説明

硝材情報提供方法および硝材

【課題】硝材の化学的耐久性についての評価と現実の表面状態との乖離発生を回避することのできる硝材情報提供方法および硝材を提供する。
【解決手段】硝材の化学的耐久性に関する情報を提供する硝材情報提供方法であって、前記硝材が浸漬される処理液の水素イオン濃度指数の変化と前記処理液に浸漬された前記硝材における所定種類の化学的耐久性指標値の変化との対応関係を、視認可能な態様で図表化して、前記硝材の硝種毎に個別に提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝材の化学的耐久性に関する情報を提供する硝材情報提供方法、および、その硝材情報提供方法によって情報が提供される硝材に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズやプリズム等の光学素子を形成する硝材に生じ得る表面劣化(白ヤケ、青ヤケ、潜傷等)は、当該硝材の化学的耐久性と密接な関係がある。硝材の化学的耐久性とは、硝材成分と処理液(洗浄液、研磨液等)が化学反応を起こすときの耐久性のことをいい、具体的には耐水性、耐酸性、耐洗剤性等が含まれる。このような化学的耐久性は、硝材の化学組成により異なるので、硝材評価において必要不可欠なものである。
【0003】
従来、硝材の化学的耐久性は、日本光学硝子工業会規格によって規定されている手法によって試験および評価がされ、その結果が硝材メーカから提供されている。さらに詳しくは、例えば日本光学硝子工業会規格JOGIS07による規定内容に従いつつ、各種光学ガラスの粉末法耐水性(D)、粉末法耐酸性(D)、化学的耐久性(D)、耐潜傷性(DSTTP)、耐潜傷性(DNaOH)、表面法耐青ヤケ値(Tblue)を試験して評価し、これら各種の指標について1〜6級に分類されている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(表面法)」、日本光学硝子工業会規格JOGIS07−1975
【非特許文献2】「技術情報(化学的性質)」、[online]、HOYA株式会社オプティクス事業部、[平成23年9月7日検索]、インターネット〈URL:http://www.hoya-opticalworld.com/japanese/technical/003.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来手法により提供される硝材の評価結果情報では、以下に述べるような問題が生じることがあった。
【0006】
例えば、「FDS18(HOYA株式会社製)」と呼ばれる硝材は、従来の評価結果情報によると、6種(D、D、D、DSTTP、DNaOH、Tblue)の化学的耐久性が全て1級であり、優れた化学的耐久性を有することがわかる。ところが、このFDS18に対する研削工程、研磨工程、洗浄液による洗浄工程等を経て光学素子であるレンズを作製した場合に、レンズ表面に反射防止膜をコートするまでの間、そのレンズの表面に潜傷キズが発生してしまう問題が生じることがあった。つまり、従来の評価結果情報では全ての化学的耐久性が1級であったにもかかわらず、現実のレンズ表面は時間と共に経時変化してしまうことがあった。このことは、従来の評価結果情報と現実のレンズ表面の劣化状態との間に乖離が生じる場合があり得ることを意味している。
【0007】
そこで、本発明は、現実の表面状態との乖離発生を回避することのできる硝材情報提供方法および硝材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的達成のために、本願発明者は、先ず、従来の評価結果情報では全ての化学的耐久性が1級であった硝材を用いたにもかかわらず、現実のレンズ表面が経時変化してしまった理由を検討した。
【0009】
その検討の結果、現実のレンズ表面状態が時間と共に経時変化してしまった理由として、本願発明者は以下の内容を予想した。
(理由1)硝材に備わっているはずの性能が、従来手法の評価ではカバーしきれていない。つまり、従来の評価結果情報では表出しない特徴が、硝材に存在する。
(理由2)硝材に対する試験および評価の際には行われない処理が外的要因となり、現実のレンズ表面に影響を与えている。
【0010】
まず、理由1についてであるが、従来手法においても耐酸性等を含む各種の化学的耐久性について評価を行うが、従来手法は日本光学硝子工業会規格の規定内容に準拠している。そのため、評価すべき指標種類毎に硝材試料が浸漬される処理液の水素イオン濃度指数(以下、「pH」ともいう。)が固定的に定められている。また、処理液のpHのみならず、硝材試料の形状、大きさ、処理液への浸漬時間、液温度等についても、指標種類毎で評価条件が統一されていない。
さらに、従来手法は、評価段階が1〜6級と離散的であるとともに、1級よりも優れた耐久性を有する硝材をより詳細に分類して評価する手法が採られていない。
これらの事実から、本願発明者は、従来の評価結果情報では硝材が浸漬される処理液のpH変化の影響を把握できないところがポイントであり、このポイントにこそ、従来の評価結果情報では表出しない特徴が存在するのではないかと推測した。
【0011】
