説明

硝子繊維集束剤化工澱粉、硝子繊維集束剤および硝子繊維

【課題】 硝子繊維ヤーンの毛羽立ちと集束剤のマイグレーションを減少させ、ヤーンがエアージェット織機にて製織される時に緯糸としての飛走性を向上させ、集束剤の剥離脱落(粉落ち)を減少させる、粘度安定性の高い硝子繊維集束剤を開発する。
【解決手段】 乾式製造法にてM.S.値0.03〜0.09にヒドロキシアルキル化され、かつ5%水溶液の50℃における粘度が3〜20cpsになるよう架橋処理された米澱粉を硝子繊維集束剤用化工澱粉として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硝子繊維集束剤用化工澱粉、およびそれを使用した硝子繊維集束剤や硝子繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、硝子繊維は溶融硝子を紡糸口金からマルチフィラメントの形で紡糸する際、口金から紡糸された直後に各フィラメントを一束のヤーンに集束すると共に澱粉を主体とする集束剤を塗布する。これは、次工程の巻き返し、合撚、菅巻き、整経、織布などの工程において受ける屈曲、摩耗などの作用から硝子繊維を保護し、粉落ち、毛羽立ち、糸切れなどを防止するためである。
【0003】
フィルム形成剤として作用する集束剤としては、普通澱粉または澱粉を化学的に処理変性したものが用いられている。これは、澱粉が適度なフィルム形成力と接着力をもつこと、脱油が容易なこと、コストが比較的安いことなどによる。集束剤には澱粉の他に潤滑剤や防腐剤なども助剤として添加される。このような集束剤を塗布したヤーンは優れた諸特性を示し今まで用いられて来た。しかしながら、今までの集束剤では巻き取られた糸のパッケージを乾燥する際に塗布された集束剤の中の特定の成分(一般には水に溶けやすい成分)が表面部分に移行するマイグレーションという現象がおきるという欠点があり、このために種々の改良が提案されている。
【0004】
特公昭53−35639号公報には、「糊化後の平均粒径が0.5〜10ミクロン、粘度が5%、50℃において30cps以下を示す架橋エーテル化澱粉を被膜形成剤とする集束剤」が提案されている。
【0005】
また、特公平4−76338号公報には「澱粉とオクチル無水コハク酸やテトラデシル無水コハク酸とのエステル化物を用いる移動安定性の硝子集束用糊剤組成物」が提案されている。
【0006】
また、特開昭61−270236号公報には、「澱粉またはヒドロキシアルキル化物を一価の低級脂肪酸または一価の芳香族酸でエステル化し、濃硫酸で澱粉分子を分解してなる硝子繊維用集束剤」が提案されている。
【特許文献1】特公昭53−35639号公報
【特許文献2】特公平4−76338号公報
【特許文献3】特開昭61−270236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の集束剤は、糊化後の平均粒子径を0.5〜10ミクロンにするためには高価な米澱粉を使用するか、他の安価な澱粉を用いる場合は膨潤を抑える架橋処理を高度に施さなければならない。しかし、米澱粉は、特許文献1の例3で行われている様な水媒中での化工方法では澱粉粒子が小さいために固液分離が困難で、遠心分離器を用いても排水中に流出してしまう澱粉が多く、製造歩留まりが悪かった。また、架橋処理を高度に施した澱粉は水に溶けにくいので確かにマイグレーションは減少するが、フィルム性が低下して均一で柔軟なフィルムにならないため、ヤーンの被覆が不十分となり、粉落ち、毛羽立ちが多くなるという欠点があった。
【0008】
特許文献2の集束剤は、疎水性と親水性を合わせ持った澱粉を使用するため、併用する油成分が澱粉糊液と相溶して一体化し、マイグレーションしにくくなるかもしれない。しかし、油成分を用いる本来の目的は、油成分が澱粉フィルムの表層に移行して澱粉フィルム表面の滑りを良くして摩擦抵抗を下げ、粉落ち、毛羽立ちを抑えるためなので、油成分と澱粉溶液が相溶して澱粉フィルムの内層にも油成分が分布してしまうと、粉落ち、毛羽立ちを抑える効果が乏しくなってしまい、好ましくない。
【0009】
特許文献3の集束剤は、澱粉をヒドロキシアルキル化とエステル化またはエステル化したものを更に、濃硫酸による酸加水分解処理しているため、水に対する溶解性が非常に高くなり、澱粉粒子が膨潤しにくくなっているものに比べるとマイグレーションし易くなってしまう。また、集束剤としての糊液安定性については、加水分解されたものは一般に剪断力を受け続ける状態下では経時的に粘度低下しやすいという問題点がある。
【発明の効果】
【0010】
