説明

硝酸含有溶液の処理方法

【課題】硝酸含有溶液に有機還元剤を添加して硝酸を分解除去する処理において、過剰な有機物の添加を抑制して高い分解除去効果を得ることができる処理方法を提供する。
【解決手段】硝酸を含有する溶液に有機還元剤を添加して硝酸を分解除去する処理方法であって、硝酸以外の無機酸を含み、該無機酸が1.0Nを超える濃度とし、該溶液の酸化還元電位が標準水素電極基準で810mV〜950mVの範囲になるように有機還元剤を添加し、好ましくは、残留硝酸性窒素濃度200mg/L以下、および残留全有機炭素濃度500mg/L以下になるように有機還元剤を添加して硝酸を分解することを特徴とする硝酸含有溶液の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝酸を含有する溶液に有機還元剤を添加して硝酸を分解除去する処理において過剰な有機物の添加を抑制して高い分解除去効果を得ることができる処理方法に関する。本発明の処理方法によれば、硝酸の分解で生じるNOxガスから不純物の少ない硝酸を回収することができ、また有価金属を高収率で回収しながら溶液中の硝酸性窒素を低減できるので、本発明は、硝酸性窒素を多く含む廃液を生じる分野、例えば、貴金属やレアメタルを硝酸等で溶解処理して回収する分野、あるいは酸洗浄廃液やめっき廃液等で有価金属と硝酸を含む溶解液を処理する分野などにおいて有用である。
【背景技術】
【0002】
銀電解スライムまたは貴金属スクラップなどのように、金、銀、白金族や卑金属を含む回収物から貴金属を分離回収する場合、一般的な方法として、最初に硝酸分金して銀を溶解し、この銀溶解液から電解で銀を回収している。硝酸分金時の不溶解物は王水溶解し、この溶解液から金と白金族とを沈殿法あるいは溶媒抽出法で順次回収する。これらの処理工程では、貴金属元素を溶出させるために硝酸を多量に用い、硝酸の酸化力を利用して溶解しており、硝酸あるいは硝酸と硝酸以外の無機酸とを多量に含む金属溶解液が生じる。
【0003】
また、レアメタルの回収精製やステンレスの酸洗浄、めっき処理の分野においても、有価金属回収に際し、硝酸分を含む廃液を中和処理する段階で硝酸根を高濃度に含む廃液が発生する。
【0004】
金属溶解液に含まれている金属を還元析出させて回収する場合、あるいは溶媒抽出によって金属を回収する場合、金属溶解液の硝酸濃度が高いと金属の還元が進まないため多量の還元剤を必要とし、また抽出溶媒の劣化を早めることになる。このような問題を避けるために金属回収に先立ち、金属溶解液中の硝酸を分解除去する方法が知られている。
【0005】
例えば、特開平05−222465号公報(特許文献1)には、銅電解スライムから、金、銀、白金属等を溶媒抽出によって回収する際に、該銅電解スライムの塩酸−硝酸溶解液を50℃以上に加温し、該溶解液の酸化還元電位が標準水素電極基準で800mV以下となるようにホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、蟻酸の群から選ばれる一種もしくは二種以上を添加して硝酸を分解する方法が記載されている。
【0006】
また、特開平09−272927号公報(特許文献2)には、銅電解スライムの塩酸−硝酸溶解液について、塩酸濃度を3N以上として80℃以上に加温し、該溶解液の酸化還元電位が標準水素電極基準で800mV以下となるようにホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、蟻酸の群から選ばれる一種もしくは二種以上を添加して硝酸を分解する方法が記載されている。
【0007】
