説明

硫化水素ガス除去剤とそれを用いた硫化水素ガスの検知方法並びに硫化水素ガス除去装置

【課題】簡便な方法で製造可能であり、低濃度から高濃度にわたる硫化水素ガスを短時間で除去固定することができ、しかも硫化水素ガスの有無を確認できる硫化水素ガス除去剤とそれを用いた硫化水素ガスの検知方法並びに硫化水素ガス除去装置を提供する。
【解決手段】鉄塩(III)およびアルカリが、モル比で鉄:アルカリ=1:10〜1:20の範囲で担体に担持共存されていることとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化水素ガス除去剤とそれを用いた硫化水素ガスの検知方法並びに硫化水素ガス除去装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硫化水素は独特の有害性臭気があり法的に悪臭物質として扱われている。硫化水素は金属類やコンクリートを腐蝕・劣化させるため、従来は活性炭等の各種吸着剤による吸着方式による処理(例えば、特許文献1−3参照)、オゾンや酸素による酸化方式による処理や生物学的処理等が行われている。しかしながら、吸着方式による処理は、処理容量が小さく数千ppm以下の低濃度に限られ、吸着特性から数ppmの未処理が伴う。酸化方式による処理や生物学的処理においては、処理能力は大きいが処理速度が遅く、未処理ガスが流出してしまうため、終末処理として、ベンチュリースクラバー等の洗浄を行っている。このため、常時、処理状況を把握し、硫化水素の有無を確認する必要がある。また、これら従来の処理は、低濃度から高濃度にわたる即応的な迅速処理が実現されていないのが実情である。
【0003】
ところで、上記吸着方式による吸着剤としては、活性炭にアルカリ金属炭酸塩を担持させたものが知られている。この吸着剤は自然発熱による表面温度上昇が大きく、火災などの災害が起きるおそれがあることから、表面温度上昇を抑えた吸着剤として、塩基性金属硫酸塩を活性炭に担持させた吸着剤が提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、このものは活性炭を金属硫酸塩溶液に浸漬させ次いでアルカリ溶液に浸漬させることによって製造されるものであるため、残存アルカリによる活性炭の表面温度上昇を抑えるためにはアルカリ溶液浸漬後、水洗処理を施すことが必要である。水洗処理が十分でない場合には、残存アルカリによって活性炭の表面温度が上昇してしまうおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−43098号公報号
【特許文献2】特開平10−192703号公報
【特許文献3】特開昭63−240866号公報
【特許文献4】特開2005−52712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、簡便な方法で製造可能であり、低濃度から高濃度にわたる硫化水素ガスを化学的に安定な硫化物として短時間で除去固定することができ、しかも硫化水素ガスの有無を確認できる硫化水素ガス除去剤とそれを用いた硫化水素ガスの検知方法並びに硫化水素ガス除去装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0007】
第1に、本発明の硫化水素ガス除去剤は、鉄塩(III)およびアルカリがモル比で鉄:アルカリ=1:10〜1:20の範囲で担体に担持共存されていることを特徴とする。
【0008】
第2に、上記第1の発明において、担体が、アルミナ、珪藻土、モレキュラーシーブ、または、ゼオライトであることを特徴とする。
【0009】
第3に、上記第1または第2の発明において、鉄塩(III)が、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)および塩化鉄(III)から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0010】
第4に、上記第1から第3のいずれかの発明において、アルカリが、ナトリウムもしくはカリウムの水酸化物、炭酸塩、リン酸塩およびアルミン酸塩から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0011】
