説明

硝子体内投与に適したVEGFアンタゴニスト製剤

目への硝子体内投与に適した、血管内皮増殖因子(VEGF)特異的な融合タンパク質アンタゴニストの眼科用製剤を提供する。眼科用製剤には安定な液体製剤および凍結乾燥可能な製剤が含まれる。好ましくは、タンパク質アンタゴニストは配列番号:4に示すアミノ酸配列を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor, VEGF)を阻害することができる薬剤を含む、硝子体内投与に適した薬学的製剤、ならびにそのような製剤を作成および使用するための方法に関する。本発明は、安定性が向上した薬学的液体製剤、ならびに硝子体内投与のために凍結乾燥および再構成され得る製剤を含む。
【背景技術】
【0002】
関連技術の記載
血管内皮増殖因子(VEGF)の発現はヒトの癌においてほぼ遍在的であり、これは腫瘍血管新生の主要な媒介物としてのその役割と矛盾しない。VEGF分子またはそのVEGFR-2受容体への結合によってVEGF機能をブロックすると、移植された腫瘍細胞の増殖は複数の異なる異種移植モデルにおいて阻害される(例えば、Gerber et al.(2000)Cancer Res. 60:6253-6258(非特許文献1)参照)。「VEGFトラップ(VEGF trap)」と呼ばれる、可溶性のVEGF特異的な融合タンパク質アンタゴニストが記載されている(Kim et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:11399-404(非特許文献2); Holash et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:11393-8(非特許文献3))。
【0003】
眼科用製剤は公知である。例えば、米国特許第7,033,604号(特許文献1)および第6,777,429号(特許文献2)参照。VEGF抗体の眼科用製剤は米国特許第6,676,941号(特許文献3)に記載されている。
【0004】
凍結乾燥(制御された条件下でのフリーズドライ)はタンパク質の長期的保存のために一般的に使われている。凍結乾燥されたタンパク質は、フリーズドライされた状態にある間は分解、凝集、酸化、およびその他の変性プロセスに対して実質的に耐性である(例えば、米国特許第6,436,897号(特許文献4)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7,033,604号
【特許文献2】米国特許第6,777,429号
【特許文献3】米国特許第6,676,941号
【特許文献4】米国特許第6,436,897号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Gerber et al.(2000)Cancer Res. 60:6253-6258
【非特許文献2】Kim et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:11399-404
【非特許文献3】Holash et al. (2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:11393-8
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
VEGF特異的な融合タンパク質アンタゴニストの安定な製剤を提供する。VEGF「トラップ」アンタゴニストと薬学的に許容される担体を含む、薬学的に許容される製剤を提供する。特定の態様においては、液体製剤および凍結乾燥された製剤を提供する。
【0008】
第1の局面において、第1のVEGF受容体の免疫グロブリン様(Ig)ドメイン2および第2のVEGF受容体のIgドメイン3から本質的になる受容体要素、ならびに多量体形成要素を含む融合タンパク質を含む、VEGF特異的な融合タンパク質アンタゴニストの安定な液体の眼科用製剤を提供する(「VEGFトラップ」とも呼ばれる)。VEGF特異的な融合タンパク質アンタゴニストの特定の態様においては、第1のVEGF受容体はFlt1であり、第2のVEGF受容体はFlk1またはFlt4である。さらに特定の態様においては、該融合タンパク質は配列番号:2または配列番号:4のアミノ酸配列を有する。好ましくは、VEGFアンタゴニストは配列番号:4の融合タンパク質を2つ含む二量体である。
【0009】
1つの局面においては、1〜100 mg/mlのVEGF特異的な融合タンパク質アンタゴニスト、0.01〜5%の1つまたは複数の有機共溶媒、30〜150 mMの1つまたは複数の等張化剤、5〜40 mMの緩衝剤、および任意で1.0〜7.5%の安定剤を含み、pHが約5.8〜7.0の間である、安定な液体の眼科用製剤を提供する。
