説明

硫酸塩劣化に対する耐性を有するセメント硬化体およびこの硬化体の施工方法

【課題】硫酸塩による物理的劣化に対して十分な耐性を有するセメント硬化体およびこの硬化体の施工方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るセメント硬化体10は、地中に埋設される地中部10bと、地中部10bから延びて地上に設けられる地上部10aとを備えたものであり、セメント硬化体10の表面のうち、少なくとも地中部10bの地上部10a側から地上部10aの地中部10b側にかけて吸水防止剤15が塗布されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸塩土壌による劣化に対する耐性を有するセメント硬化体に関する。また、本発明は、セメント硬化体の硫酸塩劣化に対する耐性を向上させるための施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸塩を含む土壌の例として、黄鉄鉱を含む海成層起源の土壌が空気接触による酸化により硫酸塩が生成したもの(非特許文献1を参照)、石炭掘削の際に副産するボタを埋め立てた土壌、さらに化学工場跡地および温泉地区などの土壌が挙げられる。このような土壌に施工されたコンクリート構造物などのセメント硬化体は、硫酸塩によって経年劣化することが知られている(非特許文献2を参照)。硫酸塩土壌における硫酸塩による劣化は、化学的劣化と物理的劣化に大別される(非特許文献3を参照)。
【0003】
化学的劣化は、硫酸塩土壌に含まれる硫酸イオン(SO2−)やナトリウムイオン(Na)がセメント水和物と反応してエトリンガイトを生じることによってコンクリートが膨張破壊するものである。物理的劣化は、地中部の硫酸イオンおよびナトリウムイオンが地上部のコンクリート表面に濃集し、乾燥されることによって硫酸ナトリウムや硫酸ナトリウム十水和物が生成し、これらが生成する際の結晶生成圧によってコンクリートが破壊されるものである。硫酸塩を含む土壌に施工されたコンクリート構造物においては、地中部で主に化学的劣化が、他方、地上部で物理的劣化が生じるという複合劣化作用によって劣化が生じる。図2に示すセメント硬化体20は、劣化によって表面の一部が破壊されており、地上部20aおよび地中部20bのうち、地上部20aが主に硫酸塩による物理的劣化によって破壊されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「自然環境とコンクリート性能評価に関するシンポジウム」、(社)コンクリート工学協会、2005年、pp.301−308
【非特許文献2】「コンクリート工学年次論文集、Vol.23、No.2」、(社)コンクリート工学協会、2001年、pp.673−678
【非特許文献3】「CBRC、2003」、(財)日本建築総合試験所、pp.32−38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エトリンガイトの生成を伴う化学的劣化は、耐硫酸塩ポルトランドセメントを使用することで抑制できることが知られている(例えば、特開2009−120433号公報を参照)。これに対し、硫酸ナトリウムや硫酸ナトリウム十水和物の生成圧による物理的劣化を抑制する技術については未だ確立されていないのが現状である。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、硫酸塩による物理的劣化に対して十分な耐性を有するセメント硬化体およびこの硬化体の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、硫酸塩劣化を生じる土壌にあるセメント硬化体の地中部の一部から地上部の表面に吸水防止剤を塗布すると、硫酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウム十水和物の析出による物理的劣化を極めて効果的に抑制できることを見出し、以下の発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明に係るセメント硬化体は、地中に埋設される地中部と、当該地中部から延びて地上に設けられる地上部とを備えた柱状のものであり、当該セメント硬化体の表面のうち、少なくとも地中部の地上部側から地上部の地中部側にかけて吸水防止剤が塗布されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るセメント硬化体は、硫酸塩による物理的劣化に対して十分な耐性を有する。このため、セメント硬化体の寿命の延長、さらには補修コストおよび再施工で発生する廃棄物の低減が図られる。本発明に係るセメント硬化物は、必ずしも当該硬化物の全面に吸水防止剤が塗布されたものである必要はなく、上記の通り、少なくとも地中部の地上部側から地上部の地中部側にかけて吸水防止剤が塗布されたものであれば、上記効果を得ることができる。
