説明

硫化水素ガスの精製方法。

【課題】粗硫化水素ガスからより精製された硫化水素を容易に得る硫化水素の精製方法を提供する。
【解決手段】硫化水素ガスの精製方法は、粗硫化水素ガスを脂肪族低級アルコールと接触させることを特徴とし、好ましくは、粗硫化水素ガス10を充填塔1で脂肪族低級アルコールを循環させながら接触させることを特徴とし、更には、略定期的に粗硫化水素ガス10および脂肪族低級アルコールの供給を停止し、充填塔1内にスチーム14を供給して付着している硫黄を融解させて回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化水素ガスの精製方法に関する。詳しくは、粗硫化水素ガスに含まれる硫黄や多硫化水素を除去して硫化水素ガスを精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化水素は、メタンチオール、チオグリコール酸などの有機硫黄化合物の製造などに利用され、液相または気相で硫黄と水素を反応させて製造されている。
この反応によって得られる粗硫化水素ガスには、硫化水素の他に原料の硫黄や多硫化水素などが含まれ、通常、硫黄などの不純物を除いて使用される。
【0003】
粗硫化水素ガスの精製方法として、粗硫化水素ガスを反応に供給する液体硫黄と接触させて含まれる硫黄ガスを凝縮させて除去する方法、残存する硫黄を気相で水素ガスと反応させて硫化水素に転化する方法、冷却して凝縮させた後、更に残存する硫黄を気相で水素ガスと反応させて硫化水素に転化する方法が知られている(特許文献1および特許文献2参照。)。
しかしながら、これらの方法は、硫化水素中に硫黄などが残り、必ずしも満足できるものではなく、粗硫化水素ガスから、より精製された硫化水素を容易に得る方法が望まれている。
【0004】
【特許文献1】特開平1−257109号公報
【特許文献2】特開平2−55210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、粗硫化水素ガスからより精製された硫化水素を容易に得る硫化水素の精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、硫黄や多硫化水素などを含む粗硫化水素ガスの精製方法について鋭意検討した結果、粗硫化水素ガスを脂肪族低級アルコールと接触させることによって、特に充填塔で脂肪族低級アルコールを循環させながら接触させることによって、容易に精製できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、粗硫化水素ガスを脂肪族低級アルコールと接触させることを特徴とする硫化水素ガスの精製方法である。
好ましくは、粗硫化水素ガスを充填塔で脂肪族低級アルコールを循環させながら接触させることを特徴とする硫化水素ガスの精製方法である。
更には、粗硫化水素ガスを充填塔で脂肪族低級アルコールを循環させながら接触させ、略定期的に粗硫化水素ガスおよび脂肪族低級アルコールの供給を停止し、充填塔内にスチームを供給して付着している硫黄を融解させて回収することを特徴とする硫化水素ガスの精製方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によって、粗硫化水素ガスから、より精製された硫化水素を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、粗硫化水素ガスとしては特に制限されるものではなく、例えば、硫黄と水素との反応によって生成する硫化水素ガスが挙げられる。この硫化水素ガスは、通常、触媒層に気体状の硫黄および水素ガスを供給して生成する反応ガスを冷却して、または液体硫黄と触媒を有する反応器に水素ガスを供給して生成する反応ガスを冷却して得られる。
【0010】
このような粗硫化水素ガスには、硫黄、多硫化水素などが含まれ、本発明においては脂肪族低級アルコールと接触させて除去する。
多硫化水素は脂肪族低級アルコールと接触すると、硫化水素と硫黄に分解される。
以下、硫黄と多硫化水素を合わせて単に硫黄と称する。
【0011】
脂肪族低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノールが挙げられる。扱い易さなどからメタノールが好ましく用いられる。また硫化水素ガスをメタンチオールの製造に使用する際には、原料としてメタノールを使用するため、少量のメタノールが残っていても構わないことからメタノールが好ましく用いられる。
【0012】
粗硫化水素ガスと脂肪族低級アルコールとを接触させる方法は、特に制限されるものではないが、ラシヒリングなどを充填した充填塔を用いて脂肪族低級アルコールを循環させながら接触させる方法が好ましい。硫黄は粉体状で脂肪族低級アルコール中に捕捉され、多くの硫黄は充填部に付着して蓄積する。
【0013】
通常、略定期的に粗硫化水素ガスおよび脂肪族低級アルコールの供給を停止し、充填塔内にスチームを供給して付着している硫黄を融解させて回収する。この操作は、粗硫化水素ガス中の硫黄濃度にもよるが、通常、約1〜3週間毎に行われる。実施時期は塔底と塔頂との圧力差を監視しておき、閉塞具合を勘案して決定する。
