説明

硫化物固体電解質ガラス、リチウム固体電池および硫化物固体電解質ガラスの製造方法

【課題】Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質ガラスを提供する。
【解決手段】GaS3−構造を主成分とするイオン伝導体と、LiIとを有することを特徴とする硫化物固体電解質ガラス。LiI(LiI成分)を有するため、Liリッチとなり、Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質ガラスとすることができる。また、GaS33−構造は、水(水分を含む)と接触しても、その構造が変化しないため、水に対する安定性が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラおよび携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。また、自動車産業界等においても、電気自動車用あるいはハイブリッド自動車用の高出力かつ高容量の電池の開発が進められている。現在、種々の電池の中でも、エネルギー密度が高いという観点から、リチウム電池が注目を浴びている。
【0003】
現在市販されているリチウム電池は、可燃性の有機溶剤を溶媒とする有機電解液が使用されているため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造・材料面での改善が必要となる。これに対し、液体電解質を固体電解質層に変えて、電池を全固体化したリチウム電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。さらに、このような固体電解質層に用いられる固体電解質材料として、硫化物固体電解質ガラスが知られている。
【0004】
硫化物固体電解質ガラスは、Liイオン伝導性が高いため、電池の高出力化を図る上で有用であり、従来から種々の研究がなされている。例えば、非特許文献1においては、LiS−GeS−Ga系のLiイオン伝導性硫化物ガラスが開示されている。また、非特許文献2には、LiI+LiS+GeS+Ga系の高速イオン伝導性硫化物ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M. Yamashita et al., “Formation and ionic conductivity of Li2S-GeS2-Ga2S3 glasses and thin films”, Solid State Ionics 158 (2003) 151-156
【非特許文献2】J. Saienga et al., “Preparation and characterization of glasses in the LiI+Li2S+GeS2+Ga2S3 system”, Solid State Ionics 176 (2005) 1229-1236
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、電池の高出力化のため、Liイオン伝導性の高い硫化物固体電解質ガラスが求められている。本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質ガラスを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明においては、GaS3−構造を主成分とするイオン伝導体と、LiIとを有することを特徴とする硫化物固体電解質ガラスを提供する。
【0008】
本発明によれば、LiI(LiI成分)を有するため、Liリッチとなり、Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質ガラスとすることができる。また、GaS3−構造は、水(水分を含む)と接触しても、その構造が変化しないため、水に対する安定性が高いという利点がある。
【0009】
上記発明においては、上記イオン伝導体が、LiSおよびGaを用いてなり、上記LiSおよび上記Gaの割合が、モル基準で、LiS:Ga=50:50〜60:40の範囲内であることが好ましい。GaS3−構造の割合がより高いイオン伝導体とすることができるからである。
【0010】
上記発明においては、上記LiIの含有量が、10mol%〜80mol%の範囲内であることが好ましい。Liイオン伝導性がより高い硫化物固体電解質ガラスとすることができるからである。
【0011】
また、本発明においては、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層とを有するリチウム固体電池であって、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記固体電解質層の少なくとも一つが、上述した硫化物固体電解質ガラスを含有することを特徴とするリチウム固体電池を提供する。