【0010】
セメント硬化体の上記所定箇所に吸水防止剤を塗布することによって硫酸塩劣化の防止効果が得られる主因は、吸水防止剤がセメント硬化体の表面における硫酸イオンおよびナトリウムイオンの濃集を防ぐためと推察される。すなわち、セメント硬化体と土壌が直接接する部分から吸収された硫酸塩溶液は、セメント硬化体でも比較的乾燥した地上部の表面を伝って上昇し、大気と接する部分で乾燥され濃縮する。濃縮後、硫酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウム十水和物はその生成圧によりセメント硬化体表面を破壊する(図2参照)。本発明においては、セメント硬化体の大気と接する表面に吸水防止剤を塗布することで硫酸塩溶液の乾燥による濃縮が防止され、硫酸塩による物理的劣化を抑制できると推察される。
【0011】
本発明において、上記吸水防止剤はシラン系撥水性成分を含有するとともに当該成分の含有率が90質量%以上であることが好ましい。当該シラン系撥水性成分はトリエトキシイソブチルシランであることが好ましい。
【0012】
本発明において、地中部および地上部は耐硫酸塩ポルトランドセメントの硬化体からなることが好ましい。地中部および地上部をなす硬化体の原料として耐硫酸塩ポルトランドセメントを用いることで、地中部における硫酸塩による化学的劣化に対する耐性も高まり、セメント硬化体の耐久性をより一層優れたものとすることができる。
【0013】
さらに本発明は、地中に埋設された地中部と、当該地中部から延びて地上に設けられた地上部とを備えた柱状のセメント硬化体の硫酸塩劣化に対する耐性を向上させる施工方法を提供する。本発明に係る施工方法は、地中部の地上部側の表面が露出するように当該セメント硬化体の周囲の土壌を取り除く第一工程と、当該セメント硬化体の表面のうち、第一工程によって露出した地中部の部分から地上部の地中部側にかけて吸水防止剤を塗布する第二工程と、第二工程後、第一工程において土壌を取り除いた部分を埋め戻す第三工程とを備えることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る施工方法によれば、セメント硬化体を有する構造物と地面が接する部分の土壌の一部を掘り起こし、構造物の一部の面のみ吸水防止剤を塗布すればよく、土壌中の構造物の全面を塗布する必要がない。このため、新設の構造物だけでなく、既存の構造物であっても軽微な改修により、硫酸塩劣化を防止可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、硫酸塩による物理的劣化に対して十分な耐性を有するセメント硬化体およびこの硬化体の施工方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)〜(d)は本発明に係る施工方法の過程をそれぞれ示す模式図である。
【図2】硫酸塩による物理的劣化が生じたセメント硬化体の一例を示す模式図である。
【図3】(a)は試験に使用した円柱試験体および吸水防止剤の塗布範囲を示す斜視図であり、(b)は試験に使用した角柱試験体および吸水防止剤の塗布範囲を示す斜視図である。
【図4】試験期間26週経過後のモルタル試験体の外観を示す写真である。
【図5】試験期間と水セメント比45%のコンクリートの圧縮強度との関係を示すグラフである。
【図6】試験期間と水セメント比55%のコンクリートの圧縮強度との関係を示すグラフである。
【図7】試験期間と水セメント比45%のコンクリートの質量変化率との関係を示すグラフである。
【図8】試験期間と水セメント比55%のコンクリートの質量変化率との関係を示すグラフである。
【図9】比較例2に係るモルタル試験体の劣化部位の元素マッピング結果を示す図である。
【図10】比較例4に係るモルタル試験体の劣化部位の元素マッピング結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
<施工方法>
図1を参照しながら、既存のコンクリート構造物(セメント硬化物)の硫酸塩劣化を防止するための施工方法について説明する。本実施形態に係る施工方法は、地盤(特に硫酸塩を含有する土壌からなる地盤)に接するコンクリート構造物を対象に実施することが好ましい。図1(a)は、柱状のコンクリート構造物10が地盤Gに立設している状態を示す模式図である。同図に示す通り、コンクリート構造物10は、地中に埋設されて土壌に直接接している地中部10bと、この地中部10bから上方に延びて地上に設けられた地上部10aとを備える。
【0019】
まず、図1(a)に示す状態からコンクリート構造物10の周囲の土壌を取り除き、図1(b)に示す状態にする。これにより、図1(b)に示すように、地中部10bの地上部10a側の表面10Fを露出させる(第一工程)。土壌を取り除く深さは、土壌に含まれる硫酸塩の濃度やコンクリート構造物10の状態にもよるが、0.1〜1.0mであることが好ましく、0.3〜0.5mであることがより好ましい。この深さが0.1m未満であると地表面L付近で劣化が生じる傾向となり、他方、1.0mを超えると作業効率が低下する傾向となる。