【0010】
1つまたは複数の特定の態様においては、有機共溶媒はポリソルベート、例えばポリソルベート20もしくはポリソルベート80、ポリエチレングリコール(PEG)、例えばPEG 3350、またはプロピレングリコール、あるいはそれらの組み合わせであってもよく;等張化剤は、例えば塩化ナトリウムまたは塩化カリウムであってもよく;安定剤はスクロース、ソルビトール、グリセロール、トレハロース、またはマンニトールであってもよく;そして緩衝剤は例えばリン酸緩衝液であってもよい。特定の態様において、リン酸緩衝液はリン酸ナトリウム緩衝液である。
【0011】
様々な態様において、有機共溶媒はポリソルベートおよび/またはPEGであり、安定剤はスクロースであり、緩衝剤はリン酸緩衝液であり、等張化剤は塩化ナトリウムである。
【0012】
より具体的には、安定な液体の眼科用製剤は約40〜50 mg/mlのVEGFアンタゴニスト(配列番号:4)、約10 mMのリン酸緩衝液、0.01〜3%のポリソルベートおよび/またはPEG、40〜135 mMの塩化ナトリウム、ならびに任意で5.0%スクロースを含み、pHは約6.2〜6.3である。
【0013】
特定の好ましい態様においては、安定な液体の眼科用製剤は約50 mg/mlのVEGFアンタゴニスト(配列番号:4)、10 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、50 mMの塩化ナトリウム、0.1%のポリソルベート、および5%のスクロースを含み、pHは約6.2〜6.3である。
【0014】
特定の好ましい態様においては、安定な液体の眼科用製剤は約50 mg/mlのVEGFアンタゴニスト(配列番号:4)、10 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、50 mMの塩化ナトリウム、3%のPEG、および5%のスクロースを含み、pHは約6.2〜6.3である。
【0015】
特定の好ましい態様においては、安定な液体の眼科用製剤は約40 mg/mlのVEGFアンタゴニスト(配列番号:4)、10 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、40 mMの塩化ナトリウム、0.03%のポリソルベート、および5%のスクロースを含み、pHは約6.2〜6.3である。
【0016】
特定の好ましい態様においては、安定な液体の眼科用製剤は約40 mg/mlのVEGFアンタゴニスト(配列番号:4)、10 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、135 mMの塩化ナトリウム、および0.03%のポリソルベートを含み、pHは約6.2〜6.3である。
【0017】
別の局面において、1〜100 mg/mlのVEGF特異的融合タンパク質アンタゴニスト、0.01〜5%の1つまたは複数の有機共溶媒、5〜40 mMの緩衝剤、ならびに任意で30〜150 mMの1つもしくは複数の等張化剤および/または1.0〜7.5%の安定剤を含み、約5.8〜7.0の間のpHを有する、安定な液体の眼科用製剤を提供する。
【0018】
様々な態様において、VEGFアンタゴニスト(配列番号:4)は約10〜約80 mg/mlの濃度で存在する。様々な態様において、VEGFアンタゴニスト(配列番号:4)は約10、約20、約30、約40、約50、約60、約70、または約80 mg/mlの濃度で存在する。好ましい態様においては、VEGFアンタゴニスト(配列番号:4)は約40 mg/mlの濃度で存在する。
【0019】
別の態様において、安定剤はスクロース、ソルビトール、グリセロール、トレハロース、およびマンニトールの1つまたは複数より選択される。
【0020】
別の態様において、有機共溶媒はポリソルベート、例えばポリソルベート20もしくはポリソルベート80;ポリエチレングリコール(PEG)、例えばPEG 3350;およびプロピレングリコールの1つまたは複数より選択される。
【0021】
別の態様において、緩衝液はリン酸緩衝液、例えばリン酸ナトリウムである。
【0022】
別の態様において、等張化剤は塩、例えば塩化ナトリウムである。
【0023】
1つの態様においては、安定な液体の眼科用製剤は10 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、約0.03〜約0.1%のポリソルベートおよび/または約3%のPEGもしくはプロピレングリコール、約40 mMの塩化ナトリウム、ならびに約5%のスクロースを含む。特定の態様においては、安定な液体の眼科用製剤は10 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、約0.03%のポリソルベート、約40 mMの塩化ナトリウム、および約5%のスクロースを含む。別の特定の態様においては、製剤のpHは約6.2〜約6.3である。別の特定の態様においては、pHは酸/塩基滴定なしに、リン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウムを所望のpHまで混合して、達成される。
