説明

硫化物固体電池システム

【課題】電池抵抗の増加を防止することが可能な硫化物固体電池システムを提供する。
【解決手段】正極活物質を含有する正極層及び負極活物質を含有する負極層、並びに、正極層及び負極層の間に配置された電解質層、を有する電池部と、該電池部の電圧を検出する電圧検出手段と、該電圧検出手段によって検出される電池部の電圧が−0.5V以下にならないように放電を制御する放電制御手段と、を備える硫化物固体電池システムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質に固体状の硫化物を用いた硫化物固体電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、他の二次電池よりもエネルギー密度が高く、高電圧での動作が可能という特徴を有している。そのため、小型軽量化を図りやすい二次電池として携帯電話等の情報機器に使用されており、近年、電気自動車用やハイブリッド自動車用等、大型の動力用としての需要も高まっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池には、正極層及び負極層と、これらの間に配置される電解質層とが備えられ、電解質層に用いられる電解質としては、例えば非水系の液体状や固体状の物質が知られている。液体状の電解質(以下において、「電解液」という。)が用いられる場合には、電解液が正極層や負極層の内部へと浸透しやすい。そのため、正極層や負極層に含有されている活物質と電解液との界面が形成されやすく、性能を向上させやすい。ところが、広く用いられている電解液は可燃性であるため、安全性を確保するためのシステムを搭載する必要がある。一方、難燃性である固体状の電解質(以下において、「固体電解質」という。)を用いると、上記システムを簡素化できる。それゆえ、固体電解質を含有する層(以下において、「固体電解質層」という。)が備えられる形態のリチウムイオン二次電池(以下において、「固体電池」という。)の開発が進められている。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池に関する技術として、例えば特許文献1には、リチウム二次電池の単電池を複数接続した組電池を備え、リチウム二次電池の電解質を無機固体電解質とし、リチウム二次電池の過放電を防止する過放電保護手段を備えない電池モジュールが開示されている。この特許文献1には、無機固体電解質を用いることにより、過放電や転極になった後も再度充電することで正常に充放電を行うことができるので、過放電を防止する回路が不要になる旨、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−225581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている技術では、電圧が所定値以下になるまで放電すると、その後の電池抵抗が増大し、電池出力が低下するという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、電池抵抗の増加を防止することが可能な硫化物固体電池システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、硫化物固体電解質を用いた電池を、電池電圧が−0.5V以下になるまで放電すると、電池抵抗が増加することを知見した。したがって、電池電圧が−0.5V以下にならないように放電を制御することにより、電池抵抗の増加を防止することが可能になると考えられる。本発明は、当該知見に基づいて完成させた。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段をとる。すなわち、
本発明は、正極活物質を含有する正極層及び負極活物質を含有する負極層、並びに、正極層及び負極層の間に配置された電解質層、を有する電池部と、該電池部の電圧を検出する電圧検出手段と、該電圧検出手段によって検出される電池部の電圧が−0.5V以下にならないように放電を制御する放電制御手段と、を備える硫化物固体電池システムである。
【0010】
本発明は、電池電圧が−0.5V以下にならないように放電を制御する放電制御手段を有しているので、正極活物質と固体電解質との界面にイオン伝導を妨げる高抵抗層が形成され難い。高抵抗層の形成を抑制することにより、電池抵抗の増加を防止することが可能になる。また、電池の充電状態(SOC)が0%よりも低い状態になるまで放電することにより、一旦低下した電池の出力特性を回復させることも可能になる。
【0011】
また、上記本発明において、正極活物質がイオン伝導性酸化物で被覆されていることが好ましい。イオン伝導性酸化物で正極活物質が被覆されていることにより、イオン伝導を妨げる高抵抗層が形成され難くなるので、電池抵抗の増加を防止しやすくなる。