【0020】
上記第一工程によって露出した表面10Fから地上部10aの地中部10b側の所定の範囲にかけて吸水防止剤を塗布して吸水防止層15を形成する(第二工程)。このとき、吸水防止層15はコンクリート構造物10の側面の全周にわたって形成することが好ましい。吸水防止層15を形成する範囲の上端は、周囲の気温・湿度などの条件にもよるが、地表面Lから0.3〜2.0mの高さであることが好ましく、0.5〜1.0mの高さであることがより好ましい。この高さが0.3m未満であるとこれよりも高い位置で劣化が生じる傾向となり、他方、2.0mを超えると作業効率が低下する傾向となる。
【0021】
上記第二工程後、図1(d)に示す通り、第一工程において土壌を取り除いた部分を埋め戻して施工を終了する(第三工程)。
【0022】
本実施形態に係る施工方法は、コンクリート構造物10の周囲の土壌を掘り起こすのみで実施できるため、上記の通り、既存のコンクリート構造物10に対して適用するのに好適である。また、土壌を掘り起こした後、所定の範囲に吸水防止剤を塗布するという比較的簡易な作業のみで優れた劣化防止効果を得ることができるという利点がある。
【0023】
なお、図1に示すコンクリート構造物10は、長手方向に垂直の断面が円形のものであるが、断面形状は円形に限られず、楕円形、矩形、その他の形状であってもよい。コンクリート構造物の具体例としては、蒸気養生を行うパイル、U字溝等のコンクリート製品および橋脚、橋脚等の基礎、住宅の基礎および束石等が挙げられる。
【0024】
<吸水防止剤>
次に、本実施形態において使用する吸水防止剤について説明する。吸水防止剤として、コンクリート構造物10の表面に吸水防止層15を形成できるものを使用する。吸水防止層15は、コンクリート構造物10の内部に水が浸入するのを防止するとともに、コンクリート構造物10の表面において硫酸ナトリウムや硫酸ナトリウム十水和物が濃集するのを防止する役割を果たす。コンクリート構造物10の表面上における硫酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウム十水和物の析出を低減することによって、コンクリート構造物10の物理的劣化の進行を抑制する。
【0025】
吸水防止剤は、シラン系撥水性成分が溶解した溶液であることが好ましい。かかる溶液のシラン系撥水性成分の含有率は、優れた吸水防止効果を得る観点から、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
【0026】
シラン系撥水性成分の具体例として、トリエトキシイソブチルシラン,ヘキシルトリメトキシシラン,デシルトリメトキシシランなどが挙げられ、これらのうち一種を単独で用いてもよく、あるいは二種以上を併用してもよい。上記化合物のなかでも、シラン系撥水性成分としてトリエトキシイソブチルシランを使用することがより好ましい。トリエトキシイソブチルシランは、塗布面をなすコンクリート構造物に対する浸透性が高いという特長を有する。
【0027】
なお、吸水防止剤として、トリエトキシイソブチルシランの含有率が90質量%以上(より好ましくは95質量%以上)である溶液を使用する場合、コンクリート構造物10の表面に当該吸水防止剤を300ml/m以上塗布することが好ましい。吸水防止剤の塗布量が300ml/m未満であると、コンクリート構造物10の物理的劣化の抑制効果が不十分となる傾向がある。
【0028】
<コンクリート構造物>
本実施形態においてコンクリート構造物10の物理的劣化を抑制するには、コンクリート構造物10の基材コンクリートの原料として使用するセメントの種類は特に制限がない。ただし、物理的劣化および化学的劣化の両方を十分に抑制するには、コンクリート構造物10をなす基材コンクリートは耐硫酸塩ポルトランドセメントの硬化体であることが好ましい。
【0029】
耐硫酸塩ポリトランドセメントは、鉱物組成がボーグ式換算でCS量が60〜75質量%、CA量が2質量%以下、CAF量が11〜16質量%であることが好ましい。ここで、CSはエーライト(3CaO・SiO)を、CAFはフェライト相(4CaO・Al・Fe)を、CAはアルミネート相(3CaO・Al)をそれぞれ示す。
【0030】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、既存のコンクリート構造物10に本発明に係る施工方法を実施する場合を例示したが、新設のコンクリート構造物の所定の範囲に吸水防止剤を塗布し、その物理的劣化に対する耐性の向上を図ってもよい。
【0031】
また、上記実施形態においては、セメント硬化体としてコンクリート構造物を例示したが、本発明はモルタル構造物に適用することもできる。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
<使用材料>
(1)セメント組成物
