説明

硝酸イオンの還元分解用触媒

【課題】Pd−Cu担持触媒の耐久性を高めて、触媒寿命の長期化を図ることが可能になる硝酸イオンの還元分解用触媒を提供する。
【解決手段】Pd−Cu担持触媒に、FeまたはNiを添加してなることを特徴とするものであり、特にNiについては、担持触媒である活性炭1gに対して、0.1〜0.7mmolの範囲、より好ましくは0.2〜0.5mmol添加したことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃液中の硝酸イオンを還元分解する触媒に係り、特に耐久性を大幅に向上させることが可能となる硝酸イオンの還元分解用触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射性廃液を処理するに際しては、当該廃液中に含まれる硝酸塩が処分時における性能に悪影響を与えることから、近年、上記廃液中の硝酸イオンを高い効率で除去する技術が開発されつつある。
【0003】
ちなみに、本発明者等は、先に高濃度の硝酸塩を含む放射性廃液に、パラジウム(Pd)と銅(Cu)を担持させた触媒(以下、Pd−Cu担持触媒と略す。)を加えて、ヒドラジン還元剤を滴下することにより、硝酸イオンを還元分解して、最終的に窒素(N2)に無害化し得る硝酸イオンの除去技術を開発した。
【0004】
ところで、このようなPd−Cu担持触媒を用いた硝酸イオンの除去技術によれば、99%以上といった高い脱硝率により上記放射性廃液を処理することができるという利点があるものの、上記Pd−Cu担持触媒が、繰り返し使用を行った場合に早期に活性が低下してしまうという欠点があり、当該触媒の耐久性の向上が強く要請されていた。
【0005】
なお、下記特許文献1においては、酸化還元反応用の触媒について、比表面積の高い結晶性炭素粒子に平均粒子径の小さい金属微粒子を担持させて、酸化還元活性を高めることにより、触媒寿命を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−167580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記要請に応えるべくなされたものであり、Pd−Cu担持触媒の耐久性を高めて、触媒寿命の長期化を図ることが可能になる硝酸イオンの還元分解用触媒を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者等は、PdーCu担持触媒における早期の活性低下の原因を究明すべく、図5に示す反応装置を用いて、PdーCu担持触媒による脱硝反応を検証した。この際、PdーCu担持触媒としては、担持触媒としての活性炭に、当該活性炭1gあたり0.7mmolのPdと0.3mmolのCuを担持させたものを用いた。
【0009】
そして、恒温水槽内のフラスコに入れた6M NaNO3500mLの反応溶液に、Pd−Cuが1g/Lの量となるように加えて、還元剤としてヒドラジン(N24)の水溶液197mLを、ポンプによって49.2mL/hの滴下速度で供給することにより、反応溶液中の硝酸イオンNO3-を還元して、NO3-→NO2-→N2 で示す硝酸態窒素の還元除去を行った。なお、上記反応は、80℃の温度において、5時間行った。
次いで、反応溶液を入れ替えて、上記脱硝反応を繰り返す試験を合計7回行った。そして、各試験において、反応溶液中のNO3-、NO2-を定量した。
【0010】
この結果、図6に示すように、2回目の試験以降、NO3- の転換率が、好ましいとされる0.99から早期に低下することが判明した。なお、硝酸態窒素(NO3- )の転換率は、{初期NO3- 量−残存(NO3-+NO2-)量}/初期NO3-量、によって算出した。
これにより、PdーCu担持触媒における早期の活性低下の主要因は、当該Pd−Cu担持触媒のNO3-還元活性の低下にあると推察された。
【0011】
このようなPd−Cu担持触媒のNO3-還元活性の低下の原因としては、以下の3点が考えられる。
1.活性成分Pd、Cuの機械的または熱的破壊・剥離
2.活性成分Pd、Cuの不活性・低活性な物質への変質
3.活性成分Pd、Cuの凝集による活性点の比表面積の減少
【0012】
そこで、先ず上記1.の金属剥離について、ICP−AESを用いて、反応前後における触媒金属(Pd、Cu)の回収率を算出したところ、ほとんど変化が無かった。このため、活性成分Pd、Cuの機械的または熱的破壊・剥離が主原因とは考え難いとの結論に至った。
【0013】
次いで、上記2.の活性成分の変質について、X解回折法を用いて調べた。
この結果、反応後のPd−Cu担持触媒においても、Pd−Cuに同定されるピークが、反応前のPd−Cu担持触媒とほぼ同様な一に出現した。また、反応前後において、上記Pd−Cu担持触媒には、Pd−Cu合金以外の金属化合物に帰属される明らかなピークは見られなかった。このため、活性成分Pd、Cuの変質による、異なる金属化合物の生成は無いものと考えられた。
【0014】
次に、上記3.の活性成分の凝集について、EPMAマッピング分析により検証した。
この結果、図7(金属の分布は、黒が多いところを、白が少ないところを示す。)およびこれを模式的に図示した図8に見られるように、反応前の触媒金属Pd、Cuは、ややムラがあるものの活性炭表面のほぼ全域に分離していたのに対して、反応後においては、Pd、Cuの金属濃度の分布に偏りが見られた。このため、Pd−Cu担持触媒の場合、金属粒子の凝集により、触媒性能が劣化するものとの結論を得るに至った。
【0015】