従来の上記分解方法は、溶液の酸化還元電位が標準水素電極基準で800mV以下になるように有機還元剤を添加して硝酸を分解している。しかし、この方法では、有機還元剤がしばしば過剰に添加されるため、溶解液中の貴金属元素の原子価数も変化し、後の沈殿分離工程で貴金属元素が沈殿性の化合物を形成し難くなることがある。また、有機還元剤が過剰に残留すると廃液処理が煩雑化する問題がある。また、貴金属元素を溶媒抽出法で回収する方法では、有機還元剤の添加量が過剰であると貴金属元素が抽出され難い原子価に変化する場合がある。
【0008】
一方、硝酸の分解に第一鉄イオンあるいは鉄粉の還元力を用いる方法も知られている。例えば、特開平10−113678号(特許文献3)では、硝酸イオンまたは硝酸イオンと亜硝酸イオンを0.1mol/L以上含む硝酸イオン含有廃液に、硫酸第一鉄または塩化第一鉄から成る還元剤と硫酸とを添加して、該硝酸イオン含有廃液中の硝酸イオンまたは硝酸イオンと亜硝酸イオンをガス体の窒素酸化物に還元する方法が記載されている。
【0009】
また、特開平10−277567号(特許文献4)では、被処理水中に含まれる硝酸イオンおよび亜硝酸イオンを鉄と接触させることにより、窒素ガスもしくはアンモニウムイオンに還元し、該反応液にアルカリを加えてpH9〜14に調整し、次いでガスを吹き込んでアンモニアを該ガスに同伴除去することを特徴とする排水処理方法が記載されている。
【0010】
上記第一鉄イオンまたは鉄粉の還元力を用いる方法は、アンモニウムイオンが副生する場合があり、また有価金属の回収や排水処理のため中和する際に多量の水酸化物沈殿スラッジが発生し、処理工程が複雑化して排水処理のコストが高くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平05−222465号公報
【特許文献2】特開平09−272927号公報
【特許文献3】特開平10−113678号公報
【特許文献4】特開平10−277567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の処理方法は、従来技術の上記問題を解決したものであり、触媒を用いずに、溶液中の硝酸分を有機還元剤によって高い分解率で分解除去し、かつ後の工程において金属の回収性を損なうことがなく、また最終的な硝酸廃液の発生も抑制し得る処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下の構成からなる硝酸含有溶液の処理方法である。
〔1〕硝酸を含有する溶液に有機還元剤を添加して硝酸を分解除去する処理方法であって、硝酸以外の無機酸を含み、該無機酸が1.0Nを超える濃度とし、該溶液の酸化還元電位が標準水素電極基準で810mV〜950mVの範囲になるように有機還元剤を添加して硝酸を分解することを特徴とする硝酸含有溶液の処理方法。
〔2〕残留硝酸性窒素濃度200mg/L以下、および残留全有機炭素濃度500mg/L以下になるように有機還元剤を添加して硝酸を分解する上記[1]に記載する硝酸含有溶液の処理方法。
〔3〕硝酸以外の無機酸が塩酸または硫酸であり、該無機酸が1.5N以上の濃度である上記[1]または上記[2]の何れかに記載する硝酸含有溶液の処理方法。
〔4〕有機還元剤の添加終了後に、引き続き、第一鉄イオンまたは鉄粉を添加して液中に残存する硝酸イオンないし亜硝酸イオンを分解する上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する硝酸含有溶液の処理方法。
〔5〕有機還元剤の添加終了後に、引き続き、アンモニウムイオンを添加して液中に残存する亜硝酸イオンを分解する上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する硝酸含有溶液の処理方法。
〔6〕上記硝酸含有溶液が金属溶解液であり、上記[1]〜上記[5]の何れかに記載する処理方法によって該金属溶解液中の窒素濃度を低減する硝酸含有溶液の処理方法。
〔7〕窒素濃度を低減した金属溶解液から金属を回収し、あるいは廃液処理を行う上記[6]に記載する硝酸含有溶液の処理方法。