本発明者等は上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、乾式製造法にてM.S.値0.03〜0.09にヒドロキシアルキル化され、かつ5%水溶液の50℃における粘度が3〜20cpsになるよう架橋処理された米澱粉が上記の課題を解決するのに有用であることを見出した。
【0011】
本発明によれば、硝子繊維用集束剤を塗布したヤーンはマイグレーションと毛羽立ちが少ない上にエアージェット織機における粉落ちが少なく飛走性が高いという優れた特性を有し、集束剤の粘度安定性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の乾式製造法とは、澱粉の反応時に澱粉を澱粉重量以上の水または有機溶媒に懸濁することなく、澱粉重量以下の水または有機溶媒を加えた粉末状もしくはおから状の状態にて澱粉を反応させる方法である。この製造方法を用いることによって、澱粉を澱粉重量以上の水に懸濁する水媒製造法では製造歩留まりの悪い米澱粉を使用しても、良好な製造歩留りを得ることができ、安価に米澱粉化工品を市場に提供できる様になった。また、製造時に用いた反応薬剤の一部はそのまま製造物に残留するが、その残留物(グリコール類等)がヤーンの粉落ちや毛羽立ち、飛走性等の物性を向上させる場合もある。
【0013】
本発明のヒドロキシアルキル化の程度を示すMS値とは、澱粉の無水グルコース残基当たりのヒドロキシアルキル基のモル数(Molar Substitution)のことをいう。本発明のヒドロキシアルキル化は澱粉に1,2−アルキレンオキサイド、すなわちエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイド等が用いられる。これらのアルキレンオキサイドは米澱粉に対してはMS値が0.03〜0.09、好ましくは0.04〜0.07の範囲になるように付加される。
【0014】
本発明の硝子繊維集束剤用化工澱粉は、上記のヒドロキシアルキル化と組み合わせて5%水溶液の50℃における粘度が、3〜20cps好ましくは5〜10cpsになるように架橋反応によって粘度を調整する。架橋剤としては、エピクロルヒドリン、トリメタリン酸ナトリウム、シアヌリッククロライド、アジピック−アセチックアンハイドライド、ホルマリン、ジエポキシド、ジアルデヒド等の澱粉の水酸基と反応し得る官能基を2つ以上有する試薬が用いられる。
【0015】
なお、ヒドロキシアルキル化や架橋反応の好適範囲は、用いられる米澱粉のアミロース含量によって異なる。これはアミロース含量の多寡により未化工の澱粉のフィルム性に違いがあるためである。フィルム性が元々良いものは、ヒドロキシアルキル化が低度で済み、悪いものはヒドロキシアルキル化が高度でなければならない。また、架橋度との関係においてもヒドロキシアルキル化の程度が左右される。すなわち、架橋度が高いときは、糊液が高温で攪拌などの剪断力を長時間受けても粘度低下し難いという長所がある一方、フィルム性が悪くなるのでヒドロキシアルキル化を高度にしなければならない。また、架橋度が低いときはフィルム性がそれほど悪くならないのでヒドロキシアルキル化をそれほど高める必要がない。このため、用いる米澱粉の種類、ヒドロキシアルキル化・架橋度をそれぞれ調節した結果、ヒドロキシアルキル化の好適範囲は上記の範囲であることを見出した。上記の好適範囲をはずれると、結果として粉落ち、毛羽立ち、糸切れなどの状態が悪くなる。これは、ヒドロキシアルキル化によるフィルムの柔軟性の程度が影響していると思われる。
【0016】
本発明の硝子繊維集束剤用化工澱粉は、その糊液に通常使用される潤滑剤、柔軟剤、防腐剤、その他の助剤を添加混合することによって硝子繊維集束剤用組成物となり、硝子フィラメントに塗布して使用される。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例にて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0018】
<製造例1>
米澱粉1000g(アミロース含量20%)を耐圧ブレンダーに投入し、メタノール100gに水3g、苛性ソーダ1g、トリエチルアミン20gを溶解した溶液を攪拌しながら噴霧した。プロピレンオキサイドを20〜85gまたはエチレンオキサイドを15〜65g、それぞれエピクロルヒドリン0.1〜2gと共に添加し、45℃で16時間反応させ、架橋・ヒドロキシアルキル化を行った。反応終了後、メタノールで希釈した硫酸で中和し、乾燥し、粉砕した。得られた化工米澱粉のM.S.値と5%水溶液の50℃、B型粘度計、60rpmにおける粘度を表1に示した。表中の、HPはヒドロキシプロピル基、HEはヒドロキシエチル基を表す。
【0019】
【表1】