【0012】
本発明によれば、LiI(LiI成分)を有する硫化物固体電解質ガラスを含有するため、高出力なリチウム固体電池とすることができる。また、上記硫化物固体電解質ガラスは、GaS3−構造を主成分とするイオン伝導体を有することから、水(水分を含む)に対する安定性を向上させることができる。その結果、硫化水素発生量の少ないリチウム固体電池とすることができる。
【0013】
また、本発明においては、GaS3−構造を形成可能な組成を有する材料と、LiIとを含有する原料組成物を調製する調製工程と、上記原料組成物に非晶質化処理を行うことにより、GaS3−構造を主成分とするイオン伝導体と、LiIとを有する硫化物固体電解質ガラスを合成する合成工程と、を有することを特徴とする硫化物固体電解質ガラスの製造方法を提供する。
【0014】
本発明によれば、LiI(LiI成分)を含有する原料組成物を用いることにより、Liリッチな硫化物固体電解質ガラスを得ることができる。その結果、Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質ガラスを得ることができる。
【0015】
上記発明においては、上記GaS3−構造を形成可能な組成を有する材料が、LiSおよびGaを含有し、上記LiSおよび上記Gaの割合が、モル基準で、LiS:Ga=50:50〜60:40の範囲内であることが好ましい。GaS3−構造の割合がより高い硫化物固体電解質ガラスを得ることができるからである。
【0016】
上記発明においては、上記非晶質化処理が、メカニカルミリングであることが好ましい。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質ガラスを得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のリチウム固体電池の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の硫化物固体電解質ガラスの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】実施例1〜4および比較例1で得られた硫化物固体電解質ガラス、ならびにLiIのLiイオン伝導度測定の結果を示すグラフである。
【図4】実施例2および比較例1で得られた硫化物固体電解質ガラスのラマン分光スペクトルである。
【図5】参考例で得られた硫化物固体電解質材料(LiGaS結晶)の耐水性評価の結果を示すグラフである。
【図6】参考例で得られた硫化物固体電解質材料(LiGaS結晶)の硫化水素発生量の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の硫化物固体電解質ガラス、リチウム固体電池および硫化物固体電解質ガラスの製造方法について、詳細に説明する。
【0020】
A.硫化物固体電解質ガラス
まず、本発明の硫化物固体電解質ガラスについて説明する。本発明の硫化物固体電解質ガラスは、GaS3−構造を主成分とするイオン伝導体と、LiIとを有することを特徴とするものである。
【0021】
本発明によれば、LiI(LiI成分)を有するため、Liリッチとなり、Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質ガラスとすることができる。また、GaS3−構造は、水(水分を含む)と接触しても、その構造が変化しないため、水に対する安定性が高いという利点がある。一方、GaS3−構造は、水に対する安定性は高いものの、Liイオン伝導性が低いという問題があった。これに対して、本発明の硫化物固体電解質ガラスは、LiI(LiI成分)を有するため、水に対する安定性を維持しつつ、Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質ガラスとすることができる。
【0022】
本発明の硫化物固体電解質ガラスは、GaS3−構造を主成分とするイオン伝導体を有するものである。ここで、GaS3−構造とは、GaS四面体が頂点を共有しながら三次元的に連なった構造をいう。GaS3−構造は、例えば、LiSおよびGaを等モル組成とすることにより形成することができる(組成式では、LiGaS)。なお、GaS3−構造については、「J.Leal-Gonzalez et al., “Structure of lithium gallium sulfide, LiGaS2”, Acta Cryst. (1990) C46 2017-2019」を参照されたい。また、本発明において、「GaS3−構造を主成分とする」とは、イオン伝導体における全アニオン構造に対して、GaS3−構造の割合が本発明の効果を発揮することができる割合以上であることをいう。例えば、GaS3−構造の割合は、20mol%以上であり、40mol%以上であることが好ましく、50mol%以上であることがより好ましく、60mol%以上であることがさらに好ましく、80mol%以上であることが特に好ましい。また、Iをアニオン構造としてカウントしない場合(Ga周りのアニオンの割合だけの場合)は、GaS3−の割合は、50mol%以上であることが好ましく、70mol%以上であることがより好ましく、80mol%以上であることがさらに好ましく、90mol%以上であることが特に好ましい。