そこで次に、触媒金属であるPd−Cuの活性を阻害せずに、当該Pd−Cu合金粒子の保護効果が期待できる金属成分として、鉄(Fe)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)を選択し、活性炭1gあたり0.7mmolのPdと0.3mmolのCuを担持させた上記Pd−Cu担持触媒に、Fe、Co、Niを、各々0.5mmol添加した触媒を作製して、図5に示した反応装置を用いて、上述したPd−Cu担持触媒の場合と同じ条件で、同様の繰り返しの脱硝反応試験を行った。
【0016】
なお、これらの金属を添加したPd−Cu担持触媒は、PdCl2、CuCl2および各金属(Fe、Co、Ni)の塩化物を含むNaOH水溶液(pH10)に、担持触媒となる活性炭を加えて333Kの温度において1時間含浸させた後に、これにNaBH4を添加して金属イオンを上記活性炭上に還元析出させ、ついでろ過・洗浄して採りだした触媒を、333Kの温度で乾燥させることに作製した。
【0017】
図1は、上記脱硝反応試験における試験回数と、各回数時の硝酸態窒素の転換率の変化を各触媒について示したものである。
この結果、転換率0.95以上を達成した試験回数は、従来のPd−Cu担持触媒においては4回であり、Co添加のPd−Cu担持触媒では、逆に2回と低下したが、Fe添加のPd−Cu担持触媒においては6回、Ni添加のPd−Cu担持触媒においては7回と、大幅に耐久性が向上することが確認された。
【0018】
本発明は、上記知見に基づいて成されたもので、請求項1に記載の本発明に係る硝酸イオンの還元分解用触媒は、Pd−Cu担持触媒に、FeまたはNiを添加してなることを特徴とするものである。
【0019】
ここで、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記担持触媒が、活性炭であり、かつ上記Niを、上記活性炭1gに対して、0.1〜0.7mmol添加したことを特徴とするものである。
【0020】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記担持触媒が、活性炭であり、かつ上記Niを、上記活性炭1gに対して、0.2〜0.5mmol添加したことを特徴とするものである。
【0021】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記担持触媒が、活性炭であり、かつ上記Feを、上記活性炭1gに対して、0.5mmol添加したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
図1に示したように、請求項1〜4のいずれかに記載の発明によれば、Pd−Cu担持触媒に、FeまたはNiを添加することにより、従来のPd−Cu担持触媒と比較して、その耐久性を高めることができ、よって触媒寿命を一段と延ばすことが可能になる。
【0023】
ここで、後述するように、請求項2に記載の発明によれば、添加するNiの量を、上記活性炭1gに対して、0.1〜0.7mmolの範囲とすることにより、この種の廃液処理において最も好ましいとされる99%以上の脱硝率を得るための耐久性を約1.5倍以上に延ばすことが可能になる。
【0024】
さらに、請求項3に記載の発明のように、添加するNiの量を、上記活性炭1gに対して、0.2〜0.5mmolの範囲とすることにより、上記99%以上の脱硝率を得るための耐久性を、約2.5倍以上に延ばすことが可能になる。
【0025】
また、Feについては、請求項4に記載の発明のように、上記活性炭1gに対して、0.5mmol添加することにより、耐久性を約2倍以上に延ばすことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】Pd−Cu担持触媒と、これに各種金属を添加させた場合の脱硝試験の回数と、硝酸イオンの転換率の変化との関係を示すグラフである。
【図2】Pd−Cu−Ni担持触媒におけるNiの添加量を変化させた場合の所定の脱硝率を達成し得る試験回数の変化を示すグラフである。
【図3】図2の反応試験の前後における金属の分散度をEPMAマッピング分析によって示す写真である。
【図4】図3を模式的に示した図である。
【図5】Pd−Cu担持触媒およびこれに各種金属を添加させた場合の脱硝試験の回数と、硝酸イオンの転換率の変化を検証するために用いた反応装置を示す概略構成図である。
【図6】図5の反応装置を用いた反応試験におけるPd−Cu担持触媒による試験回数と硝酸態窒素の転換率との変化を示すグラフである。
【図7】図6の反応試験の前後における金属の分散度をEPMAマッピング分析によって示す写真である。
【図8】図7を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面に基づいて、本発明に係る硝酸イオンの還元分解用触媒の実施形態について説明する。
先ず、図1に示したように、Pd−Cu担持触媒に、FeまたはNiを添加することにより、従来のPd−Cu担持触媒と比較して、耐久性を向上させ得ることが判明した。
【0028】
そこで、次に、活性炭に、当該活性炭1gあたり0.7mmolのPd、0.3mmolのCuおよびNiを担持させたPd−Cu−Ni担持触媒に対して、Niの添加量を変化させた場合における耐久性の変化を検証した。この際に、Niの添加量としては、活性炭1gあたり、0.2mmol、0.5mmol、0.7mmolおよび1.0mmolの4種類を選択した。なお、各量のNiを添加したPd−Cu担持触媒の作製は、図1の各種金属を添加した場合におけるPd−Cu担持触媒等の作製方法と同様である。