セメント組成物としては、鉱物組成(CS、CS、CA、CAF)、化学組成(SO、Naeq)及び粉末度(ブレーン比表面積)の異なる2種類(耐硫酸塩ポルトランドセメント(SR)および普通ポルトランドセメント(N))を使用した。これらのセメントの化学組成および鉱物組成を表1に、物理的性質を表2に示す。
(2)細骨材
細骨材としては、海砂(表乾密度2.56g/cm、吸水率2.15%、粗粒率3.03)および砕砂(表乾密度2.70g/cm、吸水率1.50%、粗粒率2.64)を用いた。
(3)粗骨材
粗骨材としては、砕石2005(表乾密度2.70g/cm、吸水率0.50%、粗粒率6.67)を用いた。
(4)混和剤
混和剤には、BASFポゾリス(株)社製のポゾリスNo.70(AE減水剤:リグニンスルホン酸化合物とポリオールの複合体)を用いた(AD)。また、空気量を調整する消泡剤として、BASFポゾリス(株)社製のマイクロエア404(ポリアルキレングリコール誘導体)を用いた(AT)。
(5)吸水防止剤
吸水防止剤には、宇部興産(株)社製のUフレッシュN(商品名)を用いた。なお、UフレッシュNは、トリエトキシイソブチルシランからなる吸水防止剤である。
(6)練混ぜ水
練混ぜ水には、上水道水を用いた。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
<コンクリートの配合>
表3にコンクリートの配合を示す。目標スランプは15cmとし、目標空気量は4.5%とした。なお、水セメント比は45および55%とした。
【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
<コンクリートおよびモルタルの作製>
以下のようにしてコンクリートおよびモルタルを作製した。まず、20℃の恒温室においてセメント組成物、細骨材および粗骨材を容量50Lの二軸強制練りミキサに投入し、30秒間かく拌後、混和剤を含む水(すなわち、混和剤+水)を投入し、90秒間練混ぜてコンクリート円柱試験体(φ100×200mm)を作製した。また、コンクリートのスランプ値は、JIS A 1101:2005「コンクリートのスランプ試験方法」記載の方法を用い、空気量は、JIS A 1128:2005「フレッシュコンクリートの空気量の圧力による試験方法−空気室圧力方法」記載の方法で測定した。なお、モルタルは、コンクリートをふるい目間隔が5mmの鋼製網ふるいでふるって、粗骨材を取り除いた試料とした。
【0040】
<養生条件>
コンクリートおよびモルタル試験体の養生は、JIS原案「コンクリートの溶液浸せきによる耐薬品性試験方法(案)」に準拠して行った。試験体は材齢1日で脱型して材齢7日まで20℃の水中養生(6日間)、その後、材齢21日までは20℃にて封緘養生(14日間)、材齢26日まで20℃、湿度60%の恒温恒湿室で気中養生(5日間)、材齢28日まで水中養生(2日間)を行った。
【0041】
<吸水防止剤の塗布方法>
吸水防止剤は、φ100×200mmのコンクリート円柱試験体の場合は、下面から40mmまでを除く、側面に刷毛を用いて塗布した。40×40×160mmのモルタル試験体の場合は、下面から30mmまでを除く、側面に刷毛を用いて塗布した。なお塗布量は300ml/mとし、表面が乾燥するまで1時間静置した。実際の硫酸塩土壌におけるコンクリートの劣化は、地盤中の一部と地盤からの立ち上がり部で生じる(図2参照)。よってこれを模擬して実験した吸水防止剤の塗布範囲を図3に示す。
【0042】
<硫酸塩土壌を模擬した硫酸塩溶液を用いた乾湿繰返し試験>
浸せき液には、硫酸ナトリウム溶液および参考用として上水道水を用いた。なお、硫酸ナトリウム溶液の濃度は10質量%とした。試験開始7日間は試験体を浸せき液に下部から高さの1/4の位置(コンクリートの場合は50mm、モルタルの場合は40mm)まで浸せきし、その後2日間乾燥、1日間浸せき、3日間乾燥、1日間浸せきを繰り返し、7日間1サイクルとした。浸せき溶液は、試験期間28日までは毎週交換し、28日以降は1ヶ月ごとに交換した。なお、試験は温度20℃に制御された恒温室内で行った。測定項目は、圧縮強度、質量変化および外観観察とした。図4は、試験期間26週経過後のモルタル試験体の外観を示す写真である。
【0043】
圧縮強度の測定は、試験開始前、開始後4、13および26週で行った。質量変化の測定は、試験開始前、開始後1週、4週、8週、13週および26週で行った。なお、質量変化の測定は、試験開始前(すなわち水中養生2日後)を基準とし、サイクル最後の浸せき(1日間浸せき)から次サイクルの乾燥(2日間乾燥)に切り替える際に気中部の析出物は残すが、浸せき部の水分はふき取った後に実施した。
【0044】
<圧縮強度の測定方法>
コンクリートの圧縮強度は、JIS A 1108:2006「コンクリートの圧縮試験方法」記載の方法で測定した。
【0045】
<SEM−EDXによる分析方法>