【0023】
GaS3−構造の割合は、例えば、ラマン分光法により決定することができる。ラマン分光スペクトルにおいて、GaS3−構造のピークは、通常、270cm−1〜280cm−1の範囲内に現れる。そのため、ラマン分光スペクトルにおいて、例えば、GaS3−構造のピークのみが確認され、通常、330cm−1〜350cm−1の範囲内に現れるGaS5−構造等のピークが確認されない場合は、ほぼGaS3−構造のみからなるイオン伝導体であると判断することができる。
【0024】
また、GaS3−構造の割合は、誘導結合プラズマ(ICP)測定により決定することができる。すなわち、ICPでS/Ga比を測定し、S/Ga=xのとき、GaS3−構造は、(200−50x)%の割合で含まれていると考えることもできる。さらに、GaS3−構造の割合は、XPS等によっても確認することができる。
【0025】
上記イオン伝導体は、GaS3−構造を有していれば特に限定されるものではないが、本発明においては、LiSおよびGaを用いてなり、上記LiSおよび上記Gaの割合が、モル基準で、LiS:Ga=60:40〜40:60の範囲内であることが好ましく、LiS:Ga=55:45〜42:58の範囲内であることがより好ましく、LiS:Ga=50:50〜45:55の範囲内であることがさらに好ましい。LiSおよびGaの割合を上記範囲とすることで、GaS3−構造の割合がより高いイオン伝導体とすることができるからである。
【0026】
一方、本発明の硫化物固体電解質ガラスは、LiIを有するものである。上記硫化物固体電解質ガラスにおいて、LiIは、通常、少なくとも一部が、GaS3−構造を主成分とするイオン伝導体の構造中に取り込まれた状態で存在する。また、上記LiIの含有量は、所望の硫化物固体電解質ガラスを得ることができる割合であれば特に限定されるものではないが、例えば、10mol%以上であることが好ましく、20mol%以上であることがより好ましい。一方、上記LiIの含有量は、例えば、80mol%以下であることが好ましく、70mol%以下であることがより好ましく、60mol%以下であることがさらに好ましい。LiIの含有量を上記範囲とすることで、よりLiイオン伝導性の高い硫化物固体電解質ガラスとすることができるからである。
【0027】
また、本発明の硫化物固体電解質ガラスは、LiSと、Gaと、LiIとを含有する原料組成物を非晶質化してなるものであることが好ましい。
【0028】
また、上記硫化物固体電解質ガラスは、LiSを実質的に含有しないことが好ましい。硫化水素発生量の少ない硫化物固体電解質ガラスとすることができるからである。LiSは水と反応することで、硫化水素が発生する。例えば、原料組成物に含まれるLiSの割合が大きいと、LiSが残存しやすい。「LiSを実質的に含有しない」ことは、例えば、CuKα線を用いたX線回折により確認することができる。具体的には、LiSのピーク(2θ=27.0°、31.2°、44.8°、53.1°)を有しない場合は、LiSを実質的に含有しないと判断することができる。
【0029】
本発明の硫化物固体電解質ガラスの形状としては、例えば、粒子状を挙げることができる。粒子状の硫化物固体電解質ガラスの平均粒径は、0.1μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。また、本発明の硫化物固体電解質ガラスは、Liイオン伝導性が高いことが好ましく、常温におけるLiイオン伝導度は、1×10−5S/cm以上であることが好ましい。
【0030】
本発明の硫化物固体電解質ガラスは、Liイオン伝導性を必要とする任意の用途に用いることができる。中でも、本発明の硫化物固体電解質ガラスは、リチウムイオン電池に用いられるものであることが好ましい。電池の高出力化に大きく寄与することができるからである。特に、本発明の硫化物固体電解質ガラスは、リチウム固体電池に用いられるものであることが好ましい。
【0031】
B.リチウム固体電池
次に、本発明のリチウム固体電池について説明する。本発明のリチウム固体電池は、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層とを有するリチウム固体電池であって、上記正極活物質層、上記負極活物質層および上記固体電解質層の少なくとも一つが、上述した硫化物固体電解質ガラスを含有することを特徴とするものである。
【0032】