〔8〕上記硝酸含有溶液が金属溶解液であり、上記[1]〜上記[5]の何れかに記載する処理方法によって該金属溶解液の窒素濃度を低減した後に、該金属溶解液にアルカリを添加してpHを1以上に調整し、次いで還元剤を添加して液中の金属を還元析出させて回収する硝酸含有溶液の処理方法。
〔9〕上記硝酸含有溶液が金、白金、金または白金以外の貴金属の少なくとも一種を含む金属溶解液であり、金、白金、金または白金以外の貴金属の少なくとも一種を回収する上記[6]〜上記[8]の何れかに記載する硝酸含有溶液の処理方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の処理方法は、硝酸を含有する溶液に有機還元剤を添加して硝酸を分解除去する処理方法において、硝酸以外の無機酸を含み、該無機酸が1.0Nを超える濃度とし、該溶液の酸化還元電位が標準水素電極基準で810mV〜950mVの範囲になるように有機還元剤を添加して硝酸を分解するので、有機還元剤が過度に添加されない。このため、処理後の溶液中の残留硝酸性窒素濃度が低下するだけでなく、残留有機物濃度(残留全有機炭素濃度)も共に低下する。
【0015】
本発明の処理方法によれば、有機還元剤が過度に添加されないので、液中の溶解金属の過剰な還元が抑止される。このため次工程において金属の回収性を損なうことがない。また、硝酸分解時に発生するNOxガスを水に吸収させて回収した硝酸には有機物が殆ど含まれず、再利用に支障のない硝酸を回収することができる。
【0016】
本発明の処理方法は、触媒を用いることなく、有機還元剤によって硝酸の分解が進行し、硝酸の分解によって生じたNOxは水に吸収させて硝酸を回収することができるので、最終的な硝酸廃液の発生も抑えることができる。
【0017】
硝酸の分解工程では、中間物として亜硝酸が生成し、これが硝酸と反応して二酸化窒素(亜硝酸)を生成することによって分解反応が進む。従って、分解反応の終点付近では一部の亜硝酸イオンが残留し、またNO2等の再溶解によって亜硝酸イオンが少なからず生成し、それらの亜硝酸の再酸化によって硝酸イオン濃度が再び上昇することがある。しかし、本発明の処理方法では、好ましくは、有機還元剤の添加終了後に、引き続き、第一鉄イオンまたは鉄粉を添加することによって液中に残存する硝酸イオンないし亜硝酸イオンの分解を進めるので、液中の残留有機物濃度(残留全有機炭素濃度)を低く抑えながら、処理後の残留硝酸性窒素濃度をより一層低下することができる。
【0018】
しかも、溶液の硝酸の大部分を有機還元剤によって分解した後に、第一鉄イオンあるいは鉄粉を添加するので、これらの添加量を少量に抑えることができる。そのため、後に続く金属回収処理の際に鉄分が支障を与えることはなく、多量の水酸化鉄スラッジが生じることがなく、水酸化鉄スラッジによって廃液処理が複雑化する問題も回避できる。また、硝酸分解時に副生するアンモニアの濃度も低く抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1、比較例1、比較例2の酸化還元電位のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお、本発明において酸化還元電位は標準水素電極基準である。また硝酸性窒素には、亜硝酸性窒素を含む。
本発明の処理方法は、硝酸を含有する溶液に有機還元剤を添加して硝酸を分解除去する処理方法であって、硝酸以外の無機酸を含み、該無機酸が1.0Nを超える濃度とし、該溶液の酸化還元電位が810mV〜950mVの範囲になるように有機還元剤を添加して硝酸を分解除去することを特徴とする硝酸含有溶液の処理方法である。
【0021】
本発明の処理方法は、硝酸含有溶液が金属溶解液である場合、硝酸以外の無機酸を含み、該無機酸が1.0Nを超える濃度とし、該溶液の酸化還元電位が810mV〜950mVの範囲になるように有機還元剤を添加して硝酸を分解除去した後に、該金属溶解液から金属を回収する処理方法として利用することができる。
