説明

硝化および脱窒作用の活性化物質

【課題】 低コストで入手でき、汚水処理などにおいて、従来の活性化物質とは異なり、菌数を増加させることなく、細菌の持つ硝化作用および脱窒作用を短時間で最大限まで活性化させることに優れ、窒素化合物で汚染された水を浄化することのできる活性化物質を提供する。
【解決手段】 硝化菌あるいは脱窒菌の要求する適正な量の銅、鉄、リン酸、二酸化炭素、糖に加え、油脂あるいはその構成成分である脂肪酸をさらに付加することによって、硝化作用あるいは脱窒作用の活性を促進することを特徴とする活性化物質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、および硝酸態窒素を含む水質改善に広く使用される硝化菌の硝化作用、および脱窒菌の脱窒作用の活性化に関する。
【背景技術】
【0002】

モニア態窒素から徐々に硝酸態窒素まで酸化して行く過程で生産される中間体である。硝酸態窒素は富栄養化の原因にもなり、あらゆる場所の土壌、水、植物中に広く、かつ相当量存在する。一般に地表水では少なく、地下水では浅層水に多く溶存し、深層水では少ない傾向がある。亜硝酸態窒素は自然界に広く存在する有機態窒素が土壌、水中の好気性細菌によって分解されたもので、硝酸態窒素に比べ一般に非常に低濃度であるが、広く存在している。
【0003】
硝化細菌はアンモニア態窒素を亜硝酸塩に酸化する「アンモニア酸化細菌」と、亜硝酸塩を硝酸塩に酸化する「亜硝酸酸化細菌」の2つの細菌群からなる。これらの細菌は二酸化炭素(CO)を唯一の炭素源とする独立栄養細菌であり、アンモニアあるいは亜硝酸を酸化することでエネルギーを得、COの固定化を行なっている。それぞれの細菌の酸化反応を総計すると次のような化学式で表わされる。

【0004】
アンモニア態窒素はpH、温度によってその存在様式が異なる。酸性、すなわち水素イオン濃度が高い状態にあれば、ほとんどがアンモニウムイオンに変わり、アンモニアほどの毒性はない。しかし、アルカリではアンモニアとして存在するので、極めて有毒である。
【0005】
淡水ではアンモニア酸化細菌に4属5種、亜硝酸酸化細菌に3属3種が発見されている。しかし、海水では知見は少ない。
飼育環境にある水棲動物の水槽など、閉鎖系の環境では、飼育動物の糞や残餌によって、徐々にアンモニア態窒素が蓄積され、水質が悪化する。アンモニアは毒性が強いため、陸上動物の体内ではすぐに無害な尿素や尿酸に転換され、これが尿中に排泄される。しかし、魚類は体内で生成するアンモニアの殆どを鰓から、残りを尿の成分として水中に放出している。餌を構成する蛋白質重量のうち約16%が窒素原子であるが、その約半分がアンモニアとして放出されると言われている。
【0006】
水槽は無菌的な状態ではないので、好気的な硝化菌は時間が経過すれば自然に成立安定化する。天然海水を利用すれば海水から持ち込まれるが、人工海水を用いた場合には、飼育生物自身が持ち込んだものが増殖した結果であると考えられる。アンモニア態窒素が蓄積した水槽には始めアンモニア酸化細菌が立ち上がり、アンモニア態窒素を亜硝酸態窒素に変えて行くが、十分な亜硝酸態窒素が蓄積してから、亜硝酸酸化細菌が立ち上がる。このように硝化菌が安定して活性を持つには通常数ヶ月程度かかる。
アンモニア酸化細菌の場合、生育に必要な要素が十分に揃っていれば、最少24時間で一分裂する。亜硝酸酸化菌の場合には最少48時間で一分裂する。この増殖速度は大腸菌などのバクテリアが1時間以内に一分裂する速度と比べると極端に遅い。この増殖の遅さが、硝化菌を利用するあらゆる場面で問題となって来た。
【0007】
閉鎖された水槽ではなく、開放された環境中での主な汚染源としては、肥料の使用、腐敗した動植物、生活排水、陸上処分された下水汚泥、工場排水、ごみの残りかす、すすなどの微粒子を含んだ空気の洗浄水などがある。
浅井戸は地表水や深井戸に比べて肥料や家庭排水、工場排水などの地下浸透による影響を受けやすいため、硝酸態窒素濃度が高い傾向にある。
畜産では多くの動物を一カ所に密度高く飼育するため、それら動物が排泄する糞より生成されるアンモニア態窒素は極度に濃縮するため、その処理に硝化菌の働きを利用している。高濃度の窒素態が存在するばかりではなく、タンパク質、アミノ酸、リン酸などにも富み、硝化菌のみではなく、総合的な処理が出来る「活性汚泥法」を用いて処理をしている。活性汚泥とはバクテリアのみならず、原生動物や真菌類まで含み、それら生物が泥のような塊として存在するものである。活性汚泥は下水などの汚水処理にも用いられている。