【0029】
次いで、このようにして得られた添加量を変化させた4種類のPd−Cu−Ni担持触媒について、各々図5に示した反応装置を用いて、恒温水槽内のフラスコに入れた6M NaNO3500mLの反応溶液に、Pd−Cuが1g/Lの量(約5.6〜6.0g)となるように加えて、還元剤としてヒドラジン(N24)の水溶液197mLを、ポンプによって49.2mL/hの滴下速度で4時間供給することにより、反応溶液中の硝酸イオンNO3-を還元して、NO3-→NO2-→N2で示す硝酸態窒素の還元除去を行った。なお、上記反応は、80℃の温度において、5時間行った。
【0030】
そして、上記反応溶液を入れ替えて、上記脱硝反応を繰り返す試験を複数回行うとともに、各試験において、反応溶液中のNO3-、NO2-を定量して、各試験のおける脱硝率を算出した。
【0031】
図2は、上記試験の結果を、Niを添加しない従来のPd−Cu担持触媒の結果と対比して示すものであって、Niの添加量(横軸)に対して、当該添加量における95%以上の脱硝率が得られた試験回数および99%以上の脱硝率が得られた試験回数を示すものである。
【0032】
図2から、特に高濃度の硝酸塩を含む放射性廃液において好適とされる99%以上の脱硝率が得られる回数が、従来のPd−Cu担持触媒において2回であったのに対して、Niを0.2mmol添加した場合には5回、0.5mmol添加した場合には7回、0.7mmol添加した場合には3回と増加した。また、同図によれば、0.1mmol添加した場合においても、ほぼ2回(Ni添加無し)と5回(0.2mmolのNi添加)の中間程度の試験回数が得られるものと推測できる。
【0033】
このため、Pd−Cu担持触媒に添加するNiの量を、活性炭1gに対して、0.1〜0.7mmolの範囲とすることにより、99%以上の脱硝率を得るための耐久性を約1.5倍以上に延ばすことが可能になり、さらに上記Niの量を、活性炭1gに対して、0.2〜0.5mmolの範囲とすることにより、上記99%以上の脱硝率を得るための耐久性を、約2.5倍以上に延ばすことが可能になる。
【0034】
次いで、上記試験に用いたPd−Cu−Ni担持触媒について、活性成分(Pd、Cu)の凝集について、図7に示した場合と同様のEPMAマッピング分析により検証した。
この結果、図3(金属の分布は、黒が多いところを、白が少ないところを示す。)およびこれを模式的に図示した図4に示すように、反応前において、Pd、Cu、Niの各々の金属は、析出ムラはあるものの析出濃度は同程度であった。
【0035】
そして、反応後においても、Niについては凝集が見られたが、Pd、Cuについては明らかな局在が見られなかった。このため、Niを添加することによって、活性成分であるPd、Cuの凝集が抑制され、この結果触媒性能の劣化が遅くなることにより、耐久性が向上したことが判る。
【0036】
また、図1において示したように、本発明の開発過程において、Pd−Cu担持触媒にFeを添加したPd−Cu−Fe担持触媒についても、例えばFeを、活性炭1gに対して、0.5mmol添加することにより、耐久性を約2倍以上に延ばすことが可能であることが判っている。これは、Feを添加した場合においても、Niを添加した場合と同様に、活性成分であるPd、Cuの凝集が抑制された結果であると推察される。
【0037】
このように、Pd−Cu担持触媒にNiまたはFeを添加したPd−Cu−Ni担持触媒あるいはPd−Cu−Fe担持触媒によれば、従来のPd−Cu担持触媒の耐久性を向上させることができ、よって触媒寿命を大幅に延ばすことが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
廃液中の硝酸イオンを還元分解するに際して、特に耐久性を大幅に向上させることが可能となる硝酸イオンの還元分解用触媒を製造するために利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pd−Cu担持触媒に、FeまたはNiを添加してなることを特徴とする硝酸イオンの還元分解用触媒。
【請求項2】
上記担持触媒は、活性炭であり、かつ上記Niを、上記活性炭1gに対して、0.1〜0.7mmol添加したことを特徴とする請求項1に記載の硝酸イオンの還元分解用触媒。
【請求項3】
上記担持触媒は、活性炭であり、かつ上記Niを、上記活性炭1gに対して、0.2〜0.5mmol添加したことを特徴とする請求項1に記載の硝酸イオンの還元分解用触媒。
【請求項4】
上記担持触媒は、活性炭であり、かつ上記Feを、上記活性炭1gに対して、0.5mmol添加したことを特徴とする請求項1に記載の硝酸イオンの還元分解用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図3】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−25169(P2011−25169A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174139(P2009−174139)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月6日 社団法人日本原子力学会発行の「2009年春の年会 予稿集」に発表
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】