第5に、本発明の硫化水素ガス除去剤の製造方法は、担体にアルカリ溶液を接触させた後、アルカリの担持量がモル比で共存担持させる鉄の10〜20倍になるように鉄塩(III)溶液を前記担体に接触させることにより、担体に鉄塩(III)およびアルカリを担持共存させることを特徴とする。
【0012】
第6に、上記第5の発明において、担体が、アルミナ、珪藻土、モレキュラーシーブ、または、ゼオライトであることを特徴とする。
【0013】
第7に、上記第1から第4のいずれかの硫化水素ガス除去剤を用いた硫化水素ガスの検知方法であって、前記硫化水素ガス除去剤に担持された鉄塩(III)およびアルカリと、硫化水素ガスとの化学反応による硫化物の生成に伴う硫化水素ガス除去剤の変色によって硫化水素ガスの有無を検知することを特徴とする。
【0014】
第8に、上記第1から第4のいずれかの硫化水素ガス除去剤を内部に充填したカラム部と、前記カラム部に硫化水素ガスを含む空気を導入する導入口と、前記カラム部により硫化水素ガスが除去された空気を排気する排気口と、前記硫化水素を含む空気を導入口からカラム部に導入し排気口から排気する吸引手段を備えていることを特徴とする。
【0015】
第9に、上記第8の発明において、硫化水素ガス除去剤を充填するカラム部は、両端に導入口と排気口を有する透明または半透明の筒状体であり、硫化水素ガスによる硫化水素ガス除去剤の変色が視認可能とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡便な方法で、かつ、効率よく硫化水素ガス除去剤を製造することができる。この硫化水素ガス除去剤は、硫化水素ガスを化学吸着して処理するため、低濃度から高濃度にわたる硫化水素ガスを簡便な方法で迅速に吸着、除去することができる。また、本発明の硫化水素ガス除去剤は硫化水素ガスとの化学反応により褐色から黒色に変色するため、硫化水素ガスの有無を検知することができる。しかも、破過状態が明確である。また、生成した硫化物は化学的に安定であり、空気にさらしても、硫化水素ガスの再発生はない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】硫化水素ガス除去装置の概略図である。
【図2】除去剤性能評価試験装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は前記のとおりの特徴をもつものであるが、以下に、本発明の実施形態を説明する。
【0019】
本発明の硫化水素ガス除去剤(以下、単に除去剤ともいう)は、鉄塩(III)とアルカリ(OH)を所定の割合で担体に担持共存させている。具体的には、その割合がモル比で鉄(Fe):アルカリ(OH)=1:10〜1:20の範囲となるように鉄塩(III)とアルカリを担持させている。これによって、除去剤としての安定性が向上し、硫化水素ガスを化学的に安定な硫化物として迅速に除去固定することができるとともに、硫化水素ガスの有無を検知することができる。例えば、本発明の除去剤を硫化水素ガスを含む空気を接触させると担体上の鉄塩(III)とアルカリが硫化水素ガスを速やかに化学反応で捕らえ、化学的に安定な硫化物として担体に吸着、固定させる。このときの化学反応は下記の反応が生じていると推定される。
【0020】
H2S + 2OH- → S2- + 2H2O (1)
3H2S + 2Fe3+(褐色)+ 6OH- → Fe2S3(黒色)+ 6H2O (2)
上記(1)の反応式は、担体上のアルカリと硫化水素ガスとの中和反応であり、本発明においては、この反応が硫化水素ガスの除去の主反応として寄与していると推測される。上記(2)の反応式は、担体上の鉄塩(III)およびアルカリと硫化水素ガスとの化学反応であり、硫化水素ガスの存在の有無を明らかにしていると推測される。また、生成した硫化物は化学的に安定な硫化物であるため、空気にさらしても除去剤からの硫化水素ガスの再発生はない。
【0021】
このように本発明の除去剤は、化学反応により硫化水素を捕集するものであるため、気中1ppm〜数パーセントの広範囲濃度の硫化水素を迅速に処理でき、気中濃度をゼロppmにすることができる。また吸湿性があり反応量が増大するほか、反応速度が大きいので多量の硫化水素を迅速に処理することができる。例えば、除去剤1リットル当たり100%硫化水素30リットル程度の処理が可能である。また、硫化水素含有空気中に本発明の除去剤を散布して硫化水素を除去することも可能である。