畜産廃棄汚水の窒素態の濃度は極めて高く、高い活性を持つ硝化菌含有活性汚泥が必要であるが、安定した汚泥形成には長時間を要する。硝化菌量で言えば上述の水槽処理の数百倍以上もの量が必要である。汚泥形成に長時間かかる所以である。
【0008】
上述のように1モルのアンモニア態窒素を酸化する時に得られるエネルギーは39.5kcalであり、また1モルの亜硝酸態窒素を酸化して得られるエネルギーは21.6kcalに過ぎず、好気的細菌がブドウ糖1モル(180g)から呼吸により得られるエネルギー、686kcalと比べると非常に少ない。このため、硝化細菌の増殖速度は遅く、硝化活性も菌濃度に比例するので、基質窒素態が大量にある場合には、一定量の菌数に達するまでの期間が必要であった。
この菌増殖速度を少しでも高めるために、これまで様々な培地が開発され、必要な要素が分析されて来た。例えば、Pramer培地(非特許文献1)やATCCで指定された凍結保存菌株復元用培地などがある(表1、表2)。しかしながら、このような豊富な塩類などを添加していてもアンモニア酸化細菌は分裂に1日、亜硝酸酸化細菌では2日掛かる。
【表1】

【表2】
【0009】
現実には、実際に必要とする環境では培養と異なり、高い濃度の塩類などを添加することは不可能である。最小限の必要物質を最小限用いることが望まれている。このようなことから菌の生育する条件はかなり厳しいものになっている。
また開放環境で使用される活性汚泥は、構成成分である硝化菌などの微生物の活性が水温に大きく影響を受ける。特に冬期間は活性が極端に低下するため、硝化菌を含む汚泥の利用には様々な問題があった。地域によっては凍結することもある。
【0010】
硝化菌は水中に浮遊するものが15%程度あると言われ、多くは個体表面に定着していると考えられる。浮遊細菌は分裂増殖の結果、定着部位から離脱したものと考えられ、定着していることが活性の高さにほぼ比例している。従って、濃縮菌を添加した場合にはこれらが定着する担体が必要である。担体が無い場合、菌同士がくっつき合ってペレットを形成する。固体表面に定着している菌は、膜を作るように密生しており、これをバイオフィルムと言う。担体の表面積が大きい物体ほど多くの細菌が付着出来る。このような硝化菌の性質から、大量に汚水を処理する場合には取扱いが困難であった。
【0011】
アンモニア酸化細菌としてはニトロソモナス(Nitrosomonas)属、ニトロソロブス(Nitrosolobus)属、ニトロソコッカス(Nitrosococcus)属、ニトロソスピラ(Nitrosospira)属、ニトロスピラ(Nitrospira)属などが知られており、種としては非常に種類が多い。条件によってどれが優占種になるかは異なる。
また、亜硝酸酸化細菌もニトロバクター(Nitrobacter)属以外に、ニトロコッカス(Nitrococcus)属、ニトロスピナ(Nitrospina)属が知られており、同じことが言える。
【0012】
一方、嫌気的な条件があれば、硝酸態窒素の結合酸素をエネルギー源として利用する非光合成性の脱窒菌が働く。炭素源として糖あるいはアルコールを要求する。爆気を盛んに行なっている水槽では、酸素が利用出来るため脱窒作用を示さない。酸素の有無にかかわらず増殖出来る細菌を偏性嫌気性菌という。シュードモナス(Pseudomonas denitrificans)やミクロコッカス(Micrococcus denitrificans)などの従属栄養細菌は、硝酸態窒素の還元で生じた亜硝酸態窒素をさらに有機物の酸化に使用し、一酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(NO)をへて、窒素ガス(N)にまで還元する。このときに水素イオン(H)も消費され水(HO)に転換され、pHの低下が防げる。これを脱窒と言う。
しかし、脱窒菌の硝酸塩呼吸は好気呼吸ができない環境でやむを得ず行なっているのであり、溶存酸素濃度が高い環境では進行しなくなる。0.2mg/L以下で好気呼吸に取って代わり、0.5mg/L以上では停止する。このことから、好気的な硝化菌と、嫌気的な脱窒菌とを同じ環境内で飼育し、汚水をいっぺんに処理することは相当困難となっている。ただし、実装置内で脱窒菌は多様な菌種と共存しているため、溶存酸素濃度がかなり高くても(ある研究では6.0mg/L)生物相内の濃度勾配により脱窒が生じる事が確認されている。しかし、その効率は悪く、実用的ではない。