次に、理由2についてであるが、レンズを作製する製造工程は、洗浄液による洗浄工程を含むことが一般的である。そして、洗浄工程では、強アルカリの洗浄液を用いることで洗浄力を向上させるといったことが行われている。このことから、本願発明者は、上記の外的要因として、洗浄工程で用いる洗浄液のpHが影響して、レンズ表面の状態が経時変化してしまったのではないかと推測した。
【0012】
以上の理由1および理由2を基に鋭意検討を重ねた結果、本願発明者は、日本光学硝子工業会規格の規定内容を遵守するという常識的な考えに捉われずに、処理液のpHを変化させてその影響を試験および評価するという従来にはない全く新たな思想に着眼した。そして、このように発想を転換することによって、日本光学硝子工業会規格の規定内容とは別に、硝材の化学的耐久性に対するpHによる影響(即ち従来手法の試験および評価方法では表出しない特徴)を把握できるような試験および評価を行うことで上記の課題を解決できるのではないか、という知見を得た。
【0013】
そして、上記の知見を実行に移して、pHと化学的耐久性との対応関係を把握してそれを活用することにより、従来手法による化学的耐久性の評価が高級とされている硝材においては、現実に光学素子のような製品となった後でも、硝材に対する評価と当該硝材における現実の表面状態との乖離発生を回避することができる、という知見を得た。
【0014】
そればかりか、従来手法による化学的耐久性の評価が低級とされている硝材であっても、光学素子の製造に用いられる処理液のpHが、硝材の種類毎に決められたpH範囲に収まるようにすることにより、場合によっては、化学的耐久性の評価が高級な硝材が基となった光学素子に引けを取らない程度に、硝材の化学的耐久性を充分に引き出すことができる、という知見を得た。
【0015】
本発明は、上述した本願発明者による新たな知見に基づいてなされたものである。
本発明の第1の態様は、硝材の化学的耐久性に関する情報を提供する硝材情報提供方法であって、前記硝材が浸漬される処理液の水素イオン濃度指数の変化と前記処理液に浸漬された前記硝材における所定種類の化学的耐久性指標値の変化との対応関係を、視認可能な態様で図表化して、前記硝材の硝種毎に個別に提供することを特徴とする硝材情報提供方法である。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の硝材情報提供方法において、前記化学的耐久性指標値として、少なくとも前記処理液に所定時間浸漬した後における前記硝材のヘーズ値を用いることを特徴とする。
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の硝材情報提供方法において、前記化学的耐久性指標値として、前記ヘーズ値に加えて、前記処理液に所定時間浸漬した前後での前記硝材の重量変化値を用いることを特徴とする。
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載の硝材情報提供方法において、前記水素イオン濃度指数を横軸、前記ヘーズ値を一方の縦軸、前記重量変化値を他方の縦軸としたグラフによって、前記図表化を行うことを特徴とする。
本発明の第5の態様は、第1から第4のいずれか1態様に記載の硝材情報提供方法において、屈折率ndとアッベ数νdで分類される硝材マップ上に存在する複数の硝種について、各硝種毎に個別に図表化した情報を当該硝材マップ上にて一覧形式で提供することを特徴とする。
本発明の第6の態様は、光学ガラスの形成材料となる硝材であって、前記硝材の化学的耐久性に関する情報として、前記硝材が浸漬される処理液の水素イオン濃度指数の変化と前記処理液に浸漬された前記硝材における所定種類の化学的耐久性指標値の変化との対応関係が、視認可能な態様で図表化された状態で、前記硝材の硝種毎に個別に添付されていることを特徴とする硝材である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水素イオン濃度指数の変化が化学的耐久性指標値に与える影響を把握し得るようになるので、硝材に対する評価と当該硝材における現実の表面状態との乖離発生を回避することが可能になる。ひいては、光学素子に備わっている化学的耐久性を充分に発揮させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施例において、横軸をアッベ数νd、縦軸を屈折率ndとして、各硝種が有するアッベ数および屈折率を、各硝種を示す六角形の中心点によってプロットした図である。なお、各硝種を示す六角形の各辺側の領域は、日本光学硝子工業会規格JOGIS07における化学的耐久性指標を示している。なお、各辺側の領域によって化学的耐久性指標の種類が異なっており、六角形上辺領域が粉末法耐水性(D)を示し、そこから時計回りにて六角形上辺領域と隣接する領域(即ち右上領域)が粉末法耐酸性(D)、右下領域が表面法耐青ヤケ値(TBlue)、六角形下辺領域が耐潜傷性(DNaOH)、左下領域が耐潜傷性(DSTTP)、左上領域が化学的耐久性(D)を示す。また、各領域内の模様によって化学的耐久性の等級の違いを示している。