本発明によれば、LiI(LiI成分)を有する硫化物固体電解質ガラスを含有するため、高出力なリチウム固体電池とすることができる。また、上記硫化物固体電解質ガラスは、GaS3−構造を主成分とするイオン伝導体を有することから、水(水分を含む)に対する安定性を向上させることができる。その結果、硫化水素発生量の少ないリチウム固体電池とすることができる。
【0033】
図1は、本発明のリチウム固体電池の一例を示す概略断面図である。図1に示されるリチウム固体電池10は、正極活物質を含有する正極活物質層1と、負極活物質を含有する負極活物質層2と、正極活物質層1および負極活物質層2の間に形成された固体電解質層3と、正極活物質層1の集電を行う正極集電体4と、負極活物質層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有するものである。本発明においては、正極活物質層1、負極活物質層2および固体電解質層3の少なくとも一つが、上記「A.硫化物固体電解質ガラス」に記載した硫化物固体電解質ガラスを含有することを大きな特徴とする。
以下、本発明のリチウム固体電池について、構成ごとに説明する。
【0034】
1.正極活物質層
まず、本発明における正極活物質層について説明する。本発明における正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材料、導電化材および結着材の少なくとも一つをさらに含有していても良い。
【0035】
本発明においては、正極活物質層に含まれる固体電解質材料が、上記「A.硫化物固体電解質ガラス」に記載した硫化物固体電解質ガラスであることが好ましい。高出力なリチウム固体電池を得ることができるからである。正極活物質層における上記硫化物固体電解質ガラスの含有量は、例えば、0.1体積%〜80体積%の範囲内、中でも、1体積%〜60体積%の範囲内、特に、10体積%〜50体積%の範囲内であることが好ましい。
【0036】
正極活物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型活物質等を挙げることができる。また、LiFeSiO、LiMnSiO等のSi含有酸化物を正極活物質として用いても良い。
【0037】
正極活物質の形状としては、例えば、粒子形状を挙げることができ、中でも、真球状または楕円球状であることが好ましい。また、正極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径は、例えば、0.1μm〜50μmの範囲内であることが好ましい。また、正極活物質層における正極活物質の含有量は、例えば、10体積%〜99体積%の範囲内であることが好ましく、20体積%〜99体積%の範囲内であることがより好ましい。
【0038】
本発明における正極活物質層は、さらに導電化材を含有していても良い。導電化材の添加により、正極活物質層の導電性を向上させることができる。導電化材としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンファイバー等を挙げることができる。また、上記正極活物質層は、さらに結着材を含有していても良い。結着材としては、例えば、PTFE、PVDF等のフッ素含有結着材を挙げることができる。また、正極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0039】
2.負極活物質層
次に、本発明における負極活物質層について説明する。本発明における負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有する層であり、必要に応じて、固体電解質材料、導電化材および結着材の少なくとも一つをさらに含有していても良い。
【0040】
本発明においては、負極活物質層に含まれる固体電解質材料が、上記「A.硫化物固体電解質ガラス」に記載した硫化物固体電解質ガラスであることが好ましい。高出力なリチウム固体電池を得ることができるからである。負極活物質層における上記硫化物固体電解質ガラスの含有量は、例えば、0.1体積%〜80体積%の範囲内、中でも、1体積%〜60体積%の範囲内、特に、10体積%〜50体積%の範囲内であることが好ましい。
【0041】
負極活物質としては、例えば、金属活物質およびカーボン活物質を挙げることができる。金属活物質としては、例えば、In、Al、SiおよびSn等を挙げることができる。一方、カーボン活物質としては、例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等を挙げることができる。また、負極活物質層における負極活物質の含有量は、例えば、10体積%〜99体積%の範囲内であることが好ましく、20体積%〜99体積%の範囲内であることがより好ましい。なお、導電化材および結着材については、上述した正極活物質層に用いられるものと同様である。また、負極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0042】