【特許文献1】特開平8−141593
【特許文献2】特許第3298562号公報
【特許文献3】特開2002−370085号公報
【特許文献4】特許第3668798号公報
【特許文献5】特開2009−142810号公報
【非特許文献1】Lewis,R.F.and D.Pramer,“Isolation of Nitrosomonas in pure culture” J.Bacteriol.,76:524−528(1958),
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、1)生育速度の遅い硝化菌の生育速度を高めるか、あるいは硝化活性を高めうる条件あるいは物質を見いだすこと、2)好気的な硝化菌と嫌気的な脱窒菌が共存出来、共に活性化させる条件を見いだし、最大の硝化活性を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、油脂あるいはその構成物である脂肪酸を使用することにより、上記の問題を解決できるとの知見を得た。
本発明は、この知見に基づいて、
1.好気的条件下で、硝化あるいは脱窒作用を担う微生物の硝化あるいは脱窒作用に関わる酵素群を、硝化菌の炭素源、脱窒菌の炭素源、リン酸塩、鉄イオン、および銅イオンの存在下、かつ適正なpH、温度下で同時に活性化させることを特徴とする油脂あるいはその構成脂肪酸、
2.油脂あるいはその構成成分である脂肪酸が長鎖、好ましくは炭素数が12から24、より好ましくは炭素数が18であること、また好ましくは不飽和脂肪酸、あるいは不飽和脂肪酸で構成される油脂であることを特徴とする、1に記載の油脂あるいはその構成脂肪酸、
3.硝化菌の炭素源が二酸化炭素、炭酸イオン、あるいは炭酸水素イオンであり、炭酸水素イオン濃度で表わされる炭酸塩硬度KHが少なくても2以上であること、脱窒菌の炭素源が糖、アルコール、アミノ酸、タンパク質、あるいは脂質であり、ブドウ糖に換算して最終濃度が0.01から0.2g/L、好ましくは0.025g/Lであること、リン酸塩が最終濃度0.1から5mM、好ましくは0.25mMであること、鉄イオンが最終濃度150から500μg/L、好ましくは200から400μg/Lであること、銅イオンが最終濃度20から200μg/L、好ましくは40から80μg/Lであること、適正なpHが淡水の場合5.0から9.2、好ましくは7.0から8.0であること、海水の場合7.5から9.0、好ましくは8.0から8.5であること、適正な温度が20から36℃、好ましくは28から32℃であることを特徴とする、1および2に記載の油脂あるいはその構成脂肪酸、
4.硝化を担う細菌がニトロソモナス属およびニトロバクター属であることを特徴とする、1〜3のそれぞれに記載の油脂あるいはその構成脂肪酸、
5.脱窒を担う細菌が、シュードモナス属、ミクロコッカス属、およびバチルス属などであることを特徴とする、1〜3のそれぞれに記載の油脂あるいはその構成脂肪酸、
を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者は、硝化菌の培養時に最終産物である硝酸態窒素が予測に反して蓄積せず、場合によっては消失することを見いだしていた。しかしながら、硝化と脱窒作用が、同じ環境下で安定した水浄化が行なわれるようになるためには相当数の日数が必要であり、外圧の変化、すなわちpH、温度、塩濃度等に鋭敏に反応し、必ずしも長時間培養を続けても安定化が達成出来るとは限らなかった。
淡水性、あるいは海水性の硝化菌および脱窒菌において、真水あるいは海水に添加する最小限必要な基礎物質を検索した。その結果、硝化菌および脱窒菌において、リン酸塩は必須であり、これは多くの研究者が指摘している通りである。
1)リン酸塩はリン酸緩衝液(pH7.0)を最終0.1mMから5mM、好ましくは0.25mM添加する。
塩類は培地組成中に多く配合されているが、検討した結果、真水あるいは海水に添加する最小限の塩類は、銅および鉄イオンで十分であった。
2)銅および鉄イオンが最終濃度それぞれ20から200μg/Lおよび150から500μg/L、好ましくは40から80μg/Lおよび200から400μg/Lであること。