【0022】
本発明の処理方法において、硝酸を含有する溶液としては、例えば、銅電解スライムの王水溶解液、レアメタルの回収処理工程から生じる硝酸性溶液、ステンレスの酸洗浄や、めっき処理において生じる硝酸性溶液などである。銅電解スライムの王水溶解液などには金、白金、金または白金以外の貴金属が含まれている。
【0023】
本発明の処理方法は、これらの硝酸含有溶液に有機還元剤を添加して硝酸を分解除去する処理において、硝酸以外の無機酸を含み、該無機酸が1.0Nを超える濃度として有機還元剤を添加して硝酸を分解除去する。
【0024】
硝酸含有溶液に有機還元剤を添加して硝酸を分解する際に、分解反応の中間物として亜硝酸が生成する。この亜硝酸が硝酸と反応して二酸化窒素を生成し、この二酸化窒素はガス化して液中から揮散し、また一部の二酸化窒素は揮散する前に再溶解して亜硝酸等を生じ、このような自己触媒的な循環作用によって硝酸の分解反応が進行する。
【0025】
これらの反応の循環が開始されるまでには、亜硝酸の濃度がある一定濃度に上昇するまでの時間を要し、それが硝酸分解反応の誘導時間として発現する。従って、反応を安定して短時間内に開始させかつ継続させて硝酸の濃度が低下した状態でも反応を進めるためには、亜硝酸の生成を促進させるとともにその濃度を維持する必要がある。そこで、液中の酸濃度を一定以上にして亜硝酸の生成を促し、亜硝酸の濃度を維持して硝酸イオンの還元分解を進めることが好ましい。
【0026】
液中の酸濃度を高めるためには、硝酸以外の無機酸の濃度が1.0Nを超える濃度になるように、硝酸以外の無機酸、例えば塩酸または硫酸を添加して上記酸濃度に調整するとよい。このような酸濃度の調整によって、亜硝酸の生成が促され、硝酸の分解が進んだ段階でも、安定に硝酸の分解反応をさらに進めることができる。この酸濃度の調整は硝酸の分解反応を確実に進行させるために重要であり、有機還元剤を添加する前に溶液の酸濃度を調整するのが好ましい。
【0027】
本発明の処理方法において用いる有機還元剤は、上記処理条件下で硝酸を還元分解する活性を有し、自らは二酸化炭素と水とに分解して無害化して消失するものが好ましい。具体的には、ホルムアルデヒドやギ酸、アルコール類、グリコール類、蔗糖などを用いることができる。
【0028】
本発明の処理方法において、硝酸分解を促進するには、液温50℃以上、好ましくは液温80℃以上に加温して有機還元剤を添加するとよい。
【0029】
本発明の処理方法は、硝酸含有溶液に有機還元剤を添加して溶液中の硝酸を分解除去する処理において、硝酸を十分に分解しながら、有機還元剤による過剰な還元を生じないように、また有機物の残量が増加しないように、該溶液の酸化還元電位が810mV〜950mV、好ましくは820mV〜940mVの範囲で硝酸分解を終了させる。具体的には、硝酸含有溶液に有機還元剤を少量ずつ添加し、酸化還元電位が810mV〜950mVの範囲になった時点で有機還元剤の添加を終了して数分〜数十分放置し、酸化還元電位をこの範囲内に安定させる。
【0030】
溶液の酸化還元電位が950mV以下になるまで有機還元剤を添加することによって、残留硝酸性窒素濃度が200mg/L以下になるまで液中の硝酸を分解することができる。酸化還元電位が950mVより高いと硝酸の分解が不十分である。
【0031】
また、溶液の酸化還元電位が810mVより低下しないように有機還元剤の添加量を制御することによって、液中の残留全有機炭素濃度を500mg/L以下に低減することができる。硝酸の分解によって発生したNOxを水に吸収させて硝酸として回収するときに、本発明の処理方法は残留全有機炭素濃度が低いので、有機還元剤による汚染のない硝酸を回収することができる。
【0032】