【0024】
特定の態様において、安定な液体の眼科用製剤は40 mg/mlのVEGFアンタゴニスト(配列番号:4)、10 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、0.03%のポリソルベート、40 mMの塩化ナトリウム、および5%のスクロースから本質的になり、pHは6.2〜6.3である。
【0025】
別の局面においては、約10〜約80 mg/mlの VEGFアンタゴニスト、約10 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、約0.03%のポリソルベート、および約135 mMの塩化ナトリウムを含み、pHが6.2〜6.3である、安定な液体の眼科用製剤を提供する。
【0026】
様々な態様において、VEGFアンタゴニスト(配列番号:4)は約10〜約80 mg/mlの濃度で存在する。様々な態様において、VEGFアンタゴニスト(配列番号:4)は約10、約20、約30、約40、約50、約60、約70、または約80 mg/mlの濃度で存在する。特定の態様においては、VEGFアンタゴニスト(配列番号:4)は約40 mg/mlの濃度で存在する。
【0027】
1つの態様において、安定な液体の眼科用製剤は40 mg/mlのVEGFアンタゴニスト(配列番号:4)、10 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、0.03%のポリソルベート、および135 mMの塩化ナトリウムを含み、pHは6.2〜6.3である。特定の態様においては、安定な液体の眼科用製剤は40 mg/mlのVEGFアンタゴニスト(配列番号:4)、10 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、0.03%のポリソルベート、および135 mMの塩化ナトリウムから本質的になり、pHは6.2〜6.3である。
【0028】
別の局面において、凍結乾燥し、その後再構成すると、本明細書中に記載の安定な液体の眼科用製剤が得られる、VEGFアンタゴニストの凍結乾燥可能な製剤を提供する。
【0029】
別の局面において、5〜50 mg/mlのVEGFアンタゴニスト;5〜25 mMの緩衝液、例えばリン酸緩衝液;0.01〜0.15%の1つまたは複数の有機共溶媒、例えばポリソルベート、ポリプロピレングリコール、および/またはPEG;ならびに任意で、1〜10%の安定剤、例えばスクロース、ソルビトール、トレハロース、グリセロール、またはマンニトールを含み、pHが約5.8〜7.0である、血管内皮増殖因子(VEGF)特異的な融合タンパク質アンタゴニストの凍結乾燥可能な製剤を提供する。様々な態様において、VEGFアンタゴニスト(配列番号:4)は約5、約10、約20、約30、または約40 mg/mlで存在する。特定の態様において、本発明の凍結乾燥可能な眼科用製剤は20 mg/mlのVEGFアンタゴニスト、10 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、0.03%のポリソルベート、0.1%のPEG、および2.5%のスクロースを含み、pHは約6.2〜6.3である。さらなる態様においては、凍結乾燥可能な製剤は塩化ナトリウムをさらに含む。特定の態様においては、塩化ナトリウムは約20 mMの濃度で存在する。別の特定の態様においては、塩化ナトリウムは約67.5 mMの濃度で存在する。
【0030】
別の特定の態様においては、本発明の凍結乾燥可能な眼科用製剤は20 mg/mlのVEGFアンタゴニスト、5 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、0.015%のポリソルベート、20 mMの塩化ナトリウム、および2.5%のスクロースを含み、pHは約6.2〜6.3である。
【0031】
別の態様においては、凍結乾燥可能な眼科用製剤は5 mg/ml、10 mg/ml、または40 mg/mlのVEGFアンタゴニスト、5 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、0.015%のポリソルベート、20 mMの塩化ナトリウム、および2.5%のスクロースを含み、pHは6.2〜6.3である。特定の態様において、凍結乾燥可能な眼科用製剤は、5 mg/ml、10 mg/ml、または40 mg/mlのVEGFアンタゴニスト(配列番号:4)、5 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、0.015%のポリソルベート、20 mMの塩化ナトリウム、および2.5%のスクロースから本質的になり、pHは6.2〜6.3である。