3.固体電解質層
次に、本発明における固体電解質層について説明する。本発明における固体電解質層は、正極活物質層および負極活物質層の間に形成される層であり、固体電解質材料から構成される層である。固体電解質層に含まれる固体電解質材料は、Liイオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。
【0043】
本発明においては、固体電解質層に含まれる固体電解質材料が、上記「A.硫化物固体電解質ガラス」に記載した硫化物固体電解質ガラスであることが好ましい。高出力なリチウム固体電池を得ることができるからである。固体電解質層における上記硫化物固体電解質ガラスの含有量は、所望の絶縁性が得られる割合であれば特に限定されるものではないが、例えば、10体積%〜100体積%の範囲内、中でも、50体積%〜100体積%の範囲内であることが好ましい。特に、本発明においては、固体電解質層が上記硫化物固体電解質ガラスのみから構成されていることが好ましい。
【0044】
また、固体電解質層は、結着材を含有していても良い。結着材を含有することにより、可撓性を有する固体電解質層を得ることができるからである。結着材としては、例えば、PTFE、PVDF等のフッ素含有結着材を挙げることができる。また、固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm〜1000μmの範囲内、中でも、0.1μm〜300μmの範囲内であることが好ましい。
【0045】
4.その他の構成
本発明のリチウム固体電池は、上述した正極活物質層、負極活物質層および固体電解質層を少なくとも有するものである。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、および負極活物質層の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えば、SUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボン等を挙げることができ、中でも、SUSが好ましい。一方、負極集電体の材料としては、例えば、SUS、銅、ニッケルおよびカーボン等を挙げることができ、中でも、SUSが好ましい。また、正極集電体および負極集電体の厚さや形状等については、リチウム固体電池の用途等に応じて適宜選択することが好ましい。また、本発明に用いられる電池ケースには、一般的なリチウム固体電池の電池ケースを用いることができる。電池ケースとしては、例えば、SUS製電池ケース等を挙げることができる。
【0046】
5.リチウム固体電池
本発明のリチウム固体電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも、二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば、車載用電池として有用だからである。本発明のリチウム固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。
【0047】
また、本発明のリチウム固体電池の製造方法としては、上述したリチウム固体電池を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的なリチウム固体電池の製造方法と同様の方法を用いることができる。リチウム固体電池の製造方法の一例としては、正極活物質層を構成する材料、固体電解質層を構成する材料、および負極活物質層を構成する材料を順次プレスすることにより、発電要素を作製し、この発電要素を電池ケースの内部に収納し、電池ケースをかしめる方法等を挙げることができる。
【0048】
C.硫化物固体電解質ガラスの製造方法
次に、本発明の硫化物固体電解質ガラスの製造方法について説明する。本発明の硫化物固体電解質ガラスの製造方法は、GaS3−構造を形成可能な組成を有する材料と、LiIとを含有する原料組成物を調製する調製工程と、上記原料組成物に非晶質化処理を行うことにより、GaS3−構造を主成分とするイオン伝導体と、LiIとを有する硫化物固体電解質ガラスを合成する合成工程と、を有することを特徴とするものである。
【0049】
図2は、本発明の硫化物固体電解質ガラスの製造方法の一例を示すフローチャートである。図2においては、まず、不活性ガス雰囲気下で、LiS、Ga、およびLiIを準備し、これらをLiS:Ga:LiI=35:35:30のモル比で含有する原料組成物を調製する(調製工程)。次に、その原料組成物に、所望の台盤回転数および時間でメカニカルミリングを行い、GaS3−構造を主成分とするイオン伝導体と、LiIとを有する硫化物固体電解質ガラスを合成する(合成工程)。
【0050】
