II逆転写酵素(200U/μl、インビトロジェン社製)、1μl H2Oを加えて全量を20μlとし、42℃で1時間反応させた後、70℃で10分間加熱し、4℃で保温した。
【0251】
c)PCR反応
マウスDC-STAMPおよびDC-STAMPΔT7のORF cDNAをPCRで増幅するためのプライマーとして
5’-tttgtcgaca tgaggctctg gaccttgggc accagtattt t-3’(mDC-STAMP-cDNA-F:配列表の配列番号24)
および
5’-tttgcggccg ctcatagatc atcttcattt gcagggattg t-3’(mDC-STAMP-cDNA-R:配列表の配列番号25)、
の配列を有するオリゴヌクレオチドを常法に従って合成した。このプライマーの組み合わせを用い、サーマルサイクラー(ジーンアンプPCRシステム9700)を使用して以下の条件でPCRを行った。プライマー(終濃度各1.0μM)、5μl 10× Pyrobest PCRバッファー(宝酒造社製)、4μl 2.5mM dNTPs、1μl cDNA(b)にて作製)、再蒸留水で50μlとした。さらに0.5μlの5U/μl Pyrobest DNAポリメラーゼ(宝酒造社製)を添加し、反応液を調製した。この反応液を、まず94℃で2分間加熱した後、94℃で0.5分、60℃で0.5分、72℃で5分の温度サイクルを30回繰り返してから、72℃10分加熱し、4℃で保温した。
【0252】
d)pCI-neoベクターへのクローニング
c)で得られたPCR反応液の全量をQIAquick PCR Purification Kit(キアゲン社製)を添付のプロトコールに従って用いることにより精製した。得られたフラグメントは、制限酵素SalIおよびNotIで消化した後、同様にSalIおよびNotI消化したpCI-neo(プロメガ社製)とDNA Ligation Kit Ver.1(宝酒造社製)を用いてライゲーションし、大腸菌XL1-Blue MRF’(ストラタジーン社製)へトランスフォーメーションした。このようにして得られた大腸菌コロニーから、プラスミドpCI-neo-マウスDC-STAMPを保持する形質転換大腸菌を単離した。
【0253】
得られたプラスミドに挿入されているORF cDNAの全ヌクレオチド配列をDNAシークエンサー((株)パーキンエルマージャパン・アプライドバイオシステムズ事業部製ABIプリズム310 DNAシークエンサー)を用いて解析した結果、配列表の配列番号26に示される配列であることが判明した。このヌクレオチド配列は、NCBI GeneBankデータベースに「マウスDC-STAMP」(登録番号:AB109560)として登録されている配列のORFコード領域と同一であり、また、該ヌクレオチド配列にコードされるアミノ酸配列(配列表の配列番号27)は、マウスDC-STAMPのアミノ酸配列と100%一致していた。
【0254】
実施例9. マウスDC-STAMP蛋白強制発現による、RAW-D細胞の破骨細胞分化への影響
実施例8で得たpCI-neo-マウスDC-STAMPのプラスミドは、pCI-neo由来のCMVプロモーター支配下に、マウスDC-STAMPのオープンリーディングフレーム配列が連結されているので、このプラスミドを宿主に導入することによりマウスDC-STAMPタンパク質の発現が可能である。
【0255】
上記発現プラスミドのRAW-Dへの遺伝子導入(トランジェント・トランスフェクション)は、DEAE-デキストラン法により行った。
【0256】
pCI-neo-マウスDC-STAMPあるいは何も組み込んでいない空のpCI-neoベクターそれぞれ3μgに、10mg/ml DEAE-デキストラン溶液(プロメガ社製)50μlとOPTI-MEMI(インビトロゲン)950μlを混合したものを添加し、トランスフェクション溶液を調製した。
【0257】
血清を含まないα-MEM(10ml)で2回洗浄(200×g、5分間遠心)したRAW-D(3.0×106個)を上記トランスフェクション溶液(1ml)に懸濁した。CO2インキュベーター中(37℃)で30分間保温した後、血清を含まないα-MEM(10ml)で1回洗浄(200×g、5分間遠心)後、更に5%ウシ胎児血清を含むα-MEM(10ml)で1回洗浄を行った。200×g、10分間遠心して細胞を沈降させ、10%ウシ胎児血清を含むα-MEM(2ml)に再懸濁させた。細胞濃度を血球計算板にて測定し、4.5×104個/mlの細胞濃度に調製し、96ウェルプレートに0.15ml/穴播種し、ヒトRANKL(ぺプロテック社製)を終濃度20 ng/ml、ヒトTNF-α(ぺプロテック社製)を終濃度1 ng/mlとなるように添加し、あるいは添加せず3日間培養した後、Leukocyte Acid Phosphatase kit(シグマ社製)を用いて、添付のプロトコールに従いTRAP染色を行い、形成されたTRAP陽性多核破骨細胞数を計測した。その結果、RANKL、TNF-α非存在下ではマウスDC-STAMPタンパク質を強制発現させてもTRAP陽性多核破骨細胞が全く誘導されなかったが、RANKL、TNF-α存在下では、コントロールである空のpCI-neoベクターをRAW-Dに遺伝子導入した時に比べ、マウスDC-STAMPタンパク質を強制発現させることによりTRAP陽性多核破骨細胞の形成が有意に促進された(図6)。このことから、DC-STAMPが、破骨細胞分化を促進する因子であることが示唆された。
【0258】
実施例10. 抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体添加によるRAW-D細胞の破骨細胞分化への影響
実施例4において作製したウサギ抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体を用い、RAW-Dの破骨細胞分化への影響を検討した。
【0259】
RAW-Dを10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で4.5×104細胞/mlに調製したものを96穴プレートに150μl/穴まき、ヒトRANKL(ぺプロテック社製)を終濃度20 ng/ml、ヒトTNF-α(ぺプロテック社製)を終濃度1 ng/mlとなるように添加した。この細胞培養上清に、実施例4において作製したウサギ抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体を終濃度0、5、10、20μg/mlとなるよう添加し3日間培養した後、Leukocyte Acid Phosphatase kit(シグマ社製)を用いて、添付のプロトコールに従いTRAP染色を行い、形成されたTRAP陽性多核破骨細胞数を計測した。その結果、添加した抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体の用量依存的にTRAP陽性多核破骨細胞の形成が抑制された(図7)。なお、抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体を添加しなかった場合に比べて抗体を10μg/ml以上添加すると破骨細胞の形成の有意な抑制が認められた。