【0022】
これに対し、鉄塩(III)とアルカリの担持量が前記範囲外であると、上記のような効果が得られない。
【0023】
アルカリの担持量は、硫化水素の処理量および後述する反応境界の善し悪しに影響する。アルカリの担持量が鉄に対してモル比で10倍未満の場合には、硫化水素の処理量が低下し、反応境界も不鮮明になる。アルカリの担持量が鉄に対してモル比で20倍を超える場合には、吸着能が劣化し反応速度が遅くなり、硫化水素の処理量が低下する。また、除去剤としての安定性に欠ける。
【0024】
本発明に使用される担体は、硫化水素との化学反応を阻害せず、硫化水素との反応によって生じる硫化物(Fe)の色(黒色)が確認できるものであれば特に制限されるものではない。無機質の多孔性担体が好ましく用いられ、具体例としては、活性アルミナ、溶融アルミナ、珪藻土等の担体自体が塩基性(固体塩基)のもの(以下、塩基性担体という)や、モレキュラーシーブ、酸性ゼオライト、酸性白土等の担体自体が酸性(固体酸)のもの(以下、酸性担体という)等、汎用吸着剤として知られているものを挙げることができる。なお、塩基性担体や酸性担体は、上記以外にも、担体製造時に酸または塩基処理を施したものを用いることができる。
【0025】
本発明では、塩基性担体および酸性担体のいずれでも用いることができるが、酸性担体の場合には予め中和処理したものが用いられてもよい。酸性担体の中和処理は、一般的には次のようような工程で行われる。まず、酸性担体を1〜5%KOH水溶液等のアルカリ水溶液に浸漬する。次いで80℃程度に加温し、時々攪拌しながら24時間放置する。その後、粗ろ過により微粒子を除去し、担体を精製水等で水洗する。これによって、過剰アルカリと中和生成塩が担体から除去される。この精製水等による担体の洗浄は、その洗浄ろ液がpH測定により中和していることが確認できるまで行われる。次いで、100℃程度の温度で乾燥処理して担体から水分を除去した後、200℃〜400℃の温度範囲で焼成し、水酸化物を酸化物にして、吸着能を増大させる。
【0026】
担体の形状は特に限定されず、粉砕状、球状、繊維状、円柱状等、任意の形状であってよい。表面積が大きいほど多量の鉄塩(III)およびアルカリを担持させることができ、硫化水素の処理量(除去量)を増大させることができる。硫化水素との反応によって生じる硫化物(Fe)の色(黒色)が確認できるように白色や淡色系の担体を用いることが好ましく、この観点からは活性アルミナ、珪藻土、ゼオライトが好ましい。特に活性アルミナは、鉄塩(III)やアルカリの種類に左右されず添加量の調整等が容易であるため好ましい。また、このものは、吸着能が大きく、後述するように、アルカリ添加後乾燥することなく鉄塩(III)溶液を添加することが可能であるため、簡便、かつ、効率よく除去剤を製造することができる。珪藻土は、見かけ比重が小さく除去剤を空中散布して使用する場合には好適である。また珪藻土は安価に入手することができる。これに対し、活性炭を担体として用いると、硫化水素との反応によって生じる硫化物の色(黒色)が確認できなくなるばかりか、自然発熱(表面温度上昇)の危険性があるため、本発明においては担体として活性炭を適用しない。
【0027】
本発明に使用される鉄塩(III)は、水可溶性鉄塩(III)であり、例えば、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、塩化鉄(III)等を挙げることができる。なかでも硫酸鉄(III)は、加水分解が起こらず、また乾燥や加熱による熱分解も起こらない安定な物質であるため好ましく用いられる。
【0028】
本発明に使用されるアルカリは、鉄塩(III)との共存による水酸化物(Fe(OH))の生成、並びに、担体に保持されたアルカリによって硫化物(Fe)の生成とそれを担体に固定させる役割を果たすものであり、例えば、NaOHやKOH等のナトリウムやカリウムの水酸化物を挙げることができる。ナトリウムやカリウムの炭酸塩もしくはリン酸塩もしくはアルミン酸塩等であってもよい。なかでもNaOHおよびKOHは、反応境界(両端に導入口と排気口を有する筒状体に本発明の除去剤を充填し導入口から排気口に向かって硫化水素含有空気を筒状体に通気させた際に、硫化水素との反応によって生じる着色した除去剤(以下、反応層ともいう)と未反応の除去剤(以下、未反応層ともいう)との境界)がきわめて明瞭であるため好ましい。