【0032】
別の特定の態様においては、凍結乾燥可能な眼科用製剤は20 mg/mlのVEGFアンタゴニスト、5 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、0.015%のポリソルベート、および67.5 mMの塩化ナトリウムを含み、pHは約6.2〜6.3である。さらに特定の態様において、凍結乾燥可能な眼科用製剤は20 mg/mlのVEGFアンタゴニスト(配列番号:4)、5 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、0.015%のポリソルベート、および67.5 mMの塩化ナトリウムから本質的になり、pHは6.2〜6.3である。
【0033】
別の特定の態様においては、凍結乾燥可能な眼科用製剤は5 mg/ml、10 mg/ml、または40 mg/mlのVEGFアンタゴニスト、5 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、0.015%のポリソルベート、および67.5 mMの塩化ナトリウムを含み、pHは約6.2〜6.3である。さらに特定の態様において、凍結乾燥可能な眼科用製剤は5 mg/ml、10 mg/ml、または40 mg/mlのVEGFアンタゴニスト(配列番号:4)、5 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、0.015%のポリソルベート、および67.5 mMの塩化ナトリウムから本質的になり、pHは約6.2〜6.3である。
【0034】
一般的に、再構成された製剤の濃度は凍結乾燥前の製剤の濃度の約2倍であり、例えば、1 mlあたり20 mgの融合タンパク質の凍結乾燥前製剤は1 mlあたり40 mgの融合タンパク質の最終製剤に再構成される。
【0035】
一般的に、凍結乾燥された製剤は注入に適した滅菌水で再構成される。1つの態様において、再構成用液体は静菌水である。
【0036】
別の局面において、本発明は、凍結乾燥製剤を生成するために本発明の凍結乾燥可能な製剤を凍結乾燥に供する工程を含む、VEGF特異的な融合タンパク質アンタゴニストの凍結乾燥製剤を産生する方法を特徴とする。凍結乾燥製剤は当技術分野において公知の、液体を凍結乾燥させるための任意の方法を用いて凍結乾燥され得る。
【0037】
別の関連した局面においては、本発明は、本発明の凍結乾燥された製剤を再構成された製剤に再構成する工程を含む、VEGFアンタゴニストの再構成された凍結乾燥製剤を産生する方法を特徴とする。1つの態様において、再構成された製剤の濃度は凍結乾燥前製剤の濃度の2倍であり、例えば、本発明の方法は以下の工程を含む:(a)VEGF特異的な融合タンパク質アンタゴニストの凍結乾燥前製剤を産生する工程;(b)工程(a)の凍結乾燥前製剤を凍結乾燥に供する工程;および(c)工程(b)の凍結乾燥された製剤を再構成する工程。
【0038】
本発明はさらに、硝子体内投与に特に適した、予め充填されたシリンジまたはバイアルに提供された眼科用製剤を特徴とする。
【0039】
以下の詳細な説明を概観することで、その他の目的および利点は明らかとなる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
発明の詳細な説明
本発明は、記載された特定の方法および実験条件に限定されず、方法および条件は多様であり得る。本明細書中で用いられる用語は特定の態様を説明するためだけのものであり、本発明の範囲は添付の請求の範囲によってのみ限定されるため、特に示さない限り、本明細書中で用いられる用語は限定を意図するものではないことも理解される。
【0041】
特に明記しない限り、本明細書中に用いられる全ての技術的および科学的用語ならびに文章は、本発明が属する技術分野における当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。本明細書中に記載された方法および材料と同様または同等のいかなる方法および材料も本発明の実施または試験に用いることはできるが、好ましい方法および材料をここで説明する。
【0042】
概要
タンパク質を含む製剤の安全な操作および投与は、薬剤を製剤化する者にとって重要な課題である。タンパク質は、安定性の問題をもたらす特有の化学的および物理的特性を有する:タンパク質には様々な分解経路が存在し、このことは化学的および物理的不安定性の両方に関与する。化学的不安定性には、脱アミノ化、凝集、ペプチド骨格の切断、およびメチオニン残基の酸化が含まれる。物理的不安定性には多くの現象が包含され、例えば凝集および/または沈殿が含まれる。