従来の処理方法では、この酸化還元電位が800mV以下で安定していることを確認して反応を終了させているが(特許文献1、2)、酸化還元電位が800mV以下まで低下すると、硝酸の分解は進むものの、液中の金属も過剰に還元される場合があり、後工程で含有金属を回収する際に回収率が低下することがある。また、有機還元剤による有機物の残量が多くなる。
【0033】
酸化還元電位の計測は、処理開始時から連続的に行なっても良いし、硝酸の分解が進んだ段階で計測し確認しても良い。硝酸の分解除去が進んだ段階では分解する硝酸量の低下に伴ってNOxなどの分解ガスの発生量が明らかに低下するので、分解反応の終了付近であることを容易に知ることができる。
【0034】
本発明の処理方法は、好ましくは、有機還元剤の添加終了後に、引き続き、第一鉄イオンまたは鉄粉を添加して液中に残存する硝酸イオンないし亜硝酸イオンの分解を進める。一般に酸化還元電位が810mV付近では少量の有機還元剤の添加で電位が急に低下し、また溶液の撹拌によって電位の測定値が変動するため終了点の正確な判定が難しい。このため、酸化還元電位が810mV付近で有機還元剤の添加を終了しようとする場合、残留有機炭素量を増加させないために、実際には810mVよりも数十mVほど高い酸化還元電位の段階で有機還元剤の添加を終了させるのが簡便である。
【0035】
このような場合、810mVよりも高めの酸化還元電位の段階で有機還元剤の添加を終了した後に、引き続き、第一鉄イオンまたは鉄粉を添加することによって、液中に残存する硝酸イオンないし亜硝酸イオンの分解をさらに進める。具体的には、例えば、酸化還元電位が830mV〜900mVの段階で有機還元剤の添加を終了し、引き続き、第一鉄イオンまたは鉄粉を添加する。
【0036】
この方法によれば、液中の残留炭素濃度を500mg/L以下、好ましくは200mg/L以下に抑えながら、残留硝酸性窒素濃度を200mg/L以下、好ましくは100mg/L以下まで低減することができる。
【0037】
また、この方法によれば、溶液の硝酸の大部分を有機還元剤によって分解した後に、第一鉄イオンあるいは鉄粉を添加するので、第一鉄イオンあるいは鉄粉の添加量を少量に抑えることができる。そのため、後に続く金属回収処理の際に鉄分が支障を与えることはなく、多量の水酸化鉄スラッジが発生することがない。このため水酸化鉄スラッジによって廃液処理が複雑化する問題を回避することができる。
【0038】
本発明の処理方法は、有機還元剤を添加した後に、第一鉄イオンあるいは鉄粉の添加に代えて、反応終了剤としてアンモニウムイオンを添加して残留する亜硝酸イオンを分解し、液中の硝酸性窒素濃度をさらに低く安定させることもできる。
【0039】
有機還元剤の添加終了の直後は、液中の硝酸イオン濃度は大幅に低下しているが、平衡上存在する亜硝酸イオンや揮散していないNO2等の再溶解によって亜硝酸イオンが少なからず生成し、これらの亜硝酸の再酸化によって液中の硝酸イオン濃度が上昇し、酸化還元電位が上昇することがある。このような場合、反応終了剤としてアンモニウムイオンを添加して残留亜硝酸イオンを分解消失させると良い。アンモニウムイオンを添加することによって、液中の亜硝酸イオンが消失し、液中の硝酸性窒素濃度を低い濃度で安定させることができる。
【0040】
アンモニウムイオンの添加量は、処理液中のアンモニウムイオン濃度が100〜300mg/Lになる量が好ましい。アンモニウムイオンの添加量がこれより少ないと効果が不十分であり、これより多いと廃液中のアンモニア性窒素濃度の上昇を招くので好ましくない。アンモニウムイオンの添加は、アンモニア水かあるいはアンモニウム塩であっても良い。
【0041】
硝酸の分解で発生したNOxガスは、例えば、NOxガスを水に吸収させて硝酸として回収することができる。水との接触効率を高めてNOxの除去効率を向上させた排気処理装置が知られている(特許2513111号)。