【0029】
次に本発明の除去剤の製造方法について説明する。
【0030】
本発明の製造方法において重要なことは、担体にアルカリを接触させた後、次いで鉄塩(III)溶液を接触させることである。従来、汎用触媒(金属酸化物添加触媒)は下記(1)から(4)の工程を経て製造されており、担体に金属塩溶液を接触させた後、アルカリ溶液を接触させている。
【0031】
(1)金属塩添加:担体に金属塩溶液を添加し、混合・浸漬・放置する。
【0032】
(2)アルカリ添加:さらにアルカリ溶液を攪拌しながらやや過剰に加えた後放置する。ここでは、金属塩は水酸化物となり担体に吸着され、また、上澄み液が共存する。
【0033】
(3)ろ過・洗浄:上澄み液共々ろ過後、水洗を施し、可溶成分を除去して金属水酸化物吸着担体を得る。
【0034】
(4)乾燥・焼成:金属水酸化物吸着担体を乾燥し水分を除去した後、高温加熱で焼成し、水酸物を酸化物に変えると共に、担体の吸着活性を高める。
【0035】
従来の汎用触媒の製造方法において、上記金属酸化物は一般に不溶性のため、直接担体に含浸・吸着できないので、水酸化物を経て焼成により脱水して酸化物にしている。また、この製造方法は工程が4段階あるため製造のための所要時間がかかり、多量のエネルギーも要する。
【0036】
別の製造方法として、特許文献4による除去剤の製造方法は、担体に活性炭を用い、上記反応触媒の製造方法の工程(1)〜工程(3)を行い、工程(4)で80℃長時間乾燥を施している。これは、水酸化物の状態で固定するためであるが、この製造の基底は触媒製法にあり、硫化水素ガスの除去および固定を行う除去剤に関する本発明の製造方法とは異なる。
【0037】
以上の従来法に対して、本発明の製造方法が、担体にアルカリを接触させた後に鉄塩(III)溶液を接触させる理由は次の通りである。
【0038】
除去性能がアルカリに依存するため、担体の細孔まで確実にアルカリ性にする必要がある。特に表面積の大きな活性アルミナを用いる場合、効果的な除去剤を得るために、より確実に担体の細孔までアルカリ性にすることが要求される。鉄塩(III)添加を先行させてその後にアルカリを添加した場合、生成する水酸化物が担体細孔へのアルカリの進入を妨害して担体細孔までアルカリが到達せず、除去能が低下する。また、担体細孔の鉄塩(III)にアルカリが到達せず、未反応層が生じ、これが反応境界の不明瞭につながる。
【0039】
本発明においては、上記工程(3)のろ過と水洗を行わない。これは、強アルカリ性を担持させるためと、塩類中和物が除去能を妨害しないからである。さらに、活性アルミナ等の表面積の大きな担体を用いた場合には、アルカリ溶液添加・混合後、乾燥せずに鉄塩(III)溶液添加が可能である。これは、担体の水分担持能が大きいからである。このように、本発明では、ろ過、水洗、乾燥等を行わないなど工程を簡略化でき、除去剤を安価に製造することができる。
【0040】
以下、本発明の除去剤の製造方法の一実施形態についてより具体的に説明する。
【0041】
まず、担体にアルカリ溶液を添加して混合することにより担体にアルカリを担持させた後、このアルカリ担持担体に鉄塩(III)溶液を添加して混合することにより担体に鉄塩(III)をも担持させる。ここで、アルカリ溶液および鉄塩(III)溶液をそれぞれ担体に添加する際には、担体が湿潤状態(湿った砂状の状態)に留まるように各々添加して混合するようにし、浸漬状態にはしない。浸漬状態にすると、ろ過が必要となり、また乾燥にも時間がかかる。湿潤状態に留めれば、直ちに乾燥工程に入ることができ、また時間短縮が可能となる。また、強塩基を担持させるため、水洗を行わず、これによって中和生成塩類が担体に共存することになるが、上記した汎用触媒や活性炭除去剤とは異なり、本発明の除去剤においては中和生成塩類の存在は硫化水素の除去能に影響がない。
【0042】
担体は、塩基性担体でも酸性担体でもよい。酸性担体の場合には予め中和処理を施したものを用いてもよいし、中和処理を施さなくてもよい。酸性担体の中和処理については上述のとおりであり、説明を省略する。
【0043】