【0012】
また、上記本発明において、正極層及び電解質層の少なくとも一部に、硫化物固体電解質を備えることが好ましい。かかる形態であっても、電池抵抗の増加を防止することが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電池抵抗の増加を防止することが可能な硫化物固体電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】電池部1を説明する断面図である。
【図2】硫化物固体電池システム10を説明する図である。
【図3】直流抵抗及び反応抵抗を説明する図である。
【図4】抵抗変化率と放電停止電圧との関係を示す図である。
【図5】比較例2で得られた電池電圧と放電時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明について説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明は以下に示す形態に限定されない。
【0016】
図1は、本発明の硫化物固体電池システム10に備えられている電池部1の形態を説明する断面図である。図1では、外装体の記載を省略している。図1に示したように、電池部1は、正極集電体1aと、該正極集電体1aに接続された正極活物質を含有する正極層1bと、負極集電体1eと、該負極集電体1eに接続された負極活物質を含有する負極層1dと、正極層1b及び負極層1dの間に配置された固体電解質層1cと、を有している。電池部1では、正極層1b及び固体電解質層1cに硫化物固体電解質が含有されている。
【0017】
図2は、本発明の硫化物固体電池システム10(以下において、「電池システム10」ということがある。)の一例を示す模式図である。図2に示した電池システム10は、電池部1と、電池部1の電圧を検出する電圧検出手段2と、電池部1の電圧が−0.5V以下にならないように放電を制御する放電制御部3と、を有している。電池システム10では、電圧検出手段2によって、電池部1の電池電圧が検出され、検出された電池電圧に関する情報が、放電制御部3へと送られる。放電制御部3は、電池部1の電池電圧が−0.5Vに到達する前に電池部1の放電を終了させるように、電池部1の放電を制御する。
【0018】
後述するように、LiS及びPを主成分とする固体電解質を正極層や固体電解質層に用いた硫化物固体電池は、電池電圧が−0.5V以下になるまで放電すると、抵抗が増加する。抵抗が増加する詳細なメカニズムは現時点で不明だが、本発明者は以下のように予想している。
3極セルを用いた実験から、電池電圧の低下時に、正極の電位が下がり、負極の電位が上がることが判明しているので、放電時には正極の電位が下がる。正極の電位が所定の電位よりも低下すると、正極活物質(金属酸化物)の作用により、固体電解質が還元反応を起こし、このときに、正極活物質と固体電解質との界面にリチウムイオンの伝導を妨げる高抵抗層が形成されるためであると予想している。
【0019】
上記知見を踏まえ、本発明では、電池部1の電池電圧が−0.5Vに到達する前に電池部1の放電を終了させる。したがって、電池システム10によれば、抵抗の増加を防止することができる。なお、「LiS及びPを主成分とする」とは、具体的には、液体のイオン伝導体が含まれず、固体電解質を構成する成分中、LiSのモル比とPのモル比とを合計したものが50%以上となる範囲であれば、LiS以外のリチウム化合物が含まれていても良く、LiS及びPの比率は適宜変更可能であることをいう。
【0020】
一方、積極的(意図的)に過放電を行うことが、出力特性が低下した電池を回復させるために有効と考えられるものの、上述したように、電池電圧が−0.5V以下になるまで放電すると抵抗が増加する。それゆえ、出力特性を回復させるための過放電は、電池電圧が−0.5Vに達する前に終了させることが有効である。本発明では、出力特性を回復させるための過放電を行う際にも、電池部1の電池電圧が−0.5Vに到達する前に電池部1の放電を終了させるので、電池システム10によれば、抵抗の増加を防止しながら出力特性を回復させることが可能になる。
【0021】
本発明において、正極集電体1a及び負極集電体1eは、リチウムイオン二次電池の集電体として使用可能な公知の金属を用いることができる。そのような金属としては、Cu、Ni、Al、V、Au、Pt、Mg、Fe、Ti、Co、Cr、Zn、Ge、Inからなる群から選択される一又は二以上の元素を含む金属材料を例示することができる。
【0022】