【0043】
化学的および物理的安定性はタンパク質から水を取り除くことで促進させることができる。凍結乾燥(制御された条件下でのフリーズドライ)はタンパク質の長期保存のために一般的に用いられる。凍結乾燥されたタンパク質は、フリーズドライされた状態にある間、分解、凝集、酸化、およびその他の変性プロセスに対して実質的に耐性である。凍結乾燥されたタンパク質は、投与前に、静菌性の防腐剤(例えば、ベンジルアルコール)を任意で含む水により再構成してもよい。
【0044】
定義
「担体」との用語には、組成物と一緒に投与される、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルが含まれる。担体には、滅菌液、例えば水、および石油、動物、植物、または合成物質起源の油を含む油、例えばピーナツオイル、大豆油、鉱油、胡麻油等が含まれてよい。
【0045】
「賦形剤」との用語には、所望の粘稠度または安定効果を提供するために薬学的組成物に加えられる非治療的な作用物質が含まれる。適した薬学的賦形剤には、例えば、澱粉、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等が含まれる。
【0046】
「凍結乾燥された」または「フリーズドライされた」との用語は、少なくとも90%の水分が除去された、凍結乾燥等の乾燥手法に供された物質の状態を含む。
【0047】
VEGFアンタゴニスト
VEGFアンタゴニストとは血管内皮増殖因子(VEGF)の生物学的作用をブロックまたは阻害することができる化合物であり、VEGFをトラップすることができる融合タンパク質を含む。好ましい態様においては、VEGFアンタゴニストは配列番号:2または4、より好ましくは配列番号:4の融合タンパク質である。特定の態様においては、VEGFアンタゴニストはCHO細胞等の哺乳動物細胞株において発現し、翻訳後に修飾されてもよい。特定の態様においては、融合タンパク質は配列番号:4の27〜457位のアミノ酸を含み、62、94、149、222、および308位のAsn残基においてグリコシル化されている。好ましくは、VEGFアンタゴニストは配列番号:4の融合タンパク質2つから構成される二量体である。
【0048】
本発明の方法および製剤のVEGFアンタゴニストは、当技術分野において公知の、または公知となる、任意の適した方法を用いて調製され得る。薬学的に許容される製剤を調製するために用いる際には、VEGFアンタゴニストは、好ましくは、夾雑タンパク質を実質的に含まない。「夾雑タンパク質を実質的に含まない」とは、製剤を作成するために用いられるVEGF特異的な融合タンパク質アンタゴニスト調製物のタンパク質の重量の、好ましくは少なくとも90%が、より好ましくは少なくとも95%が、最も好ましくは少なくとも99%が、VEGF融合タンパク質アンタゴニストタンパク質であることを意味する。融合タンパク質は凝集体を実質的に含まないことが好ましい。「凝集体を実質的に含まない」とは、薬学的に有効な製剤を調製するために融合タンパク質を用いる際に、融合タンパク質の重量の少なくとも90%が凝集体中に存在しないことを意味する。特に明記しない限り、使用されるリン酸塩はリン酸ナトリウムであり、所望の緩衝pHはリン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウムを適当量混合させて達成される。
【0049】
安定な液体の眼科用製剤
1つの局面において、本発明はVEGFアンタゴニストを含む安定な薬学的に許容される製剤を提供し、ここで該製剤は眼科用途に適した液体製剤である。好ましくは、液体製剤は薬学的に有効な量のVEGFアンタゴニストを含む。製剤は1つまたは複数の薬学的に許容される担体、緩衝液、等張化剤、安定剤、および/または賦形剤を含んでいてもよい。一例として、薬学的に許容される液体製剤は、薬学的に有効な量のVEGFアンタゴニスト、緩衝液、有機共溶媒、例えばポリソルベート、等張化剤、例えばNaCl、および任意に安定剤、例えばスクロースもしくはトレハロースを含む。
【0050】
安定性は、特定の時点において、pHの決定、色および外観の視覚的検査、UV分光法等の当技術分野において公知の方法による全タンパク質含量の決定を含む、いくつかの手法を用いて決定される。また、純度は、例えばSDS-PAGE、サイズ排除HPLC、活性のバイオアッセイによる決定、等電点電気泳動、およびイソアスパルテート定量を用いて決定される。VEGFアンタゴニスト活性を決定するために有用なバイオアッセイの一例としては、本発明のVEGFアンタゴニストのVEGF165への結合を決定するためにBAF/3 VEGFR1/EPOR細胞株が用いられる。