【図2】図2(a)は、実施例1の硝材(硝種:FDS18)に対して硝材試験を行った結果を示す図であり、横軸をpH、右縦軸をヘーズ値(%)、左縦軸を重量変化値(g)としてプロットした図である。 図2(b)は、実施例16の硝材(硝種:M−FCD1)に対して硝材試験を行った結果を示す図であり、横軸をpH、右縦軸をヘーズ値(%)、左縦軸を重量変化値(g)としてプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態では、以下の順序で項分けして説明を行う。
1.概要
2.情報取得
3.情報提供
4.情報活用
5.本実施形態の効果
6.その他
【0019】
<1.概要>
既に説明したように、本願発明者は、従来の評価結果情報では硝材が浸漬される処理液のpHの影響を把握できないところに問題の所在があるのではないかと考えた。そして、日本光学硝子工業会規格の規定内容を遵守するという常識的な考えに捉われずに、従来にはない全く新たな発想によって、日本光学硝子工業会規格の規定内容とは別にpHの影響を把握できるような試験を行い、その結果を硝材情報として提供することで、問題解決が図れるのではないかという考えに至った。
【0020】
本実施形態で説明する硝材情報提供方法は、上述した本願発明者による新たな知見に基づいてなされたものであり、硝材の化学的耐久性に関する情報として、当該硝材が浸漬される処理液の水素イオン濃度指数(pH)の影響を把握できるような情報を提供するものである。
【0021】
ここで、硝材とは、光学素子または光学ガラスの形成材料となるもので、硝材の種類(以下、単に「硝種」という。)によって化学的組成が異なる。したがって、硝材は、硝種が異なれば、その化学的耐久性も異なる。
硝材の化学的耐久性とは、硝材成分と処理液(洗浄液、研磨液等)が化学反応を起こすときの耐久性のことをいい、これを評価するための客観的な基準(指標)として化学的耐久性指標値が用いられる。
化学的耐久性指標値としては様々な種類の指標値を用いることが可能であるが、本実施形態では所定種類の化学的耐久性指標値として詳細を後述するように「ヘーズ値」および「重量変化値」を用いる。
【0022】
本実施形態では、硝材が浸漬される処理液のpHの影響を把握できるような情報として、処理液のpHの変化と当該処理液に浸漬された硝材の化学的耐久性指標値の変化との対応関係を特定する情報を用いる。それぞれの対応関係(一方が変化したら他方がどのように変化するか)を特定できれば、処理液のpHの影響を把握し得るからである。つまり、従来手法のように日本光学硝子工業会規格の規定内容を遵守したのでは、処理液のpHが固定的に定められているため、当該処理液のpHの影響を把握できない。これに対して、本実施形態では、pHの影響を把握できないことによる問題の解決を図るべく、従来にはない全く新たな着想により、pH変化と化学的耐久性指標値変化との対応関係を特定する情報を用い、これにより処理液のpHの影響を把握し得るようにする。
【0023】
pH変化と化学的耐久性指標値変化との対応関係については、後述する「2.情報取得」で具体的に説明する試験方法によって試験を行い、硝材の硝種毎に情報取得を行うことが考えられる。
【0024】
また、取得した硝材情報(対応関係情報)については、後述する「3.情報提供」で具体的に説明する提供方法によって、硝材利用者(硝材の加工業者等)に対して情報の提供を行う。すなわち、詳細を後述するように、pH変化と化学的耐久性指標値変化との対応関係を、視認可能な態様で図表化して、硝材の硝種毎に個別に提供するのである。このように、本実施形態では、従来手法のような1〜6級の離散的な等級評価によって化学的耐久性に関する情報を提供するのではなく、従来にはない全く新たな着想により、硝材の利用者にとって視認可能な態様での情報の提供を行うのである。
【0025】
以上のように、本実施形態では、硝材の化学的耐久性に関する情報として、pH変化と化学的耐久性指標値変化との対応関係という従来にはない内容の情報を、視認可能な態様で図表化して硝種毎に個別に提供するという従来にはない手法で提供する。つまり、本実施形態では、情報の提示(すなわち、提示する情報の内容自体およびその情報の提示手段)に、日本光学硝子工業会規格の規定内容を遵守するという従来手法に対する貢献を明示する技術的特徴がある。したがって、本実施形態で説明する硝材情報提供方法は、情報の単なる提示ではなく、自然法則を利用した技術的思想の創作に該当するものである。
【0026】
このようにして提供される情報については、後述する「4.情報活用」で具体的に説明するように活用することが考えられる。すなわち、詳細を後述するように、例えば硝材の利用者が、提供された情報を参照しつつ、各硝種の硝材に対する処理を行う際に用いるべき処理液のpHを選定したり、選定したpHの処理液を用いて硝材に対する処理(研磨、洗浄等)を行って光学素子を製造することが考えられる。
【0027】
<2.情報取得>
本実施形態における情報取得は、以下に述べるようにして行う。
【0028】
情報取得を行う場合は、先ず、情報取得を行うべき硝種別に、硝材試料を用意する。硝材試料は、例えば、硝材を直径43.7mm、厚さ5mmの円盤形状に加工し、対向する二つの主表面(直径43.7mmの面)をJIS R 6001(研磨材の粒度)に規定する#1200の粒度で、JIS R 6111(人造研磨材)に規定するA砥粒を用いて砂掛けを行う。そして、ストレートアスファルト系ピッチと酸化セリウム(CeO)を用いて研磨し、ルーペで覗いて砂目が見えない程度に仕上げ、硝材試料とする。ただし、硝材試料は、このようなものに限定されることはなく、処理液に浸漬可能であれば他のものであってもよい。