鉄塩(III)溶液添加後、乾燥することにより除去剤を得る。この乾燥は、湿潤状態からさらさら状(乾いた砂状)になったところで終了する。ここで、上記汎用触媒や活性炭除去剤のように完全乾燥しない。本実施形態における除去剤の含水率は、例えば、活性アルミナで25%前後、珪藻土では1%程度となっており、除去剤と硫化水素ガスとの反応は、固相・液相(含水+反応生成水)・気相(硫化水素ガス)の三相反応と考えられる。これに対し上記活性炭除去剤は概ね固相・気相の二相反応であると思われる。
【0044】
硫酸鉄(III)等の鉄塩(III)の担体への添加量は、担体の種類(吸着能)に応じて適宜決定される。例えば、鉄塩(III)は活性アルミナ1リットル当たり0.1〜0.2mol(Fe換算で0.2〜0.4mol)の範囲で好ましく添加される。この範囲より添加量が少ないと着色が薄くなり硫化水素との反応による色の変化を確認することが困難になる場合があるので好ましくない。逆にこの範囲より添加量が多いと、過剰のアルカリが必要となり、担体の吸着能低下による処理量減少に繋がる場合があるので好ましくない。担体として珪藻土を用いる場合には、鉄塩(III)は、例えば、珪藻土1リットル当たり0.01〜0.1molの範囲で好ましく添加される。
【0045】
アルカリの添加量は、硫化水素の処理量および反応境界の善し悪しに影響する。例えば、添加量が少ないと反応境界が不鮮明になり、処理量が低下する傾向にある。添加量が多いと吸着能が劣化し反応速度が遅くなり、処理量が低下する傾向にある。このため本発明では、アルカリの担体への担持量が、モル比で鉄(Fe)の10〜20倍になるように、鉄塩(III)溶液を担体に接触させて鉄塩(III)を担持させている。より具体的には、例えば、アルカリの添加量は、担体の種類や表面積によって変動するが、例えば、担体が活性アルミナの場合、活性アルミナ1リットル当たり2.0〜4.0molの範囲とすることが考慮される。担体として珪藻土を用いる場合には、アルカリの添加量は、例えば、珪藻土1リットル当たり0.1〜2.0molの範囲とすることが考慮される。もちろん、アルカリの塩基性担体への担持量が鉄に対してモル比で10〜20倍の範囲であることが必須である。
【0046】
担体として活性アルミナ(白色)を用いた場合、アルカリ添加後に鉄塩(III)として硫酸鉄(III)溶液を接触させて硫酸鉄(III)を担持させ乾燥すると褐色を呈する。褐色の程度は硫酸鉄(III)担持量増加に伴い淡褐色から濃褐色に変化する。担持した硫酸鉄(III)は硫化水素との反応によって褐色から黒色に変化するが、褐色の度合いが濃いほど硫化水素との反応後の黒色度の度合いも濃くなる。
【0047】
本発明は、硫化水素ガス除去装置をも提供する。図1に本発明の一実施形態である硫化水素ガス除去装置の概略図を示す。この図1の装置は実用的除去装置の一例であり、後述する図2の試験評価用除去剤の1000倍=1リットルに相当する。
【0048】
この装置は、上記した除去剤1を内部に充填した円筒状のカラム部2と、前記カラム部2に硫化水素ガスを含む空気を導入する導入口3と、前記カラム部2により硫化水素ガスが除去された空気を排気する排気口4と、前記硫化水素を含む空気を導入口3からカラム部2に導入し排気口4から排気する吸引手段5を備えている。除去剤1を充填するカラム部2は、両端に上記した導入口3と排気口4を有しており、例えば、ガラス製やプラスチック製等の透明または半透明の内径120mmの円筒状体で構成されており、内部に充填した除去剤1を外部から視認できるようになっている。したがって、硫化水素ガスとの反応による除去剤1の変色を外部から確認でき、破過状態も明瞭である。吸引手段5は、例えば、遠心式排風機51で構成され、排気口4の下流側に接続される。遠心式排風機51を駆動させると硫化水素ガスを含む空気の吸引が開始され、硫化水素ガスを含む空気はカラム部2を通気する。カラム部2を通気する空気中の硫化水素ガスは、カラム部2内部に充填された除去剤1との反応により除去される。硫化水素ガスと反応した除去剤1は黒〜深緑黒を呈し、この呈色は硫化水素ガスとの反応が進行するに従い導入口3側から排気口4側に向かってのびていく。一方、未反応の除去剤1は褐色を呈しているので、反応した除去剤1の反応層10と未反応の除去剤1の未反応層20との間には明確な境界が生じる。図1では矢印Aで示す箇所が境界である。この境界は硫化水素ガスの処理状況や処理限界を表し、目視で確認することができる。カラム部2内部の除去剤が全て黒変した場合には、遠心式排風機51の駆動を停止し、未反応の除去剤1を充填した新しいカラム部2と交換する。
