説明

硫化水素を除去する改良法

本発明は粘性石油ストリーム、例えばアスファルト、原油、および油スラリから、オクタン酸と錯形成する亜鉛のモル比が1:2ではない亜鉛オクトエートを使用して硫化物類を除去するための方法を提供する。亜鉛は+2電荷を有し、カルボン酸は−1電荷を有するので、以前は、全ての亜鉛オクトエートが1:2比の亜鉛部分対カルボン酸を有しなければならないと仮定された。しかしながら、非1:2比を含む亜鉛オクトエート調合物、特に2.1:3から1.97:3を有するものは、実際、よりよく機能することが示されている。さらに、これらの非1:2調合物は、より低い粘度を有し、そのため、1:2比を含む以前の調合物よりも使用が容易である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
なし。
【0002】
(連邦支援の研究または開発に関する声明)
非適用。
【0003】
この発明は、硫化水素捕捉剤(hydrogen sulfide scavenger)としての亜鉛オクトエート(zinc octoate)類の使用に関する。
【背景技術】
【0004】
熱分離精製プロセスの残渣として石油アスファルトが生成される。熱分離プロセスは熱分解を引き起こし、これによりしばしば、硫化水素がアスファルトストリーム中に存在することとなる。実際、アスファルトが操作の真空蒸留セクションから、特に高温で出た後でさえも、熱分解がアスファルト中で続く。アスファルトの安全なローディング、取扱、および貯蔵を可能にするためには、アスファルトにおいて硫化水素を安全レベルまで減少させることが必要である。これは、従来、硫化水素が安全レベルまで減少するのに十分な時間、加熱アスファルトを風化させることにより、実施されてきた。これには、かなりの時間(数日)かかるだけでなく、貯蔵室の蒸気空間に硫化水素が放出され、これは、有害な状態を作り出す可能性がある。さらに、最近欧州では環境規制を非常に重視するようになり、放出ガスの硫化水素量への制限が強く主張されている。
【0005】
これらの問題を回避するための他の努力は、真空蒸留塔をより低い温度で動作させ、残渣中での熱分解を減少させることを含む。より低い温度の動作は、クエンチループにおいてアスファルト流を増加させることにより達成される。しかしながら、これはより高い温度での動作よりも効率が低く、スループットおよびサーマルリカバリが減少する。この状況に対処する他の関連する方法が、欧州特許明細書公開番号第0121377号および欧州特許第000 421 683 A1号に記載される。
【0006】
米国特許第5,000,835号は、水素捕捉剤として金属カルボキシレート類の使用を記載する。この特許は、6から24個の炭素原子を有する金属カルボキシレート類間の反応を記載する。これらの金属カルボキシレート類では、カルボニル基は逆帯電した金属のためのキャリアとして機能し、金属を有機環境で溶解可能で、溶解硫化水素と接触できる形態にする。金属カルボキシレート類中の金属が溶解硫化水素と反応する場合、2つは不溶性金属硫化物類を形成し、これにより、硫化水素の毒性および腐食性が除去される。この特許は、油溶性であり、簡単に入手可能な亜鉛オクトエートの使用を述べているが、この特許はまた、亜鉛オクトエートは他の金属カルボキシレート類よりも有効ではないと、言及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0121377号明細書
【特許文献2】欧州特許第0421683号明細書
【特許文献3】米国特許第5,000,835号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
よって、亜鉛オクトエートを硫化水素捕捉剤として使用する改良法に対する明確な必要性および実用性がある。このセクションで記載される技術は、本明細書で参照されるいずれの特許、出版物または他の情報も、そのようなものとして特定的に指定されない限り、この発明に対して「先行技術」であるということを認めることを意図しない。さらに、このセクションは、調査がなされた、または37C.F.R.§1.56(a)において規定される他の関連情報が存在することを意味すると解釈されるべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の少なくとも1つの実施形態は、粘性石油ストリーム、例えばアスファルト、原油、および油スラリから硫化物類を除去するための方法に向けられる。方法は、ストリームに有効量の亜鉛オクトエートを添加する工程を含み、オクタン酸と錯形成する亜鉛のモル比は1:2ではない。亜鉛オクトエートはオキソ亜鉛オクトエート(oxo zinc octoate)であってもよく、四核オキソ亜鉛オクトエート(tetranuclear oxo zinc octoate)であってもよい。亜鉛対オクタン酸のモル比は、1:2を超えてもよい。亜鉛オクトエートは、1:2モル比の亜鉛対オクタン酸を有する同様の流体の粘度より低い粘度を有する流体中に添加してもよい。