【0042】
本発明の処理方法は、有機還元剤の添加から処理を終えるまでの一連の操作を数時間で終えることができる。一連の処理は、処理槽への廃液の張り込みから処理を終えて廃液を排出するまでを一つの処理槽で行なう回分式としても良いし、酸濃度調整、加熱温度調整、有機還元剤の添加と反応物の分解反応、反応の停止措置等の機能を分けて別々の処理槽で実施し各々を配管で連結する回分連続式としても良い。
【0043】
本発明の上記処理方法は、塩酸やホルマリン、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水あるいはアンモニウム塩などの一般的かつ廉価な薬品のみを用いて経済的に実施することができる。また本発明の処理方法は、高酸濃度、高塩濃度の金属溶解液に対し、触媒を用いることなく、高温高圧などの厳しい処理条件を必要とせずに、比較的穏和な条件下、数時間の反応によって高い分解率で硝酸を分解除去することができる。
【0044】
また、本発明の上記処理方法は、有機還元剤を過剰に添加することがないので、処理後の液中の有機物残留量は少なく、かつ有機物による汚染の少ない硝酸を回収することができる。具体的には、例えば、液中の硝酸性窒素およびアンモニア性窒素の濃度を排出基準程度に低く保つことができる。
【0045】
本発明の上記処理方法は、硝酸含有溶液が金属溶解液である場合、該金属溶解液から金属を回収する処理方法として好適である。本発明の上記処理方法によって硝酸を分解除去処理した金属溶解液から金属を回収する方法は限定されない。例えば、硝酸を分解除去した金属溶解液に中和剤を添加して酸濃度を調整して金属イオンを沈殿させ回収する方法、あるいは中和剤を添加して酸濃度を調整し、さらに還元剤を添加して金属を析出させて回収する方法、もしくは硝酸を分解除去した金属溶解液の酸濃度を調整した後に金属を溶媒抽出する方法などを用いることができる。
【0046】
具体的には、本発明の処理方法によって硝酸を分解除去した金属溶解液に、水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水などの中和剤を添加して酸濃度をさらに低下させ、例えば、金属溶解液のpHを0以上、好ましくはpH=1以上に調整し、次いで還元剤を添加して液中の金属を還元析出させて回収することができる。還元剤は、目的の金属に応じ選択して用いることができる。
【0047】
例えば、硝酸含有溶液が金、白金、金または白金以外の貴金属の少なくとも一種を含む金属溶解液であるときに、本発明の処理方法によって硝酸を分解除去した金属溶解液から金、白金、金または白金以外の貴金属の少なくとも一種を回収することができる。
【0048】
また、本発明の処理方法は有機還元剤の使用量が少ないので、金属溶解液から有価金属を回収して最終的に廃液を処理する際に、COD等の有機物に係る排出基準を容易に満足させることができ、中和処理して放流することができる。また、発生する分解ガスは適切な吸収装置を用いて硝酸として回収し再利用できるので、2次的な硝酸性窒素を含む廃液の発生を抑えることができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。
〔実施例1〕
表1に示す初期濃度の硝酸、塩酸を含む試験液50Lを用い、表1に示す温度に加温し、有機還元剤としてホルマリンを用い、この試験液に表1に示す条件でホルマリンを少量ずつ添加して硝酸の還元分解を行なった。ホルマリンの添加量を調整して試験液の酸化還元電位を920mV〜940mVの範囲で安定させてホルマリンの添加を終了した。ホルマリンの添加終了付近の酸化還元電位の変化を図1に示す。また処理後の硝酸性窒素濃度、全有機炭素濃度を表1に示す。処理液の硝酸性窒素濃度は130mg/Lに十分低減されており、ホルマリン添加による全有機炭素濃度も100mg/Lの低い水準に抑えられた。