また、正極層1bに含有させる正極活物質としては、リチウムイオン二次電池の正極層に含有させることが可能な公知の活物質を適宜用いることができる。そのような正極活物質としては、LiCoO、LiNiO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiVO、LiCrO等の層状活物質のほか、LiFePO、LiCoPO、LiMnPO等のオリビン型活物質や、LiMn、Li(Ni0.25Mn0.75、LiCoMnO、LiNiMn等のスピネル型活物質等を例示することができる。
【0023】
正極活物質の形状は、例えば粒子状や薄膜状等にすることができる。正極活物質の平均粒径(D50)は、例えば1nm以上100μm以下であることが好ましく、10nm以上30μm以下であることがより好ましい。また、正極層1bにおける正極活物質の含有量は、特に限定されないが、質量%で、例えば40%以上99%以下とすることが好ましい。
【0024】
正極活物質と固体電解質との界面に高抵抗層が形成され難くすることにより、電池抵抗の増加を防止しやすい形態にする観点から、本発明では、正極活物質が、イオン伝導性酸化物で被覆されていることが好ましい。正極活物質を被覆するリチウムイオン伝導性酸化物としては、例えば、一般式LiAO(ただし、Aは、B、C、Al、Si、P、S、Ti、Zr、Nb、Mo、Ta又はWであり、x及びyは正の数である。)で表される酸化物を挙げることができる。具体的には、LiBO、LiBO、LiCO、LiAlO、LiSiO、LiSiO、LiPO、LiSO、LiTiO、LiTi12、LiTi、LiZrO、LiNbO、LiMoO、LiWO等を例示することができる。また、リチウムイオン伝導性酸化物は、複合酸化物であっても良い。正極活物質を被覆する複合酸化物としては、上記リチウムイオン伝導性酸化物の任意の組み合わせを採用することができ、例えば、LiSiO−LiBO、LiSiO−LiPO等を挙げることができる。また、イオン伝導性酸化物は、正極活物質の少なくとも一部を被覆してれば良く、正極活物質全面を被覆していても良い。また、正極活物質を被覆するイオン伝導性酸化物の厚さは、例えば、0.1nm以上100nm以下であることが好ましく、1nm以上20nm以下であることがより好ましい。なお、イオン伝導性酸化物の厚さは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)等を用いて測定することができる。
【0025】
正極層1bには、リチウムイオン二次電池の正極層に含有させることが可能な公知の固体電解質を適宜含有させることができる。そのような固体電解質としては、LiPSや、LiS及びPを混合して作製したLiS−P等の硫化物固体電解質を例示することができる。固体電解質として、LiS及びPを含有する原料組成物を用いて作製した硫化物固体電解質を用いる場合、LiS及びPの合計に対するLiSの割合は特に限定されないが、例えば70mol%以上80mol%以下であることが好ましく、72mol%以上78mol%以下であることがより好ましく、74mol%以上76mol%以下であることがさらに好ましい。オルト組成またはその近傍の組成を有する硫化物固体電解質材料とすることができ、化学的安定性の高い硫化物固体電解質材料とすることができるからである。ここで、オルトとは、一般的に、同じ酸化物を水和して得られるオキソ酸の中で、最も水和度の高いものをいい、正極層1bでは、硫化物で最もLiSが付加している結晶組成をオルト組成という。LiS−P系ではLiPSがオルト組成に該当する。LiS−P系の硫化物固体電解質の場合、オルト組成を得るLiS及びPの割合は、モル基準で、LiS:P=75:25である。また、正極層1bには、LiS及びP以外のリチウム化合物(固体電解質)が含有されていても良い。そのようなリチウム化合物としては、LiO、LiI、LiBr等を例示することができる。
【0026】
本発明において、硫化物固体電解質は、架橋硫黄を実質的に含有しないことが好ましい。化学的安定性の高い硫化物固体電解質材料とすることができるからである。「架橋硫黄」とは、LiSと、P、Si、Ge、Al、Bからなる群から選択される少なくとも一種の硫化物とを反応させる過程を経て作製した化合物における架橋硫黄をいう。例えば、LiS及びPが反応して形成されるSP−S−PS構造の架橋硫黄が該当する。このような架橋硫黄は、水と反応しやすく、硫化水素が発生しやすい。さらに、「架橋硫黄を実質的に含有しない」ことは、ラマン分光スペクトルの測定により、確認することができる。例えば、LiS−P系の硫化物固体電解質の場合、SP−S−PS構造のピークが、通常402cm−1に現れる。そのため、このピークが検出されないことが好ましい。また、PS3−構造のピークは、通常417cm−1に現れる。正極層1bでは、402cm−1における強度I402が、417cm−1における強度I417よりも小さいことが好ましい。より具体的には、強度I417に対して、強度I402は、例えば70%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、35%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明において、固体電解質の形態は特に限定されず、結晶質のほか、非晶質やガラスセラミックスであっても良い。また、固体電解質の形状は、例えば粒子状、薄膜状等にすることができる。固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば1nm以上100μm以下とすることができ、10nm以上30μm以下であることが好ましい。