【0014】
図1は本発明の一実施態様を示すフローチャートである。充填塔1はラシヒリングを充填した充填部2、その部分の外部にジャケット3を有している。メタノール12を充填塔に供給し、循環ポンプ4で循環ライン8を経由して循環させる。
粗硫化水素ガス10を充填塔に供給し、メタノールと接触させる。接触温度は常温から約40℃の範囲で行われる。
【0015】
硫黄が除去された充填塔からの排出ガスは蒸気圧分のメタノールを含んでいるので凝縮器5で約5〜−5℃に冷却してメタノールを凝縮させる。凝縮したメタノールは回収ライン9を経由して充填塔に回収する。この冷却されたメタノールの回収によって、粗硫化水素ガスとメタノールの接触温度は上記の範囲に保持されるが、必要によって循環ライン8に冷却器(図示していない)を設けて循環メタノールを冷却して行っても良い。
また、排出ガスに少量のメタノールが同伴するので、必要によりメタノールを補給しながら行う。
このようにして得られる硫化水素ガス中の硫黄を約0.1g/m未満とすることができる。
【0016】
メタノール中に捕捉された硫黄の多くは充填部に付着して蓄積してくる。通常、略定期的に粗硫化水素ガスおよびメタノールの供給を停止し、メタノール13を排出し、充填塔内にスチーム14を供給し、充填塔内の硫黄を融解させる。スチームとしては約130〜150℃のものが好ましく使用される。
この際、充填部の外部に設けられているジャケット3にスチームを供給し加熱する。
融解した硫黄は流下させ、ジャケット7にスチームを供給して加熱している硫黄回収タンク6に回収する。
【0017】
硫黄の回収が終了したら冷却、乾燥し、再びメタノールを供給して循環し、粗硫化水素ガスを供給して接触させて精製を行う。複数の充填塔を備えて切り替えて実施することによって、粗硫化水素ガスの供給を完全に停止することなく、連続して精製が行えるので好ましい。
【実施例】
【0018】
図1に示すと同様の装置で粗硫化水素ガスの精製を行った。
ステンレス製の充填塔(直径1500mmφ×高さ7000mm、充填部:80Aのラシヒリングを高さ3000mm充填)にメタノールを供給し、約40m/hrで循環した。この充填塔に粗硫化水素ガス(硫黄濃度:1.6g/m)を約500m/hrで供給し、精製を行った。充填塔からの排出ガスを多管式凝縮器(伝熱面積:23m)で約0℃に冷却し、凝縮したメタノールを充填塔に回収した。充填塔からの排出ガスの温度は約35℃となった。なお、充填塔内のメタノールの液面が一定になるようにメタノールを補給した。
得られる精製硫化水素ガス中の硫黄濃度は0.1g/m未満であった。なお、硫黄濃度は硫化水素ガスを、水を入れた捕集瓶に導入して捕集し、粉体硫黄を濾過して乾燥し、その硫黄量から求めた。
【0019】
約2週間連続運転した後、粗硫化水素ガスおよびメタノールの供給を停止し、メタノールを排出し、充填塔内に約140℃のスチーム14を供給し、充填塔内の硫黄を融解、流下させて硫黄回収タンクに回収した。
硫黄の回収後、スチームの供給を停止し、乾燥空気を供給し、冷却すると共に乾燥した。その後、再びメタノールを供給して循環し、粗硫化水素ガスを供給して接触させて精製を行った。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施態様を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0021】
1 充填塔
2 充填部
3 ジャケット
4 循環ポンプ
5 凝縮器
6 硫黄回収タンク
7 ジャケット
8 循環ライン
9 回収ライン
10 粗硫化水素ガス
11 精製硫化水素ガス
12 供給アルコール
13 回収アルコール
14 スチーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗硫化水素ガスを脂肪族低級アルコールと接触させることを特徴とする硫化水素ガスの精製方法。
【請求項2】
粗硫化水素ガスを充填塔で脂肪族低級アルコールを循環させながら接触させることを特徴とする請求項1記載の硫化水素ガスの精製方法。
【請求項3】
略定期的に粗硫化水素ガスおよび脂肪族低級アルコールの供給を停止し、充填塔内にスチームを供給して付着している硫黄を融解させて回収することを特徴とする請求項2記載の硫化水素ガスの精製方法。
【請求項4】
脂肪族低級アルコールがメタノールであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の硫化水素ガスの精製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−30866(P2010−30866A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197560(P2008−197560)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)