硝化菌の炭素源としての二酸化炭素、炭酸イオン、炭酸水素イオンなどは当然必須であるので、
3)炭酸水素イオン量で測定する炭酸塩硬度がKH=2以上、好ましくはKH=3以上であることが必要である。
さらに、
4)淡水の場合、pHは6.5から9.2、好ましくはpH7.0から8.0、海水の場合はpHが7.5から9.0、好ましくはpH8.0から8.5を保っていることが必要である。
5)温度は20から36℃、好ましくは28から32℃であることが重要である。
脱窒菌の炭素源には、通常糖類もしくはアルコールが利用される。検討した結果、硝化菌の必須物質5点に加え、
6)糖類をブドウ糖に換算して0.01〜0.2g/L、好ましくは0.025g/Lを添加する。但し、水溶液中に、糖に代わり炭素源となるべき物質、例えばアミノ酸、タンパク質あるいは脂質などが十分存在する時には添加する必要はない。
以上の6点を保持することで、従来報告されている活性が現われるまでの時間が大幅に短縮された(表3)が、これは菌増殖とともに現われる活性であると考えられた。
【表3】
【0016】
先願特許に硝化菌を活性化する方法が示されている(特許文献1)。すなわち細菌の培養液を添加することで、硝化菌活性が約2倍に高まったというものである。しかしながら、培養液中には細菌が代謝したと思われる物質が多数含まれており、いずれが活性を高める作用がある物質であるか不明である上、そのような混合物を大量に用意することは実用的ではない。
【0017】
本発明者は、生物が代謝したもの、あるいは生物が代謝に利用するものに活性化物質があると仮定し、それを組織的に検索する目的で以下の実験を行なった。
(実験1)活性化物質の検索
水100mLに上述した鉄、銅、リン酸塩、ブドウ糖、NaHCOで調整し、KH=3とし、塩酸で調整し、pH=7.0とした。アンモニア態窒素には(NHSOを10mg/L添加した。
検索する物質に、1)核酸(サケ精子由来DNA)1mg/L、2)マルチビタミン4g/Lを100μLすなわち400μg相当、およびL−アスコルビン酸1mg相当を添加(マルチビタミン200mg中:ビタミンB1 12.5mg,ビタミンB2 6.0mg,ビタミンB6 5.0mg,ビタミンB12 0.0018mg,ナイアシン(ビタミンB3)7.5mg,パントテン酸カルシウム(ビタミンB5)16.375mg,ビオチン(ビタミンB7)0.036mg,葉酸(ビタミンB9)0.1mg,イノシトール(ビタミンBの一種)20.0mg,メチルヘスペリジン(ビタミンP)2.2mg,麦芽糖62.489mg,結晶セルロース60.0mg,デキストリン1.7982mg,ショ糖脂肪酸エステル6.0mg)を、3)油脂(オリーブオイル)100μLをそれぞれ表4に示したように混合して添加し、これに混合菌(硝化菌および脱窒菌含有、5x10細胞/mL)を添加して30℃で通気培養を行なった。24時間の培養の後、それぞれアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素を定量して比較した。結果を表4に示した。
結果が示すように、無添加ではアンモニア態窒素の一部が分解され、10mg/Lから6mg/Lまで低下し、その分亜硝酸態窒素と硝酸態窒素が増加していた。組み合せのうち、いずれも油脂を添加したものだけが全て分解されており、硝酸態窒素も分解されていることから、脱窒も行なわれたと考えられた。
油脂が硝化菌および脱窒菌ともに活性化したことが明らかとなった。
【0018】
油脂とは、脂肪酸とグリセリンがエステル結合したもので、トリグリセライドの形態を取る。常温で液体状のものは脂肪油、個体のものは脂肪と呼んでいる。
脂肪油には、サラダ油、菜種油を生成した白絞油(しらしめゆ)、コーン油、大豆油、ごま油、菜種油、キャノーラ油、米油、糠油、椿油、サフラワー油(紅花油)、パーム核油、ヤシ油、綿実油、ひまわり油、荏油、オリーブオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、ヘーゼルナッツオイル、ウォールナッツオイル、グレープシードオイル、マスタードオイル、レタス油、魚油(鯨油、サメ油、肝油)などがある。
脂肪には、カカオバター、パーム油、ラード(豚脂)、ヘット(牛脂)、鶏油、兎脂、羊脂、馬脂、シュマルツ(家禽油)、ショートニング、乳脂、バター、マーガリン、ギー、硬化油(液体の脂肪油に水素付加して固化したもの)などがある。