【0010】
本発明の少なくとも1つの実施形態は、2.1:3、1.97:3、または2.1:3から1.97:3の範囲のモル比の亜鉛対オクタン酸を含む流体を用いて、石油ストリームから硫化物類を除去するための方法に向けられる。有機液に添加される亜鉛オクトエートの用量は、1から2000ppmとしてもよい。添加により硫化物類の少なくとも50%が減少し得る。亜鉛オクトエートは、亜鉛金属量が流体の5重量%から20重量%の間である低粘度流体中で添加してもよい。
【0011】
本発明の詳細な説明について、以下、図面を具体的に参照して記載する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】硫化水素捕捉剤としての様々な亜鉛オクトエート類の粘度を示すグラフである。材料の粘度が低いほど、アスファル中への添加および分散が容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
亜鉛オクトエートは亜鉛イオンに酸の酸素原子が配位する8炭素カルボン酸(具体的には2エチルヘキサン酸)である。亜鉛は+2電荷を有し、カルボン酸は−1電荷を有するので、以前は、全ての亜鉛オクトエートが1:2比の亜鉛部分対カルボン酸を有しなければならないと仮定された。図1で表されるように、これらの1:2亜鉛オクトエートは、重合し、高粘性材料を形成する傾向があり、これは、硫化水素捕捉剤としての実際の有用性を非常に制限している。
【0014】
少なくとも1つの実施形態では、1:2の酸対亜鉛比を有しない亜鉛オクトエートが使用される。オキソ亜鉛カルボキシレート(oxo zinc carboxylate)では、1つ以上の酸素原子が2つ以上の亜鉛原子と結合され、形成されたオキソ亜鉛基はカルボン酸のカルボニル基と錯形成される亜鉛種である。少なくとも1つの実施形態では、オキソ亜鉛基は、4つの亜鉛原子が1つの酸素基と結合され、2:3比の亜鉛対カルボン酸を形成する四核オキソ亜鉛である。
【0015】
1つの実施形態では、亜鉛対カルボン酸比は1.97:3から2.1:3の範囲である。
【0016】
この比は全ての亜鉛の反応を促進し、残留未反応酸化亜鉛を示すヘイズ(haze)の出現を防止する。
【0017】
これらの非1:2比の亜鉛オクトエートの使用は、多くの利点を与える。第1に、得られたオクトエートでは、1モルのオクトエートにつき、より多くの亜鉛原子が存在する。亜鉛原子は、硫化物を除去する主な推進力となり、1モルあたりの亜鉛濃度を高くすれば、オクトエートの有効性が増加する。第2に、図1で示されるように、非1:2比亜鉛オクトエート類は1:2オクトエートより低い粘度を有し、より適用性が高く、粘性のより高い亜鉛オクトエートよりも有効な濃度を有することができるオクトエートが得られる。より多くの分子を共に結合する錯体は、より高い粘度を有すると考えられるので、より低い粘度というのはかなり予想外の結果であるが、試験結果は、この2:3比では、より低い粘度が得られることを証明する。図1は、芳香族溶媒中で調製された亜鉛オクトエートのテトラオキソおよびポリマ形態に対する、温度に関するこの減少した粘度を示す。
【0018】
四核オキソ亜鉛オクトエートの化合構造は下記の通りである。
μ−ZnO−μ−(O15
【実施例】
【0019】
前記は、下記実施例を参照することにより、よりよく理解され得、その実施例は、説明目的で提示されたものであり、本発明の範囲を制限することを意図しない。
【0020】
多くのサンプルを同じ芳香族溶媒中で調製した。様々なサンプルを、蒸気空間HSレベル(vapor space H2S level)に対し、ドラエガー管(Draeger Tubes)を用いて試験した。表1は、2時間、315−325°Fの温度で加熱した後のサンプルの有効性を示す。表2は、発明の組成物が、より短い期間後であっても、著しく有効であることを示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
本発明の特定の好ましい実施形態が図面で示され、本明細書で詳細に記載されているが、この発明は多くの異なる形態で具体化され得る。本開示は本発明の原理の例示であり、本発明を説明した特定の実施形態に制限することを意図しない。本明細書で言及される全ての特許、特許出願、科学論文、および任意の他の参考材料は参照によりその全体が組み込まれる。さらに、本発明は本明細書で記載され、本明細書に組み込まれる様々な実施形態のいくつかまたは全ての任意の可能な組み合わせを含む。