【0051】
液体製剤は、酸素が欠乏している環境において保存することができる。酸素が欠乏している環境は、例えば窒素またはアルゴン等の不活性ガスの下で製剤を保存することで、生成できる。液体製剤は好ましくは約5℃で保存される。
【0052】
凍結乾燥された眼科用製剤
本発明の1つの局面においては、VEGFアンタゴニストを含む眼科用に許容される製剤が提供され、ここで該製剤は凍結乾燥可能な製剤である。凍結乾燥可能な製剤は、溶液、懸濁液、エマルジョン、または投与もしくは使用に適したその他の任意の形態に再構成することができる。凍結乾燥可能な製剤は、典型的には、最初に液体として調製され、その後凍結および凍結乾燥される。凍結乾燥前の総液体容量は、凍結乾燥製剤の最終的に再構成された容量に対して少なくても、同等でも、多くてもよい。凍結乾燥のプロセスは当業者に周知であり、典型的には、制御された条件下で、凍結製剤から水を昇華することを含む。
【0053】
凍結乾燥された製剤は広い範囲の温度で保存できる。凍結乾燥された製剤は25℃未満、例えば2〜8℃で冷蔵、または室温(例えば、約25℃)で保存されてもよい。好ましくは、凍結乾燥された製剤は約25℃未満で、より好ましくは約4〜20℃で、約4℃未満で、約-20℃未満で、約-40℃で、約-70℃で、または約-80℃で保存される。凍結乾燥された製剤の安定性は当技術分野において公知のいくつかの手法、例えばケークの外観および/または水分含量で決定することができる。
【0054】
凍結乾燥された製剤は、典型的には、凍結乾燥された製剤を溶解するために水溶液を添加して、使用のために再構成される。凍結乾燥された製剤を再構成するためには、広範囲の種類の水溶液を用いることができる。好ましくは、凍結乾燥された製剤は水を用いて再構成される。凍結乾燥された製剤は、好ましくは、水(例えば、USP WFIまたは注射用の水)または静菌水(例えば、0.9%ベンジルアルコールを含むUSP WFI)から本質的になる溶液で再構成される。しかし、緩衝液および/または賦形剤および/または1つもしくは複数の薬学的に許容される担体を含む溶液も用いることができる。
【0055】
フリーズドライまたは凍結乾燥された製剤は、典型的には、液体、即ち溶液、懸濁液、エマルジョン等から調製される。従って、フリーズドライまたは凍結乾燥される液体は、最終的に再構成された液体製剤に含まれることを望む全ての成分を含んでいることが好ましい。その結果、再構成された時に、フリーズドライまたは凍結乾燥された製剤は再構成後に所望の液体製剤をもたらす。
【0056】
実施例
本方法を説明する前に、本発明は特定の方法および記載された実験条件に限定されず、方法および条件は多様であり得ることを理解するべきである。本明細書に用いられる用語は特定の態様を説明するためだけのものであり、本発明の範囲は添付の請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書に用いられる用語は限定を意図するものではないことも理解される。
【0057】
特に明記しない限り、本明細書に用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。本明細書に記載された方法および材料と同様または同等のいかなる方法および材料も本発明の実施または試験に用いることができるが、好ましい方法および材料をここで説明する。
【0058】
実施例1. 3 mlガラスバイアル中に5℃で保存された50 mg/ml VEGFトラップ液体製剤の安定性
50 mg/ml VEGFトラップ(配列番号:4)、10 mMリン酸塩、50 mM NaCl、0.1%ポリソルベート20、5%スクロースを含み、pHが6.25である眼科用液体製剤を3 mlガラスバイアル中で5℃で保存し、3、6、9、12、18、および24ヶ月の時点でサンプルをテストした。安定性はSE-HPLCで決定した。結果を表1に示す。濁度はOD405 nmで測定し、回収されたタンパク質の割合(%)および純度はサイズ排除HPLCで測定した。
【0059】
(表1)50 mg/ml VEGFトラップタンパク質(VGFT-SS065)の安定性

【0060】
実施例2. 3 mlガラスバイアル中に5℃で保存された50 mg/ml VEGFトラップ液体製剤の安定性
50 mg/ml VEGFトラップ(配列番号:4)、10 mMリン酸塩、50 mM NaCl、3%ポリエチレングリコール3350、5%スクロースを含み、pHが6.25である液体製剤を3 mlガラスバイアル中で5℃で保存し、3、6、9、12、18、および24ヶ月の時点でサンプルをテストした。安定性の結果を表2に示す。濁度、回収されたタンパク質の割合(%)、および純度は上記の通りに決定した。