【0019】
油脂を形成する脂肪酸は、長鎖炭化水素の1価のカルボン酸である。一般にはCCOOHで表わせる。炭化水素の長鎖に二重結合や三重結合のないものを飽和脂肪酸と言い、二重結合や三重結合を有するものを不飽和脂肪酸と言う。
脂肪酸は、慣用的に炭化水素の長さと二重結合の数と位置を表わして表記する。例えば、パルミチン酸は炭素数が16であり、二重結合を持たないので16:0と表わし、オレイン酸は炭素数が18で二重結合がひとつ9番目にあるので18:1(9)と表わすなどである。次のような脂肪酸がある。4:6酪酸(ブチル酸)、5:0吉草酸、6:0カプロン酸、7:0エナント酸、8:0カプリル酸、9:0ペラルゴン酸、10:0カプリン酸、12:0ラウリン酸、14:0ミリスチン酸、15:0ペンタデシル酸、16:0パルミチン酸、16:1パルミトレイン酸、17:0マルガリン酸、18:0ステアリン酸、18:1(9)オレイン酸、18:1(11)パクセン酸、18:2(9,12)リノール酸、18:3(9,12,15)リノレン酸、18:3(6,9,12)リノレン酸、18:3(9,11,13)エレオステアリン酸、19ツベルクロステアリン酸、20:0アラキジン酸、20:2(8,11)イコサジエン酸、20:3(5,8,11)5,8,11−イコサトリエン酸、20:4(5,8,11,14)アラキドン酸、22:0ベヘン酸、24:0リグノセリン酸、24:1ネルボン酸、26:0セロチン酸、28:0モンタン酸、30:0メリシン酸などがある。いずれも有効であるが、炭素数が18から22の不飽和脂肪酸が特に有効である。
【0020】
上述した油脂および脂肪酸は、硝化菌および脱窒菌の活性化に有効であるが、その効果の程度は様々である。これら油脂や脂肪酸が効果的なのは、油脂あるいは脂肪酸の構造が、細胞膜を構成する脂質二重膜であること、あるいはその類似の構造体であることにより、硝化菌および脱窒菌の細胞膜に影響を与え、細胞膜透過性が増加したためであると考えられる。従って、細胞膜の構成体と似ていない構造のものほど効果は薄い。
【0021】
特許文献2〜5に記載のように、アルコール類や脂肪酸等の人工的有機質分を添加して嫌気性化を行うものが提案されている。
これらは、水と脂肪酸の界面に脂肪酸を直接分解する「脂肪酸資化性菌」を増殖させ、形成した生物膜を形成させる。生物膜内部では脂肪酸資化性菌の呼吸活動によって酸素が消耗して、酸素の少ない嫌気状態が定常的に作られることを基本にしており、直接の活性剤として脂肪酸を利用している訳ではないので本発明とは大きく異なる。
硝化作用あるいは脱窒作用の活性化は細胞膜透過性が向上し、基質が細胞内に効果的に取り込まれることが要因であると考えられ、活性化が見られた時には、細菌の数が増加していない。従って、活性化は細菌細胞数が増加したためではない。
【実施例及び比較例】
【0022】
次に、本発明の実施例及び比較例について説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明の理解を容易にするためのものであって、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想に基づく、他の例又は変形は、当然本発明に包含されるものである。
【実施例1】
【0023】
[油脂による活性化]
油脂が硝化および脱窒作用にどのように作用するか検討した。油脂は代表的な5種類を選び、予め予備培養した細菌の混合物を用いて行なった。予備培養は保存菌液を培養し始めた時に生じるラグタイム(培養の遅延期)を解消するためである。なお、混合菌はアンモニア酸化菌のニトロソモナス、ニトロソスピラ、ニトロソコッカス、ニトロソロブス、ニトロソビブリオを、亜硝酸酸化菌のニトロバクター、ニトロスピナ、ニトロコッカス、ニトロスピラを、また脱窒菌のシュードモナスなどが主体のものである。
三角フラスコに入った水1000mLに、キレート鉄300μg、キレート銅60μg、0.2Mリン酸緩衝液(pH7.0)を1.25mL(最終濃度0.25mM)、ブドウ糖0.025g、KH=3にNaHCOで調整し、pHは塩酸で調整しpH=7.0とした。アンモニア態窒素には(NHSOを10mg/L添加した。これに混合5mL(最終4x10/mL)を添加し、通気しながら30℃で一夜培養した(予備培養)。