【0260】
このように、DC-STAMPおよびDC-STAMPΔT7と特異的に結合すると考えられる抗体によりRAW-DのTRAP陽性多核破骨細胞形成が抑制されたことから、DC-STAMPおよびDC-STAMPΔT7が、破骨細胞分化に深く関与していることが示唆された。
【0261】
実施例11. 抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体添加によるマウス骨髄由来初代培養細胞の破骨細胞分化への影響
6週齢雄性DDYマウスをエーテル麻酔下頚椎脱臼にて安楽死させ、大腿骨および脛骨を摘出した。軟組織を除去した後、大腿骨あるいは脛骨の両端を切り落とし、25ゲージの注射針のついた注射筒を用いて血清を含まないα-MEM培地を骨髄中に注入し、骨髄細胞を採取した。細胞数を計測後、15%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で2×106細胞/mlに調製したものを24穴プレートに500μl/穴まき、活性型ビタミンD3(バイオモル社製)を終濃度1×10-8 Mとなるように添加した。この細胞培養上清に、実施例4において作製したウサギ抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体を終濃度0、5、10、20μg/mlとなるよう添加し6日間培養した後、Leukocyte Acid Phosphatase kit(シグマ社製)を用いて、添付のプロトコールに従いTRAP染色を行い、形成されたTRAP陽性多核破骨細胞数を計測した。その結果、添加した抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体の用量依存的にTRAP陽性多核破骨細胞の形成が抑制された(図8)。なお、抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体を添加しなかった場合に比べて抗体を5μg/mlおよび20μg/mlの濃度で添加した場合において有意な抑制が認められた。このように、DC-STAMPおよびDC-STAMPΔT7と特異的に結合する抗体により、マウス骨髄細胞からのTRAP陽性多核破骨細胞形成が抑制されたことから、DC-STAMPおよびDC-STAMPΔT7は、RAW-Dのような細胞株のみならず、より生体に近い初代培養細胞の破骨細胞分化にも関与していることが明らかとなった。
【0262】
実施例12. 抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体添加による骨吸収窩形成への影響
マウス大腿骨および脛骨由来の細胞を、活性型ビタミンD3存在下象牙切片上で培養すると、破骨細胞により象牙表面が侵食され、虫食い状の骨吸収窩(ピット)が観察される(Takada et al., Bone and Mineral 17, 347-359 (1992))。
【0263】
14日齢ICRマウス(雌雄不問)をエーテル麻酔下頚椎脱臼にて安楽死させ、大腿骨および脛骨を摘出した。軟組織を除去した後、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地1mlの入った直径60mmのデッシュの中で、骨を粥状になるまでハサミで刻んだ。15ml遠心チューブに移し、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地10mlを加え、ボルテックスミキサー(エムエス機器)で30秒間攪拌後、2分間静置した。上清を回収し、細胞数を計測後、10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地で1×107細胞/mlに調製したものを、厚さ150〜200μm、直径6mmの象牙切片(呉羽化学工業にて作製)を敷いた96穴プレートに100μl/穴まき、CO2インキュベーター中で4時間培養した。その後10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地200μlに交換し、活性型ビタミンD3(シグマ社製)を終濃度1×10-8 Mとなるように添加した(非添加群も用意した)。この細胞培養上清に、実施例4において作製したウサギ抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体を終濃度0、2、6、20μg/mlとなるよう添加し4日間培養した。培養終了後、象牙の入ったプレートから培養上清を除去し蒸留水を加えて1回洗浄し、新たに蒸留水を加えた。ハンドモーター(東京中井(株)製)に接続させたポリッシングブラシ(多賀谷製作所製)を用いて象牙切片上に付着した細胞を剥離した。蒸留水にて2回洗浄した後、象牙表面上に形成されたピットを酸ヘマトキシリン液(シグマ社製)で13分間染色し、蒸留水にて2回洗浄した。象牙切片を裏返し、顕微鏡下でピット面積を計測した。ピットの総面積を測定する方法として、顕微鏡の接眼レンズに装着したマイクロメーター(10×10マス)を用い、ピットが存在する全てのマスメ(メッシュ)の数を数え、ピット面積とした。その結果、活性型ビタミンD3の添加により象牙切片上に多数のピットが形成されたが、同時に添加した抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体の用量依存的に、ピット形成が抑制された(図9)。このように、DC-STAMPおよびDC-STAMPΔT7と特異的に結合すると考えられる抗体により、マウス大腿骨・脛骨由来破骨細胞によるピット形成が抑制されたことから、DC-STAMPおよびDC-STAMPΔT7が、破骨細胞の骨吸収活性の調節にも関与していることが示唆された。
【0264】
実施例13. 巨細胞腫組織におけるヒトDC-STAMP遺伝子の発現