【0049】
この装置は、硫化水素ガスとの反応により除去剤1が変色するので硫化水素ガスの有無を検知する検知装置としても機能する。
【0050】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において各種の変更が可能である。以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例】
【0051】
硫化水素標準ガスの調整
1)試薬:多硫化カルシウム(硫黄合剤27.5%溶液)、硫化ナトリウム、10%硫酸
2)発生方法:発生容器にCaSx溶液またはNaSを適量入れ、硫酸溶液に加えこれにダイヤフラムポンプで空気を送り、気体バックに捕集する。
【0052】
空気→ダイヤフラムポンプ→発生容器(500mlポリ容器)→テトラ−バック(10Lアルミ箔製)
3)濃度調整方法:バック内気体の適量を除去剤を通して排気減容した後、これに清浄空気を追加して、希釈する。
【0053】
4)濃度測定方法:検知管を用いてバック内の濃度を測定する。
【0054】
検知管:ガステック硫化水素検知管 4HH(0.1〜2.0%)、4H(100〜2000ppm)、4LL(2.5〜60ppm)
除去剤性能試験方法
除去剤性能試験には、図2に示す除去剤性能評価試験装置を用いた。図2の除去剤性能評価試験装置は図1の装置を同様の構成を有しており、図1に示した部分と同一の部分については同じ符号を付している。
【0055】
図2の装置では、カラム部2としてガラス細管21を用い、吸引手段5として1ストローク100mlまたは50mlの定容真空吸引式ポンプ52を用いた。後述する実施例で作製した除去剤1をガラス細管21内に長さ100mm程度充填し、吸引ポンプ52を用いて被検空気(所定の濃度に調整した硫化水素標準ガス)を吸引(100ml×n回)して除去剤1の着色状態(色調、着色長さ(ガラス細管21中の除去剤1のうち硫化水素との反応によって着色した除去剤1の軸方向の長さB))を確認する。着色長さが短いほど高効率の除去剤である。なお、除去剤1.00mlあたり充填長さは100mmである。除去剤のかさ比重を用いることで重量に換算できる。被検ガスを通過させるためには適度の除去剤の粒径が必要であり、粒子径0.4mm程度(40〜80#)が適当である。1ストローク(100ml)/30sec程度がよい。
【0056】
除去剤の着色状態の判定基準は、着色域の状態により次の3段階に分ける。
【0057】
1)着色(黒〜深緑黒)の先端や境界が明瞭であり、着色長さの測定が容易であるものを「○」と評価する。
【0058】
2)着色(黒〜深緑黒)の先端や境界がやや不明瞭だが、着色長さを測定できるときは「△」と評価する。
【0059】
3)着色しているが、着色に濃淡があり、着色域、着色長さが明確に読めないときは「×」と評価する。
<実施例1>
アルカリ変量による除去剤の着色状態
表1の条件で、担体にアルカリを加えてよく混合して乾燥した後、さらにFe(III)を添加し乾燥して硫化水素ガス除去剤を得た。用いた担体とアルカリとFe(III)は下記の通りである。
担体:活性アルミナ(NKH−D、表面積340m/g、粒径42−60#(≒0.5mm)、比重0.652g/ml、住友化学)、各試料No.の採取量10ml=6.52g
アルカリ:1.0mol/LKOH溶液
Fe(III):0.50mol/LFe(NO溶液、0.1molFe/担体1L
得られた硫化水素ガス除去剤を用いて除去剤性能試験を実施し、除去剤の着色長さ等の着色状態を評価した。その結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
<実施例2>
Fe(III)とアルカリを変量したときの除去剤の着色状態
表2の条件で、担体にアルカリを加えてよく混合して乾燥した後、さらにFe(III)を添加し乾燥して硫化水素ガス除去剤を得た。用いた担体とアルカリとFe(III)は下記の通りである。
担体:活性アルミナ(NKH−D、表面積340m/g、粒径42−60#(≒0.5mm)、比重0.652g/ml、住友化学)、各試料No.の採取量10ml=6.52g