翌日前培養をした菌液を150mLずつ三角フラスコ6つに分け、それぞれに1)添加無し(コントロール)、2)オリーブオイル、3)キャノーラ油、4)ごま油、5)牛脂、6)肝油、をそれぞれ5μLずつ添加し、通気しながら30℃で培養した。なお脱窒菌の嫌気環境を形成するため、ポリエステル製のウールマットを1gずつフラスコに入れた。予備実験ではウールマットを入れた方が脱窒作用がより効率よく認められたからである。好気的な条件の中で、部分的な溶存酸素濃度の低い部分が形成されたためであると思われる。また、硝化菌等の付着材質にも適当であると考えられた。
一定時間ごとにアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素を測定した。結果は図1にアンモニア態窒素のみ示してある。亜硝酸態窒素および硝酸態窒素に目立った変化が無かったためである。用いたいずれの油脂も添加後すぐにアンモニア態窒素を硝化し始めているが、亜硝酸態窒素の増加はほとんど認められず、硝酸態窒素も同様であった。アンモニア態窒素から亜硝酸態窒素への転換が行なわれると同時に、亜硝酸態窒素の硝酸態窒素への転換が素早く行なわれ、さらに脱窒作用も同時に進行したため、ほとんど亜硝酸態窒素と硝酸態窒素が測定されなかったと考えられる。硝化作用も脱窒作用もほぼ3時間で完了した。このことから、本検討に用いた油脂は全て硝化および脱窒作用を短時間で活性化させることが実証された。なお、測定後の菌数に変化は無く、活性化が菌数増加によるものではないことが判った。
【図1】

【実施例2】
【0024】
[脂肪酸および関連物質による活性化]
油脂を構成する脂肪酸とその関連物質を用いて、硝化作用と脱窒作用が同様に活性化されるかを検証した。実施例1と同様に菌液を用意し、これに1)オレイン酸、2)ステアリン酸、3)アセチルコリン、4)コレステロール、5)、6)ジギトニン、をそれぞれ5μLずつ添加し、通気しながら30℃で培養した。ウールマットも同様に配した。
一定時間ごとにアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素を測定した。結果は図2に示してあるが亜硝酸態窒素、硝酸態窒素は示していない。理由は実施例1と同様、亜硝酸態窒素および硝酸態窒素の低下はアンモニア態窒素と連動し、検出レベルに至らなかったからである。オレイン酸はオリーブオイルなどの油脂の主要な脂肪酸であるが、これが最も短時間で硝化作用、脱窒作用を示し、実施例1の油脂と同様であった。一方、飽和脂肪酸であるステアリン酸はゆっくりとした活性化を示しており、オレイン酸ほどの効果は認められなかったものの、一日経過すると全ての窒素態は無くなった。コレステロールは全ての生体膜に見いだされるステロールであるが、効果はより緩慢であった。その他も活性化はオレイン酸と比べると極めて遅かったが、いずれも無添加のコントロールと比べると硝化および脱窒作用を活性化することが明らかとなった。
【図2】

【実施例3】
【0025】
[油脂あるいは脂肪酸の添加量]
実施例1および2から、最も効果の高かった油脂はオリーブオイルであり、脂肪酸では、オリーブオイルの主要な脂肪酸であるオレイン酸であった。従って、オレイン酸の至適添加量を次に検討した。
実験条件は実施例1および2と同様であり、予備培養した混合菌を100mLずつ分注し(最終4x10/mL)、アンモニア態窒素には(NHSOを10mg/L添加した。これにオレイン酸の量を変化させたものを添加し、通気しながら30℃で5時間培養した。活性化の程度を窒素態の濃度で比較した。オレイン酸の添加量の少ない場合には、適宜エタノールに希釈して用いた。結果は表4に示してある。5時間培養後のアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、あるいは硝酸態窒素量を測定し、完全に硝化あるいは脱窒が見られたものを+で、効果が全く見られなかったものをーで、一部効果があったものは±で表わした。
アンモニア酸化菌ではオリーブオイルおよオレイン酸は、1L当たり0.5μLから効果が現われ始め、1μLでは完全に硝化した。亜硝酸酸化菌および脱窒菌では、共に5μLで効果が現われ始め、10μLで硝化あるいは脱窒が完了した。菌によって効果が現われる量に違いがあるが、硝化、脱窒共に効果がある量は10μLと判明した。