【0029】
また、硝材試料の他に、当該硝材試料を収容可能な大きさの容器中に、当該硝材試料を浸漬するための処理液を用意する。処理液は、硝材から光学素子を製造する過程で使用される液体(研磨液や洗浄液等)を想定したものである。これは、光学素子が製品として完成に至るまでに使用される液体を処理液に見立てた上で、硝材試料をこの処理液に浸漬させ、化学的耐久性指標値がpH変化に応じてどのように変化するかを試験するためである。
ただし、ここで用意する処理液については、その水素イオン濃度指数(pH)を適宜調整し得るようにする。pH調整は、例えば、中性の処理液として純水を使用し、酸性にする場合は硝酸(HNO)を加え、アルカリ性にする場合は水酸化ナトリウム(NaOH)を加えて行うことが考えられる。つまり、純水に対してHNOとNaOHを使用し、HNOとNaOHの混合比を変えることで、pH調整を行い得るようにしたものが、処理液の一具体例として挙げられる。なお、処理液がこれに限定されることはなく、pH調整が可能であれば他のものを用いてもよい。
【0030】
硝材試料および処理液を用意した後は、あるpHに調整されて所定温度(例えば50℃)に保たれた処理液中に、硝材試料を所定時間(例えば15時間)浸漬する。なお、温度や時間等は、適宜設定すればよく、特定の値に限定されるものではない。
【0031】
その後は、処理液中から取り出した硝材試料について、所定種類の化学的耐久性指標値の測定を行う。本実施形態では、所定種類の化学的耐久性指標値として「ヘーズ値」および「重量変化値」を用いる。「ヘーズ値」および「重量変化値」、特に「ヘーズ値」を用いれば、硝材試料の表面の劣化状態(曇り)を、的確かつ客観的に把握し得るからである。
【0032】
「ヘーズ値」は、曇りの度合を表す値であり、数値が小さい程透明性が高いことを示す。具体的には、ヘーズ値(%)=Td/Tt×100(Td:拡散透過率、Tt:全光線透過率)の式で特定される。このようなヘーズ値は、「日本光学硝子工業会規格JOGIS 光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(表面法)07−1975」に定められたヘーズメーターを用い、処理液に所定時間浸漬した後における硝材試料の対向する二つの主表面に対し垂直に測定光を透過させることで、測定することが可能である。なお本願明細書において、ヘーズ値とは「日本光学硝子工業会規格JOGIS 光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(表面法)07−1975」における「ヘイズ」と同様の意味を有する。
【0033】
「重量変化値」は、処理液への浸漬前後での硝材試料の重量変化量(減少量)を表す値である。このような重量変化値(g)は、処理液に所定時間浸漬した前後での硝材試料の重量を計測し、それぞれの計測結果の差分を算出することで、測定することが可能である。
【0034】
あるpHに調整された処理液中に所定時間浸漬された硝材試料のヘーズ値および重量変化値を測定した後は、次いで、当該硝材試料と同一の硝種の新たな硝材試料について、処理液のpH以外の条件を固定したまま、pHを変化させた処理液を用いて、ヘーズ値および重量変化値の測定を行う。測定手法は、pHの変更前と同様である。つまり、処理液のpHだけを変化させて、再び、ヘーズ値および重量変化値の測定を行うのである。
【0035】
このようにして、少なくとも二以上のpHについて、それぞれに対応するヘーズ値および重量変化値を得る。これにより、処理液のpHの変化と硝材試料におけるヘーズ値の変化との対応関係、および、当該処理液のpHの変化と当該硝材試料における重量変化値の変化との対応関係が、硝材試料の硝種別にわかるようになる。つまり、pH変化と化学的耐久性指標値変化(具体的にはヘーズ値および重量変化値の変化)との対応関係について、上述した一連の方法によって試験を行うことで、硝材の硝種毎に情報取得を行うことができる。
【0036】
なお、ヘーズ値および重量変化値の測定は、少なくとも二つのpHについて行えばよい。少なくとも二つのpHについて行えば、pH変化と化学的耐久性指標値変化との対応関係を特定することが可能だからである。ただし、好ましくは、例えばpH=3.2,6.3,6.9,9.4,11.8といったように、酸性からアルカリ性まで、三以上のpHについて測定を行うべきである。このように、多くのpHについて測定を行えば、分解能向上による対応関係特定の精度向上が図れるからである。
【0037】
<3.情報提供>
pH変化と化学的耐久性指標値変化との対応関係について情報取得を行うと、本実施形態では、取得した情報の硝材利用者(硝材の加工業者等)に対する提供を行う。情報の提供は、以下に述べるようにして行う。
【0038】
(情報の図表化)
情報の提供を行う場合は、先ず、提供すべき情報であるpH変化と化学的耐久性指標値変化との対応関係を、視認可能な態様で図表化する。そして、図表化した後の情報(以下「図表化情報」という)を、硝材の硝種毎に個別に提供する。