本発明によれば、LiI(LiI成分)を含有する原料組成物を用いることにより、Liリッチな硫化物固体電解質ガラスを得ることができる。その結果、Liイオン伝導性が高い硫化物固体電解質ガラスを得ることができる。また、GaS3−構造を形成可能な組成を有する材料を含有する原料組成物を用いることにより、水に対する安定性が高く、硫化水素発生量の少ない硫化物固体電解質ガラスを得ることができる。
以下、本発明の硫化物固体電解質ガラスの製造方法について、工程ごとに説明する。なお、本発明においては、後述する各工程を、通常、不活性ガス雰囲気下(例えば、Arガス雰囲気下等)で行う。
【0051】
1.調製工程
まず、本発明における調製工程について説明する。本発明における調製工程は、GaS3−構造を形成可能な組成を有する材料と、LiIとを含有する原料組成物を調製する工程である。「GaS3−構造を形成可能な組成」とは、本発明の硫化物固体電解質ガラスの製造方法により得られた硫化物固体電解質ガラスに対して、ラマン分光測定を行った場合に、270cm−1〜280cm−1の範囲内にGaS3−構造のピークを確認することができる組成をいう。
【0052】
本発明における原料組成物は、GaS3−構造を形成可能な組成を有する材料と、LiIとを含有するものである。また、原料組成物は、GaS3−構造を形成可能な組成を有する材料およびLiIのみを含有するものであっても良く、さらに他の材料を含有するものであっても良い。
【0053】
GaS3−構造を形成可能な組成を有する材料としては、所望の硫化物固体電解質ガラスを得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば、LiSおよびGaを含有するものを挙げることができる。原料組成物に含まれるLiSは、不純物が少ないことが好ましい。副反応を抑制することができるからである。LiSの合成方法としては、例えば、特開平7−330312号公報に記載された方法等を挙げることができる。さらに、LiSは、WO2005/040039に記載された方法等を用いて精製されていることが好ましい。同様に、原料組成物に含まれるGaも、不純物が少ないことが好ましい。
【0054】
GaS3−構造を形成可能な組成を有する材料が、LiSおよびGaを含有する場合、上記LiSおよび上記Gaの割合は、モル基準で、LiS:Ga=60:40〜40:60の範囲内であることが好ましく、LiS:Ga=55:45〜42:58の範囲内であることがより好ましく、LiS:Ga=50:50〜45:55の範囲内であることがさらに好ましい。LiSおよびGaの割合を上記範囲とすることで、GaS3−構造の割合がより高い硫化物固体電解質ガラスを形成することができるからである。なお、LiSおよびGaに対するLiSの割合が大きすぎると、硫化物固体電解質ガラス中に残留したLiSに由来する硫化水素発生量が多くなってしまう可能性があるため、好ましくない。
【0055】
また、原料組成物におけるLiIの含有量は、所望の硫化物固体電解質ガラスを得ることができれば特に限定されるものではないが、例えば、10mol%〜80mol%の範囲内であることが好ましく、20mol%〜70mol%の範囲内であることがより好ましい。LiIの含有量を上記範囲とすることで、よりLiイオン伝導性の高い硫化物固体電解質ガラスを得ることができるからである。
【0056】
2.合成工程
次に、本発明における合成工程について説明する。本発明における合成工程は、上記原料組成物に非晶質化処理を行うことにより、GaS3−構造を主成分とするイオン伝導体と、LiIとを有する硫化物固体電解質ガラスを合成する工程である。
【0057】
なお、GaS3−構造を主成分とするイオン伝導体と、LiIとを有する硫化物固体電解質ガラスについては、上記「A.硫化物固体電解質ガラス」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0058】
本発明においては、上述した原料組成物に非晶質化処理を行うことにより、硫化物固体電解質ガラスを合成する。本発明における非晶質化処理は、所望の硫化物固体電解質ガラスを得ることができる処理であれば特に限定されるものではないが、例えば、メカニカルミリングおよび溶融急冷法を挙げることができ、中でも、メカニカルミリングが好ましい。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0059】
メカニカルミリングは、原料組成物を、機械的エネルギーを付与しながら混合する方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、ボールミル、振動ミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等を挙げることができ、中でも、ボールミルが好ましく、特に遊星型ボールミルが好ましい。所望の硫化物固体電解質ガラスを効率良く得ることができるからである。
【0060】