このように添加量は極めて微量で良く、実際に添加した時には水面に浮き、油滴が広がった。このような状態においても、分子同士の衝突は瞬間に起こり、その頻度は約0.1psecに一度であると考えられる。1L中のオレイン酸の量(10μL)からモル数を求めると約3x10−7molとなる。アボガドロ数は6x1023/molであるので、分子数は1.8x1017個に相当する。
一方菌数は1L中約4x10である。これから考えても菌数に対し、十分過剰な脂肪酸分子が加えられており、例え水表面に浮いている状態でも、衝突頻度はかなり高いと考えられる。
【表5】
【0026】
[油脂の魚水槽での効果]
実施例1および2は負荷であるアンモニア態窒素が一定量であり、時間的な増加はなかった。汚水処理などでは、常に流入して来る基質の負荷が掛かっており、この状態において、油脂が硝化菌や脱窒菌の活性化を誘導し、連続した硝化作用および脱窒作用が可能かどうかを検討した。連続した負荷が掛かるモデルとして、魚を飼育している水槽を用いて検討を行なった。
体長5cmのカクレクマノミが6Lの海水が満たされた水槽に飼育されており、スタート時点ですでにアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素が蓄積されていた。この状態の水槽に、効果の最も高かった油脂のひとつ、オリーブオイルを添加し、時間を追ってアンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素を測定した。硝化菌、脱窒菌に必要な銅、鉄は測定を行なうと不足していたので実施例1と同様に添加した。リン酸濃度は1mM程度と測定され、また糖分は0.1g/L程度と測定されたため、これらは添加しなかった。またKH=8であり、pH8.2であったのでこれらも調整を行なわなかった。混合菌は40mL(4x10相当)を添加し、オリーブオイルは40μ添加した。水槽の濾過装置は外掛け式のものであり、フィルターにはポリエステル製のフィルターを挿入した。なお、飼育温度は25℃であった。
結果は図3に示してある。生体が存在すると常にアンモニア態窒素や亜硝酸態窒素の流入が起こり、一定濃度の窒素態を硝化、脱窒する場合とは大きく異なる。しかし、結果から明らかなように、アンモニア態窒素の硝化とともに亜硝酸態窒素の一時的な上昇、硝酸態窒素の減少と消失が一日経過で認められ、最終的に蓄積量が消失して安定した。混合菌は淡水を用いた時も、海水を用いた時も、硝化および脱窒作用を示し、淡水、海水両用出来ることが判明した。
硝化菌、脱窒菌の量が最少であっても活性化を受けると、十分な作用を行なうことが可能であることが実証された。
【図3】

【発明の効果】
【0027】
本発明の硝化菌および脱窒菌の活性化物質は、短時間で細菌の作用を最大限に発揮させ、菌数が少なくても作用を発現させることが出来る。また油脂は食品に含まれる安全な物質であること、用いる油脂の量は極めて少ないので経済的でもあることから、幅広く汚水の浄化に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【表1】
アンモニア酸化細菌の培地例
アンモニア酸化細菌の培地例を示した表である。
【表2】
亜硝酸酸化細菌の培地例
亜硝酸酸化細菌の培地例を示した表である。
【表3】
塩類等を添加した場合の硝化菌活性
リン酸緩衝液、キレート鉄、キレート銅、およびKH=3になるようにNaHCOを添加した溶液に混合菌を入れ、アンモニア態窒素を10mg/Lで負荷を掛けた時、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、および硝酸態窒素が全て0になる時間で硝化菌の活性を表わした表である。
【表4】
活性化物質の検索
リン酸緩衝液、キレート鉄、キレート銅、ブドウ糖、およびKH=3になるようにNaHCOを添加した溶液に混合菌を入れ、アンモニア態窒素を10mg/Lで負荷を掛けた時、核酸、脂質、ビタミン類を添加した場合において、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、および硝酸態窒素の24時間後の濃度を示した表である。
【表5】
オレイン酸の添加量
オレイン酸の添加量を検討した結果を示した表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好気的条件下で、硝化あるいは脱窒作用を担う微生物の硝化あるいは脱窒作用に関わる酵素群を、硝化菌の炭素源、脱窒菌の炭素源、リン酸塩、鉄イオン、および銅イオンの存在下、かつ適正なpH、温度下で同時に活性化させることを特徴とする油脂あるいはその構成脂肪酸。