ここで、図表化とは、提供すべき情報、すなわちpH変化と化学的耐久性指標値変化との対応関係を、図面(グラフ)若しくは表、またはこれら両方で表すことをいう。
また、硝種毎に個別とは、硝種の一つ一つに対して別個にという意である。したがって、各硝種について必ずしも同時並行的な提供を要することはないが、例えばそれぞれを一覧形式で提供する場合のように提供時点が同時並行的であってもよい。
【0039】
視認可能な態様の図表化の具体例としては、以下に述べるようなものが挙げられる。
図2(a)に示す例は、実施例1として示されたもので、「FDS18(HOYA株式会社製)」と呼ばれる硝材について、pH変化と化学的耐久性指標値変化との対応関係の取得情報を、視認可能な態様で図表化したものである。さらに詳しくは、図例では、pHを横軸とし、ヘーズ値(%)を一方(図中右側)の縦軸、重量変化値(g)を他方(図中左側)の縦軸としたグラフによって、二次元的に図表化を行っている。そして、二次元的なグラフ上の座標空間において、pH変化とヘーズ値の変化との対応関係と、pH変化と重量変化値の変化との対応関係とが、それぞれ線図によって示されている。
図2(b)に示す例は、実施例16として示されたもので、「M−FCD1(HOYA株式会社製)」と呼ばれる硝材について、上述した図2(a)の場合と同様に図表化したものである。
【0040】
このような図表化を行えば、図表化後のグラフを参照した硝材利用者が、pH変化とヘーズ値の変化との対応関係およびpH変化と重量変化値の変化との対応関係のそれぞれについて、すなわちヘーズ値および重量変化値のpH依存性について、視覚を通じて直感的に把握できるようになる。
【0041】
しかも、二次元的なグラフ上で線図によって対応関係を示すことによって、取得情報が離散的なものであっても、その離散的な測定ポイントの間を補完することができる。つまり、取得情報の測定ポイントが離散的であっても、当該測定ポイント以外の点の情報について類推することが可能となる。
【0042】
なお、図表化は、上述した具体例に限定されないことは勿論である。すなわち、ヘーズ値等のpH依存性が視認可能であれば、他の態様の図面(グラフ)によって図表化してもよいし、表形式で図表化してもよいし、これらを適宜組み合わせて図表化してもよい。
【0043】
(一覧形式)
上述した情報の図表化は、硝材の硝種毎に個別に行う。硝種が異なれば、化学的耐久性も異なるからである。つまり、化学的耐久性に関する取得情報が硝種毎に異なるので、その取得情報について図表化する内容も、当然に硝種毎に異なる。したがって、硝材の硝種毎に、例えば図2(a)または図2(b)に示したような図表化を行うのである。
【0044】
その一方で、硝材には、多くの硝種が存在する。そして、各硝種の硝材は、縦軸を屈折率nd、横軸をアッベ数νdとしたグラフ(以下「硝材マップ」という)上にて、それぞれの値に応じた位置にマッピングされて分類されることが広く知られている。
【0045】
このような屈折率ndとアッベ数νdで分類される硝材マップ上に存在する複数の硝種については、各硝種毎に個別に図表化した情報を、当該硝材マップ上にて一覧形式で示すことが考えられる。一覧形式で示した場合は、各硝種についてヘーズ値等のpH依存性を把握し得るのに加えて、各硝種間でのpH依存性の相違についても、容易に把握できるようになる。
【0046】
図1に示す例では、硝材マップ上に存在する複数の硝種(具体的には、上述した実施例1,16を含む実施例1〜18の各硝種)について、それぞれのマッピング位置と関連付けて(具体的には、マッピング位置の近傍に配置したり、矢印等の図形を用いて関連付けたりして)、各硝種に対応する複数の図表化情報を一覧形式で表示している。ただし、図例は、一覧形式表示の具体例の一つに過ぎず、一覧形式表示がこれに限定されないことは勿論である。
【0047】
(情報の提示)
以上のような図表化情報は、各硝種別の単独形式であるか、あるいは複数の硝種についての一覧形式であるかに拘らず、以下に述べるようにして硝材利用者に対して提示することが考えられる。
【0048】
例えば、各硝種の図表化情報は、当該各硝種の硝材を紹介するカタログのような紙媒体上に掲載することで、硝材利用者に対して提示する。
紙媒体上ではなく、例えば、各硝種の硝材を紹介するインターネット上のホームページに掲載したり、コンピュータ装置で出力可能な形式に電子化して記録媒体に格納するといったように、電子媒体を介することで硝材利用者に対して提示してもよい。
【0049】
また、例えば、図表化情報が掲載された紙媒体や図表化情報が電子化されて格納された記憶媒体等を、取引市場で流通する商品である硝材に添付することで、硝材利用者に対して提示することも考えられる。その場合、硝材に添付される図表化情報は、当該硝材(商品)の構成要素の一部に相当することになる。つまり、本実施形態で説明する硝材は、当該硝材の硝種別の図表化情報が、商品構成要素の一部として添付されていることになる。
【0050】
<4.情報活用>
本実施形態において、硝材利用者に対して提供された図表化情報は、以下に述べるようにして活用される。
【0051】
(適正pHの判定評価)