比較例2および比較例4については劣化部位を走査型電子顕微鏡(SEM−EDX:日立製作所製S−3000H、EDAX社製SUTM)を用いてコンクリート内部の元素分布の分析を実施した。試料の採取箇所は,劣化が最も著しかった気中部(試験体上面から60mmの位置)とし、試料の寸法は40mm×40mm×厚さ10mmとして試験体からコンクリートカッターを用いて切断して採取した。採取後、試料の切断面(観察面)をサンドペーパー(♯4000)で研磨した後、D−乾燥を3日間行い、カーボン蒸着してSEM−EDXに供した。なお、元素マッピングはS(硫黄)とNa(ナトリウム)について実施した。
【0046】
<コンクリートの圧縮強度>
上記のようにして、10質量%硫酸ナトリウム溶液を用いた乾湿繰返し試験を行い、所定の試験期間で圧縮強度を測定した。試験期間と圧縮強度との関係を図5,6に示す。比較例1および比較例2のコンクリート試験体の圧縮強度は、試験期間13週から低下しているのに対して、実施例1および実施例2のモルタル試験体の圧縮強度は、上水道水に浸せきした参考例1および2と大差なく、試験期間に伴う圧縮強度の低下は認められない。
【0047】
<コンクリートの質量変化率>
上記のようにして、10%硫酸ナトリウム溶液を用いた乾湿繰返し試験を行い、所定の試験期間で質量変化を測定した。試験期間と質量変化率との関係を図7,8に示す。実施例1および実施例2のコンクリート試験体の質量変化率は、比較例1および比較例2のコンクリート試験体よりも小さく、水道水に浸せきした参考例1および2に近い値であった。これは、硫酸塩溶液の常時乾燥部位のコンクリート表面への吸い上げが抑制され、硫酸ナトリウムおよび硫酸ナトリウム十水和物の析出が抑制されたためである。
【0048】
<SEM−EDXによる劣化部位の分析>
比較例2および比較例4の試験体の劣化部位をSEM−EDXによって分析した結果を図9および図10に示す。図9,10の白い部分程、元素濃度の高い部分であり、比較例2および比較例4のいずれも試験体の表面部位にはS(硫黄)およびNa(ナトリウム)が濃集していることがわかり、モルタルはこれらの物質が表面に濃集することによって劣化したものと推察される。吸水防止剤を塗布した実施例1および実施例2は試験体表面の劣化が認められず,このような劣化因子の濃集を抑制する効果があることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は硫酸塩を含む土壌に施工されるコンクリート構造物の硫酸塩劣化を抑制する技術として有用である。主な利用先として、橋脚、場所うち杭等の土木構造物や住宅の布基礎、束石、マンションおよび工場等のコンクリート基礎等の建築構造物が挙げられる。
【符号の説明】
【0050】
10…コンクリート構造物(セメント硬化体)、10a…コンクリート構造物の地上部、10b…コンクリート構造物の地中部、10F…地中部の地上部側の表面、15…吸水防止層(吸水防止剤)、G…地盤、L…地表面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設される地中部と、当該地中部から延びて地上に設けられる地上部とを備えた柱状のセメント硬化体において、
当該セメント硬化体の表面のうち、少なくとも前記地中部の前記地上部側から前記地上部の前記地中部側にかけて吸水防止剤が塗布されていることを特徴とするセメント硬化体。
【請求項2】
前記吸水防止剤は、シラン系撥水性成分を含有するとともに当該成分の含有率が90質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のセメント硬化体。
【請求項3】
前記シラン系撥水性成分がトリエトキシイソブチルシランであることを特徴とする請求項2に記載のセメント硬化体。
【請求項4】
前記地中部および前記地上部が耐硫酸塩ポルトランドセメントの硬化体からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセメント硬化体。
【請求項5】
地中に埋設された地中部と、当該地中部から延びて地上に設けられた地上部とを備えた柱状のセメント硬化体に硫酸塩劣化に対する耐性を向上させる施工方法であって、
前記地中部の前記地上部側の表面が露出するように当該セメント硬化体の周囲の土壌を取り除く第一工程と、
当該セメント硬化体の表面のうち、前記第一工程によって露出した前記地中部の部分から前記地上部の前記地中部側にかけて吸水防止剤を塗布する第二工程と、
前記第二工程後、前記第一工程において土壌を取り除いた部分を埋め戻す第三工程と、
を備えることを特徴とする施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−132102(P2011−132102A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295488(P2009−295488)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】