【請求項2】
油脂あるいはその構成成分である脂肪酸が長鎖、好ましくは炭素数が12から24、より好ましくは炭素数が18であること、また好ましくは不飽和脂肪酸、あるいは不飽和脂肪酸で構成される油脂であることを特徴とする、請求項1に記載の油脂あるいはその構成脂肪酸。
【請求項3】
硝化菌の炭素源が二酸化炭素、炭酸イオン、あるいは炭酸水素イオンであり、炭酸水素イオン濃度で表わされる炭酸塩硬度KHが少なくても2以上であること、脱窒菌の炭素源が糖、アルコール、アミノ酸、タンパク質、あるいは脂質であり、ブドウ糖に換算して最終濃度が0.01から0.2g/L、好ましくは0.025g/Lであること、リン酸塩が最終濃度0.1から5mM、好ましくは0.25mMであること、鉄イオンが最終濃度150から500μg/L、好ましくは200から400μg/Lであること、銅イオンが最終濃度20から200μg/L、好ましくは40から80μg/Lであること、適正なpHが淡水の場合5.0から9.2、好ましくは7.0から8.0であること、海水の場合7.5から9.0、好ましくは8.0から8.5であること、適正な温度が20から36℃、好ましくは28から32℃であることを特徴とする、請求項1および2に記載の油脂あるいはその構成脂肪酸。
【請求項4】
硝化を担う細菌がニトロソモナス属およびニトロバクター属であることを特徴とする、請求項1〜3のそれぞれに記載の油脂あるいはその構成脂肪酸。
【請求項5】
脱窒を担う細菌が、シュードモナス属、ミクロコッカス属、およびバチルス属などであることを特徴とする、請求項1〜3のそれぞれに記載の油脂あるいはその構成脂肪酸。

【図1】
油脂による活性化
油脂を添加した場合の効果について調べた結果を示す図である。
【図2】
脂肪酸および関連物質による活性化
脂肪酸および関連物質を添加した場合の効果について調べた結果を示す図である。
【図3】
魚水槽における効果
オリーブオイルの魚を飼育している水槽に付加した場合の効果を調べた結果を示す図である。
【符合の説明】

【表1】
Fe(III)−EDTAはキレート鉄を表わし、1L当たりFeSOを1または4.2mgを溶解し、500μLの濃硫酸と1.4gのEDTAを溶解したものである。
【表2】
Fe−EDTAはキレート鉄を表わし、Fe(II)は1L当たりFeSOを0.1mg溶解し、500μLの濃硫酸と1.4gのEDTAを溶解したものである。
Mn−EDTA**は、キレートマンガンを表わし、MnClを1L当たり0.028mgを溶解し、500μLの濃硫酸と1.4gのEDTAを溶解したものである。
【表2】
図中、+は5時間後に測定した窒素態が0になっているものを、±は始めの窒素態量から減少したもの、−は始めの窒素態量と変化がなかったものを示しており、+>±>−の順に活性が高いことを表わしている。
【図1】
横軸は時間(時)を、縦軸はアンモニア態窒素の濃度(mg/L)を
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それぞれ表わす。
【図3】
横軸は時間(時)を、縦軸左はアンモニア態窒素および亜硝酸態
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わす。
【表1】
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【表2】
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【表3】
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【表4】
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【表5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−5474(P2012−5474A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159127(P2010−159127)
【出願日】平成22年6月26日(2010.6.26)
【出願人】(599115826)
【Fターム(参考)】