【0028】
このほか、正極層1bには、正極活物質や固体電解質を結着させるバインダーや導電性を向上させる導電材が含有されていても良い。正極層1bに含有させることが可能なバインダーとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)等を例示することができ、正極層1bに含有させることが可能な導電材としては、気相法炭素繊維やアセチレンブラック、ケッチェンブラック等の炭素材料のほか、固体電池の使用時の環境に耐えることが可能な金属材料を例示することができる。また、液体に上記正極活物質等を分散して調整したスラリー状の組成物を正極集電体1aに塗布する過程を経て正極層1bを作製する場合、正極活物質等を分散させる液体としては、ヘプタン等を例示することができ、無極性溶媒を好ましく用いることができる。また、正極層1bの厚さは、例えば0.1μm以上1mm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましい。また、電池部1の性能を高めやすくするために、正極層1bはプレスする過程を経て作製されることが好ましい。本発明において、正極層をプレスする際の圧力は100MPa程度とすることができる。
【0029】
また、負極層1dに含有させる負極活物質としては、金属イオンを吸蔵放出可能な公知の負極活物質を適宜用いることができる。そのような負極活物質としては、例えば、カーボン活物質、酸化物活物質、及び、金属活物質等を挙げることができる。カーボン活物質は、炭素を含有していれば特に限定されず、例えばメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を挙げることができる。酸化物活物質としては、例えばNb、LiTi12、SiO等を挙げることができる。金属活物質としては、例えばIn、Al、Si、及び、Sn等を挙げることができる。また、負極活物質として、リチウム含有金属活物質を用いても良い。リチウム含有金属活物質としては、少なくともLiを含有する活物質であれば特に限定されず、Li金属であっても良く、Li合金であっても良い。Li合金としては、例えば、Liと、In、Al、Si、及び、Snの少なくとも一種とを含有する合金を挙げることができる。
【0030】
負極活物質の形状は、例えば粒子状、薄膜状等にすることができる。負極活物質の平均粒径(D50)は、例えば1nm以上100μm以下であることが好ましく、10nm以上30μm以下であることがより好ましい。また、負極層1dにおける負極活物質の含有量は、特に限定されないが、質量%で、例えば40%以上99%以下とすることが好ましい。
【0031】
さらに、負極層1dには、正極層1bに含有させることが可能な上記固体電解質等を含有させることができる。このほか、負極層1dには、負極活物質や固体電解質を結着させるバインダーや導電性を向上させる導電材が含有されていても良い。負極層1dに含有させることが可能なバインダーや導電材としては、正極層1bに含有させることが可能な上記バインダーや導電材等を例示することができる。また、液体に上記負極活物質等を分散して調整したスラリー状の組成物を負極集電体1eに塗布する過程を経て負極層1dを作製する場合、負極活物質等を分散させる液体としては、ヘプタン等を例示することができ、無極性溶媒を好ましく用いることができる。また、負極層1dの厚さは、例えば0.1μm以上1mm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましい。また、電池部1の性能を高めやすくするために、負極層1dはプレスする過程を経て作製されることが好ましい。本発明において、負極層をプレスする際の圧力は200MPa以上とすることが好ましく、400MPa程度とすることより好ましい。なお、本発明において、正極層1b及び負極層1dの質量比は特に限定されないが、正極層1bと負極層1dとの間を移動するイオンを十分に受け入れられる形態にする観点から、負極層1dの容量は正極層1bの容量も多くすることが好ましい。
【0032】