【0050】
〔比較例1、2〕
表1に示す初期濃度の硝酸、塩酸を含む試験液50Lを用い、表1に示す温度に加温し、有機還元剤としてホルマリンを用い、この試験液に表1に示す条件でホルマリンを少量ずつ添加して硝酸の還元分解を行なった。ホルマリンの添加量を調整し、試験液の酸化還元電位を表1の範囲で安定させてホルマリンの添加を終了した。ホルマリンの添加終了付近の酸化還元電位の変化を図1に示す。また処理後の硝酸性窒素濃度、全有機炭素濃度を表1に示す。
【0051】
比較例1は酸化還元電位が700〜720mVになるまでホルマリンを添加したので、処理液の硝酸性窒素濃度は100mg/L以下に低減されたが、全有機炭素濃度は3000mg/Lと高かった。一方、比較例2は酸化還元電位が950〜970mVでホルマリンの添加を終了したので、処理後の硝酸性窒素濃度は970mg/Lまでしか低減されていない。比較例2は硝酸性窒素の初期濃度が実施例1の2倍であるので、処理後の硝酸性窒素濃度970mg/Lについて、その半分の量を見積もると約480mg/Lになり、実施例1の硝酸性窒素濃度に比較して格段に多く、硝酸の還元分解が不十分であった。
【0052】
【表1】

【0053】
〔実施例2〕
表2に示す液組成を有する金の王水溶解液100mLを用い、90℃に加温し、ホルマリンを少量ずつ添加して上記王水溶解液の酸化還元電位が表2に示す範囲で安定するように硝酸の還元分解を行なった。この酸化還元電位の範囲で分解ガスの発生はほぼ無くなっていた。
分解反応終了後、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH=0に調整した後に、還元剤として硫酸第一鉄を添加し、溶液中の金を沈殿させた。この処理液をろ過分離し、ろ液に残留している金濃度を測定して、金の回収率を求めた。この結果を表2に示した。
処理後の硝酸性窒素濃度は十分低減されており、かつ、ろ液中の残留金濃度から求めた金の回収率は99.7%以上であり、高い回収率を示した。
【0054】
〔比較例3〕
実施例2と同様の金の王水溶液を用い、ホルマリンによる硝酸の還元分解反応を行わずに、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH=0に酸度を調整した後に、還元剤として硫酸第一鉄を添加したところ、金は析出せずろ過分離できなかった。
【0055】
【表2】

【0056】
〔実施例3、比較例4〕
表3に示す初期濃度の硝酸、塩酸を含む試験液1000mLを用い、表3に示す温度に加温し、有機還元剤としてホルマリンを用い、この試験液にホルマリンを少量ずつ添加して硝酸の還元分解を行なった。実施例3は、ホルマリンの添加量を調整して試験液の酸化還元電位を830mV〜850mVの範囲で安定させてホルマリンの添加を終了した。この場合、金を析出させること無く硝酸性窒素濃度のみを100mg/L程度に低減でき、全有機炭素濃度も130mg/Lと低い値を維持することができた。一方、比較例4は酸化還元電位を790mVまで下げてホルマリンの添加を終了した。この場合は、硝酸性窒素濃度を低減できたが全有機炭素濃度が高い値を示し、金も析出した。
処理後の硝酸性窒素濃度、全有機炭素濃度を表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
〔実施例4〕
実施例4は、実施例3の硝酸分解処理を行った後に、引き続き還元剤として硫酸第一鉄を添加した。ホルマリン添加後にさらに硫酸第一鉄を添加することによって、全有機炭素濃度が低い値を維持したまま硝酸性窒素濃度をさらに低減できた。また、本実施例では金を溶解した金属溶解液を使用しているため、同時に金も沈殿する。この処理液をろ過分離し、ろ液に残留している金濃度を測定して金の回収率を求めた。この結果を表4に示した。ろ液中の残留金濃度から求めた金の回収率は100%であり、金はほぼ全て回収することができた。