また、メカニカルミリングの各種条件は、所望の硫化物固体電解質ガラスを得ることができるように設定する。例えば、遊星型ボールミルを用いる場合、原料組成物および粉砕用ボールを加え、所定の回転数および時間で処理を行う。一般的に、回転数が大きいほど、硫化物固体電解質ガラスの生成速度は速くなり、処理時間が長いほど、原料組成物から硫化物固体電解質ガラスへの転化率は高くなる。遊星型ボールミルを行う際の台盤回転数としては、例えば、100rpm〜800rpmの範囲内、中でも、200rpm〜600rpmの範囲内であることが好ましい。また、遊星型ボールミルを行う際の処理時間は、例えば、1時間〜100時間の範囲内、中でも、1時間〜50時間の範囲内であることが好ましい。
【0061】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0062】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
【0063】
[実施例1]
出発原料として、硫化リチウム(LiS)、硫化ガリウム(Ga)およびヨウ化リチウム(LiI)を用いた。まず、これらの粉末をAr雰囲気下(露点−70℃)のグローブボックス内で、xLiI・(1−x)(50LiS・50Ga)の組成において、x=0.1のモル比となるように秤量し、メノウ乳鉢で混合し、原料組成物1gを得た。次に、得られた原料組成物1gを遊星型ボールミルのポット(45ml、ジルコニア製)に投入し、さらにジルコニアボール(φ5mm、10個)を投入し、ポットを完全に密閉した(Ar雰囲気)。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチュ製P7)に取り付け、台盤回転数370rpmで40時間メカニカルミリングを行い、硫化物固体電解質ガラスを得た。
【0064】
[実施例2]
xLiI・(1−x)(50LiS・50Ga)の組成において、x=0.3のモル比となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、硫化物固体電解質ガラスを得た。
【0065】
[実施例3]
xLiI・(1−x)(50LiS・50Ga)の組成において、x=0.5のモル比となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、硫化物固体電解質ガラスを得た。
【0066】
[実施例4]
xLiI・(1−x)(50LiS・50Ga)の組成において、x=0.7のモル比となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、硫化物固体電解質ガラスを得た。
【0067】
[比較例1]
xLiI・(1−x)(50LiS・50Ga)の組成において、x=0のモル比となるように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、硫化物固体電解質ガラスを得た。
【0068】
[評価1]
(Liイオン伝導度測定)
実施例1〜4および比較例1で得られた硫化物固体電解質ガラス、ならびにLiIに対して、交流インピーダンス法によるLiイオン伝導度(常温)の測定を行った。Liイオン伝導度の測定は、以下のように行った。支持筒(マコール製)に添加した試料100mgを、SKD製の電極で挟んだ。その後、4.3ton/cmの圧力で試料を圧粉し、6Ncmで試料を拘束しながらインピーダンス測定を行った。測定にはソーラトロン1260を用い、測定条件は、印加電圧5mV、測定周波数域0.01MHz〜1MHzとした。その結果を図3に示す。図3に示されるように、LiIを含有させることにより、Liイオン伝導性が向上することが確認された。
【0069】
(ラマン分光測定)
実施例1〜4および比較例1で得られた硫化物固体電解質ガラスに対して、ラマン分光測定を行った。ラマン分光測定には、東京インスツルメンツ製Nanofinder SOLAR T IIを使用した。実施例2および比較例1で得られた硫化物固体電解質ガラスのラマン分光スペクトルを図4に示す。なお、参考として、LiGaS結晶、LiGaS結晶およびLiGaS結晶(後述する参考例)のラマン分光スペクトルも合わせて図4に示す。図4に示されるように、実施例2および比較例1で得られた硫化物固体電解質ガラスは、いずれも、270cm−1〜280cm−1の範囲内にGaS3−構造のピークを有していた。また、GaS5−構造等の他の構造のピークは、いずれも観測されなかった。また、図示しないが、実施例1、3、4で得られた硫化物固体電解質ガラスも、270cm−1〜280cm−1の範囲内にGaS3−構造のピークを有し、GaS5−構造等の他の構造のピークを有していなかった。これらのことから、実施例1〜4および比較例1で得られた硫化物固体電解質ガラスは、ほぼGaS3−構造からなるイオン伝導体を有することが確認された。
【0070】
[参考例]
