説明

硝酸還元触媒組成物およびそれを用いた硝酸溶液処理方法

【課題】 高濃度の硝酸溶液に対しても適用可能であり、効率的に硝酸イオンや亜硝酸イオン等を還元できる硝酸還元触媒組成物と、これを用いた硝酸溶液の処理方法を提供する。
【解決手段】 本発明の硝酸還元触媒組成物は、白金とスズを含み、スズに対する白金のモル比(Pt/Sn)が4〜1000のものである。また、本発明に係る硝酸溶液の処理方法は、本発明の硝酸還元触媒組成物の存在下、硝酸溶液と水素ガスとを接触させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度の硝酸溶液であっても還元処理が可能な硝酸還元触媒組成物、およびこれを用いた硝酸溶液の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硝酸性窒素は農薬肥料等に含まれ、地下水や河川に混入し得るが、硝酸イオンは生体内で亜硝酸イオンに還元され血液中のヘモグロビンと結合することによって、特に乳児にメトヘモグロビン血症を発症させる。また、成人に対しても発ガン性が疑われている。従って、水道水には硝酸イオンや亜硝酸イオンの濃度基準が設けられている。
【0003】
硝酸イオン等を処理する浄水方法としては、ランニングコストが安いという利点から、一般的には、微生物により処理する生物学的処理方法が採用されている。ところが、生物学的処理方法は処理能力に限界があり、多量の処理を行なうには広大な敷地を要し、また、高濃度の硝酸を処理できないという問題がある。
【0004】
生物学的処理方法の他には、イオン交換法,逆浸透法,電気透析法などの物理化学的な処理方法がある。しかし、これら方法は硝酸性窒素を単に分離するのみであって、根本的な解決にはならない。そこで、触媒の存在下に硝酸性窒素と水素等とを反応させることによって、硝酸イオン等を窒素まで還元する方法が種々検討されている。
【0005】
例えば特許文献1には、ヒドラジンとスポンジ銅触媒により硝酸性窒素を亜硝酸性窒素へ還元した後、更にパラジウム触媒により窒素ガスまで還元する処理方法が開示されている。また、特許文献2には、金属パラジウムと銅−パラジウム合金との混合物である触媒組成物と共に、これを用いた硝酸性窒素および亜硝酸性窒素の処理方法が開示されている。
【0006】
しかし、これら触媒では、高濃度の硝酸溶液、即ち低pHの溶液を処理できないという問題がある。この点について、特許文献1では高濃度の硝酸性窒素を処理できると謳われているが、当該技術では排水のpHを8以上に調整する必要がある。実際、特許文献1の実施例では、被処理水のpHを12.5と8.0に保持しつつ処理した例が開示されているが、pHが8.0の場合における残存硝酸性窒素濃度等が高いことから、「pHが低くなるとその反応速度が小さくなることがわかる」とされている。また、特許文献2によれば、「反応中の処理水のpHは4〜11の範囲が好ましく、5〜10の範囲がさらに好ましい」とされているが、実施例におけるpHは6.0に調整されている。
【0007】
これら従来技術で被処理水のpHを比較的高くせざるを得ないのは、pHが低くなると触媒が溶出し、その作用効果を発揮できなくなることによるが、場合によっては、斯かる欠点によりこれら触媒が使用できないことがある。
【0008】
例えば、特許文献3には、陽電極と陰電極との間に2枚のバイポーラ膜を配し、その間の陽電極側に陰イオン交換膜を、陰電極側にナトリウムイオン選択透過膜を配置し、陰イオン交換膜とナトリウムイオン選択透過膜間で放射性廃液を処理する方法が開示されている。当該方法では、使用済核燃料等を処理した硝酸ナトリウム溶液(硝酸ナトリウムの他に、放射性核種や有機物を含む)は、電気透析によって分解されて水酸化ナトリウムと硝酸として回収されるが、ここで得られる硝酸の濃度は、地下水等に含まれるものよりもはるかに高い。従って、斯かる硝酸を従来の触媒を用いて処理しようとすると、触媒が溶液中に溶出することにより処理効率が極端に低下して、十分処理することができなかった。
【特許文献1】特開2003−126872号公報(特許請求の範囲,段落[0025])
【特許文献2】特開2003−126872号公報(請求項1と6,段落[0029]と[0033])
【特許文献3】特開2000−321395号公報(請求項1,図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した様に、硝酸性窒素等を還元分解するための触媒はこれまでにも存在していたが、例えばpHが2以下である様な高濃度の硝酸溶液を効率的に還元できる触媒はなかった。
【0010】
そこで、本発明が解決すべき課題は、高濃度の硝酸溶液に対しても適用可能であり、効率的に硝酸イオンや亜硝酸イオン等を還元できる硝酸還元触媒組成物と、これを用いた硝酸溶液の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、硝酸イオンを効率的に還元できる触媒の構成につき種々検討した。その結果、一定のモル比で白金とスズとを組合わせた触媒は、高濃度の硝酸溶液にも溶出し難く、処理性能も高いことを見出して本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明の硝酸還元触媒組成物は、白金とスズを含み、スズに対する白金のモル比(Pt/Sn)が4〜1000であることを特徴とする。