アルカリ:4.0mol/LKOH溶液
Fe(III):0.10および0.20mol/LFe(SO溶液(Fe換算で0.20および0.40mol/L)
得られた硫化水素ガス除去剤を用いて除去剤性能試験を実施し、除去剤の着色長さ等の着色状態を評価した。その結果を表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
<実施例3>
各種Fe(III)と各種アルカリによる除去剤の着色状態
表3−5の条件で、担体にアルカリを加えてよく混合して乾燥した後、さらにFe(III)を添加し乾燥して硫化水素ガス除去剤を得た。用いた担体とアルカリとFe(III)は下記の通りである。
(1)担体:活性アルミナ(NKH−D、表面積340m/g、粒径42−60#(≒0.5mm)、比重0.652g/ml、住友化学)、各試料No.の採取量10ml=6.52g
アルカリ:表3に示す
Fe(III):0.10mol/LFe(SO・nHO(含有率80%とした。Fe換算0.20mol/L)
得られた硫化水素ガス除去剤を用いて除去剤性能試験を実施し、除去剤の着色長さ等の着色状態を評価した。その表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
(2)担体:活性アルミナ(NKH−D、表面積340m/g、粒径42−60#(≒0.5mm)、比重0.652g/ml、住友化学)、各試料No.の採取量10ml=6.52g
アルカリ:表4に示す
Fe(III):0.20mol/LFeCl
除去剤性能試験の結果を表4に示す。
【0066】
【表4】

【0067】
(3)担体:活性アルミナ(AC12、表面積120m/g、粒径80−100#、比重0.977g/ml、住友化学)、各試料No.の採取量9.77g
アルカリ:表5に示す
Fe(III):0.20mol/LFe(NO
除去剤性能試験の結果を表5に示す。
【0068】
【表5】

【0069】
<実施例4>
珪藻土を担体とした除去剤の着色状態
表6−8の条件で、担体にアルカリを加えてよく混合して乾燥した後、さらにFe(III)を添加し乾燥して硫化水素ガス除去剤を得た。用いた担体とアルカリとFe(III)は下記の通りである。
(1)担体:珪藻土(検知剤用、表面積1〜2m/g、粒径40−60#、比重0.427g/ml、西尾工業)、各試料No.の採取量4.27g
アルカリ:表6に示す
Fe(III):0.10mol/LFe(SO
得られた硫化水素ガス除去剤を用いて除去剤性能試験を実施し、除去剤の着色長さ等の着色状態を評価した。その結果を表6に示す。
【0070】
【表6】

【0071】
(2)担体:珪藻土(検知剤用、表面積1〜2m/g、粒径40−60#、比重0.427g/ml、西尾工業)、各試料No.の採取量4.27g
アルカリ:表7に示す
Fe(III):FeCl 0.10mol/LFe (FeClは、乾燥時、熱分解して酸化鉄に変化する)
除去剤性能試験の結果を表7に示す。
【0072】
【表7】

【0073】
(3)担体:珪藻土(検知剤用、表面積1〜2m/g、粒径40−60#、比重0.427g/ml、西尾工業)、各試料No.の採取量4.27g
アルカリ:表8に示す
Fe(III):Fe(NO、 0.10mol/LFe (Fe(NOは、乾燥時、熱分解して酸化鉄に変化する)
除去剤性能試験の結果を表8に示す。
【0074】
【表8】

【0075】
<実施例5>
その他の担体を用いた除去剤の着色状態
表9−11の条件で、担体にアルカリを加えてよく混合して乾燥した後、さらにFe(III)を添加し乾燥して硫化水素ガス除去剤を得た。用いた担体とアルカリとFe(III)は下記の通りである。
(1)担体:モレキュラーシーブ 13X(合成ゼオライト、粒径60−80#、比重0.721g/ml)
アルカリ:4.0mol/LKOH溶液 5.0ml/7.21g13X→2.0molKOH/担体1L
Fe(III):0.10mol/LFe(SO溶液 5.0ml/7.21g13X→0.10molFe/担体1L
得られた硫化水素ガス除去剤を用いて除去剤性能試験を実施し、除去剤の着色長さ等の着色状態を評価した。その結果を表9に示す。
【0076】
【表9】

【0077】