巨細胞腫(Giant cell tumor; GCT)は、組織学的に破骨型の多核巨細胞が多数出現する骨腫瘍であり、臨床的所見として骨溶解性の骨破壊を特徴とする(Bullough et al., Atlas of Orthopedic Pathology 2nd edition, 17.6-17.8, Lippincott Williams & Wilkins Publishers (1992))。ヒトDC-STAMP遺伝子と部分的に重複するヌクレオチド配列を有するESTプローブ(Affymetrix Genechip HG-U133 probe 221266_s_at:アフィメトリクス社製)について、GeneLogic社製のデータベース(Genesis 2003 Release 2.0)を用いてGCT組織における発現プロファイル解析を行った。また、破骨細胞分化に重要な役割を果たしているRANK(Affymetrix Genechip HG-U133 probe 207037_at:アフィメトリクス社製)およびRANKL(Affymetrix Genechip HG-U133 probe 210643_at:アフィメトリクス社製)、さらに破骨細胞分化マーカーであるカテプシンK(Affymetrix Genechip HG-U133 probe 202450_s_at:アフィメトリクス社製)およびTRAP(Affymetrix Genechip HG-U133 probe 204638_at:アフィメトリクス社製)のESTプローブについても、同様にGCT組織における発現プロファイル解析を行った。
【0265】
正常骨組織9例、GCT組織14例、GCT以外の骨腫瘍組織10例において発現量を比較したところ、正常組織に比べGCT組織においてRANKおよびRANKLの転写が特異的に亢進していることが明らかとなった(図10A)。一方、骨吸収の亢進が必ずしも起こらないと考えられるGCT以外の骨腫瘍組織では、GCTに比べRANKおよびRANKLの転写が有意に低く、正常組織と同等の発現量であったことから、GCTでは破骨細胞の形成及び活性化が促進される環境であることが示唆された。また、カテプシンKおよびTRAPの発現量を比較したところ、GCTにおいて有意に高く転写されており(図10B)、骨吸収活性を持つ破骨細胞が多数出現していることが示唆された。同様にDC-STAMPについて転写量を比較したところ、RANK、RANKL、カテプシンKおよびTRAPと同じようにGCTで特異的に高く転写されていることが明らかとなった(図11)。このことから、GCTのような骨吸収が亢進するヒトの病態においても、DC-STAMPが関与していることが示唆された。
【0266】
実施例14. 抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体添加によるヒト破骨細胞形成への影響
ヒト末梢血単核球(Human Peripheral Blood Mononuclear Cell; HPBMC)をM-CSFおよびデキサメタゾン存在下RANKLで刺激すると、TRAP陽性多核破骨細胞が形成される(Matsuzaki et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., (1998)246, 199-204)。タカラバイオ社より購入したHPBMCを、10%ウシ胎児血清を含むα-MEM培地で5×106細胞/mlに調製した後96穴プレートに100μl/穴まき、ヒトM-CSF(アール・アンド・ディーシステムズ社製)が終濃度200ng/ml、デキサメタゾン(和光純薬工業社製)が終濃度1×10-7 MおよびヒトRANKL(ぺプロテック社製)が終濃度100 ng/mlとなるように調製した培地を添加し、200μl/穴とした(RANKL非添加群も用意した)。この細胞培養上清に、実施例4において作製したウサギ抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体を終濃度0、2、6μg/mlとなるよう添加した。培養4、7、11日後に培地交換および検体の添加を行い、培養13日後、Leukocyte Acid Phosphatase kit(シグマ社製)を用いて、添付のプロトコールに従いTRAP染色を行い、形成されたTRAP陽性多核破骨細胞数を計測した。その結果、RANKL刺激により多数の破骨細胞が形成されたが、抗マウスDC-STAMPポリクローナル抗体の用量依存的にTRAP陽性多核破骨細胞の形成が抑制された(図12)。このように、抗マウスDC-STAMP抗体により、HPBMCからのTRAP陽性多核破骨細胞形成が抑制されたことから、DC-STAMPは、マウスのみならず、ヒトの破骨細胞分化にも関与していることが強く示唆された。
【配列表フリーテキスト】
【0267】
配列番号15−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの合成部分ペプチド
配列番号16−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの鋳型DNA1
配列番号17−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの鋳型DNA2
配列番号18−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの鋳型DNA3
配列番号19−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの鋳型DNA4
配列番号20−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの鋳型DNA5
配列番号21−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの鋳型DNA6
配列番号22−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの鋳型DNA7
配列番号23−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの鋳型DNA8
配列番号24−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの順方向PCRプライマー
配列番号25−人工配列の説明:マウスDC-STAMPの逆方向PCRプライマー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DC-STAMPと特異的に結合し、5乃至20μg/mlの濃度においてマウス骨髄細胞に由来する破骨細胞の形成を抑制する抗体、又は2乃至6μg/mlの濃度においてヒト末梢血単核球に由来する破骨細胞の形成を抑制する抗体。