【0013】
上記硝酸還元触媒組成物では、上記モル比が20〜500であるものが好適である。本発明者らが実験により見出した事実であるが、モル比がこの範囲内にある触媒は、硝酸の除去率が極めて優れているからである。また、白金とスズは、担体に担持されていることが好ましい。触媒組成物の製法がより容易になったり、取扱い性も向上するからである。
【0014】
また、本発明に係る硝酸溶液の処理方法は、上記硝酸還元触媒組成物の存在下、硝酸溶液と水素ガスとを接触させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の硝酸還元触媒組成物は、高濃度の硝酸溶液にも溶出し難く、硝酸イオン等を効率的に還元処理することができる。従って、本発明の硝酸還元触媒組成物とこれを用いた硝酸溶液の処理方法は、例えば、使用済核燃料の再処理において発生する高濃度硝酸溶液等の還元処理に適用することができるものとして、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の硝酸還元触媒組成物は、白金とスズを含み、スズに対する白金のモル比(Pt/Sn)が4〜1000であることを要旨とする。白金とスズとを組合わせた触媒は耐酸性に優れ、高濃度の硝酸溶液も還元処理できる。また、その組成比を検討した結果、従来触媒であるパラジウムと銅との組合わせにおいて採用されていた組成比よりも貴金属の割合を多くすることによって、活性が高くなる。斯かる組成比は、より好ましくは20以上,500以下である。
【0017】
本発明組成物の主要成分である金属(白金とスズ)の形状は特に制限されず、粉末状,箔状,スポンジ状などとすることができるが、微粒子状にすれば硝酸イオンや水素が接触すべき表面の面積が大きくなり、活性が向上するため好ましい。
【0018】
本発明の硝酸還元触媒組成物としては、白金とスズが担体に担持されているものが好ましい。金属単体でも使用できるが、担体上に担持させると金属量当たりの活性が高くなり、また、取扱いが容易になるからである。ここで使用できる担体の種類は特に制限されないが、例えばアルミナ,チタニア,ジルコニア,カーボン等を挙げることができる。その形状も特に問わず、粉末,ペレット,ハニカムなどを目的に応じて適宜選択する。
【0019】
本発明に係る触媒の製法は従来方法を適用すればよく、特に制限はない。例えば、触媒金属(白金とスズ)の原料としては、硝酸塩や塩化物など可溶性化合物を用い、水に溶解した後に共沈させたり蒸発乾固させたりすることによって、担体上に析出させればよい。
【0020】
金属を担体上に析出させた後は、塩を除去するために300℃以上(好適には350℃程度)の空気中で加熱処理し、更に水素ガス気流中300℃以上(好適には350℃程度)で還元処理を行なう。
【0021】
本発明に係る硝酸溶液の処理方法では、本発明の硝酸還元触媒組成物を、処理すべき硝酸溶液に懸濁した後、水素ガスを吹き込むことによって、硝酸イオンや亜硝酸イオンを還元する。本発明の触媒組成物は、高濃度の硝酸溶液を還元処理できるという特性を有するが、勿論、低濃度の硝酸溶液にも適用することができる。
【0022】
硝酸還元触媒組成物の添加量は、処理すべき硝酸溶液の濃度等により適宜調整すればよいが、例えば、硝酸溶液1Lに対して0.01〜1g程度の範囲で適宜調整する。特に高濃度の硝酸溶液を処理する場合は、触媒の量よりも水素との接触効率の影響が大きく、水素ガスが硝酸溶液に吹き込まれ更に触媒表面へ如何に拡散するかが重要であるため、攪拌したり水素ガスの気泡を小さくするなど、気液の接触効率の向上を図ることが望ましい。また、反応温度は特に問わず、室温の温度域でも十分な処理を行なうことができる。
【0023】
本発明方法で用いる反応装置としては特に制限はなく、例えば、流動床や固定床などの形式の装置を適宜選択することができる。流動床を用いる場合には、触媒を懸濁させた被処理液中に、散気管やエジェクタ等のガス分散機構を用いて水素ガスを吹き込めばよい。この際、被処理水は、連続で供給してもよいし、回分で供給してもよい。
【0024】
固定床を用いる場合には、ペレットやハニカムなどモノリス構造の形状の触媒を反応塔に充填し、被処理液と水素を向流若しくは並流で供給して反応させればよい。被処理液や水素ガスは反応塔を1回のみ通過させるだけでもよいが、繰り返し循環させることで、触媒の充填量や未反応の水素を削減することができる。
【0025】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
製造例1 本発明に係る触媒の製造