(2)担体:モレキュラーシーブ 13X(合成ゼオライト、粒径60−80#、比重0.721g/ml)
アルカリ:2.0mol/LKCO溶液 5.0ml/7.21g13X→1.0molKCO/担体1L
Fe(III):0.10mol/LFe(SO溶液 5.0ml/7.21g13X→0.10molFe/担体1L
除去剤性能試験の結果を表10に示す。
【0078】
【表10】

【0079】
(3)担体:ゼオライト(市販農業用粉体/沸石系、粒径70#篩分け、比重0.677g/ml)
アルカリ:4.0mol/LKOH溶液 10ml/6.77gゼオライト→4.0molKOH/担体1L
Fe(III):0.10mol/LFe(SO溶液 2.5ml/6.77gゼオライト→0.05molFe/担体1L
除去剤性能試験の結果を表11に示す。
【0080】
【表11】

【符号の説明】
【0081】
1 除去剤
2 カラム部
21 ガラス細管
3 導入口
4 排気口
5 吸引手段
51 遠心式排風機
52 定容真空吸引式ポンプ
10 反応層
20 未反応層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄塩(III)およびアルカリがモル比で鉄:アルカリ=1:10〜1:20の範囲で担体に担持共存されていることを特徴とする硫化水素ガス除去剤。
【請求項2】
担体が、アルミナ、珪藻土、モレキュラーシーブ、または、ゼオライトであることを特徴とする請求項1に記載の硫化水素ガス除去剤。
【請求項3】
鉄塩(III)が、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)および塩化鉄(III)から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の硫化水素ガス除去剤。
【請求項4】
アルカリが、ナトリウムもしくはカリウムの水酸化物、炭酸塩、リン酸塩およびアルミン酸塩から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の硫化水素ガス除去剤。
【請求項5】
担体にアルカリ溶液を接触させた後、アルカリの担持量がモル比で共存担持させる鉄の10〜20倍になるように鉄塩(III)溶液を前記担体に接触させることにより、担体に鉄塩(III)およびアルカリを担持共存させることを特徴とする硫化水素ガス除去剤の製造方法。
【請求項6】
担体が、アルミナ、珪藻土、モレキュラーシーブ、または、ゼオライトであることを特徴とする請求項5に記載の硫化水素ガス除去剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかの硫化水素ガス除去剤を用いた硫化水素ガスの検知方法であって、前記硫化水素ガス除去剤に担持された鉄塩(III)およびアルカリと、硫化水素ガスとの化学反応による硫化物の生成に伴う硫化水素ガス除去剤の変色によって硫化水素ガスの有無を検知することを特徴とする硫化水素ガスの検知方法。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかの硫化水素ガス除去剤を内部に充填したカラム部と、前記カラム部に硫化水素ガスを含む空気を導入する導入口と、前記カラム部により硫化水素ガスが除去された空気を排気する排気口と、前記硫化水素を含む空気を導入口からカラム部に導入し排気口から排気する吸引手段を備えていることを特徴とする硫化水素ガス除去装置。
【請求項9】
硫化水素ガス除去剤を充填するカラム部は、両端に導入口と排気口を有する透明または半透明の筒状体であり、硫化水素ガスによる硫化水素ガス除去剤の変色が視認可能とされていることを特徴とする請求項8に記載の硫化水素ガス除去装置。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−235244(P2011−235244A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109646(P2010−109646)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(510129853)
【出願人】(504347429)株式会社ベンチャー・アカデミア (3)
【Fターム(参考)】