提供された図表化情報によれば、ヘーズ値および重量変化値のpH依存性を把握することができる。換言すると、硝材が浸漬される処理液のpHが、その硝材における化学的耐久性指標値に与える影響を把握することができる。したがって、視認可能な態様の図表化情報を参照することで、処理液のpH変化の影響を反映させた硝材の化学的耐久性についての評価を行うことが可能となる。
【0052】
具体的には、「FDS18」と呼ばれる硝材を例に挙げると(図2(a)参照)、pHを3.2〜11.8の間で変化させたとき、pH≦9.4であればヘーズ値が0.00〜0.11%と低い値を示しているが、pH=11.8の場合はヘーズ値が1.01%に上昇していることがわかる。
したがって、「FDS18」については、例えば、化学的耐久性指標値としてヘーズ値を用いる場合、その許容値を2%以下に設定すると、処理液のpHは少なくとも3.2以上11.8以下の範囲で設定可能となる。また、化学的耐久性指標値として重量変化値を用い、その許容値を0.01%以下に設定しても同様の範囲となる。その一方、ヘーズ値の許容値を0%近傍(例えば0.20%以下)とすると、処理液のpHは少なくとも3.2以上9.4以下の範囲に収める必要があることがわかる。
【0053】
また別の例として、「M−FCD1」と呼ばれる硝材を用いる場合を挙げる。この硝材を従来手法で試験した場合、図1に示すように、化学的耐久性の等級が全体的に低くなっている。この硝材に対し、本実施形態で説明したような情報取得を行えば、図2(b)に示すように、pH変化とヘーズ値変化との対応関係が得られる。これを見ると、処理液のpHが6.3以上6.9以下の範囲ならば、1%以下のヘーズ値を達成することが可能となる。つまり、従来手法における化学的耐久性の等級という点では「FDS18」に比べて比較的劣っているにも拘わらず、製品となる光学素子を製造する際に用いられる処理液のpHを6.3以上6.9以下に収めるようにすることにより、高級な硝材に引けを取らないくらいの高い化学的耐久性(ここでは低いヘーズ値)を有する光学素子を得ることができる。
【0054】
つまり、本実施形態のような図表化情報の提供を行えば、当該図表化情報によって特定される硝種別のpH変化と化学的耐久性指標値変化との対応関係に基づき、対応する化学的耐久性指標値が許容値の範囲内に収まるように、各硝種の硝材に対する処理を行う際に用いるべき処理液のpH(すなわち適正pH)を選定する、といったことが実現可能となる。
【0055】
その場合に、化学的耐久性指標値の許容値は、例えばプレテストの実施等を通じて得られる経験則に基づいて、例えばヘーズ値が1%以下、重量変化値が0.001g以下といったように、所定の値に設定しておくことが考えられる。なお、許容値は、各硝種に対して一律に設定されたものであってもよいし、硝種毎に個別に設定されたものであってもよい。
【0056】
(処理条件の適切化)
ところで、レンズやプリズム等の光学素子は、その形成材料である硝材を加工することによって得られる。そして、硝材に対する加工工程は、当該硝材を処理液(研磨液や洗浄液等)に浸漬して処理する工程(研磨工程や洗浄工程等)を含むことが一般的である。
【0057】
このような硝材を処理液に浸漬する工程を実行する場合、当該工程の実行に先立って、本実施形態のような図表化情報の提供が行われていれば、当該図表化情報に基づいて処理液の適正pHを選定した後、その選定したpHの処理液を用いて硝材に対する処理を行う、といったことが実現可能となる。
【0058】
具体的には、「FDS18」と呼ばれる硝材を洗浄する場合を例に挙げると(図2(a)参照)、例えばヘーズ値が1%以下、重量変化値が0.001g以下という許容値に応じて処理液の適正pHの範囲を3.2以上9.8以下とし、洗浄工程で用いる洗浄液のpHを3.2以上9.8以下に維持しつつ洗浄を行う。
【0059】
このような適正pHの範囲での洗浄工程を経て光学素子の製造を行ったところ、当該光学素子については、従来では問題となっていたような経時変化が発生せず、硝材の表面性状を良好な状態にすることができた。
このことは、以下に述べる理由によるものと推察される。従来手法では、化学的耐久性のpH依存性を把握することが困難であったことから、適正範囲を外れたpHの処理液を用いて処理する場合が生じており、研磨後の洗浄において硝材を強アルカリの処理液に浸漬させたことにより、研磨の際にできた潜傷が顕在化してしまい、これにより硝材表面に曇りが生じていたものと考えられる。これに対して、本実施形態のような図表化情報の提供が行われていれば、その図表化情報を活用することにより、硝材を浸漬する処理液についての処理条件の適切化、すなわち当該処理液におけるpHが適正範囲に属すようにすることができる。したがって、従来のように研磨の際にできた潜傷が顕在化してしまうことがなく、その結果として硝材の表面性状を良好な状態にすることができたと考えられる。
【0060】