塩化スズ 135mg(0.32mmol)を水 200mLに溶解し、当該溶液へ貴金属触媒であるPt/Al23(和光純薬工業製,Pt:5%) 5g(Pt:1.28mmol)を懸濁させた後、ロータリーエバポレーターを用いて蒸発乾固させた。この触媒を空気中350℃で3時間熱処理した後、更に5%水素中350℃で3時間処理した。得られたPt/Sn触媒(製造No.1)の各金属の含有率を、ICP発光分光分析装置(島津製作所製,ICPS-8000)を用いてICP発光分光分析法により測定した。結果を表1に示す。
【0027】
製造例2 従来触媒の製造
上記製造例1において、塩化スズの代わりに硝酸銅 77mg(0.32mmol)を用いた以外は同様の処理を行なって、Pt/Cu触媒(製造No.2)を製造した。また、塩化スズの代わりに硝酸銅 142mg(0.6mmol)を、Pt/Al23の代わりにPd/C(和光純薬工業製,Pd:5%) 5g(Pd:2.4mmol)を用いて、Pd/Cu触媒(製造No.3)を製造した。各触媒について、各金属の含有率を製造例1と同様に求めた。
【0028】
試験例1 触媒の耐酸性評価
濃度1000ppmに調整した硝酸溶液(pH 1.7)に、上記製造例1と2で製造したPt/Sn触媒(製造No.1),Pt/Cu触媒(製造No.2)およびPd/Cu触媒(製造No.3)それぞれを懸濁し、24時間攪拌した。その後、当該混合液をろ過し、ICP発光分光分析装置(島津製作所製,ICPS-8000)を用いたICP発光分光分析法によって、ろ液に含まれる各金属の濃度を測定してろ液中の金属量を求め、更に下記式に基づいて溶出率を計算した。
溶出率=(ろ液中の金属量(mg)/触媒に当初含まれる金属量(mg))×100
結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
上記結果によれば、従来の硝酸還元触媒である製造No.2の触媒ではPtの溶出がみられ、製造No.3ではPdとCuの両方が溶出していた。一方、本発明に係る触媒(製造No.1)では、1000ppmという廃液としては高濃度の硝酸溶液中で24時間攪拌しても、金属の溶出は認められなかった。従って、本発明の硝酸還元触媒は、高濃度の硝酸溶液中でも活性は低下しないことが実証された。
【0031】
製造例3
上記製造例1において、Snに対するPtのモル比を変えて種々の触媒を製造した。斯かる触媒中の金属割合(Pt/Sn)は、上記製造例1と同様にICP発光分光分析法により確認した。
【0032】
試験例2 硝酸還元性能評価
上記製造例3で製造したSnに対するPtのモル比(Pt/Sn)が100である触媒を用いて、硝酸の還元処理を行なった。具体的には、1000ppmの硝酸溶液 2L中に触媒 1gを懸濁し、室温で攪拌しながら、溶液中に水素ガスを1L/分で散気した。10分毎に溶液を分取し、30分後にガス吹き込みを停止した。分取した試料は、触媒をろ過により分離した後、ろ液中の硝酸性窒素の濃度を測定した。結果を図1に示す。
【0033】
図1の結果より、本発明の硝酸還元触媒は、1000ppmという高濃度の硝酸であっても活性が低下せず、処理時間に比例して硝酸を還元処理できることが明らかとなった。
【0034】
試験例3
モル比(Pt/Sn)を変えて製造した触媒を用いて、上記試験例2と同様の手法で硝酸性窒素の還元処理性能の評価を行なった。また、比較のために、Ptのみの触媒でも評価した。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
当該結果によれば、Ptのみでは高濃度の硝酸溶液を処理することができず、PtとSnとを組合わせる必要があるが、Snに対するPtのモル比(Pt/Sn)が低過ぎても高過ぎても処理効率は低下することが明らかとなった。また、Pt/Snが4〜1000の範囲にあれば高濃度硝酸を処理することができ、20〜500の範囲であれば特に効果に優れることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の硝酸還元触媒組成物を用いて高濃度の硝酸溶液を処理した場合における、時間と硝酸濃度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金とスズを含み、スズに対する白金のモル比(Pt/Sn)が4〜1000であることを特徴とする硝酸還元触媒組成物。
【請求項2】
上記モル比が20〜500である請求項1に記載の硝酸還元触媒組成物。
【請求項3】
白金とスズが担体に担持されているものである請求項1または2に記載の硝酸還元触媒組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の硝酸還元触媒組成物の存在下、硝酸溶液と水素ガスとを接触させることを特徴とする硝酸溶液の処理方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−7067(P2006−7067A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186519(P2004−186519)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】