【0059】
〔実施例5〕
実施例5は、実施例3の硝酸分解処理を行った後に、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH=1.2に酸度を調整し、その後硫酸第一鉄を添加して溶液中の金を沈殿させた。これらの処理液をろ過分離し、ろ液に残留している金濃度を測定して金の回収率を求めた。この結果を表4に示した。この結果、全有機炭素濃度が低い値を維持したまま硝酸性窒素濃度を更に低減化し、金はほぼ全て回収することができた。
【0060】
【表4】

【0061】
〔実施例6〕
表5に示す初期濃度の硝酸、塩酸を含む試験液100mLを90℃に加温し、ホルマリンを添加して硝酸の還元分解を行なった。ホルマリンの添加を終えた後、引き続き、処理終了剤としてアンモニア水を添加した。この結果を表5に示した。ホルマリン添加後にさらにアンモニア水を添加することによって、液中の硝酸性窒素およびアンモニア性窒素濃度がさらに低減された。
【0062】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸を含有する溶液に有機還元剤を添加して硝酸を分解除去する処理方法であって、硝酸以外の無機酸を含み、該無機酸が1.0Nを超える濃度とし、該溶液の酸化還元電位が標準水素電極基準で810mV〜950mVの範囲になるように有機還元剤を添加して硝酸を分解することを特徴とする硝酸含有溶液の処理方法。
【請求項2】
残留硝酸性窒素濃度200mg/L以下、および残留全有機炭素濃度500mg/L以下になるように有機還元剤を添加して硝酸を分解する請求項1に記載する硝酸含有溶液の処理方法。
【請求項3】
硝酸以外の無機酸が塩酸または硫酸であり、該無機酸が1.5N以上の濃度である請求項1または請求項2の何れかに記載する硝酸含有溶液の処理方法。
【請求項4】
有機還元剤の添加終了後に、引き続き、第一鉄イオンまたは鉄粉を添加して液中に残存する硝酸イオンないし亜硝酸イオンを分解する請求項1〜請求項3の何れかに記載する硝酸含有溶液の処理方法。
【請求項5】
有機還元剤の添加終了後に、引き続き、アンモニウムイオンを添加して液中に残存する亜硝酸イオンを分解する請求項1〜請求項3の何れかに記載する硝酸含有溶液の処理方法。
【請求項6】
上記硝酸含有溶液が金属溶解液であり、請求項1〜請求項5の何れかに記載する処理方法によって該金属溶解液中の窒素濃度を低減する硝酸含有溶液の処理方法。
【請求項7】
窒素濃度を低減した金属溶解液から金属を回収し、あるいは廃液処理を行う請求項6に記載する硝酸含有溶液の処理方法。
【請求項8】
上記硝酸含有溶液が金属溶解液であり、請求項1〜請求項5の何れかに記載する処理方法によって該金属溶解液の窒素濃度を低減した後に、該金属溶解液にアルカリを添加してpHを1以上に調整し、次いで還元剤を添加して液中の金属を還元析出させて回収する硝酸含有溶液の処理方法。
【請求項9】
上記硝酸含有溶液が金、白金、金または白金以外の貴金属の少なくとも一種を含む金属溶解液であり、金、白金、金または白金以外の貴金属の少なくとも一種を回収する請求項6〜請求項8の何れかに記載する硝酸含有溶液の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−31829(P2013−31829A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−286000(P2011−286000)
【出願日】平成23年12月27日(2011.12.27)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(390004879)三菱マテリアルテクノ株式会社 (201)
【Fターム(参考)】