【0020】
<製造比較例>
米澱粉(アミロース含量20%)、コーンスターチ(アミロース含量27%)、又はハイアミロースコーンスターチ(アミロース含量70%)1000gを水1300gに苛性ソーダ10gと硫酸ナトリウム300gを溶解した溶液の入った攪拌機付き小型タンクに投入し、続いて、プロピレンオキサイドを20〜85gまたはエチレンオキサイドを15〜65g、それぞれエピクロルヒドリン0.1〜2gと共に添加し、45℃で16時間反応させ、架橋・ヒドロキシアルキル化を行った。反応終了後、硫酸で中和し、水洗し、乾燥し、粉砕した。得られた化工澱粉のM.S.値と5%水溶液の50℃、B型粘度計、60rpmにおける粘度を表2に示した。
【0021】
【表2】

【0022】
<実施例>
製造例で得た各試料を用いて表3に示す集束剤用組成物を調製し、5μm200本の硝子フィラメントに塗布し、集束、巻き取り後、巻き返してヤーンを得た。このヤーンについて粉落ち・毛羽立ち・飛走性の評価試験、及び集束剤組成物について粘度安定性試験を行い、以下の観点で評価を行った。なお各評価とも、◎と○は良い状態、△と×は悪い状態と判断出来る。
【0023】
<粉落ち>
エアージェット織機(津田駒工業社製、ZA)のヤーン吹き出しノズル付近に脱落する粉の量を目視で観察する方法で行った。脱落粉が認められなかったものを◎、極めて量の少ないものを○、粉が認められるものを△、量の多いものを×として評価した。
<毛羽立ち>
織り上がったガラスクロス表面を目視で観察する方法で行った。毛羽立ちが認められないものを◎、極めて毛羽本数の少ないものを○、毛羽が認められるものを△、毛羽数の多いものを×として評価した。
<飛走性>
エアージェット織機のエアーノズルを用いて、エアー圧を0.5kg/cm2でヤーンを1分間吹き出させ、吹き出されたヤーン量を測定した。ヤーン量が12g以上を◎、12g未満8g以上を○、8g未満6g以上を△、6g未満を×として評価した。
<粘度安定性>
集束剤組成物の粘度安定性試験は、3Lのステンレスビーカーに集束剤組成物を2L入れ、ふたをして60℃に保温しながらタービン型3枚羽の攪拌棒を用いて200rpmで1時間攪拌し、攪拌前後の粘度変化を観察する方法で行った。変化がないものを◎、変化がほとんどないものを◎、変化があるものを△、変化が非常に大きいものを×として評価した。
【0024】
結果を表4に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
【表4】

【0027】
表4より、米澱粉の乾式製造品の内、本発明品(実施例1〜7)は粉落ち、毛羽立ち、飛走性、粘度安定性の4項目とも良い状態であった。比較例1〜7のなかには、一部の項目において実施例よりも良い状態を示すものもあるが、劣る項目もあり、総合的にみて好ましくない。水媒製造品については、米澱粉化工品(比較例8、9)は飛走性が悪い状態を示し、本発明品である乾式製造品(実施例1〜7)との差が明瞭であった。また、コーンスターチとハイアミロースコーンスターチを原料に用いた化工品(比較例10〜12)は皮膜性が悪く、好ましい結果は得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式製造法にてM.S.値0.03〜0.09にヒドロキシアルキル化され、かつ5%水溶液の50℃における粘度が3〜20cpsになるよう架橋処理された米澱粉であることを特徴とする硝子繊維集束剤化工澱粉。
【請求項2】
乾式製造法にてM.S.値0.03〜0.09にヒドロキシアルキル化され、かつ5%水溶液の50℃における粘度が3〜20cpsになるよう架橋処理された米澱粉を用いることを特徴とする硝子繊維集束剤。
【請求項3】
乾式製造法にてM.S.値0.03〜0.09にヒドロキシアルキル化され、かつ5%水溶液の50℃における粘度が3〜20cpsになるよう架橋処理された米澱粉を含んだ硝子繊維集束剤を付着させたことを特徴とする硝子繊維。