【0024】
上記開示は、例示であり、包括的ではないことが意図される。この記載は、多くの変更および代替案を当業者に示唆するであろう。これらの代替案および変更は全て、特許請求の範囲内に含まれることが意図され、ここで、「含む」は、「包含するが、それらに限定されない」ことを意味する。当技術に精通しているものは、本明細書で記載される特定の実施形態の他の等価物を認識することができ、それらの等価物もまた特許請求の範囲に含まれることが意図される。
【0025】
本明細書で開示される全ての範囲およびパラメータは、その中に包含される任意のおよび全てのサブ範囲および終点間のあらゆる数を含むことが理解される。例えば、「1から10」の提示された範囲は、1の最小値と10の最大値(これらを含めて)の間の任意のおよび全てのサブ範囲、すなわち、1以上の最小値から始まり(例えば1から6.1)、10以下の最大値で終わる(例えば、2.3から9.4、3から8、4から7)全てのサブ範囲、最後に、その範囲内に含まれるそれぞれの数1、2、3、4、5、6、7、8、9、および10を含むと考えるべきである。
【0026】
これで本発明の好ましいおよび別の実施形態の説明を終わる。当業者であれば、本明細書で記載される特定の実施形態の他の等価物を認識することができ、それらの等価物は、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油ストリームから硫化物類を除去する方法であって、有機液に有効量の亜鉛オクトエートを添加する工程を含み、オクタン酸と錯形成する亜鉛のモル比は1:2ではない、方法。
【請求項2】
前記亜鉛オクトエートは、オキソ亜鉛オクトエートである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記亜鉛オクトエートは、四核オキソ亜鉛オクトエートである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
亜鉛対オクタン酸のモル比は、1:2を超える、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記亜鉛オクトエートは、流体中に添加され、前記流体の粘度は、1:2モル比の亜鉛対オクタン酸を有する同様の流体の粘度よりも小さい、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記石油ストリームは、アスファルト、原油、油スラリ、およびそれらの任意の組み合わせからなるリストより選択されるものである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記亜鉛対オクタン酸のモル比は、2.1:3である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記亜鉛対オクタン酸のモル比は、1.97:3である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記亜鉛対オクタン酸のモル比は、2.1:3から1.97:3である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記有機液に添加される亜鉛オクトエートの用量は、1から2000ppmである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記添加された亜鉛オクトエートは、硫化物類の少なくとも50%を減少させる、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記亜鉛オクトエートは、低粘度流体中に添加され、亜鉛金属量は、前記流体の5重量%から20重量%の間である、請求項1記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−513718(P2013−513718A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544667(P2012−544667)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【国際出願番号】PCT/US2010/060000
【国際公開番号】WO2011/081860
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(507248837)ナルコ カンパニー (91)
【Fターム(参考)】