【請求項2】
配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質及び配列表の配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質からなる群から選択される少なくとも一つの蛋白質と特異的に結合し、5乃至20μg/mlの濃度において、マウス骨髄細胞に由来する破骨細胞の形成を抑制する抗体、又は2乃至6μg/mlの濃度においてヒト末梢血単核球に由来する破骨細胞の形成を抑制する抗体。
【請求項3】
モノクローナル抗体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
ヒト化されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項5】
完全ヒト抗体であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項6】
IgG抗体であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の抗体。
【請求項7】
下記の工程1)乃至4)を含む、骨代謝異常の検出方法:
1)被験者より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
2)正常人より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
3)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分における、配列表の配列番号1、3及び5の少なくともいずれか一つに示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドの発現量を測定する工程;
4)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分との間における上記工程3)によって測定されたポリヌクレオチドの発現量の差を解析し、上記工程1)に記載の被験者の骨代謝異常を検出する工程。
【請求項8】
下記の工程1)乃至3)を含む、骨代謝異常の検出方法:
1)被験者より採取した検体における、配列表の配列番号2、4及び6の少なくともいずれか一つに示されるアミノ酸配列からなる蛋白質の発現量を測定する工程;
2)正常人から採取した検体における、上記工程1)に記載の少なくともいずれか一つの蛋白質の発現量を測定する工程;
3)上記工程1)で検出された蛋白質の発現量と上記工程2)で測定された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験者の骨代謝異常を検出する工程。
【請求項9】
骨代謝異常が骨粗鬆症、関節リウマチ及び/又は癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
骨代謝異常が骨粗鬆症であることを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項11】
骨代謝異常が関節リウマチであることを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項12】
骨代謝異常が癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項13】
ポリヌクレオチドの発現量を測定する方法が、ノーザンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、RT−PCR、リボヌクレアーゼ保護アッセイまたはランオン・アッセイであることを特徴とする、請求項7、9乃至12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
ポリヌクレオチドの発現量を測定する方法が検体由来の相補的DNA群または該DNA群の各DNAの部分配列からなるDNAで作製された遺伝子チップまたはアレイを用いることを特徴とする、請求項7、9乃至12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
蛋白質の発現量の測定方法が、該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いることを特徴とする、請求項8乃至12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項16】
蛋白質の発現量の測定方法が、ウエスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法または固相酵素免疫定量法(ELISA法)であることを特徴とする、請求項8乃至12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項17】
下記の1)及び2)を含む骨代謝異常の検出用キット:
1)配列表の配列番号2、4及び6の少なくともいずれか一つに示されるアミノ酸配列からなる蛋白質に特異的に結合し、該蛋白質を検出するための抗体;
2)上記1)に記載の抗体に結合し得る二次抗体。
【請求項18】
骨代謝異常が骨粗鬆症、関節リウマチ又は癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
骨代謝異常が骨粗鬆症であることを特徴とする、請求項17に記載のキット。
【請求項20】
骨代謝異常が関節リウマチであることを特徴とする、請求項17に記載のキット。
【請求項21】
骨代謝異常が癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、請求項17に記載のキット。
【請求項22】
請求項1乃至6に記載の抗体の少なくともいずれか一つを含有することを特徴とする、医薬組成物。
【請求項23】
骨代謝異常が骨粗鬆症、関節リウマチ又は癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
骨代謝異常が骨粗鬆症であることを特徴とする、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
骨代謝異常が関節リウマチであることを特徴とする、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項26】