【0061】
(表2)50 mg/ml VEGFトラップタンパク質(VGFT-SS065)の安定性

【0062】
実施例3. 3 mlガラスバイアル中に5℃で保存された40 mg/ml VEGFトラップ液体製剤の安定性
40 mg/ml VEGFトラップ(配列番号:4)、10 mMリン酸塩、40 mM NaCl、0.03%ポリソルベート20、5%スクロースを含み、pHが6.3である液体製剤を3 mlガラスバイアル中で5℃で保存し、0.5、1、2、3、および4ヶ月の時点でサンプルをテストした。安定性の結果を表3に示す。濁度、回収されたタンパク質の割合(%)、および純度は上記の通りに決定した。
【0063】
(表3)40 mg/ml VEGFトラップタンパク質(VGFT-SS207)の安定性

【0064】
実施例4. 予め充填されたガラスシリンジ中に5℃で保存された40 mg/ml VEGFトラップ液体製剤の安定性
40 mg/ml VEGFトラップ(配列番号:4)、10 mMリン酸塩、40 mM NaCl、0.03%ポリソルベート20、5%スクロースを含み、pHが6.3である液体製剤を、4023/50 FluroTecコーティングされたプランジャー付きの予め充填された1 mlルアー(luer)ガラスシリンジ中で5℃で保存し、0.5、1、2、3、および4ヶ月の時点でサンプルをテストした。安定性の結果を表4に示す。濁度、回収されたタンパク質の割合(%)および純度は上記の通りに決定した。
【0065】
(表4)40 mg/ml VEGFトラップタンパク質(VGFT-SS207)の安定性

【0066】
実施例5. 3 mlガラスバイアル中に5℃で保存された40 mg/ml VEGFトラップ液体製剤の安定性
40 mg/ml VEGFトラップ(配列番号:4)、10 mMリン酸塩、135 mM NaCl、0.03%ポリソルベート20を含み、pHが6.3である液体製剤を3 mlガラスバイアル中で5℃で保存し、0.5、1、2、3、および4ヶ月の時点でサンプルをテストした。安定性の結果を表5に示す。濁度、回収されたタンパク質の割合(%)、および純度は上記の通りに決定した。
【0067】
(表5)40 mg/ml VEGFトラップタンパク質(VGFT-SS203)の安定性

【0068】
実施例6. 1 mlの予め充填されたガラスシリンジ中に5℃で保存された40 mg/ml VEGFトラップ液体製剤の安定性
40 mg/ml VEGFトラップ(配列番号:4)、10 mMリン酸塩、135 mM NaCl、0.03%ポリソルベート20を含み、pHが6.3である液体製剤を、4023/50 FluroTecコーティングされたプランジャー付きの1 mlの予め充填されたルアーガラスシリンジ中で5℃で保存し、0.5、1、2、3、4および5ヶ月の時点でサンプルをテストした。安定性の結果を表6に示す。濁度、回収されたタンパク質の割合(%)、および純度は上記の通りに決定した。
【0069】
(表6)40 mg/ml VEGFトラップタンパク質(VGFT-SS203)の安定性

【0070】
実施例7. 3 mlガラスバイアル中に5℃で保存され、40 mg/mlに再構成された、凍結乾燥された20 mg/ml VEGFトラップ製剤の安定性
20 mg/ml VEGFトラップ(配列番号:4)、5 mMリン酸塩、20 mM NaCl、0.015%ポリソルベート20、2.5%スクロースを含み、pHが6.3である液体製剤0.8 mlを、3 mlガラスバイアル中で凍結乾燥した。サンプルを5℃で保存し、1および2ヶ月後にテストした。VEGFトラップは最終濃度40 mg/mlのVEGFトラップに再構成した(最終容量は0.4 ml)。安定性の結果を表7に示す(t =月での時間、* =外観、** =再構成時間)。濁度、回収されたタンパク質の割合(%)、および純度は上記の通りに決定した。
【0071】
(表7)凍結乾燥された20 mg/ml VEGFトラップタンパク質(VGFT-SS216)の安定性

【0072】
実施例8. 3 mlガラスバイアル中に5℃で保存された、凍結乾燥された20 mg/ml VEGFトラップ製剤の安定性
20 mg/ml VEGFトラップ(配列番号:4)、5 mMリン酸塩、67.5 mM NaCl、0.015%ポリソルベート20を含み、pHが6.3である液体製剤0.8 mlを、3 mlガラスバイアル中で凍結乾燥した。サンプルを5℃で保存し、1、2および3ヶ月後にテストした。VEGFトラップは最終濃度40 mg/mlのVEGFトラップに再構成した(最終容量は0.4 ml)。安定性の結果を表8に示す(t =月での時間、* =外観、** =再構成時間)。
【0073】
(表8)凍結乾燥された20 mg/ml VEGFトラップタンパク質(VGFT-SS216)の安定性