また、固体電解質層1cに含有させる固体電解質としては、固体電池に使用可能な公知の固体電解質を適宜用いることができる。そのような固体電解質としては、正極層1bに含有させることが可能な上記固体電解質等を例示することができる。このほか、固体電解質層1cには、可塑性を発現させる等の観点から、固体電解質同士を結着させるバインダーを含有させることができる。そのようなバインダーとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)等を例示することができる。ただし、高出力化を図りやすくするために、固体電解質の過度の凝集を防止し且つ均一に分散された固体電解質を有する固体電解質層1cを形成可能にする等の観点から、固体電解質層1cに含有させるバインダーは5質量%以下とすることが好ましい。また、液体に上記固体電解質等を分散して調整したスラリー状の組成物を正極層1bや負極層1d等に塗布する過程を経て固体電解質層1cを作製する場合、固体電解質等を分散させる液体としては、ヘプタン等を例示することができ、無極性溶媒を好ましく用いることができる。固体電解質層1cにおける固体電解質材料の含有量は、質量%で、例えば60%以上、中でも70%以上、特に80%以上であることが好ましい。固体電解質層1cの厚さは、電池の構成によって大きく異なるが、例えば、0.1μm以上1mm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0033】
本発明において、電池部1は、外装体に収容した状態で使用される。そのような外装体としては、樹脂製のラミネートフィルム、樹脂製のラミネートフィルムに金属を蒸着させたフィルムや、金属製のケース等を例示することができる。また、電池部1は、公知の固体電池の製造方法と同様の方法によって作製することができる。
【0034】
また、本発明において、電圧検出手段2は、電池部1の電圧を検出可能であれば、その形態は特に限定されず、公知の電圧計等を適宜用いることができる。また、放電制御部3は、電池部1の電池電圧が−0.5Vに到達する前に電池部1の放電を終了させることが可能であれば、その形態は特に限定されず、例えば、放電の継続/停止を切り替え可能な公知のスイッチ部を有する形態とすることができる。なお、本発明において、電池部1の放電が停止される直前の電池電圧は、電池抵抗の増加を防止可能な電圧であれば特に限定されないが、後述するように、放電曲線では約−0.4V付近に変曲点が存在するため、例えば、−0.3V以上とすることが好ましい。
【0035】
本発明に関する上記説明では、1つの電池部1を有する電池システム10を例示したが、本発明の硫化物固体電池システムにおける電池部の数はこれに限定されず、複数の電池部を有する形態とすることも可能である。本発明の硫化物固体電池システムが複数の電池部を有する場合、各電池部は、直列に接続されていても良く、並列に接続されていても良く、その組み合わせであっても良い。
【0036】
本発明に関する上記説明では、本発明の電池がリチウムイオン二次電池である形態を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明の電池は、正極層と負極層との間を、リチウムイオン以外のイオンが移動する形態とすることも可能である。そのようなイオンとしては、ナトリウムイオンやカリウムイオン等を例示することができる。リチウムイオン以外のイオンが移動する形態とする場合、正極活物質、固体電解質、及び、負極活物質は、移動するイオンに応じて適宜選択すれば良い。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明についてさらに具体的に説明する。
【0038】
1.電池部の作製
<硫化物固体電解質の合成>
出発原料として、硫化リチウム(LiS、日本化学工業株式会社製)、及び、五硫化二リン(P、アルドリッチ社製)を用いた。Ar雰囲気下(露点−70℃)のグローブボックス内で、0.7656gのLiS、及び、1.2344gのPを秤量し、これらをメノウ乳鉢で5分間に亘って混合した。その後、得られた混合物2gを、遊星型ボールミルの容器(45cc、ZrO製)に投入し、脱水ヘプタン(水分量30ppm以下)4gを投入し、さらにZrOボール(φ=5mm)53gを投入し、容器を完全に密閉した(Ar雰囲気)。この容器を遊星型ボールミル機(フリッチュ社製P7)に取り付け、台盤回転数500rpmで、40時間に亘ってメカニカルミリングを行った。その後、得られた試料を、ホットプレート上でヘプタンを除去するように乾燥させることにより、硫化物固体電解質を得た。
【0039】
<正極合材の作製>
LiNi1/3Co1/3Mn1/3(正極活物質、日亜化学工業株式会社製)を224.9mg、VGCF(気相成長炭素繊維(「VGCF」は昭和電工株式会社の登録商標。)、導電材、昭和電工株式会社製)を3.0mg、上記の硫化物固体電解質を75.1mg秤量し、これらを混合することで正極合材を得た。なお、上記正極活物質の表面は、特開2010−73539号公報に開示されている方法と同様の方法によって、LiNbOを予め被覆した。