骨代謝異常が癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項27】
下記の工程1)乃至4)を含むことからなる、骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を有する物質のスクリーニング方法:
1)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞より、全RNA画分を抽出する工程;
2)被験物質を添加しないで培養した哺乳動物由来培養細胞より、全RNA画分を抽出する工程:
3)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分における、下記いずれか一つに記載のポリヌクレオチドまたはその部分ポリヌクレオチドの発現量を測定する工程;
配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド及び配列番号5に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドからなる群から選択される少なくともいずれか一つのポリヌクレオチド、
4)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分との間における上記工程3)によって測定されたポリヌクレオチドの発現量の差を解析し、被験物質の、骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【請求項28】
下記の工程1)乃至4)を含むことからなる、骨代謝異常の治療効果及び/または予防効果を有する物質のスクリーニング方法:
1)被験物質を投与した哺乳動物個体より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
2)被験物質を投与しなかった哺乳動物個体より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
3)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分における、下記のいずれか一つに記載のポリヌクレオチドまたはその部分ポリヌクレオチドの発現量を測定する工程;
配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド及び配列番号5に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドからなる群から選択される少なくともいずれか一つのポリヌクレオチド、
4)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分との間における上記工程3)よって測定されたポリヌクレオチドの発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【請求項29】
下記の工程1)乃至3)を含むことからなる、骨代謝異常の治療効果及び/または予防効果を有する物質のスクリーニング方法:
1)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞における、下記のいずれか一つに記載の蛋白質またはその部分ポリペプチドの発現量を測定する工程;
配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質からなる群から選択される少なくともいずれか一つの蛋白質、
2)被験物質を添加しない培地で培養した哺乳動物由来培養細胞における、上記工程1)のいずれか一つに記載の蛋白質の発現量を該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いて検出する工程;
3)上記工程1)で検出された蛋白質の発現量と、上記工程2)で検出された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【請求項30】
下記の工程1)乃至3)を含むことからなる、骨代謝異常の治療効果及び/または予防効果を有する物質のスクリーニング方法:
1)被験物質を投与された哺乳動物個体より採取した検体における、下記のいずれか一つに記載の蛋白質またはその部分ポリペプチドの発現量を測定する工程;
配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質からなる群から選択される少なくともいずれか一つの蛋白質、
2)被験物質を投与されなかった哺乳動物個体より採取した検体における、上記工程1)のいずれか一つに記載の蛋白質またはその部分ポリペプチドの発現量を測定する工程;
3)上記工程1)で検出された蛋白質の発現量と、上記工程2)で検出された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【請求項31】
ポリヌクレオチドの発現量を測定する方法が、ノーザンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、RT−PCR、リボヌクレアーゼ保護アッセイまたはランオン・アッセイであることを特徴とする、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項32】
ポリヌクレオチドの発現量を測定する方法が動物組織または動物細胞由来の相補的DNA群または該DNA群の各DNAの部分配列からなるDNAで作製された遺伝子チップまたはアレイを用いることを特徴とする請求項27又は28に記載の方法。
【請求項33】
蛋白質の発現量の測定方法が、該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いることを特徴とする、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項1】
DC-STAMPと特異的に結合し、5乃至20μg/mlの濃度においてマウス骨髄細胞に由来する破骨細胞の形成を抑制する抗体、又は2乃至6μg/mlの濃度においてヒト末梢血単核球に由来する破骨細胞の形成を抑制する抗体。
【請求項2】
配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質及び配列表の配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質からなる群から選択される少なくとも一つの蛋白質と特異的に結合し、5乃至20μg/mlの濃度において、マウス骨髄細胞に由来する破骨細胞の形成を抑制する抗体、又は2乃至6μg/mlの濃度においてヒト末梢血単核球に由来する破骨細胞の形成を抑制する抗体。