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号:4のアミノ酸配列を含む、1〜100 mg/mlのVEGFアンタゴニスト;
(b)ポリソルベート、ポリエチレングリコール(PEG)、およびプロピレングリコールの内の1つまたは複数である、0.01〜5%の1つまたは複数の有機共溶媒;
(c)塩化ナトリウムまたは塩化カリウムから選択される、30〜150 mMの等張化剤;および
(d)5〜40 mMのリン酸ナトリウム緩衝液
を含み;ならびに
スクロース、ソルビトール、グリセロール、トレハロース、またはマンニトールからなる群より選択される1.0〜7.5%の安定剤を任意でさらに含み、
pHが約5.8〜7.0の間である、
血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor, VEGF)アンタゴニストの眼科用製剤。
【請求項2】
約1〜100 mg/ml、好ましくは10〜80 mg/mlのVEGFアンタゴニスト、10 mMリン酸ナトリウム緩衝液、40 mM NaCl、0.03%ポリソルベート、および5%スクロースを含み、pHが約6.2〜6.3である、請求項1記載の眼科用製剤。
【請求項3】
10 mg/ml、20 mg/ml、40 mg/ml、および80 mg/mlからなる群より選択される濃度のVEGFアンタゴニストを含む、請求項2記載の眼科用製剤。
【請求項4】
10〜80 mg/mlのVEGFアンタゴニスト、10 mMのリン酸ナトリウム、0.03%のポリソルベート、および135 mMの塩化ナトリウムを含み、pHが約6.2〜6.3である、前記請求項のいずれか一項記載の眼科用製剤。
【請求項5】
(a)配列番号:4のアミノ酸配列を含む、5〜50 mg/ml、好ましくは5 mg/ml、10 mg/ml、20 mg/ml、または40 mg/mlのVEGFアンタゴニスト;
(b)pHが約5.8〜7.0である、5〜25 mMのリン酸ナトリウム緩衝液;
(c)ポリソルベート、ポリエチレングリコール(PEG)、プロピレングリコール、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、0.01〜0.15%の有機共溶媒;ならびに任意で
(d)スクロース、ソルビトール、グリセロール、トレハロース、およびマンニトールからなる群より選択される1〜10%の安定剤;もしくは20〜150 mMの等張化剤、好ましくは塩化ナトリウム;または1〜10%の安定剤および20〜150 mMの等張化剤
を含む、
血管内皮増殖因子(VEGF)アンタゴニストの凍結乾燥可能な製剤。
【請求項6】
約20 mg/mlのVEGFアンタゴニスト、約10 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、約0.03%のポリソルベート、約0.1%のPEG、および約2.5%のスクロースを含み、pHが約6.2〜6.3である、請求項5記載の凍結乾燥可能な製剤。
【請求項7】
約20 mg/mlのVEGFアンタゴニスト、約5 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、約0.015%のポリソルベート、約2.5%のスクロースを含み、および約20mMの塩化ナトリウムをさらに含み、pHが約6.2〜6.3である、請求項5記載の凍結乾燥可能な製剤。
【請求項8】
約20 mg/mlのVEGFアンタゴニスト、約5 mMのリン酸ナトリウム緩衝液、約0.015%のポリソルベートを含み、および約67.5mMの塩化ナトリウムをさらに含み、pHが約6.2〜6.3である、請求項6記載の凍結乾燥可能な製剤。
【請求項9】
凍結乾燥製剤を生成するために、請求項5〜8のいずれか一項記載の凍結乾燥前製剤を凍結乾燥に供する工程を含む、VEGFアンタゴニストの凍結乾燥可能な製剤を産生するための方法。
【請求項10】
請求項1記載の製剤を含む、硝子体内投与に適した予め充填されたシリンジ。

【公表番号】特表2009−540001(P2009−540001A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515517(P2009−515517)
【出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/014085
【国際公開番号】WO2007/149334
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(507302748)リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (9)
【Fターム(参考)】