また、「M−FCD1」と呼ばれる硝材についても(図2(b)参照)、適正pHの範囲での洗浄工程を経て光学素子の製造を行えば、経時変化が発生せず硝材の表面性状を良好な状態にすることができた。しかも、M−FCD1については、従来手法における化学的耐久性の等級という点ではFDS18に比べて比較的劣っているにも拘わらず、高級な硝材に引けを取らないくらいの高い化学的耐久性(ここでは低いヘーズ値)を有する光学素子を得ることができる。つまり、従来手法によって評価された等級がどのようなものであっても、本来その硝材が有しているはずの化学的耐久性であって、従来手法では把握しきれなかった潜在的な化学的耐久性を発揮させることができる。その結果、硝材を加工する者にとって、従来手法の化学的耐久性だと低級の評価を受けていたが故に敬遠していた硝材であっても自由に選択することができる。そして、所望の屈折率およびアッベ数を有しながらも、充分な化学的耐久性が発揮された光学素子を製造することが可能となる。
【0061】
以上のように、本実施形態で提供される図表化情報を活用すれば、処理液のpH変化が硝材の化学的耐久性指標値に与える影響を把握し得るので、その把握結果に基づいて選定したpHの処理液を用いて硝材を処理し光学素子を製造することで、当該光学素子の表面性状を良好な状態にすることができ、その結果として硝材に対する評価と当該硝材における現実の表面状態との乖離発生を回避することが可能になる。
【0062】
なお、硝材を加工して得られる光学素子の代表例としては、光学レンズが知られている。光学レンズについては、レンズ表面に反射防止膜をコートすることがある。このような光学レンズであっても、本実施形態のような図表化情報を基にした処理条件の適切化(具体的には処理液pHの選定)を経ていれば、表面性状を良好な状態にできるので、レンズ表面にコートした反射防止膜について膜剥がれ等の問題が起こらないことが確認されている。また、光学レンズ以外の光学素子についても、同様の手順により研磨液、洗浄液等のpHを選定することで、良好な表面を有する光学素子を作製できることが確認されている。
【0063】
<5.本実施形態の効果>
本実施形態で説明した硝材情報提供方法、および、当該硝材情報提供方法によって視認可能な態様の図表化情報が添付された硝材によれば、以下に述べる効果が得られる。
【0064】
本実施形態では、硝材が浸漬される処理液のpH変化と当該硝材の化学的耐久性指標値変化との対応関係を、視認可能な態様で図表化して、硝材の硝種毎に個別に提供する。したがって、提供された図表化情報を参照した硝材利用者が、当該対応関係について視覚を通じて直感的に把握することができる。換言すると、提供された図表化情報を参照することで、処理液のpH変化が化学的耐久性指標値に与える影響(すなわち化学的耐久性のpH依存性)を把握することができる。そして、化学的耐久性のpH依存性を把握することで、各硝種の硝材の処理に用いる処理液の適正pHを選定したり、選定した適正pHの処理液を用いて硝材に対する処理(研磨、洗浄等)を行って光学素子を製造するといったことを、容易かつ適切に行うことができる。このような手順を経て光学素子を製造すれば、当該光学素子に表面に経時変化が生じてしまうのを回避し得るようになる。つまり、本実施形態によれば、化学的耐久性のpH依存性について、視認可能な態様の図表化情報として提供されるので、その図表化情報の活用を通じて、硝材が現実に製品になった後でも、硝材に対する評価と当該硝材における現実の表面状態との乖離発生を回避することが可能になる。そればかりか、従来手法による化学的耐久性の評価が低級とされている硝材であっても、光学素子の製造に用いられる処理液のpHを、硝材の種類毎に決められた範囲に収まるようにすることにより、場合によっては、化学的耐久性の評価が高級な硝材が基となった光学素子に引けを取らない程度に、硝材の化学的耐久性を充分に引き出すことができる。つまり、本来その硝材が有しているはずの化学的耐久性であって、従来手法では把握しきれなかった潜在的な化学的耐久性を発揮させることができるので、硝材利用者は、従来手法の化学的耐久性だと低級の評価を受けていたが故に敬遠していた硝材であっても自由に選択することができる。そして、所望の屈折率およびアッベ数を有しながらも、充分な化学的耐久性が発揮された光学素子を製造することが可能となる。
【0065】
また、本実施形態では、提供する図表化情報において、化学的耐久性指標値として少なくともヘーズ値を用いる。ヘーズ値を用いれば、硝材の表面の僅かな曇りであっても、数値上に反映されるからである。つまり、僅かな表面劣化についても、その発生を回避し得るようになる。したがって、本実施形態では、化学的耐久性指標値としてヘーズ値を用いることで、硝材が現実に製品になった後においても、現実の表面状態との乖離発生を確実に回避することができる。なお、化学的耐久性指標値としては、上述した理由により、少なくともヘーズ値を用いていることが望ましい。
【0066】
また、本実施形態では、提供する図表化情報において、化学的耐久性指標値として、ヘーズ値に加えて、硝材の重量変化値を用いる。これは、ヘーズ値と重量変化値では、同種の硝材であっても処理液のpH変化に対して異なる挙動を示す場合があることによる。つまり、化学的耐久性指標値としてヘーズ値および重量変化値を用いることで、両者が異なる挙動を示す場合であっても、それぞれの挙動に対応しつつ、表面劣化が生じないような適正pHを確実に選定することが可能となる。
【0067】