比較例1で得られた硫化物固体電解質ガラスに、Ar雰囲気下、700℃で8時間熱処理を行うことにより、硫化物固体電解質材料(LiGaS結晶)を得た。
【0071】
[評価2]
(耐水性評価)
参考例で得られた硫化物固体電解質材料(LiGaS結晶)に対して、耐水性の評価を行った。耐水性の評価は、試料を純粋に浸水させ、浸水前後におけるCuKα線を用いたX線回折(XRD)パターンの変化を観察することによって行った。その結果を図5に示す。図5に示されるように、参考例で得られた硫化物固体電解質材料(LiGaS結晶)は、浸水前後において、GaS3−構造のピークを示し、XRDパターンは変化しなかった。このことから、GaS3−構造は、水に接しても構造が変化しない極めて安定な構造であることが示唆された。
【0072】
(硫化水素発生量測定)
参考例で得られた硫化物固体電解質材料(LiGaS結晶)に対して、硫化水素発生量の測定を行った。硫化水素発生量の測定は、以下のように行った。硫化物固体電解質材料を100mg秤量し、1700ccの密閉容器(大気雰囲気、湿度50%、温度20℃の加湿状態)内に静置した。密閉容器内はファンにより撹拌し、測定には硫化水素センサーを用いた。参考例で得られた硫化物固体電解質材料(LiGaS結晶)の大気暴露30分後までの密閉容器内の硫化水素濃度を図6に示す。なお、参考として、上記と同様に測定したLiGaS結晶およびLiGaS結晶の結果を合わせて図6に示す。図6に示されるように、参考例で得られた硫化物固体電解質材料(LiGaS結晶)は、硫化水素濃度が30分間、センサーの検出下限値以下であることが確認された。一方、図4に示したラマン分光スペクトルでGaS5−構造のピークが検出されたLiGaS結晶およびLiGaS結晶の硫化水素濃度は、参考例で得られた硫化物固体電解質材料(LiGaS結晶)よりも極めて高く、GaS5−構造は、GaS3−構造よりも耐水性が低いことが示唆された。
【符号の説明】
【0073】
1 … 正極活物質層
2 … 負極活物質層
3 … 固体電解質層
4 … 正極集電体
5 … 負極集電体
6 … 電池ケース
10 … リチウム固体電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaS3−構造を主成分とするイオン伝導体と、LiIとを有することを特徴とする硫化物固体電解質ガラス。
【請求項2】
前記イオン伝導体が、LiSおよびGaを用いてなり、前記LiSおよび前記Gaの割合が、モル基準で、LiS:Ga=50:50〜60:40の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の硫化物固体電解質ガラス。
【請求項3】
前記LiIの含有量が、10mol%〜80mol%の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の硫化物固体電解質ガラス。
【請求項4】
正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に形成された固体電解質層とを有するリチウム固体電池であって、
前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記固体電解質層の少なくとも一つが、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の硫化物固体電解質ガラスを含有することを特徴とするリチウム固体電池。
【請求項5】
GaS3−構造を形成可能な組成を有する材料と、LiIとを含有する原料組成物を調製する調製工程と、
前記原料組成物に非晶質化処理を行うことにより、GaS3−構造を主成分とするイオン伝導体と、LiIとを有する硫化物固体電解質ガラスを合成する合成工程と、
を有することを特徴とする硫化物固体電解質ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記GaS3−構造を形成可能な組成を有する材料が、LiSおよびGaを含有し、前記LiSおよび前記Gaの割合が、モル基準で、LiS:Ga=50:50〜60:40の範囲内であることを特徴とする請求項5に記載の硫化物固体電解質ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記非晶質化処理が、メカニカルミリングであることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の硫化物固体電解質ガラスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−62212(P2012−62212A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206636(P2010−206636)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】