【0040】
<負極合材の作製>
グラファイト(負極活物質、三菱化学株式会社製)を9.06mg、上記の硫化物固体電解質を8.24mg秤量し、これらを混合することで負極合材を得た。
【0041】
<硫化物固体電池の作製>
上記の硫化物固体電解質材料65mgを、1cmの金型に入れ、100MPaの圧力でプレスすることにより、固体電解質層を形成した。得られた固体電解質層の一方の表面側に、上記の正極合材20.5mgを配置し、100MPaの圧力でプレスすることにより、正極層を形成した。次に、固体電解質層の他方の表面側に、上記の負極合材17.3mgを配置し、400MPaの圧力でプレスすることにより、発電要素を得た。得られた発電要素の両面に、SUS304(正極集電体、負極集電体)を配置し、電池部を得た。
【0042】
2.測定
2.1.コンディショニング
得られた電池部に対して、下記の条件で1サイクル充放電(定電流充電、定電流放電)した。
充放電電流 :10時間率充放電(充放電電流:0.304mA)
充電停止電圧:4.55V
放電停止電圧:3.0V
【0043】
2.2.放電試験前電池抵抗評価
上記コンディショニング終了後、充電停止電圧4.1Vとして定電流定電圧充電(終止電流:0.015mA)を行い、その直後に交流インピーダンス法により電池抵抗を測定した。
【0044】
2.3.放電試験
上記放電試験前電池抵抗評価終了後、2.5Vまで放電し、充電停止電圧3.7Vとして定電流定電圧充電(終止電流:0.015mA)を行い、その後、下記の条件で定電流放電を行った。
放電電流 :1/8時間率充放電(充放電電流:24.32mA)
放電停止電圧:1V(実施例1)、0V(実施例2)、
−0.5V(比較例1)、−1V(比較例2)
【0045】
2.4.放電試験後電池抵抗評価
上記放電試験終了後、充電停止電圧4.1Vとして定電流定電圧充電(終止電流:0.015mA)を行い、その直後に交流インピーダンス法により電池抵抗を測定した。この交流インピーダンス法による電池抵抗測定では、図3に示すようなコールコールプロットが得られる。図3に示したように、このコールコールプロットにおいて、円弧がZ’軸と交わる点を直流抵抗とし、円弧の大きさを反応抵抗と定義した。
【0046】
3.結果
電池抵抗評価結果を表1及び図4に示す。図4の縦軸は抵抗変化率(放電試験前に測定した抵抗に対する比率)であり、横軸は放電停止電圧[V]である。
【0047】
【表1】

【0048】
表1及び図4に示したように、−0.5V以下にならないように放電した実施例1及び実施例2、並びに、−0.5Vになるまで放電した比較例1及び比較例2は、直流抵抗が同程度であり、実施例1及び実施例2の反応抵抗も同程度であったが、比較例1及び比較例2の反応抵抗は実施例1及び実施例2の反応抵抗よりも大きかった。
【0049】
図5に、比較例2の放電曲線を示す。図5の縦軸は電池電圧[V]、横軸は時間[s]である。図5に示したように、約−0.4Vに変曲点が確認されることから、この点が閾値であると考えられる。
【0050】
以上より、電圧が−0.5V以下にならないように放電を制御した実施例1及び実施例2(本発明例)によれば、電圧が−0.5V以下になるまで放電した比較例1及び比較例2よりも、電池抵抗の増加を防止することができた。
【符号の説明】
【0051】
1…電池部
1a…正極集電体
1b…正極層
1c…固体電解質層
1d…負極層
1e…負極集電体
2…電圧検出手段
3…放電制御手段
10…硫化物固体電池システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含有する正極層及び負極活物質を含有する負極層、並びに、前記正極層及び前記負極層の間に配置された電解質層、を有する電池部と、
前記電池部の電圧を検出する電圧検出手段と、
前記電圧検出手段によって検出される前記電池部の電圧が−0.5V以下にならないように放電を制御する放電制御手段と、を備える硫化物固体電池システム。
【請求項2】
前記正極活物質がイオン伝導性酸化物で被覆されている、請求項1に記載の硫化物固体電池システム。
【請求項3】
前記正極層及び前記電解質層の少なくとも一部に、硫化物固体電解質を備える、請求項1又は2に記載の硫化物固体電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−84499(P2013−84499A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224688(P2011−224688)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】