また、本実施形態では、提供する図表化情報において、pHを横軸、ヘーズ値を一方の縦軸、重量変化値を他方の縦軸としたグラフによって、図表化を行う。したがって、一つのグラフでヘーズ値および重量変化値の両方の挙動を把握することができ、硝材利用者にとって非常に利便性の高いものとなる。
【0068】
また、本実施形態では、各硝種毎の図表化情報を硝材マップ上にて一覧形式で提供する。したがって、処理液のpH変化に対するヘーズ値等の挙動が硝種毎に異なることを容易かつ確実に把握し得るようになる。また、これにより、各硝種に適したpH選定についても、容易かつ確実に行うことが実現可能となる。
【0069】
<6.その他>
本実施形態では本発明の好適な実施の一態様について説明したが、本発明は、本実施形態の内容に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0070】
(化学的耐久性指標値の変形例)
本実施形態においては、化学的耐久性指標値が2つの場合(すなわち「ヘーズ値」と「重量変化値」の場合)について述べた。その一方で、化学的耐久性指標値が1つの場合であっても本発明の思想は適用できる。具体的には、処理液のpH変化とヘーズ値との対応関係のみ把握し、この関係を図表化情報として提供してもよい。
また、化学的耐久性指標値としては、化学的耐久性を示す指標であれば、「ヘーズ値」と「重量変化値」以外の、様々な種類の指標値を用いることが可能である。その一例としては、表面観察によって得られる「表面状態の変化」が挙げられる。
【0071】
(光学素子の変形例)
本実施形態においては、光学素子の具体例として光学ガラスレンズを挙げたが、他の具体例として、球面レンズ、非球面レンズ、マイクロレンズ等の各種のレンズ、回折格子、回折格子付のレンズ、レンズアレイ、プリズム等を例示することができる。また、形状面からは凹メニスカスレンズ、両凹レンズ、平凹レンズ、凸メニスカスレンズ、両凸レンズ、平凸レンズ等を例示することができる。
なお、これらのレンズに対し、必要に応じて、反射防止膜、全反射膜、部分反射膜、分光特性を有する膜等の光学薄膜を設け、光学素子とすることもできる。
また、上記光学素子は、高性能かつコンパクトな撮像光学系の部品として好適であり、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話搭載カメラ、車載カメラ等の撮像光学系に好適である。
【0072】
(商取引への応用)
本実施形態で説明した硝材情報提供方法は、硝材の製造者や販売者等が、商品たる硝材の提供に付随して実施することが考えられる。その結果、硝材の提供を受けた硝材利用者の側では、本実施形態で説明したような情報活用を通じて、硝材から製造する光学素子の品質を高く維持することが可能となり、当該光学素子の製品歩留り改善による生産効率向上が図れるという利点が得られる。また、硝材の製造者や販売者等の側にとっては、自らが取り扱う硝材であれば提供情報により化学的耐久性のpH依存性を把握できるという他社にはない優位性を顧客にアピールすることで、他社商品との差別化が図れるという利点が得られる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝材の化学的耐久性に関する情報を提供する硝材情報提供方法であって、
前記硝材が浸漬される処理液の水素イオン濃度指数の変化と前記処理液に浸漬された前記硝材における所定種類の化学的耐久性指標値の変化との対応関係を、視認可能な態様で図表化して、前記硝材の硝種毎に個別に提供する
ことを特徴とする硝材情報提供方法。
【請求項2】
前記化学的耐久性指標値として、少なくとも前記処理液に所定時間浸漬した後における前記硝材のヘーズ値を用いる
ことを特徴とする請求項1記載の硝材情報提供方法。
【請求項3】
前記化学的耐久性指標値として、前記ヘーズ値に加えて、前記処理液に所定時間浸漬した前後での前記硝材の重量変化値を用いる
ことを特徴とする請求項2記載の硝材情報提供方法。
【請求項4】
前記水素イオン濃度指数を横軸、前記ヘーズ値を一方の縦軸、前記重量変化値を他方の縦軸としたグラフによって、前記図表化を行う
ことを特徴とする請求項3記載の硝材情報提供方法。
【請求項5】
屈折率ndとアッベ数νdで分類される硝材マップ上に存在する複数の硝種について、各硝種毎に個別に図表化した情報を当該硝材マップ上にて一覧形式で提供する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の硝材情報提供方法。
【請求項6】
光学ガラスの形成材料となる硝材であって、
前記硝材の化学的耐久性に関する情報として、前記硝材が浸漬される処理液の水素イオン濃度指数の変化と前記処理液に浸漬された前記硝材における所定種類の化学的耐久性指標値の変化との対応関係が、視認可能な態様で図表化された状態で、前記硝材の硝種毎に個別に添付されている
ことを特徴とする硝材。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−57540(P2013−57540A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194833(P2011−194833)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】