【請求項3】
モノクローナル抗体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
ヒト化されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項5】
完全ヒト抗体であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項6】
IgG抗体であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の抗体。
【請求項7】
下記の工程1)乃至4)を含む、骨代謝異常の検出方法:
1)被験者より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
2)正常人より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
3)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分における、配列表の配列番号1、3及び5の少なくともいずれか一つに示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドの発現量を測定する工程;
4)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分との間における上記工程3)によって測定されたポリヌクレオチドの発現量の差を解析し、上記工程1)に記載の被験者の骨代謝異常を検出する工程。
【請求項8】
下記の工程1)乃至3)を含む、骨代謝異常の検出方法:
1)被験者より採取した検体における、配列表の配列番号2、4及び6の少なくともいずれか一つに示されるアミノ酸配列からなる蛋白質の発現量を測定する工程;
2)正常人から採取した検体における、上記工程1)に記載の少なくともいずれか一つの蛋白質の発現量を測定する工程;
3)上記工程1)で検出された蛋白質の発現量と上記工程2)で測定された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験者の骨代謝異常を検出する工程。
【請求項9】
骨代謝異常が骨粗鬆症、関節リウマチ及び/又は癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
骨代謝異常が骨粗鬆症であることを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項11】
骨代謝異常が関節リウマチであることを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項12】
骨代謝異常が癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項13】
ポリヌクレオチドの発現量を測定する方法が、ノーザンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、RT−PCR、リボヌクレアーゼ保護アッセイまたはランオン・アッセイであることを特徴とする、請求項7、9乃至12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
ポリヌクレオチドの発現量を測定する方法が検体由来の相補的DNA群または該DNA群の各DNAの部分配列からなるDNAで作製された遺伝子チップまたはアレイを用いることを特徴とする、請求項7、9乃至12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
蛋白質の発現量の測定方法が、該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いることを特徴とする、請求項8乃至12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項16】
蛋白質の発現量の測定方法が、ウエスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法または固相酵素免疫定量法(ELISA法)であることを特徴とする、請求項8乃至12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項17】
下記の1)及び2)を含む骨代謝異常の検出用キット:
1)配列表の配列番号2、4及び6の少なくともいずれか一つに示されるアミノ酸配列からなる蛋白質に特異的に結合し、該蛋白質を検出するための抗体;
2)上記1)に記載の抗体に結合し得る二次抗体。
【請求項18】
骨代謝異常が骨粗鬆症、関節リウマチ又は癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
骨代謝異常が骨粗鬆症であることを特徴とする、請求項17に記載のキット。
【請求項20】
骨代謝異常が関節リウマチであることを特徴とする、請求項17に記載のキット。
【請求項21】
骨代謝異常が癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、請求項17に記載のキット。
【請求項22】
請求項1乃至6に記載の抗体の少なくともいずれか一つを含有することを特徴とする、医薬組成物。
【請求項23】
骨代謝異常が骨粗鬆症、関節リウマチ又は癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
骨代謝異常が骨粗鬆症であることを特徴とする、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
骨代謝異常が関節リウマチであることを特徴とする、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項26】
骨代謝異常が癌性高カルシウム血症であることを特徴とする、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項27】
下記の工程1)乃至4)を含むことからなる、骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を有する物質のスクリーニング方法:
1)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞より、全RNA画分を抽出する工程;
2)被験物質を添加しないで培養した哺乳動物由来培養細胞より、全RNA画分を抽出する工程:
3)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分における、下記いずれか一つに記載のポリヌクレオチドまたはその部分ポリヌクレオチドの発現量を測定する工程;
配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド及び配列番号5に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドからなる群から選択される少なくともいずれか一つのポリヌクレオチド、
4)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分との間における上記工程3)によって測定されたポリヌクレオチドの発現量の差を解析し、被験物質の、骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【請求項28】
下記の工程1)乃至4)を含むことからなる、骨代謝異常の治療効果及び/または予防効果を有する物質のスクリーニング方法:
1)被験物質を投与した哺乳動物個体より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
2)被験物質を投与しなかった哺乳動物個体より採取した検体より、全RNA画分を抽出する工程;
3)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分における、下記のいずれか一つに記載のポリヌクレオチドまたはその部分ポリヌクレオチドの発現量を測定する工程;
配列表の配列番号1に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、配列番号3に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド及び配列番号5に示されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドからなる群から選択される少なくともいずれか一つのポリヌクレオチド、
4)上記工程1)由来の全RNA画分と上記工程2)由来の全RNA画分との間における上記工程3)よって測定されたポリヌクレオチドの発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【請求項29】
下記の工程1)乃至3)を含むことからなる、骨代謝異常の治療効果及び/または予防効果を有する物質のスクリーニング方法:
1)被験物質を添加した培地で培養した哺乳動物由来培養細胞における、下記のいずれか一つに記載の蛋白質またはその部分ポリペプチドの発現量を測定する工程;
配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質からなる群から選択される少なくともいずれか一つの蛋白質、
2)被験物質を添加しない培地で培養した哺乳動物由来培養細胞における、上記工程1)のいずれか一つに記載の蛋白質の発現量を該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いて検出する工程;
3)上記工程1)で検出された蛋白質の発現量と、上記工程2)で検出された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【請求項30】
下記の工程1)乃至3)を含むことからなる、骨代謝異常の治療効果及び/または予防効果を有する物質のスクリーニング方法:
1)被験物質を投与された哺乳動物個体より採取した検体における、下記のいずれか一つに記載の蛋白質またはその部分ポリペプチドの発現量を測定する工程;
配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる蛋白質からなる群から選択される少なくともいずれか一つの蛋白質、
2)被験物質を投与されなかった哺乳動物個体より採取した検体における、上記工程1)のいずれか一つに記載の蛋白質またはその部分ポリペプチドの発現量を測定する工程;
3)上記工程1)で検出された蛋白質の発現量と、上記工程2)で検出された該蛋白質の発現量の差を解析し、被験物質の骨代謝異常に対する治療効果及び/または予防効果を判定する工程。
【請求項31】
ポリヌクレオチドの発現量を測定する方法が、ノーザンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、RT−PCR、リボヌクレアーゼ保護アッセイまたはランオン・アッセイであることを特徴とする、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項32】
ポリヌクレオチドの発現量を測定する方法が動物組織または動物細胞由来の相補的DNA群または該DNA群の各DNAの部分配列からなるDNAで作製された遺伝子チップまたはアレイを用いることを特徴とする請求項27又は28に記載の方法。
【請求項33】
蛋白質の発現量の測定方法が、該蛋白質に特異的に結合する抗体またはリガンドを用いることを特徴とする、請求項29又は30に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−57682(P2011−57682A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231331(P2010−231331)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【分割の表示】特願2005−32796(P2005−32796)の分割
【原出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(307010166)第一三共株式会社 (196)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【分割の表示】特願2005−32796(P2005−32796)の分割
【原出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(307010166)第一三共株式会社 (196)
【Fターム(参考)】
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